説明

肝細胞癌の診断用組成物、これを含んでなる肝細胞癌の診断用キット及び肝細胞癌の診断方法

本発明では、クリスタチンB(クリスタチンB、CSTB)が、肝細胞癌の診断用マーカーとして使用できることが確認される。従って、本発明は、肝細胞癌の診断用マーカーとしてのクリスタチンBを用いる、肝細胞癌の早期診断のための方法、CSTBの発現レベルによる肝細胞癌の進行段階又は予後診断を判断する方法、及びクリスタチンBの発現を調整することにより肝細胞癌の予防又は治療に適用するための方法に関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞癌患者の組織及び体液に存在するシスタチンB(cystatin B)(CSTB、ステフィンB(stefin B))を測定して、肝細胞癌を診断する診断キット、及びこれを用いて肝細胞癌を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍マーカーを用いた癌診断検査にはいろいろな方法があるが、大部分は抗体を用いた血液検査であり、一部は組織抽出液、小便、大便などを用いた検査である。腫瘍マーカーは、癌の発生部位によって様々であり、ヒトの癌を全て検出することが可能な腫瘍マーカーはなく、また適切な腫瘍マーカーのない癌も多いことから、より優れた腫瘍マーカーを用いた癌診断の開発のために、モノクローナル抗体、レーザー光線、放射性同位元素、化学発光プローブ、自動分析装置などを用いた検討が行われている。
【0003】
腫瘍マーカーの中には、体内の特定の癌細胞のみが作ることができて、その異常値が確認されると直ちに特定の臓器の癌を診断し得るものがある。このような関係を「臓器特異性が高い」という。このような部類の腫瘍マーカーには、前立腺と前立腺癌関連抗原(PSA)、胎盤、胚細胞とヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、神経内分泌細胞と神経特異的エノラーゼ(NSE)、内分泌腺と各種ホルモン、神経鞘腫とカテコールアミン(VMA)、肝細胞、胚細胞とαフェトプロテイン(AFP)などがある。ところが、大部分の腫瘍マーカーは、各種臓器で作られるため、特定マーカーの値が高くてもどの部位に生じた癌であるかを決定することが難しい。例えば、CEAやCA19−9などの腫瘍マーカーは、胃、大腸、膵臓、肺などの各種臓器の癌細胞で作られる。従って、そのマーカーが血清中に多量に存在するとしても、それだけではどこに生じた癌であるかを判断することができない。
【0004】
それにも拘らず、癌は早期診断が重要であり、また初期段階の癌患者は何ら自覚症状がないことから、腫瘍マーカーによる癌検診は有用であり、腫瘍マーカーの種類は癌の種類によって非常に様々である。また、一つの検査によって全ての癌を検出することが可能な腫瘍マーカーはなく、有効な腫瘍マーカーのない癌も多いので、より優れた腫瘍マーカーを探索するための検討が続けられている。
【0005】
肝細胞癌は、肝臓に発生する原発性悪性腫瘍を意味する。他の部位の癌細胞が肝臓に転移した癌は、転移性肝癌という。肝細胞癌は、全肝癌の90%以上を占める。この肝細胞癌は、治療をしても患者の40〜80%は再発する。大部分の場合は肝臓に再発するが、肺、リンパ節、腹腔を取り囲んでいる内側壁、縦隔洞などに現れることもある。男性患者と女性患者の割合は、4:1の程度であり、大部分は中年又はそれ以降に発生する。
【0006】
肝細胞癌の原因は、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、アルコール性肝臓疾患、代謝性肝臓疾患、毒性物質などにある。特に、韓国における肝細胞癌患者の65〜80%は、B型肝炎抗原保菌者として知られている。
【0007】
初期段階の肝細胞癌の患者は、症状が現れないが、もし症状が現れたならば、既に進行した段階である。症状は、主に疲労感、腹部痛又は膨満感及び食欲不振である。特徴的な症状は、前胸部で痼りが明らかに感じられることであって、相当進行した状態で現れる。もし腹腔内で肝細胞癌が破裂した場合には、急な腹部痛や膨満感、低血圧、ショックなどが発生する。
【0008】
この肝細胞癌の患者は、腫瘍が進行して死亡したり、同伴する肝硬変症のために死亡する場合もある。従って、肝細胞癌の進行を防ぐと同時に、肝硬変症の進行を防止する治療を施行しなければならない。早期に癌を発見して手術を施行すると、完全に治療することができる。ところが、大幅に進行した癌、肝機能状態が悪い状態または転移性の癌の場合には、手術を行うことができないため、経皮的エタノール注入法、頚動脈化学塞栓法、高周波アブレーション治療などを施行する。
【0009】
肝細胞癌は、予後が良くないので、予防と早期発見が重要である。この疾患の予防及び早期診断のために、B型肝炎ワクチンを接種し、更に慢性肝炎または肝硬変症の患者の場合には、3〜6ヶ月に1回ずつ検診を行う。
【0010】
最近、例えばp53、カテニン(catenin)、Axin1などの腫瘍抑制遺伝子(tumor suppressor gene)または腫瘍遺伝子(oncogene)の突然変異(mutation)が、腫瘍組織で発見されており、これらが肝癌発生に関与するという報告がある。しかしながら、これらの遺伝子の突然変異頻度が非常に低いため、遺伝子の突然変異と肝癌の進行段階との相関関係を判断するのは難しい。従って、肝癌の原因と進行に関する分子生物学的メカニズムは、検討すべき課題として依然として残っている。
【0011】
韓国での肝細胞癌腫は、一般に先行的に肝硬変と共に進行するため、肝硬変を伴う肝組織の場合、肝癌前駆病変と言える非腫瘍性の再生性結節(nonneoplastic regenerating nodule)と悪性肝細胞癌の中間段階を含んでいるものと知られている。このような結節病変を異形成結節(dysplastic nodule)といい、その度合いによって低等級(low grade)異形成結節または高等級(high grade)異形成結節に細分することができる。高等級異形成結節内に、小さな肝細胞癌腫が観察されることにより、肝細胞癌の前癌段階とみなされている。肝癌の前駆病変は、病理学者によって組織形態学的に、初期肝細胞癌、インシチュ癌腫(carcinoma in situ)などに区分されることもあるが、肝癌の前癌段階に対しては、未だ議論の余地があり、このような前癌段階から肝細胞癌への発達過程を説明する分子メカニズムは明確に解明されていない。肝細胞癌は、組織病理学的にEdmondson gradeによって4等級に分けることができる。注目すべき点は、このような腫瘍細胞の分化程度と腫瘍の大きさが、形態学的な変化をよく反映していることであり、このような事実は、肝癌の進行が段階毎に進行することを意味するが、これに対する分子生物学的メカニズムは未だ解明されていない。
【0012】
最近紹介されたDNAマイクロアレイ(microarray)技法は、遺伝子発現の包括的な分析を可能にし、腫瘍学検討に多く活用される最新のゲノム技法の一つである。既に幾名かの研究者が、このような技法によって肝癌の分子発現プロフィールを用いて肝癌の発生についての説明を試みたことはあるが、初期肝細胞癌及び後期肝細胞癌の進行に関連した肝癌発達段階別の大規模な遺伝子群が調査されたことはない。このような調査は、初期肝癌発生過程と後期肝細胞癌の侵襲性及び転移性を理解するのに非常に重要な情報を提供することができるであろう。
【0013】
肝細胞癌の代表的な分子マーカーであるAFPは、肝細胞が形質転換されて癌細胞に脱分化した場合に異常に生成される糖タンパクであって、原発性肝癌、肝炎、肝硬変、卵黄嚢腫瘍などの発見及び治療経過観察に利用される。AFPは、胎児の肝臓または卵黄嚢で主に作られて13週目に最高値を示し、その後は急激に濃度が低くなり正常の成人では極めて低い濃度(正常の場合、7〜10ng/mL以下)で存在する。しかし、AFPレベルの増加は、深刻な癌細胞の増加を意味することもあり、特に肝細胞に関連した癌患者の50〜70%以上でAFPレベルの増加が確認され、一般に血液1mL当たりAFP7〜15ng以下を陰性と判定する。
【0014】
