脂肪細胞分化促進剤、その促進剤を含有する糖尿病治療剤、その促進剤を含有する脂肪細胞分化促進用機能性食品及び健康食品
【課題】 脂肪細胞分化促進剤その促進剤を含有する糖尿病治療剤、その促進剤を含有する脂肪細胞分化促進用機能性食品及び健康食品を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、その誘導体、生理学的に許容されるその塩、及び生理学的に許容されるその水和物からなる群から選ばれる少なくとも1以上のものを含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進剤。
【解決手段】 下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、その誘導体、生理学的に許容されるその塩、及び生理学的に許容されるその水和物からなる群から選ばれる少なくとも1以上のものを含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コウボク抽出物を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤、上記コウボク抽出物を含む糖尿病治療剤、上記コウボク抽出物を含む脂肪細胞分化促進用機能性食品及び健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、米の消費量が減少し、脂肪の摂取量が増加する等、食生活の欧米化が進み、栄養過剰により肥満者が急激に増加しつつある。これは、豊富な食べ物による摂取エネルギーの増加と、電化製品の導入による家事労働や一般労働における負荷の軽減等によって、消費エネルギーが減少していることに起因するといわれている。
そして、肥満になると、下記表1に示すような生活習慣病を合併しやすいことも知られており、これらが一人の患者に集中したケースが、マルチプルリスクファクター症候群と呼ばれている。
【0003】
【表1】
【0004】
上記のような生活習慣病は、肥満であれば合併するというものではないが、肥満との相関性は高く、心筋梗塞、脳梗塞その他の心血管疾患による死亡は、我国における死因の第1位を占めるようになっている。
【0005】
また、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧症が重複するケースは、「メタボリックシンドローム」という疾患名で呼ばれ、National Cholesterol Education Program (NCEP) が、この病態の診断基準を公表している。
【0006】
また、肥満のなかでも、治療を要する肥満は肥満症と呼ばれ、日本肥満学会により診断基準が設定されている。内蔵脂肪が蓄積される肥満の場合には、糖尿病、高脂血症、高血圧が合併することが多く、メタボリックシンドロームの病態と一致するからである。
【0007】
これらの疾患のうち、糖尿病には、1型と2型があることが知られている。2型糖尿病の原因の1つは、遺伝的要因と関連の深い、食後のインスリン追加分泌が遅延する「インスリン初期分泌低下」であり、もう1つの原因は「インスリン抵抗性」である。「インスリン抵抗性」には遺伝的要因もあるが、肥満や運動不足などの誤った生活習慣による環境要因が大きく関与している。
【0008】
ここで、「インスリン抵抗性」とは、インスリン受容体の感受性が低下した状態にあることをいい、以下のようにして起こるとされている。
まず、脂肪細胞中への脂肪(油滴)の蓄積量が増えると、脂肪細胞は次第に肥大化し肥大化脂肪細胞となる。成熟脂肪細胞が肥大化脂肪細胞になると、アディポネクチンの分泌は低下するが、TNFαやMCP-1等の分泌が上昇する。分泌されたMCP-1に引き寄せられるように、毛細血管から単球が遊走し、こうした単球は活性化されてマクロファージとなって脂肪細胞の周りに集まる。そして、このマクロファージがまたTNFα、IL-6等を分泌し、分泌されたTNFα、IL-6等は全身へ運ばれて、インスリン受容体の感受性を低下させることになる(非特許文献1〜3参照)。
【0009】
ところで、肥満細胞の分化・制御には、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome Proliferator-activated receptor:PPAR)が関与している。PPARは、脂質及び糖代謝を維持する遺伝子群の発現制御を担う核内受容体ファミリーに属するリガンド依存性転写制御因子であり、PPARγはPPARγ/RXRという二量体を作って機能する。そして、PPARγ2は脂肪組織で特異的に発現しており、脂肪細胞の分化・成熟を制御するマスターレギュレーターとして機能している。
【0010】
また、PPARγリガンドであるチアゾリジン誘導体は、PPARγを活性化することにより、前駆脂肪細胞から分化した正常機能を有する小型脂肪細胞を増加させること、またインスリン抵抗性に深くかかわるTNFαや遊離脂肪酸の産生や分泌が亢進している肥大脂肪細胞をアポトーシスにより減少させることによってインスリン抵抗性を改善することが知られている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】奥野明ほか:チアゾリジン誘導体とインスリン抵抗性の解除.最新医学 1997; 52:1153-1160.
【非特許文献2】インスリン抵抗性をターゲットとしたメタボリックシンドロームの治療戦略(J Jpn Coll Angiol, 2006, 46: 353-358
【非特許文献3】左右田隆ら インスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾンの創製 YAKUGAKU ZASSHI 122(11) 909―918(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、PPARγとPXRリガンドとが結合した活性化合物(PPARγ/RXR)を、脂肪細胞分化を促進する何らかの化合物と組み合わせて使用することにより、インスリン抵抗性の改善や、脂肪細胞の成熟を促進することができれば、2型糖尿病、高脂血、高血圧、内臓脂肪型肥満、脂肪肝などの症状の予防及び治療が可能となる。
そして、患者数及び患者予備軍の数が非常に多い糖尿病は、種々の疾患を合併するため、その予防と治療に対する社会的要請は非常に強い。
【0013】
また、医薬品においては、効果が高いことは必要であるが、副作用はできるだけ少ないものであること、安全性の面から望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記のような状況の下で、完成されたものである。すなわち、本発明の発明者らは、安全性の高さに留意しつつ、古くから生薬として使用されてきた植物に含まれる成分を中心として、PPARγ/RXRリガンド活性化合物または脂肪細胞の分化を促進する化合物その他の成分のスクリーニングを進めた結果、公知の化合物に、従来全く知られていなかった活性があることを見出し、本発明を完成したものである。具体的には、生薬由来のフェニルプロパノイド二量体化合物である、ホオノキオール(Honokiol)、マグノロール(Magnolol)、及びオボバトール(ovobatol)等に、脂肪細胞の分化促進作用があることを見出し、本発明を完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明は、下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1以上のものを含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進剤である。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
上記式中、R1及びR2は、炭素数1〜4のアルケニル基を表すものであることが好ましい。
一般に、フェニルプロパノイドは、アルケニル基を有するフェニル化合物の総称であり、フェニルプロパノイド2分子がβ炭素間で結合した化合物をフェニルプロパノイド二量体という。「リグナン」の語は、教義には、フェニルプロパノイド二量体を指すが、本明細書においては、ネオリグナン、セスキリグナン、及びジリグナンを含むものとする。また、リグナンは、上記のようにフェニル骨格に、アルケニル基、ヒドロキシ基等が結合した一群の化合物及びアルコキシ誘導体を含む物質群で構成される。リグナンは、高等植物に広く分布し、特に木部に多く含有されることが知られている。
【0019】
また、前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(III)で表される化合物であることが好ましい。
【0020】
【化3】
【0021】
ここで、前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることがさらに好ましい。
【0022】
【化4】
【0023】
【化5】
【0024】
本発明の脂肪細胞分化促進剤においては、前記式(II)で表される化合物が、下記式(VI)で表される化合物であることが好ましい。
【0025】
【化6】
【0026】
前記式(IV)で表される化合物は、下記式(VII)で表されるものであることが、さらに好ましい。
【0027】
【化7】
【0028】
本発明の脂肪細胞分化促進剤は、上記式(I)又は(II)で表される化合物であり、式(III)〜(VII)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物、又はこれらの生理学的に許容される塩、これらの生理学的に許容される水和物からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
【0029】
本発明はまた、上述したいずれかの脂肪細胞分化促進剤を含む、糖尿病治療剤である。ここで、前記抗尿病治療剤中における前記有効成分の含量は、製剤の1用量当たり0.1〜100mgであることが好ましく、0.1〜50mgであることがより好ましく、0.3〜10mgであることが特に好ましい。
また、前記骨疾患の予防及び/又は治療用医薬製剤は、経口投与可能な剤形であることが好ましく、錠剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、トローチ剤、及び液剤からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
【0030】
本発明はさらにまた、上述したいずれかの脂肪細胞分化促進剤を含む、インスリン感受性増強剤である。ここで、前記インスリン感受性増強剤中における前記有効成分の含量、剤形等は上述した通りである。ここで「インスリン感受性増強」作用には、インスリンの抵抗性を解除する作用も含まれる。
【0031】
本発明はまた、下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる化合物を含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進用の機能性食品である。
【0032】
【化8】
【0033】
【化9】
【0034】
本明細書において、「機能性食品」とは、その食品自体が本来含有している栄養素によって、その食品を摂取した者に供与できる以上の利益を与え得る成分を含有する食品をいう。
【0035】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(III)で表されるものであることを好ましい。
【0036】
【化10】
【0037】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることが好ましい。
【0038】
【化11】
【0039】
【化12】
【0040】
ここで、前記式(II)で表される化合物は、下記式(VI)で表されるものであることが好ましい。
【0041】
【化13】
【0042】
さらに、前記式(VI)で表される化合物は、下記式(VII)で表されるものであることが好ましい。
【0043】
【化14】
【0044】
本発明のインスリン感受性を増強するための機能性食品は、下記式(IV)、(V)及び(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有するものであることが好ましい。
【0045】
【化15】
【0046】
【化16】
【0047】
【化17】
【0048】
上記の機能性食品はまた、脂肪細胞の分化促進のために使用されるものであることが好ましく、前記化合物、それらの生理学的に許容される塩及び水和物からなる群から選ばれるものの含有量は、本発明の機能性食品100g当たり0.1〜5mgであることが好ましく、0.1〜3mgであることがより好ましい。これらの含有量を0.3〜1mgとすると、脂肪細胞分化を促進する効果が最も高くなることによる。
【0049】
本発明はさらにまた、下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる、少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有する、脂肪細胞分化促進用健康食品である。
【0050】
【化18】
【0051】
【化19】
【0052】
本明細書において「健康食品」とは、健康の維持・増進に役立つ成分を抽出し、製造した粗精製物又は精製物を主成分とする粉末、顆粒剤、錠剤、カプセル剤をいい、日頃不足しがちな栄養成分の摂取を補助するサプリメントも含むものとする。
ここで、前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(III)で表されるものであることが好ましい。
【0053】
【化20】
【0054】
また、前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることが好ましい。
【0055】
【化21】
【0056】
【化22】
【0057】
さらに、前記式(VI)で表される化合物は、下記式(VII)で表されるものであることが好ましい。
【0058】
【化23】
【0059】
