説明

脂肪酸アルキルエステルの製造方法、並びに、ディーゼル燃料

【課題】脂肪酸アルキルエステルを高純度、高変換率、低環境負荷プロセス、低コストで製造可能な脂肪酸アルキルエステルの製造方法、並びに、該製造方法により製造されるディーゼル燃料を提供すること。
の提供。
【解決手段】本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、ホスファゼン化合物の存在下で、油脂と、炭素数1〜4のアルコール類とのエステル交換反応を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファゼン化合物をアルカリ触媒として、油脂と低級アルコール類をエステル交換させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法に関する。また、本発明は、前記脂肪酸アルキルエステルの製造方法により製造された脂肪酸アルキルエステルを含むバイオディーゼル燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策と燃料資源多様化の観点から、軽油の代替燃料としてバイオディーゼル燃料(BDF)が注目されている。BDFは、油脂を低級アルコールでエステル交換することにより得られる脂肪酸エステルを主成分とする燃料であり、油脂の起源が植物であるから燃料原料として燃焼しても地球温暖化の原因になる地表上の二酸化炭素を増加させず(カーボンニュートラル)地球温暖化防止に貢献し得る燃料である。
さらに、脂肪酸アルキルエステル燃料は石油などから精製する燃料と違い、植物を原料とした油脂が硫黄分をほとんど含んでいないことから、燃焼時に硫黄酸化物をほとんど排出しない特徴を有している。また、排ガス中の一酸化炭素や浮遊微粒子物質も軽油に比して大幅に低減でき、ディーゼル燃料として使用した場合、人体への悪影響が軽油を使用した場合より大きく低減される。
【0003】
従来、油脂を原料として脂肪酸エステルを合成する方法は種々の方法が知られている。 例えば、水酸化ナトリウム等の塩基の存在下で油脂とメタノールとを反応させて、脂肪酸メチルエステルとグリセリンを得た後、これらに対し、それぞれ水洗、中和等を行って脂肪酸エステルを精製する方法が知られている(非特許文献1参照)。この反応を利用して、油脂類からディーゼル燃料油として使用できるアルキルエステルを製造する技術についてもこれまで様々検討されており、例えば、特許文献1〜3には、水酸化アルカリの存在下で廃食用油とメタノールを反応させてディーゼル燃料を製造することが記載されている。
【0004】
水酸化アルカリを触媒に用いるこれらの反応は、触媒が安価で、かつ短時間で反応が完結するために、油脂のエステル交換法としては有効な反応であるが、様々な問題があった。
例えば、特許文献1記載の方法は、大量に洗浄水を使用するので、触媒、油脂、脂肪酸アルキルエステル、グリセリン、石鹸などが含まれる大量の洗浄廃水が排出され、環境に与える負荷が大きい。しかも、洗浄した後の脂肪酸アルキルエステルには、水が残存しているので、ディーゼル燃料として使用する場合、この水を減圧乾燥などにより取り除く必要があり、エネルギーを消費し、プロセスが複雑になるという欠点がある。
【0005】
このような問題を解決する方法として、エステル交換反応後に酸を加えて反応混合物を中和することで脂肪酸アルキルエステルを取り出しやすくする方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。この方法では、中和によって石鹸を分解し、脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
しかしながら、中和によって石鹸を分解して得られる脂肪酸は、脂肪酸アルキルエステルに溶解しやすくなり、脂肪酸アルキルエステル相のゲル化を引き起こすなど、保存安定性を低下させてしまう問題があった。
【0006】
この観点に照らして、水酸化アルカリ以外の塩基を触媒として利用し、水洗処理及び水洗水の排水処理を必要としない方法がいくつか開示されている。
例えば、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムを使用する方法(特許文献5参照)、油脂とアルコールとをZnO、またはZnとAlの複合酸化物触媒下において、170〜250℃の範囲、10MPa以下で反応させる方法(特許文献6参照)、酸化カルシウムを含む固体触媒(特許文献7及び8参照)、酸化カルシウムと超音波照射(非特許文献2参照)、マグネシウムの酸化物、水酸化物及び炭酸塩よりなる群の利用(特許文献9参照)等の方法が開示されている。
しかしながら、いずれの触媒も反応活性が低く、高温、高圧であり、また、触媒やメタノールの使用量が多いなど、工業的に大規模での実施を行うには課題が多い。
【0007】
また、特許文献10には、触媒としてアミンと水を用いる方法が記載されているが、メタノールの使用量、反応温度、反応時間、蒸留操作の観点から、エネルギー効率が低い。特許文献11には、同じく塩基としてアミンを用い、反応後の生成物の分離にCO2を用いる方法が記載されているが、メタノールや塩基の使用量が多く、工業的な大規模での実施を行うには課題が多い。
さらに、リン酸のアルカリ金属塩を触媒に用いる方法が特許文献12に記載されている。この方法は、エステル交換が円滑に進行し、目的物の分離も比較的容易だが、触媒のコストが水酸化アルカリに比して高く、かつ、触媒が水を吸収し易いため回収再使用が困難で結果として経済性に課題がある。
【0008】
一方、触媒を用いないでエステル交換を進行させる方法も開発されている(例えば、特許文献13〜15参照)。
しかしながら、これらの文献に記載された条件では、エステル交換反応の変換率が低く、反応条件が高温、高圧であり、実用的でないという問題がある。
工業的に大規模での実施を行う場合、原料油脂から脂肪酸アルキルエステルへの変換率が1%異なるだけで、バイオディーゼル燃料としての性能を大きく改良することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−197047号公報
【特許文献2】特開平7−310090号公報
【特許文献3】特開平9−235573号公報
【特許文献4】特開2005−15562号公報
【特許文献5】特開昭61−254255号公報
【特許文献6】米国特許第5908946号明細書
【特許文献7】特開2001−271090号公報
【特許文献8】特開2004−35873号公報
【特許文献9】特開2002−308825号公報
【特許文献10】特開2002−167356号公報
【特許文献11】特開2005−29715号公報
【特許文献12】特開2007−77347号公報
【特許文献13】特開2000−109883号公報
【特許文献14】特開2000−143586号公報
【特許文献15】特開2005−60591号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「有機化学ハンドブック」,技報堂出版,1988年,p.1407〜1409
【非特許文献2】「バイオリソース技術(Bioresource Technology)」,1999年,第70巻,p.249−253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、脂肪酸アルキルエステルを高純度、高変換率、低環境負荷プロセス、低コストで製造可能な脂肪酸アルキルエステルの製造方法、並びに、該製造方法により製造されるディーゼル燃料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> ホスファゼン化合物の存在下で、油脂と、炭素数1〜4のアルコール類とのエステル交換反応を行うことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
<2> ホスファゼン化合物の共役酸のpKaが、12以上である前記<1>に記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
<3> 油脂が、炭素数14以上の高級飽和脂肪酸を40モル%以下含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
<4> 高級飽和脂肪酸が、パルミチン酸とステアリン酸とを含み、前記高級飽和脂肪酸における前記パルミチン酸と前記ステアリン酸とを合わせた組成比が30モル%以下である前記<3>に記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
<5> 油脂が、ジャトロファ油、大豆油、コーン油、オリーブ油、ひまわり油、ナタネ油、クフェア油、アマニ油、綿実油、キリ油のいずれかから選択される前記<1>から<4>のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
<6> 油脂が、ジャトロファ油である前記<1>から<5>のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法により製造された脂肪酸アルキルエステルを1質量%〜100質量%含むことを特徴とするディーゼル燃料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、脂肪酸アルキルエステルを高純度、高変換率、低環境負荷プロセス、低コストで製造可能な脂肪酸アルキルエステルの製造方法、並びに、該製造方法により製造されるディーゼル燃料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(脂肪酸アルキルエステルの製造方法)
本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、ホスファゼン化合物の存在下で、油脂と、炭素数1〜4のアルコール類とのエステル交換反応を行うこととしてなる。
【0015】
<ホスファゼン化合物>
前記ホスファゼン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知のホスファゼン化合物を使用することができる。例えば、「ホスファゼン化学の基礎」(梶原鳴雪著、シーエムシー出版(2002))等に記載のホスファゼン化合物を使用することができるが、リン原子がジ置換アミノ基で置換された環状ホスファゼン化合物や鎖状ホスファゼン化合物、イミノホスフォラン化合物、P=N結合が連続するホスファゼン化合物ポリマー等が好ましく用いられる。
なお、本明細書において、ホスファゼン化合物とは、リン原子と窒素原子との二重結合を含有する化合物の総称を意味する。
【0016】
ホスファゼン化合物の共役酸のpKaとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12以上が好ましく、一般的にはpKaが高いものほど好ましい。
このようなホスファゼン化合物としては、特に制限はなく、例えば、Angew.Chem.Int.Ed.,32,1361(1993)、特開2001−106780号公報、「ファインケミカル誌」Vol.32,P14(2003)等に記載されるような強塩基性のホスファゼン化合物を挙げることができるが、以下に示すホスファゼン化合物が好ましい。
【0017】
即ち、前記ホスファゼン化合物としては、下記構造式(1)に示すリン原子がジ置換アミノ基で置換された環状ホスファゼン化合物が好ましい。
【0018】
【化1】

