説明

肝疾患の治療

被験体が、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があるかどうかを判定する方法。本方法は、被験体由来の試料を用意すること、および試料中のGADD45β発現レベルまたはGADD45β活性レベルを決定することを含む。試料中のGADD45β発現レベルまたはGADD45β活性レベルが、正常な被験体由来の試料中の発現レベルまたは活性レベルよりも低い場合、被験体は、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があることを示す。また、肝疾患を治療するための化合物を同定する方法、およびかかる疾患を治療する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝疾患(例えば、肝硬変または肝臓癌)を診断および治療する際、ならびにかかる疾患を治療するための治療用化合物を同定する際の、成長停止およびDNA損傷誘導遺伝子45ベータ(growth arrest and DNA-damage-inducible gene 45 beta :GADD45β)の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肝硬変は、肝臓癌の前兆とみなされている。肝硬変および肝臓癌がアルコール消費と関連することを示唆する、強力な疫学的証拠が存在する。いったん肝硬変が生じると、飲酒を停止しても肝臓癌の発症を防ぐことができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、肝疾患(例えば、肝硬変または肝臓癌)を診断および治療する際、ならびにかかる疾患を治療するための治療用化合物を同定する際の、GADD45β)の用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様では、本発明は、被験体が、肝疾患(例えば、肝硬変または肝臓癌)を患っているか、または発症する危険性があるかどうかを判定する方法を特徴とする。一例では、本方法は、被験体由来の試料(例えば、肝臓試料)を用意すること、および試料中のGADD45β発現レベルを決定することを含む。試料中のGADD45β発現レベルが、正常な被験体由来の試料中の発現レベルよりも低い場合、被験体は、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があることを示す。GADD45β発現レベルは、GADD45β
mRNA、またはGADD45βタンパク質の量を測定することにより決定することができる。GADD45β mRNAレベルは、例えばin situハイブリッド形成法、PCR法、またはノーザンブロット分析により決定することができる。GADD45βタンパク質レベルは、例えば、ウェスタンブロット分析により決定することができる。別の例では、本方法は、被験体由来の試料を用意すること、および試料中のGADD45β活性レベルを決定することを含む。試料中のGADD45β活性レベルが、正常な被験体からの試料中の活性レベルより低い場合、被験体は、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があることを示す。GADD45β活性は、例えば、異常な肝臓細胞において該活性が細胞の成長を阻害し、かつアポトーシス細胞死を誘導する能力を測定することにより決定することができる。
【0005】
別の態様では、本発明は、肝疾患(例えば、肝硬変または肝臓癌)を治療するための化合物を同定する方法を特徴とする。一例では、本方法は、化合物を細胞(例えば、肝臓細胞)と接触させること、および同細胞中のGADD45β発現レベルを決定することを含む。化合物の存在下でのGADD45β発現レベルが、化合物の非存在下での発現レベルより高い場合、該化合物は、肝疾患を治療するための候補化合物である。細胞は、S−アデノシルメチオニンまたはアルコールで処理された細胞、正常細胞中のレベルよりも低いレベルでp53遺伝子を発現している細胞、GADD45β遺伝子の転写が、配列番号1を含有するプロモーターにより誘導され、かつCCAAT/NF−Y因子またはNF−κB因子を発現する細胞、あるいは上述の特性の組合せからなる細胞であり得る。別の例では、本方法は、化合物を細胞と接触させること、および同細胞中のGADD45β活性レベルを決定することを含む。化合物の存在下でのGADD45β活性レベルが、化合物の非存在下での活性レベルよりも高い場合、該化合物は、肝疾患を治療するための候補化合
物である。
【0006】
配列番号1は、GADD45β遺伝子のヌクレオチド−870〜−1である。
【0007】
【化1】

【0008】
