説明

肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用支持治具

【課題】 肉厚に変動のある筒状部材の薄肉部端部の過熱を防止する焼戻し加熱用支持治具。
【解決手段】 焼入れされた肉厚に変動のある筒状部材の誘導加熱焼戻し熱処理において、被焼戻し筒状部2の薄肉部4に対応する部分のコイル内面に加熱温度制御するコア6が設けられた複巻円筒状コイル5を使用して、該被焼戻し筒状部を外周から誘導加熱して焼戻し熱処理する際に、被焼戻し筒状部の薄肉部端部の過熱を防止するように、該薄肉部端部に当接する当て金12が設けられた肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用支持治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば等速ジョイントカップリングの筒状部のように、周の部分によって厚肉部と薄肉部の肉厚に変動があったり、あるいは周壁に凸部と凹部を有する異形断面などの筒状部材の熱処理における焼戻し加熱用支持治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から段付軸材や筒状部材の外面からの誘導加熱には、軸段に沿って軸方向に延びた導体を使用する加熱コイルが使用されている(例えば特許文献1)。
しかし、このような加熱コイルで肉厚に変動のある筒状部材を誘導加熱すると、厚肉部と薄肉部の温度上昇に差が生ずるために全周を均一温度に加熱することが困難であった。また、筒の周壁に凸部と凹部を有する異形断面の筒状部材を外周から誘導加熱すると、凹部が加熱され難いために、凹部を適正温度にすると凸部の温度が上がり過ぎるという問題点がある。例えば等速ジョイントカップリングの筒状部のように、壁周に凹凸がありかつ凸部が薄肉で凹部が厚肉の場合には誘導加熱により均一温度に加熱することはほとんど不可能であった。とくに、焼戻しなどの低温の加熱の場合には温度差が大きく誘導加熱では均一な焼戻し硬さが得られなかった。
そこで、発明者らは、これを解決した誘導加熱方法及び加熱用治具を提案した(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−162626号
【特許文献2】特願2005−231670
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献2の発明は、直線型誘導子のコイルを使用して、被処理筒状部材を回転しながら加熱するものである。本発明は、複巻円筒コイルにより被処理筒状部材を固定したままで誘導加熱して焼戻し加熱しようとするものである。
しかしながら、肉厚に変動のある筒状部材を複巻円筒コイルにより加熱すると、厚肉部に比して薄肉部の温度上昇が大きく加熱温度を均一にすることが困難であり、また薄肉部の端部が過熱されるという問題点がある。
そこで、本発明はこれを解決して、肉厚に変動のある筒状部材を回転しないで均一温度に焼戻しする焼戻し加熱用支持治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用支持治具は、焼入れされた肉厚に変動のある筒状部材の誘導加熱焼戻し熱処理において、被焼戻し筒状部の薄肉部に対応する部分のコイル内面に加熱温度を制御するコアが設けられた複巻円筒状コイルを使用して、該被焼戻し筒状部を外周から誘導加熱して焼戻し熱処理する際に、被焼戻し筒状部の薄肉部端部の過熱を防止するように、該薄肉部端部に当接する当て金が設けられたことを特徴とするものである。
【0005】
すなわち、肉厚に変動のある筒状部材を回転しないで固定したまま複巻円筒状コイルで加熱すると、薄肉部の温度が上がりやすく、均一な加熱ができない。そこで、本発明は、薄肉部に対応する部分のコイル内面にコアを設けて、薄肉部の温度上昇を抑えることにより、厚肉部と薄肉部を均一に加熱するものである。
【0006】
しかし、なお被焼戻し筒状部の薄肉部端部が過熱しやすいので、本発明の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用支持治具は、被焼戻し筒状部の薄肉部端部の過熱を防止するように、該薄肉部端部に当接する当て金が設けられたことを特徴とするものである。
【0007】
