説明

脂肪酸アルキルエステルの製造方法および脂肪酸アルキルエステルの製造用添加剤

【課題】
アルカリ金属触媒を用いて脂肪酸アルキルエステルを製造するにあたり、アルカリ金属触媒を簡便に除去することができる脂肪酸アルキルエステルの製造方法および脂肪酸アルキルエステルの製造用添加剤を提供する。
【解決手段】
トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む混合物を得る反応工程と、前記混合物を処理して脂肪酸アルキルエステルを精製する精製工程と、を含む脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、前記反応工程または前記精製工程のうちの少なくとも1つの工程に前記アルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石鹸の製造原料、高級アルコールや界面活性剤などの合成原料、及び燃料などとして有用な脂肪酸アルキルエステルの製造方法および脂肪酸アルキルエステルの製造用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルは、石鹸の製造原料、高級アルコールや界面活性剤などの合成原料、及び燃料などとして広く利用されており、例えば、トリグリセリドとメタノールを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物や、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラートなどのアルカリ金属アルコラードなどのアルカリ金属触媒存在下でエステル交換反応させることによって製造することができる(特許文献1)。
【0003】
トリグリセリドとメタノールとのエステル交換反応によって脂肪酸アルキルエステルを製造する際にアルカリ金属触媒を用いる場合、生成した脂肪酸アルキルエステルを含む混合液に、触媒として用いたアルカリ金属は溶解してしまう。このアルカリ金属が残留した状態で脂肪酸アルキルエステルをディーゼルエンジンの燃料として使用した場合、アルカリ金属は、燃料系部品の金属部分にデポジットとして蓄積され、燃料流量を低下させ、出力低下、排ガス悪化の原因となる。
そこで、生成した脂肪酸アルキルエステルを水で洗浄してアルカリ金属触媒を除去する方法がある。また、アルカリ金属を除く方法として水洗をしなくてもよい方法も検討されている。金属イオン封鎖剤を用いることで金属塩を除去する方法(特許文献2)や、アルカリ金属塩を担持させた固体触媒を使用する方法(特許文献3)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−120799号公報
【特許文献2】特表2009−523855号公報
【特許文献3】特願2003−362280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アルカリ金属触媒を用いて脂肪酸アルキルエステルを製造するにあたり、アルカリ金属触媒を簡便に除去することができる脂肪酸アルキルエステルの製造方法および脂肪酸アルキルエステルの製造用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、4級アンモニウム炭酸塩が金属捕集能と乳化抑制・破壊作用を有していることを見出した。この性質を利用して、トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法において、添加剤として4級アンモニウム炭酸塩を用いることにより、アルカリ金属を除去するための精製工程を大幅に簡略化ができることを見出した。
すなわち、本発明は、トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む混合物を得る反応工程と、前記混合物を処理して脂肪酸アルキルエステルを精製する精製工程と、を含む脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、前記反応工程または前記精製工程のうちの少なくとも1つの工程に前記アルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩を添加することを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
また、別の発明としては、トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む混合物を得る反応工程と、前記混合物を処理して脂肪酸アルキルエステルを精製する精製工程と、を含む脂肪酸アルキルエステルの製造方法において用いられる添加剤であって、
前記添加剤は、前記アルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩であり、
前記添加剤は、前記反応工程または前記精製工程のうちの少なくとも1つの工程に添加して用いられることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル製造用添加剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アルカリ金属触媒を用いた脂肪酸アルキルエステル製造における精製工程において、4級アンモニウム炭酸塩を添加剤として用いることで容易にアルカリ金属触媒を効率的に除去できる。これにより、容易に脂肪酸アルキルエステルを精製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[トリグリセリド]
