説明

脱珪スラグの冷却処理方法及び土木材料の製造方法

【課題】フッ素を含有する脱珪スラグを低コストに処理し、スラグ製品からのフッ素溶出を効果的に抑制する。
【解決手段】溶銑の脱珪処理において反応容器から排出された脱珪スラグを散水冷却する際に、脱珪スラグに0.5t/H・m以下の散水密度で散水する。さらには、この条件で散水冷却された脱珪スラグを土木材料に加工する。散水密度を低くすることにより、高温のスラグ塊内部への水の流入が抑制されるために溶出性のフッ化物の生成が抑えられ、この結果、スラグ製品からのフッ素溶出量が効果的に低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑の脱珪処理で発生する脱珪スラグの冷却処理方法と、同脱珪スラグを用いた土木材料の製造方法に関するもので、不可避的に少量のフッ素を含有する脱珪スラグを、フッ素溶出が少ない土木材料として利材化できるようにするための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶銑の精錬においてフラックスの反応効率を向上させるために、従来からフッ素含有フラックスが広く用いられてきた。近年では、フッ素を含有するスラグによる環境汚染の懸念から、フッ素を使用することなくフラックスの反応効率を向上させる試みも行われており、精錬コストをある程度犠牲にしてもフッ素の使用を抑制するような操業も行われるようになってきた。しかし、特に溶銑脱硫処理などでは高CaOフラックスの反応効率を維持するために、ある程度のフッ素を使用することが一般的であり、また、プロセス構成や副生物の処理方法によっては、脱硫スラグに止まらず他のスラグについても、ある程度フッ素が混入することが避けられない場合がある。
【0003】
また、同じ反応容器を用いて溶銑の脱珪処理と脱硫処理が行われる場合、フリーボードなどの耐火物に付着・残留した脱硫スラグが脱珪処理時に脱珪スラグに溶け込むことにより、脱珪スラグにフッ素が混入することが避けられない。このため脱珪スラグ中のフッ素濃度をあるレベルよりも低減させることは困難である。
【0004】
溶銑の脱珪処理で発生した脱珪スラグは反応容器からスラグポット内に排出されるが、脱珪スラグは低塩基度で比較的低融点、高粘度のスラグであるため、スラグポット内で一体化(大塊化)し、気孔を多く含んだ形態となる。脱珪スラグはスラグポットから排滓用のピットに排出された後、短時間で効率よく処理を進めるため散水冷却されるが、この際もスラグは一体化した大塊の形状を保っている。この散水冷却された脱珪スラグは、さらに内部まで十分冷却するためピットから移動して長時間放冷され、その後、破砕されて土木工事用材料などに加工される。
【0005】
このようにして処理された脱珪スラグ(スラグ製品)は、同程度のフッ素含有量の他の高塩基度スラグと比較して、フッ素の溶出量が格段に高いという問題がある。この原因が塩基度そのものにあるのか、或いはスラグ性状によるものかは、現時点では不明であるが、いずれにしてもフッ素の溶出は脱珪スラグの利材化を妨げる大きな要因となる。
【0006】
フッ素含有スラグからのフッ素溶出を抑制するための技術として、例えば、特許文献1には、フッ素含有スラグにカルシウムアルミネートなどを含有するフッ素溶出抑制剤を混合して安定化処理する方法が示されている。また、特許文献2には、フッ素含有スラグにシリカ源とセメント系固化材を加えて造粒することにより塊成化する処理方法が示されている。
【特許文献1】特開2000−335946号公報
【特許文献2】特開2003−119057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示される方法は、高価なフッ素溶出抑制剤を大量に用い、しかもフッ素溶出抑制剤の混合などの作業も必要であるため、処理コストが高い欠点がある。また、特許文献2に示される方法も、添加材や成形・養生などのために処理コストが高い欠点がある。