ただし、上記構造式(1)において、Rは、アルキル基及び置換アルキル基のいずれかを示す。
【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
また、前記ホスファゼン化合物としては、下記構造式からなる環状ホスファゼン化合物が好ましい。
【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
また、前記ホスファゼン化合物としては、下記構造式(2)に示すリン窒素二重結合を繰り返し単位として含むホスファゼン化合物ポリマーが好ましい。
【0028】
【化9】

ただし、上記構造式(2)において、R’は、アルコキシ基、アリールオキシ基及びジ置換アミノ基のいずれかを示し、中でもジ置換アミノ基がより好ましい。
【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
また、前記ホスファゼン化合物としては、下記構造式(3)に示すホスファゼン化合物が好ましい。
【0032】
【化12】

ただし、上記構造式(3)において、Rは、アルキル基及び置換アルキル基のいずれかを示し、Aは、酸素原子又はN−Rで表される基を示す。
【0033】
【化13】

【0034】
【化14】

【0035】
また、前記ホスファゼン化合物としては、下記構造式からなるホスファゼン化合物が好ましい。
【0036】
【化15】

【0037】
【化16】

【0038】
前記ホスファゼン化合物の使用量としては、特に制限はなく、原料油脂のケン化価及び酸価によって変更することができるが、原料油脂100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部が好ましく、0.5質量部〜10質量部がより好ましく、0.5質量部〜5質量部が特に好ましい。
なお、原料油脂の酸価を予め滴定により測定しておき、遊離脂肪酸の中和に必要な量のホスファゼン化合物を前記使用量に追加するように使用することが好ましい。
【0039】
<油脂>
前記油脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ジャトロファ油(和名:ナンヨウアブラギリ)、大豆油、コーン油、オリーブ油、ひまわり油、ナタネ油、クフェア油、アマニ油、綿実油、キリ油などが好ましく、ジャトロファ油、大豆油、コーン油、ひまわり油、ナタネ油がさらに好ましい。
【0040】
その中でも、ジャトロファ油は、有毒成分を含むため食用とならず極めて安価であること、ジャトロファが降水量の少ない地域や痩せた土地でも生育すること、ジャトロファ油から得られる脂肪酸アルキルエステルはセタン価が高く曇点や流動点が比較的低いこと、前記ホスファゼン化合物触媒により、高純度の脂肪酸アルキルエステルを与える等、バイオディーゼル燃料の原料として具備すべき多くの利点を有するので最も好ましい。
【0041】
また、前記油脂としては、炭素数14以上の高級飽和脂肪酸の組成が40モル%以下である油脂が好ましく、30モル%以下がより好ましい。
前記組成比が40モル%以下であると、低い曇点、流動点及び目詰まり点を有し、低い環境温度でも固化しない脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
【0042】
前記高級飽和脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸が挙げられる。
前記高級飽和脂肪酸としては、下記構造式に示す、油脂中のトリグリセリド分子を構成する3つの基のいずれかとして存在する。
【化17】

ただし、前記構造式中、R、R、及びRは、炭素数11以上のアルキル基又はアルケニルを表す。
【0043】
前記高級飽和脂肪酸がパルミチン酸とステアリン酸とを含む場合には、前記高級飽和脂肪酸における前記パルミチン酸と前記ステアリン酸とを合わせた組成比が30モル%以下であるのが好ましく、25モル%以下であるのがより好ましい。
前記組成比が、30モル%を超えると、脂肪酸アルキルエステルが環境温度で固化するという問題が発生する不都合がある。
【0044】
なお、前記油脂における前記高級脂肪酸の組成は、以下の通りである。
【表1】

