説明

腎毒性抑制剤として利用できる新規ペプチドおよびこれを用いた腎毒性抑制剤、並びにこれを用いた抗菌製剤

【課題】 腎毒性抑制剤として利用できる新規ペプチドおよびこれを用いた腎毒性抑制剤、並びにこれを用いた抗菌製剤を提供する。
【解決手段】 分子内に、連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸を含み、かつ、分子内において塩基性アミノ酸に挟まれる領域に配列するアミノ酸が中性アミノ酸または塩基性アミノ酸である塩基性ペプチドとして、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを合成し、上記ペプチドと[H]ゲンタマイシンとを添加した腎上皮細胞を培養する。このときの上記ペプチドのIC50値は2.1μMであり、従来の18倍以上のゲンタマイシン取り込み阻害効果が確認された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎毒性抑制剤として利用できる新規ペプチドおよびこれを用いた腎毒性抑制剤、並びにこれを用いた抗菌製剤に関し、特に、アミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する塩基性ペプチドおよびこれを用いた腎毒性抑制剤、並びにこれを用いた抗菌製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば緑膿菌などのグラム陰性菌等による感染症などにきわめて有効な殺菌力を発揮する医薬品の一つとして、アミノ配糖体(アミノグリコシド)系抗生物質が用いられている。
【0003】
ところが、アミノ配糖体系抗生物質は、他臓器と比較して腎皮質にきわめて高濃度かつ長期間にわたって蓄積し、腎毒性を高頻度に誘発することが知られている。そのため、その使用量(一回あたりの投与量、連続投与日数等)が臨床において大幅に制限されており、アミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する有効な手段が求められている。
【0004】
アミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する手段としては、例えば、特許文献1には、ホスホマイシンをアミノ配糖体系抗生物質と併用投与することによりアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する医薬品が開示されている。また、特許文献2には、水溶性ポリアニオン有機酸重合体をアミノ配糖体系抗生物質と併用投与することによりアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する方法が開示されている。
【0005】
一方、本発明者は、アミノ配糖体系抗生物質の腎移行過程にメガリンと呼ばれる、種々の基質をエンドサイトーシスによって取り込むレセプターが関与することを見出している。すなわち、アミノ配糖体系抗生物質とメガリン結合物質とを共存させると、これらが腎皮質移行過程において競合し、メガリン結合物質がアミノ配糖体系抗生物質とメガリンとの結合体の生成を拮抗的に阻害、抑制するので、メガリンを分子標的としたアミノ配糖体系抗生物質の腎移行の制御、ひいては腎毒性の抑制が可能となることを見出している(特許文献3)。特許文献3には、メガリン結合物質であるリゾチームやチトクロームCなどのタンパク質に加え、チトクロームCの部分ペプチドや、アクチン調節タンパク質(Neutral Wiskott-Aldrich syndrome protein、以下N−WASPと称する)の部分ペプチドがアミノ配糖体系抗生物質の腎移行抑制効果を有することが開示されている。
【特許文献1】特開昭57−50919号公報(昭和57年(1982年)3月25日公開)
【特許文献2】特開平2−289522号公報(平成2年(1990年)11月29日公開)
【特許文献3】特開2003−261459号公報(平成15年(2003年)9月16日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたホスホマイシンおよび上記特許文献2に記載された水溶性ポリアニオン有機酸重合体は、いずれも生体内に存在しない生体外異物であるという問題がある。
【0007】
また、ホスホマイシンは副作用として、偽膜性大腸炎などの血便を伴う重篤な大腸炎を生じることが報告されており(日本医薬品総覧 1996年版、1533頁、メディカルレビュー社)、十分な量を用いることができないことから腎毒性抑制効果が期待できず、また、抗生物質であることから耐性菌が出現する可能性もある。
【0008】
さらに、水溶性ポリアニオン有機酸重合体は、投与量が1日あたり16gにも達することがあり、投与量が非常に多いという問題がある。また、上記ホスホマイシンおよび水溶性ポリアニオン有機酸重合体のいずれも、腎障害抑制の作用機序は明らかになっていない。
【0009】
一方、上記特許文献3に記載の腎毒性抑制剤は、生体内で産生されるタンパク質またはその部分ペプチドを用いているため、上記特許文献1および2に記載された生体外異物が腎蓄積した場合に起こりうる副作用等の問題をクリアすることができる。さらに、上記部分ペプチドは分子量が小さく、モル濃度(量)基準で同等のアミノ配糖体系抗生物質の腎上皮細胞内移行抑制効果を持つことから、投与の絶対量を下げることができる。
【0010】
