説明

脂質代謝改善剤

【課題】脂質代謝改善効果に優れ、高脂血症、肥満症等の予防及び治療に有効な脂質代謝改善剤及び該脂質代謝改善剤を配合する飲食品、栄養組成物、飼料等の脂質代謝改善製品を提供すること。
【解決手段】分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa、APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8、遊離アミノ酸含量20%以下、及び抗原性は、β−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下である特徴を有するホエータンパク加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質代謝改善効果に優れ、苦みが少なく、安定性及び安全性に優れた脂質代謝改善剤に関する。すなわち本発明は、ヒトを含む哺乳動物等の組織細胞のうち、脂肪細胞への脂質の取込みを抑制する作用をもつ脂質代謝改善剤に関するものである。さらに、本発明は、該脂質代謝改善剤を配合する飲食品、栄養組成物、飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の乱れや慢性的な運動不足、過度のストレス等により、肥満や高血圧、高脂血、糖尿病等の生活習慣病に対するリスクの増加が問題となっている。これらの生活習慣病の症状が進行すると動脈硬化や心筋梗塞等、より重篤な病気を引き起こすことになる。生活習慣病の原因のうち、食生活の乱れについては、日本人の食生活が肉類中心の欧米的なものに変化し、従来の日本食に比べ非常に高カロリーなものとなっていることが大きな要素となっている。こういった高カロリーな食事による生活習慣病の予防としては、大きく二つの方法が考えられる。一つは血中の悪玉コレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)の濃度を下げる、つまり、脂質代謝を改善することであり、もう一つは脂肪の蓄積そのものを抑制して肥満を防ぐというものである。一般に、両者は同じものとして捉えられがちであるが、実際にはそのメカニズムは異なり、脂質代謝は改善するものの体重増加は抑制しない薬剤(例えば、特許文献1参照)、体重増加を抑制するが脂質代謝の改善には関与しない薬剤(例えば、特許文献2参照)がそれぞれ存在する。後者の脂肪の蓄積抑制については、健康上の理由だけではなく、美容的な目的からも肥満の予防や解消がクローズアップされており、その治療として、薬物療法や運動療法、食事制限等が試みられている。しかし、薬物療法は効果が期待できる反面、副作用を考慮に入れる必要が生じ、一般に行われている運動療法や食事制限は、継続して実施するには時間的あるいは精神的な困難を伴い、成功率が低いというのが現状である。また、過度の食事制限は栄養障害や拒食症につながるといった危険性を含むことも無視できない。このような状況のもと、日常の食生活において簡単かつ安全に摂取することができる脂質代謝改善剤、あるいは脂質代謝改善作用をもつ飲食品が望まれている。
【0003】
脂質代謝を改善する作用機序として、血清中でのコレステロール、トリグリセリドの蓄積抑制が考えられる。その中でこれらの指標の蓄積を抑制する物質として大豆タンパク質由来の大豆ペプチドが知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、乳清タンパクの加水分解物が脂質代謝改善効果を持つことが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
乳タンパクの加水分解物は、牛乳、乳製品における食物アレルギーを防止するために様々な製品に用いられている。特に、牛乳のホエータンパクは母乳のタンパクと異なり、アレルゲンになると考えられており、これを防止するためにホエータンパクを酵素で加水分解することやその製造方法(例えば、特許文献4、5参照)、さらに、ホエータンパクを特定の条件で、耐熱性のタンパク加水分解酵素を加えて、熱変性をさせながら酵素分解して得られるホエータンパク加水分解物の製造方法も開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−226394号公報
【特許文献2】特開2007−308469号公報
【特許文献3】特開平5−176713号公報
【特許文献4】特開平2−2319号公報
【特許文献5】特開平2−138991号公報
【特許文献6】特開平4−112753号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Cho SJ et al. Cholesterol lowering mechanism of soybean protein hydrolysate. J Agric Food Chem. 2007 Dec 26;55(26):10599-604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
牛乳乳清由来のホエータンパク加水分解物は、上記の大豆タンパク質由来の大豆ペプチド(特許文献2)よりも分岐鎖アミノ酸含量が多いという特長を持っており、より脂質代謝改善効果の高い新たな脂質代謝改善剤を提供することができる。
