説明

脂肪肝予防及び/又は抑制剤

【課題】脂肪肝の予防及び/又は抑制に有効な医薬品や飲食品及び飼料を提供すること。
【解決手段】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の菌体を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤並びに脂肪肝予防及び/又は抑制剤を配合した飲食品、飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪肝とは肝臓に中性脂肪が過剰に沈着し、肝障害を来たす疾患の総称である。通常ヒトでは肝臓に3〜5%程度の脂質を含むが、肝脂質量が10%を超えると脂肪肝と診断される。脂肪肝は過食や運動不足、アルコールの過剰摂取、ウイルス感染などの様々な要因により発症することが知られている。肝疾患の簡易的な診断には、肝臓に多く存在することが知られているGPT(グルタミン酸-ピルビン酸トランスアミラーゼ)やGOT(グルタミン酸-オキザロ酢酸トランスアミラーゼ)などの血液マーカーにより評価されることが一般的である。しかしながら脂肪肝においてはこれらの血液マーカーの変動が軽度であることが多く、また、ほとんどの場合自覚症状が無いため、発見が遅れがちになることが多い。
【0003】
近年、肥満者の増加に伴い非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者が世界的に増加している。NAFLDは脂肪肝のうち、アルコール多飲歴がなく、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎などの原因の明らかなものを除外したものである。生活習慣に起因するNAFLDはメタボリックシンドロームの肝病変であるといわれ、最も高頻度に存在する肝疾患であり成人の10〜30%が該当すると考えられている(例えば、非特許文献1)。また、NAFLDには非進行性の単純脂肪肝と肝硬変、肝発癌へと進展しうる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が含まれる。NASHは脂肪肝形成を基盤として、さらに酸化ストレスや炎症性サイトカインが誘導されることにより病態が形成される。NASH患者は今後も増加していくと考えられているが、現状では標準となる治療法が確立されていないため、日頃から脂肪肝の予防及び改善に取り組むことが健康を維持する上で非常に重要であると考えられる。
【0004】
脂肪肝を予防及び改善するためには、日常の栄養管理の徹底や適度な運動などの健康管理を継続的に行うことにより、エネルギー摂取と消費のバランスを良好な状態で維持することが必要となる。しかし、忙しい現代社会を取り巻く環境の中では、不規則な生活リズム、偏った栄養摂取、運動不足の状態から脱却することは容易ではない。そのため、十分な効果を期待でき、手軽にかつ安全に実践できる方法が求められる。
【0005】
脂肪肝を予防・治療する方法に関し、共役ジエンリノール酸の有効量を製剤担体もしくは食品用担体と共に含有することを特徴とする肝臓脂肪蓄積抑制組成物(例えば、特許文献1)、高度不飽和脂肪酸含有油脂にリン脂質を約25〜約70重量%含有する卵黄脂質を配合したことを特徴とする油脂組成物(例えば、特許文献2)、グルカゴン分泌作用を有するアミノ酸類の少なくとも一種、キサンチン誘導体の少なくとも一種及びチアミン化合物の少なくとも一種を含有する組成物(例えば、特許文献3)、大豆から油脂を製造する工程で生じる粗大豆レシチンを、有機溶剤、吸着剤、イオン交換樹脂などにより分画して得られる、肝臓中性脂肪合成抑制作用を有する粗大豆レシチン分画物、当該粗大豆レシチン分画物を公知の原材料に配合した飲食物、動物用飼料もしくは医薬(例えば、特許文献4)などの技術が開示されている。
【0006】
また、ラクトバチルス・ヘルベティカスを有効成分とする内臓脂肪蓄積抑制剤(例えば、特許文献5)及び内臓脂肪減少剤(例えば、特許文献6)やラクトバチルス属乳酸菌の培養物などを有効成分とする血中アディポネクチン濃度増加促進及び/又は減少抑制剤が開示されている(例えば、特許文献7)。
さらに、コール酸を吸着する能力及びコール酸を変換又は分解する能力を調べ、コール酸を吸着する能力及びコール酸を変換又は/及び分解する能力に優れた株を選択する工程を含む、生体内のコレステロールを低減させる作用を有する乳酸菌のスクリーニング方法(例えば、特許文献8)や乳酸菌のミセル中コレステロールを減少させる能力に優れた株を選択する工程を含む、生体内のコレステロールを低減させる作用を有する乳酸菌のスクリーニング方法が開示されている(例えば、特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−79987号公報
【特許文献2】特開平10−237480号公報
【特許文献3】特開平10−158170号公報
【特許文献4】特開平10−84879号公報
【特許文献5】特開2008−63227号公報
【特許文献6】特開2008−214253号公報
【特許文献7】特開2008−63289号公報
【特許文献8】特開2004−208577号公報
【特許文献9】特開2006−217879号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】橋本悦子、最新医学63巻9号 1672頁、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜4に様々な物質が開示されているが、ラクトバチルス・ヘルベティカスに関する示唆や記載はない。
特許文献5及び6にラクトバチルス・ヘルベティカスを有効成分とする内臓脂肪蓄積抑制剤及び内臓脂肪減少剤が開示されているが、腸間膜、腎周囲や後腹壁などの脂肪組織に関するものであり、脂肪組織ではない肝臓に中性脂肪が過剰に沈着して肝障害を起こす脂肪肝疾患に関する作用については開示されていない。さらに、肝臓に脂肪が蓄積することは脂肪変性といわれ疾病状態であり症状が進むと肝障害を引き起こすが、腸間膜、腎周囲や後腹壁などの脂肪組織はもともと脂肪を蓄積する臓器であるため、過剰量でなければ脂肪が蓄積すること自体は異常な(疾病状態)ことではないため、これらは全く異なるものであると考えられている。
特許文献7にラクトバチルス属乳酸菌の培養物などを有効成分とする血中アディポネクチン濃度増加促進及び/又は減少抑制剤が開示されているが、血中のアディポネクチン濃度に関するものであり、血栓症、糖代謝異常など将来的な循環器系疾患の発症に関連するものであり、脂肪肝疾患に関する作用については開示されていない。
