説明

脂質・糖質代謝改善作用を有するハトムギタンパク質含有組成物

【課題】ハトムギが有する血中脂質低下活性の本体となる成分をハトムギから調製し、これを脂質・糖質代謝改善剤として提供すること。
【解決手段】ハトムギ種子を酵素処理して得られるタンパク質含有組成物、該タンパク質含有組成物を有効成分として含有する脂質・糖質代謝改善剤、ならびに飲食品または医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質・糖質代謝改善作用を有するタンパク質含有組成物、より詳細には、ハトムギ種子を酵素処理して得られるタンパク質含有組成物、該タンパク質含有組成物を有効成分として含有する脂質・糖質代謝改善剤、ならびに飲食品または医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満、糖尿病、高脂血症(高コレステロール血症や高中性脂肪血症)、高血圧症などの生活習慣病が、近年の食生活の欧米化、過食、運動不足、ストレス、喫煙、遺伝的要因などにより増加し、大きな社会問題となっている。これらの生活習慣病と呼ばれる疾患や病態は、共通の脂質・糖質代謝異常を基盤として発症すること、そのために合併しやすいことが判明しており、最終的には、動脈硬化症を促進し、脳血管障害や心疾患などの重大な疾患の発症のリスクを相乗的に高めることとなる。なかでも、日本における糖尿病患者数の増加は著しく、合併症も含めた医療費の増加は今後一層深刻な課題となることが予想される。よって、これらの糖尿病をはじめとする生活習慣病の治療や予防のための薬剤の開発は、医学的にも社会的にも急務な課題となっている。
【0003】
これまで生活習慣病に関連する脂質・糖質代謝異常の改善のための薬剤は多く開発されているが、胃の不快感や下痢、血管浮腫などの副作用を引き起こす例もある。従って、日常的に摂取でき、かつ安全性の高い天然の食品素材を活用することが望まれるところである。
【0004】
一方、ハトムギの種子から種皮を除いたものは漢方ではヨクイニンとも呼ばれ、古くから消炎、利尿、排膿、徐痺、健胃、止瀉などの種々の薬効のある植物として広く認識されている。ハトムギには薬効成分として、根より鎮痛作用を有するコイキソール(coixol)、また、種子より抗腫瘍作用を有するコイクセノライド(coixenolide)が単離されている。また、ハトムギ種子やハトムギ茎葉には血漿コレステロールやトリグリセリド含量を低下させ、HDL-コレステロール含量を増加させる効果があることが報告されている(非特許文献1、2)。しかしながら、ハトムギ中の血中脂質低下に関与する成分については、非脂溶性画分に存在することが示唆されるという報告があるものの(非特許文献3)、いまだその解明は不十分である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】青木みか、辻原命子:家政誌、Vol.35、No.2、89‐96(1984)
【非特許文献2】青木みか、辻原命子:家政誌、Vol.40、No.2、107-113(1989)
【非特許文献3】Byoung Sang Chungら:Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi, 35(9), 618-623(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ハトムギが有する血中脂質低下活性を有効に発揮させるために、その活性本体となる成分をハトムギから調製し、これを脂質・糖質代謝改善剤として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ハトムギ種子からその主要成分であるタンパク質を高含量で含む組成物を調製し、2型糖尿病モデルマウスに与えたところ、血漿および肝臓脂質の上昇、動脈硬化指数の上昇、血漿および肝臓の脂質過酸化度(TBARS)の上昇、糖化ヘモグロビン(HbA1c)量の上昇のいずれもが有意に抑制されることを確認した。すなわち、本ハトムギタンパク質含有組成物によって、糖尿病患者における脂質・糖質代謝関連パラメータの悪化が抑制および改善されるという知見を得た。本発明はかかる知見により完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) ハトムギ種子を酵素処理して得られるハトムギタンパク質含有組成物。
(2) 前記酵素処理が、α−アミラーゼおよびグルコアミラーゼによる処理である、(1)に記載のハトムギタンパク質含有組成物。
(3) 前記ハトムギタンパク質含有組成物中のタンパク質含量が、60重量%以上である、(1)または(2)に記載のハトムギタンパク質含有組成物。
【0009】
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質含有組成物を有効成分として含有する脂質・糖質代謝改善剤。
(5) (4)に記載の脂質・糖質代謝改善剤を含む飲食品。
(6) 飲食品が、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、または病者用食品である、(5)に記載の飲食品。