しかしながら、上記特許文献3に記載のタンパク質またはその部分ペプチドを用いた腎毒性抑制剤においても、アミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制するために必要な投与量は、特許文献2に記載の上記水溶性ポリアニオン有機酸重合体より大幅に少ないものの、1日当たり数グラム程度に達するため、被投与生体への負担度やコストを考えた場合、未だ満足できるものではなく、さらに少ない投与量で腎毒性抑制効果を有する物質が求められていた。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、腎毒性抑制剤として利用できる新規ペプチドおよびこれを用いた腎毒性抑制剤、並びにこれを用いた抗菌製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、上記N−WASPの部分ペプチドの一次構造を改変した新規ペプチドを用いることにより、アミノ配糖体系抗生物質のメガリン等のレセプターへの結合を競合的に阻害することができ、従来技術よりも著しく低い投与量でアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制することができることを明らかにし、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る塩基性ペプチドは、上記課題を解決するために、分子内に、連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸を含み、かつ、分子内において塩基性アミノ酸に挟まれる領域に配列するアミノ酸が中性アミノ酸または塩基性アミノ酸であることを特徴としている。
【0014】
ここで、メガリンは、塩基性ペプチドを認識しうることが知られている。また、メガリンにはセリン−アスパラギン酸−グルタミン酸の3つの酸性アミノ酸からなる配列(SDEモチーフ)が繰り返し出現する領域、いわゆるリガンド結合領域が存在し、アミノ配糖体系抗生物質はこのリガンド結合領域に結合すると考えられている。また、メガリンに加えて、アミノ配糖体系抗生物質の腎移行に関与するとされるレセプターとしては、他に酸性リン脂質がある。
【0015】
上記構成によれば、分子内に、連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸を含むため、酸性アミノ酸からなる配列である上記SDEモチーフまたは酸性リン脂質への高い親和性を獲得することができる。また、分子内において塩基性アミノ酸に挟まれる領域に配列するアミノ酸が中性アミノ酸または塩基性アミノ酸であるため、上記SDEモチーフまたは酸性リン脂質への結合を考慮した場合に不利となる塩基性領域内に存在する酸性アミノ酸の影響を排除することができる。
【0016】
したがって、ペプチドのメガリンまたは酸性リン脂質への親和性を高めることができ、アミノ配糖体系抗生物質のメガリンまたは酸性リン脂質への結合を競合的に阻害することができるため、非常に少ない投与量で、効果的にアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制し、腎毒性を低減することができる。
【0017】
また、本発明に係る塩基性ペプチドは、上記連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸がリシンであることが好ましい。後述するように、上記N−WASPの181位から200位までの部分ペプチド(以下N−WASP181−200と称する)の9位および15位のリシンをグリシンに置換すると、N−WASP181−200の腎毒性抑制効果が低下する。すなわち、連続して配列する3個以上のリシンはペプチドの腎毒性抑制に対して関与していることが示唆されている。したがって、上記構成によれば、非常に少ない投与量で、効果的にアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制し、腎毒性を低減することができる。
【0018】
また、本発明に係る塩基性ペプチドは、以下の(a)から(d)のいずれかに記載のペプチドであることが好ましい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が塩基性アミノ酸に置換されたペプチド、または1個または数個の塩基性アミノ酸が挿入、及び/または付加されたペプチド。
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個の中性アミノ酸が他の中性アミノ酸または塩基性アミノ酸に置換されたペプチド、または、1個または数個の中性アミノ酸が挿入、及び/または付加されたペプチド。
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個あるいは数個の中性アミノ酸または1個あるいは数個の酸性アミノ酸が欠質したペプチド。
【0019】
上記(a)は、上記N−WASP181−200の7位のグルタミン酸をリシンに置換したものである。これにより、塩基性アミノ酸に挟まれて存在する酸性アミノ酸のグルタミン酸が塩基性アミノ酸のリシンに置換され、上記N−WASP181−200の分子内に、連続する3個のリシン配列が生じることから、上記N−WASP181−200の上記SDEモチーフまたは酸性リン脂質への親和性をさらに高めることができる。
【0020】