【0045】
また、バージン(未使用)植物油以外に食品工場、飲食店、一般家庭などから廃棄される廃食油なども本発明における油脂として用いることができ、これらの油脂を1種単独、若しくは混合した油脂、又はこれらの油脂を主成分とする油脂加工品も本発明における油脂として用いることができる。
【0046】
前記原料油脂の酸価としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1以下が特に好ましい。
酸価が高いものについては、ホスファゼン化合物の使用量を増加することでエステル交換反応を進行させることが可能であるが、反応後の目的生成物の分離を妨げる原因となるので好ましくない。この観点から、精製の不十分な油脂及び廃食油を原料に使用する際には、予め酸価を測定し、酸価が高い場合は、予め水酸化ナトリウムで処理して遊離脂肪酸を石鹸として分離するか、水蒸気蒸留により除去しておくことが好ましい。
【0047】
原料の油脂には通常、少量の水分が含まれるが、水分の存在は加水分解による遊離脂肪酸もしくは遊離脂肪酸と触媒のホスファゼン化合物との塩の生成を引き起こすので好ましくなく、加熱空気の送風による乾燥、減圧乾燥、ゼオライト類等の乾燥剤による乾燥等により油脂中の水分を除去することは本発明の効果を最大限に発現させるのに極めて有効である。
【0048】
また、前記原料油脂のうち、ヨウ素価が高く、酸化安定性が低いものについては、部分的に水素添加を行ったものを用いるのが好ましい。
【0049】
未精製の原料油脂を使用する場合には、未精製油脂に含まれるリン脂質を主成分とするガム質や、コロイド状不純物などの不溶物を除去するため、予め脱ガム処理を行うことが好ましい。
前記脱ガム処理の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、温水とともに吸着剤を未精製油脂に混合し、得られた混合物をその後ろ過して、不溶物を除去する方法、未精製の原料油脂に変性剤としてリン酸を添加するとともに吸着剤を添加してろ過する方法等が挙げられる。
【0050】
また、脱ガム処理の前後や、脱ガム処理中に、必要に応じて未精製の原料油脂から夾雑物を除去することが好ましい。
前記夾雑物の除去方法としては、特に制限はなく、油脂貯蔵タンクでの静置分離、ろ過、遠心分離等の方法で除去することができる。
【0051】
<アルコール類>
前記アルコール類としては、炭素数1〜4のアルコールとしてなる。
このようなアルコール類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール等の炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルコールが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上混合して使用してもよい。
得られた脂肪酸アルキルエステルの利用性の観点から、メタノール、エタノール、2−メチル−1−プロパノールを使用するのが好ましく、メタノール、2−メチル−1−プロパノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。
また、これらのアルコールにおける含水量としては、低いものが好ましく、含水量1%以下のものが好ましい。
【0052】
前記原料油脂に対するアルコール類の仕込み量としては、特に制限はなく、油脂類の平均分子量により変更させることができるが、油脂類がグリセリンのエステルであることから、通常、油脂1モル当り3モルのアルコール類が理論値となる。従って、例えば、油脂100質量部に対する仕込み当量は、以下の(A)式により計算される化学当量の倍数として表すことができる。
【0053】
Wt=(100/Mo)×3×Ma・・・・・・・(A)
Wt:アルコール類の当量仕込み量(質量部)
Mo:油脂類の平均分子量
Ma:アルコール類の平均分子量
【0054】
前記アルコール類の前記原料油脂に対する仕込み量としては、前記(A)式で計算された当量仕込み量Wtに対し、1.0倍〜30倍の比率で仕込まれることが好ましく、1.0倍〜5倍の比率で仕込まれることがより好ましく、1.0〜2.0倍の比率で仕込まれることが特に好ましい。
本発明では、強塩基性を有し疎水的なホスファゼン化合物触媒の存在下で反応を行うことにより、極めて反応活性なアルコキシドが効率良く生成し、化学量論量に近いアルコールの使用で十分にエステル交換が進行する。
エステル交換反応は本質的には平衡反応であり、目的生成物を高収率で得るためには、一般的にアルコールの使用量を原料に対して大過剰に用いる必要があるが、必要以上にアルコールを使用することは生成物からアルコールを除去するためのコストがかかり、経済的な観点から好ましくない。
これに対し、ホスファゼン化合物の存在下で反応を行う本発明の方法では、反応の進行に伴って生成したグリセリンが、生成した脂肪酸アルキルエステルと相分離を起こすために、アルコールの使用量を前記のような小過剰量として、反応させることが可能である。
