説明

耐食光輝性顔料とその製造方法および耐食光輝性塗料

【課題】塗装後の塗膜が赤色メタリックメッキに近い高級感のある色になるとともに、優れた耐食性・耐薬品性を有する赤色メタリック塗装を可能とする耐食光輝性顔料を提供する。
【解決手段】銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含み、L*a*b*表色系において明度がL*=35〜90、色度がa*=10〜50、b*=10〜25であるフレーク状合金片を顔料とする。前記フレーク状合金片の表面反射率は、550nmの波長の光に対して25〜65%であることが好ましく、前記フレーク状合金片の厚さは、0.02〜5μmであることが好ましく、前記フレーク状合金片の大きさは、5〜50μmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品や家電部品などの基材を赤色メタリック塗装する際に用いる耐食光輝性顔料とその製造方法および耐食光輝性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
基材を光輝化する手段として、湿式メッキや真空蒸着やメタリック塗装がある。特に、メタリック塗装は、手法が簡便であり、広く用いられている。メタリック塗装においては、アルミニウムの顔料やアルミニウムフレーク状合金片を混入した塗料を用いることにより、基材が光輝化される。塗膜中のアルミニウムを保護するために、塗膜表面にはクリアコートが塗布される。
【0003】
アルミニウムフレーク状合金片は、スタンプミル法、乾式ボールミル法、湿式ボールミル法などにより機械的に金属アルミニウムを粉砕して作製したり、金属アルミニウムを真空中で蒸発させてアルミニウム膜を形成する真空蒸着法を用いて作製したりするのが一般的である。
【0004】
アルミニウムには、表面反射率が高いという利点、および価格が安いという利点がある。このため、フレーク状合金片(箔)にして、光輝感を出す顔料として使用されている。
【0005】
家電品や携帯電話部品あるいは車体部品などに赤色メタリック塗装を行う場合は、樹脂に弁柄やカドミウムレッド、カドモポンレッド、クロムレッド、モリブデートオレンジなどの赤色顔料と、アルミニウムフレーク状合金片とを混入した塗料を使用する。
【0006】
しかし、該塗料で塗装(赤色メタリック塗装)した塗膜においては、赤色顔料の赤とアルミニウムの白が目立ち、人の目には中間色であるピンク色に見えるという欠点がある。また、アルミニウムは、表面反射率が可視光で80%以上と高いため、アルミニウムを混入した赤色メタリック塗装では外観が白っぽくなり、赤色メタリックメッキのような赤色にならず、高級感に欠けるとういう欠点もある。
【0007】
一方、赤色メタリック塗装よりも仕上がりの質のよい赤色メタリックメッキにも、次のような問題点がある。
【0008】
赤色メタリックメッキを真空蒸着法等の乾式メッキ法で形成すると、成膜中に酸素、窒素、アルゴンなどのガスの影響を受けて薄膜の色が黒ずんでしまい、きれいな色にならない。電気メッキ薄膜の表面反射率が約60%であるのに対して、乾式メッキ薄膜の表面反射率は約30〜40%と低いためである。また、乾式メッキ薄膜は耐クラック性が低い。
【0009】
赤色メタリックメッキを電気メッキ法で形成すると、電気メッキは溶液に有害物質を用いるため、廃液処理にコストがかかる。また、異種金属が混じることで、アルミニウムホイール等メッキ製品のリサイクルができなくなる。
【0010】
赤色メタリックメッキにはこのような欠点があるため、赤色メタリック塗装の欠点を解消することが求められている。
【0011】
赤色メタリック塗装での外観上の欠点に対しては、黒っぽいアンダーコートを下地に塗布する方法が提案されている(特許文献1(特開昭62−13565号公報)、特許文献2(特開平9−290213号公報)参照。)。
【0012】
他方、アルミニウムフレーク状合金片を用いたメタリック塗装には、前述した外観上の問題に加えて、アルミニウムフレーク状合金片の耐食性が十分でないことに起因する以下のような問題点もあり、解決が求められている。
【0013】
アルミニウムフレーク状合金片は活性があり、大気に触れると、表面に酸化物被膜を形成して光輝感を失う。それだけでなく、酸化物被膜の成長に伴って、基材と塗膜との密着性(塗膜密着性)が低下する。
【0014】
また、水分を含む環境下では、アルミニウムフレーク状合金片は、酸化物被膜ではなく水酸化物被膜を表面に形成する。形成された水酸化物被膜は、それを含む塗膜の乾燥・加熱により容易に酸化物被膜になる。乾燥・加熱を経たこの塗膜は水分を通してしまうため、塗膜内でアルミニウムと水分が反応(水分子と結合する水和反応)して、塗膜が腐食・剥離する可能性がある。具体的には、厚さ0.05〜1.0μmのアルミニウムフレーク状合金片を含む薄膜を、トップコートをしないで40〜60℃の温水に浸すと、水和反応が起こり、24〜100時間で塗膜内のアルミニウムフレーク状合金片は溶解してしまう。また、塩水噴霧試験よりも厳しい腐食条件であるキャス試験(JISH8502)では、トップコートをしていても、トップコートを通じて試験液が浸透し、60時間以上で塗膜内のアルミニウムフレーク状合金片が溶解する。
【0015】
このように、アルミニウムフレーク状合金片には腐食に弱いという問題がある。このため、保護膜としてのトップコートを厚くし、かつ、傷などを生じさせないようにする必要がある。
【0016】
しかし、例えば、奥まった個所では保護膜が薄くなりがちであり、酸性物質・アルカリ性物質などが保護膜を浸透・通過してしまうことがあり、アルミニウムフレーク状合金片が溶解してしまう可能性がある。
【0017】
また、トップコートに傷が入った場合、例えば、車の走行中に飛び石により車体の塗膜に傷が入ったり、車体の清掃中に塗膜に傷が付いた場合、その状態で海岸地帯、凍結防止のために塩を散布する地帯、高温多湿地帯などを走行すると、アルミニウムフレーク状合金片が外部環境に触れ、その傷から塗膜の腐食が始まることがある。
【0018】
塗膜の腐食がいったん始まり進行していくと、アルミニウムフレーク合金片は溶解消失し、アンダーコートが露出する。すると、本来の光輝面が損なわれるだけでなく、アンダーコートとトップコートとの密着がなくなり、膨れが発生する。さらに、そこを基点として基材の腐食へと進展する可能性がある。
【0019】
このため、従来から、アルミニウムフレーク状合金片の耐食性・耐薬品性を向上させるための処理方法が種々提案されている。しかしながら、アルミニウム自体の耐食性・耐薬品性が低いので、十分な効果が得られていないのが実状である。
【0020】
以下の(1)〜(5)に、アルミニウムフレーク状合金片を顔料として用いている提案例とその提案例における問題点を記す。
【0021】
(1)特許文献3(特開2000−354828号公報)
有機または無機の着色顔料にアルミニウムフレーク状合金片を混入させたメッキ調コートで、アルミニウムホイールの表面を被覆する。この着色顔料の反射とアルミニウムフレーク状合金片の反射との混合で、外観意匠ニーズに合った特殊な色調とすることができる。クロムメッキの外観に近い外観を得る場合には、各種の顔料と混合する。
【0022】
しかし、光輝化する材質がアルミニウムであり、このメッキ調コートは耐食性・耐薬品性が低い。そのため、ホイールなどの隅や縦面など、保護膜が塗布しづらい個所では、フレーク状合金片が腐食してしまう可能性が高い。また、アルミニウムフレーク状合金片を使用しているため、白っぽく高級感のない外観しか得られない。一方、アルミニウムフレーク状合金片の混合比率を小さくすると、光輝感が低下する。
