腫瘍細胞においてアポトーシスシグナルを増強するための新規組成物
本発明は、DISC(Death Inducing Signaling Complex)マクロ複合体の形成を増強するため、および腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導するための組成物に関し、該組成物は、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤およびカルシウムキレーターの中から選択される活性剤の治療有効量を、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤の治療有効量と組み合わせて含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その様々な側面において、腫瘍細胞においてアポトーシスを増大させること、特に、前記細胞の抗癌処置に対する感受性を増大させることを目的とする新規組成物および方法に関する。本発明は、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤と組み合わせた、直接的または間接的に細胞内カルシウムを調節することができる剤の送達が、腫瘍細胞において前記剤のアポトーシス促進性効果を著しく増強させるという発見に基づく。
【背景技術】
【0002】
アポトーシスと称されるプログラム細胞死は、器官および組織の恒常性のために必須である。癌および自己免疫を含むヒトの疾患は、アポトーシスのプロセスが損なわれた場合に起こる。アポトーシスに対する耐性は、腫瘍化の間および化学療法処置の後の腫瘍再発の両方において生じるため、癌研究における必須の問題である。ほとんどの抗癌剤はアポトーシスを誘導することが認められることから、アポトーシスのプログラムにおける欠陥が処置の失敗の一因となる可能性が生じる。したがって、腫瘍学における主要な目的の一つは、アポトーシスに対する腫瘍細胞の耐性を克服することである。何十年もの間、癌のための医学的処置の特徴は、細胞障害性の化学療法であった。70を超える異なる薬物が現在利用可能であり、新たなものが常に開発されている。これらの薬物は、癌および非癌細胞(例えば、リンパ球、毛包、小腸上皮)を含む分裂中の細胞を標的とする。結果として、腫瘍を罹患する患者は、脱毛、胃腸症状、リンパ球減少症および骨髄機能抑制などの副作用を経験する。
【0003】
非特異的で広範囲な細胞障害性化学療法は、依然として多くの悪性腫瘍のために選択される処置であるが、近年では標的化された治療が、乳癌、大腸癌、肺癌および膵臓癌、ならびにリンパ腫、白血病および多発性骨髄腫を含む多くの型の癌のための処置の一要素となった。標的化された治療の2つの主要な型は、リツキシマブ(Bリンパ球を標的とする抗CD20)またはハーセプチン(乳房腫瘍の25〜30%において過剰発現する抗HER2)などのモノクローナル抗体、および、慢性骨髄性白血病(CML)からの白血病細胞を効率的に除去するBCR-Ablチロシンキナーゼ阻害剤であるメシル酸イマチニブなどの特異的薬理学的阻害剤である。
【0004】
化学療法により媒介される細胞死の分子機構の理解における劇的な進歩は、化学療法剤であるドキソルビシン(アントラサイクリン)が、Fas媒介性シグナル経路の誘導を通して白血病細胞株を殺傷したことを示すデータのセットからもたらされた。これらの観察に続いて、多様なin vitroおよびin vivoのモデルにおいて、多数の抗腫瘍剤が、デスレセプターFasの活性化を通して細胞死シグナルを誘導することにおいて癌細胞を除去することが確認された。
【0005】
Fas(CD95/APO-1とも称される)は、TNF(腫瘍壊死因子)受容体ファミリーに属する膜貫通型受容体である。その細胞内領域は、デスドメイン(DD)と称される80アミノ酸長を含み、これは、アポトーシスシグナルの誘導のために必須である。受容体Fasはユビキタスに発現するが、そのコグネイト(cognate)リガンドである膜タンパク質FasLは、限定された発現パターンを有する。実際、FasLは、眼および精巣などの「免疫特権」の領域中で検出され、免疫系のエフェクター細胞のアクセスを障害する。この細胞障害性リガンドは、活性化されたTリンパ球およびNK(ナチュラルキラー)細胞の細胞膜においてde novoで発現し、腫瘍細胞の除去において主要な機能を果たす。FasLはまた、化学療法処置された腫瘍細胞の表面においても見いだされ、これは、オートクリンまたはパラクリンのプロセスを通して悪性細胞の除去をもたらす。Fasは、免疫系の恒常性において、および感染したまたは形質転換した細胞の除去において、中心的役割を果たす。Fasの変異またはFasシグナル伝達経路の機能不全は、白血病誘発ならびにリンパ腫およびメラノーマの腫瘍化に有利に働く。
【0006】
2つのアポトーシスシグナル伝達経路が同定されている:(i)膜受容体が活性化された場合に細胞の死を惹起する外因性経路(TNFR1、Fas、DR3またはTramp/Wsl1/Lard/Apo3。TrailR1またはDR4/Apo2。TrailR2またはDR5/Trick/KillerおよびDR6)、ならびに(ii)ゲノムDNAの断片の蓄積などの細胞内ストレスまたは小胞体ストレスの間にミトコンドリアによるアポトーシス因子の放出を媒介する内因性経路(Kroemer G et al., Nat Med 2000. 6: 513-519)。これらの経路の両方の間には連絡が存在し、いずれの状況においても、カスパーゼと称されるプロテアーゼが活性化される。
【0007】
最終的にアポトーシスを引き起こすFas媒介性外因性経路を、図1に図示する。Fasの下流のアポトーシス促進性シグナルの伝達エフェクターは、部分的に同定されており、特に、DISCあるいは細胞死誘導シグナル伝達複合体(Death Inducing Signalling Complex)とも命名されるFas/FADD/カスパーゼ−8/c-FLIPマクロ複合体に関与する。分子レベルでは、FasLの結合により、Fas DDがホモタイプ相互作用を介して細胞質アダプタータンパク質であるFas関連デスドメインタンパク質(FADD)に凝集し、次いで、カスパーゼ−8およびカスパーゼ‐10と称されるプロテアーゼをリクルートする。これらのイニシエーターカスパーゼの近接は、それらの自己切断および活性化に有利に働く。c-FLIP(細胞性FADD様IL-1b変換酵素阻害タンパク質)と称されるカスパーゼ様タンパク質は、Fas媒介性細胞死シグナルを遮断する。c-FLIPLは、カスパーゼ−8の触媒ドメインと広範囲な相同性を共有するが、その配列は、触媒活性のために必須の保存されたアミノ酸を失っている。したがって、c-FLIPは、カスパーゼ−8およびカスパーゼ−10とFADDへの結合に関して競合することにより、Fas媒介性細胞死を障害する。カスパーゼ−8およびカスパーゼ−10は、イニシエーターカスパーゼであると考えられ、細胞質において、それらの切断されたカスパーゼは、エフェクターカスパーゼ(カスパーゼ−3、−6、−7)の活性化をもたらし、これが次いで、多様な基質をプロセシングし、細胞構造の破壊を引き起こす。
【0008】
殆どの抗腫瘍処置は、おそらくはアポトーシスにより、およびデスレセプターの活性化により、細胞死を引き起こすが、これらは依然として、その非特異的細胞障害性が原因で患者が我慢することは困難な重い処置のままであり、耐性機構の発生のためにいまだに不十分である。したがって、癌細胞におけるアポトーシスシグナル伝達を回復および/または増幅することは、腫瘍学における主要な関心事を提示する。
【0009】
出願人は、本明細書において、抗癌剤により媒介されるDISCマクロ複合体の形成および「デスレセプター」を介するアポトーシス促進性シグナルの誘導が、遊離の細胞内カルシウム濃度を低下させることにより、および/または細胞膜のカルシウムチャネルの活性を調節することにより、著しく増強されたことを証明した。
【0010】
高カルシウム血症は、中程度から>3mMの重篤であることに拘らず、副甲状腺機能亢進症の55%、癌の30%およびほかの病態の15%において観察されている。乳癌、肺癌および腎臓癌、前立腺癌、リンパ腫または多発性骨髄腫などの腫瘍性疾患の場合、高カルシウム血症は、一般に、骨転移の発生、骨吸収の加速ならびに腎臓によるカルシウム保持の増大に関連することは、注意すべきである。これらの現象に加えて、腫瘍細胞は、PTHあるいは副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTH-rP)に類似する物質を分泌する場合があり、これは、破骨細胞の活性を刺激するのみならず、カルシウムおよびリン酸イオンの吸収、排出および再吸収を変化させる。結果として、癌患者の10〜20%は、腫瘍性疾患と関連する最も重篤な代謝性疾患として高カルシウム血症を有する。これらの患者は、一般に、骨転移から生じる合併症を低減するために、ならびに彼らの生存及び生活の質を向上させるために、低カルシウム血症誘導剤により処置される。
【0011】
また、細胞内カルシウムは、細胞のシグナル伝達にセカンドメッセンジャーとして関与することが知られており、そのメッセージは、その時間的特徴(すなわち、期間、頻度)、その空間的局在およびその規模に依存する。細胞内カルシウムパターンの複雑さは、増殖、分化、遊走および死などの、広範囲の細胞プロセスへの関与の原因となる。最近の臨床的観察によると、長く細胞死の触媒であると考えられてきたカルシウムの役割は、実際にはより両面的な(ambivalent)ものであるらしい。例えば、白金に基づく化学療法薬と組み合わせたカルシウム補給の使用は、進行性大腸癌における抗腫瘍効果を変える。幾つかの抗腫瘍剤(例えば、ドキソルビシン、シスプラチン、エデルホシン(edelfosine)、リツキシマブ)が、CD95シグナルの誘導を通して悪性腫瘍の除去を引き起こすことが記載されている。しかし、細胞内([Ca2+]i)および/または細胞外([Ca2+]e)カルシウム濃度の増大が、CD95などのデスレセプターのシグナルの初期段階を阻害することにより細胞死を予防するか否かを評価するための、何らの臨床的研究も行われていない。
【発明の概要】
【0012】
発明の要旨
本発明は、低カルシウム血症誘導剤、非透過性カルシウムキレーターなどの血清カルシウム濃度を低下させることができる細胞内カルシウムモジュレーター剤、またはチャネル媒介性カルシウム流入阻害剤、透過性カルシウムキレーターなどの細胞内カルシウム濃度を低下させることができる剤の治療有効量と、デスレセプターを介するアポトーシス促進性シグナルを誘導することができる少なくとも1つの抗癌剤との組み合わせを含む、新規医薬組成物に関する。本発明による新規の治療的組み合わせは、DISC複合体の形成を増強するために、ならびに癌を処置するため、および/または癌の再発を予防するために、特に有用である。
【0013】
本発明はまた、DISCマクロ複合体の形成およびアポトーシス促進性シグナルを増強するための、低カルシウム血症誘導剤、非透過性カルシウムキレーターなどの血清カルシウム濃度を低下させることができる細胞内カルシウムモジュレーター剤、またはチャネル媒介性カルシウム流入阻害剤または透過性カルシウムキレーターなどの細胞内カルシウム濃度を低下させることができる剤と、デスレセプターを介するアポトーシス促進性シグナル伝達を誘導することができる少なくとも1つの抗癌剤との組み合わせ、ならびに抗癌処置剤の製造のためのその使用に関する。
【0014】
本発明はさらに、癌および/または細胞増殖を処置する方法、癌の再発を予防する方法、ならびに腫瘍細胞をデスレセプターを介してアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤に対して感受性にする方法に関する。好ましい態様によれば、処置される癌患者は、原発腫瘍、造血癌または固形腫瘍に罹患しており、いかなる骨転移をも示さない。
【0015】
最後に本発明は、ex vivoで腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介される抗癌剤のアポトーシス促進性効果を増強することができる化合物をスクリーニングする方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、Fas媒介性アポトーシスシグナルの誘導カスケードの模式図である。FADD:デスドメインを介したFasの会合;Cyt c:チトクロムC;Apaf-1:アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1;DISC:細胞死誘導シグナル伝達複合体。
【0017】
【図2】図2Aは、ウェスタンブロット技法およびFasの免疫沈降により、H9細胞株(リンパ腫T細胞)におけるDISCマクロ複合体の形成を示す。細胞は、未処置(対照)であるか、またはBAPTA-AM(10μM)などのカルシウム透過性キレーター、もしくは細胞内カルシウムの増大を誘導するイオノフォア、すなわちイオノマイシン(1μM)と共にプレインキュベートされ、その後、15分間37℃で(15分)または4℃で(0分)の、1μg/mlの抗Fas APO1-3アゴニスト抗体の存在下において活性化されている。細胞を次いで溶解し、Fasを免疫沈降し、会合した複合体を、ウェスタンブロットにより分析した。図2Bは、先に示した反応物と共にインキュベートした細胞におけるFasの免疫沈降の間にDISCマクロ複合体中に存在する異なる成分のデンシトメトリー(ImageJプログラム)による定量的分析を表す。
