説明

肝細胞の増殖を誘導する方法及びその使用

本出願は、肝細胞の増殖及び肝臓の再生を誘導する方法及び組成物を提供し、後者は主に、全ての他の細胞種が臓器特異的小葉構造を再構成するために分裂する場合でさえ、肝細胞の増殖に依存する。本明細書に提供される方法及び組成物は、AAR作動物質を使用する。本明細書に開示される好ましいA3AR作動物質は、Cl−IB−MECAである。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、療法の分野、具体的には肝細胞の分化及び肝臓の再生を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下は、本発明の分野の技術の状況を説明するのに適切であると考えられる技術の一覧である。本明細書でこれらの参考文献は、時に、以下の一覧のかっこ内の数字を示すことにより認定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Henrion J. Ischemia/reperfusion injury of the liver: pathophysioloichypotheses and potential relevance to human hypoxic hepatitis. Acta Gastroenterol Belg.63:336-347.
【非特許文献2】Shirasugi N, Wakabayashi G, Shimazu M.Up-regulation of oxygen-derived free radicals by interleukin-1 in hepaticischemia/reperfusion injury. Transplantation 64:1398-403.
【非特許文献3】Xu Z, Jang Y, Mueller RA, Norfleet EA: IB-MECA and cardioprotection.Cardiovasc. Drug Rev. 24(3-4):227-238.
【非特許文献4】Chen GJ, Harvey BK, Shen H, Chou J, Victor A, Wang Y: Activation of adenosineA3 receptors reduces ischemic brain injury in rodents. J. Neurosci.Res. 84(8):1848-1855.
【非特許文献5】Fishman P, Bar-Yehuda S, Farbstein T, Barer F, Ohana G: Adenosine acts as a chemoprotectiveagent by stimulating G-CSF production: a role for A1 and A3 adenosinereceptors. J. Cell. Physiol. 183(3):393-398.
【非特許文献6】Fishman P, Bar-Yehuda S, Barer F, Madi L, Multani AF, Pathak S: The A3adenosine receptor as a new target for cancer therapy and chemoprotection.Exp. Cell. Res. 269(2): 230-236.
【非特許文献7】Bar-YehudaS, Madi L, Barak D et al.: Agonists to the A3adenosine receptor induce G-CSF production via NF-kappaBactivation: a new class of myeloprotective agents. Exp. Hematol. 30(12):1390-1398.
【非特許文献8】Fishman P, Bar-Yehuda S, and Wagman L. (1998).Adenosine and other low molecular weight factors released by muscle cellsinhibit tumor cell growth: Possible explanation for the rarity of metastases inmuscle. Cancer Res. 58:3181-3187.
【非特許文献9】Fishman P, Bar-Yehuda S, Farbstein T, Barer F,and Ohana G. Adenosine acts as a chemoprotectiveagent by stimulating G-CSF production: A role for A1& A3 adenosinereceptors. J. Cell. Physiol. 183:393-398.
【非特許文献10】Fishman P, Bar-Yehuda S, Barer F, Madi L, Multani Asha S, Pathak S. The A3 adenosine receptor as a new target forcancer therapy and chemoprotection. Exp Cell Res.269:230-236.
【非特許文献11】Teoh N, dela Pena A, Farrell G. Hepaticischemia preconditioning in mice is associated with activation of NFKB.p38 kinase and cell cycle entry. Hepatology36:94-102.
【0004】
肝臓は、脳を除いては、唯一生命維持に必要な臓器であり、そのため肺、腎臓、及び心臓用に見出されているような、不全臓器を支援する薬理学的、機械的、又は体外手段が存在しない。肝臓はまた、生物学的に機能しない瘢痕組織を治癒させる代わりに、切除又は傷害後にその生物学的に機能する実質性塊を再生することができる、唯一の哺乳類の臓器である点で独特である。
【0005】
肝臓の切除は、術前診断、外科的技術、及び術後処置の向上のために、過去10年でより安全になってきている。術後死亡率は、術前の肝臓機能及び切除された肝臓の体積と直接相関する。残りの肝臓の機能は、体積の喪失を修復するために、肝細胞が増殖するにつれて、正常な肝実質を有する患者では急速に回復する。しかしながら、肝臓の切除前の新補助化学療法により衰弱した、肝硬変、重篤な脂肪肝、又は直腸結腸肝転移の患者のように、肝実質疾患の存在下では、肝細胞の増殖が低下し、これは患者を肝機能障害、及び関連する合併症に曝し、結果的に肝切除後肝不全になり、これは高い死亡率を有する(60〜90%)。
【0006】
肝細胞の細胞周期への参加(G0からG1への移行)に大きな役割を果たしているサイトカイン経路、プライミング(priming)として知られているプロセス、及び細胞周期の進行(G1相からS相)に関与している成長因子経路を含む、いくつかの経路が再生している肝臓において同定されている。
【0007】
更に、肝臓の虚血再灌流傷害は、肝移植及び部分的肝切除のような外科的処置の、別の既知である臨床的に重要な徴候である(非特許文献1)。虚血再灌流傷害後、肝傷害の2つの異なる相が存在する。初期相(再灌流後2時間以内)は、酸化ストレスを特徴とし、ここで反応性酸素種(ROS)の生成及び放出は、直接的に肝細胞傷害をもたらすと思われる。後期相(再灌流後6〜48時間)は、補充された好中球により媒介される炎症性疾病である。腫瘍壊死因子(TNF−α)、インターロイキン(IL)−1、一酸化窒素(NO)、及びロイコトリエンのような、活性化クッパー細胞と好中球との生成物間の相互関係は、肝臓の虚血再灌流傷害の病因に関わっている(非特許文献2)。TNF−αの生物学的効果は、細胞死の誘導から細胞再生の促進にまで及ぶ。
【0008】
実際に、最近の研究では、虚血プレコンディショニングが、部分的肝臓IR傷害のマウスモデルにおいて、虚血再灌流後2時間以内に肝細胞が細胞周期に参加することに関連している可能性があることが示されている(非特許文献11)。
【0009】
