説明

肥満予防・改善剤

【課題】 肥満予防・改善剤、高脂血症の予防・改善等、種々の生活習慣病の発症を予防・改善する効果を発揮し得る、安全性が高いと共に適用範囲が広い医薬品等の素材を提供する。
【解決手段】 ワキシーコーン澱粉を有効成分とする肥満予防・改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満や糖尿病等の生活習慣病の予防・改善作用を有し、主に医薬品として有用な素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の食生活の欧米化に伴うエネルギー過剰摂取(脂肪や蔗糖摂取量の増加)に加えて、運動不足が重なり、肥満や糖尿病をはじめとした生活習慣病は増加の一途を辿っている。このような社会的背景から、肥満や糖尿病の予防改善対策は極めて重要である。
【0003】
肥満や糖尿病を予防・改善するために、一般に栄養士によって提唱されている方法として、低カロリー食又は低脂肪食の摂取が挙げられる。近年、小麦ふすま等の水不溶性食物繊維、難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維、高アミロース澱粉等の消化抵抗性澱粉が、それぞれ脂質排泄促進作用(例えば、非特許文献1参照)、糖吸収抑制作用(例えば、非特許文献2参照)、血中中性脂肪の低下作用(例えば、非特許文献3参照)を有することや、耐糖能改善作用を有すること(例えば、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6参照)が報告されており、肥満の予防・改善や、糖尿病の予防・改善に有効であると考えられている。
【0004】
また、食後の急激な血中脂質の上昇は、脂肪の蓄積を促すと考えられることから、肥満の予防・改善にあたっては、食後の高脂血症(血中トリグリセリドの上昇)を抑制しようというアプローチもまた極めて重要であり、近年、安全で有効な脂質吸収阻害剤として、キタンサンガム及びアルギン酸プロピレングリコールエステル(例えば、特許文献1参照)、キトサン(例えば、特許文献2参照)が報告されている。
【0005】
しかしながら、上記低カロリー食又は低脂肪食は、体重の低下に多少の一時的効果を有しうるが、それを構成している食品の風味が単調であるために長期間経つとその人によって拒絶されるようになり、これを長期間維持することが困難である。また、上記従来の水不溶性食物繊維、水溶性食物繊維、消化抵抗性澱粉等の食品素材が上記の生理作用を発現するには、高用量かつ長期間摂取し続けなければならない。また仮に、当該生理作用が発現した場合でも、肥満の抑制については確認されていない。更にそれらを用いて飲食品を製造した場合、飲食品本来の持つ外観、味、歯触り、滑らかさ等の食感を損う場合が多いため、食品中に十分な量で含有させることが困難であり、適用分野が限定されたり、更にそのような飲食品を長期間摂取し続けるのが困難という問題があった。
【0006】
モチ種のとうもろこし(ワキシーコーン)由来の澱粉であるワキシーコーン澱粉は、アミロペクチン100%で構成され、膨化力が大きい、糊化温度が低い、老化性が少ない、透明度が高いなどの特徴を有し、米菓、包装餅、寒梅粉、白玉粉、ソース、サラダドレッシングなどの食品に広く利用されている。また、食感改良、冷凍耐性、糊液の透明性、曳糸性の付与を目的に、めん類、冷凍食品、菓子類、ペースト状食品の製造・加工に広く用いられている(例えば、非特許文献7参照)。
しかしながら、ワキシーコーン澱粉に、肥満や糖尿病等の生活習慣病の発症を予防・改善する効果があることはこれまでに知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開平5−186356号公報
【特許文献2】特開平3−290170号公報
【非特許文献1】Am J Clin Nutr 1978 31(10 Suppl):521-529
【非特許文献2】日本内分泌学会雑誌 1992 68(6):623-35
【非特許文献3】Am J Clin Nutr 1989 49(2):337-44
【非特許文献4】Acta Paediatr Hung 1985 26(1):75-7
【非特許文献5】J Endocrinol 1995 144(3):533-8
【非特許文献6】Am J Clin Nutr 1989 49(2):337-44
【非特許文献7】不破英次、小巻利章、檜作進、貝沼圭二著、「澱粉科学の事典」朝倉書店 2003年 p.503-518
