説明

脂質分解酵素遺伝子

【課題】製パン・製菓など多様な産業目的に有用な、脂質分解酵素の提供。
【解決手段】脂質分解酵素活性を有し、成熟ペプチドである特定のアミノ酸配列、又は当該アミノ酸配列において置換、欠失及び/又は付加により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチド。該ポリペプチドを含んでなる洗剤。該ポリペプチドを含んでなる穀粉組成物。該ポリペプチドを添加することを含んでなる、生地又は生地から作られる焼き製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、相同遺伝子のいわゆるファミリーシャッフリングにより脂質分解酵素に多様性を引き起こす方法に関連する。本発明は該方法に使用するポリヌクレオチドに、また該ポリヌクレオチドがコードする脂質分解酵素にも関連する。
【背景技術】
【0002】
サーモミセス・ラヌギノサス(Thermomyces lanuginosus) (異名フミコラ・ラヌギノサ(Humicola lanuginosa))のリパーゼが洗剤や製パン・製菓など多様な産業目的に有用であることは周知のとおりである(欧州特許第258068号、国際公開公報No. WO 94/04035)。そのアミノ酸及びDNA配列は米国特許第5,869,438号で開示されている。
【0003】
先行技術は酵素特性の改変を目的としたサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼのアミノ酸配列の改変による変異体の創製を開示している。たとえば米国特許第5,869,438号、WO 95/22615、WO 97/04079及びWO 00/32758はリパーゼ遺伝子の突然変異誘発法によるそうした変異体の産生を開示している。WO 00/32758はまたサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼ由来の骨格とフサリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)ホスホリパーゼ由来のC末端とを備えた変異体の、PCR法による構築を開示している。
【0004】
Crameri et al, 1998, Nature, 391:288-291は多様な種に由来する天然相同遺伝子ファミリーのDNAシャッフリングによるタンパク質の多様化を開示している。米国特許第6,159,687号はサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼの変異体をコードする遺伝子のシャッフリングを開示し、またWO 98/41623は非相同ポリヌクレオチド配列のシャッフリングを開示している。
【0005】
以下のアスペルギルス(Aspergillus)由来脂質分解酵素の公開配列はサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼとのアミノ酸同一性が49〜51%である: アスペルギルス・フェチダス(A. foetidus)由来リゾホスホリパーゼ(EMBL A93428、米国特許第6,140,094号)、アスペルギルス・ツビンゲンシス(A. tubingensis) (EMBL A84589、WO 98/45453)、アスペルギルス・オリゼー(A. oryzae)由来ホスホリパーゼA1 (EMBL E16314、欧州特許第575133号、日本特許第10155493 A号)及びアスペルギルス・ニガー(A. niger)由来リゾホスホリパーゼ(EMBL A90761、WO 98/31790)。
【0006】
R. Lattmann et al, Biocatalysis, 3 (1-2), 137-144 (1990) はタラロミセス・サーモフィルス(Talaromyces thermophilus)由来エステラーゼを開示している。V.W. Ogundero, Mycologia, 72(1), 118-126 (1980)はタラロミセス・サーモフィルス(Talaromyces thermophilus)のリパーゼ活性について記述している。米国特許第4,275,011号及び欧州特許第258068号はサーモミセス・イバダネンシス(Thermomyces ibadanensis)由来のリパーゼに言及している。B.A. Oso, Canadian Journal of Botany, 56: 1840-1843 (1978)はタラロミセス・エメルソニル(Talaromyces emersonil)のリパーゼ活性について記述している。
【発明の開示】
【0007】
発明の要約
本発明者は、サーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼ遺伝子に対し高い相同性を有し、従ってまた遺伝子シャッフリングに好適である新規の脂質分解酵素遺伝子を単離した。該新規遺伝子を配列番号: 3、5、7、9及び11として示す。若干のタンパク質とDNA配列に関する同一性を次表に示す。該新規配列は次の記号で識別する:
・ Talthe1M: タラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)由来の配列番号:3 & 4
・ Theiba1M: サーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)由来の配列番号:5 & 6
・ Taleme1M: タラロミセス・エメルソニル(T. emersonil)由来の配列番号:7 & 8
・ Talbys1M: タラロミセス・ビソクラミドイデス(T. byssochlamydoides)由来の配列番号:9 & 10
【0008】
以下の既知配列は比較のために含める:
・ Thelan1M: サーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)由来リパーゼ、配列番号: 1 & 2
・ Asptub2M: EMBL A84589、アスペルギルス・ツビンゲンシス(A. tubingensis)由来リパーゼ
・ Aspory3M: EMBL E16314、アスペルギルス・オリゼー(A. oryzae)由来ホスホリパーゼA1
・ Aspnig2M: EMBL A90761、アスペルギルス・ニガー(A. niger)由来リゾホスホリパーゼ
【0009】
以下は成熟タンパク質に関する同一性表である:
【表1】

【0010】
以下は成熟タンパク質をコードするDNA配列に関する同一性表である(終止コドンは除外):
【表2】

【0011】