【0018】
【図3】図3Aは、異なる細胞モデルにおける細胞死のパーセンテージの増大を示す。健康な対象から得られた活性化されたリンパ球T(PBLs)、Tリンパ球細胞株(Jurkat、H9、CEM、CEM-IRC)およびBリンパ球細胞株(SKW6.4、RajiおよびBL2)を、1μMの透過性カルシウムキレーターBAPTA-AMと共にプレインキュベートし、次いで、特定の用量のFasLで処置した。細胞死をMTT試験を用いて定量した。 図3Bは、Bリンパ腫細胞株RajiおよびBL2の表面におけるFas受容体の発現を、同位体標識(陰性対照)と比較して、抗Fasモノクローナル抗体およびフローサイトメトリーによる蛍光強度測定を用いて示す。
【0019】
【図4】図4A〜Dは、先に透過性キレーター剤BAPTA-AM(1μM)を含む、または含まない(示すとおり)培地中でインキュベートし、次いでリツキシマブまたはエデルホシンで処置したBurkittリンパ腫細胞株、RajiおよびBL2におけるアポトーシスのパーセンテージを示す。アポトーシスの%は、ミトコンドリア膜電位ΔΨmの減少として測定した。
【0020】
【図5A】図5A〜Cは、カルシウムイオンキレートのDR4/DR5アポトーシス経路により誘導されるアポトーシスシグナルに対する効果を示す。図5Aは、事前の透過性カルシウムキレーターBAPTA-AM(1μM)を含有する培地中でのインキュベーション(15分間)有りまたは無しで、24時間TRAILリガンドで処置した、BL2細胞株(a)および活性化PBL(b)におけるアポトーシスの%を示す。
【図5B】図5Bは、事前の透過性カルシウムキレーターBAPTA-AM(1μM)を含有する培地中でのインキュベーション(15分間)有りまたは無しで、24時間フルオロキセチンで処置した、BL2細胞株(a)および活性化PBL(b)におけるアポトーシスの%を示す。
【図5C】図5Cは、事前の透過性カルシウムキレーターBAPTA-AM(1μM)を含有する培地中でのインキュベーション(15分間)有りまたは無しで、24時間MG132で(a)またはレスベラトロールで(b)処置したBL2細胞株におけるアポトーシスの%を示す。
【0021】
【図6】図6Aは、(細胞集団において、Indo-1をカルシウムプローブとして使用する)Raji細胞株における細胞内カルシウム濃度の蛍光定量的測定を表す。細胞外カルシウムの濃度の3mMの変化は、細胞内カルシウム濃度の急激な上昇(数秒間)(約30nM)を誘導した(図6A−左グラフ)。これらの細胞は、カルシウム透過性キレーター、BAPTA-AM(10μM)であらかじめ処置した場合に、3mMのCa2+の細胞外適用に対する応答における細胞内カルシウム濃度のより小さな増大を示す(図6A−右グラフ)。図6Bは、正常ヒトBリンパ球(左グラフ)における、およびリンパ節生検から得られた腫瘍Bリンパ球(右グラフ)における、与えられた濃度の細胞外カルシウム(0および2mM)と比較しての、nMにおける基底の細胞外カルシウムの濃度の測定を示す。図6Cは、0.8mMまたは3mMのカルシウムを含有する10%ウシ胎児血清(FVS)添加RPMI培地中で培養し、次いで増加する濃度のリツキシマブで処置したRaji細胞株におけるアポトーシスの%の測定を表す。アポトーシスの%は、ミトコンドリア膜電位ΔΨmの減少により測定した。図6Dは、0.5mMまたは4mMのカルシウムを含有する規定の培地中で培養し、次いで増加する濃度のリツキシマブで処置したRaji細胞株におけるアポトーシスの%を表す。アポトーシスの%は、ミトコンドリア膜電位ΔΨmの減少により測定した。
【0022】
【図7】図7A〜Bは、44μMの2-APB、カルシウムチャネル阻害剤の、アポトーシスの誘導に対する効果を示す。2-APBは、カルシウム流入を活性化するSERCA阻害剤であるタプシガルジンにより(左グラフ)および細胞外カルシウム濃度の0mMから5mMへの増大により(右グラフ)誘導された細胞内カルシウム濃度の上昇を低下させた。2-APBは、Fasアポトーシスシグナルを、特に白血病TおよびB細胞において、大幅に感受性にさせる(図7B)。
【0023】
【図8】図8A〜Cは、可溶性CD95リガンド(またはFasリガンド)の添加の後での、Nikonマイクロ蛍光分光計(Indo-1プローブ)で測定した細胞内カルシウム濃度の変化であって、機能的Fas受容体を発現するH9(Tリンパ腫細胞株)およびJurkatT白血病細胞株におけるもの(図8A)、CD95のヘミ接合性変異対立遺伝子を発現するJurkatT白血病細胞株(Jurkat-CD95-Q257K)におけるもの、Fas受容体の変異対立遺伝子(Fas Q257K)におけるもの、ならびにカスパーゼ8を欠損する(カスパーゼ−8 −/−)またはADDアダプターを欠損する(FADD−/−)多様な細胞クローンにおけるものを示す。
【0024】
【図9】図9AおよびBは、BAPTA-AMまたはカルシウムチャネル阻害剤2-APBのいずれかとの細胞プレインキュベーションの効果であって、基底の細胞内カルシウム濃度に対する(図9A)、およびCD95のキャッピングの形成に対する(図9B)効果を示す。
【0025】
【図10】図10は、ウェスタンブロット技法、Fasの免疫沈降、およびゲル濾過クロマトグラフィー(size exclusion chromatography)により、Jurkat細胞における、BAPTA-AMでの事前の処置を介する細胞内カルシウム濃度の低下によるCD95の凝集の形成を示す。
【0026】
【図11】図11A〜Cは、ウェスタンブロットにより、IP3-RアンタゴニストであるゼストスポンジンCの添加による、FADDのCD95への結合の著しい増加(図11A)、H9細胞株、Jurkat白血病T細胞において、活性化された末梢血Tリンパ球(PBTs)におけるBAPTA-AMおよび2-APBの添加によるDISC形成の誘導(図11B)、ならびにイオノマイシンの添加による細胞内カルシウム濃度の上昇によるFADDリクルートメントおよびDISC形成の不在(図11C)を示す。
【0027】
【図12】図12は、カスパーゼ−8の発光源性(proluminogenic)基質を用いることにより、BAPTA-AMまたは2-APBの添加による[Ca2+]Iの下方調節によるカスパーゼ−8の活性化を示す。
【0028】
【図13】図13は、BAPTA-AMまたは2-APBでプレインキュベートしたRaji H9、CEMおよびSKW6.4細胞株におけるアポトーシスの%の測定を表す。アポトーシスの%は、ミトコンドリア膜電位ΔΨmの減少により測定した。
【0029】
【図14】図14A〜Dは、BAPTA-AMで事前に処置された多様な細胞株(図14A〜C)における、およびCD95のヘミ接合性変異対立遺伝子を保有する白血病T細胞株Jurkat(Jurkat-CD95Q257K)(図14D)における、ミトコンドリア膜電位およびCD95媒介性アポトーシスシグナルの変化を示す。
【0030】
【図15】図15A〜Eは、Nikonマイクロ蛍光分光計(Indo-1プローブ)で測定した、細胞外カルシウム濃度を増大させることによる細胞内Ca2+濃度(nM)の変化を示す(図15A)。図15Bは、カルシウム(3mM)添加培地中でインキュベートした細胞におけるDISC形成を、より少ない量の細胞外遊離カルシウム(1mM)を含む培地中でインキュベートした細胞と比較して示す。図15Cは、ウェスタンブロットにより、BAPTAおよびEGTAの両方で処置したH9細胞株におけるFADDのリクルートメントの増強ならびにDISC形成の増強を示す(図15C)。図15Dおよび15Eは、EGTAまたはBAPTAのいずれかにより処置したT細胞およびB細胞株の細胞死の%を、未処置の細胞株と比較して示す(図15Dおよび15E)。
【0031】
【図16A】図16は、ゾレドロネートのin vitroおよびin vivoでの効果を示す。図16A:細胞内カルシウム濃度を、細胞集団において、蛍光カルシウムプローブとしてindo1-AMを、および蛍光分光計Hitachi F2500を用いて測定した。
【図16B】図16B:アポトーシス細胞のパーセンテージを、BL2、Raji、Jurkat細胞において、示すとおりの多様な濃度のTRAIL、リツキシマブ(RTX)またはFasLに対する応答において、および10μMゾレドロネート(ZOL)の存在下または不在下において、ミトコンドリア膜電位(TMRMプローブ)を測定することにより決定した。
【図16C】図16C:血液試料を、マウスから生理学的血清またはゾレドロネート注射(1週間に1回の注射、4週間、4mg/kg)の3日後に採取した。
【図16D】図16D:生理学的血清(対照)、ゾレドロネート単独(Zol、1週間に1回の注射、4週間、4mg/kg)、リツキシマブ単独(RTX、1週間に1回の注射、4週間、2mg/kg)、または二つの薬物の組み合わせ(ZRTX、1週間に1回の注射、4週間、RTX:2mg/kg、ゾレドロネート:4mg/kg)による処置の後での腫瘍量(tumour mass)(mm3)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明は、DISCマクロ複合体の形成を増強するため、および腫瘍細胞においてアポトーシスシグナルを誘導するための新規組成物に関し、該組成物は、治療有効量における、カルシウムの細胞内濃度を低下させることができる細胞内カルシウムモジュレーター剤と、デスレセプターを介するアポトーシスシグナルを誘導する少なくとも1つの抗癌剤との組み合わせを含む。
【0033】
本発明の枠組みの中で、出願人は、驚くべきことに、デスレセプターにより媒介される抗癌剤の殺腫瘍(tumoricide)活性が、前者が細胞内カルシウムを低下させるおよび/または腫瘍細胞におけるカルシウムチャネルの活性を調節することができる少なくとも1つの剤と組み合わせて送達された場合に、著しく増大したことを実証した。細胞内カルシウムの低下は、したがって、DISCマクロ複合体の形成を増強すること、ならびに特定の化学療法剤の細胞死シグナル伝達を可能にする。
【0034】
本発明による組み合わせは、抗癌処置の効力を顕著に増大させる。言い換えると、抗癌剤の治療効果は、予想外に、細胞内カルシウム濃度モジュレーター剤の送達により増強される。
【0035】
本発明による組み合わせにより提供される続く別の主要な利点は、現在標準的な化学療法として投与されているものよりも低いが、なお効率的な用量の抗癌剤を使用し、それにより副作用、特に細胞障害効果のリスクを低下させる可能性に関する。
【0036】
本発明によれば、細胞内カルシウムモジュレーター剤とは、腫瘍細胞におけるカルシウム細胞内濃度に対して直接的または間接的作用を有する任意の剤を意味する。好ましくは、これらは、本発明によれば、(i)カルシウムチャネル阻害剤および透過性カルシウムキレーターなどの細胞内カルシウム濃度を低下させることができる剤、または(ii)低カルシウム血症誘導剤および細胞外カルシウムのキレーター(非透過性)などの、その活性がカルシウムの血清濃度を低下させることを目的とする剤である。実際に、出願人は、細胞内カルシウム濃度が細胞外カルシウム濃度により厳密に制御されることを示した。したがって、出願人はまた、細胞外カルシウム濃度を低下させることにより、例えばリツキシマブに対するアポトーシスの応答が、Bリンパ球細胞株において増強されたことを示した。
【0037】
本発明は、したがって、DISC(細胞死誘導シグナル伝達複合体)マクロ複合体の形成を増強し、腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導するための組成物に関し、該組成物は、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤、および透過性または非透過性のカルシウムキレーターの中から選択される活性剤の治療有効量を、デスレセプターFasを介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤、TNF-R1、DR4および/またはDR5の治療有効量と組み合わせて含む。
【0038】
これらの細胞内カルシウムモジュレーター剤は、当該分野において周知である。例えば、低カルシウム血症誘導剤は、ビスホスホネート、カルシウム模倣剤またはカルシトニンの中から選択することができる。ビスホスホネートの中では、パミドロネート、ゾレドロネート、エチドロネート、イバンドロネートまたはクロドロネートを挙げてもよい。カルシウム模倣剤は、例えばシナカルセトであってもよい。
【0039】
カルシウムチャネル阻害剤もまた、当該分野において周知であり、例えば2−アミノエトキシジフェニルホウ酸(2-APB)、ML-9またはBTP-2であってもよい。
【0040】
