説明

腐食抑制剤組成物、酸洗浄液組成物、及び金属の酸洗浄方法

【課題】 酸洗浄時の金属素地に対する良好な腐食抑制効果を維持したもとで、優れた白色度を実現できる酸洗浄液組成物等を提供する。
【解決手段】 有効成分としてアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とを含有する腐食抑制剤組成物。これらの有効成分は、より好ましくはノンチッソ型である。無機酸及び/又は有機酸からなる酸成分と、上記の腐食抑制剤組成物とを含有する酸洗浄液組成物。更に、金属の酸洗浄時に上記の酸洗浄液組成物を用いる金属の酸洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腐食抑制剤組成物、酸洗浄液組成物及び金属の酸洗浄方法に関する。更に詳しくは本発明は、金属表面に付着している錆や熱延スケール等の酸化物皮膜を除去するための酸洗浄液組成物と、これに添加される腐食抑制剤組成物と、前記酸洗浄液組成物を用いて金属を酸洗浄する金属の酸洗浄方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鋼材等の熱間圧延工程では、金属材料の表面にいわゆる熱延スケールが発生する。又、多様な産業分野において、特に水との接触環境において利用される各種装置類を構成する鋼材等の金属材料の表面には、スケールや酸化皮膜が発生する。従来より、このような金属表面の錆やスケール等の酸化物皮膜を除去するために、酸洗浄液が使用されている。酸洗浄液としては、有機酸が使用される場合もあるが、主に塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が使用されている。
【0003】
ところで、酸洗浄プロセスにおいては「酸洗浄速度は大きく」、「金属の腐食は少なく」と言う要求を両立させる必要がある。しかし、これらの酸洗浄液は、錆やスケール等の酸化物皮膜を除去する一方で、金属素地も腐食させ、金属素地の色調が黒くなる等の品質低下を免れない。従って、酸洗浄時の金属素地の腐食を防止する目的で、腐食抑制剤が酸洗浄液に添加されている。従来の腐食抑制剤として、下記の特許文献1〜3に開示されたものを例示することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−239673号公報
【特許文献2】特開2000−96049号公報
【特許文献3】特開2000−96272号公報 上記の特許文献1には第1級〜第3級アミンを単独で又は組み合わせて用いる腐食抑制剤が開示されている。上記の特許文献2には高分子アミン化合物を含有する腐食抑制剤が開示されている。更に上記の特許文献3にはイミダゾリン化合物を含有する腐食抑制剤が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、最近、金属の品質向上のため、酸洗浄時における金属素地の白色度の向上が特に強く求められている。本願発明者の研究によれば、上記特許文献1〜3に開示された窒素含有化合物を有効成分とする腐食抑制剤は、腐食抑制効果において必ずしも十分な効果を確保できないし、特に酸洗浄時の金属素地の白色度向上の面で、近年の高度な要求に対応できない。
【0006】
更に、近年、河川や海域等の環境汚染物質(富栄養化物質)としての窒素源の削減が叫ばれている。上記の特許文献1〜特許文献3に開示された腐食抑制剤はアミン化合物やイミダゾリン化合物等の環境負荷が大きい窒素含有化合物を有効成分としており、この点でも好適な腐食抑制剤であるとは言い難い。
【0007】
そこで本発明は、酸洗浄時の金属素地に対する良好な腐食抑制効果を維持したもとで、優れた白色度を実現できる(更に好ましくは、環境負荷も小さい)酸洗浄液組成物と、酸洗浄液組成物にこのような特性を与える腐食抑制剤組成物と、前記酸洗浄液組成物を用いて金属を酸洗浄する金属の酸洗浄方法とを提供することを、解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、有効成分としてアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とを含有する、腐食抑制剤組成物である。
【0009】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係るアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とがノンチッソ型である、腐食抑制剤組成物である。ここにおいて、「ノンチッソ型のアセチレンアルコール」とは分子内にアミノ基その他の窒素含有基を含まないアセチレンアルコールを言い、「ノンチッソ型の非イオン界面活性剤」とは分子内又は構成単位であるモノマー内に窒素含有基を含まない非イオン界面活性剤を言う。