本発明のインスリン感受性を増強するための健康食品は、下記式(IV)、(V)及び(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有するものであることが好ましい。
【0060】
【化24】
【0061】
【化25】
【0062】
【化26】
【0063】
上記の健康食品はまた、脂肪細胞の分化促進のために使用されるものであることが好ましく、前記化合物、それらの生理学的に許容される塩及び水和物からなる群から選ばれるものの含有量は、本発明の健康食品100g当たり0.1〜5mgであることが好ましく、0.1〜3mgであることがより好ましい。これらの含有量を0.3〜1mgとすると、脂肪細胞分化を促進する効果が最も高くなることによる。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、副作用のほとんどない脂肪細胞分化促進剤、上記コウボク抽出物を含む糖尿病治療剤、上記コウボク抽出物を含む脂肪細胞分化促進用機能性食品及び健康食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1A】ホノキオール又はロシグリタゾン存在下において、3T3−L1前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化をオイルレッドO.染色で観察した結果を示す図である。
【図1B】ホノキオール又はロシグリタゾン存在下における脂肪の蓄積を示すグラフである。
【図2】ホノキオール又はロシグリタゾン存在下における細胞の培養9日培養後、脂肪細胞と特異的遺伝子の発現の変化をRT−PCRで分析した結果を示す図である。
【図3A】PPARγ−LBDに対するホノキオール、ロシグリタゾン及び15d-PGJ2の結合活性を示すグラフである。
【図3B】RXRβ−LBDに対するホノキオール及び9c−RAの結合活性を示すグラフである。
【0066】
【図4A】マグノロール又はロシグリタゾン存在下において、3T3−L1前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化をオイルレッドO.染色で観察した結果を示す図である。
【図4B】マグノロール又はロシグリタゾン存在下、3T3−L1前駆脂肪細胞における脂肪の蓄積を示すグラフである
【図4C】マグノロール又はロシグリタゾン存在下において、C3H10T1/2細胞から脂肪細胞への分化をオイルレッドO.染色で観察した結果を示す図である。
【図4D】マグノロール又はロシグリタゾン存在下、C3H10T1/2細胞における脂肪の蓄積を示すグラフである。
【0067】
【図5A】マグノロール存在下、3T3−L1前駆脂肪細胞における脂肪細胞特異的遺伝子の発現量の変化を示すグラフである。
【図5B】マグノロール存在下、成熟脂肪細胞3T3−L1におけるPPARγの下流にある遺伝子の発現量の変化を示すグラフである。
【図5C】マグノロール存在下、成熟脂肪細胞3T3−L1におけるPPARγの下流にある遺伝子の発現量(タンパクの発現量)の変化を示す図である。
【図6A】PPARγ−LBDに対するマグノロール、ロシグリタゾン及び15d-PGJ2の結合活性を示すグラフである。
【図6B】PPARγ−LBDに対するマグノロール及びロシグリタゾンの競争的結合活性を示すグラフである。
【図6C】RXRβ−LBDに対するマグノロール及び9c−RAの結合活性を示すグラフである。
【0068】
【図7】成熟脂肪細胞3T3−L1におけるインスリン刺激による糖取り込みの促進に対するマグノロールの効果を示すグラフである。
【図8A】オボバトールとロシグリタゾンの存在下、3T3−L1細胞の分化をオイルレッドO.染色で観察した結果を示す図である。
【図8B】オボバトールとロシグリタゾンの存在下、3T3−L1細胞における脂肪蓄積量の増加比率を示すグラフである
【図9A】成熟脂肪細胞3T3−L1におけるTNF−αによるIL−6の発現上昇に対するオボバトール又はロシグリタゾンの抑制効果を示す図である。
【図9B】成熟脂肪細胞3T3−L1におけるTNF−αによるMCP−1の発現上昇に対するオボバトール又はロシグリタゾンの抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の脂肪細胞の分化促進剤、糖尿病治療剤に含まれる化合物、これらの生理学的に許容される塩、これらの生理学的に許容される水和物は、フェニルプロパノイド二量体化合物と呼ばれ、下記式(I)又は(II)で表される。
【0070】
【化27】
【0071】
【化28】
【0072】
式中、R1及びR2は、炭素数1〜4のアルケニル基を表す。
上記式(I)で表される化合物又はこれらの生理学的に許容される塩、水和物としては、例えば、上記式(III)で表される化合物を挙げることができ、具体的には、上記式(IV)又は(V)で表されるマグノロール又はホノキオールを挙げることができる。
【0073】
ホオノキオール及びマグノロールは、モクレン科(Magnoliaceae)のホオノキ(Magnolia obovata THUNB.)の幹皮、枝皮等に含まれるフェニルプロパノイド二量体化合物である。
【0074】
ホオノキオール又はマグノロールの生理学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。水和物としては、例えば、一水和物、二水和物等を挙げることができる。
【0075】
上述したフェニルプロパノイド二量体化合物は、単独で本発明の脂肪細胞の分化促進剤又は糖尿病治療剤の製造に使用してもよく、必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの化合物、又はこれらの生理学的に許容される塩、水和物を含有する生薬からの抽出物を、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することもできる。
【0076】
オボバトールもまた、モクレン科(Magnoliaceae)のホオノキ(Magnolia obovata THUNB.)の幹皮、枝皮等に含まれる化合物である。オボバトールの生理学的に許容される塩としては、例えば、上述した、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができ、水和物としては、例えば、一水和物、二水和物等を挙げることができる。
【0077】
上述したオボバトールは、単独で本発明の脂肪細胞の分化促進剤又は糖尿病治療剤の製造に使用してもよく、必要に応じてホノキオールやマグノロールと適宜組み合わせて使用してもよい。オバボトールの化合物、又はこれらの生理学的に許容される塩、水和物を含有する生薬からの抽出物を、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することもできる。
【0078】
こうした生薬としては、例えば、コウボク(厚朴、Magnoliae Cortex)等を挙げることができる。
【0079】
上述した、ホオノキオール、マグノロール等のフェニルプロパノイド二量体、及びオボバトールは、公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造し、入手してもよく、市販品を購入して使用してもよい。
【0080】
また、これらの化合物は、植物材料から抽出、単離することによって入手することもできる。例えば、植物材料からホオノキオール、マグノロール、及びオボバトールを単離する方法の1例を示す。
【0081】
細切したモクレン(Magnoliaceae)科のホオノキ(Magnolia obotava THUMB.)の幹皮、枝皮をメタノールで抽出し、残渣を濾別した後に、濾液を濃縮してメタノール抽出物を得る。このメタノール抽出物を水と酢酸エチルで抽出して水相と酢酸エチル相とを得る。水相をさらにブタノールで抽出する。
【0082】
得られた酢酸エチル相を濃縮し、メタノール/ヘキサンで抽出を行い、ヘキサン相とメタノール相とを得た後に、メタノール相を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、20%刻みのステップグラジエント法(溶離液はメタノール:クロロホルム)を用いて分画する。
【0083】
上記の分画で得られた画分のうち、メタノール:クロロホルム=1:20の画分をさらにODSカラムクロマトグラフィーに供し、20%刻みのステップグラジエント法を用いて分画する。80%メタノール画分を、分取クロマトグラフィーに供し、ホノキオール、オボバトール、マグノロールを含む画分を得る。
【0084】
以上のようにして抽出されたホオノキオール及びその類縁化合物は、粗精製物のまま使用することもできるが、必要に応じてさらに精製して精製標品を得ることもできる。この精製は常法によって行うことができる。例えば、シリカゲルを固定相とし、クロロホルム/メタノールを移動相とし、移動相中のメタノール含量を順次上げるステップグラジエントカラムクロマトグラフィーによって、ホオノキオール及びその類縁化合物をそれぞれ溶出させ、精製し、白色粉末等として得ることができる。
【0085】
以上のようにして得られた上記式(I)〜(VII)で表される化合物、又はこれらの生理学的に許容される塩、これらの生理学的に許容される水和物は、以下のようにして医薬製剤とすることができる。
【0086】
ホオノキオール、マグノロール、オボバトールを単独で医薬組成物とする場合には、上述したように得られた結晶を常法に従って処理し、後述する賦形剤等と混合し、製剤とすればよい。
【0087】
また、ホオノキオール、マグノロール、オボバトールを組み合わせて使用する場合には、ホオノキオール1に対して、マグノロール又はオボバトールを0.1〜10の割合として適宜混合し、この混合物をホオノキオール単独の場合と同様にして医薬組成物とすればよい。または、ホオノキオール1に対して、マグノロールとオボバトールとを0.1〜10の割合で適宜混合してもよい。
【0088】
これらの医薬組成物を有効成分とする医薬製剤としては、注射剤、坐剤、エアゾール剤、経皮吸収剤その他の非経口剤、錠剤、散剤、カプセル剤、丸剤、トローチ剤、液剤その他の経口剤等を挙げることができる。ここで、上記の錠剤には、糖衣錠、コーティング錠、バッカル錠が含まれ、カプセル剤には、硬カプセル剤、軟カプセル剤の双方が含まれる。また、顆粒剤には、コーティングされた顆粒剤も含まれる。また、上記の液剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等が含まれ、シロップ剤にはドライシロップも含まれる。
【0089】
なお、上述した各製剤には、徐放化されていないものばかりでなく、徐放化されたものも含まれる。
こうした製剤は、公知の製剤学的製法に従い、製剤の製造に際して薬理学的に許容され得る日本薬局方に記載の担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等を用いて製造することができる。
【0090】
こうした担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等を挙げることができる。
【0091】
結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
【0092】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなど、滑沢剤としては例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール等を使用することができる。
【0093】
着色剤、医薬品に添加することが許容されているものであれば使用することができ、特に限定されない。また、これら以外に、矯味剤、矯臭剤等も、必要に応じて適宜使用することができる。
【0094】
錠剤又は顆粒剤とする場合には、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体等を用いてコーティングしても良く、複数層でコーティングすることもできる。
【0095】
さらに、顆粒剤や粉剤をエチルセルロースやゼラチンのようなカプセルに詰めてカプセル剤とすることもできる。
【0096】
上記の化合物、又はそれらの生理学的に許容される塩、若しくは水和物を用いて、注射剤を調製する場合は、必要に応じて、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加することもできる。
【0097】
上述したような骨疾患予防及び/又は治療剤を患者に投与する場合には、投与量は、患者の症状の重篤さ、年齢、体重、及び健康状態等の諸条件によって異なる。一般的には、成人1日当たり1mg/kg〜2,000mg/kg、好ましくは1mg/kg〜1,000mg/kg程度を、経口又は非経口的に、1日1回若しくはそれ以上の回数にわたって投与すればよい。上記のような諸条件に応じて、投与の回数及び量を適宜増減すればよい。
【0098】
上述した化合物単独の場合、ホオノキオールを上述したマグノロールもしくはオボバトールと組み合わせた場合、またはこれら3つを組み合わせた場合に、これらが有効成分として製剤中に含まれるときは、当該組成物中におけるこれらの含有量は、0.1〜100mgであることが好ましく、より好ましくは0.1〜50mg、さらに好ましくは0.3〜10mgである。
【0099】
有効成分であるホオノキオールや他のフェニルプロパノイド二量体化合物、又はオボバトールの含有量が下限値未満では骨吸収抑制作用が十分に発揮されず、逆に上限値を越えて添加しても、添加量に見合う効果が発揮されない。また、上限値を越えると、投与時に細胞毒性が発揮されることがあり、生体に対して望ましくない副作用を惹起するおそれがあることによる。
【0100】
さらに、上述した化合物、その誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、生理学的に許容されるそれらの水和物を必要に応じて適宜添加することにより、脂肪細胞の増殖分化促進効果を有する機能性食品、若しくは健康食品を提供することができる。
【0101】
