説明

脱リン酸化酵素を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害方法

【課題】腫瘍疾患の発生・増悪に関与する可能性がある蛋白質をコードする遺伝子を見出し、該蛋白質の作用調節手段および該蛋白質の異常に起因する疾患の防止・治療に有用な手段を提供すること。
【解決手段】腫瘍組織で発現が亢進しているDNAを見出し、該DNAによりコードされる蛋白質が、脱リン酸化活性を示すこと、CSE1Lと結合してこれを脱リン酸化すること、細胞増殖に関与することを見出し、これらに基づき、該蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害方法および阻害剤、CSE1Lの脱リン酸化阻害方法および脱リン酸化阻害剤、腫瘍疾患の防止・治療方法および防止・治療剤、細胞増殖を阻害する化合物・該蛋白質とCSE1Lの結合を阻害する化合物・該蛋白質によるCSE1Lのリン酸化を阻害する化合物の同定方法、該DNAの組織発現量の測定による腫瘍組織の判定方法、試薬キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害方法および細胞増殖阻害剤に関する。
【0002】
より詳しくは、本発明は本脱リン酸化酵素の発現、本脱リン酸化酵素と基質の結合、および本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性のうちの少なくとも1を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害方法および細胞増殖阻害剤に関する。
【0003】
さらに詳しくは、本発明は本脱リン酸化酵素の発現、本脱リン酸化酵素とCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)との結合、および本脱リン酸化酵素のCSE1Lに対する脱リン酸化活性のうちの少なくとも1を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害方法および細胞増殖阻害剤に関する。
【0004】
本発明はまた、本細胞増殖阻害方法および細胞増殖阻害剤を用いることを特徴とする腫瘍疾患の防止および/または治療方法、並びに本細胞増殖阻害剤を含んでなる腫瘍疾患の防止および/または治療剤に関する。
【0005】
本発明はさらに、本脱リン酸化酵素を用いることを特徴とするCSE1Lの脱リン酸化方法に関する。
【0006】
本発明はさらにまた、本脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害することを特徴とするCSE1Lの脱リン酸化阻害方法および脱リン酸化阻害剤に関する。
【0007】
本発明はまた、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を阻害する活性を有する化合物の同定方法、および本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物の同定方法に関する。
【0008】
本発明はさらに、本脱リン酸化酵素の発現量を測定することを特徴とする腫瘍組織の判定方法に関する。
【0009】
本発明はさらにまた、前記同定方法または前記判定方法に有用なオリゴヌクレオチドおよび試薬キットに関する。
【背景技術】
【0010】
セリンスレオニン型脱リン酸化酵素にはいくつかのファミリーが存在し、その一つがプロテインフォスファターゼ2C(protein phosphatase 2C:以下、PP2Cと略称することがある)ファミリーである(非特許文献1)。PP2Cファミリーに属する脱リン酸化酵素は他のファミリーに属する酵素と異なり、活性に制御ユニットを必要とせず、モノマーで存在する。また、PP2Cファミリーに属する脱リン酸化酵素は、その活性を示すためにマグネシウムやマンガンといった金属2価イオンと必要とする一方、他のファミリーに属する脱リン酸化酵素(プロテインフォスファターゼ1(以下、PP1と略称することがある)やプロテインフォスファターゼ2A(以下、PP2Aと略称することがある))の阻害剤であるオカダ酸によって阻害されないことを特徴とする。
【0011】
CSE1Lをコードする遺伝子は、もともとアポトーシスに必須の遺伝子としてクローニングされ、CAS(cellular apoptosis susceptibility)と名づけられた(非特許文献2)。一方、CAS遺伝子は、コードする推定アミノ酸配列の相同性から、酵母chromosome segregation gene 1(CSE1)のヒトオルソログであることが明らかとなり、CSE1L(−like)とも呼ばれている。CSE1は染色体の分離に重要な役割を果たしていることが報告されている。CSE1Lも細胞周期に関わる機能を有し、アポトーシスに関連することが知られており、それら以外にも多数の機能を有することが報告されている(非特許文献3)。例えば、多くの癌でCSE1Lの発現が亢進していることから、CSE1Lは細胞の増殖・癌化に関与していると考えられる。すなわち、CSE1Lは細胞増殖および細胞死の両方に関係していると考えられる。また、アミノ酸配列の相同性から、CSE1Lはインポーチン(importin) ファミリーに属すると考えられるので、importin が有する核外輸送機能もその生物学的な活性の一つであると考えることができる。
【0012】
【非特許文献1】クリーグルスタイン(Krieglstein,J.)ら、「メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、2003年、第366巻、p.282−289。
【非特許文献2】ブリンクマン(Brinkmann,U.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1995年、第92巻、p.10427−10431。
【非特許文献3】ベーレンス(Behrens,P.)ら、「アポトーシス(Apoptosis)」、2003年、第8巻、p.39−44。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、癌疾患の発生または増悪に関与する可能性がある蛋白質を見出し、該蛋白質の発現および/または機能を調節する手段を提供することである。また、本発明の課題には、該蛋白質の異常に起因する疾患、例えば癌疾患の防止および/または治療に有用な手段を提供することが含まれる。さらに、本発明の課題には、該蛋白質の発現および/または機能を調節する化合物の同定方法、該蛋白質をコードする遺伝子の発現量を測定することによる異常組織の判定方法、並びに該蛋白質、該遺伝子またはその断片を含有してなる試薬キットを提供することが含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく本発明者は鋭意努力し、バイオエクスプレスの組織別発現遺伝子発現パターンより、大腸腫瘍組織および前立腺腫瘍組織において正常大腸組織および正常前立腺組織に比して発現が亢進している遺伝子を見出した。本遺伝子によりコードされる推定アミノ酸配列内にプロテインフォスファターゼ2C触媒部位が存在することから、本遺伝子によりコードされる蛋白質は、蛋白質脱リン酸化酵素活性をもつことが示唆された。
【0015】
本発明者はさらに、(1)本遺伝子の発現が細胞の癌化に伴い亢進していること、(2)本遺伝子によりコードされる蛋白質がPP2C様の脱リン酸化活性を示すこと、(3)本遺伝子によりコードされる蛋白質がCSE1Lと結合してこれを脱リン酸化すること、(4)本遺伝子によりコードされる蛋白質の機能を阻害することにより、細胞の制癌剤感受性が減弱すること、および(5)本遺伝子の発現を阻害することにより細胞増殖が抑制されることを実証した。
【0016】
これら実証結果から、本遺伝子によりコードされる蛋白質は、その生体内基質であると考えられるCSE1Lに結合してこれを脱リン酸化することを介して、CSE1Lの機能、例えば細胞周期・細胞増殖・癌化への関与を調節すると考えることができる。
【0017】
したがって、本遺伝子によりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することにより、CSE1Lの脱リン酸化を阻害してその機能を阻害し、細胞増殖を阻害することができると発明者は考えている。さらに、本遺伝子によりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することにより、細胞増殖の異常に起因する疾患、例えば癌疾患を防止および/または治療できると発明者は考えている。
【0018】
本発明は、これら知見により完成した。
【0019】
すなわち本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0020】
また本発明は、蛋白質の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である、前記細胞増殖阻害方法に関する:
(1)該蛋白質とCSE1Lの結合、および
(2)該蛋白質の脱リン酸化活性。
【0021】
さらに本発明は、蛋白質の脱リン酸化活性が、CSE1Lに対する脱リン酸化活性である、前記細胞増殖阻害方法に関する。
【0022】
さらにまた本発明は、細胞が腫瘍細胞である、前記細胞増殖阻害方法に関する。
【0023】
また本発明は、下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉により該DNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害する、前記細胞増殖阻害方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0024】
さらに本発明は、下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉が該DNAに対する短鎖二重鎖RNAを用いて行うRNA干渉である、前記細胞増殖阻害方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0025】
さらにまた本発明は、短鎖二重鎖RNAが、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAである、前記細胞増殖阻害方法に関する。
【0026】
また本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の機能を、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列で表される蛋白質を用いて阻害する、前記細胞増殖阻害方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0027】
さらに本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害剤に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0028】
さらにまた本発明は、蛋白質の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である、前記細胞増殖阻害剤に関する:
(1)該蛋白質とCSE1Lの結合、および
(2)該蛋白質の脱リン酸化活性。
【0029】
また本発明は、蛋白質の脱リン酸化活性が、CSE1Lに対する脱リン酸化活性である、前記細胞増殖阻害剤に関する。
【0030】
さらに本発明は、細胞が腫瘍細胞である、前記細胞増殖阻害剤に関する。
【0031】
さらにまた本発明は、下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAを有効成分として含む、前記細胞増殖阻害剤に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0032】
また本発明は、短鎖二重鎖RNAが、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAである、前記細胞増殖阻害剤に関する。
【0033】
さらに本発明は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなる、細胞増殖阻害剤に関する。
【0034】
さらにまた本発明は、配列表の配列番号17に記載の塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドに関する。
【0035】
また本発明は、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと、配列表の配列番号18に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAに関する。
【0036】
さらに本発明は、前記いずれかの細胞増殖阻害方法を用いることを特徴とする腫瘍疾患の防止および/または治療方法に関する。
【0037】
さらにまた本発明は、前記いずれかの細胞増殖阻害剤を用いることを特徴とする腫瘍疾患の防止および/または治療方法に関する。
【0038】
また本発明は、前記いずれかの細胞増殖阻害剤を含んでなる腫瘍疾患の防止および/または治療剤に関する。
【0039】
さらに本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質を用いることを特徴とするCSE1Lの脱リン酸化方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0040】
さらにまた本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とするCSE1Lの脱リン酸化阻害方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0041】
また本発明は、下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉により該DNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害する、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0042】
さらに本発明は、下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉が該DNAに対する短鎖二重鎖RNAを用いて行うRNA干渉である、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0043】
さらにまた本発明は、短鎖二重鎖RNAが、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAである、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害方法に関する。
【0044】
また本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の機能を、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列で表される蛋白質を用いて阻害する、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0045】
さらに本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とするCSE1Lの脱リン酸化阻害剤に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0046】
さらにまた本発明は、蛋白質の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害剤に関する:
(1)該蛋白質とCSE1Lの結合、および
(2)該蛋白質の脱リン酸化活性。
【0047】
また本発明は、蛋白質の脱リン酸化活性が、CSE1Lに対する脱リン酸化活性である、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害剤に関する。
【0048】
さらに本発明は、下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAを有効成分として含む、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害剤に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0049】
さらにまた本発明は、短鎖二重鎖RNAが、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAである、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害剤に関する。
【0050】
また本発明は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなる、前記CSE1Lの脱リン酸化阻害剤に関する。
【0051】
さらに本発明は、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法であって、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質とある化合物(被検化合物)とを接触させ、該蛋白質の脱リン酸化活性を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物が該蛋白質の脱リン酸化活性を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0052】
さらにまた本発明は、蛋白質の脱リン酸化活性を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系が、該蛋白質による下記の群より選ばれるいずれか1の化合物の脱リン酸化を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系である、前記同定方法に関する:
(1)p−ニトロフェニルリン酸
(2)CSE1L、
(3)カゼイン
(4)リン酸化ペプチドRRA−pT−VA(配列表の配列番号21)
(5)リン酸化ペプチドRRP−pT−VA(配列表の配列番号22)
【0053】
また本発明は、蛋白質の脱リン酸化活性を阻害することが明らかになった被検化合物が、細胞増殖を阻害する否かを測定する工程をさらに含む、前記同定方法に関する。
【0054】
さらに本発明は、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法であって、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質とある化合物(被検化合物)とを接触させ、該蛋白質とCSE1Lとの結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物が該蛋白質とCSE1Lとの結合を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0055】
さらにまた本発明は、蛋白質とCSE1Lとの結合を阻害することが明らかになった被検化合物が、細胞増殖を阻害する否かを測定する工程をさらに含む、前記同定方法に関する。
【0056】
また本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害する活性を有する化合物の同定方法であって、該蛋白質および/またはCSE1Lとある化合物(被検化合物)とを接触させ、該蛋白質によるCSE1Lの脱リン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物が該蛋白質によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0057】
さらに本発明は、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物の同定方法であって、該蛋白質および/またはCSE1Lとある化合物(被検化合物)とを接触させ、該蛋白質とCSE1Lの結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物が該蛋白質とCSE1Lの結合を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0058】
さらにまた本発明は、被験組織が腫瘍組織由来であるか否かを判定する方法であって、下記の群より選ばれるDNAの被験組織における発現量を測定することを特徴とする判定方法に関する:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【0059】
また本発明は、被験組織が大腸腫瘍由来であるか否かを判定する、前記判定方法に関する。
【0060】
さらに本発明は、被験組織が前立腺腫瘍組織由来であるか否かを判定する、前記判定方法に関する。
【0061】
さらにまた本発明は、下記工程を含む、前記判定方法に関する:
(1)被験組織から核酸を調製する工程、
(2)前記(1)で調製した核酸から、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、(ii)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および(iii)上記DNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNAより選ばれるいずれか1のDNAおよび/またはそのDNA断片を増幅する工程、および
(3)前記(2)で増幅したDNAおよび/またはDNA断片の量を測定する工程。
【0062】
また本発明は、PCRが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドおよび配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの組み合わせをプライマーとして用いるPCRである、前記判定方法に関する。
【0063】
さらに本発明は、配列表の配列番号3および配列番号4からなる群より選ばれるいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドに関する。
【0064】
さらにまた本発明は、前記オリゴヌクレオチドを含有してなる試薬キットに関する。
【0065】
また本発明は、腫瘍組織判定用試薬キットである、前記試薬キットに関する。
【0066】
さらに本発明は、下記A群より選ばれるいずれか1と、下記B群より選ばれるいずれか1とを有してなる試薬キットに関する:
ここで、A群は、
(1)次の群より選ばれるDNA:(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、(ii)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、(iii)上記DNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および(iv)上記(i)から(iii)のいずれかのDNAを含むDNA、
(2)該DNAによりコードされる蛋白質、
(3)該DNAを含有する組み換えベクター、および
(4)該組み換えベクターを含有する形質転換体、からなり、
B群は、
CSE1LをコードするDNA、CSE1L、該DNAを含有する組み換えベクター、および該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下、本発明について発明の実施の態様をさらに詳しく説明する。
本明細書においては単離された若しくは合成の完全長蛋白質;単離された若しくは合成の完全長ポリペプチド;または単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドを意味する総称的用語として「蛋白質」という用語を使用することがある。ここで蛋白質、ポリペプチド若しくはオリゴペプチドはペプチド結合または修飾されたペプチド結合により互いに結合している2個以上のアミノ酸を含むものである。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
【0068】
本明細書においては単離された完全長DNAおよび/またはRNA;合成完全長DNAおよび/またはRNA;単離されたDNAおよび/またはRNAオリゴヌクレオチド類;あるいは合成DNAおよび/またはRNAオリゴヌクレオチド類を意味する総称的用語として「核酸」という用語を使用することがある。ここでそのようなDNAおよび/またはRNAは最小サイズが2ヌクレオチドである。