【0010】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係るアセチレンアルコールが、プロパギルアルコール、メチルブチノール、ジメチルペンチノール、ブチンジオール及びヘキシンジオールから選ばれる1種以上である、腐食抑制剤組成物である。
【0011】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明のいずれかに係る非イオン界面活性剤が、分子内にエーテル基、水酸基、ケトン基、又はエステル基のいずれか1種以上を少なくとも2基以上有するものである、腐食抑制剤組成物である。
【0012】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第4発明に係る非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン重合物、ポリオキシプロピレン重合物及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合物から選ばれる1種以上である、腐食抑制剤組成物である。
【0013】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、少なくとも、無機酸及び/又は有機酸からなる酸成分と、第1発明〜第5発明のいずれかに係る腐食抑制剤組成物とを含有する、酸洗浄液組成物である。
【0014】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、前記第6発明に係る酸洗浄液組成物が、その1L当たり、アセチレンアルコールを20〜2000mg含有し、及び/又は、非イオン界面活性剤を5〜1000mg含有する、酸洗浄液組成物である。
【0015】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、前記第7発明に係るアセチレンアルコールの含有量が100〜200mgであり、及び/又は、前記非イオン界面活性剤の含有量が100〜200mgである、酸洗浄液組成物である。
【0016】
(第9発明の構成)
上記課題を解決するための本願第9発明の構成は、金属の酸洗浄時に第6発明〜第8発明のいずれかに係る酸洗浄液組成物を用いる、金属の酸洗浄方法である。
【0017】
(第10発明の構成)
上記課題を解決するための本願第10発明の構成は、前記第9発明に係る金属の酸洗浄方法により、酸洗浄後の金属素地表面において88%以上の腐食抑制率を達成したもとで、71度以上の白色度を得る、金属の酸洗浄方法である。
【発明の効果】
【0018】
(第1発明の効果)
本願発明者は、前記した技術的課題の解決手段を追求する過程で、アセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とを添加した酸洗浄液を使用すると、金属素地に対する良好な腐食抑制効果を維持したもとで、優れた白色度を実現できることを見出した。即ち、アセチレンアルコールによって主として優れた腐食抑制効果が確保される。又、これに併用する非イオン界面活性剤によって、優れた白色度の向上効果が得られると共に、腐食抑制効果も相乗的に補強される。その結果、従来の腐食抑制剤との比較において、次に述べる顕著な差異を生じる。
【0019】
第1発明の腐食抑制剤組成物は、例えば後述する実験例からも明らかなように、従来型の腐食抑制剤と比較して、酸洗浄時の金属の腐食抑制率及び白色度が、格段に高いレベルでバランス良く両立されている。即ち、窒素含有化合物を有効成分とする腐食抑制剤と比較して、酸洗浄時の金属の腐食抑制率において格段に優れ、白色度においても有意に優れている。一方、アセチレンアルコールのみを有効成分とする腐食抑制剤と比較すると、酸洗浄時の金属の白色度において格段に優れ、金属の腐食抑制率においても、酸洗浄液に対するアセチレンアルコールの同一添加量ベースで比較すると、有意に優れている。
【0020】
(第2発明の効果)
第2発明においては、アセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とがノンチッソ型であるため、従来型の窒素含有化合物を有効成分とする腐食抑制剤とは異なり、廃水処理に伴い環境を窒素汚染しない。従って、環境負荷が小さい。しかも、上記した第1発明の効果が確保される。
【0021】
(第3発明の効果)
上記したアセチレンアルコールとしては、第3発明に例示するように、プロパギルアルコール、メチルブチノール、ジメチルペンチノール、ブチンジオール及びヘキシンジオールから選ばれる1種以上であることが、特に好ましい。これらはいずれもノンチッソ型である。
【0022】
