説明

脱珪スラグ粗精鉱の製造方法

【課題】鉄鉱石とともに高炉に装入して溶銑を得るための安価な鉄源となる脱珪スラグ粗精鉱の製造方法を提供する。
【解決手段】脱珪スラグ凝固物の水分含有量を5質量%以下まで乾燥した後、脱珪スラグ凝固物を破砕して脱珪スラグ粒とし、さらに脱珪スラグ粒の中から磁石に吸着する脱珪スラグ磁着粒を選別し、脱珪スラグ磁着粒を分級して粒径5mm以下の配合比を5質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑の予備処理で発生する脱珪スラグから鉄分を回収し、鉄鉱石とともに鉄源として高炉に装入できる脱珪スラグ粗精鉱を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鉱石を高炉に装入して溶銑を得る製銑工程では、鉄鉱石のみならず様々な鉄源が利用されている。たとえば、スクラップやダストを鉄源として高炉に装入する技術が検討されており、
(a)産業廃棄物として廃棄処理されていたスクラップやダストを製銑原料として使用することによる資源の有効利用、
(b)鉄鉱石の溶融還元に比べて少ない熱量でスクラップやダストを溶融できることによるエネルギーの有効利用およびCO2排出量の削減
等の効果が得られることが分かっている。
【0003】
特許文献1には、スクラップやダストを鉄源として再利用する技術の一例として、ホットブリケット還元鉄(いわゆるHBI)や直接還元鉄(いわゆるDRI)を併用する技術が開示されている。しかしながらHBIやDRIは高価であるから、特許文献1に開示された技術では原料コストの上昇を招く。
【特許文献1】特開平10-36906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鉄鉱石とともに高炉に装入して溶銑を得るための安価な鉄源となる脱珪スラグ粗精鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、製銑工程にて鉄鉱石とともに使用する鉄源として、溶銑の予備処理で発生する脱珪スラグに着目した。溶銑の予備処理は、製銑工程(すなわち高炉)で得られた溶銑を製鋼工程(すなわち転炉)へ搬送する過程で溶銑中のSi,P,Sを除去する処理を指し、Siを除去する処理(いわゆる脱珪処理),Pを除去する処理(いわゆる脱燐処理),Sを除去する処理(いわゆる脱硫処理)の総称である。
【0006】
溶銑の予備処理のうち、脱珪処理は、高炉の鋳床で混銑車に収容する前の溶銑に脱珪剤を添加して行なう。脱珪処理によって発生するスラグ(以下、脱珪スラグという)は、脱燐処理を行なう前に混銑車から排出され、多量の金属Feを含んでいる。そこで発明者は、脱珪スラグを凝固させて破砕し、鉄源として製銑工程で使用する技術について鋭意研究した。その結果、
(1)破砕された脱珪スラグ凝固物に含有される水分量を規定する、
(2)破砕された脱珪スラグ凝固物の粒度分布を規定する、
(3)破砕された脱珪スラグ凝固物の中から金属Feの含有量が大きいものを選別する
という条件を満たすことによって、脱珪スラグ凝固物を高炉に装入して支障なく操業できることを見出した。ここでは溶融状態の脱珪スラグと区別するために、凝固した脱珪スラグを脱珪スラグ凝固物と記す。
【0007】
なお上記(1)の水分は、混銑車から排出された溶融状態の脱珪スラグを冷却する際に散布する冷却水、あるいは脱珪スラグ凝固物を屋外に保管する間に浸入する雨水等である。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、脱珪スラグ凝固物の水分含有量を5質量%以下まで乾燥した後、脱珪スラグ凝固物を破砕して脱珪スラグ粒とし、さらに脱珪スラグ粒の中から磁石に吸着する脱珪スラグ磁着粒を選別し、脱珪スラグ磁着粒を分級して粒径5mm以下の配合比を5質量%以下とする脱珪スラグ粗精鉱の製造方法である。