従って本発明は、脂質分解酵素をコードする2以上の相同遺伝子のファミリーシャッフリングにより脂質分解酵素を多様化する方法を提供する。一方の遺伝子はサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼとの同一性90%以上の脂質分解酵素をコードし、他方の遺伝子はサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼとの同一性90%以上の脂質分解酵素をコードする。該DNAシャッフリング技術を使用してキメラ遺伝子ライブラリーを創出し、該ライブラリーを好適な発現系で発現させ、発現したタンパク質を脂質分解酵素活性でスクリーニングする。発現したタンパク質をさらにスクリーニングして改良型の脂質分解酵素を同定してもよい。
【0012】
本発明はまた、脂質分解酵素をコードするヌクレオチドを含むポリヌクレオチド及び脂質分解酵素(脂質分解酵素活性を有するポリペプチド)を提供する。
ポリヌクレオチドは大腸菌(E. coli) (寄託番号DSM 14047、14048、14049又は14051)中に存在するプラスミドにクローニングしたDNA配列でもよいが、該DNA配列は成熟ペプチドをコードする配列番号: 3、5、7又は9のDNA配列もしくは該DNA配列から1又は複数のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は挿入により誘導しうるDNA配列である。
【0013】
該ポリヌクレオチドは成熟ペプチドをコードする配列番号: 3のDNA配列との同一性が90%以上、成熟ペプチドをコードする配列番号: 5のDNA配列との同一性が80%以上、成熟ペプチドをコードする配列番号: 7のDNA配列との同一性が65%以上、又は成熟ペプチドをコードする配列番号: 9のDNA配列との同一性が60%以上でもよい。該ポリヌクレオチドはまた、成熟ペプチドをコードする配列番号: 3、5、7又は9のDNA配列の対立遺伝子変異体でもよいし、成熟ペプチドをコードする配列番号: 3、5、7又は9の核酸配列又は少なくとも100ヌクレオチドを有するその部分配列の相補鎖と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズしてもよい。
【0014】
脂質分解酵素は大腸菌(E. coli) (寄託番号DSM 14047又は14049)内に存在するプラスミドにクローニングしたDNA配列によってコードされてもよいし、配列番号: 6又は10の成熟ペプチドであるアミノ酸配列を有してもよいし、又は該アミノ酸配列から1又は複数のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入により誘導しうるアミノ酸配列を有してもよい。脂質分解酵素は配列番号: 6の成熟ペプチドとの同一性が80%以上であるアミノ酸配列又は配列番号: 10の成熟ペプチドとの同一性が60%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0015】
脂質分解酵素はさらに、配列番号: 6又は10の精製成熟ペプチドに対する抗体と免疫反応性を有してもよいし、配列番号: 6又は10の成熟ペプチドの対立遺伝子変異体でもよいし、又は成熟ペプチドをコードする配列番号: 5又は9の核酸配列又は少なくとも100ヌクレオチドを有するその部分配列の相補鎖と高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする核酸配列がコードしてもよい。
【0016】
発明の詳細な説明
ゲノムDNAソース
本発明の脂質分解酵素遺伝子はタラロミセス(Talaromyces)又はサーモミセス(Thermomyces)属特にタラロミセス・サーモフィルス(Talaromyces thermophilus)、サーモミセス・イバダネンシス(Thermomyces ibadanensis)、タラロミセス・エメルソニル(Talaromyces emersonil)又はタラロミセス・ビソクラミドイデス(Talaromyces byssochlamydoides)の菌株から、本明細書に記載のDNA配列を基に設計したプローブを使用して派生させてもよい。
たとえば配列リスト中の遺伝子とポリペプチドは下記の生物から単離した。該遺伝子を含む大腸菌(Escherichia coli)株は本発明者がブダペスト条約に基づきDSMZ(ドイツ微生物・培養細胞保存機構、所在地Mascheroder Weg 1b, D-38124 Braunschweig, DE)に次のとおり寄託した。
【0017】
【表3】

【0018】
以上のソース生物は以下の菌株保存機構から商業ベースで自由に分譲が受けられる:
ATCC (American Type Culture Collection), 10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110-2209, USA.
CBS (Centraalbureau voor Schimmelcultures, Uppsalalaan 8, 3584 CT Utrecht, The Netherlands.
UAMH (University of Alberta Herbarium & Culture Collection), Devonian Botanic Garden, Edmonton, Alberta, Canada, T6G 3GI.
IMI: International Mycological Institute, Bakeham Lane, Englefield Green, EGHAM, Surrey TW20 9TY, United Kingdom.
【0019】
ポリヌクレオチド
遺伝子組換え(シャッフリング)に使用するポリヌクレオチドは脂質分解酵素をコードする2以上の遺伝子であり、該酵素のうちの1個はサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼ(配列番号: 2)との同一性が90%以上、もう1個は同一性が55〜90%である。使用ポリヌクレオチドは1個以上のヌクレオチドが異なる。
【0020】
出発物は配列番号: 1、3、5、7及び/又は9のうちの2以上(たとえば3、4又は5)配列の成熟部分を含んでもよい。また、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換及び/又は挿入によって得られる、及び/又はN末端及び/又はC末端へのペプチド延長鎖の付加によって得られる配列番号: 2、4、6、8及び/又は10のうちの複数種(たとえば3、4又は5種)の変異体をコードする遺伝子を含んでもよい。サーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼの変異体の例はたとえば米国特許第5,869,438号、WO 95/22615、WO 97/04079及びWO 00/32758号に記載されており、また類似の変異体は他配列の対応するアミノ酸の改変により創製することができる。
遺伝子中のイントロンは随意に組換え前に除去してもよい。
【0021】
DNA組換え(シャッフリング)
