説明

育毛剤、育毛用医薬品、育毛用食品

【課題】抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制するだけでなく、加齢等によって生じる自然脱毛などに対しても充分な育毛効果を有する育毛剤を提供すること。
【解決手段】式R−Gly−Leu−Trp−R(式中、Rは、水素またはアミノ基の保護基を示し、Rは、水酸基またはカルボキシル基の保護基を示す)で示されるペプチドを有効成分として含有する育毛剤。特に、式中、Rが水素であり、Rが水酸基であるペプチドが好ましい。また、該ペプチドは、卵白由来であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育毛効果および脱毛抑制効果を有するペプチドを有効成分とする育毛剤、およびこれを含有する脱毛用医薬品並びに育毛用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢および社会環境の変化によるストレス等が一因となり、抜け毛や脱毛に悩む人が増加する傾向にあり、抜け毛や脱毛等の治療・改善を目的とした育毛剤が多く市販されている。その中でも、ミノキシジル等の化合物を有効成分とする育毛剤は世界的にも有名である。しかしながら、ミノキシジルは、血管拡張剤として開発されたものであり、その副効果として発毛作用が確認されて、発毛剤として適用されるようになった。そのため、心臓血管系に異常がある人への使用が制限されている。このように、上記のような化合物を有効成分とした育毛剤は、その使用にあたって注意が必要であり、このような点から、安心して用いることができ、充分に育毛効果を有する物質が望まれている。
【0003】
ところで、脱毛は、上述した加齢等によって生じる場合の他にも、抗癌治療の際に用いる抗癌剤の副作用により、高い確率で生じてしまう。このような、抗癌剤の副作用による脱毛が生じた際の患者の精神的なショックは非常に大きく、患者の社会復帰が困難になるという問題があった。
【0004】
抗癌剤の副作用による脱毛を抑制する方法としては、例えば、大豆蛋白質由来の式Met−Ile−Thr−Leuで表されるペプチド(MITL)およびMITLの配列を分子内に有するいくつかのペプチドが報告されている(特許文献1)。また、Met−Leu−Trpで表されるペプチドを有効成分とする抗脱毛症剤が報告されている(特許文献2)。さらに、本願発明者らは、以前に、Gly−Leu−Phe(GLF)で表されるペプチドが抗癌剤の副作用による脱毛を抑制することを報告している(非特許文献1)。これらの抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制するペプチドは、毒性が低く上記に示したような問題を心配することなく用いることができる。しかしながら、これらは、加齢等によって生じる脱毛に対して、充分な育毛効果を有するとはいい難いものであった。
【0005】
また、既に式H−Gly−Leu−Trp−OHのペプチドは、ヒト免疫不全ウイルスの最外殻を構成するgp120分子に対して親和性を有するペプチドとして報告されている(特許文献3)。しかしながら、当該出願では、H−Gly−Leu−Trp−OHを脱毛抑制剤もしくは育毛剤として用いることについて、全く検討されていない。
【特許文献1】特開平09−249535号公報
【特許文献2】特開2002−080494号公報
【特許文献3】特開平10−182695号公報
【非特許文献1】Tsuruki T, Yoshikawa M. Biosci Biotechnol Biochem. 69 1633-1635 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制するだけでなく、加齢等によって生じる自然脱毛などに対しても充分な育毛効果を有する育毛剤、およびこの育毛剤を含有する育毛用医薬品ならびに育毛用食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、R−Gly−Leu−Trp−R(式中、Rは、水素またはアミノ基の保護基を示し、Rは、水酸基またはカルボキシル基の保護基を示す)で示されるペプチドを育毛剤とするならば、抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制するだけでなく、加齢等によって生じる脱毛に対して充分な育毛効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる育毛剤は、式R−Gly−Leu−Trp−R(式中、Rは、水素またはアミノ基の保護基を示し、Rは、水酸基またはカルボキシル基の保護基を示す)で示されるペプチドを有効成分として含有する。
