説明

脱気殺菌装置

【課題】 薬注処理は勿論、中空糸膜などの濾過膜やイオン交換膜を使用することなく効果的に高度の脱気と滅菌とを可能とする簡易水処理装置としての脱気殺菌装置を提供する。
【解決手段】 超音波エネルギーの付与による被処理水の低温沸騰を伴う真空脱気装置と、該真空脱気装置によって脱気された脱気水を加圧して減圧容器内で断熱膨張させる循環脱気装置とを備えた脱気殺菌装置。超音波低温沸騰による真空脱気に加えて複数回の循環脱気による高度の脱気を行い、循環脱気系内での複数回の高圧への加圧と瞬間断熱膨張により脱気水中の微生物の細胞を破壊して高度の殺菌処理も果たす。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水中に溶存する揮発性気体成分を高度に脱気し且つ水中の微生物を高度に滅菌するための脱気殺菌装置に関するものであり、例えば給水配管の腐食防止をはじめ、食中毒を誘発する細菌類の殺菌、給食産業における食品腐敗の防止、酒造におけるむれ香の防止、機関および機械の冷却系の腐食防止、半導体ウエハおよび半導体装置製造における洗浄水汚染の防止、各種処理水の無薬注化など、種々の用途に有用な水の脱気殺菌装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】イオン交換樹脂筒に水を通すことにより炭酸塩硬度を下げて軟水化することは例えばボイラ給水設備などでよく知られている。この場合、溶存酸化物が存在するとイオン交換樹脂が酸化によって劣化するので、通水に際して水中に酸化物が存在する恐れがある場合にはイオン交換樹脂に通水する前に水に脱スケールおよび腐食防止などの目的で前処理を施すことが常識的に行なわれている。
【0003】最も一般的なこの種の前処理は、溶存酸素除去用の毒性の強いヒドラジンなどの脱酸剤とpHを高めるための清缶剤とを配合した薬品を水に投入する薬注方式である。また、薬注によらない方式として、水中に溶存している酸素・炭酸ガス・遊離塩素などを高真空度の容器内で脱気する真空脱気方式も知られており、バッチ処理方式だけでなく、大量処理のためにエジェクターとサイクロンを組み合わせた多段連続真空脱気方式も知られている。
【0004】この他、中空糸膜脱気方式や超音波振動脱気方式も知られており、更には例えば特公平2−11319号、特公平2−12640号あるいは特公平6−38959号公報に開示されているように、静電場または振動電場を与えるタンク中で水中のミネラル成分をイオン解離させて浮遊スケールとして析出除去する際にタンク内を減圧して脱気することも知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】薬注方式は、脱酸剤の毒性の問題から病院や食品工場での採用には適さないことは勿論、イオン交換樹脂筒の上流で薬注を行なうとその分だけ水中の不純物が増加し、イオン交換樹脂にとっては負荷の増加となるばかりでなく、自然と薬注量が増加する傾向があり、適正な薬品投入量の監視には管理面で困難を伴うことや、薬品使用量がかさむなどの諸問題があるので、薬剤使用に付加価値が見込まれる厳正に管理された工場などでの用途以外には一般的ではない。
【0006】真空脱気方式は衛生面からは問題ない方式であるが、生活給水の水処理やビル建物等での赤水対策としては真空度の管理に難点があり、例えば、水中の溶存酸素は大気圧と水温又は気温などが季節によって大きく変化するため、常に一定の脱気圧性能を維持させるには、真空圧力の調整だけでは管理ができない。このため、真空脱気方式は未だ広く普及するには至っていないが、比較的容易に扱えるのはバッチ処理方式の真空脱気装置である。しかしながら、バッチ処理方式の真空脱気装置は、処理が非連続であるので処理量が限られ、多量の水を処理する必要がある場合には大規模な設備としなければならず、設備維持費用が多額となるので一般的ではない。