【0069】
(細胞増殖阻害方法および細胞増殖阻害剤)
本発明の一態様は、脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害方法および細胞増殖阻害剤に関する。
【0070】
本発明に係る脱リン酸化酵素として、配列番号1に記載の塩基配列で表されるヒト由来のDNAを好ましく例示できる。配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAは、公共ヌクレオチドデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)にKIAA1157として開示されている遺伝子の蛋白質コード領域からなるDNAである。KIAA1157は、公共ヌクレオチドデータベースにアクセッション番号XM_051093([gi:17455718] Update Date:Aug 1 2002 7:10PM)として開示されている。
【0071】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる推定アミノ酸配列(配列番号表2)には、プロテインフォスファターゼ2C触媒部位が存在する。このことから、本DNAによりコードされる蛋白質は、蛋白質脱リン酸化酵素活性を有すると考えることができる。
【0072】
本発明においては、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質が脱リン酸化活性を示すことを実証した。すなわち、後述するように、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、人工基質p−ニトロフェニルリン酸(以下、pNPPと略称することがある)、蛋白質基質カゼイン、およびペプチド基質リン酸化ペプチド(RRA−pT−VA(配列表の配列番号21)およびRRP−pT−VA(配列表の配列番号22):以下、リン酸化ペプチドを示す配列において、小文字pはリン酸を示す)をいずれも脱リン酸化した(実施例3参照)。また、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の脱リン酸化活性は、プロテインフォスファターゼ2Cと同様に金属イオン依存性を示し、さらに、プロテインフォスファターゼ1やプロテインフォスファターゼ2Aの阻害剤であるオカダ酸によって阻害されなかった(実施例3参照)。このことから、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、プロテインフォスファターゼ2Cファミリーに属する蛋白質脱リン酸化酵素であると考えることができる。
【0073】
本発明においてはまた、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の生体内基質の検索により、CSE1Lを同定した。配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、CSE1Lと結合し、これを脱リン酸化した(実施例4参照)。
【0074】
CSE1Lは、細胞周期に関わる機能を有し、アポトーシスに関連することが知られており、それら以外にも多数の機能を有することが報告されている(非特許文献3)。例えば、多くの癌でCSE1Lの発現が亢進していることから、CSE1Lは細胞の増殖・癌化に関与していると考えられる。
【0075】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質が蛋白質脱リン酸化酵素であると考えられること、およびその生体内基質がCSE1Lであると考えられることから、本DNAによりコードされる蛋白質によるCSE1Lの脱リン酸化が、CSE1Lの機能、すなわち細胞周期・細胞増殖・癌化への関与を調節していると考えることができる。
【0076】
実際、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の発現を、本DNAに対する特異的siRNA(small interfering RNA)を用いて阻害することにより細胞増殖が阻害された(実施例7参照)。このことから、本DNAによりコードされる蛋白質の発現阻害により、CSE1Lの脱リン酸化が阻害され、その結果、細胞増殖が阻害されたと考えることができる。また、本DNAによりコードされる蛋白質の機能を、該蛋白質の不活性変異体を用いて阻害することにより、制癌剤による癌細胞死が減弱した(実施例6参照)。このことから、本DNAによりコードされる蛋白質の機能の阻害により、CSE1Lの脱リン酸化が阻害され、その結果、細胞周期に遅滞が生じ、制癌剤に対する感受性が低下したと考えることができる。
【0077】
このように、本発明に係る脱リン酸化酵素、例えば配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することにより、細胞増殖を阻害することができる。
【0078】
本発明に係る脱リン酸化酵素は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるヒト由来のDNAによりコードされる蛋白質に制限されず、本DNAと同様の構造的特徴を有し且つ本DNAによりコードされる蛋白質と同様の生物学的機能を有する蛋白質をコードするDNAによりコードされる蛋白質である限りにおいていずれの蛋白質も包含される。
【0079】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAの構造的特徴として、その塩基配列が挙げられる。塩基配列の配列相同性は通常、塩基配列の全体で50%以上、好ましくは少なくとも70%であることが適当である。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。さらに、本発明に係る脱リン酸化酵素をコードするDNAは、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列と配列相同性を有する蛋白質をコードするDNAであることが好ましい。アミノ酸配列の配列相同性は通常、アミノ酸配列の全体で50%以上、好ましくは少なくとも70%であることが適当である。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
【0080】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAと配列相同性を有するDNAには、該塩基配列において、1個以上、例えば1〜300個、好ましくは1〜90個、より好ましくは1〜60個、さらに好ましくは1〜30個、特に好ましくは1〜数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるDNAが含まれる。変異の程度およびそれらの位置は、該変異を有するDNAによりコードされる蛋白質が、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質と同様の配列相同性および生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質と配列相同性を有する蛋白質には、そのアミノ酸配列において、1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入といった変異が存するアミノ酸配列で表される蛋白質が含まれる。変異を有するDNAは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。
【0081】
また、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNA、本DNAと配列相同性を有するDNA、および本DNAの塩基配列において変異が存する塩基配列で表されるDNAからなる群より選ばれるいずれか1のDNAを含むDNAも、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAと同様の構造的特徴を有するDNAの範囲に包含される。
【0082】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAの構造的特徴としてまた、プロテインフォスファターゼ2C触媒部位をコードする領域を挙げることができる。配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAは、その塩基配列の第283番目から第675番目のヌクレオチドからなる領域にプロテインフォスファターゼ2C触媒部位をコードする領域を有する。該領域は、本DNAによりコードされる推定アミノ酸配列(配列番号2)の第95番目から225番目のアミノ酸領域に相当する。プロテインフォスファターゼ2C触媒部位をコードする領域における配列相同性は、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。さらに、プロテインフォスファターゼ2C触媒部位をコードする領域は、プロテインフォスファターゼ2C触媒部位として機能するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる領域であることが好ましい。
【0083】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の生物学的機能として、脱リン酸化活性を例示できる。本DNAによりコードされる蛋白質が、プロテインフォスファターゼ2Cファミリーに属する蛋白質脱リン酸化酵素であると考えられることから、その生物学的機能として好ましくは、プロテインフォスファターゼ2Cファミリーに属するセリンスレオニン脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性と同様の活性が挙げられる。
【0084】
「セリンスレオニン脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性」とは、酵素が、基質と結合し、該基質内の、あるリン酸化されているセリン残基および/またはスレオニン残基に作用して、そのリン酸エステル結合の加水分解によるリン酸の遊離反応を触媒することにより、該基質を脱リン酸化する機能を意味する。
【0085】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の脱リン酸化活性により脱リン酸化される基質として、CSE1Lを好ましく例示できる。また、基質として、人工基質pNPP、蛋白質カゼイン、リン酸化ペプチドRRA−pT−VA(配列表の配列番号21)およびリン酸化ペプチドRRP−pT−VA(配列表の配列番号22)を例示できる。本DNAによりコードされる蛋白質の基質は、これら例示した基質に限定されず、本DNAによりコードされる蛋白質の脱リン酸化活性により脱リン酸化される基質である限りにおいて、蛋白質やペプチド等のいずれの化合物でもあり得る。
【0086】
脱リン酸化活性の測定は、基質の脱リン酸化を測定することにより実施できる。基質の脱リン酸化の測定は、自体公知の脱リン酸化測定方法を用いて、脱リン酸化活性を有すると考えられる蛋白質と基質とを共存させて脱リン酸化反応を行った後に、基質から遊離されたリン酸を検出することまたは遊離されたリン酸量を測定することにより実施できる。リン酸が検出されたとき、または遊離されたリン酸量が増加したとき、該蛋白質は脱リン酸化活性を有すると判定できる。あるいは、基質の脱リン酸化の測定は、脱リン酸化反応を行った後に、脱リン酸化された基質を検出することまたはその量を測定することにより実施できる。この場合、脱リン酸化された基質が検出されたとき、またはその量が増加したとき、該蛋白質は脱リン酸化活性を有すると判定できる。また、基質の脱リン酸化の測定は、脱リン酸化反応を行った後に、脱リン酸化されない基質を検出することまたはその量を測定することにより実施できる。この場合、脱リン酸化されない基質が減少したとき、または検出されなかったとき、該蛋白質は脱リン酸化活性を有すると判定できる。
【0087】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、PP2Cファミリーに属する脱リン酸化酵素である。PP2Cファミリーに属する脱リン酸化酵素は、金属イオン依存的に脱リン酸化活性を示すこと、およびPP1ファミリーやPP2Aファミリーに属する脱リン酸化酵素に対する阻害剤であるオカダ酸により阻害されないことが知られている。したがって、脱リン酸化活性の測定は、金属イオン存在下で実施することが好ましい。金属イオンとして、マンガンイオン(Mn2+)およびマグネシウムイオン(Mg2+)を好ましく挙げることができる。また、オカダ酸に対する感受性を測定することにより、脱リン酸化活性を有すると判定された蛋白質が、PP2Cファミリーに属する脱リン酸化酵素であるか否かを判定することができる。
【0088】
基質から遊離されたリン酸の検出および定量は、例えば、マラカイトグリーンを用いた公知の方法(ファティー(Fathi,A.R.)ら、「アナリティカルバイオケミストリー(Analytical Biochemistry)」、2002年、第310巻、p.208−214)に従って実施できる(実施例3参照)。
【0089】
脱リン酸化された基質の検出は、例えば、リン酸化されている基質を認識するが、リン酸化されていない基質は認識しない抗体を用いて、ウェスタンブロッティング等の公知の蛋白質検出方法により実施できる。
【0090】
脱リン酸化された基質の検出はまた、例えば、脱リン酸化されている蛋白質と脱リン酸化されていない蛋白質とでSDS−PAGEゲル上での移動度が異なることを利用し、ウェスタンブロッティング等の公知の蛋白質検出方法により実施できる。一般的に、蛋白質が脱リン酸化された場合、SDS−PAGEゲル上での移動度は、脱リン酸化されていない蛋白質と比較して上昇する。したがって、脱リン酸化反応後に、反応液をSDS−PAGEに付し、次いでウェスタンブロッティング等の公知の蛋白質検出方法により基質を検出し、その移動度を、脱リン酸化反応を行っていない基質と比較することにより、脱リン酸化された基質の検出を実施できる(実施例4および5参照)。
【0091】
脱リン酸化された基質の検出はまた、例えば、脱リン酸化されている基質と、脱リン酸化されていない基質との性質の違いを利用して、該性質を検出する方法により実施できる。例えば、人工基質pNPPは、脱リン酸化されるとp−ニトロフェノールを遊離する。p−ニトロフェノールは、pNPPと異なり、波長405−410nmで吸収を示す。したがって、該波長の吸光度を測定することにより、脱リン酸化反応によりpNPPから遊離されたp−ニトロフェノールの検出を実施できる(実施例3参照)。
【0092】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の生物学的機能として、また、他の蛋白質との結合を例示できる。本DNAによりコードされる蛋白質と結合する蛋白質として、CSE1Lを例示できる。本DNAによりコードされる蛋白質と結合する蛋白質は、例示した蛋白質に限定されず、本DNAによりコードされる蛋白質と結合する蛋白質である限りにおいていずれの蛋白質でもあり得る。
【0093】
「本DNAによりコードされる蛋白質と他の蛋白質の結合」とは、本DNAによりコードされる蛋白質と他の蛋白質とが、複合体を形成するように、水素結合、疎水結合または静電的相互作用等の非共有結合により相互作用することを意味する。ここでの結合とは、本DNAによりコードされる蛋白質と他の蛋白質がその一部分において結合すれば足りる。例えば、本DNAによりコードされる蛋白質または他の蛋白質を構成するアミノ酸の中に、両蛋白質の結合に関与しないアミノ酸が含まれていてもよい。また、本DNAによりコードされる蛋白質と他の蛋白質により形成される複合体には、これら蛋白質とは別種の蛋白質が含まれていてもよい。本DNAによりコードされる蛋白質と他の蛋白質との結合の測定は、ウェスタンブロッティング、免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法および蛍光共鳴エネルギー転移法等の自体公知の方法またはこれらの方法を組合わせることにより実施できる。
【0094】
「蛋白質の発現」とは、蛋白質をコードするDNAの遺伝子情報がmRNAに転写されること、または、mRNAに転写され、かつ蛋白質のアミノ酸配列として翻訳されることをいう。
【0095】
「蛋白質の発現を阻害する」とは、蛋白質をコードするDNAの遺伝子情報がmRNAに転写される過程、または、mRNAに転写され、かつ蛋白質のアミノ酸配列として翻訳される過程で生じる様々な反応の少なくとも1つを妨げることにより、該蛋白質をコードする遺伝子の転写・翻訳による該蛋白質の生成を妨げることを意味する。
【0096】
目的の蛋白質の発現の阻害は、該目的蛋白質の発現を阻害する活性を有する化合物を用いて実施できる。このような化合物として、好ましくは該目的蛋白質の発現を特異的に阻害する活性を有する化合物、より好ましくは該目的蛋白質の発現を特異的に阻害する活性を有する低分子量化合物を挙げることができる。目的蛋白質の発現を特異的に阻害するとは、当該目的蛋白質発現を強く阻害するが、他の蛋白質の発現は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。低分子量化合物とは、ペプチド、ペプチド様物質、ポリペプチド、核酸、有機化合物、および無機化合物が含まれ、その分子量が好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下、さらに好ましくは1000以下、さらにより好ましくは500以下の化合物を意味する。目的蛋白質の発現を阻害する化合物は、後述する化合物の同定方法を用いて取得できる。
【0097】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現を阻害する化合物として、例えば、該脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るsiRNA(small interfering RNA)を例示できる(エルバシ(Elbashir S.M.)ら、「ネイチャー(Nature)」、2001年、第411巻、p.494−498;およびパディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)。
【0098】
本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子に対するsiRNAは、該遺伝子の部分配列からなるRNA(センスRNA)と該RNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるRNA(アンチセンスRNA)とを、該遺伝子のmRNAの配列に基づいて設計し、自体公知の化学合成法により合成し、得られた両RNAをハイブリダイゼーションさせることにより製造できる。siRNAを構成するセンスRNAおよびアンチセンスRNAは、それぞれ数個ないし10数個程度のヌクレオチドからなることが好ましい。また、それぞれ、その3´末端に、オーバーハング配列と呼ばれる1個ないし数個の塩基配列からなるヌクレオチドを結合させることが好ましい。オーバーハング配列は、RNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。オーバーハング配列は、該RNAのRNA干渉効果を阻害しない限りにおいて特に制限されず、好ましくは1個ないし10個、より好ましくは1個ないし4個、さらに好ましくは2個のヌクレオチドからなるものをいずれも用いることができる。具体的には、デオキシチミジル酸からなる配列(例えばTT)、ウリジル酸からなる配列(例えばUU)、デオキシチミジル酸に続いて任意のヌクレオチドが結合した配列(例えばTN)といった配列を例示できる。合成を安価に行えることおよびヌクレアーゼ耐性がより強いことから、より好ましくは、2つのデオキシチミジル酸からなる配列をオーバーハング配列として用いる。オーバーハング配列は、センスRNAおよびアンチセンスRNAのそれぞれの3´末端のリボース3´水酸基部位にジエステル結合により結合させる。
【0099】
本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子に対するsiRNAとして、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAに対するsiRNAが挙げられる。
【0100】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAに対するsiRNAとして具体的には、配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド(配列番号18)とからなる短鎖二重鎖RNAを例示できる。本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子に対するsiRNAは上記例示したものに制限されず、該遺伝子の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るものであればいずれも用いることができる。
【0101】
遺伝子の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るsiRNAとしてまた、shRNAを例示できる。shRNAは、ヘアピン構造を有する短鎖二重鎖RNAであり、siRNAと同様、RNA干渉により遺伝子の発現を抑制する(パディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAとが例えばオリゴヌクレオチド等により連結され、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分が二重鎖を形成するため、ヘアピン様構造を呈する。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAに加え、これら2つのRNAを連結しかつループ構造を形成するようなオリゴヌクレオチドを含むRNAを、本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子のmRNAの塩基配列に基づいて設計して、自体公知の方法により製造することができる。好ましくは、センスRNAの3´末端とループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの5´末端とが結合し、さらにループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの3´末端とアンチセンスRNAの5´末端とが結合したオリゴヌクレオチドであることが望ましい。ループ構造を形成するオリゴヌクレオチドとは、センスRNAとアンチセンスRNAの間に存在して両RNAを連結でき、それ自体がループ構造を形成するものを意味する。このようなオリゴヌクレオチドの設計は、文献(パディソン(Paddison P.J.)ら、「ジーンズ アンド ディベロプメント(Genes and Development)」、2002年、第16巻、p.948−958)の記載を参考にして実施できる。好ましくは4個ないし23個、より好ましくは4個ないし8個のヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドが望ましい。例えば、TTCAAGAGA(Ambion社製またはOligoengine社製)、AACGTT、TTAA、CAAGCTTC等の配列を挙げることができる。ヘアピン構造を有する二重鎖の形成は、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分とを慣用の方法でアニーリングすることにより実施できる。
【0102】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現を阻害する化合物としてまた、本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドを例示できる。
【0103】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現を阻害する機能を有するsiRNA、shRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドの選択は、適当な細胞に本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子とsiRNA、shRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれか1つとをコトランスフェクション(共遺伝子導入)し、本脱リン酸化酵素の発現をウェスタンブロッティング等の自体公知の方法により検出し、本脱リン酸化酵素の発現が阻害されるか否かを確認することにより実施できる。
