肝組織・臓器及びその製造方法
【課題】 胚性幹細胞に対して薬剤投与や外来遺伝子の導入を行うことなく、単一の胚性幹細胞から、肝実質細胞のみならず血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞をあわせて分化誘導することが可能であり、かつ高い肝機能を有する肝組織・臓器を高い確率で効率よく製造する方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器を提供する。
【解決手段】 胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離するサブクローン分離工程と、該サブクローンのうち、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択するスクリーニング工程と、前記スクリーニングされたサブクローンを培養するサブクローン培養工程とを含むことを特徴とする肝組織・臓器の製造方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器である。
【解決手段】 胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離するサブクローン分離工程と、該サブクローンのうち、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択するスクリーニング工程と、前記スクリーニングされたサブクローンを培養するサブクローン培養工程とを含むことを特徴とする肝組織・臓器の製造方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚性幹細胞から肝組織・臓器を製造する方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、疾患や事故などによって損傷を受け、重篤な機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、臓器移植や人工臓器による治療が行われてきた。
特に、肝臓は生命に必要な物質の代謝反応や合成反応、及び毒性物質の解毒反応等、生命の維持に不可欠な多数の化学反応を行う臓器であるため、これらすべての機能を人工的な装置で代用することは極めて困難である。また、臓器移植は、移植された肝臓に対する拒絶反応が避けられず、該拒絶反応を抑えるための免疫抑制によって副作用を伴うことに加え、絶対的なドナー不足という問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するために、生体の肝細胞を併用した人工肝臓が研究され、該肝細胞と人工装置との組合せからなるハイブリット型人工肝臓(バイオハイブリッド型人工肝臓)が提案されている。具体的には、中空糸モジュール内に、生体由来の肝細胞を中空糸と接触させるように保持してなるバイオリアクターが人工肝臓として知られており(例えば、特許文献1及び2参照)、このようなバイオリアクターを用いた臨床応用の試みも行われている。
【0004】
しかしながら、前記バイオリアクターの中空糸モジュールにおいては、中空糸に接する肝細胞にしか酸素や栄養素を供給することができないという構造上の制限があり、細胞密度の上限値が限定されるという問題がある。
さらに、前記ハイブリット型人工肝臓に用いられる生体由来の肝細胞は、主に肝臓から単離された肝実質細胞であるため、増殖性が悪く、寿命が短いため長期培養が困難であり、かつ培養中に肝細胞としての機能が著しく低下するという問題がある。このため、前記ハイブリット型人工肝臓は、前記中空糸モジュールの構造上の制約と、用いる肝細胞の性能とから、本来の肝機能の一部のみを、短期間代替できるにすぎないものとなっている。
【0005】
一方、近年、失われた細胞、組織、及び臓器を再生して補う再生医療や細胞医療の技術として、様々な細胞へ分化する能力と、高い増殖能力とを有する胚性幹細胞(Embrionic Stem Cell:ES細胞)を利用する方法が注目されている。
前記胚性幹細胞は、胚盤胞内の未分化な細胞塊から得られ、試験管内で増殖と継代を繰り返すことが可能であり、目的とする機能を有する細胞を選択的に分化誘導することが可能であるため、様々な疾患に対する応用が期待されている。
【0006】
しかしながら、前記胚性幹細胞を用いた肝臓の再生技術としては、様々な分化因子を用いて肝実質細胞のみを分化誘導するにとどまっている(非特許文献1〜5参照)。前記胚性幹細胞から得られた肝実質細胞を、前記ハイブリット型人工肝臓に適用したとしても、肝実質細胞のみでは肝機能は不十分であり、また前述したモジュールの構造上の制限が存在することから、本来の肝組織・臓器の機能を満足する人工肝臓は得られないという問題がある。
したがって、本来の立体的な構成と機能とを有する肝組織・臓器の再生は未だ達成されていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平9−56814号公報
【特許文献2】特開2004−166717号公報
【非特許文献1】K.Abe,H.Niwa,et al.Exp Cell Res.,229(1),27−34(1996)
【非特許文献2】M.Schuldiner,O.Yanuka,et al.Proc Natl Acad Sci USA.,97(21),11307−11312(2000)
【非特許文献3】T.Hamasaki,Y.Iiboshi,et al.FEBS Lett.,497(1),15−19(2001)
【非特許文献4】N.Lumelsky,O.Blondel,et al.Science.,292(5520),1389−1394(2001)
【非特許文献5】S.Yamada,H.Kojima,et al.Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.,281(1),229−36(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、胚性幹細胞の万能性と発生学的知見に基づき、胚性幹細胞に対して薬剤投与や外来遺伝子の導入を行うことなく、単一の胚性幹細胞から発生学的知見に基づき、実際の肝組織・臓器と同様に、発生学的に肝実質細胞を血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞とともに分化誘導することが可能であり、かつ高い肝機能を有する肝組織・臓器を、高い確率で発生学的に効率よく製造する方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、胚性幹細胞の親細胞のリクローニングを行い、得られたサブクローンの拍動率を判定基準として分化能力の高いサブクローンをスクリーニングし、該サブクローンを用いることにより、肝特異的な機能を有する成熟した肝組織を高い確率で分化させることが可能であるとの新知見を得た。
肝臓の発生には、心臓原基からのシグナルが重要であることは知られているが、胚性幹細胞からの肝組織の分化誘導において、拍動率に基づいてスクリーニングしたサブクローンを用いることにより、肝組織・臓器を胚性幹細胞のみから効率的に製造できる技術は知られておらず、本発明者の新たな知見である。本発明は、本発明者らによるかかる知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離するサブクローン分離工程と、
該サブクローンのうち、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択するスクリーニング工程と、
前記スクリーニングされたサブクローンを培養するサブクローン培養工程と
を含むことを特徴とする肝組織・臓器の製造方法である。該<1>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローン分離工程により前記胚性幹細胞のサブクローンが分離され、前記スクリーニング工程により、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンが選択され、前記サブクローン培養工程により、選択された前記サブクローンが培養される。その結果、発生学的に肝組織・臓器が効率よく製造される。
<2> スクリーニング工程において、サブクローン由来の胚様体を96〜480個同時に同条件下で形成させ、接着培養を行う前記<1>に記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<2>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、96〜480個の胚様体中の拍動している前記胚様体の個数%が判定される。その結果、スクリーニングが確実に行われる。
<3> スクリーニング工程において、サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から24時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して50個数%以上であるサブクローンを選択する前記<1>から<2>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<3>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から24時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して50個数%以上であるサブクローンが選択される。その結果、高い確率で、発生学的に肝組織・臓器が効率よく製造される。
<4> サブクローン培養工程において、サブクローンを心筋細胞、肝実質細胞、及び肝非実質細胞に分化させ、肝組織・臓器を形成する前記<1>から<3>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<4>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローンを肝実質細胞と肝非実質細胞とに分化させる。この結果、肝実質細胞のみからなる従来の人工肝臓とは異なり、生体内の正常肝臓と同等の前記肝組織・臓器が製造される。
<5> 肝非実質細胞が、血管内皮細胞である前記<4>に記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<5>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローンを肝実質細胞とともに血管内皮細胞に分化させる。その結果、肝実質細胞のみからなる従来の人工肝臓とは異なり、長寿命かつ高機能の前記肝組織・臓器が製造される。
<6> サブクローン分離工程におけるリクローニングが、胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で培養し、形成されたコロニー由来のクローンを得、該クローンを培養して得たコロニーを分離することにより行われる前記<1>から<5>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<6>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローンが、前記胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で培養して形成されたコロニー由来のクローンのコロニーから分離される。その結果、未分化な状態が維持されたサブクローンが得られる。
<7> サブクローン培養工程において、サブクローンに対して実質的に外来遺伝子の導入を行わない前記<1>から<6>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<7>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、サブクローンが実質的に外来遺伝子の導入を行われずに培養される。その結果、安全性の高い肝組織・臓器が効率よく製造される。
<8> サブクローン培養工程において、サブクローン由来の胚様体を、96〜480個混合して培養する前記<1>から<7>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の方法により製造され、胚性幹細胞サブクローンの単一細胞由来であることを特徴とする肝組織・臓器である。
<10> 人工肝臓として使用される前記<9>に記載の肝組織・臓器である。
<11> 前記<9>に記載の肝組織・臓器に、被験物質を投与することを含むことを特徴とする薬剤スクリーニング方法である。該<11>に記載の薬剤スクリーニング方法によると、被験物質が、前記肝組織・臓器に投与されて、目的の物質が効率よくスクリーニングされる。
<12> 被験物質が、肝機能障害治療薬、機能性食品、及びこれらの有効成分のいずれかである前記<11>に記載の薬剤スクリーニング方法である。
<13> コレステロール分解促進物質、及びコレステロール生合成阻害物質のいずれかの探索を行う前記<11>から<12>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、胚性幹細胞に対して実質的に薬剤投与や外来遺伝子の導入を行うことなく、単一の胚性幹細胞から、肝実質細胞のみならず血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞をあわせて分化誘導することが可能であり、かつ高い肝機能を有する肝組織・臓器を高い確率で効率よく製造する方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(肝組織・臓器の製造方法)
本発明の肝組織・臓器の製造方法は、サブクローン分離工程と、スクリーニング工程と、サブクローン培養工程とを含み、更に必要に応じて適宜選択したその他の工程を含む。
【0012】
本発明の肝細胞・臓器の製造方法における具体的な細胞培養の操作としては、当該技術分野の常法の操作に従って行うことができ、培養条件としては、37℃で5%のCO2存在下が好ましい。
また、本発明の肝細胞・臓器の製造方法において、細胞培養に使用される器具・装置等としては、当該技術分野で一般的に使用される器具・装置等を用いて行うことができる。
【0013】
<サブクローン分離工程>
前記サブクローン分離工程は、胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離する工程からなる。前記リクローニングとは、親細胞をクローニングして得られた親細胞クローンに対し、さらにクローニングを行うことをいう。また、前記サブクローンとは、前記親細胞クローンからクローニングにより得られたクローンを指す。
【0014】
前記胚性幹細胞としては、インビトロにおいて培養可能であり、初期胚を培養することにより樹立され、成体を構成する種々の細胞に分化可能な多分化能を有する細胞であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、着床以前の初期胚内の内部細胞塊から樹立したES(Embyonic stem)細胞、生殖細胞から樹立されたEG(Embyonic germ)細胞、及び該胚性幹細胞を培養して得られた細胞などが挙げられ、これらは既に樹立された細胞系統であってもよい。
前記胚性肝細胞としては、哺乳類、鳥類、及び爬虫類など多様な動物に由来する細胞を使用することができるが、これらの中でもマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヤギ、サル、及びヒトなどの哺乳類に由来する胚性幹細胞が好ましい。
【0015】
前記胚性幹細胞のリクローニング方法としては、前記胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で培養し、形成されたコロニー由来の単一細胞を得、該単一細胞を培養して得たコロニーを分離することにより行われる。
具体的には、前記胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で未分化な状態を維持しながら増殖させた後、酵素等を用いて細胞同士の接着がない単一細胞状態とし、前記単一細胞状態となった前記胚性幹細胞から未分化の胚性幹細胞クローンを得て、該胚性幹細胞クローンを未分化な状態を維持しながら培養増殖してコロニーを形成させ、該コロニーからサブクローンを得る方法が挙げられる。
前記胚性幹細胞を単一細胞状態とする方法としては、常法の操作方法が挙げられる。具体的には、コンフルエントに増殖した前記胚性幹細胞を、培養している培養容器から胚性幹細胞培養用培地を除去した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて数回洗浄し、前記培養容器にトリプシン‐EDTA液を投与し、5〜20分間放置する。その後トリプシン‐EDTA液を除去し、前記胚性幹細胞を前記胚性幹細胞培養用培地に懸濁し、遠心分離により前記胚性幹細胞を沈殿させ、これを再度前記胚性幹細胞培養用培地に懸濁する方法が挙げられる。
【0016】
前記胚性幹細胞培養用培地としては、細胞培養用の最小培地に、血清、LIF(白血病阻止因子)、L−グルタミン、及び2−メルカプトエタノールなどを添加してなる培地が挙げられ、例えば、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)に、FBS(ウシ胎児血清)20%、ピルビン酸ナトリウム1mM、非必須アミノ酸0.1mM、2−メルカプトエタノール0.1mM、及びLIF1000U/Lを添加してなる培地が挙げられる。
【0017】
前記胚性幹細胞、又は前記胚性幹細胞クローンを培養する方法としては、未分化な胚性幹細胞の形質を維持可能な方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記胚性幹細胞培養用培地を用い、支持細胞とともに共培養する方法が挙げられ、前記支持細胞としては、例えば、マイトマイシンC処理されたマウス胎児繊維芽細胞、STO細胞、NHL7細胞等が挙げられる。
前記培養容器内に播種する前記胚性幹細胞、又は前記胚性幹細胞クローンの細胞密度としては、10,000〜80,000個/cm2が好ましい。
【0018】
前記胚性幹細胞クローンの培養において、前記サブクローンを取得しやすくする目的で、前記胚性幹細胞クローンに薬剤耐性遺伝子を導入し、薬剤添加培地上で培養を行うことにより、コロニーの形成数を制御してもよい。
前記薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
前記薬剤耐性遺伝子の導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、レトロウィルスベクター法などが挙げられる。
【0019】
前記サブクローンを分離する方法としては、例えば、前記胚性幹細胞クローンを前記胚性幹細胞培養用培地中で4〜7日培養し、形成されたコロニーを実体顕微鏡下でピペット等を用いて吸引して回収し、該コロニーを単一細胞状態として前記胚性幹細胞培養用培地に懸濁する方法が挙げられる。