(第4発明の効果)
上記した非イオン界面活性剤としては、第4発明に例示するように、分子内にエーテル基、水酸基、ケトン基、又はエステル基のいずれか1種以上を少なくとも2基以上有するものであることが、特に好ましい。
【0023】
(第5発明の効果)
非イオン界面活性剤としては、とりわけ、第5発明に例示するポリオキシエチレン重合物、ポリオキシプロピレン重合物及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。これらはいずれもノンチッソ型である。
【0024】
(第6発明の効果)
第6発明の酸洗浄液組成物は、無機酸や有機酸からなる酸成分と、第1発明〜第5発明のいずれかに係る腐食抑制剤組成物とを含有するので、酸洗浄プロセスにおける「酸洗浄速度は大きく」、「金属の腐食は少なく」と言う要求を両立させることができる。しかも「金属の腐食は少なく」と言う要求に対して、金属の腐食抑制率及び白色度が格段に高いレベルでバランス良く両立される。
【0025】
更に、腐食抑制剤組成物が第2発明に係るノンチッソ型のアセチレンアルコールとノンチッソ型の非イオン界面活性剤からなる場合、廃水処理に伴う環境負荷が小さい。
【0026】
(第7発明の効果)
上記の酸洗浄液組成物において、アセチレンアルコールと非イオン界面活性剤との含有量は必ずしも限定されないが、それぞれ第7発明に規定する含有量であることが特に好ましい。
【0027】
即ち、アセチレンアルコールの含有量が酸洗浄液組成物1L当たり20mg未満(20ppm未満)であると、十分な腐食抑制効果を確保できず、逆に2000mg(2000ppm)を超えても、腐食抑制効果が飽和し、それ以上の効果の上積みを期待できない。一方、非イオン界面活性剤の含有量が酸洗浄液組成物1L当たり5mg未満(5ppm未満)であると、十分な白色度の向上効果を確保できず、腐食抑制に対する相乗効果も余り得られない。逆に、その含有量が1000mg(1000ppm)を超えても、白色度の向上効果や腐食抑制に対する相乗効果が飽和し、それ以上の効果の上積みを期待できない。
【0028】
(第8発明の効果)
酸洗浄液組成物におけるアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤との含有量が第8発明に規定する範囲内にあるとき、アセチレンアルコールによる腐食抑制効果と、非イオン界面活性剤による白色度向上効果及び腐食抑制に対する相乗効果とが、とりわけ効率的に発揮されるため、経済性にも優れる。
【0029】
(第9発明の効果)
第9発明においては、金属の酸洗浄時に第6発明〜第8発明の酸洗浄液組成物を用いるので、実施例においても後述するように、従来の酸洗浄液組成物を用いる金属の酸洗浄に比較して、金属の腐食抑制率及び白色度を格段に高いレベルでバランス良く両立させることができる。
【0030】
(第10発明の効果)
上記の金属の酸洗浄方法においては、例えば第10発明に示すように、酸洗浄後の金属素地表面において88%以上の腐食抑制率を達成したもとで71度以上の白色度を得るような良好な酸洗浄が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、第1発明〜第10発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。以下において「本発明」と言うときは、本願の各発明を全体的に指している。
【0032】
〔腐食抑制剤組成物〕
本発明の腐食抑制剤組成物は、有効成分としてアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とを含有する点に特徴がある。
【0033】
この腐食抑制剤組成物は金属の酸洗浄時に酸洗浄液に添加して使用されるものであるが、予め腐食抑制剤組成物を準備しておいて酸洗浄液に添加すると言う使用法も可能であるし、酸洗浄液に対してアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とをそれぞれ添加して結果的に腐食抑制剤組成物を添加した状態になると言う使用法も可能である。
【0034】
前者のように予め腐食抑制剤組成物を準備しておく場合、その有効成分であるアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤との使用時濃度は、酸洗浄液に対する腐食抑制剤組成物の添加割合によって調節される。従って、腐食抑制剤組成物におけるアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤との絶対的な含有量は余り問題とならないが、両者の相対的な含有量比は、例えば前記第7発明で規定する両者の含有量の比率を満足するように調節されていることが好ましい。
