説明

肺動脈高血圧症を治療するための併用療法におけるイロプロスト

本発明の好ましい実施形態は、肺動脈高血圧症の治療のための新規な治療的薬剤の併用物および方法に関する。より具体的には、本発明の態様は、イロプロストと、エンドセリン受容体拮抗剤およびPDE阻害剤からなる群より選ばれる少なくとも一種類の添加剤との併用物を使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、肺動脈高血圧症を治療および/または予防するために、一種以上の添加剤、好ましくは、エンドセリン受容体拮抗剤および/またはPDE阻害剤と併用して、イロプロストを使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
肺動脈高血圧症は、肺血管抵抗が増加し、右心不全および死亡に至ることで特徴づけられる衰弱性疾患である。明白な原因がない肺動脈高血圧症(PAH)は、原発性肺高血圧症(PPH)と呼ばれる。近年、血管収縮、血管再構築(すなわち、肺抵抗血管の中膜および脈管内膜の増殖)及びin situ血栓症を含む原発性肺高血圧症に伴う様々な病態生理的変化の特徴が記述されている(例えば、D’Alonzo,G.E.ら著、1991年刊、Ann Intern Med誌、第115巻、第343〜349頁;Palevsky,H.I.ら著、1989年刊、Circulation誌、第80巻、第1207〜1221頁;Rubin,L.J.著、1997年刊、N Engl J Med誌、第336巻、第111〜117頁;Wagenvoort,C.A.及びWagenvoort,N.著、1970年刊、Circulation誌、第42巻、第1163〜1184頁;Wood,P.著、1958年刊、Br Heart J誌、第20巻、第557〜570頁)。血管および内皮恒常性の障害は、プロスタサイクリン(PGI)の合成量の減少、トロンボキサンの生産量の増加、一酸化窒素の形成の低下およびエンドセリン−1の合成量の増加から証明されている(Giaid,A.及びSaleh,D.著、1995年刊、N Engl J Med誌、第333巻、第214〜221頁;Xue,C及びJohns,R.A.著、1995年刊、N Engl J Med誌、第333巻、第1642〜1644頁)。PPHの場合は、肺動脈の血管平滑筋細胞の細胞内遊離カルシウム濃度が上昇することが報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
肺高血圧症の現在の治療法は不十分である。一般的に、現在の方法は、カルシウムチャンネル拮抗剤、プロスタサイクリン、エンドセリン受容体拮抗剤および抗凝血剤による長期の治療を伴う。しかしながら、これらの個々の治療方法には限界および副作用がある。
【0004】
このため、PAHを治療するための新しい併用薬剤、好ましくは、副作用が少ないか無く(すなわち、低毒性)、PAHの種々の段階の患者で有効性の面において好ましい特性を示す活性な薬剤をより低い量で使用するものが長い間求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、PAH治療用の治療用併用物が開示される。好ましくは、その治療用併用物は、プロスタサイクリンと、エンドセリン受容体拮抗剤、PDE阻害剤およびカルシウムチャンネル遮断剤からなる群より選ばれる少なくとも一種類の添加剤とを含み、PAHに伴う少なくとも一種の症状を改善するのに十分な投薬量で、該プロスタサイクリンと該少なくとも一種類の添加剤とが投与される。
【0006】
ある実施形態では、前記プロスタサイクリンは、イロプロスト、トレプロスティノール及びベラプロストからなる群より選ばれる。他の実施形態では、前記エンドセリン受容体拮抗剤は、ボセンタン、シタキセンタン及びアムブリセンタンからなる群より選ばれる。また他の実施形態では、前記プロスタサイクリンはイロプロストであり、前記少なくとも一種類の添加剤はボセンタンである。更に他の実施形態では、前記イロプロストはエーロゾル化されている。更にまた他の実施形態では、前記少なくとも一種類の添加剤は、シルデナフィル(登録商標バイアグラ)、タダラフィル(登録商標シアリス)及びバルデナフィル(登録商標レビトラ)からなる群より選ばれるPDE阻害剤を含む。
【0007】