上述した化合物、その誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、生理学的に許容されるそれらの水和物を、例えば、パン、クッキー及びビスケット、米飯添加用麦及び雑穀、うどん、そば、パスタその他の麺類、チーズ、ヨーグルトその他の乳製品、ジャム、マヨネーズ、味噌、醤油その他の大豆製品、茶、コーヒー及びココア、清涼飲料、果実飲料その他の非アルコール性飲料、薬用酒その他のアルコール性飲料、キャンディー、チョコレートその他のスナック菓子、チューインガム、せんべい、羊羹その他の大豆を原料とする菓子等に添加して、機能性食品とすることができる。
【0102】
なお、上記のヨーグルト、醤油、飲料等に添加する場合には、これらの中で本発明の組成物が結晶化して沈殿しないようにするために、溶解助剤や安定化剤を適宜加えることもできる。
【0103】
また、本発明の組成物を単独で、又は2種以上を混合し、常法に従って粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤とすることにより、健康食品とすることができる。
【0104】
ここで、本発明の組成物を粉末とするためには、生成過程で得られた抽出物を濃縮し、凍結乾燥、スプレードライ、真空乾燥等の方法を用いて乾燥させ、サンプルミル、ブレンダー、ミキサー等によって乾燥固体を粉砕すればよい。また、必要に応じて、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、牡蠣殻粉末などを添加してもよい。
【0105】
また、上記のようにして得た粉末に、適宜、上述した結合剤を加えて打錠し、錠剤とすることもできる。錠剤とした後に、上述した白糖又はゼラチン等のコーティング剤を用いて、糖衣錠としてもよく、他のコーティング剤を用いて腸溶剤等にすることもできる。
【0106】
さらに、上述のようにして得た粉末を常法に従って顆粒とし、顆粒剤を製造することもできる。また、上記の粉末や顆粒を上述したカプセルに適当量充填することによって、カプセル剤とすることもできる。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)材料と方法
厚朴(コウボク)は、大晃生薬有限会社より購入した。メタノール、酢酸エチル、n−ブタノールは、Nacalai Tesque社より購入し、オイルレッドO.とインスリンはSigma社より購入した。
【0109】
マウス由来前駆脂肪細胞3T3−L1は、JCRB細胞バンクより購入した。標品としてのホノキオール、オボバトール及びマグノロールは、和光純薬工業(株)より購入した。ロシグリタゾンは、Alexis社より購入し、DMEMは、Gibco社より購入した。
Lanthascreen TMTR-FRET Peroxisome Proliferator Activated Receptor・Coactivator Assay,Lanthascreen TMTR-FRET RXR・Coactivator Assay, PolarScreen PPAR Competitor assayはinvitrogen社より購入した。
【0110】
(実施例2)コウボク抽出物の精製
コウボク3kgに、8Lのメタノールを加え、2日間常温にて抽出した。抽出後、ブフナーロートを用いて濾過し、濾液をエバポレータで濃縮し、メタノール抽出物を得た。
このメタノール抽出物に、3Lの水及び3Lの酢酸エチルを加えて抽出を行い、217gの酢酸エチル相を得た。
水相1,500mLにn−ブタノール1,500mLを加え、分液ロートを用いて、水相とn−ブタノール相とに抽出された化合物を分配した。
【0111】
酢酸エチル相を2Lの90%メタノール/ヘキサンを加えて分液ロートを用いて分画し、ヘキサン相と90%メタノール相とを得た。90%メタノール相を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、メタノール:クロロホルム=1:20、1:10、1:5、1:1の溶離液で順次溶出させ、最後にメタノールのみで溶出させて、分画した。
【0112】
上記の分画で得られた画分のうち、メタノール:クロロホルム=1:20の画分をODSカラムクロマトグラフィーにかけ、水:メタノール=40:60、20:80及び100%メタノールの溶離液で順次溶出し、分画した。ここで得られた画分のうち、80%メタノール画分を、以下の条件で分取クロマトグラフィーに供し、Fr.1〜5を得た。
【0113】
<分取クロマトグラフィー条件>
カラム : 15C18-AR-II waters (i.d. 50mmx500mm)
カラム温度:室温
溶離液 :水−メタノール=25−75
流 速:35mL/分
ポンプ :JASCO PU-2087 PLUS
測定波長 :UV215nm
【0114】
得られた上記のFr.1〜Fr.5のうち、Fr.3、Fr.4及びFr.5では、単一のピークが観察された。このため、これらの画分を、さらに以下の条件でHPLCに供して分画を行った。
【0115】
<HPLC条件>
カラム :5C18−AR−II(i.d. 4.6mm x 250mm)
カラム温度:室温
溶離液 :水−メタノール=30−70
流 速:1mL/分
ポンプ :
測定波長 :UV215nm
【0116】
得られた画分をさらに精製し、1H−NMR(400MHz、日本電子(株)社製)で分析した。ホノキオール、オボバトール及びマグノロールの各標品をHPLCで分析した場合の保持時間及び、NMRスペクトルの結果から、Fr.3にはホノキオール、Fr.4にはオボバトール、及びFr.5にはマグノロールがそれぞれ含まれていることが明らかになった。
【0117】
(実施例3)ホノキオールによる脂肪細胞分化誘導試験
(3−1)ホノキオールによる脂肪細胞の分化誘導
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を、1×104cell/wellの濃度で、96ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。2日間後、1μg/mLのインスリンと、1μM、3μM又は10μMのホノキオールを含む培地(10%の牛胎仔血清を含むDMEM)に交換し、さらに9日間培養を行った(いずれも終濃度)。各ウェルの培地は3日おきに交換した。
【0118】
インスリンを添加してないウェルを陰性対照(図1中、「C」と示す)とし、1μg/mLのインスリンと1μMのロシグリタゾンとを添加したウェルを陽性対照(図1中、「R」と示す)とし、インスリンのみのウェルを対照とした。
【0119】
培養9日後に、細胞を3.7%ホルムアルデヒドで固定し、オイルレッドO.で細胞内脂質滴を染色し、顕微鏡で撮影した(図1Aに示す)。また、100%の2−プロパノールを100μL/wellで添加し、細胞内脂肪滴に取り込まれたオイルレッドO.を抽出し、520nmで吸光度を測定し、分化促進作用を評価した(図1Bに示す)。エラーバ−は標準偏差(S.E)を示す(n=3)。
【0120】
図1に示したように、インスリンとロシグリタゾン又はホノキオール処理群では、濃度依存的に脂肪細胞が増加したことが観察された(ロシグリタゾン、p<0.001;ホノキオール3μM、p<0.05;ホノキオール10μM、p<0.001)。
【0121】
(3−2)脂肪細胞特異的遺伝子の発現確認試験
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を2×105cell/well濃度で、6ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。3日後1μg/mLのインスリンのみ、1μg/mLのインスリンと10μMのホノキオール、又は1μg/mLのインスリンと1μMのロシグリタゾンとを含む培地(10%の牛胎仔血清を含むDMEM)に交換し、さらに9日間培養した。培地は3日おきに交換した。
【0122】
培養9日目に細胞から総RNAを回収し、脂肪細胞特異的遺伝子の発現をRT−PCR法によって確認した。図2に示したように、β―アクチンでは変化が見られず、aP2、アジポネクチン、FAS、PPARγ2の発現がホノキオール処理群(10μM、以下の図中「H」と示す)とロシグリタゾン(1μM、以下の図中「R」又は「RSG」と示す)処理群で増加することが確認された。
以上より、ホノキオールが前駆脂肪細胞の分化促進作用を有することが示された。
【0123】
(3−3)ホノキオールのPPARγリガンド又はRXRβリガンド活性
PPARγリガンド結合部位(PPARγ−LBD)又はRXRβリガンド結合部位(RXRβ−LBD)に対するホノキオールの結合活性を、Lanthascreen TMTR-FRET Peroxiso、Proliferator Activated Receptor・Coactivator Assay(PPARγ)及びLanthascreen TMTR-FRET RXR・Coactivator Assay(RXRβ)によって、それぞれ測定した。
【0124】
結果を図3A及び3Bに示す。15d−PGJ2(15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2、1μM、10μM)とロシグリタゾン(0.01μM)をPPARγリガンドの陽性対照とし、9c−RA(0.01μM)をRXRβリガンドの陽性対照とした。エラーバーはS.Eを表す(n=3)。
【0125】
図3Aに示したように、ロシグリタゾンと15d-PGJ2ではPPARγ−LBDへ結合が認められたが(*p<0.05)、ホノキオールでは変化が見られなかった。また、ホノキオールでは、対照と比較すると9c−RAよりは弱いものの、濃度依存的にRXRβ−LBDへ結合することが認められた。以上によりホノキオ−ルはRXRβリガンドであることが明らかである(図3B、*p<0.05)。
【0126】
(実施例4)マグノロールによる脂肪細胞分化誘導試験
(4−1)マグノロールによる脂肪細胞の分化誘導
ホノキオールをマグノロールに代えた以外は、実施例3と同様の条件でマウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を9日間培養し、オイルレッドO.で染色して撮影した。結果を図4Aに示す。
【0127】
また、C3H10T1/2間葉幹細胞(mesenchymal stem cell)を、実施例3でマウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を培養したと同じ条件で9日間培養し、オイルレッドO.で染色して撮影した。結果を図4Cに示す。次いで、100%の2−プロパノールを100μL/wellで添加し、細胞内脂肪滴に取り込まれたオイルレッドO.を抽出し、520nmで吸光度を測定し、分化促進作用を評価した。結果を図4B及び4Dに示す。エラーバ−はS.Eを示す(n=3)。
【0128】
図4A〜Dに示したように、マグノロール処理群では、いずれの細胞においても濃度依存的に脂肪細胞が増加したことが観察された。図4中、ロシグリタゾンはRSGと表した(ロシグリタゾン+3μMのホノキオール、又はロシグリタゾン+10μMのホノキオール、p<0.001)
【0129】
(4−2)脂肪細胞特異的遺伝子の発現確認試験
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を2×105cell/well濃度で、6ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。3日後、1μg/mLのインスリンのみ、1μg/mLのインスリンと10μMのマグノロール、又は1μg/mLのインスリンと1μMのロシグリタゾンを含む培地(10%の牛胎仔血清を含むDMEM)に交換し、さらに9日間培養した。培地は3日おきに交換した。
【0130】
培養9日目に細胞から総RNAを回収し、脂肪細胞特異的遺伝子の発現をリアルタイムRT−PCR(real-time RT-PCR)法によって確認した。結果を図5Aに示す。図5A中、エラーバーはS.Eを示す(n=3)。
図中、培養開始前を0日とし、1μg/mLインスリンを処理した群を対照(図5A中、「対照」)と示した。
【0131】
図5Aに示したように、マグノロールとインスリン処理群でC/EBPα及びPPARγ2のmRNAの発現量がさらに上昇しており(n=3、p<0.001)、その他、アジポネクチン、aP2、LPL、GLUT1、及びGLUT4のmRNAの発現量も有意に上昇していた(GLUT1を除きp<0.001、GLUT1ではp<0.05)。
【0132】
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を2×105cell/well濃度で、6ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。3日後、分化誘導培地(0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン、0.25μMデキサメタゾン、10μg/mLインスリンと10%牛胎仔血清を含むDMEM、以下、「MDI」という)で2日間培養し、その後、この培地を10μg/mLインスリン含有DMEM(10%牛胎仔血清を含む)に交換した。2日後に10%の牛胎仔血清を含むDMEMで交換し、十分に脂肪細胞が分化した。
【0133】
成熟脂肪細胞を10μMのマグノロールで48時間処理した後に総RNAを回収し、PPARγ2のmRNAの発現及びPPARγの下流である遺伝子の発現を、real-time RT−PCR法によって確認した。結果を図5Bに示す。図5中、エラーバーはS.Eを表す(n=3)。
【0134】
図5Bに示したように、PPARγ2のmRNAの発現量は、ロシグリタゾン処理群では有意に低下していたが、マグノロール処理群では変化が見られなかった。PPARγの下流であるC/EBPα,aP2及びGLUT4のmRNAの発現量は、ロシグリタゾン処理群及びマグノロール処理群のいずれにおいても有意に増加していた(*p<0.05、*p<0.001)。
【0135】
成熟脂肪細胞を10μMのマグノロールで48時間処理し、総タンパク質を回収し、aP2及びGlut4のタンパクの発現をウェスタンブロッティング法によって確認した。結果を図5Cに示す。
図5Cに示したように、GAPDHのタンパク質の変化が見られず、aP2及びGlut4のタンパク質の発現量が対照と比較して増加していることが認められた。
【0136】