【0055】
前記(A)式中の平均分子量としては、原料としての油脂類及びアルコールの成分組成に基づいて各々計算される。
例えば、油脂類の平均分子量が887、アルコール類がメタノール(平均分子量32)の場合のアルコールの当量仕込み量を前記(A)式に従って計算すると、油脂類100質量部に対して、メタノールを10.8質量部〜324質量部を仕込むことが好ましく、10.8質量部〜54.0質量部を仕込むことがより好ましく、10.8質量部〜21.6質量部を仕込むことが特に好ましいという結果となる。
【0056】
<エステル交換反応>
従来より知られている脂肪酸アルキルエステルの製造方法として、水酸化アルカリ及びメタノールを用いてエステル交換反応を行う場合には副反応として加水分解が起こり、好ましくない遊離脂肪酸もしくはそのアルカリ金属塩(石鹸)が生成してしまう。それらの生成機構については、特開2007−77347号公報に詳しく記載されている。
【0057】
これに対し、本発明における前記エステル交換反応は、アルカリ触媒としてホスファゼン化合物を用いることで、反応系が疎水的となり、予め前記油脂及び前記アルコール類中の水分を除去しておけば、加水分解による脂肪酸または脂肪酸のアルカリ金属塩(石鹸)の生成を抑止でき、脂肪酸アルキルエステルを極めて高純度に製造することができる。
【0058】
さらに、前記エステル交換反応では、ホスファゼン化合物を触媒として用いるため、反応後に脂肪酸アルキルエステル層と触媒及びグリセリン層とを容易に分離することができ、簡単な相分離のみで高純度の脂肪酸アルキルエステルを取り出すことができる。この結果、製造プロセスにおいて、従来の水酸化アルカリを用いた方法のように、大量の洗浄廃水を排出することがなく環境への負荷を軽減できるだけでなく、脂肪酸アルキルエステルの精製などのプロセスが不要となり低コスト化を実現できる。
【0059】
また、触媒として用いる疎水的なホスファゼン化合物は、グリセリン層から塩化メチレンやクロロホルム等の溶媒により抽出回収することができ、再使用することができる。
【0060】
前記エステル交換反応の反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20℃〜100℃が好ましく、30℃〜70℃がより好ましく、40℃〜60℃が特に好ましい。
前記反応温度が20℃に満たないとエステル交換反応が遅く、100℃を超えると、好ましくない副反応が起こる。
【0061】
前記エステル交換反応の反応時間としては、特に制限はなく、反応温度や用いる原料の種類などに応じて適宜選択することができるが、1分〜2時間が好ましく、10分〜1時間がより好ましい。
前記ホスファゼン化合物は、触媒活性が高く、不必要な反応時間の延長は、過剰反応による副生成物の生成や、生産性の観点で好ましくない。
なお、反応時には、反応を加速促進する目的で、機械的な攪拌を行うのが好ましい。
【0062】
前記エステル交換反応により生成した脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとは、互いの親疎水性と比重に大きな差があるため混合せず、容易に相分離する。一般的には1時間程度、静置することにより相分離できる。
この際、前記ホスファゼン化合物は、グリセリン層に存在するが、前記ホスファゼン化合物の種類によっては、脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンのいずれにも混在せず、両者から分離させることも可能である。また、残存アルコールは、ほとんどがグリセリン層に移行する。よって、前記エステル交換反応が高効率で進行していれば、軽液(上層)である脂肪酸アルキルエステル層は、高純度の脂肪酸アルキルエステルのみからなる。なお、相分離の際に、必要に応じて遠心分離を用いて分離工程の時間短縮を図ってもよい。
【0063】
相分離された脂肪酸アルキルエステルは、特別な精製を施すことなく、そのまま燃料もしくは燃料油添加剤として用いることも可能であり、場合によっては、蒸留による精製を行って用いることとしてもよい。
また、活性炭、活性白土などを充填したカラムを通すことにより、脱臭、脱色、脱水、不純物の除去等を行うことも可能である。このようにして得られた脂肪酸アルキルエステルは、例えば、ドイツの規格(DIN E 51606)や米国の規格(ASTM D6751)に定められた水分、残存アルコール及びグリセリンの基準値を満たすことが可能であり、したがって、そのままディーゼル燃料として使用することができる。
【0064】
前記カラムによる、ろ過の方法としては、活性炭、活性白土などを充填したカラムに、前記油脂、前記ホスファゼン化合物、及び前記アルコールとの混合物をカラムに供給し、通過させる方法が挙げられる。
前記カラムを通過させる際のカラムの温度としては、20℃〜50℃が好ましく、20℃〜40℃がより好ましい。
また、カラム内の滞留時間としては、1分間〜10分間が好ましく、1分間〜3分間がより好ましい。