PAHを治療する方法が開示される。その方法は、プロスタサイクリンと、エンドセリン受容体拮抗剤、PDE阻害剤およびカルシウムチャンネル遮断剤からなる群より選ばれる少なくとも一種類の添加剤とを含む治療用併用物の有効量を投与することを含む。ある好ましい実施形態では、その方法は、ボセンタン、シタキセンタン、アムブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル及びバルデナフィルからなる群より選ばれる少なくとも一種類の添加剤と併用してイロプロストを投与することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の一実施形態では、肺動脈高血圧症を治療するための併用療法が開示される。ある実施形態では、その併用療法は、一種類以上の添加剤と併用して、有効量のプロスタサイクリン(PGI、その安定な類似物質(例えば、イロプロスト)、または、その誘導物質(例えば、シクレタニン))、好ましくはエポプロステノール類似物質、最も好ましくはイロプロストを投与することを伴う。一種類以上の添加剤は、例えば一つのタブレットまたはカプセルで、プロスタサイクリンと共に投与することもでき、または、添加剤をプロスタサイクリンと別に投与することもできる。ある好ましい実施形態では、プロスタサイクリンはエーロゾル化される。また、ある実施形態では、イロプロストとは異なる機構により、血管の状態(例えば、血管拡張)を調節する、エンドセリン受容体拮抗剤などの第二の薬剤が使用される。好ましくは、エンドセリン受容体拮抗剤は、ボセンタン(商標トラクリア、アクテリオン社)、アムブリセンタン(ミオゲン社)及びシタキセンタン(エンサイシブ ファーマシューティカルズ社)からなる群より選ばれる。他の実施形態では、プロスタサイクリン活性、生物学的利用能および半減期を調節するか、プロスタサイクリンの望ましくない副作用を改善する第二の薬剤が使用される。ある好ましい実施形態では、第二の薬剤は、プロスタサイクリン活性の上昇に適したPDE阻害剤であり、好ましくは、エノキシモン、ミルリノン(登録商標プリマコール)、アムリノン(登録商標イノコール)、シルデナフィル(登録商標バイアグラ)、タダラフィル(登録商標シアリス)及びバルデナフィル(登録商標レビトラ)からなる群より選ばれる。
【0009】
エポプロステノール誘導体
プロスタサイクリン(登録商標フローラン、グラクソスミスクライン社)の持続静注は、重度の肺高血圧症患者に関する対照試験において死亡率を低下させることが見出された最初の療法である。しかしながら、プロスタサイクリンの使用には、多くの重大な不利益が伴う(Barst,R.J.ら著、1996年刊、N Engl J Med誌、第334巻、第296〜301頁;Badesch,D.B.ら著、2000年刊、Ann Intern Med誌、第132巻、第425〜434頁)。肺に対して選択的に作用する訳ではないので全身性の副作用が生じ、耐性のために投薬量を漸進的に増加する必要があり、静脈内カテーテルの反復性感染の可能性もある。代替としての一酸化窒素吸入療法は肺に対する選択性を有するが、肺血管系中ではプロスタサイクリンほど有効ではない。さらに、一酸化窒素の連続的な吸入を中断すると、肺高血圧症の揺り戻しが起こる可能性がある。プロスタサイクリンの有益な効果を吸入投与の有益な効果と組み合わせることを目的として、噴霧化されたプロスタサイクリンが急性呼吸不全の患者において強力な肺血管拡張剤であり、よく換気された肺領域で優先的に血管を拡張させることが見出された(Walmrath,D.ら著、1993年刊、Lancet誌、第342巻、第961〜962頁;Walmrath,D.ら著、1995年刊、Am J Respir Crit Care Med誌、第151巻、第724〜730頁;Walmrath,D.ら著、1996年刊、Am J Respir Crit Care Med誌、第153巻、第991〜996頁;Zwissler,B.ら著、1996年刊、Am J Respir Crit Care Med誌、第154巻、第1671〜1677頁)。自発呼吸している肺線維症および重度の肺高血圧症の患者においても、同様の結果が得られた(Olschewski,H.ら著、1999年刊、Am J Respir Crit Care Med誌、第160巻、第600〜607頁)。
【0010】