肝癌の場合、肝癌と同時に発症する肝炎及び肝硬変においても、腫瘍マーカーAFPが作られることもあり、その量は500ng/mLの程度までは上昇すると知られている。更に、産婦人科においては、妊婦の血中及び羊水中のAFPの増加が、無脳症、二分脊椎、水頭症などの先天性異常を検出する指標として活用されたりもする。AFPは、特に早期段階の肝癌では低感度と低特異性を示し、肝硬変または慢性肝炎の悪化時にもそれぞれ増加する。従って、DCP(Des-gamma carboxyprothrombin)、PIVKA−II(prothrombin induced by vitamin K absence-II)、AFP−L3(lens cularis agglutinin-reactive)、GPC3(glypican-3)のような幾つかの新規なマーカーが、早期肝癌を診断するマーカーとして使用できるのかどうかの研究が現在行われている。更に、早期段階の肝癌の診断での確率を改良するための別なマーカーが必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明者らは、早期段階の肝癌の生物学的マーカーを開発するために、40症例の肝細胞癌組織と非肝癌組織間の遺伝子発現プロフィールをcDNAマイクロアレイ法で分析し、肝癌組織で差別的に発現する分泌タンパクの遺伝子を選択し、スクリーニングした結果、シスタチンB(CSTB)が早期段階の肝癌の診断マーカーとして用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、CSTB遺伝子の発現レベルを評価する物質、またはCSTBタンパク質の発現レベルを評価する物質を包含する肝細胞癌の診断用組成物を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記肝細胞癌の診断用組成物を含んでなる肝細胞癌の診断キットを提供することにある。
【0017】
本発明の更なる別の目的は、前記肝細胞癌の診断用組成物またはこれを包含する診断キットを用いて、肝細胞癌を診断する方法、または肝細胞癌の進行段階若しくは予後を測定する方法を提供することにある。
【0018】
本発明の更なる別の目的は、CSTB過剰発現細胞株、及び前記細胞株を用いた肝細胞癌の抑制剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【0019】
本発明の更なる別の目的は、CSTB発現抑制剤を包含する肝細胞癌の予防または治療用組成物を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、シスタチンB(CSTB)の核酸またはタンパク質を包含する新規の肝細胞癌の診断マーカーを提供する。
【0021】
本明細書に用いる「診断」という用語は、病理状態を確認することを意味する。本発明の目的上、診断は、肝細胞癌の診断マーカーの発現レベルを評価して、肝細胞癌の発病有無を確認することである。
【0022】
本明細書に用いる「診断用マーカー、診断のためのマーカーまたは診断マーカー(diagnosis marker)」という用語は、肝細胞癌細胞を正常細胞と区分することが可能な物質を意味し、正常細胞に比べて肝細胞癌を持つ細胞で増加または減少レベルで発現する、ポリペプチド、核酸(例えば、mRNA等)、脂質、糖脂質、糖タンパク質及び糖(単糖類、二糖類、オリゴ糖類など)のような有機生体分子を含む。本発明で提供する肝細胞癌の診断マーカーは、正常細胞に比べて、肝細胞癌の細胞で増加レベルで発現するCSTB遺伝子とタンパク質である。
【0023】
CSTBは、タンパク質(肝チオールプロテイナーゼ抑制剤(liver thiol proteinase inhibitor))をコードする遺伝子であって、ヒト(Homo sapiens)CSTBのGeneIDは、1476(NCBI)である。シスタチンサブファミリーは、複数のシスタチンシーケンスを持っているタンパク質を含む。シスタチンのメンバー中の一部分は、活性化されたシステインプロテアーゼ抑制剤(cysteine protease inhibitor)であるが、これに対し、残りはこのような抑制活性を持っていない。シスタチンサブファミリーには、1型シスタチン(ステフィン(stefins))、2型シスタチン及びキニノゲン(kininogens)の3種の抑制ファミリーがあるが、本発明のCSTBは、1型シスタチンであるステフィンを意味する。
【0024】
CSTB遺伝子は、細胞内チオールプロテアーゼ抑制剤として機能するステフィンをコードする。タンパク質は、パパイン(papain)とカテプシン(cathepsin)l、h及びbを抑制する非共有結合力によって安定化される二量体(dimer)を形成することができる。CSTBタンパク質は、リソソームから漏れ出すプロテアーゼに対抗して保護する役割を果たすものと考えられている。この遺伝子の突然変異は、ミオクローヌス癲癇(myoclonic epilepsy)進行中の患者における一次的欠陥として知られているが、肝細胞癌との関連性はよく知られていない。
【0025】
本発明では、対照群、慢性肝炎群、慢性肝硬変群及び肝細胞癌群から得られる、組織と体液のCSTBのmRNAが増加すること、及び血清のような体液の抗原タンパク質レベルが増加することを確認し、CSTBが肝癌の早期診断マーカーとして使用できることを見い出した。
【0026】
そこで、本発明の一態様では、CSTBタンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルを評価できる核酸を包含する肝細胞癌の診断用組成物を提供する。
【0027】
本発明において、核酸は、前記CSTBタンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベル、好ましくはCSTB遺伝子のmRNAレベルを評価できる物質を意味し、このような物質は、CSTB遺伝子に特異的なプライマー対またはプローブを含む。CSTB遺伝子に特異的なプライマー対またはプローブを用いて、CSTBの発現をmRNAレベルで効果的に検出することができる。当業者は、公知の配列を有する遺伝子、特にCSTB遺伝子の特定の部位を、NM−1476(NCBI)によって特異的に増幅するプライマーまたはプローブをデザインすることができる。
【0028】
本明細書の「プライマー」とは、遊離の3個の末端水酸基(free 3 hydroxyl group)を有する短い核酸鎖を意味し、相補的な鋳型(template)と塩基対(base pair)を形成することができ、鋳型を増幅する開始点として機能する。プライマーは、適切な緩衝溶液及び温度で重合反応のための試薬(DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)及び相異なる4つのdNTP(デオキシヌクレオチド三リン酸(deoxynucleoside triphospate))の存在下で、DNA合成を開始することができる。本発明のプライマーは、各マーカーCSTB遺伝子に特異的なプライマーであって、好ましくは7個〜50個のヌクレオチド配列を有するセンス(順方向)及びアンチセンス(逆方向)鎖である。プライマーは、DNA合成の開始点として機能するプライマーの基本性質を変化させないで、追加の応用を組み込むことができる。更に、本発明のプライマー配列は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段によって直接または間接的に検出可能な標識を含むことができる。標識の例としては、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、放射性同位元素(例えば、32P)、蛍光性染料、化学基(例えば、ビオチン)などがある。本発明のプライマー対は、順方向及び逆方向のプライマーからなる全ての組み合わせのプライマー対を含むが、好ましくは、特異性及び敏感性を持つ分析結果を提供するプライマー対である。
【0029】
本発明における「プローブ」とは、mRNAと特異的な結合ができる短くは数塩基対から、長くは数百塩基対であるRNAまたはDNAのような核酸の断片を意味し、特定のmRNAの存在有無を確認するように標識される。プローブは、オリゴヌクレオチドプローブ、単鎖DNA(single stranded DNA)プローブ、二重鎖DNA(double stranded DNA)プローブ、RNAプローブなどの形で製作できる。
【0030】
本発明のプライマーまたはプローブは、ホスホルアミダイト固体支持体方法、またはその他の従来の方法を用いて化学的に合成することができる。このような核酸配列は、また、当該技術分野で公知の方法を用いて修飾することができる。このような修飾の例として、これらに限定されないが、メチル化、キャップ化、天然ヌクレオチドの1つ又はそれ以上の相同体での置換、及びヌクレオチド間の修飾、例えば荷電されていないリンカー(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カーバメイトなど)または荷電されたリンカー(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)が含まれる。