2以上の相同インプット・ポリヌクレオチド(出発ポリヌクレオチド)間のシャッフリングはアウトプット・ポリヌクレオチド(すなわちシャッフリングサイクルを経た後のポリヌクレオチド)の獲得を目的としたポリヌクレオチドの断片化と断片の組換えを伴い、インプット・ポリヌクレオチドに対し多数のヌクレオチド断片の組換えが行われよう。
DNA組換え又はシャッフリングは、2以上の出発遺伝子からキメラ遺伝子ライブラリーを生成するような(部分)ランダム法でもよい。このシャッフリング又は組換え法の実行には多数の公知方式を用いることができる。
【0022】
該組換え法はたとえば米国特許第5,605,793号、5,811,238号、5,830,721号、6,117,679号で開示されている、親DNAのランダム断片化とそれに続くPCR法による再構成で新しい完全長遺伝子を生成するという方法でもよいし、米国特許第6,159,687号、WO 98/41623、米国特許第6,159,688号、5,965,408号、6,153,510号で開示されているin vitro遺伝子組換え法でもよいし、またWO 97/07205及びWO 98/28416で開示されている生細胞中でのin vivo組換え法でもよい。
親DNAの断片化にはDNアーゼI処理を用いても、Kikuchi et al (2000a, Gene 236:159-167)が記述している制限酵素消化を用いてもよい。2つの親DNAのシャッフリングはKikuchi et al (2000b, Gene 243:133-137)が記述している2親DNAの1本鎖のシャッフリングによって行ってもよい。
ある特定のシャッフリング方式はCrameri et al, 1998, Nature, 391: 288-291及びNess et al, Nature Biotechnology 17:893-896に記載の方法に依拠する。別の方式は米国特許第6,159,687号の実施例1及び2に記載の方法に依拠しよう。
【0023】
脂質分解酵素の性質
本発明によって得られる脂質分解酵素はカルボン酸エステル結合を加水分解することができ、また「酵素命名法1992年」(Academic Press, Inc.)に従ってEC 3.1.1として分類される。該酵素は特にリパーゼ(トリグリセロールリパーゼ)(EC 3.1.1.3)、ホスホリパーゼA1 (EC 3.1.1.32)、ホスホリパーゼA2 (EC 3.1.1.4)、コレステロールエステラーゼ(EC 3.1.1.13)及び/又はガラクトリパーゼ(EC 3.1.1.26)としての活性をもとう。
【0024】
その熱安定性は示差走査熱量計(DSC)によって評価した。pHを5として90℃/時で加熱したときの変性ピーク温度(Td)はサーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)由来脂質分解酵素では75℃強であるが、先行技術のサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)由来脂質分解酵素では70℃強である。サーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)由来脂質分解酵素は(サーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)由来脂質分解酵素と同様に)アルカリ性pHで至適活性を示し、また (サーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)由来脂質分解酵素をやや上回る)約4.3の等電点を有する。
【0025】
相同性とアラインメント
配列番号: 2、4、6、8及び10の成熟部分の最適アラインメントは配列番号: 2、4及び6のQ246とP/G250の間に1アミノ酸のギャップを挿入することにより実現される。このアラインメントは対応するアミノ酸を明確にする。
相同性の度合いは技術上周知のコンピュータープログラムたとえばGCGプログラムパッケージとして提供されるGAP (Program Manual for the Wisconsin Package, Version 8, August 1994, Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, Wisconsin, USA 53711)(Needleman, S.B. and Wunsch, C.D. 1970, Journal of Molecular Biology, 48, 443-45)を用いて、ポリペプチド配列比較のための設定をギャップ挿入ペナルティー3.0、ギップ伸長ペナルティー0.1として判定してもよい。
【0026】
相同性の判定はまた、FASTAパッケージversion v20u6のAlignを用いて行ってもよい。Alignは一種のNeedleman-Wunschアラインメント(すなわちグローバルアラインメント)ソフトウェアでありタンパク質とDNAの両方のアラインメントに有効である。タンパク質とDNAのアラインメントにはデフォルト得点行列BLOSUM50と一致行列をそれぞれ使用する。ギャップ中の第1残基に対応するペナルティーはタンパク質では-12、DNAでは-16である。ギャップ中の追加残基に対応するペナルティーはタンパク質では-2、DNAでは-4である。
本明細書で述べている相同性は60%以上の同一性、特に70%以上又は80%以上の同一性、たとえば90%以上又は95%以上の同一性に対応する。
【0027】
脂質分解酵素の用途
本発明の酵素は基質特異性次第で、たとえばろ過処理の改善、植物性油の処理、製パン・製菓、洗剤、又はリゾリン脂質の調製に使用することができる。該酵素は、先行技術と同様の方法でたとえば次のような既知の脂質分解酵素用途に使用してもよい。
・ 紙パルプ産業のピッチコントロール又は古紙脱墨処理。WO 92/13130、WO 92/07138、日本特許第2160984 A号、欧州特許第374700号。
・ 製パン・製菓。WO 94/04035、WO 00/32758。
【0028】
・ 洗剤。WO 97/04079、WO 97/07202、WO 97/41212、WO 98/08939及びWO 97/43375。
・ 皮革産業。英国特許第2233665号、欧州特許第505920号。
・ リパーゼ活性をもつ酵素は油脂のけん化、トリグリセリドの変性、及びモノ-及びジ-グリセリドの生産に使用してもよい。
・ リパーゼ活性をもつ酵素はバルク油脂のエステル交換、フライ油脂やショートニング類、マーガリン成分の生産に使用してもよい。
・ ホスホリパーゼ(A1、A2)活性をもつ酵素は植物性油の脱ガムやリゾリン脂質の生産に使用してもよい。
【0029】
ろ過処理の改善
リゾホスホリパーゼ活性をもつ酵素はその変異体による処理で糖質起源の水溶液又は懸濁液のろ過処理適性を向上させることができる。これは特に、ろ過しにくく濁ったろ液になりがちなデンプン糖質特に小麦デンプン糖質を含む溶液又は懸濁液に適用される。この処理は欧州特許第219,269号(CPC International)に記載の要領で行うことができる。