【0007】一方、例えば食品工場などのように連続多量処理が要求される場合には、運転操作および保守に専門的な煩雑さが要求されるエジェクターとサイクロンを組み合わせた多段連続真空脱気方式が採用され、時間当たりの処理量も充分な設備が実用化されているが、設置面積が大きく、設備費用及び維持費用が大きいので、処理による付加価値が見込める産業用途向きであり、一般の共同住宅やオフィスビルなどにおける水処理設備の脱気装置としては管理面も含めて経済的に引き合わず、採用は現実的ではない。
【0008】また中空糸膜脱気法をイオン交換樹脂筒の上流で実行する方式も知られているが、この場合は、水中の金属イオンが中空糸膜の表面で酸化され、この酸化物が膜に付着して脱気通路の閉塞により機能不全に陥り、膜の頻繁な交換を余儀なくされる結果、付加価値の高い用途以外ではランニングコストが嵩んで経済的に引き合わないという欠点がある。
【0009】また、中空糸膜をイオン交換樹脂の下流で使用することも単に溶存酸素の除去には効果があるが、1パス処理における脱気後の溶存気体濃度は平均値でたかだか0.9〜0.6ppm程度までであり、これを例えば0.1ppm以下の極低濃度まで下げるには複数の装置を直列に組み合わせる必要があり、設備コストおよび保守コストが膨大となる欠点がある。
【0010】更に処理水に超音波振動を付与することによって脱気を促進すると或る程度の殺菌も行われることが知られているが、この原理は振動エネルギーが水の圧力や温度を上昇させて細菌を破壊することに基づいており、マイクロ波に比べて超音波は波動エネルギーレベルが低いため、発生する熱エネルギーによって充分な殺菌効果は得られない。
【0011】近年、脱気・脱スケールと共に水中の各種微生物の滅菌又は殺菌、特にサルモネラ菌や毒性大腸菌および腸炎ビブリオ菌などの食中毒原因細菌の殺菌をも可能とする水処理設備が地下水を多く利用している食品産業や精密電子部品産業をはじめ観光業界および学校給食などからも強く要望されているが、比較的構成及び操作が簡略で経費および環境対策のいずれもクリヤーできるものは未だ知られていない。
【0012】尚、真空脱気処理に併用して処理水を加熱沸騰することにより、水中のトリハロメタンやトリクロロエチレン等の塩化物による発癌性物質またはO−157をはじめとする有害菌を同時に除去することも知られているが、給湯系での煮沸は可能であっても、冷水を供給する給水系では煮沸・冷却のエネルギー消費を考えると現実性に乏しい。
【0013】従って本発明の課題は、薬注処理は勿論、中空糸膜などの濾過膜やイオン交換膜を使用することなく効果的に高度の脱気と滅菌とを可能とする簡易水処理装置としての脱気殺菌装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するため、本発明による脱気殺菌装置は、超音波エネルギーの付与による被処理水の低温沸騰を伴う真空脱気装置と、該真空脱気装置によって脱気された脱気水を加圧して減圧容器内で断熱膨張させる循環脱気装置とを備えたことを特徴としている。
【0015】本発明の好ましい一つの態様によれば、前記真空脱気装置は、真空ポンプで減圧された円筒状の脱気室と、該脱気室内に同軸状に配置され、給水口から導入されて内部を満たした水に減圧低温沸騰と空洞化現象を与えて前記脱気室に溢流させる導水筒と、導水筒の内部の水に空洞化現象誘発のための超音波を照射する超音波振動子と、脱気室内を下部で連通する内周室と外周室に仕切る仕切筒とを備え、前記外周室にはその内部に貯留された脱気水を前記循環脱気装置へ送り込む導水手段、例えば溢流口が設けられている。
