説明

耐食性氷結防止被覆

【課題】さまざまな部品上に使用するための耐食性氷結防止被覆が提供される。
【解決手段】液体および/または固体氷結防止充填材および/または油が、耐食性シリコーンおよび/またはフルオロカーボンエラストマー性材料と組み合わされて、耐食性氷結防止被覆を生成する。これらの被覆は、さまざまなガスタービンエンジン部品、航空機部品、船舶(すなわち、ボートおよび船)、送電線、通信線その他などの上に氷が堆積するのを防止するのに使用できる。各被覆されたピン10を、試験装置20内に配置し、次いで氷30の層を、被覆ピン10とモールド40の間の環状間隙内で各被覆ピン上に成長させた後、各被覆ピン10上の氷付着強度を、ピン剪断試験により定量的に決定した。試験はモールドをその基部42において拘束しながら矢印Aの方向にピンに荷重を掛けることを含み、これにより氷30が剪断され、氷が各被覆ピン10から剥離する荷重が決定された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、被覆に関し、より詳細には、さまざまな部品上に使用するための耐食性氷結防止(anti−icing)被覆に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機およびガスタービンエンジン構造物上への氷の堆積は、航空宇宙業界において長年にわたる問題であった。氷の物理的な存在は、翼(wing)、ファンブレード、入口案内ベーン、ファン出口案内ベーンその他などのエーロフォイルの空力性能に有害な影響を及ぼし得る。さらに、氷堆積物の付加重量は、部品上に予期しない荷重を掛けることがあり、極端な場合は、そのような部品の能力を上回ることすらある。さらに、氷の堆積物は、剥離することがあり、それによって、航空機またはエンジンに深刻な損傷が生じることがある。
【0003】
エンジンの入口近くの部品などといったさまざまな航空機部品上に氷が堆積するのを防止する氷結防止システムが開発されてきた。従来のシステムの多くは、エンジンのコア内からの高温空気を用いており、この高温空気は、氷の堆積を防止するのに熱が必要とされる領域にポンプ送りされる。このようなシステムは多くの不利益を有しており、すなわち、これらのシステムは、複雑であり、エンジンにかなりの重量を付加し、複雑な熱管理システムを必要とし、失われたコア空気流に起因してエンジン効率の低下に繋がり、そしてしばしば、これらのシステムでは、費用の掛かる材料が必要とされるか、あるいは、使用される高い除氷温度に起因して部品のために使用できる材料が制限される。そのため、氷の堆積の問題に対する部分的な解決策すら、大きな経済的利益を有することができるであろう(すなわち、氷結防止システムが、より単純なものとなり、より軽量になり、および/または、より少ない加熱用コア空気流を使用する、ことができるとすれば)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
疎氷性(icephobic)被覆、すなわち氷がうまく付着できない被覆は、従来の氷結防止システムの必要性を低減しまたは解消することができる。しかしながら、既存の疎氷性被覆の多くは、固体または液体の充填材(filler)を含有し得る熱可塑性または熱硬化性樹脂に基づいている。保護されていない熱硬化性または熱可塑性材料は一般に耐食性が乏しく、また、固体または液体充填材を付加することによってさらにそれらの耐食性が低下する。これは、氷堆積保護を大抵必要とするエンジンおよび航空機部品が極端に腐食性の環境中に配置されるので望ましくない。従って、既存の疎氷性被覆より良好な耐食性を有する疎氷性被覆を有するのは望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上に特定した既存の疎氷性被覆の短所は、改善された疎氷性被覆に関する本発明の実施態様により克服される。液体および/または固体氷結防止充填材および/または油が、耐食性シリコーンおよび/またはフルオロカーボンエラストマー性材料と組み合わされて、本発明の耐食性疎氷性被覆を生成する。これらの被覆は、約200kPa未満の氷付着強度を有することができ、また、限定される訳ではないが、ガスタービンエンジン部品、航空機部品、船舶(すなわち、ボートおよび船)、送電線、通信線その他などといったさまざまな部品上に氷が堆積するのを防止するのに使用できる。
【0006】
これらの耐食性疎氷性被覆の実施態様は、(a) 少なくとも一つのシリコーン適合性(compatible)油を含むシリコーンエラストマー、(b) 少なくとも一つのシリコーン適合性油と少なくとも一つのシリコーン適合性充填材とを含むシリコーンエラストマー、(c) 約500〜10,000原子質量単位の分子量を有する少なくとも一つのフルオロカーボン適合性油を含むフルオロカーボンエラストマー、(d) 少なくとも一つのフルオロカーボン適合性充填材を含むフルオロカーボンエラストマー、または、(e) 約500〜10,000原子質量単位の分子量を有する少なくとも一つのフルオロカーボン適合性油と少なくとも一つのフルオロカーボン適合性充填材とを含むフルオロカーボンエラストマー、を含むことができる。
