説明

胃瘻チューブ用トロカール

【課題】胃瘻造設時にバンパータイプの胃瘻チューブ100をイントロデューサー法で瘻孔Pcに挿通できるようにした胃瘻チューブ用トロカールを提供する。
【解決手段】トロカール1は、外筒2と、先方に向けて縮径する先端のガイド部31を有し外筒2に抜差し自在に挿入される内筒3とを備え、外筒2に内筒3を挿入したときにガイド部31が外筒2の先方に突出するように構成される。外筒2の尾端には、尾方に向けて拡径するチューブ挿入部21が形成される。外筒2の少なくとも周方向2箇所には、チューブ挿入部21の途中から軸方向にのびて外筒2の先端に達するスリット22が形成される。そして、胃瘻チューブ100をチューブ挿入部21から外筒2に挿入したときに、スリット22で分断される外筒2の部分が押し開かれるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃瘻造設時にバンパータイプの胃瘻チューブを瘻孔を通して胃内に挿入するために使用する胃瘻チューブ用トロカールに関する。
【背景技術】
【0002】
胃瘻造設時には、内視鏡等を用いて患者の胃壁から腹壁に亘って貫通する孔(瘻孔)を穿孔し、胃瘻チューブを瘻孔に挿通して留置する。胃瘻チューブは、瘻孔を通して先端が胃内に挿入される可撓性を有するチューブ本体と、チューブ本体の先端に設けられた、胃内からのチューブ本体の抜出しを規制する抜け止め部とを備えている。そして、腹壁から体外に導出されるチューブ本体の部分に押え部材を装着し、胃瘻チューブの抜け止め部と押え部材との間に胃壁と腹壁とを挟み込んだ状態で胃瘻チューブを留置する。ある程度時間が経つと、胃壁と腹壁とが瘻孔の周囲において癒着し、胃瘻が完成する。そして、胃瘻完成後は胃瘻チューブを定期的に交換する。この交換時には、体外から瘻孔を通して胃瘻チューブを挿脱できる。然し、胃壁と腹壁とが癒着していない瘻孔造設時には、胃瘻チューブを体外から瘻孔を通して胃内に挿入することは難しい。
【0003】
そこで、胃瘻造設時に胃瘻チューブを瘻孔に挿通するため、プル法、プッシュ法及びイントロデューサー法といった特殊な方法が採用されている。プル法は、体外から瘻孔に挿入したガイドワイヤを胃内を経由して口から外に出し、このガイドワイヤを胃瘻チューブの尾端(抜け止め部を設けた部分と反対側の部分)に結びつけ、その後、ガイドワイヤにより胃瘻チューブを口から胃内に引き入れ、チューブ本体を瘻孔を通して体外に引き出す方法である。プッシュ法は、体外から瘻孔に挿入したガイドワイヤを胃内を経由して口から外に出し、このガイドワイヤに沿って胃瘻チューブをその尾端を先頭にして胃内に押し込み、チューブ本体を瘻孔を通して体外に押し出す方法である。イントロデューサー法は、トロカールを用いて、胃瘻チューブを体外から瘻孔を通して直接的に胃内に挿入する方法である。トロカールは、瘻孔に挿入自在な外筒と、外筒に抜差し自在に挿入される内筒とを備えている。内筒の先端には先方に向けて縮径するガイド部が設けられており、外筒に内筒を挿入したときにガイド部が外筒の軸方向先方に突出する。トロカールを瘻孔に挿入する際は、ガイド部で瘻孔が押し広げられ、外筒が瘻孔に挿入される。そして、外筒を瘻孔に挿入した後、内筒を抜き取り、外筒を通して胃瘻チューブを胃内に挿入する。尚、胃壁と腹壁とが癒着していない状態で瘻孔に外筒を無理なく挿入できるようにするには、外筒を比較的小径のものにする必要がある。
【0004】
ここで、プル法とプッシュ法は何れも胃瘻チューブが食道を通過するため、胃瘻チューブが汚染されやすい。従って、胃瘻チューブの汚染を防止するには、イントロデューサー法を採用することが望ましい。
【0005】
ところで、胃瘻チューブには、抜け止め部が伸縮自在なバルーン部で構成されるバルーンタイプと、特許文献1、2に記載されているように、抜け止め部が可撓性を有する略椀状のバンパー部で構成されるバンパータイプとがある。バンパータイプの胃瘻チューブはバルーンタイプのものに比し耐久性に優れ、胃瘻チューブの交換頻度を少なくすることができる。然し、バンパータイプの胃瘻チューブでは、バンパー部を特許文献1,2に記載されている挿入補助具を用いて細長く引き伸ばしたとしても、比較的小径に制約されるトロカールの外筒にバンパー部を挿通することはできない。従って、胃瘻造設時にバンパータイプの胃瘻チューブを瘻孔に挿通する場合、イントロデューサー法は採用できず、汚染の虞があるにも拘わらずプル法又はプッシュ法を採用しているのが現状である。