【0016】本発明の更に好ましい一つの態様によれば、前記循環脱気装置は、前記脱気室の外周を包囲して前記導水手段を介して脱気室から脱気水の導入を受ける円筒状の循環脱気タンクと、該循環脱気タンク内に貯えられた脱気水を加圧送水する循環ポンプと、循環ポンプで加圧された脱気水を前記循環脱気タンク内の壁面に噴射衝突させて瞬間断熱膨張させる噴射ノズル装置とを備え、前記循環脱気タンク内は好ましくは真空脱気装置の脱気室と共通の真空ポンプによって減圧されている。
【0017】本発明の更に好ましい一つの態様では、前記循環脱気タンクの周囲を囲む円筒状の保水タンクと、前記循環ポンプの吐出ラインを前記噴射ノズル装置と前記保水タンクとに切り換える例えば電磁弁などの弁手段とを更に備え、前記保水タンクは処理水取出系に接続され、また該保水タンク内は好ましくは真空脱気装置の脱気室と共通の真空ポンプによって減圧されている。
【0018】本発明による脱気殺菌装置では、例えば或る必要な量の給水を受けたときに給水と外部への送水を停止し、循環ポンプを予め設定した流量で運転して複数回分の循環脱気を例えばタイマーなどの時限装置で管理し、所定回数の循環脱気を終えたときにこの時限装置によって循環ポンプの吐出ラインを噴射ノズル装置から保水タンクへ切り換えるようにする。これにより、複数回の循環脱気による高度の脱気が果たされると同時に、循環脱気系内での複数回の高圧への加圧と瞬間断熱膨張による脱気水中の微生物の細胞破壊で高度の殺菌が果たされ、前段の超音波低温沸騰による真空脱気と併せて消耗保守部品を殆ど必要としない脱気殺菌装置を提供することができる。
【0019】本発明の脱気殺菌装置では、先ず真空脱気装置において減圧された脱気室内で導水筒内の水に減圧低温沸騰と超音波による空洞化現象を誘発させ、水中の溶存気体を水と共に気泡として脱気室に開放し、脱気室から真空ポンプで吸引捕集して脱気するので、脱気のための減圧を水の導入に利用できるほか、処理水を煮沸させるための加熱エネルギーは不要である。
【0020】冬季のように導水筒内の水温が低いときは水の粘性が大きくなり、低温の水中で発生した気泡と水は強い粘性力をもつので、速やかに且つ容易に脱気することが困難になりがちであるが、本発明では、真空脱気装置は超音波振動子によって導水筒の水に空洞化現象を誘発するための超音波振動エネルギーを照射し、給水管から導水筒内に導入された水にキャビテーションを生起せしめている。
【0021】従って水が真空圧のみにより減圧沸騰を起こす場合よりも減圧の程度が少なくても、超音波振動エネルギーによるキャビテーション現象で水に空洞化現象が誘発され、この空洞に水中の溶存気体が気泡となって捕捉され、それが上昇流に随伴して減圧下の脱気室内に放出されることによって気体として脱気室に放散されるので、脱気室に接続された真空ポンプから効果的に脱気することができる。もちろん、脱気室の減圧を充分低圧にし、それ自体で導水筒内の水に減圧沸騰を起こす場合にも超音波の照射を併用することは効果的である。
【0022】一般に超音波によるキャビテーションは、音圧が大気圧を超えたときに発生する。そこで、超音波の音圧を(p)、処理対象の水の密度を(ρ)、粒子の振動速度を(u)、波の伝播速度を(c)とすれば、p=ρcuである。また、音波の強度、すなわちパワー密度(I)は、I=ρcuである。
【0023】処理対象の水の密度は水中の揮発性成分や有機物などの不純物含有量で大きく影響を受けることから、本発明では導水筒の好ましくは底面に複数の超音波振動子を取り付け、振動子の稼動数と駆動電源の電圧電流制御によって超音波の強度を制御し、真空度が脱気室内の水の飽和水蒸気圧に達する前に導水筒内の水柱にキャビテーションを発生させて水中の溶存気体を効率的に気泡化し、この気泡を渦巻ポンプによる上昇回転渦流に巻き込んでその軸心部に収束させながら導水筒上端から半径方向に向けて脱気室内に放水飛散させ、この飛散によって水中に含まれる微細な気泡を脱気室における真空脱気で除去するものであり、従って、このような脱気によって酸化力の極めて弱い脱気水としたうえで例えばイオン交換樹脂筒に送り込むことにより、イオン交換樹脂の劣化を効果的に防止するようことも可能である。