【0104】
内在性の本脱リン酸化酵素の発現の阻害は、本脱リン酸化酵素の発現を阻害する機能を有するsiRNA、shRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドを、適当な遺伝子工学的手法、例えばリポフェクションにより細胞内に導入することにより達成できる。
【0105】
ここでは、阻害効果を有する化合物(例えば競合阻害効果を有する低分子化合物等)を阻害剤と称する。
【0106】
「蛋白質の機能」とは、蛋白質が備えている働きを意味する。本発明に係る脱リン酸化酵素の機能として、上述したように、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性、および本脱リン酸化酵素と他の蛋白質、例えば基質との結合を例示できる。本脱リン酸化酵素が結合する蛋白質として、CSE1Lを好ましく例示できる。本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性により脱リン酸化される基質として、CSE1L、人工基質pNPP、蛋白質カゼイン、リン酸化ペプチドRRA−pT−VA(配列表の配列番号21)およびリン酸化ペプチドRRP−pT−VA(配列表の配列番号22)を例示できる。好ましくは、本脱リン酸化酵素の基質として、CSE1Lを挙げることができる。本脱リン酸化酵素の基質は、これら例示した基質に限定されず、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性により脱リン酸化される基質である限りにおいて、蛋白質やペプチド等のいずれの化合物でもあり得る。
【0107】
「本発明に係る脱リン酸化酵素の機能を阻害する」とは、本脱リン酸化酵素が備えている働きを低減させるまたは消失させることを意味する。具体的には、本脱リン酸化酵素の機能を阻害するとは、例えば、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性、および本脱リン酸化酵素と基質、例えば基質である他の蛋白質との結合のうちの少なくとも1を阻害することを意味する。より具体的には、本脱リン酸化酵素の機能を阻害するとは、例えば、本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合および/または本脱リン酸化酵素のCSE1Lに対する脱リン酸化活性を阻害することを意味する。
【0108】
本発明に係る脱リン酸化酵素の機能の阻害は、本脱リン酸化酵素の機能を阻害する化合物を用いて実施できる。このような化合物として、好ましくは本脱リン酸化酵素の機能を特異的に阻害する化合物、より好ましくは本脱リン酸化酵素の機能を特異的に阻害する活性を有する低分子量化合物を挙げることができる。本脱リン酸化酵素の機能を特異的に阻害するとは、当該機能を強く阻害するが、他の蛋白質の機能は阻害しないか、弱く阻害することを意味する。本脱リン酸化酵素の機能を阻害する活性を有する化合物は、後述する化合物の同定方法を用いて取得できる。
【0109】
本発明に係る脱リン酸化酵素の機能の阻害は、具体的には、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性、および本脱リン酸化酵素と基質、例えば基質である他の蛋白質との結合のうちの少なくとも1を阻害する活性を有する化合物により実施できる。より具体的には、本脱リン酸化酵素の機能の阻害は、例えば、本脱リン酸化酵素とCSE1Lとの結合および/または本脱リン酸化酵素のCSE1Lに対する脱リン酸化活性を阻害する活性を有する化合物を用いて実施できる。
【0110】
本発明に係る脱リン酸化酵素と基質の結合を阻害する活性を有する化合物は、該結合を阻害する結果、本脱リン酸化酵素の該基質への作用を阻害するため、例えば、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性による該基質の脱リン酸化を阻害する。具体的には、例えば、本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物は、本脱リン酸化酵素のCSE1Lへの作用を阻害するため、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害する。
【0111】
本発明に係る脱リン酸化酵素と基質、例えば他の蛋白質との結合を阻害する活性を有する化合物として、本脱リン酸化酵素の不活性変異体を例示できる。
【0112】
「本発明に係る脱リン酸化酵素の不活性変異体」とは、本脱リン酸化酵素の変異体であって、脱リン酸化活性が本脱リン酸化酵素と比較して減弱したまたは消失した変異体を意味する。本発明に係る脱リン酸化酵素の不活性変異体は、ドミナントネガティブ変異体であることが好ましい。
【0113】
「ドミナントネガティブ変異体」とは、正常蛋白質の持つ一部の機能が残されているために、正常蛋白質の作用を特異的に阻害するように働く変異体を意味する。ドミナントネガティブ変異体に対して、変異を有さない正常蛋白質を野生型と称することがある。本発明に係る脱リン酸化酵素のドミナントネガティブ変異体として、本脱リン酸化酵素にアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入等の変異が導入された不活性変異体であって、本脱リン酸化酵素が結合する基質との結合能を有するが脱リン酸化酵素活性を有さない変異体を例示できる。このような不活性変異体は、野生型の本脱リン酸化酵素と拮抗して基質と結合することにより、野生型の本脱リン酸化酵素の基質への結合を阻害し、その結果、該基質に対する本脱リン酸化酵素の作用を阻害できる。本脱リン酸化酵素の不活性変異体は、天然に存在するものであってよく、人工的に変異を導入したものであってもよい。本脱リン酸化酵素の不活性変異体における変異部位として、本脱リン酸化酵素のアミノ酸配列において該酵素の脱リン酸化活性に必要な部位を例示できる。本脱リン酸化酵素の不活性変異体は、本脱リン酸化酵素のアミノ酸配列に基づいて所望の蛋白質を設計して公知の方法で製造し、取得した蛋白質の中から本脱リン酸化酵素と基質との結合を阻害しかつ脱リン酸化活性を示さないものを、後述する化合物の同定方法に記載の方法を用いて選別することにより取得できる。
【0114】
本発明に係る脱リン酸化酵素のドミナントネガティブ変異体として、具体的には、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換された変異体を例示できる。本変異体は、本DNAによりコードされる蛋白質の基質であるCSE1Lと結合したが、CSE1Lに対するリン酸化活性は野生型と比較して低かった(実施例4および5参照)。
【0115】
本発明に係る脱リン酸化酵素の不活性変異体の作製は、例えば、本脱リン酸化酵素をコードするDNAを組み込んだベクターを用いて公知の遺伝子工学的手法により該DNAに所望の変異を導入し、得られた変異DNAを用いて該変異DNAによりコードされる蛋白質を発現させることにより実施できる。(実施例4参照)。
【0116】
本発明に係る脱リン酸化酵素と基質の結合を阻害する活性を有する化合物としてまた、本脱リン酸化酵素と基質とが結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを例示できる。このようなポリペプチドは、本脱リン酸化酵素と基質の結合を競合的に阻害することができる。このようなポリペプチドは、本脱リン酸化酵素または基質、例えば基質蛋白質のアミノ酸配列から設計し、自体公知のペプチド合成法により合成したものから、本脱リン酸化酵素と基質の結合を阻害するものを選択することにより取得できる。このように特定されたポリペプチドに、1〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入等の変異を導入したものも本発明の範囲に包含される。このような変異を導入したポリペプチドは、本脱リン酸化酵素と基質の結合を阻害するものが好ましい。変異を有するポリペプチドは天然に存在するものであってよく、また人工的に変異を導入したものであってもよい。これらポリペプチドは、後述する一般的な製造方法により取得できる。
【0117】
本発明に係る脱リン酸化酵素と基質の結合を阻害する活性を有する化合物としてまた、本脱リン酸化酵素または基質を認識する抗体であって本脱リン酸化酵素と基質の結合を阻害する抗体および該抗体のフラグメントを例示できる。かかる抗体は、本脱リン酸化酵素または基質自体、またはこれらの断片、好ましくは本脱リン酸化酵素または基質が結合する部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドを抗原として自体公知の抗体作製法により取得できる。
【0118】
本発明に係る脱リン酸化酵素と基質の結合を阻害する活性を有する化合物としてさらにまた、本脱リン酸化酵素または基質を特異的に認識するアプタマーであって、本脱リン酸化酵素と基質の結合を阻害するアプタマーを例示できる。アプタマーは、核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーのいずれであってもよい。かかるアプタマーは、公知の方法(例えば、ハーマン(Hermann T.)ら、「サイエンス(Science)」、2000年、第287巻、第5454号、p.820−825;バーグスタラー(Burgstaller P.)ら、「カレント オピニオン イン ドラッグ ディスカバリー アンド ディベロプメント(Current Opinion in Drug Discovery and Development)」、2002年、第5巻、第5号、p.690−700;およびホップ−セイラー(Hoppe−Seyler F.)ら、2002年、「カレント モレキュラー メディシン(Current Molecular Medicine)」、2004年、第4巻、第5号、p.529−538)に記載された方法)を用いて取得できる。
【0119】
本発明に係る脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を阻害する活性を有する化合物は、本脱リン酸化酵素がその基質を脱リン酸化する一連の反応、すなわち、本脱リン酸化酵素が基質と結合し、該基質内のあるリン酸化されているセリン残基および/またはスレオニン残基に作用して、そのリン酸エステル結合の加水分解によるリン酸の遊離反応を触媒することにより該基質を脱リン酸化する一連の反応において生じる様々な反応のうち少なくともいずれか1を阻害する活性を有する化合物であり得る。具体的には例えば、本脱リン酸化酵素の基質に対する脱リン酸化活性を阻害する活性を有する化合物は、本脱リン酸化酵素が、CSE1Lと結合し、CSE1Lを脱リン酸化する一連の反応において生じる様々な反応のうち少なくともいずれか1を阻害する活性を有する化合物であり得る。
【0120】
本発明に係る脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を阻害する活性を有する化合物として、本脱リン酸化酵素に特異的に結合しその脱リン酸化活性を阻害する抗体または該抗体のフラグメントを例示できる。また、本脱リン酸化酵素に特異的に結合しその脱リン酸化活性を阻害する活性を有するアプタマーを例示できる。抗体あるいはアプタマーは上述の方法で作製でき、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性に対するこれらの阻害活性を後述する化合物の同定方法に記載の方法で測定することにより、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を阻害する活性を有する抗体あるいはアプタマーを取得できる。
【0121】
上述のように、本発明に係る脱リン酸化酵素、例えば配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することにより、例えばCSE1Lの脱リン酸化を阻害することができ、さらに、細胞増殖を阻害することができる。
【0122】
「細胞増殖」とは、分裂により細胞の数が増すことを意味し、炎症性刺激に対する反応としての細胞増殖並びに腫瘍性増殖等を含む。
【0123】
本発明に係る細胞増殖阻害方法および細胞増殖阻害剤により増殖が阻害される細胞として、本脱リン酸化酵素の発現が亢進している細胞を挙げることができる。このような細胞として具体的には、大腸腺腫細胞等の良性腫瘍細胞、および大腸癌細胞や前立腺癌細胞等の悪性腫瘍細胞を例示できる。
【0124】
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の発現は、腫瘍組織において正常組織と比較して亢進が認められる。例えば、良性大腸腺腫組織、大腸癌組織、および前立腺癌組織等の腫瘍組織において、本DNAによりコードされる蛋白質の発現亢進が認められた(実施例1および図1参照)。また、大腸癌細胞(HCT116およびSW620)および前立腺癌細胞(LNCaPおよびPC3)における本DNAによりコードされる蛋白質の発現量が、それぞれ正常大腸細胞(CCD841CoN)および正常前立腺組織と比較して増加していた(実施例2および図2参照)。本DNAによりコードされる蛋白質が、細胞の増殖・癌化を調節するCSE1Lを脱リン酸化することから、本DNAによりコードされる蛋白質の発現が亢進している腫瘍細胞ではCSE1Lの脱リン酸化が促進され、その結果、該腫瘍細胞の増殖が促進されていると考えることができる。
【0125】
本発明に係る細胞増殖阻害剤は、本発明に係る脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害する活性を有する化合物を有効成分として含む。例えば、本脱リン酸化酵素の発現、本脱リン酸化酵素と基質の結合、および本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性のうちの少なくとも1を阻害する活性を有する化合物を有効成分として含む。より具体的には、本脱リン酸化酵素の発現、本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合、および本脱リン酸化酵素のCSE1Lに対する脱リン酸化活性のうちの少なくとも1を阻害する活性を有する化合物を有効成分として含む。
【0126】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害する活性を有する化合物として、具体的には、本脱リン酸化酵素に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAを例示できる。本脱リン酸化酵素に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAは、本脱リン酸化酵素の発現を阻害することにより、本脱リン酸化酵素の発現量を減少させるまたは消失させることができるため、本脱リン酸化酵素と基質との結合を低減または消失させることができ、その結果、本脱リン酸化酵素の該基質への作用、例えば脱リン酸化活性を低減または消失させることができる。
【0127】
本発明に係る脱リン酸化酵素に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAとして、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAを好ましく例示できる。より好ましくは、配列表の配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAを例示できる。配列表の配列番号17に記載の塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとして、配列表の配列番号18に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを例示できる。配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとして、配列表の配列番号17に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、いわゆるオーバーハング配列、例えば2個のデオキシチミジル酸(TT)からなる配列を結合させたオリゴヌクレオチドを例示できる。この場合、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと二重鎖を形成させるオリゴヌクレオチドとして、配列表の配列番号18に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの3´末端に、いわゆるオーバーハング配列、例えば2個のデオキシチミジル酸(TT)からなる配列を結合させたオリゴヌクレオチドを用いることが好ましい。本発明に係る脱リン酸化酵素に対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAは上記例示したものに制限されず、本発明に係る脱リン酸化酵素の発現をRNA干渉の手法により低下または消失させ得るものであればいずれも用いることができる。
【0128】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害する活性を有する化合物として、具体的にはまた、本脱リン酸化酵素のドミナントネガティブ変異体を例示できる。より具体的には、本脱リン酸化酵素のドミナントネガティブ変異体として、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換された変異体を例示できる。本変異体は、本DNAによりコードされる蛋白質の基質であるCSE1Lと結合するがCSE1Lに対するリン酸化活性は野生型と比較して低いため(実施例4および5参照)、野生型の本脱リン酸化酵素と拮抗してCSE1Lと結合することにより、野生型の本脱リン酸化酵素のCSE1Lへの結合を阻害し、その結果、CSE1Lに対する本脱リン酸化酵素の作用を阻害する。このように、本変異体は、本脱リン酸化酵素によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害することにより、CSE1Lの作用を阻害し、その結果、例えば細胞増殖を阻害し得る。
【0129】
本発明に係る細胞増殖阻害剤および細胞増殖方法を用いることにより、異常な細胞増殖を伴う疾患において、細胞増殖を阻害することができ、その結果、該疾患の防止および/または治療を実施できる。また、本発明において、本細胞増殖阻害剤を含む異常な細胞増殖を伴う疾患の防止および/または治療剤を提供できる。
【0130】
異常な細胞増殖を伴う疾患として、例えば良性腫瘍や悪性腫瘍等の腫瘍疾患を例示できる。より好ましくは、本脱リン酸化酵素の発現の亢進が認められる良性腫瘍および悪性腫瘍等の腫瘍疾患を例示できる。良性腫瘍とは、腫瘍細胞およびその配列がその由来する正常細胞に近い形態をとり、浸潤性や転移性のない腫瘍をいう。悪性腫瘍とは、腫瘍細胞の形態やその配列がその由来する正常細胞と異なっており、浸潤性や転移性を示す腫瘍をいう。良性腫瘍として、例えば大腸腺腫を挙げることができる。また、悪性腫瘍として、例えば大腸癌や前立腺癌を挙げることができる。
【0131】
(CSE1Lの脱リン酸化方法)
本発明の一態様は、本発明に係る脱リン酸化酵素を用いることを特徴とするCSE1Lの脱リン酸化方法に関する。CSE1Lの脱リン酸化方法は、インビボおよびインビトロのいずれの条件でも実施できる。「インビボ」は、動植物の生体内を意味し、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む。「非ヒト哺乳動物」とは、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヤギ等の哺乳動物を意味する。好ましくはマウスが使用される。「インビトロ」は、試験管内を意味し、生体外試料を含む。「生体外試料」とは、動物、例えば哺乳動物から調製された細胞や組織、動物由来の培養細胞、並びに前記細胞、組織および培養細胞から調製された蛋白質や遺伝子を含む溶液等の試料を意味する。
【0132】
本発明に係るCSE1Lの脱リン酸化方法は、本発明に係る脱リン酸化酵素によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害する活性を有する化合物の同定方法に用いることができる。
【0133】
本発明に係るCSE1Lの脱リン酸化方法は、例えば、次に示すいずれかの方法で実施できる:(1)CSE1Lの発現が認められた細胞を用いて、該細胞に本脱リン酸化酵素を発現させる;および(2)細胞に、CSE1Lのおよび本脱リン酸化酵素を発現させる。CSE1Lの発現および本脱リン酸化酵素の発現は、それぞれCSE1Lをコードする遺伝子を含む適当なベクターおよび本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子を含む適当なベクターを用いて慣用の遺伝子工学的手法でこれらを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。細胞は、真核細胞が好ましく用られる。真核細胞は、真核生物から調製した細胞、初代培養細胞、および培養細胞株のいずれでもあり得る。好ましくは哺乳動物由来の培養細胞株、より好ましくはヒト由来の培養細胞株を用いる。ヒト由来の培養細胞株として、293細胞を好ましく例示できる。
【0134】
CSE1Lの脱リン酸化の検出は、例えば、リン酸化されているCSE1Lを認識するが、リン酸化されていないCSE1Lは認識しない抗体を用いて、ウェスタンブロッティング等の公知の蛋白質検出方法により実施できる。
【0135】
CSE1Lの脱リン酸化の検出はまた、例えば、脱リン酸化されている蛋白質と脱リン酸化されていない蛋白質とでSDS−PAGEゲル上での移動度が異なることを利用して実施できる。具体的には、脱リン酸化反応後に、反応液をSDS−PAGEに付し、次いでウェスタンブロッティング等の公知の蛋白質検出方法によりCSE1Lを検出し、その移動度を、脱リン酸化反応を行っていないCSE1Lと比較することにより、脱リン酸化されたCSE1Lの検出を実施できる(実施例4および5参照)
【0136】
(CSE1Lの脱リン酸化阻害方法および脱リン酸化阻害剤)
本発明の一態様は、本発明に係る脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害することを特徴とするCSE1Lの脱リン酸化阻害方法に関する。CSE1Lの脱リン酸化阻害方法は、インビボおよびインビトロのいずれの条件でも実施できる。
【0137】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現の阻害は、上記のように、本脱リン酸化酵素の発現を阻害する活性を有する化合物、例えば本脱リン酸化酵素の発現を阻害する機能を有するsiRNA、shRNA、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることにより実施できる。
【0138】
本発明に係る脱リン酸化酵素の機能の阻害は、上記のように、本脱リン酸化酵素の機能を阻害する活性を有する化合物、例えば本脱リン酸化酵素のドミナントネガティブ変異体を用いることにより実施できる。本脱リン酸化酵素のドミナントネガティブ変異体は、好ましくは、CSE1Lと結合するが、CSE1Lに対する脱リン酸化活性を示さない不活性変異体である。このような不活性変異体として、具体的には、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換された変異体を例示できる。
【0139】
本発明の一態様は、本発明に係る脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害することを特徴とするCSE1Lの脱リン酸化阻害剤に関する。本CSE1Lの脱リン酸化阻害剤は、本脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害する活性を有する化合物を有効成分としてその有効量含んでなる。例えば、本CSE1Lの脱リン酸化阻害剤は、本脱リン酸化酵素の発現を阻害する機能を有するsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、および本脱リン酸化酵素のドミナントネガティブ変異体より選ばれるいずれか1を有効成分として含んでなる。
【0140】
一般的に蛋白質のリン酸化および脱リン酸化は、該蛋白質の機能の調節に関与している。したがって、本発明に係るCSE1Lの脱リン酸化阻害剤により、CSE1Lの機能を阻害することができる。CSE1Lの機能として、上述のように、細胞の増殖・癌化への関与が知られている。また、CSE1Lを脱リン酸化する本発明に係る脱リン酸化酵素の発現を阻害することにより、細胞増殖が阻害された(実施例7)。したがって、本CSE1Lの脱リン酸化阻害剤により、細胞増殖を阻害できる。すなわち、本CSE1Lの脱リン酸化阻害剤は、本発明に係る細胞増殖阻害方法に用いることができ、また、本発明に係る細胞増殖阻害剤として用いることができる。