前記コロニーとしては、比較的増殖が速いものが好ましく、実体顕微鏡下で観察したときに、高く盛り上がり、周辺に扁平な細胞が存在しないという形態的特徴を有するものが好ましく、例えば、図19に示すような形態のコロニーが好ましい。
【0020】
<スクリーニング工程>
前記スクリーニング工程は、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択する工程からなる。
【0021】
前記スクリーニング工程において形成させる前記胚様体としては、単一細胞状態の前記サブクローン500〜2,000個が凝集した胚に類似した構造体であり、前記サブクローンを、同一組成の培地を使用し、同一温度条件下で同時に浮遊培養して形成させたものが好ましい。
前記サブクローン由来の胚様体の作製方法としては、例えば、単一細胞状態の前記サブクローンを、10〜25個/μLとなるように、LIFを含有しない胚様体形成用培地に懸濁し、浮遊培養させる方法が挙げられる。
前記浮遊培養の方法としては、例えば、細胞懸濁液を滴下した培養容器を反転させ、懸垂状態のドロップを形成して培養するハンギングドロップ法などが挙げられる。
前記胚様体の培養容器としては、例えば、マルチウェルプレート等が好ましい。前記マルチウェルプレートとしては、96穴プレートが好ましい。
【0022】
前記胚様体形成用培地としては、細胞培養用の最小培地に、血清、アミノ酸、及び2−メルカプトエタノールなどを添加してなり、実質的にLIFを含有しない培地が挙げられ、例えば、IMDM(イスコフ改変ダルベッコ培地)に、FBS(ウシ胎児血清)20%、ピルビン酸ナトリウム1mM、非必須アミノ酸0.1mM、及び2−メルカプトエタノール0.1mMを添加してなる培地が挙げられる。
【0023】
ここで、拍動している胚様体とは、継続的に一定のリズムで収縮が観られる胚様体を指す。具体的には、実体顕微鏡下において観察したとき、該収縮が連続的かつ規則的に(例えば、収縮と収縮との間隔が0.1〜10秒)観られる胚様体である。
拍動している前記胚様体の個数の全胚様体の個数に対する割合(以下、「拍動率」という。)としては、例えば、胚様体を実体顕微鏡下で観察し、拍動している胚様体数から、下記式(1)により求めることができる。
前記拍動率の測定において、全胚様体の数としては50個以上であることが好ましく、100個以上であることがより好ましい。
拍動率(個数%)=〔(拍動している胚様体数)/(全胚様体数)〕×100
式(1)
【0024】
前記サブクローンとしては、該サブクローン由来の胚様体の拍動率が、接着培養開始から48時間後において70%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、接着培養開始から24時間後において50%以上であることが特に好ましい。
前記サブクローン由来の胚様体の拍動率が、接着培養開始から48時間後において70%未満であると、該サブクローンから前記肝組織・臓器が得られないことがある。
【0025】
<サブクローン培養工程>
前記サブクローン培養工程は、前記スクリーニング工程においてスクリーニングされた前記サブクローンを、心筋細胞、肝実質細胞、及び肝非実質細胞に分化させ、肝組織・臓器を形成する工程からなる。また、前記サブクローン培養工程においては、前記サブクローンに対して実質的に外来遺伝子の導入を行わない。このため、効率よく安全性の高い前記肝組織・臓器を製造することができる。
前記スクリーニング工程においてスクリーニングされた前記サブクローンは、前記肝組織・臓器の製造に用いられるまで、前記胚性幹細胞培養用培地を用いて未分化な状態を維持しながら継代培養される。なお、継代は6代を上限とすることが好ましい。
【0026】
前記スクリーニング工程においてスクリーニングされた前記サブクローンは、単一細胞状態として前記胚様体形成用培地に懸濁し、浮遊培養することにより前記胚様体を形成させる。次いで、得られた前記胚様体96〜480個を集め、分化用培地を用い、接着培養容器に播種して接着培養することにより、前記肝組織・臓器を製造することができる。
【0027】
前記分化用培地としては、細胞培養用の最小培地に、血清、アミノ酸、2−メルカプトエタノール、及びLIF等を添加してなり、実質的にLIFを含有しない培地が挙げられ、例えば、Iscove’s modified DMEM(イスコブ改変ダルベッコ−イーグル培地)に、FBS(ウシ胎児血清)20%、ピルビン酸ナトリウム1mM、非必須アミノ酸0.1mM、2−メルカプトエタノールを添加してなる培地が挙げられる。
【0028】
前記接着培養容器としては、前記胚様体の接着培養が可能な細胞培養用培養器であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マルチプレート、マイクロウェルプレート、シャーレ、フラスコ、ディッシュ、バッグ、及び中空糸デバイス等が挙げられる。前記接着培養において、前記胚様体と前記接着培養容器との接着性を制御するために、表面処理を行ってもよい。
前記表面処理としては、例えば、ゼラチンコート、コラーゲンコート、フィブロネクチンコート、ラミニンコート、マトリゲルコート等の方法が挙げられる。
【0029】
本発明の肝組織・臓器の製造方法により、前記リクローニングされた胚性幹細胞サブクローンを、心筋細胞、肝実質細胞、及び肝非実質細胞に分化させ、前記胚様体の接着培養開始から10〜18日後に、形態学的にも組織学的にも生体内の正常肝組織・臓器の特徴を有し、肝実質細胞及び肝非実質細胞とからなる前記肝組織・臓器に分化させることができる。
前記形態学的特徴としては、例えば、2核の形態を有すること、アルブミン染色に陽性であることなどの特徴が挙げられる。
前記組織学的特徴としては、例えば、アンモニア分解能を有すること、タンパク質(アルブミン)産生能を有すること、テストステロンの水酸化活性を有することなどが挙げられる。
【0030】
<心筋細胞>
前記胚性幹細胞から肝組織への分化は、心筋細胞の出現と相関を有し、発生学的知見からも、心臓原基からのシグナルにより、内胚葉が前腸へ分化し、拍動する心筋細胞からのシグナルにより肝憩室、肝芽へと分化し、肝組織へ分化することが知られている。
前記心筋細胞の発現を確認する方法としては、前記胚様体コロニーの拍動開始により確認することができ、また、ANP、Nkx2.5、GATA4等の心筋細胞特異的マーカーの遺伝子発現、又は心筋細胞特異的マーカータンパク質の発現により確認することができる。
【0031】
<肝実質細胞>
前記肝実質細胞は、発生学的に、前記胚様体における前記心筋細胞の出現に続いて出現することが知られている。実験的に前記肝実質細胞は、胚様体から分化した前記心筋細胞近傍に発現が観察されることが知られている。
前記肝実質細胞への分化能及び前記肝実質細胞への分化を確認する方法としては、
トランスサイレチン(TTR)、α−フェトプロテイン(AFP)胎児肝細胞、a1−アンチトリプシン(AAT)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)、トリプトファンオキシゲナーゼ(TO)、チロシンアミノトランスフェラーゼ、アシアログリコプロテインレセプター(ASGR)、アルブミンなどの肝細胞(胎児肝細胞)特異的マーカー遺伝子発現、若しくは肝細胞特異的マーカータンパク質の発現、又は抗アルブミン抗体による免疫染色などにより確認することができる。
また、マウスの肝細胞においては、2核を有する細胞が多く確認されることから、細胞核を形態学的に確認することにより確認することができる。
【0032】
<肝非実質細胞>
前記肝非実質細胞とは、類洞内皮細胞、クッパー細胞、及び胆管細胞などが挙げられ、発生学的に前記肝実質細胞の発現とほぼ同時に発現することが知られており、特に、血管内皮細胞への分化が重要であることが知られている。
前記非肝実質細胞への分化能及び前記非肝実質細胞への分化を確認する方法としては、CD31/PECAM1、血管内皮増殖因子VEGFR−1及びVEGFR−2、並びに血管新生調節因子VEGFなどの血管内皮特異的マーカー遺伝子発現、若しくは血管内皮特異的マーカータンパク質の発現、又はCD31/PECAM1抗体による免疫染色などにより確認することができる。
【0033】
前記特異的マーカー遺伝子発現の検出方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、RT−PCR法、in situ hybridization法、microarray法などが挙げられる。
前記タンパク質発現の検出方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、immunohistochemistry法などが挙げられる。
【0034】
本発明の肝組織・臓器の製造方法は、胚性幹細胞に対して薬剤投与や外来遺伝子の導入を行うことなく、単一の胚性幹細胞から、肝実質細胞のみならず血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞をあわせて分化誘導することが可能であることから、後述する肝組織・臓器の製造に好適に使用することができる。
【0035】
(肝組織・臓器)
本発明の肝組織・臓器は、上述した本発明の肝組織・臓器の製造方法により製造され、胚性幹細胞サブクローンの単一細胞由来の肝組織・臓器である。
【0036】
前記肝組織・臓器の用途としては、肝機能が要求される用途であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、人工肝臓として使用することができ、具体的には、再生医療及び細胞医療等の分野におけるバイオ人工肝臓、ハイブリッド型人工肝臓装置における体外循環型人工肝臓、及びバイオリアクターなどが挙げられる。
前記肝組織・臓器としては、前記胚様体の接着培養開始から10〜18日目の前記肝組織・臓器を使用することが好ましく、15〜18日目の前記肝組織・臓器を使用することがより好ましい。
【0037】
前記バイオ人工肝臓としては、例えば、前記肝組織・臓器を、肝臓、脾臓、又は腹腔内に移植して、体内で肝臓の再構築を行うものが挙げられる。
【0038】
前記体外循環型人工肝臓としては、例えば、公知の透析装置や血漿分離における血液循環回路内に、前記肝組織・臓器を充填したモジュールを備え、被処理液である血液などの体液と前記肝組織・臓器とを接触させることにより、有害物質の代謝・除去を行うものが挙げられる。
前記モジュールとしては、前記被処理液の循環が可能で、かつ前記肝組織・臓器の培養が可能な容器であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、中空糸モジュール、バイオリアクターなどが挙げられる。
【0039】
前記バイオリアクターとしては、前記肝組織・臓器を含む反応器を用い、肝臓由来の生理活性物質や有用物質の産生を行うものが挙げられ、例えば、血液凝固因子産生用バイオリアクター等が挙げられる。
【0040】
本発明の肝組織・臓器は、肝実質細胞及び肝非実質細胞を含むため、肝実質細胞のみからなる従来の人工肝臓と比較して、高い肝機能を有する点で有利である。
【0041】
(薬物スクリーニング方法)
前記薬剤スクリーニング方法は、本発明の肝組織・臓器に、被験物質を投与することを含み、さらに必要に応じて、適宜選択したその他の工程を含む。
前記薬剤スクリーニング方法の具体的な方法としては、例えば、本発明の肝組織・臓器の培養液に被験物質を添加し、一定時間インキュベートした後、前記培養液中及び前記肝組織・臓器を構成する細胞内の少なくともいずれかに含まれる代謝産物等を解析する方法などが挙げられる。
【0042】
前記被験物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝機能障害治療薬、機能性食品、及びこれらの有効成分のいずれかが挙げられる。
前記肝機能障害治療薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、新規治療薬、及び既存の治療薬のいずれであってもよい。前記新規治療薬のスクリーニングは、該治療薬の有効性の評価に好適であり、既存の治療薬のスクリーニングは、該治療薬の有効性評価及び適合性評価に好適である。
前記機能性食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝機能向上効果が期待される前記機能性食品などが挙げられる。前記機能性食品を被験物質としたスクリーニングは、前記機能性食品中の有用物質や毒性物質等の探索及び評価に好適である。
【0043】
前記薬剤スクリーニングとしては、例えば、肝機能向上に有用な成分のスクリーニング、及び肝臓に障害を与える有害成分のスクリーニングなどが挙げられる。
前記肝機能向上に有用な成分のスクリーニングとしては、例えば、コレステロール分解促進物質、及びコレステロール生合成阻害物質の探索などが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
(試験例)
<胚性幹細胞の分化誘導>
−胚性幹細胞(親細胞)の培養−
129/Olaマウス由来の胚性幹細胞E14.1((P.O.Seglen,Methods Cell Biol.,13,29−83(1976)、R.Kuhn,K.Rajewskyら,Sience.,254(5032),707−710(1991));東京大学医科学研究所の岩倉洋一郎博士、吉田進昭博士より恵与された)を、マイトマイシンC処理したマウス胚性繊維芽細胞をフィーダー細胞として共培養した。前記胚性幹細胞E14−1は、ダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM;Gibco社製)に、牛胎児血清(FBS;Hyclone社製)20%、ピルビン酸ナトリウム(インビトロジェン社製)1mM、非必須アミノ酸溶液(Gibco社製)100μM、M2−メルカプトエタノール(シグマ社製)100μ、LIF(ケミコン社製)103U/mlを加えた培地を用い、未分化な形質を維持しながら培養した。
培地交換を毎日行い、コンフルエントに達するまで前記E14.1細胞を3日間増殖させた。
【0046】
−胚様体の作製−
コンフルエントに達した前記E14.1細胞を、0.05% トリプシン、1.0% ニワトリ血清、及び1mM EDTAを含むPBSを用いて処理し、単一細胞状態とした。次いで、前記E14.1細胞を、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;Gibco社製)に牛胎児血清(FBS;Hyclone社製)20%、ピルビン酸ナトリウム(インビトロジェン社製)1mM、非必須アミノ酸溶液(Gibco社製)100μM、及びM2−メルカプトエタノール(シグマ社製)100μを加えた胚様体形成用培地に懸濁し、該細胞懸濁液を50μLあたり前記E14−1細胞が1,000個含まれるように調製した。
96ウェルプレート(IWAKI社製)本体の各ウェルに、予めミネラルオイル(SIGMA社製)350μLを充填し、該96ウェルプレートの蓋の内側部分の各ウェルに対応する部位に前記E14.1細胞懸濁液を50μLずつ滴下した。前記96ウェルプレート本体上に、前記E14.1細胞懸濁液が搭載された蓋を反転させて組合せ、培養を開始した(以下、ハンギングドロップ法という)。前記ハンギングドロップ法により、前記E14.1細胞を、5%CO2を通気したインキュベータで37℃で5日間培養を行い、胚様体を得た。
【0047】
−分化誘導−
前記96ウェルプレートの1ウェル中の胚様体を、接着培養容器としてゼラチンコートした6cmプレート(IWAKI社製)の1ウェルに播種したものを合計20枚作製した。前記接着培養容器中に、分化用培地(20%FCS、IMDM、100×非必須アミノ酸、100×ピルビン酸ナトリウム、メルカプトエタノール)を4mL加え、37℃で5%CO2を通気したインキュベータ中で前記胚様体の接着培養を開始した。
前記接着培養容器を4群に分け、前記分化用培地中に、下記に示す条件に基づき成長因子をそれぞれ添加し、18日間培養を行った。
【表1】
*1:繊維芽細胞成長因子(インビトロジェン社製)100ng/mL
*2:肝細胞成長因子(ジェンザイム社製)20ng/ml
*3:マウスオンコスタチンM(ジェンザイム社製)10ng/mL
上記の他に、デキサメタソン(ISNバイオメディカル社製)100nM、ITS(組成:インスリン10μg、トランスフェリン5μg、セレニウム5ng/mL;インビトロジェン社製)10μg/mL、及びニコチンアミド(ナカライテスク社製)10mMを6日目に添加した。
【0048】
前記胚様体は、前記接着培養容器のゼラチン上に接着して増殖し、コロニーを形成した。接着培養開始から10日目の胚様体コロニーを実体顕微鏡下で観察し、拍動が観られる胚様体コロニーと拍動がみられない胚様体コロニーとを採取し、それぞれの胚様体コロニーについて、以下に示すRT−PCR法により肝特異的マーカー及び心房特異的マーカーの発現を観察した。なお、肝特異的マーカーの陽性コントロールとして、胎齢15日目のマウス肝臓、及び成体(生後10週齢)マウス肝臓から下記に示す方法で単離した胎児肝細胞及び初代培養成体肝細胞を用い、心房特異的マーカーの陽性コントロールとして、胎齢15日目のマウス心臓から下記に示す方法で単離した胎児心筋細胞を用いた。また、陰性対象として、分化誘導前のE14.1細胞を用いた。
【0049】
−陽性コントロール用細胞の調製方法−
(1)胎児肝細胞、胎児心筋細胞
胎齢15日目のマウスから摘出した肝臓及び心臓は、それぞれ細切し、コラゲナーゼIIを添加したHanks液を加えて常法により処理し、細胞を遊離させた。得られた細胞をゼラチンコートした6cmディッシュに播種し、10% 牛胎児血清、100μM 非必須アミノ酸溶液、ペニシリン1000U/ml、ストレプトマイシン−グルタミン1000μg/mLが添加されたダルベッコ改変イーグル培地(Gibco社製)を加えて数時間静置した後、培地交換を行った。調製した胎児肝細胞(FL)、及び胎児心臓細胞(FH)は、5%CO2を通気したインキュベータ中で培地を毎日交換しながら37℃で培養した。
(2)初代培養成体肝細胞
129/SvJ雄マウス(生後10週齢)の肝臓から、コラゲナーゼ潅流法(P.O.Seglen,Methods Cell Biol.,13,29−83(1976))により肝細胞懸濁液を得た。該肝細胞懸濁液から、50%Percoll密度勾配遠心法によって肝細胞を回収した。得られた前記肝細胞を、ゼラチンコートしたディッシュに播種し、牛胎児血清10%、非必須アミノ酸溶液100μM、ペニシリン1000U/ml、ストレプトマイシン−グルタミン1000μg/mLが添加されたダルベッコ改変イーグル培地(Gibco社製)を加えて数時間静置した後、培地交換を行い、初代培養成体肝細胞を得た。調製した前記初代培養成体肝細胞(AL)は、5%CO2を通気したインキュベータ中で培地を毎日交換しながら37℃で培養した。
【0050】
−RT−PCR法による解析−
前記表1に記載の各条件A〜Dで培養した各胚様体コロニーについて、接着培養容器に播種して接着培養を開始してから10日目(240時間後)に拍動が観られるものと拍動がみられないものとをそれぞれ選択した。前記採取した計8種類の胚様体コロニーから、MagEXtractor mRNA kit(東洋紡績(株)製)を用い、添付マニュアルに従って、トータルRNAを2μgそれぞれ調製し、superscriptII first strand synthesis system with oligo dT primer(インビトロジェン社製)を用いて各cDNAを合成した。