さらに別の態様では、本発明は、肝疾患(例えば、肝硬変または肝臓癌)を治療する方法を特徴とする。本方法は、肝疾患を患っているか、または発症する危険性がある被験体を特定すること、および被験体中のGADD45βレベルを増加させるための組成物を、被験体に投与することを含む。組成物は、GADD45βタンパク質をコードする核酸、p53タンパク質をコードする核酸、GADD45βタンパク質、p53タンパク質、S−アデノシルメチオニン、またはそれらの組合せを含有し得る。「GADD45βタンパク質」または「p53タンパク質」とは、野生型GADD45βタンパク質または野生型p53タンパク質、および同等の生物学的機能を有するその変異体(例えば、野生型GADD45βタンパク質または野生型p53タンパク質の断片)の両方を指す。組成物は、被験体中の肝臓細胞に直接投与することができる。
【0009】
同様に、肝疾患(例えば、肝硬変または肝臓癌)を治療するための薬学的組成物も本発明の範囲内にある。組成物は、GADD45βタンパク質をコードする核酸、および薬学的に許容可能な担体を含有し得る。組成物はまた、GADD45βタンパク質自体、および薬学的に許容可能な担体を含有し得る。
【0010】
本発明は、GADD45β遺伝子の発現が不十分であることに関連のある肝疾患を診断および治療する方法を提供する。本発明の1つまたはそれ以上の実施形態の詳細を以下の併記の説明に記載する。本発明の他の特徴、目的および利点は、発明を実施するための最
良の形態および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ヒトの肝硬変および肝臓癌においてGADD45β遺伝子がダウンレギュレートされ、またGADD45β遺伝子の発現はS−アデノシルメチオニン(SAMe)により誘導され、かつp53依存性であるという予期せぬ発見に基づいている。
【0012】
本発明は、肝疾患(例えば、肝硬変および肝臓癌)を診断および治療する方法、ならびにかかる疾患を治療するための治療用化合物を同定する方法を提供する。
本発明の診断方法は、被験体から調製される試料(例えば、肝臓試料)中のGADD45β遺伝子発現レベルまたはGADD45βタンパク質活性レベルを、正常な人、すなわち肝疾患を患っていない人から調製される試料中の発現レベルまたは活性レベルと比較することを包含する。GADD45β発現または活性レベルがより低いということは、被験体が、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があることを示す。本発明の方法は、それ自体を使用して、あるいは他の手順と併用して、適切な被験体において肝疾患を診断することができる。
【0013】
GADD45β発現レベルは、mRNAレベルまたはタンパク質レベルのいずれかで決定することができる。組織試料中のmRNAレベルを測定する方法は、当該技術分野で既知である。mRNAレベルを測定するためには、細胞を溶解させて、溶解産物中のGADD45β mRNAまたは溶解産物から精製もしくは半精製されたmRNAのレベルを、検出可能に標識したGADD45β特異的DNAまたはRNAプローブを用いたハイブリッド形成アッセイ、および適切なGADD45β特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いた定量的または半定量的RT−PCR方法など(これらに限定されない)各種方法のいずれかにより決定することができる。あるいは、定量的または半定量的in situハイブリッド形成アッセイを、例えば組織切片または非溶解細胞の懸濁液と、検出可能に(例えば蛍光的にまたは酵素)標識したDNAまたはRNAプローブとを用いて実施することができる。mRNAを定量化するさらなる方法としては、RNAプロテクションアッセイ(RPA)およびSAGEが挙げられる。
【0014】
組織試料中のタンパク質レベルを測定する方法もまた、当該技術分野で既知である。多くのかかる方法は、GADD45βタンパク質に特異的に結合する抗体(例えば、モノクローナルまたはポリクローナル抗体)を使用する。かかるアッセイでは、抗体自体または該抗体に結合する二次抗体を検出可能に標識することができる。あるいは、抗体をビオチンと複合させて、検出可能に標識したアビジン(ビオチンに結合するポリペプチド)を用いてビオチン化抗体の存在を検出することができる。当業者に良く知られたこれらの手法の組合せ(「多層サンドイッチ」アッセイなど)を用いて、方法論の感度を高めることができる。これらのタンパク質測定用アッセイによっては(例えば、ELISAまたはウェスタンブロット)、細胞の溶解産物に適用可能なものもあり、また他のアッセイ(例えば、免疫組織学的方法または蛍光フローサイトメトリー)は、組織切片または非溶解細胞の懸濁液に適用することができる。標識の量を測定する方法は、標識の性質に依存し、当該技術分野で既知である。適切な標識としては、放射性核種(例えば、125I、131I、35S、Hまたは32P)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、またはβ−ガラクトシダーゼ)、蛍光部分または蛍光タンパク質(例えば、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、GFP、またはBFP)、あるいは発光部分(例えば、米国カリフォルニア州パロアルト(Palo