【0009】
本発明の育毛剤において、前記Rが水素であり、前記Rが水酸基であることができる。
【0010】
本発明の育毛剤において、前記ペプチドが卵白由来であることができる。
【0011】
本発明の育毛剤において、抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制することができる。
【0012】
本発明の育毛用医薬品は、上記本発明の育毛剤のいずれかを含む。
【0013】
本発明の育毛用食品は、上記本発明の育毛剤のいずれかを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制するだけでなく、加齢等によって生じる脱毛に対して充分な育毛効果を有する育毛剤を提供することができる。また、本発明の育毛剤を用いることにより、抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制するだけでなく、加齢等によって生じる脱毛に対して充分な育毛効果を有する育毛用医薬品および育毛用食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、脱毛抑制効果および育毛効果を有するペプチドを有効成分とする育毛剤、およびこれを含有する育毛用医薬品並びに育毛用食品に関するものである。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0016】
1.育毛剤
本発明において、「育毛剤」とは、後に詳述するように、抗癌剤等の副作用による脱毛そのものを抑制する脱毛抑制効果を有するもの(脱毛抑制剤)と、加齢等による脱毛を低減する育毛効果を有するものとの両者を含む。
【0017】
本発明の脱毛剤の有効成分であるペプチドは、R−Gly−Leu−Trp−R(以下「GLW」ともいう)の配列で示される3個のアミノ酸より構成される。ここで、Rとしては、水素またはアミノ基の保護基が挙げられる。アミノ基の保護基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、ベンジルオキシカルボニル(Bz)基、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)基、低級アルカノイル基が挙げられる。また、Rとしては、水酸基またはカルボキシル基の保護基が挙げられる。カルボキシル基の保護基としては、例えば、アミド基、アルキルエステル基、ベンジルエステル基、低級アルコキシ基、アミノ基、モノまたはジ低級アルキルアミノ基を形成し得る基が挙げられる。
【0018】
なお、本発明におけるアミノ酸の略号は、当該分野で一般に使用されるもので、「Gly」はグリシン、「Leu」はロイシン、「Trp」はトリプトファンを示している。
【0019】
本発明の育毛剤は、以上説明したGLW以外に本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、低級アルコール、多価アルコール、水溶性高分子、酸化防止剤、pH調整剤、紫外線防止剤、金属イオン封鎖剤、増粘剤、精製水、香料、防腐剤、抗菌剤、油剤、脂肪酸エステル、保湿剤、清涼剤、色素などの成分、あるいは、ホルモン類、ビタミン類、アミノ酸類、収れん剤、および胎盤抽出物、エラスチン、コラーゲン、ムコ多糖、アロエ抽出物、ローヤルゼリー、バーチ、ニンジンエキス、カモミラエキス等の動植物抽出成分等の原料を含有させることができる。GLWの配合量は、充分な育毛効果を得るために、育毛剤に対し、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくはGLWのみからなることができる。
【0020】
本発明は、前記特定配列のペプチドを有効成分とした育毛剤であり、後述する実施例の記載からも明らかなように、当該育毛剤を摂取することにより抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制する脱毛抑制効果を有するだけでなく、加齢等によって生じる脱毛に対して充分な育毛効果が得られる。以下に、上記脱毛抑制効果および育毛効果について述べる。
【0021】
(1)抗癌剤の副作用による脱毛を抑制する効果
副作用として脱毛をもたらす抗癌剤は、分裂の最中にある癌細胞を殺す作用を有する。癌細胞は盛んに分裂しているためにこの抗癌剤のターゲットになる。しかしその一方、毛細胞も盛んに分裂しているため、抗癌剤のターゲットになってしまい、脱毛の原因となる。
【0022】