ここで、前記胚様体コロニーの拍動の有無は、前記胚様体コロニーを実体顕微鏡下で観察し、連続的かつ規則的な収縮が観られるコロニーを、拍動ありと判定した。
【0051】
前記8種類の胚様体コロニーと同様にして、前記胎児肝細胞、前記胎児心筋細胞、前記初代培養成体肝細胞、及びE14.1細胞から、トータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0052】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0053】
前記プライマーは、肝細胞マーカーとしてアルブミンの遺伝子発現量を評価するためにアルブミン特異的プライマー(配列番号1:5´−GCTACGGCACAGTGCTTG−3´、配列番号2:5´−CAGGATTGCAGACAGATAGTC−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、及び心筋細胞マーカーとして心房性ナトリウムペプチド(ANP)の遺伝子発現量を評価するためにANP特異的プライマー(配列番号3:5´−ATGGGCTCCTTCATCAC−3´、配列番号4:5´−TGTTGCAGCCTAGTCCACTC−3´)を用いた。
また、コントロールとしてヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)特異的プライマー(配列番号5:5´−GTTGGATACAGGCCAGACTTTGTTG−3´、配列番号6:5´−GAGGGTAGGCTGGCCTATAGGCT−3´)を用いた。
【0054】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図1、及び表2に示す。
【0055】
【表2】
++:発現が強く検出された
+:発現が検出された
±:ごくわずかに発現が検出された
−:発現が検出されなかった
【0056】
図1及び表2から、拍動がみられた胚様体コロニーには、培養中の成長因子の添加の有無に関わらず、アルブミン遺伝子の発現が強くみられた。このことから、成長因子を添加することなく、胚性幹細胞から心筋細胞と肝細胞とを分化誘導可能であり、特に、拍動する細胞の存在により肝細胞が誘導される可能性が明らかになった。
【0057】
(実施例1)
<リクローニングによるサブクローンの樹立>
前記E14.1細胞を、試験例と同様にして未分化な形質を維持しながら、コンフルエントになるまで増殖させた。前記胚性幹細胞培養用培地を除去し、培養したE14.1細胞をPBS(−)で2回洗浄した後、トリプシン‐EDTA培地で分離し、前記胚性幹細胞培養用培地に懸濁し、単一細胞状態とした。
ゼラチンコーティングされた10cmディッシュ(IWAKI製)に、単一細胞状態の前記E14.1クローン細胞を播種し、培地交換を行いながら、37℃で5%CO2を通気したインキュベータで5日間培養した。前記E14.1クローン細胞は、互いに凝集せず、ディッシュ内側表面に付着し、分裂・増殖を繰り返してコロニーを形成した。
【0058】
前記コロニーを実体顕微鏡下でコロニーを選択し、該コロニーを、孔径が約0.5mmのガラスピペットを用いて、40〜80個ピックアップした。
【0059】
前記各コロニーは、トリプシン0.05%、ニワトリ血清1.0%、及びEDTA1mMを含むPBSを用いて処理し、単一細胞状態とした後、前記胚性幹細胞培養用培地(ダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM;Gibco社製)に、牛胎児血清(FBS;Hyclone社製)20%、ピルビン酸ナトリウム(インビトロジェン社製)1mM、非必須アミノ酸溶液(Gibco社製)100μM、M2−メルカプトエタノール(シグマ社製)100μ、LIF(ケミコン社製)103U/ml)を用い、未分化な形質を維持しながら培養し、サブクローンとしてMy−1、Ab−3、及びMy−5の系統を樹立した。
【0060】
前記My−1、Ab−3、及びMy−5のサブクローンを、それぞれ、試験例と同様に培養して胚様体を作製し、前記96ウェルプレート10枚分の胚様体を得た。
次いで、前記96ウェルプレートの1ウェル中の胚様体を、接着培養容器としてゼラチンコートした96ウェルプレート(IWAKI社製)に播種し、これを合計3枚作製した。前記接着培養容器中に、前記分化用培地を0.3mL加え、37℃で5%CO2を通気したインキュベータ中で前記胚様体の接着培養を開始した。
前記接着培養容器での培養開始から1日(24時間)ごとに、前記接着培養容器中の前記胚様体コロニーを実体顕微鏡により観察し、拍動の有無を確認した。前記胚様体コロニーの拍動の有無は、試験例と同様にして判定した。観察した全コロニー中、拍動がみられたコロニー数の割合を図2に示す。
【0061】
<サブクローンの分化>
得られたMy−1、Ab−3、及びMy−5の各サブクローンの培養を継続し、接着培養容器に播種後48時間後の胚様体コロニーを採取し、試験例と同様にして、RT−PCR法によりアルブミン遺伝子の発現を評価した。ただし、前記胚様体コロニーは、拍動の有無により選別することなく採取した。
アガロースゲル電気泳動の結果、My−1及びAb−3にはアルブミン遺伝子の発現を示すバンドがみられたが、My−5のアルブミン遺伝子の発現を示すバンドは目視で確認できなかった。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
※:接着培養容器に播種後48時間後の拍動率
+:発現が検出された
−:発現が検出されなかった
【0063】
(実施例2)
<リクローニングしたサブクローンの分化誘導>
(1)サブクローンの分化能評価
−RT−PCR法による解析−
実施例1で得られたサブクローンAb−3(接着培養開始から48時間後の拍動率が80%)を用い、前記分化用培地に成長因子をしなかった試験例の条件Dと同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。培養開始から3日目及び5日目の胚様体、並びに組織培養プレートに播種後2、4、6、及び8日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。また、前記胎児肝細胞、前記初代培養成体肝細胞、及びE14.1細胞から、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0064】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、mol/L、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0065】
前記プライマーは、内胚葉特異的マーカーとして、トランスサイレチンの遺伝子発現量を評価するためにトランスサイレチン(TTR)特異的プライマー(配列番号7:5´−CTCACCACAGATGAGAAG−3´、配列番号8:5´−GGCTGAGTCTCTCAATTC−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、α−フェトプロテインの遺伝子発現量を評価するためにα−フェトプロテイン(AFP)特異的プライマー(配列番号9:5´−TCGTATTCCAACAGGAGG−3´、配列番号10:5´−AGGCTTTTGCTTCACCAG−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、a1−アンチトリプシンの遺伝子発現量を評価するためにa1−アンチトリプシン(AAT)特異的プライマー(配列番号11:5´−AATGGAAGAAGCCATTCGAT−3´、配列番号12:5´−AAGACTGTAGCTGCTGCAGC−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、並びに肝細胞マーカーとして、試験例で使用したアルブミン特異的プライマーを用いた。また、未分化細胞マーカーとして、転写因子Oct−3/4の遺伝子発現量を評価するためにOct−3/4特異的プライマー(配列番号13:5´−AGCACGAGTGGAAAGCACT−3´、配列番号14:5´−CTCATTGTTGTCGGCTTCCT−3´)を用い、コントロールとして試験例で使用したhprt特異的プライマーを用いた。
【0066】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図3、及び表4に示す。
【0067】
【表4】
++:発現が強く検出された。
+:発現が検出された。
±:発現がわずかに検出された。
−:発現が検出されなかった。
【0068】
図3及び表4から、前記サブクローンAb−3の胚様体コロニー中の細胞に、肝細胞特異的遺伝子群の発現が確認され、リクローニングにより得られたサブクローンが、肝細胞への分化能を有することがわかった。
【0069】
−ウェスタンブロット法による解析−
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、分化用培地に成長因子をしない試験例の条件Dと同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。前記組織培養プレートに播種後4、6、8、12、16、及び18日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、下記の方法で細胞溶解液を調製した。また、前記胚様体コロニーと同様にして、前記初代培養成体肝細胞、STO細胞、及びE14.1細胞から細胞溶解液をそれぞれ調製した。前記胎児肝細胞及び前記初代培養成体肝細胞は、試験例と同様にして調製した。
【0070】
前記各細胞をトリプシン処理し、PBSで遠心洗浄し、細胞残渣を20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1% Nonidet P−40、0.1% SDS、1% デオキシコール酸ナトリウム、2mM EDTA、1mM PMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride)、2μg/mL aprotinin、10μg/mL leupeptin 5μg/mL pepstatinを含むバッファー中に溶解し、細胞溶解液を調製した。
該細胞溶解液を4℃、12000回転で10分間遠心分離し、上清を回収し、BCA protein assay kit(Pierece社製)を用いてタンパク質の量を測定し、各溶液中のタンパク質濃度が10μg/mLとなるように調整し、サンプル溶液を得た。
前記サンプル溶液を、8%ポリアクリルアミドゲルの各レーン上に15μLずつ加え、120mAで1.5時間、室温にて電気泳動を行った。泳動したタンパク質は、前記ポリアクリルアミドゲルから、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(Bio−Rad社製)上に、0.3Vで1時間かけて転写した。前記タンパク質が転写されたPVDF膜を、PBSで溶解した5%スキムミルクで1時間室温にてブロッキングを行った後、
0.1%BSAを添加した0.1%Tween20含有TBS−T溶液で希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギヒツジ抗体(アマシャムファルマシアバイオテク社製)と室温で1時間インキュベートした。TBS−T溶液で前記PVDF膜を洗浄した後、ケミルミネッセンス(ECL、アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いて発光させ、X線フィルム(RX−U、富士写真フイルム社製)を感光させ、タンパク質を検出した。結果を図4に示す。
【0071】
図4から、リクローニングにより得られた前記サブクローンAb−3の胚様体コロニー中の細胞から、肝細胞特異的なアルブミン、心筋細胞特異的なアクチンの産生が確認された。このことから、分化用培地中に成長因子を添加することなく、リクローニングして得た胚性幹細胞サブクローンからアルブミンを産生する肝様細胞が得られることがわかった。また、検出されたアルブミン量が経時的に増加していることから、胚葉体コロニー中に含まれる肝様細胞の割合が時間とともに増加し、分化がすすむことがわかった。
【0072】
(2)成長因子の産生
上記(1)において、前記分化用培地中に成長因子を添加しないでも前記胚様体が分化したことから、前記胚様体自身が成長因子を産生している可能性について調べた。
プライマーとして、HGF(肝細胞成長因子)特異的プライマー(配列番号15:5´−AGACACCACACCGGCACAGT−3´、配列番号16:5´−ATAGGGCAATAATCCCAAGG−3´)、FGF(繊維芽細胞成長因子)特異的プライマー(配列番号17:5´−ACCGAGAGGTTCAACCTGCC−3´、配列番号18:5´−GCCATAGTGAGTCCGAGGACC−3´)を用いた以外は、上記(1)と同様にしてRT−PCR法により遺伝子発現を評価した。結果を図5に示す。
【0073】
図5から、前記組織培養プレートに播種後、胚様体自身が成長因子を産生していることがわかった。
【0074】
(実施例3)
<胚性幹細胞分化における成長因子の関与>
(1)分化初期における成長因子添加の影響
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、試験例の条件Cと同様にして前記分化用培地に成長因子を添加した群と、試験例の条件Dと同様にして前記分化用培地に成長因子を添加しなかった群とに分けて培養し、それぞれ胚様体コロニーを得た。前記組織培養プレートに播種後10日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルmRNAを2μg調製し、cDNAを合成した。また、試験例と同様にして、前記胎児肝細胞、前記初代培養成体肝細胞、及びE14.1細胞から、トータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0075】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0076】
前記プライマーは、成熟肝細胞(肝実質細胞)特異的マーカーとして、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)の遺伝子発現量を評価するために、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)特異的プライマー(配列番号19:5´−ACCTTCAATCCCATCCGA−3´、配列番号20:5´−TCCCGACTGGATAGGTAG−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、及びトリプトファンオキシゲナーゼ(TO)の遺伝子発現量を評価するために、トリプトファン2,3−ジオキシキナーゼ特異的プライマー(配列番号21:5´−TGCGCAAGAACTTCAGAGTGA−3´、配列番号22:5´−TGCGCAAGAACTTCAGAGTGA−3´)、並びに肝細胞マーカーとして、試験例で使用したアルブミン特異的プライマーを用いた。また、コントロールとして試験例で使用したhprt特異的プライマーを用いた。
【0077】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図6に示す。
【0078】
(2)分化後期における成長因子添加の影響
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、試験例の条件Cと同様にして前記分化用培地に成長因子を添加した群と、試験例の条件Dと同様にして前記分化用培地に成長因子を添加しなかった群とに分けて培養し、それぞれ胚様体コロニーを得た。前記組織培養プレートに播種後18日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルmRNAを2μg調製し、cDNAを合成した。また、試験例と同様にして、前記初代培養成体肝細胞、及びE14.1細胞から、トータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0079】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、mol/L、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0080】
前記プライマーは、成熟肝細胞(肝実質細胞)特異的マーカーとして、前記チロシンアミノトランスフェラーゼ特異的プライマー、前記トリプトファン2,3−ジオキシキナーゼ特異的プライマー、アシアログリコプロテインレセプター(ASGR)の遺伝子発現量を調べるために、ASGR−1特異的プライマー(配列番号23:5´−GCTGGAAAAACAGCAGAAGG−3´、配列番号24:5´−CTGTTCCATCCACCCATTTC−3´)、及びASGR−2特異的プライマー(配列番号25:5´−CGGACCCTGAAAGAAACCTT−3´、配列番号26:5´−ATGAAACTGGCTCCTGTGCT−3´)、並びに肝細胞マーカーとして、試験例で使用したアルブミン特異的プライマーを用いた。
さらに、胆管上皮細胞マーカーとして、肝特異的有機アニオントランスポーター(LST−1)の遺伝子発現量を評価するためにLST−1特異的プライマー(配列番号27:5´−TGCGCAAGAACTTCAGAGTGA−3´、配列番号28:5´−TGAGTTGGACCCCTTTTCAC−3´)を用いた。コントロールとしては、試験例で使用したhprt特異的プライマーを用いた。
【0081】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図7に示す。
【0082】
図6から、前記組織培養プレートに播種後10日目の胚様体コロニーでは、前記分化用培地中に成長因子を添加して培養した胚様体は、添加せずに培養した胚様体と比較して肝実質細胞へ分化した細胞の割合が高く、成長因子の添加によって肝実質細胞への分化が加速されることがわかった。しかしながら、図7から、前記組織培養プレートに播種後18日目の胚様体コロニーでは、前記分化用培地中に成長因子を添加して培養した胚様体と、添加せずに培養した胚様体との間に、肝実質細胞特異的細胞の発現に大きな差異はなく、成長因子の添加が胚様体の分化には必須でないことがわかった。特に、成長因子を添加せずに培養した胚葉体にのみLST−1の発現がみられたことから、成長因子の添加により、肝組織への分化が阻害されている可能性が明らかになった。
【0083】
(実施例4)
<組織形態学的観察>
前記サブクローンAb−3を、実施例2と同様に前記分化用培地に成長因子を添加せずに培養した。前記接着培養容器に播種後10日目の胚様体コロニー、及び18日目の胚様体コロニーを、それぞれ下記に示す方法でアルブミン抗体を用いて免疫染色し、アルブミン産生細胞を観察した。
【0084】