Alto )所在のザ クオンタム ドット コーポレイション(th e Quantum Dot Corporation )により供給されるQdot(登録商標)ナノ粒子)が挙げられるが、これらに限
定されない。他の適用可能なアッセイとしては、定量的免疫沈降アッセイまたは補体固定アッセイが挙げられる。
【0015】
GADD45β活性は、当該技術分野で既知の方法により、例えば、異常な肝臓細胞において該活性が細胞成長を阻害し、かつアポトーシス細胞死を誘導する能力を測定することにより決定することができる(タケカワ(Takekawa)およびサイトウ(Saito) (1998) Cell 85, 521-530 、ナカヤマ(Nakayama)等 (1999) Biol. Chem. 274, 24766-24772、セルヴァクマラン (Selvakumaran) 等 (1994) Mol. Cell Biol. 14, 2532-2360 、ならびにリーベルマン(Liebermann)およびホフマン(Hoffmann) (1998) Oncogene 17, 3319-3329) 。
【0016】
本発明はまた、細胞(例えば、肝臓細胞)中のGADD45β遺伝子発現レベルまたはGADD45βタンパク質活性レベルを増大させる候補化合物(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチドミメティクス、ペプトイド、抗体、または小分子)を同定する方法を提供する。このようにして同定された化合物を使用して、GADD45βの発現または活性の異常を特徴とする状態、例えば肝硬変および肝臓癌を治療することができる。
【0017】
本発明の候補化合物は、当該技術分野で既知のコンビナトリアルライブラリ法における多数の手法のいずれかを用いて得ることができる。かかるライブラリーとしては、ペプチドライブラリー、ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能性を有するが、酵素分解に耐性である新規非ペプチド骨格を有する分子のライブラリー)、空間的に指定可能なパラレル固相または液相ライブラリー、デコンボリューションまたはアフィニティクロマトグラフィ選択により得られる合成ライブラリー、および「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound )」ライブラリーが挙げられる。例えば、ツッカーマン(Zuckermann)等 (1994) J. Med. Chem. 37, 2678-85 、およびラム(Lam) (1997) Anticancer Drug Des. 12, 145 を参照されたい。
【0018】
分子ライブラリーの合成に関する方法の例は、当該技術分野において、例えば、デウィット(DeWitt) 等 (1993) PNAS USA 90, 6909 、エルブ(Erb) 等 (1994) PNAS USA 91, 11422、ツッカーマン(Zuckermann) 等 (1994) J. Med. Chem. 37, 2678、チョー(Cho) 等
(1993) Science 261, 1303 、キャレル(Carrell) 等 (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33, 2059、キャレル(Carell)等 (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33, 2061、およびギャロプ(Gallop)等 (1994) J. Med. Chem. 37, 1233に見出すことができる。
【0019】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、ホフテン(Houghten) (1992) Biotechniques 13, 412-421 )、あるいはビーズ上(ラム(Lam) (1991) Nature 354, 82-84)、チップ上(フォドア(Fodor) (1993) Nature 364, 555-556)、細菌上(ラドナー(Ladner)、米国特許第5,223,409号)、胞子上(ラドナー(Ladner)、米国特許第5,223,409号)、プラスミド上(カル(Cull)等 (1992) PNAS USA 89, 1865-1869)、またはファージ上(スコット(Scott) およびスミス(Smith) (1990) Science 249, 386-390 、デヴリン(Devlin) (1990) Science 249, 404-406、クウィルラ(Cwirla)等 (1990) PNAS USA 87,
6378-6382、フェリシ(Felici) (1991) J. Mol. Biol. 222, 301-310、および上述のラドナー(Ladner)の文献)に提示させてもよい。
【0020】