本発明においてそのメカニズムはあきらかではないが、後述する試験例3より、ヒスタミンの拮抗阻害剤であるピリラミン(pyrilamine)またはシメチジン(cimetidine)をGLWと同時に摂取させるとGLWの脱毛抑制効果が阻害されることから、GLWの脱毛抑制効果はヒスタミンの放出を介していることが示唆される。また、同様にシクロオキシゲナーゼ産物のシクロオキシゲナーゼ阻害剤であるインドメタシン(indomethacin)をGLWと同時に摂取させるとGLWの脱毛抑制効果が阻害されることから、GLWの脱毛抑制効果はシクロオキシゲナーゼ産物の産生を介していることが示唆される。
【0023】
(2)自然脱毛を低減する育毛効果
抗癌剤等の薬剤の副作用による脱毛以外の脱毛としては、男性性脱毛(male pattern baldness)、円形脱毛(a lopecia areata)等がある。後者の場合は再び毛が生えてくることが多いのに対して、前者は毛の再生が難しいため、大抵このケースにある人が育毛剤を求める。毛の成長には周期があり、これは毛周期(hair cycle)と呼ばれる。毛周期は、毛が生え(再生)成長する「成長期」(2〜7年)、毛の成長が停止する「退行期」(2〜3週間)、抜け毛が進行する「休止期」(4〜5ヵ月)の順序で繰り返される。そして、頭皮の栄養状態の悪化、頭皮にたまった皮脂の酸化による刺激、男性ホルモンの上昇等の原因によって休止期が長期化した場合や、休止期にある毛髪の割合が増加した場合には男性性脱毛の原因となる。育毛は、休止期にある毛根を成長期に転換することによって毛の成長を促すこと、ならびに、成長期を延長させることによって退行期や休止期への移行を防ぎ、毛の伸長を促すこと等によって行われる。
【0024】
本発明の育毛剤によれば、そのメカニズムはあきらかではないが、毛の成長期を延長させることによる退行期および休止期への移行を遅延することができ、自然脱毛を低減できる。
【0025】
ヒトの場合、髪の毛の成長周期は一本一本異なるが、マウスの体毛は全て同じ周期である。C3H/Heslcマウスの7週齢から数週間は休止期に相当するため、体毛を剃った場合、再び毛が生え揃うまで時間がかかり、育毛を促進しようとすれば、休止期から成長期への移行を促進させなければならない。後述する実施例では、GLWの育毛作用の確認試験で、この試験系を用いて育毛が促進されたため、休止期から成長期への以降が促進されたと考えられる。
【0026】
2.育毛剤の製造方法
次に、本発明の育毛剤で用いるGLWの製造方法について説明する。
【0027】
本発明のGLWは、その製造方法に特に制限は無く、例えば、従来の一般的なペプチドの合成方法に従って得ることができる。つまり、樹脂を用い、保護基で保護したアミノ酸をC−末端側から付加して合成する固相法等によって得られた粗ペプチドを、逆相シリカゲルカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製する方法等が適宜利用される。
【0028】
この場合は、ペプチド結合の任意の位置で二分される2種のフラグメントの一方に相当する反応性カルボキシル基を有する原料と、他方のフラグメントに相当する反応性アミノ基を有する原料とを、2-(1H-Benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)等の活性エステルやカルボジイミド等の縮合剤の存在下で縮合させることで得られる粗ペプチドを、後述する精製方法に従って精製することで合成由来のGLWを得ることができる。なお、固相法の場合はさらにペプチドのC末端と樹脂との結合を切断する。
【0029】
また、この反応工程において反応に関与すべきでない官能基は、保護基により保護しても良い。具体的には、前述したように、アミノ基の保護基としては、例えばベンジルオキシカルボニル(Bz)基、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)基等が挙げられ、カルボキシル基の保護剤としては、例えば、アルキルエステル基、ベンジルエステル基等を形成し得る基が挙げられる。
【0030】
また、本発明の育毛剤で用いられるGLWは、卵白等の天然由来の原料から分離、分画することで得ることもできる。つまり、従来の一般的な方法に従って鶏卵を割卵後、卵白から卵白アルブミンを分離し、これに酵素処理反応を行うことで得られた粗ペプチドを上記と同様に精製する方法等が適宜利用される。なお、天然由来の原料が卵白であると、安価に製造できるため好ましい。
【0031】