特許文献8、9では、乳酸菌によるコレステロール低下効果が開示されているが、その効果はin vitro試験によるコレステロールの減少のみであり、肝臓におけるコレステロールとトリグリセリド(中性脂質)の両方の減少が認められる本発明とは異なる。なお、コレステロールの減少のみでは脂肪肝予防や抑制までの効果は得られないと考えられている。
【0010】
本発明はラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)により、肝臓のコレステロール及びトリグリセリドを減少し、脂肪肝の予防や抑制に有効な剤、該剤を配合した飲食品及び飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、下記のいずれかの構成からなる発明である。
(1)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の菌体を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
(2)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
(3)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養上清を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
(4)前記培養物が乳製品である上記(2)に記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
(5)前記乳製品がチーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料のいずれかである上記(4)に記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
(6)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)がSBT2171株(FERM BP-5445)である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤を配合した脂肪肝予防及び/又は抑制用飲食品。
(8)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤を配合した脂肪肝予防及び/又は抑制用飼料。
【0012】
また、本発明の別の態様は、以下のいずれかの構成を含む。
(a)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の菌体を投与することを特徴とする脂肪肝予防及び/又は抑制方法。
(b)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物を投与することを特徴とする脂肪肝予防及び/又は抑制方法。
(c)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養上清を投与することを特徴とする脂肪肝予防及び/又は抑制方法。
(d)前記培養物が乳製品である上記(b)に記載の脂肪肝予防及び/又は抑制方法。
(e)前記乳製品がチーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料のいずれかである上記(d)に記載の脂肪肝予防及び/又は抑制方法。
(f)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)がSBT2171株(FERM BP-5445)である上記(a)〜(e)のいずれかに記載の脂肪肝予防及び/又は抑制方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤、脂肪肝予防及び/又は抑制剤を配合した飲食品、飼料は、肝臓における脂肪蓄積を抑制し、脂肪肝の予防及び/又は抑制に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物を飼料に混合してラットに投与した場合の4週目、8週目のGPT濃度を示した図である。
【図2】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物を飼料に混合してラットに投与した場合の4週目、8週目のGOT濃度を示した図である。
【図3】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物を飼料に混合してラットに投与した場合の8週目の肝臓コレステロールを示した図である。
【図4】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物を飼料に混合してラットに投与した場合の8週目の肝臓トリグリセリドを示した図である。
【図5】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物をコレステロール添加飼料に混合してラットに投与した場合の4週目の肝臓コレステロールを示した図である。
【図6】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物をコレステロール添加飼料に混合してラットに投与した場合の4週目の肝臓トリグリセリドを示した図である。
【図7】ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物をコレステロール添加飼料に混合してラットに投与した場合の4週目の糞中脂質排出量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
脂肪肝の予防や抑制のために、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)を用いることができるが、特に、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)、SBT2195(FERM P-11538)、SBT2196(FERM P-11676)、SBT0064(FERM P-21079)、SBT0402(FERM P-21559)等が好ましいが、特に限定されるものではない。