【0141】
(医薬組成物)
本発明に係る細胞増殖阻害剤およびCSE1Lの脱リン酸化阻害剤は、医薬組成物として調製することができる。この場合、通常、有効成分に加えて1種または2種以上の医薬用担体を含む医薬組成物として製造することが好ましい。
【0142】
本発明に係る医薬製剤は、異常な細胞増殖を伴う疾患に適用できる。異常な細胞増殖を伴う疾患として、例えば良性腫瘍や悪性腫瘍等の腫瘍疾患を例示できる。良性腫瘍として、例えば大腸腺腫を挙げることができる。悪性腫瘍として、例えば大腸癌や前立腺癌を挙げることができる。
【0143】
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常、約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0144】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて一般的に使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。
【0145】
より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースを例示できる。これらは、本医薬組成物の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合わせて使用される。
【0146】
所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤等を適宜使用することもできる。
【0147】
安定化剤は、ヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。これらは単独でまたは界面活性剤等と組合わせて使用できる。特にこの組合わせによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等およびそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。
【0148】
界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。
【0149】
緩衝剤は、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。
【0150】
等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを例示できる。
【0151】
キレート剤は、エデト酸ナトリウム、クエン酸を例示できる。
【0152】
本発明に係る医薬および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。
【0153】
医薬および医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等に応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0154】
本発明に係る医薬組成物を投与するときは、該医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは目的の疾患の防止および/または治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。例えば、他の抗腫瘍用医薬の有効成分等を配合してもよい。
【0155】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内等への投与を挙げることができる。あるいは経口経路で投与することもできる。さらに、経粘膜投与または経皮投与も可能である。腫瘍疾患に用いる場合は、腫瘍に注射等により直接投与することも可能である。
【0156】
投与形態は、各種の形態が目的に応じて選択できる。その代表的なものには、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらはさらに投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
【0157】
(化合物の同定方法)
本発明の一態様は、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法、並びに本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物の同定方法および本脱リン酸化酵素によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害する活性を有する化合物の同定方法に関する。
【0158】
本発明においては、細胞増殖の阻害を、本発明に係る脱リン酸化酵素の発現を阻害することにより達成できることを見出した(実施例7参照)。また、細胞の増殖・癌化に関与することが知られているCSE1Lに、本脱リン酸化酵素が結合してこれを脱リン酸化することを見出した(実施例4および5参照)。これら知見から、本脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害することにより、CSE1Lの脱リン酸化を阻害して、細胞増殖を阻害することができると本発明者は考えている。すなわち、本脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害する活性を有する化合物は、CSE1Lの脱リン酸化を阻害でき、細胞増殖を阻害できる。
【0159】
したがって、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法は、本発明に係る脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害する活性を指標にして実施できる。
【0160】
本発明に係る脱リン酸化酵素の機能として、上述のように、脱リン酸化活性、および基質、例えば基質蛋白質との結合を例示できる。すなわち、本発明に係る細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法は、本脱リン酸化酵素の発現、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性、および本脱リン酸化酵素と基質との結合の少なくともいずれか1を阻害する活性を指標にして実施できる。
【0161】
本発明に係る脱リン酸化酵素の基質として、具体的には、CSE1Lを例示できる。本脱リン酸化酵素のCSE1Lとの結合、および本脱リン酸化酵素によるCSE1Lに対する脱リン酸化活性によりCSE1Lが脱リン酸化される。ただし、本脱リン酸化酵素の機能である脱リン酸化活性が、CSE1Lに対するリン酸化活性に留まらないことはいうまでもない。
【0162】
例えば、本発明に係る同定方法を実施する場合、脱リン酸化酵素、好ましくはセリンスレオニン脱リン酸化酵素の一般的な基質として当業者に知られている適当な基質を用いたり、市販のキットを使用したりして実施することができる。一般的な基質として、人工基質pNPP、蛋白質基質カゼイン、ペプチド基質リン酸化ペプチド(RRA−pT−VA(配列表の配列番号21)およびRRP−pT−VA(配列表の配列番号22))を例示できる。
【0163】
このように本発明において、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法、並びに本発明に係る脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害する活性を有する化合物の同定方法を提供できる。より具体的には、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法、本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物の同定方法、および本脱リン酸化酵素によるCSE1Lのリン酸化を阻害する活性を有する化合物の同定方法を提供できる。
【0164】
細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法は、例えば、本発明に係る脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を測定する実験系を用いて実施できる。このような実験系において、ある化合物(以下、被検化合物と称する)と本脱リン酸化酵素を接触させ、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物が本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を阻害するか否かを決定することにより、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物を同定できる。
【0165】
このような実験系は、脱リン酸化酵素阻害剤のスクリーニングにおいて一般的に用いられている同定方法を参考にして実施できる。例えば、本発明に係る脱リン酸化酵素と基質とを試験管内で反応させて脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を測定するといった実験系を用いることができる。その他、例えば、本脱リン酸化酵素の基質の発現が確認されている細胞を用い、本脱リン酸化酵素を発現させて、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を測定するといった実験系を用いることができる。また、本脱リン酸化酵素と基質とを共に発現させた細胞を用いて、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を測定するといった実験系を用いることができる。細胞は、真核細胞が好ましく用いられる。真核細胞は、真核生物から調製した細胞、初代培養細胞、および培養細胞株のいずれでもあり得る。好ましくは哺乳動物由来の培養細胞株、より好ましくはヒト由来の培養細胞株を用いる。ヒト由来の培養細胞株として、293細胞を好ましく例示できる。細胞における本脱リン酸化酵素および/またはCSE1Lの発現は、本脱リン酸化酵素をコードするDNAを含む適当なベクターおよび/またはCSE1LをコードするDNAを含む適当なベクターを用いて慣用の遺伝子工学的手法でこれらベクターを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。
【0166】
本発明に係る脱リン酸化酵素は、PP2Cファミリーに属する脱リン酸化酵素である。PP2Cファミリーに属する脱リン酸化酵素は、金属イオン依存的に脱リン酸化活性を示すことが知られている。したがって、本発明に係る同定方法に用いる実験系は、金属イオン存在下で実施することが好ましい。金属イオンとして、マンガンイオン(Mn2+)およびマグネシウムイオン(Mg2+)を好ましく挙げることができる。
【0167】
被検化合物は本発明に係る脱リン酸化酵素による基質の脱リン酸化反応に共存させることもできるし、被検化合物を予め本脱リン酸化酵素と接触させ、その後に本脱リン酸化酵素による基質の脱リン酸化反応を行うこともできる。本脱リン酸化酵素による基質の脱リン酸化により生じるシグナルまたはマーカーが、被検化合物を本脱リン酸化酵素と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物は本脱リン酸化酵素による基質の脱リン酸化を阻害し、その結果、細胞増殖を阻害すると判定できる。
【0168】
本発明に係る脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系は、本脱リン酸化酵素による基質の脱リン酸化を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系であり得る。基質として、CSE1L、人工基質pNPP、蛋白質基質カゼイン、ペプチド基質リン酸化ペプチド(RRA−pT−VA(配列表の配列番号21)およびRRP−pT−VA(配列表の配列番号22))より選ばれるいずれか1を用いることができる。本脱リン酸化酵素の生体内基質がCSE1Lであると考えられることから、好ましい基質としてCSE1Lを挙げることができる。一方、本脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を簡便に検出するという観点から、好ましい基質として人工基質pNPPを挙げることができる。
【0169】
脱リン酸化活性の測定は、上述のように、基質の脱リン酸化を測定することにより実施できる。基質の脱リン酸化の測定は、上述のように、基質から遊離されたリン酸、脱リン酸化された基質、および脱リン酸化されない基質より選ばれる少なくともいずれか1を検出すること、またはその量を測定することにより実施できる。
【0170】
上記同定方法により同定される化合物は、本発明に係る脱リン酸化酵素の脱リン酸化活性を阻害する活性を有する化合物である。このような化合物には、本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物や、本脱リン酸化酵素によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害する活性を有する化合物が含まれる。
【0171】
細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法はまた、例えば、本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を測定する実験系を用いて実施できる。このような実験系において、被検化合物と本脱リン酸化酵素を接触させ、本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用いて、このシグナルおよび/またはマーカーの存在若しくは不存在または変化を検出し、被検化合物がCSE1Lの結合を阻害するか否かを決定することにより、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物を同定できる。
【0172】
被検化合物は本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合反応に共存させることもできるし、被検化合物を予め本脱リン酸化酵素と接触させ、その後に本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合反応を行うこともできる。本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合により生じるシグナルまたはマーカーが、被検化合物を本脱リン酸化酵素と接触させたときに、被検化合物を接触させなかったときと比較して低下あるいは消失する等の変化を示す場合、当該被検化合物は本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害し、その結果、細胞増殖を阻害すると判定できる。
【0173】
このような実験系は、蛋白質の結合阻害剤のスクリーニングにおいて一般的に用いられている同定方法を参考にして実施できる。例えば、本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lとを試験管内で反応させて、ウェスタンブロッティングやプルダウン法により両蛋白質の結合を検出する実験系を例示できる。その他、例えば、CSE1Lの発現が確認されている細胞を用い、本脱リン酸化酵素を発現させて、本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を検出する実験系を例示できる。また、本脱リン酸化酵素とCSE1Lとを共に発現させた細胞を用い本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を検出する実験系を例示できる。細胞は、真核細胞が好ましく用いられる。真核細胞は、真核生物から調製した細胞、初代培養細胞、および培養細胞株のいずれでもあり得る。好ましくは哺乳動物由来の培養細胞株、より好ましくはヒト由来の培養細胞株を用いる。ヒト由来の培養細胞株として、293細胞を好ましく例示できる。細胞における本脱リン酸化酵素および/またはCSE1Lの発現は、本脱リン酸化酵素をコードするDNAを含む適当なベクターおよび/またはCSE1LをコードするDNAを含む適当なベクターを用いて慣用の遺伝子工学的手法でこれらベクターを細胞にトランスフェクションすることにより達成できる。
【0174】
本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合の検出は、自体公知の蛋白質の検出方法、例えば免疫沈降法、プルダウン法、ツーハイブリッド法、ウェスタンブロッティングおよび蛍光共鳴エネルギー転移法等の方法またはこれらの方法を組合わせて、本脱リン酸化酵素とCSE1Lにより形成される複合体を検出することにより実施できる。本脱リン酸化酵素とCSE1Lにより形成される複合体の検出を容易にするために、本脱リン酸化酵素および/またはCSE1Lは、適当な標識物質により標識されたものを用いることが好ましい。標識物質として、FLAG−tag、Myc−tagおよびHA−tag等のタグペプチド類が好ましく例示できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を用いて実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(以下、HRPと略称する)やアルカリホスファターゼ(以下、ALPと略称する)等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチン等で標識した抗体を用いることにより検出がより容易に実施できる。あるいは、HRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を用いてもよい。
【0175】
具体的には、本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物の同定方法は、例えば、FLAG−tagが付加された本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子を含む適当なベクターおよびHA−tagが付加されたCSE1Lをコードする遺伝子を含む適当なベクターをトランスフェクションした細胞(実施例4参照)を用いて実施できる。該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解して細胞溶解物を調製し、該細胞溶解物中に含まれる本脱リン酸化酵素とCSE1Lにより形成された複合体を検出する。細胞溶解物中に含まれる該複合体の検出は、一方の蛋白質に付加されたタグペプチドに対する抗体を用いた免疫沈降の後に、もう一方の蛋白質に付加されたタグペプチドに対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行うことにより実施できる。被検化合物で処理したときに検出される本脱リン酸化酵素とCSE1Lにより形成された複合体の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出される複合体の量と比較して低減または消失する場合には、被検化合物は本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害すると判定できる。また、例えば、本脱リン酸化酵素およびCSE1Lの一方が適当なタグペプチドにより標識されており、他方が標識されていない場合、抗タグペプチド抗体によりタグペプチド標識された蛋白質を免疫沈降した後に、標識されていない蛋白質に対する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行うことにより、同様に、化合物の同定方法を実施することができる(実施例4参照)。
【0176】
本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物の同定方法はまた、公知のツーハイブリッド(two−hybrid)法を用いて実施できる。例えば、本脱リン酸化酵素とDNA結合蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、CSE1Lと転写活性化蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、および適切なプロモーター遺伝子に接続したlacZ等レポーター遺伝子を含有するプラスミドを酵母や真核細胞等の細胞に導入し、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減または消失する場合、該被検化合物は本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害すると判定できる。
【0177】
上記同定方法により同定される化合物は、本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物である。
【0178】
細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法はまた、例えば、本発明に係る脱リン酸化酵素の発現を測定する実験系を用いて実施できる。このような実験系において、本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子と被検化合物とを共存させてその発現を測定し、ついで、被検化合物の非存在下での測定結果との比較における発現の変化(低減または消失)を検出し、被検化合物が本脱リン酸化酵素の発現を阻害するか否かを決定することにより、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物を同定できる。
【0179】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現を測定できる実験系として、具体的には、本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターをトランスフェクションした細胞を用いて本脱リン酸化酵素を発現させる実験系を例示できる。このような実験系において、該細胞を、被検化合物で処理した後、細胞を回収し、適当な方法で細胞を溶解して細胞溶解物を調製し、該細胞溶解物中に含まれる本脱リン酸化酵素を検出する。細胞を被検化合物で処理したときに検出される本脱リン酸化酵素の量が、細胞を被検化合物で処理しないときに検出される本脱リン酸化酵素の量と比較して低減または消失する場合には、被検化合物は本脱リン酸化酵素の発現を阻害すると判定できる。
【0180】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現の測定は、自体公知の蛋白質の検出方法、例えばウェスタンブロッティング等の方法により、本脱リン酸化酵素を直接的に検出することにより実施できる。また、発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより、本脱リン酸化酵素の測定を容易に実施できる。発現の指標となるシグナルとして、例えば、標識物質を例示できる。標識物質で本脱リン酸化酵素を標識し、該標識物質を測定することにより、本脱リン酸化酵素の測定を容易に実施できる。標識物質として、FLAG−tag、Myc−tagおよびHA−tag等のタグペプチド類が好ましく例示できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を用いて実施できる。例えば、タグペプチド類は、抗タグペプチド抗体により検出できる。このとき、抗タグペプチド抗体として、HRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質またはビオチン等で標識した抗体を用いることにより検出がより容易に実施できる。あるいは、HRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光物質、ビオチン等で標識した二次抗体を用いてもよい。
【0181】