したがって、上記N−WASP181−200よりもさらに高い腎毒性抑制能を持つペプチドを得ることができ、非常に少ない投与量で、効果的にアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制し、腎毒性を低減することができる。
【0021】
また、本発明に係る塩基性ペプチドは、分子内に少なくとも1個以上のD−アミノ酸を含むことが好ましい。上記構成によれば、D−アミノ酸の働きにより、上記塩基性ペプチドのプロテアーゼ耐性を高めることができ、上記塩基性ペプチドの生体内投与後の分解を防ぐことができる。
【0022】
したがって、上記塩基性ペプチドを、上記メガリンまたは酸性リン脂質が存在する部位である腎近位尿細管管腔に効率よく到達させることができるため、非常に少ない投与量の塩基性ペプチドで効果的にアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制し、腎毒性を低減することができる。
【0023】
また、本発明にかかる塩基性ペプチドは、分子内のアミノ酸のいずれか1個以上にイヌリンまたはパラアミノ馬尿酸が結合していることが好ましい。イヌリンおよびパラアミノ馬尿酸は、腎指向性の高い化合物であるため、イヌリンおよび/またはパラアミノ馬尿酸を上記塩基性ペプチドに結合させることにより、上記塩基性ペプチドを腎近位尿細管管腔に効率よく到達させることができる。したがって、非常に少ない投与量の塩基性ペプチドで効果的にアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制し、腎毒性を低減することができる。
【0024】
また、本発明にかかる塩基性ペプチドは、上記イヌリンおよび/またはパラアミノ馬尿酸がペプチド1分子あたり1分子以上結合していることが好ましい。
【0025】
また、本発明にかかる腎毒性抑制剤は、本発明にかかる塩基性ペプチドを含むことを特徴としている。本発明にかかる塩基性ペプチドは、アミノ配糖体系抗生物質の腎移行を担うレセプターであるメガリンまたは酸性リン脂質との親和性を高めたものであるため、上記塩基性ペプチドを含む腎毒性抑制剤は、上記レセプターへのアミノ配糖体系抗生物質の結合を競合的に阻害することができる。したがって、非常に少ない投与量で効果的にアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制することができるとともに、臨床においてアミノ配糖体系抗生物質の使用量を増やすことができる。
【0026】
また、本発明にかかる抗菌製剤は、アミノ配糖体系抗生物質と、本発明にかかる腎毒性抑制剤とを含むことを特徴としている。上記抗菌製剤は、本発明にかかる腎毒性抑制剤を含むので、アミノ配糖体系抗生物質が有する腎毒性を大幅に低下させることができる。したがって、臨床においてアミノ配糖体系抗生物質の使用量を増やすことができる。
【0027】
また、本発明にかかる抗菌製剤は、アミノ配糖体系抗生物質と、本発明にかかる腎毒性抑制剤とからなることを特徴としている。上記抗菌製剤は、本発明にかかる腎毒性抑制剤を含むので、アミノ配糖体系抗生物質が有する腎毒性を大幅に低下させることができる。したがって、臨床においてアミノ配糖体系抗生物質の使用量を増やすことができる。
【0028】
また、本発明にかかる抗菌製剤では、上記アミノ配糖体系抗生物質が、ゲンタマイシン、アミカシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アルベカシン、イセパマイシン、ネチルマイシン、ジベカシン、シソマイシン、ミクロノマイシン、アストロマイシンの内の少なくとも一つからなることが好ましい。上記構成によれば、臨床上非常に有用な効果を有するこれらのアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を低下させることができる。したがって、これらのアミノ配糖体系抗生物質の使用量を増やすことができ、その抗菌性を臨床上十分に利用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかる塩基性ペプチドは、以上のように、分子内に、連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸を含み、かつ、分子内において塩基性アミノ酸に挟まれる領域に配列するアミノ酸が中性アミノ酸または塩基性アミノ酸である構成を備えている。
【0030】
それゆえ、上記塩基性ペプチドのメガリンまたは酸性リン脂質への親和性を高めることができるとともに、アミノ配糖体系抗生物質のメガリンまたは酸性リン脂質への結合を競合的に阻害することができるため、非常に少ない投与量で、効果的にアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制し、腎毒性を低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の一実施形態について説明すれば、以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
<塩基性ペプチド>
一実施形態において、本発明に係る塩基性ペプチドは、分子内に、連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸を含み、かつ、分子内において塩基性アミノ酸に挟まれる領域に配列するアミノ酸が中性アミノ酸または塩基性アミノ酸である塩基性ペプチドである。
【0033】