【0023】
(2)特許文献4(特開平11−90318号公報)
アルミニウムフレーク状合金片および有機溶剤を含有する組成物を燐酸基含有樹脂の上に塗装する。アルミニウムフレーク状合金片を含む塗膜を改善するために、特殊な塗装を行っている。しかし、この方法は、作業性が悪く、コスト高になり、広い範囲に塗布する場合には適用できない。
【0024】
(3)特許文献5(特開平9−122575号公報)
アルミニウムフレーク状合金片が有機溶剤によって変色するのを防止するために、有機溶剤に浸漬した後の色変化が、汚染用グレースケールで色票4号以上の色差を有するアルミニウムフレーク状合金片を用いる。しかし、この塗膜も、アルミニウムフレーク状合金片を含むため、耐食性・耐薬品性が低い。
【0025】
(4)特許文献6(特開平7−150374号公報)
耐食性を付与するために、アルミニウムフレーク状合金片を腐食防止剤で処理する。腐食防止剤には、イットリウムおよび希土類金属など、高価で希少な金属の水溶性の塩などが含まれているため、コスト高になる。また、工程も複雑であり、コスト高になる。
【0026】
(5)特許文献7(特開平7−133440号公報)、特許文献8(特開平6−57171号公報)
アルミニウムに対してMo金属換算量で0.1〜10質量%のモリブデン酸被膜を成膜し、その上に、アルミニウムに対してP元素換算量で0.05〜5質量%の燐酸エステルを吸着させる。しかし、この処理は、複雑で時間がかかり、コストアップの原因にもなる。
【0027】
【特許文献1】特開昭62−13565号公報
【特許文献2】特開平9−290213号公報
【特許文献3】特開2000−354828号公報
【特許文献4】特開平11−90318号公報
【特許文献5】特開平9−122575号公報
【特許文献6】特開平7−150374号公報
【特許文献7】特開平7−133440号公報
【特許文献8】特開平6−57171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、塗装後の塗膜が赤色メタリックメッキに近い高級感のある色になるとともに、優れた耐食性・耐薬品性を有する赤色メタリック塗装を可能とする耐食光輝性顔料およびこれを用いた耐食光輝性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明に係る耐食光輝性顔料は、銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含み、L*a*b*表色系において明度がL*=35〜90、色度がa*=10〜50、b*=10〜25であるフレーク状合金片からなることを特徴とする。ここで、L*a*b*表色系とは、JISZ8729において採用された表色系であって、明度をL*、色相と彩度を示す色度をa*、b*で表す表色系のことである。
【0030】
前記フレーク状合金片の表面反射率は、550nmの波長の光に対して25〜65%であることが好ましく、前記フレーク状合金片の厚さは、0.02〜5μmであることが好ましく、前記フレーク状合金片の大きさは、5〜50μmであることが好ましい。ここで、フレーク状合金片の大きさとは、該合金片の定方向径(合金片に外接する長方形の縦、横の辺のうち長い方の辺の長さ)を意味する。
【0031】
本発明に係る耐食光輝性塗料は、前記耐食光輝性顔料と樹脂、または、前記耐食光輝性顔料と樹脂と赤色顔料を含有することを特徴とする。
【0032】
前記樹脂は、アクリルウレタン樹脂、または、アクリルウレタン樹脂とメラミン樹脂を混合した樹脂であることが好ましく、前記赤色顔料は、弁柄、カドミウムレッド、カドモポンレッド、クロムレッド、バーミリオン、モリブデートオレンジからなる群から選択された1種以上の無機顔料であることが好ましい。
【0033】
本発明に係る耐食光輝性顔料の製造方法の第一の態様は、銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含む薄膜を、スパッタリング法もしくは蒸着法で形成する工程1と、工程1で得られた薄膜を粉砕し、フレーク状合金片を得て、本発明に係る前記耐食光輝性顔料を得る工程2とを有することを特徴とする。
【0034】
本発明に係る耐食光輝性顔料の製造方法の第二の態様は、金属原料を真空中で溶解し、銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含む合金を得る工程1と、工程1で得られた合金を粉砕機で粉砕した後、スタンピングしてフレーク状合金片を得て、本発明に係る前記耐食光輝性顔料を得る工程2とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る耐食光輝性顔料は、L*a*b*表色系において、明度がL*=35〜90、色度がa*=10〜50、b*=10〜25であるフレーク状合金片からなるため、本発明に係る顔料を用いた耐食光輝性塗料により得られる塗膜は、赤色メタリックメッキに近い高級感のある外観となる。また、本発明に係る耐食光輝性顔料は、優れた耐食性・耐薬品性を有しているため、多くの環境で使用できる。
【0036】
このため、本発明に係る耐食光輝性顔料は、家電品や携帯電話部品あるいは車体部品などの塗装に好適に用いることができる。
【0037】
また、本発明に係る耐食光輝性顔料を構成するフレーク状合金片の厚さを0.02〜5μmにすると、塗装面の色および光輝感がより良好になるとともに、塗膜にひび割れが生じにくくなる。この場合、フレーク状合金片の厚さが非常に薄いため、母材の金属とともに溶融させても母材の金属に混入する割合は極めてわずかであり、溶融して再利用可能なので、リサイクル性にも優れることとなる。
【0038】
さらに、本発明に係る耐食光輝性顔料を用いた塗料で塗膜を形成することは、簡単な塗装法で実施可能なので、施工性に優れており、該塗料は意匠性が求められる製品の塗装にも適する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0040】
1)銅、鉛、錫および亜鉛の含有量
本発明に係る耐食光輝性顔料は、銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含み、L*a*b*表色系において明度がL*=35〜90、色度がa*=10〜50、b*=10〜25であるフレーク状合金片からなる。
【0041】
本発明に係る耐食光輝性顔料をフレーク状合金片で構成する理由は、フレーク状合金片は、表面のうちに平面が占める割合が高く、表面反射が起きやすく、光輝性に優れるからである。耐食光輝性顔料においては、表面反射が重要な性能の一つである。
【0042】
本発明に係る耐食光輝性顔料を構成するフレーク状合金片において、L*a*b*表色系における明度をL*=35〜90、色度をa*=10〜50、b*=10〜25と規定した理由は、塗装後の塗膜において、赤色メタリックメッキに近い高級感のある赤色を得るためである。
【0043】
L*が35未満では、外観の明るさ、光沢が減り、塗膜のメタリック感が損なわれるため好ましくない。L*が90を超えると、明るすぎて赤の色調が認識しづらくなるため好ましくない。
【0044】
a*が10未満では、赤い色調が低下し、塗膜の鮮やかさが損なわれ好ましくない。a*が50を超えると赤みが強すぎ、塗膜の色が銅色の色調から外れてしまい好ましくない。ここで、銅色とは、250nmと470nm付近の波長を選択吸収することにより、特に470nm(青緑色)付近の波長の光を選択吸収することにより、生じる色のことである。