本発明に係る脱リン酸化酵素の発現を測定できる実験系としてまた、本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子のプロモーター領域の下流に、該遺伝子の代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターを導入した細胞、例えば真核細胞等を用いた実験系を例示できる。このような実験系において、該細胞を被検化合物で処理したときのレポーター遺伝子の発現量を、被検化合物で該細胞を処理しないときのレポーター遺伝子の発現量とを比較する。被検化合物で処理した該細胞のレポーター遺伝子の発現量が、被検化合物で処理しない該細胞のレポーター遺伝子の発現量と比較して低減または消失する場合、該被検化合物は本脱リン酸化酵素の発現を阻害すると判定できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用でき、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素をコードする遺伝子を例示できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
【0182】
本発明に係る細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法は、さらに、上記同定方法により本発明に係る脱リン酸化酵素の発現および/または機能を阻害する活性を有することが明らかになった被検化合物が、細胞増殖を阻害し得るか否かを測定する工程をさらに含む同定方法であり得る。
【0183】
細胞増殖の測定は、例えば、細胞のDNA合成または細胞数の測定により実施できる。細胞のDNA合成の測定は、例えばブロモデオキシウリジン(BrdU)のDNAへの取り込みを、抗BrdU抗体を用いて測定することにより実施できる。細胞数の測定は、一般的に行われている細胞数測定方法により実施できる。細胞数測定方法として、セルカウンターによる方法、[H]チミジン等の放射性同位体を用いる方法、色素を用いた方法、テトラゾリウム塩を用いる方法等により実施できる。細胞は、真核細胞が好ましく用いられる。真核細胞は、真核生物から調製した細胞、初代培養細胞、および培養細胞株のいずれでもあり得る。好ましくは哺乳動物由来の培養細胞株、より好ましくはヒト由来の培養細胞株を用いる。ヒト由来の培養細胞株として、HeLa細胞、HCT116細胞等を好ましく例示できる。
【0184】
このような細胞増殖を測定する実験系において、該細胞を被検化合物で処理することにより、細胞増殖を阻害する活性を有する化合物を同定できる。被検化合物で処理した細胞における細胞増殖が、被検化合物で処理していない細胞と比較して低下した場合、該細胞の増殖が阻害されたと判定できる。
【0185】
本発明に係る脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を阻害する活性を有する化合物の同定方法は、上述の本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合を測定する実験系を用いて実施できる。
【0186】
本発明に係る脱リン酸化酵素によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害する活性を有する化合物の同定方法は、上述の本脱リン酸化酵素によるCSE1Lの脱リン酸化を測定する実験系を用いて実施できる。
【0187】
被検化合物は、例えば化学ライブラリーや天然物由来の化合物、または本発明に係る脱リン酸化酵素やCSE1Lの一次構造や立体構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等を挙げることができる。あるいは、本脱リン酸化酵素とCSE1Lの結合部位のアミノ酸配列からなるポリペプチドの構造に基づいてドラッグデザインして得られた化合物等も被検化合物として好適である。
【0188】
(腫瘍組織の判定方法)
本発明のまた別の一態様は、被験組織における本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現量を測定することにより被験組織が腫瘍組織由来であるか否かを判定する方法に関する。
【0189】
本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現強度は、腫瘍組織や腫瘍細胞において正常組織や正常細胞と比較して亢進していた。したがって、被験組織における本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現量を測定することにより、被験組織が腫瘍組織由来であるか否かを判定することができる。
【0190】
具体的には、良性大腸腺腫組織内および大腸癌組織内における本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現平均量の比はそれぞれ、正常大腸組織内における本遺伝子の発現平均量に対して2.9および2.7であった(実施例1および図1)。また、前立腺癌組織内における本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現平均量の比は、正常前立腺組織内における本遺伝子の発現平均量に対して1.7であった(実施例1および図1)。さらに、大腸癌細胞(HCT116およびSW620)および前立腺癌細胞(LNCaPおよびPC3)における本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現が、それぞれ正常大腸細胞(CCD841CoN)および正常前立腺組織と比較して亢進していることが判明した(実施例2および図2)。
【0191】
本発明に係る被験組織の判定方法は、ヒト大腸組織由来の被験組織が大腸腺腫または大腸癌由来であるか否かの判定に好ましく使用できる。ヒト大腸組織由来の被験組織における本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現強度が、正常な対照組織との比較において、好ましくは2.0倍以上である場合、該被験組織は大腸腺腫または大腸癌由来であると判定できる。
【0192】
本発明に係る被験組織の判定方法はまた、ヒト前立腺組織由来の被験組織が前立腺癌由来であるか否かの判定に好ましく使用できる。ヒト前立腺組織由来の被験組織における本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現強度が、正常な対照組織との比較において、好ましくは1.5倍以上である場合、該被験組織は前立腺癌由来であると判定できる。
【0193】
本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現量の測定は、該遺伝子由来のRNAおよび/またはcDNA、あるいは本脱リン酸化酵素に由来する蛋白質の存在を検出すること、および/またはその存在量を決定することにより実施できる。正常な対照組織との比較において、本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子由来のRNAおよび/またはcDNA、あるいは本脱リン酸化酵素の存在の変化およびその量的変化を検出できる。
【0194】
本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子由来のRNAおよび/またはcDNAの検出および定量は、自体公知の遺伝子検出法により実施できる。具体的には、ノザンブロット法、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)法およびドットブロット法等を例示できる。PCR法が感度の点から好ましい。PCR法は、本遺伝子を特異的に増幅できるプライマーを使用する方法である限り、従来公知の方法のいずれも使用できる。例えば逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(以下、RT−PCRと略称する)法を挙げることができるが、その他、当該分野で使用される種々のPCR法の変法を適応できる。また、in situ RT−PCRやin situ ハイブリダイゼーション等を利用した細胞レベルでの測定により検出できる。
【0195】
このような遺伝子検出法において、本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の部分配列からなるオリゴヌクレオチドであってプローブとしての性質を有するものまたはプライマーとしての性質を有するものが有用である。プローブとしての性質を有するオリゴヌクレオチドとは、本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子のみに特異的にハイブリダイゼーションできる該遺伝子特有の配列からなるものを意味する。プライマーとしての性質を有するものとは本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子のみを特異的に増幅できる該遺伝子特有の配列からなるものを意味する。プローブまたはプライマーとして、塩基配列長が一般的に5〜50ヌクレオチド程度であるものが好ましく、10〜35ヌクレオチド程度であるものがより好ましく、15〜30ヌクレオチド程度であるものがさらに好ましい。
【0196】
本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子またはその断片を増幅するためのプライマー、あるいは本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子を検出するためのプローブとして、具体的には、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドおよび配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーとして好ましく例示できる。プローブは、通常は標識したプローブを使用するが、非標識であってもよい。また、直接的または間接的に標識したリガンドとの特異的結合により検出してもよい。プローブおよびリガンドを標識する方法は、種々の方法が知られており、ニックトランスレーション、ランダムプライミングまたはキナーゼ処理を利用する方法等を例示できる。適当な標識物質として、放射性同位体、ビオチン、蛍光物質、化学発光物質、酵素、抗体等を例示できる。
【0197】
本発明に係る脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の発現量の測定は、具体的には、以下に例示する方法で実施できる。まず、被験組織から本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子のcDNAを調製し、PCRにより該cDNAを増幅し、次いで、増幅された該cDNAを定量する。被験組織から本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子のcDNAを調製する方法は、公知の遺伝子工学的手法をいずれも使用できる。例えば、被験組織から、全RNAを抽出し、得られた全RNAを使用して逆転写反応によりcDNAを取得できる。PCRにより該cDNAを増幅する方法は、該cDNAに特異的なプライマーを使用して実施できる。本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子特異的なプライマーとして、配列表の配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドおよび配列表の配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの組み合わせを例示できる。増幅された該cDNAを定量する方法として、アガロースゲルを使用した電気泳動により増幅された該cDNAを、他のcDNAと分離し、次いでエチジウムブロマイドといった色素によりcDNAを染色することにより検出する方法を例示できる。その他、一般的に使用されているcDNAの検出方法をいずれも利用できる。
【0198】
本発明に係る脱リン酸化酵素の検出および定量は、一般的な蛋白質検出法あるいは定量法により実施できる。例えば、抗体(ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体)を使用して、本脱リン酸化酵素の検出および定量を実施できる。蛋白質検出法あるいは定量法の好ましい具体例として、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体を使用するサンドイッチ法を含む、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)、および免疫酵素法(IEMA)等を挙げることができる。その他、ラジオイムノアッセイや競争結合アッセイ等を利用することもできる。具体的には、被験組織から常法により調製した試料について、本脱リン酸化酵素に対する特異抗体を使用して免疫沈降を行い、ウェスタンブロット法またはイムノブロット法で本脱リン酸化酵素の解析を行うことにより、本脱リン酸化酵素の検出および定量を実施できる。また、本脱リン酸化酵素の検出および定量に対する特異抗体を使用して免疫組織化学的技術によりパラフィンまたは凍結組織切片中の本脱リン酸化酵素の検出および定量を検出できる。抗体は、本脱リン酸化酵素またはその断片を使用して自体公知の抗体作成法により取得できる。
【0199】
被験組織は、特に制限されず、例えば、細胞、血液、尿、唾液、髄液、組織生検または剖検材料等の生体由来の試料を例示できる。所望により被験組織から核酸を抽出して核酸試料を調製して使用することもできる。核酸は、PCRまたはその他の増幅法により酵素的に増幅してもよい。核酸試料は、また、標的配列の検出を容易にする種々の方法、例えば変性、制限消化、電気泳動またはドットブロッティング等により調製してもよい。
【0200】
本発明に係る被験組織の判定方法は、被験組織が腫瘍由来であるか否かを判定できるためきるため、腫瘍疾患の検査方法に使用できる。本判定方法は腫瘍疾患の診断等に有用である。
【0201】
(試薬キット)
本発明の一態様は、試薬キットに関する。本試薬キットは、本発明に係る脱リン酸化酵素、本脱リン酸化酵素をコードするDNA、該DNAを含有する組み換えベクターおよび該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれるいずれか1つと、CSE1L、CSE1LをコードするDNA、該DNAを含有する組み換えベクター、および該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる群から選ばれるいずれか1つとを含有してなる試薬キットであり得る。
【0202】
本発明に係る試薬キットはまた、配列表の配列番号3および配列番号4からなる群より選ばれるいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを含有してなる試薬キットであり得る。
【0203】
本発明に係る試薬キットは、例えば、本発明に係る化合物の同定方法や本発明に係る被検組織の判定方法に用いることができる。
【0204】
本発明に係る試薬キットは、本発明に係る化合物の同定方法や本発明に係る被検組織の判定方法において用いるシグナルおよび/またはマーカー、緩衝液、並びに塩等、必要とされる物質を含むことができる。さらに、安定化剤および/または防腐剤等の物質を含んでいてもよい。製剤化にあたっては、使用する各物質それぞれに応じた製剤化手段を導入すればよい。
【0205】
(本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lの取得)
【0206】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lはヒト由来の蛋白質であることが好ましいが、該ヒト由来の蛋白質と同質の機能を有し、かつ構造的相同性を有する哺乳動物由来の蛋白質、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、ラットまたはウサギ等に由来する蛋白質であることができる。また、本脱リン酸化酵素およびCSE1Lをそれぞれコードする遺伝子は、ヒト由来の遺伝子であることが好ましいが、上記ヒト由来の蛋白質と同質の機能を有しかつ構造的相同性を有する哺乳動物由来の蛋白質をコードする遺伝子であれば、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、ラットまたはウサギ等に由来する遺伝子であることができる。本脱リン酸化酵素の性質や機能として、例えば、CSE1Lとの結合およびCSE1Lに対する脱リン酸化活性を挙げることができる。CSE1Lの性質や機能として、例えば、細胞周期・細胞の増殖や癌化への関与を挙げることができる。
【0207】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lは、これらを遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製したもの、無細胞系合成産物または化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製されたものであってもよい。また、本脱リン酸化酵素およびCSE1Lのうち少なくとも1を遺伝子工学的手法で発現させた細胞を使用することもできる。本脱リン酸化酵素およびCSE1Lは、その性質や機能に影響がない限りにおいて、N末端側やC末端側に別種の蛋白質やポリペプチドを、直接的にまたはリンカーペプチド等を介して間接的に、遺伝子工学的手法等を用いて付加してもよい。別種の蛋白質やポリペプチドとして、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類を例示できる。
【0208】
遺伝子工学的手法として、公知の方法がいずれも使用できる。公知の方法として、成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス等を参照)を例示できる。
【0209】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lをそれぞれコードする遺伝子は、例えば、各遺伝子の発現が認められる適当な起源から、自体公知のクローニング方法等を用いて容易に取得できる。これら遺伝子の起源として、該遺伝子の発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞を例示できる。本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子の起源として卵巣組織を例示できる。本脱リン酸化酵素をコードする遺伝子は様々な組織で普遍的に発現しているが、高発現が認められる組織として、例えば、ヒトの腫瘍組織、具体的には大腸腺腫や大腸癌、および前立腺癌を挙げることができる。CSE1Lをコードする遺伝子の起源として、卵巣組織を例示できる。
【0210】
起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施できる。また、市販されているcDNAライブラリーを用いることもできる。所望のクローンをcDNAライブラリーから選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を使用できる。例えば、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等やこれらを組合せた方法を挙げることができる。ここで用いるプローブとして、本脱リン酸化酵素およびCSE1Lをそれぞれコードする遺伝子の塩基配列に関する情報に基づいて化学合成されたDNA等が一般的に使用できる。また、該遺伝子の塩基配列情報に基づき設計したセンスプライマー、アンチセンスプライマーをこのようなプローブとして使用できる。cDNAライブラリーからの目的クローンの選択は、例えば公知の蛋白質発現系を利用して各クローンについて発現蛋白質の確認を行い、その生物学的機能を指標にして実施できる。
【0211】
遺伝子の取得にはその他、PCR(ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス;サイキ(Saiki R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354))によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.35−)、特に5´−RACE法(フローマン(Frohman M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002)等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、DNAの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により取得できる。増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、常法により実施できる。例えばゲル電気泳動法等によりDNA/RNA断片の単離精製を実施できる。
【0212】
遺伝子は、その機能、例えばコードする蛋白質の発現や、発現された蛋白質の機能が阻害されない限りにおいて、5´末端側や3´末端側に、例えばGST、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類等の遺伝子が、1つまたは2つ以上付加されたDNAであることができる。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により実施できる。
【0213】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lをそれぞれコードする遺伝子を含む組み換えベクターを構築し、該組み換えベクターを用いて適当な宿主細胞で該遺伝子を発現させることにより、本脱リン酸化酵素およびCSE1Lのうち少なくとも1を発現する細胞を取得できる。また、該細胞から、公知の方法で本脱リン酸化酵素およびCSE1Lを調製することができる。
【0214】
ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するものを抽出したもののほか、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているものでもよい。代表的なものとして、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを例示できる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドを例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージを例示できる。ウイルス由来のベクターDNAとして、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを例示できる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNAを例示できる。あるいは、これらを組合せて作成したベクターDNA、例えばプラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組合せて作成したベクターDNA(コスミドやファージミド等)を例示できる。また、目的により発現ベクターやクローニングベクター等、いずれも用いることができる。
【0215】
ベクターDNAには、目的遺伝子の機能が発揮されるように遺伝子を組込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子配列とプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列、例えば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー等から選択した1つまたは複数の遺伝子配列を自体公知の方法により組合せてベクターDNAに組込むことができる。選択マーカーとして、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子を例示できる。
【0216】
ベクターDNAに目的遺伝子配列を組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、目的遺伝子配列を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。あるいは、目的遺伝子配列に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組み換えベクターが得られる。
