説明

耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】本発明は、めっき層中にMg、Al等の易酸化性元素を多量に含有させなくても耐食性が向上し、同時にめっき密着性にも優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼板母材の表面に、質量%で、Fe:5.0〜20.0%、Al:0.01〜0.5%を含有するZnめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該Znめっき層中に、平均粒径が1μm以下であり、Fe、Al、Si、Znを含有し実質的に酵素を含有しない粒子状物質を含有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体用に適する、耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっきは、鋼板の防食を目的として施され、広範囲に使用されている。その製造方法としては、連続式溶融亜鉛めっきライン(以下、CGLと称する)に於いて、脱脂洗浄後、H2及びN2を含む還元雰囲気にて、ラジアントチューブによる間接加熱により焼鈍し、めっき浴温度近傍まで冷却した後に、溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、めっき浴を出た後に再加熱して合金化するという全還元炉方式が一般的である。
【0003】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の使用用途としては、自動車の外板や構造部材等、自動車用鋼板としての用途が多いが、自動車用鋼板においては、車体の長寿命化を目的として、Znめっき層の耐食性をさらに向上させることが求められている。同時に、複雑化している自動車のボディ形状に対応するため、複雑な形状にプレス成形してもめっき密着性が確保できることが求められている。そのため、亜鉛めっき鋼板の耐食性及びめっき密着性を向上させるために、種々の検討がなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、Znめっき層中にAl、Mg、Siを含有させた溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、合金化溶融亜鉛めっき層中にAl、Mg、Mn、Siを含有させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、第一層として合金化溶融亜鉛めっき層を有し、第二層としてMg-Al合金めっき層を有することによって、第一層で加工性を確保、第二層で耐食性を確保する技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2001-355054号公報
【特許文献2】特開平3-97840号公報
【特許文献3】特開平4-52284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示される技術では、耐食性は向上するものの、加工性及びめっき密着性に劣るため、自動車用鋼板として用いることはできない。特許文献2では、耐食性が向上し、めっき層への合金元素の含有が、密着性を悪化させることはないが、合金化中にMgやAlがめっき層表面に濃化し、スポット溶接性を悪化させる恐れがある。特許文献3では、第二層を付与することで耐食性が向上し、めっき密着性を悪化させることはないが、Mg-Alめっき層の表面に酸化膜が形成し、スポット溶接性を悪化させる恐れがある。
【0009】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、めっき層中にMg、Al等の易酸化性元素を多量に含有させなくても耐食性が向上し、同時にめっき密着性にも優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層中に、Fe、Al、Si、Znを含有し実質的に酵素を含有しない粒子状物質を含有させることで、耐食性が向上することを見出した。また、これらの粒子状物質は、加工時にもめっき密着性を阻害することはなく、耐食性の向上とめっき密着性が両立する、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の提供を可能にした。
【0011】
めっき層中に該粒子状物質を含有させることで耐食性が向上する理由の詳細については不明であるが、めっき層を上記の構造とすることで、耐食性が向上し、めっき密着性との両立が可能であることを見出したのである。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたもので、その要旨とするところは、以下の通りである。