【0035】
〔アセチレンアルコール〕
アセチレンアルコールは、化学的定義に該当する限りにおいて、その種類は必ずしも限定されないが、ノンチッソ型のアセチレンアルコール、即ち、分子内にアミノ基その他の窒素含有基を含まないアセチレンアルコールが特に好ましい。このようなアセチレンアルコールとして、アセチレンモノアルコールやアセチレンジアルコールが例示され、より具体的には、プロパギルアルコール、メチルブチノール、ジメチルペンチノール、ブチンジオール及びヘキシンジオールから選ばれる1種以上を特に好ましく例示することができる。
【0036】
但し、廃水処理に伴う環境負荷を厳密に問題にしない場合には、優れた腐食抑制作用が確保されることを前提として、アミノ基その他の窒素含有基を含むアセチレンアルコール(例えば、上記に列挙した各種アセチレンアルコールのアミノ誘導体)を用いることもできる。
【0037】
〔非イオン界面活性剤〕
非イオン界面活性剤は、化学的定義に該当する限りにおいて、その種類は必ずしも限定されないが、ノンチッソ型の非イオン界面活性剤、即ち分子内又は構成単位であるモノマー内に窒素含有基を含まない非イオン界面活性剤が特に好ましい。このような非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレン重合物、ポリオキシプロピレン重合物及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合物から選ばれる1種以上を特に好ましく例示することができる。他にも、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤を用いることもできる。
【0038】
廃水処理に伴う環境負荷を厳密に問題にしない場合には、優れた白色度向上効果と腐食抑制に対する相乗効果が確保されることを前提として、分子内又は構成単位であるモノマー内に窒素含有基を含む非イオン界面活性剤を用いることも可能である。
【0039】
一方、上記のノンチッソ型か否かの区別に関わらず、分子内にエーテル基、水酸基、ケトン基、又はエステル基のいずれか1種以上を少なくとも2基以上有する非イオン界面活性剤も好ましい。その内でも、とりわけ、ノンチッソ型のものが好ましい。
【0040】
〔酸洗浄液組成物〕
本発明の酸洗浄液組成物は、無機酸及び/又は有機酸からなる酸成分に加えて、上記いずれかの腐食抑制剤組成物を含有する点に特徴がある。酸洗浄液組成物は、予め使用時濃度に調節して準備しておいても良いし、高濃度の酸洗浄原液として準備して置き、使用時に適宜に希釈して用いても良い。
【0041】
酸成分としては、この種の酸洗浄液組成物に用いられることがある無機酸及び/又は有機酸の1種以上を任意に含むことができるが、例えば無機酸としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、スルファミン酸、フッ酸等を例示することができる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、グリコール酸、アスコルビン酸、EDTA等を例示することができる。酸洗浄液の液相媒体の種類は限定されないが、水又は親水性媒体が好ましく利用される。
【0042】
本発明において、酸洗浄液組成物に添加される腐食抑制剤組成物たる上記アセチレンアルコール及び非イオン界面活性剤の添加量は必ずしも限定されないが、第8発明及び第9発明に関して前記した理由から、酸洗浄液組成物1L当たり、アセチレンアルコールを20〜2000mg(20〜2000ppm)含有し、及び/又は非イオン界面活性剤を5〜1000mg(5〜1000ppm)含有することが特に好ましい。とりわけ、アセチレンアルコールを100〜200mg(100〜200ppm)含有し、及び/又は、前記非イオン界面活性剤を100〜200mg(100〜200ppm)含有することが好ましい。
【0043】
本発明の酸洗浄液組成物は、以上の組成分以外にも、この種の酸洗浄液組成物に添加されることがある任意の組成分を含むことができる。例えば、亜硫酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩、ポリリン酸塩等の無機酸塩類、メルカプトエタノール、メルカプトグリセロール等の含硫黄有機化合物、ベンゼン環のオルト−、メタ−又はパラ−の位置に含窒素置換基や含イオウ置換基を備えた芳香族化合物、界面活性剤等を任意に含有することができる。
【0044】
〔金属の酸洗浄方法〕
本発明に係る金属の酸洗浄方法は、任意の金属の酸洗浄時に、上記いずれかの酸洗浄液組成物を用いる点に特徴がある。
【0045】