【0045】
b*が10未満では、塗膜の色がくすんだ感じの銅色になり好ましくない。b*が25を超えると、塗膜の色が黄色みを帯びて銅色から外れてしまい好ましくない。
【0046】
なお、塗装後の塗膜の色が、赤色メタリックメッキに近い高級感のある赤色となるのは、塗膜の明度がL*=35〜90、色度がa*=10〜50、b*=10〜25のときであるが、塗膜の明度はL*=40〜80、色度はa*=15〜50、b*=10〜20であることがより好ましい。
【0047】
銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含有させることが必要な理由は、明度および色度がL*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25であるフレーク状合金片を得るためである。
【0048】
本発明において、銅は、フレーク状合金片において発現する赤色の基調となる色を提供する働きがある。銅に他の金属を添加することで耐食性や加工性を向上させることができ、色相も変化させることができる。
【0049】
銅の含有量が75質量%未満の場合、フレーク状合金片の色は輝度が下がり光輝感が低下する。このため、フレーク状合金片の明度および色度は、L*a*b*表色系で、L*についてはL*=43〜45、a*についてはa*=1〜8、b*についてはb*=7〜9となり、本発明の範囲に入らず、目的とする赤色が得られない。
【0050】
本発明において、鉛は、融点を下げ切削加工性を向上させるとともに、フレーク状合金片の色を鮮やかにするという働きをする。
【0051】
鉛の含有量が1質量%未満の場合、フレーク状合金片の色は、輝度が低下したようになる。このため、フレーク状合金片の明度および色度は、L*a*b*表色系で、L*についてはL*=32〜34、a*についてはa*=14〜17、b*についてはb*=10〜15となり、本発明の範囲に入らず、目的とする赤色が得られない。一方、鉛の含有量が5質量%を超える場合、フレーク状合金片の色は、白味を帯びる。このため、フレーク状合金片の明度および色度は、L*a*b*表色系で、L*についてはL*=40〜45、a*についてはa*=6〜8、b*についてはb*=8〜10となり、本発明の範囲に入らず、目的とする赤色が得られない。
【0052】
本発明において、錫は、波長吸収帯を短波長側にずらす働きをする。
【0053】
錫の含有量が4質量%未満の場合、フレーク状合金片の色は、赤みが少ない色相になる。このため、フレーク状合金片の明度および色度は、L*a*b*表色系で、L*についてはL*=45〜47、a*についてはa*=6〜8、b*についてはb*=6〜8となり、本発明の範囲に入らず、目的とする赤色が得られない。一方、錫の含有量が10質量%を超える場合、フレーク状合金片の色は、銀白色になる。このため、フレーク状合金片の明度および色度は、L*a*b*表色系で、L*についてはL*=60〜70、a*についてはa*=4〜6、b*についてはb*=25〜30となり、本発明の範囲に入らず、目的とする赤色が得られない。
【0054】
本発明において、亜鉛は波長吸収帯を短波長側にずらす働きをする。
【0055】
亜鉛の含有量が4質量%未満の場合、フレーク状合金片の色は、黄色味を帯びた色になる。このため、フレーク状合金片の明度および色度は、L*a*b*表色系で、L*についてはL*=44〜46、a*についてはa*=8〜10、b*についてはb*=26〜30となり、本発明の範囲に入らず、目的とする赤色が得られない。一方、亜鉛の含有量が10質量%を超える場合、フレーク状合金片の色は、銀白色になる。このため、フレーク状合金片の明度および色度は、L*a*b*表色系で、L*についてはL*=47〜50、a*についてはa*=6〜8、b*についてはb*=20〜25となり、本発明の範囲に入らず、目的とする赤色が得られない。
【0056】
なお、銅が固有の有色光沢を呈するのは、銅が、固有の波長域の光を選択的に吸収するためである。銅は、波長250nm付近の波長域の光(紫外線)と470nm付近の波長域の光(青緑色の可視光)を選択的に吸収する特性を有する。銅の色に影響を与える光の吸収は、可視光域である470nm付近の波長域の光の吸収である。銅に対する可視光線の反射光においては、470nm付近の波長域の光の色である青緑色が減少する。このため、目に見える銅の色は、青緑色の余色すなわち銅赤色となる。
【0057】
波長250nm付近における吸収は、入射する光量子を伝導電子が吸収して、より高準位の空虚帯へ励起するために生ずる。波長470nm付近における吸収は、該波長帯域に対応する光電子が、d帯の電子を伝導体のフェルミ準位以上の空虚準位へ励起させるために生ずる。
【0058】
一方、アルミニウムなどの多くの金属は、可視光線および赤外線をほぼ完全に全反射し金属光沢を有する。
【0059】
次に、本発明に係る耐食光輝性顔料の耐食性について説明する。
【0060】
銅は、耐食性が高い金属である。ステンレスやチタンは表面を不動態化することで耐食性を維持するのに対し、貴金属である銅および銅合金は、それ自体が広い電位領域とpH領域において不変態を維持する。
【0061】
しかし、銅は、強アルカリに対しては弱く、腐食する。
【0062】
この点、本発明に係る耐食光輝性顔料を構成するフレーク状合金片は、銅に前記所定量の鉛(1〜5質量%)、錫(4〜10質量%)、亜鉛(4〜10質量%)が添加されているので、強アルカリに対しても腐食しにくい。
【0063】
鉛には、金属の表面に強固な酸化膜を形成する働きがある。このため、銅に鉛を添加すると耐食性の向上に寄与する。鉛の含有量が1質量%未満では、この働きが十分には発現しない。一方、鉛の含有量が5質量%を超えると、材料の硬度が低下するとともに色も銀白色となる。
【0064】
錫には、金属を大気中で酸化されにくくする働きがある。このため、銅に錫を添加すると耐食性の向上に寄与する。錫の含有量が4質量%未満では、この働きが十分には発現しない。一方、錫の含有量が10質量%を超えると、材料の硬度が低下するとともに色も銀白色となる。
【0065】
亜鉛には、金属表面に緻密な酸化膜を形成する働きがある。このため、銅に亜鉛を添加すると耐食性の向上に寄与する。亜鉛の含有量が4質量%未満では、この働きが十分には発現しない。一方、亜鉛の含有量が10質量%を超えると、材料の硬度が低下するとともに色も銀白色となる。
【0066】
2)フレーク状合金片の厚さと大きさ
本発明者は、本発明に係る耐食光輝性顔料を構成するフレーク状合金片の表面反射率が、550nmの波長の光に対して25〜65%であると、塗装後の塗膜の色相が、赤色メタリックメッキに近い高級感のある赤色を帯びることを見出した。
【0067】
該表面反射率は、フレーク状合金片の厚さと一辺の長さに関係するので、厚さと大きさを適切に調整することが好ましく、厚さを0.02〜5μm、大きさを5〜50μmとすることが好ましい。
【0068】
フレーク状合金片の厚さが0.02μmより薄いと、下地(樹脂塗膜)が透けて見えるようになり、塗装面の明度および色度が目標とする範囲(L*a*b*表色系において、L*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25)から外れやすくなってしまう。また、表面反射率も下がり光輝感がなくなり、好ましくない。
【0069】