【特許文献1】特開2003−275325号公報
【特許文献2】特開2006−102195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、胃瘻造設時にバンパータイプの胃瘻チューブをイントロデューサー法で瘻孔に挿通できるようにした胃瘻チューブ用トロカールを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、瘻孔を通して先端が胃内に挿入される可撓性を有するチューブ本体と、チューブ本体の先端に設けられた、胃内からのチューブ本体の抜出しを規制する可撓性を有する略椀状のバンパー部とを備えるバンパータイプの胃瘻チューブを胃内に挿入するために使用する胃瘻チューブ用トロカールであって、外筒と、先方に向けて縮径する先端のガイド部を有し外筒に抜差し自在に挿入される内筒とを備え、外筒に内筒を挿入したときに内筒のガイド部が外筒の先方に突出するように構成され、外筒の尾端には、尾方に向けて拡径するチューブ挿入部が形成され、外筒の少なくとも周方向2箇所には、チューブ挿入部の途中から軸方向にのびて外筒の先端に達するスリットが形成され、胃瘻チューブをチューブ挿入部から外筒に挿入したときに、スリットで分断される外筒の部分が押し開かれることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、胃壁と腹壁とが癒着していない状態で瘻孔に外筒を無理なく挿入できるように、外筒が比較的小径に形成されていても、バンパータイプの胃瘻チューブを外筒に挿入すると、スリットで分断される外筒の部分が押し開かれ、胃瘻チューブのバンパー部が外筒を通過して胃内に挿入される。従って、胃瘻造設時にバンパータイプの胃瘻チューブをイントロデューサー法で瘻孔に挿通して、胃瘻チューブの汚染を防止できる。
【0009】
また、本発明においては、内筒のガイド部の先端に内筒内に連通する透孔が形成され、瘻孔に挿通されるガイドワイヤを透孔を通して内筒に挿入自在とすることが望ましい。これによれば、腹壁側の瘻孔部分に対し胃壁側の瘻孔部分が芯ずれしても、ガイドワイヤによりガイド部が胃壁側の瘻孔部分に挿入されるように案内され、外筒が胃壁側の瘻孔部分に確実に挿入される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態のトロカールについて説明するが、その前に、図1、図2を参照して胃瘻チューブ100について説明し、更に、図3、図4を参照して胃瘻チューブ100用の挿入補助具200について説明する。
【0011】
胃瘻チューブ100は、患者の胃壁Paから腹壁Pbに亘って穿孔する瘻孔Pc(図7参照)を通して先端が患者の胃内に挿入されるチューブ本体101と、チューブ本体101の先端に設けられた、胃内からのチューブ本体101の抜出しを規制する略椀状のバンパー部102とを備えるバンパータイプのものである。チューブ本体101とバンパー部102とは可撓性を有する合成樹脂(シリコーン樹脂)によって一体に形成されている。
【0012】
バンパー部102の周壁部の周方向一箇所には径方向内方に突出する突出部103が形成され、突出部103にバンパー部102の径方向内方に開口する袋孔状の係合孔104が形成されている。バンパー部102の周壁部には、更に、突出部103と反対側に位置させて切欠き部105が形成されている。また、バンパー部102の底部には、チューブ本体101と連通する連通口106が形成されている。
【0013】
挿入補助具200は、樹脂製の銃把状の把手201と、把手201の上部から軸方向先方にのびる棒状部材202とを備える。把手201の上端には、胃瘻チューブ100のチューブ本体101の外径より幅狭の溝部203が形成されている。また、溝部203にはチューブ本体101の滑り止めのため複数の突条204が形成されている。
【0014】