【0008】
したがって本発明の目的は、フッ素を含有する脱珪スラグを低コストに処理し、スラグからのフッ素溶出を効果的に抑制することができる処理方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、フッ素を含有する脱珪スラグを低コストで処理し、フッ素溶出が少ない土木材料とすることができる土木材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、散水冷却された低塩基度で大塊の脱珪スラグを破砕加工したスラグ製品からのフッ素溶出量が、同程度のフッ素含有量を有する他の高塩基度スラグと比較して格段に高いことに注目し、スラグ製品からのフッ素の溶出原因について種々調査・検討を行った。その過程で、図6に示すようにフッ素含有量の高いスラグであっても礫状のスラグをよく洗浄した後、2mmアンダーに粉砕した試料(「洗浄/粉砕スラグ」)ではフッ素溶出量が低いこと、また、散水冷却を行わずに自然放冷により冷却した試料(「非散水スラグ」)でも同様にフッ素溶出量が低いことなどが判明した。このことから、フッ素溶出量が多い脱珪スラグの場合でもスラグそのものからの溶出量は少なく、フッ素溶出量が高くなるのは、散水冷却によって溶出し易い形態のフッ素化合物が生成し、これがスラグを汚染しているのではないかと推論し、散水冷却条件とフッ素溶出性との関係を調査した結果、脱珪スラグの散水冷却における散水条件を適正化すること、具体的には散水密度を十分に低くすることにより、スラグからのフッ素溶出量を顕著に低減できることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]溶銑の脱珪処理において反応容器から排出された脱珪スラグを散水冷却する際に、脱珪スラグに0.5t/H・m以下の散水密度で散水することを特徴とする脱珪スラグの冷却処理方法。
[2]上記[1]の冷却処理方法において、散水冷却すべき脱珪スラグは、スラグ塩基度[CaO/SiO]が1.5未満のスラグ塊であることを特徴とする脱珪スラグの冷却処理方法。
[3]上記[1]又は[2]の冷却処理方法において、脱珪スラグのフッ素含有量が0.10〜0.25mass%であることを特徴とする脱珪スラグの冷却処理方法。
【0011】
[4]溶銑の脱珪処理において反応容器から排出された脱珪スラグを散水冷却する際に、脱珪スラグに0.5t/H・m以下の散水密度で散水し、冷却後の脱珪スラグを土木材料に加工することを特徴とする土木材料の製造方法。
[5]上記[4]の製造方法において、散水冷却すべき脱珪スラグは、スラグ塩基度[CaO/SiO]が1.5未満のスラグ塊であることを特徴とする土木材料の製造方法。
[6]上記[4]又は[5]の製造方法において、脱珪スラグのフッ素含有量が0.10〜0.25mass%であることを特徴とする土木材料の製造方法。
ここで、本発明で散水密度とは、散水速度(t/H)を散水面積で除した値である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の冷却処理方法によれば、排滓後の散水冷却における散水条件を適正化するだけで脱珪スラグからのフッ素の溶出を効果的に抑制できるので、脱珪スラグからのフッ素溶出の抑制対策を極めて低コストに且つ安定的に実現できる。また、本発明の製造方法によれば、脱珪スラグからフッ素溶出が少ない土木材料を低コストに製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の脱珪スラグの冷却処理方法では、溶銑の脱珪処理において反応容器から排出された脱珪スラグを散水冷却する際に、脱珪スラグに0.5t/H・m以下、好ましくは0.3t/H・m以下の散水密度で散水を行う。また、本発明の土木材料の製造方法では、そのような条件での散水冷却を経た脱珪スラグを、破砕処理などによって土木材料に加工する。