フレーク状合金片の厚さが5μmを超えると、フレーク片の内部応力が高くなり、フレーク片に割れが入りやすくなる。そのため、塗装乾燥後の塗膜にヒビが入る可能性が高くなり、好ましくない。なお、フレーク状合金片の厚さが5μmを超えても表面反射率に変化はなく、薄膜の成膜時間が延びて生産に必要な時間が長くなり、単にコストが上昇するのみである。
【0070】
フレーク状合金片の大きさが5μm未満では、反射面が小さくなり光輝感が損なわれ、好ましくない。
【0071】
フレーク状合金片の大きさが50μmを超えると、反射面が広がり表面反射率は上がるが、塗装面を上から見た場合に、フレーク状合金片同士の重なりがない部分が生じ、下地が見える可能性があり、好ましくない。
【0072】
3)フレーク状合金片の製造方法
本発明に係る耐食光輝性顔料を構成するフレーク状合金片は、スパッタリング法もしくは蒸着法で作製することができる。具体的には、銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含有する薄膜を形成し、該薄膜を粉砕して作製することができる。
【0073】
上記フレーク状合金片の原料となる薄膜を形成するのに用いるスパッタリング法は、真空中でアルゴンイオンをターゲットにぶつけてエネルギーを与え、該ターゲットを構成する原子を飛び出させ、対象物(基板)に付着させる方法である。
【0074】
スパッタリング法は、熱で蒸気化して原子を飛ばす方法ではないので、真空蒸着法のように蒸気圧による成分の狂いがない。そのため、一つの組成のターゲットのみを用いれば、そのターゲット組成とほぼ同じ組成の膜が得られる。
【0075】
また、銅ターゲットと鉛ターゲットとをそれぞれ配置して、同時に成膜することにより、銅−鉛合金薄膜を得ることも可能である。この場合は、それぞれのターゲットの投入電流を調整することにより合金比率を調整することができる。
【0076】
スパッタリング方式は、DCマグネトロンとRFマグネトロンのどちらでも良い。ターゲットは、溶解法や焼結法で作製することができる。
【0077】
基板に形成した薄膜は、削り取ったり、剥ぎ取ったりして回収した後、ボールミルなどで粉砕したり、溶液中に入れた後に超音波を加えて粉砕したりして、フレーク状合金片にすることができる。あるいは、基板ごと溶液中に入れ、基板に形成した薄膜を化学的に剥離しながら粉砕し、フレーク状合金片にすることも可能である。
【0078】
また、本発明に係る耐食光輝性顔料を構成するフレーク状合金片は、金属原料を真空中で溶解し、銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含有する合金を作製し、該合金を粉砕機で粉砕した後、スタンピングし、フレーク状合金片とする方法でも作製することができる。
【0079】
なお、本発明に係る耐食光輝性顔料を構成するフレーク状合金片の表面をシリカ等の無機材料や有機材料でコーティングすることで、さらに溶出防止と耐食性向上を図ることもできる。
【0080】
4)耐食光輝性塗料
本発明に係る耐色光輝性塗料は、本発明に係る耐食光輝性顔料と樹脂を適切な比率で配合し、スターラ等の攪拌機を用いて良く攪拌することで作製することができる。
【0081】
使用する樹脂としては、アクリルウレタン樹脂や、アクリルウレタン樹脂とメラミン樹脂を混合したものを好適に用いることができるが、これに限定されない。
【0082】
また、光輝性および色度を調整し、赤色メタリックメッキに近い高級感のある色にするために、赤色顔料を追加して添加しても良い。該赤色顔料としては、弁柄(酸化第二鉄)あるいはカドミウムレッド、カドモポンレッド、クロムレッド、バーミリオン、モリブレートオレンジ等の無機顔料を好適に用いることができるが、これに限定されず、有機顔料でも同様の効果が得られる。
【0083】
このようにして作製した該耐食光輝性塗料を、スプレーガン等で、塗装物に吹きつけて塗装を行い、所定の条件で加熱乾燥を行う。
【0084】
加熱乾燥の方法は、塗装物の形状に応じて適宜選択して行う。その際、温度分布が大きいと乾燥ムラが生じてしまうので、乾燥ムラの生じにくい、熱風乾燥機、対流式オーブンなどで行うことが好ましい。
【実施例】
【0085】
[実施例1]
Cu:Pb:Sn:Znを86:4:5:5の質量比となるように計量し、真空装置(株式会社神港製作所製、AIH−w36200SBTイオンプレーティング装置)中に入れ、電子ビームにより真空溶解して合金を作製した。
【0086】
該合金の明度および色度を分光光度計(日立製作所社製、U−4000)で測定したところ、L*=43、a*=16、b*=16であった。
【0087】
該合金をジェットミル粉砕機で1〜3μmの微粉に粉砕し、スタンピングして、厚さ1μm、大きさ40μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼では赤みを帯びていた。また、得られたフレーク状合金片の反射率を、前記分光光度計を用いて波長550nmの光で測定したところ、56%であった。
【0088】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、スターラを用いて良く攪拌し、耐食光輝性塗料を作製した。該塗料をスプレーガンに入れ、2kg/cm2の圧力で黒のプラスチック板(50mm×100mm×厚さ1mm)に塗装した。
【0089】
塗装後は、熱風乾燥機(株式会社カトー社製、JMB23DP、加熱容量9kw)を用いて、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では赤銅色を帯びていた。
【0090】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、分光光度計(日立製作所社製、U−4000)で測定したところ、L*=40、a*=12、b*=15であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、前記分光光度計を用いて波長550nmの光で測定したところ、54%であった。
【0091】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、上記と同様の方法で攪拌し、耐食光輝性塗料を作製した。該塗料を鉄板(50mm×100mm×厚さ0.5mm)に塗装し、塗装後は、上記同様に熱風乾燥機を用いて、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では光輝感のある赤メタリック色であった。
【0092】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、分光光度計(日立製作所社製、U−4000)で測定したところ、L*=44、a*=15、b*=18であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、前記分光光度計を用いて波長550nmの光で測定したところ、52%であった。
【0093】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0094】
[実施例2]
Cu:Pb:Sn:Znを91:1:4:4の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で合金を作製した。
【0095】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=44、a*=18、b*=14であった。