本発明において用いられるトリグリセリドは、下記式(1)で表される。式中、R、R及びRは、6乃至24個の炭素原子を含有する脂肪族炭化水素基であればよく、R、R及びRは、飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。さらに、R、R及びRは、ヒドロキシ基を含むものであってもよい。
【0009】
【化1】

【0010】
トリグリセリドは、植物油や動物油等の天然油脂に含まれるものや化学的に合成されたものなど様々のものを用いることができ、特にバイオマス由来であることが好ましい。植物油及び動物油としては、魚油、牛脂や豚脂等の獣油、並びに、サフラワー油、ひまわり油、アマニ油、大豆(ダイズ)油、菜種(なたね)油、綿実油、オリーブ油、パーム油、コーン油、ゴマ油、ヒマシ油、米油、及びヤトロファ油等の植物油が挙げられる。これらの油脂は1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。さらに、これらの油脂は天ぷら油等の廃油(廃食油)であってもよい。
【0011】
廃油を用いる場合には、予めフィルタープレス等の既知の濾過機を用いて不純物を除去することが好ましい。この際、活性白土、珪藻土、ゼオライト、活性炭、酸性白土、ベントナイト、シリカ系吸着剤、シリカ−アルミナ化合物、炭酸カルシウム、骨灰、パーライト、セルロース、マグネシア、アルミナ、及び石膏等の既知の濾材を用いることもできる。この濾材の量は、廃油の種類や廃油中に含まれる不純物の量等に応じて適宜設定することができる。
【0012】
[アルコール]
本発明に係るアルコールは、下記式(2)で表される。式中、Rは、炭素数1乃至24の飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノールなどの1級アルコール、イソプロパノール、及びsec-ブタノールなどの2級アルコール、並びにtert−ブタノールなどの3級アルコールを用いることができる。この中で、メタノール及びエタノールなどの1級アルコールが特に好ましい。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、式(1)で表されるトリグリセリドと、式(2)で表されるアルコールとを反応させた場合、下記式(3)乃至(5)で表される脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
式(3)乃至(5)で表される脂肪酸アルキルエステルにおいて、R乃至Rは、式(1)及び式(2)と同じである。Rが前述した範囲のものは、エステル交換反応によって得られる式(3)乃至(5)で表される脂肪酸アルキルエステルを様々な用途として良好に使用することができる。
【0019】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、トリグリセリドとアルコールとの反応の温度条件は30℃以上であることが好ましい。より好ましい温度範囲は、50乃至100℃である。トリグリセリドとアルコールの割合は、トリグリセリド1モルに対して、アルコール4〜150モルであることが好ましく、5〜60モルであることがさらに好ましい。
【0020】
[アルカリ金属触媒]
本発明に係るアルカリ金属触媒としては、ナトリウムおよびカリウムの水酸化物、カリウムおよびナトリウムのアルコキシドが挙げられる。これらのうち、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドが好ましい。アルカリ金属触媒の使用量は、トリグリセリド1kgに対して、ナトリウムメトキシド換算で0.5〜10gの範囲であることが好ましい。
【0021】
[4級アンモニウム炭酸塩]
本発明に係る4級アンモニウム炭酸塩とは、下記式(6)で示すビス4級アンモニウム炭酸塩または下記式(7)で示す4級アンモニウムモノアルキル炭酸塩のうち、少なくとも1つをいう。本発明において、単に4級アンモニウム炭酸塩と言うときは、上記2つの総称を指す。
【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
ここで、式(6)及び式(7)において、R乃至R9は、各々独立した炭素数1乃至24、好ましくは炭素数1乃至18の炭化水素基からなる。R乃至Rのいずれか2個または3個が炭素、酸素又は窒素原子を介したヘテロ環や縮合環を形成していてもよい。なお、上記炭化水素基は、直鎖、分枝、又は環式の脂肪族炭化水素基であっても芳香族炭化水素基であってもよく、本発明の効果を損なわない範囲の置換基を有していてもよい。
【0025】
乃至Rのいずれか2個または3個が形成するヘテロ環としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ピリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピロール、ピロリン、並びに1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンなどの各種へテロ環が挙げられる。R乃至Rのうちの3個が炭素又は窒素原子を介したヘテロ環を形成している具体例としては、下記式(8)や下記式(9)などが挙げられる。ここで、式(8)や式(9)中のRは、水素、炭素数1乃至6のアルキル基、炭素数1乃至6のジアルキルアミノ基、ハロゲン基などが挙げられる、ピリジン環の任意の位置に結合されている。