【0007】
本発明のさらなる詳細は、以下の説明の間に当業者には明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施態様は、本発明のさまざまな実施態様を試験するのに用いたピン剪断試験装置を示す概略図である図面を参照してここで以下に説明する。
【0009】
本発明の理解を促進する目的で、ここで本発明の実施態様のいくつかを参照する。ここで使用する用語は、説明の目的のためであり、限定のためではない。ここに開示する特定の構造上および機能上の詳細は、限定として解釈すべきではなく、単に、本発明をさまざまに用いるように当業者に教示する基礎として解釈すべきである。叙述する構造および方法における任意の変更または変形、および、ここに例示する本発明の原理の当業者には通常生じるようなさらなる適用は、説明しかつ請求する本発明の趣旨および範囲に含まれると考えられる。
【0010】
数値範囲に言及するときは、そのような範囲は、記述する範囲の最小および最大における、またこれらの間における、ひとつひとつの数字および/またはその端数を含む。例えば、約10.0重量パーセントまでの範囲は、全ての中間の値である約0.0、約1.0、約2.0、約3.0重量パーセントなど、約9.98、約9.99、約9.995、および約10.0重量パーセントまでおよびそれを含めた全てなどを含む。これは、ここに説明する全ての数値範囲に当てはまる。
【0011】
本発明は、向上した耐食性を有する疎氷性被覆に関する。ここにおいて、また全体を通して使用されるように、「疎氷性被覆(icephobic coating)」とは、氷が付着しない被覆、または被覆に対する氷付着強度が下に位置する基体(substrate)の氷付着強度に比較して大幅に低減されている被覆である。固体または液体充填材を含有し得る熱可塑性または熱硬化性樹脂に基づく従来の疎氷性被覆とは異なり、本発明の疎氷性被覆は、固体および/または液体の氷結防止油および/または充填材を含む耐食性エラストマー性材料に基づいている。
【0012】
本発明の疎氷性被覆は、適切な疎氷性添加剤が充填されたさまざまなエラストマー性材料を含むことができる。高強度シリコーンは、約−90°F(−68℃)から約400°F(204℃)までの環境中で使用できるエラストマー性材料の一つである。フルオロカーボンエラストマーは、約−25°F(−32℃)から約400°F(204℃)までの環境中で使用できる別のエラストマー性材料である。ポリウレタンエラストマーも、優れた耐食性を有するので使用できるとはいえ、それらは、高温熱安定性が乏しいので、約−65°F(−54℃)から約250°F(121℃)までの環境中での使用に限定される。実施態様では、フルオロカーボンエラストマーは、ヴァイトン(Viton)(登録商標)GLTなどといった低温フルオロカーボンエラストマーがシリコーンエラストマーよりかなり良好な高温耐食性を有するので、望ましいものとなり得る。別の実施態様では、シリコーンエラストマーは、フルオロカーボンエラストマーよりかなり低い氷付着強度を有するので望ましいものとなり得る。
【0013】
氷は、高強度シリコーンエラストマー、フルオロカーボンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(Teflon)(登録商標)ポリマーとしても知られているPTFE)その他を含め、既知の大抵のポリマーに付着する数少ない物質の一つである。このような材料への氷の付着を防止する方法の一つは、材料の表面に流体界面または弱い境界層を施して、氷がそれに付着できないようにすることを含む。実施態様では、材料の表面上の流体界面または弱い境界層によって、約200kPa未満の氷付着強度が与えられる。
【0014】
実施態様では、部品の表面上の弱い境界層は、シリコーンエラストマー(すなわち、白金硬化ビニル末端(terminate)ポリジメチルシロキサン、過酸化物硬化ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン、その他)中に組み込まれた非反応性(unreactive)高分子量シリコーンポリマー油(すなわち、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、および/またはポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン、その他)を有する被覆で基体を被覆することによって実現できる。実施態様では、約10重量パーセントまでのこのような油を使用できる。このような油は、シリコーンエラストマー中への部分的な溶解性から完全な溶解性までを有し、また、エラストマーから急速には拡散して出て行かない。その代わり、このような油は、シリコーンエラストマーのバルク(bulk)中に留まり、被覆の寿命(life)(すなわち、厚み)全体に亘って有用な氷結防止特性を与える。
【0015】