【0096】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ2μm、大きさ35μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼では赤みを帯びていた。また、得られたフレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、62%であった。
【0097】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で耐食光輝性塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では赤銅色を帯びていた。
【0098】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=41、a*=15、b*=12であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、60%であった。
【0099】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で耐色光輝性塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では、光輝感のある赤メタリック色であった。
【0100】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=46、a*=16、b*=17であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、57%であった。
【0101】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0102】
[実施例3]
Cu:Pb:Sn:Znを75:5:10:10の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で合金を作製した。
【0103】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=40、a*=25、b*=10であった。
【0104】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ1.5μm、大きさ6μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼では赤みを帯びていた。また、得られたフレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、52%であった。
【0105】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で耐食光輝性塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では赤銅色を帯びていた。
【0106】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=38、a*=20、b*=8であった。該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、49%であった。
【0107】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で耐食光輝性塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では、光輝感のある赤メタリック色であった。
【0108】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=43、a*=21、b*=15であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、45%であった。
【0109】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0110】
[実施例4]
Cu:Pb:Sn:Znを86:2:6:6の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で合金を作製した。
【0111】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=46、a*=15、b*=15であった。
【0112】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ1.5μm、大きさ49μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼では赤みを帯びていた。また、得られたフレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、54%であった。
【0113】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で耐食光輝性塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では赤銅色を帯びていた。
【0114】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=43、a*=12、b*=13であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、50%であった。
【0115】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で耐食光輝性塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では、光輝感のある赤メタリック色であった。
【0116】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=48、a*=15、b*=20であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、48%であった。
【0117】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0118】
[実施例5]
Cu:Pb:Sn:Znを86:5:4:5の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で合金を作製し、該合金を用いて、直径100mmφ、厚さ3mmのターゲットを作製した。
【0119】
該ターゲットの明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=48、a*=45、b*=20であった。
【0120】
次に、該ターゲットを真空装置(日本真空技術株式会社製、SH−S100、DCマグネトロン方式)にセットし、電子ビームを用いてポリプロピレンフィルム(表面にラッカーを塗布し、ラッカー層を1μm形成している。)上にスパッタリング蒸着し、薄膜を形成した。膜厚は0.04μmであった。該薄膜をMEK(メチルエチルケトン)に浸し、ポリプロピレンのみ溶解し、該薄膜だけを取り出した。
【0121】
該薄膜を超音波粉砕機(イプロス社製)で33μmの大きさにし、フレーク状合金片を得た。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼では赤味を帯びていた。また、得られたフレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、57%であった。
