説明

肝機能改善剤

【課題】血液中のGOT,GPTを積極的に低下させることができる、肝機能改善物質に基づく各種疾患の治療,予防に役立つ経口物を得る。
【解決手段】S2U型のトリグリセリドを有効成分とした肝機能改善剤を、油脂中に4〜15重量%含んだ油脂組成物または肝機能改善用食品を得た。Sがベヘン酸残基、Uがオレイン酸残基であることが好ましい。但し式中、Sは炭素数20から24の飽和脂肪酸残基、Uは炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はS2U型のトリグリセリドを有効成分とする、肝機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は生体内最大の臓器で、胆汁の生成・分泌、異物の除去など代謝等に関連した多くの機能を営んでいるが、近年、この肝機能の劣化した、すなわち脂肪肝、肝硬変、肝炎、肝癌をはじめとした各種肝疾患患者の増加が指摘されている。肝機能の検査は、一般に、血漿中のGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)とGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)、ALP(アルカリ・ホスファターゼ)、総ビリルビン、アルブミン、総コレステロール等を測定して実施される。肝機能はウイルス感染、アルコール摂取、ストレスなど種々の要因により低下し、場合によっては死亡に至るケースもあるため、その予防や改善が望まれるところである。肝臓疾患に対しては、グリチルリチンを主成分とした治療薬が用いられているが、これらは静注されるため、苦痛を伴うため、連続的な投与には不向きである。日常的な経口摂取を行うことができ、かつ安価で風味良好な肝機能改善剤の開発が期待されている。
【0003】
このような背景の中で、各種の肝機能改善剤が提案されている。例えば、特許文献1には、人参を発酵処理して得られる発酵物を有効成分とする肝機能改善剤が、特許文献2には、水産動物由来のタンパク質を含有する組成物が、特許文献3には、エタノールアミン、ホスホエタノールアミン及びホスホグリセロエタノールアミン又はそれらの塩から選ばれたものを含有してなることを特徴とする肝機能改善剤が、それぞれ示されている。
【0004】
また脂質類においては、特許文献4にγ-リノレン酸を有効成分として含有する肝機能改善剤が、またドコサヘキサエン酸とその誘導体を有効成分とする肝機能改善剤が開示されている(特許文献5)。これらはいずれも天然物中に於ては微量な成分であり、これらが機能するに必要な量を得るには、濃縮等の操作が必要であり、その調製は必ずしも容易ではない。
【0005】
一方、飽和脂肪酸の中では、ベヘン酸を構成脂肪酸として含有する、低吸収性のトリグリセリドが開示されている(特許文献6)。このトリグリセリドは、通常の油脂の代替として多量使用することで、低カロリー食品として用いることができるが、その効果については、あくまで多量摂取したベヘン酸が吸収されずに排泄される為との認識に留まり、少量使用した例は開示されておらず、また、肝機能改善等の生理的な効果についても何ら示唆されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2006−199591号公報
【特許文献2】特開平9−275936号公報
【特許文献3】特開平9−224605公報
【特許文献4】特開2005−112789号公報
【特許文献5】特開平5−339154号公報
【特許文献6】特開平1−85040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる状況に鑑み、血液中のGOT,GPTの値を低減等の肝機能を改善しうる物質が、調製が容易な食品の素材で開発できれば、毎日の経口での摂取が可能となる。すなわち、本発明は、肝機能を改善しうる物質を見出し、この肝機能改善物質に基づく各種疾患の治療,予防に役立つ経口物を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、種々の成分の検討を行う中で、少量のS2U型のトリグリセリドの経口投与が血液中のGOT,GPTを低下させることを初めて見出した。この知見に従ってS2U型のトリグリセリドを肝機能改善の有効成分として利用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は
(1)S2U型のトリグリセリドを有効成分とする、肝機能改善剤。但し式中、Sは炭素数20から24の飽和脂肪酸残基で、Uは炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基である。
(2)Sがベヘン酸残基である(1)の肝機能改善剤。
(3)Uがオレイン酸残基である(1)の肝機能改善剤。
(4)(1)の肝機能改善剤を含んだ、肝機能改善用油脂組成物。
(5)肝機能改善剤としてS2U型のトリグリセリドを4重量%から15重量%含んだ、(4)に記載の肝機能改善用油脂組成物。
(6)(1)の肝機能改善剤を含んだ、肝機能改善用食品。
(7)肝機能改善剤としてS2U型のトリグリセリドを油脂中に4重量%から15重量%含んだ、(6)に記載の肝機能改善用食品。
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の提供する肝機能改善剤は、肝機能改善効果が高いため、それを利用した機能剤や飲食品を提供することができ、これらの経口摂取により血液中のGOT,GPT等を低下させ、肝機能を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の肝機能改善剤は、S2U型のトリグリセリドを有効成分とすることが特徴である。本発明のSと示した脂肪酸残基は、炭素数20から24の飽和脂肪酸残基であるが、炭素数18以下の飽和脂肪酸では本効果が弱く、また炭素数26以上の飽和脂肪酸では、融点が上がり汎用性が減少する上に、脂肪酸の供給源も少なく実用性は高くない。効果と実現性から、炭素数22のベヘン酸が好ましい。