卵白等の天然由来の原料を用いる場合は、例えば以下の方法によってGLWを得ることができる。まず、常法により、鶏卵を割卵して殻を取り除き、卵白のみを分離する。得られた卵白を泡立てないように均質化し、等量の飽和硫酸アンモニウム水溶液を添加する。次に、生じた沈殿を除去し、上清を回収する。その後、前記上清に添加してpHを調整後、結晶化させ、生じた沈殿を回収し、これを清水に溶かして常温で12時間放置させることで、卵白アルブミンを得ることができる。続いて、清水に前記卵白アルブミンを添加後、混合攪拌し、続いて、トリプシンを添加し、5N水酸化ナトリウムを用いてpHを7.5に調整する。その後、37℃で3時間反応を行い、さらにキモトリプシンを添加後、37℃で3時間反応を行った後、煮沸により酵素反応を停止させ、凍結乾燥させることで得られた粗ペプチドを、下記に詳述した精製方法に従って精製することで天然由来のGLWを得ることができる。
【0032】
上記の合成法又は天然由来の原料から得られた粗ペプチドを精製する工程は、従来の一般的な精製方法に従って行うことができる。このような精製方法としては、例えば、逆相シリカゲルカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、分配、吸着樹脂、シリカゲル、アルミナ、珪藻土、珪酸マグネシウム、イオン交換樹脂、あるいはゲル濾過等のカラムクロマトグラフィーもしくは薄層クロマトグラフィー等が挙げられる。
【0033】
3.育毛用医薬品
前記本発明の育毛剤は、医薬品に含有させて育毛用医薬品とすることができる。本発明の育毛用医薬品の剤型としては、例えば、粉末、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、外用剤、注射剤等が挙げられる。製剤例えば投与経路として、経口投与、皮下投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与等をあげることができる。また、薬理的に許容される賦形剤とともに投与してもよい。賦形剤としては、ソルビトール、ラクトース、グルコース、乳糖、デキストリン、澱粉等の糖類、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、大豆油、綿実油等、一般に使用されているものであればいずれも用いることができる。製剤化する際には、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることもできる。
【0034】
本発明の育毛用医薬品を人の育毛に適用した場合、例えば、経口投与では、平均的な成人(約60kg)の1日あたりの摂取量は、本発明の育毛効果を有効に得るために、含有しているGLWの摂取量が、好ましくは10〜5000mg、より好ましくは50〜2000mgとなる量である。
【0035】
4.育毛用食品
本発明の育毛剤は食品に含有させて育毛用食品とすることができる。本発明の育毛用食品の形状としては、例えば、小麦粉加工品、デンプン類加工品、プレミックス加工品、麺類等の穀物加工品、可塑性油脂、てんぷら油、サラダ油、マヨネーズ類、ドレッシング等の油脂加工品、豆腐類,味噌、納豆等の大豆加工品、ハム、ベーコン、プレスハム、ソーセージ等の食肉加工品、すりみ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、ソーセージ、魚卵加工品等の水産製品、原料乳、クリーム、ヨーグルト、バター、チーズ、アイスクリーム等の乳製品、ペースト類、ジャム類、漬け物類、果実飲料、野菜飲料、ミックス飲料等の野菜・果実加工品、日本酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、ウオッカ、ビール、清涼アルコール飲料、果実酒、リキュール等のアルコール飲料、緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、清涼飲料、乳酸飲料等の嗜好飲料、しょうゆ、ソース、酢、みりん等の調味料、即席麺類、即席カレー、インスタントコーヒー、粉末ジュース、粉末スープ等の乾燥食品、冷凍食品、固形食品、香辛料類等の農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品等が挙げられる。
【0036】
本発明の育毛用食品を人の育毛に適用した場合、例えば、経口投与では、平均的な成人(約60kg)の1日あたりの摂取量は、本発明の育毛効果を有効に得るために、含有しているGLWの摂取量が、好ましくは10〜5000mg、より好ましくは50〜2000mgとなる量である。
【0037】
5.実施例
以下、本発明の実施例、比較例および試験例を述べ、本発明を更に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]固相法によるGLWの合成
市販のFmoc−Trp(Boc)−Alko樹脂(置換率0.50meq/g)0.60gをPS3型ペプチド合成機(Protein Technologies社製)の反応槽に分取し、GLWについて以下のように合成を行った。まず、上記の樹脂を反応容器に入れて、1mmolのFmoc−Leu−OHと、活性化剤として、1mmolのHBTUを10mlの0.4M N−メチルモルフォリンを含むジメチルフォルムアミドに溶解したものを反応槽に加え、室温にて20分攪拌反応させた。