細胞中のGADD45β遺伝子発現レベルまたはGADD45βタンパク質活性レベルを調節する化合物を同定するために、細胞(例えば、肝臓細胞)を候補化合物と接触させて、GADD45β遺伝子の発現レベルまたはGADD45βタンパク質の活性レベルを、候補化合物の非存在下でのレベルと比較して評価する。細胞は、GADD45β遺伝子を含有するが、天然状態では該遺伝子を発現していない細胞でもよいし、GADD45βを天然状態で発現する細胞でも、または例えばマーカー遺伝子に融合させたGADD45βプロモーターを有する組換え核酸を発現するように改変された細胞でもよい。細胞はまた、S−アデノシルメチオニンまたはアルコールで処理した細胞でも、正常細胞中のレベルよりも低いレベルでp53遺伝子を発現している細胞でもよいし、GADD45β遺伝
子の転写が配列番号1を含有するプロモーターにより誘導され、かつCCAAT/NF−Y因子またはNF−κB因子を発現する細胞でもよく、あるいは上述の特性の組合せからなる細胞でもよい。GADD45β遺伝子発現またはマーカー遺伝子発現のレベル、およびGADD45βタンパク質活性またはマーカータンパク質活性のレベルは、上述の方法および当該技術分野で既知の他の方法により決定することができる。GADD45β遺伝子またはマーカー遺伝子の発現レベル、あるいはGADD45βタンパク質またはマーカータンパク質の活性レベルが、候補化合物の非存在下でのレベルよりも候補化合物の存在下で高い場合、候補化合物は、肝疾患を治療するための潜在的な薬物であると同定される。
【0021】
本発明はまた、肝疾患を治療する方法を提供する。治療されるべき被験体は、例えば、上述の方法により、被験体から調製される試料中のGADD45β遺伝子発現レベルまたはGADD45βタンパク質レベルを決定することにより特定することができる。GADD45β遺伝子発現レベルまたはGADD45βタンパク質レベルが、正常な人由来の試料中のレベルよりも被験体由来の試料で低い場合、被験体は、被験体中のGADD45βレベルを調節する有効量の化合物で治療されるための候補である。
【0022】
治療方法は、in vivoまたはex vivoで、単独でまたは他の薬物もしくは療法と併用して、実施することができる。
in vivoの一手法では、治療用組成物(例えば、細胞中のGADD45β遺伝子発現レベルまたはGADD45βタンパク質活性レベルを調節する化合物、あるいはGADD45βタンパク質自体を含有する組成物)を被験体に投与する。概して、化合物は、薬学的に許容可能な担体(例えば、生理食塩水)中に懸濁させて、経口的にまたは静脈内注入により投与するか、あるいは皮下、筋内、くも膜下、腹腔内、直腸内、膣内、鼻内、胃内、気管内または肺内に注射または注入する。肝疾患の治療において、化合物は肝臓組織へ直接送達され得る。
【0023】
必要とされる投与量は、投与経路の選択、配合物の性質、被験体の疾病の性質、被験体の大きさ、体重、表面積、年齢および性別、投与される他の薬物、ならびに主治医の判断に依存する。適切な投与量は、0.01〜100.0μg/kgの範囲内である。利用可能な化合物の多様性および様々な投与経路の効率の違いを考慮して、必要とされる投与量の幅広い変動を想定すべきである。例えば、経口投与は、静脈内注射による投与よりも高い投与量を要すると予測される。これらの投与量レベルの変動は、当該技術分野で十分に理解されているようにして、最適化のための標準的かつ実験的な所定の方法を用いて調整することができる。適切な送達媒体(例えば、高分子微粒子または埋め込み可能なデバイス)中に化合物を封入することにより、送達、特に経口送達の効率が増大しうる。
【0024】
別例として、GADD45βタンパク質をコードする核酸配列を含有するポリヌクレオチドを、例えば、当該技術分野で既知の高分子生分解性微粒子またはマイクロカプセル送達デバイスを用いて被験体に送達することができる。
【0025】
核酸の取り込みを達成するための別の方法は、標準的な方法により調製されるリポソームを使用することである。これらの送達媒体内にベクターを単独で組み込むことも、組織特異的抗体と同時に組み込むことも可能である。あるいは、静電力または共有結合力によりポリL−リシンに結合させたプラスミドまたは他のベクターから構成される分子複合体を調製することができる。ポリL−リシンは、標的細胞上のレセプターに結合することができるリガンドに結合する(クリスチアノ(Cristiano) 等 (1995) J. Mol. Med. 73, 479)。別例として、当該技術分野で既知である組織特異的な転写調節因子(TRE)を用いて組織特異的ターゲッティングを実施することができる。筋内、皮内または皮下の部位への「裸のDNA」の(すなわち、送達媒体なしの)送達は、in vivo発現を達成す
るための別の手段である。
【0026】
関連ポリヌクレオチド(例えば、発現ベクター)内で、GADD45βタンパク質をコードする核酸配列は、プロモーター、またはエンハンサー−プロモーターの組合せに作動可能なように連結される。エンハンサーは、時間、位置およびレベルに関して特異的な発現を提供する。プロモーターとは異なり、エンハンサーは、プロモーターが存在するという条件下で、転写開始部位からの距離が様々な位置にある状態で機能することができる。エンハンサーは、転写開始部位の下流に位置することもできる。