、A2A、A2B、及びAと命名されたアデノシンは、選択的Gタンパク質関連膜受容体への結合を通して、虚血後細胞外に蓄積し、細胞保護作用を付与することが知られている。特に、AARは、心臓、神経及び化学保護の媒介に関与していることが見出されている(非特許文献3〜7)。
【0010】
アデノシン受容体、Gタンパク質関連細胞表面受容体は、癌及び炎症と戦うための標的として提示されている。受容体は、種々の腫瘍細胞の種類で高度に発現しているが、一方隣接する正常組織では発現が低いことが示された。インビボ研究では、AAR作動物質が、結腸、前立腺、及び膵癌、並びに黒色腫及び肝癌の発達を阻害することが示されている。
【0011】
AR作動物質はまた、関節リウマチ、多発性硬化症、及びクローン病のような、様々な実験的自己免疫モデルにおいて、炎症過程を改善することにより、抗炎症剤として作用することも示されている。
【0012】
更に、AAR作動物質は、腫瘍及び正常な細胞の成長に対して差次的効果を有することが示されている。AARの活性化は種々の腫瘍細胞株の成長を阻害し、一方骨髄細胞のような正常細胞の増殖を刺激する(非特許文献8〜10)。
【0013】
現在、この生命維持に必要な臓器の急性若しくは慢性傷害後、肝細胞傷害を弱める、又は肝臓の組織再生を増大させることが認められている、薬理学的介入は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、特異的及び選択的AAR作動物質である、C1−IB−MECAを用いてラットで行われた実験から得られた、
C1−IB−MECAによる治療は、部分的肝切除後、肝細胞の増殖を誘導した、
C1−IB−MECAによる治療は、部分的肝切除後、肝臓の酵素、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の血清中濃度を低下させた、
C1−IB−MECAによる治療は、部分的肝切除時、有糸分裂している肝細胞の数を増加させた、
C1−IB−MECAによる治療は、増殖細胞核抗原(PCNA)陽性細胞(この発現は細胞増殖の程度と相関する)の数を増加させた、
C1−IB−MECAによる治療は、肝臓の重量を増加させた、
という所見に基づく。
【0015】
上記所見に基づいて、AAR作動物質は、肝細胞の増殖及び肝臓の再生を誘導するために利用できると結論付けられている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、第1態様を踏まえて、肝細胞を、肝細胞の増殖を刺激するのに有効な量のAAR作動物質と接触させることを含む、肝細胞の増殖を刺激する方法が提供される。
更に、本開示により、肝細胞の増殖を刺激する方法で使用するためのAAR作動物質が開示される。
【0017】
別の実施形態では、本開示により、例えば肝切除及び他のための外科的治療により引き起こされる、例えば肝硬変等の疾患により引き起こされる、肝臓の損傷を有する患者を治療する方法で使用するためのAAR作動物質が提供される。
【0018】
本開示はまた、患者の肝臓の損傷を治療する薬剤を調製するためのAAR作動物質の使用を提供する。
更に、本開示により、肝細胞の増殖を刺激するのに有効な量のAAR作動物質を含む、肝細胞の増殖を刺激する医薬組成物が開示される。また、本開示により、肝細胞の増殖を刺激するのに有効な量のAAR作動物質を含む、肝臓の損傷を治療する医薬組成物が提供される。
【0019】
1つの実施形態では、AAR作動物質は、2−クロロ−N−(3−ヨードベンジル)−アデノシン−5‘−N−メチル−ウロンアミド(Cl−IB−MECA)であり、別の実施形態では、AAR作動物質は、N−(3−ヨードベンジル)−アデノシン−5‘−N−メチル−ウロンアミド(IB−MECA)である。しかしながら、これらの現在好ましいAAR作動物質は、決して排他的ではなく、以下に更に詳述するように、他のこのようなAAR作動物質もまた用いることができる。
【0020】
本開示の文脈では、肝臓又は肝臓の細胞が、肝傷害、肝切除、疾患誘導性、又は感染誘導性の肝臓の損傷後に損傷を受ける種々の症状を、AAR作動物質の使用により治療できる。
【0021】
本発明を理解し、それを実際にどのように実行できるかを知るために、添付図面を参照して、非限定的な例のみを用いて実施形態をここに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】部分的肝切除後、肝臓が再生しているラットの肝臓における、肝臓の肝細胞の増殖に対する、C1−IB−MECA(処理)の効果を示す棒グラフである。
【図2】図2A及び図2Bは、部分的肝切除後2、4、及び48時間の、対照ラットと比較した、C1−IB−MECAで処理したラットにおける、肝臓の酵素、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(図2A)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)(図2B)の血清中濃度を示す棒グラフである。
【図3】未処理ラット(未処置)又はビヒクルで処理したラット(ビヒクル)と比較した、部分的肝切除を受け、C1−IB−MECAで処理されたラットにおける肝臓の酵素、AST及びALTの血清中濃度を示す棒グラフである。
【図4】ビヒクルで処理したラット(ビヒクル)と比較した、部分的肝切除を受け、C1−IB−MECAで処理されたラットにおける肝細胞の分裂指数を示す棒グラフである。
【図5】図5A及び図5Bは、部分的肝切除を行い、続いてビヒクルのみ(図5A、ビヒクル)又はC1−IB−MECA(図5B)で処理した48時間後の、肝細胞の増殖細胞核抗原(PCNA)染色後の顕微鏡画像である。
【図6】C1−IB−MECAで処理した、又はビヒクルのみで処理したラット(ビヒクル)における部分的肝切除の24及び48時間後の肝重量(再生の%)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、肝細胞の増殖及び肝臓の再生を刺激する方法に関して、以下の詳細な説明に記載する。前記方法に加えて、本発明には、肝細胞の増殖及び肝臓の再生を刺激する方法で使用するためのAAR作動物質、肝細胞の増殖及び肝臓の再生の刺激に必要な、被験体に投与するための医薬組成物の調製におけるAAR作動物質の使用、並びに有効な量のAAR作動物質及び医薬的に許容可能な担体を含む、肝細胞の増殖及び肝臓の再生を刺激するための医薬組成物も包含されることに留意すべきである。
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲で使用するとき、形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに別のものを指示しない限り、単数及び複数のものを参照する。例えば、用語「an AAR作動物質(an A3AR agonist)」は1種以上の作動物質を含む。
【0025】
更に、本明細書で使用するとき、用語「含む」は、引用された要素を含む方法又は組成物を意味するが、他のものを除外しない。同様に「から本質的に成る」は、引用された要素を含むが、肝細胞の増殖及び肝臓の再生の刺激に対して本質的な重要性を有する可能性がある他の要素を除外する方法及び組成物を定義するために用いられる。例えば、本質的にAAR作動物質から成る組成物は、肝細胞の増殖及び肝臓の再生活性を有する他の活性成分を含まない、又はほんのわずかな量(組成物の抗炎症効果に対してわずかな効果しか有しない量)しか含まない。また、本明細書で定義するとき、活性剤から本質的に成る組成物は、単離及び精製法からの微量汚染物質、医薬的に許容可能な担体、賦形剤、保存剤等を除外しない。「から成る」は、他の要素の微量より多い要素を除外することを意味すべきである。これらの変換用語(transition term)のそれぞれにより定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0026】