ここで、「塩基性ペプチド」とは、等電点がアルカリ性側にあるペプチドのことであり、アルギニンやリシンなどの塩基性アミノ酸が酸性アミノ酸に比べて多く含まれている。
【0034】
一実施形態において、本発明に係る塩基性ペプチドは、分子内に、連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸を含んでいる。「連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸」とは、ペプチドの一次構造において、酸性アミノ酸や中性アミノ酸を挟まずに塩基性アミノ酸が3個以上連続して配列しているものであればよい。
【0035】
また、塩基性アミノ酸の種類は特に限定されるものではなく、アルギニンであってもよく、リシンであってもヒスチジンであってもよいが、N−WASP181−200の分子内に連続してリシンが3個配列する領域において、リシンをグリシンに置換するとN−WASP181−200の腎毒性抑制効果が低下することが知られており(足立佳範、永井純也、齋藤正樹、村上照夫、高野幹久、第19回日本薬物動態学会年会要旨集、2004年)、連続して配列する3個以上のリシンはペプチドの腎毒性抑制に対して関与していると考えられるため、リシンであることが好ましい。
【0036】
さらに、塩基性アミノ酸の配列順序は特に限定されるものではない。また、上記連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸がペプチドのアミノ酸配列中に占める位置は特に限定されるものではない。例えば、ペプチド分子中においてアミノ末端側に位置していてもよいし、カルボキシ末端側に位置していてもよい。また、ペプチドの鎖長も特に限定されるものではなく、塩基性ペプチドであれば、アミノ酸個数が10以下のオリゴペプチドであってもよいし、アミノ酸個数が10を超えるポリペプチドであってもよい。
【0037】
また、「分子内において塩基性アミノ酸に挟まれる領域に配列するアミノ酸が中性アミノ酸または塩基性アミノ酸」は、ペプチドの一次構造において、2つの塩基性アミノ酸に挟まれる単数または複数のアミノ酸が中性アミノ酸または塩基性アミノ酸であればよく、中性アミノ酸の種類、塩基性アミノ酸の種類は特に限定されるものではない。
【0038】
また、一実施形態において、本発明に係る塩基性ペプチドは、天然の精製産物、化学合成産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組み換え技術によって産生された産物を含む。
【0039】
さらに、上記塩基性ペプチドの合成方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、固相合成法、液相合成法などの化学合成法や、酵素合成法などの方法を用いればよい。後述する実施例では、Fmoc法による固相合成法を用いているが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0040】
本実施形態に係る塩基性ペプチドは、以下の(a)から(d)のいずれかに記載のペプチドであることが好ましい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が塩基性アミノ酸に置換されたペプチド、または1個または数個の塩基性アミノ酸が挿入、及び/または付加されたペプチド。
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個の中性アミノ酸が他の中性アミノ酸または塩基性アミノ酸に置換されたペプチド、または、1個または数個の中性アミノ酸が挿入、及び/または付加されたペプチド。
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個あるいは数個の中性アミノ酸または1個あるいは数個の酸性アミノ酸が欠質したペプチド。
【0041】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、上記特許文献3に記載されたN−WASPの181位から200位までの部分ペプチド(N−WASP181−200:配列番号2)の7位のグルタミン酸をリシンに置換したものである。N−WASP181−200は、等電点10.87の塩基性ペプチドであり、アミノ配糖体系抗生物質の腎移行を担うレセプターであるメガリンが塩基性ペプチドを認識しうることと、N−WASP181−200が、メガリンとともにアミノ配糖体系抗生物質の腎移行に関与するとされるレセプターである酸性リン脂質と結合しうることとから、アミノ配糖体系抗生物質の上記レセプターへの結合を競合的に阻害し、アミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する効果を奏する。
【0042】
そこで、N−WASP181−200の上記レセプターへの親和性をさらに高め、アミノ配糖体系抗生物質の上記レセプターへの結合をより効果的に阻害すれば、N−WASP181−200が有するアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する効果をさらに高め得ると考えられる。
【0043】