前記接着培養容器内の培地を除去し、4%パラホルムアルデヒドを添加したPBSを加え、前記胚様体コロニーを30分間固定した。次いで0.1%tritonXを添加し、室温で1時間処理し、細胞膜の透過性を高めた。固定した前記胚様体コロニーを、4%ロバ血清を添加したブロッキング緩衝液(Jacson immunoResearch社製)で室温で10分間処理した後、1次抗体として250倍希釈したウサギ抗マウスアルブミン抗体(Cappel社製)を添加して4℃で一晩インキュベートし、蛍光2次抗体として100倍希釈したFITC標識ロバ抗ヤギIgG抗体(Jacson immunoResearch社製)を添加して室温で1時間反応させ、蛍光顕微鏡(BX60:オリンパス社製)で観察した。前記アルブミン産生細胞を免疫染色した前記接着培養容器に播種後10日目の胚様体コロニーの写真を図8Bに、18日目の胚様体コロニーの写真を図9A、図9Bにそれぞれ示す。また、10日目の胚様体コロニーを白色光下で観察した写真を図8Aに示す。
【0085】
図8A及び図8Bから、アルブミン産生細胞は、拍動する心筋細胞領域(CA)の周囲に島状のクラスターを形成していることがわかる。
また、図9Aから、18日目の胚様体コロニー中にはアルブミン産生細胞に分化した細胞の割合が高くなっていることがわかり、図9Bから、アルブミン産生細胞が2核の細胞であることがわかる。2核を有する細胞は、正常マウス個体における成熟肝細胞の形態的特徴であることから、胚様体コロニー中のアルブミン産生細胞が、形態学的にも肝細胞であることが確認された。
【0086】
(実施例5)
<胚様体由来肝細胞の機能評価>
前記サブクローンAb−3を用い、実施例2と同様に前記胚様体を作製した。前記胚様体を30個集めた群、50個集めた群について、前記接着培養容器に播種し、接着培養した。前記分化用培地には成長因子を添加せずに培養し、10日目の胚様体コロニー、及び18日目の胚様体コロニーをそれぞれ得た。
前記胚様体コロニー、前記胚性幹細胞E14.1、前記マウス初代培養成体肝細胞、及びマウス肝細胞セルラインHePa1−6のそれぞれに対し、2mM NH4Clを添加した無血清培地(IMDM)を加え、37℃でインキュベートし、NH4Cl添加6時間後、12時間後、及び24時間後において、前記無血清培地中に存在するNH4Cl量をインドフェノール法で測定し、添加量に対する増減を評価した。結果を図10に示す。
図10中、「□」は前記マウス初代培養成体肝細胞、「■」は前記18日目のサブクローンAb−3胚様体コロニー50個、「○」は前記18日目のサブクローンAb−3胚様体コロニー30個、「●」は前記10日目のサブクローンAb−3胚様体コロニー30個、「▼」は前記HePa1−6、及び「▲」は前記E14.1細胞の結果をそれぞれ示す。いずれも使用した細胞からゲノムDNAを抽出して細胞数を測定し、各100細胞あたりの分解能に換算した結果である。
【0087】
図10から、前記サブクローンAb−3の30個の胚様体又は50個の胚様体から分化した胚様体コロニーは、高いアンモニア分解能を示し、多数の胚様体を集めて培養したコロニーは、高い肝機能を示す肝組織に分化していることがわかった。
【0088】
(実施例6)
<肝組織への分化>
−RT−PCR法による解析−
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、分化用培地に成長因子をしなかった試験例の条件Dと同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。培養開始から3日目及び5日目の胚様体、並びに組織培養プレートに播種後2、4、6、及び8日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。また、前記胎児肝細胞、及びE14.1細胞から、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0089】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0090】
前記プライマーは、血管内皮細胞特異的マーカーとして、CD31/PECAM1の遺伝子発現量を調べるために、PECAM−1特異的プライマー(配列番号29:5´−GTCATGGCCATGGTCAGTAG−3´、配列番号30:5´−AGCAGGACAGGTCCAACAAC−3´)、血管内皮増殖因子の遺伝子発現量を調べるために、VEGFR−1特異的プライマー(配列番号31:5´−TGTGGAGAAACTTGGTGACCT−3´、配列番号32:5´−TGGAGAACAGCAGGACTCCTT−3´)及びVEGFR−2特異的プライマー(配列番号33:5´−TCTGTGGTTCTGCGTGGAGA−3´、配列番号34:5´−GTATCATTTCCAACCACCC−3´)、並びに血管新生調節因子の遺伝子発現量を調べるために、VEGF特異的プライマー(配列番号35:5´−CAGGCTGCTGTAACGATGAA−3´、配列番号36:5´−AATGCTTTCTCCGCTCTGAA−3´)を用いた。また、未分化細胞マーカーとして、実施例2で使用したOct−3/4特異的プライマーを用い、コントロールとしては、試験例で使用したhprt特異的プライマーを用いた。
【0091】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドのから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図11、及び表5に示す。
【0092】
【表5】
++:発現が強く検出された。
+:発現が検出された。
±:発現がわずかに検出された。
−:発現が検出されなかった。
【0093】
図11及び表5から、前記サブクローンAb−3から分化した胚様体は、分化に伴い、肝実質細胞のみならず、血管内皮細胞への分化が同時に観られることがわかった。このことから、前記胚様体は、遺伝子レベルで個体発生の時間軸と同様に分化し、肝組織・臓器の構築可能性を有することが明らかになった。
【0094】
−免疫染色による形態的解析−
前記サブクローンAb−3から、実施例2と同様にして胚様体を作製し、前記胚様体を20個集めて前記接着培養容器に播種した。前記分化用培地には成長因子を添加せずに培養した。前記接着培養容器に播種後10日目の胚様体コロニー(以下、A10と表す)、及び18日目の胚様体コロニー(以下、A18と表す)を、免疫染色した。アルブミン産生細胞は、実施例4と同様に染色し、赤色に発色させた。血管内皮細胞は、一次抗体として250倍希釈したヤギIgG抗マウスPECAM−1抗体(Santa cruz Biotechnology社製)を用い、二次抗体として60倍希釈したTRITC標識ブタ抗ウサギ抗体(DAKO A/S社製)を用いた以外は、実施例4と同様にして染色して緑色に発色させた。染色した胚様体コロニーは、蛍光顕微鏡及び共焦点顕微鏡を用いて観察した。結果を図12〜14に示す。
【0095】
図12は、前記A10の血管内皮細胞のみを染色した写真である。図12から、血管内皮細胞が網目状に検出され血管様構造を形成していることがわかった。
図13は、前記A10のアルブミン細胞及び血管内皮細胞を染色した写真である。図13から、血管内皮細胞は、アルブミン産生細胞群の領域に伸張し、接触していることがわかった。図14は、前記A18のアルブミン細胞及び血管内皮細胞を染色した写真である。図13のA10と比較して、血管内皮細胞は、アルブミン産生細胞群に並列して網状構造を構築しながら増殖し、アルブミン産生細胞とネットワークを形成していることがわかった。これらのことから、前記サブクローンが肝細胞のみならず、血管内皮細胞にも分化して、その結果、肝組織が形成されることが明らかになった。
【0096】
(実施例7)
<肝組織形成における血管内皮細胞の影響>
−免疫染色による形態的解析−
前記サブクローンAb−3を、実施例2と同様に前記分化用培地に成長因子を添加せずに培養し、胚様体コロニーを得た。また、前記分化用培地中にN−(2,6−ジオキソ−3−ピペリジル)フタルイミド(サリドマイド、Tocris Cookson社製)を25μg/mL、及び100μg/mLの各濃度でジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したものを添加した以外は実施例2と同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。
各胚様体について、前記接着培養容器に播種後3日目の拍動率を観察した。結果を表6に示す。
【0097】
【表6】
表6から、分化用培地中にサリドマイドを添加することにより、胚様体の拍動率が低下し、心筋細胞への分化が阻害されている可能性が明らかになった。
【0098】
前記分化用培地中にサリドマイドを100μg/mL添加して培養した胚様体コロニー(A18)を、実施例4と同様にして、アルブミン産生細胞及び血管内皮細胞を免疫染色し、蛍光顕微鏡及び共焦点顕微鏡を用いて観察した。結果を図15に示す。サリドマイドを添加せずに培養して得た胚様体コロニーの結果を図16に示す。
【0099】
また、得られた前記各胚様体コロニーについて、血管内皮細胞の発現領域の面積を、画像解析ソフトウェア(Scion image Beta 4.0.2)を用いて測定し、比較を行った。測定は、各コロニー3種からそれぞれ15の領域を選択して行い、平均値と標準偏差を求め、Student’s t−testにより解析した。有意水準はP<0.001とした。結果を図17に示す。
【0100】
図15及び図16から、分化用培地中にサリドマイドを添加したことにより血管内皮細胞の発現が抑制され、またアルブミン産生細胞の発現も抑制されていることが組織観察からわかった。また、図17から、血管内皮細胞の発現領域の面積が、分化用培地中にサリドマイドを添加することにより、約20%に縮小したことがわかった。
【0101】
−RT−PCR法による解析−
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、下記表7に示す条件とした以外は試験例と同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。前記組織培養プレートに播種後18日目の胚様体コロニー(A18)をそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。また、前記E14.1細胞、前記胎児心筋細胞、前記胎児肝細胞、及び初代培養生体肝細胞から、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【表7】
*1:N−(2,6−ジオキソ−3−ピペリジル)フタルイミド(サリドマイド、Tocris Cookson社製)
*2:試験例の条件Cと同様
【0102】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0103】
前記プライマーは、実施例6で用いたPECAM−1特異的プライマー(配列番号29及び30)、VEGFR−1特異的プライマー(配列番号31及び32)、VEGFR−2特異的プライマー(配列番号33及び34)、及び試験例で用いたアルブミン特異的プライマー(配列番号1及び2)、並びに実施例1で用いたチロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)特異的プライマー(配列番号19及び20)を用いた。また、コントロールとしては、試験例で使用したhprt特異的プライマー(配列番号5及び6)を用いた。
【0104】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図18、及び表8に示す。
【0105】
【表8】
++:発現が強く検出された。
+:発現が検出された。
±:発現がわずかに検出された。
−:発現が検出されなかった。
【0106】
図18及び表8から、前記サブクローンAb−3から分化した胚様体は、サリドマイドの添加により、濃度依存的に血管内皮細胞の遺伝子レベルでの発現が抑制されていることがわかった。また、アルブミンの発現も抑制されていることから、胚性幹細胞由来のin vitroでの肝細胞の分化誘導及び増殖において、生体内での発生における知見と同様、血管内皮細胞に分化した細胞の存在が必要であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の肝組織・臓器の製造方法は、胚性幹細胞に対して分化因子を用いることなく、単一の肝実質細胞のみならず、血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞をあわせて分化誘導することが可能であり、かつ高い肝機能を有する肝組織・臓器を高い確率で効率よく製造することができるため、再生医療及び細胞医療等の分野におけるバイオ人工肝臓の製造、人工肝臓装置におけるリアクターの製造などに好適に使用することができ、本発明の肝組織・臓器の製造方法におけるリクローニング方法は、キメラマウスの作成などに応用することができる。
また、前記製造方法により製造された本発明の肝組織・臓器は、バイオ人工肝臓、移植用人工肝臓として好適に使用することができ、また、薬物動態試験用デバイス、機能性食品開発のための評価デバイスなどとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、試験例の結果を示す電気泳動写真である。
【図2】図2は、実施例1において、拍動がみられたコロニー数の割合を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例2のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図4】図4は、実施例2のウェスタンブロット解析(タンパク質泳動)の結果を示す写真である。
【図5】図5は、実施例2のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図6】図6は、実施例3(1)のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図7】図7は、実施例3(2)のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図8A】図8Aは、実施例4において観察された接着培養容器播種後10日目の胚様体コロニーの写真である。
【図8B】図8Bは、実施例4において免疫染色した接着培養容器播種後10日目の胚様体コロニーの写真である。
【図9A】図9Aは、実施例4において免疫染色した接着培養容器播種後18日目の胚様体コロニーの写真である。
【図9B】図9Bは、実施例4において免疫染色した接着培養容器播種後18日目の胚様体コロニーの写真である。なお、核の位置を白丸で示している。
【図10】図10は、実施例5のアンモニア分解能の評価結果を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例6のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図12】図12は、実施例6の胚様体コロニーの組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図13】図13は、実施例6の胚様体コロニーの組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図14】図14は、実施例6の胚様体コロニーの組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図15】図15は、実施例7の組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図16】図16は、実施例7の組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図17】図17は、実施例7の血管内皮細胞発現領域を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例7のRT−PCR結果を示す電気泳動写真である。
【図19】図19は、本発明の肝組織・臓器の製造方法のサブクローン分離工程において、分離するのに好ましいサブクローンの形態の一例を示す写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚性幹細胞から肝組織・臓器を製造する方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、疾患や事故などによって損傷を受け、重篤な機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、臓器移植や人工臓器による治療が行われてきた。
特に、肝臓は生命に必要な物質の代謝反応や合成反応、及び毒性物質の解毒反応等、生命の維持に不可欠な多数の化学反応を行う臓器であるため、これらすべての機能を人工的な装置で代用することは極めて困難である。また、臓器移植は、移植された肝臓に対する拒絶反応が避けられず、該拒絶反応を抑えるための免疫抑制によって副作用を伴うことに加え、絶対的なドナー不足という問題がある。
【0003】
これらの問題を解決するために、生体の肝細胞を併用した人工肝臓が研究され、該肝細胞と人工装置との組合せからなるハイブリット型人工肝臓(バイオハイブリッド型人工肝臓)が提案されている。具体的には、中空糸モジュール内に、生体由来の肝細胞を中空糸と接触させるように保持してなるバイオリアクターが人工肝臓として知られており(例えば、特許文献1及び2参照)、このようなバイオリアクターを用いた臨床応用の試みも行われている。
【0004】
しかしながら、前記バイオリアクターの中空糸モジュールにおいては、中空糸に接する肝細胞にしか酸素や栄養素を供給することができないという構造上の制限があり、細胞密度の上限値が限定されるという問題がある。
さらに、前記ハイブリット型人工肝臓に用いられる生体由来の肝細胞は、主に肝臓から単離された肝実質細胞であるため、増殖性が悪く、寿命が短いため長期培養が困難であり、かつ培養中に肝細胞としての機能が著しく低下するという問題がある。このため、前記ハイブリット型人工肝臓は、前記中空糸モジュールの構造上の制約と、用いる肝細胞の性能とから、本来の肝機能の一部のみを、短期間代替できるにすぎないものとなっている。
【0005】
一方、近年、失われた細胞、組織、及び臓器を再生して補う再生医療や細胞医療の技術として、様々な細胞へ分化する能力と、高い増殖能力とを有する胚性幹細胞(Embrionic Stem Cell:ES細胞)を利用する方法が注目されている。
前記胚性幹細胞は、胚盤胞内の未分化な細胞塊から得られ、試験管内で増殖と継代を繰り返すことが可能であり、目的とする機能を有する細胞を選択的に分化誘導することが可能であるため、様々な疾患に対する応用が期待されている。
【0006】
しかしながら、前記胚性幹細胞を用いた肝臓の再生技術としては、様々な分化因子を用いて肝実質細胞のみを分化誘導するにとどまっている(非特許文献1〜5参照)。前記胚性幹細胞から得られた肝実質細胞を、前記ハイブリット型人工肝臓に適用したとしても、肝実質細胞のみでは肝機能は不十分であり、また前述したモジュールの構造上の制限が存在することから、本来の肝組織・臓器の機能を満足する人工肝臓は得られないという問題がある。