【0014】
溶銑の脱珪処理は、通常、高炉鍋やトピードカーなどのような溶銑保持容器で行われ、脱珪処理が完了すると、溶銑保持容器から脱珪スラグが除滓され、この除滓された脱珪スラグはスラグポットなどの搬送容器で排滓ピットに運ばれ、ここで、上記本発明条件にしたがって散水冷却される。通常、排滓ピットに運ばれてきた脱珪スラグはほぼ凝固した状態にあるが、内部は赤熱状態にある。一般に1つの搬送容器で排滓ピットに搬送される脱珪スラグは数トンであり、搬送容器内でほぼ凝固した状態にあるので、排滓ピットには大塊の脱珪スラグ(搬送容器の内形状の大きさのスラグ塊、或いはそれが一部分崩壊した又は数個に割れたスラグ塊)が排出される。
【0015】
上記のような排滓ピットで行われる脱珪スラグの散水冷却時の散水密度と、冷却後のスラグ(スラグ製品)の環境庁告示46号の溶出試験方法によるフッ素溶出量との関係を調べた結果を図1に示す。この試験では、脱珪スラグとしてフッ素含有量が0.14〜0.16mass%のものを用いた。
なお、脱珪スラグのフッ素の溶出試験方法とその判定は材料(脱珪スラグ)の用途により異なり、土壌としての評価が必要な場合には、環境庁告示46号の方法に従って2mmアンダーを篩い分けて振とうによる溶出試験を実施する。一方、路盤材などのスラグ製品の場合には、JIS−K−0058−1の試験方法に従って利用有姿でのタンクリーチング法による溶出試験を実施するのが通常である。
【0016】
従来の脱珪スラグの散水冷却は、短時間でスラグを十分に冷却するために、0.8〜1.0t/H・m程度の散水密度で実施されていた。しかし、図1によれば、散水密度が従来技術のレベルではフッ素溶出量が著しく高い。これに対して本発明法に従い散水密度を0.5t/H・m以下、望ましくは0.3t/H・m以下とすることにより、フッ素溶出量が効果的に低減していることが判る。
【0017】
従来技術のように大きな散水密度で散水冷却を行った場合には、大塊スラグ表面の割れや亀裂から高温のスラグ塊内部に水が流入し、高温のスラグ塊からフッ素が高濃度で溶出するとともに、水分の蒸発により溶出性のフッ化物がスラグ界面に析出することから、スラグ製品からのフッ素溶出量が増大するものと考えられる。これに対して、散水密度を低減することにより、高温のスラグ塊内部への水の流入が抑制されることから、溶出性のフッ化物の生成が抑えられ、その結果、スラグ製品からのフッ素溶出量が低減するものと考えられる。
【0018】
なお、散水を全く行わない場合には、2日放冷後でもスラグ塊の中心部は数百℃の高温となっていて、従来と同様のピッチでその後の破砕処理を行うことが困難であった。このように散水冷却を行わないことは、冷却に長時間を要するため広大な置場が必要となり、事実上は実施困難である。これに対して0.3t/H・m以上の散水密度で2時間散水した場合には、2日放冷後には従来と同じ破砕処理を実施するのに支障のない程度の温度であった。したがって、フッ素の溶出抑制効果の観点からは散水密度は0.3t/H・m以下が好ましいが、処理効率の面からは0.3t/H・m以上が好ましい。
【0019】
また、脱珪スラグの30mmアンダーのスラグ製品について、スラグ中のフッ素含有量と利用有姿でのタンクリーチング法によるフッ素溶出量との関係を調べた結果を図2に示す。この試験では、従来技術のように散水密度を0.8〜1.0t/H・mとした場合、本発明に従い散水密度を0.5t/H・mとした場合、散水冷却を実施しない場合を比較して示した。
【0020】