(7) (4)に記載の脂質・糖質代謝改善剤を含む医薬品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食用植物であるハトムギ由来のタンパク質を有効成分とする脂質・糖質代謝剤が提供される。本発明の脂質・糖質代謝改善剤は、血漿脂質(トリグリセリド、コレステロール)の上昇、肝臓脂質(コレステロール)の上昇、動脈硬化指数の上昇、血漿および肝臓の脂質過酸化度(TBARS)の上昇、糖化ヘモグロビン(HbA1c)量の上昇を有意に抑制するので、脂質・糖質代謝異常を呈する糖尿病、高脂血症などの疾患の予防および治療に有効である。また、本発明の脂質・糖質代謝改善剤の有効成分であるハトムギタンパク質含有組成物は、天然の食用植物を由来とするため副作用がなく安全性が高い。よって、本剤を含む医薬品や飲食品は長期にわたって安心して服用または摂取できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、各被験食群における血漿トリグリセリド値を示す(NC:正常マウス/カゼイン食群、DC:糖尿病マウス/カゼイン食群、DJP:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)種子食群、DJC:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群、DTP:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)種子食群、DTC:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群、***p < 0.001、**p < 0.01)。
【図2】図2Aは、各被験食群における血漿コレステロール値、図2Bは、各被験食群における動脈硬化指数を示す(NC:正常マウス/カゼイン食群、DC:糖尿病マウス/カゼイン食群、DJP:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)種子食群、DJC:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群、DTP:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)種子食群、DTC:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群、***p < 0.001、**p < 0.01、*p < 0.05)。
【図3】図3は、各被験食群における肝臓コレステロール値を示す(NC:正常マウス/カゼイン食群、DC:糖尿病マウス/カゼイン食群、DJP:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)種子食群、DJC:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群、DTP:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)種子食群、DTC:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群、***p < 0.001、**p < 0.01)。
【図4】図4Aは、各被験食群における糞中コレステロール値、図4Bは、各被験食群における糞中胆汁酸量を示す(NC:正常マウス/カゼイン食群、DC:糖尿病マウス/カゼイン食群、DJP:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)種子食群、DJC:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群、DTP:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)種子食群、DTC:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群、***p < 0.001、**p < 0.01、*p < 0.05)。
【図5】図5は、各被験食群における糖化ヘモグロビン(HbA1c)量を示す(NC:正常マウス/カゼイン食群、DC:糖尿病マウス/カゼイン食群、DJP:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)種子食群、DJC:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群、DTP:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)種子食群、DTC:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群、***p < 0.001、*p < 0.05)。
【図6】図6Aは、各被験食群における血漿の脂質過酸化度(TBARS)、図6Bは、各被験食群における肝臓の脂質過酸化度(TBARS)を示す(NC:正常マウス/カゼイン食群、DC:糖尿病マウス/カゼイン食群、DJP:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)種子食群、DJC:糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群、DTP:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)種子食群、DTC:糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群、***p < 0.001、**p < 0.01、*p < 0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について詳細に述べる。
本発明によれば、脂質・糖質代謝改善作用を有するハトムギタンパク質含有組成物が提供される。本発明のハトムギタンパク質含有組成物は、ハトムギ種子からデンプン分解酵素を用いて炭水化物成分を分解除去し、さらに、脱脂を行うことによって、タンパク質含量を高めた濃縮物として得ることができる。具体的には、ハトムギ種子から殻を除いて粉砕してハトムギ粉末を得、これに水及びα−アミラーゼを加えて加温し、加熱糊化させた後30分間保持し、その後冷却して温度が60℃に下がった時点でグルコアミラーゼを添加して反応させ、反応物を遠心分離して沈澱物を集めて凍結乾燥し、凍結乾燥物を脱脂し、洗浄後風乾する。また、脱脂は、有機溶媒にて行うが、安全性の点からヘキサンを用いることが好ましい。