酸洗浄の適用対象となる金属の材質や形態は、限定されない。例えば、各種の加工中の金属材料や各種の装置類を構成する金属材料に対して広範囲に適用することができる。金属材料としては、鉄、炭素鋼、銅、真ちゅう等を例示できるが、鉄材が特に好ましく、とりわけステンレス等の鋼鉄材が好適である。適用対象たる装置類の1,2の例として、発電プラント、ボイラー等を好ましく例示することができる。又、一般論として、水との接触環境において利用される各種装置類も好ましく例示することができる。
【0046】
酸洗浄液による洗浄処理の具体的な方法や、洗浄処理の条件及び処理時間等は、洗浄処理の適用対象等に応じて任意に設計されるものであり、全く限定されない。例えば、洗浄処理方法としては、処理対象物を酸洗浄液に浸漬する方法や、処理対象物に対して酸洗浄液をシャワーする方法等がある。処理対象物が熱延鋼板(SPHC材)である場合、例えば80〜95°C程度の酸洗浄液に10秒〜1分ほど浸漬することができる。
【0047】
本発明に係る金属の酸洗浄方法によれば、大きな酸洗浄速度と、少ない金属腐食と言う要求を両立できるだけでなく、金属の腐食抑制効果と白色度の向上効果とを高いレベルでバランス良く両立させることができる。例えば、酸洗浄後の金属素地表面において、88%以上の腐食抑制率を達成したもとで、71度以上の白色度を得ることも、容易に達成できる。
【実施例】
【0048】
(実施例1:酸洗浄液組成物の調製)
まず10%塩酸及び100g/LのFe2+を含有する酸洗浄液を8例分準備し、これらに対して、下記の表1の実施例1〜実施例4及び比較例5〜比較例7の欄における「成分」の項にそれぞれ示す腐食抑制剤を、併せて示すppm単位の濃度となるように添加して(比較例8は腐食抑制剤を添加していない)、各例に係る酸洗浄液組成物を調製した。
【0049】
【表1】

上記の表1において、「 Ploal」はノンチッソ型のアセチレンアルコールであるプロパギルアルコールを、「 PeoPpo 」はノンチッソ型の非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合物を、「Bdol」はノンチッソ型のアセチレンアルコールであるブチンジオールを、「 MMDEA重合物」は従来技術に係る腐食抑制剤であるメタクリル酸ジエチルアミノエチル系重縮合物を、それぞれ示す。
【0050】
(実施例2:酸洗浄液組成物の性能評価試験)
供試材として、50×50×2.3(mm)の熱延鋼板(SPHC材:いわゆる黒皮材)を使用した。このSPHC材はC(0.09%)、Mn(0.26%)、P(0.017%)、S(0.021%)を含み、表面にはFeO、Fe及びFeの表面スケールが約40g/m付着した鋼板である。
【0051】
性能評価試験としては、上記の各例に係る酸洗浄液組成物800mLを適宜な耐酸性容器に収容して恒温槽中で85°Cに保ち、これらの酸洗浄液組成物中に上記供試材をそれぞれ2分間浸漬することにより、酸洗浄処理を行った。そして、各例に係る酸洗浄処理後の供試材について、下記のように腐食抑制率と白色度とを評価した。
【0052】
(実施例3:腐食抑制率の評価)
腐食抑制率の評価においては、腐食抑制剤を添加していない比較例8をスタンダードとして、まず、その場合の酸洗浄処理後の供試材の減重量(X)を測定した。次に、実施例1〜実施例4及び比較例5〜比較例7の場合における、酸洗浄処理後のそれぞれの供試材の減重量(Y)を測定した。
【0053】
そして実施例1〜実施例4及び比較例5〜比較例7における腐食抑制率(%)を「腐食抑制率(%)=〔1−(Y/X)〕×100」の式により、実施例1〜実施例4及び比較例5〜比較例7の各例ごとに算出した。従って、腐食抑制率のパーセンテージの大きいもの程、酸洗浄液組成物(換言すれば、添加した腐食抑制剤)の腐食抑制効果が高い。
【0054】
(実施例4:白色度の評価)
実施例1〜実施例4及び比較例5〜比較例7に係る上記酸洗浄処理後の供試材を水洗し、乾燥させた後の表面を分光測色計(ミノルタ製 CM2600d)を用いて測定し、「白色度=100−〔(100−L)+a+b1/2 」の式により、それぞれの白色度を求めた。上記の白色度の計算式において、「L」は明度、「a」は赤〜緑の色相(上記の分光測色計における赤〜緑の色相の読み値)を、「b」は黄〜青の色相(上記の分光測色計における黄〜青の色相の読み値)を、それぞれ意味する。結局、白色度の数値の高いものほど鋼板表面の白さが優れ、好ましい品質を意味する。
【0055】
(評価結果)
まず、スタンダードである比較例8においては、上記の計算式からして腐食抑制率が当然に0%であり、又、白色度も最も低い。
【0056】