カルシウムキレーターは、非透過性の剤であるBAPTA(1,2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸)、EGTA(グリコール−ビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸)、EDTA(2−[2−(ビス(カルボキシメチル)アミノ)エチル−(カルボキシメチル)アミノ]酢酸)もしくはCDTA(トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン−四酢酸)、または対応する透過性の形態、すなわちBAPTA-AM(1,2−ビス−(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−テトラ−(アセトキシメチル)四酢酸エステル)、5,5’−ジフルオロ−BAPTA-AM(5,5’F2 BAPTA)もしくは5−5’−ジメチル−BAPTA-AMなどのBAPTA-AMの誘導体、EGTA-AM、EDTA-AMおよびCDTA-AMを伴う。好ましいカルシウムキレーターは、BAPTA-AM([1,2−ビス−(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸テトラ−(アセトキシメチル)エステル])であり、これは、Ca2+をキレートする現行の様式をとることができない細胞透過性化合物として知られている。細胞内に入ると、BAPTA-AM分子はユビキタスな細胞内エステラーゼにより加水分解され、細胞膜非透過性Ca2+キレーターを放出する。細胞内の遊離カルシウムを特異的にトラップするBAPTA-AMとは対照的に、未修飾の非透過性BAPTAまたはEGTAは、優先的に細胞外の遊離カルシウム(1〜3mM)をキレートし、その量は、細胞質のカルシウム(≒100nM)よりも10000倍重要である。
【0041】
あるいは、細胞内カルシウムモジュレーター剤は、本発明により、例えばML-9、BTP-2またはSKF9636などのORAI-1チャネルの阻害剤であってもよい。
【0042】
デスレセプターにより媒介されるアポトーシス促進性シグナルを誘導する抗癌剤とは、患者に送達された場合に、デスレセプターを介してアポトーシス促進性シグナルの伝達を誘導し、それにより腫瘍細胞を除去する活性化合物を意味する。
【0043】
デスレセプターとは、アポトーシスシグナル伝達の外因性経路に関与するTNFR1、FasまたはApo1/CD95、DR3またはTramp/Wsl1/Lard/Apo3、TrailR1またはDR4/Apo2、TrailR2およびDR5/Trick/KillerおよびDR6受容体を意味する。したがって、本発明による、細胞内または細胞外のカルシウム濃度を低下させることを目的とする剤と、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤との組み合わせは、DISC複合体の形成に対して、および腫瘍細胞におけるアポトーシスシグナルの誘導に対しての、相乗効果を示す。
【0044】
このことに関して、出願人は、デスレセプターCD95またはFasの刺激が、迅速かつ一過性の細胞内カルシウムの上昇へと伝達され、これがアポトーシスシグナルの誘導を防止したことを証明した。興味深いことに、このカルシウムピークの阻害および細胞内カルシウム濃度の下方調節は、CD95(CD95-CAP)のクラスター化およびFADDのCD95へのリクルートメントを促進した。最後に、出願人は、細胞内カルシウムの低下が、抗腫瘍薬の細胞障害作用を増強し、それにより、CD95媒介性アポトーシスシグナルの誘導を通して悪性細胞の除去を可能にしたことを示した。さらに、出願人は、高カルシウム血症の下方調節が、免疫系または化学療法のいずれかにより惹起されるデスレセプターシグナルを増強し得ることを指摘した。
【0045】
白血病細胞株および活性化されたリンパ球を用いて、出願人は、CD95の関与が、DISCと称されるデスドメイン依存的構造に依存しないで起こる、迅速かつ一過性の細胞内カルシウムの上昇を誘導したことを強調した。カルシウムはしばしば細胞死の強力な触媒としてみなされてきたが、出願人は、驚くべきことに、このイオン流入が、DISCの形成、およびより正確にはFADDのリクルートメントを防止することにより、抗アポトーシス機能を示すことを証明した。これらの発見は、カルシウムがCD95凝集のレベルでのCD95分子の秩序(ordering)を標的とすることを指摘する。なぜならば、[Ca2+]iの低下はCD95L非依存的なCD95のクラスター化をもたらすからである。驚くべきことに、デスレセプターの凝集は、細胞死を誘導するためには、まだ不十分である。なぜならば、白血病細胞株をBAPTA-AMまたは2-APBと共に長期培養すること(24時間まで)により、CD95-CAPは駆動されるが、アポトーシスシグナルは惹起されなかったからである。
【0046】
小胞体ストア(store)からのカルシウムの放出は内因性刺激により惹起されるアポトーシスシグナルにおいて重要な役割を果たすが、細胞内カルシウムの調節は、CD95媒介性アポトーシスシグナルに対しては優勢な効果を発揮しないことが知られている。さらに、CD95の刺激により観察される細胞内カルシウムの上昇の強さ、頻度および起源については、まだ議論の余地がある。ある者は急激なPLCβ依存的およびIP3R依存的なカルシウムの上昇を観察したが、一方で、他の者は、CD95の刺激により遅れたカルシウムの上昇を測定した。カルシウムの起源についてもまた議論の余地が存在し、ある著者は細胞内カルシウムの上昇はERのカルシウムストックの放出にのみ依存することを示したが、一方、他者は、細胞内および細胞外カルシウムの両方が、CD95の刺激による細胞質カルシウムの上昇に関与することを強調した。
【0047】
さらに、カルシウムが、そのCa2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII(CaMKII)の調節を介して、抗アポトーシス因子c-FLIPの情報調節を通してCD95媒介性アポトーシスシグナルを予防することができたことが示されている。対照的に、出願人は、カルシウムの下方調節によるc-FLIP発現のいかなる変化も観察せず、さらに、カルシウムはFADDのリクルートメントを標的とし、これは、c-FLIPによるカスパーゼ−8/−10の凝集の競合的阻害の上流でもたらされた。さらに、カルモジュリンアンタゴニストであるカルミダゾリウムの使用は、CD95媒介性アポトーシスシグナルを変化させず、透過性CaMKII阻害性ペプチド281-309は、TRAILにより誘導されるアポトーシスシグナルからの保護を可能にする一方で、これは、CD95の刺激に影響を及ぼさなかった。CaMKIIのCD95媒介性アポトーシスシグナルにおける関与が、CaMKII非依存的プロセスを通してイノシトール1,4,5−三リン酸受容体(IP3R)を遮断するとも報告されているアンタゴニストKN-93を用いて研究されたことは注目に値する。まとめると、これらの発見は、CD95によるFADDのリクルートメントにおけるCaMKIIの関与を排除する。
【0048】
CD95の刺激によるPLCβ1の活性化は、IP3を生じ、これは、CD95の刺激による細胞内カルシウムのピークの誘導において重要な役割を果たす。PLCβ1とCD95との間のリンクはまだ解明されていないが、本明細書において出願人は、デスドメインおよびDISCの主要な成分がこのプロセスに関与しないことを示した。小胞体ストアからのカルシウム放出に続いて、SOCチャネルを通して細胞外カルシウムが流入する。本発明者らの実験において観察されたカルシウムの上昇は、これらのプロセスの合計に対応し、これはいずれもアポトーシスシグナルの調節に関与する。なぜならば、IP3-Rの阻害および[Ca2+]eの下方調節の両方が、DISC形成および続くアポトーシスシグナルの誘導を改善するからである。
【0049】
多様な化学療法剤がデスレセプターの凝集および続くアポトーシスシグナルの誘導を介して悪性細胞の除去を惹起することが報告されていることは、注目に値する。出願人はさらに、細胞外のカルシウム濃度の下方調節が、薬物がデスレセプターシグナルの誘導を通して悪性細胞を殺傷する抗腫瘍効果を促進し得るか否かを調査した。これらの結果は、腫瘍学において大きな関心を有し得る。ならならば、本発明者らは、生理学的に受容可能な範囲における高カルシウム血症の低減が、CD95L発現免疫細胞(活性化されたTリンパ球およびNK細胞)またはCD95依存的化学療法薬のいずれかの細胞障害作用を促進し得ることを想定し得たからである。
【0050】
したがって、本発明の組成物は、上記のカルシウム濃度のモジュレーターと組み合わせて、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5により媒介されるアポトーシスシグナルを誘導することができる抗癌剤の治療有効量を含む。かかる抗癌剤は、好ましくは、抗CD20抗体、抗Fas抗体、抗TNF-R1抗体、抗DR4抗体および抗DR5抗体の中から選択される。
【0051】
あるいは、これらの抗癌剤は、FasL、TRAIL、これらの可溶性部分、およびより一般的にTNFR1、Fas(Apo1/CD95)、DR3またはTramp/Wsl1/Lard/Apo3、TrailR1またはDR4/Apo2、TrailR2およびDR5/Trick/KillerおよびDR6 デスレセプターの全てのリガンドの中から選択してもよい。
【0052】
好ましい剤は、TRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)であり、これは、Henson ESら(Leuk Lymphoma 2008. 49: 27-350)により特に記載されている。TRAILはTNFファミリーに属し、DR4またはDR5デスレセプターに結合して、それにより、Fas受容体のものに匹敵する細胞死シグナルを誘導する。出願人は、以下の例において、TRAILが、組み合わせにおいて、白血病細胞に対する、またはリンパ腫に由来する細胞に対する殺腫瘍作用を示したことを示している。また、例において示したとおり、TRAILを添加することによる細胞死の誘導はまた、カルシウムのキレートにより増強された。
【0053】
モノクローナル抗体の中では、リツキシマブもしくはRituxan(登録商標)、GA-101、オファツムマブ、LFB-R603またはベルツズマブなどの抗CD20抗体を挙げることができる。リツキシマブおよびその依存的なFas殺腫瘍活性は、Stel AJら(J Immunol 2007. 178: 2287-2295)およびVega, M. I.(Oncogene 2005. 24: 8114-8127)により特に報告されている。出願人は、Bリンパ球に対するリツキシマブの添加がFasアポトーシスシグナル伝達を介して作用することを、特に示した。
【0054】
本発明による相乗的組み合わせにおいて用いることができる、デスレセプターを介するアポトーシス促進性シグナルを誘導することができる他の抗癌剤として、例えばMG132などのプロテアソーム阻害剤;例えばトリコスタチンA、デプシペプチド、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、LAQ824、バルプロ酸およびベンズアミドなどのヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi);例えばエファビレンツなどの逆転写酵素阻害剤;メトホルミンおよびベンフルオレックスなどの血糖降下剤;フルオロキセチン、セルトラリン、パロキセチン、およびシタロプラムなどの選択的セロトニン再取り込み阻害剤;イミプラミンなどの三環系薬;レナリドマイド、アクチミド(actimid)またはポマリドマイドなどのサリドマイド;エデルホシン、イルモホシン(ilmofosine)およびペリホシンなどのエーテル脂質;ならびにレスベラトロールなどのポリフェノール類が挙げられる。
【0055】
さらなる詳細については、当業者は、French Association of Therapeutic Chemistry Teachersにより刊行されたマニュアル、表題「treatise on therapeutic chemistry, Vol. 6, Antitumoral medications and perspectives in treatment of cancers」(TEC & DOC publishers、2003年)を参照することができる。
【0056】
最後に、別の側面によれば、本発明は、少なくとも1つの細胞内カルシウム濃度モジュレーター剤の治療有効量と、少なくとも1つのホスホチジルイノシトール−3キナーゼ(PI3K)シグナル経路阻害剤の治療有効量との相乗的組み合わせに関する。本発明によれば、これらの抗腫瘍性の組み合わせにより、腫瘍細胞を化学療法に対して著しく感受性にすることができる。好ましくは、PI3Kシグナル経路阻害剤は、エデルホシン、LY294002またはワートマニンである。さらにより好ましくは、本発明による組み合わせにおいて用いられる阻害剤は、エデルホシンおよびその誘導体であり、これは、特にBeneteau M.ら(Mol Cancer Res 2008. 6: 604-613)により記載される。これらの阻害剤は、脂質ラフトにおけるFasの再分布に作用すると考えられた(Wymann MP et al. Trends Pharmacol Sci 2003. 24: 366-376)。
【0057】
出願人は、一方、II型カルモジュリンキナーゼ(CaMKII)が、本発明によるDISCの形成の調節および/またはアポトーシス促進性シグナルの増強に恐らくは関与していなかったことを示した。
【0058】
本発明によれば、上に記載する、DISC(細胞死誘導シグナル伝達複合体)マクロ複合体の形成を増強するためおよび腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導するために有用である組み合わせまたは組成物は、例えば、Bリンパ腫腫瘍、前立腺癌腫瘍または乳癌腫瘍の場合などにおいて、10〜90%;15〜90%;20〜90%;25〜90%;30〜90%;35〜90%;40〜90%;45〜90%;50〜90%;55〜90%;60〜90%;65〜90%;70〜90%;75〜90%;80〜90%;または85〜90%の範囲で、腫瘍増殖の低減をもたらすために十分な治療的用量において、癌患者に投与することができる。