したがって、本来の立体的な構成と機能とを有する肝組織・臓器の再生は未だ達成されていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平9−56814号公報
【特許文献2】特開2004−166717号公報
【非特許文献1】K.Abe,H.Niwa,et al.Exp Cell Res.,229(1),27−34(1996)
【非特許文献2】M.Schuldiner,O.Yanuka,et al.Proc Natl Acad Sci USA.,97(21),11307−11312(2000)
【非特許文献3】T.Hamasaki,Y.Iiboshi,et al.FEBS Lett.,497(1),15−19(2001)
【非特許文献4】N.Lumelsky,O.Blondel,et al.Science.,292(5520),1389−1394(2001)
【非特許文献5】S.Yamada,H.Kojima,et al.Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.,281(1),229−36(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、胚性幹細胞の万能性と発生学的知見に基づき、胚性幹細胞に対して薬剤投与や外来遺伝子の導入を行うことなく、単一の胚性幹細胞から発生学的知見に基づき、実際の肝組織・臓器と同様に、発生学的に肝実質細胞を血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞とともに分化誘導することが可能であり、かつ高い肝機能を有する肝組織・臓器を、高い確率で発生学的に効率よく製造する方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、胚性幹細胞の親細胞のリクローニングを行い、得られたサブクローンの拍動率を判定基準として分化能力の高いサブクローンをスクリーニングし、該サブクローンを用いることにより、肝特異的な機能を有する成熟した肝組織を高い確率で分化させることが可能であるとの新知見を得た。
肝臓の発生には、心臓原基からのシグナルが重要であることは知られているが、胚性幹細胞からの肝組織の分化誘導において、拍動率に基づいてスクリーニングしたサブクローンを用いることにより、肝組織・臓器を胚性幹細胞のみから効率的に製造できる技術は知られておらず、本発明者の新たな知見である。本発明は、本発明者らによるかかる知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離するサブクローン分離工程と、
該サブクローンのうち、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択するスクリーニング工程と、
前記スクリーニングされたサブクローンを培養するサブクローン培養工程と
を含むことを特徴とする肝組織・臓器の製造方法である。該<1>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローン分離工程により前記胚性幹細胞のサブクローンが分離され、前記スクリーニング工程により、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンが選択され、前記サブクローン培養工程により、選択された前記サブクローンが培養される。その結果、発生学的に肝組織・臓器が効率よく製造される。
<2> スクリーニング工程において、サブクローン由来の胚様体を96〜480個同時に同条件下で形成させ、接着培養を行う前記<1>に記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<2>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、96〜480個の胚様体中の拍動している前記胚様体の個数%が判定される。その結果、スクリーニングが確実に行われる。
<3> スクリーニング工程において、サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から24時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して50個数%以上であるサブクローンを選択する前記<1>から<2>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<3>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から24時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して50個数%以上であるサブクローンが選択される。その結果、高い確率で、発生学的に肝組織・臓器が効率よく製造される。
<4> サブクローン培養工程において、サブクローンを心筋細胞、肝実質細胞、及び肝非実質細胞に分化させ、肝組織・臓器を形成する前記<1>から<3>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<4>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローンを肝実質細胞と肝非実質細胞とに分化させる。この結果、肝実質細胞のみからなる従来の人工肝臓とは異なり、生体内の正常肝臓と同等の前記肝組織・臓器が製造される。
<5> 肝非実質細胞が、血管内皮細胞である前記<4>に記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<5>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローンを肝実質細胞とともに血管内皮細胞に分化させる。その結果、肝実質細胞のみからなる従来の人工肝臓とは異なり、長寿命かつ高機能の前記肝組織・臓器が製造される。
<6> サブクローン分離工程におけるリクローニングが、胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で培養し、形成されたコロニー由来のクローンを得、該クローンを培養して得たコロニーを分離することにより行われる前記<1>から<5>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<6>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、前記サブクローンが、前記胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で培養して形成されたコロニー由来のクローンのコロニーから分離される。その結果、未分化な状態が維持されたサブクローンが得られる。
<7> サブクローン培養工程において、サブクローンに対して実質的に外来遺伝子の導入を行わない前記<1>から<6>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。該<7>に記載の肝組織・臓器の製造方法においては、サブクローンが実質的に外来遺伝子の導入を行われずに培養される。その結果、安全性の高い肝組織・臓器が効率よく製造される。
<8> サブクローン培養工程において、サブクローン由来の胚様体を、96〜480個混合して培養する前記<1>から<7>のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の方法により製造され、胚性幹細胞サブクローンの単一細胞由来であることを特徴とする肝組織・臓器である。
<10> 人工肝臓として使用される前記<9>に記載の肝組織・臓器である。
<11> 前記<9>に記載の肝組織・臓器に、被験物質を投与することを含むことを特徴とする薬剤スクリーニング方法である。該<11>に記載の薬剤スクリーニング方法によると、被験物質が、前記肝組織・臓器に投与されて、目的の物質が効率よくスクリーニングされる。
<12> 被験物質が、肝機能障害治療薬、機能性食品、及びこれらの有効成分のいずれかである前記<11>に記載の薬剤スクリーニング方法である。
<13> コレステロール分解促進物質、及びコレステロール生合成阻害物質のいずれかの探索を行う前記<11>から<12>のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、胚性幹細胞に対して実質的に薬剤投与や外来遺伝子の導入を行うことなく、単一の胚性幹細胞から、肝実質細胞のみならず血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞をあわせて分化誘導することが可能であり、かつ高い肝機能を有する肝組織・臓器を高い確率で効率よく製造する方法、及び該方法により製造された肝組織・臓器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(肝組織・臓器の製造方法)
本発明の肝組織・臓器の製造方法は、サブクローン分離工程と、スクリーニング工程と、サブクローン培養工程とを含み、更に必要に応じて適宜選択したその他の工程を含む。
【0012】
本発明の肝細胞・臓器の製造方法における具体的な細胞培養の操作としては、当該技術分野の常法の操作に従って行うことができ、培養条件としては、37℃で5%のCO2存在下が好ましい。
また、本発明の肝細胞・臓器の製造方法において、細胞培養に使用される器具・装置等としては、当該技術分野で一般的に使用される器具・装置等を用いて行うことができる。
【0013】
<サブクローン分離工程>
前記サブクローン分離工程は、胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離する工程からなる。前記リクローニングとは、親細胞をクローニングして得られた親細胞クローンに対し、さらにクローニングを行うことをいう。また、前記サブクローンとは、前記親細胞クローンからクローニングにより得られたクローンを指す。
【0014】
前記胚性幹細胞としては、インビトロにおいて培養可能であり、初期胚を培養することにより樹立され、成体を構成する種々の細胞に分化可能な多分化能を有する細胞であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、着床以前の初期胚内の内部細胞塊から樹立したES(Embyonic stem)細胞、生殖細胞から樹立されたEG(Embyonic germ)細胞、及び該胚性幹細胞を培養して得られた細胞などが挙げられ、これらは既に樹立された細胞系統であってもよい。
前記胚性肝細胞としては、哺乳類、鳥類、及び爬虫類など多様な動物に由来する細胞を使用することができるが、これらの中でもマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヤギ、サル、及びヒトなどの哺乳類に由来する胚性幹細胞が好ましい。
【0015】
前記胚性幹細胞のリクローニング方法としては、前記胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で培養し、形成されたコロニー由来の単一細胞を得、該単一細胞を培養して得たコロニーを分離することにより行われる。
具体的には、前記胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で未分化な状態を維持しながら増殖させた後、酵素等を用いて細胞同士の接着がない単一細胞状態とし、前記単一細胞状態となった前記胚性幹細胞から未分化の胚性幹細胞クローンを得て、該胚性幹細胞クローンを未分化な状態を維持しながら培養増殖してコロニーを形成させ、該コロニーからサブクローンを得る方法が挙げられる。
前記胚性幹細胞を単一細胞状態とする方法としては、常法の操作方法が挙げられる。具体的には、コンフルエントに増殖した前記胚性幹細胞を、培養している培養容器から胚性幹細胞培養用培地を除去した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて数回洗浄し、前記培養容器にトリプシン‐EDTA液を投与し、5〜20分間放置する。その後トリプシン‐EDTA液を除去し、前記胚性幹細胞を前記胚性幹細胞培養用培地に懸濁し、遠心分離により前記胚性幹細胞を沈殿させ、これを再度前記胚性幹細胞培養用培地に懸濁する方法が挙げられる。
【0016】
前記胚性幹細胞培養用培地としては、細胞培養用の最小培地に、血清、LIF(白血病阻止因子)、L−グルタミン、及び2−メルカプトエタノールなどを添加してなる培地が挙げられ、例えば、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)に、FBS(ウシ胎児血清)20%、ピルビン酸ナトリウム1mM、非必須アミノ酸0.1mM、2−メルカプトエタノール0.1mM、及びLIF1000U/Lを添加してなる培地が挙げられる。
【0017】
前記胚性幹細胞、又は前記胚性幹細胞クローンを培養する方法としては、未分化な胚性幹細胞の形質を維持可能な方法であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記胚性幹細胞培養用培地を用い、支持細胞とともに共培養する方法が挙げられ、前記支持細胞としては、例えば、マイトマイシンC処理されたマウス胎児繊維芽細胞、STO細胞、NHL7細胞等が挙げられる。
前記培養容器内に播種する前記胚性幹細胞、又は前記胚性幹細胞クローンの細胞密度としては、10,000〜80,000個/cm2が好ましい。
【0018】
前記胚性幹細胞クローンの培養において、前記サブクローンを取得しやすくする目的で、前記胚性幹細胞クローンに薬剤耐性遺伝子を導入し、薬剤添加培地上で培養を行うことにより、コロニーの形成数を制御してもよい。
前記薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
前記薬剤耐性遺伝子の導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、レトロウィルスベクター法などが挙げられる。
【0019】
前記サブクローンを分離する方法としては、例えば、前記胚性幹細胞クローンを前記胚性幹細胞培養用培地中で4〜7日培養し、形成されたコロニーを実体顕微鏡下でピペット等を用いて吸引して回収し、該コロニーを単一細胞状態として前記胚性幹細胞培養用培地に懸濁する方法が挙げられる。
前記コロニーとしては、比較的増殖が速いものが好ましく、実体顕微鏡下で観察したときに、高く盛り上がり、周辺に扁平な細胞が存在しないという形態的特徴を有するものが好ましく、例えば、図19に示すような形態のコロニーが好ましい。
【0020】
<スクリーニング工程>
前記スクリーニング工程は、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択する工程からなる。
【0021】
前記スクリーニング工程において形成させる前記胚様体としては、単一細胞状態の前記サブクローン500〜2,000個が凝集した胚に類似した構造体であり、前記サブクローンを、同一組成の培地を使用し、同一温度条件下で同時に浮遊培養して形成させたものが好ましい。
前記サブクローン由来の胚様体の作製方法としては、例えば、単一細胞状態の前記サブクローンを、10〜25個/μLとなるように、LIFを含有しない胚様体形成用培地に懸濁し、浮遊培養させる方法が挙げられる。
前記浮遊培養の方法としては、例えば、細胞懸濁液を滴下した培養容器を反転させ、懸垂状態のドロップを形成して培養するハンギングドロップ法などが挙げられる。
前記胚様体の培養容器としては、例えば、マルチウェルプレート等が好ましい。前記マルチウェルプレートとしては、96穴プレートが好ましい。
【0022】
前記胚様体形成用培地としては、細胞培養用の最小培地に、血清、アミノ酸、及び2−メルカプトエタノールなどを添加してなり、実質的にLIFを含有しない培地が挙げられ、例えば、IMDM(イスコフ改変ダルベッコ培地)に、FBS(ウシ胎児血清)20%、ピルビン酸ナトリウム1mM、非必須アミノ酸0.1mM、及び2−メルカプトエタノール0.1mMを添加してなる培地が挙げられる。
【0023】
ここで、拍動している胚様体とは、継続的に一定のリズムで収縮が観られる胚様体を指す。具体的には、実体顕微鏡下において観察したとき、該収縮が連続的かつ規則的に(例えば、収縮と収縮との間隔が0.1〜10秒)観られる胚様体である。
拍動している前記胚様体の個数の全胚様体の個数に対する割合(以下、「拍動率」という。)としては、例えば、胚様体を実体顕微鏡下で観察し、拍動している胚様体数から、下記式(1)により求めることができる。
前記拍動率の測定において、全胚様体の数としては50個以上であることが好ましく、100個以上であることがより好ましい。
拍動率(個数%)=〔(拍動している胚様体数)/(全胚様体数)〕×100
式(1)
【0024】
前記サブクローンとしては、該サブクローン由来の胚様体の拍動率が、接着培養開始から48時間後において70%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、接着培養開始から24時間後において50%以上であることが特に好ましい。
前記サブクローン由来の胚様体の拍動率が、接着培養開始から48時間後において70%未満であると、該サブクローンから前記肝組織・臓器が得られないことがある。
【0025】
<サブクローン培養工程>
前記サブクローン培養工程は、前記スクリーニング工程においてスクリーニングされた前記サブクローンを、心筋細胞、肝実質細胞、及び肝非実質細胞に分化させ、肝組織・臓器を形成する工程からなる。また、前記サブクローン培養工程においては、前記サブクローンに対して実質的に外来遺伝子の導入を行わない。このため、効率よく安全性の高い前記肝組織・臓器を製造することができる。
前記スクリーニング工程においてスクリーニングされた前記サブクローンは、前記肝組織・臓器の製造に用いられるまで、前記胚性幹細胞培養用培地を用いて未分化な状態を維持しながら継代培養される。なお、継代は6代を上限とすることが好ましい。
【0026】
前記スクリーニング工程においてスクリーニングされた前記サブクローンは、単一細胞状態として前記胚様体形成用培地に懸濁し、浮遊培養することにより前記胚様体を形成させる。次いで、得られた前記胚様体96〜480個を集め、分化用培地を用い、接着培養容器に播種して接着培養することにより、前記肝組織・臓器を製造することができる。
【0027】
前記分化用培地としては、細胞培養用の最小培地に、血清、アミノ酸、2−メルカプトエタノール、及びLIF等を添加してなり、実質的にLIFを含有しない培地が挙げられ、例えば、Iscove’s modified DMEM(イスコブ改変ダルベッコ−イーグル培地)に、FBS(ウシ胎児血清)20%、ピルビン酸ナトリウム1mM、非必須アミノ酸0.1mM、2−メルカプトエタノールを添加してなる培地が挙げられる。
【0028】
前記接着培養容器としては、前記胚様体の接着培養が可能な細胞培養用培養器であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マルチプレート、マイクロウェルプレート、シャーレ、フラスコ、ディッシュ、バッグ、及び中空糸デバイス等が挙げられる。前記接着培養において、前記胚様体と前記接着培養容器との接着性を制御するために、表面処理を行ってもよい。