【0039】
得られた樹脂を20%のピペリジンを含むジメチルフォルムアミド20ml中で、Fmoc基を除去し、ついで上記のFmoc−Leu−OHをカップリングさせた方法と同様にFmoc−Gly−OHをカップルさせて、Gly−Leu−Trp(Boc)−Alko樹脂を得た。さらにformyl化する場合は、この樹脂と1mmolの蟻酸と1mmolのHBTUを上記同様に反応させた。該樹脂を3mlの脱保護液(92容量%トリフルオロ酢酸、3容量%アニソール、3容量%エタンジチオール、2容量%トリイソプロピルシラン)中で室温にて1時間攪拌し、側鎖の脱保護を行うとともにペプチドを樹脂から遊離させた。
【0040】
ここに40mlの冷エーテルを添加し、ペプチドを沈殿させ、さらに冷エーテルにて3回洗浄し粗ペプチドを得た。これをODSカラム(Cosmosil5C18−AR,20×250mm)による逆相クロマトグラフィーにより0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの直線的濃度勾配にて展開、精製し、本発明のGLWを得た。得られたGLWをプロテインシーケンサー(アプライド バイオシステムズ社製477A型)により分析した結果、H−Gly−Leu−Trp−OHであった。得られたGLWを本発明の育毛剤として用いた。
【0041】
[試験例1]マウスの育毛に対する促進効果試験
マウスの育毛に対する促進効果試験は、Hattoriらの方法[Hattori M and Ogawa H; Biochemical analysis of hair growth from the aspects of aging and enzyme activities. Journal of Dermatology 10 45-54 (1983)]を改変して行った。つまり、まず、7週齢のC3H/HeSlcマウス(一群10匹)(清水実験材料(株))を24℃、明期12時間サイクル条件下で予備飼育した。次に、8週齢マウスに対して、ネンブタール麻酔を施し、マウス背部の15cmの皮膚表面をまず、動物用電気バリカンを用いて剃毛した後、3日間環境に馴化させた。この間、マウスには市販の飼料(CE−2、日本クレア(株)製)を与えた。その後、表1の飼料を作成し、自由摂取させた。なお、無添加飼料(CE−2、日本クレア(株)製)を自由摂取させた群を対照とした。
【0042】
【表1】

投与開始後14日目のマウス背部の写真撮影を行い、画像解析処理装置(Scion Image、Scion Corporation製)を用いてマウス背部の剃毛部全面積に対する育毛部の面積の百分率を求めた値を育毛面積率(%)とした。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

表2より、GLW配合飼料を与えたマウスは、無添加配合飼料を与えたマウスと比較して、高い育毛効果が得られていることが確認された。
【0044】
[試験例2]抗癌剤の副作用による脱毛に対する脱毛抑制試験
ラットの脱毛抑制試験は、Husseinの方法[Hussein AM; Interleukin 1 protects against 1-beta-D-arabinofuranosylcytosine-induced alopecia in the newborn rat animal model. Cancer Research 51, 3329-3330 (1991)]を改変して行った。つまり、まず、6日齢のSD系ラットを4群に分け(1群につき授乳ラット1匹+仔ラット10匹で飼育)(清水実験材料(株))、それぞれ24℃、明期12時間サイクル条件下で予備飼育した。その後、10日目に、各群のラットに対して、表3に示す物質をそれぞれ1日1回、腹腔内投与を行った。さらに、11日齢より前記GLWと共に、エトポシド(抗癌剤、日本化薬(株)製)を3日間連続で腹腔内投与した。エトポシドは、20mg/mlの注射薬を0.9%生理食塩水にて2mg/mlに希釈し、1.5mg/kg体重の用量で投与した。
【0045】
その後、20日齢のラット背部の写真撮影を行い、画像解析処理装置(Scion Image、Scion Corporation製)を用いて背部皮膚全面積に対する体毛残存部の面積の百分率を求めた値を体毛残存率(%)とした。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

表3より、エトポシドとGLWを投与した群は、エトポシドのみを投与した群と比較して、抗癌剤の副作用による脱毛を著しく抑制していることが確認された。