【0217】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lをそれぞれコードする遺伝子を含む組み換えベクターを宿主に導入することにより、形質転換体が得られる。ベクターDNAとして発現ベクターを使用すれば、これら遺伝子のうち少なくとも1を発現する細胞を取得でき、さらに該細胞用いて公知の方法により本脱リン酸化酵素およびCSE1Lを製造できる。該形質転換体には、本脱リン酸化酵素およびCSE1Lをそれぞれコードする遺伝子以外の所望の遺伝子を組込んだベクターDNAの1つまたは2つ以上をさらに導入することもできる。
【0218】
宿主として、原核生物および真核生物のいずれも使用できる。原核生物として、例えば大腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を例示できる。真核生物として、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、Sf9やSf21等の昆虫細胞、あるいはサル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒト293細胞等の動物細胞を例示できる。好ましくは動物細胞を用いる。
【0219】
ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用でき、例えば成書に記載されている標準的な方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)により実施できる。より好ましい方法として、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法を挙げることができるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的な方法として、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)および感染を例示できる。
【0220】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lは、本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lをそれぞれコードする遺伝子を遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製した蛋白質、無細胞系合成産物または化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製された蛋白質であってもよい。また、本蛋白質は、本蛋白質をコードする遺伝子を含む細胞において発現しているものであり得る。該細胞は、本蛋白質をコードする遺伝子を含むベクターをトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。
【0221】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lはさらに、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変できる。また、N末端側やC末端側に別の蛋白質等を、直接的にまたはリンカーペプチド等を介して間接的に遺伝子工学的手法等を用いて付加することにより標識化したものであってもよい。好ましくは、本蛋白質の基本的な性質が阻害されないような標識化が望ましい。付加する蛋白質等として、GST、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)等の蛍光色素類、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片あるいはビオチンを例示できるが、これらに限定されない。また、放射性同位元素により標識することもできる。標識化に用いる物質は、1つまたは2つ以上を組合せて付加できる。これら標識化に用いた物質自体、またはその機能を測定することにより、本蛋白質を容易に検出または精製でき、また、例えば本蛋白質と他の蛋白質との相互作用を検出できる。
【0222】
具体的には例えば、本脱リン酸化酵素およびCSE1Lの製造は、これらいずれかの蛋白質をコードする遺伝子を含むベクターDNAをトランスフェクションした形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から目的とする蛋白質を回収することにより実施できる。形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で実施できる。培養は、形質転換体により発現される本蛋白質自体またはその機能を指標にして実施できる。あるいは、宿主中または宿主外に産生された本蛋白質自体またはその蛋白質量を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。
【0223】
目的とする蛋白質が形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して目的とする蛋白質を抽出する。また、目的とする蛋白質が形質転換体外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液を用いる。
【0224】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lはまた、一般的な化学合成法により製造できる。例えば、成書(「ペプチド合成」、丸善株式会社、1975年および「ペプチド シンテシス(Peptide Synthesis)」、インターサイエンス(Interscience)、ニューヨーク(New York)、1996年)に記載の方法により、これら蛋白質を製造できるが、これらに限らず公知の方法が広く利用できる。蛋白質の化学合成方法として、固相合成方法や液相合成方法等が知られているがいずれも用いることができる。このような蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含し、本蛋白質の合成は、そのいずれによっても実施できる。上記蛋白質合成において用いられる縮合法も、常法に従うことができ、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法を例示できる。また、市販のアミノ酸合成装置を用いてペプチドを製造することができる。
【0225】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lに変異が導入されたものも本発明において使用できる。蛋白質、ポリペプチドおよびポリペプチドに変異を導入する手段は自体公知であり、例えばウルマーの技術(ウルマー(K.M.Ulmer)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671)を利用して実施できる。このような変異の導入において、当該の基本的な性質(物性、機能または免疫学的活性等)を変化させないという観点から、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。さらに、これら利用できるポリペプチドは、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない程度に改変することができる。
【0226】
本発明に係る脱リン酸化酵素およびCSE1Lは、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により精製および/または分離できる。分離および/または精製は、本蛋白質の機能を指標にして実施できる。分離操作方法として、例えば硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、透析法等を単独でまたは適宜組合せて使用できる。好ましくは、本蛋白質のアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作成し、該抗体を用いて特異的に吸着する方法、例えば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを用いることが推奨される。
【0227】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0228】
(正常大腸組織と比較し、大腸癌組織において発現が亢進している遺伝子の同定)
<材料と方法>
正常組織と比較して癌組織において発現が亢進している遺伝子の同定は、バイオエクスプレス(GeneLogic社)のマイクロアレイデータベースの利用により実施した。マイクロアレイデータベースには正常大腸組織234サンプル、大腸癌組織139サンプルの発現プロファイルデータが含まれていた。発現プロファイルデータはアフィメトリクスヒト遺伝子オリゴチップHG−U133を用いて解析された各細胞内の発現データベースとして格納されている。
【0229】
<結果>
公共ヌクレオチドデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)に遺伝子の全長の塩基配列(XM_051093[gi:17455718] Update Date:Aug 1 2002 7:10PM)が登録されている遺伝子、KIAA1157を、正常大腸組織内での発現量よりも大腸癌組織内での発現量が多い遺伝子のうちの一つとして同定した。XM_051093[gi:17455718](Update Date:Aug 1 2002 7:10PM)として登録されているKIAA1157の塩基配列の長さは6462bpであり、その第415番目から1959番目にコード領域を有する。
【0230】
正常大腸組織(234サンプル)におけるKIAA1157の発現量の平均値に対する大腸癌組織(139サンプル)における同遺伝子の発現量の平均値の比は2.7で、有意水準は4.5×10−43であった(図1の左パネル)。さらに正常大腸組織におけるKIAA1157の発現量の平均値と、良性大腸腺腫組織(27サンプル)における同遺伝子の発現量の平均値の比を求めたところ、その値は2.9(有意水準3.7×10−31)であった(図1の右パネル)。
【0231】
これら結果から、KIAA1157の発現は、大腸癌のみならず、前癌状態にある大腸腺腫の段階から亢進していることがわかった。
【0232】
一方、正常前立腺組織(63サンプル)と前立腺癌組織(95サンプル)の比較により、前立腺癌でもKIAA1157の発現が亢進していることがわかった(発現平均量比1.7、有意水準3.6×10−17)。しかし、前立腺良性腫瘍42サンプルではKIAA1157の発現は全く亢進していなかった(発現平均量比1.0)。
【0233】
これら結果から、KIAA1157の発現は、前立腺では腫瘍が悪性化して初めて発現が亢進することが示された。
【実施例2】
【0234】
(大腸癌細胞および前立腺癌細胞におけるKIAA1157の発現解析)
<材料と方法>
KIAA1157の発現を大腸癌細胞および前立腺癌細胞を用いて検討した。大腸癌細胞HCT116およびSW620は大日本製薬より購入し、10%ウシ胎児血清(FCS、岩城硝子社製)を含むDMEM培地(インビトロジェン社製)で培養した。一方、正常大腸上皮細胞CCD841CoNはAmerican Tissue Culture Collection(ATCC)より購入し、ACL−4無血清培地で培養した。前立腺癌細胞LNCaPおよびPC−3はATCCより購入し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地で培養した。これらの細胞からアイソゲン(日本ジーン社製)を用いて全RNAを抽出した。1μgの全RNAから、RNA PCR Kit(AMV)Ver.2.1(タカラバイオ社製)を用いて30℃ 10分、42℃ 30分、99℃ 5分、5℃ 5分の条件でcDNAを合成した。合成したcDNAの1/10量あるいは2μlのヒト前立腺QUICK−Clone cDNA(白人男性20人のプールより調製、BDバイオサイエンスクロンテック社製)を鋳型とし、配列表の配列番号3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列表の配列番号4に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーとして用い、Advantage2 polymerase mix(BDバイオサイエンスクロンテック社製)を酵素として用いて、次の条件でPCRを実施した:94℃ 1.5分処理後、94℃ 30秒、60℃ 30秒および72℃ 1分からなる工程を30回行い、最後に72℃ 3分処理した。反応液を1%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイド染色により増幅産物を検出した。対照として、配列番号5および配列番号6に記載の各塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、グリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素(G3PDH)の発現をPCRにより検出した。
【0235】
<結果>
大腸癌細胞HCT116およびSW620ではKIAA1157の発現(図2のレーン1およびレーン2)が、正常大腸細胞CCD841CoN(図2のレーン3)に比して亢進していることがわかった。また、前立腺癌細胞LNCaPおよびPC−3(図2のレーン4およびレーン5)でも、KIAA1157の発現が正常前立腺組織(図2のレーン6)に比べ、亢進していることが示された。
【実施例3】
【0236】
(KIAA1157の遺伝子の取得とPP2C活性の確認)
<材料と方法>
(遺伝子の取得)
マイクロアレイデータベースのプローブ配列情報に相当する遺伝子として、公共ヌクレオチドデータベース(DDBJ/EMBL/GenBank)中には、KIAA1157の塩基配列(XM_051093[gi:17455718] Update Date:Aug 1 2002 7:10PM)が登録されていた。そこで、配列の確認と発現用ベクター構築のため、PCRによりKIAA1157のcDNAクローニングを行った。プライマーは、XM_051093[gi:17455718](Update Date:Aug 1 2002 7:10PM)として登録されている塩基配列に基づいて設計した、配列表の配列番号7に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列表の配列番号8に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーとして使用した。鋳型として卵巣QUICK−Clone cDNA(BDバイオサイエンスクロンテック社製)、酵素はKOD Plus(東洋紡)を用い、次の条件でPCRを実施した:95℃ 2分処理後、94℃ 15秒、60℃ 30秒および68℃ 4分からなる工程を35回行い、最後に68℃ 10分処理した。得られた増幅産物をpCR4Blunt−TOPOベクター(インビトロジェン社製)へ組み込んだ後、ABI3100(パーキンエルマー社製)により配列決定を行った。
【0237】
取得したクローンの塩基配列は、KIAA1157の塩基配列(XM_051093[gi:17455718] Update Date:Aug 1 2002 7:10PM)と一致した。なお、これ以外のすべての試験において、発現用ベクター構築に用いたPCR産物は全て配列決定により変異の有無を確認した。
【0238】
KIAA1157のコード領域の塩基配列を配列表の配列番号1に示す。また、KIAA1157によりコードされる推定アミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。
【0239】
(KIAA1157によりコードされる蛋白質の調製)
KIAA1157によりコードされる推定アミノ酸配列は、蛋白質脱リン酸化酵素の一種であるプロテインフォスファターゼ2Cファミリーと相同性を有していた。そこで、KIAA1157によりコードされる蛋白質の脱リン酸化酵素活性を調べるため、同蛋白質とマルトース結合蛋白質(以下、MBPと略称する)との融合蛋白質を生産した。具体的には、上記のように取得したKIAA1157を組み込んだpCR4Blunt−TOPOベクターをBamHIとHindIIIで処理することにより遊離した断片を、同様に処理したpMAL−c2X(New England Biolabs、NEB社製)と連結した。精製したベクターを導入した大腸菌BL21(DE3)(インビトロジェン社製)を100μg/mlのアンピシリンと0.2%グルコースを添加したLB培地中37℃で、波長600nmにおける吸光度(A600)が約0.5になるまで培養した後、3mMのイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(以下、IPTGと略称する)を用いて発現誘導し、3時間後に集菌した。菌体を精製緩衝液(200mM NaCl、1mM エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略称する)、プロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュダイアグノティックス社製)を含んだ20mMトリス塩酸、pH7.4)に懸濁し、超音波処理により破砕した。得られた細胞破砕液を遠心し、得られた上清からKIAA1157によりコードされる蛋白質をアミロースカラム(NEB社製)を用いてプロトコールに従って精製した。得られた蛋白質をマイクロコンYM−10(ミリポア社製)で濃縮し、50%までグリセロールを加え、−70℃で保存した。この精製融合蛋白質を脱リン酸化アッセイに使用した。
【0240】
(低分子基質に対する脱リン酸化活性の測定)
KIAA1157によりコードされる蛋白質の脱リン酸化活性を、低分子基質pNPP(シグマ社製)を用いて測定した。本測定において脱リン酸化活性はpNPPからのp−ニトロフェノールの遊離により示される。
【0241】
脱リン酸化活性の測定は、具体的には、アッセイ緩衝液(20mM KClおよび2mM ジチオスレイトール(以下、DTTと略称する)含有40mM トリス塩酸、pH8)に1μgの融合蛋白質および5mM pNPPを加えて30℃で5分間インキュベーションした。遊離したp−ニトロフェノールは405nmで測定した。
【0242】
PP2Cファミリーに属する酵素の脱リン酸化活性は金属イオン依存性を示すことが知られている。そこで、本測定において、金属イオンとして30mM MgClあるいは10mM MnClを図3−Aに示したように添加し、脱リン酸化活性の金属イオン依存性を調べた。
【0243】
PP1ファミリーやPP2Aファミリーに属する酵素は、その脱リン酸化活性がオカダ酸により阻害されることが知られている。一方、PP2Cファミリーに属する酵素の脱リン酸化活性はオカダ酸により阻害されない。そこで、本測定において、融合蛋白質0.5gおよび金属イオン(MnCl2)10mMを用い、pNPPを基質として行った脱リン酸化反応にオカダ酸(シグマ社製)を1μM添加してその効果を調べた。
【0244】
(蛋白質基質に対する脱リン酸化活性の測定)
蛋白質基質に対するKIAA1157によりコードされる蛋白質の脱リン酸化活性を、カゼインを用いて以下に示すように測定した。カゼイン(シグマ社製)をアッセイ緩衝液に溶解し、フリーのリン酸をYM−10膜により除去した。カゼイン40μgと上記融合蛋白質1μg、10mMの金属イオンを図3−Cに示したような組み合わせでアッセイ緩衝液に加え、37℃で60分間反応を行った。マラカイトグリーン(シグマ社製)を用い文献記載の方法(ファティー(Fathi,A.R.)ら、「アナリティカルバイオケミストリー(Analytical Biochemistry)」、2002年、第310巻、p.208−214)により遊離したリン酸を検出し、遊離リン酸量を、濃度既知のリン酸溶液(KPO)を用いて作成した標準曲線に基づいて決定した。
【0245】
(リン酸化ペプチドに対する脱リン酸化活性)
リン酸化ペプチドPRA−pT−VA、PRP−pT−VAおよびRRA−pT−PA(一般的なアミノ酸省略法に順ずる。pはリン酸を表す:東レリサーチセンターで合成)に対するKIAA1157によりコードされる蛋白質の脱リン酸化活性を、上記と同様に測定した。具体的には、アッセイ緩衝液に1μgの上記融合蛋白質と0.5mMのリン酸化ペプチド、および10mMの金属イオンを図3−Dに示したような組み合わせで加え、37℃で10分間反応を行い、基質としてカゼインを用いた場合と同様にマラカイトグリーンを用いて遊離リン酸量を定量した。
【0246】
<結果>
KIAA1157によりコードされる蛋白質とMBPとの融合蛋白質の脱リン酸化活性を上記各種基質を用いて測定した結果を図3−A〜Dに示す。図3−Aは該融合蛋白質の低分子基質pNPPに対する脱リン酸化活性および該活性の金属イオン依存性を検討した結果を示す。図3−Bは、該融合蛋白質のpNPPに対する脱リン酸化活性に対するオカダ酸の効果を検討した結果を示す。図3−Cは、該融合蛋白質の蛋白質基質カゼインに対する脱リン酸化活性および該活性の金属イオン依存性を検討した結果を示す。図3−Dは、該融合蛋白質のリン酸化ペプチドに対する脱リン酸化活性および該活性の金属イオン依存性を検討した結果を示す。
【0247】
図3−Aに示すように、KIAA1157によりコードされる蛋白質とMBPとの融合蛋白質は、pNPPを基質とした場合、金属イオン(Mn2+)依存性の脱リン酸化活性を示した。また、本融合蛋白質による脱リン酸化反応は、オカダ酸により全く阻害されなかった(図3−B)。
【0248】
KIAA1157によりコードされる蛋白質とMBPとの融合蛋白質が金属イオン依存的に脱リン酸化活性を示し、オカダ酸に対して非感受性であること、さらにMBPが脱リン酸化活性を有さないことから、KIAA1157によりコードされる蛋白質はPP2Cファミリーに属する脱リン酸化酵素であると考えることができる。
【0249】
さらに、図3−Cに示したように、KIAA1157によりコードされる蛋白質とMBPとの融合蛋白質は蛋白質基質カゼインに対しても金属イオン(Mg2+)依存性の脱リン酸化活性を示した。
【0250】
また、図3−Dに示すように、本融合蛋白質はリン酸化ペプチドPRA−pT−VAおよびPRP−pT−VAも基質として認識し、金属イオン(Mn2+およびMg2+)依存的に脱リン酸化することが示された。一方、本融合蛋白質はRRA−pT−PAを脱リン酸化せず、配列特異的な脱リン酸化活性を示した。
【0251】
以上の結果から、KIAA1157によりコードされる蛋白質は低分子人工基質(pNPP)、蛋白質(カゼイン)およびペプチド等の全てを基質とする、PP2Cファミリーに属する酵素であることが示された。
【実施例4】
【0252】
(KIAA1157によりコードされる蛋白質と相互作用する蛋白質の探索)
KIAA1157によりコードされる蛋白質の生体内での基質を見出すため、細胞内で該蛋白質と相互作用する蛋白質を探索した。
【0253】
<材料と方法>
(KIAA1157によりコードされる蛋白質と相互作用する蛋白質の同定)
まず、KIAA1157によりコードされる蛋白質の哺乳類細胞発現用ベクターを構築した。上記の大腸菌発現用ベクターで使用した、KIAA1157を含むBamHI−HindIII断片を鋳型とし、配列表の配列番号9に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号10に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーとして用い、KOD Plusを酵素として使用し、次の条件でPCR反応を実施した:94℃ 2分処理後、94℃ 30秒および68℃ 4分からなる工程を40回行い、最後に68℃ 3分処理した。得られた増幅産物をpCR4Blunt−TOPOベクターへ組み込んだ後、配列を確認した。精製したベクターのBamHI−HindIII断片をFLAGタグ付加発現ベクターpCMV−Tag4(Stratagen社製)に組み込み、哺乳類細胞発現用ベクターとして用いた。このベクターあるいは空ベクター4μgを、10cmプレートで培養した293細胞に、リポフェクタミン(インビトロジェン社製)を用いて遺伝子導入した。遺伝子導入48時間後、氷上にて、溶解緩衝液(300mM NaCl、5mM EDTA、0.1% NP−40およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(ロシュダイアグノティックス社製)含有50mM トリス塩酸、pH7.4)で細胞を1時間処理した。細胞溶解液を遠心処理して得られた上清を、ウシ血清アルブミン(以下、BSAと略称する)で処理したマウスIgGアガロースビーズ(シグマ社製)と4℃で一晩接触させた。上清をさらに抗FLAG抗体アガロースビーズ(シグマ社製)と4℃で3時間反応させ、その後、該アガロースビーズを洗浄緩衝液(阻害剤カクテルを含まない上記溶解緩衝液)で3回、洗浄緩衝液からNP−40を除いた緩衝液で1回洗浄した。次いで、アガロースビーズを10% 2−メルカプトエタノール(以下、2−MEと略称する)添加SDSサンプル緩衝液中で5分間熱処理し、回収された蛋白質を4/2% SDSゲル(第一化学薬品社製)による電気泳動に供試した。泳動後、ゲルをクマジーブリリアントブルー(以下、CBBと略称する、ナカライ社製)染色し、対照細胞(空ベクターを導入した細胞)とKIAA1157を導入した細胞のレーンのバンドパターンを比較し、KIAA1157を導入した細胞に特異的なバンドを切り出し、37℃で一晩ゲル内トリプシン(プロメガ社製)消化を行った。生成したペプチド混合物をMagic2002ナノフローHPLC(Mchrom Bioresources Inc.製)とLCQ Deca XP MAXイオントラップマス分析機(Thermo Electron Corporation製)から成るLC−MS/MS装置により分析した。全てのMS/MSスペクトルについて、蛋白質同定のため、Mascot Program(Matrix Science社製)を用いてNCBInrとSwiss Protデータベースに対し自動検索を行った。