【0030】
洗剤
本発明の脂質分解酵素は洗剤添加剤として、たとえば0.001〜10mg (たとえば0.01〜1mg)/グラム-洗剤又は0.001〜100mg (たとえば0.01〜10mg)/リットル-洗浄液の濃度(純酵素タンパク質ベース)で使用してもよい。
本発明の洗剤組成物は、たとえば汚れた布地の前処理に適した洗濯用添加剤組成物やすすぎ水用柔軟剤を含む手洗い又は機械洗い用洗濯洗剤組成物として調製してもよいし、家庭用硬質表面クリーナーに使用する洗剤組成物として調製してもよい。洗濯洗剤では本発明の変異体が油汚れの洗い落とし、白さの維持及び黒ずみ解消に有効であろう。洗濯洗剤組成物はWO 97/04079、WO 97/07202、WO 97/41212、PCT/DK WO 98/08939及びWO 97/43375に記載の要領で調製してもよい。
【0031】
本発明の洗剤組成物は特に、たとえば英国特許第2,247,025号(Unilever)又はWO 99/01531 (Procter & Gamble)に記載の要領で食器手洗い又は機械洗い用として調製してもよい。食器洗い機用組成物では、本発明の変異体が油汚れの除去、高度に着色された部品による食器及び食器洗い機プラスチック部品の染み/変色の防止、及び石灰質水あかの付着防止に有効であろう。
【0032】
本発明の洗剤組成物は任意幸便な形態たとえばバー、タブレット、粉末、顆粒、ペースト又は液体などでよい。液体洗剤は一般に70%以下の水と0〜30%の有機溶媒を含む水性でもよいし、非水性でもよい。
洗剤組成物は1種又は複数種の界面活性剤を含み、界面活性剤は半極性を含む非イオン系でも、陰イオン系、陽イオン系、双生イオン系でもよい。界面活性剤の含有量は一般に0.1〜60 (重量)%たとえば0.5〜40%、1〜30%、特に1.5〜20%である。
【0033】
ベーカリー製品と生地
脂質分解酵酵素はパンやケーキなどのベーカリー製品とその生地の調製に使用して、たとえば生地の安定性や取扱い適性を改善し又はパンやケーキの弾力性を高めることができる。脂質分解酵酵素はたとえば製パン工程に使用することができるが、その場合の工程は脂質分解酵酵素をパン生地材料に添加するステップ、生地をこねるステップ、生地をパンに焼き上げるステップを含む。これは米国特許第4,567,046号(協和発酵)、日本特許第60-78529-A号(キューピー)、日本特許第62-111629-A号(キューピー)、日本特許第63-258528-A号(キューピー)又は欧州特許第426211号(Unilever)に記載の要領で行うことができる。脂質分解酵酵素はWO 99/53769 (Novo Nordisk)に記載の要領で、硬化防止用アミラーゼ特にエンドアミラーゼたとえば麦芽アミラーゼと併用してもよい。脂質分解酵酵素はたとえば穀粉組成物たとえば生地や生地用プレミックスに添加してもよい。
【0034】
材料と方法
菌株とプラスミド
プラスミドpMT2188
アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)発現プラスミドpCaHj 483 (WO 98/00529)はアスペルギルス・ニドランス(Aspergillus nidulans)リン酸トリオース・イソメラーゼ非翻訳リーダー配列(Pna2/tpi)とアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)アミログリコシダーゼ・ターミネーター(Tamg)とに融合したアスペルギルス・ニガー(A. niger)中性アミラーゼIIプロモーターを基本とする発現カセットからなる。該プラスミド上には、唯一の窒素源としてのアセトアミド上での増殖を可能にするアスペルギルス・ニドランス(A. nidulans)に由来するアスペルギルス(Aspergillus)選択マーカーamdSも存在する。
【0035】
これらのエレメントを大腸菌(E. coli)ベクターpUC19 (New England Biolabs)にクローニングする。このプラスミドの大腸菌(E. coli)中での選択を可能にするアンピシリン耐性マーカーを、大腸菌(E. coli)のpyrF突然変異を補完しうるサッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)のURA3マーカーで置き換えたが、この置き換えは次のようにして行った:
【0036】
プライマー142779 (配列番号: 35)及び142780 (配列番号: 36)を用いてpUC19の複製起点をpCaHj 483からPCR増幅した。
プライマー142780はPCR断片にBbuI部位を導入する。この増幅にはExpand PCRシステム(Roche Molecular Biochemicals, Basel, Switzerland)をこの増幅と後続の増幅に関するメーカーの説明書に従って使用した。
【0037】
プライマー140288 (配列番号: 37)及び142778 (配列番号: 38)を用いてURA3遺伝子を汎用サッカロミセス・セレビシエー(S. cerevisiae)クローニングベクターpYES2 (Invitrogen, Carlsbad, Ca, USA)から増幅した。
プライマー140288はPCR断片にEcoRI部位を導入する。2つのPCR断片を、混合とプライマー142780及び140288使用による増幅の後、オーバーラップ法によるスプライシング[Horton et al (1989) Gene, 77, 61-68]で融合した。
【0038】
得られた断片をEcoRIとBbuIで消化し、これらの同じ酵素で消化しておいたpCaHj 483の最大断片にライゲートした。このライゲーション反応液を使用して、MandelとHigaの方法[Mandel, M. and A. Higa (1970) J. Mol. Biol. 45, 154]でコンピテントにしたpyrF E.coli株DB6507 (ATCC 35673)を形質転換した。形質転換体を、1g/lカザミン酸、500 μg/lチアミン及び10mg/lカナマイシンを添加した固形M9培地[Sambrook et al (1989) Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press]上で選択した。
【0039】
選択した形質転換体に由来するプラスミドをpCaHj 527と命名した。pCaHj 527上のPna2/tbiプロモーターに単純PCR法により部位指定突然変異誘発を起こした。
ヌクレオチド134-144の配列番号: 39から配列番号: 40への改変には変異原プライマー141223 (配列番号: 41)を使用した。
ヌクレオチド423-436の配列番号: 42から配列番号: 43への改変には変異原プライマー141222 (配列番号: 44)を使用した。