【0122】
そして、得られたフレーク状合金片をMEK中に投入して質量比で10%となるように分散液を作製し、該分散液10gに透明アクリルウレタン樹脂90gを添加した。そして、スターラを用いて良く攪拌し、耐食光輝性塗料を作製した。
【0123】
該塗料を実施例1と同様の方法で黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の該プラスチック板の塗装面は、肉眼では赤銅色を帯びていた。
【0124】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=45、a*=40、b*=15であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、55%であった。
【0125】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で耐食光輝性塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では光輝感のある赤メタリック色であった。
【0126】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=50、a*=43、b*=17であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、52%であった。
【0127】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0128】
[実施例6]
Cu:Pb:Sn:Znを86:4:5:5の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様にして合金を作製した。
【0129】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=43、a*=16、b*=16であった。
【0130】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ1μm、大きさ40μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼では赤味を帯びていた。また、得られたフレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、56%であった。
【0131】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で耐食光輝性塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では赤銅色を帯びていた。
【0132】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=40、a*=12、b*=15であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、54%であった。
【0133】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料としてクロムレッドを10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で耐食光輝性塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では光輝感のある赤メタリック色であった。
【0134】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=44、a*=15、b*=18であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、53%であった。
【0135】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0136】
[比較例1]
Cuインゴットをジェットミル粉砕機にかけて1〜3μmの微粉にした。該Cuインゴットの明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=83、a*=16、b*=16であった。得られた微粉をスタンピングして、厚さ1μm、大きさ40μmのフレーク状金属片にした。得られたフレーク状合金片の色は、銅色であった。該フレーク状金属片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、65%であった。
【0137】
該フレーク状金属片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、スターラを用いて良く攪拌し、塗料を作製した。該塗料をスプレーガンに入れ、2kg/cm2の圧力で黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では赤銅色を帯びていた。
【0138】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=80、a*=16、b*=14であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、63%であった。
【0139】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤顔料として弁柄を10g、上記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様に、攪拌し、塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では赤色メタリックの銅色であった。
【0140】
塗装後の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様にして測定したところ、L*=78、a*=30、b*=18であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、60%であった。
【0141】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24h浸漬したところ、銅の色が変色し、面積の50%が緑色に変色した。
【0142】
[比較例2]
Cu:Pb:Sn:Znを74:6:10:10の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で合金を作製した。
【0143】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=43、a*=9、b*=17であった。
【0144】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ1.5μm、大きさ55μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼では赤の色調に低下が見えた。また、得られたフレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、52%であった。
【0145】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では赤の色調に低下が見られたが、しかし、所々に凸凹が目立ち下地も見えた。
