説明

脈波検出装置及び生体状態分析装置

【課題】生体信号をより正確に検出可能にする。
【解決手段】脈波検出装置610が、エアクッションの空気圧変動を検出するセンサの出力信号を所定の周波数でフィルタリングして脈波の搬送波を抽出する第1のフィルタリング手段611と、第1のフィルタリング手段611によりフィルタリングされた信号波を検波する検波器612と、検波器612により検波された信号波を、呼吸成分の周波数から第2高調波成分の周波数までの間でフィルタリングする第2のフィルタリング手段613とを有している。これにより、得られた信号波の中に切痕を捉えることができ、入眠予兆信号の検出等の生体状態の分析結果がより正確になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアクッションにより検出される信号波から脈波を検出する脈波検出装置及び該脈波検出装置により検出された脈波を用いて生体の状態を分析する生体状態分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の運転者の生体状態を監視することは、近年、事故予防策として注目されている。本出願人も、例えば、特許文献1として、内部に三次元立体編物を挿入した空気袋を備え、この空気袋を例えば人の腰部に対応する部位に配置し、空気袋の空気圧変動を測定し、得られた空気圧変動の時系列データから人の生体信号を検出し、人の生体の状態を分析するシステムを開示している。また、非特許文献1及び2においても、腰腸肋筋に沿うようにエアパックセンサを配置して人の生体信号を検出する試みが報告されている。
【特許文献1】特開2007−90032号公報
【非特許文献1】「非侵襲型センサによって測定された生体ゆらぎ信号の疲労と入眠予知への応用」、落合直輝(外6名)、第39回日本人間工学会 中国・四国支部大会 講演論文集、平成18年11月25日発行、発行所:日本人間工学会 中国・四国支部事務局
【非特許文献2】「非侵襲生体信号センシング機能を有する車両用シートの試作」、前田慎一郎(外4名)、第39回日本人間工学会 中国・四国支部大会 講演論文集、平成18年11月25日発行、発行所:日本人間工学会 中国・四国支部事務局
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1及び非特許文献1、2によれば、腰部付近の動脈(大動脈)の脈波を検知し、得られた脈波の時系列信号データを用い、例えば、本出願人が特開2004−344612において提案した手法により入眠予兆信号を検出して生体状態を分析している。入眠予兆信号の検出は、具体的には、脈波の時系列信号データを、それぞれ、SavitzkyとGolayによる平滑化微分法により、極大値と極小値を求める。そして、5秒ごとに極大値と極小値を切り分け、それぞれの平均値を求める。求めた極大値と極小値のそれぞれの平均値の差の二乗をパワー値とし、このパワー値を5秒ごとにプロットし、パワー値の時系列波形を作る。この時系列波形からパワー値の大域的な変化を読み取るために、ある時間幅Tw(180秒)について最小二乗法でパワー値の傾きを求める。次に、オーバーラップ時間Tl(162秒)で次の時間幅Twを同様に計算して結果をプロットする。この計算(スライド計算)を順次繰り返してパワー値の傾きの時系列波形を得る。一方、脈波の時系列信号データをカオス解析して最大リアプノフ指数を求め、上記と同様に、平滑化微分によって極大値を求め、スライド計算することにより最大リアプノフ指数の傾きの時系列波形を得る。
【0004】
この2つの傾き時系列波形において、パワー値の傾きの時系列波形で、パワー値の傾きの時系列波形と最大リアプノフ指数の傾きの時系列波形が逆位相となっており、さらには、パワー値の傾きの時系列波形で低周波、大振幅の波形が生じている波形が入眠予兆を示す特徴的な信号であり、その後に振幅が小さくなったポイントが入眠ポイントである。
【0005】
しかしながら、自動車などの乗物用シートに着座している場合、シートバック部から伝達される振動は、生体信号を採取する際にノイズとなる。上記した入眠予兆信号の検出などの状態分析を行うに当たって、エアクッションの空気圧変動を捉えたセンサの出力信号をそのまま状態分析部において分析対象とする信号波として用いた場合には、振動による空気圧変動などのノイズが含まれている。上記した従来の手法でも、状態分析部においてできるだけノイズ等をキャンセルする計算処理を行っているが、状態分析部の分析対象となる信号波そのものに含まれるノイズ等はできるだけ低減されていることが望ましいことはもちろんである。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、エアクッションを用いたものでありながら、脈波をより精度よく検出できる脈波検出装置を提供することを課題とする。また、本発明は、上記脈波検出装置により精度よく検出した脈波を用いることにより、状態分析を正確に行うことができる生体状態分析装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明は、人体の脈波を検出可能な部位に対応して配置されるエアクッションと、前記エアクッションの空気圧変動を検出するセンサとを備えた生体信号測定装置から得られる、前記センサの出力信号を受信し、脈波を検出する脈波検出装置であって、受信した前記センサの出力信号を所定の周波数でフィルタリングして前記脈波成分が含まれる搬送波を抽出する第1のフィルタリング手段と、前記第1のフィルタリング手段によりフィルタリングされた信号波を検波する検波器と、前記検波器により検波された前記脈波成分の信号波を、呼吸成分の周波数よりも高い周波数で設定された下限側の遮断周波数と、前記脈波の第2高調波成分の周波数を基準として設定された上限側の遮断周波数との範囲でフィルタリングする第2のフィルタリング手段と
を有することを特徴とする脈波検出装置を提供する。
請求項2記載の本発明は、前記第1のフィルタリング手段は、バンドパスフィルタであることを特徴とする請求項1記載の脈波検出装置を提供する。