N−WASP181−200の上記レセプターへの親和性を高めることを考えた場合、SDEモチーフを構成する酸性アミノ酸は負に荷電しているため、N−WASP181−200の塩基性領域内に存在し、負に荷電した酸性アミノ酸である7位のグルタミン酸の存在は、N−WASP181−200とSDEモチーフとのイオン結合のしやすさを考えた場合、好ましくないと推察される。そこで、本発明者は、N−WASP181−200の上記グルタミン酸をリシンに置換し、上記SDEモチーフとの親和性をN−WASP181−200よりもさらに高めるべく、上記配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを設計した。
【0044】
それゆえ、上記配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、N−WASP181−200の1アミノ酸を置換して設計したものであるが、SDEモチーフへの親和性を著しく向上させることができた。また、上記配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、N−WASP181−200よりも塩基性を高めたものであるから、上記酸性リン脂質への親和性も向上している。したがって、上記配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、アミノ配糖体系抗生物質のSDEモチーフまたは酸性リン脂質への結合をN−WASP181−200よりもさらに効果的に阻害し、N−WASP181−200よりも非常に少ない投与量でアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を低下させることができる点で、N−WASP181−200とは明確に区別される。
【0045】
上記(b)〜(d)に記載のペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの変異体である。上記「1個または数個」の範囲は特に限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。このような変異ペプチドは、点変異導入法等の公知の変異ペプチド作製法により作製することができるが、このような人為的に導入された変異を有するペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するペプチドを単離精製したものであってもよい。
【0046】
これらの変異は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの塩基性アミノ酸の数を減少させるものではなく、酸性アミノ酸の数を増加させるものでもないため、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの腎毒性抑制効果を維持することができる。
【0047】
別の実施形態において、本発明に係る塩基性ペプチドは、分子内に少なくとも1個以上のD−アミノ酸を含むことが好ましい。D−アミノ酸は、本発明に係る塩基性ペプチドにプロテアーゼ耐性を付与し、生体内投与後の分解を防ぐ働きをするものである。
【0048】
本発明に係る塩基性ペプチドによるアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性抑制は、腎近位尿細管の管腔側膜に存在する上記レセプターへのアミノ配糖体系抗生物質の結合を、塩基性ペプチドを用いて競合的に阻害することによるものであるため、上記塩基性ペプチドにプロテアーゼ耐性を付与することにより、上記塩基性ペプチドの生体内投与後の分解が抑制され、上記塩基性ペプチドを腎近位尿細管管腔に効率よく到達させることが可能となり、より低投与量で腎毒性抑制効果を発揮させることができる。
【0049】
上記D−アミノ酸の種類としては、特に限定されるものではない。また、D−アミノ酸の存在形態としては、上記塩基性ペプチドの一次構造中に含まれていれば特に限定されるものではない。例えば、上記塩基性ペプチドに含まれるアミノ酸のいずれかがD体になっているものでもよく、上記塩基性ペプチドに1個以上のD−アミノ酸を挿入、及び/または付加したものであってもよい。
【0050】
また、別の実施形態において、本発明に係る塩基性ペプチドは、分子内のアミノ酸のいずれか1個以上にイヌリンおよび/またはパラアミノ馬尿酸が結合していることが好ましい。イヌリンは、尿細管で再吸収や分泌が行われない多糖体であり、パラアミノ馬尿酸は、尿細管で分泌される代表的な物質である。このような腎指向性の高い化合物を上記塩基性ペプチドに結合させることにより、上述のように、上記塩基性ペプチドを腎近位尿細管管腔に効率よく到達させることができ、より低投与量で腎毒性抑制効果を発揮させることができる。
【0051】
また、上記イヌリンおよび/またはパラアミノ馬尿酸の結合量は特に限定されるものではないが、イヌリンおよび/またはパラアミノ馬尿酸がペプチド1分子あたり1分子以上結合していることが好ましく、上記結合量が多すぎると上記塩基性ペプチドの体内動態に影響を与える可能性があるため、ペプチド1分子あたり1分子以上20分子以下結合していることがさらに好ましい。
【0052】
<腎毒性抑制剤および抗菌製剤>
一実施形態において、本発明に係る腎毒性抑制剤は、本発明にかかる塩基性ペプチドを含んでいる。上記腎毒性抑制剤において、アミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する効果を奏するのは、上述のように上記塩基性ペプチドであるため、他の成分は上記塩基性ペプチドの腎毒性抑制効果を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。