(4−3)マグノロールのPPARγリガンド又はRXRβリガンド活性
PPARγリガンド結合部位(PPARγ−LBD)に対するマグノロールの結合活性を、Lanthascreen TMTR-FRET Peroxisome Proliferator Activated Receptor・Coactivator Assay及びPolarScreen PPAR Competitor assayによって、それぞれ測定した。
【0137】
一方、RXRβリガンド活性は、Lanthascreen TMTR-FRET RXR・Coactivator Assay(RXRβ)によって測定した。結果を図6A、6B及び6Cに示す。15d−PGJ2(1μM、10μM)とロシグリタゾン(0.01μM、R)をPPARγリガンドの陽性対照とし、9c−RA(0.01μM)をRXRβリガンドの陽性対照とした。エラーバーはS.Eを示す(n=3)。
【0138】
図6Aと6Bに示すように、マグノロールはロシグリタゾン又は15d−PGJ2と共にPPARγ−LBDへ結合することが認められた。さらに、マグノロールは濃度依存的にRXRβ−LBDへ結合することが認められた。以上より、マグノロールはPPARγ及びRXRβリガンドであることが明らかになった。(*p<0.05)。
【0139】
(4−4)成熟脂肪細胞3T3−L1におけるインスリン投与による糖取り込みに対するマグノロールの効果
成熟脂肪細胞3T3−L1を1μM又は10μMのマグノロールで処理し、48時間培養した後、100nMのインスリン存在下における糖取り込みを3H−デオキシグルコース(2−DG)レベルの変化によって評価した。結果を図7に示す。ロシグリタゾン(1μM、R)を陽性対照とした。エラーバーはS.Eを示す(n=3)。
【0140】
図7に示したように、10μMのマグノロール処理群では、インスリンのみ群と比較して40%以上の糖取り込みの上昇が見られた(p<0.05)。さらにインスリン非存在下においても2倍以上の糖取り込みの上昇がみられたp<0.05)。
以上の結果からマグノロールは成熟脂肪細胞3T3−L1においてインスリンの刺戟による糖の取り込みを促進することが明らかになった。
【0141】
(実施例5)マグノロールのPPARγ及びRXRβに対するリガンド活性
(5−1)PPARγに対するリガンド活性
PPARγは、脂肪細胞分化調節に関わる主要な転写因子であり、チアゾリジンジオン系(TZDs)等のリガンドは、強力なインスリンsensitizer(感作剤)として機能することが知られている。まず、マウス由来脂肪前駆細胞3T3−L1から脂肪細胞への分化に対するマグノロールの効果を検討した。
3T3−L1前脂肪細胞を、実施例4と同様の条件で、100μg/mLのインスリン、各濃度のマグノロール、ロシグリタゾン、15−PGJ2の存在下に培養した。
【0142】
図に示すように、10μg/mLのインスリンの存在下において、10μMのマグノロールは細胞分化誘導を促進し、PPARγ2及びPPARγの下流である遺伝子(aP2、LPL、C/EBPα、GLUT4及びアジポネクチン等)の発現を増加させた。成熟脂肪細胞3T3−L1にマグノロールで処理すると、PPARγの遺伝子発現では変化を見られずPPARγの下流である遺伝子を増加された。
【0143】
PPARγリガンド又はRXRβのリガンドへのマグノロールの結合活性を検討した結果、マグノロールはPPARγ−LBD又はRXRβ−LBDへの結合活性を示すことが示された。一方、マグノロールのPPARγ―LBDに対する結合活性はロシグリタゾンのそれと比べて非常に弱く、15−PGJ2とはほぼ同等であることが示された。
【0144】
また、マグノロールのRXRβ−LBDに対する結合活性は陽性対照と比較すると弱いが、濃度依存的にRXRβ−LBDへの結合活性が上昇することが示された。
さらに、10μMのマグノロールを成熟脂肪細胞3T3−L1に処理するとインスリン存在下及び非存在下で細胞内への糖取り込みが上昇させ、GLUT1とGLUT4の遺伝子の発現及びGlut4のタンパク質の発現の増加を伴っていた。
以上より、マグノロールはPPARγの活性化を介してインスリン感受性を向上させることが示された。
【0145】
(実施例6)オボバトールによる脂肪細胞分化誘導試験
(6−1)オボバトール
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を、1×104cell/wellの濃度で、96ウェルマルチプレートに植え込み10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。2日間後、1μg/mLのインスリンと、1μg/mLのオボバトール、3μg/mLのオボバトール又は10μg/mLのオボバトールを含む培地(10%牛胎仔血清を含むDMEM)に交換してさらに9日間培養を行った。各ウェルの培地は3日おきに交換した。
【0146】
インスリンを処理してないウェルを陰性対照(図8A及びB中、「CON」と示す)とし、1μg/mLのインスリンと1μMのロシグリタゾンを処理したウェルを陽性対照(図8B中、「RSG」と示す)とし、インスリンのみのウェルを対照とした。
【0147】
培養9日後に細胞を3.7%ホルムアルデヒドで細胞を固定し、オイルレッドO.で細胞内脂質滴を染色し、顕微鏡で撮影した(図8A に示す)。また、100%の2−プロパノールを100μL/wellで添加し、細胞内脂肪滴に取り込まれたオイルレッドO.を抽出し、520nmで吸光度を測定し、オボバトールの分化促進作用を評価した、結果を図8Bに示す。
【0148】
図8A及びBに示したように、オボバトール添加群において、濃度依存的に脂肪細胞が増加したことが観察され、以上より、オボバトールが前駆脂肪細胞分化の促進作用を有することが明らかとなった。
【0149】
(6-2)成熟脂肪細胞3T3−L1におけるTNF−αによるMCP-1とIL-6の発現上昇に対するオボバトールの抑制効果
【0150】
本実施例においては、培養脂肪細胞における炎症モデルを構築し、これを利用してオボバトールのMCP-1又はIL-6発現上昇の抑制に対する効果を検討した。
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を2×105cell/well濃度で、6ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて、5%CO2の存在下、37℃で培養した。3日後に、分化誘導培地(0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン、0.25μMデキサメタゾン、10μg/mLインスリン、と10%牛胎仔血清を含むDMEM、MDI)で2日間培養し、その後、この培地を10μg/mLインスリン含有DMEM(10%牛胎仔血清を含む)に交換した。
【0151】
2日後に10%の牛胎仔血清を含むDMEMで交換し、十分に脂肪細胞が分化した。成熟脂肪細胞3T3−L1を、10μg/mLのオボバトール又は10μMのロシグリタゾンと、10ng/mLのTNFαとの共存下に培養し、24時間後に、これらの細胞から総RNAを回収し、MCP−1とIL−6の遺伝子の発現をreal-time RT−PCR法によって確認した。結果を図9に示す。
図9中、「C」はベヒクル(vehicle)処理群、「ob」は10μg/mLのオボバトールの処理群、「R」は10μMのロシグリタゾンの処理群を表し、エラーバーはS.Eを表す(n=3)。
【0152】
図9に示すように、TNF−αの存在下、成熟脂肪細胞3T3−L1によるMCP−1又はIL−6の発現量が上昇した。しかしなからオボバトールを共存させると、MCP−1又はIL−6の発現量は有意に抑制された(*p<0.05、**p<0.01)。
以上より、オボバトールは、インスリン受容体の感受性の低下を阻止できることが示された。
【0153】
(製剤例)
次に、本発明の組成物を含有する製剤例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0154】
(製剤例1 錠剤)
【表2】
【0155】
上記表2に示す成分をそれぞれ秤量し、均一に混合した後に圧縮打錠して重量300mgの錠剤を製造することができる。
【0156】
(製剤例2 硬カプセル剤)
【表3】
【0157】
上記表3に示す成分をそれぞれ秤量し、均一に混合した後、硬カプセルに300mgずつ充填することにより、硬カプセル剤を製造することができる。ここで、組成物1は、ホオノキオールと乳糖とを1:1で混合したものである。なお、製剤例3〜6で使用する組成物1は上記と同じものである。
【0158】
(製剤例3 軟カプセル剤)
【表4】
【0159】
上記表4に示す成分をそれぞれ秤量し、均一に混合した後、軟カプセルに100mgずつ充填することにより、軟カプセル剤を製造することができる。
【0160】
(製剤例4 顆粒剤)
【表5】
【0161】
上記の成分をそれぞれ秤量し、均一に混合した後、常法に従って顆粒剤を製造することができる。
【0162】
(製剤例5 シロップ剤)
【表6】
【0163】
上記表6に示す成分をそれぞれ秤量し、糖及びサッカリンを注射用蒸留水60mLに溶解した後、グリセリン及びエタノールに溶解された組成物2及び調味料の溶液を加える。この混合物に精製水を加えて、最終容量を100mLにすることにより、経口投与用のシロップ剤を製造することができる。
【0164】
(製剤例6 顆粒剤)
【表7】
【0165】
上記表7に示す成分をそれぞれ秤量し、組成物3を常法によって珪酸カルシウムに吸着させて微粒子とし、散剤を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明は、式(I)〜(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する医薬製剤、健康食品、機能性食品等の分野において有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コウボク抽出物を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤、上記コウボク抽出物を含む糖尿病治療剤、上記コウボク抽出物を含む脂肪細胞分化促進用機能性食品及び健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、米の消費量が減少し、脂肪の摂取量が増加する等、食生活の欧米化が進み、栄養過剰により肥満者が急激に増加しつつある。これは、豊富な食べ物による摂取エネルギーの増加と、電化製品の導入による家事労働や一般労働における負荷の軽減等によって、消費エネルギーが減少していることに起因するといわれている。
そして、肥満になると、下記表1に示すような生活習慣病を合併しやすいことも知られており、これらが一人の患者に集中したケースが、マルチプルリスクファクター症候群と呼ばれている。
【0003】
【表1】
【0004】
上記のような生活習慣病は、肥満であれば合併するというものではないが、肥満との相関性は高く、心筋梗塞、脳梗塞その他の心血管疾患による死亡は、我国における死因の第1位を占めるようになっている。
【0005】
また、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧症が重複するケースは、「メタボリックシンドローム」という疾患名で呼ばれ、National Cholesterol Education Program (NCEP) が、この病態の診断基準を公表している。
【0006】
また、肥満のなかでも、治療を要する肥満は肥満症と呼ばれ、日本肥満学会により診断基準が設定されている。内蔵脂肪が蓄積される肥満の場合には、糖尿病、高脂血症、高血圧が合併することが多く、メタボリックシンドロームの病態と一致するからである。
【0007】
これらの疾患のうち、糖尿病には、1型と2型があることが知られている。2型糖尿病の原因の1つは、遺伝的要因と関連の深い、食後のインスリン追加分泌が遅延する「インスリン初期分泌低下」であり、もう1つの原因は「インスリン抵抗性」である。「インスリン抵抗性」には遺伝的要因もあるが、肥満や運動不足などの誤った生活習慣による環境要因が大きく関与している。
【0008】
ここで、「インスリン抵抗性」とは、インスリン受容体の感受性が低下した状態にあることをいい、以下のようにして起こるとされている。
まず、脂肪細胞中への脂肪(油滴)の蓄積量が増えると、脂肪細胞は次第に肥大化し肥大化脂肪細胞となる。成熟脂肪細胞が肥大化脂肪細胞になると、アディポネクチンの分泌は低下するが、TNFαやMCP-1等の分泌が上昇する。分泌されたMCP-1に引き寄せられるように、毛細血管から単球が遊走し、こうした単球は活性化されてマクロファージとなって脂肪細胞の周りに集まる。そして、このマクロファージがまたTNFα、IL-6等を分泌し、分泌されたTNFα、IL-6等は全身へ運ばれて、インスリン受容体の感受性を低下させることになる(非特許文献1〜3参照)。
【0009】
ところで、肥満細胞の分化・制御には、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome Proliferator-activated receptor:PPAR)が関与している。PPARは、脂質及び糖代謝を維持する遺伝子群の発現制御を担う核内受容体ファミリーに属するリガンド依存性転写制御因子であり、PPARγはPPARγ/RXRという二量体を作って機能する。そして、PPARγ2は脂肪組織で特異的に発現しており、脂肪細胞の分化・成熟を制御するマスターレギュレーターとして機能している。
【0010】
また、PPARγリガンドであるチアゾリジン誘導体は、PPARγを活性化することにより、前駆脂肪細胞から分化した正常機能を有する小型脂肪細胞を増加させること、またインスリン抵抗性に深くかかわるTNFαや遊離脂肪酸の産生や分泌が亢進している肥大脂肪細胞をアポトーシスにより減少させることによってインスリン抵抗性を改善することが知られている(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】奥野明ほか:チアゾリジン誘導体とインスリン抵抗性の解除.最新医学 1997; 52:1153-1160.