請求項3記載の本発明は、前記第2のフィルタリング手段は、下限側の遮断周波数が脈波の基本周波数の1/2に設定されていることを特徴とする請求項1記載の脈波検出装置を提供する。
請求項4記載の本発明は、前記第2のフィルタリング手段は、下限側の遮断周波数が0.5Hzに設定されていることを特徴とする請求項3記載の脈波検出装置を提供する。
請求項5記載の本発明は、前記第2のフィルタリング手段は、下限側の遮断周波数が設定されるハイパスフィルタと上限側の遮断周波数が設定されるローパスフィルタとの組み合わせからなることを特徴とする請求項4記載の脈波検出装置を提供する。
請求項6記載の本発明は、前記第2のフィルタリング手段を経て出力される脈波成分の信号とノイズとの比であるS/N比を求めるS/N比演算部を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の脈波検出装置を提供する。
請求項7記載の本発明は、前記第1のフィルタリング手段は、前記S/N比演算部から得られたS/N比が所定の閾値未満の場合に、中心周波数をシフトさせてフィルタリングすることを特徴とする請求項6記載の脈波検出装置を提供する。
請求項8記載の本発明は、前記第2のフィルタリング手段は、前記第1のフィルタリング手段の中心周波数をシフトさせてフィルタリングして改めて得られた前記S/N比が所定の閾値未満の場合、上限側の遮断周波数をより低い周波数にシフトさせてフィルタリングすることを特徴とする請求項6又は7記載の脈波検出装置を提供する。
請求項9記載の本発明は、請求項1〜8のいずれか1に記載の脈波検出装置と、前記脈波検出装置により処理された処理信号波を用いて、人の状態を分析する状態分析部とを有することを特徴とする生体状態分析装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の脈波検出装置は、エアクッションの空気圧変動を検出するセンサの出力信号を所定の周波数でフィルタリングして動脈の脈波成分が含まれる搬送波を抽出する第1のフィルタリング手段と、第1のフィルタリング手段によりフィルタリングされた信号波を検波する検波器と、検波器により検波された脈波成分の信号波を、呼吸成分の周波数よりも高い下限側の遮断周波数と第2高調波成分の周波数を基準として設定された上限側の遮断周波数との範囲でフィルタリングする第2のフィルタリング手段とを有している。第1のフィルタリング手段により、動脈の脈波成分の搬送波を抽出し、第2のフィルタリング手段により、第2高調波成分の周波数を基準としてフィルタリングすることで、該第2高調波成分を含む脈波成分を検出する。これにより、脈波検出装置において最終的に得られる信号波の中に、切痕(拍出期の終わりに大動脈が急に閉鎖することを示す信号)を捉えることができる。切痕は、静的な状態で採取される指尖容積脈波等において計測されるものであり、この切痕を捉えることができるということは、生体情報を確実に捉えていることを示すものである。また、本発明の生体状態分析装置は、上記の脈波検出装置から得られる信号波を用いて分析するため、入眠予兆信号の検出等の生体状態の分析結果がより正確になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る生体状態分析装置60の分析対象である脈波、ここでは背部の大動脈の脈波を採取する生体信号測定装置1を組み込んだ自動車用のシート500の外観を示した図である。この図に示したように、生体信号測定装置1は、シートバック部510に組み込まれて用いられる。本実施形態の生体状態分析装置60は、生体信号測定装置1のセンサの出力信号に含まれるノイズをカットし、その中から、動脈脈波成分を抽出することで、従来よりも正確に生体状態を分析できるものであるが、生体信号測定装置1によって採取される信号自体に含まれる脈波成分以外の信号であるノイズがより少ないことが望ましいことはもちろんである。そこで、まず、以下においては、自動車の走行中等の振動環境下においても、センサの出力信号自体に含まれるノイズの少ない生体信号測定装置1の構成を説明する。
【0010】
生体信号測定装置1は、エアクッションユニット100と、第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20と、第2のビーズ発泡樹脂弾性部材30とを有して構成されている。エアクッションユニット100は、収容体15と、該収容体15に収容した2つのエアクッション10を備えて構成される。各エアクッション10は、図3及び図4に示したように、表側エアクッション11と裏側エアクッション12とが積層されて構成され、収容体15の左右にそれぞれ配置される。表側エアクッション11は、3つの小空気袋111が縦方向に連接されている一方、そのそれぞれは空気の流通がないように形成されている。各小空気袋111内には、復元力付与部材としての三次元立体編物112が配置されている。
【0011】
裏側エアクッション12は、3つの小空気袋111を連接してなる表側エアクッション11の全長と同じ長さの大空気袋121とこの大空気袋121内に収容される復元力付与部材としての三次元立体編物122とを備えて構成される(図4参照)。表側エアクッション11と裏側エアクッション12とは、長手方向に沿った一方の側縁同士が接合され、接合された側縁を中心にして2つ折りにされて、相互に重ね合わせられて用いられる(図3(d)及び図4参照)。
【0012】