【0008】
本発明の脱珪スラグ粗精鉱の製造方法においては、脱珪スラグ凝固物の乾燥を天日乾燥で行なうことが好ましい。また、脱珪スラグ磁着粒のうち粒径が50mmを超える脱珪スラグ磁着粒を破砕して磁力選別を行ない、磁石に吸着した粒子を分級して、粒径5mm超え50mm以下の配合比を90質量%以上とすることが好ましい。さらに、脱珪スラグ磁着粒の破砕,磁力選別および分級を2回以上繰り返し、金属Feの含有量を70質量%以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高炉に装入して溶銑を得るための安価な鉄源となる脱珪スラグ粗精鉱を製造でき、その脱珪スラグ粗精鉱を鉄鉱石とともに高炉に装入することによって、原料コストの削減,資源の有効利用,エネルギーの有効利用,CO2排出量の削減を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
溶融状態の脱珪スラグを冷却して脱珪スラグ凝固物とする。溶融状態の脱珪スラグを冷却する方法は特に限定せず、冷却水を散布して水冷する方法あるいは屋外に保管して放冷する方法等の従来から知られている方法を用いる。いずれの方法を採用しても、得られた脱珪スラグ凝固物を乾燥して、脱珪スラグ凝固物中の水分含有量を低下させる。水分含有量が5質量%を超えると、鉄源として高炉に装入したときに水分の蒸発に熱エネルギーが消費されるので、エネルギー損失が増大する。したがって、脱珪スラグ凝固物の水分含有量が5質量%以下になるまで乾燥する。
【0011】
脱珪スラグ凝固物を乾燥する方法は特に限定せず、加熱による乾燥あるいは送風による乾燥等の従来から知られている方法を採用する。ただし加熱や送風はいずれもエネルギーを消費するので、天日乾燥を採用することが好ましい。
脱珪スラグ凝固物を乾燥した後、脱珪スラグ凝固物を破砕する。ここでは脱珪スラグ凝固物と区別するために、脱珪スラグ凝固物を破砕した粒状体を脱珪スラグ粒と記す。
【0012】
次いで脱珪スラグ粒の磁力選別を行なう。つまり磁石を用いて、磁石に吸着する脱珪スラグ粒と磁石に吸着しない脱珪スラグ粒とを選別する。ここでは脱珪スラグ粒のうち、磁石に吸着する脱珪スラグ粒を脱珪スラグ磁着粒と記す。この脱珪スラグ磁着粒には金属Feが多量に含まれている。
こうして脱珪スラグ粒のうちの脱珪スラグ磁着粒を回収し、分級して粒度分布を調整する。粒径5mm以下の配合比が5質量%を超えると、高炉に装入するために貯蔵するホッパー内で凝集して円滑な流動を妨げる現象(いわゆる棚吊り)が発生する。したがって、粒径5mm以下の配合比は5質量%以下とする。
【0013】
脱珪スラグ磁着粒を分級する方法は特に限定せず、篩い網を用いる方法等の従来から知られている方法を採用する。たとえば、目開き5mmの篩い網を用いて粒径5mm以下の脱珪スラグ磁着粒を分級し、その配合量を調整することによって、粒径5mm以下の配合比を5質量%以下に調整することができる。
ここでは粒度分布を調整しない脱珪スラグ磁着粒と区別するために、粒径5mm以下の配合比が5質量%以下になるように調整したものを脱珪スラグ粗精鉱と記す。この脱珪スラグ粗精鉱を鉄源として鉄鉱石とともに高炉に装入すれば、原料コストの削減,資源の有効利用,エネルギーの有効利用,CO2排出量の削減を達成できる。
【0014】
ただし、粒径が50mmを超える脱珪スラグ磁着粒を高炉に装入すると、高炉内の通気性に悪影響を及ぼす惧れがある。したがって粒径が50mmを超える脱珪スラグ磁着粒は、破砕して粒径を50mm以下にすることが好ましい。つまり脱珪スラグ粗精鉱は、粒径5mm以下の配合比を5質量%以下とし、かつ粒径5mm超え50mm以下の配合比を90質量%以上とすることが好ましい。
【0015】