得られたプラスミドはpMT2188と命名した。
【0040】
プラスミドpENI1861
プラスミドpENI1861は、発現プラスミド中に最新技術アスペルギルス(Aspergillus)プロモーター並びに多数のクローニング用特定制限部位を導入するために調製した。
pMT2188(前述)を鋳型としプライマー051199J1 (配列番号: 45)及び1298TAKA (配列番号: 46)を使用してpCR断片(約620bp)を調製した。
【0041】
該断片をBssHIIとBglIIで切断し、やはりBssHIIとBglIIで切断しておいたpENI1849にクローニングした。このクローニングを配列解析で確認した。大腸菌(E. coli)とアスペルギルス(Aspergillus)の両方で作動するプロモーターを導入するためにプラスミドpENI1902を調製した。これは特定部位削除法により、「カメレオン2本鎖部位指定突然変異誘発キット」を用いてメーカー(Stratagene)推奨に従って実行した。
【0042】
プラスミドpENI1861
プラスミドpENI1861は鋳型として、また177996 (配列番号: 47)、135640 (配列番号: 48)及び135638 (配列番号: 49)の5’リン酸化プライマーは選択プライマーとして用いた。
5’リン酸化080399J19プライマー(配列番号: 50)を変異原プライマーとして用いて、アスペルギルス(Aspergillus)発現プロモーターに-35及び-10プロモーターコンセンサス配列(大腸菌(E. coli)由来)を導入した。この突然変異の導入は配列解析で確認した。
【0043】
プラスミドpENI1960
Gateway VectorTM変換システム[Lifetechnology(登録商標)カタログ番号11828-019]を用いてプラスミドpENI1960を調製した。これは、pENI1902をBamHIで切断し、クレノウ酵素とヌクレオチドを用いてDNA末端を埋め(て平滑端とし)、次いでリーディングフレームのA GatewayTM PCRフラグメントにライゲートする方法で行った。正しい方向のクローニングを配列解析で確認した。
【0044】
培地と基質
YPG: 4g/L酵母抽出物、1g/L KH2PO4、0.5g/L MgSO4-7aq、5g/Lグルコース、pH 6.0。
【実施例】
【0045】
実施例1脂質分解酵素遺伝子を収めたプラスミド
ゲノムDNAの調製
ゲノムDNAソースとしてサーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)、タラロミセス・エメルソニル(T. emersonil)、タラロミセス・ビソクラミドイデス(T. byssochlamydoides)及びタラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)の菌株を用いた。100mlのYPG中で各菌株を適正温度で数日間培養した。菌糸体を集めて液体窒素中で破砕し、100mM NaCl、25mM EDTA及び1% SDSを添加した2mlの50mM Tris-HCl (pH 8.0)緩衝液中に懸濁させ、次に12μlのプロテイナーゼK (25mg/ml)を添加した。懸濁液を30〜60分間65℃に保った。フェノール抽出によりタンパク質を除去し0.7体積のイソプロパノールを加えてDNAを沈殿させた。沈殿物を滅菌水で溶解しRNアーゼを添加した。フェノール/イソアミルアルコール抽出後、EtOHを加えてDNAを沈殿させた。
【0046】
脂質分解酵素遺伝子のPCRスクリーニング
アラインメントリパーゼを土台にして設計したHL2及びHL12 (配列番号: 51及び52)又はHL2及びHL6 (配列番号: 51及び53)を用いて、各ゲノムDNAを対象にPCRを行った。
反応成分[2.6ng/μlのゲノムDNA、各々250mMのdNTP、各々250nMのプライマー、0.1U/μlのTaqポリメラーゼ/1×緩衝液 (Roche Diagnostics, Japan)]を混合し次の条件でPCRを行った:
【0047】
【表4】

【0048】
ステップ1〜3は30回繰り返した。
540bpの断片と380bpの断片をそれぞれプライマーセットHL2/HL12及びHL2/HL6から増幅した。増幅断片をGFXTM PCR DNA and Gel Band Purificationキット(Amersham Pharmacia Biotech)でゲル精製した。各DNAを配列解析し、リパーゼと比較すると、クローンがリパーゼの内側部分をコードしていると判明した。
【0049】
リパーゼ遺伝子のクローニング
LA PCRTM in vitro Cloning Kit (TaKaRa)を用いてメーカーの説明書に従って各リパーゼ遺伝子をクローニングした。たとえばゲノムDNAを種々の制限酵素で切断し、各DNAを同キットの好適カセットでライゲートした。各ライゲーション溶液を、内側配列から設計したプライマーとキットのカセットプライマーによるPCRにかけた。増幅DNA断片の配列を解析した。ORFが決定されるまでこのステップを繰り返した。
【0050】
同キットのLA-Taqポリメラーゼは忠実度が高くないので、適正配列を得るためにメーカーの説明書に従って全遺伝子をExpand高忠実度ポリメラーゼで増幅した。
増幅DNA断片はGFXTM PCR DNA and Gel Band Purificationキット(Amersham Pharmacia Biotech)でゲル精製し、Ligation High (TOYOBO)を使用してpT7Blueベクター又はpST Blue-1 AccepTorベクター(Novagen)にライゲートした。このライゲーション反応液を使用して大腸菌(E. coli)JM109又はDH5αを形質転換した。各遺伝子の4プラスミドの配列を決定し、比較した。多数派の配列を正しいヌクレオチド配列とする。
【0051】
実施例2アスペルギルス(Aspergillus)発現ベクターへのリパーゼ遺伝子のクローニング
PWOポリメラーゼを使用して3件のPCRを次の条件で行った: 94℃5分間、30×(94℃30秒間、50℃30秒間、72℃2分間)、72℃5分間。いずれの場合も使用鋳型(脂質分解酵素遺伝子を収めたプラスミド。実施例1の要領で調製)及びプライマーは次のとおり:
【0052】
A: タラロミセス・サーモフィルス(Talaromyces thermophilus)由来遺伝子を収めたプラスミド及びオリゴ051200J1/051200J8 (配列番号: 11 & 18)
B: タラロミセス・エメルソニル(Talaromyces emersonil)由来遺伝子を収めたプラスミド及びオリゴ051200J9/051200J16 (配列番号: 19 & 26)
C: サーモミセス・イバダネンシス(Thermomyces ibadanensis)由来遺伝子を収めたプラスミド及びオリゴ051200J17/051200J24 (配列番号: 27 & 34)。