別の実施態様では、部品の表面上の弱い境界層は、低温フルオロカーボンエラストマー(すなわち、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、その他)中に組み込まれたフルオロカーボンまたはペルフルオロカーボン油(すなわち、Krytox(登録商標)フッ素化潤滑剤としても知られているペルフルオロアルキルエーテル)を有する被覆で基体を被覆することによって実現できる。実施態様では、約500〜10,000原子質量単位の分子量を有する約10重量パーセントまでのこのような油を使用できる。
【0016】
さらに別の実施態様では、部品の表面上の弱い境界層は、エラストマーから氷を剥離するのに必要なエネルギーを低減するフルオロカーボン適合性充填材を内部に有する低温フルオロカーボンエラストマー性被覆で基体を被覆することによって実現できる。このような充填材は、例えば、微細なPTFE粉末(すなわちテフロン(Teflon)(登録商標)ポリマー粉末)などといった極低付着充填材、および/または、例えば、黒鉛、硫化モリブデンおよび/または同様の無機酸化物などといった極弱い劈開面を有する充填材を含むことができる。
【0017】
なお別の実施態様では、部品の表面上の弱い境界層は、内部に組み込んだシリコーン適合性油およびシリコーン適合性充填材両方を有するエラストマー性シリコーン被覆で基体を被覆することによって実現できる。このような充填材は、例えば、微細なPTFE粉末(すなわちテフロン(Teflon)(登録商標)ポリマー粉末)などといった極低付着充填材、および/または、例えば、黒鉛、硫化モリブデンおよび/または同様の無機酸化物などといった極弱い劈開面を有する充填材を含むことができる。さらに、このような充填材は、例えば、ヒドロキシルまたはビニル処理フューム(fume)シリカ、石英および/または沈降(precipitate)ガラスなどといった化学的に処理された一つまたは複数の充填材を含むこともでき、これらの充填材は、エラストマー中に油を均一に分散させ、それをエラストマーのバルク中に永久に保持するのを助け、それによって、油はそこから拡散して出ることができず、それによって、被覆の寿命(すなわち厚み)全体に亘って有用な氷結防止特性が与えられる。このような油は、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、および/またはポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン、その他を含むことができる。
【0018】
さらに別の実施態様では、部品の表面上の弱い境界層は、内部に組み込んだフルオロカーボン適合性油およびフルオロカーボン適合性充填材両方を有するフルオロカーボンエラストマー性被覆で基体を被覆することによって実現できる。このような充填材は、例えば、微細なPTFE粉末(すなわちテフロン(Teflon)(登録商標)ポリマー粉末)などといった極低付着充填材、および/または、例えば、黒鉛、硫化モリブデンおよび/または同様の無機酸化物などといった極弱い劈開面を有する充填材を含むことができる。このような油は、ペルフルオロアルキルエーテル(Krytox(登録商標)フッ素化潤滑剤としても知られている)、その他を含むことができる。実施態様では、約500〜10,000原子質量単位の分子量を有する約10重量パーセントまでのこのような油を使用できる。
【0019】
本発明の疎氷性被覆は、限定される訳ではないが、通常の溶媒利用(assist)吹付け(spraying)、静電塗装(electrostatic spraying)、はけ塗り、浸漬、および/またはシート形態での接着結合(adhesive bonding)、その他などといった任意の適切な仕方で、部品に付与することができる。これらの疎氷性被覆を付与した後、それを、約140°Fから約350°Fの温度においてオーブン中で硬化させて、溶媒を除去し、橋かけエラストマーを生成することができる。
【0020】
本発明の疎氷性被覆は、限定される訳ではないが、アルミニウム、チタン、鋼、ガラス、セラミック、複合材(composite)、マグネシウム、および/または、ニッケルまたはコバルト基超合金、その他などといった任意の適切な材料を含むさまざまな部品上に用いることができる。いくつかの例示的な部品としては、限定される訳ではないが、ガスタービンエンジン部品(すなわち、ステータ、案内ベーン、入口、ノーズコーン、ファンブレード、前縁構造、その他)、航空機部品(すなわち、翼、胴体、プロペラ、その他)、船舶(すなわち、ボートおよび船)、送電線、および通信線、その他が挙げられる。
【0021】
(実施例)
本発明のさまざまな疎氷性被覆を調製し、それらのそれぞれの氷付着強度を、例示的な疎氷性被覆の層でさまざまなアルミニウムピンを被覆することによって試験した。各被覆されたピン10を、図1に示すゼロ度(zero degree)コーン試験装置20内に配置したが、ここでは、次いで約10±2ミル(mil)厚みの氷30の層を、被覆ピン10とモールド40の間の環状間隙内で各被覆ピン10上に成長させた。氷30は、装置20を約6±1時間、約−10±10°Fの温度に保持することにより成長させた。その後、各被覆ピン10上の氷付着強度を、ピン剪断試験により定量的に決定した。ピン剪断試験は、モールドをその基部42において拘束しながら、矢印Aの方向に軸方向にピンに荷重を掛けることを含んでいた。これによって、氷30は剪断され、氷が各被覆ピン10から剥離する荷重が決定された。