【非特許文献2】インスリン抵抗性をターゲットとしたメタボリックシンドロームの治療戦略(J Jpn Coll Angiol, 2006, 46: 353-358
【非特許文献3】左右田隆ら インスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾンの創製 YAKUGAKU ZASSHI 122(11) 909―918(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、PPARγとPXRリガンドとが結合した活性化合物(PPARγ/RXR)を、脂肪細胞分化を促進する何らかの化合物と組み合わせて使用することにより、インスリン抵抗性の改善や、脂肪細胞の成熟を促進することができれば、2型糖尿病、高脂血、高血圧、内臓脂肪型肥満、脂肪肝などの症状の予防及び治療が可能となる。
そして、患者数及び患者予備軍の数が非常に多い糖尿病は、種々の疾患を合併するため、その予防と治療に対する社会的要請は非常に強い。
【0013】
また、医薬品においては、効果が高いことは必要であるが、副作用はできるだけ少ないものであること、安全性の面から望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記のような状況の下で、完成されたものである。すなわち、本発明の発明者らは、安全性の高さに留意しつつ、古くから生薬として使用されてきた植物に含まれる成分を中心として、PPARγ/RXRリガンド活性化合物または脂肪細胞の分化を促進する化合物その他の成分のスクリーニングを進めた結果、公知の化合物に、従来全く知られていなかった活性があることを見出し、本発明を完成したものである。具体的には、生薬由来のフェニルプロパノイド二量体化合物である、ホオノキオール(Honokiol)、マグノロール(Magnolol)、及びオボバトール(ovobatol)等に、脂肪細胞の分化促進作用があることを見出し、本発明を完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明は、下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1以上のものを含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進剤である。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
上記式中、R1及びR2は、炭素数1〜4のアルケニル基を表すものであることが好ましい。
一般に、フェニルプロパノイドは、アルケニル基を有するフェニル化合物の総称であり、フェニルプロパノイド2分子がβ炭素間で結合した化合物をフェニルプロパノイド二量体という。「リグナン」の語は、教義には、フェニルプロパノイド二量体を指すが、本明細書においては、ネオリグナン、セスキリグナン、及びジリグナンを含むものとする。また、リグナンは、上記のようにフェニル骨格に、アルケニル基、ヒドロキシ基等が結合した一群の化合物及びアルコキシ誘導体を含む物質群で構成される。リグナンは、高等植物に広く分布し、特に木部に多く含有されることが知られている。
【0019】
また、前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(III)で表される化合物であることが好ましい。
【0020】
【化3】
【0021】
ここで、前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることがさらに好ましい。
【0022】
【化4】
【0023】
【化5】
【0024】
本発明の脂肪細胞分化促進剤においては、前記式(II)で表される化合物が、下記式(VI)で表される化合物であることが好ましい。
【0025】
【化6】
【0026】
前記式(IV)で表される化合物は、下記式(VII)で表されるものであることが、さらに好ましい。
【0027】
【化7】
【0028】
本発明の脂肪細胞分化促進剤は、上記式(I)又は(II)で表される化合物であり、式(III)〜(VII)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物、又はこれらの生理学的に許容される塩、これらの生理学的に許容される水和物からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
【0029】
本発明はまた、上述したいずれかの脂肪細胞分化促進剤を含む、糖尿病治療剤である。ここで、前記抗尿病治療剤中における前記有効成分の含量は、製剤の1用量当たり0.1〜100mgであることが好ましく、0.1〜50mgであることがより好ましく、0.3〜10mgであることが特に好ましい。
また、前記骨疾患の予防及び/又は治療用医薬製剤は、経口投与可能な剤形であることが好ましく、錠剤、散剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、トローチ剤、及び液剤からなる群から選ばれるものであることが好ましい。
【0030】
本発明はさらにまた、上述したいずれかの脂肪細胞分化促進剤を含む、インスリン感受性増強剤である。ここで、前記インスリン感受性増強剤中における前記有効成分の含量、剤形等は上述した通りである。ここで「インスリン感受性増強」作用には、インスリンの抵抗性を解除する作用も含まれる。
【0031】
本発明はまた、下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる化合物を含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進用の機能性食品である。
【0032】
【化8】
【0033】
【化9】
【0034】
本明細書において、「機能性食品」とは、その食品自体が本来含有している栄養素によって、その食品を摂取した者に供与できる以上の利益を与え得る成分を含有する食品をいう。
【0035】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(III)で表されるものであることを好ましい。
【0036】
【化10】
【0037】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることが好ましい。
【0038】
【化11】
【0039】
【化12】
【0040】
ここで、前記式(II)で表される化合物は、下記式(VI)で表されるものであることが好ましい。
【0041】
【化13】
【0042】
さらに、前記式(VI)で表される化合物は、下記式(VII)で表されるものであることが好ましい。
【0043】
【化14】
【0044】
本発明のインスリン感受性を増強するための機能性食品は、下記式(IV)、(V)及び(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有するものであることが好ましい。
【0045】
【化15】
【0046】
【化16】
【0047】
【化17】
【0048】
上記の機能性食品はまた、脂肪細胞の分化促進のために使用されるものであることが好ましく、前記化合物、それらの生理学的に許容される塩及び水和物からなる群から選ばれるものの含有量は、本発明の機能性食品100g当たり0.1〜5mgであることが好ましく、0.1〜3mgであることがより好ましい。これらの含有量を0.3〜1mgとすると、脂肪細胞分化を促進する効果が最も高くなることによる。
【0049】
本発明はさらにまた、下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる、少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有する、脂肪細胞分化促進用健康食品である。
【0050】
【化18】
【0051】
【化19】
【0052】
本明細書において「健康食品」とは、健康の維持・増進に役立つ成分を抽出し、製造した粗精製物又は精製物を主成分とする粉末、顆粒剤、錠剤、カプセル剤をいい、日頃不足しがちな栄養成分の摂取を補助するサプリメントも含むものとする。
ここで、前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(III)で表されるものであることが好ましい。
【0053】
【化20】
【0054】
また、前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドは、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることが好ましい。
【0055】
【化21】
【0056】
【化22】
【0057】
さらに、前記式(VI)で表される化合物は、下記式(VII)で表されるものであることが好ましい。
【0058】
【化23】
【0059】
本発明のインスリン感受性を増強するための健康食品は、下記式(IV)、(V)及び(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有するものであることが好ましい。
【0060】
【化24】
【0061】
【化25】
【0062】
【化26】
【0063】
上記の健康食品はまた、脂肪細胞の分化促進のために使用されるものであることが好ましく、前記化合物、それらの生理学的に許容される塩及び水和物からなる群から選ばれるものの含有量は、本発明の健康食品100g当たり0.1〜5mgであることが好ましく、0.1〜3mgであることがより好ましい。これらの含有量を0.3〜1mgとすると、脂肪細胞分化を促進する効果が最も高くなることによる。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、副作用のほとんどない脂肪細胞分化促進剤、上記コウボク抽出物を含む糖尿病治療剤、上記コウボク抽出物を含む脂肪細胞分化促進用機能性食品及び健康食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1A】ホノキオール又はロシグリタゾン存在下において、3T3−L1前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化をオイルレッドO.染色で観察した結果を示す図である。
【図1B】ホノキオール又はロシグリタゾン存在下における脂肪の蓄積を示すグラフである。
【図2】ホノキオール又はロシグリタゾン存在下における細胞の培養9日培養後、脂肪細胞と特異的遺伝子の発現の変化をRT−PCRで分析した結果を示す図である。
【図3A】PPARγ−LBDに対するホノキオール、ロシグリタゾン及び15d-PGJ2の結合活性を示すグラフである。
【図3B】RXRβ−LBDに対するホノキオール及び9c−RAの結合活性を示すグラフである。
【0066】
【図4A】マグノロール又はロシグリタゾン存在下において、3T3−L1前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化をオイルレッドO.染色で観察した結果を示す図である。
【図4B】マグノロール又はロシグリタゾン存在下、3T3−L1前駆脂肪細胞における脂肪の蓄積を示すグラフである
【図4C】マグノロール又はロシグリタゾン存在下において、C3H10T1/2細胞から脂肪細胞への分化をオイルレッドO.染色で観察した結果を示す図である。
【図4D】マグノロール又はロシグリタゾン存在下、C3H10T1/2細胞における脂肪の蓄積を示すグラフである。
【0067】
【図5A】マグノロール存在下、3T3−L1前駆脂肪細胞における脂肪細胞特異的遺伝子の発現量の変化を示すグラフである。
【図5B】マグノロール存在下、成熟脂肪細胞3T3−L1におけるPPARγの下流にある遺伝子の発現量の変化を示すグラフである。
【図5C】マグノロール存在下、成熟脂肪細胞3T3−L1におけるPPARγの下流にある遺伝子の発現量(タンパクの発現量)の変化を示す図である。
【図6A】PPARγ−LBDに対するマグノロール、ロシグリタゾン及び15d-PGJ2の結合活性を示すグラフである。
【図6B】PPARγ−LBDに対するマグノロール及びロシグリタゾンの競争的結合活性を示すグラフである。
【図6C】RXRβ−LBDに対するマグノロール及び9c−RAの結合活性を示すグラフである。
【0068】
【図7】成熟脂肪細胞3T3−L1におけるインスリン刺激による糖取り込みの促進に対するマグノロールの効果を示すグラフである。
【図8A】オボバトールとロシグリタゾンの存在下、3T3−L1細胞の分化をオイルレッドO.染色で観察した結果を示す図である。
【図8B】オボバトールとロシグリタゾンの存在下、3T3−L1細胞における脂肪蓄積量の増加比率を示すグラフである
【図9A】成熟脂肪細胞3T3−L1におけるTNF−αによるIL−6の発現上昇に対するオボバトール又はロシグリタゾンの抑制効果を示す図である。
【図9B】成熟脂肪細胞3T3−L1におけるTNF−αによるMCP−1の発現上昇に対するオボバトール又はロシグリタゾンの抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の脂肪細胞の分化促進剤、糖尿病治療剤に含まれる化合物、これらの生理学的に許容される塩、これらの生理学的に許容される水和物は、フェニルプロパノイド二量体化合物と呼ばれ、下記式(I)又は(II)で表される。
【0070】
【化27】
【0071】
【化28】
【0072】
式中、R1及びR2は、炭素数1〜4のアルケニル基を表す。
上記式(I)で表される化合物又はこれらの生理学的に許容される塩、水和物としては、例えば、上記式(III)で表される化合物を挙げることができ、具体的には、上記式(IV)又は(V)で表されるマグノロール又はホノキオールを挙げることができる。
【0073】
ホオノキオール及びマグノロールは、モクレン科(Magnoliaceae)のホオノキ(Magnolia obovata THUNB.)の幹皮、枝皮等に含まれるフェニルプロパノイド二量体化合物である。
【0074】
ホオノキオール又はマグノロールの生理学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。水和物としては、例えば、一水和物、二水和物等を挙げることができる。
【0075】
上述したフェニルプロパノイド二量体化合物は、単独で本発明の脂肪細胞の分化促進剤又は糖尿病治療剤の製造に使用してもよく、必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの化合物、又はこれらの生理学的に許容される塩、水和物を含有する生薬からの抽出物を、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することもできる。