【0024】この超音波振動による脱気の効果の向上は著しく、従来の一般的な受水槽における水面が大気に開放された条件下での超音波加振方式とは異なり、本発明では導水筒内の上部に連通する脱気室が減圧された条件下で行なわれるので、脱気された水に大気から平衡分圧に応じた量の気体が再び溶解してしまうことがなく、塩素臭のないほぼ純水に近い高純度の脱気水を得ることができる。
【0025】特に好ましくは、直立状態の導水筒の底部から導水筒内に満たされた水に超音波振動の定在波が与えられるように導水筒の寸法及び超音波振動の周波数を選定することにより、導水筒内を満たす水柱には超音波の定在波が形成され、水面で超音波の完全反射が起こるので最大の超音波振動エネルギーが伝達され、それによりキャビテーションが瞬時に発生し、溶存気体が盛んに気泡となって水面で破裂し、導水筒内の減圧された上部脱気空間から外部へ捕集除去され、従って脱気の効率が更に高くなる。
【0026】このようにして真空脱気装置で脱気処理された脱気水は導水筒を囲む脱気室の内周室に溢流し、また脱気で生じる気体分はその上部空間から真空ポンプで吸引捕集され、内周室内では底部の連通路を介して脱気水が外周室に流入し、そこに貯留される間に脱気水が沈静化されるので残留気泡は上昇して上部空間に放散され、同様に真空ポンプによって吸引捕集される。
【0027】外周室内の脱気水は、脱気室の最外壁に設けられた溢流口または配管系などの導水手段によって脱気室の外周を囲む循環脱気タンクに送られ、そこから更に循環ポンプに吸引されて高圧に加圧される。循環ポンプで高圧に加圧された脱気水は、既に真空脱気装置によって水中の気体分が大半除去され、更に加圧によって圧縮されているので、循環ポンプの吐出ラインにおける水中には圧縮性の気体分は殆ど存在せず、従って1気圧で生息していた微生物の細胞は水中溶存気体によるクッション効果を得ることなく細胞内は高圧水で満たされることになる。このような状態でこの高圧水は噴射ノズルに至り、該ノズルから減圧下の循環脱気タンク室内に高速高圧で噴射されて循環脱気タンク内で衝合壁面に衝突され、これによって瞬間的な断熱膨張を受けることになるので、水中の微生物の細胞も高圧状態から急激に膨張されて瞬時の破壊を余儀なくされる。
【0028】上述のように噴射ノズル装置の出口に対面するように循環脱気タンク内には噴射水に対する衝合壁面があり、この壁面は循環脱気タンク自体の内壁面を利用してもよく、或いは別体の衝合部材を配置して構成することもできる。噴射ノズルから高圧高速で噴射される水が衝合壁面に衝突すると、水に残存している極微細な気泡も断熱膨張と衝突エネルギーによって瞬時に破壊され、これにより気泡中の気体が脱気室に開放されるので減圧による気体の捕集が効果的となり、後述のように複数回の循環脱気を行うことによって例えば0.1ppm以下の極めて低い残存気体濃度までの高度の脱気が可能である。
【0029】気泡の破裂で分離した気体は循環脱気タンク内の上部空間から真空ポンプに吸引捕集され、一方、高度に脱気された水は自然落下で循環脱気タンク内に貯まるが、この場合、脱気水が下部貯水面に穏やかに導入されるように鎮静用の案内樋などを循環脱気タンク内に配置しても良い。