【0031】
標的遺伝子の配列は公知であり、当業者であれば、既存のデータベースに基づいて標的遺伝子内の配列ハイブリダイゼーションのような変数を考慮し、特異性及び敏感性の高い多様なプライマー対の組み合わせを容易に決定することができる。本発明の具体的な態様では、配列番号1、2、3及び4のプライマーを用いてCSTB遺伝子の発現を、mRNAレベルで評価した。
【0032】
本発明において、前記CSTBタンパク質の発現レベルを評価できる物質としては、CSTBタンパク質に対して特異的に結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及び組み換え抗体などの「抗体」を含む。前述したように、肝癌の診断マーカータンパク質が見い出されたので、この診断マーカータンパク質を用いて抗体を生成することは、当業者であれば、公知の方法を用いて容易に行うことができる。ポリクローナル抗体は、CSTB抗原を動物に注射し、次いで動物から採血して抗体含有血清を収得する、当該技術分野で公知の方法によって製造することができる。このようなポリクローナル抗体は、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、サル、ウマ、ブタ、ウシ、イヌなどを含む何れかの動物種宿主から製造可能である。モノクローナル抗体は、当該技術分野で公知のハイブリドーマ方法(hybridoma method)(Kohler and Milstein (1976), European Jounral of Immunology 6:511-519)、またはファージ抗体ライブラリー技術(Clackson et al, Nature, 352:624-628, 1991; Marks et al, J. Mol. Biol., 222:58, 1-597, 1991)を用いて製造できる。
【0033】
更に、本発明の抗体は、2本の全長の軽鎖及び2本の全長の重鎖を持つ完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的な断片を含む。抗体分子の機能的な断片とは、少なくとも、例えば、Fab、F(ab’)、F(ab’)2及びFvのような抗原結合機能を保有している断片を意味する。
【0034】
本発明の別の態様では、CSTBタンパク質またはこれをコードする遺伝子の発現レベルを評価できる肝細胞癌の診断用組成物を包含する肝細胞癌の診断キットを提供する。
【0035】
本発明の診断キットは、分析方法に適した1種またはそれ以上の組成物、溶液または装置をさらに包含してもよい。前記診断キットは、RT−PCRを行うための必須要素を包含する診断マーカー検出用キットに関するものである。RT−PCRキットは、マーカー遺伝子に対する特異的なプライマー対、更にテストチューブまたは適切なコンテナー、反応緩衝液(種々のpH及びマグネシウム濃度)、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq−ポリメラーゼ及び逆転写酵素のような酵素、DNase抑制剤、RNase抑制剤、DEPC−水、滅菌水などを含んでもよい。RT−PCRキットは、定量的な対照として使用される遺伝子に特異的なプライマー対を更に含んでいてもよい。更に、好ましくは、前記診断キットは、マイクロアレイ法を行うための必須要素を包含するDNAチップであってもよい。DNAチップは、遺伝子またはその断片に対応するcDNAまたはオリゴ塩基が付いている基板を含んでいてもよい。
【0036】
更に、本発明においてタンパク質レベルを評価する物質が、好ましく抗体の場合、前記診断キットは、ELISAを行うための必須要素を包含する診断キットであってもよい。このようなELISAキットは、結合した抗体を検出する試薬、例えば標識された2次抗体、発色団(chromophores)、酵素(例えば、抗体と接合)及びその基質を含んでいてもよい。また、定量的な対照タンパク質に特異的な抗体を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の別の態様では、CSTB遺伝子またはCSTBタンパク質の発現レベルを評価して肝細胞癌を診断する方法、または前記の方法で肝細胞癌の進行段階または予後を測定する方法を提供する。
【0038】
より具体的には、遺伝子の発現レベルを、mRNAまたはタンパク質のレベルで評価することができる。これは公知の技術を用いて、生体サンプルからmRNAまたはタンパク質を単離する公知の工程を含んで実施できる。
【0039】
本明細書に用いる「生体サンプル」とは、肝細胞癌の発生によってCSTB遺伝子の発現レベルが異なる、組織、細胞、血液、血清、血漿、唾液、痰、脳脊髄液または尿などのサンプルを含むが、これらに限定されるものではない。
【0040】
mRNAレベルを評価するための分析方法としては、RT−PCR、競合RT−PCR、リアルタイムRT−PCR、RNaseプロテクションアッセイ、ノーザンブロット法またはDNAチップを含むが、これらに限定されるものではない。前記分析方法によって、対照におけるmRNA発現レベル、及び肝細胞癌の患者または肝細胞癌の疑いのある患者におけるmRNA発現レベルを評価することができ、そして肝細胞癌の発症は、mRNAの有意な発現レベルを対照と比較して測定することにより予測することができる。
【0041】
CSTBタンパク質のレベルを評価するために抗体を用いる場合、生体サンプル内のCSTBマーカータンパク質及びこれに特異的な抗体は、結合物を形成し、これを本発明では「抗原−抗体複合体」と表現する。
【0042】
抗原−抗体複合体の量は、検出標識(detection label)のシグナルの大きさによって定量的に測定可能である。このような検出標識は、酵素、蛍光物、リガンド、発光物、微小粒子(microparticle)、レドックス分子及び放射性同位元素よりなるグループの中から選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
本発明の具体的な態様では、組織におけるCSTB遺伝子のmRNA発現の増加を、cDNAマイクロアレイ方法及びノーザンブロット分析で観察し、血清のCSTB分泌タンパク質を、サンドイッチELISA法によって測定した。更に、組織におけるCSTB抗原に対する免疫組織化学法を実施して、CSTB抗原の発現増加と肝細胞癌の発症進行との関係を検討した。
【0044】
ノーザンブロット法のオートラジオグラム(auto-radiogram)を、定量及び統計分析のために、LAS3000システム(Fuji photo-film、日本)を用いてスキャンしてシグナル強度を測定した。肝細胞癌組織の発現レベルは、非肝細胞癌組織wpベースにして18S rRNAの発現レベルで標準化した。各群間のCSTB測定値は、対応のないT検定(unpair-t test)またはマンホイットニー検定(Mann-Whitney test)によって検査した。P<0.05のとき、有意基準を定めた。肝細胞癌診断においてCSTBまたはAFPのカットオフ値を決定するために、MedCalcソフトウェアを用いてROC(receiver-operating charactenstic)曲線分析を実施した。最良の診断的正確性を持つCSTB及びAFPの最適カットオフ値は、MedCalcプログラムによって偽陰性率と偽陽性率との和が最小となる点で、自動的に決定した。各々の全体診断的値は、曲線下面積(ROC)によって示された。
【0045】
前記分析方法によって、正常対照群と肝細胞癌の疑いのある患者における遺伝子の発現レベルを比較することにより、患者が肝細胞癌であるのか否かを診断することができ、肝細胞癌の進行段階または予後を判断することができる。
【0046】
本発明の別の態様では、組み換え発現ベクターを導入したCSTB過発現細胞株にCSTB発現抑制剤の候補物質を処理し、処理された細胞と対照のmRNAまたはタンパク質の発現レベルを比較して、CSTB発現抑制剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0047】