(1) 鋼板母材の表面に、質量%で、
Fe:5.0〜20.0%、
Al:0.01〜0.5%
を含有するZnめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該Znめっき層中に、平均粒径が1μm以下であり、Fe、Al、Si、Znを含有し実質的に酵素を含有しない粒子状物質を含有することを特徴とする耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(2) 前記粒子状物質が、質量%で、
Si:0.1〜15%、
Al:0.1〜20%
を合計で1〜35質量%含有し、残部がFe及びZnからなる上記(1)に記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(3) めっき層を断面から観察した際に、めっき層と鋼板の界面に平行な方向に10μm当たり、前記粒子状物質が平均で5個以上存在する上記(1)又は(2)に記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(4) 前記鋼板母材が、質量%で、
C:0.001〜0.3%、
Si:0.2〜3.0%、
Mn:0.5〜3.0%、
Al:0.1〜2.0%、
P:0.0001〜0.3%、
S:0.0001〜0.1%、
N:0.0001〜0.007%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(5) 前記めっき層中に、Si、Mn又はAlの1種又は2種以上を含む層状酸化物をさらに含有する(1)に記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(6) Znめっき層中に存在する層状酸化物の厚さTが、式(A)の条件を満たす上記(5)に記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
1nm≦T≦50nm ・・・ (A)
【発明の効果】
【0013】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき層中に、Fe、Al、Si、Znを含有し実質的に酵素を含有しない粒子状物質を含有させることで、耐食性が向上し、めっき密着性との両立が可能となり、自動車の外板や構造部材等の用途に極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、上記(1)において、Znめっき層中のFe含有量を5.0〜20.0質量%の範囲に限定しているのは、5.0質量%未満では、スポット溶接性が劣るからであり、20.0質量%を超えると、めっき層自体の密着性を損ない、加工の際、めっき層が破壊・脱落し、金型に付着することで、成形時の疵の原因となるからである。
【0015】
めっき層中のAl含有量を0.01〜0.5質量%の範囲に限定しているのは、後述するように、めっき層中に上記(1)のような粒子状物質を含有させるためには、Alは必須元素であり、0.01質量%未満では、めっき層中に粒子状物質を含有させることができないためである。また、0.5質量%を超えてAlを添加すると、合金化時に、Alがめっき層表面に濃化して、スポット溶接性を悪化させる。そのため、上限を0.5質量%とした。
【0016】
めっき層中のFe及びAlの含有量を測定するには、めっき層を酸で溶解し、溶解液を化学分析する方法を用いればよい。例えば、30mm×40mmに切断した合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、インヒビタを添加した5%HCl水溶液で、鋼板母材の溶出を抑制しながらめっき層のみを溶解し、溶解液をICP発光して得られた信号強度と、濃度既知溶液から作成した検量線からFe及びAlの含有量を定量する方法を用いればよい。また、各試料間の測定ばらつきを考慮して、同じ合金化溶融亜鉛めっき鋼板から切出した、少なくとも3つの試料を測定した平均値を採用すればよい。
【0017】
めっき付着量については、特に制約は設けないが、耐食性の観点から片面付着量で5g/m2以上であることが望ましい。また、めっき密着性を確保すると言う観点からは、片面付着量で100g/m2を超えないことが望ましい。本発明の溶融亜鉛めっき鋼板上に、塗装性、溶接性を改善する目的で、上層めっきを施すことや、各種の処理、例えば、クロメート処理、非クロメート処理、りん酸塩処理、潤滑性向上処理、溶接性向上処理等を施してもよい。