【0027】
適切な発現ベクターとしては、とりわけ、プラスミドおよびウイルスベクター(例えば、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、弱毒化ワクシニアウイルス、カナリア痘ウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。
【0028】
ポリヌクレオチドは、薬学的に許容可能な担体に含めて投与することができる。薬学的に許容可能な担体は、ヒトに投与するのに適切な生物学的に適合性の媒体、例えば、生理食塩水またはリポソームである。治療上有効な量は、治療される被験体において医学的に望ましい結果(例えば、GADD45βレベルの増加)をもたらすことが可能なポリヌクレオチドの量である。医学技術分野で既知であるように、任意のある被験体に関する投与量は、被験体の大きさ、体表面積、年齢、投与されるべき特定の化合物、性別、投与時間および投与経路、全身の健康状態、ならびに同時に投与される他の薬物などの多くの要因に依存する。投与量は様々であるが、ポリヌクレオチドの投与に関する好ましい投与量は、ポリヌクレオチド分子およそ10〜1012コピーである。この用量を、必要に応じて繰り返して投与することができる。投与経路は、上述のいずれかであり得る。
【0029】
不適切なGADD45β活性に関連した肝疾患を伴う被験体を治療するためのex vivo戦略は、被験体から得られる細胞を、GADD45βタンパク質をコードするポリヌクレオチドでトランスフェクションまたは形質導入することを包含し得る。あるいは、細胞ゲノム中に天然に存在する内在性GADD45β遺伝子の転写開始部位の上流に、新規活性プロモーターを(相同組換えにより)挿入するように設計されたベクターで、細胞をin vitroでトランスフェクションすることができる。かかる方法は、同方法を用いなければほとんど沈黙している遺伝子の「スイッチを入れる」方法であり、当該技術分野で既知である。所望のレベルでGADD45βを発現する細胞を選択し増殖させた後に、該トランスフェクション細胞または形質導入細胞を被験体に戻す。細胞は、ネラル(neral )細胞、造血細胞(例えば、骨髄細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、T細胞、またはB細胞)、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、または筋肉細胞を含むがこれらに限定されない多様な種類のいずれでもよい。かかる細胞は、被験体中で生存する限り、GADD45βタンパク質の供給源として作用する。
【0030】
ex vivo法は、被験体から細胞を収集する工程、該細胞を培養する工程、該細胞を発現ベクターで形質導入する工程、およびGADD45β遺伝子の発現に適切な条件下で該細胞を維持する工程を含む。これらの方法は、分子生物学の技術分野で既知である。形質導入工程は、リン酸カルシウム法、リポフェクション、エレクトロポレーション、ウイルス感染、および遺伝子銃による遺伝子移入などのex vivo遺伝子療法に使用される任意の標準的な手段により達成される。あるいは、リポソームまたは高分子微粒子を使用することができる。次に、首尾よく形質導入済みの細胞を、例えばGADD45β遺伝子の発現をもとに選択することができる。つづいて、細胞を被験体に注射または移植することができる。
【0031】
さらに、肝疾患を治療するための治療用組成物は、S−アデノシルメチオニン、p53タンパク質をコードする核酸、またはp53タンパク質自体を含有していてもよい。これ
らの組成物および上述のGADD45β組成物を、別個に使用しても良いし、組合せとして使用してもよい。
【0032】
以下の具体例は、単なる例示として解釈されるべきであり、開示内容の残部を限定するものとは如何様にも解釈されるべきではない。さらに詳述しなくとも、当業者であれば、本明細書中の説明に基づいて、本発明をその最大限まで利用することができると考えられる。本明細書中に列挙した刊行物はすべて、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0033】
(GADD45β遺伝子は、ヒト肝硬変および肝臓癌において下方制御(ダウンレギュレーション)される)
マイクロアレイを用いる包括的な遺伝子発現プロファイリングを用いて、HCC(肝細胞癌)組織および匹敵する正常な肝臓組織において12,800個の遺伝子およびオリゴの発現レベルの変化を分析した。マイクロアレイ実験は4回繰り返して、結果を異なるソフトウェアで解析した。GADD45βは、正常な肝臓と比較して肝細胞癌で最も発現の少ない遺伝子の1つであることがわかった。
【0034】