【0076】
オボバトールもまた、モクレン科(Magnoliaceae)のホオノキ(Magnolia obovata THUNB.)の幹皮、枝皮等に含まれる化合物である。オボバトールの生理学的に許容される塩としては、例えば、上述した、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができ、水和物としては、例えば、一水和物、二水和物等を挙げることができる。
【0077】
上述したオボバトールは、単独で本発明の脂肪細胞の分化促進剤又は糖尿病治療剤の製造に使用してもよく、必要に応じてホノキオールやマグノロールと適宜組み合わせて使用してもよい。オバボトールの化合物、又はこれらの生理学的に許容される塩、水和物を含有する生薬からの抽出物を、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することもできる。
【0078】
こうした生薬としては、例えば、コウボク(厚朴、Magnoliae Cortex)等を挙げることができる。
【0079】
上述した、ホオノキオール、マグノロール等のフェニルプロパノイド二量体、及びオボバトールは、公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造し、入手してもよく、市販品を購入して使用してもよい。
【0080】
また、これらの化合物は、植物材料から抽出、単離することによって入手することもできる。例えば、植物材料からホオノキオール、マグノロール、及びオボバトールを単離する方法の1例を示す。
【0081】
細切したモクレン(Magnoliaceae)科のホオノキ(Magnolia obotava THUMB.)の幹皮、枝皮をメタノールで抽出し、残渣を濾別した後に、濾液を濃縮してメタノール抽出物を得る。このメタノール抽出物を水と酢酸エチルで抽出して水相と酢酸エチル相とを得る。水相をさらにブタノールで抽出する。
【0082】
得られた酢酸エチル相を濃縮し、メタノール/ヘキサンで抽出を行い、ヘキサン相とメタノール相とを得た後に、メタノール相を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、20%刻みのステップグラジエント法(溶離液はメタノール:クロロホルム)を用いて分画する。
【0083】
上記の分画で得られた画分のうち、メタノール:クロロホルム=1:20の画分をさらにODSカラムクロマトグラフィーに供し、20%刻みのステップグラジエント法を用いて分画する。80%メタノール画分を、分取クロマトグラフィーに供し、ホノキオール、オボバトール、マグノロールを含む画分を得る。
【0084】
以上のようにして抽出されたホオノキオール及びその類縁化合物は、粗精製物のまま使用することもできるが、必要に応じてさらに精製して精製標品を得ることもできる。この精製は常法によって行うことができる。例えば、シリカゲルを固定相とし、クロロホルム/メタノールを移動相とし、移動相中のメタノール含量を順次上げるステップグラジエントカラムクロマトグラフィーによって、ホオノキオール及びその類縁化合物をそれぞれ溶出させ、精製し、白色粉末等として得ることができる。
【0085】
以上のようにして得られた上記式(I)〜(VII)で表される化合物、又はこれらの生理学的に許容される塩、これらの生理学的に許容される水和物は、以下のようにして医薬製剤とすることができる。
【0086】
ホオノキオール、マグノロール、オボバトールを単独で医薬組成物とする場合には、上述したように得られた結晶を常法に従って処理し、後述する賦形剤等と混合し、製剤とすればよい。
【0087】
また、ホオノキオール、マグノロール、オボバトールを組み合わせて使用する場合には、ホオノキオール1に対して、マグノロール又はオボバトールを0.1〜10の割合として適宜混合し、この混合物をホオノキオール単独の場合と同様にして医薬組成物とすればよい。または、ホオノキオール1に対して、マグノロールとオボバトールとを0.1〜10の割合で適宜混合してもよい。
【0088】
これらの医薬組成物を有効成分とする医薬製剤としては、注射剤、坐剤、エアゾール剤、経皮吸収剤その他の非経口剤、錠剤、散剤、カプセル剤、丸剤、トローチ剤、液剤その他の経口剤等を挙げることができる。ここで、上記の錠剤には、糖衣錠、コーティング錠、バッカル錠が含まれ、カプセル剤には、硬カプセル剤、軟カプセル剤の双方が含まれる。また、顆粒剤には、コーティングされた顆粒剤も含まれる。また、上記の液剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等が含まれ、シロップ剤にはドライシロップも含まれる。
【0089】
なお、上述した各製剤には、徐放化されていないものばかりでなく、徐放化されたものも含まれる。
こうした製剤は、公知の製剤学的製法に従い、製剤の製造に際して薬理学的に許容され得る日本薬局方に記載の担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等を用いて製造することができる。
【0090】
こうした担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等を挙げることができる。
【0091】
結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。
【0092】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなど、滑沢剤としては例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール等を使用することができる。
【0093】
着色剤、医薬品に添加することが許容されているものであれば使用することができ、特に限定されない。また、これら以外に、矯味剤、矯臭剤等も、必要に応じて適宜使用することができる。
【0094】
錠剤又は顆粒剤とする場合には、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体等を用いてコーティングしても良く、複数層でコーティングすることもできる。
【0095】
さらに、顆粒剤や粉剤をエチルセルロースやゼラチンのようなカプセルに詰めてカプセル剤とすることもできる。
【0096】
上記の化合物、又はそれらの生理学的に許容される塩、若しくは水和物を用いて、注射剤を調製する場合は、必要に応じて、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加することもできる。
【0097】
上述したような骨疾患予防及び/又は治療剤を患者に投与する場合には、投与量は、患者の症状の重篤さ、年齢、体重、及び健康状態等の諸条件によって異なる。一般的には、成人1日当たり1mg/kg〜2,000mg/kg、好ましくは1mg/kg〜1,000mg/kg程度を、経口又は非経口的に、1日1回若しくはそれ以上の回数にわたって投与すればよい。上記のような諸条件に応じて、投与の回数及び量を適宜増減すればよい。
【0098】
上述した化合物単独の場合、ホオノキオールを上述したマグノロールもしくはオボバトールと組み合わせた場合、またはこれら3つを組み合わせた場合に、これらが有効成分として製剤中に含まれるときは、当該組成物中におけるこれらの含有量は、0.1〜100mgであることが好ましく、より好ましくは0.1〜50mg、さらに好ましくは0.3〜10mgである。
【0099】
有効成分であるホオノキオールや他のフェニルプロパノイド二量体化合物、又はオボバトールの含有量が下限値未満では骨吸収抑制作用が十分に発揮されず、逆に上限値を越えて添加しても、添加量に見合う効果が発揮されない。また、上限値を越えると、投与時に細胞毒性が発揮されることがあり、生体に対して望ましくない副作用を惹起するおそれがあることによる。
【0100】
さらに、上述した化合物、その誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、生理学的に許容されるそれらの水和物を必要に応じて適宜添加することにより、脂肪細胞の増殖分化促進効果を有する機能性食品、若しくは健康食品を提供することができる。
【0101】
上述した化合物、その誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、生理学的に許容されるそれらの水和物を、例えば、パン、クッキー及びビスケット、米飯添加用麦及び雑穀、うどん、そば、パスタその他の麺類、チーズ、ヨーグルトその他の乳製品、ジャム、マヨネーズ、味噌、醤油その他の大豆製品、茶、コーヒー及びココア、清涼飲料、果実飲料その他の非アルコール性飲料、薬用酒その他のアルコール性飲料、キャンディー、チョコレートその他のスナック菓子、チューインガム、せんべい、羊羹その他の大豆を原料とする菓子等に添加して、機能性食品とすることができる。
【0102】
なお、上記のヨーグルト、醤油、飲料等に添加する場合には、これらの中で本発明の組成物が結晶化して沈殿しないようにするために、溶解助剤や安定化剤を適宜加えることもできる。
【0103】
また、本発明の組成物を単独で、又は2種以上を混合し、常法に従って粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤とすることにより、健康食品とすることができる。
【0104】
ここで、本発明の組成物を粉末とするためには、生成過程で得られた抽出物を濃縮し、凍結乾燥、スプレードライ、真空乾燥等の方法を用いて乾燥させ、サンプルミル、ブレンダー、ミキサー等によって乾燥固体を粉砕すればよい。また、必要に応じて、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、デキストリン、シクロデキストリン、牡蠣殻粉末などを添加してもよい。
【0105】
また、上記のようにして得た粉末に、適宜、上述した結合剤を加えて打錠し、錠剤とすることもできる。錠剤とした後に、上述した白糖又はゼラチン等のコーティング剤を用いて、糖衣錠としてもよく、他のコーティング剤を用いて腸溶剤等にすることもできる。
【0106】
さらに、上述のようにして得た粉末を常法に従って顆粒とし、顆粒剤を製造することもできる。また、上記の粉末や顆粒を上述したカプセルに適当量充填することによって、カプセル剤とすることもできる。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)材料と方法
厚朴(コウボク)は、大晃生薬有限会社より購入した。メタノール、酢酸エチル、n−ブタノールは、Nacalai Tesque社より購入し、オイルレッドO.とインスリンはSigma社より購入した。
【0109】
マウス由来前駆脂肪細胞3T3−L1は、JCRB細胞バンクより購入した。標品としてのホノキオール、オボバトール及びマグノロールは、和光純薬工業(株)より購入した。ロシグリタゾンは、Alexis社より購入し、DMEMは、Gibco社より購入した。
Lanthascreen TMTR-FRET Peroxisome Proliferator Activated Receptor・Coactivator Assay,Lanthascreen TMTR-FRET RXR・Coactivator Assay, PolarScreen PPAR Competitor assayはinvitrogen社より購入した。
【0110】
(実施例2)コウボク抽出物の精製
コウボク3kgに、8Lのメタノールを加え、2日間常温にて抽出した。抽出後、ブフナーロートを用いて濾過し、濾液をエバポレータで濃縮し、メタノール抽出物を得た。
このメタノール抽出物に、3Lの水及び3Lの酢酸エチルを加えて抽出を行い、217gの酢酸エチル相を得た。
水相1,500mLにn−ブタノール1,500mLを加え、分液ロートを用いて、水相とn−ブタノール相とに抽出された化合物を分配した。
【0111】
酢酸エチル相を2Lの90%メタノール/ヘキサンを加えて分液ロートを用いて分画し、ヘキサン相と90%メタノール相とを得た。90%メタノール相を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供し、メタノール:クロロホルム=1:20、1:10、1:5、1:1の溶離液で順次溶出させ、最後にメタノールのみで溶出させて、分画した。
【0112】
上記の分画で得られた画分のうち、メタノール:クロロホルム=1:20の画分をODSカラムクロマトグラフィーにかけ、水:メタノール=40:60、20:80及び100%メタノールの溶離液で順次溶出し、分画した。ここで得られた画分のうち、80%メタノール画分を、以下の条件で分取クロマトグラフィーに供し、Fr.1〜5を得た。
【0113】
<分取クロマトグラフィー条件>
カラム : 15C18-AR-II waters (i.d. 50mmx500mm)
カラム温度:室温
溶離液 :水−メタノール=25−75
流 速:35mL/分
ポンプ :JASCO PU-2087 PLUS
測定波長 :UV215nm
【0114】
得られた上記のFr.1〜Fr.5のうち、Fr.3、Fr.4及びFr.5では、単一のピークが観察された。このため、これらの画分を、さらに以下の条件でHPLCに供して分画を行った。
【0115】
<HPLC条件>
カラム :5C18−AR−II(i.d. 4.6mm x 250mm)
カラム温度:室温
溶離液 :水−メタノール=30−70
流 速:1mL/分
ポンプ :
測定波長 :UV215nm
【0116】
得られた画分をさらに精製し、1H−NMR(400MHz、日本電子(株)社製)で分析した。ホノキオール、オボバトール及びマグノロールの各標品をHPLCで分析した場合の保持時間及び、NMRスペクトルの結果から、Fr.3にはホノキオール、Fr.4にはオボバトール、及びFr.5にはマグノロールがそれぞれ含まれていることが明らかになった。
【0117】
(実施例3)ホノキオールによる脂肪細胞分化誘導試験
(3−1)ホノキオールによる脂肪細胞の分化誘導
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を、1×104cell/wellの濃度で、96ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。2日間後、1μg/mLのインスリンと、1μM、3μM又は10μMのホノキオールを含む培地(10%の牛胎仔血清を含むDMEM)に交換し、さらに9日間培養を行った(いずれも終濃度)。各ウェルの培地は3日おきに交換した。