また、一般的なホエータンパクの加水分解物は、分解物の水溶液が白濁しており実際の製品に使用する際に制限があり、透明性を求める製品には使用できないという問題点がある。また、ペプチド特有の苦味があるため、特に、経口的に摂取する食品や飼料等を製造する際には、風味上の制限があった。
また、上記のホエータンパク加水分解物自体(特許文献6)は、低アレルゲン性効果を示すが、脂質代謝改善効果は開示されていなかった。
よって、本発明は、日常的な摂取が可能であり、安全性に優れ、水溶液が高い透明性を示し、苦味が少なく風味上の制限がないため、製品に使用する際の制限がなく、かつ、摂取することで脂質代謝を改善させて、メタボリックシンドロームの予防・治療に有効な脂質代謝改善剤及び、この脂質代謝改善剤を配合した飲食品、栄養組成物、飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明は、下記の構成からなる発明である。
(1)以下の特徴を有するホエータンパク加水分解物を有効成分として配合することを特徴とする脂質代謝改善剤。
(i)分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
(ii)APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
(iii)遊離アミノ酸含量20%以下
(iv)抗原性は、β−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下
(2)前記ホエータンパク加水分解物が、ホエータンパクをpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク加水分解酵素を用いて熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)に記載の脂質代謝改善剤。
(3)前記ホエータンパク加水分解物が、ホエータンパクをpH6〜10、20〜55℃においてタンパク加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパクを熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする(1)に記載の脂質代謝改善剤。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の脂質代謝改善剤を含むことを特徴とする飲食品。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の脂質代謝改善剤を配合することを特徴とする栄養組成物。
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載の脂質代謝改善剤を配合することを特徴とする飼料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脂質代謝改善剤は、血清でのトリグリセリド蓄積抑制作用、総コレステロール蓄積抑制作用及び肝臓でのトリグリセリド蓄積抑制作用が顕著であり、高脂血症、肥満症等の予防及び治療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の脂質代謝改善剤に配合される、ホエータンパク加水分解物は、ホエータンパクをpH6〜10、50〜70℃とし、これに耐熱性のタンパク加水分解酵素を加えて熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させることにより得られる脂質代謝改善作用を有するホエータンパク加水分解物である。また、上記酵素分解を行う前に、ホエータンパクをpH6〜10、20〜55℃においてタンパク加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを冷却することなく直ちに上記条件で酵素分解すると収率を一層高めることができる。
さらに、上記のように調製したホエータンパク加水分解物を、限外濾過(UF)膜及び/又は精密濾過(MF)膜を用いて濃縮することにより、一層脂質代謝改善効果を高めることができる。また、当該濾過膜によりさらにホエータンパク加水分解物の苦味を軽減し、透明性を向上させることもできる。
限外濾過(UF)膜の分画分子量としては、1kDa〜20kDaの範囲のものが用いられ、好ましくは、2〜10kDaである。また、精密濾過(MF)膜の分画分子量としては、100Da〜500Daの範囲のものが用いられ、好ましくは、150Da〜300Daである。
本発明のホエータンパク加水分解物は、その使用範囲を制限されないためには透明性が高い方が望ましく、例えば、後述する透明性試験における吸光度で0.014未満が好ましく、さらに好ましくは0.010未満であり、0.005未満であればなおいっそう好ましい。
【0011】
本発明におけるホエータンパクは、牛乳、水牛、山羊、ヒト等の哺乳動物のホエー、その凝集物、粉末、あるいは精製タンパクをいう。また、ホエータンパクを酵素反応させる時は水溶液の状態で使用する。
【0012】