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、肥満予防・改善剤、高脂血症の予防・改善等、種々の生活習慣病の発症を予防・改善する効果を発揮し、安全性が高いと共に適用範囲が広い医薬品等の素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来の難消化性澱粉やセルロース、難消化性デキストリンに代表される食物繊維とは異なる物性を有し、且つ肥満や糖尿病の進行の抑制・改善作用を有する素材を探索した結果、ワキシーコーン澱粉が、僅かな摂取量で肥満抑制作用を始めとする種々の生理作用を有し、肥満や糖尿病等の生活習慣病の予防・改善効果を発揮する医薬品素材として有用であることを見出した。
ワキシーコーン澱粉は、グルコースが分岐鎖状に重合したアミロペクチン100%で構成されている。アミロペクチンは、グルコースが直鎖状に重合したアミロースよりも消化されやすく、結果として食後の血糖や血中インスリン値が上昇しやすいと考えられている(G.H.Anderson著 木村修一、足立堯監修、「糖質と健康(Glycemic Carbohydrate and Health)」 建白社 2003年 p.45)。従って、斯かるワキシーコーン澱粉に、上記のような肥満・糖尿病の予防・改善に有用な種々の効果があったことは、全く意外なことである。
【0010】
すなわち、本発明は、ワキシーコーン澱粉を有効成分とする肥満予防・改善剤、内臓脂肪蓄積抑制剤、血糖値上昇抑制剤、血中インスリン上昇抑制剤、糖尿病予防・改善剤、脂質代謝改善剤及び脂肪酸酸化促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の肥満予防・改善剤等は、肥満の予防・改善、高脂血症の予防・改善、心不全等の心臓病の予防、血栓症の予防、結腸癌や直腸癌の予防等、種々の生活習慣病の発症を予防・改善する効果を発揮し得るので、主に医薬品や機能性食品として有用である。特に、有効成分であるワキシーコーン澱粉は、人体に対する安全性に優れ、また糊化しやすいので、特定保健用食品等に配合した場合、それらが本来持つ食感を損なうことが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のワキシーコーン澱粉は、モチ種のとうもろこし(ワキシーコーン)由来の澱粉である。本発明においては、増粘剤等として用いられているものを使用することができる。
また、本発明のワキシーコーン澱粉としては、上記ワキシーコーン澱粉を水中加熱処理等によりアルファ化したアルファ化ワキシーコーン澱粉を用いることもできる。
【0013】
そして、ワキシーコーン澱粉は、後記実施例に示すように、第1に体重及び内臓脂肪量が有意に減少するという肥満抑制作用を有することから、肥満に起因する高脂血症の予防、心不全等の心臓病の予防、血栓症の予防、高血圧の予防等の効果を発揮し得る。第2に食後高血糖又は高インスリン血症、すなわち食後の急激な血糖値や血中インスリン値の上昇を抑制する作用を有すると共に、定常時の血糖値や血中インスリン値の上昇を抑制する作用を有し、糖尿病やそれに起因する種々の合併症、例えば白内障や歯周病、糖尿病腎症、網膜症、神経障害を予防する等の効果を発揮し得る。第3に、肝臓での脂質代謝関連蛋白質の発現量を亢進させ、脂肪酸酸化活性を促進する作用を有することから、高脂血症、脂肪肝を予防する等の効果を発揮し得る。
従って、本発明のワキシーコーン澱粉は、肥満予防・改善剤、血糖値上昇抑制剤、血中インスリン上昇抑制剤、糖尿病予防・改善剤、脂質代謝改善剤、脂肪酸酸化促進剤(以下、肥満予防・改善剤等という)として、主にヒト若しくは動物用の医薬品や機能性食品の素材となり得る。
【0014】
本発明の肥満予防・改善剤等は、ワキシーコーン澱粉の一種以上を単体でヒト及び動物に投与できる他、医薬品や機能性飲食品、ペットフード等に配合して摂取することができる。機能性食品としては、体脂肪蓄積抑制や血糖値上昇抑制等の生理機能をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品又は特定保健用食品等に応用できる。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
尚、経口用固形製剤を調製する場合には、本発明のワキシーコーン澱粉に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0015】
上記各製剤中に配合されるべきワキシーコーン澱粉の配合量は、通常5〜100重量%、好ましくは20〜100重量%、更に好ましくは30〜100重量%とするのが好ましい。