【0254】
(KIAA1157とCSE1Lの結合:解析1)
KIAA1157によりコードされる蛋白質とCSE1Lの相互作用を確認するため、KIAA1157の一過性発現による免疫沈降実験を行った。この実験には、KIAA1157発現ベクターの他、KIAA1157ドミナントネガティブ変異体発現ベクターを使用した。
【0255】
KIAA1157ドミナントネガティブ変異体は、KIAA1157によりコードされる蛋白質の活性基に変異を導入したドミナントネガティブ変異体(不活性変異体)である。PP2Cαの第239番目のアスパラギン酸をアラニンに変換すると活性が消失することが知られており(オフェク(Ofek,P.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、2003年、第278巻、p.14299−14305)、KIAA1157によりコードされる蛋白質でこのアスパラギン酸と等価なのは第437番目のアスパラギン酸である。そこで、KIAA1157によりコードされる蛋白質の第437番目のアスパラギン酸をアラニンに置換することでドミナントネガティブ変異体を得られると考えた。
【0256】
KIAA1157ドミナントネガティブ変異体をコードするKIAA1157変異体をドミナントネガティブ型KIAA1157と称し、変異を導入していないKIAA1157を野生型KIAA1157と称することがある。
【0257】
KIAA1157によりコードされる蛋白質の第437番目のアスパラギン酸をアラニンに置換したドミナントネガティブ変異体は、次のような手順で作成した。上記の、pCR4Blunt−TOPO ベクターにKIAA1157断片を組み込んだベクターを鋳型とし、配列表の配列番号11に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマーおよびアンチプライマーとして用い、QuikChange XL Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagen社製)を用いて、次の条件でPCRを実施した:95℃ 1分処理後、95℃ 50秒、60℃ 50秒および68℃ 16分からなる工程を18回行い、最後に68℃ 7分処理した。増幅産物は、その配列を確認後、BamHIとNotIで消化した。得られた断片を鋳型として配列表の配列番号13に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマーおよびアンチプライマーとして用い、KOD Plusを酵素として用いて次の条件でPCRを実施した:94℃ 2分処理後、94℃ 30秒および68℃ 4分からなる工程を40回行い、最後に68℃ 3分処理した。得られた増幅産物をpCR4Blunt−TOPOベクターに組み込んだ。配列確認後、BamHI−HindIII断片をpCMV−Tag4に組み込み、ドミナントネガティブ変異体発現用ベクターとして用いた。このように変異を導入したKIAA1157によりコードされる蛋白質は、大腸菌で発現・精製して、脱リン酸化活性を失っていることを確認した(実施例5参照)。
【0258】
10cmプレートで培養した293細胞に、空ベクター、あるいは野生型またはドミナントネガティブ型のKIAA1157発現用ベクター4μgをリポフェクタミンを用いて遺伝子導入した。48時間後に細胞を回収し、0.6mlのリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと略称する)溶解緩衝液(0.1% NP−40およびプロテアーゼ阻害剤カクテル含有PBS)で氷冷下処理し、細胞溶解液を遠心処理して上清を得た。得られた上清を抗FLAG抗体アガロースビーズと4℃で3時間以上反応させた。該アガロースビーズを0.1% NP−40含有PBSで3回、PBSで1回洗浄した後、10% 2−ME添加SDSサンプル緩衝液中、5分間熱処理した。回収された蛋白質を4/20% SDSゲル(第一化学薬品社製)電気泳動に供し、さらに抗CSE1L抗体(1:1000、BD Biosciences社製)でウェスタン分析を行った。
【0259】
(KIAA1157とCSE1Lの結合:解析2)
KIAA1157によりコードされる蛋白質とCSE1Lの相互作用を確認するため、KIAA1157の一過性発現による免疫沈降実験を、KIAA1157発現ベクターおよびCSE1L発現ベクターを使用して行った。
【0260】
KIAA1157発現ベクターは、上記作成したベクターを用いた。
【0261】
CSE1L発現用ベクターを構築するために、配列表の配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドおよび配列番号16に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをそれぞれセンスプライマーおよびアンチプライマーとして用い、卵巣QUICK−Clone cDNAを鋳型として、KOD Plus(東洋紡社製)を用い、PCRを行った。PCRは次の条件でを実施した:95℃ 2分処理後、94℃ 15秒、60℃ 30秒および68℃ 4分からなる工程を35回行い、最後に68℃ 10分処理した。得られた増幅産物を、pCR4Blunt−TOPOベクターへ組み込み、配列を確認後、pCI−5´HA(pCIベクター(プロメガ社製)の5´末端にヘマグルチニンタグを付加したもの)のNheI−NotI部位へ組み込み、CSE1L発現用ベクターを構築した。
【0262】
KIAA1157発現ベクター、CSE1L発現用ベクター、およびそれらに対応する空ベクターを図4−Cに表示した組み合わせで、10cmプレートで培養した293細胞へリポフェクタミンにより遺伝子導入し、上記の方法に準じて抗HA抗体アガロースビーズ(シグマ社製)による免疫沈降を行い、抗FLAG抗体(1:800、シグマ社製)で回収蛋白質のウェスタン分析を行った。
【0263】
<結果>
KIAA1157を導入した細胞で検出された特異的なバンドに対応する蛋白質を、該バンドを切り出して調製したペプチド混合物のマススペクトル分析により解析した結果、該蛋白質としてHsp70及びCSE1Lが同定された(図4−A)。Hsp70はチャペロン蛋白質であり、大量発現した組み換え蛋白質全般と非特異的に結合する蛋白質である。一方、CSE1LはKIAA1157によりコードされる蛋白質と特異的に結合する蛋白質であると考えることができる。CSE1Lは細胞周期、アポトーシスおよび増殖に関与した遺伝子として知られている(非特許文献3)。
【0264】
また、KIAA1157発現ベクターおよびKIAA1157ドミナントネガティブ変異体発現ベクターをそれぞれ導入した細胞を用いた免疫沈降実験において、内在性のCSE1Lが、野生型およびドミナントネガティブ型、どちらのKIAA1157によりコードされる蛋白質によっても共沈殿された(図4−B)。本結果により、上記マススペクトル分析による結果が確認された。
【0265】
さらに、KIAA1157発現ベクター、CSE1L発現用ベクター、およびそれらに対応する空ベクターを様々に組み合わせて導入した細胞を用いた免疫沈降実験において、組み換え型CSE1Lにより、KIAA1157によりコードされる蛋白質が共沈殿された(図4−C)。
【0266】
以上の結果により、KIAA1157によりコードされる蛋白質は細胞内でCSE1Lと結合することが示された。また、ドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質は脱リン酸化反応を有さないがCSE1Lと結合することが示された。
【実施例5】
【0267】
(KIAA1157によりコードされる蛋白質によるCSE1Lの脱リン酸化反応)
<材料と方法>
KIAA1157によりコードされる蛋白質が、細胞内でCSE1Lに結合することが明らかになった(実施例4参照)。そこで、さらに同蛋白質がCSE1Lを脱リン酸化するかどうかを調べた。
【0268】
まず、野生型KIAA1157を遺伝子導入した細胞と、ドミナントネガティブ型KIAA1157を遺伝子導入した細胞とを用い、これらの細胞における内在性CSE1Lのリン酸化をSDSゲル電気泳動におけるCSE1Lの移動度の変化を検出することにより測定した。具体的には、6穴プレートで培養した293細胞へ空ベクター、あるいは野生型またはドミナントネガティブ型のKIAA1157発現用ベクター1μgをリポフェクタミンにより遺伝子導入した。48時間後に細胞を収穫し、T溶解緩衝液(実施例4で用いたPBS溶解緩衝液の0.1% NP−40を1% TritonXと替えたもの)に溶解し、SDSサンプル緩衝液中、還元下で熱処理して7.5% SDSゲル電気泳動を行った。その後、抗CSE1L抗体でウェスタン分析を行った。
【0269】
次に、KIAA1157によりコードされる蛋白質によるCSE1Lの脱リン酸化を試験管内で直接的に検討した。
【0270】
(CSE1Lの調製)
10cmプレートで培養した293細胞に、実施例2で調製したCSE1L発現用ベクターをリポフェクタミンにより遺伝子導入し、48時間後、細胞をキナーゼ溶解緩衝液(Cell Signaling Technology社製)で溶解した。細胞溶解液を遠心処理し、得られた上清を抗HA抗体アガロースビーズと4℃で一晩反応させた。次いで、該アガロースビーズをキナーゼ溶解緩衝液で3回洗浄し、ビーズ上に吸着したHAタグ付加CSE1Lを直接実験に使用した。
【0271】
(ドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質の調製)
実施例2に記載した方法で、QuikChange XL Site−Directed Mutagenesis Kitを用いてKIAA1157に変異を導入した。得られた遺伝子の配列を解析して所望の変異が導入されていることを確認した。その後、変異が導入された遺伝子を含むpCR4Blunt−TOPOベクターから野生型の場合と同様にしてBamHI−HindIII断片を取り出しpMAL−c2Xに組み込んだ。このベクターを用い、野生型の場合と同様にして、ドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質を大腸菌培養により調製した。実施例2に記載した方法でpNPPを基質として脱リン酸化活性をアッセイした場合、該変異導入蛋白質は活性をもたないことを確認した(データは示さず)。
【0272】
上記のCSE1Lが吸着したビーズと5μgの野生型またはドミナントネガティブ型のKIAA1157によりコードされる蛋白質とを、15mM KCl、1.5mM DTTおよび15mM Mg2+含有30mMトリス塩酸(pH8)中37℃で適宜振盪しながらインキュベーションした。1時間後、ビーズを遠心処理して上清を除去し、さらに150mM NaCl含有20mMトリス塩酸(pH8)で洗浄した後、10% 2−MEを含むSDSサンプル緩衝液中で熱処理することによりCSE1Lを溶出した。次に、溶出液を7.5% SDS電気泳動に供し、CBB染色によりCSE1Lの移動度変化を観察した。
【0273】
<結果>
図5−Aに示したように、野生型KIAA1157によりコードされる蛋白質を細胞内に発現させると、内在性CSE1Lのゲル上での移動度が上昇した。一方、ドミナントネガティブ型KIAA1157を発現させても内在性CSE1Lのゲル上での移動度に変化が認められなかった。
【0274】
一般的に、蛋白質を脱リン酸化した場合、SDS−PAGEゲル上での移動度は上昇する。したがって、この結果は、KIAA1157によりコードされる蛋白質が細胞内でCSE1Lを脱リン酸化することを支持するものである。
【0275】
さらに、図5−Bに示したように、野生型KIAA1157によりコードされる蛋白質により試験管内で処理したCSE1Lは、ドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質で処理したCSE1L、あるいは対照(無処理)のCSE1Lと比較して、SDS−PAGEにおける移動度が増加し、かつCBB染色の強度が増強した。
【0276】
移動度の増加は細胞内での反応同様、CSE1Lの脱リン酸化を支持するものである。また、CBBは陰性色素であり、蛋白質の陽性部分、すなわちアルギニンやリジン基と結合することが知られている(タル(Tal,M.)ら、「ザ ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、1985年、第260巻、p.9976−9980)。逆に、蛋白質中にリン酸のような強陰性の部分があると反発によりCBBの蛋白質への結合が減弱すると考えられる。すなわち、野生型KIAA1157によりコードされる蛋白質で処理したCSE1LのCBB染色の強度が増したのは、脱リン酸化によりCSE1Lの陰性度が減じたことにより、陰性化合物CBBが結合し易くなったことに起因すると考えられる。本結果は、KIAA1157によりコードされる蛋白質が試験管内でCSE1Lを脱リン酸化することを支持するものである。
【0277】
上記結果から、KIAA1157によりコードされる蛋白質は、細胞内および試験管内のどちらにおいてもCSE1Lを基質として認識し、その脱リン酸化を触媒することが明らかになった。
【実施例6】
【0278】
(KIAA1157によりコードされる蛋白質の細胞死に対する効果)
KIAA1157によりコードされる蛋白質が、CSE1Lに結合することおよびCSE1Lを脱リン酸化することが明らかになった(実施例4および5参照)。
【0279】
CSE1Lはアポトーシスに必須の蛋白質であるが、通常は細胞質に存在し、脱リン酸化により核内へ移行しその機能を発揮すると考えられている(非特許文献3)。もしKIAA1157によりコードされる蛋白質が実際にCSE1Lの細胞内機能を制御しているなら、野生型KIAA1157の大量発現によるアポトーシス促進、あるいはドミナントネガティブ型KIAA1157の大量発現によるアポトーシス抑制がみられるはずである。そこで、2種類の制癌剤によりアポトーシスを誘起した条件下で、KIAA1157によりコードされる蛋白質を発現させ、該蛋白質のアポトーシスに対する効果を検討した。
【0280】
<材料と方法>
6cmプレート中のHeLa細胞に、2μgの空ベクター、あるいは野生型もしくはドミナントネガティブ型のKIAA1157によりコードされる蛋白質発現用ベクターと、0.5μgの対照用ベクター(pcDNA3.1/myc−His/LacZ、インビトロジェン)とをリポフェクタミンにより遺伝子導入し、次の日、細胞数4×10/ウェルで12ウェルプレートに撒きなおした(3連または4連)。24時間後、薬剤を加えてさらに24時間培養した後、細胞をPBSで2回洗浄して浮遊細胞(死細胞)を除去し、残存細胞(生細胞)中の ガラクトシダーゼ活性を ガラクトシダーゼエンザイムアッセイシステム(プロメガ社製)により測定した。細胞生存率は、薬剤処理細胞のガラクトシダーゼ活性を対照(薬剤無処理)細胞のガラクトシダーゼ活性で除した値で表した。アポトーシスを誘起する薬剤として、スタウロスポリンおよびタキソールを用いた。
【0281】
<結果と考察>
図6−Aに示したように、空ベクターあるいは野生型KIAA1157発現用ベクターを導入した細胞に比し、ドミナントネガティブ型KIAA1157発現用ベクターを導入した細胞はスタウロスポリンに対して抵抗性を示し、その生存率は増加した。同様に、タキソールで細胞死を誘導した場合にも、ドミナントネガティブ型KIAA1157発現用ベクターを導入した細胞は、空ベクターあるいは野生型KIAA1157発現用ベクターを導入した細胞に比し、高い生存率を示した(図6−B)。
【0282】
CSE1Lは脱リン酸化により核内に移行し、その機能(例えば細胞死誘導)を発揮することが知られている。上記のように、癌細胞におけるドミナントネガティブ型KIAA1157の発現により、該細胞をスタウロスポリンおよびタキソールのいずれの制癌剤で処理した場合でも、該制癌剤による細胞死の減弱が認められた。スタウロスポリンおよびタキソールは作用機序が異なる制癌剤であることから、両制癌剤による細胞死の減弱は、薬剤特異的な作用ではなく、ドミナントネガティブ型KIAA1157の発現による細胞周期の遅滞に起因すると考えられる。
【0283】
これら結果からKIAA1157は脱リン酸化を介してCSE1Lの機能調節を行っていることが強く示唆された。
【実施例7】
【0284】
(KIAA1157に特異的なsiRNAによる細胞増殖阻害効果)
KIAA1157によりコードされる蛋白質の細胞増殖への関与を、KIAA1157の発現を阻害するKIAA1157特異的siRNAを用いて検討した。
【0285】
<材料と方法>
KIAA1157特異的siRNAは、配列表の配列番号17に記載の塩基配列で表されるRNAおよび配列表の配列番号18に記載の塩基配列で表されるRNAからなる二本鎖RNAである(キアゲン社により作製)。対照siRNAとして、non−silencing siRNA(キアゲン社製)を用いた。
【0286】
HCT116細胞を1ウエルあたり細胞数3×10になるように12ウェルプレートに播種した。24時間後、120pmolのsiRNAをリポフェクタミン2000(インビトロジェン社製)を用いて遺伝子導入した。24時間後に細胞を収穫し、細胞数5000/wellで96ウェルプレートに再播種した(10連)。また、全RNA回収用として1/2倍希釈した細胞を12ウェルプレートに再播種した。再播種より24時間後、細胞増殖ELISA、BrdU発色キット(ロシュダイアグノティックス社製)を用いて96穴プレート中の細胞増殖活性を測定した。一方、12穴プレート中の細胞よりRNeasy 96 kit(QIAGEN社製)を用いて全RNAを回収した。得られた全RNAを鋳型とし、配列表の配列番号19に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドおよび配列表の配列番号20に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、QuantiTect SYBR Green RT−PCR kit(QIAGEN社)を用いてRT−PCRを行い、各条件で処理した細胞におけるKIAA1157の発現を定量した。RT−PCRは次の条件で実施した:50℃ 30分処理後、95℃ 15分処理し、94℃ 20秒、58℃ 20秒、および72℃ 30秒からなる工程を40回行った。
【0287】
<結果と考察>
図7に示したように、KIAA1157特異的siRNAにより細胞数は約10%減少した。KIAA1157特異的siRNAを導入した細胞におけるKIAA1157発現量は、対照siRNAを導入した細胞におけるKIAA1157発現量の11.8%にまで抑制されていた。
【0288】
これら結果から、KIAA1157の発現を抑制することにより細胞増殖が抑制されることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0289】
【図1】KIAA1157の発現パターンをマイクロアレイによる組織別遺伝子発現データベース、バイオエクスプレスを用いて解析した結果を示す図である。左パネルおよび右パネルはそれぞれ、大腸組織(図中、colonと表示)および前立腺組織(図中、prostateと表示)におけるKIAA1157の発現パターンを示す。図中、normalは正常組織、adenomaは腺腫、carcinomaは悪性腫瘍、benighは良性腫瘍を意味する。括弧内の数字はサンプル数、各ドットはアレイでの強度(すなわち、発現強度(Expression Intensity))を、各バーはその平均値を示す。(実施例1)
【図2】大腸癌細胞(レーン1:HCT116;レーン2:SW620)および前立腺癌細胞(レーン4:LNCaP;レーン5:PC3)におけるKIAA1157の発現量が、それぞれ正常大腸細胞(レーン3:CCD841CoN)および正常前立腺組織(レーン6)と比較して高かったことを示す図である。上側のパネルにKIAA1157の発現量、下側のパネルに対照であるグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素遺伝子(G3PDH)の発現量を示す。(実施例2)
【図3−A】KIAA1157によりコードされる蛋白質とMBPとの融合蛋白質(図中、enzymeと表示する)が、低分子基質pNPPに対してMn2+依存的に脱リン酸化酵素活性(Phosphatase activity)を示したことを説明する図である。(実施例3)
【図3−B】KIAA1157によりコードされる蛋白質とMBPとの融合蛋白質(図中、MBP−KIAA1157 fusionと表示する)が示す、低分子基質pNPPに対するMn2+依存的な脱リン酸化酵素活性(Phosphatase activity)が、オカダ酸(Okadaic acid)の影響を受けなかったことを説明する図である。図中、No enzymeは、本融合蛋白質を使用せずに脱リン酸化反応を行った結果を示す。(実施例3)
【図3−C】KIAA1157によりコードされる蛋白質とMBPとの融合蛋白質(図中、enzymeと表示する)が、蛋白質基質カゼイン(casein)に対してMg2+依存的に脱リン酸化酵素活性を示し、その結果、カゼインから遊離されたリン酸(Released phosphate)量が著しく増加したことを説明する図である。(実施例3)
【図3−D】KIAA1157によりコードされる蛋白質とMBPとの融合蛋白質(図中、enzymeと表示する)が、リン酸化ペプチドPRA−pT−VAおよびPRP−pT−VAに対して金属イオン依存的に脱リン酸化酵素活性を示し、その結果、該リン酸化ペプチドから遊離されたリン酸(Released phosphate)量が著しく増加したことを説明する図である。(実施例3)
【図4−A】KIAA1157によりコードされる蛋白質が哺乳類細胞内で相互作用する蛋白質として、CSE1Lが同定されたことを示す図である。図中、Markerは分子量マーカー、Emptyは空ベクター導入細胞由来免疫沈降物、KIAA1157はKIAA1157導入細胞由来免疫沈降物を表す。また、KIAA1157(degraded)は分解されたKIAA1157を、IgG HCはIgG重鎖を、IgG LCはIgG軽鎖を表す。(実施例4)
【図4−B】KIAA1157によりコードされる蛋白質(FLAG−tag付加)およびドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質(FLAG−tag付加)をそれぞれ発現させた細胞において、該蛋白質による免疫沈降により、内在性CSE1Lが共沈殿したことを示す図である。図中、Emptyは空ベクター、Wild typeは野生型KIAA1157、D437Aはドミナントネガティブ型KIAA1157、の導入を表す。左側のパネルおよび右側のパネルはそれぞれ、抗FLAG抗体による免疫沈降物(IP)および細胞溶解物(Lysate)についての解析結果を示す。上段のパネルおよび下段のパネルはそれぞれ、抗CSE1L抗体を用いたウェスタン分析でCSE1Lを検出した結果および抗FLAG抗体を用いたウェスタン分析でKIAA1157によりコードされる蛋白質を検出した結果を示す。(実施例4)
【図4−C】KIAA1157によりコードされる蛋白質(FLAG−tag付加)とCSE1L(HA−tag付加)とを発現させた細胞において、CSE1Lの免疫沈降により、KIAA1157によりコードされる蛋白質が共沈殿したことを示す図である。emptyは空ベクター、KIAA1157はKIAA1157、CSE1LはCSE1L遺伝子、の導入を表す。解析は、細胞溶解物(Lysate)および抗HA抗体による免疫沈降物(IP)について行った。上パネルおよび下パネルはそれぞれ、抗FLAG抗体を用いたウェスタン分析でKIAA1157によりコードされる蛋白質を検出した結果および抗HA抗体を用いたウェスタン分析でCSE1Lを検出した結果を示す。(実施例4)