肉厚に変動のある筒状部材の被焼戻し筒状部を複巻円筒状コイルで加熱すると、薄肉部の端部はとくに温度が上がりやすい。そこで、本発明は、被加熱筒状部材を支持する際に、支持部材に設けた当て金を薄肉部端部に当接することにより、端部の温度上昇を抑えて過熱を防止するものである。この当て金は非磁性材料で作ることが望ましいが、軟鋼材でも良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用コイルと加熱用支持治具は、複巻円筒状コイルを使用して、被焼戻し筒状部材を回転しないで固定したまま加熱焼戻しするので、熱効率がよく、装置が簡単になりコスト低減できる。とくに、厚肉部と薄肉部の温度上昇が均一になり、かつ薄肉部端部の過熱も防止されるので、均一な焼戻し熱処理ができ、品質が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用コイルと加熱用支持治具について、図示の1実施形態について具体的に説明する。図1は本発明の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用コイルと加熱用支持治具の使用状態の斜視図、図2はその正面断面図、図3は図2のX−X視断面図、図4は被加熱筒状部材の外観斜視図である。
【0010】
以下、これらの図を用いて説明する。本実施形態の被加熱筒状部材(以下ワークWという)は、外観を図4に示し、断面を図2、3に示すように、段付き軸部1にマウスと称する筒状部2が設けられた形状の等速ジョイントカップリングである。そして、筒状部2の断面は、円周に凹部3と凸部4が交互に3か所づつ設けられた異形断面をなしている。そして、凹部3が肉厚が厚い厚肉部をなし、凸部4が肉厚が薄い薄肉部をなしている。このために、通常の誘導加熱では均一温度の加熱が困難である。
【0011】
ワークWの軸部1の表面と筒状部2の内面は誘導加熱焼入れされている。本発明は、この焼入れ層を210−280℃の焼戻し温度に均一加熱して焼戻ししようとするものである。なお、焼戻し処理前のワークWの焼入れについては説明を省略し、ワークWの焼入れ層の図示も省略する。
【0012】
まず本発明の焼戻し加熱用コイルについて説明する。誘導加熱コイル5は、ワークWの筒状部2の外周を加熱する径と長さを有する複巻円筒状コイルである。そして、前記筒状部2の薄肉部4に対応する位置のコイル5の内周側に3個のコア6が設けられている。コア6は筒状部2の薄肉部4の外周を覆う幅と長さを有する直棒状で軟磁性材のフェライトなどでつくられている。このコアの幅と長さは、薄肉部と厚肉部が均等に加熱されるように実験により定められる。これにより、ワークWの筒状部2の薄肉部4と厚肉部3が均等に加熱されるので均一焼戻し硬さが得られる。
【0013】
加熱用支持治具10は、ワークWを載置する台座面11が三つ葉クローバ形をなし、ワークWの厚肉部3の端面は台座面11に当たらないで三つ葉部分12だけが薄肉部4の端部4aに当接して当て金を構成するようになっている。そして、ワークWをその薄肉部4が三つ葉の部分12に当接するように載置したとき、コイル5のコア6が薄肉部4の外周に対応する位置になるように、誘導加熱コイル5と加熱用支持治具10が一体に固定されている。
【0014】
上記構成の焼戻し加熱コイルと加熱用支持治具を使用した動作について説明する。ワークWを加熱用支持治具10の台座面11上に載置する。すると、図示しない位置決め手段により、ワークWの軸心を中心として、薄肉部4の端面が加熱用支持治具10の三つ葉の部分12に載置されるようになっている。同時に、ワークWの軸心とコイル5の軸心が一致し、コア6がそれぞれの薄肉部4の外周を覆う位置になる。
【0015】
こうして、コイル5に通電するとワークWの筒状部2が加熱されるが、薄肉部4はコア6により温度上昇が抑えられるので、薄肉部4と厚肉部3が均一温度に加熱される。また、薄肉部4の端部4aは加熱用支持治具10の三つ葉部分12に当接しているので、過熱が防止される。こうして均一な温度の焼戻しが可能になる。なお、作業中に加熱用支持治具10の温度が上がるが、適宜冷却して作業される。
【0016】
上記の加熱支持用治具10は、ワークWが3か所の厚肉部と薄肉部を有するので、三つ葉クローバ形にしたが、4つ葉又はそれ以上でもよく、また、クローバ形でなくても、厚肉部が当たらないで薄肉部の端部のみが当接するような形状であればよい。
【実施例】
【0017】