本実施形態では、このように表側エアクッション11と裏側エアクッション12とが相互に重ね合わせられたエアクッション10が左右に配置される。左右に配置することにより、着座者の背への当たりが左右均等になり、違和感を感じにくくなる。また、左右の表側エアクッション11,11のいずれか一方を構成するいずれかの小空気袋111にセンサ取付チューブ111aが設けられ、その内側に空気圧変動を測定するセンサ111bが固定されている。なお、センサ取付チューブ111aは密閉されている。裏側エアクッション12を構成する大空気袋121にセンサを配設することもできるが、容量の大きい空気袋に設けると、脈波による空気圧変動が吸収されてしまう場合があるため、小空気袋111に設けることが好ましい。但し、図4に示したように、予め、大空気袋121に取付チューブ121aを設けその部位にセンサを配設しておき、必要に応じて、大空気袋121の空気圧変動を測定することで、小空気袋111の測定結果の検証に利用できるようにしておいてもよい。小空気袋111は、このような生体信号による空気圧変動に敏感に反応させるために、大きさは、幅40〜100mm、長さ120〜200mmの範囲が好ましい。小空気袋111の素材は限定されるものではないが、例えば、ポリウレタンエラストマー(例えば、シーダム株式会社製、品番「DUS605−CDR」)からなるシートを用いて形成することができる。センサ111bとしては、小空気袋111内の空気圧を測定できるものであればよく、例えば、コンデンサ型マイクロフォンセンサを用いることができる。
【0013】
大空気袋121の大きさ及び小空気袋111を3つ連接した場合の全体の大きさとしては、自動車のシート500のシートバック部510に用いる場合、幅40〜100mm、全長400〜600mmの範囲とすることが好ましい。長さが短い場合、シートバック部510において、着座者が、腰部付近の一部分のみに異物感を感じるため、400mm以上の長さとして、できるだけ、着座者の背全体に対応させることが好ましい。
【0014】
空気圧変動を検出するセンサ111bは、本実施形態では、着座者の左側に配置されるエアクッション10を構成する表側エアクッション11の中央の小空気袋111に設けている。この小空気袋111の位置は、着座者の背部の大動脈(特に、「下行大動脈」)の脈波を検知可能な領域に相当する。背部の大動脈の脈波を検知可能な領域は、着座者の体格により一律ではないが、身長158cmの日本人女性から身長185cmの日本人男性までの様々な体格の被験者20名で測定したところ、該小空気袋111(幅60mm、長さ160mm)をシートバック部510の中心寄りの側縁と下縁の交差部P(図2及び図3参照)が、シートクッション部520の上面からシートバック部510の表面に沿った長さL:220mm、シートバック部510の中心からの距離M:80mmとなるように設定したところ、上記全ての被験者において大動脈の脈波を検知できた。小空気袋111の大きさが、幅40〜100mm、長さ120〜200mmの範囲の場合、交差部Pの位置を、シートクッション部520の上面からシートバック部510の表面に沿った長さで150〜280mm、シートバック部510の中心から60〜120mmの範囲に設定することが好ましい。
【0015】
上記した2つのエアクッション10をシートバック部510において容易に所定の位置に設定できるようにユニット化しておくことが好ましい。従って、図2〜図4に示したような収容体15にエアクッション10を装填したエアクッションユニット100として構成とすることが好ましい。収容体15は、両側にエアクッション10を収容する袋状のエアクッション収容部151を有し、2つのエアクッション収容部151間に接続部152を有している。
【0016】
2つのエアクッション収容部151には、それぞれエアクッション10が挿入される。また、エアクッション収容部151には、エアクッション10とほぼ同じ大きさの三次元立体編物40を、エアクッション10の裏側エアクッション12の背面側に重ねて挿入することが好ましい(図3(d)参照)。三次元立体編物40を配置することにより、エアクッション10が該三次元立体編物40によっていわば浮くように支持されるため、シートバック部510からの外部振動が伝わりにくくなる。すなわち、三次元立体編物40を配置することにより、外部振動は、エアクッション収容部151の表面を伝わり易くなり、エアクッション10に伝わり難くなり、センサ111bを備えたエアクッション10に入力される外部振動を除振する効果がより高くなる。この結果、人の拍動は、着座荷重で圧迫され圧縮された筋肉を通して、センサ111bを備えたエアクッション10により、よく捉えることができる。
【0017】
接続部152は、2つのエアクッション部151を所定間隔をおいて支持できるものであればよく、幅60〜120mm程度で形成される。接続部152も、袋状に形成し、その内部に三次元立体編物45を挿入することが好ましい(図3(d)及び図4参照)。これにより、該接続部152を通じて入力される振動も、該三次元立体編物45を挿入することにより効果的に除振でき、センサ111bを備えたエアクッション10への外部振動の伝達を抑制できる。
【0018】
なお、上記したように、小空気袋111は、例えば、ポリウレタンエラストマー(例えば、シーダム株式会社製、品番「DUS605−CDR」)からなるシートを用いて形成されるが、裏側クッション材12を形成する大空気袋121及び収容体15も、同じ素材を用いて形成することが好ましい。また、小空気袋111、大空気袋121、エアクッション収容部151及び接続部152内に装填される各三次元立体編物は、例えば、特開2002−331603号公報に開示されているように、互いに離間して配置された一対のグランド編地と、該一対のグランド編地間を往復して両者を結合する多数の連結糸とを有する立体的な三次元構造となった編地である。
【0019】
一方のグランド編地は、例えば、単繊維を撚った糸から、ウェール方向及びコース方向のいずれの方向にも連続したフラットな編地組織(細目)によって形成され、他方のグランド編地は、例えば、短繊維を撚った糸から、ハニカム状(六角形)のメッシュを有する編み目構造に形成されている。もちろん、この編地組織は任意であり、細目組織やハニカム状以外の編地組織を採用することもできるし、両者とも細目組織を採用するなど、その組み合わせも任意である。連結糸は、一方のグランド編地と他方のグランド編地とが所定の間隔を保持するように、2つのグランド編地間に編み込んだものである。このような三次元立体編物としては、例えば、以下のようなものを用いることができる。なお、各三次元立体編物は、必要に応じて複数枚積層して用いることもできる。
【0020】
(1)製品番号:49076D(住江織物(株)製)
材質:
表側のグランド編地・・・300デシテックス/288fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸と700デシテックス/192fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸との撚り糸
裏側のグランド編地・・・450デシテックス/108fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸と350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメントとの組み合わせ
連結糸・・・・・・・・・350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント
【0021】
(2)製品番号:49013D(住江織物(株)製)
材質:
表側のグランド編地・・・450デシテックス/108fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸の2本の撚り糸
裏側のグランド編地・・・450デシテックス/108fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸の2本の撚り糸
連結糸・・・・・・・・・350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント
【0022】
(3)製品番号:69030D(住江織物(株)製)
材質:
表側のグランド編地・・・450デシテックス/144fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸の2本の撚り糸
裏側のグランド編地・・・450デシテックス/144fのポリエチレンテレフタレート繊維仮撚加工糸と350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメントとの組み合わせ
連結糸・・・・・・・・・350デシテックス/1fのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント
【0023】
(4)旭化成せんい(株)製の製品番号:T24053AY5−1S
【0024】
第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20と第2のビーズ発泡樹脂弾性部材30とは、シートバック部510の表皮部材とエアクッション10を収容した収容体15(エアクッションユニット100)との間に配設され、2つのエアクッション10の全長に相当する長さを有し、2つのエアクッション10の頂部間の長さに相当する幅を有している。従って、長さが400〜600mm、幅が250〜350mm程度の大きさのものを用いることが好ましい。これにより、2つのエアクッション10が共に覆われるため、2つのエアクッション10の凹凸を感じにくくなる。
【0025】
第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20は、平板状に形成されたビーズ発泡体と、その外面に貼着される被覆材とから構成されている。ビーズ発泡体としては、ポリスチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンのいずれか少なくとも一つを含む樹脂のビーズ法による発泡成形体が用いられる。なお、発泡倍率は任意であり限定されるものではない。被覆材は、ビーズ発泡体の外面に接着により貼着され、高い伸度と回復率を有する素材であり、好ましくは、伸度200%以上、100%伸長時の回復率が80%以上である弾性繊維不織布が用いられる。例えば、特開2007−92217号公報に開示された熱可塑性エラストマー弾性繊維が相互に溶融接着された不織布を用いることができる。具体的には、KBセーレン(株)製、商品名「エスパンシオーネ」を用いることができる。
【0026】
第2のビーズ発泡樹脂弾性部材30は、第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20と同様にビーズ発泡体を備えて構成されるが、その外面を覆う被覆材としては、第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20において用いた弾性繊維不織布よりも伸縮性の小さい素材、例えば、熱可塑性ポリエステルからなる不織布が用いられる。具体的には、帝人(株)製のポリエチレンナフタレート(PEN)繊維(1100dtex)から形成した2軸織物(縦:20本/inch、横:20本/inch)を用いることができる。
【0027】
第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20と第2のビーズ発泡樹脂弾性部材30とを積層する順序は限定されるものではないが、シートバック部510の表皮部材511に近い側に、弾性の高い第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20を配設することが好ましい。また、第1及び第2のビーズ発泡樹脂弾性部材20,30を構成するビーズ発泡体は、厚さ約5〜6mm程度とし、その外面に、厚さ約1mm以下の上記した弾性繊維不織布や熱可塑性ポリエステルからなる不織布を貼着して形成される。なお、本実施形態では、第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20の表皮部材511に対向する面、第2のビーズ発泡樹脂弾性部材30のエアクッションユニット100に対向する面に、それぞれPENフィルムなどのポリエステルフィルムを貼着している。これにより、生体信号の伝達性が向上する。
【0028】