【0118】
インスリンを添加してないウェルを陰性対照(図1中、「C」と示す)とし、1μg/mLのインスリンと1μMのロシグリタゾンとを添加したウェルを陽性対照(図1中、「R」と示す)とし、インスリンのみのウェルを対照とした。
【0119】
培養9日後に、細胞を3.7%ホルムアルデヒドで固定し、オイルレッドO.で細胞内脂質滴を染色し、顕微鏡で撮影した(図1Aに示す)。また、100%の2−プロパノールを100μL/wellで添加し、細胞内脂肪滴に取り込まれたオイルレッドO.を抽出し、520nmで吸光度を測定し、分化促進作用を評価した(図1Bに示す)。エラーバ−は標準偏差(S.E)を示す(n=3)。
【0120】
図1に示したように、インスリンとロシグリタゾン又はホノキオール処理群では、濃度依存的に脂肪細胞が増加したことが観察された(ロシグリタゾン、p<0.001;ホノキオール3μM、p<0.05;ホノキオール10μM、p<0.001)。
【0121】
(3−2)脂肪細胞特異的遺伝子の発現確認試験
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を2×105cell/well濃度で、6ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。3日後1μg/mLのインスリンのみ、1μg/mLのインスリンと10μMのホノキオール、又は1μg/mLのインスリンと1μMのロシグリタゾンとを含む培地(10%の牛胎仔血清を含むDMEM)に交換し、さらに9日間培養した。培地は3日おきに交換した。
【0122】
培養9日目に細胞から総RNAを回収し、脂肪細胞特異的遺伝子の発現をRT−PCR法によって確認した。図2に示したように、β―アクチンでは変化が見られず、aP2、アジポネクチン、FAS、PPARγ2の発現がホノキオール処理群(10μM、以下の図中「H」と示す)とロシグリタゾン(1μM、以下の図中「R」又は「RSG」と示す)処理群で増加することが確認された。
以上より、ホノキオールが前駆脂肪細胞の分化促進作用を有することが示された。
【0123】
(3−3)ホノキオールのPPARγリガンド又はRXRβリガンド活性
PPARγリガンド結合部位(PPARγ−LBD)又はRXRβリガンド結合部位(RXRβ−LBD)に対するホノキオールの結合活性を、Lanthascreen TMTR-FRET Peroxiso、Proliferator Activated Receptor・Coactivator Assay(PPARγ)及びLanthascreen TMTR-FRET RXR・Coactivator Assay(RXRβ)によって、それぞれ測定した。
【0124】
結果を図3A及び3Bに示す。15d−PGJ2(15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2、1μM、10μM)とロシグリタゾン(0.01μM)をPPARγリガンドの陽性対照とし、9c−RA(0.01μM)をRXRβリガンドの陽性対照とした。エラーバーはS.Eを表す(n=3)。
【0125】
図3Aに示したように、ロシグリタゾンと15d-PGJ2ではPPARγ−LBDへ結合が認められたが(*p<0.05)、ホノキオールでは変化が見られなかった。また、ホノキオールでは、対照と比較すると9c−RAよりは弱いものの、濃度依存的にRXRβ−LBDへ結合することが認められた。以上によりホノキオ−ルはRXRβリガンドであることが明らかである(図3B、*p<0.05)。
【0126】
(実施例4)マグノロールによる脂肪細胞分化誘導試験
(4−1)マグノロールによる脂肪細胞の分化誘導
ホノキオールをマグノロールに代えた以外は、実施例3と同様の条件でマウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を9日間培養し、オイルレッドO.で染色して撮影した。結果を図4Aに示す。
【0127】
また、C3H10T1/2間葉幹細胞(mesenchymal stem cell)を、実施例3でマウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を培養したと同じ条件で9日間培養し、オイルレッドO.で染色して撮影した。結果を図4Cに示す。次いで、100%の2−プロパノールを100μL/wellで添加し、細胞内脂肪滴に取り込まれたオイルレッドO.を抽出し、520nmで吸光度を測定し、分化促進作用を評価した。結果を図4B及び4Dに示す。エラーバ−はS.Eを示す(n=3)。
【0128】
図4A〜Dに示したように、マグノロール処理群では、いずれの細胞においても濃度依存的に脂肪細胞が増加したことが観察された。図4中、ロシグリタゾンはRSGと表した(ロシグリタゾン+3μMのホノキオール、又はロシグリタゾン+10μMのホノキオール、p<0.001)
【0129】
(4−2)脂肪細胞特異的遺伝子の発現確認試験
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を2×105cell/well濃度で、6ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。3日後、1μg/mLのインスリンのみ、1μg/mLのインスリンと10μMのマグノロール、又は1μg/mLのインスリンと1μMのロシグリタゾンを含む培地(10%の牛胎仔血清を含むDMEM)に交換し、さらに9日間培養した。培地は3日おきに交換した。
【0130】
培養9日目に細胞から総RNAを回収し、脂肪細胞特異的遺伝子の発現をリアルタイムRT−PCR(real-time RT-PCR)法によって確認した。結果を図5Aに示す。図5A中、エラーバーはS.Eを示す(n=3)。
図中、培養開始前を0日とし、1μg/mLインスリンを処理した群を対照(図5A中、「対照」)と示した。
【0131】
図5Aに示したように、マグノロールとインスリン処理群でC/EBPα及びPPARγ2のmRNAの発現量がさらに上昇しており(n=3、p<0.001)、その他、アジポネクチン、aP2、LPL、GLUT1、及びGLUT4のmRNAの発現量も有意に上昇していた(GLUT1を除きp<0.001、GLUT1ではp<0.05)。
【0132】
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を2×105cell/well濃度で、6ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。3日後、分化誘導培地(0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン、0.25μMデキサメタゾン、10μg/mLインスリンと10%牛胎仔血清を含むDMEM、以下、「MDI」という)で2日間培養し、その後、この培地を10μg/mLインスリン含有DMEM(10%牛胎仔血清を含む)に交換した。2日後に10%の牛胎仔血清を含むDMEMで交換し、十分に脂肪細胞が分化した。
【0133】
成熟脂肪細胞を10μMのマグノロールで48時間処理した後に総RNAを回収し、PPARγ2のmRNAの発現及びPPARγの下流である遺伝子の発現を、real-time RT−PCR法によって確認した。結果を図5Bに示す。図5中、エラーバーはS.Eを表す(n=3)。
【0134】
図5Bに示したように、PPARγ2のmRNAの発現量は、ロシグリタゾン処理群では有意に低下していたが、マグノロール処理群では変化が見られなかった。PPARγの下流であるC/EBPα,aP2及びGLUT4のmRNAの発現量は、ロシグリタゾン処理群及びマグノロール処理群のいずれにおいても有意に増加していた(*p<0.05、*p<0.001)。
【0135】
成熟脂肪細胞を10μMのマグノロールで48時間処理し、総タンパク質を回収し、aP2及びGlut4のタンパクの発現をウェスタンブロッティング法によって確認した。結果を図5Cに示す。
図5Cに示したように、GAPDHのタンパク質の変化が見られず、aP2及びGlut4のタンパク質の発現量が対照と比較して増加していることが認められた。
【0136】
(4−3)マグノロールのPPARγリガンド又はRXRβリガンド活性
PPARγリガンド結合部位(PPARγ−LBD)に対するマグノロールの結合活性を、Lanthascreen TMTR-FRET Peroxisome Proliferator Activated Receptor・Coactivator Assay及びPolarScreen PPAR Competitor assayによって、それぞれ測定した。
【0137】
一方、RXRβリガンド活性は、Lanthascreen TMTR-FRET RXR・Coactivator Assay(RXRβ)によって測定した。結果を図6A、6B及び6Cに示す。15d−PGJ2(1μM、10μM)とロシグリタゾン(0.01μM、R)をPPARγリガンドの陽性対照とし、9c−RA(0.01μM)をRXRβリガンドの陽性対照とした。エラーバーはS.Eを示す(n=3)。
【0138】
図6Aと6Bに示すように、マグノロールはロシグリタゾン又は15d−PGJ2と共にPPARγ−LBDへ結合することが認められた。さらに、マグノロールは濃度依存的にRXRβ−LBDへ結合することが認められた。以上より、マグノロールはPPARγ及びRXRβリガンドであることが明らかになった。(*p<0.05)。
【0139】
(4−4)成熟脂肪細胞3T3−L1におけるインスリン投与による糖取り込みに対するマグノロールの効果
成熟脂肪細胞3T3−L1を1μM又は10μMのマグノロールで処理し、48時間培養した後、100nMのインスリン存在下における糖取り込みを3H−デオキシグルコース(2−DG)レベルの変化によって評価した。結果を図7に示す。ロシグリタゾン(1μM、R)を陽性対照とした。エラーバーはS.Eを示す(n=3)。
【0140】
図7に示したように、10μMのマグノロール処理群では、インスリンのみ群と比較して40%以上の糖取り込みの上昇が見られた(p<0.05)。さらにインスリン非存在下においても2倍以上の糖取り込みの上昇がみられたp<0.05)。
以上の結果からマグノロールは成熟脂肪細胞3T3−L1においてインスリンの刺戟による糖の取り込みを促進することが明らかになった。
【0141】
(実施例5)マグノロールのPPARγ及びRXRβに対するリガンド活性
(5−1)PPARγに対するリガンド活性
PPARγは、脂肪細胞分化調節に関わる主要な転写因子であり、チアゾリジンジオン系(TZDs)等のリガンドは、強力なインスリンsensitizer(感作剤)として機能することが知られている。まず、マウス由来脂肪前駆細胞3T3−L1から脂肪細胞への分化に対するマグノロールの効果を検討した。
3T3−L1前脂肪細胞を、実施例4と同様の条件で、100μg/mLのインスリン、各濃度のマグノロール、ロシグリタゾン、15−PGJ2の存在下に培養した。
【0142】
図に示すように、10μg/mLのインスリンの存在下において、10μMのマグノロールは細胞分化誘導を促進し、PPARγ2及びPPARγの下流である遺伝子(aP2、LPL、C/EBPα、GLUT4及びアジポネクチン等)の発現を増加させた。成熟脂肪細胞3T3−L1にマグノロールで処理すると、PPARγの遺伝子発現では変化を見られずPPARγの下流である遺伝子を増加された。
【0143】
PPARγリガンド又はRXRβのリガンドへのマグノロールの結合活性を検討した結果、マグノロールはPPARγ−LBD又はRXRβ−LBDへの結合活性を示すことが示された。一方、マグノロールのPPARγ―LBDに対する結合活性はロシグリタゾンのそれと比べて非常に弱く、15−PGJ2とはほぼ同等であることが示された。
【0144】
また、マグノロールのRXRβ−LBDに対する結合活性は陽性対照と比較すると弱いが、濃度依存的にRXRβ−LBDへの結合活性が上昇することが示された。
さらに、10μMのマグノロールを成熟脂肪細胞3T3−L1に処理するとインスリン存在下及び非存在下で細胞内への糖取り込みが上昇させ、GLUT1とGLUT4の遺伝子の発現及びGlut4のタンパク質の発現の増加を伴っていた。
以上より、マグノロールはPPARγの活性化を介してインスリン感受性を向上させることが示された。
【0145】
(実施例6)オボバトールによる脂肪細胞分化誘導試験
(6−1)オボバトール
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を、1×104cell/wellの濃度で、96ウェルマルチプレートに植え込み10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて5%CO2の存在下、37℃で培養した。2日間後、1μg/mLのインスリンと、1μg/mLのオボバトール、3μg/mLのオボバトール又は10μg/mLのオボバトールを含む培地(10%牛胎仔血清を含むDMEM)に交換してさらに9日間培養を行った。各ウェルの培地は3日おきに交換した。
【0146】
インスリンを処理してないウェルを陰性対照(図8A及びB中、「CON」と示す)とし、1μg/mLのインスリンと1μMのロシグリタゾンを処理したウェルを陽性対照(図8B中、「RSG」と示す)とし、インスリンのみのウェルを対照とした。
【0147】
培養9日後に細胞を3.7%ホルムアルデヒドで細胞を固定し、オイルレッドO.で細胞内脂質滴を染色し、顕微鏡で撮影した(図8A に示す)。また、100%の2−プロパノールを100μL/wellで添加し、細胞内脂肪滴に取り込まれたオイルレッドO.を抽出し、520nmで吸光度を測定し、オボバトールの分化促進作用を評価した、結果を図8Bに示す。
【0148】
図8A及びBに示したように、オボバトール添加群において、濃度依存的に脂肪細胞が増加したことが観察され、以上より、オボバトールが前駆脂肪細胞分化の促進作用を有することが明らかとなった。
【0149】
(6-2)成熟脂肪細胞3T3−L1におけるTNF−αによるMCP-1とIL-6の発現上昇に対するオボバトールの抑制効果
【0150】
本実施例においては、培養脂肪細胞における炎症モデルを構築し、これを利用してオボバトールのMCP-1又はIL-6発現上昇の抑制に対する効果を検討した。
マウス由来の前駆脂肪細胞3T3−L1を2×105cell/well濃度で、6ウェルマルチプレートに植え込み、10%の牛胎児血清を含むDMEM培地にて、5%CO2の存在下、37℃で培養した。3日後に、分化誘導培地(0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン、0.25μMデキサメタゾン、10μg/mLインスリン、と10%牛胎仔血清を含むDMEM、MDI)で2日間培養し、その後、この培地を10μg/mLインスリン含有DMEM(10%牛胎仔血清を含む)に交換した。