【0013】
本発明のハトムギタンパク質含有組成物は、ハトムギ種子を原料として調製されたハトムギタンパク質を含有する調製物であり、原料として用いたハトムギ種子のタンパク質含量よりも高いタンパク質含量を有するハトムギタンパク質の濃縮物である。よって、本発明のハトムギタンパク質含有組成物は、前述のようなデンプン分解工程と脱脂工程を含む方法によって調製した場合、例えば、60重量%以上、好ましくは60〜80重量%、より好ましくは60〜70重量%程度のタンパク質含量を有する。また、当該ハトムギタンパク質含有組成物は、液体、粉末、ペースト状などの所望の形態とすることができる。
【0014】
本発明のハトムギタンパク質含有組成物は、脂質・糖質改善作用、具体的には、(i)血漿脂質(トリグリセリド、コレステロール)および動脈硬化指数を低下させる、(ii)肝臓脂質(コレステロール)を低下させる、(iii)血漿及び肝臓の脂質過酸化度(TBARS)を低下させる、(iv)長期血糖値の指標である糖化ヘモグロビン(HbA1c)量を低下させるという機能を有する。しかも、当該ハトムギタンパク質含有組成物は、天然の食用植物由来であって非常に安全性が高い。従って、本発明のハトムギタンパク質含有組成物は、脂質・糖質代謝改善剤として使用できる。
【0015】
また、本発明の脂質・糖質代謝改善剤は、適当な添加物とともに飲食品や医薬品などの組成物に配合することができる。
【0016】
本発明において、飲食品とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、または特定保健用食品を含む意味で用いられる。さらに、本発明の飲食品をヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、ペットフード、飼料を含む意味で用いることができる。
【0017】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0018】
飲食品の種類としては、具体的には、食パン、菓子パン等のパン類;そば、うどん、はるさめ、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、グミ、ガム、キャラメル、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット等の焼き菓子、ゼリー、ジャム、クリーム等の菓子類;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;加工乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、チーズ等の乳製品;かまぼこ、ちくわ、ハンバーグ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;しょうゆ、ソース、酢、みりん等の調味料;清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む)が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0019】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、砂糖、果糖、異性化液糖、ブドウ糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0020】
本発明の飲食品におけるハトムギタンパク質含有組成物の配合量は、その脂質・糖質改善作用が発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性およびコストなどを考慮して適宜設定すればよい。例えば、固形状食品の場合にはハトムギタンパク質含有組成物含量が10重量%〜100重量%、好ましくは20重量%〜80重量%になるように調製する。
【0021】
本発明の飲食品は、例えば、生活習慣、体質、または遺伝などの要素によって脂質・糖質代謝異常を呈する糖尿病や高脂血症などの疾患を発症する傾向のある人はもとより、正常人であっても、それらの疾患の予防または改善を目的として日常的に摂取することができる。
【0022】
また、本発明の脂質・糖質代謝改善剤を医薬品として提供する場合は、ハトムギタンパク質含有組成物に、医薬上許容され、かつ剤型に応じて適宜選択した基材や担体、ならびに添加物(例えば、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、滑沢剤、湿潤化剤 、緩衝剤、香料等)を用いて、公知の種々の方法にて経口投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。当該医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などを挙げることができる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
【0023】
本発明の医薬品は、脂質・糖質代謝異常を呈する疾患の予防及び/又は治療用医薬として用いることができる。ここで、「脂質・糖質代謝異常」とは、脂質または糖質の代謝経路になんらかの異常をきたし、血中濃度が適切な範囲に保たれない状態(多くは、血中濃度が適正範囲を超えた状態)を意味する。本発明の医薬品は、特には、糖尿病に合併する高脂血症に有効な、高血糖値の低下作用と脂質代謝異常の改善作用を併せ持つ。
【0024】