本発明に用いる「組み換えベクター」とは、適当な宿主細胞で標的タンパク質または標的RNAを発現することが可能なベクターであって、遺伝子挿入物の発現を作動するのに必須の調節要素を含む遺伝子構築物をいう。本明細書に用いる「作動可能に連結された」とは、一般な機能を行うように、核酸発現を規制する調節配列と標的タンパク質またはRNAをコードする核酸配列を機能的に連結(functional linkage)されていることをいう。例えば、プロモータとタンパク質またはRNAをコードする核酸配列が作動可能に連結され、標的タンパク質またはRNAをコードする核酸配列の発現に影響を及ぼすことができる。組み換えベクターとの作動可能の連結は、当該技術分野で公知の遺伝子組み換え技術を使用し作製でき、部位−特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野で一般に知られている酵素などを使用して実施される。
【0048】
本発明のベクターの例は、プラスミドベクター、コスミッドベクター、バクテリオファージベクター及びウィルスベクターなどを含むが、これらに限定されるものではない。適切な発現ベクターの例は、プロモータ、オペレータ、開始コドン、終結コドン、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーなどの発現調節エレメント、更に、膜標的化または分泌のためのシグナル配列またはリーダー配列を含み、目的に応じて多様に製造できる。ベクターのプロモータは、構成的または誘導性である。更に、発現ベクターは、ベクターを含有する宿主細胞を選択するための選択マーカーを含み、複製可能な発現ベクターは、複製源を含む。
【0049】
シグナル配列は、宿主がエシェリキア属菌の場合はPhoAシグナル配列、OmpAシグナル配列などであり、宿主がバシラス属菌の場合はα−アミラーゼシグナル配列、サブチリシンシグナル配列などであり、宿主が酵母の場合はMFシグナル配列、SUC2シグナル配列などであり、宿主が動物細胞の場合はインスリンシグナル配列、α−インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などであるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
形質転換する方法は、核酸を有機体の細胞、組織または器官に導入する方法の何れかを含み、そして当該技術分野で公知の宿主細胞に応じて適切な標準技術を選択して実施することができる。このような方法には、エレクトロポレーション法(electroporation)、細胞質融合、リン酸カルシウム(CaCl2)、沈殿、シリコンカーバイド繊維介在の形質転換、アグロバクテリウム介在の形質転換、PEG、硫酸デキストラン、リポフェクタミンなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
発現量と修飾が、宿主細胞によって異なるので、目的に最も適した宿主細胞を選択して使用することができる。宿主細胞の例としては、大腸菌(Esherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ストレプトミセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、プロメテウスミラビリス(Prometeus mirabilis)またはブドウ球菌(Staphylococcus)のような原核細胞を含むが、これらに限定されるものではない。更に、宿主細胞としては、真菌(例えば、アスペルギルス(Aspergillis)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、アカパンカビ(Neurospora Crassa))のような下等真核細胞、そして昆虫細胞、植物細胞及び哺乳動物などを含む高等真核生物由来の細胞を使用することができる。
【0052】
本発明の具体的な実施例では、組み換えベクターで形質転換された、CSTBタンパク質を過発現するHep3B細胞株を提供する。Hep3B細胞株は、本発明によるCSTBタンパク質を過発現するヒトの肝癌細胞である。Hep3B細胞株を、CSTB発現の抑制剤で処理して、その発現パターンを観察することにより、肝細胞癌を抑制する抗癌剤のスクリーニングに用いることができる。
【0053】
本発明の具体的な態様によるCSTB発現抑制剤のスクリーニング方法は、CSTBタンパク質を発現する細胞を培養すること、前記細胞にCSTB発現抑制剤の候補物質を処理すること、そしてそれを候補物質で処理していない対照の細胞における肝細胞癌の診断マーカー(タンパク質、mRNA)の発現レベルと比較することの工程を包含する。本発明のこのようなスクリーニング方法を用いて、CSTB発現を抑制し、肝癌細胞を効果的に治療することができる抗癌剤を探索できる。
【0054】
スクリーニング方法としては、CSTB遺伝子の発現レベル、好ましくはmRNAレベルを、プライマーまたはプローブを用いて測定する方法を用いることができ、その中でもRT−PCR法が、好ましい。対照細胞と比較して診断マーカーの発現を低減できる抑制剤を選別して、肝細胞癌の治療に使用することができる。
【0055】
本発明の別の態様では、CSTB発現の抑制剤を包含する肝細胞癌の予防または治療用組成物を提供する。具体的な態様として、本発明は、CSTB遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンスRNA及び相補的なセンスRNA鎖を含む前記CSTB発現の抑制剤を包含し、更に、CSTB遺伝子に特異的なRNA干渉(RNA interference)を誘導するsiRNAを包含する肝細胞癌の予防または治療用組成物、及びCSTBタンパク質に特異的な抗体を包含する肝細胞癌の予防または治療用組成物を提供する。
【0056】
本明細書に用いる「siRNA」という用語は、標的遺伝子のmRNAの切断(cleavage)を介してRNA干渉(RNAi:RNA interference)を誘導することができる二重鎖RNAを意味し、これは、標的遺伝子のmRNAと相同の配列を持つセンスRNA鎖と、このセンスRNA鎖に相補的な配列を持つアンチセンスRNA鎖から構成される。siRNAは、標的遺伝子の発現を抑制することができ、効率的な遺伝子ノックダウン法または遺伝子治療法(gene therapy)として提供される。
【0057】
siRNAは、RNA同士が完全に対を成す二重鎖RNA部分の部位に限定されるもではなく、ミスマッチ(mismatch)(対応する塩基が相補的ではない)、バルジ(bulge)(一方の鎖に対応する塩基がない)などによって完全な対を成さない二重鎖RNA部分の部位を含んでいてもよい。それらの全長は、10〜80塩基対、好ましくは15〜60塩基対、さらに好ましくは20〜40塩基対である。siRNAの末端構造は、平滑末端または付着末端が可能である。付着末端は、3末端または5末端が突き出た末端であり、突き出た塩基数は限定されるものではなく、例えば、塩基数としては1〜8塩基、好ましくは2〜6塩基にすることができる。更に、siRNAは、標的遺伝子の発現を抑制する効果を維持する範囲で、例えば、一末端の突出部分に低分子RNA(例えば、tRNA、rRNA、ウィルスRNAのような天然のRNA分子または人工のRNA分子)を含んでいてもよい。siRNA末端構造は、両側とも切断構造を持つ必要はなく、二重鎖RNAの一方の末端部位がリンカーRNAによって接続されたステムループ型構造であってもよい。リンカーの長さは、ステム部分の対を成すのに支障がない長さであれば特に限定されるものではない。siRNAを製造する方法は、インビトロでsiRNAを合成した後、細胞内に形質導入する方法と、siRNAを細胞内で発現するsiRNA発現ベクターまたはPCR由来のsiRNA発現のカセットを細胞内に遺伝子送達または形質導入する方法がある。
【0058】
本明細書に用いる「特異的(な)」という用語は、細胞内で他の遺伝子に影響を及ぼさずに標的遺伝子のみを抑制する能力を意味し、本発明ではsiRNAは、CSTBに特異的である。
【0059】