更に、全ての数値、例えば濃度若しくは用量、又はその範囲は、表示値から(+)又は(−)最大20%、時に最大10%変動する近似値である。例え常に明確に記載していないとしても、全ての数字表記は用語「約」が前に付いているかのように読むべきであることを理解されたい。また、常に明確に記載している訳ではないが、本明細書に記載する試薬は単に例示的なものであり、このようなものの均等物は当該技術分野において既知であることも理解されたい。
【0027】
以下の例示的な実施形態で詳述するように、本発明は、AAR作動物質を用いて肝臓の再生を強化できるという所見に基づく。
【0028】
したがって、AAR作動物質は、肝細胞を刺激し、肝細胞の増殖を促進するインビトロ及びインビボ方法で用いることができる。本明細書に開示する方法に従って、肝細胞を、肝細胞の増殖を誘導するのに有効な量のAAR作動物質と接触させてもよい。
【0029】
このような方法及び使用としては、1つの実施形態により、インビトロでAAR作動物質を肝細胞に添加することが挙げられる。その結果、例えばその後移植する、エクスビボで人工的な肝組織を生み出す等のために、インビトロで肝細胞を培養する方法及び培養における使用が開示される。このような方法及び使用は、生物学的に有効な量のAAR作動物質を、インビトロ又はエクスビボで肝細胞の集団を含有する生体試料に供給することを含む。
【0030】
本開示の文脈では、好ましい方法、AAR作動物質、使用、及び医薬組成物は、肝細胞の増殖を誘導して、上記及び下記種類の肝臓の損傷に対抗することを意図する療法的治療の枠組み内で、AAR作動物質がインビボで肝細胞の増殖を誘導することを意図するものである。したがって、本明細書では、肝臓の成長を誘導する、肝臓の再生を刺激する、及び一般的には種々の形の肝臓の損傷及び疾患を有する被験体を治療する方法、AAR作動物質、及び使用を提供する。
【0031】
本開示の枠組み内で、用語「肝臓の損傷」は、慢性及び急性外傷、並びに肝臓の細胞又は組織に存在する病理学的変化を含む、任意の種類の肝外傷(傷害)を示すために用いられる。肝臓の損傷の臨床症状としては、生細胞の変性、肝臓の血管炎、肝臓に存在する点在性壊死若しくは巣状壊死、肝臓及び門脈域における炎症性細胞浸潤若しくは線維芽細胞の増殖、又は肝腫大、及び肝硬変、重篤な肝臓の損傷から生じる肝癌等を挙げることができるが、これらに限定されない。損傷は、疾患(すなわり、誘導される疾患)及び/又は毒性肝毒性化学物質誘導性の肝臓の損傷の結果であり得る。いくつかの薬物が肝臓の損傷を引き起し、肝細胞溶解及び壊死をもたらす場合があることが知られている。
【0032】
本開示の枠組み内で、AAR作動物質は、肝細胞の増殖を促進する、肝臓の成長を誘導する、肝臓の再生を刺激する、及び/又は一般的には動物若しくはヒト患者の肝臓の損傷、疾患及び/若しくは疾病を治療若しくは予防するのに有効な量で、被験体に投与される。用語「有効な量」又は「〜に有効な量」は、本明細書で使用するとき、肝細胞の増殖を促進する、肝臓の成長を誘導する、肝臓の再生を刺激する、及び/又は動物若しくはヒト患者に投与されたとき肝臓の損傷を治療若しくは予防するのに有効な量を指す。有効な量は、好ましくは、任意の他のアデノシン受容体を活性化することなく、AAR作動物質を選択的に活性化させる、AAR作動物質の濃度を得られる量である。例えば、IB−MECA及びCl−IB−MECAの場合、このような好ましい量は、IB−MECAの場合、約200、150、125未満、又は更には約100nM未満の濃度が得られる、Cl−IB−MECAの場合、約400、300、250未満、又は更には約200nM未満の濃度が得られる量である。肝細胞の増殖の誘導がそこで実行されるインビトロ環境で得られる濃度は、簡単に算出できる又は分析的に測定することができる。例えば、肝傷害の治療の枠組み内で、インビボで肝細胞の増殖を達成するためにインビボで投与する場合、有効な量は、AAR作動物質の投与後、規定の時間間隔で(このような時間に血液を回収することにより)、AAR作動物質の血中又は血漿中濃度を測定することにより、薬物動態(PK)研究を通して測定してもよい。PK研究では、血中又は血漿中のAAR作動物質の最高濃度は、好ましくは、別のアデノシン受容体が活性化される濃度を下回る濃度であるべきである。
【0033】
本開示の文脈では、肝細胞の増殖の誘導は、肝細胞の分割の促進又は刺激、及び時に肝細胞死の阻害を意味する。
【0034】
AR作動物質は、好ましくは、経口、経皮、静脈内、腹腔内、皮下、又は筋肉内投与を含む、全身投与用に配合される。肝内投与の全ての形態を含む、肝臓へのより局在化した送達も考慮される。
【0035】
肝臓の損傷に関連する広範な疾患、疾病、及び症状は、本明細書に開示するAAR作動物質により治療することができる。これらとしては、アルコール、肝毒性薬物、及びこれらの組み合わせへの曝露に関連する肝臓の損傷が挙げられる。例示的な損傷剤は、抗痙攣剤、フェニトイン、カルバマゼピン、及びフェノバルビタール、及び「エクスタシー(Ecstasy)」(3,4−メチレンジオキシメタンフェタミン)として知られているような嗜好薬物(recreations drug)である。
【0036】
抗結核剤及び化学療法剤への曝露に関連する肝臓の損傷を含む、他の療法から生じる副作用もまた、本開示に従って治療することができる。鎮痛剤アセトアミノフェン(すなわち、Panadol、化学名は4−(N−アセチルアミノ)フェノール)は、大量に投与されたとき、ヒトの肝臓の壊死を誘導する恐れがある肝損傷性物質の1種である。例えば、リファンピシン、ピラジナミド、及びイソニアジドのような、抗生物質の長期投与、及び更年期におけるエストロゲン等の長期投与はまた、重篤な肝細胞の壊死を引き起す場合があり、これは急性又は慢性肝炎、黄疸、及び肝線維症等のような肝臓の損傷を導く。
【0037】
癌腫の切除後に生じるような、生存可能な肝組織の減少に関連する肝臓の損傷もまた治療できる。
【0038】
感染体から生じる又はそれに関連する肝臓の損傷もまた、本発明を用いて対抗することができる。これには、細菌、寄生虫、真菌、及びウイルス感染に関連する肝臓の損傷が挙げられる。例えば、肝臓の損傷は、アスペルギルス属の真菌感染、住血吸虫属の寄生虫感染、及びアデノウイルス、レトロウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、A 型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、及びパラミクソウイルス感染のような種々のウイルス感染から生じ、これらは全て本発明により治療できる。
【0039】
本開示の文脈では、AAR作動物質はまた、過剰なアセトアミノフェン(パラセタモール)摂取に関連する肝臓の損傷の治療、又は更には予防にも利用することができる。これは、長期間にわたって生じて、慢性肝臓の損傷を導く場合もあり;又は短若しくは即時期間の間に、急性の肝臓の損傷を導く場合もある。後者の実施形態としては、成人及び小児の両方における、計画的及び偶発的過剰投薬が挙げられる。
【0040】
種々のAAR作動物質は当該技術分野において既知である。しかしながら、本発明は、既知のAAR作動物質に限定されない。一般的に、AAR作動物質は、アデノシンA受容体(「AAR」)に特異的に結合し、それにより完全に又は部分的に前記受容体を活性化して、治療効果(この特定の場合では、肝細胞の増殖に対する誘導効果)を得ることができる任意の化合物である。
【0041】
AR作動物質は、したがって、結合及びAARの活性化を通してその主要な効果を発揮する化合物である。1つの実施形態に従って、これは、投与されている用量で、AAR作動物質が本質的にARのみに結合し、活性化することを意味する。好ましい実施形態では、AAR作動物質は、1000nM未満、望ましくは500nM未満、有利には200nM未満、及び更には100nM未満、典型的には50nM未満、好ましくは20nM未満、より好ましくは10nM未満、及び理想的には5nM未満の、ヒトAARに対する結合親和性(K)を有する。Kが低くなるにつれて、ARを活性化し、それにより治療効果を達成するのに有効である、(用いてもよい)AAR作動物質の用量は少なくなる。
【0042】
1例として、両方特異的AAR作動物質である、IB−MECA及びCl−IB−MECAのIC50及びKを、以下の表1及び2に示す。
【表1】