【0026】
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
式(6)で表される化合物の具体例としては、ビストリエチルメチルアンモニウム炭酸塩、ビス(1−メチル−4−ジメチルアミノピリジニウム)炭酸塩、ビス(1,1−ジメチルピロリジニウム)炭酸塩、ビス(4,4−ジメチルモルホリジウム)炭酸塩、ビス(1−エチル−1−メチルピロリジニウム)炭酸塩などが挙げられる。
【0029】
式(7)で表される化合物の具体例としては、トリエチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、1−メチル−4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジニウムモノメチル炭酸塩、N,N−ジメチルモルホリウムモノメチル炭酸塩、N,N−ジメチルアミノピペリジニウムモノメチル炭酸塩、テトラメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、ジエチルジメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、トリエチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩などが挙げられる。
【0030】
下記式(8)及び下記式(9)中のRは、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、フェニル基、及びヒドロキシル基などが挙げられる。具体的なRとしては、4−ジメチルアミノ基などが挙げられる。Rは、ヘテロ環の任意の位置に結合している。式(8)で表される化合物の具体例としては、ビス(1−メチル)ピリジウム炭酸塩、ビス(1−メチル、4−ジメチルアミノ)ピリジウム炭酸塩などが挙げられる。また、式(9)で表される化合物の具体例としては、1−メチルピリジウムモノメチル炭酸塩、(1−メチル、4−ジメチルアミノ)ピリジウムモノメチル炭酸塩などが挙げられる。
【0031】
式(6)および式(7)で示される触媒については、以下のように製造することができる。式(6)で示される4級アンモニウム炭酸塩は、式(6)におけるR〜Rを置換基として有する3級アミン1モルと式(6)におけるRをアルキル基として有する炭酸ジアルキル0.5モル乃至1.0モルとを混合して反応させる。反応の際にメタノールなどの溶媒を用いてもよい。反応温度は100乃至180℃が好適である。
【0032】
他方、式(7)で示される4級アンモニウムモノアルキル炭酸塩は、式(7)におけるR〜Rを置換基として有する3級アミン1モルと、式(7)におけるRをアルキル基として有する炭酸ジアルキル1モル乃至2モルとを混合して反応させる。反応には、必要に応じて溶媒を用いても良い。溶媒としてはメタノールが好ましい。メタノールは、3級アミン1モルに対して、1モル乃至3モルを使用することができる。反応温度は100乃至180℃が好適である。式(8)又は(9)で表されるものも、上記と同様にして得ることができる。これにより、トリグリセリドとアルコールとの反応により、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む混合物を得ることができる。
【0033】
本発明においては、反応工程または後述する精製工程のうちの少なくとも1つの工程に前記アルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩を添加する。すなわち、反応工程においては、トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属触媒存在下で反応させる際に、アルカリ金属と同時に4級アンモニウム炭酸塩を添加する場合、また、トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属触媒存在下で反応させた後に、4級アンモニウム炭酸塩を添加する場合が挙げられる。
【0034】
本発明における脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、反応工程で得られた混合物を処理して脂肪酸アルキルエステルを精製する精製工程を含む。以下に精製工程について説明する。
脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む混合物は、グリセリン除去工程においてグリセリンが分離される。グリセリンを分離するための分離手段としては、例えば、静置分離や遠心分離が挙げられるが、この中で静置分離が好ましい。脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む混合物を静置分離することにより、グリセリンは下層に、脂肪酸アルキルエステルを含む混合物は上層にそれぞれ分離される。グリセリンを除去することにより、脂肪酸アルキルエステルを含む混合物を得ることができる。