前記表面処理としては、例えば、ゼラチンコート、コラーゲンコート、フィブロネクチンコート、ラミニンコート、マトリゲルコート等の方法が挙げられる。
【0029】
本発明の肝組織・臓器の製造方法により、前記リクローニングされた胚性幹細胞サブクローンを、心筋細胞、肝実質細胞、及び肝非実質細胞に分化させ、前記胚様体の接着培養開始から10〜18日後に、形態学的にも組織学的にも生体内の正常肝組織・臓器の特徴を有し、肝実質細胞及び肝非実質細胞とからなる前記肝組織・臓器に分化させることができる。
前記形態学的特徴としては、例えば、2核の形態を有すること、アルブミン染色に陽性であることなどの特徴が挙げられる。
前記組織学的特徴としては、例えば、アンモニア分解能を有すること、タンパク質(アルブミン)産生能を有すること、テストステロンの水酸化活性を有することなどが挙げられる。
【0030】
<心筋細胞>
前記胚性幹細胞から肝組織への分化は、心筋細胞の出現と相関を有し、発生学的知見からも、心臓原基からのシグナルにより、内胚葉が前腸へ分化し、拍動する心筋細胞からのシグナルにより肝憩室、肝芽へと分化し、肝組織へ分化することが知られている。
前記心筋細胞の発現を確認する方法としては、前記胚様体コロニーの拍動開始により確認することができ、また、ANP、Nkx2.5、GATA4等の心筋細胞特異的マーカーの遺伝子発現、又は心筋細胞特異的マーカータンパク質の発現により確認することができる。
【0031】
<肝実質細胞>
前記肝実質細胞は、発生学的に、前記胚様体における前記心筋細胞の出現に続いて出現することが知られている。実験的に前記肝実質細胞は、胚様体から分化した前記心筋細胞近傍に発現が観察されることが知られている。
前記肝実質細胞への分化能及び前記肝実質細胞への分化を確認する方法としては、
トランスサイレチン(TTR)、α−フェトプロテイン(AFP)胎児肝細胞、a1−アンチトリプシン(AAT)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)、トリプトファンオキシゲナーゼ(TO)、チロシンアミノトランスフェラーゼ、アシアログリコプロテインレセプター(ASGR)、アルブミンなどの肝細胞(胎児肝細胞)特異的マーカー遺伝子発現、若しくは肝細胞特異的マーカータンパク質の発現、又は抗アルブミン抗体による免疫染色などにより確認することができる。
また、マウスの肝細胞においては、2核を有する細胞が多く確認されることから、細胞核を形態学的に確認することにより確認することができる。
【0032】
<肝非実質細胞>
前記肝非実質細胞とは、類洞内皮細胞、クッパー細胞、及び胆管細胞などが挙げられ、発生学的に前記肝実質細胞の発現とほぼ同時に発現することが知られており、特に、血管内皮細胞への分化が重要であることが知られている。
前記非肝実質細胞への分化能及び前記非肝実質細胞への分化を確認する方法としては、CD31/PECAM1、血管内皮増殖因子VEGFR−1及びVEGFR−2、並びに血管新生調節因子VEGFなどの血管内皮特異的マーカー遺伝子発現、若しくは血管内皮特異的マーカータンパク質の発現、又はCD31/PECAM1抗体による免疫染色などにより確認することができる。
【0033】
前記特異的マーカー遺伝子発現の検出方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、RT−PCR法、in situ hybridization法、microarray法などが挙げられる。
前記タンパク質発現の検出方法としては、特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができ、例えば、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、immunohistochemistry法などが挙げられる。
【0034】
本発明の肝組織・臓器の製造方法は、胚性幹細胞に対して薬剤投与や外来遺伝子の導入を行うことなく、単一の胚性幹細胞から、肝実質細胞のみならず血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞をあわせて分化誘導することが可能であることから、後述する肝組織・臓器の製造に好適に使用することができる。
【0035】
(肝組織・臓器)
本発明の肝組織・臓器は、上述した本発明の肝組織・臓器の製造方法により製造され、胚性幹細胞サブクローンの単一細胞由来の肝組織・臓器である。
【0036】
前記肝組織・臓器の用途としては、肝機能が要求される用途であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、人工肝臓として使用することができ、具体的には、再生医療及び細胞医療等の分野におけるバイオ人工肝臓、ハイブリッド型人工肝臓装置における体外循環型人工肝臓、及びバイオリアクターなどが挙げられる。
前記肝組織・臓器としては、前記胚様体の接着培養開始から10〜18日目の前記肝組織・臓器を使用することが好ましく、15〜18日目の前記肝組織・臓器を使用することがより好ましい。
【0037】
前記バイオ人工肝臓としては、例えば、前記肝組織・臓器を、肝臓、脾臓、又は腹腔内に移植して、体内で肝臓の再構築を行うものが挙げられる。
【0038】
前記体外循環型人工肝臓としては、例えば、公知の透析装置や血漿分離における血液循環回路内に、前記肝組織・臓器を充填したモジュールを備え、被処理液である血液などの体液と前記肝組織・臓器とを接触させることにより、有害物質の代謝・除去を行うものが挙げられる。
前記モジュールとしては、前記被処理液の循環が可能で、かつ前記肝組織・臓器の培養が可能な容器であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、中空糸モジュール、バイオリアクターなどが挙げられる。
【0039】
前記バイオリアクターとしては、前記肝組織・臓器を含む反応器を用い、肝臓由来の生理活性物質や有用物質の産生を行うものが挙げられ、例えば、血液凝固因子産生用バイオリアクター等が挙げられる。
【0040】
本発明の肝組織・臓器は、肝実質細胞及び肝非実質細胞を含むため、肝実質細胞のみからなる従来の人工肝臓と比較して、高い肝機能を有する点で有利である。
【0041】
(薬物スクリーニング方法)
前記薬剤スクリーニング方法は、本発明の肝組織・臓器に、被験物質を投与することを含み、さらに必要に応じて、適宜選択したその他の工程を含む。
前記薬剤スクリーニング方法の具体的な方法としては、例えば、本発明の肝組織・臓器の培養液に被験物質を添加し、一定時間インキュベートした後、前記培養液中及び前記肝組織・臓器を構成する細胞内の少なくともいずれかに含まれる代謝産物等を解析する方法などが挙げられる。
【0042】
前記被験物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝機能障害治療薬、機能性食品、及びこれらの有効成分のいずれかが挙げられる。
前記肝機能障害治療薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、新規治療薬、及び既存の治療薬のいずれであってもよい。前記新規治療薬のスクリーニングは、該治療薬の有効性の評価に好適であり、既存の治療薬のスクリーニングは、該治療薬の有効性評価及び適合性評価に好適である。
前記機能性食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝機能向上効果が期待される前記機能性食品などが挙げられる。前記機能性食品を被験物質としたスクリーニングは、前記機能性食品中の有用物質や毒性物質等の探索及び評価に好適である。
【0043】
前記薬剤スクリーニングとしては、例えば、肝機能向上に有用な成分のスクリーニング、及び肝臓に障害を与える有害成分のスクリーニングなどが挙げられる。
前記肝機能向上に有用な成分のスクリーニングとしては、例えば、コレステロール分解促進物質、及びコレステロール生合成阻害物質の探索などが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
(試験例)
<胚性幹細胞の分化誘導>
−胚性幹細胞(親細胞)の培養−
129/Olaマウス由来の胚性幹細胞E14.1((P.O.Seglen,Methods Cell Biol.,13,29−83(1976)、R.Kuhn,K.Rajewskyら,Sience.,254(5032),707−710(1991));東京大学医科学研究所の岩倉洋一郎博士、吉田進昭博士より恵与された)を、マイトマイシンC処理したマウス胚性繊維芽細胞をフィーダー細胞として共培養した。前記胚性幹細胞E14−1は、ダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM;Gibco社製)に、牛胎児血清(FBS;Hyclone社製)20%、ピルビン酸ナトリウム(インビトロジェン社製)1mM、非必須アミノ酸溶液(Gibco社製)100μM、M2−メルカプトエタノール(シグマ社製)100μ、LIF(ケミコン社製)103U/mlを加えた培地を用い、未分化な形質を維持しながら培養した。
培地交換を毎日行い、コンフルエントに達するまで前記E14.1細胞を3日間増殖させた。
【0046】
−胚様体の作製−
コンフルエントに達した前記E14.1細胞を、0.05% トリプシン、1.0% ニワトリ血清、及び1mM EDTAを含むPBSを用いて処理し、単一細胞状態とした。次いで、前記E14.1細胞を、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;Gibco社製)に牛胎児血清(FBS;Hyclone社製)20%、ピルビン酸ナトリウム(インビトロジェン社製)1mM、非必須アミノ酸溶液(Gibco社製)100μM、及びM2−メルカプトエタノール(シグマ社製)100μを加えた胚様体形成用培地に懸濁し、該細胞懸濁液を50μLあたり前記E14−1細胞が1,000個含まれるように調製した。
96ウェルプレート(IWAKI社製)本体の各ウェルに、予めミネラルオイル(SIGMA社製)350μLを充填し、該96ウェルプレートの蓋の内側部分の各ウェルに対応する部位に前記E14.1細胞懸濁液を50μLずつ滴下した。前記96ウェルプレート本体上に、前記E14.1細胞懸濁液が搭載された蓋を反転させて組合せ、培養を開始した(以下、ハンギングドロップ法という)。前記ハンギングドロップ法により、前記E14.1細胞を、5%CO2を通気したインキュベータで37℃で5日間培養を行い、胚様体を得た。
【0047】
−分化誘導−
前記96ウェルプレートの1ウェル中の胚様体を、接着培養容器としてゼラチンコートした6cmプレート(IWAKI社製)の1ウェルに播種したものを合計20枚作製した。前記接着培養容器中に、分化用培地(20%FCS、IMDM、100×非必須アミノ酸、100×ピルビン酸ナトリウム、メルカプトエタノール)を4mL加え、37℃で5%CO2を通気したインキュベータ中で前記胚様体の接着培養を開始した。
前記接着培養容器を4群に分け、前記分化用培地中に、下記に示す条件に基づき成長因子をそれぞれ添加し、18日間培養を行った。
【表1】
*1:繊維芽細胞成長因子(インビトロジェン社製)100ng/mL
*2:肝細胞成長因子(ジェンザイム社製)20ng/ml
*3:マウスオンコスタチンM(ジェンザイム社製)10ng/mL
上記の他に、デキサメタソン(ISNバイオメディカル社製)100nM、ITS(組成:インスリン10μg、トランスフェリン5μg、セレニウム5ng/mL;インビトロジェン社製)10μg/mL、及びニコチンアミド(ナカライテスク社製)10mMを6日目に添加した。
【0048】
前記胚様体は、前記接着培養容器のゼラチン上に接着して増殖し、コロニーを形成した。接着培養開始から10日目の胚様体コロニーを実体顕微鏡下で観察し、拍動が観られる胚様体コロニーと拍動がみられない胚様体コロニーとを採取し、それぞれの胚様体コロニーについて、以下に示すRT−PCR法により肝特異的マーカー及び心房特異的マーカーの発現を観察した。なお、肝特異的マーカーの陽性コントロールとして、胎齢15日目のマウス肝臓、及び成体(生後10週齢)マウス肝臓から下記に示す方法で単離した胎児肝細胞及び初代培養成体肝細胞を用い、心房特異的マーカーの陽性コントロールとして、胎齢15日目のマウス心臓から下記に示す方法で単離した胎児心筋細胞を用いた。また、陰性対象として、分化誘導前のE14.1細胞を用いた。
【0049】
−陽性コントロール用細胞の調製方法−
(1)胎児肝細胞、胎児心筋細胞
胎齢15日目のマウスから摘出した肝臓及び心臓は、それぞれ細切し、コラゲナーゼIIを添加したHanks液を加えて常法により処理し、細胞を遊離させた。得られた細胞をゼラチンコートした6cmディッシュに播種し、10% 牛胎児血清、100μM 非必須アミノ酸溶液、ペニシリン1000U/ml、ストレプトマイシン−グルタミン1000μg/mLが添加されたダルベッコ改変イーグル培地(Gibco社製)を加えて数時間静置した後、培地交換を行った。調製した胎児肝細胞(FL)、及び胎児心臓細胞(FH)は、5%CO2を通気したインキュベータ中で培地を毎日交換しながら37℃で培養した。
(2)初代培養成体肝細胞
129/SvJ雄マウス(生後10週齢)の肝臓から、コラゲナーゼ潅流法(P.O.Seglen,Methods Cell Biol.,13,29−83(1976))により肝細胞懸濁液を得た。該肝細胞懸濁液から、50%Percoll密度勾配遠心法によって肝細胞を回収した。得られた前記肝細胞を、ゼラチンコートしたディッシュに播種し、牛胎児血清10%、非必須アミノ酸溶液100μM、ペニシリン1000U/ml、ストレプトマイシン−グルタミン1000μg/mLが添加されたダルベッコ改変イーグル培地(Gibco社製)を加えて数時間静置した後、培地交換を行い、初代培養成体肝細胞を得た。調製した前記初代培養成体肝細胞(AL)は、5%CO2を通気したインキュベータ中で培地を毎日交換しながら37℃で培養した。
【0050】
−RT−PCR法による解析−
前記表1に記載の各条件A〜Dで培養した各胚様体コロニーについて、接着培養容器に播種して接着培養を開始してから10日目(240時間後)に拍動が観られるものと拍動がみられないものとをそれぞれ選択した。前記採取した計8種類の胚様体コロニーから、MagEXtractor mRNA kit(東洋紡績(株)製)を用い、添付マニュアルに従って、トータルRNAを2μgそれぞれ調製し、superscriptII first strand synthesis system with oligo dT primer(インビトロジェン社製)を用いて各cDNAを合成した。
ここで、前記胚様体コロニーの拍動の有無は、前記胚様体コロニーを実体顕微鏡下で観察し、連続的かつ規則的な収縮が観られるコロニーを、拍動ありと判定した。
【0051】
前記8種類の胚様体コロニーと同様にして、前記胎児肝細胞、前記胎児心筋細胞、前記初代培養成体肝細胞、及びE14.1細胞から、トータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0052】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0053】
前記プライマーは、肝細胞マーカーとしてアルブミンの遺伝子発現量を評価するためにアルブミン特異的プライマー(配列番号1:5´−GCTACGGCACAGTGCTTG−3´、配列番号2:5´−CAGGATTGCAGACAGATAGTC−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、及び心筋細胞マーカーとして心房性ナトリウムペプチド(ANP)の遺伝子発現量を評価するためにANP特異的プライマー(配列番号3:5´−ATGGGCTCCTTCATCAC−3´、配列番号4:5´−TGTTGCAGCCTAGTCCACTC−3´)を用いた。
また、コントロールとしてヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)特異的プライマー(配列番号5:5´−GTTGGATACAGGCCAGACTTTGTTG−3´、配列番号6:5´−GAGGGTAGGCTGGCCTATAGGCT−3´)を用いた。
【0054】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図1、及び表2に示す。
【0055】
【表2】
++:発現が強く検出された
+:発現が検出された
±:ごくわずかに発現が検出された
−:発現が検出されなかった
【0056】
図1及び表2から、拍動がみられた胚様体コロニーには、培養中の成長因子の添加の有無に関わらず、アルブミン遺伝子の発現が強くみられた。このことから、成長因子を添加することなく、胚性幹細胞から心筋細胞と肝細胞とを分化誘導可能であり、特に、拍動する細胞の存在により肝細胞が誘導される可能性が明らかになった。
【0057】
(実施例1)
<リクローニングによるサブクローンの樹立>
前記E14.1細胞を、試験例と同様にして未分化な形質を維持しながら、コンフルエントになるまで増殖させた。前記胚性幹細胞培養用培地を除去し、培養したE14.1細胞をPBS(−)で2回洗浄した後、トリプシン‐EDTA培地で分離し、前記胚性幹細胞培養用培地に懸濁し、単一細胞状態とした。
ゼラチンコーティングされた10cmディッシュ(IWAKI製)に、単一細胞状態の前記E14.1クローン細胞を播種し、培地交換を行いながら、37℃で5%CO2を通気したインキュベータで5日間培養した。前記E14.1クローン細胞は、互いに凝集せず、ディッシュ内側表面に付着し、分裂・増殖を繰り返してコロニーを形成した。
【0058】
前記コロニーを実体顕微鏡下でコロニーを選択し、該コロニーを、孔径が約0.5mmのガラスピペットを用いて、40〜80個ピックアップした。
【0059】
前記各コロニーは、トリプシン0.05%、ニワトリ血清1.0%、及びEDTA1mMを含むPBSを用いて処理し、単一細胞状態とした後、前記胚性幹細胞培養用培地(ダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM;Gibco社製)に、牛胎児血清(FBS;Hyclone社製)20%、ピルビン酸ナトリウム(インビトロジェン社製)1mM、非必須アミノ酸溶液(Gibco社製)100μM、M2−メルカプトエタノール(シグマ社製)100μ、LIF(ケミコン社製)103U/ml)を用い、未分化な形質を維持しながら培養し、サブクローンとしてMy−1、Ab−3、及びMy−5の系統を樹立した。
【0060】
前記My−1、Ab−3、及びMy−5のサブクローンを、それぞれ、試験例と同様に培養して胚様体を作製し、前記96ウェルプレート10枚分の胚様体を得た。
次いで、前記96ウェルプレートの1ウェル中の胚様体を、接着培養容器としてゼラチンコートした96ウェルプレート(IWAKI社製)に播種し、これを合計3枚作製した。前記接着培養容器中に、前記分化用培地を0.3mL加え、37℃で5%CO2を通気したインキュベータ中で前記胚様体の接着培養を開始した。