三種類のエポプロステノール類似体、すなわち、トレプロスティノール(登録商標レモデュリン、ユナイテッド セラピューティクス社)、ベラプロスト及びイロプロストがPAHの治療において研究されてきた。トレプロスティノールはエポプロステノールの安定な類似体であり、継続的に皮下投与される。しかしながら、注入部位の激痛のため、投与量の増加は制限されてきた。従って、多くの患者が治療用量の投与を受けている訳ではない。ベラプロストは経口で有効であり、PAHの試験において3ヶ月および6ヶ月の時点では効果を示すが、9ヶ月または12ヶ月の時点では効果を示さない(Barst,RJ著、J Am Coll Cardiol誌、2003年6月18日刊、第41巻(12号)、第2119〜25頁)。イロプロストは、静脈内投与、または噴霧器により投与することができる。噴霧器送達法の利点は、少量の薬剤しか体循環に到達しないことである(“擬似選択的”肺血管拡張剤)。一般にイロプロストは一日に6回から9回投与され、患者の生活様式を乱す可能性がある。しかしながら、異なる機構により肺高血圧症に対して治療効果があり、可能であれば相乗的に作用する薬剤をイロプロストと併用することにより、イロプロストの投与回数を減少することができる。
【0011】
イロプロスト
イロプロスト(米国特許第4,692,464号参照;これを引用することにより、この文献の全体を本明細書に取り込む)はプロスタサイクリンの安定な類似体であり、より長時間、血管を拡張する(Fitscha,P.ら著、1987年刊、Adv Prostaglandin Thromboxane Leukot Res誌、第17巻、第450〜454頁)。肺高血圧症の患者にイロプロストを噴霧により投与する場合、その肺血管拡張能はプロスタサイクリンと同様であるが、プロスタサイクリンの効果は15分しか持続しないのに比較して、イロプロストの効果は30〜90分持続する(Hoeper,M.M.ら著、2000年刊、J Am Coll Cardiol誌、第35巻、第176〜182頁;Olschewski,H.ら著、1999年刊、Am J Respir Crit Care Med誌、第160巻、第600〜607頁;Olschewski,H.ら著、1996年刊、Ann Intern Med誌、第124巻、第820〜824頁;Gessler,T.ら著、2001年刊、Eur Respir J誌、第17巻、第14〜19頁;Wensel,R.ら著、2000年刊、Circulation誌、第101巻、第2388〜2392頁)。重度の肺高血圧症患者における非盲検の一般試験の幾つかで、噴霧化されたイロプロストの長期使用により実質的な臨床的改善がもたらされることが示唆された(Olschewski,H.ら著、1999年刊、Am J Respir Crit Care Med誌、第160巻、第600〜607頁;Olschewski,H.ら著、1996年刊、Ann Intern Med誌、第124巻、第820〜824頁;Hoeper,M.M.ら著、2000年刊、N Engl J Med誌、第342巻、第1866〜1870頁;Olschewski,H.ら著、1998年刊、Intensive Care Med誌、第24巻、第631〜634頁;Stricker,H.ら著、1999年刊、Schweiz Med Wochenschr誌、第129巻、第923〜927頁;Olschewski,H.ら著、2000年刊、Ann Intern Med誌、第132巻、第435〜443頁;Beghetti,M.ら著、2001年刊、Heart誌、第86巻、E10−E10)。重度のPAH患者における多中心無作為プラシーボ対照試験により、プラシーボを投与された患者に対し、イロプロストを投与された患者において運動能力が向上することが示された(Olschewski,H.ら著、2002年刊、NEJM誌、第345巻、第322〜9頁)。
【0012】
エンドセリン受容体拮抗剤(ETRA)
肺動脈高血圧症においてエンドセリン−1が病原性の役割を担っていること、およびエンドセリン受容体の遮断が有効である可能性があることの証拠が増えつつある。エンドセリン−1は強力な内因性血管収縮剤および平滑筋有糸分裂促進剤であり、肺動脈高血圧症患者の血漿および肺組織中で過剰に発現される。エンドセリン受容体には二種類ある。すなわち、エンドセリンA、即ちET−A、およびエンドセリンB、即ちET−B受容体であり、血管の直径の調整において極めて異なった役割を果たす。平滑筋細胞に存在するET−A受容体にエンドセリンが結合すると、血管収縮が引き起こされる。それに対して、血管内皮に存在するET−B受容体にエンドセリンが結合すると、一酸化窒素の生産を通じて血管拡張が引き起こされる。後者のET−B受容体の活性は反対制御と考えられ、過剰な血管収縮から保護する。