【0065】
なお、得られた脂肪酸アルキルエステルの安定保存のためにt−ブチルハイドロキノンやBHTなどの酸化防止剤を加えてもよい。
【0066】
また、前記エステル交換反応に用いたホスファゼン化合物を、引き続き次のエステル交換反応に用いることができる。即ち、前記エステル交換反応を行い、生成した脂肪酸アルキルエステルを相分離させて抜き取った後、残る重液のグリセリン層には未反応のアルコールとホスファゼン化合物が含まれている。この重液層に原料油脂とアルコールを追加することで、ホスファゼン化合物を再利用して連続的に反応を行うことができる。
【0067】
なお、前記ホスファゼン化合物は、回収して再使用することが可能である。前記ホスファゼン化合物の多くは疎水性であるが、反応後、脂肪酸アルキルエステル層に移行せず、グリセリン層に留まる。該グリセリン層にホスファゼン化合物の良溶媒であるハロゲン化炭化水素を加えて抽出すると、ホスファゼン化合物はハロゲン化炭化水素層に移行し、溶媒を留去することによりホスファゼン化合物を回収することができる。回収後、少量のメタノールで洗浄することによりエステル交換反応に再使用することができる。
【0068】
(ディーゼル燃料)
本発明のディーゼル燃料は、前記脂肪酸アルキルエステルの製造方法により得られた脂肪酸アルキルエステルを含むディーゼル燃料としてなる。
前記脂肪酸アルキルエステルは、そのままディーゼル燃料として用いることが可能であり(ニートBDF)、また、灯油、軽油及びA重油(軽油90%に10%の残渣油を混合したもの)と混合した混合燃料からなるディーゼル燃料として用いることも可能である。
【0069】
前記灯油としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。理化学辞典第五版(岩波書店)の定義によれば、「灯油」とは、原油の常圧蒸留によって得られる沸点150℃〜280℃の石油製品をいい、市販の灯油をいずれも用いることができる。
前記灯油としては、JIS K 2203の1号又は2号の規定に適合する灯油が好ましい。
また、前記軽油としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。理化学辞典第五版(岩波書店)の定義によれば、「軽油」とは、原油の常圧蒸留によって得られる沸点200℃〜350℃の石油製品をいい、市販の軽油をいずれも用いることができる。
前記軽油としては、JIS K 2204の特1号、1号、2号、3号、及び特3号のいずれかの規定に適合する軽油が好ましい。
【0070】
脂肪酸アルキルエステルのディーゼル燃料における含有量としては、1質量%〜100質量%としてなる。
前記含有量の下限値としては、5%以上が好ましい。
【0071】
前記混合燃料とする場合の混合方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般に、脂肪酸アルキルエステルの比重は、軽油や灯油の比重より大きいため、例えば、JIS K 2204の1号軽油の上に、合成した脂肪酸アルキルエステルをスプラッシュ(飛沫)ブレンドする方法が好ましい。この他に、インタンクブレンド、インラインブレンドなどの既知の方法によって混合することも可能である(例えば、特表2002−530515号公報、特表2004−520453号公報などを参照)。
【0072】
このような混合燃料からなる前記ディーゼル燃料としては、種々の規格に適合したディーゼル燃料として使用することができる。
例えば、軽油95質量部に対して前記脂肪酸メチルエステル5質量部を混合して得られる燃料は、軽油の規格JIS K 2204に適合するディーゼル燃料として使用することが可能である。
【0073】
また、前記脂肪酸アルキルエステルを質量比20質量%以上の割合で灯油と混合し、この混合物をさらに軽油と混合することで脂肪酸アルキルエステルの含有量を質量比5%以上とした燃料にしてもよい。
この際の混合方法としては、前記スプラッシュブレンド、インタンクブレンド、インラインブレンドなどの他、公知の方法で行うことができる。
前記脂肪酸アルキルエステルを灯油と軽油に混合させる場合、前記脂肪酸アルキルエステルを先に灯油と混合することで曇点や流動点、粘度を予め下げることができ、必要なときに軽油と混合することが可能となることで作業効率と保存安定性を向上させることができる。
【0074】
このように混合して得られたディーゼル燃料としては、米国の規格ASTM D6751やA−A59693Aの規格を満たすことが可能であり、例えば、自動車などのディーゼル燃料として使用することが可能である。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
予め脱ガム処理したジャトロファ油(インドネシア、ジャワ島産(比重0.87))100mL、メタノール18mL、下記の構造式からなるホスファゼン化合物A1.8gを300mL三つ口フラスコに仕込み、攪拌しながら60℃で1時間反応させた。
【0077】
【化18】