【0053】
例えば、他の成分としては、リゾチーム、アプロチニン、チトクロームC等のような、生体内で産生され、メガリンを基質としてアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する効果を有することが知られているタンパク質を含んでいてもよい。これらのタンパク質は、いずれも生体内で産生されるものであるため、上記ホスホマイシン等の生体外異物による副作用等の腎蓄積以降の問題を起こす心配がないという点で好適に用いることができる。チトクロームCについては、腎障害時に低下した腎尿細管上皮細胞機能を改善するという効果も期待できるため、特に好ましい。
【0054】
また、チトクロームCの部分ペプチドや、上記N−WASP181−200等のようなアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性抑制効果を有する他のペプチドを含んでいてもよい。さらに、上記塩基性ペプチドの腎毒性抑制効果を阻害しないものであれば、従来公知の成分を含んでいてもよい。例えば薬剤を製造する上で用いられる通常用いられる従来公知の医薬品添加物(保存剤、安定剤など)等を含んでいてもよい。上記医薬品添加物の量は適宜設定すればよい。
【0055】
また、一実施形態において、本発明に係る抗菌製剤は、アミノ配糖体系抗生物質と、本発明に係る腎毒性抑制剤とを含んでいる。上述のように、アミノ配糖体系抗生物質は、グラム陰性菌等による感染症などにきわめて有効な殺菌力を発揮する。上記抗菌製剤は、本発明に係る腎毒性抑制剤を含んでいるので、アミノ配糖体系抗生物質が持つ腎毒性を抑制することができるとともに、アミノ配糖体系抗生物質が有する殺菌力を十分に発揮させることができる。
【0056】
上記抗菌製剤は、上記アミノ配糖体系抗生物質と、上記腎毒性抑制剤以外の成分としては、上記アミノ配糖体系抗生物質の殺菌力および上記腎毒性抑制剤の腎毒性抑制効果を阻害するものでなければ特に限定されるものではない。例えば薬剤を製造する上で用いられる従来公知の医薬品添加物(保存剤、安定剤など)等を含んでいてもよい。上記医薬品添加物の量は適宜設定すればよい。
【0057】
また、上記抗菌製剤を用いる場合、生体内での吸収、分布、代謝、排泄などを改善するために、上記抗菌製剤の構造を修飾してもよい。
【0058】
上記アミノ配糖体系抗生物質と、上記腎毒性抑制剤との含有量の比は、特に限定されるものではないが、上記腎毒性抑制剤の含有量は、腎毒性抑制効果を示す限り、低いほど好ましい。
【0059】
また、他の実施形態において、上記抗菌製剤は、上記アミノ配糖体系抗生物質と、上記腎毒性抑制剤とからなるものであってもよい。さらに、上記抗菌製剤は、予め腎毒性抑制剤を投与して、その後に抗菌製剤を投与するように用いるアミノ配糖体系抗生物質と腎毒性抑制剤とを組み合わせた抗菌製剤としてもよい。
【0060】
本実施形態において、本発明に係る抗菌製剤に含まれるアミノ配糖体系抗生物質の種類は、特に限定されるものではないが、ゲンタマイシン、アミカシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アルベカシン、イセパマイシン、ネチルマイシン、ジベカシン、シソマイシン、ミクロノマイシン、アストロマイシンの内の少なくとも一つを含んでいることが好ましい。
【0061】
以上のように、本発明に係る塩基性ペプチド、腎毒性抑制剤、抗菌製剤を用いることにより、N−WASP等の従来技術よりも効果的にアミノ配糖体系抗生物質のメガリン等のレセプターへの結合を阻害することができ、従来よりも大幅に少ない投与量でアミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制することができる。
【0062】
その結果、アミノ配糖体系抗生物質の臨床における使用量を増加させることができ、臨床上、その抗菌性を十分に利用することができる。アミノ配糖体系抗生物質が一旦生体内に取り込まれた場合、様々な細胞障害が生じるため、その第一段階である細胞表面へのアミノ配糖体系抗生物質の結合および細胞内への取り込みを抑制することは腎毒性防御において最善の方法と思われる。また、本発明において、アミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する効果を有するのはペプチドであるため、副作用の心配がなく、抗生物質ではないため、上記特許文献1に記載の医薬品のように耐性菌が出現する問題もない。したがって、本発明の有用性は非常に高いものであるといえる。
【0063】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0064】
以下、本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【実施例】
【0065】
<ペプチドの合成>
以下に示す実施例および比較例において、ペプチドの合成は、Fmoc法による固相合成によって行った。Fmoc法は、アミノ酸のアミノ保護基として9−fluorenylmethyloxycarbonyl(Fmoc)基を用いる方法である。
【0066】