【0022】
さまざまなフルオロカーボンエラストマー性被覆を評価した。主成分のフルオロカーボンエラストマーは、溶媒和(solvate)されたフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、およびペルフルオロメチルビニルエーテルのターポリマー(terpolymer)(PLV3198ヴァイトン(Viton)(登録商標)GLTとしても知られている)であった。9つの異なる被覆を生成して、試料ピンに付与したが、このうち、一つの被覆は、充填材も油も有していず、未充填基準として機能し、8つの被覆は、表1に示すように、さまざまなデュポン社(DuPont)のKrytox(登録商標)フッ素化油を組み込んでいた。Krytox(登録商標)143ABは、約3700原子質量単位の分子量を有する。Krytox(登録商標)143ADは、約8250原子質量単位の分子量を有する。Krytox(登録商標)FSHは、約7000〜7500原子質量単位の分子量を有する。Krytox(登録商標)FSLは、約2500原子質量単位の分子量を有する。
【0023】
【表1】

【0024】
約0.011インチ厚みの試料被覆を、溶媒利用吹付けにより各剪断ピンに付与し、次いで、各被覆ピンを、約2時間、約300°Fで硬化させた。各試料被覆について三つの被覆ピンを生成した。一旦被覆した後、各被覆ピンを、図1に示す装置で上述したように試験した。平均ピン剪断強さは、氷付着の尺度である。より低い平均ピン剪断強さは、被覆ピンから氷を剥離するのに必要なエネルギーがより少なく、それによって、氷が被覆ピンの上に堆積する可能性がより低いものになることを示す。テフロン(Teflon)(登録商標)ポリマーは、約238kPaの平均ピン剪断強さを有し、これは、固体材料に対する氷付着の最も低い既知の値であった。しかしながら、テフロン(Teflon)(登録商標)ポリマーは、ガスタービンエンジン用途で氷の堆積を防止するのには適当ではなく、また、航空宇宙複合材部品に付与するのも困難である。上の表1の平均剪断強さから理解されるように、試料8、7、3および4は、テフロン(Teflon)(登録商標)ポリマーより低い氷付着を示し、一方、試料1、2、6、9および5は、テフロン(Teflon)(登録商標)ポリマーより高い氷付着を示した。これは重要なことであるが、その理由は、フルオロカーボン耐食性被覆は、溶媒利用吹付け、静電塗装、浸漬、液体フルオロカーボンのはけ塗り、共硬化(co−curing)、および/または基体上へのフルオロカーボンシートの間接的な結合、その他などといったさまざまな仕方で、複合材および金属構造物に容易に付与できるからである。フルオロカーボン耐食性被覆はまた、航空機流体に対する優れた耐性を与える。
【0025】
さまざまなシリコーンエラストマー性被覆も評価した。主成分のシリコーンエラストマーは、MED10−6640すなわち、ヌシル・テクノロジー社(NuSil Technology)から入手した白金硬化ビニル末端ポリジメチルシロキサンであった。7つの異なる被覆を生成して、試料ピンに付与したが、このうち、一つの被覆は、充填材も油も有していず、未充填基準として機能し、6つの被覆は、表2に示すように、さまざまな油/流体を組み込んでいた。「Me2流体」は、ヌシル・シリコーン・テクノロジー社(Nusil Silicone Technology)から入手可能な100,000cpsのポリジメチルシロキサン流体であった。「Gum Me2流体」は、ヌシル・シリコーン・テクノロジー社(Nusil Silicone Technology)から入手可能な高粘性(すなわち、約1,000,000cpsより大きい)ポリジメチルシロキサン流体であった。「フェニルMe流体」は、ヌシル・シリコーン・テクノロジー社(Nusil Silicone Technology)から入手可能な100,000cpsのポリフェニルメチルシロキサン流体であった。「フルオロシリコーン流体」は、ヌシル・シリコーン・テクノロジー社(Nusil Silicone Technology)から入手可能な100,000cpsのポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン流体であった。
【0026】
【表2】

【0027】
約0.011〜0.013インチ厚みの試料被覆を、溶媒利用吹付けにより各剪断ピンに付与し、次いで、各被覆ピンを、約2時間、約350°Fで硬化させた。各試料被覆について三つの被覆ピンを生成した。一旦被覆した後、各被覆ピンを、図1に示す装置で上述したように試験した。上の表2の平均剪断強さから理解されるように、これら試料の全てが、テフロン(Teflon)(登録商標)ポリマーよりかなり低い氷付着を示した。これは重要なことであるが、その理由は、シリコーン耐食性被覆は、通常の溶媒利用吹付け、静電塗装、はけ塗り、浸漬、および/または、シート形態での接着結合、その他などといったさまざまな仕方で、溶液として複合材および金属構造物に容易に付与できるからである。シリコーン耐食性被覆はまた、航空機流体に対して耐性を有する。