【0013】
従って、肺高血圧症の治療に対する他の興味深い取り組み方は、これらのエンドセリン受容体を遮断することであった。このため、二種類のETRAが開発されてきた。すなわち、ET−A及びET−Bの両方のエンドセリン受容体を遮断する二重ETRAと、ET−A受容体のみを遮断する選択的ETRAとである。
【0014】
a)二重エンドセリン受容体拮抗剤
第一世代のETRAは非選択的で、ET−A及びET−Bの両方のエンドセリン受容体を遮断する。ボセンタン(商標トラクリア)が最初にFDAに認可されたETRAである(米国特許第5,292,740号参照;これを引用することにより、この文献の全体を本明細書に取り込む)。ボセンタンに関する二種類のプラシーボ対照試験(エンドセリン受容体A及びB拮抗剤)が行なわれた(Channick,R.N.ら著、2001年刊、Lancet誌、第358巻、第1119〜1123頁;Rubin,L.J.ら著、2002年刊、N Engl J Med誌、第346巻、第896〜903頁)。全てのグループで6分間の歩行試験の結果が改善されたが、この薬物をより高用量で使用した場合、より改善された。しかしながら、高用量にした時、肝毒性が生じた。
【0015】
b)選択的エンドセリン受容体拮抗剤
第二世代のETRAは、ET−B受容体よりもET−A受容体に優先的に結合する。現在、二種類の選択的ETRA、すなわちシタキセンタン及びアムブリセンタン(BSF208075)が臨床試験の段階にある。純エンドセリンA拮抗剤、シタキセンタンが予備的な一般試験で使用されてきた。この結果、6分間の歩行試験の結果が改善され、肺血管抵抗が30%減少することが示された(Barst,R.J.ら著、2000年刊、Circulation誌、第102巻、II−427頁)。
【0016】
より強力なエンドセリン化合物、TBC3711(エンサイシブ ファーマシューティカルズ社)が、2001年12月に第一相試験に入った。この薬剤は、慢性心不全および本態性高血圧症を治療できる可能性を有している。
【0017】
肺高血圧症を治療するために他の薬物の投与を既に受けている患者に対してボセンタンを使用する小規模な臨床試験が行なわれている(Hoeper,M.M.ら著、2003年刊、「Pulmonary Hypertension:Clinical」中、要旨A275、2003年5月18日;Pulmonary Hypertension Roundtable誌、2002年刊、2002年春PH中、Phassociation.org/medical/advances)。本発明の好ましい実施形態では、併用療法は、イロプロスト及びボセンタンが異なる作用機構により共同で、好ましくは相乗的に作用し、肺高血圧症を治療する。また別の好ましい実施形態では、イロプロストをシタキセンタンと併用する。更に別の実施形態では、イロプロストをアムブリセンタンと併用する。更に他の実施形態では、イロプロストを噴霧化し、ボセンタン、シタキセンタンまたはアムブリセンタンと併用する。他の実施形態では、肺高血圧症の併用療法において、イロプロストをTBC3711と併用する。
【0018】
一酸化窒素の生産
肺高血圧症では、エンドセリンが関与する一酸化窒素の生産が減少するため、この不具合を好転させる試みが、一酸化窒素の連続吸入(この方法は有効だが投薬が難しい)または一酸化窒素の基質であるL−アルギニンを増加させることで推進されている(Nagaya,N.ら著、2001年刊、Am J Respir Crit Care Med誌、第163巻、第887〜891頁)。現在、L−アルギニンの補給の試験が進行中である。
【0019】
PDE阻害剤
一酸化窒素の供給を増加させることに加え、平滑筋細胞内の環状ヌクレオチド二次メッセンジャーレベルを直接増加させることが試みられてきた。勃起障害に使用されるシルデナフィルは、陰茎海綿体そしてまた肺に存在する酵素、ホスホジエステラーゼタイプ5を遮断する。このため、ホスホジエステラーゼ阻害剤、好ましくはシルデナフィルなどのPDEタイプ5阻害剤が比較的選択的な肺血管拡張剤となりうる可能性がある。経験的な証拠からも、併用療法におけるターゲット化合物としてのPDE阻害剤の発明者の選択は支持されている(例えば、Michelakis,E.ら著、2002年、Circulation誌、第105巻、第2398〜2403頁;Ghofrani,H.ら著、2002年、Lancet誌、第360巻、第895〜900頁を参照;参照により、これらの開示内容の全体が本明細書に取り込まれる)。