【0016】
本発明の肥満予防・改善剤等の投与量(有効摂取量)は、一日当り0.01g/kg体重以上とするのが好ましく、特に0.1g/kg体重以上、更に0.4g/kg体重以上とするのが好ましい。
【実施例】
【0017】
試験例1 肥満抑制作用・血糖値上昇抑制作用
タピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉は、ナショナルスターチアンドケミカル社から入手した。上記の澱粉を50重量%となるように蒸留水に懸濁し、120℃にて15分間、オートクレーブ(湿熱処理)した後、凍結乾燥し、α化した試験澱粉を調製した。また、α化馬鈴薯澱粉は市販のものをオリエンタル酵母(株)より入手した。
マウス(C57BL/6J雄、6週令)を1群10匹とし、各種α化澱粉を用いて、表1に示す配合で調製した食餌を用いて飼育した。24週間飼育後、マウスを採血後、屠殺し、血糖値、血中インスリン値及び内臓脂肪重量を測定した。24週間飼育後の体重、内臓脂肪重量、血糖値及び血中インスリン値を表2に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
表2の結果から、タピオカ澱粉を5%配合した高脂肪飼料を摂取したマウスでは、低脂肪飼料を摂取したマウスに比較して、体重、及び内臓脂肪重量が高く、肥満となっていることが分かった。しかしワキシーコーン澱粉を5%配合した飼料を摂取したマウスでは、タピオカ澱粉を配合した飼料を摂取したマウスに比較して、体重、及び内臓脂肪重量が有意に低く、肥満抑制効果を有することがわかる。
【0021】
また、タピオカ澱粉を5%配合した高脂肪飼料を摂取したマウスでは、低脂肪飼料を摂取したマウスに比較して、非絶食時の血糖値及び血中インスリン値が有意に高かった。しかしワキシーコーン澱粉を5%配合した高脂肪飼料を摂取したマウスでは、タピオカ澱粉を配合した飼料を摂取したマウスに比較して、血糖値及び血中インスリン値が低く、血糖値上昇抑制効果、及び高インスリン血症改善効果が認められることがわかる。
【0022】
試験例2 脂質代謝亢進作用
試験例1と同様にして、マウス(C57BL/6J雄、6週令)を1群10匹とし、表3に示す配合で調製した食餌を用いて飼育した。4週間飼育後、マウスを屠殺し、肝臓を摘出した。定量的RT-PCR法により測定した肝臓での脂質代謝関連蛋白質の遺伝子(mRNA)発現量を表4に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
表4の結果から、ワキシーコーン澱粉を10%配合した飼料を摂取したマウスでは、タピオカ澱粉を配合した飼料を摂取したマウスに比較して、肝臓での脂質代謝関連蛋白質(MCAD, L-FABP, FAT)の遺伝子発現量が有意に亢進していることがわかる。
【0026】
試験例3 脂質代謝亢進作用
試験例2と同様にして、マウス(C57BL/6J雄、6週令)を1群20匹とし、表3に示す配合で調製した食餌を用いて飼育した。4週間飼育後、マウスを屠殺し、肝臓を摘出した。既報(Murase. T. et al. Int J Obes Relat Metab Disord. 2002 Nov;26(11):1459-64.)の方法に従って測定した肝臓の脂肪酸酸化活性を表5に示す。
【0027】
【表5】

【0028】
表5の結果から、ワキシーコーン澱粉を10%配合した飼料を摂取したマウスでは、タピオカ澱粉を配合した飼料を摂取したマウスに比較して、肝臓の脂肪酸酸化活性が有意に高く、脂質代謝が亢進していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワキシーコーン澱粉を有効成分とする肥満予防・改善剤。
【請求項2】
ワキシーコーン澱粉を有効成分とする内臓脂肪蓄積抑制剤。
【請求項3】
ワキシーコーン澱粉を有効成分とする血糖値上昇抑制剤。
【請求項4】
ワキシーコーン澱粉を有効成分とする血中インスリン上昇抑制剤。
【請求項5】
ワキシーコーン澱粉を有効成分とする糖尿病予防・改善剤。
【請求項6】
ワキシーコーン澱粉を有効成分とする脂質代謝改善剤。
【請求項7】
ワキシーコーン澱粉を有効成分とする脂肪酸酸化促進剤。

【公開番号】特開2006−76919(P2006−76919A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262493(P2004−262493)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】