図2の試験においても、散水密度を0.5t/H・m以下とした場合にフッ素溶出が抑制されることが判るが、スラグ中のフッ素含有量が0.25mass%を超えると散水密度0.5t/H・mの場合でも目標上限値を超えるフッ素溶出量となる場合があることから、高フッ素含有量の場合には散水密度の制御による溶出抑制だけでは不十分となる場合がでてくる。また、スラグ中のフッ素含有量が0.10mass%未満では、散水密度を増大した場合でもフッ素溶出量は十分小さく、したがって、散水密度の制御によるフッ素溶出の抑制効果は小さい。以上のことから、本発明はフッ素含有量が0.10〜0.25mass%の脱珪スラグに対して特に有効な溶出抑制方法であると言える。
【0021】
脱珪スラグのスラグ塩基度[CaO/SiO](CaO/SiOの質量比。以下、単に「塩基度」という)は0.3〜1.5の範囲で大きく変動するが、フッ素溶出性に及ぼす塩基度の影響は特に見られず、散水密度の制御による溶出抑制効果についても塩基度の影響は特に見られない。なお、塩基度1.6〜2.5という高塩基度の脱燐スラグの場合には、散水密度を高くしてもフッ素溶出量が高くなる傾向は見られず、フッ素の溶出性が散水密度に依存するのは低塩基度の脱珪スラグに特有の現象であると考えられる。但し、その原因が塩基度そのものにあるのか、その他のスラグ性状の差異などによるものなのかは不明である。
【0022】
本発明において脱珪スラグに散水する手段としては、一般にはスプレーノズルが用いられ、通常、排滓ピット内のスラグ塊に対して上方から散水がなされる。スプレーノズルとしては、空円錐スプレーノズル、充円錐スプレーノズル、充角錐スプレーノズルなど任意のスプレーノズルを使用できる。図3はスプレーノズルの平面上でのスプレーパターンを示しており、図3(A)は空円錐スプレーノズル、図3(B)は充円錐スプレーノズル、図3(C)は充角錐スプレーノズルの各スプレーパターンを示している。これらのなかで、比較的均一な散水を行い且つ散水密度を小さくするには、充円錐スプレーノズルや充角錐スプレーノズルの方が適していると言える。また、複数のスプレーノズルを配列させる場合における各ノズルの散水領域間の隙間や重複を少なくするという点からは、図3(C)のようなスプレーパターンを有する充角錐スプレーノズルが特に好ましい。
【0023】
スプレーノズルを用いて排滓ピット内のスラグ塊に対して散水を行う場合、排滓ピット内の散水密度は必ずしも均一でなく、スプレーノズル近傍のスラグ塊については高散水密度となる一方、排滓ピット内のスラグ塊の配置によっては散水密度の低い部分もできてしまう可能性がある。冷却対象となるスラグ塊全体のフッ素溶出を抑制するためには、スラグ塊への散水密度の高い部分を作らないような散水方法を採ることが望ましい。
【0024】
図4に、排滓ピット1内での脱珪スラグ2(スラグ塊)に対する散水の形態例を示す。図4(A)〜(C)の各々において、上が立面図、下が平面図である。このうち図4(A)は、従来一般的に行われている散水形態であり、排滓ピット1の2箇所のコーナー部上方の比較的低い位置から空円錐スプレーノズル3aによる散水を行うものであり、このような散水形態の場合には散水密度が局所的に比較的変化しやすい。これに対して、図4(B)の形態は、排滓ピット1の2箇所のコーナー部上方の比較的高い位置から充円錐スプレーノズル3bによる散水を行うものであり、また、図4(C)の形態は、排滓ピット1の周囲の上方の比較的高い位置に設けられた多数の充円錐スプレーノズル3bによる散水を行うものであり、これら(B)、(C)の散水形態では均一な散水密度での散水が可能となるので、本発明に適していると言える。
【0025】
散水冷却された脱珪スラグから土木材料を製造するには、散水冷却後の放冷を経て十分に冷却されたスラグ塊を破砕処理し、必要に応じて篩分けなどによる整粒を行い、所定の粒度の土木材料(例えば、路盤材、土地造成材、土地・地盤改良材、海洋土木材料など)とする。
【0026】
以下、本発明のより具体的な実施形態について説明する。