【0028】
上述のように、本発明は、さまざまな部品上に使用するための耐食性疎氷性被覆を提供する。有利には、これらの疎氷性被覆は、既存の疎氷性被覆に比較して、かなり低い氷付着強度と、同一またはより良好な耐食性とを与え、それによって、これらの疎氷性被覆は、例えば、ステータ、案内ベーン、入口、ノーズコーン、ファンブレード、前縁構造、その他などといったガスタービンエンジン部品などへのさまざまな用途に望ましいものとなる。多くの他の実施態様および利点は、当業者には明らかになるであろう。
【0029】
本発明のさまざまな実施態様を、本発明が適合するさまざまな要求を履行して説明した。これらの実施態様は、本発明のさまざまな実施態様の原理の単なる例示であると理解する必要がある。本発明のさまざまな変更物および適応物は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく当業者に明らかとなるであろう。従って、添付の請求項およびその均等物の範囲に含まれるよう適切な変更物および変形物全てを本発明が包含することが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のさまざまな実施態様を試験するのに用いたピン剪断試験装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0031】
10…ピン
20…ゼロ度コーン試験装置
30…氷
40…モールド
42…基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約10重量パーセントまでのポリジメチルシロキサン流体を含むシリコーンエラストマー、
約10重量パーセントまでのポリメチルフェニルシロキサン流体を含むシリコーンエラストマー、
約10重量パーセントまでのポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン流体を含むシリコーンエラストマー、
約500〜10,000原子質量単位の分子量を有する約10重量パーセントまでのフルオロカーボン油を含むフルオロカーボンエラストマー、および、
約500〜10,000原子質量単位の分子量を有する約10重量パーセントまでのペルフルオロカーボン油を含むフルオロカーボンエラストマー、
のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする耐食性疎氷性被覆。
【請求項2】
前記シリコーンエラストマーは、白金硬化ビニル末端ポリジメチルシロキサン、過酸化物硬化ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、およびポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項3】
前記フルオロカーボンエラストマーは、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエーテル、およびヘキサフルオロプロピレンのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項4】
前記フルオロカーボン油は、ペルフルオロアルキルエーテル油を含むことを特徴とする請求項1記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項5】
前記流体または油は、エラストマー全体に亘って分散されて、耐食性疎氷性被覆の寿命全体に亘って氷結防止特性を与えることを特徴とする請求項1記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項6】
前記耐食性疎氷性被覆は、約200kPa未満の氷付着強度を有することを特徴とする請求項1記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項7】
請求項1記載の耐食性疎氷性被覆により被覆されたことを特徴とする部品。
【請求項8】
前記部品は、航空機部品、ガスタービンエンジン部品、船舶部品、送電線、および通信線のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項7記載の部品。
【請求項9】
前記部品は、ステータ、案内ベーン、入口、ノーズコーン、ファンブレード、翼、胴体、およびプロペラのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項7記載の部品。
【請求項10】
前記部品は、アルミニウム、チタン、鋼、ガラス、セラミック、複合材、マグネシウム、ニッケル基超合金、およびコバルト基超合金のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項7記載の部品。
【請求項11】
少なくとも一つのシリコーン適合性油を含むシリコーンエラストマー、