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)は、乳酸菌培養の常法に従って培養することができる。培養培地には、乳培地又は乳性分を含む培地、これを含まない半合成培地など種々の培地を用いることができる。このような培地としては、還元脱脂乳培地などを例示することができる。
得られた培養物から遠心分離などの集菌手段によって分離された菌体をそのまま本発明の有効成分として用いることができる。濃縮、乾燥、凍結乾燥などした菌体を用いることもできるし、加熱乾燥などにより死菌体にしてもよい。
菌体として純粋に分離されたものだけでなく、培養物、懸濁物、その他の菌体含有物や、菌体を酵素や物理的手段を用いて処理した細胞質や細胞壁画分も用いることができる。
培養物などの形態としては、合成培地であるMRS培地(DIFCO社)、還元脱脂乳培地など一般的に乳酸菌の培養に用いられる培地を用いた培養物だけでなく、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料などの乳製品などを例示することができるが特に限定されるものではない。
さらに、得られた培養物から遠心分離、濾過操作などの方法を用いて、乳タンパク質沈殿や菌体成分を除去することによって調製した培養上清なども用いることができる。固形分が少ない上清であるため、飲食品などへの適用範囲が広くなる。例えば、還元脱脂乳培養物を5,000rpm、10分間遠心分離することにより培養上清を調製することができる。
【0016】
製剤化に際しては製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して濃縮、凍結乾燥するほか、加熱乾燥して死菌体にしてもよい。これらの乾燥物、濃縮物、ペースト状物も含有される。また、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の脂肪肝予防及び/又は抑制作用を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能であり、これらを経口的に投与することが望ましい。
【0017】
本発明の脂肪肝予防及び/又は抑制剤はどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0018】
さらに、本発明の脂肪肝予防及び/又は抑制剤を飼料に配合することができる。前記飲食品と同様にどのような飼料に配合しても良く、飼料の製造工程中に原料に添加しても良い。
【0019】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)を配合して、脂肪肝予防及び/又は抑制剤あるいは、脂肪肝予防及び/又は抑制用飲食品、飼料などの素材又はそれら素材の加工品に配合させて使用する場合、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の配合割合は特に限定されず、製造の容易性や好ましい一日投与量にあわせて適宜調節すればよい。投与対象者の症状、年齢などを考慮してそれぞれ個別に決定されるが、通常成人の場合、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物などを10〜200g、あるいはその菌体自体を0.1〜5,000mg摂取できるように配合量などを調整すればよい。このようにして摂取することにより所望の効果を発揮することができる。
【0020】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
原料乳を加熱殺菌(75℃、15秒間)した後、30℃まで冷却し、0.01%塩化カルシウムを添加した。さらに、市販乳酸菌スターター(LDスターター、クリスチャン・ハンセン社)0.7%及びラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)1%を添加し、さらにレンネット0.003%を添加して、乳を凝固させた。このようにして得られた凝乳をカッティングし、pHが6.2〜6.1となるまで撹拌してホエーを排出して、カード粒を得た。そして、このカード粒を型詰めして圧搾し、さらに加塩して、10℃で熟成させ、ゴーダチーズタイプの硬質ナチュラルチーズを調製した。この硬質ナチュラルチーズ(6ヶ月熟成)をミンチ器(GM‐DX、日本キャリア社製)を用いてミンチし、凍結乾燥を行った。その後、コーヒーミルにより微細化し、ラクトバチルス・ヘルベティカスの培養物であるチーズ粉を得た。
[試験例1]
【0022】
(脂肪肝予防及び/又は抑制作用の確認)
実施例1で得たラクトバチルス・ヘルベティカスの培養物であるチーズ粉を使用して、脂肪肝予防及び/又は抑制作用を確認した。動物実験には4週齢のFischer系雄性ラットを用いた。1群6匹とし、培養物を配合した高脂肪飼料を投与した群(培養物配合食群)、カゼイン、乳脂20%を配合した高脂肪飼料を投与した群(コントロール食群)の2群で行なった。2つの飼料はチーズの成分分析の結果を元に、脂肪含量、タンパク質含量、主要ミネラル含量をそろえて設計した(表1参照)。
【0023】
【表1】

【0024】
動物実験は、1週間の予備飼育後、2群に分けて8週目までコントロール食、培養物配合食を与えた。4週目、8週目に採血を行い、肝障害マーカーであるGOT、GPT濃度を測定した(富士ドライケム7000v、富士フィルム(株))。また、飼育最終日に解剖を行い、肝臓を採取し、その一部よりFolchらの方法に従い肝臓脂質を抽出し、肝臓脂質含量を測定した。
【0025】
コントロール食群と培養物配合食群では、摂食量、体重変化には差が認められなかった。また、2群間で肝障害マーカーであるGPT、GOT濃度に差は認められなかった(図1、図2)。肝臓中の脂質含量を測定したところ、コレステロール及びトリグリセリド(富士ドライケム7000v、富士フィルム(株))とも培養物配合食群において有意に減少していた(図3、図4)。
よって、肝臓に障害を与える前段階の脂肪蓄積を抑制する作用が認められ、脂肪肝の予防や抑制効果があることが明らかである。
[試験例2]
【0026】
(食餌性高コレステロール血症における脂肪肝予防及び/又は抑制作用の確認)