ホエータンパクの水溶液のpHは、通常pH6〜10の範囲になっているので酵素反応させる際に格別pHの調整を行う必要はないが、調整が必要な場合は、塩酸、クエン酸及び乳酸等の酸溶液あるいは苛性ソーダ、水酸化カルシウム及び燐酸ソーダ等のアルカリ溶液を用いてpH6〜10とする。
本発明においての加熱は50〜70℃で行うが、耐熱性のタンパク加水分解酵素は、ホエータンパク水溶液をこの温度に加熱してから添加するよりも、むしろ加熱前から添加しておき、酵素分解を行う方が収率の面から好ましい。
【0013】
一般的なProtease(プロテアーゼ)の至適温度は40℃以下であるが、本発明に用いられる耐熱性のタンパク加水分解酵素の至適温度は45℃以上であり、従来からこのような至適温度を有する耐熱性のタンパク加水分解酵素として知られているものであれば特に制限なく使用できる。このような耐熱性のタンパク加水分解酵素としては、パパイン、プロテアーゼS(商品名)、プロレザー(商品名)、サモアーゼ(商品名)、アルカラーゼ(商品名)、プロチンA(商品名)等を例示することができる。また、本発明に用いられる耐熱性のタンパク加水分解酵素は、80℃で30分加熱して残存活性が約10%あるいはそれ以上になるものが望ましい。また、単独よりも複数の酵素を併用することにより効果的である。反応は30分〜10時間程度行うことが好ましい。
最後に、反応液を加熱して加水分解酵素を失活させる。当該加水分解酵素の失活は反応液を100℃以上で10秒間以上加熱することにより行うことができる。
【0014】
このようにして得られた反応液を遠心分離して上清を回収し、上清を乾燥することによりホエータンパク加水分解物の粉末製品が得られる。なお、遠心分離した時に生ずる沈殿物は上清に比べ低アレルゲン化の程度が小さいので、これを除去した方が好ましいが、勿論反応液をそのまま乾燥して使用しても差し支えない。
この方法により得られるホエータンパク加水分解物は、Inhibition ELISA法〔日本小児アレルギー学会誌、1,36(1987)〕で測定して、抗原性がβ−ラクトグロブリンに比べて1/10,000以下、ホエータンパクに比べて1/10,000以下になることが確認されているため、極めて安全である。また、そのホエータンパク加水分解物水溶液は透明で、苦味度も2程度であることから、製品に使用する際に制限がない。なお、透明性及び苦味の評価は下記の方法により評価した。
【0015】
透明性評価法:1%ホエータンパク加水分解物溶液を調製し、650nmにおける吸光度を測定した。
【0016】
苦味評価法:10%ホエータンパク溶液を調製し、苦味物質である塩酸キニーネを添加して、苦味を評価した。表1に示すように、苦味点数が2点以下であれば、飲食品等として利用可能である。
【0017】
【表1】

【0018】
本発明のホエータンパク加水分解物は、そのまま脂質代謝改善剤として使用することが可能であるが、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることもできる。また、さらに限外濾過 (UF)膜や精密濾過 (MF)膜処理により得られたホエータンパク加水分解物についても、そのまま脂質代謝改善剤として使用することも可能であり、そのまま乾燥しても使用できる。また、常法に従い、製剤化して用いることもできる。
さらに、これらを製剤化した後に、これを栄養剤やヨーグルト、乳飲料、ウエハース等の飲食品、栄養組成物、飼料に配合することも可能である。
【0019】
本発明の脂質代謝改善効果を有する飲食品、栄養組成物、飼料とは、このホエータンパク加水分解物のみを含む場合の他に、安定剤や糖類、脂質、フレーバー、ビタミン、ミネラル、フラボノイド、ポリフェノール等、他の飲食品、飼料に通常含まれる原材料等を配合することができる。
また、そのような飲食品、栄養組成物、飼料を原材料として、他の飲食品等に通常含まれる原材料等を配合して調製することも可能である。
【0020】
飲食品、栄養組成物、飼料におけるホエータンパク加水分解物の配合量は、特に制限はないが、成人一人一日あたりホエータンパク加水分解物を5mg以上経口的に摂取させるためには、飲食品、飼料の形態にもよるが、全質量に対して一般に0.001〜10%(重量/重量)、好ましくは0.1〜5%(重量/重量)含有していることが好ましい。
【0021】
本発明の脂質代謝改善剤は、上記の有効成分に適当な助剤を添加して任意の形態に製剤化して、経口又は非経口投与が可能な脂質代謝改善組成物とすることができる。製剤化に際して、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤等の希釈剤又は賦形剤を用いることができる。
また、剤型としては、各種形態が選択でき、例えばカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、坐剤、注射剤、軟膏剤等が挙げられる。賦形剤としては、例えばショ糖、乳糖、デンプン、結晶性セルロース、マンニット、軽質無水珪酸、アルミン酸マグネシウム、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、カルボキシルメチルセルロースカルシウム等の1種又は2種以上を組み合わせて加えることができる。
