説明

脱臭体

【課題】空気中の臭気ガスを除去する脱臭体において、高い脱臭性能を長期間発揮すると同時にメンテナンスの手間をなくすことが要求されている。
【解決手段】光触媒材料と発光材料とを複合成形した複合成形体に電界を設ける手段を備えた脱臭体であり、複合成形体1に処理空気を通過させることで臭気ガスは光触媒材料および吸着剤に吸着される。電極4に電圧を印加することで複合成形体1に一様かつ均一に電界が設けられ、複合成形体に一様かつ均一に固定化された発光材料が励起発光し、同じく複合成形体に一様かつ均一に固定化された光触媒材料はその光を直近で受けて強く励起し、活性基を生成する。そして生成した活性基によって捕集した臭気ガスを酸化分解することで吸着捕集性能を高く保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄の分野において空気中の悪臭物質および有害ガス物質を除去することができる脱臭体に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に存在する臭気ガスを除去する装置として、細孔を持たせて表面積を増大させた活性炭やゼオライトなどの吸着剤を、通気性を持つ担持体に固定化して臭気ガスを吸着除去する脱臭体が従来から用いられている。また、脱臭体の脱臭性能を長期間持続させる方法としては、酸化チタンなどの光触媒材料を吸着剤と一緒に固定化し、脱臭体の前後にランプなどの光源を設けることで、脱臭体に固定化された光触媒材料を励起させて得たヒドロキシラジカルによって吸着除去した臭気ガスを分解する形態が従来から知られている。この形態の問題点として、ランプの光が脱臭体の一部にしか当たらないため脱臭体に固定化された光触媒材料の全てを励起できないことが挙げられる。その課題を解決する方法が特許文献1および特許文献2によって提案されている。
【0003】
特許文献1に示されている形態は、電界により加速した電子が衝突することで励起発光する電界発光(以下EL:エレクトロルミネセンスと呼ぶ)材料を薄膜にして形成した面状のEL発光素子の表面に光触媒材料を設けたものである。このような形態とすることによって装置を薄型軽量化すると同時に発光素子の表面に設けられた光触媒材料を励起することが可能となっている。
【0004】
また、特許文献2に示されている形態の1例として、基板上に設けられた面状の有機EL素子に、ある一定の空間を空けて脱臭シートを対向させたものがある。空間を通過する処理空気中の臭気ガスを脱臭シートで吸着し、吸着された臭気ガスを有機EL素子の光で分解する仕組みになっている。
【特許文献1】特開2003−53195号公報
【特許文献2】特開2001−259434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示された従来例にあっては、発光素子を発光させるための電界を作るために発光素子の両面全体に電極を設けて電圧を印加する手段を設ける必要があり、発光素子の表面積が大きくなるほど電極の設置および電極と電圧印加手段との接続を行うための構造が複雑になり、また、発光素子が薄膜で形成されるため電極間の絶縁が難しくなる。また、光を通すものために電極は透明である必要があり、コストの増加を招く。また、光触媒材料と発光素子との間には電極といった中間層が存在するため、発光素子で得た光が光触媒材料に直近で当たらない、また、全ての光が電極を透過することはできないという理由から光触媒の励起作用が低下するという課題を有する。
【0006】
また、上記特許文献2に示された従来例にあっても特許文献1と同様の課題を有するが、さらに特許文献2に示された上記一例においては、有機EL素子と脱臭シートの間に空間層が設けられており、光が直近で脱臭シートに当たらないため、光触媒の大きな分解作用が十分に得られないという課題を有する。