比較例5、6は腐食抑制剤としてプロパギルアルコールのみを各100ppm及び200ppm添加したものであり、比較例7は腐食抑制剤として従来型の窒素含有高分子化合物のみを200ppm添加したものである。これらの例において、比較例5、6は比較例7に対して相対的に高い腐食抑制率を示すが、白色度は劣る、と言う関係が見られる。即ち、「第1発明の効果」欄で前記したように、アセチレンアルコールが主として腐食抑制効果に優れ、非イオン界面活性剤が主として白色度の向上効果に優れる、と言う関係が認められる。
【0057】
そして、実施例1〜実施例4においては、腐食抑制率及び白色度が格段に高いレベルでバランス良く両立されている。腐食抑制率が、実施例3においてのみ、比較例6よりもわずかに劣るが、この点が本発明の効果を否定するものとは考えられない。何故なら、実施例1、2と実施例3、4との比較から「 Ploal」の腐食抑制効果が「Bdol」に比較して相対的に優れていることは明瞭であり、しかも実施例3における「Bdol」の添加量が100ppmであるのに対して比較例6では「 Ploal」を200ppm添加しているからである。
【0058】
むしろ、比較例6と実施例2との対比、あるいは比較例5と実施例1との対比から、アセチレンアルコールに対して非イオン界面活性剤を併せ添加することにより、白色度が向上するだけでなく、アセチレンアルコールの腐食抑制効果が相乗的に補強されていることが分かる。この点は、実施例1と実施例2との対比、あるいは実施例3と実施例4との対比によっても裏付けられている。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によって、製鉄関連産業や金属材料を扱う各種産業において有効に利用され、優れた効果を得る腐食抑制剤組成物、酸洗浄液組成物、及び金属の酸洗浄方法が提供される。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてアセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とを含有することを特徴とする腐食抑制剤組成物。
【請求項2】
前記アセチレンアルコールと非イオン界面活性剤とがノンチッソ型であることを特徴とする腐食抑制剤組成物。
【請求項3】
前記アセチレンアルコールが、プロパギルアルコール、メチルブチノール、ジメチルペンチノール、ブチンジオール及びヘキシンジオールから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の腐食抑制剤組成物。
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤が、分子内にエーテル基、水酸基、ケトン基、又はエステル基のいずれか1種以上を少なくとも2基以上有するものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の腐食抑制剤組成物。
【請求項5】
前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレン重合物、ポリオキシプロピレン重合物及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合物から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の腐食抑制剤組成物。
【請求項6】
少なくとも、無機酸及び/又は有機酸からなる酸成分と、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の腐食抑制剤組成物とを含有することを特徴とする酸洗浄液組成物。
【請求項7】
前記酸洗浄液組成物が、その1L当たり、アセチレンアルコールを20〜2000mg含有し、及び/又は、非イオン界面活性剤を5〜1000mg含有することを特徴とする請求項6に記載の酸洗浄液組成物。
【請求項8】
前記アセチレンアルコールの含有量が100〜200mgであり、及び/又は、前記非イオン界面活性剤の含有量が100〜200mgであることを特徴とする請求項7に記載の酸洗浄液組成物。
【請求項9】
金属の酸洗浄時に請求項6〜請求項8のいずれかに記載の酸洗浄液組成物を用いることを特徴とする金属の酸洗浄方法。
【請求項10】
前記金属の酸洗浄方法により、酸洗浄後の金属素地表面において、88%以上の腐食抑制率を達成したもとで、71度以上の白色度を得ることを特徴とする請求項9に記載の金属の酸洗浄方法。




【公開番号】特開2006−348324(P2006−348324A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173316(P2005−173316)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(591019782)スギムラ化学工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】