本発明のsiRNAは、CSTBのmRNAを特異的に減少させることができ、その配列と長さは特に限定されるものではない。前記遺伝子特異的なsiRNAを包含する組成物は、細胞の死滅を抑制する追加の物質を含んでもよく、また、siRNAの細胞内流入を促進させる製剤を含んでもよい。siRNAの細胞内流入を促進させる製剤には、一般に核酸流入を促進する製剤を使用することができる。例えば、リポソームを用いるか、コレステロール、コレート(cholate)及びデオキシコレートのようなステロール類から選ばれる親油性担体と混合することもできる。更に、ポリ−L−リジン(poly-L-lysine)、スペルミン(spermine)、ポリシラザン(polysilazane)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリジヒドロイミダゾレニウム(polydihydroimidazolenium)、ポリアリルアミン(polyallylamine)、キトサンなどの陽イオン性高分子(cationic polymer)を用いることもでき、サクシニル化(succinylated)PLL、サクシニル化PEI、ポリグルタミン酸(polyglutamic acid)、ポリアスパラギン酸(polyaspartic acid)、ポリアクリル酸(polyacrylic acid)、ポリメタクリル酸(polymethacylic acid)、硫酸デキストラン(dextran sulfate)、ヘパリン(heparin)、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)などの陰イオン性高分子(anionic polymer)を用いることもできる。
【0060】
CSTBタンパク質に特異的な抗体が治療用抗体として使用される場合、抗体は既存の治療剤と直接に、またはリンカーなどを介して間接にカップリング(例えば、共有結合)させることができる。抗体と結合できる治療剤には、放射性核種(radionuclide)、薬剤、リンホカイン、毒素、異型機能性抗体などがあるが、これらに限定されるものではない。(1)131I、90Y、105Rh、47Sc、67Cu、212Bi、211At、67Ga、125I、186Re、188Re、177Lu、153Sm、123I、111Inなどの放射性核種(radionuclide)、(2)メトトレキサート(methotrexate)、アドリアマイシン(adriamycin)及びインターフェロンなどのリンホカインを含む生物学的修飾体または薬剤、(3)リシン、アブリン、ジフテリアなどの毒素、(4)異型機能性抗体(heterofunctional antibody)、すなわち他の抗体と結合して、その複合体が癌細胞とエフェクター細胞(例えば、T細胞などのキラー細胞(killer cell))に結合する抗体、(5)自然な、すなわち連関していない、または複合されていない抗体。
【0061】
抗体は、それ自体、または抗体を包含する組成物として投与することができる。
【0062】
治療用組成物は、投与経路に応じて薬学的に許容できる担体と共に調製することができる。好ましい投与経路は、公知であり、一般に膜通過を容易にする界面活性剤が含まれる。このような界面活性剤としては、ステロイドから誘導されたもの、またはN−[1−(2,3−ジオレオイル)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA)などの陽イオン性脂質、またはコレステロールヘミスクシネート、ホスファチジルグリセロールなどの各種化合物などがある。
【0063】
本発明の抗体を包含する組成物は、癌細胞またはそれらの転移を治療するのに薬学的に有効な量で投与できる。
薬学的組成物は、単一または組み合わせで投与できる。抗体を包含する組成物は、皮下、腹腔内、肺内及び鼻腔内の経路で投与され、そして免疫抑制剤治療のために必要であれば、病変再投与を含む適切な方法によって投与される。非経口投与には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。好ましい投与経路及び製剤は、静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などである。製剤のpHは、抗体安定性(化学的及び物理的安定性)を調整し、投与のための他の技術を適切に修正して、これにより適切な製剤を設計することができる。一般的な投与量のレベルは、標準的な方法を用いて最適化することができる。また、本発明の抗体は、抗体をコードする核酸の形で投与され、細胞内で抗体を生成するようにできる(WO96/07321)。
【0064】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明を説明する目的のためのものであって、これらの実施例により本発明の範囲を限定することを意図しているものではない。
【実施例1】
【0065】
肝細胞癌組織及び非肝細胞癌組織からの総RNAの単離
肝細胞癌の組織及びその周りの非肝細胞癌の組織を、40名の肝細胞癌患者から手術的に切除して、検討を実施した。本検討は、全北(Chonbuk)大学校病院研究倫理委員会の承認を受けた。40名の肝細胞癌患者は、根治治療のために手術を受け、癌組織と周囲の肝硬変性組織は、この切除された肝組織から得た。書類による同意を受けて、肝細胞癌と非肝癌組織は、病理学者によって組織学的に確認された。切除の後、この組織は、滅菌されたリン酸緩衝液で洗い、総RNA単離のために窒素タンク内に保管した。総RNAは、トリゾールキット(Trizol Kit)(MRC社、米国)によって抽出し、電気泳動によってRNAの質を確認し、切除された組織の一部は、10%ホルマリン緩衝液に固定し、パラフィン包理して標準的な組織病理学的分析を実施した。このプロトコールは、研究倫理委員会の倫理指針に基づいて行い、肝細胞癌組織及び周囲の非肝細胞癌組織から総RNAを、それぞれトリゾール(Trisol)溶液を用いて抽出した。
【実施例2】
【0066】
肝細胞癌の遺伝子プロフィール
実施例1で抽出した肝細胞癌組織と非肝細胞癌組織の総RNAを、まず約3000個の遺伝子が搭載されたcDNAマイクロアレイでハイブリダイゼーションし(hybridized)、次いで蛍光標識cDNAを製作して、教師無し階層的クラスター分析(unsupervised hierarchical clustering analysis)によって2群の主グループに分けた。統計プログラムによって、FDR(偽発見率)1%以下で、非肝細胞癌組織と肝細胞癌組織を区別することが可能な遺伝子を同定した。
【0067】
肝細胞癌組織及び周囲の非肝細胞癌組織からの総RNAは、トリゾール溶液を用いて抽出し、そして蛍光標識cDNAを製作して、マイクロアレイでハイブリダイゼーションした。単離した総DNA100μgを14μLに溶解させ、次いでスーパースクリプト(SuperScript)II逆転写酵素、0.5mMのdATP、dGTP、dCTP及び0.2mMのdTTPを追加し、それぞれ0.1mMのCy5−dUTPまたはCy3−dUTPを入れて、40μLの最終容量で、標識化は42℃で2時間行い、500mMのEDTA5μLを加えて終了させた。標識されていないRNAは、1NのNaOH10μLを加えて、65℃で30分間加水分解し、25μLのTris HCL(pH7.5)を加えて中和した後、バイオスピン(Biospin)6カラムを用いて、標識されていない塩基と塩を除去した。標識されたプローブは、イソプロパノールで沈殿した後、ハイブリダイゼーション緩衝液に溶かした。溶かしたプローブは、スライド上に置き、次いでハイブリッドスリップ(hybrid-slip)で覆い、ハイブリダイゼーションチャンバーに入れて65℃で一晩反応させた。ハイブリダイゼーションの後、スライドは、1×SSC/0.1%のSDS、0.1×SSC/0.1%のSDS(50)、0.1×SSC緩衝液で各10分間洗浄した。反応終了のスライドは、Quantarrayプログラムを用いてスキャンし、ImaGene4.2(Biodiscovery)プログラムを用いて分析した。
【0068】
Cy5及びCy3の蛍光強度は、ImaGeneプログラムを用いて、局所のバックグラウンド補正(local background correction)を実施し、全体スポットを用いて標準化した。スポットの定性分析は、次の基準を使用して実施した。(シグナル平均値−バックグラウンド平均値)/バックグラウンド値の値が、SD>2.0以上のスポットのうち、平均シグナルが局所バックグラウンドの1.5倍以上の基準を通過するスポットを分析に使用した。この基準は、全アレイのスライドの分析に同様に適用した。
【0069】
癌腫の分類は、Webサイトで利用することが可能な「クラスター(Cluster)」と「ツリービュー(TreeView)」を用いて分析した。使用したサンプルのうち80%以上で測定できるアレイ要素のみを分析対象とした。分析の前、各スポットの蛍光比は、対数変換(log-transformation)を経た後、実験的偏差(experimental biases)を除去するために中央値センタリング(median centering)を行った。統計学的処理は、SAM(Significance analysis of microarray)プログラムによって有意な遺伝子を点数化した。肝細胞癌組織と非肝細胞癌組織の80%以上で発現する遺伝子を選択し、全体遺伝子の発現パターンとの類似性に基づいて、全ての組織に対して階層的クラスター分析を試みた。