【0059】
好ましくは、処置される患者は、原発腫瘍に罹患しており、いかなる転移の発生も有さない。
【0060】
本発明によれば、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤またはカルシウムキレーターの中から選択される活性剤は、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤と共に投与することができ、これは同時、別々または連続的である。
【0061】
同時投与は、本発明による組成物の両方の化合物を、単一の医薬形態において送達することを意味するように意図される。別々の投与は、組成物の両方の化合物の、区別し得る医薬形態における同時の送達を意味する。連続投与は、本発明による組成物の両方の化合物の各々が区別し得る医薬形態における逐次送達を意味する。
【0062】
好ましい送達プロトコルによれば、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤またはカルシウムキレーターから選択される活性剤は、抗癌剤の前に患者に投与することができる。それは、抗癌剤の送達の数日前、例えば1〜10日間前に送達されてもよい。また、癌患者に送達されるカルシウム濃度モジュレーター剤の用量は、腫瘍性疾患に関連する代謝性疾患の処置の場合に従来投与されるものよりも低い。
【0063】
第2の態様において、本発明はまた、活性の原理として、上記の組み合わせまたは組成物を含む、好ましくは賦形剤および/または薬学的に受容可能なビヒクルを添加した医薬組成物に関する。本明細書において、薬学的に受容可能なビヒクルとは、医薬組成物において用いられる化合物または化合物の組み合わせであって、いかなる副反応も引き起こさず、例えばより簡便な送達を可能にするか、システム中でのその寿命を延長するおよび/もしくはその効率を増大させるか、溶液中でのその可溶性を増大するか、またはさらに保存寿命を改善するものである。
【0064】
これらの薬学的に受容可能なビヒクルは周知であり、当業者により、選択される剤の性質および送達の様式にしたがって適応され得る。
【0065】
好ましくは、これらの化合物は、全身で、特に静脈内で、筋肉内で、皮内で、腹腔内で、皮下でまたは経口で送達される。
【0066】
最適な送達の様式、薬量学および剤形(galenic form)は、処置を確立し各々の患者に対して適応させる場合に一般的に考慮される基準、例えば、患者の年齢および体重、患者の一般的状態の重篤度、処置に対する耐性および副作用などに従って決定することができる。
【0067】
本発明はまた、癌を処置するためおよび/または癌の再発を予防するための薬物の製造のための、先に上で記載した組み合わせまたは組成物の使用に関する。かかる癌は、例えば大腸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌(小細胞および非小細胞)、卵巣癌、膵臓癌、腎臓癌、脳癌、血球癌(リンパ腫および白血病)ならびに肝臓癌である。好ましくは、本組成物により処置される癌は、いかなる転移の発生も示さない原発癌である。
【0068】
本発明はさらに、腫瘍細胞を処置、予防および/または感受性にするための方法に関し、該方法は、上記の組成物の治療有効量を投与することを含む。処置することができる癌の中に、好ましくは、大腸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌(小細胞および非小細胞)、卵巣癌、膵臓癌、腎臓癌、脳癌、血球癌(リンパ腫および白血病)ならびに肝臓癌を挙げてもよい。処置する方法は、患者に、上で記載する組成物を、特にBリンパ腫、前立腺癌腫瘍または乳癌腫瘍の場合に、10〜90%;15〜90%;20〜90%;25〜90%;30〜90%;35〜90%;40〜90%;45〜90%;50〜90%;55〜90%;60〜90%;65〜90%;70〜90%;75〜90%;80〜90%;または85〜90%の範囲の割合において、腫瘍の容積および増殖を減少させるために十分な治療的用量において、投与することを含む。
【0069】
本発明の組成物はさらに、例えばダウノルビシン、イダルビシン、バルルビシン、ミトキサントロン、ダクチノマイシン、ミトラマイシン、プリカマイシン、ブレオマイシン、およびプロカルバジンなどのDNA、RNAおよび/またはタンパク質合成を防止または阻害することができるさらなる抗腫瘍剤;または、インターフェロンなどの、免疫系、すなわち、FasLおよびTRAILを発現するNK細胞および活性化されたTリンパ球を刺激する免疫モジュレーター;アルデスロイキン、OCT-43、デニロイキンジフチトクスもしくはインターロイキン−2などのインターロイキン;タソネルミンなどの腫瘍壊死因子;またはレンチナン、シゾフィラン、ロキニメックス、ビドチモド、ペガデマーゼおよびチモペンチンなどの他の型の免疫モジュレーターを含んでもよい。
【0070】
さらに、本発明による組成物は、抗腫瘍活性を有する交代を含んでもよい。非限定的な例として、抗Her2/neu(ハーセプチン)、抗EGFR(エルビタックス)またはさらに抗IGF-lR抗体を挙げてもよい。
【0071】
最後の態様によれば、本発明は、腫瘍細胞においてデスレセプターに関与する抗癌剤のアポトーシス促進性効果を増強することができる化合物をスクリーニングする方法に関する。スクリーニングの方法は、試験される化合物を、生検または癌細胞株から得られた細胞に接触させること、および、細胞内または細胞外のカルシウム濃度のモジュレーター剤の存在下および不在下において、DISCマクロ複合体の形成を評価すること、それにより選択的増強を示すことを含む。好ましい細胞内または細胞外のカルシウム濃度のモジュレーター剤は、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤およびカルシウムキレーターの中から選択することができる。
【0072】
次いで、細胞死のパーセンテージを、異なる細胞株の処置条件において評価する。より正確には、アポトーシスの誘導を、例えばミトコンドリアの膜電位を測定することにより、膜透過性、DNA断片化、細胞の形態、ウェスタンブロットにより、またはカスパーゼ活性を測定することにより、モニタリングすることができる。
【0073】
本発明の他の特徴および利点は、以下の例および図面において示される。
【0074】
例
例1:細胞株
白血病T細胞株Jurkat、CEMおよびH9、EBV(エプスタイン・バーウイルス)により形質転換されたリンパ芽球様B細胞株SKW6.4、Burkittリンパ腫RAJIおよびBL2細胞株は、ATCC(American Type Culture Collection)に由来する。それらを、8%ウシ胎児血清(FVS、Sigma)(30分間56℃で補体除去したもの)および2mMのL−グルタミン(Gibco)を添加したRPMI 1640培地(Roswell Park Memorial Institute)中で増殖させた。細胞を、加湿インキュベーター中で37℃および5%CO2において増殖させた。Fas欠損CEM細胞株(CEM-IRC)を、FasL含有培地中で数世代増殖させ、耐性細胞をクローニングし、次いでFas発現に基づいて欠損クローンを単離した。JurkatクローンQ257Kを、Jurkat系統から得、これを3週間、親細胞の細胞死の最大のプラトーに達することを可能にする用量の2倍に相当する200ng/mlの用量のアゴニスト抗Fas抗体の存在下において増殖させた(クローン7C11)。カスパーゼ8またはFADDを欠損するJurkatT白血病細胞株は、ATCCに由来する。
【0075】
例2:活性化Tリンパ球
健康な対象のPBMC(末梢血単核細胞)を、フィコール勾配中で遠心分離した後、培養フラスコにおける1時間の接着工程により単球/マクロファージを除去することにより得た。このようにして単離されたPBL(末梢血リンパ球)を、20時間、1μg/mlのPHA-L(フィトヘマグルニチンL型)により活性化し、次いで洗浄し、6日間、10%ヒト血清、2mMのL−グルタミン、1×105単位のペニシリン、1×105μgのストレプトマイシン(Gibco)を含むRPMIからなる培養培地中50U/mlのIL2(インターロイキン−2)で刺激した。
B細胞集団およびT細胞集団の初期分布を分析するため、フィコールの後にCD3およびCD19膜マーカーのフローサイトメトリー分析を行った。
【0076】
例3:使用した反応物および抗体
FasL(gp190-CD95L)を、Legembre P.らJ Immunol 2003. 171: 5659-5662)により生成した。
可溶性組み換えヒトTRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)は、Alexis Biochemicals Covalab(Villeurbanne, France)製である。
【0077】
抗Fas 7C11(IgM)およびAPO1-3(IgG3)アゴニスト抗体は、それぞれ、BD-Biosciences(Franklin Lakes, USA)およびAlexis Biochemicals Covalabから入手した。
ウェスタンブロットに用いた抗体は、C20抗Fasヒト(Santa Cruz)およびHRP共役抗ウサギヤギポリクローナル二次抗体(Zymed, San Francisco, USA)であった。フローサイトメトリーマーカーのために用いた抗Fasは、DX2クローン(IgG1)である。DX2は、BD Biosciencesから得、マウス抗IgGヤギ二次抗体を、フローサイトメトリーのためにフィコエリスリン(PE)と、または共焦点顕微鏡法のためにAlexa555蛍光色素(Invitrogen, Carlsbad, USA)と共役させた。
【0078】
エデルホシンおよびエトポシドは、Calbiochem(VWR International, Fontenay-sous-Bois, France)から得、リツキシマブは、Bergonie Instituteから入手した。
BAPTA-AM、2-APBおよびカルミダゾリウムは、Calbiochem(Merck Chemicals Ltd., Nottingham, UK)から入手した。透過性CaMKII阻害性ペプチド(281-309)、ゼストスポンジンC、BAPTA、EGTA、DAPIおよびDiOC6は、Sigma-Aldrichから購入した。
【0079】
抗LIFアイソタイプ適合陰性対照1F10(IgG)mAbおよび抗CD95L 10F2を、研究室において生成した。抗カスパーゼ−8(C15)および抗CD95 mAb(APO1-3)を、Axxora(Coger S.A., Paris, France)から購入した。抗ヒトCD95抗ヒトFADD mAb(クローン1)を、BD Biosciences(Le Pont de Claix, France)から入手した。抗CD95 mAb(C20)を、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA, USA)から入手した。抗ヒトORAI-1およびSTIM-1(細胞外エピトープ)ウサギポリクローナル抗体を、Alomone Labs(Jerusalem, Israel)から入手した。
【0080】
細胞の標識およびフローサイトメトリー分析
この技法により、細胞表面上のタンパク質の存在を検出することが可能になる。全ての工程は、膜タンパク質のエンドサイトーシスおよび細胞標識の低下を低減するために、4℃で行った。
細胞の細胞膜(標識ごとに106細胞)を、5分間、1%(w/v)BSA(ウシ血清アルブミン)および1%(v/v)ウシ胎児血清(FVS)を含む1mlのPBS中で飽和させた。この溶液を、洗浄および抗体希釈のために用いた。
【0081】
細胞を、30分間、50μlの一次抗体(10μg/mlにおける抗Fas DX2クローン)と共にインキュベートし、PBS/BSA/FCS溶液で2回洗浄し、次いで、50μlのフィコエリスリン共役二次抗体と共に30分間インキュベートした。3回の洗浄の後で、細胞を200μlのPBS/BSA/SVF中で再懸濁させ、速やかにフローサイトメトリー(FACsCalibur, BD Biosciences)により分析した。蛍光強度は、Cellquestソフトウェアで分析した。
【0082】
例4:単一細胞または細胞集団における細胞内Ca2+濃度の測定
例4.1:単一細胞における測定
原理:[Ca2+]iを、カルシウム感受性蛍光プローブ:indo-1を用いて、マイクロ蛍光分光計により測定した。360nmの波長において励起されると、いわゆる単励起(monoexcitation)/二重発光(double emission)indo-1プローブが、400〜500nmの範囲のスペクトルに遷移する。Ca2+のindo-1への結合は、励起後の発光スペクトルのずれを引き起こした。非結合形態における最大の発光は、480nm付近に位置した。複合体化形態の発光は、405nm付近であった。カルシウム濃度の上昇は、発光を405nmまで上昇させ、および480nmまで低下させた。両方の蛍光強度の比は、プローブの量に非依存的であった。[Ca2+]iを決定するためには、Grynkiewiczの式:
[Ca2+]i(nM)=Kd.β×(R−Rmin)/(Rmax−R)
に従う。
ここで: Kd:indo-1の乖離定数
β:カルシウムの不在下または飽和状態における、480nmでの蛍光比
R:自家蛍光の修正の後で測定した405/480の比
Rmax:indo-1がカルシウムで飽和した場合に測定したindo-1がカルシウムで飽和したときに測定したF405/480比
Rmin:indo-1がカルシウムが無い場合に測定したF405/480比
【0083】
Rmax、RminおよびKd.βを、電気生理(パッチクランプ)と蛍光分光計とを組み合わせることにより決定した。Rmaxは、パッチピペット内に10mMのCaCl2を含有する培地を収容することにより決定した。Rminは、ピペット内溶液としてカルシウム欠乏培地(10mMのEGTA)を収容することにより得られた。パッチピペットの溶液中の遊離のカルシウムの既知の濃度(300nM、カルシウム混合物+EGTA)およびRminおよびRmaxが既知であることから、Kd.βの積の値を計算することができた。
【0084】
プロトコル:細胞を、暗所において、30分間室温で、1μMのアセトキシメチルエステルindo-1(indo-1/AM)、プルロニック酸(pluronic acid)(0.02%)およびCa2+(必要とされる濃度で)を添加したHBSS溶液(ハンクス平衡塩類溶液:NaCl 142.6mM;KCl 5.6mM;Na2PO4 0,17mM;KH2PO4 0.22mM;グルコース5.6mM;NaHCO3 4,2mM)中でインキュベートした。細胞を、次いで、HBSSでリンス(800rpmで2分間遠心分離)し、カバーガラス上で観察チャンバー中に収容した。細胞を、倒立型落射蛍光顕微鏡(Nikon)を用いて、位相差において観察した。励起光は、キセノンランプ(100W)により供給する。ダイクロイックミラーおよびイントラディファレンシャルフィルター(interdifferential filter)のシステムにより、405および480nmにおいて放出される蛍光の持続的測定が可能になった。アナログディバイダーがF405/F480比を持続的に示し、Grynkiewiczの式(上に示す)から前記の比をカルシウムの変化へと翻訳した。試験される物質を、調査した細胞のおよそ20μmで配置したガラスピペットを用いて適用し、含気システムに接続した。
【0085】
例4.2:細胞集団における測定
原理および細胞のローディングは、単一の細胞における測定と同一であった。かかる場合において、約40,000の細胞を石英管中に収容し、一定の攪拌下においた。管をHitachiの蛍光分光計中に設置し、その励起モノクロメーターを350nmにセットした。カルシウムプローブIndo1により放出された蛍光は捕捉され、405および480nmにおいて交互に(毎秒)光電子増倍管により測定された。シグナルはアナログ/デジタルコンバータを介してコンピューターに伝達され、Grynkiewiczの式(上を参照)を適用することができるように、および測定された蛍光比をカルシウム値に翻訳できるように、キャリブレーションパラメーターをソフトウェアに入力した。試験されるべき物質を、一定の攪拌下において直接管内に適用した。
【0086】
例5:細胞死の測定
2〜4×104の細胞を、96ウェルプレート中のウェルに入れた。細胞を、異なる反応物の存在下において、特定した時間にわたり、37℃で、100または200μlの最終容量においてインキュベートした。
【0087】
例5.1:細胞バイアビリティーのMTT測定
MTT試験により、元は黄色であり可溶性であるMTT(または3−(4,5−ジメチルトリアゾル−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム)ブロミドを水相において可溶性の青色のホルマザン結晶に変換するミトコンドリア酵素、コハク酸デヒドロゲナーゼ(dehydrogenase succinate)の活性を測定することが可能になった。異なる処置の完了の後で、各ウェルにおいて5mg/mlのMTTを含む15μlのPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)を添加することにより生細胞を定量した。37℃での4時間のインキュベーションの後で、ホルマザン結晶を、95%のイソプロパノールおよび5%のギ酸を含む105μlの溶液中に溶解した。吸光度の分光光度読みとりを、570nmで行った。光学密度の測定は、生細胞の数に対して直接的に比例し、細胞死のパーセンテージを、以下の式:100−[(DO 処置細胞/DO 未処置細胞)*100]により計算した。
【0088】
例5.2:DNA断片化の測定
少量の界面活性剤を含む溶液を用いて細胞を透過処理し、それらのDNA含有量をヨウ化プロピジウム標識により概算した。ヨウ化プロピジウムは、二本鎖DNA中に挿入される蛍光分子であった。アポトーシスのプロセスを経た透過処理細胞は、切断されたDNAを放出し、これは核および細胞のポアを通して拡散した。結果として、アポトーシス集団は、生細胞より低いDNA量を示し、sub-G1または異数体集団と称される。
【0089】
処置細胞(ウェルあたり2×105)を、4時間、4℃で、0.1%(w/v)クエン酸ナトリウムおよび0.1%(v/v)Triton-X-100ならびに50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma)を含む200μlのバッファーと共にインキュベートした。ヨウ化プロピジウムにより放出される蛍光は、細胞において存在し、これはアルゴンレーザー(488nm)により励起可能であり、その発光波長は637nmであるため、フローサイトメトリーにより測定した。
【0090】
例5.3:ミトコンドリアの膜電位の低下の測定
細胞集団においてミトコンドリア脱分極を測定することにより、アポトーシス細胞を同定した。アポトーシスの特徴であるミトコンドリア内膜の電位の低下(ΔΨm)を、テトラメチルローダミンメチルエステル蛍光プローブ(λex=488nm, λem=525nm)(TMRM、Sigma)またはヨウ化3,3’−ジヘキシルオキサカルボシアニン(DiOC6)を用いて測定した。
【0091】
これらの電位差プローブにより、ミトコンドリアの膜電位の変化をモニタリングすることが可能になった。基底の条件において、ミトコンドリアの膜は過分極し(−180mV)、プローブはミトコンドリア中に集積する(細胞が蛍光となった)が、アポトーシス条件においては、ミトコンドリア膜は脱分極し、プローブはミトコンドリア中に集積しない(細胞が蛍光を失った)。
【0092】
異なる薬物による細胞の処置の後で、細胞を10nMの濃度におけるTMRMまたはDIOC6の存在下において20分間37℃で置き、次いで、細胞の蛍光をフローサイトメトリーで分析した。
【0093】
例6:DISC、細胞ライセート、ウェスタンブロット
細胞を、1μg/mlのAPO1-3と共に30分間4℃でインキュベートした。洗浄の後で、細胞を、15分間4℃で(0分間)または37℃で(15分間)インキュベートし、次いで、30分間4℃で溶解バッファー(25mM HEPES pH 7.4、1% Triton X-100、150mM NaCl、2mM EDTA、プロテアーゼ阻害剤(Sigma)を含むカクテル)中で溶解した。ゲノムDNAを除去するために、溶解した細胞を15分間15000rpmで遠心分離し、上清を保持した。プロテインAと共役したセファロースビーズをライセートに添加し、混合物を2時間インキュベートした。ビーズを回収し、よく洗浄し、免疫沈降したタンパク質を変性および還元バッファー(0.01M Tris−HCl pH6.8、10%グリセロール(v/v)、85mMドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、5%(v/v)β−メルカプトエタノールおよび0.005%(w/v)ブロモフェノールブルー)中に再懸濁し、次いで100℃で5分間で加熱した。試料をアクリルアミド/ビスアクリルアミドゲル中に入れ、電気泳動により分離した。セミドライ式メディウムトランスファー技法を用いて、タンパク質をゲルからニトロセルロースメンブレンへ、2時間、一定のアンペア数でトランスファーした(0,8mA/cm2)。トランスファーバッファーは、25mMのTris、192mMのグリセリン、0.1%のSDS、20%エタノールからなった。トランスファーの後で、ニトロセルロースメンブレンを、5%(w/v)のスキムミルクを含むTBSTバッファー(50mM Tris pH=8、0.15M塩化ナトリウム、0.05%(v/v)Tween-20)(TBSTM)で30分間、タンパク質で飽和させた。TBSTで洗浄した後、メンブレンを、2時間、TBST中の一次抗体と共にインキュベートした。メンブレンをよく洗浄し、次いで、1時間、ペルオキシダーゼ共役二次抗体を含有するTBSTと共にインキュベートした。目的のタンパク質の存在を、ECL溶液(Enzyme Chemoluminescence, Pierce)により明らかにした。この溶液は、ペルオキシダーゼにより代謝されて発光化合物を生じる基質を含有する。発光化合物により、X線撮影用フィルム(Amersham)をマーキングすることが可能となった。
【0094】
例7:蛍光共焦点顕微鏡法
細胞を、ポリ−L−リジン(ESCO, VWR)で事前処理したスライドグラス上に5分間接着させ、次いで、異なる反応物と共にインキュベートした。抗Fas APO1-3アゴニスト抗体により活性化した細胞を、洗浄し、Alexa555蛍光色素と共役した抗マウス二次抗体で直接的に標識した。リツキシマブ(抗CD20)と共にインキュベートした細胞を、冷却PBSバッファー中で洗浄し、次いで、PBS/4%PFA(パラホルムアルデヒド)溶液で15分間固定した。洗浄の後で、先に記載したとおり、細胞を抗Fas抗体(クローンDX2)と共に(30分間4℃で)、次いで二次抗体と共に(30分間 4℃で)インキュベートした。細胞をPBS培地中で洗浄し、次いで、スライドグラスを乾燥させ、細胞をマウント用メディウムFluoroprep(Biomerieux)中に置き、蛍光共焦点顕微鏡(LSM SP5, Leica, Germany)により、×63の拡大で分析した。DAPI(200ng/ml)により、核の染色が可能になった。
【0095】
例8:DISCマクロ複合体の形成の増強効果の証明
図2において示すとおり、非細胞障害性の濃度(1〜10μM)のBAPTA-AM(1,2−ビス−(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−テトラ−(アセトキシメチル)四酢酸)エステル)などのカルシウムキレーターと共に細胞をインキュベートすることによる胞質内カルシウム濃度の低下は、未処置の細胞と比較して、DISCマクロ複合体の形成を増強した。対照的に、カルシウムイオノフォアであるイオノマイシンを添加することにより誘導された細胞内カルシウム[Ca2+]iの上昇は、DISC複合体の形成を妨害し、結果としてFADDの結合およびカスパーゼ−8の活性化を低下させた。これらの結果は、カルシウムは、Fasシグナル伝達の初期段階の間に、FADDのリクルートメントおよびDISCの形成の前に、抗アポトーシスの機能においてある役割を果たすことを証明した。
【0096】
例9:細胞内カルシウム欠乏とFasシグナル伝達との間の共同作用の証明
図3Aにおいて示す結果は、白血病、リンパ腫、活性化された末梢血リンパ球(活性化されたPBL、末梢血リンパ球)に由来する多数の細胞株が、カルシウムキレーターBAPTA-AMを用いる処置の後で、Fas媒介性アポトーシスシグナルに対して感受性になったことを示す。逆に、内因性Fasを欠失するBurkittリンパ腫BL2細胞株は、この処置により感受性にならなかった。これらの結果は、Fasデスレセプターを惹起するアポトーシス誘導因子と、細胞内カルシウムの量を減少させることができる剤との組み合わせが、アポトーシスシグナルの誘導および腫瘍細胞の除去の著しい増強を可能にすることを確認する。
【0097】
例10:ストア感受性チャネルブロッカーのFas媒介性アポトーシスシグナルに対する増強効果の証明
結果は、高用量の2-APB阻害カルシウムチャネル(SOC)の使用は、TまたはBリンパ腫細胞株において、細胞内カルシウム濃度の低下を誘導し、FasL応答を増強した(図7A〜B)。
【0098】
例11:細胞外カルシウムを低下させることができる剤と少なくとも1つの抗癌剤との組み合わせ
細胞内カルシウム濃度に対する細胞外カルシウムの効果を示すことを目的とするこの例は、リンパ腫ヒト細胞において二重波長マイクロ蛍光分光計により調査した。図6AおよびBにおいて示す結果は、+/−3mMの細胞外カルシウム濃度([Ca2+]e)の変化が、細胞内カルシウム濃度[Ca2+]iに対して実質的に影響を有したことを示した。また、細胞外カルシウムの添加は、リツキシマブの送達により誘導された細胞死シグナルを阻害した(図6C)。対照的に、低濃度のカルシウム(0.5mM)を含有する培地は、リツキシマブにより誘導された死のシグナル伝達およびアポトーシスを増強することを可能にした(図6D)。
これらの結果は、[Ca2+]eの調節は、デスレセプターを介した抗腫瘍剤により媒介されるアポトーシスシグナルの媒介(mediation)を増強したことを明らかに示した。
【0099】
例12:カルシウムキレーター剤と少なくとも1つの抗癌剤との相乗的組み合わせ