反応終了後、室温まで冷却し、1時間後に相分離した上層のメチルエステル層を吸引により分離して、実施例1の脂肪酸アルキルエステル(脂肪酸メチルエステル)を製造した(製造方法1)。
収量は88gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は99%であった。この実施例1の脂肪酸アルキルエステルに対して、以下のようにして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度の測定を行った。
【0078】
−曇点の測定−
JIS K 2269に記載の方法により測定した。
【0079】
−流動点の測定−
JIS K 2269に記載の方法により測定した。
【0080】
−目詰まり点の測定−
JIS K 2204に記載の方法により測定した。
【0081】
−動粘度の測定−
JIS K 2283に記載の方法により測定した。
【0082】
実施例1の脂肪酸アルキルエステルにおける前記測定の結果は、曇点6℃、流動点3℃、目詰まり点4℃、動粘度4.50mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却しても固化せず、米国の規格(ASTM D6751)を満たした。
【0083】
(実施例2)
ジャトロファ油(インドネシア、ジャワ島産(比重0.87))に代えて、市販のキャノーラ油(ナタネ油、商品名:日清キャノーラ油(比重0.88))を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の脂肪酸アルキルエステルを製造した(製造方法1)。
収量は88gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は100%であった。
また、実施例2の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点−4℃、流動点−13℃、目詰まり点−14℃、動粘度4.43mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却しても固化せず、米国の規格(ASTM D6751)を満たした。
【0084】
(実施例3)
ジャトロファ油(インドネシア、ジャワ島産(比重0.87))100mLに代えて、60℃に加温した市販のパーム油(Fluka社製、ヨウ素価50-57、酸価<0.4)98gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の脂肪酸アルキルエステルを製造した(製造方法1)。
収量は96gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は99%であった。
また、実施例3の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点18℃、流動点12℃、目詰まり点14℃、動粘度5.14mm/s(30℃)であり、10℃まで冷却すると完全に固化した。
【0085】
(実施例4)
ジャトロファ油(インドネシア、ジャワ島産(比重0.87))に代えて、ジャトロファ油(インドネシア、ロンボック島産(比重0.87))を用い、ホスファゼン化合物A1.8gに代えて、下記構造式からなるホスファゼン化合物B1.5gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の脂肪酸アルキルエステルを製造した(製造方法1)。
【0086】
【化19】