【表2】

【0043】
これらの表が明確に示すように、IB−MECA及びCl−IB−MECAは両方ともAARに対する高度に選択的な作動物質である。
【0044】
いくつかのAAR作動物質はまた、より低い親和性を有する(つまり、Kがより高い)他の受容体と相互作用して、それを活性化することもできることに留意すべきである。化合物は、AARに対する親和性が少なくとも3倍である(すなわち、そのAARに対するKが少なくとも3倍低い)場合、本開示の文脈のAAR作動物質である(つまり、AARとの結合及び活性化を通してその主要な効果を発揮する化合物)と考えられる。好ましくは、本開示の文脈で用いられるAAR作動物質は、AARに特異的にかつ選択的に結合し、それを活性化する剤である。AAR作動物質は、したがって、任意の他のアデノシン受容体に対するIC50又はKよりも、好ましくは少なくとも10、15、20、25、50、75、100、150、250、又は時に少なくとも500倍低いIC50又はKを有する。
【0045】
AR作動物質のヒトAARに対する親和性、並びに他のヒトアデノシン受容体に対するその相対親和性は、結合アッセイのような多数のアッセイにより測定できる。結合アッセイの例としては、受容体を有する膜又は細胞を提供して、AAR作動物質の、結合した放射性作動物質を置き換える能力を測定すること;それぞれのヒトアデノシン受容体を示す細胞を利用して、機能アッセイにおいて、場合によっては、cAMP水準の増加又は減少等を通して測定されるアデニル酸シクラーゼに対する効果のような、下方制御シグナル伝達事象を、AAR作動物質が活性化又は不活化する能力を測定すること等が挙げられる。明らかに、その血中濃度が他のアデノシン受容体のKのものに迫る水準に達するように、投与されたAAR作動物質の水準が増加する場合、これらの受容体の活性化は、ARの活性化に加えて、このような投与後に生じる場合がある。AAR作動物質は、したがって、好ましくは、獲得される血中濃度が本質的にARのみを活性化させるような用量で投与される。
【0046】
いくつかのアデノシンAAR作動物質の特徴、及びその調製方法は、とりわけ、米国特許第5,688,774号;同第5,773,423号;同第5,573,772号;同第5,443,836号;同第6,048,865号;国際公開第95/02604号;同第99/20284号;同第99/06053号;同第97/27173号;及び同第2006/031505号に詳細に記載され、これらは全て本明細書に参照することにより組み込まれる。
【0047】
本発明の1つの実施形態によると、AAR作動物質は、一般式(I):
【化1】