この脂質代謝改善剤の有効成分として用いられるホエータンパク加水分解物は、後述するように、抗原性がβ−ラクトグロブリンに比べて1/10,000以下、ホエータンパクに比べて1/10,000以下になることが確認されているため、極めて安全である。また、その水溶液は、透明で、苦味度も2程度であることから、脂質代謝改善剤として使用する際に制限がなく、特に、透明性を求める脂質代謝改善剤への高配合が可能である。
【0022】
以下に実施例、比較例及び試験例を示し、本発明について詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
ホエータンパク10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエータンパク及びプロレザー(Proleather:天野エンザイム社製)150U/g・ホエータンパクを加え、pH8に調整し、55℃において6時間ホエータンパクを変性させながら酵素分解を行った。反応液を100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させ、遠心分離して上清を回収し、これを乾燥してホエータンパク加水分解物を得た。
得られたホエータンパク加水分解物の分子量分布は10kDa以下、メインピークは1.3kDa、APLは7.2、すべての構成成分に対する遊離アミノ酸含量18.9%であった。
Inhibition ELISA法によってβ−ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ1/10,000以下で収率(酵素反応液を遠心分離し、仕込み量の乾燥重量に対する上清の乾燥重量の比率(%))80.3%、苦味度は2であった。
なお、透明性試験を行った結果、吸光度(650nm)は0.008であり、透明性が高いことが分かった。
このようにして得られたホエータンパク加水分解物は、そのまま本発明の脂質代謝改善剤として利用可能である。
【実施例2】
【0024】
ホエータンパク10%水溶液1Lに、パパイン50U/g・ホエータンパク及びプロレザー(Proleather:天野エンザイム社製)150U/g・ホエータンパクを加え、pH8、50℃で3時間酵素分解を行った。これを55℃に昇温させ、この温度で3時間維持し、タンパクを変性させるとともに、タンパクの酵素分解を行い、100℃で15秒間以上加熱して酵素を失活させた。この反応液を分画分子量10kDaのUF膜(STC社製)及び分画分子量300DaのMF膜(STC社製)処理を行い、濃縮液画分を回収し、これを乾燥してホエータンパク加水分解物を得た。
得られたホエータンパク加水分解物の分子量分布は10kDa以下、メインピークは500Da、APLは3.0、すべての構成成分に対する遊離アミノ酸含量15.2%であった。
Inhibition ELISA法によってβ−ラクトグロブリンに対する抗原性の低下を測定したところ1/10,000以下で、収率65.4%、苦味度は2であった。
なお、透明性試験を行った結果、吸光度(650nm)は0.004であり、透明性が高いことが分かった。
このようにして得られたホエータンパク加水分解物は、そのまま本発明の脂質代謝改善剤として利用可能である。
【0025】
[試験例1]
(動物実験)
4週齢のSprague-Dawley系雄ラット(九動社製)を市販粉末飼料CE-2(日本クレア社製)で7日間予備飼育した後、コントロール群としてカゼイン、大豆ペプチド群(ハイニュートAM、不二製油社製)、ホエータンパク加水分解物群(実施例1に記載のホエーホエータンパク加水分解物)に分け、2週間飼育した。飼育期間中、ラットには表2に示すAIN-76組成に準じて調製した飼料を自由に与えた。投与終了後、各測定試験を行った。
なお、血清コレステロール濃度、血清トリグリセリド濃度及び血清リン脂質濃度は、それぞれ市販の酵素法キットであるコレステロールE-テストワコー、トリグリセリドE-テストワコー、リン脂質C-テストワコーを用いて測定し、全てのデータは平均値±標準誤差で示した。Tukey-Kramerの多重比較により有意差検定を行い、P<0.05で有意差ありと判定した。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
表3には体重、摂食量、各種臓器重量及び脂肪組織重量を示した。
表3の結果から、終体重、体重増加量は、コントロール群と比べて大豆ペプチド群で高く、ホエータンパク加水分解物群で低い値を示し、大豆ペプチド群とホエータンパク加水分解物群間で有意差が認められた。摂食量は統計的有意差はなかったが、ホエータンパク加水分解物群で他の2群と比較して、低い値を示した。100g体重当たりの肝臓重量は、コントロール群と比較して大豆ペプチド群で低い傾向があったが、有意差は観察されなかった。100g体重当たりの腎臓重量は、コントロール群と比較してホエータンパク加水分解物群で有意に高い値を示した。100g体重当たりの心臓及び肺の重量には各群間で大きな差は示さなかった。
【0030】
表4に血清脂質濃度を示した。
表4の結果から、血清トリグリセリド濃度は、コントロール群に対して大豆ペプチド群及びホエータンパク加水分解物群で約15%低い値を示した。