グリセリン除去工程に4級アンモニウム炭酸塩を添加することが好ましい。これにより、グリセリンの除去を良好に行うことができる。また、脂肪酸アルキルエステル中の遊離カルボン酸量(酸値)を低下させることができる。これらの理由は必ずしも明確ではないが、4級アンモニウム炭酸塩がアルカリ金属に加えて遊離カルボン酸を捕集してグリセリン層に存在するためであると推測される。
【0035】
反応工程において使用したメタノールのうち過剰のメタノールは、グリセリン除去工程の前後において除去されることが好ましい。メタノールの除去方法としては、常圧、あるいは減圧下で加熱することが挙げられる。
【0036】
グリセリンが除去された脂肪酸アルキルエステルを含む混合物は、濾材を用いてろ過を行うことが好ましい。これにより、脂肪酸アルキルエステルに同伴する微粒分を除去することができる。濾材としては、活性白土、珪藻土、ゼオライト、活性炭、酸性白土、ベントナイト、シリカ系吸着剤、シリカ−アルミナ化合物、炭酸カルシウム、骨灰、パーライト、セルロース、マグネシア、アルミナ、又は石膏等が挙げられる
【0037】
グリセリンが除去された脂肪酸アルキルエステルを含む混合物または、上記ろ過された脂肪酸アルキルエステルを含む混合物から水分が除去されることが好ましい。これにより、高純度の脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。水分の除去手段としては、常圧、または減圧下で加熱することが挙げられる。このような方法によって製造される脂肪酸アルキルエステルは、アルカリ金属成分(Na、K)の量をヨーロッパ(EU)規格値以下まで低減することができる。従って、バイオディーゼル燃料として使用することができる。また、後述する水洗を行わない場合には、生成した脂肪酸アルキルエステルが殆ど加水分解することがない。
【0038】
グリセリンが除去された脂肪酸アルキルエステルを含む混合物は、水を供給して液体物を水洗されることが好ましい(水洗工程)。これにより、脂肪酸アルキルエステルに同伴する微量のアルカリ金属成分をさらに除去することができる。水の供給量は、一般的には上層の脂肪酸アルキルエステル層に対して質量基準で0.5乃至2倍量程度である。後述する4級アンモニウム炭酸塩を添加した場合、洗浄に必要な量は上層の脂肪酸アルキルエステル層に対して0.1乃至0.4倍量程度で十分である。水洗工程には、4級アンモニウム炭酸塩を添加することが好ましい。水洗工程に4級アンモニウム炭酸塩を添加するタイミングは、水の供給と同時でも良いし、水洗をした後でも良い。これにより、4級アンモニウム炭酸塩の乳化生成抑制効果により、上層と下層の分離時間を大幅に短縮することができる。また、脂肪酸アルキルエステルが水層とともに除去されるロスを防止することができる。さらに、水洗に使用する水の量を従来の10分の1から3分の1程度することができる。また、排水量が減少し、かつ、水層とともにロスする脂肪酸アルキルエステルが減少するため、廃水処理の軽減化を図ることができる。
【0039】
水洗は、常温(10℃から30℃)で行うことができる。これにより、熱水で洗浄する場合に比べて脂肪酸アルキルエステルの加水分解を抑制することができるとう利点がある。
【0040】
塩酸、りん酸などの酸洗浄、水洗浄などを行い、さらに常圧、あるいは減圧下で水分を除去し高純度の脂肪酸アルキルエステルを得ることもできる。このような方法によって製造される脂肪酸アルキルエステルをバイオディーゼル燃料として使用する場合、アルカリ金属成分(Na、K)の量をヨーロッパ(EU)規格値以下まで低減することができる。
【0041】
4級アンモニウム炭酸塩は、反応後の混合物からグリセリンを除去するグリセリン除去工程、または、脂肪酸アルキルエステルを含む液体物に水を供給して液体物を水洗する水洗工程のうちの少なくとも1つ以上の工程に供給することが好ましい。
【0042】
本発明においては、前述のとおり反応工程または精製工程のうちの少なくとも1つの工程に前記アルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩を添加する。
【0043】
アルカリ金属触媒と4級アンモニウム炭酸塩の使用割合は、前記アルカリ金属触媒1モルに対して前記4級アンモニウム炭酸塩を0.1モル以上であることが好ましく、0.1〜10モルであることがさらに好ましく、0.2〜2モルであることが特に好ましい。
このような範囲にすることによって、製造される脂肪酸アルキルエステル中の金属成分(アルカリ金属分)の量をヨーロッパ(EU)規格値以下まで低減することができる。精製工程にかかる時間を短縮することが可能である。
【0044】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、製造される式(3)乃至(5)で表される脂肪酸アルキルエステルは、燃料、高品質の石鹸及び高級アルコールの原料など様々な用途として使用することができる。
【0045】
本発明においては、トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルとグリセリンを得る反応工程と、前記反応工程で得られた脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを分離する分離する工程において用いられる添加剤であって、前記添加剤は、前記アルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩であり、前記添加剤は、前記反応工程または前記分離工程のうちの少なくとも1つの工程に添加して用いられることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル製造用添加剤を提供することができる。