の範囲内に含まれるプリン誘導体であって、
式中、Rは、C〜C10アルキル、C〜C10ヒドロキシアルキル、C〜C10カルボキシアルキル、若しくはC〜C10シアノアルキル、又は以下の一般式(II):
【化2】

の基であり、
[式中、
Yは酸素、硫黄原子、又はCH2であり、
は水素、C〜C10アルキル、RNC(=O)−又はHOR−であって、R及びRは同じであっても異なってもよく、水素、C〜C10アルキル、アミノ、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アミノアルキル、C〜C10BOC−アミノアルキル、及びC〜C10シクロアルキルから選択され、又はともに結合して2〜5個の炭素原子を有する複素環を形成し、RはC〜C10アルキル、アミノ、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アミノアルキル、C〜C10BOC−アミノアルキル、及びC〜C10シクロアルキルから選択され、
は水素、ヒドロキシル、C〜C10アルキルアミノ、C〜C10アルキルアミド、又はC〜C10ヒドロキシアルキルであり、
及びXはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシル、アミノ、アミド、アジド、ハロ、アルキル、アルコキシ、カルボキシ、ニトリロ、ニトロ、トリフルオロ、アリール、アルカリル、チオ、チオエステル、チオエーテル、−OCOPh、−OC(=S)OPhである、又はX及びXは両方とも>C=Sと接続して5員環を形成する酸素である、又はX及びXは式(III):
【化3】

(式中、R’及びR’’は独立してC〜C10アルキルである)
の環を形成する]、
は、水素、ハロ、C〜C10アルキルエーテル、アミノ、ヒドラジド、C〜C10アルキルアミノ、C〜C10アルコキシ、C〜C10チオアルコキシ、ピリジルチオ、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、チオ、及びC〜C10アルキルチオであり、
は、Rが水素、又はアルキル、置換アルキル、若しくはアリール−NH−C(Z)−(Zは、O、S、又はNRである)から選択される基である、−NR基であり、
が水素であるとき、Rは、R−及びS−1−フェニルエチル、ベンジル、フェニルエチル、又はアニリド基から選択され、それぞれの前記基は非置換である、又は1つ以上の位がC〜C10アルキル、アミノ、ハロ、C〜C10ハロアルキル、ニトロ、ヒドロキシル、アセトアミド、C〜C10アルコキシ、及びスルホン酸若しくはその塩から選択される置換基に置換される;又はRは、ベンゾジオキサンメチル、フルフリル(fururyl)、L−プロピルアラニル−アミノベンジル、β−アラニルアミノ−ベンジル、T−BOC−β−アラニルアミノベンジル、フェニルアミノ、カルバモイル、フェノキシ、若しくはC〜C10シクロアルキルである;又はRは以下の式(IV):
【化4】

の基である;又はRがアルキル、置換アルキル、若しくはアリール−NH−C(Z)−であるとき、Rは置換若しくは非置換ヘテロアリール−NR−C(Z)−、ヘテロアリール−C(Z)−、アルカリル−NR−C(Z)−、アルカリル−C(Z)−、アリール−NR−C(Z)−、及びアリール−C(Z)−から成る群から選択される、
又はAAR作動物質は、以下の一般式(V):
【化5】

のキサンチン−7−リボシド誘導体であって、
式中、
XはO又はSであり、
はRNC(=O)−又はHOR−であって、
及びRは同じであっても異なってもよく、水素、C〜C10アルキル、アミノ、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アミノアルキル、及びC〜C10シクロアルキルから選択され、又はともに結合して2〜5個の炭素原子を有する複素環を形成し、
はC〜C10アルキル、アミノ、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アミノアルキル、C〜C10BOC−アミノアルキル、及びC〜C10シクロアルキルから選択され、
及びRは同じであっても異なってもよく、C〜C10アルキル、C〜C10シクロアルキル、R−若しくはS−1−フェニルエチル、非置換ベンジル若しくアニリド基、並びに1つ以上の位が、C〜C10アルキル、アミノ、ハロ、C〜C10ハロアルキル、ニトロ、ヒドロキシル、アセトアミド、C〜C10アルコキシ、及びスルホン酸から選択される置換基に置換されたベンジル基のフェニルエーテルから選択され、
は、ハロ、ベンジル、フェニル、C〜C10シクロアルキル、及びC〜C10アルコキシから成る群から選択される基である、
又は、上記に定義した化合物の好適な塩である。
【0048】
1つの実施形態では、Yは置換基X又はXのいずれかとともに縮合橋(fused bridge)を形成してもよい。この実施形態は、国際公開第2006/031505号に開示されており、その全文は参照することにより組み込まれる。更なる実施形態では、このような化合物は、以下の一般式:
【化6】