【0070】
全組織は、主要な癌と非癌組織クラスターに分けられ、非肝癌組織の1症例のみが肝細胞癌クラスターに属した。肝細胞癌組織では、非肝細胞癌組織と比べて、248遺伝子が過剰発現し、149遺伝子が過小発現した(underexpressed)。そのうち、肝細胞癌と非肝細胞癌における発現が、差別化される上位20余個の遺伝子を、表1及び表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
分泌タンパク質をコードする遺伝子CSTBが、肝細胞癌組織で選択的に過剰発現されることは、重要な診断的価値を持っている。そこで、組織及び体液を含む生体サンプルで、CSTB RNA及びタンパク質の発現を評価し、それにより肝細胞癌の診断及び予後指標として使用できることを確認した。
【実施例3】
【0074】
肝細胞癌群とそれに対応する非肝細胞癌群におけるCSTB発現の分析
(1)ノーザンブロット分析(Northern blot analysis)
肝細胞癌及び非肝細胞癌の総RNAの20μgを含有するサンプルを、2.2%のホルムアルデヒド及び50mMの3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS:3-(N-morpholino)propanesulfonic acid)を含有する1%のアガロースに添加し、次いでナイロン膜に移して、UVクロスリンカー(stratagen、米国)で処理した。ブロットを、[32P]dCTP(NEN)で標識された2×106cpm/mLのCSTB cDNAプローブで無作為プライミング(random-priming)によって一晩ハイブリダイゼーションし、そして洗浄の後、−70℃でX−Omat ARフィルム(Kodak)に露出させた。ブロットは、ストリップ(stripped)し、負荷対照群(loading control)として18Sリボソームタンパク質遺伝子のcDNAと再ハイブリダイゼーションを行った。ノーザンブロットによってCSTB mRNAが、非肝細胞癌組織に比べて肝細胞癌で差別化されて発現されることを確認した(80%)(図1)。ノーザンブロット用の膜は洗浄し、18S cDNAで再ハイブリダイゼーションして比較負荷試験用のプローブとした。各癌組織の非癌組織に対する相対的発現は、18S発現で標準化して決定した。図1の下方のヒストグラムは、肝細胞癌で増加したCSTB mRNAレベルを18S mRNAの発現量で標準化して非肝細胞癌に対する割合で定量化したものであって、30症例中の24症例(80%)で非肝細胞癌に比べて肝細胞癌で1倍以上のCSTB mRNA増加が観察された。
【0075】
図2aは、40名の患者からの肝細胞癌組織とそれに対応する非肝細胞癌組織のマイクロアレイ結果を、教師無し階層的クラスター分析(Unsupervised hierarchical clustering)で分析したものを示す。各行は、各々の遺伝子を示し、各列は、患者を示す。赤色は遺伝子が過剰発現した場合を示し、緑色は遺伝子が過小発現した場合を示し、目盛線はlog2をベースとする対数目盛である。図2bの樹状図(dendrogram)では、2つの大分類、すなわち非肝細胞癌と肝細胞癌を示した。肝細胞癌組織のCSTB遺伝子の位置の大部分が、赤色で観察されて、肝細胞癌組織でCSTBが過剰発現したことが分かる。
【0076】
(2)逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を用いたcDNAの増幅
総RNAを、組織または培養細胞株からフェノール及びGTC溶液(グアニジンチオシアネート溶液(guanidine thiocyanate solution)、Tri Reagent;Molecular Research Center, Inc. Cincinnati, OH)を用いて抽出した。40u/μLのRNAse抑制剤を加えて、cDNAを合成した。cDNAは、tRNA沈殿物に5倍容量の逆転写酵素緩衝液、8μLのオリゴ10量体プライマー(oligo decamer primer)(500ng/mL、4μL)、250μMのdNTP3.2μL及びスーパースクリプト(superscript)RTase(200U/μL)の2μLを加えて、総反応容量40μLで37℃にて50分間反応させて、cDNAを調製した。このcDNAに基づいて、2μLのcDNA、CSTB mRNAの非解読部位5’を含む、順方向プライマー(5’−GTCGCCGCCAAGATGATGTGC−3’;配列番号1または5’−TGTCATTCAAGAGCCAGGTG−3’;配列番号2)及び逆方向プライマー(5’−GAAATAGGTCAGCTCATCATG−3’;配列番号3または5’−GCTCTGGTAGACGGAGGATG−3’;配列番号4)のそれぞれ10μMを加え、そして2.5mMのdNTP4μL、10倍の逆転写酵素緩衝液5μL、10mMのMgCl23μL、Taqポリメラーゼ0.5μLを混合して、全体を50μLの反応容量とし、そして反応を完結した。この時、94℃で3分間変性させた後、94℃1分間の変性、50℃1分間のアニーリング、72℃1分間の伸展を1サイクルとして35回繰り返して、反応を完結した。PCR産生物は、2%のアガロースゲルに分割した。
【0077】
(3)遺伝子発現の検出プライマー(配列番号1と3または配列番号2と4)によるCSTB mRNA発現の分析
肝細胞癌組織とそれに対応する非肝細胞組織からmRNAを抽出して、無作為8量体(octamer)オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて逆転写酵素の下でcDNAを合成した。鋳型としてのcDNA、順方向及び逆方向プライマー並びにTaqポリメラーゼを用いて、PCRを実施した。
【0078】
配列番号1と3のCSTB mRNAの非解読部位5’を含む順方向プライマー、及び解読部位を含む逆方向プライマーによるPCRの結果として、癌組織(T)でのみ選択的にmRNAが発現されて、306塩基に該当するバンドが観察された(図3a)。15症例中の12症例の肝細胞癌(80%)では、CSTB mRNAが過剰発現されることを確認した。配列番号2と4のCSTB mRNA解読部位を含む順方向プライマー及び逆方向プライマーによるPCRの結果として、240塩基に該当するバンドが観察された(図3b)。
【0079】
(4)免疫ブロット免疫蛍光染色及び免疫化学染色
細胞または血清からアプロチニン(1トリプシンunit/mL)、ロイペプチン(10μg/mL)及びペプスタチンA(10μg/mL)を含む1%のトリトン(Triton)X−100でタンパク質を抽出し、次いでSDS−PAGEを実施した。電気泳動したゲルを、ニトロセルロース膜に移した後、非特異的な結合は、Tween20トリス緩衝溶液中の5%の乾燥スキムミルクにて遮断した。室温で1次抗体としての抗ヒトCSTB抗体を膜に加えて、室温で1時間置いた。その後HRP酵素が結合した2次抗体を加えて、1時間室温で置き、発光試薬ECL(Amersham Bioscience社)を加えてタンパク質バンドのシグナルを検出した(Henikoff S, Gene (Amst) 1984; 28: 351-59)。CSTBタンパク質を検出するために、RJMW2E7モノクローナル抗体(LBS社)を用いた。抗体のCSTBタンパク質に対する免疫反応性の特異性を決定するために、GFP標識のCSTBまたはMyc標識のCSTB発現ベクターを293T細胞株に導入し、そして免疫ブロットを実施して抗体の免疫反応性を分析した。導入されたCSTB cDNAは、C−末端部位にGFPまたはMycタンパクで標識され、その後抗GFP抗体(Santa Cruz、FL、米国)または抗Myc抗体(9E10、Santa Cruz)を用いて免疫ブロットを行った。マウスモノクローナル抗体、RJMW2E7は、CSTBのバンドが特異的に検出されることが分かった(図4)。矢印は、CSTBタンパクを示すものであり、モノクローナル抗体RJMW2E7は、特異的にGFPまたはMyc標識されたCSTBタンパク質に結合することを確認した。
【0080】