前記接着培養容器での培養開始から1日(24時間)ごとに、前記接着培養容器中の前記胚様体コロニーを実体顕微鏡により観察し、拍動の有無を確認した。前記胚様体コロニーの拍動の有無は、試験例と同様にして判定した。観察した全コロニー中、拍動がみられたコロニー数の割合を図2に示す。
【0061】
<サブクローンの分化>
得られたMy−1、Ab−3、及びMy−5の各サブクローンの培養を継続し、接着培養容器に播種後48時間後の胚様体コロニーを採取し、試験例と同様にして、RT−PCR法によりアルブミン遺伝子の発現を評価した。ただし、前記胚様体コロニーは、拍動の有無により選別することなく採取した。
アガロースゲル電気泳動の結果、My−1及びAb−3にはアルブミン遺伝子の発現を示すバンドがみられたが、My−5のアルブミン遺伝子の発現を示すバンドは目視で確認できなかった。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
※:接着培養容器に播種後48時間後の拍動率
+:発現が検出された
−:発現が検出されなかった
【0063】
(実施例2)
<リクローニングしたサブクローンの分化誘導>
(1)サブクローンの分化能評価
−RT−PCR法による解析−
実施例1で得られたサブクローンAb−3(接着培養開始から48時間後の拍動率が80%)を用い、前記分化用培地に成長因子をしなかった試験例の条件Dと同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。培養開始から3日目及び5日目の胚様体、並びに組織培養プレートに播種後2、4、6、及び8日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。また、前記胎児肝細胞、前記初代培養成体肝細胞、及びE14.1細胞から、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0064】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、mol/L、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0065】
前記プライマーは、内胚葉特異的マーカーとして、トランスサイレチンの遺伝子発現量を評価するためにトランスサイレチン(TTR)特異的プライマー(配列番号7:5´−CTCACCACAGATGAGAAG−3´、配列番号8:5´−GGCTGAGTCTCTCAATTC−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、α−フェトプロテインの遺伝子発現量を評価するためにα−フェトプロテイン(AFP)特異的プライマー(配列番号9:5´−TCGTATTCCAACAGGAGG−3´、配列番号10:5´−AGGCTTTTGCTTCACCAG−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、a1−アンチトリプシンの遺伝子発現量を評価するためにa1−アンチトリプシン(AAT)特異的プライマー(配列番号11:5´−AATGGAAGAAGCCATTCGAT−3´、配列番号12:5´−AAGACTGTAGCTGCTGCAGC−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、並びに肝細胞マーカーとして、試験例で使用したアルブミン特異的プライマーを用いた。また、未分化細胞マーカーとして、転写因子Oct−3/4の遺伝子発現量を評価するためにOct−3/4特異的プライマー(配列番号13:5´−AGCACGAGTGGAAAGCACT−3´、配列番号14:5´−CTCATTGTTGTCGGCTTCCT−3´)を用い、コントロールとして試験例で使用したhprt特異的プライマーを用いた。
【0066】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図3、及び表4に示す。
【0067】
【表4】
++:発現が強く検出された。
+:発現が検出された。
±:発現がわずかに検出された。
−:発現が検出されなかった。
【0068】
図3及び表4から、前記サブクローンAb−3の胚様体コロニー中の細胞に、肝細胞特異的遺伝子群の発現が確認され、リクローニングにより得られたサブクローンが、肝細胞への分化能を有することがわかった。
【0069】
−ウェスタンブロット法による解析−
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、分化用培地に成長因子をしない試験例の条件Dと同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。前記組織培養プレートに播種後4、6、8、12、16、及び18日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、下記の方法で細胞溶解液を調製した。また、前記胚様体コロニーと同様にして、前記初代培養成体肝細胞、STO細胞、及びE14.1細胞から細胞溶解液をそれぞれ調製した。前記胎児肝細胞及び前記初代培養成体肝細胞は、試験例と同様にして調製した。
【0070】
前記各細胞をトリプシン処理し、PBSで遠心洗浄し、細胞残渣を20mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1% Nonidet P−40、0.1% SDS、1% デオキシコール酸ナトリウム、2mM EDTA、1mM PMSF(phenylmethylsulfonyl fluoride)、2μg/mL aprotinin、10μg/mL leupeptin 5μg/mL pepstatinを含むバッファー中に溶解し、細胞溶解液を調製した。
該細胞溶解液を4℃、12000回転で10分間遠心分離し、上清を回収し、BCA protein assay kit(Pierece社製)を用いてタンパク質の量を測定し、各溶液中のタンパク質濃度が10μg/mLとなるように調整し、サンプル溶液を得た。
前記サンプル溶液を、8%ポリアクリルアミドゲルの各レーン上に15μLずつ加え、120mAで1.5時間、室温にて電気泳動を行った。泳動したタンパク質は、前記ポリアクリルアミドゲルから、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(Bio−Rad社製)上に、0.3Vで1時間かけて転写した。前記タンパク質が転写されたPVDF膜を、PBSで溶解した5%スキムミルクで1時間室温にてブロッキングを行った後、
0.1%BSAを添加した0.1%Tween20含有TBS−T溶液で希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギヒツジ抗体(アマシャムファルマシアバイオテク社製)と室温で1時間インキュベートした。TBS−T溶液で前記PVDF膜を洗浄した後、ケミルミネッセンス(ECL、アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いて発光させ、X線フィルム(RX−U、富士写真フイルム社製)を感光させ、タンパク質を検出した。結果を図4に示す。
【0071】
図4から、リクローニングにより得られた前記サブクローンAb−3の胚様体コロニー中の細胞から、肝細胞特異的なアルブミン、心筋細胞特異的なアクチンの産生が確認された。このことから、分化用培地中に成長因子を添加することなく、リクローニングして得た胚性幹細胞サブクローンからアルブミンを産生する肝様細胞が得られることがわかった。また、検出されたアルブミン量が経時的に増加していることから、胚葉体コロニー中に含まれる肝様細胞の割合が時間とともに増加し、分化がすすむことがわかった。
【0072】
(2)成長因子の産生
上記(1)において、前記分化用培地中に成長因子を添加しないでも前記胚様体が分化したことから、前記胚様体自身が成長因子を産生している可能性について調べた。
プライマーとして、HGF(肝細胞成長因子)特異的プライマー(配列番号15:5´−AGACACCACACCGGCACAGT−3´、配列番号16:5´−ATAGGGCAATAATCCCAAGG−3´)、FGF(繊維芽細胞成長因子)特異的プライマー(配列番号17:5´−ACCGAGAGGTTCAACCTGCC−3´、配列番号18:5´−GCCATAGTGAGTCCGAGGACC−3´)を用いた以外は、上記(1)と同様にしてRT−PCR法により遺伝子発現を評価した。結果を図5に示す。
【0073】
図5から、前記組織培養プレートに播種後、胚様体自身が成長因子を産生していることがわかった。
【0074】
(実施例3)
<胚性幹細胞分化における成長因子の関与>
(1)分化初期における成長因子添加の影響
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、試験例の条件Cと同様にして前記分化用培地に成長因子を添加した群と、試験例の条件Dと同様にして前記分化用培地に成長因子を添加しなかった群とに分けて培養し、それぞれ胚様体コロニーを得た。前記組織培養プレートに播種後10日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルmRNAを2μg調製し、cDNAを合成した。また、試験例と同様にして、前記胎児肝細胞、前記初代培養成体肝細胞、及びE14.1細胞から、トータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0075】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0076】
前記プライマーは、成熟肝細胞(肝実質細胞)特異的マーカーとして、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)の遺伝子発現量を評価するために、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)特異的プライマー(配列番号19:5´−ACCTTCAATCCCATCCGA−3´、配列番号20:5´−TCCCGACTGGATAGGTAG−3´、T.Hamazaki,Y.Iiboshiら、FEBS Lett,497(1),15−19(2001))、及びトリプトファンオキシゲナーゼ(TO)の遺伝子発現量を評価するために、トリプトファン2,3−ジオキシキナーゼ特異的プライマー(配列番号21:5´−TGCGCAAGAACTTCAGAGTGA−3´、配列番号22:5´−TGCGCAAGAACTTCAGAGTGA−3´)、並びに肝細胞マーカーとして、試験例で使用したアルブミン特異的プライマーを用いた。また、コントロールとして試験例で使用したhprt特異的プライマーを用いた。
【0077】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図6に示す。
【0078】
(2)分化後期における成長因子添加の影響
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、試験例の条件Cと同様にして前記分化用培地に成長因子を添加した群と、試験例の条件Dと同様にして前記分化用培地に成長因子を添加しなかった群とに分けて培養し、それぞれ胚様体コロニーを得た。前記組織培養プレートに播種後18日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルmRNAを2μg調製し、cDNAを合成した。また、試験例と同様にして、前記初代培養成体肝細胞、及びE14.1細胞から、トータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0079】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、mol/L、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0080】
前記プライマーは、成熟肝細胞(肝実質細胞)特異的マーカーとして、前記チロシンアミノトランスフェラーゼ特異的プライマー、前記トリプトファン2,3−ジオキシキナーゼ特異的プライマー、アシアログリコプロテインレセプター(ASGR)の遺伝子発現量を調べるために、ASGR−1特異的プライマー(配列番号23:5´−GCTGGAAAAACAGCAGAAGG−3´、配列番号24:5´−CTGTTCCATCCACCCATTTC−3´)、及びASGR−2特異的プライマー(配列番号25:5´−CGGACCCTGAAAGAAACCTT−3´、配列番号26:5´−ATGAAACTGGCTCCTGTGCT−3´)、並びに肝細胞マーカーとして、試験例で使用したアルブミン特異的プライマーを用いた。
さらに、胆管上皮細胞マーカーとして、肝特異的有機アニオントランスポーター(LST−1)の遺伝子発現量を評価するためにLST−1特異的プライマー(配列番号27:5´−TGCGCAAGAACTTCAGAGTGA−3´、配列番号28:5´−TGAGTTGGACCCCTTTTCAC−3´)を用いた。コントロールとしては、試験例で使用したhprt特異的プライマーを用いた。
【0081】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図7に示す。
【0082】
図6から、前記組織培養プレートに播種後10日目の胚様体コロニーでは、前記分化用培地中に成長因子を添加して培養した胚様体は、添加せずに培養した胚様体と比較して肝実質細胞へ分化した細胞の割合が高く、成長因子の添加によって肝実質細胞への分化が加速されることがわかった。しかしながら、図7から、前記組織培養プレートに播種後18日目の胚様体コロニーでは、前記分化用培地中に成長因子を添加して培養した胚様体と、添加せずに培養した胚様体との間に、肝実質細胞特異的細胞の発現に大きな差異はなく、成長因子の添加が胚様体の分化には必須でないことがわかった。特に、成長因子を添加せずに培養した胚葉体にのみLST−1の発現がみられたことから、成長因子の添加により、肝組織への分化が阻害されている可能性が明らかになった。
【0083】
(実施例4)
<組織形態学的観察>
前記サブクローンAb−3を、実施例2と同様に前記分化用培地に成長因子を添加せずに培養した。前記接着培養容器に播種後10日目の胚様体コロニー、及び18日目の胚様体コロニーを、それぞれ下記に示す方法でアルブミン抗体を用いて免疫染色し、アルブミン産生細胞を観察した。
【0084】
前記接着培養容器内の培地を除去し、4%パラホルムアルデヒドを添加したPBSを加え、前記胚様体コロニーを30分間固定した。次いで0.1%tritonXを添加し、室温で1時間処理し、細胞膜の透過性を高めた。固定した前記胚様体コロニーを、4%ロバ血清を添加したブロッキング緩衝液(Jacson immunoResearch社製)で室温で10分間処理した後、1次抗体として250倍希釈したウサギ抗マウスアルブミン抗体(Cappel社製)を添加して4℃で一晩インキュベートし、蛍光2次抗体として100倍希釈したFITC標識ロバ抗ヤギIgG抗体(Jacson immunoResearch社製)を添加して室温で1時間反応させ、蛍光顕微鏡(BX60:オリンパス社製)で観察した。前記アルブミン産生細胞を免疫染色した前記接着培養容器に播種後10日目の胚様体コロニーの写真を図8Bに、18日目の胚様体コロニーの写真を図9A、図9Bにそれぞれ示す。また、10日目の胚様体コロニーを白色光下で観察した写真を図8Aに示す。
【0085】
図8A及び図8Bから、アルブミン産生細胞は、拍動する心筋細胞領域(CA)の周囲に島状のクラスターを形成していることがわかる。
また、図9Aから、18日目の胚様体コロニー中にはアルブミン産生細胞に分化した細胞の割合が高くなっていることがわかり、図9Bから、アルブミン産生細胞が2核の細胞であることがわかる。2核を有する細胞は、正常マウス個体における成熟肝細胞の形態的特徴であることから、胚様体コロニー中のアルブミン産生細胞が、形態学的にも肝細胞であることが確認された。
【0086】
(実施例5)
<胚様体由来肝細胞の機能評価>
前記サブクローンAb−3を用い、実施例2と同様に前記胚様体を作製した。前記胚様体を30個集めた群、50個集めた群について、前記接着培養容器に播種し、接着培養した。前記分化用培地には成長因子を添加せずに培養し、10日目の胚様体コロニー、及び18日目の胚様体コロニーをそれぞれ得た。
前記胚様体コロニー、前記胚性幹細胞E14.1、前記マウス初代培養成体肝細胞、及びマウス肝細胞セルラインHePa1−6のそれぞれに対し、2mM NH4Clを添加した無血清培地(IMDM)を加え、37℃でインキュベートし、NH4Cl添加6時間後、12時間後、及び24時間後において、前記無血清培地中に存在するNH4Cl量をインドフェノール法で測定し、添加量に対する増減を評価した。結果を図10に示す。
図10中、「□」は前記マウス初代培養成体肝細胞、「■」は前記18日目のサブクローンAb−3胚様体コロニー50個、「○」は前記18日目のサブクローンAb−3胚様体コロニー30個、「●」は前記10日目のサブクローンAb−3胚様体コロニー30個、「▼」は前記HePa1−6、及び「▲」は前記E14.1細胞の結果をそれぞれ示す。いずれも使用した細胞からゲノムDNAを抽出して細胞数を測定し、各100細胞あたりの分解能に換算した結果である。
【0087】
図10から、前記サブクローンAb−3の30個の胚様体又は50個の胚様体から分化した胚様体コロニーは、高いアンモニア分解能を示し、多数の胚様体を集めて培養したコロニーは、高い肝機能を示す肝組織に分化していることがわかった。
【0088】
(実施例6)
<肝組織への分化>
−RT−PCR法による解析−
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、分化用培地に成長因子をしなかった試験例の条件Dと同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。培養開始から3日目及び5日目の胚様体、並びに組織培養プレートに播種後2、4、6、及び8日目の胚様体コロニーをそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。また、前記胎児肝細胞、及びE14.1細胞から、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【0089】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0090】
前記プライマーは、血管内皮細胞特異的マーカーとして、CD31/PECAM1の遺伝子発現量を調べるために、PECAM−1特異的プライマー(配列番号29:5´−GTCATGGCCATGGTCAGTAG−3´、配列番号30:5´−AGCAGGACAGGTCCAACAAC−3´)、血管内皮増殖因子の遺伝子発現量を調べるために、VEGFR−1特異的プライマー(配列番号31:5´−TGTGGAGAAACTTGGTGACCT−3´、配列番号32:5´−TGGAGAACAGCAGGACTCCTT−3´)及びVEGFR−2特異的プライマー(配列番号33:5´−TCTGTGGTTCTGCGTGGAGA−3´、配列番号34:5´−GTATCATTTCCAACCACCC−3´)、並びに血管新生調節因子の遺伝子発現量を調べるために、VEGF特異的プライマー(配列番号35:5´−CAGGCTGCTGTAACGATGAA−3´、配列番号36:5´−AATGCTTTCTCCGCTCTGAA−3´)を用いた。また、未分化細胞マーカーとして、実施例2で使用したOct−3/4特異的プライマーを用い、コントロールとしては、試験例で使用したhprt特異的プライマーを用いた。