【0053】
PCR断片を1%アガロースゲルから精製し、pENI1960(前述) へとGatewayクローニングを用いてメーカー(Life Technologies)推奨の要領でクローニングし、大腸菌(E. coli) DH10b (Life Technologies, Gaithersburg, MD)に導入し、配列を解析し、もってpENI2146 (タラロミセス・エメルソニル(T. emersonil)リパーゼ遺伝子)、pENI2147 (サーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)リパーゼ遺伝子)、pENI2148 (タラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)リパーゼ遺伝子)を調製した。
これらをJal250 (WO 00/39322で開示)に導入し、WO 00/24883に記載の要領でリパーゼ活性を評価した。
【0054】
実施例3イントロンレス・リパーゼ遺伝子の構築
タラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)リパーゼ遺伝子からのイントロンの除去
4件のPCR [94℃5分間、30×(94℃30秒間、50℃30秒間、72℃1分間)、72℃5分間]を、PWOポリメラーゼ、鋳型としてのpENI2148及び次のオリゴを使用して実施した:
1: 051200J1 & 051200J3 (配列番号: 11 & 13)
2: 051200J2 & 051200J5 (配列番号: 12 & 15)
3: 051200J4 & 051200J7 (配列番号: 14 & 17)
4: 051200J6 & 051200J8 (配列番号: 16 & 18)
【0055】
1.5%アガロースゲルから特異的バンドを精製した。等量のPCR断片をPWOポリメラーゼ、緩衝液、dNTP、オリゴ051200J1及び051200J8 (配列番号: 11及び18、メーカーのBoehringer Mannheimの推奨に従い全量を50μlとした)と混合し、2回目のPCRを実施した[94℃5分間、30×(94℃30秒間、50℃30秒間、72℃2分間)、72℃5分間]。
【0056】
1.5%アガロースゲル上で正しいバンドサイズをチェックし(約900bp)、残りのPCR断片をBioradスピンカラム(カタログ番号732-6225)で精製した。
PCR断片を(ccdB遺伝子の切断を目的に) ScaIで消化したpENI1960に、Gatewayクローニングを用いてメーカー(Life Technologies)推奨の要領でクローニングし、大腸菌(E. coli) DH10bに導入し配列を解析し、もってイントロン無しのタラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)リパーゼ遺伝子を創出した。
【0057】
タラロミセス・エメルソニル(T. emersonil)リパーゼ遺伝子からのイントロンの除去
4件のPCR [94℃5分間、30×(94℃30秒間、50℃30秒間、72℃1分間)、72℃5分間]を、PWOポリメラーゼ、鋳型としてのpENI2146及び次のオリゴを使用して実施した:
1: 051200J9 & 051200J11 (配列番号: 19 & 21)
2: 051200J10 & 051200J13 (配列番号: 20 & 23)
3: 051200J12 & 051200J15 (配列番号: 22 & 25)
4: 051200J14 & 051200J16 (配列番号: 24 & 26)
【0058】
1.5%アガロースゲルから特異的バンドを精製した。等量のPCR断片をPWOポリメラーゼ、緩衝液、dNTP、オリゴ051200J9及び051200J16 (配列番号: 19及び21、メーカーの推奨に従い全量を50μlとした)と混合し、2回目のPCRを実施した[94℃5分間、30×(94℃30秒間、50℃30秒間、72℃2分間)、72℃5分間]。
1.5%アガロースゲル上で正しいバンドサイズをチェックし(約900bp)、残りのPCR断片をBioradスピンカラムで精製した。
PCR断片をScaIで消化したpENI1960に、Gatewayクローニングを用いてメーカー(Life Technology)推奨の要領でクローニングし、大腸菌(E. coli) DH10bに導入し配列を解析し、もってイントロン無しのタラロミセス・エメルソニル(T. emersonil)リパーゼ遺伝子を創出した。
【0059】
サーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)リパーゼ遺伝子からのイントロンの除去
4件のPCR [94℃5分間、30×(94℃30秒間、50℃30秒間、72℃1分間)、72℃5分間]を、PWOポリメラーゼ、鋳型としてのpENI2147及び次のオリゴを使用して実施した:
1: 051200J17 & 051200J19 (配列番号: 27 & 29)
2: 051200J18 & 051200J21 (配列番号: 28 & 31)
3: 051200J20 & 051200J23 (配列番号: 30 & 33)
4: 051200J22 & 051200J24 (配列番号: 32 & 34)
【0060】
1.5%アガロースゲルから特異的バンドを精製した。等量のPCR断片をPWOポリメラーゼ、緩衝液、dNTP、オリゴ051200J17及び051200J24 (配列番号: 27及び34、メーカーの推奨に従い全量を50μlとした)と混合し、2回目のPCRを実施した[94℃5分間、30×(94℃30秒間、50℃30秒間、72℃2分間)、72℃5分間]。
1.5%アガロースゲル上で正しいバンドサイズをチェックし(約900bp)、残りのPCR断片をBioradスピンカラムで精製した。
PCR断片をScaIで消化したpENI1960に、Gatewayクローニングを用いてメーカー(Life Technology)推奨の要領でクローニングし、大腸菌(E. coli) DH10bに導入し配列を解析し、もってイントロン無しのサーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)リパーゼ遺伝子を創出した。
【0061】
実施例4脂質分解酵素遺伝子のシャッフリング
脂質分解酵素をコードするDNA配列を収めた複数のプラスミドを等量混合する。以下の成分をマイクロチューブ中で混合する:
2μlのプラスミド混合液(0.15μg/μl)、遺伝子を挟む特異的プライマー(1pmol/μ)、2μlの2.5mM dNTP、2.5mM MgCl2、2μlの10×Taq緩衝液(Perkin Elmer)、0.5μlのTaq酵素(全量20μl)。