まず、合成しようとするペプチドのカルボキシル基末端のアミノ基をFmoc誘導体としたアミノ酸を樹脂に結合させる。次に、カルボキシル基末端のアミノ酸を結合した樹脂をカラムに詰め、Fmoc保護基を取り除き、アミノ基を遊離させる(脱保護)。これにFmocアミノ酸の活性エステルを反応させてペプチド結合を形成させる(結合)。以上の脱保護と結合を繰り返すことで、目的とするアミノ酸配列を持ったペプチドをカルボキシル基末端からアミノ基末端に向けて合成する。本実施例および比較例においては、上記ペプチド合成は、ペプチド合成機(島津製作所製、PSSM−8)を用いて行った。
【0067】
また、合成したペプチドは、混合物となるので、定法にしたがってHPLCを用いて精製した。合成したペプチドの純度は、飛行時間型質量分析計(パーセティブバイオシステム社製、VoygerRP−3)を用いて確認した。
【0068】
[実施例1]
<培養細胞へのゲンタマイシンの取り込み抑制実験>
培養細胞としては、メガリンが発現している培養腎上皮細胞であるOK細胞を用いた。上記OK細胞を24穴マルチプレート上に播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO−95%air)内で培養した。培養液には10%牛胎児血清を含むmedium 199を用いた。細胞がコンフルエントに到達後、ペプチドによる[H]ゲンタマイシン取り込み阻害実験を行った。
【0069】
ペプチドによる[H]ゲンタマイシン取り込み阻害実験は、[H]ゲンタマイシン (5μM)を含む等張リン酸緩衝溶液 (PBS:137mM NaCl、3mM KCl、8mM NaHPO、1.5mM KHPO、0.1mM CaCl、0.5mM MgCl、 5mM glucose)を上記培養液に添加し、各濃度のN−WASP181−200あるいは配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下「N−W(E7K)」と称する)を上記[H]ゲンタマイシンを含む PBSに共存させてインキュベーション (37℃,60分間) することによって行った。
【0070】
ペプチドによる[H]ゲンタマイシン取り込み阻害は、上記培養終了後の細胞を氷冷した上記PBSで洗浄し、0.1M NaOHで細胞を溶解した後、[H]ゲンタマイシンの細胞内移行量を測定することで評価した。[H]ゲンタマイシンの放射活性は、液体シンチレーションカウンター法で測定した。
【0071】
結果を図1、表1、および表2に示す。図1は、上記OK細胞における[H]ゲンタマイシンの取り込み量と、併用したN−WASP181−200あるいはN−W(E7K)の濃度との関係を示した図である。図1の縦軸は、ペプチドを添加しないOK細胞(対照群)の[H]ゲンタマイシンの取り込みを100とした場合の、ペプチドを横軸に示した濃度だけ添加したOK細胞の[H]ゲンタマイシンの取り込みを表すものである。つまり、縦軸の値が小さいほど、[H]ゲンタマイシンの取り込みが阻害されていることになる。
【0072】
図1に示すように、OK細胞への[H]ゲンタマイシンの取り込みは、N−W(E7K)を用いた場合も、N−WASP181−200を用いた場合も、ともにペプチドの濃度に依存して阻害された。
【0073】
しかしながら、図1よりN−W(E7K)のIC50値(最大阻害度の50%阻害を与えるペプチドの濃度)は、2.1μMと算出され、N−WASP181−200のIC50値は38.3μMと算出されたことから、N−W(E7K)はN−WASP181−200に比べて、18倍以上強いゲンタマイシン取り込み阻害効果を有することが確認された。すなわち、N−W(E7K)は、N−WASP181−200の18分の1以下という著しく少ない投与量でN−WASP181−200と同じ腎毒性抑制効果を得ることができ、非常に効率よくゲンタマイシンの腎毒性を抑制できることが確認された。
【0074】
表1は、図1に表した結果の測定値を表したものである。数値は、平均値並びに標準誤差として示した。表2は、図1および表1に示した結果を、上記OK細胞に取り込まれた[H]ゲンタマイシンの絶対値で表現したものである。数値は、平均値並びに標準誤差として示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
[比較例1]
N−WASP181−200の9位および15位のリシンをグリシンに置換したペプチド(以下N−W(K9G,K15G)と称する)と、N−WASP181−200とを用いて、実施例1と同様に培養細胞へのゲンタマイシンの取り込み抑制実験を行った。上記N−W(K9G,K15G)は、N−WASP181−200に存在する塩基性領域のほぼ中心に位置する9位および15位のリシンをグリシンに置換することで、塩基性アミノ酸が3個以上連続した領域をペプチド配列内から消失させたものである。
【0078】
結果を図2に示した。図2は、上記OK細胞における[H]ゲンタマイシンの取り込み量と、併用したN−WASP181−200あるいはN−W(K9G,K15G)の濃度との関係を示した図である。N−W(K9G,K15G)の上記IC50値は、121μMと算出され、N−W(K9G,K15G)のゲンタマイシン取り込み阻害効果はN−WASP181−200(IC50値38.3μM)の約1/3であることが確認された。
【0079】
N−W(K9G,K15G)は、上述のように、塩基性アミノ酸が3個以上連続した領域をペプチド配列内から消失させたものであるため、このことによってN−WASP181−200よりも上記SDEモチーフまたは酸性リン脂質に対する親和性が低下し、アミノ配糖体系抗生物質とレセプターとの結合を阻害する効果が低下したものと考えられる。
【0080】