【0020】
上述の通り、噴霧化されたプロスタサイクリン(PGI)が選択的肺血管拡張剤として提案されてきたが、噴霧療法を終了した後、その効果は急速に低下する。噴霧化PGIに対する血管拡張反応を増幅させる方策として、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害により第二メッセンジャーcAMPを安定化させることが示唆されてきた。特定のPDE阻害剤を閾値下の量で血管内投与または経気管支投与することで、肺PDE3/4を阻害でき、この阻害は吸入されたPGIに対する肺血管拡張反応を相乗的に増幅し、同時に換気血流均等が改善し、肺水腫の形成が減少する。従って、噴霧化PGIとPDE3/4阻害の組み合わせにより、呼吸不全および肺高血圧症におけるガス交換が維持され、選択的肺血管拡張に関する新たな考え方が提案されるであろう(Schermuly,R.T.ら著、2000年刊、J Pharmacol Exp Ther誌、第292巻、第512〜20頁)。このような併用療法が肺高血圧症の治療に効果的である可能性を示す小規模な臨床試験が幾つか報告されている(Ghofraniら著、2002年刊、Crit Care Med誌、第30巻、第2489〜92頁;Ghofraniら著、2003年刊、J Am Coll Cardiol誌、第42巻、第158〜164頁;Ghofraniら著、2002年刊、Ann Intern Med誌、第136巻、第515〜22頁)。
【0021】
環状−3’,5’−ヌクレオチド ホスホジエステラーゼ(PDE)のアイソザイムは、環状−3’,5’−アデノシン一リン酸(cAMP)プロテインキナーゼA(PKA)のシグナル伝達経路の極めて重要な構成要素である。PDEアイソザイムの上位群は少なくとも9個の遺伝子群(型)、すなわちPDE1〜PDE9より成る。幾つかのPDE群は非常に多様で、数種の亜型および多数のPDEイソ型スプライス変異型よりなる。それらのPDEアイソザイムは、分子構造、触媒特性、細胞内調節および局在性、選択的阻害剤に対する感受性、そして様々な細胞型における特異的発現性が異なる。
【0022】
ここで、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害剤は、環状AMPの不活性化を遮断することで機能し、肺動脈高血圧症の治療に使用されるあらゆる薬剤と定義する。ホスホジエステラーゼ(PDE)には、5種類の主な亜型が存在する。医療上、最も一般的に使用されるのは、エノキシモン(PDE IVを阻害する)及びミルリノン(登録商標プリマコール)(PDE IIIcを阻害する)である。他のホスホジエステラーゼ阻害剤は、心筋機能、肺および全身の血管拡張の改善に使用されるアムリノン(登録商標イノコール)、およびシルデナフィル(登録商標バイアグラ)、タダラフィル(登録商標シアリス)及びバルデナフィル(登録商標レビトラ) − 選択的ホスホジエステラーゼV阻害剤などである。
【0023】
ビジネスワイヤーウェブサイト(webbox/bw.042803/231185439.htm)には、タダラフィルに関する臨床データが報告されており、それには、プラシーボ治療を受けた人で19パーセントであったのに比較して、臨床試験に参加した、勃起障害(ED)の多様な種族的出身の米国人男性の79パーセントが、治験薬による治療後、勃起が改善されたことを報告したことが示されている。米国およびプエルトリコで行われた、この新しい試験の結果は、シカゴで開催された米国泌尿器科協会の第98回年会で本日発表された。EDは、全世界で推定1億5200万人の男性が冒されている障害である。
【0024】
タダラフィル(登録商標シアリス)は、勃起障害を治療するためにリリー・アイコス社によって開発されたPDE5阻害剤である。タダラフィルは、欧州、オーストラリア、ニュージランド及びシンガポールでは医師の処方により入手でき、米国においては最近FDAにより認可された。
【0025】
クリーブランド大学病院泌尿器科準教授で研究立案者のアレン セフテル医学博士は「シアリスによる治療により、性交渉の成功回数の増加や勃起改善などの勃起障害が著しく改善された」と述べた。「軽度から重度のEDの多様な種族的出身の米国男性で許容できる特性が確認できたことは喜ばしいことである」とも述べた。