ノーザンブロットを行い、マイクロアレイの結果を確認した。GADD45βエキソン3を含む213bpのGADD45β cDNAプローブは、ジェンバンク(GenBank) のXM_030487のGADD45β配列に従って、RT PCRにより得た。GAPDHを、RNAロード量に関する対照として使用した。正常な肝臓組織中の発現と比較して、GADD45βの発現は、肝臓癌組織ならびに肝臓癌細胞株HepG2およびHep3Bでは低かった。
【0035】
さらに、免疫組織化学的(IHC)研究により、GADD45βが、正常な肝臓組織よりもアルコール性肝硬変および肝臓癌組織において過少発現されることが実証された。慢性肝硬変組織中のGADD45β発現は、肝臓癌組織の匹敵する病巣よりも高いままである。これに対し、GADD45βは、大腸癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫、扁平上皮癌、または肉腫組織では過少発現されず、GADD45βの過少発現は肝臓組織特異的であることが示唆される。
【0036】
種々の組織におけるヒトGADD45αおよびGADD45β mRNAの発現をノーザンブロットで検査した。GADD45β mRNAは、腎臓、肝臓および肺で容易に検出され、GADD45β遺伝子が解毒組織で発現されることが示唆された。GADD45α mRNAは、GADD45βが検出されるほとんどの組織中で検出されるが、骨格筋組織で増加していることがわかった。GADD45αおよびβはいずれも正常な肝臓組織において最高の発現レベルを有し、それらが肝臓組織特異的な遺伝子であることが示唆される。
【0037】
アルコール処理後のGADD45αおよびGADD45βの発現を、HepG2クローンにおいてノーザンブロットにより決定した。GADD45αの発現は、アルコール由来のストレス後に用量依存的様式で増加するが、GADD45βの発現は変化しないことが明らかとなった。この結果は、遺伝子ファミリー内のこれら2つの遺伝子が80%相同であるにもかかわらず、これら2つの遺伝子がアルコール関連のDNA損傷において異なる役割を果たすことを示唆するものである。HepG2細胞においてアルコールストレスに対しGADD45βの応答がないことは、GADD45βの機能不全がヒト肝臓癌形成に関連することを示唆している。
【0038】
(SAMeは、GADD45β発現を誘導する)
SAMeによるGADD45βの誘導は、CL−48正常肝臓細胞およびHepG2細
胞では異なる応答パターンを示す。CL−48およびHepG2細胞を、0、1.0mMおよび2.0mMのSAMeで処理した。処理の72時間後に、ロード量の内部対照として18S RNAを用いてノーザンブロットを行い、GADD45βの発現を分析した。その結果から、GADD45βはCL−48細胞においては低用量のSAMeにより誘導され、その誘導はさらに高用量のSAMeでプラトーに達することが実証される。しかしながら、HepG2細胞では、誘導は依然として用量依存的である。この結果は、SAMeがGADD45βを介して肝臓癌細胞のアポトーシスを誘導することを示唆する。
【0039】
(GADD45β発現は、p53依存的である)
種々のp53バックグラウンドにおけるSAMe処理後のGADD45βの発現をノーザンブロットで検査した。HepG2(p53野生型)でのGADD45βの発現は、種々の用量範囲でSAMeにより上方制御(アップレギュレーション)された。これに対し、Hep3B(p53ヌル変異)では、GADD45βの発現はSAMeにより誘導されなかった。この結果は、SAMeにより誘導されるGADD45β発現の増加がp53依存的であることを示唆する。
【0040】
(GADD45βプロモーターの分析)
GADD45β近位プロモーター領域により誘導されるルシフェラーゼ活性を測定して、対照β−Gal活性に対して正規化した。−870〜−1bpの断片は、最高のプロモーター活性を示した。この領域内で予測されるプロモーター要素としては、USF/N−Myc、NF−Y、CCAATボックスおよびTATAAボックスが挙げられる。
【0041】
(CCAAT/NF−Y因子によるGADD45βの転写調節)
未処理CL−48細胞、および2.0mM SAMeまたは200mM アルコールで処理した後48時間のCL−48細胞から、核タンパク質を抽出した。GADD45βプロモーター領域のCCAAT/NF−Yボックスに相当する末端標識したオリゴヌクレオチドを、抽出した核タンパク質とともにインキュベートし、つづいて結合複合体を6%遅延(retardation)ゲルで分離した。GADD45βプロモーターPα領域上のタンパク質結合部位を、標識していないオリゴヌクレオチド競合体およびNF−Y抗体を用いて同定した。主要なバンドの量は、未処理対照と比較して、SAMe処理後に減少した。スーパーシフトアッセイでは、SAMe処理細胞中でGADD45βが過剰発現することと一致して、結合複合体がSAMe処理試料中でシフトされる。
【0042】
(NF−κB因子によるGADD45βの転写調節)