本実施形態において人体支持手段を構成するシート500のシートバック部510は、表皮部材511と該表皮部材511の背面側に配設されるクッション支持部材512とを備えてなり、該表皮部材511とクッション支持部材512との間にエアクッション10を保持した収容体15(エアクッションユニット100)と第1及び第2のビーズ発泡樹脂弾性部材20,30が組み込まれる。この際、クッション支持部材512側にまずエアクッション10を保持した収容体15(エアクッションユニット100)が配置され、その表面側に第2のビーズ発泡樹脂弾性部材30が、さらにその表面側に第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20が配置された上で、表皮部材511により被覆される。なお、クッション支持部材512は、例えば、三次元立体編物をシートバック部510の左右一対のサイドフレームの後端縁間に張って形成することもできるし、合成樹脂板から形成することもできる。表皮部材511は、例えば、三次元立体編物、合成皮革、皮革、あるいはこれらの積層体などを左右一対のサイドフレームの前縁間に張って設けることができる。
【0029】
このように、本実施形態においては、表皮部材511の裏面側に所定の大きさの第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20及び第2のビーズ発泡樹脂弾性部材30が積層して配置され、さらにその後方に左右一対のエアクッション10を保持した収容体15(エアクッションユニット100)が配置される構成であるため、着座者が背にエアクッション10の凹凸を感じることなくなり、生体信号を測定するためのエアクッション10を有する構成でありながら、座り心地が向上する。
【0030】
次に、生体状態分析装置60の構成について図6に基づいて説明する。生体状態分析装置60は、脈波検出装置610と、この脈波検出装置610により処理された信号波を用いて人の状態を分析する状態分析部620とを有して構成される。
【0031】
脈波検出装置610は、第1のフィルタリング手段611、検波器612、第2のフィルタリング手段613、S/Nひ演算部617及びフィルタ制御部618が設けられている。本実施形態では、このほか、第1のフィルタリング手段611の前段にプリアンプ614、検波器612の前段に増幅器615、第2のフィルタリング手段613の後段に最終段増幅器616が設けられているが、これらは必要に応じて設けることができる。
【0032】
第1のフィルタリング手段611は、プリアンプ614により増幅されたセンサ111bの電気信号を受信し、所定のバンド幅でフィルタリングするバンドパスフィルタから構成される。これは、第2のフィルタリング手段613によりフィルタリングされて得られる信号波に、脈波(脈拍(通常、心拍と同じ))成分の切痕を捉えるに当たって、脈波成分が含まれる搬送波を抽出するために用いられる。第1のフィルタリング手段611を構成するバンドパスフィルタは、脈波成分が含まれる搬送波を抽出するのに適した中心周波数で任意のバンド幅に設定される。脈波成分が含まれる搬送波は、本発明者が検証したところでは、被験者により異なるが、中心周波数10Hz〜30Hzの範囲に設定すると、最終的に切痕を検出するのに適している。バンド幅は任意に設定できるが、広すぎるとノイズが多くなりすぎることから8Hz以下のバンド幅で設定することが好ましい。
【0033】
本実施形態では、第1のフィルタリング手段611として、外部振動によるノイズの少ない搬送波を抽出するため、中心周波数が可変になっている。従って、中心周波数の初期値は、任意の中心周波数とすればよく、設定したバンド幅(シフトするステップ幅)毎に測定を行って最適な周波数帯の搬送波を抽出する構成となっている。
【0034】
具体的には、任意の中心周波数で所定のバンド幅で設定された第1のフィルタリング手段611によりフィルタリングした後、後述の増幅器615、検波器612、第2のフィルタリング手段613及び最終増幅器616を経て得られた信号波をS/N比演算部617にフィードバックし、脈波成分とノイズの比を求める。例えば、人の心拍数を、最大限に許容して0.5Hz〜2Hzと仮定した場合、信号波形のピーク間の時間間隔が0.5秒未満の信号及び2秒を超える信号波をノイズと判定するようにS/N比演算部617に設定してS/N比を求める。また、採用可能な信号波のS/N比の閾値を設定し、S/N比がその閾値を満たしているか否かを判定する。その結果、S/N比演算部617がその閾値を下回っていると判定した場合には、フィルタ制御部618が、第1のフィルタリング手段611の中心周波数を所定のステップ幅シフトさせる制御を行い、シフトされた中心周波数で改めてフィルタリングする。その後は、上記と同様に、後述の増幅器615、検波器612、第2のフィルタリング手段613及び最終増幅器616を経て得られた信号波のS/N比を再び演算し、所定の閾値を満たしているか否かを判定する。所定の閾値を下回っている場合には、再度、フィルタ制御部618により中心周波数を所定のステップ幅シフトさせて、第1のフィルタリング手段611によりフィルタリングを実行する。そして、これらの動作をS/N比が所定の閾値を満たすまで繰り返す。なお、図7に示したように、例えば、バンド幅4Hzで中心周波数15Hzが初期値の場合、初期値15Hzの中心周波数でフィルタリングして得られたS/N比が所定の閾値を下回っているならば、まず、15Hz−4Hz=11Hzを中心周波数に設定してフィルタリングを行い、仮に、その場合のS/N比が所定の閾値を満たしていても、さらに、15Hz+4Hz=19Hzを中心周波数に設定してフィルタリングを行って、これらの中でS/N比の最も高い中心周波数のデータを採用するようにしてもよい。また、図6に示したように、本実施形態では上記のS/N比を最終増幅器616の出力からS/N比演算部617にフィードバックして求めているが、第2のフィルタリング手段613の出力からS/N比演算部617にフィードバックして求めるように設定することも可能である。
【0035】
第1のフィルタリング手段611によりフィルタリングされた信号波は、増幅器615により増幅されて検波器612において復調される。具体的には、検波器612に入力された信号波を全波整流し、そのピーク値を結んで包絡線を求める。
【0036】
第2のフィルタリング手段613は、検波された動脈の脈波成分の波形を、フィルタリングする。具体的には、呼吸成分の周波数よりも高い周波数で設定された下限側の遮断周波数と、脈波の第2高調波成分の周波数を基準として設定された上限側の遮断周波数との範囲でフィルタリングする。