(式中、X、R、及びRは上記定義の通りである)
を有してもよい。
【0049】
別の実施形態によると、AAR作動物質は、一般式(VII):
【化7】

(式中、X、R、及びRは上記定義の通りである)
のヌクレオシド誘導体である。
【0050】
AR作動物質の非限定的な群は、N−ベンジルアデノシン−5‘−ウロンアミド誘導体である。いくつかの好ましいN−ベンジルアデノシン−5‘−ウロンアミド誘導体は、N−2−(4−アミノフェニル)エチルアデノシン(APNEA)、N−(4−アミノ−3−ヨードベンジル)アデノシン−5’−(N−メチルウロンアミド)(AB−MECA)、1−デオキシ−1−{6−[({3−ヨードフェニル}メチル)アミノ]−9H−プリン−9−イル}−N−メチル−β−D−リボフラヌロンアミド(IB−MECA)、及び2−クロロ−N−(3−ヨードベンジル)アデノシン−5‘−N−メチルウロンアミド(Cl−IB−MECA)である。
【0051】
別の実施形態によると、AAR作動物質は、N−ベンジル−アデノシン−5‘−アルキルウロンアミド−N−オキシド、又はN−ベンジルアデノシン−5‘−N−ジアリル(dialyl)−ウロンアミド−Nオキシドである。
【0052】
有効な量のAAR作動物質は、活性剤の、対応する受容体に対する親和性、その体内での分布プロファイル、体内での半減期のような種々の薬理学的パラメータ、望ましくない副作用、もしある場合は、体重、年齢、性別、治療歴、併用薬、及び治療される被験体の他のパラメータのような因子等を含む、種々の因子に依存することが理解される。有効な量は、典型的には、有効な用量範囲、最大耐量、及び最適用量を見つける目的を有する臨床研究で試験される。このような臨床研究を実施する様式は、臨床開発の分野の当業者に周知である。
【0053】
量はまた、時に、動物で有効であることが示されている量に基づいて決定してもよい。ラットに投与されるXmg/Kgの量は、当該技術分野において周知である可能な変換法の1つを使用することにより、別の種(特にヒト)における対応量に変換できることが周知である。変換式の例は以下の通りである。
【0054】
変換I
【表3】

【0055】
体表面積依存用量変換:ラット(150g)からヒト(70Kg)へは、ラットの用量の1/7である。これは、最近の(resent)事例では、ラットにおける0.001〜0.4mg/Kgは、平均体重が70Kgであると推定されるヒトにおける約0.14〜56マイクログラム/Kgに等しいことを意味し、これは約0.01〜約4mgの絶対的用量に言い換えられる。
【0056】
変換II:
以下の変換係数:マウス=3、ラット=67。ヒト用量当量では、この変換係数に動物の体重を乗じると、mg/Kgからmg/mになる。
【0057】
【表4】

【0058】
この式によると、ラットにおける0.001〜0.4mg/Kgに等しい量は、ヒトでは0.16〜64μg/Kgである;つまり、約70Kgの体重のヒトの絶対的用量は、約0.011〜約4.4mgであり、変換Iで示した範囲に類似している。
【0059】
変換III:
変換のための別の代替法は、動物への投与後に達成されるのと同じ血漿中濃度又はAUCを得られるように用量を設定することによる。
【0060】
有効な量の活性剤はまた、ヒトPK研究に基づいて決定してもよい。例えば、米国特許出願公開第20050101560号及びFishmanら [Fishman P. et al., Tolerability,
pharmacokinetics, and concentration-dependent hemodynamic effects of oral
CF101, an A3 adenosine receptor agonist, in healthy young men Int J Clin Pharmacol Ther. 42:534-542,
2004, (CF101は医薬品適正製造基準の指針の下製造された、臨床等級のIB−MECAである)]により記載されているようなヒトの研究は、ヒト血漿中で経口的に投与されたIB−MECAの水準が、マウスにおけるほんの1.5時間の半減期に比べて、約8〜10時間の半減期でピーク濃度から減衰し、毎日複数回投与する場合、蓄積効果のための用量補正を行うことが時に必要である(以前の用量の水準が減衰する前に次の用量が投与され、それにより単回投与で生じる血漿中濃度が積み重ねられる)ことを示した。前記ヒト治験に基づいて、毎日2回投与が好ましい投与レジメンであると思われる。しかしながら、これは他の投与レジメンを排除するものではない。Cl−IB−MECAを用いて実施されたヒトの研究は、経口的に投与されたCl−IB−MECAの水準が、そのピーク濃度から、約12〜14時間の半減期でヒト血漿中において減衰することを示した。このヒトのデータに基づいて、ヒト被験体における投与レジメンは、好ましくは、毎日1回又は2回であってもよいが、他のレジメンを除く必要はない。
【0061】
本発明の文脈では、医薬組成物は、典型的には、A3AR作動物質と医薬的に許容可能な担体、並びに他の添加剤との組み合わせを含む。担体は、時に、薬物の安定性を改善するため、クリアランス速度を遅らせるため、徐放性を付与するため、望ましくない副作用を低減するため等、標的組織への活性成分の送達又は透過を改善する効果を有してもよい。担体はまた、製剤に食用フレーバを与える等のために、製剤を安定化させる物質(例えば、保存剤)であってもよい。担体、安定剤、及び補助剤の例は、例えば、E.W. Martin, REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, MacK Pub Co (June, 1990)に記載されている。
【0062】
本発明は、例示的様式で記載されており、用いられている専門用語は用語の限定ではなく説明の性質を帯びることを意図すると理解されたい。明らかに、上記教示に鑑みて本発明の多くの修正及び変形が可能である。それ故、添付の特許請求の範囲の範囲内では、本発明は以後具体的に記載されるのとは別の方法で実行できることを理解されたい。
【実施例】
【0063】
非限定的な例示的実施形態の詳細な説明
材料及び材料
動物
雄ウィスターラット(275〜300g)を、処置前12時間絶食させた。ラットをケタミン(45mg/kg)及びキシラジン(5mg/kg)で麻酔した。肋骨下の、両側切開を介して開腹を実施した。肝臓全体への主な門脈茎(portal pedicle)を、70%肝切除を実施している間、10分間クランプした。虚血の10分後(肝切除の過程において)、血流は脱鉗子により回復した。
【0064】
材料
AR作動物質である、Cl−IB−MECAは、Albany
Molecular Research Inc, Albany, NY, USAにより、Can-Fite BioPharma用に合成された。Cl−IB−MECAは、虚血の最後に始めて、48時間、毎日3回、100μg/kgの濃度で投与した。対照ラットにはCl−IB−MECAを投与しなかった。
【0065】
方法
ラットを開腹し、肝臓全体への主な門脈茎を、70%肝切除を実施している間、10分間クランプした。虚血の10分後、血流は脱鉗子により回復した。Cl−IB−MECA(100μg/kg)を灌流から始めて経口的に1日3回投与した。
【0066】
結果
肝細胞の増殖
図1を参照すると、CL−IB−MECAが部分的肝切除後再生した肝臓の肝細胞の増殖を上方制御し、対照群の30%に比べて、処理群では45.1%の水準の再生を示すことが見られる。
【0067】
肝臓の酵素、ALT及びASTの血清中濃度
ALT及びASTの血清中濃度の上昇は、肝臓の損傷を示す。図2A及び2Bから分かるように、ALT及びAST濃度は、測定した3つの時点のそれぞれ(2、4、及び48時間)で、対照群に比べて、CL−IB−MECA処理群では著しく低下した。
【0068】
更なるアッセイでは、Cl−IB−MECAの効果を、ビヒクルのみで処理したラット、又は処理を受けなかったラットと比較し、結果を図3に示す。図示したように、Cl−IB−MECAによる処理は、肝臓の酵素の血清中濃度の低下を導き、それによりCl−IB−MECA処理が、虚血/再灌流処置により誘導される損傷に対して肝臓を保護できることを示す。
【0069】
分裂指数
部分的肝切除の48時間後に、肝臓を回収し、10%の緩衝化ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、5μmの厚さの切片をヘマトキシリン及びエオシン染色に付した。強拡大視野(HPF、400倍の倍率)をスクリーニングし、各視野で有糸分裂している細胞の数を数えた。図4は、数えた50個のHPFの平均を示す。結果は、対照の%として示す。図示したように、Cl−IB−MECA処理は、ビヒクル処理群と比べて、分裂指数(P=0.035)を著しく増加させた。
【0070】
増殖細胞核抗原の発現
増殖細胞核抗原(PCNA)は、細胞周期のG後期において及びS相全体にわたって発現する核タンパク質である。PCNAの発現量は、細胞増殖の程度と相関する。部分的肝切除の48時間後、肝臓を回収し、10%の緩衝化ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、5μmの厚さの切片をPCNA染色に付した。ビヒクルのみ又はCl−IB−MECAで処理した後のPCNAの量を、それぞれ図5A及び5Bに示す。図示したように、Cl−IB−MECA治療は、PCNA陽性肝細胞の数を著しく増加させた(図5B)。
【0071】
肝臓の再生
部分的肝切除の24及び48時間後に肝臓を回収し、計量した。
【0072】
残りの肝葉の成長を、以下の式
【数1】