【0018】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記Znめっき層中に、Fe、Al、Si、Znを含有し実質的に酵素を含有しない粒子状物質を含有させることで、耐食性に優れ、耐食性とめっき密着性が両立している。本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面構造の模式図の一例を図1に示す。ここで、粒子状物質とは、長径と短径のアスペクト比(長径/短径)が3未満の物質のことを指す。粒子状物質の分布形態は、特に限定されるものではなく、めっきと鋼板の界面近傍に集中して存在していても、めっき層全体に分散していても、本発明の要件を満たす。また、粒子状物質の形状については、アスペクト比が3未満であれば特に限定されるものではなく、球状、楕円状、ダンベル状等の形状であっても本発明の要件を満たす。めっき層が図1のような構造であることにより、耐食性が向上するのは、めっきの疵部等において予め粒子状物質が露出している場合、あるいは、表面から腐食が進行して粒子状物質が露出した場合において、粒子状物質中のSiやAlが溶出して疵部及び腐食部を覆い、不動態化するからであると考えられる。粒子状物質中には鋼板母材から供給されるFeとめっき層から供給されるZnが不可避的に含まれる。
【0019】
粒子状物質が実質的に酵素を含有しないと限定したのは、酵素を含有していると、SiやAlが酸化物として安定化してしまうために、溶出することが困難となり、耐食性を向上させる効果がなくなってしまうからである。酵素は、含有量が0.1質量%程度であればSi、Alの耐食性向上効果に悪影響を及ぼさないので、0.1質量%までは含有していても構わない。
【0020】
粒子状物質の平均粒径を1μm以下であると限定したのは、1μm超であると溶出が困難となり、耐食性を向上させる効果が得られないである。また、1μm以下であれば加工時のめっき密着性には全く影響を及ぼさないために、耐食性とめっき密着性の両立が可能となる。また、粒径が小さくなり過ぎると溶出過程で酸化され易く、耐食性を向上させる効果が小さくなるため、粒径を10nm以上とすることが好ましい。
【0021】
めっき層中に存在する粒子状物質が、Fe、Al、Si、Znを含有し実質的に酵素を含有しないことを確認するには、めっき鋼板の断面から組織観察を行って粒状物質の有無を確認し、粒状物質を組成分析すればよい。例えば、集束イオンビーム加工装置(FIB)により、めっき層を含むように鋼板断面を薄片に加工した後、電解放出型透過型電子顕微鏡(FE-TEM)による観察と、エネルギー分散型X線検出器(EDX)による組成分析を行う方法が挙げられる。粒子状物質を、EDXで分析すれば、粒子状物質がFe、Al、Si、Znを含有し、酵素を実質的に含有しないことを確認できる。
【0022】
粒子状物質をめっき層中に含有させるには、Al及びSiを鋼板母材以外から供給する必要がある。供給源としては、Alは通常CGLにおける溶融亜鉛めっき浴中に0.1質量%〜0.3質量%程度添加されているので、これを利用すればよい。Siは、CGL通板前に、CVD(化学気相成長)によって、鋼板表面にSiの薄膜を形成させ、その後CGLに通板し、焼鈍工程において鋼板母材中に熱拡散させ、鋼板表層にSi濃化層を形成させる。その後、めっき浴に浸漬させ、加熱合金化すれば、Fe、Al、Si、Znを含有した粒子状物質をめっき層中に含有させることができる。CVDで鋼板表面に形成させるSi薄膜の量は、特に制限されるものではないが、厚さ10〜100nm程度とすればよい。
【0023】
焼鈍工程において、一般的にCGLで用いられているような、水素を2〜10%程度含んだ窒素雰囲気を用いると、CVDで鋼板表面に生成させたSi薄膜が鋼板母材中に熱拡散する前に、鋼板表面において酸化してしまうため、焼鈍雰囲気としては、水素を30〜80%程度含んだ窒素雰囲気を用いる必要がある。工業上の観点からは水素濃度が40〜60%の窒素雰囲気を用いるのが好ましい。Siを熱拡散させるための焼鈍温度としては、後述するように750〜950℃とすることが好ましい。
【0024】
上記(2)において、粒子状物質中のSi濃度を質量%で0.1〜15%、Al濃度を質量%で0.1〜20%、Si濃度とAl濃度の合計を質量%で1〜35%に限定したのは、単体でSi及びAlをそれぞれ0.1質量%以上、合計で1質量%以上とすることにより、耐食性がより向上するからであり、単体でSiを15質量%超、Alを20質量%超、合計で35質量%超としても耐食性を向上させる効果が飽和するからである。前述したように粒子状物質には鋼板母材からのFe、めっき層からのZnが不可避的に含有されるが、それらの濃度は特に限定されるものではない。耐食性の観点からは、Feは質量%で30〜80%、Znは質量%で3〜60%、FeとZnの合計で質量%で65〜99%の範囲に入っていることが好ましい。
【0025】