【0026】
軽度から重度のED男性に対してシアリスの有効性および安全性を評価するために企画された無作為プラシーボ対照試験では、米国およびプエルトリコにおいて207人の参加者が、12週間、シアリスまたはプラシーボの一方を用量20mgで投与されるよう指定された。勃起能の基準を決定するため、4週間の無治療期間の後、治療時期にした。患者は、性活動に先立ち適当な時に、必要に応じて薬を服用するよう言われており、シアリスは36時間まで有効であるとも知らされていた。この試験では、脂肪分に関して規制されることなく普通食を取ってもよいことも知らされていた。
【0027】
グローバル アセスメント クエスチョンによって決定されたように、この試験において、プラシーボでは19パーセントであったのに比較して、シアリスで治療した患者の79パーセントが勃起が改善されたことを報告した。さらなる研究結果から、セクシャル エンカウンター プロファイル ダイアリーに記録されているように、プラシーボでは43パーセントであったのに比較して、シアリスを服用した男性では膣挿入の試みの77パーセントが成功したことが明らかになった(p値は0.001より小さい)。さらに、プラシーボを服用した男性では23パーセントであったのに対して、シアリスを服用した男性は性交渉の試みの64パーセントを行うことが可能であった(p値は0.001より小さい)。最後に、他の評価項目の全てについて、プラシーボに比較して、シアリスを服用した男性は統計的に有意の改善が達成できた。
【0028】
この試験において、最も一般的に報告された(5パーセント以上)、治療により発生した有害事象は、頭痛、背痛および胃のむかつきであった。これらの有害事象のために試験を中止したシアリス服用患者の数は、プラシーボでは2パーセントであったのに比較して、5パーセントであった。
【0029】
全世界の多数の国で行なわれたシアリスの第三相臨床試験に以前に登録されたEDの男性1,173人について、シアリスの長期安全性および許容性を評価するために企画された二回目の臨床試験が、米国泌尿器科協会の年会で発表された。これらの男性には、心血管疾患および糖尿病などのEDに伴う様々な合併症を有する人々が含まれていた。報告されたデータは、少なくとも一年間の治療を終了した患者から得られたものであった。評価期間の間、全ての試験参加者が、最初10mgのシアリスを投与され、これらの患者の83パーセント(970人)の人が投薬量を20mgに増加した。患者は、性活動に先立ち、必要に応じて治療を受けるよう言われた。
【0030】
他のシアリスの臨床試験と同様、この試験において、最も一般的に報告された、治療により発生した有害事象は、頭痛および胃のむかつきであった。副作用のために、5パーセントの患者が試験を中止した。個人的な有害事象による試験の中断率は1%未満であった。
【0031】
バイエル社は、ウェブサイト上で、登録商標レビトラ(バルデナフィルの塩酸塩)が勃起障害(ED)の治療のために米国食品医薬品局(FDA)より認可されたことを報告した。レビトラは、全国的に薬局で入手することができる。
【0032】
レビトラの研究者であり、男性の性的障害の分野において全国的に認知されている専門家であるマイロン マードック医学博士は「臨床試験において、レビトラは迅速に効果を示した。さらに重要なこととして、レビトラは、これを初めて服用した段階で、大多数の男性で性的応答性が改善され、長時間にわたって常に効果があることが示された」と述べた。
【0033】
バイエル社およびグラクソ・スミスクライン社は、5,700人以上の男性が関与する50以上の試験を含む広範な臨床試験計画でレビトラを評価した。第三相臨床試験の結果より、レビトラに関して以下のことが示された。
【0034】
・男性が満足な性的行為に十分な勃起を実現でき、これを持続するのを助ける、
・多くの男性に対して初回で効果が現れ、勃起の質が確実に改善される、
・様々な年齢および人種の男性、糖尿病などの合併症を有する男性、前立腺を除去した男性に対して有効である、
・迅速に効果が現れ、適当な時に男性は性的状況を開始でき、これに反応できるようになる、
・食事に関係なく服用できるため、使用するのに便利である。
【0035】