チューブをPerkin Elmer 2400サーモサイクラーにセットする。以下のPCRプログラムを実行する: (94℃5分間) 1サイクル、(94℃30秒間、70℃ 0秒間) 99サイクル、(72℃2分間、4℃不定) 1サイクル。
【0062】
PCR反応液を1.5%アガロースゲルにかける。特定期待サイズのDNAバンドをアガロースゲルから切り出し、JETsorb (GENOMED Inc.)を用いて精製する。精製PCR産物を(Invitrogen TAクローニングキットに含まれる) TAベクターにクローニングする。このライゲーション産物を標準大腸菌(E. coli)株(DH5a)に導入する。
組換え配列は次にE. coli TAベクターからBamHI-XbaI断片(WO 97/07205を参照)として酵母ベクターpJSOO26 (WO 99/28448)にサブクローニングし、また性質の改善たとえば洗剤の性能向上(WO 97/07205を参照)につながる新しい組換え配列のスクリーニングなどに回すことができる。
【0063】
実施例5脂質分解酵素遺伝子のシャッフリング
脂質分解酵素遺伝子のPCR産物を前実施例の要領で調製し、等量を混合する。適当なチューブを用いて以下の成分を混合する:
1μlのPCR産物混合液(0.1μg)、デカマー・ランダムプライマー(300 pmol)、2μlの10×クレノウ緩衝液(Promega)、0.25mM dNTP、2.5mM MgCl2 (全量20μl)。
この混合液をPE 2400サーモサイクラーにセットし、以下のプログラムを実行する: 96℃5分間、25℃5分間、0.5mlクレノウ酵素添加、25℃60分間、35℃90分間。
【0064】
この手順により、遺伝子のすべての部分に由来するきわめて多数の小DNAポリマーが得られる。
10μlを分取してアガロースゲルで試験する。
10μlのPCR反応液[0.25mM dNTP、1μlの10×Taq緩衝液(Perkin Elmer)、2.5mM MgCl2、0.5μl Taq酵素]をサーモサイクラー中のチューブの10μlに加える。次に以下の標準PCRプログラムを実行する:(94℃5分間) 1サイクル、(94℃30秒間、45℃30秒間、72℃30秒間) 25サイクル、72℃7分間、4℃不定。
【0065】
PCR産物を1.5%アガロースゲルにかける。期待サイズのバンドを切り出す。PCR産物をクローニング前に増幅するために追加のPCRを、特異的プライマー(前述)を使用して行う。
PCR産物と所望ベクターを好適な制限酵素(BamHI/XhoI)で切断する。ベクターとPCR産物を1.5%アガロースゲルにかけ、ゲルから精製する。
切断後のPCR産物とベクターをリガーゼ緩衝液中でT4 DNAリガーゼ(Promega)と混合する。16℃で一晩ライゲーション後、反応液を使用して大腸菌(E. coli)株DH5aを形質転換する。
【0066】
実施例6イントロンレス・リパーゼ遺伝子の創出
サーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)と相同性を有する多数のリパーゼ遺伝子をクローニングした。これらの遺伝子はゲノムDNAとしてクローニングしており、従ってイントロンを含んでいた。
これらの遺伝子のシャッフリングによりキメラ遺伝子を得ることにした。可能な限り高品質のライブラリーを得るには、イントロンを除去する必要があった。これは、エキソンの上流側と下流側にそれぞれマッチすると同時にすぐ隣のエキソンと相同のDNA配列を有するDNAオリゴを創出することにより実行した。
【0067】
これらのオリゴを技術上周知の標準PCRに使用して、遺伝子中の各エキソンをことごとくカバーするPCR断片を創出した。これらのPCR断片を1%アガロースゲルから精製した。精製したPCR断片を2回目のPCRで完全長遺伝子へと再構成したが、そこでは全遺伝子を挟むDNAオリゴをプライマーとして使用した。
リパーゼをコードする完全長イントロンレス遺伝子を収めたPCR断片を、特許出願PCT/DK02/00050に記載の要領でpENI1960にクローニングした。
【0068】
各イントロンレス遺伝子の再構成には以下のプライマーを使用した:
タラロミセス・サーモフィルス(Talaromyces thermophilus): 051200J1、051200J2、051200J3、 051200J4、051200J5、051200J6、051200J7、051200J8 (配列番号: 11-18)。これらをpENI1960にクローニングするとpENI2178が生成。
タラロミセス・エメルソニル(Talaromyces emersonil): 051200J9、051200J10、051200J11、 051200J12、051200J13、051200J14、051200J15、051200J16 (配列番号: 19-26)。これらをpENI1960にクローニングするとpENI2159が生成。
【0069】
サーモミセス・イバダネンシス(Thermomyces ibadanensis): 051200J17、051200J18、051200J19、051200J20、051200J21、051200J22、051200J23、051200J24 (配列番号: 27-34)。これらをpENI1960にクローニングするとpENI2160が生成。
タラロミセス・ビソクラミドイデス(Talaromyces byssochlamydoides): 080201P1、080201P2、080201P3、080201P4、080201P5、080201P6、080201P7、080201P8 (配列番号: 54-61)。これらをpENI1960にクローニングするとpENI2230が生成。
【0070】
実施例7イントロンレス・リパーゼ遺伝子のシャッフリング
dUTPとウラシル-DNAグリコシラーゼとを使用する方法でDNAシャッフリング用に十分な量のDNA断片を調製するようにした。サーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)、タラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)及びサーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)の3遺伝子は互いに相同性がきわめて高い(ので、A群と命名)し、またタラロミセス・エメルソニル(T. emersonil)とタラロミセス・ビソクラミドイデス(T. byssochlamydoides)の場合も同様である(B群と命名)。そこで両群間の組換えを改善するために、pENI2178、pENI2159、pENI2160及びpENI2230を鋳型とするPCRスキーム(図1参照)を採用し、サーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)遺伝子をpENI1902 (BamHIとSacIIで切断)にクローニングした(特許PCT/DK/00050)。