従って、本発明の医薬品による予防及び/又は治療対象となる疾患としては、例えば、糖尿病(インスリン依存型(1型)糖尿病、インスリン非依存型(2型)糖尿病、妊娠糖尿病等)、糖尿病合併症(糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症等)、高脂血症(高トリグリセライド血症、高コレステロール血症、低HDL血症、食後高脂血症等)、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満を共通の要因として、高血糖、脂質異常、高血圧の2つ以上を呈する病態)、肥満症、脂肪肝などが挙げられるが、これらに限定はされない。また、糖尿病に合併する脂質代謝異常に起因して症状の悪化が予想される疾患として、動脈硬化症、心筋梗塞、狭心症等の虚血性心疾患、脳梗塞等の脳動脈硬化症または動脈瘤、ネフローゼ症候群をはじめとする腎疾患等にも有効である。本発明の医薬品は上記疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。
【0025】
本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の予防及び/又は治療用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に投与することができる。本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度法などに応じて適宜決定することができる。例えば、糖尿病患者に経口投与する場合には、ハトムギタンパク質量に換算して、500mg/kg体重〜10g/kg体重の範囲で1日1回から数回に分けて投与される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)ハトムギタンパク質含有組成物の調製
ハトムギタンパク質含有組成物は、西澤らの文献(Agric. Biol. Chem. 54, 229-230, 1990)に従い調製した。ハトムギ種子(はとじろう、東北4号)から殻を除いた後粉砕し、ハトムギ粉末を得た。この粉末200gに、純水2Lを加え、食品加工用のα−アミラーゼ(商品名ユニアーゼBM-8;ヤクルト薬品工業(株)社製)170mgを添加して加温し、90℃で30分間加熱して糊化し、60℃まで下げた後、グルコアミラーゼ(商品名ユニアーゼ30;ヤクルト薬品工業(株)社製)600mgを加えて攪拌し、60℃で24時間反応させて、加水分解した。
【0027】
反応物を16,000×gで遠心分離し、得られた沈殿物を凍結乾燥した。乾燥後の粉末にヘキサンを加えて攪拌することにより脱脂する操作を4回行った。以上の酵素反応から脱脂までの一連の操作を上記と同様の量と条件にて8回繰り返し、得られた粉末を風乾して、粉末状のハトムギタンパク質含有組成物を得た。
【0028】
得られたハトムギタンパク質含有組成物の成分組成を表1に、また原料として用いたハトムギ種子粉末(酵素未処理)の成分組成を表2に示す。ハトムギタンパク質含有組成物は、ハトムギ種子粉末に比べてタンパク質含量が大幅に増加した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
なお、ハトムギタンパク質含有組成物のアミノ酸組成は「はとじろう」、「東北4号」ともほぼ同様であった(表3)。
【0032】
【表3】

【0033】
(実施例2)血漿脂質及び肝臓脂質の分析
1.試験方法
7週齢雄のdb/+m(C57BL/KsJ-m+/leprdb)マウス(正常マウス)または7週齢雄のdb/db(C57BL/KsJ-leprdb/leprdb)マウス(肥満2型糖尿病モデルマウス)を使用し、以下の群(各群n=8)にわけ、各被験食(カゼイン食、ハトムギ種子食、ハトムギタンパク質含有組成物食)を摂食させ21日間飼育した。
(a) 正常マウス/カゼイン食(AIN-93G)群(NC)
(b) 糖尿病マウス/カゼイン食(AIN-93G)群(DC)
(c) 糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)種子食群(DJP)
(d) 糖尿病マウス/ハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群(DJC)
(e) 糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)種子食群(DTP)
(f) 糖尿病マウス/ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群(DTC)
(c)〜(f)については、被験食の20%(w/w)をハトムギ種子粉末またはハトムギタンパク質含有組成物に置換し、被験食のタンパク質量及び食物繊維量がそれぞれカゼイン及びセルロースで同量になるように調整した(表4)。
【0034】
【表4】

【0035】
飼育後21日目に、マウスは麻酔下心臓からの全採血により屠殺し肝臓を採取した。血液から血漿を調製し、肝臓組織とともに種々のパラメータを測定した。なお、下記の各パラメータの測定で得られた結果は統計処理して、平均値±標準誤差(SE)で表示した。統計処理にはPrism5(エムデーエフ)を用いた。各群間の比較は、一元配置分散分析(One-way analysis of variance; One-way ANOVA)を用いて行い、多重比較はtukey 法を用いて行った。
【0036】
2.試験結果
(1) 血漿トリグリセリド
血漿脂質では、中性脂肪(トリグリセリド)はNC群に対してDC群では有意に増加したが、ハトムギ種子食及びハトムギタンパク質含有組成物食群ではDC群に対していずれも低下し、これらの群はNC群と有意差がなく同等のレベルであった(図1)。
【0037】
(2) 血漿コレステロール、動脈硬化指数
血漿中の総コレステロール値はNC群に対してすべての糖尿病マウス(DC、DJP、DJC、DTP、DTC)群で上昇したが、DC群に対してハトムギ種子食及びハトムギタンパク質含有組成物食群ではいずれも低下し、さらにハトムギ種子食群(DJP及びDTP)に対して、ハトムギタンパク質含有組成物食群(DJC及びDTC)では、有意に総コレステロール量が低下した(図2A)。総コレステロール及びHDL-コレステロール量から算出した動脈硬化指数は、NC群に対してDC群、ハトムギ種子食群(DJP及びDTP)で有意に増加したが、DC群に対してハトムギ種子食群(DJP及びDTP)では低下(改善)傾向にあり、ハトムギタンパク質含有組成物食群(DJC及びDTC)では有意に低下(改善)した(図2B)。