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、簡単かつ低コストな構造で光触媒材料を十分に励起し、高い脱臭性能を長期間にわたって発揮することができる脱臭体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の脱臭体は、請求項1記載の通り、光触媒材料と発光材料とを複合成形し、前記複合成形体を発光させるためのエネルギーを与える手段を備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項2記載の脱臭体は、請求項1記載の脱臭体において、複合成形体を発光させるためのエネルギーを与える手段として、前記複合成形体に電界を設ける手段を備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項3記載の脱臭体は、請求項1または2記載の脱臭体において、光触媒材料と発光材料および吸着剤を複合成形することを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項4記載の脱臭体は、請求項3記載の脱臭体において、吸着剤が活性炭、ゼオライト、シリカゲル、酸化アルミニウム、酸化ケイ素から少なくとも1種以上を選択してなることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項5記載の脱臭体は、請求項3または4記載の脱臭体において、光触媒材料と発光材料が吸着剤の細孔に担持されることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項6記載の脱臭体は、請求項1乃至5いずれかに記載の脱臭体において、発光材料が近紫外・紫外波長帯の光を発するものであることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項7記載の脱臭体は、請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体において、複合成形体がハニカム形状であることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項8記載の脱臭体は、請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体において、複合成形体が3次元の網目形状であることを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項9記載の脱臭体は、請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体において、複合成形体が、通風性を有するシートをプリーツ形状に成形したものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複合成形体に電圧を印加して電界を設け、電界による電子の衝突によって、複合成形体に一様かつ均一に分散して固定化された発光材料を励起発光させ、同様に複合成形体に一様かつ均一に発光材料に隣接した形で分散して固定化された光触媒材料に直近で当てる構造であることから、簡単かつ低コストな構造で光触媒材料を十分に励起して臭気ガスを高効率で酸化分解し、高い脱臭性能を長期間にわたって発揮することができるという効果のある脱臭体を提供することができる。
【0018】
また、光触媒材料と発光材料および吸着剤を複合成形しているため、大量の臭気ガスを吸着し除去することができるという効果のある脱臭体を提供することができる。
【0019】
また、発光材料が近紫外・紫外波長帯の光を発するものであるため、光触媒を高い効率で励起させることで臭気ガスの分解性能を高めることができるという効果のある脱臭体を提供することができる。
【0020】
また、複合成形体がハニカム形状であるため、小さい送風エネルギーでより多くの空気を脱臭処理することが可能な脱臭体を提供することができる。
【0021】
また、複合成形体が3次元の網目形状であるため、高い効率で空気を脱臭処理することが可能な脱臭体を提供することができる。
【0022】
また、複合成形体が、通風性を有するシートをプリーツ形状に成形したものであるため、小さい送風エネルギーかつ高い効率で空気を脱臭処理することが可能な脱臭体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の請求項1記載の脱臭体は、光触媒材料と発光材料とを複合成形し、前記複合成形体を発光させるためのエネルギーを与える手段を備えることを特徴とするものである。また、請求項2記載の脱臭体は、複合成形体を発光させるためのエネルギーを与える手段として、複合成形体に電界を設ける手段を備えることを特徴とするものである。発光体などの発光材料が励起源から受け取ったエネルギーによって励起し、定常状態に戻る際に受けたエネルギーを光に変換して放出する現象をルミネセンスという。