他の方法として、免疫蛍光染色法でGFP標識のCSTB発現ベクター(pEGFP−C2−CSTB)と対照空ベクター(pEGFP−C2)を、Hep3Bと293T細胞株に導入して、モノクローナル抗体RJMW2E7の免疫反応性を測定した。免疫蛍光染色のために、細胞をカバースリップに培養し、GFP標識のCSTBプラスミドを導入した。対照実験はベクター単独で実施した。細胞は、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、0.2%のTriton含有のリン酸緩衝溶液で透過性を誘導し、そして1%のBSAで遮断した。その後、細胞をマウスモノクローナル抗体RJMW2EM中に置いて、そしてTRITC(蛍光標識の抗マウス抗体)中にさらに置いた。最終洗浄の後、細胞の核は、1mg/mLのHoechst33258に15分間染色し、50%グリセロールでマウントし、レーザースキャン顕微鏡(LCM510 Zeiss、ドイツ)で観察した。
【0081】
蛍光及び透過画像を比較してみると、GFP標識のCSTBの外因的発現は、主に核または細胞質で示された。これは以前の報告と一致し、赤色蛍光のCSTBの免疫反応性と完全に重なり、GFP標識のCSTBの内因的発現は、RJMW2E7によって主に細胞質で示されることが分かった(図5)。GFPタンパク及びCSTBタンパクの免疫反応性が完全に重なり、結果としてRJKMW2E7抗体が特異性をもつことが分かる。
【0082】
次に、RJMW2E7抗体を用いて、肝細胞癌組織とそれに対応する非肝細胞癌組織で、パラフィン包理のCSTB発現を分析した。
【0083】
免疫ストレプトアビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ(streptavidin-biotin-peroxidase)(Biomedia, Foster City, CA)試薬を用いて、免疫組織化学染色を行った。正常組織及び肝細胞癌組織を、一般的な病理組織処理法である、10%のホルマリンに固定し、そしてパラフィンに包理した。この組織からキシレンでパラフィンを除去し、1Mのトリス緩衝液で洗浄し、メタノール過ヨウ素酸を用いて40℃で2分間内因性ペルオキシダーゼを不活性化した。組織切片は、1次CSTBモノクローナル抗体の下に40℃で9分間、その後ビオチン抗ウサギ免疫グロビンに40℃で4分間置く。その後、組織切片は、3−アミノ−9−エチルカルバゾール(3-amino-9-ethylcarbazole)、0.05%の過酸化水素及びpH5.2の緩衝液で現像した。陰性の対照は、生理的食塩水またはマウスIgG1免疫グロブリンを1次抗体の代わりに使用して、染色した。
【0084】
図6の(A)は、肝細胞、血管及び胆管を含むCSTB陰性の正常肝部位を示し、(B)は、肝細胞癌組織が、CSTB抗体により非肝細胞癌組織に比べて選択的に強く染色されることを示している。(C)は、細胞質または核にCSTB抗原タンパクの顆粒状沈着を示すCSTB陽性肝細胞癌組織であり、(D)は、細胞質と核で染色するCSTBを示す侵襲性肝細胞癌である。すなわち、CSTBは、肝細胞癌組織で選択的に発現されており、大部分の肝細胞癌組織の細胞質で陽性反応を示し、稀に細胞質と共に核からも観察されることを確認した。
【実施例4】
【0085】
肝疾患の種類及び進行段階による血清CSTB値の測定
人口統計学及び臨床情報をベースに、グループ1(G1)は、過去に肝疾患がなく、正常な肝生化学的所見を示す健常者群であり、グループ2(G2)は、組織学的に確認された非肝硬変性慢性肝炎患者群であり、グループ3(G3)は、代償性及び非代償性肝疾患を持つ組織学的または臨床的に確認された肝硬変患者群であり、グループ4(G4)は、組織学的に確認された肝細胞癌患者群である、の4群に分けて血清を収集した。
【0086】
潜在的な肝疾患の原因は、血清B型肝炎表面抗原が陽性であるB型肝炎、血清C型ウィルス抗体とウィルスRNAが検出されるC型肝炎、及び患者が少なくとも15年間以上1日に40g以上のアルコールを摂取したアルコール性肝疾患、に基づている。原因が不確実な肝疾患は、原因不明の肝疾患に分類した。血清は、遠心分離の後に、直ちに−20℃で保管した。
【0087】
癌組織の発現パターンに関連し、血清CSTBは、局所的な発現、及びタンパク質分泌の形態で全身的な発現をする可能性がある。したがって、サンドイッチELISA法によって、G1グループの52症例、G2グループの53症例、G3グループの43症例、G4グループの62症例で、血清CSTB値を測定した。結果は、2回の独立的測定の平均値であり、各群間の平均値は、マンホイットニー検定によって統計学的有意性を検証した。有意性は、P<0.05によって決定した。4群は、性別、年齢、原因によって分類した。年齢は、G2からG4まで、43.7±11.8(平均±SD)、54.1±10.1、59.1±10.4(P<0.016)であり、これは肝細胞癌が、慢性肝疾患末期に発生することを意味し、MELD点数の差異はG3群とG4群との間に差異がなかった(12.8±5.3:12.4±6.3)。
【0088】
G2群、G3群及びG4群のCSTB値は、それぞれ3.3、7.8及び10.8ng/mL(P<0.001)であり、この値は、有意に増加し、G1群とG2群との間には差異がなかった(P=0.8325)。G3群とG4群の各々のCSTB値は、G2群に比べて有意な増加があり(P=0.0128及びP<0.0001)、しかも、G2群はG3群に比べてより高いCSTB値を示した(P=0.0038)。肝細胞癌組織におけるCSTB値は、G2とG3を合わせた非悪性肝疾患より有意に上昇していた(P<0.001)(図7)。
【0089】
図8では、CSTBの血清値を、G2+G3から肝細胞癌患者群G4を区別するために、ROC(Receiver operating characteristic)曲線で比較するように示した。
【0090】
本発明のCSTBとα胎児タンパク質(AFP)の血清値を測定比較したところ、各々の適正値は、それぞれ5.34ng/mL及び32.6ng/mLであった。CSTBの鋭敏度と特異度は、それぞれ84.4%(95%CI、73.1%〜92.2%)及び53.1%(15%CI、42.7%〜63.4%)であり、AFPでは、それぞれ56.7%(95%CI、43.3%〜68.8%)及び87.5%(95%CI、79.2%〜93.4%)であった。CSTBの陽性及び陰性予測値は、54.5及び83.6であり、AFPでは75及び76.4であった。ROC曲線下面積(AUC:Area under the ROC curves)では、CSTBとAFPの間で鋭敏度及び特異度で有意な差異はなかった(0.741:0.782、P=0.429)。この結果では、CSTBの適正値は、AFPに比べてより高い鋭敏度を示すが、より低い特異度を示した。肝細胞癌の早期診断のために腫瘍塊の大きさによるCSTB値の鋭敏度を決定するために、適正値以上のCSTB値を示す肝細胞癌の頻度を、適正値以上のAFP値を示すケースと比較した(表3)。
【0091】
陽性CSTBは、3cm以下の肝細胞癌では73.3%の鋭敏度を示し、3cm以上では89.4%の鋭敏度を示した。これに対してAFP値は、それぞれ60%と57.4%の頻度を示した。全体的にCSTBは、肝細胞癌の診断または進行性肝細胞癌でAFPより高い鋭敏度を示すといえる。
【0092】
【表3】

【実施例5】
【0093】
CSTB組み換え遺伝子の作製及びCSTB組み換え遺伝子の過発現細胞株の確立
Hep3Bヒト肝癌細胞株を、ATCC社(米国)から購入し、37℃で5%CO2状態の下に培養した。培地は、10%FBSが含まれたMEM培地に必須アミノ酸とピルビン酸塩(pyruvate)を加えて使用した。Myc標識のCSTBを、pCDNA3.1/Mycベクター(Invitrogen, USA)を用いて細胞に導入して作製し、対照実験としては空ベクター(pCDNA3.1/Myc−HisAベクター)を細胞に導入した。
【0094】
ヒトCSTB遺伝子は、韓国生命工学研究院21Cプロンティアヒト遺伝体銀行から得て、CSTBタンパク質をコードするcDNAを、この遺伝子を鋳型として、EcoRI制限部位を持つ順方向プライマー(配列番号1)及びXhoI制限部位を持つ逆方向プライマー(配列番号3)を用いて、PCRで増幅し、そして制限酵素EcoRI及びXhoIで切断して、ゲルに電気泳動した。バンドを切り取って、遺伝子抽出キット(Accurse gel purification kit; Pioneer, Daejeon, Korea)を用いて抽出し、インサートとして使用した。ベクターpcDNA3.1/Myc−HisAを、EcoRI及びSalIで切断して、同一の方法でゲルに電気泳動した。バンドを切り取って、遺伝子抽出キット(Accurse gel purification kit; Pioneer, Daejeon, Korea)を用いて抽出した後、ベクターとして使用した。