この例において示す例は、Bリンパ腫細胞株をBAPTA-AMなどのカルシウムキレーターとプレインキュベーションすることにより、エデルホシンまたはリツキシマブなどの化学療法剤により媒介されるアポトーシスシグナルを増強することが可能になったことを示す(図4)。対照的に、Fas受容体およびリツキシマブ耐性を欠失するBL2細胞株を、BAPTA-AMと組み合わせたリツキシマブで処置した場合には、何らのアポトーシスシグナルの増大も観察されなかった。これらの結果は、本発明によるこのアポトーシスのシグナル経路におけるFas受容体の関与を確認する(図4)。
【0100】
例13:DR4またはDR5デスレセプターにより誘導されるアポトーシスシグナルの増強
図5A〜Cにおいて示す結果は、TRAILリガンド(図5A)、またはフルオロキセチン、MG132およびレスベラトロールなどのDR4もしくはDR5デスレセプターを介して作用する薬物(図5B〜C)を添加することによる細胞死の誘導がまた、カルシウムのキレートにより増強されたことを示した。結果は、活性化されたPBL(非腫瘍リンパ球)において何らの効果も観察されなかったので、この結果が腫瘍細胞に特異的であったことを示した。
【0101】
例14:細胞内カルシウムを低下させることができるとPI3K阻害剤との相乗的組み合わせ
図4Cおよび4Dにおいて示す結果は、PI3Kシグナル経路阻害剤、エデルホシンと、細胞内カルシウムを低下させる剤との組み合わせにより、腫瘍細胞株においてエデルホシンにより媒介されるアポトーシスシグナルを増強することが可能になったことを示す。
【0102】
例15:CD95の刺激はDISC形成に非依存的に細胞内カルシウムの急激な上昇を駆動する
CD95の活性化が細胞内カルシウム濃度([Ca2+]i)を変化させるか否かを評価するために、可溶性CD95Lの添加による細胞内カルシウムの変化を、2種の異なる白血病T細胞、I型細胞H9およびII型細胞Jurkatにおいて測定した(図8A)。CD95Lの投与は、基底レベルから100〜150nMから700nMまでからなる、迅速かつ一過性のカルシウムの上昇をもたらした(図8Aおよび8C)。
【0103】
次いで、CD95シグナルに対する耐性を示すCD95のヘミ接合性変異対立遺伝子(Jurkat-CD95-Q257K)を発現する白血病T細胞株を用いて、カルシウムのピークがCD95のデスドメインおよびDISCの主要成分(すなわちカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10)に依存的であるか否かを決定した。結果は、CD95のこのデスドメイン変異対立遺伝子(Q257K)のヘミ接合性発現がDISCの形成およびアポトーシスシグナルの伝達の両方を変化させるにも拘らず、Jurkat CD95-Q257Kにおいて、親細胞株と比較して、カルシウム応答は変化しないままであったことを示した(図8A、BおよびC)。カルシウムの上昇は、したがって、デスドメイン非依存的機構に由来した。さらにこの観察を検証するために、細胞内カルシウム上昇における主要なDISC成分の役割を調査した。驚くべきことに、FADD、カスパーゼ−8またはカスパーゼ−8および−10を欠失する細胞はCD95媒介性アポトーシスシグナルに対して非感受性であり続けるが、それらはCD95Lの添加により観察される[Ca2+]iの上昇の変化を何ら示さなかった(図8Aおよび8B)。これらの結果は、したがって、CD95デスドメインおよびDISC成分がカルシウム応答の開始に関与しなかったことを示した。
【0104】
例16: 細胞内カルシウム濃度の低下はCD95L非依存的なCD95のクラスター化を促進した
カルシウムのピークがDISC形成に非依存的に起き、細胞においてイオン性シグナルが急激に起きたため、カルシウムイオンがCD95媒介性アポトーシスシグナルの初期段階に関与し得るか否かを評価した。
【0105】
カルシウムキレーターBAPTA-AM、または2−アミノエトキシジフェニルホウ酸(2-APB)と称されるIP3-受容体およびCRACチャネルのブロッカーのいずれかと共に細胞をプレインキュベーションすることは、基底の[Ca2+]iのかすかな低下を誘導した(図9A)。驚くべきことに、この細胞内カルシウムの低下は、CD95シグナルの誘導における中心的な初期段階であるCD95キャッピング(CD95-CAP)の形成を駆動した。60分間にわたる[Ca2+]iの低下は処置細胞の50%までにおいてCD95-CAPの形成を促進したため(図9B)、カルシウムの下方調節の効果は顕著であった。細胞50%はCD95-CAPを示したものの、この処置の間に、カスパーゼ−8活性化またはミトコンドリアの脱分極の痕跡は全く検出されなかった。このことは、CD95-CAP形成の下流にさらなるアポトーシスのチェックポイントが存在したことを示した。
【0106】
CD95が細胞内カルシウムの下方調節による凝集を起こしたことを検証するために、マイクロメーターのサイズのCD95含有ドメインの形成を、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて調査した(図10)。細胞内カルシウムの低下は、CD95のかなりの割合の重い画分中への再分布を可能にし(図10)、これは、[Ca2+]iのわずかな下方調節がCD95のクラスターの形成をもたらしたことを確認した。また、膜結合リガンドの痕跡が全く検出されなかったことから、カルシウムにより駆動されたCD95-CAPは、CD95Lのde novo発現に非依存的に起こったことが観察された。さらに、2-APBまたはBAPTA-AMのレジメンは、CD95の発現を変化させなかった。結論として、これらの発見は、細胞内カルシウムの下方調節が、CD95の凝集の形成を促進することにより、CD95シグナルの初期段階を促進したことを示唆した。
【0107】
CD95のクラスター化は、CD95分子の整列の初期段階であるので、CD95経路の初期イベントおよび細胞死に対する細胞内カルシウムの影響をさらに評価した。
CD95の刺激の際に観察される細胞内カルシウムのピークに対する非細胞障害性の濃度のBAPTA-AMおよび2-APBの効果を決定した。IP3受容体媒介性Ca2+放出の強力かつ選択的な膜透過性阻害剤として、ミズガメカイメン属海綿由来の海洋性アルカロイドであるゼストスポンジンCを用いた。先の研究から、CD95の関与によるカルシウム上昇におけるIP3-Rの必須の機能が明らかとなった。IP3-Rの誘導およびその後の細胞内ERストアからのカルシウムの放出の役割を、CD95へのFADDの結合を著しく促進したゼストスポンジンCを用いて確認した(図11A)。本発明者らの発見は、細胞外カルシウムの流入が、CD95の関与によるカルシウムピークのために重要であったことを示した。
【0108】
BAPTA-AMおよび2-APBのいずれも、CD95媒介性のカルシウムのピークを完全に抑制したが、一方で、これらの化学物質は、I型(H9)、II型(Jurkat)白血病T細胞における、および健康なドナーから単離された末梢血Tリンパ球(PBT)におけるDISC形成を劇的に改善した(図11B)。カルシウムピークの抑制は、アダプタータンパク質FADDのリクルートメントを促進し、これが次いで、未処置の細胞と比較してより大量のカスパーゼ−8を凝集した(図11B)。一方、カルシウムイオノフォアであるイオノマイシンの添加による[Ca2+]iの上昇は、FADDのCD95へのリクルートメントおよびDISC形成を防止した(図13C)。
【0109】
まとめると、これらの発見は、細胞内カルシウムが、CD95シグナルの初期段階の強力なモジュレーターとしてふるまい、アダプタータンパク質FADDのCD95デスドメインへのリクルートメントを妨げることを強く示唆した。
【0110】
例17:細胞内カルシウム濃度の下方調節はCD95媒介性アポトーシスシグナルを加速させた
細胞内カルシウム濃度の下方調節は、CD95シグナルの初期イベントを増強したので、次に、イニシエーターカスパーゼ−8のプロセシングおよび細胞のCD95媒介性アポトーシスシグナルに対する感受性が増強されたか否かを調査した。
【0111】
カスパーゼ−8活性化の動態により、BAPTA-AMまたは2-APBのいずれかを用いるカルシウム応答の変更は、CD95Lの添加によるT細胞およびB細胞株におけるイニシエーターカスパーゼ−8の切断を加速したことが明らかになった。[Ca2+]iの下方調節によるカスパーゼ活性の増大を、カスパーゼ−8の発光源性基質を用いるカスパーゼアッセイにより確認した(図12)。
さらに細胞死の動態に対するカルシウムの調節の影響を明らかにするために、細胞死の不可逆的マーカーであるミトコンドリアの電位の減少を評価した。カルシウム濃度の細胞内での上昇の遮断は、白血病細胞における細胞死プロセスを著しく加速させた(図13)。
【0112】
最後に、カルシウムの細胞内量の下方調節は、血液系(図14Aおよび14B)ならびに非血液系細胞株(図14C)の両方においてCD95媒介性アポトーシスシグナルを増強した。実際に、CD95媒介性アポトーシスシグナルに対する耐性を示す大腸腺癌細胞株HT29は、[Ca2+]iの低下により死に対して再び感受性になった(図14C)。
したがって、カルシウムの細胞内量の下方調節は、CD95媒介性アポトーシスシグナルを誘導するために必要とされるアポトーシスの閾値を低下させる可能性があったため、CD95-耐性細胞を死に対して再び感受性にさせ得ることが結論付けられた。
【0113】
CD95のヘミ接合性変異対立遺伝子(Jurkat-CD95Q257K)を保有する白血病T細胞株Jurkatは、CD95シグナルに対する耐性を示した(図14D)。驚くべきことに、この白血病T細胞を非細胞障害性の用量のBAPTA-AM(図14D)および2-APBと共にプレインキュベーションすることにより、CD95媒介性アポトーシスシグナルが、親細胞株に匹敵するレベルで回復した。
【0114】
まとめると、これらの発見は、細胞内カルシウムが、CD95シグナルの初期段階の調節において重要な役割を果たし、その低下が、CD95耐性腫瘍細胞を再び感受性にする可能性があったことを強調した。
【0115】
例18:アポトーシスシグナルCD95の調節における細胞外および細胞内のカルシウムのプールの関与
次に、細胞外(培地ストア)および細胞内(ERストア)のカルシウムの両方が、CD95シグナルの初期段階の調節に関与するか否かに取り組んだ。カルシウムの恒常性が厳密に制御されること、細胞外のカルシウム濃度([Ca2+]e)の上昇が細胞内濃度の増強をもたらしたことが観察された(図15A)。
【0116】
さらに、カルシウム(3mM)を添加した培地中で増殖させた細胞は、より低い量の細胞外遊離のカルシウム(1mM)を含む培地中でインキュベートした細胞と比較して、CD95媒介性アポトーシスシグナルに対して耐性であった(図15B)。[Ca2+]iの低下と同様に、非透過性BAPTA、BAPTAおよびEGTAの両方を用いる細胞外カルシウムの下方調節は、CD95の刺激によるFADDのリクルートメントおよびDISC形成を増強した(図15C)。
【0117】
最後に、EGTAまたはBAPTAのいずれかを用いる[Ca2+]eの下方調節は、TおよびB細胞株のCD95媒介性アポトーシスシグナルに対する感受性を増大させた(図15Dおよび15E)。
まとめると、これらの発見は、FADDのリクルートメントに先だって作用するCD95シグナルの初期段階の強力なモジュレーターとしての[Ca2+]eおよび[Ca2+]iの中心的役割を強調した。
【0118】
例19:CD95の刺激によるカルシウム流入におけるCRACチャネルSTIM/ORAIの関与
ストア感受性のCa2+流入は、細胞内ERストアからのCa2+放出の後で、Ca2+放出により活性化されるCa2+(CRAC)チャネルにより媒介される。活性化されたリンパ球においてCRACチャネルが、ER−カルシウムセンサーであるSTIM-1およびポアORAI-1に相当したことが知られている。[Ca2+]eおよび[Ca2+]iの両方がCD95シグナル伝達経路の初期段階に関与したことが示されたことから、カルシウムの流入はCRACチャネルORAI-1の活性化を通して媒介され得ることが推測された。CD95Lを細胞培養に添加した場合、STIM1は細胞質から細胞膜への分布に迅速に動いた。これは、ORAI-1の重合およびCRACの活性化の特徴として知られている。驚くべきことに、STIM-1およびORAI-1の両方による細胞膜の染色をCD95-CAPとマージすると、細胞外カルシウムの流入がCD95-CAPのレベルにおいて起こったことが示される。細胞質のCa2+の単一細胞イメージングを用いて、CD95の刺激が、均一な分布を示すカルシウム流入を駆動したことを観察した。実際に、CD95の関与によるカルシウム流入の精査により、CD95-CAPから細胞の反対側への[Ca2+]iの勾配が明らかとなった。
【0119】
例20:低カルシウム血症誘導剤ゾレドロネートのin vitroでの効果
いくつかの研究により、ゾレドロネートが多様な細胞株においてアポトーシスシグナル伝達に対する直接的効果を有したことが示されている。これらの効果を説明すると示唆される推定の機構の一つは、ゾレドロネートによるカルシウムのキレートであった。しかし、本発明者らの実験条件においては、ゾレドロネートは、試験した全てのモデル細胞株において、細胞内カルシウム濃度に影響を及ぼさなかった(図16A)。同様に、in vitroで、ゾレドロネート(10μM)は、それぞれ造血細胞株BL2、RajiおよびJurkatにおけるTRAIL、RTXおよびFasLに対するアポトーシス応答を増強しない(図16B)。