励起源の種類から、電界により加速した電子が発光材料に衝突し、励起されて発光するエレクトロルミネセンス(EL)、紫外線などの光を受けて励起するフォトルミネセンス(PL)、電子線の衝突により励起するカソードルミネセンス(CL)などに分類される。一方、酸化チタンなどの光触媒材料は伝導帯と荷電子帯とが適当な幅のバンドギャップで隔てられたバンド構造を有するが、バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を受けると荷電子帯の電子が伝導帯に励起され、その結果として荷電子帯に正孔を、伝導帯に電子を生じる。酸化チタンの表面に酸素や水が存在すると、正孔は水、もしくは水酸化物イオンを酸化してヒドロキシラジカル(OH・)を作り、励起された電子は酸素分子を還元して過酸化水素ラジカル(HO2・)を生成する。これらOH・やHO2・といった活性基は高い反応性を持っているため、近くに存在する有機化合物を酸化分解する作用を持つ。ちなみに酸化チタンのバンドギャップは3.2eVであり、380nm以下の波長の光を受けて励起反応を起こす。酸化チタンの励起反応機構を以下に示す。
【0024】
TiO2+hν(光)→h+(正孔)+e-(電子)
+(正孔)+H2O→H++OH・
-(電子)+O2+H+→HO2
光触媒材料は受ける光量が大きいほど強く励起されるが、光源と光触媒の間に空気の層が大きな距離をもって存在するほど光は分散するため、発光材料から発光された全ての光を光触媒材料が受けられない。また、光源と光触媒の間に光透過性材料が存在する場合も、光透過性材料の表面で屈折もしくは反射を起こすため、発光材料から発光された全ての光を光触媒材料が受けられない。すなわち光触媒材料と光源が中間層を持たずに隣接している形態が、光触媒材料を最も強く励起させることができる。本発明では光触媒材料と発光源である発光材料とを複合成形しており、双方が複合成形体の中で一様かつ均一に分散して隣接している構造となっているため、光触媒材料は発光材料の発する光を直近で受けることができ、光触媒材料に強い励起作用を与えることができる。また、複合成形体に電圧を印加する手段を設けて複合成形体の全体に一様かつ均一な電界を設ける構造となっているため、複合成形体を移動する電子が複合成形体に含まれる発光材料に衝突して発光材料を励起し、発光材料を一様かつ均一に発光させることができる。また、高電圧を印加した場合に起こる放電によって複合体表面が励起発光する光を受けたり、また、空気中で放電して空気分子中から放出され加速された電子やイオンを受けたりすることでも発光材料は発光する。電圧を印加することで含有する発光材料が励起発光するこの複合成形体に処理空気を通過させることで臭気ガスは光触媒材料に吸着され、光触媒材料は発光材料の光を直近で受けて励起されて活性基を生成し、生成した活性基によって臭気ガスを酸化分解して無害化することができるという作用を有する。
【0025】
また、請求項3記載の脱臭体は、請求項1または2記載の脱臭体において、光触媒材料と発光材料および吸着剤を複合成形することを特徴とするものである。吸着剤に用いる材料は、代表として活性炭、ゼオライト、シリカゲル、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などが挙げられる。物体の表面力を利用して、物体表面に臭気ガスなどを捉えて濃縮する作用を吸着という。上記材料は表面に細孔を無数に持つ構造であることを特徴とし、非常に大きな吸着面積を有すると同時に細孔構造による高い吸着効果を有する。光触媒材料、発光材料および吸着剤を複合成形することで、より多くの臭気ガスを処理空気中から捕集することができ、捕集した臭気ガスを発光材料の光によって励起された光触媒材料で酸化分解して無害化すると同時に、吸着剤の吸着捕集性能を常に高く保つことができるという作用を有する。
【0026】
また、請求項5記載の脱臭体は、請求項3または4記載の脱臭体において、光触媒材料と発光材料が吸着剤の細孔に担持されることを特徴とするものである。臭気ガスは吸着剤によって吸着され、そして吸着剤の持つ細孔の中に蓄積される。そして本発明の脱臭体においては、発光材料は細孔の中に担持された状態でも、複合成形体の全体に一様かつ均一に設けられた電界によって電子が衝突するために励起発光することができる。そして発光材料と同様に細孔の中に担持された光触媒材料は、発光材料の光を直近で受けて励起され、活性基を生成することで細孔内に蓄積された臭気ガスを酸化分解して無害化すると同時に、吸着剤の吸着捕集性能を常に高く保つことができるという作用を有する。
【0027】