【0037】
呼吸成分の周波数は、平均で0.3Hz前後であるが、この周波数よりも高い周波数設定とすることにより、呼吸成分の信号を除去できる。下限側の遮断周波数は、呼吸成分の周波数に拘わらず、脈波成分の基本周波数の1/2に設定するようにしてもよい。この場合、被測定者毎に脈波成分の基本周波数を予め解析して設定することもできるが、脈波成分の平均的な基本周波数の1/2に相当する0.5Hzに固定するようにしてもよい。脈波成分(脈拍成分ないし心拍成分)の平均的な周波数(約1Hz)よりも小さくするのは、脈波成分の波形を確実に取得するためである。
【0038】
一方、上限側の遮断周波数は、脈波の第2高調波成分の周波数を基準として設定する。ここで、「第2高調波成分の周波数を基準とする」とは、少なくとも第2高調波成分の周波数を含む意味であり、第2高調波成分を確実に検出するため、第2高調波成分よりも高めの範囲、好ましくは0.3Hz〜3Hz高めの範囲に設定することが好ましい。脈波の第2高調波成分を含めることにより、切痕を検出できる。これは、本発明者らが行った実験により明らかにされたものである。すなわち、30歳代の日本人男性を被験者としてシート500に着座させて得られたセンサ111bの出力信号を周波数解析したところ、2.5Hz付近に第2高調波成分、3.8Hz付近に第3高調波成分、5.2Hz付近に第4高調波成分、6.5Hz付近に第5高調波成分が求められた。そこで、センサ111bの出力信号(図8〜図11の各(a)図における「エアパック圧力波形」)を、そのまま本実施形態の脈波検出装置610により処理した波形(図8〜図11の各(b)図における「エアパック脈波(コントローラ)」)と、センサ111bの出力信号から2.5Hz付近(2Hz−3.2Hz)、3.8Hz付近(3.2Hz−4.5Hz)、5.2Hz付近(4.5Hz−5.7Hz)、6.5Hz付近(5.7Hz−7Hz)をそれぞれバンドエリミネートフィルタで除外した波形(図8〜図11の各(a)図における「B.E.F波形」)を、本実施形態の脈波検出装置610により処理した波形(図8〜図11の各(b)図における「B.E.F」)とを比較した。なお、図8〜図11の各(c)図は、判定を行いやすくするために図8〜図11の各(b)図の各波形の正負を反転して示したものである。その結果、図8〜図11の各(b)図及び各(c)図から明らかなように、図8に示した2.5Hz付近の周波数帯を除外した「B.E.F」で示した波形の、「エアパック脈波(コントローラ)」で示した波形に対する乱れが最も大きく、2.5Hzの第2高調波成分に切痕が含まれることがわかった。
【0039】
なお、呼吸成分の周波数及び第2高調波成分の周波数は、人により異なるため、脈波検出装置610には、予めセンサ111bの信号を周波数解析する周波数解析部を設け、被測定者毎に周波数解析して得られた呼吸成分の周波数又は動脈脈波(脈拍ないし心拍)の第2高調波成分の周波数を求めて設定するようにしてもよい。
【0040】
第2のフィルタリング手段613によりフィルタリングされた処理信号波は、最終段増幅器616により増幅され、状態分析部620において人の状態分析に用いられる。
【0041】
ここで、第2のフィルタリング手段613によりフィルタリングされ、さらに、最終段増幅器616により増幅された信号波は、上記のように、S/N比演算部617においてS/N比が演算されて、そのS/N比が予め設定した閾値を満たすか否かが判定される。そして、S/N比が所定の閾値を満たす場合には、その際に出力された信号波(処理信号波)がそのまま状態分析部620における分析対象となる一方、S/N比が所定の閾値を満たさない場合には、上記のように、第1のフィルタリング手段611における中心周波数をシフトさせて再度フィルタリングすることが行われる。その一方、第1のフィルタリング手段611における中心周波数の可変領域のいずれでフィルタリングしても、検波器612、第2のフィルタリング手段613、最終段増幅器616を経て出力された信号波のS/N比が所定の閾値を満たさない場合には、フィルタ制御部618が、第2のフィルタリング手段613の遮断周波数を可変させる。
【0042】
第2のフィルタリング手段613の下限側の遮断周波数は、上記のように、呼吸成分の周波数である0.3Hzを上回る程度か、脈波の1/2の周波数、あるいは0.5Hzに固定して行われており、下限側の遮断周波数をこれよりも高くした場合には、脈波成分を検出できなくなる可能性がある。そこで、下限側の遮断周波数は可変せずに、上限側の遮断周波数のみを可変させることが好ましい。例えば、図12に示したように、初期値において、上限側の遮断周波数を脈波の第2の高調波成分の平均的な値である2.5Hzの2倍である5Hzで設定している場合において、これを、例えば、段階的に1Hzずつ下げ、すなわち、4Hz、3Hz、2Hzというように調整し、処理信号波のS/N比を求めて、閾値を満たすか否かを判定するようにすることが好ましい。調整幅は任意であり、1Hzずつではなく、例えば、0.5Hzずつ下げるような設定であってもよい。第2のフィルタリング手段613は、このように下限側の遮断周波数は固定し、上限側の遮断周波数を可変とするため、下限側の遮断周波数の設定にはハイパスフィルタを用い、上限側の遮断周波数の設定にはローパスフィルタを用いることが好ましい。このように、本実施形態の脈波検出装置610は、第1のフィルタイリング手段611の中心周波数、第2のフィルタリング手段613の上限側の遮断周波数を可変できる構成であり、これにより、走行中の乗物において測定する場合のように、外部振動が入力される環境下において、ノイズとなる外部振動を効果的に排除し、脈波の検出を正確に行うことができる。
【0043】
脈波検出装置610において処理された処理信号波を用いて、人の状態を分析する状態分析部620の種類は限定されるものではなく、本出願人が提案した特開2004−344612、特開2007−90032等において提案した入眠予兆信号を判定する手段、飲酒状態を判定する手段等を設定することができる。このほか、例えば、脈波を用いて睡眠段階を推定する公知の技術に適用することも可能である。