【0030】この循環ポンプの作動による循環脱気殺菌処理は、真空脱気装置によって例えば或る必要な量の給水分の脱気が終了した後に開始しても良い。この場合、真空脱気装置で脱気しながら必要量の給水を受けたときに給水系と外部への送水系を作動停止し、循環ポンプを予め設定した定吐出量で運転して複数回分の循環脱気を例えばタイマーなどの時限装置で管理する。例えば、循環ポンプの吸込量Qを給水口への新水の単位時間当たりの給水量Q1と循環系に流れる循環水の単位時間当たりの循環流量Q2との和に等しく設定し(即ち、Q=Q1+Q2)、新水の給水量Q1と循環流量Q2との比m(但し、m=Q2/Q1)が1より大きくなるような条件で装置を稼働させると、循環脱気タンク内に溜まった水を繰り返し脱気処理することができるので、残留溶存気体濃度が究極まで低くなった高脱気水を得ることが可能となる。
【0031】所定回数の循環脱気が終了するだけの時間が経過したときにこの時限装置によって循環ポンプの吐出ラインを噴射ノズル装置から保水タンクへ切り換えると、複数回の循環脱気によって高度に脱気され且つ循環脱気系内での複数回の高圧への加圧・瞬間断熱膨張による脱気水中の微生物の細胞破壊で高度に殺菌された処理水が保水タンクに移される。保水タンクから外部への送水は例えば水位センサーなどによる送水弁及び送水ポンプの監視制御のもとに適宜行うことができる。また、循環脱気タンク内及び保水タンク内は共に真空ポンプで減圧されており、好ましくはこれらのタンク内の減圧は脱気室内の減圧のための真空ポンプによって共通に行うのがよい。
【0032】
【発明の実施の形態】図1は本発明の好適な実施の形態を模式的に示しており、主装置は、導水筒3と円筒脱気室8を備えた真空脱気装置と、脱気室8の外側を囲む円筒循環脱気タンク19と循環ポンプ13及び噴射ノズル装置18を備えた循環脱気装置とによって構成され、これらの脱気室8、循環脱気タンク19、及び後述する円筒保水タンク20は、導水筒3を中心とする同心状の3つの主要な環状空間を内包する一体の多重円筒気密タンク4によって形成されている。
【0033】真空脱気装置は、導水筒3内の水に対する超音波エネルギーの付与によって被処理水の低温沸騰を伴う真空脱気処理を行い、循環脱気装置は該真空脱気装置によって脱気された脱気水を循環ポンプ13で高圧に加圧して減圧された循環脱気タンク19内で断熱膨張させる循環脱気処理を行う。
【0034】先ずはじめに真空脱気装置について述べると、この真空脱気装置は、真空ポンプ22で内部を減圧された円筒状の脱気室8と、該脱気室内に同軸状に縦に配置された導水筒3と、導水筒内の水に空洞化現象誘発のための超音波を照射する超音波振動子31と、脱気室8内を下部で連通する内周室8aと外周室8bに仕切る仕切筒7とを備え、外周室8bにはその内部に貯留された脱気水を前記循環脱気装置へ送り込む導水手段としての溢流口9が最外壁に設けられている。
【0035】導水筒3は、その底面よりも上方に距離をおいた位置に下部給水口を備え、給水管から止水弁23、入口電磁弁24および例えば特公平6−38959号公報に開示されているようなスケール除去用の電極筒1を介して導入される水で内部が満たされ、この内部を満たした水に減圧低温沸騰と空洞化現象を与える。この導水筒3の底部には、導水筒内の水に超音波を照射して空洞化現象を誘発するための超音波振動子31が複数配置されており、各振動子は図示しない励振制御装置により駆動されるようになっている。
【0036】導水筒3の頭部は端面が閉鎖されて周面に複数の溢流口5が開口しており、この溢流口5から間隔をあけて導水筒頭部には周囲を囲む飛沫防止用の筒状カラー6が固定されている。従って導水筒3から溢流する水は溢流口5を通過して脱気室8の内周室8aに流入し、さらにその底部の連通間隙を通過して外周室8bに流入する用になっている。