また、請求項6記載の脱臭体は、請求項1乃至5いずれかに記載の脱臭体において、発光材料が近紫外・紫外波長帯の光を発するものであることを特徴とするものである。光触媒材料は前述したとおりバンド構造を持つため、バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を受けることで励起し、酸化分解作用を得る。バンドギャップの小さい光触媒材料の代表として酸化チタンを例にすると、そのバンドギャップは前述したとおり3.2eVであり、酸化チタンを励起させるためには380nm以下の光が必要となる。紫外波長帯とは光の波長が400nm以下の領域を指し、すなわち近紫外もしくは紫外波長帯の光成分が含まれる光を発光材料から発することで、酸化チタンなどの光触媒材料を励起させ、酸化分解作用を持たせることができるという作用を有する。
【0028】
また、請求項7記載の脱臭体は、請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体において、複合成形体がハニカム形状であることを特徴とするものである。脱臭体に処理空気を通過させることで臭気ガスは処理空気から除去され、分解されるが、脱臭体を構成する複合成形体をハニカム形状とすることで処理空気を通過させる時の通気抵抗を減らし、より多くの空気を脱臭処理することができるという作用を有する。
【0029】
また、請求項8記載の脱臭体は、請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体において、複合成形体が3次元の網目形状であることを特徴とする。脱臭体に処理空気を通過させることで臭気ガスは処理空気から除去され、分解されるが、脱臭体を構成する複合成形体を3次元の網目形状とすることで処理空気と複合成形体の接触効率を高めることができ、高い脱臭性能を得ることができるという作用を有する。
【0030】
また、請求項9記載の脱臭体は、請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体において、複合成形体が、通風性を有するシートをプリーツ形状に成形したものであることを特徴とするものである。脱臭体に処理空気を通過させることで臭気ガスは処理空気から除去され、分解されるが、脱臭体を構成する複合成形体がシート状でかつプリーツ状に蛇腹に成形されることで、複合成形体を処理空気が通過する時の通過風速を低減し、処理空気と複合成形体との接触時間を大きくすることで高い脱臭性能を得ると同時に通風抵抗を減らし、より多くの空気を脱臭処理することができるという作用を有する。
【0031】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
(実施の形態1)
ハニカム形状を持つ複合成形体の正面図を図1に、また、図1の複合成形体に電極および電圧印加手段を設けた脱臭体の正面図および側面図をそれぞれ図2および図3に示す。図4および図5は図3に示されたAの部分の拡大図であり、図4は光触媒材料と発光材料からなる複合成形体を、図5は光触媒、発光材料および吸着剤からなる複合成形体を用いた脱臭体をそれぞれ示している。
【0033】
図1に示すように、複合成形体1はハニカム状の通風路2を有するため処理空気を通過させる時の通風抵抗を低減することができる、もしくはより多くの空気を脱臭処理できる構造となっている。複合成形体1は光触媒材料8と、発光材料9と、もしくは吸着剤10とを含有している。そして処理空気が通風路2を通過する際に処理空気中に含まれる臭気ガス6が光触媒材料8や吸着剤10によって吸着捕集され、処理空気から除去される。光触媒材料としては酸化チタンや酸化亜鉛などが、発光材料としてはジスチリルビフェニル系発光体やオキサジアゾール−べリリウム錯体、もしくはポリシラン/色素系材料といった有機EL発光材料や硫化亜鉛や硫化ストロンチウムを主成分とし、これに希土類元素や銅などを複合化した無機EL発光材料、もしくはカルシウムなどの第2族元素と珪素などの第4族元素と希土類元素を含む窒化化合物を主成分としたPL蛍光材料などが、また、吸着剤としては活性炭、ゼオライト、シリカゲル、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などが代表例として挙げられる。複合成形体1は様々な製法で作成することが可能であるが、以下にいくつかの例を挙げる。
【0034】