【0046】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用添加剤によれば、添加剤として4級アンモニウム炭酸塩を用いていることで、添加剤を用いない方法に比べ、アルカリ金属を除去する精製工程を著しく効率化させることができ、高品質な脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。また、アルカリ金属を除去する精製工程において、大掛かりな水洗工程を別途必要とせず、あるいは、水洗工程を行う場合でも水洗後の静置時間を著しく短縮させることができる。
【実施例】
【0047】
下記の実施例において、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属の濃度は、ICP発光分析法によって測定された。また、酸価は、JIS K−0070によって測定された。さらに、脂肪酸メチルエステルの定量は、ガスクロマトグラフィーによって行った。脂肪酸メチルエステルは、ステアリン酸メチル、パルミチン酸メチル、オレイン酸メチル、リノレン酸メチル及びリノール酸メチルの合計量とした。脂肪酸メチルエステルの収率は、脂肪酸メチルエステル、トリグリセリド、ジグリセリド、及びモノグリセリドをガスクロマトグラフィーにより分析し、これら4成分の合計に対する脂肪酸メチルエステルの割合により求めた。
【0048】
[メチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネートの製造]
200mlのSUS製オートクレーブ(耐圧硝子工業製)に、原料として炭酸ジメチル(宇部興産製)67.5g(0.75mol)、トリエチルアミン(和光純薬製)75.0g(0.74mol)、及びメタノール(和光純薬製)48g(1.5mol)を仕込み、反応温度140℃で3時間反応させた。このときの圧力は2.0MPaG(Gはゲージ圧を示す。)であった。過剰の炭酸ジメチル、トリエチルアミン、及びメタノールを減圧下で留去した後、30mlの炭酸ジメチルを加え洗浄した。上層の炭酸ジメチル層を除去後、下層部分の炭酸ジメチルを減圧下で留去し、粘性液体98.5gを得た。H−NMR、13C−NMR分析の結果から、粘性液体は、メチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネートであることを確認した。
H−NMR:1.29-1.38ppm(m,9H、CH3CH2N)、2.96ppm(s,3H、NCH3)、3.30-3.36ppm(m,9H、OCOOCH3、CH3CH2N)
13C−NMR(CD3OD、δ):7.95ppm(-NCH2CH3)、47.05ppm(-NCH3)、56.98ppm(-NCH2CH3)、60.14ppm(OCOOCH3)、163.10ppm(OCOO)
【0049】
〔実施例1〕4級アンモニウム炭酸塩およびアルカリ金属触媒の同時添加
50ml反応容器に、ダイズ油(理研農産加工(株)製)15.0g、メタノール(和光純薬社製)6.0g、上記で得られたメチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネート0.3g、及び28%ナトリウムメトキシド28%メタノール溶液(和光純薬製)0.6gを加えた。マグネットスターラーによって回転子を回転させて、反応温度65℃で1時間反応を行った。室温まで冷却後、過剰のメタノールを減圧下で留去した。下層のグリセリン層を分離除去後、上層を0.5gの活性白土を敷いたロートを用いてろ過し、14.9gの液状物質を得た。得られた目的物についてガスクロマトグラフィー(島津製作所製)定量分析を行った。その結果、脂肪酸メチルエステルの含量は99.3質量%であった。ナトリウム含量は1ppm以下であった。酸価は、0.01mg KOH/g以下であった。
【0050】
〔実施例2〕4級アンモニウム炭酸塩の後追加
50ml反応容器に菜種油(理研農産加工(株)製)15.0g、メタノール(和光純薬社製)6.0g、及び水酸化カリウム(純度85%、和光純薬製)0.15gを加えた。マグネットスターラーによって回転子を回転させて、反応温度65℃で1時間反応を行った。この反応液に上記で得られたメチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネート0.3gを加え、30分攪拌した。室温まで冷却後、過剰のメタノールを減圧下で留去した。下層のグリセリン層を分離除去後、上層を0.5gの活性白土を敷いたロートを用いてろ過し、14.8gの液状物質を得た。得られた目的物についてガスクロマトグラフィー(島津製作所製)定量分析を行った。その結果、脂肪酸メチルエステルの含量は99.1質量%であった。カリウム含量は1ppm以下であった。酸価は、0.01mg KOH/g以下であった。
〔比較例1〕