粒子状物質の組成を確認するには、前述したような、断面のFE-TEM観察用に加工した試料を、再度FE-TEM観察し、粒子状物質についてEDXで定量分析すればよい。TEMの5万倍で写真撮影し、写真中に存在する粒子状物質の平均組成を求める。1つのめっき鋼板について少なくとも3つの断面観察用試料を作成し、このような写真を、1試料当たり5枚撮影して全ての平均値を計算し、そのめっき鋼板における、粒子状物質の組成とする。
【0026】
粒子状物質のSi濃度、Al濃度を制御する方法を以下に説明する。粒子状物質中のSi濃度は、CGLの焼鈍工程での焼鈍温度によって制御する。焼鈍温度が高いほど、粒子状物質のSi濃度は低くなるので、焼鈍温度750〜950℃の間で適宜変更すればよい。また、粒子状物質中のAl濃度は、めっき浴中のAl濃度が高いほど高くなるので、めっき浴中のAl濃度を0.05〜0.5質量%の間で適宜変更すればよい。
【0027】
上記(3)は、粒子状物質の存在密度に関するものであるが、めっき層を断面から観察した際に、めっき層と鋼板の界面に平行な方向に10μm当たり、該粒子状物質が平均で5個以上存在するとしたのは、平均5個以上存在することによって、耐食性を向上させる効果がより高まるからである。また、100個以上存在してもその効果が飽和するので、経済的観点から、上限を100個とすることが好ましい。
【0028】
粒子状物質の存在密度を確認するには、前述したように断面FE-TEM観察し、倍率5万倍で写真を撮影し、写真中に存在する粒子状物質の個数を計測する。例えば、図2に模式的に示すような写真を撮影した場合、写真中に存在する粒子状物質は10個であり、写真の長さは10cmである。倍率5万倍で撮影しているので、実際の長さ10μm当たりに存在する粒子状物質の個数は50個となる。1つのめっき鋼板について少なくとも3つの断面観察用試料を作成し、このような写真を、1試料当たり5枚撮影して全ての平均値を採用する。
【0029】
粒子状物質の存在密度を制御するには、鋼板がめっき浴に浸漬する際の板温(進入板温)を制御すればよい。進入板温が高いほど、粒子状物質の密度が高くなるので、430〜600℃の間で適宜変更すればよい。
【0030】
上記(4)において、鋼中成分を限定している理由を説明する。
【0031】
鋼板母材中のC含有量を0.001〜0.3質量%の範囲に規定しているのは、0.001質量%未満とすることは経済的に不利となる恐れがあり、溶接性を保持可能な上限として0.3質量%が好ましいからである。
【0032】
鋼板母材中のSi含有量を0.2〜3.0質量%の範囲に限定しているのは、0.2質量%以上の添加によって、層状酸化物を形成し易いからであり、上限を3.0質量%としたのは、これを超える添加は溶接性に悪影響を及ぼす恐れがあるためである。
【0033】
鋼板母材中のMn含有量を0.5〜3.0質量%の範囲に限定しているのは、0.5質量%以上の添加によって、層状酸化物を形成し易いからであり、上限を3.0質量%としたのは、これを上回る添加は鋼板の延性に悪影響を及ぼす恐れがあるためである。
【0034】
鋼板母材中のAl含有量を0. 1〜2.0質量%の範囲に限定しているのは、0. 1質量%以上の添加によって、層状酸化物を形成し易いからであり、2.0質量%を超えると溶接性を悪化させる恐れがあるためである。
【0035】
鋼板母材中のP含有量を0.0001〜0.3質量%の範囲に限定しているのは、0.0001質量%未満とするのはコスト的に不利となる恐れがあるからであり、0.3質量%を超えると溶接性を悪化させる恐れがあるためである。
【0036】
鋼板母材中のS含有量を0.0001〜0.1質量%の範囲に限定しているのは、0.0001質量%未満とするのはコスト的に不利となる恐れがあるからであり、0.1質量%を超えると溶接性を悪化させる恐れがあるためである。
【0037】
鋼板母在中のN含有量を0.0001〜0.007質量%の範囲に限定しているのは、0.0001質量%未満とするのはコスト的に不利となる恐れがあるからであり、0.007質量%を超えると加工性が低下する恐れがあるからである。
【0038】
上記(5)において、めっき層が、Si、Mn又はAlの1種又は2種以上を含む層状酸化物を含有するとしているのは、めっき層中に層状酸化物を含有させることで、含有しない場合に比べて加工時のめっき密着性を向上させることができるからである。ここで、層状酸化物とは、長径と短径のアスペクト比(長径/短径)が3以上である酸化物のことを指す。めっき密着性が向上するのは、加工時にめっき層と鋼板の界面から発生する亀裂の進展を、層状酸化物が停止する効果が存在するからであると推定される。層状酸化物の長さ及び密度は特に限定されるものではないが、密着性の観点から、長さは0.05〜1μmとすることが好ましい。また、密度は、めっき層と鋼板の界面に平行な方向に、10μm当たり5個〜100個とすることが好ましい。層状酸化物がSi、Mn又はAlの1種または2種以上を含んでいればその組成は特に限定されるものではないが、密着性の観点から、Siは質量%で0.5〜80%、Mnは質量%で0.5〜80%、Alは質量%で0.5〜80%、Si、Mn、Alの3元素の合計で質量%で50〜90%、残部が酵素からなる範囲に入っていることが好ましい。