【0087】
収量は87gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は98%であった。
また、実施例4の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点6℃、流動点3℃、目詰まり点1℃、動粘度4.48mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却しても固化せず、米国の規格(ASTM D6751)を満たした。
【0088】
(実施例5)
ジャトロファ油(インドネシア、ジャワ島産(比重0.87))に代えて、ジャトロファ油(インドネシア、スンバワ島産(比重0.87))を用い、ホスファゼン化合物A1.8gに代えて、下記構造式からなるホスファゼン化合物C1.7gを用い、反応条件を50℃で30分間としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の脂肪酸アルキルエステルを製造した(製造方法1)。
【0089】
【化20】

【0090】
収量は86gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は98%であった。
また、実施例5の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点5℃、流動点3℃、目詰まり点2℃、動粘度4.55mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却しても固化せず、米国の規格(ASTM D6751)を満たした。
【0091】
(実施例6)
ホスファゼン化合物A1.8gに代えて、下記構造式からなるホスファゼン化合物D1.6gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の脂肪酸アルキルエステルを製造した(製造方法1)。
【0092】
【化21】

【0093】
収量は87gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は99%であった。
また、実施例6の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点6℃、流動点3℃、目詰まり点2℃、動粘度4.46mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却しても固化せず、米国の規格(ASTM D6751)を満たした。
【0094】
(実施例7)
ホスファゼン化合物A1.8gに代えて、下記構造式からなるホスファゼン化合物E1.8gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7の脂肪酸アルキルエステルを製造した(製造方法1)。
【0095】
【化22】