【0044】
ここでは、入眠予兆信号を判定する手段を例に挙げて説明する。すなわち、状態分析部620に、パワー値傾き算出手段621、最大リアプノフ指数傾き算出手段622、入眠予兆判定手段623等のコンピュータプログラムを設定する。パワー値傾き算出手段621は、脈波検出装置610において処理された処理信号波の各周期のピーク値から、所定時間範囲ごとに上限側のピーク値と下限側のピーク値との差を算出し、この差をパワー値とし、パワー値の時系列データを求めると共に、パワー値の所定時間範囲における時間軸に対する傾きを、所定回数スライド計算して求める。より詳細には、上記の処理信号波について、SavitzkyとGolayによる平滑化微分法により、極大値と極小値を求める。そして、5秒ごとに極大値と極小値を切り分け、それぞれの平均値を求める。求めた極大値と極小値のそれぞれの平均値の差の二乗をパワー値とし、このパワー値を5秒ごとにプロットし、パワー値の時系列波形を作る。この時系列波形からパワー値の大域的な変化を読み取るために、ある時間幅Tw(180秒)について最小二乗法でパワー値の傾きを求める。次に、オーバーラップ時間Tl(162秒)で次の時間幅Twを同様に計算して結果をプロットする。この計算(スライド計算)を順次繰り返して得られるのがパワー値の傾きの時系列波形となる。
【0045】
最大リアプノフ指数傾き算出手段622は、脈波検出装置610において処理された処理信号波から、最大リアプノフ指数の時系列データを求めると共に、最大リアプノフ指数の所定時間範囲における時間軸に対する傾きを、所定回数スライド計算して求める。すなわち、時系列波形をカオス解析して最大リアプノフ指数を算出した後、上記と同様に、平滑化微分によって極大値を求め、スライド計算することにより傾きの時系列波形を求める。
【0046】
入眠予兆判定手段623は、上記したパワー値傾き算出手段及び最大リアプノフ指数傾き算出手段により得られる各傾き時系列波形を重ねた際に、2つの傾き時系列波形が逆位相の関係になっている波形を入眠予兆信号と判定する。好ましくは、2つの傾き時系列波形において、パワー値の傾きの時系列波形で低周波、大振幅の波形が生じ、かつ、パワー値の傾きの時系列波形と最大リアプノフ指数の傾きの時系列波形が逆位相となっている波形が生じているか否かを判定する。
【0047】
(試験例1)
図2に示したように、シート500のシートバック部510に、上記実施形態で説明したエアクッション10を保持した収容体15、第2のビーズ発泡樹脂弾性部材30、第1のビーズ発泡樹脂弾性部材20を順に収容した。なお、このシートバック部510に使用した表皮部材511は、三次元立体編物である(住江織物(株)製、製品番号49013D)。また、センサ(コンデンサ型マイクロフォンセンサ)111bを備えた、着座者の左側のエアクッション10を構成する中央の小空気袋111(幅60mm、長さ160mm)のシートバック部510の中心寄りの側縁と下縁の交差部Pが、シートクッション部520の上面からシートバック部510の表面に沿った長さで220mm、シートバック部510の中心から80mmとなるようにシートバック部510に組み込んだ(なお、その他のサイズは、図2及び図5に示したサイズを参照)。そして、上記小空気袋111のセンサ111bからの電気信号を測定して得られる空気圧変動をもとに人の状態を分析する生体信号分析装置60を配置し(図1参照)、30歳代の日本人男性をシート500に着座させ、背部の大動脈の脈波を採取した。図13はその結果を示す。
【0048】
まず、センサ111bから得られた信号波は図13(a)の「エアパック圧力波形」で示した図であり、これを第1のフィルタリング手段611によりフィルタリングした波形が図13(a)の「圧力波形BPF」である。第1のフィルタリング手段611では、バンド幅3.6Hz、中心周波数20Hzに設定してフィルタリングした。この「圧力波形BPF」を増幅器615により増幅した後、検波器612により全波整流し、さらに、第2のフィルタリング手段613によりフィルタリングして最終増幅器616により増幅して得られた波形が図13(b)である。第2のフィルタリング手段613の遮断周波数は、下限値を0.5Hzとし、上限値を第2高調波成分の約2倍である5Hzに設定してフィルタリングした。なお、図13(b)の信号波のS/N比は予め設定した閾値を満たしていた。この結果、図13(b)に示したように、処理信号波形の中に切痕(図のaで示した部分)が検出できた。
【0049】
なお、上記実施形態においては、人体支持手段として自動車用のシートにエアクッション10、第1及び第2のビーズ発泡樹脂弾性部材20,30を組み込んでいるが、人体支持手段としては、ベッドなどの寝具、病院設備における診断用の椅子等に組み込むこともできる。また、上記実施形態では、シートバック部に組み込むエアクッションを用いて背部の大動脈の脈波を検知しているが、これに限定されるものではない。例えば、図14(a),(b)に示したように、エアクッションとして、空気袋及びその内部に配設される三次元立体編物の大きさを、人の指や手首に装着可能な大きさで形成する。つまり、このエアクッションを人の指や手首に沿わせ、ゴムバンドなどで固定したり、あるいは、指回りや手首回りに巻き付けるようにして固定したりすることができる大きさで形成し、指尖の脈波を検出したり、手首付近の横骨動脈、尺骨動脈から動脈の脈波を採取することもできる。また、このほかの脈波を採取可能な箇所としては、例えば、浅側頭動脈、頸動脈、鎖骨下動脈、上腕動脈、腹部大動脈、大腿動脈、膝窩動脈、後脛骨動脈、足背動脈などがある。従って、例えば、自動車用のシートやベッドなどにおいて、腰部付近が当接する部分に限らず、脚が当接する部分等に空気袋内に三次元立体編物を密封したエアクッションを配置し、それらの圧力変化を検出することもできる。また、自動車のシートベルトにエアクッションを配置し、腹部大動脈の脈波を検出したりすることもできる。さらには、腰部、脚部、腹部、指先等の複数箇所に配置したエアクッションからの圧力変化のデータを複合的に用いることで、入眠予兆や飲酒判定、あるいは、体動などの生体の状態をより正確に推定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態に係る生体信号測定装置をシートに組み込んだ状態を示した図である。