レビトラは、勃起障害(ED)を治療するため一日一回まで使用できる薬剤である。レビトラは、医師の処方によってのみ使用される。胸痛(狭心症としても知られている)を制御するため頻繁に使用される硝酸塩薬剤を服用している男性は、レビトラを服用してはいけない。また、高血圧または前立腺症のために処方されることのあるアルファ遮断薬を使用している男性も、レビトラを服用してはいけない。そのような併用により、血圧が危険なレベルにまで低下する恐れがある。最も一般的に報告される副作用は、頭痛、顔面紅潮、鼻詰まりまたは鼻水である。4時間以上勃起している男性は、直ちに医師の診察を受けなければいけない。
【0036】
レビトラに関する詳細な情報についてはレビトラのウェブサイトを参照されたく、その開示内容の全体を引用により本明細書に取り込む。
【0037】
カルシウムチャンネル遮断剤
本発明の一実施形態によれば、プロスタサイクリン、好ましくはイロプロストが、カルシウムチャンネル遮断剤である第二の薬剤と組み合わせて投与される。カルシウムチャンネル遮断剤、または拮抗剤は、心臓および動脈の筋肉細胞へカルシウムが侵入するのを遮断することで、心臓の収縮を減少させ、動脈を拡張させるように作用する。動脈の拡張に伴い、動脈圧が低下し、心臓が血液を容易に送り出せるようになる。また、このため、心臓の酸素要求量が低下する。カルシウムチャンネル遮断剤は、PPHの治療に有用である。血圧を低下させる効果のため、カルシウムチャンネル遮断剤は高血圧の治療にも有用である。カルシウムチャンネル遮断剤は心拍数を遅くするため、心房細動のような高速心拍リズムの治療にも使用できる可能性がある。カルシウムチャンネル遮断剤はまた、心臓発作後の患者にも投与され、動脈硬化症の治療に有用な可能性もある。
【0038】
本発明の範囲内であるカルシウムチャンネル遮断剤は、これらに限定されることはないが、アムロジピン(米国特許第4,572,909号);ベプリジル(米国特許第3,962,238号);クレンチアゼム(米国特許第4,567,175号);ジルチアゼム(米国特許第3,562,257号);フェンジリン(米国特許第3,262,977号);ガロパミル(米国特許第3,261,859号);ミベフラジル(米国特許第4,808,605号);プレニルアミン(米国特許第3,152,173号);セモチアジル(米国特許第4,786,635号);テロジリン(米国特許第3,371,014号);ベラパミル(米国特許第3,261,859号);アラニジピン(米国特許第4,446,325号);バミジピン(米国特許第4,220,649号);ベニジピン(欧州特許公開第106,275号);シルニジピン(米国特許第4,672,068号);エホニジピン(米国特許第4,885,284号);エルゴジピン(米国特許第4,952,592号);フェロジピン(米国特許第4,264,611号);イスラジピン(米国特許第4,466,972号);ラシジピン(米国特許第4,801,599号);レルカニジピン(米国特許第4,705,797号);マニジピン(米国特許第4,892,875号);ニカルジピン(米国特許第3,985,758号);ニフェジピン(米国特許第3,485,847号);ニルバジピン(米国特許第4,338,322);ニモジピン(米国特許第3,799,934号);ニソルジピン(米国特許第4,154,839号);ニトレンジピン(米国特許第3,799,934号);シンナリジン(米国特許第2,882,271号);フルナリジン(米国特許第3,773,939号);リドフラジン(米国特許第3,267,104号);ロメリジン(米国特許第4,663,325号);ベンシクラン(ハンガリー特許第151,865号);エタフェノン(独国特許第1,265,758号);及びペルヘキシリン(英国特許第1,025,578号)等である。これら全ての特許および特許出願の開示内容は、引用により、本明細書に取り込まれるものとする。
【0039】
好ましいカルシウムチャンネル遮断剤は、アムロジピン、ジルチアゼム、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン及びベラパミル、または、特定のカルシウムチャンネル遮断剤によっては、例えば、それらの薬剤として許容される塩などである。
【0040】
併用される化合物を、薬剤として許容される塩として存在させることもできる。例えば、これらの化合物が少なくとも一つの塩基中心を有している場合は、酸付加塩を形成することができる。また、必要であれば、さらに塩基中心を有している、対応する酸付加塩を形成することもできる。少なくとも一つの酸性基(例えばCOOH)を有している化合物も、塩基により塩を形成することができる。さらに、例えば、カルボキシ及びアミノ基の両方を含む構造の化合物の場合、対応する分子内塩を形成することもできる。