【0037】作動状態においては真空ポンプ22によって脱気室8内が高真空状態に保たれており、真空ポンプ22からの排気は大気中に放散されている。この状態で止水弁23および入口電磁弁24を開くと、図示しない受水槽から給水管を経て送られてくる水が電極筒1内で脱スケール処理された後、減圧状態下の導水筒3内に吸引される。導水筒3内に水が満たされた状態で導水筒3の底部に配置された超音波振動子31から予め定められた周波数の超音波を導水筒内の水に照射すると、導水筒3内の水にキャビテーションによる空洞化現象が誘起されて水中に溶けている気体が気泡として分離する。この気泡発生には減圧下における低温沸騰現象も寄与する。
【0038】導水筒3内の水には真空ポンプ22による負圧によって上昇流が生じており、この上昇流に気泡が巻込まれながら導水筒3の頭部の溢流口5から内周室8aに吹き出した水はさらに底部の連通間隙を通過して外周室8bに流入する。内周室8aの上部空間では、溢流口5から吹き出した際に気泡の破裂放散によって生じた気体が真空ポンプ22に吸引捕集され、同様に外周室8bの上部空間でも水中を浮上して水面で放散された気体が溢流口9を介して真空ポンプ22により吸引捕集される。
【0039】このようにして脱気された水は高真空状態の脱気室8内の内周室8aと外周室8bの互いに下部で連通した貯水空間に蓄えられ、本実施例ではその水位が飛散防止用の円筒カラー6の下縁レベルとほぼ同等レベルで脱気室8の最外壁に開口された溢流口9を超えると、該溢流口9から循環脱気タンク19内へ溢流するようになっている。
【0040】さて、循環脱気装置は、脱気室8の外周を包囲して溢流口9を介して脱気室8から脱気水の導入を受ける円筒状の循環脱気タンク19と、該循環脱気タンク内に貯えられた脱気水を高圧に加圧して送水する循環ポンプ13と、循環ポンプで加圧された脱気水を前記循環脱気タンク19の内壁面に噴射衝突させて瞬間断熱膨張させる噴射ノズル装置18とを備えており、循環脱気タンク19内は真空脱気装置の脱気室8と共通の真空ポンプ22によって減圧されている。
【0041】さらに循環脱気タンク19の外周は環状保水タンク20によって囲まれ、また循環ポンプの吐出ライン14には、加圧された脱気水を噴射ノズル装置18へ送る時のみ開かれる電磁弁15と、加圧された脱気水を保水タンク20へ送るときのみ開かれる電磁弁16が配置されている。保水タンク20の出口は処理水取出系を構成する送水ポンプ21に接続され、送水ポンプ21の吐出口は逆止弁25及びゲート弁28を介して送水配管に接続され、逆止弁25とゲート弁28との間には膨張タンク26及び圧力スイッチ27が配置されている。また保水タンク20内は真空脱気装置の脱気室8及び循環脱気タンク19と共通の真空ポンプ22によって減圧されている。
【0042】循環脱気タンク19内の貯水空間10の水位は水位検出器30aにより検出される二つの水位レベルで監視制御され、また保水タンク20内の水位も水位検出器30bおよび30cにより検出される四つの水位レベルで監視制御される。図示しない外部の制御装置がこれらの水位検出器からの信号に基づいて入口電磁弁24、循環ポンプ13、電磁弁15,16、送水ポンプ21、ゲート弁28を総合的に作動制御する。
【0043】さて、外周室8bから溢流口9を介して脱気水が循環脱気タンクに送られ、それが必要な水位に達すると、循環ポンプ13の作動によって脱気水が高圧に加圧される。循環ポンプ13で高圧に加圧された脱気水はポンプ吐出ライン14から電磁弁15を通過して噴射ノズル装置18に送られるが、この高圧脱気水は既に真空脱気装置によって水中の気体分が大半除去され、更に加圧によって圧縮されているので、循環ポンプ13の吐出ライン14における高圧脱気水中には圧縮性の気体分は殆ど存在せず、従って1気圧で生息していた微生物の細胞は水中溶存気体によるクッション効果を得ることなく細胞内は高圧水で満たされることになる。このような状態でこの高圧水は電磁弁15を介して噴射ノズル装置18に至り、該ノズルから減圧下の循環脱気タンク室19内に高速高圧で噴射されて循環脱気タンク19の内壁面に衝突され、これによって瞬間的な断熱膨張を受けることになるので、水中の微生物の細胞も高圧状態から急激に膨張されて瞬時に破壊され、殺菌が果たされる。