【0039】
上述したような層状酸化物は、鋼中に含有するSi、Mn、Alが、CGLにおける焼鈍工程中に選択酸化されて、鋼板表面に外部酸化膜を形成し、めっき浴への浸漬、及び、加熱合金化中に、めっき層中に取り込まれることによって、めっき層中に含有されたものである。
【0040】
焼鈍工程において、外部酸化膜を鋼板表面に形成させるには、Si、Mn、Alに対しての酸化性雰囲気、例えば、2〜10%水素を含んだ窒素雰囲気で焼鈍する必要がある。しかし、上記(1)で示したような粒子状物質をめっき層中に含有させるために、CVDで形成させたSi薄膜を、CGLの焼鈍工程において、水素40〜60%を含んだ窒素雰囲気で焼鈍して、鋼板母材中にSiを熱拡散させる必要がある。そのため、まずCGLの焼鈍工程の前段において、水素40〜60%を含んだ窒素雰囲気で焼鈍して、Si薄膜を鋼板母材中に熱拡散させ、次に、後段において水素2〜10%を含んだ窒素雰囲気で焼鈍し、鋼板表面に外部酸化膜を形成させ、その後めっき浴に浸漬して合金化することにより、上記(1)のような粒子状物質と、上記(5)のような層状酸化物を、めっき層中に同時に含有させることができる。粒子状物質と、層状酸化物がめっき層中に同時に含有される際の、めっき層構造の模式図を図3に示す。
【0041】
上記(6)において、めっき層中に存在する層状酸化物の厚さTを、1〜100nmに限定したのは、層状酸化物の厚さをこの範囲とすることで、めっき層の密着性を向上させる効果が、さらに高まるからである。
【0042】
層状酸化物の厚さを制御するには、CGLの焼鈍工程後段における、焼鈍雰囲気中の露点を制御すればよい。一般的には、CGLの焼鈍工程において、露点は-20〜-40℃であるが、露点が高いほど外部酸化膜の厚さは厚くなり、露点が低いほど外部酸化膜の厚さは薄くなる。露点を-50℃以下とすることで、外部酸化膜の厚みが適度な厚みとなり、層状酸化物の厚さTを上記(6)のような範囲に制御することができる。
【0043】
めっき層がSi、Mn、Alの1種又は2種以上を含有する層状酸化物を含有していることを確認するには、めっき鋼板の断面から組織観察を行って、層状酸化物の有無を確認し、層状酸化物を組成分析すればよい。同時に、厚さも測定すればよい。例えば、集束イオンビーム加工装置(FIB)により、めっき層を含むように鋼板断面を薄片に加工した後、電解放出型透過型電子顕微鏡(FE-TEM)による観察と、エネルギー分散型X線検出器(EDX)による組成分析を行う方法が挙げられる。層状酸化物を、EDXで定性分析すれば、層状酸化物がSi、Mn、Alの1種又は2種以上を含有することを確認することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0045】
表1に示す組成からなるスラブを1150〜1200℃に加熱し、仕上げ温度900〜930℃で熱間圧延をして、厚さ4mmの熱間圧延鋼帯とし、580〜680℃で巻き取った。酸洗後、冷間圧延を施して、厚さ1.0mmの冷間圧延鋼帯とした後、表7に個別に示す条件でCVDで鋼板表面にSi薄膜を形成させた。その後、CGLで合金化溶融亜鉛めっきを行った。焼鈍工程における、焼鈍雰囲気中の水素濃度は表2に示すような条件、露点は表3に示すような条件、焼鈍温度は表4に示すような条件でそれぞれ行った。焼鈍後冷却し、460℃のめっき浴に浸漬した後、表7に個別に示す条件で加熱合金化した。めっき浴への進入板温は表5に示すような条件、めっき浴中のAl濃度は表6に示すような条件で行った。総合的な試験条件は、表7に示したような条件で行った。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
【表7】

【0053】
めっき層中のFe含有量、Al含有量は、前述のように、インヒビタを添加した5%HCl水溶液でめっき層のみを溶解し、溶解液をICP発光分析することにより測定した。
【0054】
めっき層中の、上記(1)のような粒子状物質の有無、組成、密度は、FIBによりめっき層を含むように鋼板断面を薄片に加工した後、FE-TEMによって観察し、EDXによる組成分析を行うことにより確認した。粒子状物質中の酸素の有無は、酸素を0.1質量%超含むものを○、酸素が0.1質量%以下のものを×とした。
【0055】
めっき層中の、上記(5)のような層状酸化物の有無、厚さは、粒子状物質の確認用に作製した試料を、再度FE-TEM観察し、EDXで分析することにより確認した。