a)ガラス繊維やセラミック繊維と、もしくはパルプなどで形成され、光触媒材料8と、発光材料9と、もしくは吸着剤10との混合物を無機系接着剤などで前記繊維に固定化した紙シートと、その紙シートをコルゲート状に加工したコルゲート紙シートとを接着積層する。
【0035】
b)粘土状のセラミック含有物の中に光触媒材料8と、発光材料9と、もしくは吸着剤10とを混練し、押し出し成形によってハニカム状に形成したものを焼成する。
【0036】
c)無機繊維や樹脂などで形成された、まっすぐなライナー状シートと波状のコルゲート状シートとを接着積層する、もしくはセラミックや樹脂を押し出し成形するなどして得たハニカム形状の担持体に、光触媒材料8と、発光材料9と、もしくは吸着剤10との混合物を無機系接着剤などで固定化する。
【0037】
このような製法で作成された複合成形体1の表面や内部には、図4および図5に示すように、光触媒材料8と、発光材料9と、もしくは吸着剤10とが一様かつ均一に分散され、それぞれが隣接した状態で存在している。そして図2および図3に示すように、複合成形体1の表裏の両面に通気性を有する電極4を設けて脱臭体3とし、それぞれの電極4に電圧印加手段5を接続して電圧を印加し、複合成形体1の全体において一様かつ均一に、電極4の垂直方向に対して平行となる電界を設ける。この電界により複合成形体1の表面および内部に存在する電子が加速され、加速された電子が衝突することで発光材料9が励起し発光する。発光材料9に隣接し、発光材料の光を直近で受けた光触媒材料8は、光に含まれる近紫外・紫外波長帯の発光成分によってバンドギャップ以上のエネルギーを受け取り、荷電子帯の電子が励起されてOH・といった活性基を生成し、この活性基によって光触媒材料8の表面に吸着された臭気ガス6は酸化分解され、無害化される。また、吸着剤10の表面や細孔の中にも光触媒材料8が存在するため、吸着剤10によって吸着捕集された臭気ガスも酸化分解され無害化される。このような作用によって臭気ガスを無害化すると同時に光触媒材料および吸着剤の吸着作用を維持し、高い脱臭性能を長期間にわたって発揮することが可能となっている。印加する電圧は直流でも発光材料9を発光させることができるが、交流やパルスといった振幅と振動を有する電圧成分を印加電圧に加えて電界の向きを変化させることで複合成形体1に存在する電子を常にどちらかの方向に加速することができ、発光材料9を効率よく発光させることができる。
【0038】
(実施の形態2)
実施の形態1に記載した脱臭体3を実際に作成し、脱臭体3に添着した有機系染料が分解された例を示す。光触媒材料8として平均粒径6nmのアナターゼ型酸化チタン粒子を、発光材料9として硫化亜鉛を主成分とする平均粒径500nmの無機EL発光体を、そして吸着剤10として平均粒径500nmのゼオライト粒子をそれぞれ用いた。そして希釈して粘度を下げた無機系接着剤の中に各材料を入れ、各材料が十分に混合された溶液を得た。セラミック繊維で作られたライナー状セラミックシートおよびコルゲート状セラミックシートを接着積層し、通風方向において厚さ10mmにカットしたセラミックハニカム担持体をこの溶液に漬け込み、100℃で1時間乾燥して複合成形体1とした。この複合成形体1を有機系染料であるメチレンブルー溶液に漬け込んで乾燥させ、青色に染めた後、表裏両面にラス網形状のステンレス製電極4を設けて脱臭体3とした。脱臭体3に設けた電極4に電圧印加手段5を接続し、暗所において振幅12kVp−p、周波数60Hzの正弦波形を持つ電圧を印加したところ、複合成形体1の全体が発光することを確認した。このまま暗所で電圧を6時間印加した後に電極4を取り外して複合成形体1を確認したところ、青色が脱色されて薄くなっていることを確認することができた。これは複合成形体1の酸化チタン粒子を無機EL発光体の発光によって励起し、添着したメチレンブルーを酸化分解したことを示している。このように構成された脱臭体3がホルムアルデヒドや酢酸といった臭気ガスを吸着し、同様の酸化分解作用を発揮することが十分可能であることを示す結果が得られた。
【0039】
なお、複合成形体1としてハニカム状のものを用いたが、通気性を持つのであればどのような形状のものを用いても同様の効果を得ることができる。
【0040】
また、電極4としてラス網形状のステンレス製電極を用いたが、例えば複合成形体1の表裏両面に導電性の塗料を塗布するなど、電界を複合成形体1に設けることが可能な形態であれば、どのような電極および電極の実装方法を用いてもその効果に差を生じない。
【0041】