【0120】
例21:マウス高カルシウム血症に対するゾレドロネートの効果
ゾレドロネート注射(1週間に1回の注射、4週間、4mg/kg)により処置されたマウスは、ビヒクルのみ(生理学的血清)で処置されたマウスと比較して、その高カルシウム血症の有意な(p<0.05)低下を示した(図16C)。最後のゾレドロネートまたはビヒクル注射の3日後にマウスから血液試料を採取し、COBAS INTEGRA calcium(登録商標)(Roche)マイクロ法により、高カルシウム血症を評価した。
【0121】
例22:Bリンパ腫の増殖に対するリツキシマブのゾレドロネートとの組み合わせの効果
5〜7週齢のRag2-/-β-/-マウス側腹部において、腫瘍の移植を皮下で行った。腫瘍の移植後に、各処置のために、マウスを8~10個体の動物の群に分けた。腫瘍のサイズを、毎日、その幅(w)およびその長さ(l)を測定することにより評価した。その容積を、式:V=lw2/2に従って計算した。実験の終了時に、動物を安楽死させ、腫瘍の重量を測定した。
【0122】
106のRaji細胞を、マウス側腹部において皮下移植した。腫瘍の増殖に対するリツキシマブ単独、ゾレドロネート単独の効果を評価した。リツキシマブ(2mg/kg)は週3回送達し、ゾレドロネートは週1回送達した。これらの条件下において、本発明者らは、腫瘍量は、リツキシマブまたはゾレドロネート単独によるマウスの処置により、ビヒクル(生理学的血清/Sephy)による処置と比較して、有意に影響を受けないが、一方、ゾレドロネートと組み合わせたリツキシマブにより処置されたマウスの腫瘍量は、有意に(p<0.05)、約50%減少したことを示す(図16D)。
【0123】
例23:腫瘍増殖に対する抗癌剤と組合わせた低カルシウム血症誘導剤の効果:小動物における研究
5〜7週齢のRag2-/-β-/-マウス側腹部において、腫瘍の移植を皮下で行う。腫瘍の移植後に、各処置のために、マウスを8~10個体の動物の群に分ける。腫瘍のサイズを、毎日、その幅(w)およびその長さ(l)を測定することにより評価する。その容積を、式:V=lw2/2に従って計算した。実験の終了時に、動物を安楽死させ、腫瘍の重量を測定する。
【0124】
ゾレドロネートおよびBAPTA-AMを、低カルシウム血症誘導剤として用いる。ゾレドロネートおよびBAPTA-AMを、実験的パラダイムに従って、高カルシウム血症を著しく低減するために十分な濃度において、腫瘍の移植の前に、および目的の抗癌剤による処置の全期間にわたって送達する。
試験される各々の物質について、活性物質のビヒクルに相当する反応物を、「対照群」と称される動物の群の腫瘍増殖について試験する。
【0125】
モデル1:可溶性TRAIL(Killer TRAIL、Alexis)とゾレドロネートまたはBAPTA-AMとの組み合わせのBリンパ腫の増殖に対する効果
106〜107のBL2細胞を、マウス側腹部において皮下移植する。可溶性TRAIL単独、ゾレドロネート単独、BAPTA-AM単独の腫瘍の増殖に対する効果を評価する。可溶性TRAILを当業者に公知のプロトコルに従って送達し、ゾレドロネート、BAPTA-AMを、上で記載するプロトコルに従って送達する。これらの条件下において、腫瘍増殖は、0〜50%;5〜50%;10〜50%;15〜50%;20〜50%;25〜50%;30〜50%;35〜50%;35〜50%;40〜50%;45〜50%、減少する可能性がある。可溶性TRAILをゾレドロネートまたはBAPTA-AMと組み合わせる場合、腫瘍増殖は、10〜90%;15〜90%;20〜90%;25〜90%;30〜90%;35〜90%;40〜90%;45〜90%;50〜90%;55〜90%;60〜90%;65〜90%;70〜90%;75〜90%;80〜90%;85〜90%、減少する可能性がある。
【0126】
モデル2:フルオロキセチンとゾレドロネートまたはBAPTA-AMとの組み合わせのBリンパ腫および大腸癌細胞株HCT116の増殖に対する効果
106〜107のBL2細胞またはHCT116細胞を、マウス側腹部において皮下移植する。フルオロキセチン単独、ゾレドロネート単独、BAPTA-AM単独の腫瘍の増殖に対する効果を評価する。フルオロキセチンを当業者に公知のプロトコルに従って送達し、ゾレドロネート、BAPTA-AMを、上で記載するプロトコルに従って送達する。これらの条件下において、腫瘍増殖は、0〜50%;5〜50%;10〜50%;15〜50%;20〜50%;25〜50%;30〜50%;35〜50%;35〜50%;40〜50%;45〜50%、減少する可能性がある。フルオロキセチンをゾレドロネートまたはBAPTA-AMと組み合わせる場合、腫瘍増殖は、10〜90%;15〜90%;20〜90%;25〜90%;30〜90%;35〜90%;40〜90%;45〜90%;50〜90%;55〜90%;60〜90%;65〜90%;70〜90%;75〜90%;80〜90%;85〜90%、減少する可能性がある。
【技術分野】
【0001】
本発明は、その様々な側面において、腫瘍細胞においてアポトーシスを増大させること、特に、前記細胞の抗癌処置に対する感受性を増大させることを目的とする新規組成物および方法に関する。本発明は、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤と組み合わせた、直接的または間接的に細胞内カルシウムを調節することができる剤の送達が、腫瘍細胞において前記剤のアポトーシス促進性効果を著しく増強させるという発見に基づく。
【背景技術】
【0002】
アポトーシスと称されるプログラム細胞死は、器官および組織の恒常性のために必須である。癌および自己免疫を含むヒトの疾患は、アポトーシスのプロセスが損なわれた場合に起こる。アポトーシスに対する耐性は、腫瘍化の間および化学療法処置の後の腫瘍再発の両方において生じるため、癌研究における必須の問題である。ほとんどの抗癌剤はアポトーシスを誘導することが認められることから、アポトーシスのプログラムにおける欠陥が処置の失敗の一因となる可能性が生じる。したがって、腫瘍学における主要な目的の一つは、アポトーシスに対する腫瘍細胞の耐性を克服することである。何十年もの間、癌のための医学的処置の特徴は、細胞障害性の化学療法であった。70を超える異なる薬物が現在利用可能であり、新たなものが常に開発されている。これらの薬物は、癌および非癌細胞(例えば、リンパ球、毛包、小腸上皮)を含む分裂中の細胞を標的とする。結果として、腫瘍を罹患する患者は、脱毛、胃腸症状、リンパ球減少症および骨髄機能抑制などの副作用を経験する。
【0003】
非特異的で広範囲な細胞障害性化学療法は、依然として多くの悪性腫瘍のために選択される処置であるが、近年では標的化された治療が、乳癌、大腸癌、肺癌および膵臓癌、ならびにリンパ腫、白血病および多発性骨髄腫を含む多くの型の癌のための処置の一要素となった。標的化された治療の2つの主要な型は、リツキシマブ(Bリンパ球を標的とする抗CD20)またはハーセプチン(乳房腫瘍の25〜30%において過剰発現する抗HER2)などのモノクローナル抗体、および、慢性骨髄性白血病(CML)からの白血病細胞を効率的に除去するBCR-Ablチロシンキナーゼ阻害剤であるメシル酸イマチニブなどの特異的薬理学的阻害剤である。
【0004】
化学療法により媒介される細胞死の分子機構の理解における劇的な進歩は、化学療法剤であるドキソルビシン(アントラサイクリン)が、Fas媒介性シグナル経路の誘導を通して白血病細胞株を殺傷したことを示すデータのセットからもたらされた。これらの観察に続いて、多様なin vitroおよびin vivoのモデルにおいて、多数の抗腫瘍剤が、デスレセプターFasの活性化を通して細胞死シグナルを誘導することにおいて癌細胞を除去することが確認された。
【0005】
Fas(CD95/APO-1とも称される)は、TNF(腫瘍壊死因子)受容体ファミリーに属する膜貫通型受容体である。その細胞内領域は、デスドメイン(DD)と称される80アミノ酸長を含み、これは、アポトーシスシグナルの誘導のために必須である。受容体Fasはユビキタスに発現するが、そのコグネイト(cognate)リガンドである膜タンパク質FasLは、限定された発現パターンを有する。実際、FasLは、眼および精巣などの「免疫特権」の領域中で検出され、免疫系のエフェクター細胞のアクセスを障害する。この細胞障害性リガンドは、活性化されたTリンパ球およびNK(ナチュラルキラー)細胞の細胞膜においてde novoで発現し、腫瘍細胞の除去において主要な機能を果たす。FasLはまた、化学療法処置された腫瘍細胞の表面においても見いだされ、これは、オートクリンまたはパラクリンのプロセスを通して悪性細胞の除去をもたらす。Fasは、免疫系の恒常性において、および感染したまたは形質転換した細胞の除去において、中心的役割を果たす。Fasの変異またはFasシグナル伝達経路の機能不全は、白血病誘発ならびにリンパ腫およびメラノーマの腫瘍化に有利に働く。
【0006】
2つのアポトーシスシグナル伝達経路が同定されている:(i)膜受容体が活性化された場合に細胞の死を惹起する外因性経路(TNFR1、Fas、DR3またはTramp/Wsl1/Lard/Apo3。TrailR1またはDR4/Apo2。TrailR2またはDR5/Trick/KillerおよびDR6)、ならびに(ii)ゲノムDNAの断片の蓄積などの細胞内ストレスまたは小胞体ストレスの間にミトコンドリアによるアポトーシス因子の放出を媒介する内因性経路(Kroemer G et al., Nat Med 2000. 6: 513-519)。これらの経路の両方の間には連絡が存在し、いずれの状況においても、カスパーゼと称されるプロテアーゼが活性化される。
【0007】
最終的にアポトーシスを引き起こすFas媒介性外因性経路を、図1に図示する。Fasの下流のアポトーシス促進性シグナルの伝達エフェクターは、部分的に同定されており、特に、DISCあるいは細胞死誘導シグナル伝達複合体(Death Inducing Signalling Complex)とも命名されるFas/FADD/カスパーゼ−8/c-FLIPマクロ複合体に関与する。分子レベルでは、FasLの結合により、Fas DDがホモタイプ相互作用を介して細胞質アダプタータンパク質であるFas関連デスドメインタンパク質(FADD)に凝集し、次いで、カスパーゼ−8およびカスパーゼ‐10と称されるプロテアーゼをリクルートする。これらのイニシエーターカスパーゼの近接は、それらの自己切断および活性化に有利に働く。c-FLIP(細胞性FADD様IL-1b変換酵素阻害タンパク質)と称されるカスパーゼ様タンパク質は、Fas媒介性細胞死シグナルを遮断する。c-FLIPLは、カスパーゼ−8の触媒ドメインと広範囲な相同性を共有するが、その配列は、触媒活性のために必須の保存されたアミノ酸を失っている。したがって、c-FLIPは、カスパーゼ−8およびカスパーゼ−10とFADDへの結合に関して競合することにより、Fas媒介性細胞死を障害する。カスパーゼ−8およびカスパーゼ−10は、イニシエーターカスパーゼであると考えられ、細胞質において、それらの切断されたカスパーゼは、エフェクターカスパーゼ(カスパーゼ−3、−6、−7)の活性化をもたらし、これが次いで、多様な基質をプロセシングし、細胞構造の破壊を引き起こす。
【0008】
殆どの抗腫瘍処置は、おそらくはアポトーシスにより、およびデスレセプターの活性化により、細胞死を引き起こすが、これらは依然として、その非特異的細胞障害性が原因で患者が我慢することは困難な重い処置のままであり、耐性機構の発生のためにいまだに不十分である。したがって、癌細胞におけるアポトーシスシグナル伝達を回復および/または増幅することは、腫瘍学における主要な関心事を提示する。
【0009】
出願人は、本明細書において、抗癌剤により媒介されるDISCマクロ複合体の形成および「デスレセプター」を介するアポトーシス促進性シグナルの誘導が、遊離の細胞内カルシウム濃度を低下させることにより、および/または細胞膜のカルシウムチャネルの活性を調節することにより、著しく増強されたことを証明した。
【0010】
高カルシウム血症は、中程度から>3mMの重篤であることに拘らず、副甲状腺機能亢進症の55%、癌の30%およびほかの病態の15%において観察されている。乳癌、肺癌および腎臓癌、前立腺癌、リンパ腫または多発性骨髄腫などの腫瘍性疾患の場合、高カルシウム血症は、一般に、骨転移の発生、骨吸収の加速ならびに腎臓によるカルシウム保持の増大に関連することは、注意すべきである。これらの現象に加えて、腫瘍細胞は、PTHあるいは副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTH-rP)に類似する物質を分泌する場合があり、これは、破骨細胞の活性を刺激するのみならず、カルシウムおよびリン酸イオンの吸収、排出および再吸収を変化させる。結果として、癌患者の10〜20%は、腫瘍性疾患と関連する最も重篤な代謝性疾患として高カルシウム血症を有する。これらの患者は、一般に、骨転移から生じる合併症を低減するために、ならびに彼らの生存及び生活の質を向上させるために、低カルシウム血症誘導剤により処置される。
【0011】