【0146】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=40、a*=8、b*=12であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、49%であった。
【0147】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では光輝感のあるピンク系の淡い色調であった。しかし、所々で凸凹が目立ち、下地も見えた。
【0148】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=42、a*=7、b*=9であった。また、該鉄板の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、45%であった。
【0149】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0150】
[比較例3]
Cu:Pb:Sn:Znを76:4:15:5の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で合金を作製した。
【0151】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=48、a*=2、b*=3であった。
【0152】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ2μm、大きさ60μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼ではくすんだ赤銅色であった。また、得られたフレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、55%であった。
【0153】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼ではくすんだ銅赤色を帯びていた。
【0154】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=46、a*=2、b*=3であった。また、該プラスチック板の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、53%であった。
【0155】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼ではくすんだような銅赤色を帯びていた。
【0156】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=48、a*=9、b*=9であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、51%であった。
【0157】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0158】
[比較例4]
Cu:Pb:Sn:Znを76:4:5:15の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で合金を作製した。
【0159】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=49、a*=2、b*=4であった。
【0160】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ7μm、大きさ3μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼ではくすんだ赤銅色 であった。該合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、56%であった。
【0161】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、くすんだ赤銅色を帯びていた。
【0162】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=46、a*=1、b*=3であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、53%であった。
【0163】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、該フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。
【0164】
乾燥後の塗装面は、肉眼ではくすんだ赤銅色を帯びていた。一部にフレークとフレークの重なりの段差がみられた。
【0165】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=48、a*=9、b*=9であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、51%であった。
【0166】
次に、該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0167】
[比較例5]
Cu:Pb:Sn:Znを86:4:5:5の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で合金を作製した。
【0168】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=43、a*=16、b*=16であった。
【0169】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ0.01μm、大きさ30μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼では赤味を帯びていた。また、該フレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、27%であった。
【0170】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。
【0171】
乾燥後の塗装面は、肉眼ではくすんだ赤みを帯び、光輝感がうすれ、粒子感が目立った。
【0172】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=45、a*=9、b*=15であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、24%であった。
【0173】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料として弁柄を10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼では光輝感のないくすんだ赤みを帯び、粒子感が目立っていた。
【0174】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=47、a*=9、b*=9であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、23%であった。
【0175】
該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0176】
[比較例6]