棒状部材202は、軸方向尾方側(把手201側)の第1直棒部205と、第1直棒部205の先端から下方にクランク状に屈曲する屈曲部206と、屈曲部206から軸方向先方にのびる第2直棒部207とを有する形状に形成されている。第2直棒部207には樹脂製の筒体208が外挿固定されている。そして、図4(a)に示す如く、第2直棒部207の先端部が筒体208の先端から係合孔104の孔深さ以下に設定される所定長さだけ軸方向先方に突出するようにしている。
【0015】
胃瘻チューブ100はこれに挿入補助具200を装着した状態で後述するトロカールを通して胃内に挿入される。胃瘻チューブ100への挿入補助具200の装着に際しては、先ず、図4(a)に示す如く、筒体208を胃瘻チューブ100のバンパー部102の切欠き部105に入れ込んだ状態で、筒体208の先端から突出する第2直棒部207の先端部をバンパー部102の突部103に形成した係合孔104に挿入する。次に、図4(b)に示す如く、胃瘻チューブ100のチューブ本体101を第1直棒部205に沿わせ、この状態でチューブ本体101を棒状部材202に対し軸方向尾方に引張る。
【0016】
これによれば、筒体208の先端が突部103に圧接し、バンパー部102が突部103を先頭にして細長く引き伸ばされる。ここで、筒体208の先端から突出する第2直棒部207の先端部の長さが係合孔104の孔深さ以下のため、第2直棒部207の先端が係合孔104の孔底に強く当接することはない。従って、孔底が棒状部材202によって突き破られることが防止される。
【0017】
上記の如くチューブ本体101を引張ってバンパー部102を引き伸ばすと、この状態で把手201の上端の溝部203にチューブ本体101を押し込む。これによれば、チューブ本体101が引張り状態のまま溝部203に挟持され、バンパー部102が引き伸ばされた状態に保持される。このようにして胃瘻チューブ100に挿入補助具200を装着した後、把手201を握って棒状部材202を胃瘻チューブ100と共にトロカールに挿入する。
【0018】
図5、図6は本発明の実施形態のトロカール1を示している。このトロカール1は、樹脂製の外筒2と、外筒2に尾方から抜差し自在に挿入される樹脂製の内筒3とを備える。外筒2は、胃壁Paと腹壁Pbとが癒着していない状態で瘻孔Pcに無理なく挿通できるように、比較的小径に形成される。外筒2の尾端には、尾方に向けて拡径するテーパー状のチューブ挿入部21が形成されている。また、外筒2の半周離れた周方向2箇所に、チューブ挿入部21の途中から軸方向にのびて外筒2の先端に達するスリット22が形成されている。
【0019】
内筒3の先端には、先方に向けて縮径するテーパー状のガイド部31が形成されている。また、内筒3の尾端には、尾方に向けて拡径するテーパー状のストッパ部32が形成されている。そして、外筒2に内筒3を、ストッパ部32がチューブ挿入部21の内面に当接する位置まで挿入したとき、ガイド部31が外筒2の先方に突出するようにしている。
【0020】
内筒3には、更に、ストッパ部32の尾端に固定したキャップ状のグリップ部33が設けられている。また、ガイド部31の先端には内筒3内に連通する透孔34が形成され、グリップ部33にも同様の透孔35が形成されている。
【0021】
次に、図7を参照して、胃瘻造設時の作業手順について説明する。先ず、内視鏡等を用いて、患者の胃壁Paから腹壁Pbに亘って貫通する孔(瘻孔)Pcを穿孔する。次に、瘻孔Pcにガイドワイヤ4を挿通すると共に、このガイドワイヤ4を体外でトロカール1に挿通する。即ち、ガイドワイヤ4をトロカール1のガイド部31の透孔34から内筒3に挿入して、グリップ部33の透孔35から引き出す。
【0022】
次に、トロカール1を、図7(a)に示す如く、ガイドワイヤ4に対し滑らせながら瘻孔Pcに挿入する。この際、ガイド部31で瘻孔Pcが押し広げられ、外筒2が瘻孔Pcに挿入される。尚、腹壁Pb側の瘻孔部分に対し胃壁Pa側の瘻孔部分が芯ずれしていても、ガイドワイヤ4によりガイド部31が胃壁Pa側の瘻孔部分に挿入されるように案内され、外筒2が胃壁Pa側の瘻孔部分に確実に挿入される。
【0023】