なお、脱珪スラグ磁着粒の破砕,磁力選別,分級を2回以上(すなわち脱珪スラグ凝固物の破砕,磁力選別,分級を加えると合計3回以上)繰り返して得られた脱珪スラグ粗精鉱には、金属Feが70質量%以上含有される。このような金属Feを多量に含有する脱珪スラグ粗精鉱は、高炉に装入する鉄源として好適である。
【実施例】
【0016】
高炉から出銑した溶銑に鋳床で脱珪剤を添加して混銑車に収容した後、脱燐処理を行なう前に脱珪スラグを混銑車から排出した。この脱珪スラグをスラグヤードに堆積し、冷却水を散布して脱珪スラグ凝固物とした。
次いで天日乾燥を行ない、脱珪スラグ凝固物の水分含有量を3質量%に低減した。天日乾燥した後、脱珪スラグ凝固物を破砕して脱珪スラグ粒とした。さらに脱珪スラグ粒の磁力選別を行ない、磁石に吸着する脱珪スラグ磁着粒を回収した。
【0017】
次に脱珪スラグ磁着粒を分級して、粒径が50mmを超えるものを再度破砕し、磁力選別および分級を行なった。
このようにして脱珪スラグ磁着粒の粒径5mm以下の配合比を4質量%かつ粒径5mm超え50mm以下の配合比を3質量%に調整し、脱珪スラグ粗精鉱として保管した。この脱珪スラグ粗精鉱を、鉄鉱石100質量部に対して、1質量部の割合で高炉に装入して操業した。これを発明例とする。
【0018】
一方、従来は、脱珪スラグを産業廃棄物として廃棄処分しており、脱珪スラグ粗精鉱を製造していなかった。これを従来例とする。つまり従来例の高炉操業では脱珪スラグ粗精鉱を使用していない。
発明例の操業を2ケ月継続して高炉操業におけるコークス原単位を調査した。従来例については操業実績から12ケ間の平均値を算出した。コークス原単位は溶銑1tonあたりのコークス使用量を表わす指標であり、コークス原単位が小さいほどエネルギー消費量が少ないことを示す。
【0019】
その結果、発明例のコークス原単位は、従来例に比べて3kg/ton削減された。
なお発明例では、炉頂ホッパーにおける棚吊りは皆無であった。
以上に述べた通り本発明によれば、コークス原単位(すなわち溶銑1tonあたりのコークス使用量)が削減されたので、エネルギーの有効利用,CO2排出量の削減を達成できた。しかも、従来は産業廃棄物として廃棄処分していた脱珪スラグから金属Feを回収し、鉄源として高炉に装入することによって、原料コストの削減,資源の有効利用を達成できることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱珪スラグ凝固物の水分含有量を5質量%以下まで乾燥した後、前記脱珪スラグ凝固物を破砕して脱珪スラグ粒とし、さらに前記脱珪スラグ粒の中から磁石に吸着する脱珪スラグ磁着粒を選別し、前記脱珪スラグ磁着粒を分級して粒径5mm以下の配合比が5質量%以下の脱珪スラグ粗精鉱とすることを特徴とする脱珪スラグ粗精鉱の製造方法。
【請求項2】
前記脱珪スラグ凝固物の乾燥を天日乾燥で行なうことを特徴とする請求項1に記載の脱珪スラグ粗精鉱の製造方法。
【請求項3】
前記脱珪スラグ磁着粒のうち粒径が50mmを超える脱珪スラグ磁着粒を破砕して磁力選別を行ない、磁石に吸着した粒子を分級して、粒径5mm超え50mm以下の配合比が90質量%以上の脱珪スラグ粗精鉱とすることを特徴とする請求項1または2に記載の脱珪スラグ粗精鉱の製造方法。
【請求項4】
前記脱珪スラグ磁着粒の破砕、磁力選別および分級を2回以上繰り返し、金属Feの含有量が70質量%以上の脱珪スラグ粗精鉱とすることを特徴とする請求項3に記載の脱珪スラグ粗精鉱の製造方法。

【公開番号】特開2008−25934(P2008−25934A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200451(P2006−200451)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】