図5は、高炉から出銑した溶銑を溶鋼に精錬するまでの一連の精錬プロセスの一例を示している。この精錬プロセスでは、高炉から出銑した溶銑5を溶銑保持容器4(例えば、高炉鍋など)に200t程度受銑し、この溶銑に浸漬ノズル6からガスとフラックスを吹き込んで撹拌しつつ、上吹ランス7から酸素を上吹きすることにより脱珪処理を行い、溶銑中Si濃度を0.4mass%程度から0.1mass%程度まで低減させる。これにより、その後行われる脱燐処理での脱燐効率を高め、或いは精錬フラックス使用量やスラグ発生量の削減を可能とする。続いて脱珪処理で生成した脱珪スラグ2x(溶融スラグ)を除滓手段8などを用いて除滓する。次いで、機械式撹拌手段で溶銑を撹拌しつつCaO系フラックスを添加して脱硫処理を行い、さらに、要求成分などに応じて高炉鍋または転炉型反応容器などの保持容器で脱燐処理を行い、しかる後、溶銑を転炉に装入して脱炭処理を行うことで溶鋼が得られる。
【0027】
前記脱珪処理では、温度調節のために粗精鉱(地金を含んだ磁着スラグ)なども使用しており、スラグ源としては、これら副原料、脱珪反応生成物の他、高炉からの流入スラグ、高炉鍋の付着スラグなどがある。これらの比率は実施する処理の条件により様々であるため、脱珪スラグの塩基度は典型的には0.4〜1.0程度の範囲であるが、最小0.3程度から最大1.5程度まで大きく変動する。
一般に、脱珪処理ではフッ素を含有する副原料は積極的には使用しないが、溶銑脱硫で使用する脱硫フラックスは反応効率や脱硫速度の観点から3mass%程度のホタル石(CaF)を混合しているため、溶銑保持容器4の耐火物などに付着した脱硫スラグが脱珪スラグ中に溶け出すことにより、脱珪スラグにもフッ素が混入することになる。
【0028】
前記脱珪処理が完了すると、溶銑保持容器4を除滓場まで移動させ、ここで脱珪スラグ2xがスラグポット9に溶融状態で排出され、複数チャージ(例えば2〜3チャージ)分のスラグ2(数t程度)でポットが満杯になった時点でスラグポット9を排滓ピット1に運搬し、この排滓ピット1内に脱珪スラグ2が排滓される。この時点では脱珪スラグ2はほぼ完全に凝固はしているが、内部は赤熱状態であり、直径および高さが2m程度の円錐台のポット内形状を概ね保っている場合が多い。排滓時の衝撃で外周の一部が崩壊したり、全体が数個に割れたりする場合もあるが、大部分は原型を保っているか、1t以上の大塊となっている。1面約50m程度の排滓ピット1に数時間で数ポット(例えば、5〜6ポット)分程度を排滓した後、直ちに散水して冷却する。
【0029】
脱珪スラグ2(スラグ塊)に対する散水は、例えば、さきに述べた図4(A)〜(C)の形態で行われ、できるだけスラグ全体に均一に散水する。
脱珪スラグ2の発生ピッチと排滓ピット容量の関係から、通常は2時間程度散水した後、蒸気の収まるのを待って仮置き場に移動させ、破砕プラントの処理ピッチの関係からその後更に2日程度放冷してから、破砕プラントで所定粒径(例えば、30mmアンダー)に破砕し、これを磁選して土木材料とする。
【実施例】
【0030】
図5に示すような一連の精錬プロセスの溶銑脱珪処理で発生した脱珪スラグを、スラグポットに除滓した後、排滓ピットに排滓し、数時間で6ポット分程度を排滓した後、直ちに種々の散水条件で散水冷却した。散水冷却された後、仮置き場で放冷されたスラグ塊を30mmアンダーのスラグ製品に加工し、このスラグ製品のフッ素溶出量をJIS−K−0058−1の試験方法に従い測定した。その結果をスラグ組成、散水冷却条件とともに表1に示す。なお、No.1〜No.13の各実施例では、それぞれ脱珪処理の12チャージ分の脱珪スラグを一度に散水冷却した後、スラグ製品に加工したものから複数のサンプルを抽出し、スラグ組成とフッ素溶出量を調べた。
この試験では、スプレーノズルの流量弁やノズル口径を選択することで散水速度を調整し、また、散水方法は図4(A)〜(C)の3パターンを用いた。また、スラグ中のフッ素含有量は、脱珪量や副原料の品位を調整することにより調整した。