【0044】噴射ノズル装置18から高圧高速で噴射された水が衝合壁面に衝突すると、水に残存している極微細な気泡も断熱膨張と衝突エネルギーによって瞬時に破壊され、これにより気泡中の気体が循環脱気タンク内の上部空間に放散される。
【0045】断熱膨張で分離した気体は循環脱気タンク19内の上部空間から真空ポンプ22に吸引捕集され、一方、高度に脱気された水は自然落下で循環脱気タンク19の貯水空間に貯まる。
【0046】この循環ポンプ13の作動による循環脱気殺菌処理は、真空脱気装置によって例えば或る必要な量の給水分の脱気が終了した後に開始される。即ち、真空脱気装置で必要量の給水を脱気処理し終えたときに給水系と外部への送水系を作動停止し、循環ポンプ13を予め設定した定吐出量で運転して複数回分の循環脱気を例えばタイマーなどの時限装置で管理する。例えば、循環ポンプの吸込量Qを給水口への新水の単位時間当たりの給水量Q1と循環系に流れる循環水の単位時間当たりの循環流量Q2との和に等しく設定し(即ち、Q=Q1+Q2)、新水の給水量Q1と循環流量Q2との比m(但し、m=Q2/Q1)が1より大きくなるような条件で循環ポンプ13を稼働させると、循環脱気タンク19内に溜まった水を繰り返し脱気処理することができ、残留溶存気体濃度を例えば0.1ppm以下の極めて低い値に処理した高脱気水を得ることが可能である。
【0047】例えば目標の溶存気体濃度まで低濃度とするに要する循環脱気の所要時限をTとすると、この時限Tが経過したときに外部シーケンサーなどの時限装置の動作によって電磁弁15は閉じて代わりに電磁弁16が開かれ、循環ポンプ13の吐出ラインが噴射ノズル装置18から保水タンク20へ切り換えられる。これによって水位検出器30aにより低水位レベルまでの水位低下が検出されると循環ポンプ13が停止され、所要循環回数の循環脱気によって高度に脱気され且つ循環脱気系内での複数回の高圧への加圧・瞬間断熱膨張による脱気水中の微生物の細胞破壊で高度に殺菌された処理水が保水タンク20に貯留される。保水タンク20から外部への送水は水位検出器30b及び30cによる送水ポンプ21とゲート弁28の監視制御により適正に行われる。この場合、保水タンク20の貯水量を毎分当たりの給水量の少なくとも2TQ倍以上に設定しておくことにより、外部への送水量と給水量とを等量とする連続脱気殺菌処理運転を実現することもできる。
【0048】尚、循環脱気タンク19内及び保水タンク20内はいずれも共通の真空ポンプ22で同時に減圧されているが、これは真空ポンプ22に分岐管路を介して個々に独立した電磁弁で選択的に減圧したり、或いはそれぞれに独立した別個の真空ポンプを用意したり、種々の変形が可能である。
【0049】
【発明の効果】以上に述べたように、本発明による脱気殺菌装置は、超音波エネルギーの付与による被処理水の低温沸騰を伴う真空脱気装置と、該真空脱気装置によって脱気された脱気水を加圧して減圧容器内で断熱膨張させる循環脱気装置とを備えているので、超音波低温沸騰による効果的な真空脱気に加えて複数回の循環脱気による高度の脱気が可能であり、しかも循環脱気系内での複数回の高圧への加圧と瞬間断熱膨張による脱気水中の微生物の細胞破壊で高度の殺菌処理も果たされるので大量の殺菌済み衛生水を作ることができ、前段の超音波低温沸騰による真空脱気と併せて消耗保守部品を殆ど必要としない運転及び保守の簡単な環境保全にも資する脱気殺菌装置を提供することができると言う効果が得られる。