このように、N−WASP181−200の2アミノ酸を置換したN−W(K9G,K15G)の腎毒性抑制効果がN−WASP181−200よりも大きく低下する一方、N−WASP181−200の1アミノ酸を置換したN−W(E7K)は、実施例1に示したように、N−WASP181−200の18倍以上の腎毒性抑制効果を示し、N−WASP181−200の一次構造の改変の相違によって対照的な結果が得られた。
【0081】
したがって、N−WASP181−200の一次構造を改変し、より腎毒性抑制効果の高いペプチドを得るためには、上記メガリン等のレセプターとの親和性等の要素を考慮して分子設計を行う必要があるため、本発明に係る塩基性ペプチドは、N−WASP181−200の構造から容易に得られるものとはいえない。すなわち、N−W(E7K)においてN−WASPの18倍以上の腎毒性抑制効果が得られた本発明の効果は、従来の技術水準から予測し得ない顕著な効果であるということができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明では、アミノ配糖体系抗生物質のメガリン等のレセプターへの結合を効果的に阻害することができるため、従来技術よりも著しく低い投与量でアミノ配糖体系抗生物質の腎移行を抑制することが可能となり、アミノ配糖体系抗生物質の使用量を大幅に増加させることができる。そのため、本発明は、アミノ配糖体系抗生物質の腎毒性を抑制する優れた薬剤として利用できるだけでなく、アミノ配糖体系抗生物質の殺菌力を利用した抗菌製剤としても利用でき、広く製薬産業に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】OK細胞における[H]ゲンタマイシンの取り込み量と、併用したN−WASP181−200あるいはN−W(E7K)の濃度との関係を示した図である。
【図2】OK細胞における[H]ゲンタマイシンの取り込み量と、併用したN−WASP181−200あるいはN−W(K9G,K15G)の濃度との関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸を含み、かつ、分子内において塩基性アミノ酸に挟まれる領域に配列するアミノ酸が中性アミノ酸または塩基性アミノ酸であることを特徴とする塩基性ペプチド。
【請求項2】
上記連続して配列する3個以上の塩基性アミノ酸がリシンであることを特徴とする請求項1に記載の塩基性ペプチド。
【請求項3】
以下の(a)から(d)のいずれかに記載のペプチドであることを特徴とする請求項1または2に記載のペプチド。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個のアミノ酸が塩基性アミノ酸に置換されたペプチド、または1個または数個の塩基性アミノ酸が挿入、及び/または付加されたペプチド。
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個または数個の中性アミノ酸が他の中性アミノ酸または塩基性アミノ酸に置換されたペプチド、または、1個または数個の中性アミノ酸が挿入、及び/または付加されたペプチド。
(d)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個あるいは数個の中性アミノ酸または1個あるいは数個の酸性アミノ酸が欠質したペプチド。
【請求項4】
分子内に少なくとも1個以上のD−アミノ酸を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の塩基性ペプチド。
【請求項5】
分子内のアミノ酸のいずれか1個以上にイヌリンおよび/またはパラアミノ馬尿酸が結合していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の塩基性ペプチド。
【請求項6】
上記イヌリンおよび/またはパラアミノ馬尿酸がペプチド1分子あたり1分子以上結合していることを特徴とする請求項5に記載の塩基性ペプチド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の塩基性ペプチドを含むことを特徴とする腎毒性抑制剤。
【請求項8】
アミノ配糖体系抗生物質と、請求項7に記載の腎毒性抑制剤とを含むことを特徴とする抗菌製剤。
【請求項9】
アミノ配糖体系抗生物質と、請求項7に記載の腎毒性抑制剤とからなることを特徴とする抗菌製剤。
【請求項10】
上記アミノ配糖体系抗生物質が、ゲンタマイシン、アミカシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アルベカシン、イセパマイシン、ネチルマイシン、ジベカシン、シソマイシン、ミクロノマイシン、アストロマイシンの内の少なくとも一つからなることを特徴とする請求項8または9に記載の抗菌製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−199668(P2006−199668A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16132(P2005−16132)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年11月1日 日本薬物動態学会発行の「第19回 日本薬物動態学会年会 講演要旨集」に発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】