実施例1で得たラクトバチルス・ヘルベティカスの培養物であるチーズ粉を配合したコレステロール添加飼料を用いて、脂肪肝予防及び/又は抑制作用を確認した。動物実験には4週齢のFischer系雄性ラットを用いた。1群6匹とし、カゼイン、乳脂をそれぞれ20%配合した高脂肪飼料を投与した群(コントロール食群)、培養物を配合した高脂肪飼料を投与した群(培養物群)、培養物を半量配合した高脂肪飼料を投与した群(培養物1/2群)の3群を設定した。すべての飼料にはコレステロール0.5%、コール酸ナトリウム0.15%を配合して高コレステロール血症誘発飼料とした。3つの飼料はチーズの成分分析の結果を元に、タンパク質含量、脂肪含量、主要ミネラル含量をそろえて設計した(表2参照)。
【0027】
【表2】

【0028】
動物実験は、1週間の予備飼育後、3群に分けて4週目までコントロール食、培養物配合食、培養物半量配合食を与えた。4週目に代謝ケージに移し3日分の糞を回収した。得られた糞を凍結乾燥した後に破砕し、濃塩酸を反応させてからエーテルにより糞中粗脂肪を抽出し、エーテルを蒸発させた重量を測定した。また、飼育最終日に解剖を行い、試験例1と同様の方法により肝臓脂質含量を測定した。
【0029】
摂食量、体重変化には3つの群間で差が認められなかった。肝臓中の脂質含量を測定したところ、コレステロール及びトリグリセリドとも培養物配合食群、培養物1/2配合食群においてコントロール食群と比べて有意に減少していた(図5、図6)。糞中脂質排出量は培養物配合食群でコントロール食群より増加がみられたが、培養物1/2配合食群ではコントロール食群との差は認められなかった(図7)。
よって、食餌性高コレステロール血症の状況においても、肝臓における脂肪蓄積を抑制しており、脂肪肝の予防や抑制効果がある。
【実施例2】
【0030】
13%還元脱脂乳培地を95℃で30分間殺菌した後、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)を接種し、37℃で16時間培養し、得られた培養物を凍結乾燥してラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)の培養物粉末を得た。これはそのまま脂肪肝予防及び/又は抑制剤として用いることができる。
【実施例3】
【0031】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)のMRS(DIFCO社)培養物を、4℃、7,000rpmで15分間遠心分離した後、滅菌水による洗浄と遠心分離を3回繰り替えして行い、洗浄菌体を得た。この洗浄菌体を凍結乾燥処理して菌体粉末とした。これはそのまま脂肪肝予防及び/又は抑制剤として用いることができる。
【実施例4】
【0032】
実施例3で調製した菌体粉末1部に脱脂粉乳4部を混合し、この混合粉末を打錠機により1gずつ常法により打錠して、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)の菌体200mgを含む錠剤を調製した。
【実施例5】
【0033】
10%還元脱脂乳培地を115℃で15分間滅菌した後、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)を接種し、37℃で16時間培養し、
脱脂乳培養物を調製した。100℃にて10分間殺菌した発酵ミックス(16%脱脂粉乳+3%グルコース)に接種し、39℃で10時間発酵させて脂肪肝予防及び/又は抑制用発酵乳を得た。ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)の生菌数は5×108cfu/gであった。
【実施例6】
【0034】
10%還元脱脂乳培地でそれぞれ培養したラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus )SBT2171株(FERM BP-5445)を95℃で90分殺菌した発酵ミックス(16%脱脂粉乳+3%グルコース)10gに3%となるように添加し、35℃で20時間培養した。この培養物10gを異性化糖40gと混合し(BRIX 15%)、脂肪肝予防及び/又は抑制用乳製品乳酸菌飲料を得た。
【実施例7】
【0035】
還元脱脂乳培地(13重量%脱脂粉乳、0.5%酵母エキス)を95℃で30分間殺菌した後、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus )SBT2171株(FERM BP-5445)を接種し、37℃で16時間培養し、得られた培養物を5,000rpmで20分間遠心して、沈殿物を除いた培養上清を得た。これはそのまま脂肪肝予防及び/又は抑制剤として用いることができる。
【実施例8】
【0036】
実施例1で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus )SBT2171株(FERM BP-5445)の培養物であるチーズ粉50gに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、脂肪肝予防及び/又は抑制用健康食品を得た。
【実施例9】
【0037】
大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、実施例1で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)10kgを配合して、脂肪肝予防及び/又は抑制用飼料を製造した。
【実施例10】
【0038】
13%還元脱脂乳培地を95℃で30分間殺菌した後、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2195株(FERM P-11538)を接種し、37℃で16時間培養し、得られた培養物を凍結乾燥してラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2195株(FERM P-11538)の培養物粉末を得た。これはそのまま脂肪肝予防及び/又は抑制剤として用いることができる。
【実施例11】
【0039】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2196株(FERM P-11676)のMRS(DIFCO社)培養物を、4℃、7,000rpmで15分間遠心分離した後、滅菌水による洗浄と遠心分離を3回繰り替えして行い、洗浄菌体を得た。この洗浄菌体を凍結乾燥処理して菌体粉末とした。これはそのまま脂肪肝予防及び/又は抑制剤として用いることができる。
【実施例12】
【0040】
10%還元脱脂乳培地を115℃で15分間滅菌した後、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT0064株(FERM P-21079)を接種し、37℃で16時間培養し、