【0012】
Uと示した脂肪酸残基は、炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基であるが、炭素数14以下の不飽和脂肪酸は、その供給源が少なく実用性は高くない。Uの炭素数の上限は特に設けないが、供給源を考えれば炭素数22以下が好ましく、炭素数18以下が最も好ましい。また不飽和度は特に制限は設けないが、脂肪酸の酸化安定性を考えれば、極端な多価不飽和脂肪酸は使用しにくく、ジエン酸以下の不飽和脂肪酸が好ましく、モノ不飽和脂肪酸が更に好ましく、オレイン酸が最も好ましい。
【0013】
そして本発明の有効成分は、Sで示した脂肪酸残基がグリセリンのいずれか2つの水酸基に、Uで示した脂肪酸残基がグリセリンの残り1つの水酸基にエステル結合した、S2U型で示される2長鎖飽和-1長鎖不飽和トリグリセリドである。尚、本発明明細書の表記では、脂肪酸のグリセリンへの結合位置について、区別しない。
【0014】
本発明の有効成分であるS2U型のトリグリセリドは、ハイエルシン菜種油や魚油の極度硬化油を脂肪酸もしくはエステルにしたもの、または、更に蒸留により精製したものをS脂肪酸源として、一般的な不飽和脂肪酸を多く含む油脂、例えば、菜種油,キャノーラ油,大豆油,ひまわり油,サフラワー油,ハイオレインひまわり油,ハイオレインサフラワー油等をU脂肪酸源として、1,3位に特異性のあるリパーゼやランダム化リパーゼ、ナトリウムメチラート等の化学触媒等を利用して、エステル交換させることで得られる。得られた有効成分は溶剤分別により濃縮することも可能であり、好ましい。また、上記脂肪酸とグリセリンから化学的に合成することも可能である
【0015】
本発明の有効成分であるS2U型トリグリセリドは、そのまま摂取することもできるが、これを油脂中に少量含む油脂組成物とすることで、機能が発揮できると同時に、摂取し易くなり、汎用性が増す。そしてこの油脂組成物を食品として経口摂取することで、消化吸収性に大きな影響を及ぼすことなく、血液中のGOT,GPTを低下させることができる。肝機能改善剤として機能し、血液中のGOT,GPTを低下させるためには、使用目的,使用対象,形態により異なるが、ベース油脂中に4重量%以上、好ましくは7重量%以上含まれることが望ましい。また、15重量%以下、好ましくは12重量%以下であることが望ましい。
【0016】
S2U型トリグリセリドが油脂中に15重量%を超えて存在すると、摂取カロリーの低下等の低消化吸収に起因する他の効果や、脂溶性ビタミン類の吸収性阻害等の問題が発生することがある上に、S2U型トリグリセリドを多く含むことで、油脂組成物の融点が上昇し汎用性に欠けることがある。また油脂中に4重量%未満であると、S2U型トリグリセリドの総摂取量を高くすることが難しくなり、血液中のGOT,GPT低下に関わる効果が明確に表われないことがある。
【0017】
本発明は、S2U型トリグリセリドを油脂中に少量含むことが特徴であるが、ベースとなる油脂は食用の動植物油脂、例えば、大豆油,ヒマワリ油,菜種油,キャノーラ油,米糠油,紅花油,パーム油,パーム核油,ヤシ油,魚油,乳脂,カカオバター等であれば制限はなく、これらの水素添加品やエステル交換品を用いることもできる。多くの医薬品は、その適正量以上の摂取は安全性に問題を生じさせる可能性があるのに対し、本発明の有効成分は、天然の植物由来の含有物を使用したトリグリセリドであることから、前述した脂溶性ビタミンの吸収阻害に関すること以外は、過剰摂取による弊害はほとんど問題にはされない。
【0018】
本発明の肝機能改善剤は、食品,薬剤又は飼料の、種々の用途に用いることができる。その際の形態は、ベースとなる油脂の融点や本発明の有効成分であるS2U型トリグリセリドの添加量によって異なるが、液油をフライ油や炒め油等としてそのまま用いる形態や、エマルジョンもしくはサスペンジョンなどの液剤の形態、クリーム,マーガリン,ショートニング,ハードバターなどの一般的な食品素材の形態などを採ることができる。この肝機能改善剤を用いた食品には、油脂含量の比較的高い食品が好ましく、例えばマヨネーズ,ドレッシング類,各種のクリーム類,チョコレート等に配合できる。他には、焼き菓子等の菓子類、パン類などに配合することができるし、カプセル剤として用いることもできる。
【0019】
本発明の肝機能改善剤並びにこれを含む油脂組成物および食品の摂取量の基準は特に設けるに及ばず、通常の食品や食品中の油脂組成物に代替して用いることで、肝機能改善効果を得ることができる。目標とすべき肝機能改善剤の摂取量として、その有効成分であるS2U型のトリグリセリドを、1日に3g以上、好ましくは5g以上、また、75g以下、好ましくは50g以下、更に好ましくは30g以下が例示できる。
【0020】
以下、この発明の実施例を示すが、本発明がこれらによってその技術的範囲が限定されるものではない。なお、以下%は特に断りがない限り、重量%を示す。
【実施例】
【0021】
[製造例1]
炭素数22の不飽和脂肪酸を45%含む高エルシン菜種油の極度硬化油を加水分解し、エステル化して脂肪酸エチルエステルを得た。この脂肪酸エステルを精留し、アシル基の炭素原子数20から24の飽和脂肪酸エステルを97.9%含む留分を得た。この脂肪酸エステル留分70部を高オレイン酸ヒマワリ油30部と混合し、1,3位特異的な酵素剤を用いてエステル交換し、その後に脂肪酸エステルを留去することにより、沃素価41の反応油を得た。さらに分別して、高融点のS2U画分(S2U純度87.7%)を収率約40%で分取し、常法により精製した(試験油脂)。本試験油脂の融点は53℃、沃素価は25.5であり、その脂肪酸組成およびトリグリセリド(TG)組成を表1に示す。尚、表中のPはパルミチン酸,Sはステアリン酸,Aはアラキン酸,Bはベヘン酸,Gはリグノセリン酸,Oはオレイン酸,Liはリノール酸を示す。
【0022】
(表1)試験油脂の脂肪酸およびトリグリセリド組成