【図5−A】KIAA1157を発現させた細胞(図中、Wild typeと表示する)の溶解物中の内在性CSE1Lの電気泳動における移動度が、空ベクターを導入した細胞(図中、Controlと表示する)またはドミナントネガティブ型KIAA1157を発現させた細胞(図中、D437Aと表示する)のものと比して、遅くなったことを示す図である。この結果は、KIAA1157の発現によりCSE1Lが細胞内で脱リン酸化されたことを示す。上パネルおよび下パネルはそれぞれ、抗CSE1L抗体(図中、α−CSE1Lと表示する)を用いたウェスタン分析でCSE1Lを検出した結果および抗FLAG(図中、α−FLAGと表示する。FLAGはKIAA1157またはドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質に付加したタグ)抗体を用いたウェスタン分析でKIAA1157またはドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質を検出した結果を示す。(実施例5)
【図5−B】KIAA1157によりコードされる蛋白質(図中、Wild typeと表示する)で試験管内において処理したCSE1Lの電気泳動における移動度が、無処理(図中、Controlと表示する)のCSE1Lまたはドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質で処理した(図中、D437Aと表示する)CSE1Lのものと比して、大きくなったことを示す図である。また、KIAA1157によりコードされる蛋白質で試験管内において処理したCSE1LのCBB染色強度が、無処理のCSE1Lまたはドミナントネガティブ型KIAA1157によりコードされる蛋白質で処理したCSE1Lのものと比して、増強された。これらの結果は、KIAA1157によりCSE1Lが試験管内において脱リン酸化されたことを示す。上パネルおよび下パネルはそれぞれ、CSE1Lに相当するCBB染色バンドおよびIgG重鎖(図中、IgG HCと表示する)に相当するCBB染色バンドを示す。(実施例5)
【図6−A】空ベクター(Empty)あるいは野生型KIAA1157発現用ベクター(WT)を導入した細胞に比し、ドミナントネガティブ型KIAA1157発現用ベクター(DN)を導入した細胞は、スタウロスポリン(staurosporin)に対して抵抗性を示し、その生存率(Survival rate)が増加したことを示す図である。(実施例6)
【図6−B】空ベクター(Empty)あるいは野生型KIAA1157発現用ベクター(WT)を導入した細胞に比し、ドミナントネガティブ型KIAA1157発現用ベクター(DN)を導入した細胞は、タキソール(taxol)に対して抵抗性を示し、その生存率(Survival rate)が増加したことを示す図である。(実施例6)
【図7】KIAA1157特異的siRNAによりKIAA1157の発現を阻害した結果、細胞増殖(Proliferation)が抑制されたことを示す図である。図中、Controlはnon−silencing siRNA、KIAA1157はKIAA1157特異的siRNA、の導入を表す。図中、細胞増殖は、相対的細胞数(Relative cell number)で表した(実施例7)
【配列表フリーテキスト】
【0290】
配列番号1:KIAA1157遺伝子。
配列番号1:(283)..(675):PP2C触媒部位をコードする領域。
配列番号2:KIAA1157遺伝子によりコードされる蛋白質。
配列番号2:(95)..(225):PP2C触媒部位。
配列番号3:KIAA1157の塩基配列に基づいて、RT−PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号4:KIAA1157の塩基配列に基づいて、RT−PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号5:G3PDHの塩基配列に基づいて、RT−PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号6:G3PDHの塩基配列に基づいて、RT−PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号7:KIAA1157の塩基配列に基づいて、PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号8:KIAA1157の塩基配列に基づいて、PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号9:KIAA1157の塩基配列に基づいて、哺乳類細胞発現用ベクター構築のためのPCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号10:KIAA1157の塩基配列に基づいて、哺乳類細胞発現用ベクター構築のためのPCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号11:ドミナントネガティブ型KIAA1157蛋白質をコードするKIAA57変異体を作製するためのプライマー用に、KIAA1157の塩基配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号12:ドミナントネガティブ型KIAA1157蛋白質をコードするKIAA57変異体を作製するためのプライマー用に、KIAA1157の塩基配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号13:ドミナントネガティブ型KIAA1157蛋白質をコードするKIAA57変異体を作製するためのプライマー用に、KIAA1157の塩基配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号14:ドミナントネガティブ型KIAA1157蛋白質をコードするKIAA57変異体を作製するためのプライマー用に、KIAA1157の塩基配列に基づいて設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号15:CSE1Lの塩基配列に基づいて、PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号16:CSE1Lの塩基配列に基づいて、PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号17:KIAA1157特異的siRNAを作製するために設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号18:KIAA1157特異的siRNAを作製するために設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号19:KIAA1157の塩基配列に基づいて、RT−PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号20:KIAA1157の塩基配列に基づいて、RT−PCRプライマー用に設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号21:第4番目のスレオニンがリン酸化されているリン酸化ペプチド。
配列番号21:(4)..(4)リン酸化。
配列番号22:第4番目のスレオニンがリン酸化されているリン酸化ペプチド。
配列番号22:(4)..(4)リン酸化。
配列番号23:配列番号24に記載のアミノ酸配列をコードするCSE1L遺伝子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項2】
蛋白質の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である請求項1に記載の細胞増殖阻害方法:
(1)該蛋白質とCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)の結合、および
(2)該蛋白質の脱リン酸化活性。
【請求項3】
蛋白質の脱リン酸化活性が、CSE1Lに対する脱リン酸化活性である請求項2に記載の細胞増殖阻害方法。
【請求項4】
細胞が腫瘍細胞である請求項1に記載の細胞増殖阻害方法。
【請求項5】
下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉により該DNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害する請求項1に記載の細胞増殖阻害方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項6】
下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉が該DNAに対する短鎖二重鎖RNAを用いて行うRNA干渉である請求項5に記載の細胞増殖阻害方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項7】
短鎖二重鎖RNAが、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAである請求項6に記載の細胞増殖阻害方法。
【請求項8】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の機能を、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列で表される蛋白質を用いて阻害する請求項1に記載の細胞増殖阻害方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項9】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とする細胞増殖阻害剤:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項10】
蛋白質の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である請求項9に記載の細胞増殖阻害剤:
(1)該蛋白質とCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)の結合、および
(2)該蛋白質の脱リン酸化活性。
【請求項11】
蛋白質の脱リン酸化活性が、CSE1Lに対する脱リン酸化活性である請求項10に記載の細胞増殖阻害剤。
【請求項12】
細胞が腫瘍細胞である請求項9に記載の細胞増殖阻害剤。
【請求項13】
下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAを有効成分として含む請求項9に記載の細胞増殖阻害剤:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項14】
短鎖二重鎖RNAが、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAである請求項13に記載の細胞増殖阻害剤。
【請求項15】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなる細胞増殖阻害剤。
【請求項16】
配列表の配列番号17に記載の塩基配列または該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと、配列表の配列番号18に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNA。
【請求項18】
請求項1から8のいずれか1項に記載の細胞増殖阻害方法を用いることを特徴とする腫瘍疾患の防止および/または治療方法。
【請求項19】
請求項9から15のいずれか1項に記載の細胞増殖阻害剤を用いることを特徴とする腫瘍疾患の防止および/または治療方法。
【請求項20】
請求項9から15のいずれか1項に記載の細胞増殖阻害剤を含んでなる腫瘍疾患の防止および/または治療剤。
【請求項21】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質を用いることを特徴とするCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)の脱リン酸化方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項22】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とするCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)の脱リン酸化阻害方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項23】
下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉により該DNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害する請求項22に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項24】
下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉が該DNAに対する短鎖二重鎖RNAを用いて行うRNA干渉である請求項23に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項25】
短鎖二重鎖RNAが、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAである請求項24に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害方法。
【請求項26】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の機能を、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列で表される蛋白質を用いて阻害する請求項1に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項27】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質の発現および/または機能を阻害することを特徴とするCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)の脱リン酸化阻害剤:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項28】
蛋白質の機能が、下記の群から選択される1つ以上の機能である請求項27に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害剤:
(1)該蛋白質とCSE1Lの結合、および
(2)該蛋白質の脱リン酸化活性。
【請求項29】
蛋白質の脱リン酸化活性が、CSE1Lに対する脱リン酸化活性である請求項28に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害剤。
【請求項30】
下記の群より選ばれるDNAに対するRNA干渉作用を有する短鎖二重鎖RNAを有効成分として含む請求項27に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害剤:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項31】
短鎖二重鎖RNAが、配列表の配列番号17に記載の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと該塩基配列の相補的塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドとからなる短鎖二重鎖RNAである請求項30に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害剤。
【請求項32】
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質(配列番号2)のアミノ酸配列において第437番目のアスパラギン酸がアラニンに置換されたアミノ酸配列で表される蛋白質を含んでなる請求項27に記載のCSE1Lの脱リン酸化阻害剤。
【請求項33】
細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法であって、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質とある化合物(被検化合物)とを接触させ、該蛋白質の脱リン酸化活性を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物が該蛋白質の脱リン酸化活性を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項34】
蛋白質の脱リン酸化活性を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系が、該蛋白質による下記の群より選ばれるいずれか1の化合物の脱リン酸化を検出し得るシグナルおよび/またはマーカーを使用する系である請求項33に記載の同定方法:
(1)p−ニトロフェニルリン酸
(2)CSE1L(chromosome segregation gene 1−like)、
(3)カゼイン
(4)リン酸化ペプチドRRA−pT−VA(配列表の配列番号21)
(5)リン酸化ペプチドRRP−pT−VA(配列表の配列番号22)
【請求項35】
蛋白質の脱リン酸化活性を阻害することが明らかになった被検化合物が、細胞増殖を阻害する否かを測定する工程をさらに含む、請求項33に記載の同定方法。
【請求項36】
細胞増殖を阻害する活性を有する化合物の同定方法であって、下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質とある化合物(被検化合物)とを接触させ、該蛋白質とCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)との結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物が該蛋白質とCSE1Lとの結合を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項37】
蛋白質とCSE1Lとの結合を阻害することが明らかになった被検化合物が、細胞増殖を阻害する否かを測定する工程をさらに含む、請求項36に記載の同定方法。
【請求項38】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質によるCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)の脱リン酸化を阻害する活性を有する化合物の同定方法であって、該蛋白質および/またはCSE1Lとある化合物(被検化合物)とを接触させ、該蛋白質によるCSE1Lの脱リン酸化を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物が該蛋白質によるCSE1Lの脱リン酸化を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項39】
下記の群より選ばれるDNAによりコードされる蛋白質とCSE1L(chromosome segregation gene 1−like)の結合を阻害する活性を有する化合物の同定方法であって、該蛋白質および/またはCSE1Lとある化合物(被検化合物)とを接触させ、該蛋白質とCSE1Lの結合を検出するシグナルおよび/またはマーカーを使用する系を用い、このシグナルおよび/またはマーカーの存在または不存在または変化を検出することにより、被検化合物が該蛋白質とCSE1Lの結合を阻害するか否かを決定する工程を含む同定方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項40】
被験組織が腫瘍組織由来であるか否かを判定する方法であって、下記の群より選ばれるDNAの被験組織における発現量を測定することを特徴とする判定方法:
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、
(2)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、
(3)上記(1)または(2)のDNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および
(4)上記(1)から(3)のいずれかのDNAを含むDNA。
【請求項41】
被験組織が大腸腫瘍由来であるか否かを判定する請求項40に記載の判定方法。
【請求項42】
被験組織が前立腺腫瘍組織由来であるか否かを判定する請求項40に記載の判定方法。
【請求項43】
下記工程を含む請求項40に記載の判定方法:
(1)被験組織から核酸を調製する工程、
(2)前記(1)で調製した核酸から、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、(ii)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および(iii)上記DNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNAより選ばれるいずれか1のDNAおよび/またはそのDNA断片を増幅する工程、および
(3)前記(2)で増幅したDNAおよび/またはDNA断片の量を測定する工程。
【請求項44】
PCRが、配列表の配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドおよび配列表の配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドの組み合わせをプライマーとして用いるPCRである、請求項43に記載の判定方法。
【請求項45】
配列表の配列番号3および配列番号4からなる群より選ばれるいずれか1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド。
【請求項46】
請求項45に記載のオリゴヌクレオチドを含有してなる試薬キット。
【請求項47】
腫瘍組織判定用試薬キットである請求項46に記載の試薬キット。
【請求項48】
下記A群より選ばれるいずれか1と、下記B群より選ばれるいずれか1とを有してなる試薬キット:
ここで、A群は、
(1)次の群より選ばれるDNA:(i)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA、(ii)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上の相同性を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、(iii)上記DNAの塩基配列において1ないし数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加などの変異あるいは誘発変異を有し、且つ脱リン酸化活性を示す蛋白質をコードするDNA、および(iv)上記(i)から(iii)のいずれかのDNAを含むDNA、
(2)該DNAによりコードされる蛋白質、
(3)該DNAを含有する組み換えベクター、および
(4)該組み換えベクターを含有する形質転換体、からなり、
B群は、
CSE1L(chromosome segregation gene 1−like)をコードするDNA、CSE1L、該DNAを含有する組み換えベクター、および該組み換えベクターを含有する形質転換体からなる。

【図1】
image rotate

【図3−A】
image rotate

【図3−B】
image rotate

【図3−C】
image rotate

【図3−D】
image rotate

【図6−A】
image rotate

【図6−B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4−A】
image rotate

【図4−B】
image rotate

【図4−C】
image rotate

【図5−A】
image rotate

【図5−B】
image rotate


【公開番号】特開2007−282513(P2007−282513A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110045(P2006−110045)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】