【0050】また本発明による脱気殺菌装置は高真空と超音波キャビテーションによる低温沸騰を利用した真空脱気処理に加えて加圧と断熱膨張による循環脱気を効果的に組み合わせた高度の脱気及び殺菌処理を行わせるので、殺菌と共に水中の溶存酸素だけでなく揮発性気体成分をも効果的に脱気することが可能であり、水道水を酸化腐蝕力の殆どない高脱気無菌清浄水に変えて配管の防食と衛生水提供に寄与するだけでなく、溶存ガスや不純物に敏感な例えば半導体ウエハやIC装置の製造に利用する高清浄水の製造にも利用でき、水資源の有効利用から廃水浄化に至広い利用範囲に有効に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適な実施形態の一例を示す系統図である。
【符号の説明】
3:導水筒
7:仕切筒
8:脱気室
9:溢流口(導水手段)
13:循環ポンプ
15:電磁弁
16:電磁弁
18:噴射ノズル装置
19:循環脱気タンク
20:保水タンク
21:送水ポンプ
22:真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 超音波エネルギーの付与による被処理水の低温沸騰を伴う真空脱気装置と、該真空脱気装置によって脱気された脱気水を加圧して減圧容器内で断熱膨張させる循環脱気装置とを備えたことを特徴とする脱気殺菌装置。
【請求項2】 前記真空脱気装置が、真空ポンプで減圧された円筒状の脱気室と、該脱気室内に同軸状に配置され、給水口から導入されて内部を満たした水に減圧低温沸騰と空洞化現象を与えて前記脱気室に溢流させる導水筒と、導水筒の内部の水に空洞化現象誘発のための超音波を照射する超音波振動子と、脱気室内を下部で連通する内周室と外周室に仕切る仕切筒とを備え、前記外周室にはその内部に貯留された脱気水を前記循環脱気装置へ送り込む導水手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の脱気殺菌装置。
【請求項3】 前記循環脱気装置が、前記脱気室の外周を包囲して前記導水手段を介して脱気室から脱気水の導入を受ける円筒状の循環脱気タンクと、該循環脱気タンク内に貯えられた脱気水を高圧に加圧して送水する循環ポンプと、循環ポンプで加圧された脱気水を前記循環脱気タンク内の壁面に噴射衝突させて瞬間断熱膨張させる噴射ノズル装置とを備え、前記循環脱気タンク内は真空ポンプによって減圧されていることを特徴とする請求項2に記載の脱気殺菌装置。
【請求項4】 前記循環脱気タンクの周囲を囲む円筒状の保水タンクと、前記循環ポンプの吐出ラインを前記噴射ノズル装置と前記保水タンクとに切り換える弁手段とを更に備え、前記保水タンクは処理水取出系に接続され、また該保水タンク内は真空ポンプによって減圧されていることを特徴とする請求項3に記載の脱気殺菌装置。
【請求項5】 循環ポンプの運転中は給水及び外部への送水を停止すると共に、この間に予め設定した所定回数分の循環脱気が終了したときに循環ポンプの吐出ラインを噴射ノズル装置から保水タンクへ切り換える時限装置を更に備えたことを特徴とする請求項4に記載の脱気殺菌装置。

【図1】
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【公開番号】特開2000−325702(P2000−325702A)
【公開日】平成12年11月28日(2000.11.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−135590
【出願日】平成11年5月17日(1999.5.17)
【出願人】(000217480)
【出願人】(597039331)
【Fターム(参考)】