【0041】
本併用療法の一つの好ましい実施形態によれば、アムロジピンのような第二世代のカルシウム拮抗剤と共に、イロプロストが投与される。この併用剤は、徐放性製剤の形態で投薬することもできる。併用投薬および徐放形式は、高血圧患者の治療のために最適化されていることが好ましい。
【0042】
多数の本発明の好ましい実施形態とその変形例を詳細に記載してきたが、ここで開示された治療用の併用物を用いる他の改変および方法は、当業者にとっては自明である。従って、種々の応用、改変および代替は均等物になり、本発明の精神あるいは請求項の範囲から外れることはないと理解されるべきである。さらに、本発明は、例示を目的として本明細書に記載された実施形態に制限されるものではないが、それぞれの構成要件に値する最大限の均等の範囲を含め、添付の請求項を公正に読むことでのみ定められると理解されるべきである。
【0043】
なお、本明細書に引用した全ての文献は、それを引用することにより、その全体がここに取り込まれたものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタサイクリンと、エンドセリン受容体拮抗剤、PDE阻害剤およびカルシウムチャンネル遮断剤からなる群より選ばれる少なくとも一種類の添加剤とを含み、
PAHに伴う少なくとも一種の症状を改善するのに十分な投薬量で、該プロスタサイクリンと該少なくとも一種類の添加剤とを投与するPAH治療用の治療用併用物。
【請求項2】
前記プロスタサイクリンは、イロプロスト、トレプロスティノール及びベラプロストからなる群より選ばれる請求項1記載の治療用併用物。
【請求項3】
前記エンドセリン受容体拮抗剤は、ボセンタン、シタキセンタン及びアムブリセンタンからなる群より選ばれる請求項1記載の治療用併用物。
【請求項4】
前記プロスタサイクリンはイロプロストであり、
前記少なくとも一種類の添加剤はボセンタンである請求項1記載の治療用併用物。
【請求項5】
前記イロプロストはエーロゾル化されている請求項4記載の治療用併用物。
【請求項6】
前記少なくとも一種類の添加剤は、シルデナフィル(登録商標バイアグラ)、タダラフィル(登録商標シアリス)及びバルデナフィル(登録商標レビトラ)からなる群より選ばれるPDE阻害剤を含む請求項1記載の治療用併用物。
【請求項7】
プロスタサイクリンと、エンドセリン受容体拮抗剤、PDE阻害剤およびカルシウムチャンネル遮断剤からなる群より選ばれる少なくとも一種類の添加剤とを含む治療用併用物の有効量を投与することを含むPAHを治療する方法。
【請求項8】
前記プロスタサイクリンは、イロプロスト、トレプロスティノール及びベラプロストからなる群より選ばれる請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記エンドセリン受容体拮抗剤は、ボセンタン、シタキセンタン及びアムブリセンタンからなる群より選ばれる請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記プロスタサイクリンはイロプロストであり、
前記少なくとも一種類の添加剤はボセンタンである請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記イロプロストはエーロゾル化されている請求項7記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも一種類の添加剤は、シルデナフィル(登録商標バイアグラ)、タダラフィル(登録商標シアリス)及びバルデナフィル(登録商標レビトラ)からなる群より選ばれるPDE阻害剤を含む請求項7記載の方法。

【公表番号】特表2007−506752(P2007−506752A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−528149(P2006−528149)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/031149
【国際公開番号】WO2005/030187
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(506095973)コゼリクス、 インク. (1)
【Fターム(参考)】