【0031】
表1に示す「スラグ冷却性」の評価は、散水冷却してから2日間放冷した後に破砕処理するという通常の処理パターンで製品化が可能であったかを評価したものであり、その評価基準は以下のとおりである。
○:従来法の散水冷却と同じく、通常の処理パターンでの破砕処理が可能
△:従来法の散水冷却よりも高温であるが、通常の処理パターンで破砕処理可能
×:未だ高温であるため通常の処理パターンでは破砕処理が困難
【0032】
表1によれば、散水密度が高い比較例ではフッ素溶出量が目標上限値の0.8mg/Lを超える場合があり、他に何らかのフッ素溶出防止策が必要となる。これに対して本発明例では、スラグ中のフッ素含有量が比較的高いNo.7の発明例の場合も含めて、何れもフッ素溶出値が目標上限値以下に抑えられている。また、好ましい散水方法を採用したNo.8,No.9の発明例では、スラグ冷却の程度は比較例と同程度であり、生産性の点でも問題ない。
【0033】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】脱珪スラグを散水冷却した場合の散水密度とスラグからのフッ素溶出量との関係を示すグラフ
【図2】脱珪スラグを異なる散水密度で散水冷却した場合及び散水なしで冷却した場合において、脱珪スラグのフッ素含有量とスラグからのフッ素溶出量との関係を示すグラフ
【図3】本発明で散水冷却に用いるスプレーノズルのスプレーパターンを示す説明図
【図4】排滓ピットでの散水形態を模式的に示した説明図
【図5】脱珪スラグが発生する精錬プロセスの概略を示した模式図
【図6】従来技術による通常の方法で散水冷却された脱珪スラグと、冷却後に粉砕・洗浄された脱珪スラグ及び散水なしで冷却された脱珪スラグについて、脱珪スラグのフッ素含有量とスラグからのフッ素溶出量の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0035】
1 排滓ピット
2,2x 脱珪スラグ
3a 空円錐スプレーノズル
3b 充円錐スプレーノズル
5 溶銑
4 溶銑保持容器
6 浸漬ノズル
7 上吹ランス
8 除滓手段
9 スラグポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑の脱珪処理において反応容器から排出された脱珪スラグを散水冷却する際に、脱珪スラグに0.5t/H・m以下の散水密度で散水することを特徴とする脱珪スラグの冷却処理方法。
【請求項2】
散水冷却すべき脱珪スラグは、スラグ塩基度[CaO/SiO]が1.5未満のスラグ塊であることを特徴とする請求項1に記載の脱珪スラグの冷却処理方法。
【請求項3】
脱珪スラグのフッ素含有量が0.10〜0.25mass%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱珪スラグの冷却処理方法。
【請求項4】
溶銑の脱珪処理において反応容器から排出された脱珪スラグを散水冷却する際に、脱珪スラグに0.5t/H・m以下の散水密度で散水し、冷却後の脱珪スラグを土木材料に加工することを特徴とする土木材料の製造方法。
【請求項5】
散水冷却すべき脱珪スラグは、スラグ塩基度[CaO/SiO]が1.5未満のスラグ塊であることを特徴とする請求項4に記載の土木材料の製造方法。
【請求項6】
脱珪スラグのフッ素含有量が0.10〜0.25mass%であることを特徴とする請求項4又は5に記載の土木材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−239453(P2008−239453A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86477(P2007−86477)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】