【0047】
[試験例3]抗癌剤の副作用による脱毛に対する脱毛抑制の作用機構検討試験
試験例2において、表3に示す物質を投与する代わりに表4に示す物質をそれぞれ1日1回、腹腔内投与を行った他は、試験例2と同様の方法で体毛残存率の測定を行った。結果を表4に示す。
【0048】
【表4】

表4より、ヒスタミンの拮抗阻害剤であるピリラミン(pyrilamine)またはシメチジン(cimetidine)をGLWと同時に摂取させるとGLWの脱毛抑制効果が阻害されることから、GLWの脱毛抑制効果はヒスタミンの放出を介していることが考えられる。また、同様にシクロオキシゲナーゼ産物のシクロオキシゲナーゼ阻害剤であるインドメタシン(indomethacin)をGLWと同時に摂取させるとGLWの脱毛抑制効果が阻害されることから、GLWの脱毛抑制効果はシクロオキシゲナーゼ産物の産生を介していることが考えられる。
【0049】
[実施例2]
常法により、鶏卵を割卵して殻を取り除き、卵白のみを分離した。得られた卵白3500gを泡立てないように均質化し、等量の飽和硫酸アンモニウム水溶液を添加した。次に、生じた沈殿を除去し、上清を回収した。その後、前記上清7000mlに0.5M HSOを添加し、pHを4.6に調整した後、常温で12時間放置し、生じた沈殿を回収した。回収した沈殿を水に溶かして常温で12時間放置させることで、卵白アルブミンを精製した。精製した卵白アルブミンを10mg/mlとなるように清水に溶解した溶液に、トリプシンを添加し、5N水酸化ナトリウムを用いてpHを7.5に調整した。その後、37℃で3時間反応を行い、さらにキモトリプシンを添加後、37℃で3時間反応を行った後、煮沸により酵素反応を停止させ、凍結乾燥させることで粗ペプチドを得た。
【0050】
前記粗ペプチドをODSカラム(Cosmosil5C18−AR、20×250mm)による逆相クロマトグラフィーにより0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの直線的濃度勾配にて展開、精製し、本発明のGLWを得た。
【0051】
[実施例3](育毛剤を含んでなる育毛用医薬品)
実施例1で得られたGLWを用いて、常法によりカプセル剤状の育毛用医薬品を得た。つまり、まず、下記配合の原料を準備した。次に、下記原料を予めよく粉体混合し、篩過(16メッシュ)した後、ハードカプセル(2号)に得られた粉体混合物を1粒当り380mgとなるように充填することで、本発明の育毛用医薬品を得た。なお、充填はハードカプセル充填機を用いて行った。
【0052】
<配合>
コーンスターチ 68.5部
GLW 26.4部
ショ糖脂肪酸エステル 5.1部

100部
[実施例4](育毛剤を含んでなる育毛用食品)
実施例1で得られたGLWを用いて、常法により清涼飲料を得た。つまり、下記配合の原料を準備し、清水に、ブドウ糖・果糖液糖、酸味料、甘味料、アスコルビン酸、グレープフルーツ香料とGLWとを添加後、攪拌混合することで、清涼飲料を得た。これを98℃に加熱し10分間保持した後、100ml容褐色瓶に充填し、スクリューキャップを施し密封後常温に冷却することで本発明の清涼飲料を得た。
【0053】
<配合>
清水 87.4部
ブドウ糖・果糖液糖 12.0部
酸味料 0.2部
甘味料 0.1部
アスコルビン酸 0.1部
グレープフルーツ香料 0.1部
GLW 0.1部

100部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式R−Gly−Leu−Trp−R(式中、Rは、水素またはアミノ基の保護基を示し、Rは、水酸基またはカルボキシル基の保護基を示す)で示されるペプチドを有効成分として含有する育毛剤。
【請求項2】
前記Rが水素であり、前記Rが水酸基である請求項1記載の育毛剤。
【請求項3】
前記ペプチドが卵白由来である請求項1または2記載の育毛剤。
【請求項4】
抗癌剤の副作用によって生じる脱毛を抑制する請求項1乃至3のいずれかに記載の育毛剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の育毛剤を含んでなる育毛用医薬品。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の育毛剤を含んでなる育毛用食品。

【公開番号】特開2009−57328(P2009−57328A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226614(P2007−226614)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】