少なくとも一つのシリコーン適合性油と少なくとも一つのシリコーン適合性充填材とを含むシリコーンエラストマー、
約500〜10,000原子質量単位の分子量を有する少なくとも一つのフルオロカーボン適合性油を含むフルオロカーボンエラストマー、
少なくとも一つのフルオロカーボン適合性充填材を含むフルオロカーボンエラストマー、および、
約500〜10,000原子質量単位の分子量を有する少なくとも一つのフルオロカーボン適合性油と少なくとも一つのフルオロカーボン適合性充填材とを含むフルオロカーボンエラストマー、
のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする耐食性疎氷性被覆。
【請求項12】
前記シリコーンエラストマーは、白金硬化ビニル末端ポリジメチルシロキサン、過酸化物硬化ビニル末端ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、およびポリトリフルオロプロピルメチルシロキサンのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項11記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項13】
前記シリコーン適合性油は、ポリジメチルシロキサン流体、ポリメチルフェニルシロキサン流体、およびポリトリフルオロプロピルメチルシロキサン流体のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項11記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項14】
前記シリコーン適合性充填材は、PTFE、黒鉛、硫化モリブデン、無機酸化物、石英、沈降ガラス、ヒドロキシル処理フュームシリカ、およびビニル処理フュームシリカのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項11記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項15】
前記フルオロカーボンエラストマーは、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエーテル、およびヘキサフルオロプロピレンのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項11記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項16】
前記フルオロカーボン適合性油は、ペルフルオロアルキルエーテル油を含むことを特徴とする請求項11記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項17】
前記フルオロカーボン適合性充填材は、PTFE、黒鉛、硫化モリブデン、および無機酸化物のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項11記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項18】
前記耐食性疎氷性被覆は、約200kPa未満の氷付着強度を有することを特徴とする請求項11記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項19】
任意の油または充填材が、エラストマー全体に亘って分散されて、耐食性被覆の寿命全体に亘って氷結防止特性を与えることを特徴とする請求項11記載の耐食性疎氷性被覆。
【請求項20】
請求項11記載の耐食性疎氷性被覆により被覆されたことを特徴とする部品。
【請求項21】
前記部品は、航空機部品、ガスタービンエンジン部品、船舶部品、送電線、および通信線のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項20記載の部品。
【請求項22】
前記ガスタービンエンジン部品は、ステータ、案内ベーン、入口、ノーズコーン、ファンブレード、翼、胴体、およびプロペラのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項20記載の部品。
【請求項23】
約200kPa未満の氷付着強度を有する耐食性疎氷性被覆であって、
シリコーン適合性油およびシリコーン適合性充填材の一方または両方を含むシリコーンエラストマー、および
フルオロカーボン適合性油およびフルオロカーボン適合性充填材の一方または両方を含むフルオロカーボンエラストマー、
のうちの一方または両方を含む耐食性疎氷性被覆で被覆されたことを特徴とする部品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−348295(P2006−348295A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163240(P2006−163240)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】