また、光触媒材料8として粒子状のものを用いたが、ゾル状のものを用いてもその効果に差を生じない。
【0042】
また、発光材料9として無機EL発光体を用いたが、電界によって、もしくは放電によって発生した紫外線や電子、イオンによって励起発光するものであれば、他のどのような発行材料を用いても同様の効果が得られる。
【0043】
(実施の形態3)
光触媒材料と発光材料が担持された吸着剤の細孔を図6に示す。吸着剤10は無数の細孔11を有する材料で、主に細孔11の中に臭気ガス6は吸着され、蓄積される。吸着剤10の細孔11の中には光触媒材料8と発光材料9が担持されている。具体的には以下のような方法がある。
【0044】
吸着剤10を脱気処理した状態で、ゾル状の光触媒材料8と発光材料9とを均一分散させた液に浸漬し乾燥する。
【0045】
または、光触媒材料8の原材料として用いられる硝酸チタンと発光材料9とを均一分散させた溶液中で吸着剤を還流し、吸着剤10に存在するナトリウムなどの金属イオンとのイオン交換反応により、チタンを細孔11の中に担持させる。
【0046】
または、触媒材料8の原材料として用いられるチタンイソプロポキシドといった金属アルコキシドに発光材料を均一分散させた溶液中で吸着剤10を還流し、十分に混合した後に希塩酸溶液とアルコールの混合溶液を反応液として還流液に添加して加水分解・脱水縮合反応を細孔11の壁面で起こさせることで細孔11の中で発光材料と酸化チタンをゾル化し、その後焼成して十分にチタンを酸化することで、細孔11の中に光触媒材料8と発光材料9を担持させる。
【0047】
または、光触媒材料8の原材料として用いられるチタンイソプロポキシドといった金属アルコキシドと発光材料9とを均一分散させた液を蒸気にし、その蒸気を吸着剤に当てて細孔の中に入れ、焼成して担持させる。
【0048】
吸着剤としては、活性炭、ゼオライト等の多孔質材等があり、その多孔質材等の細孔に光触媒材料8と発光材料9を担持させる。
【0049】
本発明の脱臭体においては、発光材料9が細孔11の中に担持された状態でも、複合成形体1の全体に一様かつ均一に設けられた電界によって複合成形体1のあらゆる箇所に存在する電子を加速することができるため、発光材料は電子の衝突によって励起発光することができるという特徴を有する。そして発光材料9と同様に細孔の中に担持された光触媒材料8は、発光材料9の光を直近で受けて励起され、活性基を生成することで細孔11の中に蓄積された臭気ガス6を酸化分解して無害化すると同時に、吸着剤10の吸着捕集性能を常に高く保つことができるという作用を有する。
【0050】
(実施の形態4)
形態1および2に記載した以外の脱臭体の形態として、電極を挟みながら複合成形体を積層し、複合成形体の全体に積層方向の電界を一様かつ均一に設ける脱臭体の正面図を図7に、側面図を図8に示す。複合成形体1は通風方向においてハニカム形状の通風路2を有し、通風方向において通気性を有する。処理空気は複合成形体1の通風路2を通過し、処理空気中に含まれる臭気ガスは複合成形体1に一様かつ均一に分散されて含まれる光触媒材料や吸着剤によって吸着捕集されることによって処理空気から除去される。そして図7および図8に示すように、電極4がひとつおきに交互に異なる電圧が印加されるように電圧印加手段を接続することによって、複合成形体1の全体に一様かつ均一な電界を設ける。複合成形体1の表面および内部に存在する電子はこの一様かつ均一な電界によって加速され、複合成形体に一様かつ均一に分散した状態で存在する発光材料は、加速された電子が衝突することで励起し発光する。同様に複合成形体1に一様かつ均一に分散し、発光材料と隣接する形で存在する光触媒材料は発光材料の発する光を受けて励起することでOH・といった活性基を生成し、光触媒材料の表面や吸着剤に吸着した臭気ガスを酸化し分解することで無害化すると同時に光触媒材料および吸着剤の吸着作用を維持し、脱臭性能を長期間持続させることが可能となっている。
【0051】
(実施の形態5)
複合成形体が3次元の網目形状である脱臭体の側面図を図9に示す。複合成形体1はスポンジのように3次元の網目構造を持っており通気性が確保されたものとなっている。そして複合成形体1の網目部分は光触媒材料、発光材料、吸着剤で形成されているか、もしくは網目構造を持つ担持体の網目に固定化されており、通気性を有すると同時に処理空気との高い接触効率を実現している。そのため、臭気ガスを高い効率で捕集すると同時に発光材料の光を受けて励起した光触媒材料8によって捕集した臭気ガスが分解され、無害化すると同時に吸着剤の吸着捕集性能を高く保つことを実現している。