50ml反応容器に、ダイズ油(理研農産加工(株)製)15.0g、メタノール(和光純薬社製)6.0g、及びナトリウムメトキシド28%メタノール溶液(和光純薬製)0.6gを加えた。マグネットスターラーによって回転子を回転させて、反応温度65℃で1時間反応を行った。室温まで冷却後、過剰のメタノールを減圧下で留去した。濃縮液を分液ロートに移し、下層のグリセリン層を分離除去した。得られた上層のオイル層をガスクロマトグラフィー(島津製作所製)定量分析を行った。その結果、脂肪酸メチルエステルの含量は99.0質量%であった。ナトリウム含量は81ppmであった。酸価は、0.18mg KOH/gであった。
【0051】
この結果、4級アンモニウム炭酸塩およびアルカリ金属触媒を併用することにより、脂肪酸メチルエステル中のアルカリ金属の含有量を大幅に低下することができる。また、酸価も低下させることができる。この結果、脂肪酸メチルエステルの水洗を必要としないか、または、水洗を必要としても水洗工程の負荷を大幅に低下することができる。
【0052】
〔実施例3〕
脂肪酸メチルエステルに含まれるアルカリ金属の含有量をさらに低下させ、脂肪酸メチルエステルの純度を高める目的で、以下において脂肪酸メチルエステルの水洗の検討を行った。
実施例1において下層のグリセリン層を分離除去した後の上層のオイル層16gに5mlの精製水を加え激しく振騰し、放置した。上層と下層の界面に生じるオイルと水の懸濁層であるエマルジョン部分が消え、はっきりした界面が生じるまでの時間を測定した。約3分でエマルジョンが消え、はっきりと界面を確認することができた。水洗後の脂肪酸メチルエステルの含量は99.3質量%であった。ナトリウム含量は1ppm以下であった。酸価は、0.02mg KOH/gであった。
【0053】
〔実施例4〕
実施例2において下層のグリセリン層を分離除去した後の上層のオイル層約16gに5mlの精製水を加え激しく振騰し、放置し、実施例3と同様にはっきりした界面が生じるまでの時間を測定した。その結果、約3分でエマルジョンが消え、はっきりと界面が確認できた。水洗後の脂肪酸メチルエステルの含量は99.1質量%であった。カリウム含量は1ppm以下であった。酸価は、0.01mg KOH/gであった。
【0054】
〔比較例2〕
比較例1において、上層のオイル層に5mlの精製水を加え激しく振騰し、放置した。上層と下層のエマルジョン部分が消えはっきりした界面が生じるまでの時間を測定した。この結果、6時間経過した後もオイル層と水層の間にエマルジョン層が残っていた。
【0055】
〔実施例5〕
比較例1において、下層のグリセリン層を分離除去した後の上層のオイル層に5mlの精製水と上記で得られたメチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネート0.20gを加えた以外は、比較例2と同様に界面が生じるまでの時間を測定した。この結果、10分でエマルジョンが消え、はっきりと界面が確認できた。水洗後の脂肪酸メチルエステルの含量は99.3質量%であった。ナトリウム含量は1ppm以下であった。酸価は、0.03mg KOH/gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む混合物を得る反応工程と、前記混合物を処理して脂肪酸アルキルエステルを精製する精製工程と、を含む脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、
前記反応工程または前記精製工程のうちの少なくとも1つの工程に前記アルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩を添加することを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属触媒1モルに対して前記4級アンモニウム炭酸塩を0.1モル以上添加する請求項1記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記精製工程は、前記混合物から前記グリセリンを除去するグリセリン除去工程、または、グリセリンを除去した後の脂肪酸アルキルエステルを含む液体物に水を供給して液体物を水洗する水洗工程であり、
前記グリセリン除去工程と前記水洗工程のうちの少なくとも1つの工程にアルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩を添加する請求項1または2記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
トリグリセリドとアルコールとをアルカリ金属触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを含む混合物を得る反応工程と、前記混合物を処理して脂肪酸アルキルエステルを精製する精製工程と、を含む脂肪酸アルキルエステルの製造方法において用いられる添加剤であって、前記添加剤は、前記アルカリ金属触媒とは異なる4級アンモニウム炭酸塩であり、前記添加剤は、前記反応工程または前記精製工程のうちの少なくとも1つの工程に添加して用いられることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル製造用添加剤。

【公開番号】特開2011−46834(P2011−46834A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196527(P2009−196527)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】