Cu:Pb:Sn:Znを76:4:15:5の質量比となるようにした以外は、実施例1と同様にして合金を作製した。
【0177】
該合金の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=48、a*=2、b*=3であった。
【0178】
該合金を、実施例1と同様の方法で、厚さ2μm、大きさ60μmのフレーク状合金片にした。得られたフレーク状合金片の色は、肉眼ではくすんだ赤銅色であった。また、該フレーク状合金片の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、55%であった。
【0179】
該フレーク状合金片10gを透明アクリルウレタン樹脂90gに添加し、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、黒のプラスチック板に塗装した。塗装後、80℃で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼ではくすんだ銅赤色を帯びていた。
【0180】
該プラスチック板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=46、a*=2、b*=3であった。また、該プラスチック板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、53%であった。
【0181】
次に、アクリル樹脂50g、メラミン樹脂50gに、赤色顔料としてカドニウムレッドを10g、前記フレーク状合金片を20g入れ、実施例1と同様の方法で塗料を作製し、鉄板に塗装した。塗装後、150℃で20分間乾燥させた。乾燥後の塗装面は、肉眼ではくすんだような銅赤色を帯びていた。
【0182】
該鉄板の塗装面の明度および色度を、実施例1と同様の方法で測定したところ、L*=48、a*=9、b*=9であった。また、該鉄板の塗装面の反射率を、実施例1と同様に測定したところ、52%であった。
【0183】
該鉄板を5%NaOH溶液に24時間浸漬したが、金属の溶解、外観の変化はなかった。
【0184】
【表1】

【0185】
フレーク状合金片の組成が本発明の範囲内にある実施例1〜6は、合金の明度および色度も本発明の範囲内(L*a*b*表色系においてL*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25)に入っている。このため、該フレーク状合金片を用いて作製した塗料により塗装を行ったプラスチック板、鉄板の塗装面の明度および色度も、L*a*b*表色系においてL*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25の範囲内に入っており、赤色メタリックメッキに近い高級感のある外観となった。また、塗膜の耐食性も良好であった。
【0186】
これに対し、フレーク状合金片の組成が本発明の範囲内に入っていない比較例2、3、4、6は、合金の明度および色度も本発明の範囲内(L*a*b*表色系においてL*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25)に入っていない。このため、該フレーク状合金片を用いて作製した塗料により塗装を行ったプラスチック板、鉄板の塗装面の明度および色度も、L*a*b*表色系においてL*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25の範囲内に入っておらず、赤色メタリックメッキに近い高級感のある外観とはならなかった。
【0187】
比較例5は、合金の明度および色度は本発明の範囲内(L*a*b*表色系においてL*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25)に入っているが、フレーク状合金片の厚みが薄いため、塗装後の明度および色度が、本発明の範囲内(L*a*b*表色系においてL*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25)に入っていない。また、塗装後の塗膜の反射率は、本発明における好ましい範囲内から外れている。
【0188】
フレーク状合金片の組成がCuのみからなる比較例1は、合金の明度および色度ならびに塗装面の明度および色度がL*a*b*表色系においてL*=35〜90、a*=10〜50、b*=10〜25の範囲内に入っており、塗装面は赤色メタリックメッキに近い高級感のある外観となった。しかし、塗膜の耐食性がよくなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含み、L*a*b*表色系において明度がL*=35〜90、色度がa*=10〜50、b*=10〜25であるフレーク状合金片からなることを特徴とする耐食光輝性顔料。
【請求項2】
前記フレーク状合金片の表面反射率が、550nmの波長の光に対して25〜65%であることを特徴とする請求項1に記載の耐食光輝性顔料。
【請求項3】
前記フレーク状合金片の厚さが、0.02〜5μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐食光輝性顔料。
【請求項4】
前記フレーク状合金片の大きさが、5〜50μmであることを特徴とする請求項1〜3に記載の耐食光輝性顔料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の耐食光輝性顔料と樹脂とを含有することを特徴とする耐食光輝性塗料。
【請求項6】
前記樹脂が、アクリルウレタン樹脂、または、アクリルウレタン樹脂とメラミン樹脂を混合した樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の耐食光輝性塗料。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の耐食光輝性顔料と樹脂と赤色顔料とを含有することを特徴とする耐食光輝性塗料。
【請求項8】
前記樹脂が、アクリルウレタン樹脂、または、アクリルウレタン樹脂とメラミン樹脂を混合した樹脂であることを特徴とする請求項7に耐食光輝性塗料。
【請求項9】
前記赤色顔料が、弁柄、カドミウムレッド、カドモポンレッド、クロムレッド、バーミリオン、モリブデートオレンジからなる群から選択された1種以上の無機顔料であることを特徴とする請求項7または8に記載の耐食光輝性塗料。
【請求項10】
銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含む薄膜を、スパッタリング法もしくは蒸着法で形成する工程1と、工程1で得られた薄膜を粉砕し、フレーク状合金片を得て、請求項1〜4のいずれかに記載の耐食光輝性顔料を得る工程2とを有することを特徴とする耐食光輝性顔料の製造方法。
【請求項11】
金属原料を真空中で溶解し、銅を75質量%以上、鉛を1〜5質量%、錫を4〜10質量%、亜鉛を4〜10質量%含む合金を得る工程1と、工程1で得られた合金を粉砕機で粉砕した後、スタンピングしてフレーク状合金片を得て、請求項1〜4のいずれかに記載の耐食光輝性顔料を得る工程2とを有することを特徴とする耐食光輝性顔料の製造方法。

【公開番号】特開2007−77423(P2007−77423A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263797(P2005−263797)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】