【0095】
ライゲーションキット(ligation kit)を用いてインサートをベクターフレームに挿入してクローニングし、大腸菌に導入して増幅させた。次いで、作製したプラスミドを精製した。Hep3B肝癌細胞が6cmの皿に70%程度に培養されたとき、リポフェクトアミン(Gibco、Invitrogen社)を用いて遺伝子を導入した。48時間後、G418を含有した選択培地で2〜3週間培養する。形成された各コロニーを6ウェルプレートに移し、その後T25フラスコに移した後、形態を観察した。2週間後の対照細胞株と4週間後のCSTB過剰発現細胞株を分離し、CSTB免疫ブロットによってCSTBタンパクの過剰発現が確認された(図9)。
【0096】
pCDNA3.1/Myc−HisA−CASTBベクターを導入した後、CSTBの過剰発現が、CSTB11、17、18、28で観察され、立証された。CSTB11、17、18、28は、空ベクター(pCDNA3.1/Myc−HisA ベクター)を発現するVC2及びVC4対照細胞株に比べて大きく発現した。本発明の細胞株は、将来、CSTBタンパク発現が肝癌細胞株に及ぼす影響を検討することが可能な材料になり、肝細胞癌の診断及び治療の分子生物学的な標的検討に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
上述したように、本発明は、肝細胞癌の診断マーカーとしてシスタチンB(CSTB)遺伝子を提供し、CSTB遺伝子の発現が腫瘍マーカーとして患者の組織で迅速且つ敏感に定量化され、そして遺伝子産物であるCSTBタンパク質の発現を体液から効率的に検出し、それにより肝細胞癌の早期診断、肝細胞癌の進行性、侵襲性及び転移性の診断に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、30症例の非肝癌組織(N)と肝細胞癌組織(T)でシスタチンBのmRNA発現を、ノーザンブロット法で分析した結果(上図)、及び非肝細胞癌組織に比べた肝細胞癌組織の量を、増幅して示したヒストグラム(下図)である。
【図2】図2は、40症例の肝細胞癌組織及びそれに対応する非肝細胞癌組織のマイクロアレイ結果を示す。図2aは、肝細胞癌組織と非肝細胞癌組織の教師無し階層的クラスター分析を示すマイクロアレイ結果であり、図2bは、非肝癌組織と肝細胞癌組織の2つの分類を示す樹状図である。
【図3】図3は、15症例の肝細胞癌組織(T)とそれに対応する非肝癌組織(N)でプライマーを用いて実施したRT−PCRから得られた結果の電気泳動写真である。図3aは、配列番号1と配列番号3のプライマーを用いて実施したRT−PCRから得られた結果の電気泳動写真であり、図3bは、配列番号2と配列番号4のプライマーを用いて実施したRT−PCRから得られた結果の電気泳動写真である。
【図4】図4は、RJMW2E7モノクローナル抗体を用いたCSTBウエスタンブロットの結果である。
【図5】図5は、CSTBの細胞内での位置及び発現パターンを免疫蛍光法で分析した結果である。
【図6】図6は、RJMW2E7モノクローナル抗体による肝細胞癌及び非肝細胞癌組織でのCSTBの免疫化学染色の結果であって、Aは正常肝を示し、BはCSTB抗体に選択的に染色される肝細胞癌組織を示し、Cは細胞質または核にCSTB抗原の顆粒状沈着を示す肝細胞癌組織を示し、Dは侵襲性肝細胞癌で細胞質と核に染色されるCSTB染色像である。
【図7】図7は、健常者(G1)、非肝硬変性の慢性肝炎患者(G2)、肝硬変患者(G3)及び肝細胞癌患者(G4)における血清CSTBの数値を示す。
【図8】図8は、非癌の慢性肝炎疾患(G2+G3)から肝細胞癌患者群(G4)を区別するための、CSTB血清値に対するROC(Receiver operating characteristic)曲線である。
【図9】図9は、組み換え遺伝子CSTB発現ベクター(CSTB11、CSTB17、CSTB18、CSTB28)を導入したHep3B細胞株と、空ベクター(VC2、VC4)を導入した対照の細胞における、CSTBタンパク質発現を観察したウエスタンブロット法で分析した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CSTB遺伝子の発現レベルを評価する物質、またはCSTBタンパク質の発現レベルを評価する物質を含んでなる、肝細胞癌の診断用組成物。
【請求項2】
CSTB遺伝子の発現レベルを評価する物質が、CSTB遺伝子のmRNAに相補的なセンス及びアンチセンスプライマーである、請求項1に記載の診断用組成物。
【請求項3】
CSTB遺伝子の発現レベルを評価する物質が、CSTB遺伝子のmRNAに相補的なプローブである、請求項1に記載の診断用組成物。
【請求項4】
CSTBタンパク質の発現レベルを評価する物質が、CSTBタンパク質を特異的に認識する抗体である、請求項1に記載の診断用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の診断用組成物を含んでなる、肝細胞癌のための診断用キット。
【請求項6】
CSTBタンパク質を発現する細胞を培養すること、
前記細胞を、CSTBタンパク質の発現抑制剤の候補物質で処理すること、そして、
処理した細胞中のmRNAまたはタンパク質の発現レベルを、対照のレベルと比較すること、
を含んでなる、CSTB発現抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
CSTBタンパク質を発現する細胞が、CSTBタンパク質をコードする遺伝子を包含する発現ベクターを用いて、ヒト肝癌細胞株であるHep3B細胞株を形質転換して製造される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
mRNAを対照と比較する工程が、RT−PCRを用いて実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
CSTB発現の抑制剤を含んでなる、肝細胞癌の予防または治療用組成物。
【請求項10】
CSTB発現の抑制剤が、CSTB遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンスRNA鎖及びこのアンチセンスRNA鎖に相補的なセンスRNA鎖、更に遺伝子特異的なRNA干渉を誘導するsiRNAを含んでなる、請求項9に記載の肝細胞癌の予防または治療用組成物。
【請求項11】
CSTBタンパク質に特異的な抗体を含んでなる、肝細胞癌の予防または治療用組成物。
【請求項12】
CSTB遺伝子またはCSTBタンパク質に特異的に結合する物質に、生体サンプルを接触させること、そして
前記生体サンプルのCSTB遺伝子またはCSTBタンパク質の発現レベルを、対照サンプルのレベルと比較すること、
の工程を含んでなる、肝細胞癌の診断方法。
【請求項13】
CSTB遺伝子に特異的に結合する物質に接触させる工程が、RT−PCR、競合RT−PCR、リアルタイムRT−PCR、RNaseプロテクションアッセイ、ノーザンブロット法またはDNAチップを用いて実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
CSTBタンパク質に特異的に結合する物質が、CSTBタンパク質に特異的な抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
請求項12〜14の何れか一項に記載の方法を用いて、肝細胞癌の進行段階または予後診断を判断する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−508811(P2010−508811A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535199(P2009−535199)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【国際出願番号】PCT/KR2007/000411
【国際公開番号】WO2008/056854
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(508013722)チョンブク ナショナル ユニバーシティー インダストリアル コーポレーション ファンデーション (1)
【Fターム(参考)】