【0071】
次のオリゴヌクレオチドは図1に示すとおりである: 1298-taka、19670、19672、115120及び050401P6 (配列番号: 62-65及び68)。050401P1 (配列番号: 66)はサーモミセス・ラヌギノサス(T. lanuginosus)リパーゼ遺伝子の5’末端にハイブリダイズする。030501P1 (配列番号: 67)は他の4リパーゼ遺伝子の5’末端にハイブリダイズする。
最終PCR断片をまずBstEIIで、次にSfiIでそれぞれ切断した。ベクターpENI2376もまた同様である。pENI2376はpENI1861の誘導体である(特許PCT/DK/02/00050)。
【0072】
このベクターとPCR断片を1%アガロースゲルから精製し、一晩ライゲートした。ライゲートしたDNAをエレクトロコンピテント大腸菌(E. coli) DH10bに導入して、約70万個の独立クローンからなるライブラリーを創出した。
このライブラリーを対象に、高pH、低pH、高温、洗剤の存在下、イオンの存在下又はイオンの不存在下といった種々の条件下での種々の基質たとえばレシチン、DGDG、トリグリセリド(トリブチリンなど)、オリーブ油、吉草酸p-ニトロフェニル又はパルミチン酸p-ニトロフェニルなどに対する活性をスクリーニングすることができる。
こうしたスクリーニングにより、たとえば熱安定リパーゼ、洗剤用ホスホリパーゼ、一次洗浄効果に優れかつ中性pHで無活性である洗剤用リパーゼなどを見つけ出すことができる。
【0073】
DNAオリゴ:
1298-taka:
gcaagcgcgc gcaatacatg gtgttttgat cat
19670:
ccccatcctt taactatagc g
19672:
ccacacttct cttccttcct c
【0074】
115120:
gctttgtgca gggtaaatc
050401P1:
cggccgggcc gcggaggcca gggatccacc atgaggagct cccttgtgct g
030501P1:
cggccgggcc gcggaggcca caagtttgta caaaaaagca gg
(他の4リパーゼ遺伝子の5’にハイブリダイズ)
050401P6:
cggccgggtc accccccatc ctttaactat agcg
【0075】
実施例8脂質分解酵素の特性解析
サーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)及びタラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)由来の脂質分解酵素を前述の要領で調製し、精製し、特性解析に使用した。
リパーゼの比活性はWO 00/32758に記載のLU法で測定し、酵素タンパク質の量は280nmの光学密度から求めた。比活性はサーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)リパーゼでは3181 LU/mg、タラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)リパーゼでは1000 LU/mgであると判明した。
【0076】
pH-活性関係はLU法でpH 5、6、7、8、9、10でのリパーゼ活性を測定することにより求めた。両酵素ともpH 10で最大リパーゼ活性を示すことが判明した。サーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)リパーゼは至適範囲が広く、pH 6〜10で最大活性の50%余りを示したが、タラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)リパーゼは低pHでより強い活性を示し、pH 5〜8では最大活性の30%未満を示したにすぎない。
熱安定性は示差走査熱量計(DSC)により走査速度を90℃/時としてpH 5 (50mM酢酸緩衝液)、pH 7 (50mM HEPES緩衝液)、pH 10 (50mMグリシン緩衝液)で測定した。変性ピーク温度(Td)は次のとおりであった:
【0077】
【表5】

【0078】
実施例9リゾホスホリパーゼ活性
サーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)及びタラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)由来の精製脂質分解酵素をpH 5及びpH 7で基質としてのリゾレシチンとインキュベートし、NEFAキットで反応の度合いを追跡することにより試験した。
その結果、サーモミセス・イバダネンシス(T. ibadanensis)由来酵素はpH 5で高いリゾホスホリパーゼ活性を示し、またpH 7である程度の活性を示した。タラロミセス・サーモフィルス(T. thermophilus)由来酵素は若干の活性を示した。
【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は実施例7で使用したPCRのスキームを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質分解酵素活性を有し、そして配列番号:6の成熟ペプチドであるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において置換、欠失及び/又は付加により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項2】
脂質分解酵素活性を有し、そして配列番号:6の成熟ペプチドであるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において置換、欠失及び/又は付加により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項3】
界面活性剤及び請求項1に記載のポリペプチドを含んでなる洗剤。
【請求項4】
穀粉及び請求項1に記載のポリペプチドを含んでなる穀粉組成物。
【請求項5】
生地に請求項1に記載のポリペプチドを添加することを含んでなる、生地又は生地から作られる焼き製品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−35867(P2008−35867A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221636(P2007−221636)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【分割の表示】特願2002−566329(P2002−566329)の分割
【原出願日】平成14年2月25日(2002.2.25)
【出願人】(500586299)ノボザイムス アクティーゼルスカブ (164)
【Fターム(参考)】