【0023】
[試験例1]
試験油脂が肝臓中トリグリセリド量に及ぼす影響について、動物実験により検証した。モデル動物は7週齢のSD系雄ラット(日本SLC(株)販売)18匹を使用した。1週間の予備飼育後、群間の平均体重がほぼ同等になるように比較油脂群(6匹)と試験油脂の置換量に応じて試験群1および試験群2(各6匹)に群分けを行った。食餌飼料はAIN-93G組成に基づき、油脂含量を30%とした。これらを10日間自由摂取させた。食餌配合は以下表2に示した。
【0024】
(表2)試験食組成

【0025】
10日間後に腹部大動脈から採血を行い、常法に従って血漿を調製し、血漿中のGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)とGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)、を、富士ドライケムを用いた酵素法(富士フイルム(株)製)にて測定した。また肝重量の測定も行った。結果を表3に示したように、S2U型のトリグリセリドの置き換えによってGOTが約13〜41%、GPTで約8〜13%の低下が認められた。以上の結果より、S2U型のトリグリセリドが肝機能改善作用を有していることが示された。
【0026】
(表3)ラット試験の各種分析結果

【0027】
[実施例1]マヨネーズの製造
卵黄30部に食酢28部,食塩4部,グルタミン酸ナトリウム1部を加えて撹拌している中に、別途、製造例1で調製した試験油14部に菜種油126部を混合した混合油を徐々に加えることで、従来品と変わらない物性を持つ肝機能改善効果を持つマヨネーズが調製できる。
【0028】
[実施例2]クリームの製造
水51部に、脱脂粉乳4部,製造例1で調製した試験油6部,乳脂39部,シュガーエステル0.2部,レシチン0.2部,ヘキサメタリン酸ナトリウム0.1部から成る混合液を70℃に加温し、ホモミキサー(特殊機化工業株式会社製)で10,000回転で1分間撹拌し、予備乳化させる。次にこの液を高圧ホモゲナイザーを用い40kgf/cm2力下で均質化した後、144℃で4秒の加熱殺菌を行う。この溶液を急速に5℃まで冷却した後、5℃で一晩エージングすることで肝機能改善効果を持つクリームが調製できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S2U型のトリグリセリドを有効成分とする、肝機能改善剤。但し式中、Sは炭素数20から24の飽和脂肪酸残基で、Uは炭素数16以上の不飽和脂肪酸残基である。
【請求項2】
Sがベヘン酸残基である請求項1の肝機能改善剤。
【請求項3】
Uがオレイン酸残基である請求項1の肝機能改善剤。
【請求項4】
請求項1の肝機能改善剤を含んだ、肝機能改善用油脂組成物。
【請求項5】
肝機能改善剤としてS2U型のトリグリセリドを4重量%から15重量%含んだ、請求項4に記載の肝機能改善用油脂組成物。
【請求項6】
請求項1の肝機能改善剤を含んだ、肝機能改善用食品。
【請求項7】
肝機能改善剤としてS2U型のトリグリセリドを油脂中に4重量%から15重量%含んだ、請求項6に記載の肝機能改善用食品。

【公開番号】特開2008−247791(P2008−247791A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89971(P2007−89971)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】