前記形状のワークWを使用して誘導加熱実験を行った結果を示す。
図5はワークの寸法と温度測定位置を示す図で、図5(a)はワーク内壁の高さ方向の測定位置、図5(b)はその位置の寸法を表す図、図5(c)はワーク内壁の周方向の測定位置を示す図である。
【0018】
実験の加熱周波数は3kHzを使用し20秒加熱とした。目標加熱温度は210−280℃である。図5に示す各位置の測定点に熱電対を設置して、加熱中の各位置の温度を測定した。ワークWの加熱温度の測定結果を図6のグラフに示す。
【0019】
図6の測定結果から、本発明の焼戻し加熱コイルと加熱支持治具によれば、厚肉部のa,b,c及び薄肉部d,e,f,g,hの温度は、端部を含めて、210−280℃で全体として温度幅は70℃にすることができた。
【0020】
以上説明したように、本発明の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用コイルは、被焼戻し筒状部の薄肉部に対応する部分のコイル内面に加熱温度制御するためのコアが設けられた複巻円筒状コイルからなるので、薄肉部の温度上昇が抑えられて、厚肉部と薄肉部を均一に加熱される。
【0021】
また、本発明の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用支持治具は、被焼戻し筒状部の薄肉部端部当て金が当接するのでこの部の過熱が防止される。
このように本発明は、複巻円筒状コイルを使用して、被焼戻し筒状部材を回転しないで固定したまま加熱焼戻しするので、熱効率がよく、装置が簡単になりコスト低減できる。
【0022】
本発明は、等速ジョイントカップリングの焼戻しに有効である。等速ジョイントカップリングは焼入れした軸部と内面焼入れした筒状部を備え、その筒状部が凹凸を有し、かつ凸部が薄肉で凹部が厚肉のために複巻円筒状コイルで均一温度に誘導加熱することは困難であったが、本発明はこれを解決し均一に焼戻しできるので、作業効率が改善されコストが低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上述べたように、本発明の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用コイルと加熱用支持治具によれば、筒状部の厚肉部と薄肉部の温度を均一に加熱でき、焼戻し時間が短縮されて作業効率が向上するので、炉加熱より環境が改善され、熱処理コストを低減できる。これにより、熱処理コストを低減して産業の発展に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明実施形態の肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用コイルと加熱用支持治具の使用状態の斜視図である。
【図2】図1の正面断面図である。
【図3】図2のX−X視断面図である。
【図4】被加熱筒状部材の外観斜視図である。
【図5】本発明実施例のワークWの寸法と温度測定箇所を示す図である。
【図6】本発明実施例の温度測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1 軸部、2 筒状部、3 凹部(厚肉部)、4 凸部(薄肉部)、5 誘導加熱コイル、6 コア、10 加熱支持治具、11 台座 12 三つ葉部分(当て金部)、W ワークW(被加熱筒状部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入れされた肉厚に変動のある筒状部材の誘導加熱焼戻し熱処理において、被焼戻し筒状部の薄肉部に対応する部分のコイル内面に加熱温度を制御するコアが設けられた複巻円筒状コイルを使用して、該被焼戻し筒状部を外周から誘導加熱して焼戻し熱処理する際に、被焼戻し筒状部の薄肉部端部の過熱を防止するように、該薄肉部端部に当接する当て金が設けられたことを特徴とする肉厚に変動のある筒状部材の焼戻し加熱用支持治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−75109(P2008−75109A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253909(P2006−253909)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】