【0056】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性を評価するため、繰り返し腐食促進試験を行った。鋼板を150mm×70mmのサイズに切断し、カッターでクロスカットを付与した後、CCT30サイクル後の赤錆発生状況を以下に示す評点づけで評価した。 CCTは、SST2hr→乾燥4hr→湿潤2hrを1サイクルとした。SSTの塩水濃度は5%とした。評価は、 ◎:赤錆発生5%未満、○:赤錆発生5%以上10%未満、△:赤錆発生10%以上30%未満、×:赤錆発生30%以上とし、△以上を合格とした。
【0057】
加工時のめっき密着性の評価は、60°V曲げ試験により行った。評価面が、曲げの内側に来るように、先端の曲率半径が2mmである金型を用いて、60°に曲げ加工し、曲げ部内側にテープを貼り、テープを引き剥がした。テープと共に剥離しためっき層の剥離状況から、めっき密着性を評価した。◎はめっき剥離が殆どないもの(剥離幅2mm未満)、○は軽微な剥離であるもの(剥離幅2mm以上4mm未満)、△はある程度剥離が見られるが実質上差し支えないもの(剥離幅4mm以上7mm未満)、×は剥離が激しいもの(剥離幅7mm以上)とし、◎、○、△を合格とした。
【0058】
評価結果を表8に示す。表8より、本発明例は全て、耐食性、めっき密着性の評価が合格レベルを満たしている。本発明の範囲を満たさない比較例は、いずれも耐食性、めっき密着性の評価が低い。
【0059】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面構造を示す模式図。
【図2】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の断面を、FIBで加工し、FE-TEMにより5万倍で撮影した写真の模式図。
【図3】粒子状物質と、層状酸化物がめっき層中に同時に含有される際の、めっき層の断面構造を示す模式図。
【符号の説明】
【0061】
1 合金化溶融亜鉛めっき層
2 粒子状物質
3 鋼板母材
4 合金化溶融亜鉛めっき層
5 鋼板母材
6 粒子状物質
7 合金化溶融亜鉛めっき層
8 鋼板母材
9 層状酸化物
10 粒子状物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板母材の表面に、質量%で、
Fe:5.0〜20.0%、
Al:0.01〜0.5%
を含有するZnめっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、該Znめっき層中に、平均粒径が1μm以下であり、Fe、Al、Si、Znを含有し実質的に酵素を含有しない粒子状物質を含有することを特徴とする耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記粒子状物質が、質量%で、
Si:0.1〜15%、
Al:0.1〜20%
を合計で1〜35質量%含有し、残部がFe及びZnからなる請求項1に記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
めっき層を断面から観察した際に、めっき層と鋼板の界面に平行な方向に10μm当たり、前記粒子状物質が平均で5個以上存在する請求項1又は2に記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記鋼板母材が、質量%で、
C:0.001〜0.3%、
Si:0.2〜3.0%、
Mn:0.5〜3.0%、
Al:0.1〜2.0%、
P:0.0001〜0.3%、
S:0.0001〜0.1%、
N:0.0001〜0.007%
を含有し、残部がFe及び不可避不純物である請求項1〜3のいずれかに記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
前記めっき層中に、Si、Mn又はAlの1種又は2種以上を含む層状酸化物をさらに含有する請求項1に記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
Znめっき層中に存在する層状酸化物の厚さTが、式(A)の条件を満たす請求項5に記載の耐食性及びめっき密着性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
1nm≦T≦50nm ・・・ (A)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−261024(P2008−261024A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105636(P2007−105636)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】