【0052】
(実施の形態6)
複合成形体が、通風性を有するシートをプリーツ形状に成形したものであることを特徴とする脱臭体の側面図を図10に示す。複合成形体1は通気性を有するシート状であり、かつプリーツ形状に蛇腹に成形されたものである。具体的には繊維を接着剤で固めてシート状に加工した担持体をプリーツ形状に成形したものに、光触媒材料、発光材料、吸着剤を均一に混合したものを一様かつ均一に固定化するといった方法で複合成形体1を作成することができる。複合成形体1がプリーツ状に成形されることで、複合成形体1を処理空気が通過する時の通過風速を低減することができる。そのため処理空気と複合成形体1との接触時間を大きくすることで高い脱臭性能を得ると同時に通風抵抗を減らし、より多くの空気を脱臭処理することができるという作用を有する。また、発光材料の光を受けて励起した光触媒材料8によって捕集した臭気ガスが分解され、無害化すると同時に吸着剤10の吸着捕集性能を高く保つことを実現している。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の脱臭体は、処理空気から吸着捕集した臭気ガスを高い効率で分解し無害化することができると同時に、臭気ガスの吸着性能を維持して高い脱臭性能を長期間にわたって発揮することができるという効果を有し、メンテナンスの要らない脱臭デバイスとなる可能性を持つことから室内ばかりでなく屋外の空気環境を向上させる用途としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施の形態1に記載の複合成形体の正面図
【図2】実施の形態1に記載の脱臭体の正面図
【図3】実施の形態1に記載の脱臭体の側面図
【図4】実施の形態1に記載の光触媒材料、発光材料からなる複合成形体の側面拡大図
【図5】実施の形態1に記載の光触媒材料、発光材料および吸着剤からなる複合成形体の側面拡大図
【図6】実施の形態3に記載の、光触媒材料と発光材料が担持された吸着剤の細孔を示す図
【図7】実施の形態4に記載の脱臭体の正面図
【図8】実施の形態4に記載の脱臭体の側面図
【図9】実施の形態5に記載の脱臭体の側面図
【図10】実施の形態6に記載の脱臭体の側面図
【符号の説明】
【0055】
1 複合成形体
2 通風路
3 脱臭体
4 電極
5 電圧印加手段
6 臭気ガス
7 分解された臭気ガス
8 光触媒材料
9 発光材料
10 吸着剤
11 細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒材料と発光材料とを複合成形し、前記複合成形体を発光させるためのエネルギーを与える手段を備えた脱臭体。
【請求項2】
複合成形体を発光させるためのエネルギーを与える手段として、前記複合成形体に電界を設ける手段を備えた請求項1記載の脱臭体。
【請求項3】
光触媒材料と発光材料および吸着剤を複合成形した請求項1または2記載の脱臭体。
【請求項4】
吸着剤が活性炭、ゼオライト、シリカゲル、酸化アルミニウム、酸化ケイ素から少なくとも1種以上を選択してなる請求項3記載の脱臭体。
【請求項5】
光触媒材料と発光材料が吸着剤の細孔に担持されることを特徴とする請求項3または4記載の脱臭体。
【請求項6】
発光材料が近紫外・紫外波長帯の光を発するものである請求項1乃至5いずれかに記載の脱臭体。
【請求項7】
複合成形体がハニカム形状である請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体。
【請求項8】
複合成形体が3次元の網目形状である請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体。
【請求項9】
複合成形体が、通風性を有するシートをプリーツ形状に成形したものであることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の脱臭体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−297319(P2006−297319A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124649(P2005−124649)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】