説明

耐食性に優れた錫めっき鋼板

【課題】耐食性の確保と加工による損傷を回避するSnめっき鋼板を提供する。
【解決手段】製缶後の缶内面側に相当する鋼板面に、該鋼板の表面より順次、金属Sn量で、0.5〜2g/m2のSnめっき層、その上層にS量で5〜100mg/m2のSnS層、その上層に3〜10g/m2の金属Snめっき層、その上層に化成処理層が存在することを特徴とする果実缶用Snめっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れた錫めっき鋼板、特に、筍、パイナップル、チェリーなどの酸性食品を内容物とする無塗装缶用表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板にSnめっきが施されたブリキは、缶用表面処理鋼板として用いられている。これは、酸性食品を内容物とした缶内では、Snが缶内の酸素と反応し酸素を消費する事で、内容物の酸化劣化を防止し、食品の長期保存を可能にするからである。缶内酸素が消費された後、めっきされたSnは缶内の水素イオンとの反応や下地の鉄、合金層との相互作用で徐々に溶解する。そして、めっきされたSnが溶解し終えると地鉄が溶解し、缶体の寿命が終了する。
【0003】
従って、ブリキを用いた缶対の寿命は、下地の鉄、合金層との相互作用によるめっきされたSnの溶解速度に依存すると言われており、ブリキの耐食性を表す指標として、ATC(Alloy Tin Couple)が知られている(ASTM A623、A623M)。ATC値は、ブリキを用いた缶材の寿命とよい相関関係にあり、ブリキ製造者は、このATC値を品質管理指標としていることが多い。 言い換えれば、ATC値は低Sn溶出性を示す指標といえる。このATC値を低減するための方法としては、錫めっき後、溶融処理を行うことによって形成される錫と鉄素地との合金層(FeSn2)を制御することが知られている。
【0004】
しかし、通常の工程でブリキを製造した場合、錫めっき層や錫−鉄合金層にピンホールが発生することがあり、このピンホールが原因で腐食を発生する。そこで、ピンホール発生を抑制するため、例えば、合金層を多量に生成させ、合金層の連続性を向上させることにより、ピンホール発生を抑制することが考えられている。しかし、合金層の多量形成は、耐食性に優れた金属錫めっき層の減少や合金層が堅いために加工特性が充分に得られない危険性をはらんでおり、決して良い解決法ではない。
【0005】
そのため、例えば、特開昭62−284086号公報(下記特許文献1)や特開昭57−108291号公報(下記特許文献2)にNiめっきあるいはFe-Ni合金めっきをプレめっきを施した後に錫めっきを実施、溶融処理を行うことによって、合金層を緻密化させ、ピンホールを抑制、耐食性を向上させることが報告されている。
【0006】
しかしながら、一般に、缶の製造工程において、缶体強度確保の為に、ブリキ缶の胴部を複数の波板上に加工する、ビード加工が施されることで、上記の工夫や発明による優れた合金層は一部損傷し、損傷箇所での腐食から十分な効果を発揮できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−284086号公報
【特許文献2】特開昭57−108291号公報
【特許文献3】特開平9−195085号公報
【特許文献4】特開平7−275961号公報
【特許文献5】特開平9−202989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のブリキに見られた加工によって損傷し易い合金層を付与せず、その代わりに、Snめっき層の内部にSnS層を設けることで、耐食性の確保と加工による損傷を回避するSnめっき鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上層のSnめっき層が先ず、缶内の酸素を消費し、溶解した後、SnS層がバリヤー層となってSnの溶出を抑制し、ブリキの耐食性を向上させる事ができる。しかも、このバリヤー層は非常に薄い為、加工による損傷も殆ど受けないので、Snの溶出を極めて低減できる高耐食性錫めっき鋼板を提供することができる。
【0010】
即ち、本発明の要旨とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
【0011】
製缶後の缶内面側に相当する鋼板面に、該鋼板の表面より順次、金属Sn量で、0.5〜2g/m2のSnめっき層、その上層にS量で5〜100mg/m2のSnS層、その上層に3〜10g/m2の金属Snめっき層、その上層に化成処理層が存在することを特徴とする果実缶用Snめっき鋼板。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、耐食性に優れた果実缶用Snめっき鋼板、具体的には、無塗装缶体用の錫メッキ鋼板の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最良の形態としての製缶加工性に優れた容器用鋼板について詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いられる原板は特に規制されるものではなく、通常、容器材料として使用される鋼板を用いる。この原板の製造法、材質なども特に規制されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。この原板にSnめっきが施される。Snめっきを施す目的は、Snが地鉄を覆うことで、Snと地鉄の相互作用による溶解を防止することにある。Snめっき量が多い程、Snの被覆は増加し、0.5g/m2以上のSn量で実用上、十分なSn被覆性が確保される。Sn量の増加に伴い、一層被覆性が向上するが、2g/m2を超えると、耐食性の向上効果が飽和する為、経済的には、2g/m2以下で良い。Snめっきを行う方法は特に規制しないが、硫酸やフェノールスルホン酸を主成分としたSnめっき液から電気めっき法で行う事が工業的には有利である。