このようにしてトロカール1を瘻孔Pcに挿通セットした後、ガイドワイヤ4と共に内筒3を外筒2から引き抜く。次に、胃瘻チューブ100に挿入補助具200を上記の如く装着した状態で、胃瘻チューブ100をチューブ挿入部21から外筒2に挿入する。ここで、外筒2が小径のままでは、胃瘻チューブ100のバンパー部102が挿入補助具200により細長く引き伸ばされているとしても、バンパー部102は外筒2を通過できない。これに対し、本実施形態では、外筒2に上記の如くスリット22が形成されているため、図7(b)に示す如く、スリット22で分断される外筒2の部分が押し開かれる。これにより、バンパー部102は外筒2を通過して胃内に挿入される。
【0024】
次に、胃瘻チューブ100から挿入補助具200を離脱させると共に、外筒2を瘻孔Pcから引き抜く。その後、図7(c)に示す如く、腹壁Pbから体外に導出されるチューブ本体101の部分に押え部材5を装着し、バンパー部102と押え部材5との間に胃壁Paと腹壁Pbとを挟み込んだ状態で胃瘻チューブ100を留置する。
【0025】
このように本実施形態のトロカール1を用いれば、胃瘻造設時にバンパータイプの胃瘻チューブ100をイントロデューサー法で瘻孔Pcに挿通できる。これにより、プル法やプッシュ法で問題になる食道を通過することによる胃瘻チューブの汚染を防止できる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態では、スリット22を外筒2の周方向2箇所に形成したが、外筒2の周方向3箇所以上にスリット22を形成することも可能である。また、上記実施形態では、予め穿孔された瘻孔Pcにトロカール1を挿入するようにしたが、ガイド部31を刃付きのものとし、瘻孔Pcを穿孔しつつ瘻孔Pcにトロカール1を挿入できるように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】バンパータイプの胃瘻チューブを示す斜視図。
【図2】図1の胃瘻チューブの縦断面図。
【図3】挿入補助具の斜視図。
【図4】(a)胃瘻チューブへの挿入補助具の装着初期状態を示す断面図、(b)胃瘻チューブへの挿入補助具の装着完了状態を示す側面図。
【図5】本発明の実施形態のトロカールの側面図。
【図6】図5のVI−VI線で切断したトロカールの縦断面図。
【図7】(a)瘻孔にトロカールを挿通セットした状態を示す図、(b)トロカールに胃瘻チューブを挿入した状態を示す図、(c)胃瘻チューブの留置状態を示す図。
【符号の説明】
【0028】
1…トロカール、2…外筒、21…チューブ挿入部、22…スリット、3…内筒、31…ガイド部、34…透孔、4…ガイドワイヤ、100…胃瘻チューブ、101…チューブ本体、102…バンパー部、Pc…瘻孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
瘻孔を通して先端が胃内に挿入される可撓性を有するチューブ本体と、チューブ本体の先端に設けられた、胃内からのチューブ本体の抜出しを規制する可撓性を有する略椀状のバンパー部とを備えるバンパータイプの胃瘻チューブを胃内に挿入するために使用する胃瘻チューブ用トロカールであって、
瘻孔に挿入自在な外筒と、先方に向けて縮径する先端のガイド部を有し外筒に抜差し自在に挿入される内筒とを備え、外筒に内筒を挿入したときに内筒のガイド部が外筒の先方に突出するように構成され、
外筒の尾端には、尾方に向けて拡径するチューブ挿入部が形成され、
外筒の少なくとも周方向2箇所には、チューブ挿入部の途中から軸方向にのびて外筒の先端に達するスリットが形成され、胃瘻チューブをチューブ挿入部から外筒に挿入したときに、スリットで分断される外筒の部分が押し開かれることを特徴とする胃瘻チューブ用トロカール。
【請求項2】
前記内筒の前記ガイド部の先端に内筒内に連通する透孔が形成され、瘻孔に挿通されるガイドワイヤを透孔を通して内筒に挿入自在とすることを特徴とする請求項1記載の胃瘻チューブ用トロカール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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