ただし、上記構造式において、nは2である。
【0096】
収量は87gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は99%であった。
また、実施例7の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点6℃、流動点3℃、目詰まり点1℃、動粘度4.49mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却しても固化せず、米国の規格(ASTM D6751)を満たした。
【0097】
(実施例8)
実施例1で製造した脂肪酸アルキルエステルを抜き取った重液に、実施例1で使用した(ジャトロファ油インドネシア、ジャワ島産(比重0.87))100mL及びメタノール18mLを加え、50℃で1時間反応させた。
反応終了後、室温まで冷却し、1時間後に相分離した上層のメチルエステル層を吸引により分離して、実施例8の脂肪酸アルキルエステル(脂肪酸メチルエステル)を製造した(製造方法2)。
収量は87gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は98%であった。
また、実施例6の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点5℃、流動点3℃、目詰まり点1℃、動粘度4.48mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却しても固化せず、米国の規格(ASTM D6751)を満たした。
【0098】
(比較例1)
300mLの3口フラスコにメタノール18mL、水酸化ナトリウム1.0gを加え、溶解するまで室温で30分間攪拌した。これに60℃に加温した市販のパーム油(Fluka社製、ヨウ素価50−57、酸価<0.4)95gを添加して、60℃にて1時間反応させた。
反応終了後、室温まで冷却した。反応液は2層に分離したが、界面に白い浮遊物が観察されたため、反応液を減圧ろ過し、ろ液を静置して相分離した上層のメチルエステル相を分離、水洗、乾燥して比較例1の脂肪酸アルキルエステル(脂肪酸メチルエステル)を製造した(製造方法3)。
収量は90gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は98%であった。
また、比較例1の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点18℃、流動点12℃、目詰まり点14℃、動粘度5.13mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却すると固化した。
水酸化アルカリ触媒を用いると、目的物は得られるが、目的物の分離、取出し工程が煩雑になることがわかる。
【0099】
(比較例2)
300mLの三つ口フラスコに、水酸化ナトリウム1.0g、メタノール18mLを加え、溶解するまで室温で30分間撹拌した。これに実施例1で使用したジャトロファ油100mLを加え、50℃にて1時間撹拌した。
反応終了後、室温まで冷却した。反応液は全体的に白濁して相分離は不十分であった。反応混合物を500mLの遠心管に移し、700g×30分間遠心して、アルキルエステル相を分離した後、水洗、乾燥して、比較例2の脂肪酸アルキルエステル(脂肪酸メチルエステル)を製造した(製造方法4)。
収量は80gであり、原料油脂の脂肪酸アルキルエステルへの変換率は、92%であった。
また、比較例2の脂肪酸アルキルエステルについて、実施例1と同様にして、曇点、流動点、目詰まり点、動粘度を測定した。測定結果は、曇点5℃、流動点3℃、目詰まり点
2℃、動粘度4.45mm/s(30℃)であり、5℃まで冷却しても固化せず米国の規格(ASTM D6751)を満たした。
このようにジャトロファ油の場合でも、水酸化ナトリウムを触媒に用いた場合には、石鹸(アルカリ金属塩)が生成して目的物の分離が煩雑となり、収量が低下した。
【0100】
以上の結果を下記表2に示す。
【表2】

【0101】
なお、表2中の相分離については、以下を基準に判断した。
○:十分に層分離され(界面が明瞭)、白濁は見られなかった
×:十分に層分離されず(界面が不明瞭)、白い浮遊物、白濁が見られた
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、高純度、高変換率、低環境負荷プロセス、低コストであるため、脂肪酸アルキルエステルの製造方法として、広汎に用いることができる。また、該製造方法により製造された脂肪酸アルキルエステルは、そのままディーゼル燃料として用いることが可能であり(ニートBDF)、また、灯油、軽油及びA重油(軽油90%に10%の残渣油を混合したもの)と混合した混合燃料からなるディーゼル燃料として用いることができ、ディーゼル燃料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファゼン化合物の存在下で、油脂と、炭素数1〜4のアルコール類とのエステル交換反応を行うことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
ホスファゼン化合物の共役酸のpKaが、12以上である請求項1に記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
油脂が、炭素数14以上の高級飽和脂肪酸を40モル%以下含む請求項1から2のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
高級飽和脂肪酸が、パルミチン酸とステアリン酸とを含み、前記高級飽和脂肪酸における前記パルミチン酸と前記ステアリン酸とを合わせた組成比が30モル%以下である請求項3に記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
油脂が、ジャトロファ油、大豆油、コーン油、オリーブ油、ひまわり油、ナタネ油、クフェア油、アマニ油、綿実油、キリ油のいずれかから選択される請求項1から4のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項6】
油脂が、ジャトロファ油である請求項1から5のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法により製造された脂肪酸アルキルエステルを1質量%〜100質量%含むことを特徴とするディーゼル燃料。

【公開番号】特開2010−180379(P2010−180379A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27593(P2009−27593)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】