上述のように核タンパク質を抽出した。GADD45βプロモーター領域のNF−κBボックスに相当する末端標識したオリゴヌクレオチドを、抽出した核タンパク質とともにインキュベートし、つづいて結合複合体を6%遅延ゲルで分離した。未処理CL−48対照細胞と比較して、SAMeまたはアルコールで処理した細胞は、ある結合複合体の量の減少と別の結合複合体の量の増加とを示した。この結果は、SAMeまたはアルコールの投与後のGADD45βの発現の調節に転写因子が関与することを示している。
【0043】
(他の実施形態)
本明細書中に開示する特徴はすべて、任意の組合せで組み合わせてもよい。本明細書中に開示される特徴はそれぞれ、同じか、等価であるか、または類似した目的を果たす代替的な特徴で置き換えてもよい。したがって、明確に別記しない限り、開示されるそれぞれの特徴は、包括的な一連の等価または類似の特徴のうちの一例にすぎない。
【0044】
上述の説明から、当業者であれば本発明の本質的な特質を容易に確認することが可能であり、また本発明の精神および範囲を逸脱することなく、本発明の様々な変更および修正を実施して、本発明を様々な用途および状況に適応させることができる。したがって、他
の実施形態もまた、添付の特許請求の範囲の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体が、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があるかどうかを判定する方法であって、
前記被験体由来の試料を用意すること、および
該試料中のGADD45β発現レベルを決定すること
を含み、前記試料中のGADD45β発現レベルが正常な被験体由来の試料中の発現レベルよりも低い場合、前記被験体は、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があることを示す方法。
【請求項2】
前記試料は肝臓組織試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肝疾患は肝硬変である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記肝疾患は肝臓癌である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
被験体が、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があるかどうかを判定する方法であって、
前記被験体由来の試料を用意すること、および
該試料中のGADD45β活性レベルを決定すること
を含み、前記試料中のGADD45β活性レベルが正常な被験体由来の試料中の活性レベルよりも低い場合、前記被験体は、肝疾患を患っているか、または発症する危険性があることを示す方法。
【請求項6】
前記試料は肝臓組織試料である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記肝疾患は肝硬変である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記肝疾患は肝臓癌である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
肝疾患を治療するための化合物を同定する方法であって、
化合物を、GADD45β遺伝子を発現している細胞と接触させること、および
該細胞中のGADD45β発現レベルを決定すること
を含み、前記化合物の存在下でのGADD45β発現レベルが、該化合物の非存在下での発現レベルよりも高い場合、前記化合物は、肝疾患を治療するための候補化合物であることを示す方法。
【請求項10】
前記細胞は肝臓細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記肝疾患は肝硬変である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記肝疾患は肝臓癌である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞はS−アデノシルメチオニンで処理される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞はアルコールで処理される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞は、正常細胞中のレベルよりも低いレベルでp53遺伝子を発現する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記GADD45β遺伝子の転写は、配列番号1を含有するプロモーターにより誘導される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞は、CCAAT/NF−Y因子またはNF−κB因子を発現する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