【0151】
2日後に10%の牛胎仔血清を含むDMEMで交換し、十分に脂肪細胞が分化した。成熟脂肪細胞3T3−L1を、10μg/mLのオボバトール又は10μMのロシグリタゾンと、10ng/mLのTNFαとの共存下に培養し、24時間後に、これらの細胞から総RNAを回収し、MCP−1とIL−6の遺伝子の発現をreal-time RT−PCR法によって確認した。結果を図9に示す。
図9中、「C」はベヒクル(vehicle)処理群、「ob」は10μg/mLのオボバトールの処理群、「R」は10μMのロシグリタゾンの処理群を表し、エラーバーはS.Eを表す(n=3)。
【0152】
図9に示すように、TNF−αの存在下、成熟脂肪細胞3T3−L1によるMCP−1又はIL−6の発現量が上昇した。しかしなからオボバトールを共存させると、MCP−1又はIL−6の発現量は有意に抑制された(*p<0.05、**p<0.01)。
以上より、オボバトールは、インスリン受容体の感受性の低下を阻止できることが示された。
【0153】
(製剤例)
次に、本発明の組成物を含有する製剤例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0154】
(製剤例1 錠剤)
【表2】
【0155】
上記表2に示す成分をそれぞれ秤量し、均一に混合した後に圧縮打錠して重量300mgの錠剤を製造することができる。
【0156】
(製剤例2 硬カプセル剤)
【表3】
【0157】
上記表3に示す成分をそれぞれ秤量し、均一に混合した後、硬カプセルに300mgずつ充填することにより、硬カプセル剤を製造することができる。ここで、組成物1は、ホオノキオールと乳糖とを1:1で混合したものである。なお、製剤例3〜6で使用する組成物1は上記と同じものである。
【0158】
(製剤例3 軟カプセル剤)
【表4】
【0159】
上記表4に示す成分をそれぞれ秤量し、均一に混合した後、軟カプセルに100mgずつ充填することにより、軟カプセル剤を製造することができる。
【0160】
(製剤例4 顆粒剤)
【表5】
【0161】
上記の成分をそれぞれ秤量し、均一に混合した後、常法に従って顆粒剤を製造することができる。
【0162】
(製剤例5 シロップ剤)
【表6】
【0163】
上記表6に示す成分をそれぞれ秤量し、糖及びサッカリンを注射用蒸留水60mLに溶解した後、グリセリン及びエタノールに溶解された組成物2及び調味料の溶液を加える。この混合物に精製水を加えて、最終容量を100mLにすることにより、経口投与用のシロップ剤を製造することができる。
【0164】
(製剤例6 顆粒剤)
【表7】
【0165】
上記表7に示す成分をそれぞれ秤量し、組成物3を常法によって珪酸カルシウムに吸着させて微粒子とし、散剤を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明は、式(I)〜(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する医薬製剤、健康食品、機能性食品等の分野において有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1以上のものを含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進剤。
【化1】
【化2】
(上記式中、R1及びR2は、炭素数1〜4のアルケニル基を表す。)
【請求項2】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(III)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【化3】
【請求項3】
前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることを特徴とする、請求項2に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【化4】
【化5】
【請求項4】
前記式(II)で表される化合物が、下記式(VI)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【化6】
【請求項5】
前記式(VI)で表される化合物が、下記式(VII)で表されるものであることを特徴とする、請求項4に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【化7】
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪細胞分化促進剤を含む、糖尿病治療剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪細胞分化促進剤を含む、インスリン感受性増強剤。
【請求項8】
下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる化合物を含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化8】
【化9】
【請求項9】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(III)で表されるものであることを特徴とする、請求項8に記載の脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化10】
【請求項10】
前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることを特徴とする、請求項9に記載の脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化11】
【化12】
【請求項11】
前記式(II)で表される化合物が、下記式(VI)で表されるものであることを特徴とする、請求項8に記載の脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化13】
【請求項12】
前記式(VI)で表される化合物が、下記式(VII)で表されるものであることを特徴とする、請求項11に記載の脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化14】
【請求項13】
下記式(IV)、(V)及び(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有する、インスリン感受性を増強するための機能性食品。
【化15】
【化16】
【化17】
【請求項14】
下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる、少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有する、脂肪細胞分化促進用健康食品。
【化18】
【化19】
【請求項15】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(III)で表されるものであることを特徴とする、請求項14に記載の脂肪細胞分化促進用健康食品。
【化20】
【請求項16】
前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることを特徴とする、請求項15に記載の脂肪細胞分化促進用健康食品。
【化21】
【化22】
【請求項17】
前記式(II)で表される化合物が、下記式(VII)で表されるものであることを特徴とする、請求項14に記載の脂肪細胞分化促進用健康食品。
【化23】
【請求項18】
下記式(IV)、(V)及び(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有する、インスリン感受性を増強するための健康食品。
【化24】
【化25】
【化26】
【請求項1】
下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1以上のものを含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進剤。
【化1】
【化2】
(上記式中、R1及びR2は、炭素数1〜4のアルケニル基を表す。)
【請求項2】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(III)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【化3】
【請求項3】
前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることを特徴とする、請求項2に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【化4】
【化5】
【請求項4】
前記式(II)で表される化合物が、下記式(VI)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【化6】
【請求項5】
前記式(VI)で表される化合物が、下記式(VII)で表されるものであることを特徴とする、請求項4に記載の脂肪細胞分化促進剤。
【化7】
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪細胞分化促進剤を含む、糖尿病治療剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪細胞分化促進剤を含む、インスリン感受性増強剤。
【請求項8】
下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる化合物を含有するコウボク抽出物を有効成分とする、脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化8】
【化9】
【請求項9】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(III)で表されるものであることを特徴とする、請求項8に記載の脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化10】
【請求項10】
前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることを特徴とする、請求項9に記載の脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化11】
【化12】
【請求項11】
前記式(II)で表される化合物が、下記式(VI)で表されるものであることを特徴とする、請求項8に記載の脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化13】
【請求項12】
前記式(VI)で表される化合物が、下記式(VII)で表されるものであることを特徴とする、請求項11に記載の脂肪細胞分化促進用機能性食品。
【化14】
【請求項13】
下記式(IV)、(V)及び(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有する、インスリン感受性を増強するための機能性食品。
【化15】
【化16】
【化17】
【請求項14】
下記式(I)で表されるフェニルプロパノイド、下記式(II)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる、少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有する、脂肪細胞分化促進用健康食品。
【化18】
【化19】
【請求項15】
前記式(I)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(III)で表されるものであることを特徴とする、請求項14に記載の脂肪細胞分化促進用健康食品。
【化20】
【請求項16】
前記式(III)で表されるフェニルプロパノイドが、下記式(IV)又は(V)で表されるものであることを特徴とする、請求項15に記載の脂肪細胞分化促進用健康食品。
【化21】
【化22】
【請求項17】
前記式(II)で表される化合物が、下記式(VII)で表されるものであることを特徴とする、請求項14に記載の脂肪細胞分化促進用健康食品。
【化23】
【請求項18】
下記式(IV)、(V)及び(VII)で表される化合物、それらの誘導体、生理学的に許容されるそれらの塩、及び生理学的に許容されるそれらの水和物からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上のものを有効成分として含有する、インスリン感受性を増強するための健康食品。
【化24】
【化25】
【化26】
【図1B】
【図3A】
【図3B】
【図4B】
【図4D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図9A】
【図9B】
【図1A】
【図2】
【図4A】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図3A】
【図3B】
【図4B】
【図4D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図9A】
【図9B】
【図1A】
【図2】
【図4A】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【公開番号】特開2010−202536(P2010−202536A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47327(P2009−47327)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月20日 「日本生薬学会第55回年会」において文書をもって発表
【出願人】(399056255)株式会社エリナ (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月20日 「日本生薬学会第55回年会」において文書をもって発表
【出願人】(399056255)株式会社エリナ (2)
【Fターム(参考)】
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