脱脂乳培養物を調製した。100℃にて10分間殺菌した発酵ミックス(16%脱脂粉乳+3%グルコース)に接種し、39℃で10時間発酵させて脂肪肝予防及び/又は抑制用発酵乳を得た。ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT0064株(FERM P-21079)の生菌数は7×108cfu/gであった。
【実施例13】
【0041】
原料乳を加熱殺菌(75℃、15秒間)した後、30℃まで冷却し、0.01%塩化カルシウムを添加した。さらに、市販乳酸菌スターター(LDスターター、クリスチャン・ハンセン社)0.7%及びラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT0402株(FERM P-21559)1%を添加し、さらにレンネット0.003%を添加して、乳を凝固させた。このようにして得られた凝乳をカッティングし、pHが6.2〜6.1となるまで撹拌してホエーを排出して、カード粒を得た。そして、このカード粒を型詰めして圧搾し、さらに加塩して、10℃で熟成させ、ゴーダチーズタイプの脂肪肝予防及び/又は抑制用硬質ナチュラルチーズを調製した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の菌体などを有効成分として、脂肪肝の予防や抑制をすることができる。さらに、脂肪肝予防及び/又は抑制剤として、飲食品、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物や飼料などに配合することが可能である。
【受託番号】
【0043】
FERM BP-5445
FERM P-11538
FERM P-11676
FERM P-21079
FERM P-21559
【0044】
[寄託生物材料への言及]
(1)SBT2171
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
工業技術院生命工学工業技術研究所(現在の独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成6年6月22日(原寄託日)
平成8年3月6日(原寄託によりブタペスト条約に基づく寄託への移管日)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP-5445
(2)SBT2195
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
工業技術院微生物工業技術研究所(現在の独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成2年6月18日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM P-11538
(3)SBT2196
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
前記(2)に同じ
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成2年8月23日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM P-11676
(4)SBT0064
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305-8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成18年11月8日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM P-21079
(5)SBT0402
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
前記(4)に同じ
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成20年3月28日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM P-21559

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の菌体を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
【請求項2】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
【請求項3】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養上清を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
【請求項4】
前記培養物が乳製品である請求項2に記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
【請求項5】
前記乳製品がチーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料のいずれかである請求項4に記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
【請求項6】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)がSBT2171株(FERM BP-5445)である請求項1乃至5のいずれかに記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤を配合した脂肪肝予防及び/又は抑制用飲食品。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の脂肪肝予防及び/又は抑制剤を配合した脂肪肝予防及び/又は抑制用飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−201801(P2011−201801A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69468(P2010−69468)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【Fターム(参考)】