肝疾患を治療するための化合物を同定する方法であって、
化合物を、GADD45β遺伝子を発現する細胞と接触させること、および
該細胞中のGADD45β活性レベルを決定すること
を含み、前記化合物の存在下でのGADD45β活性レベルが、該化合物の非存在下での活性レベルよりも高い場合、前記化合物は、肝疾患を治療するための候補化合物であることを示す方法。
【請求項19】
前記細胞は肝臓細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記肝疾患は肝硬変である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記肝疾患は肝臓癌である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞はS−アデノシルメチオニンで処理される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞はアルコールで処理される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞は、正常細胞中のレベルよりも低いレベルでp53遺伝子を発現する、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記GADD45β遺伝子の転写は、配列番号1を含有するプロモーターにより誘導される、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞は、CCAAT/NF−Y因子またはNF−κB因子を発現する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
肝疾患を治療する方法であって、
肝疾患を患っているか、または発症する危険性がある被験体を特定すること、および
該被験体におけるGADD45βレベルを増加させるための組成物を、該被験体に投与すること
を含む方法。
【請求項28】
前記肝疾患は肝硬変である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記肝疾患は肝臓癌である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物は肝臓細胞へ投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物は、GADD45βタンパク質をコードする核酸を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物は肝臓細胞へ投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記組成物はGADD45βタンパク質を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記組成物は肝臓細胞へ投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物はS−アデノシルメチオニンを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物は肝臓細胞へ投与される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物は、p53タンパク質をコードする核酸を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物は肝臓細胞へ投与される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物はp53タンパク質を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物は肝臓細胞へ投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
GADD45βタンパク質をコードする核酸および薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物。
【請求項42】
GADD45βタンパク質および薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物。

【公表番号】特表2006−506975(P2006−506975A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−529324(P2004−529324)
【出願日】平成15年8月12日(2003.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/025232
【国際公開番号】WO2004/016744
【国際公開日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【出願人】(504363636)
【氏名又は名称原語表記】YEN,Yun
【Fターム(参考)】