【0016】
Sn層が付与された後にSnS層が付与される。SnS層は下地Sn層の溶出を防止するバリヤー層として作用するが、実用上、その効果が発揮されるには、S量で5mg/m2上のSnS層が必要である。SnS層が厚い程、バリヤー効果が向上するが100mg/m2を超えると、バリヤー性の向上効果が飽和する為、経済的には、100mg/m2以下で良い。SnS層を付与する方法は特に規制しないが、工業的には、チオ硫酸ソーダ液などの硫化物溶液に浸漬あるいは電解することで高速処理が可能である。
【0017】
SnS層の上層に再度、Sn層が付与される。このSn層の目的は前述したように、缶内の酸素の除去である。従って、Sn量は缶内の酸素量に依存するが、工業的に生産される缶詰の酸素量のバラつきから、金属Snで10g/m2あれば十分で、それ以上は必要なく、缶詰の充填が良好な低酸素条件で行われれば、3g/m2で十分である。従って、上層のSn量は3〜10g/m2で良い。Sn層を付与する方法は前述の通りである。
【0018】
Sn層の上層に酸化防止のために化成処理層を形成させる。例えばクロムめっき浴あるいはクロメート処理浴によって鋼板全面に金属クロム層とクロム水和酸化物層、あるいは燐酸ナトリウム浴での電解処理による化成処理皮膜を形成させても良い。この場合の浴や処理条件には特に制限はなく、例えばクロム酸浴で陰極処理の場合に、金属クロム層およびクロム水和酸化物層を形成させやすくするために、前もって錫層表面に形成されている錫酸化物層を除去しても良い。この方法としては例えば炭酸ナトリウム水溶液中で錫めっき後の鋼板を陰極処理すれば良い。
【0019】
図1は、本発明の本発明の例を示す図である。
【0020】
図1に示すように、製缶後の缶内面側に相当する鋼板4面に、該鋼板4の表面より順次、金属Sn量で、0.5〜2g/m2のSnめっき層1、その上層にS量で5〜100mg/m2のSnS層2、その上層に3〜10g/m2の金属Snめっき層3、その上層に化成処理層5が存在することにうより、耐食性に優れた果実缶用Snめっき鋼板を提供することができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例について述べる。
<めっき層中の元素の定量方法>
Φ35mmに打ち抜いた鋼板を蛍光X線装置にセットし、Sn、S、Cr、Pを定量した。
<Sn溶出量の測定方法>
φ307×409の缶体を作成し、パイナップルをパックし、38℃で6ヶ月間貯蔵後、シロップと果実をミキサーで混合濾過し、溶出Sn量、及び溶出Fe量を測定した。
<発明例1>
脱脂、酸洗した0.21mmの冷延板に0.65g/m2のSnめっきを行い、S量で8mg/m2のSnSを付与し、更にその上に、3.4g/m2のSnめっきを行い金属クロム換算で9mg/m2の化成処理を行った。
<発明例2>
脱脂、酸洗した0.21mmの冷延板に1.8g/m2のSnめっきを行い、S量で88mg/m2のSnSを付与し、更にその上に、9.7g/m2のSnめっきを行い金属クロム換算で9mg/m2の化成処理を行った。
<発明例3>
脱脂、酸洗した0.21mmの冷延板に1.2g/m2のSnめっきを行い、S量で17mg/m2のSnSを付与し、更にその上に、7.5g/m2のSnめっきを行い、P量で20mg/m2のリン酸処理を行った。
<発明例4>
脱脂、酸洗した0.21mmの冷延板に0.7g/m2のSnめっきを行い、S量で88mg/m2のSnSを付与し、更にその上に、9.7g/m2のSnめっきを行った。
<比較例1>
脱脂、酸洗した0.21mmの冷延板に0.3g/m2のSnめっきを行い、S量で46mg/m2のSnSを付与し、更にその上に、4.8g/m2のSnめっきを行い、金属クロム換算で8mg/m2付着量の化成処理を行った。
<比較例2>
脱脂、酸洗した0.21mmの冷延板に1.3g/m2のSnめっきを行い、S量で3.8mg/m2のSnSを付与し、更にその上に、4.8g/m2のSnめっきを行い、金属クロム換算で8mg/m2付着量の化成処理を行った。
<比較例3>
脱脂、酸洗した0.21mmの冷延板に0.8g/m2のSnめっきを行い、S量で45mg/m2のSnSを付与し、更にその上に、2.2g/m2のSnめっきを行い、金属クロム換算で8mg/m2付着量の化成処理を行った。
<Snめっき条件>
浴組成:25g/l 硫酸錫
20g/l フェノールスルホン酸
浴温:50℃
電流密度:15A/dm2
<SnS形成条件>
浴組成 25g/l チオ硫酸ナトリウム
浴温:40℃
電流密度:2A/dm2
<化成処理条件>
浴組成 25g/l 重クロム酸ナトリウム
浴温:60℃
電流密度:5A/dm2
表1の実施例に示すように、本発明のSnめっき鋼板で製造した缶は、Sn溶出量が少なく、Feも殆ど溶出せず、優れた耐食性、缶寿命を示した。
【0022】
【表1】

【符号の説明】
【0023】
1 Sn層
2 SnS層
3 Sn層
4 鋼板母材
5 化成処理層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製缶後の缶内面側に相当する鋼板面に、該鋼板の表面より順次、金属Sn量で、0.5〜2g/m2のSnめっき層、その上層にS量で5〜100mg/m2のSnS層、その上層に3〜10g/m2の金属Snめっき層、その上層に化成処理層が存在することを特徴とする果実缶用Snめっき鋼板。

【図1】
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【公開番号】特開2010−261055(P2010−261055A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110222(P2009−110222)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】