血清コレステロール濃度は、コントロール群に対して大豆ペプチド群及びホエータンパク加水分解物群で約20%の低い値を示した。
血清リン脂質濃度は、血清トリグリセリド濃度と同様の傾向を示した。なお、ホエータンパク加水分解物群は、大豆ペプチド群よりも低い値を示した。
よって、血清中のコレステロールの代謝改善作用は、大豆ペプチド群に比べてホエータンパク加水分解物群で効果が高いことが明らかとなった。
【0031】
さらに、ホエータンパク加水分解物の水溶液は、透明で、苦味度も2程度であることから、製品に使用する際に制限がない。血清トリグリセリド、コレステロール、リン脂質の蓄積抑制効果が顕著である。
【実施例3】
【0032】
(錠剤の調製)
表5に示す配合で原材料を混合後、常法により1gに成型、打錠し、錠剤を製造した。
【0033】
【表5】

【実施例4】
【0034】
(栄養組成物の調製)
実施例2で得られたホエータンパク加水分解物50gを4,950gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6,000rpmで30分間撹拌混合してホエータンパク加水分解物含量50g/5kgのホエータンパク加水分解物溶液を得た。このホエータンパク加水分解物溶液5.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機 (第1種圧力容器、TYPE: RCS-4CRTGN、日阪製作所社製)で121℃、20分間殺菌して、栄養組成物50kgを製造した。
なお、この栄養組成物には、100gあたり、ホエータンパク加水分解物が100mg含まれていた。
【実施例5】
【0035】
(飲料の調製)
脱脂粉乳 300gを409gの脱イオン水に溶解した後、実施例1で得られたホエータンパク加水分解物1gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX T-25;IKAジャパン社製)にて、9,500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、酸味料 2g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、飲料10本(100ml入り)を調製した。
なお、この飲料には、100mlあたりホエータンパク加水分解物が100mg含まれていた。
【実施例6】
【0036】
(イヌ用飼料の調製)
実施例2で得られたホエータンパク加水分解物200gを99.8kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(MARK II 160型;特殊機化工業社製)にて、3,600rpmで40分間撹拌混合してホエータンパク加水分解物含量2g/100gのホエータンパク加水分解物溶液を得た。このホエータンパク加水分解物溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明のイヌ用飼料100kgを製造した。
なお、このイヌ用飼料には、100gあたりホエータンパク加水分解物が20mg含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を有するホエータンパク加水分解物を有効成分として配合することを特徴とする脂質代謝改善剤。
(1)分子量分布は10kDa以下でメインピーク200Da〜3kDa
(2)APL(平均ペプチド鎖長)は2〜8
(3)遊離アミノ酸含量20%以下
(4)抗原性は、β−ラクトグロブリンの抗原性の1/10,000以下
【請求項2】
前記ホエータンパク加水分解物が、ホエータンパクをpH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク加水分解酵素を用いて熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項3】
前記ホエータンパク加水分解物が、ホエータンパクをpH6〜10、20〜55℃においてタンパク加水分解酵素を用いて酵素分解し、これを50〜70℃に昇温させ、pH6〜10、50〜70℃において耐熱性のタンパク加水分解酵素を用いて未分解のホエータンパクを熱変性させながら酵素分解し、これを加熱して酵素を失活させて得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の脂質代謝改善剤を配合することを特徴とする飲食品。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の脂質代謝改善剤を配合することを特徴とする栄養組成物。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の脂質代謝改善剤を配合することを特徴とする飼料。

【公開番号】特開2010−248136(P2010−248136A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100147(P2009−100147)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】