【0038】
(3) 肝臓コレステロール
肝臓中の総コレステロール値は全ての糖尿病マウス(DC、DJP、DJC、DTP、DTC)群でNC群に対して増加したが、DC群に対してハトムギ種子食及びハトムギタンパク質含有組成物食群ではいずれも有意に低下した(図3)。
【0039】
以上の血漿及び肝臓脂質の分析結果から、ハトムギタンパク質の摂食により、糖尿病モデルマウスで悪化する脂質代謝が改善されることが明らかとなった。
【0040】
(実施例3)糞中のコレステロールおよび胆汁酸量分析
1.試験方法
実施例2と同様にして正常マウスおよび糖尿病モデルマウスに各被験食を摂取させ、飼育後17日目(解剖の前週)に、糞を24時間採取し、コレステロールおよび胆汁酸量を測定した。
【0041】
2.試験結果
糞中の総コレステロール値については、DC群に対してハトムギ種子食群(DJP、DTP)およびハトムギタンパク質含有組成物食群(DJC、DTC)でいずれも高かった(図4A)。また胆汁酸量については、DC群に対してハトムギ種子食群(DJP、DTP)およびハトムギタンパク質含有組成物食群(DJC、DTC)では有意に糞中の胆汁酸量が多く、両者を比較すると、ハトムギタンパク質含有組成物群(DJC、DTC)の方がハトムギ種子食群(DJP、DTP)より糞中胆汁酸量が多く、糞中への胆汁酸排泄作用が強力であった(図4B)。胆汁酸はコレステロールを原料として合成されることから、ハトムギタンパク質含有組成物は糞中への胆汁酸排泄を促進することにより、コレステロールとしての排泄と併せて血漿および肝臓のコレステロール量を低減化することが示された。
【0042】
(実施例4)血糖値分析
1.試験方法
実施例2と同様にして正常マウスおよび糖尿病モデルマウスに各被験食を摂取させ、飼育後21日目に屠殺したマウスから採取した血液の長期血糖値の指標である糖化ヘモグロビン(HbA1c)量を測定した。
【0043】
2.試験結果
糖化ヘモグロビン(HbA1c)量は全ての糖尿病マウス群でNC群に対して増加したが、DC群に対してハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群(DJC)では低下傾向、ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群(DTC)では有意に低下した(図5)。
【0044】
(実施例5)脂質過酸化度の評価
1.試験方法
実施例2と同様にして正常マウスおよび糖尿病モデルマウスに各被験食を摂取させ、飼育後21日目に屠殺したマウスから採取した血液から調製した血漿および肝臓を用い、脂質過酸化の指標であるチオバルツール酸化物質(TBARS)を測定した。
【0045】
2.試験結果
血漿のTBARSはNC群に対して全ての糖尿病マウス群で有意に上昇したが、DC群に対してハトムギ種子食群(DJP及びDTP)およびハトムギ(はとじろう)タンパク質含有組成物食群(DJC)では低下傾向、ハトムギ(東北4号)タンパク質含有組成物食群(DTC)では有意に低下した(図6A)。
【0046】
肝臓のTBARSはNC群に対して全ての糖尿病マウス群で有意に上昇したが、DC群に対してハトムギ種子食群(DJP及びDTP)では低下傾向、ハトムギタンパク質含有組成物食群(DJC及びDTC)では有意に低下した(図6B)。よって、ハトムギタンパク質含有組成物食は、糖尿病モデルマウス生体内で引き起こされる、酸化ストレスの亢進を抑制することが示された。
【0047】
以上の各実施例の結果から、ハトムギタンパク質含有組成物は糖尿病モデルマウスにおいて、脂質及び糖質代謝改善作用、生体内酸化ストレスの亢進抑制作用といった幅広い抗糖尿病作用を有することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、脂質・糖質代謝改善を目的とした機能性食品やサプリメントなどの飲食品や医薬品の製造分野において利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハトムギ種子を酵素処理して得られるハトムギタンパク質含有組成物。
【請求項2】
前記酵素処理が、α−アミラーゼおよびグルコアミラーゼによる処理である、請求項1に記載のハトムギタンパク質含有組成物。
【請求項3】
前記ハトムギタンパク質含有組成物中のタンパク質含量が、60重量%以上である、請求項1または2に記載のハトムギタンパク質含有組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質含有組成物を有効成分として含有する脂質・糖質代謝改善剤。
【請求項5】
請求項4に記載の脂質・糖質代謝改善剤を含む飲食品。
【請求項6】
飲食品が、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、または病者用食品である、請求項5記載の飲食品。
【請求項7】
請求項4に記載の脂質・糖質代謝改善剤を含む医薬品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−1516(P2012−1516A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140158(P2010−140158)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、農林水産省、食品・農産物の表示の信頼性確保と機能性解析のための基盤技術の開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】