を用いて評価した。
式中、
Aは、肝切除前の推定総肝重量であり(ラットの総重量の3.4%)、
Bは、肝切除中切除された肝臓の重量であり、
Cは、研究の終わりの、再生した肝臓の重量である。
【0073】
示したように、Cl−IB−MECA処理は、肝重量の増加を導き、換言すれば、肝臓の再生速度を加速させた。
【0074】
したがって、AAR作動物質である、Cl−IB−MECAは、切除された肝臓の再生及び肝切除後の肝臓の損傷の予防に有効であると結論付けられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞に、肝細胞の増殖を刺激するのに有効な量のAアデノシン受容体の作動物質(AAR作動物質)を提供することを含む、肝細胞の増殖を刺激する方法。
【請求項2】
前記AAR作動物質が、一般式(I):
【化1】

の範囲内に含まれるプリン誘導体であって、
式中、Rは、C〜C10アルキル、C〜C10ヒドロキシアルキル、C〜C10カルボキシアルキル、若しくはC〜C10シアノアルキル、又は以下の一般式(II):
【化2】

の基であり、
[式中、
Yは酸素、硫黄原子、又はCHであり、
は水素、C〜C10アルキル、RNC(=O)−又はHOR−であって、R及びRは同じであっても異なってもよく、水素、C〜C10アルキル、アミノ、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アミノアルキル、C〜C10BOC−アミノアルキル、及びC〜C10シクロアルキルから選択され、又はともに結合して2〜5個の炭素原子を有する複素環を形成し、RはC〜C10アルキル、アミノ、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アミノアルキル、C〜C10BOC−アミノアルキル、及びC〜C10シクロアルキルから選択され、
は水素、ヒドロキシル、C〜C10アルキルアミノ、C〜C10アルキルアミド、又はC〜C10ヒドロキシアルキルであり、
及びXはそれぞれ独立して水素、ヒドロキシル、アミノ、アミド、アジド、ハロ、アルキル、アルコキシ、カルボキシ、ニトリロ、ニトロ、トリフルオロ、アリール、アルカリル、チオ、チオエステル、チオエーテル、−OCOPh、−OC(=S)OPhである、又はX及びXは両方とも>C=Sと接続して5員環を形成する酸素である、又はX及びXは式(III):
【化3】