【図2】図2は、上記実施形態に係る生体信号測定装置をより詳細に示した図である。
【図3】図3は、エアクッションユニットを示した図であり、(a)は正面方向から見た断面図、(b)は側面図、(c)は底面図、(d)は(a)のA−A線断面図である。
【図4】図4は、エアクッションユニットの分解斜視図である。
【図5】図5(a),(b)は、試験例で用いたエアクッションユニットのサイズを説明するための図である。
【図6】図6は、生体状態分析装置の構成及びこの生体状態分析装置に採用される脈波検出装置の構成を示した図である。
【図7】図7は、第1のフィルタリング手段において中心周波数を可変させる手法を説明するための図である。
【図8】図8(a)〜(c)は、切痕が含まれる周波数帯を調べるために2Hz−3.2Hzをバンドエリミネートフィルタで除外した場合の波形と除外しない場合の波形との比較を示した図である。
【図9】図9(a)〜(c)は、切痕が含まれる周波数帯を調べるために3.2Hz−4.5Hzをバンドエリミネートフィルタで除外した場合の波形と除外しない場合の波形との比較を示した図である。
【図10】図10(a)〜(c)は、切痕が含まれる周波数帯を調べるために4.5Hz−5.7Hzをバンドエリミネートフィルタで除外した場合の波形と除外しない場合の波形との比較を示した図である。
【図11】図11(a)〜(c)は、切痕が含まれる周波数帯を調べるために5.7Hz−7Hzをバンドエリミネートフィルタで除外した場合の波形と除外しない場合の波形との比較を示した図である。
【図12】図12は、第2のフィルタリング手段における上限側の遮断周波数を可変させる手法を説明するための図である。
【図13】図13は、試験例1の脈波検出装置における処理波形を示した図である。
【図14】図14(a)は指に装着するエアクッションの一例を示した図であり、図14(b)は手首に装着するエアクッションの一例を示した図である。
【符号の説明】
【0051】
1 生体信号測定装置
10 エアクッション
11 表側エアクッション
111 小空気袋
111b センサ
112 三次元立体編物
12 裏側エアクッション
121 大空気袋
122 三次元立体編物
15 収容体
100 エアクッションユニット
20 第1のビーズ発泡樹脂弾性部材
30 第2のビーズ発泡樹脂弾性部材
40,45 三次元立体編物
500 シート
510 シートバック部
511 表皮部材
512 クッション支持部材
520 シートクッション部
60 生体状態分析装置
610 脈波検出装置
611 第1のフィルタリング手段
612 検波器
613 第2のフィルタリング手段
617 S/N比演算部
618 フィルタ制御部
620 状態分析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の脈波を検出可能な部位に対応して配置されるエアクッションと、前記エアクッションの空気圧変動を検出するセンサとを備えた生体信号測定装置から得られる、前記センサの出力信号を受信し、脈波を検出する脈波検出装置であって、
受信した前記センサの出力信号を所定の周波数でフィルタリングして前記脈波成分が含まれる搬送波を抽出する第1のフィルタリング手段と、
前記第1のフィルタリング手段によりフィルタリングされた信号波を検波する検波器と、
前記検波器により検波された前記脈波成分の信号波を、呼吸成分の周波数よりも高い周波数で設定された下限側の遮断周波数と、前記脈波の第2高調波成分の周波数を基準として設定された上限側の遮断周波数との範囲でフィルタリングする第2のフィルタリング手段と
を有することを特徴とする脈波検出装置。
【請求項2】
前記第1のフィルタリング手段は、バンドパスフィルタであることを特徴とする請求項1記載の脈波検出装置。
【請求項3】
前記第2のフィルタリング手段は、下限側の遮断周波数が脈波の基本周波数の1/2に設定されていることを特徴とする請求項1記載の脈波検出装置。
【請求項4】
前記第2のフィルタリング手段は、下限側の遮断周波数が0.5Hzに設定されていることを特徴とする請求項3記載の脈波検出装置。
【請求項5】
前記第2のフィルタリング手段は、下限側の遮断周波数が設定されるハイパスフィルタと上限側の遮断周波数が設定されるローパスフィルタとの組み合わせからなることを特徴とする請求項4記載の脈波検出装置。
【請求項6】
前記第2のフィルタリング手段を経て出力される脈波成分の信号とノイズとの比であるS/N比を求めるS/N比演算部を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の脈波検出装置。
【請求項7】
前記第1のフィルタリング手段は、前記S/N比演算部から得られたS/N比が所定の閾値未満の場合に、中心周波数をシフトさせてフィルタリングすることを特徴とする請求項6記載の脈波検出装置。
【請求項8】
前記第2のフィルタリング手段は、前記第1のフィルタリング手段の中心周波数をシフトさせてフィルタリングして改めて得られた前記S/N比が所定の閾値未満の場合、上限側の遮断周波数をより低い周波数にシフトさせてフィルタリングすることを特徴とする請求項6又は7記載の脈波検出装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1に記載の脈波検出装置と、
前記脈波検出装置により処理された処理信号波を用いて、人の状態を分析する状態分析部とを有することを特徴とする生体状態分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−94466(P2010−94466A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270393(P2008−270393)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】