【0091】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドのから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図11、及び表5に示す。
【0092】
【表5】
++:発現が強く検出された。
+:発現が検出された。
±:発現がわずかに検出された。
−:発現が検出されなかった。
【0093】
図11及び表5から、前記サブクローンAb−3から分化した胚様体は、分化に伴い、肝実質細胞のみならず、血管内皮細胞への分化が同時に観られることがわかった。このことから、前記胚様体は、遺伝子レベルで個体発生の時間軸と同様に分化し、肝組織・臓器の構築可能性を有することが明らかになった。
【0094】
−免疫染色による形態的解析−
前記サブクローンAb−3から、実施例2と同様にして胚様体を作製し、前記胚様体を20個集めて前記接着培養容器に播種した。前記分化用培地には成長因子を添加せずに培養した。前記接着培養容器に播種後10日目の胚様体コロニー(以下、A10と表す)、及び18日目の胚様体コロニー(以下、A18と表す)を、免疫染色した。アルブミン産生細胞は、実施例4と同様に染色し、赤色に発色させた。血管内皮細胞は、一次抗体として250倍希釈したヤギIgG抗マウスPECAM−1抗体(Santa cruz Biotechnology社製)を用い、二次抗体として60倍希釈したTRITC標識ブタ抗ウサギ抗体(DAKO A/S社製)を用いた以外は、実施例4と同様にして染色して緑色に発色させた。染色した胚様体コロニーは、蛍光顕微鏡及び共焦点顕微鏡を用いて観察した。結果を図12〜14に示す。
【0095】
図12は、前記A10の血管内皮細胞のみを染色した写真である。図12から、血管内皮細胞が網目状に検出され血管様構造を形成していることがわかった。
図13は、前記A10のアルブミン細胞及び血管内皮細胞を染色した写真である。図13から、血管内皮細胞は、アルブミン産生細胞群の領域に伸張し、接触していることがわかった。図14は、前記A18のアルブミン細胞及び血管内皮細胞を染色した写真である。図13のA10と比較して、血管内皮細胞は、アルブミン産生細胞群に並列して網状構造を構築しながら増殖し、アルブミン産生細胞とネットワークを形成していることがわかった。これらのことから、前記サブクローンが肝細胞のみならず、血管内皮細胞にも分化して、その結果、肝組織が形成されることが明らかになった。
【0096】
(実施例7)
<肝組織形成における血管内皮細胞の影響>
−免疫染色による形態的解析−
前記サブクローンAb−3を、実施例2と同様に前記分化用培地に成長因子を添加せずに培養し、胚様体コロニーを得た。また、前記分化用培地中にN−(2,6−ジオキソ−3−ピペリジル)フタルイミド(サリドマイド、Tocris Cookson社製)を25μg/mL、及び100μg/mLの各濃度でジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したものを添加した以外は実施例2と同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。
各胚様体について、前記接着培養容器に播種後3日目の拍動率を観察した。結果を表6に示す。
【0097】
【表6】
表6から、分化用培地中にサリドマイドを添加することにより、胚様体の拍動率が低下し、心筋細胞への分化が阻害されている可能性が明らかになった。
【0098】
前記分化用培地中にサリドマイドを100μg/mL添加して培養した胚様体コロニー(A18)を、実施例4と同様にして、アルブミン産生細胞及び血管内皮細胞を免疫染色し、蛍光顕微鏡及び共焦点顕微鏡を用いて観察した。結果を図15に示す。サリドマイドを添加せずに培養して得た胚様体コロニーの結果を図16に示す。
【0099】
また、得られた前記各胚様体コロニーについて、血管内皮細胞の発現領域の面積を、画像解析ソフトウェア(Scion image Beta 4.0.2)を用いて測定し、比較を行った。測定は、各コロニー3種からそれぞれ15の領域を選択して行い、平均値と標準偏差を求め、Student’s t−testにより解析した。有意水準はP<0.001とした。結果を図17に示す。
【0100】
図15及び図16から、分化用培地中にサリドマイドを添加したことにより血管内皮細胞の発現が抑制され、またアルブミン産生細胞の発現も抑制されていることが組織観察からわかった。また、図17から、血管内皮細胞の発現領域の面積が、分化用培地中にサリドマイドを添加することにより、約20%に縮小したことがわかった。
【0101】
−RT−PCR法による解析−
実施例1で得られた前記サブクローンAb−3を用い、下記表7に示す条件とした以外は試験例と同様にして培養し、胚様体コロニーを得た。前記組織培養プレートに播種後18日目の胚様体コロニー(A18)をそれぞれ採取し、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。また、前記E14.1細胞、前記胎児心筋細胞、前記胎児肝細胞、及び初代培養生体肝細胞から、試験例と同様にしてトータルRNAを2μgそれぞれ調製し、各cDNAを合成した。
【表7】
*1:N−(2,6−ジオキソ−3−ピペリジル)フタルイミド(サリドマイド、Tocris Cookson社製)
*2:試験例の条件Cと同様
【0102】
前記各cDNAを0.1μg/μLに調製した液を用いて、10mmol/L Tris−HCl(pH8.3)、50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.2mmol/L dNTP、5U/μL Ex Taq DNA polymerase(タカラバイオ(株)製)、及び0.2μmol/Lの下記に示す各プライマーからなる反応用液を調製した。
【0103】
前記プライマーは、実施例6で用いたPECAM−1特異的プライマー(配列番号29及び30)、VEGFR−1特異的プライマー(配列番号31及び32)、VEGFR−2特異的プライマー(配列番号33及び34)、及び試験例で用いたアルブミン特異的プライマー(配列番号1及び2)、並びに実施例1で用いたチロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)特異的プライマー(配列番号19及び20)を用いた。また、コントロールとしては、試験例で使用したhprt特異的プライマー(配列番号5及び6)を用いた。
【0104】
前記反応用溶液を、94℃で4分間を1サイクル反応させた後、94℃で1分間、50℃で1分間、72℃で1分間を2サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で1分間を27サイクル、94℃で1分間、55℃で1分間、72℃で10分間を1サイクルの条件でPCR反応を行った。該PCR反応後の溶液をアガロースゲル電気泳動に供し、出現したバンドから、各プライマーに対応した特異的遺伝子の発現を評価した。結果を図18、及び表8に示す。
【0105】
【表8】
++:発現が強く検出された。
+:発現が検出された。
±:発現がわずかに検出された。
−:発現が検出されなかった。
【0106】
図18及び表8から、前記サブクローンAb−3から分化した胚様体は、サリドマイドの添加により、濃度依存的に血管内皮細胞の遺伝子レベルでの発現が抑制されていることがわかった。また、アルブミンの発現も抑制されていることから、胚性幹細胞由来のin vitroでの肝細胞の分化誘導及び増殖において、生体内での発生における知見と同様、血管内皮細胞に分化した細胞の存在が必要であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の肝組織・臓器の製造方法は、胚性幹細胞に対して分化因子を用いることなく、単一の肝実質細胞のみならず、血管細胞や胆管細胞等の非肝実質細胞をあわせて分化誘導することが可能であり、かつ高い肝機能を有する肝組織・臓器を高い確率で効率よく製造することができるため、再生医療及び細胞医療等の分野におけるバイオ人工肝臓の製造、人工肝臓装置におけるリアクターの製造などに好適に使用することができ、本発明の肝組織・臓器の製造方法におけるリクローニング方法は、キメラマウスの作成などに応用することができる。
また、前記製造方法により製造された本発明の肝組織・臓器は、バイオ人工肝臓、移植用人工肝臓として好適に使用することができ、また、薬物動態試験用デバイス、機能性食品開発のための評価デバイスなどとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、試験例の結果を示す電気泳動写真である。
【図2】図2は、実施例1において、拍動がみられたコロニー数の割合を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例2のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図4】図4は、実施例2のウェスタンブロット解析(タンパク質泳動)の結果を示す写真である。
【図5】図5は、実施例2のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図6】図6は、実施例3(1)のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図7】図7は、実施例3(2)のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図8A】図8Aは、実施例4において観察された接着培養容器播種後10日目の胚様体コロニーの写真である。
【図8B】図8Bは、実施例4において免疫染色した接着培養容器播種後10日目の胚様体コロニーの写真である。
【図9A】図9Aは、実施例4において免疫染色した接着培養容器播種後18日目の胚様体コロニーの写真である。
【図9B】図9Bは、実施例4において免疫染色した接着培養容器播種後18日目の胚様体コロニーの写真である。なお、核の位置を白丸で示している。
【図10】図10は、実施例5のアンモニア分解能の評価結果を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例6のRT−PCRの結果を示す電気泳動写真である。
【図12】図12は、実施例6の胚様体コロニーの組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図13】図13は、実施例6の胚様体コロニーの組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図14】図14は、実施例6の胚様体コロニーの組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図15】図15は、実施例7の組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図16】図16は、実施例7の組織免疫染色の結果を示す写真である。
【図17】図17は、実施例7の血管内皮細胞発現領域を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例7のRT−PCR結果を示す電気泳動写真である。
【図19】図19は、本発明の肝組織・臓器の製造方法のサブクローン分離工程において、分離するのに好ましいサブクローンの形態の一例を示す写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離するサブクローン分離工程と、
該サブクローンのうち、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択するスクリーニング工程と、
前記スクリーニングされたサブクローンを培養するサブクローン培養工程と
を含むことを特徴とする肝組織・臓器の製造方法。
【請求項2】
スクリーニング工程において、サブクローン由来の胚様体を96〜480個同時に同条件下で形成させ、接着培養を行う請求項1に記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項3】
スクリーニング工程において、サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から24時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して50個数%以上であるサブクローンを選択する請求項1から2のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項4】
サブクローン培養工程において、サブクローンを心筋細胞、肝実質細胞、及び肝非実質細胞に分化させ、肝組織・臓器を形成する請求項1から3のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項5】
肝非実質細胞が、血管内皮細胞である請求項4に記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項6】
サブクローン分離工程におけるリクローニングが、胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で培養し、形成されたコロニー由来のクローンを得、該クローンを培養して得たコロニーを分離することにより行われる請求項1から5のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項7】
サブクローン培養工程において、サブクローンに対して実質的に外来遺伝子の導入を行わない請求項1から6のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項8】
サブクローン培養工程において、サブクローン由来の胚様体を、96〜480個混合して培養する請求項1から7のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法により製造され、胚性幹細胞サブクローンの単一細胞由来であることを特徴とする肝組織・臓器。
【請求項10】
人工肝臓として使用される請求項9に記載の肝組織・臓器。
【請求項11】
請求項9に記載の肝組織・臓器に、被験物質を投与することを含むことを特徴とする薬剤スクリーニング方法。
【請求項12】
被験物質が、肝機能障害治療薬、機能性食品、及びこれらの有効成分のいずれかである請求項11に記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項13】
コレステロール分解促進物質、及びコレステロール生合成阻害物質のいずれかの探索を行う請求項11から12のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項1】
胚性幹細胞をリクローニングしてサブクローンを分離するサブクローン分離工程と、
該サブクローンのうち、前記サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から48時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して70個数%以上であるサブクローンを選択するスクリーニング工程と、
前記スクリーニングされたサブクローンを培養するサブクローン培養工程と
を含むことを特徴とする肝組織・臓器の製造方法。
【請求項2】
スクリーニング工程において、サブクローン由来の胚様体を96〜480個同時に同条件下で形成させ、接着培養を行う請求項1に記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項3】
スクリーニング工程において、サブクローン由来の胚様体を複数同時に同条件下で形成させた後、該胚様体を接着培養し、接着培養開始から24時間後において拍動している前記胚様体の個数が、全ての前記胚様体の個数に対して50個数%以上であるサブクローンを選択する請求項1から2のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項4】
サブクローン培養工程において、サブクローンを心筋細胞、肝実質細胞、及び肝非実質細胞に分化させ、肝組織・臓器を形成する請求項1から3のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項5】
肝非実質細胞が、血管内皮細胞である請求項4に記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項6】
サブクローン分離工程におけるリクローニングが、胚性幹細胞をLIF(白血病阻止因子)含有培地で培養し、形成されたコロニー由来のクローンを得、該クローンを培養して得たコロニーを分離することにより行われる請求項1から5のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項7】
サブクローン培養工程において、サブクローンに対して実質的に外来遺伝子の導入を行わない請求項1から6のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項8】
サブクローン培養工程において、サブクローン由来の胚様体を、96〜480個混合して培養する請求項1から7のいずれかに記載の肝組織・臓器の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法により製造され、胚性幹細胞サブクローンの単一細胞由来であることを特徴とする肝組織・臓器。
【請求項10】
人工肝臓として使用される請求項9に記載の肝組織・臓器。
【請求項11】
請求項9に記載の肝組織・臓器に、被験物質を投与することを含むことを特徴とする薬剤スクリーニング方法。
【請求項12】
被験物質が、肝機能障害治療薬、機能性食品、及びこれらの有効成分のいずれかである請求項11に記載の薬剤スクリーニング方法。
【請求項13】
コレステロール分解促進物質、及びコレステロール生合成阻害物質のいずれかの探索を行う請求項11から12のいずれかに記載の薬剤スクリーニング方法。
【図2】
【図10】
【図17】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図10】
【図17】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−14273(P2007−14273A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199459(P2005−199459)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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