(式中、R’及びR’’は独立してC〜C10アルキルである)
の環を形成する]、
は、水素、ハロ、C〜C10アルキルエーテル、アミノ、ヒドラジド、C〜C10アルキルアミノ、C〜C10アルコキシ、C〜C10チオアルコキシ、ピリジルチオ、C〜C10アルケニル、C〜C10アルキニル、チオ、及びC〜C10アルキルチオであり、
は、Rが水素、又はアルキル、置換アルキル、若しくはアリール−NH−C(Z)−(Zは、O、S、又はNRである)から選択される基である、−NR基であり、
が水素であるとき、Rは、R−及びS−1−フェニルエチル、ベンジル、フェニルエチル、又はアニリド基から選択され、それぞれの前記基は非置換である、又は1つ以上の位がC〜C10アルキル、アミノ、ハロ、C〜C10ハロアルキル、ニトロ、ヒドロキシル、アセトアミド、C〜C10アルコキシ、及びスルホン酸若しくはその塩から選択される置換基に置換される;又はRは、ベンゾジオキサンメチル、フルフリル(fururyl)、L−プロピルアラニル−アミノベンジル、β−アラニルアミノ−ベンジル、T−BOC−β−アラニルアミノベンジル、フェニルアミノ、カルバモイル、フェノキシ、若しくはC〜C10シクロアルキルである;又はRは以下の式(IV):
【化4】


の基である;又はRがアルキル、置換アルキル、若しくはアリール−NH−C(Z)−であるとき、Rは置換若しくは非置換ヘテロアリール−NR−C(Z)−、ヘテロアリール−C(Z)−、アルカリル−NR−C(Z)−、アルカリル−C(Z)−、アリール−NR−C(Z)−、及びアリール−C(Z)−から成る群から選択される、
又はAAR作動物質は、以下の一般式(V):
【化5】

のキサンチン−7−リボシド誘導体であって、
式中、
XはO又はSであり、
はRNC(=O)−又はHOR−であって、
及びRは同じであっても異なってもよく、水素、C〜C10アルキル、アミノ、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アミノアルキル、及びC〜C10シクロアルキルから選択され、又はともに結合して2〜5個の炭素原子を有する複素環を形成し、
はC〜C10アルキル、アミノ、C〜C10ハロアルキル、C〜C10アミノアルキル、C〜C10BOC−アミノアルキル、及びC〜C10シクロアルキルから選択され、
及びRは同じであっても異なってもよく、C〜C10アルキル、C〜C10シクロアルキル、R−若しくはS−1−フェニルエチル、非置換ベンジル若しくアニリド基、並びに1つ以上の位が、C〜C10アルキル、アミノ、ハロ、C〜C10ハロアルキル、ニトロ、ヒドロキシル、アセトアミド、C〜C10アルコキシ、及びスルホン酸から選択される置換基に置換されたベンジル基のフェニルエーテルから選択され、
は、ハロ、ベンジル、フェニル、C〜C10シクロアルキル、及びC〜C10アルコキシから成る群から選択される、
又は、上記に定義した化合物の好適な塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記AAR作動物質が、N−ベンジル−アデノシン−5‘−ウロンアミド誘導体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記A3AR作動物質が、N−2−(4−アミノフェニル)エチルアデノシン(APNEA)、N−(4−アミノ−3−ヨードベンジル)アデノシン−5’−(N−メチルウロンアミド)(AB−MECA)、1−デオキシ−1−{6−[({3−ヨードフェニル}メチル)アミノ]−9H−プリン−9−イル}−N−メチル−β−D−リボフラヌロンアミド(IB−MECA)、及び2−クロロ−N−(3−ヨードベンジル)アデノシン−5‘−N−メチルウロンアミド(Cl−IB−MECA)から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記AAR作動物質が、IB−MECA又はCl−IB−MECAである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記AAR作動物質がCl−IB−MECAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
肝臓の損傷又は疾患誘導性損傷後の肝臓における肝細胞の増殖を誘導するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記肝臓の損傷又は疾患誘導性損傷が、肝切除、肝臓の肝硬変、肝悪性腫瘍、アルコール、肝毒性薬物、及びこれらの組み合わせへの曝露、感染体、遺伝子療法の副作用、抗結核剤及び化学療法剤への曝露、又はアセトアミノフェン(APAP)の過剰投与の結果である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
肝細胞の増殖を刺激する方法で使用するためのAAR作動物質。
【請求項10】
肝切除による肝臓の損傷を有する患者を治療する方法で使用するためのAAR作動物質。
【請求項11】
−2−(4−アミノフェニル)エチルアデノシン(APNEA)、N−(4−アミノ−3−ヨードベンジル)アデノシン−5’−(N−メチルウロンアミド)(AB−MECA)、1−デオキシ−1−{6−[({3−ヨードフェニル}メチル)アミノ]−9H−プリン−9−イル}−N−メチル−β−D−リボフラヌロンアミド(IB−MECA)、及び2−クロロ−N−(3−ヨードベンジル)アデノシン−5‘−N−メチルウロンアミド(Cl−IB−MECA)から成る群から選択される、請求項9又は10に記載のAAR作動物質。
【請求項12】
IB−MECA又はCl−IB−MECAである、請求項11に記載のAAR作動物質。
【請求項13】
Cl−IB−MECAである、請求項12に記載のAAR作動物質。
【請求項14】
肝切除による肝臓の損傷を有する患者を治療する薬剤を調製するためのAAR作動物質の使用。
【請求項15】
肝細胞の増殖を刺激するのに有効な量のAAR作動物質を含む、肝細胞の増殖を刺激するための医薬組成物。
【請求項16】
前記AAR作動物質がCl−IB−MECAである、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
肝臓の損傷又は疾患誘導性損傷後の肝臓における肝細胞の増殖を誘導するための、請求項14又は15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記肝臓の損傷又は疾患誘導性損傷が、肝切除、肝臓の肝硬変、肝悪性腫瘍、アルコール、肝毒性薬物、及びこれらの組み合わせへの曝露、感染体、遺伝子療法の副作用、抗結核剤及び化学療法剤への曝露、又はアセトアミノフェン(APAP)の過剰投与の結果である、請求項14〜16のいずれか一項に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−506366(P2012−506366A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529501(P2010−529501)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【国際出願番号】PCT/IL2008/001361
【国際公開番号】WO2009/050707
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(507028608)キャン−ファイト・バイオファーマ・リミテッド (12)
【Fターム(参考)】