また、細胞内カルシウムは、細胞のシグナル伝達にセカンドメッセンジャーとして関与することが知られており、そのメッセージは、その時間的特徴(すなわち、期間、頻度)、その空間的局在およびその規模に依存する。細胞内カルシウムパターンの複雑さは、増殖、分化、遊走および死などの、広範囲の細胞プロセスへの関与の原因となる。最近の臨床的観察によると、長く細胞死の触媒であると考えられてきたカルシウムの役割は、実際にはより両面的な(ambivalent)ものであるらしい。例えば、白金に基づく化学療法薬と組み合わせたカルシウム補給の使用は、進行性大腸癌における抗腫瘍効果を変える。幾つかの抗腫瘍剤(例えば、ドキソルビシン、シスプラチン、エデルホシン(edelfosine)、リツキシマブ)が、CD95シグナルの誘導を通して悪性腫瘍の除去を引き起こすことが記載されている。しかし、細胞内([Ca2+]i)および/または細胞外([Ca2+]e)カルシウム濃度の増大が、CD95などのデスレセプターのシグナルの初期段階を阻害することにより細胞死を予防するか否かを評価するための、何らの臨床的研究も行われていない。
【発明の概要】
【0012】
発明の要旨
本発明は、低カルシウム血症誘導剤、非透過性カルシウムキレーターなどの血清カルシウム濃度を低下させることができる細胞内カルシウムモジュレーター剤、またはチャネル媒介性カルシウム流入阻害剤、透過性カルシウムキレーターなどの細胞内カルシウム濃度を低下させることができる剤の治療有効量と、デスレセプターを介するアポトーシス促進性シグナルを誘導することができる少なくとも1つの抗癌剤との組み合わせを含む、新規医薬組成物に関する。本発明による新規の治療的組み合わせは、DISC複合体の形成を増強するために、ならびに癌を処置するため、および/または癌の再発を予防するために、特に有用である。
【0013】
本発明はまた、DISCマクロ複合体の形成およびアポトーシス促進性シグナルを増強するための、低カルシウム血症誘導剤、非透過性カルシウムキレーターなどの血清カルシウム濃度を低下させることができる細胞内カルシウムモジュレーター剤、またはチャネル媒介性カルシウム流入阻害剤または透過性カルシウムキレーターなどの細胞内カルシウム濃度を低下させることができる剤と、デスレセプターを介するアポトーシス促進性シグナル伝達を誘導することができる少なくとも1つの抗癌剤との組み合わせ、ならびに抗癌処置剤の製造のためのその使用に関する。
【0014】
本発明はさらに、癌および/または細胞増殖を処置する方法、癌の再発を予防する方法、ならびに腫瘍細胞をデスレセプターを介してアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤に対して感受性にする方法に関する。好ましい態様によれば、処置される癌患者は、原発腫瘍、造血癌または固形腫瘍に罹患しており、いかなる骨転移をも示さない。
【0015】
最後に本発明は、ex vivoで腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介される抗癌剤のアポトーシス促進性効果を増強することができる化合物をスクリーニングする方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、Fas媒介性アポトーシスシグナルの誘導カスケードの模式図である。FADD:デスドメインを介したFasの会合;Cyt c:チトクロムC;Apaf-1:アポトーシスプロテアーゼ活性化因子1;DISC:細胞死誘導シグナル伝達複合体。
【0017】
【図2】図2Aは、ウェスタンブロット技法およびFasの免疫沈降により、H9細胞株(リンパ腫T細胞)におけるDISCマクロ複合体の形成を示す。細胞は、未処置(対照)であるか、またはBAPTA-AM(10μM)などのカルシウム透過性キレーター、もしくは細胞内カルシウムの増大を誘導するイオノフォア、すなわちイオノマイシン(1μM)と共にプレインキュベートされ、その後、15分間37℃で(15分)または4℃で(0分)の、1μg/mlの抗Fas APO1-3アゴニスト抗体の存在下において活性化されている。細胞を次いで溶解し、Fasを免疫沈降し、会合した複合体を、ウェスタンブロットにより分析した。図2Bは、先に示した反応物と共にインキュベートした細胞におけるFasの免疫沈降の間にDISCマクロ複合体中に存在する異なる成分のデンシトメトリー(ImageJプログラム)による定量的分析を表す。
【0018】
【図3】図3Aは、異なる細胞モデルにおける細胞死のパーセンテージの増大を示す。健康な対象から得られた活性化されたリンパ球T(PBLs)、Tリンパ球細胞株(Jurkat、H9、CEM、CEM-IRC)およびBリンパ球細胞株(SKW6.4、RajiおよびBL2)を、1μMの透過性カルシウムキレーターBAPTA-AMと共にプレインキュベートし、次いで、特定の用量のFasLで処置した。細胞死をMTT試験を用いて定量した。 図3Bは、Bリンパ腫細胞株RajiおよびBL2の表面におけるFas受容体の発現を、同位体標識(陰性対照)と比較して、抗Fasモノクローナル抗体およびフローサイトメトリーによる蛍光強度測定を用いて示す。
【0019】
【図4】図4A〜Dは、先に透過性キレーター剤BAPTA-AM(1μM)を含む、または含まない(示すとおり)培地中でインキュベートし、次いでリツキシマブまたはエデルホシンで処置したBurkittリンパ腫細胞株、RajiおよびBL2におけるアポトーシスのパーセンテージを示す。アポトーシスの%は、ミトコンドリア膜電位ΔΨmの減少として測定した。
【0020】
【図5A】図5A〜Cは、カルシウムイオンキレートのDR4/DR5アポトーシス経路により誘導されるアポトーシスシグナルに対する効果を示す。図5Aは、事前の透過性カルシウムキレーターBAPTA-AM(1μM)を含有する培地中でのインキュベーション(15分間)有りまたは無しで、24時間TRAILリガンドで処置した、BL2細胞株(a)および活性化PBL(b)におけるアポトーシスの%を示す。
【図5B】図5Bは、事前の透過性カルシウムキレーターBAPTA-AM(1μM)を含有する培地中でのインキュベーション(15分間)有りまたは無しで、24時間フルオロキセチンで処置した、BL2細胞株(a)および活性化PBL(b)におけるアポトーシスの%を示す。
【図5C】図5Cは、事前の透過性カルシウムキレーターBAPTA-AM(1μM)を含有する培地中でのインキュベーション(15分間)有りまたは無しで、24時間MG132で(a)またはレスベラトロールで(b)処置したBL2細胞株におけるアポトーシスの%を示す。
【0021】
【図6】図6Aは、(細胞集団において、Indo-1をカルシウムプローブとして使用する)Raji細胞株における細胞内カルシウム濃度の蛍光定量的測定を表す。細胞外カルシウムの濃度の3mMの変化は、細胞内カルシウム濃度の急激な上昇(数秒間)(約30nM)を誘導した(図6A−左グラフ)。これらの細胞は、カルシウム透過性キレーター、BAPTA-AM(10μM)であらかじめ処置した場合に、3mMのCa2+の細胞外適用に対する応答における細胞内カルシウム濃度のより小さな増大を示す(図6A−右グラフ)。図6Bは、正常ヒトBリンパ球(左グラフ)における、およびリンパ節生検から得られた腫瘍Bリンパ球(右グラフ)における、与えられた濃度の細胞外カルシウム(0および2mM)と比較しての、nMにおける基底の細胞外カルシウムの濃度の測定を示す。図6Cは、0.8mMまたは3mMのカルシウムを含有する10%ウシ胎児血清(FVS)添加RPMI培地中で培養し、次いで増加する濃度のリツキシマブで処置したRaji細胞株におけるアポトーシスの%の測定を表す。アポトーシスの%は、ミトコンドリア膜電位ΔΨmの減少により測定した。図6Dは、0.5mMまたは4mMのカルシウムを含有する規定の培地中で培養し、次いで増加する濃度のリツキシマブで処置したRaji細胞株におけるアポトーシスの%を表す。アポトーシスの%は、ミトコンドリア膜電位ΔΨmの減少により測定した。
【0022】
【図7】図7A〜Bは、44μMの2-APB、カルシウムチャネル阻害剤の、アポトーシスの誘導に対する効果を示す。2-APBは、カルシウム流入を活性化するSERCA阻害剤であるタプシガルジンにより(左グラフ)および細胞外カルシウム濃度の0mMから5mMへの増大により(右グラフ)誘導された細胞内カルシウム濃度の上昇を低下させた。2-APBは、Fasアポトーシスシグナルを、特に白血病TおよびB細胞において、大幅に感受性にさせる(図7B)。
【0023】
【図8】図8A〜Cは、可溶性CD95リガンド(またはFasリガンド)の添加の後での、Nikonマイクロ蛍光分光計(Indo-1プローブ)で測定した細胞内カルシウム濃度の変化であって、機能的Fas受容体を発現するH9(Tリンパ腫細胞株)およびJurkatT白血病細胞株におけるもの(図8A)、CD95のヘミ接合性変異対立遺伝子を発現するJurkatT白血病細胞株(Jurkat-CD95-Q257K)におけるもの、Fas受容体の変異対立遺伝子(Fas Q257K)におけるもの、ならびにカスパーゼ8を欠損する(カスパーゼ−8 −/−)またはADDアダプターを欠損する(FADD−/−)多様な細胞クローンにおけるものを示す。
【0024】
【図9】図9AおよびBは、BAPTA-AMまたはカルシウムチャネル阻害剤2-APBのいずれかとの細胞プレインキュベーションの効果であって、基底の細胞内カルシウム濃度に対する(図9A)、およびCD95のキャッピングの形成に対する(図9B)効果を示す。
【0025】
【図10】図10は、ウェスタンブロット技法、Fasの免疫沈降、およびゲル濾過クロマトグラフィー(size exclusion chromatography)により、Jurkat細胞における、BAPTA-AMでの事前の処置を介する細胞内カルシウム濃度の低下によるCD95の凝集の形成を示す。
【0026】
【図11】図11A〜Cは、ウェスタンブロットにより、IP3-RアンタゴニストであるゼストスポンジンCの添加による、FADDのCD95への結合の著しい増加(図11A)、H9細胞株、Jurkat白血病T細胞において、活性化された末梢血Tリンパ球(PBTs)におけるBAPTA-AMおよび2-APBの添加によるDISC形成の誘導(図11B)、ならびにイオノマイシンの添加による細胞内カルシウム濃度の上昇によるFADDリクルートメントおよびDISC形成の不在(図11C)を示す。
【0027】
【図12】図12は、カスパーゼ−8の発光源性(proluminogenic)基質を用いることにより、BAPTA-AMまたは2-APBの添加による[Ca2+]Iの下方調節によるカスパーゼ−8の活性化を示す。
【0028】
【図13】図13は、BAPTA-AMまたは2-APBでプレインキュベートしたRaji H9、CEMおよびSKW6.4細胞株におけるアポトーシスの%の測定を表す。アポトーシスの%は、ミトコンドリア膜電位ΔΨmの減少により測定した。
【0029】
【図14】図14A〜Dは、BAPTA-AMで事前に処置された多様な細胞株(図14A〜C)における、およびCD95のヘミ接合性変異対立遺伝子を保有する白血病T細胞株Jurkat(Jurkat-CD95Q257K)(図14D)における、ミトコンドリア膜電位およびCD95媒介性アポトーシスシグナルの変化を示す。
【0030】
【図15】図15A〜Eは、Nikonマイクロ蛍光分光計(Indo-1プローブ)で測定した、細胞外カルシウム濃度を増大させることによる細胞内Ca2+濃度(nM)の変化を示す(図15A)。図15Bは、カルシウム(3mM)添加培地中でインキュベートした細胞におけるDISC形成を、より少ない量の細胞外遊離カルシウム(1mM)を含む培地中でインキュベートした細胞と比較して示す。図15Cは、ウェスタンブロットにより、BAPTAおよびEGTAの両方で処置したH9細胞株におけるFADDのリクルートメントの増強ならびにDISC形成の増強を示す(図15C)。図15Dおよび15Eは、EGTAまたはBAPTAのいずれかにより処置したT細胞およびB細胞株の細胞死の%を、未処置の細胞株と比較して示す(図15Dおよび15E)。
【0031】
【図16A】図16は、ゾレドロネートのin vitroおよびin vivoでの効果を示す。図16A:細胞内カルシウム濃度を、細胞集団において、蛍光カルシウムプローブとしてindo1-AMを、および蛍光分光計Hitachi F2500を用いて測定した。
【図16B】図16B:アポトーシス細胞のパーセンテージを、BL2、Raji、Jurkat細胞において、示すとおりの多様な濃度のTRAIL、リツキシマブ(RTX)またはFasLに対する応答において、および10μMゾレドロネート(ZOL)の存在下または不在下において、ミトコンドリア膜電位(TMRMプローブ)を測定することにより決定した。
【図16C】図16C:血液試料を、マウスから生理学的血清またはゾレドロネート注射(1週間に1回の注射、4週間、4mg/kg)の3日後に採取した。
【図16D】図16D:生理学的血清(対照)、ゾレドロネート単独(Zol、1週間に1回の注射、4週間、4mg/kg)、リツキシマブ単独(RTX、1週間に1回の注射、4週間、2mg/kg)、または二つの薬物の組み合わせ(ZRTX、1週間に1回の注射、4週間、RTX:2mg/kg、ゾレドロネート:4mg/kg)による処置の後での腫瘍量(tumour mass)(mm3)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明は、DISCマクロ複合体の形成を増強するため、および腫瘍細胞においてアポトーシスシグナルを誘導するための新規組成物に関し、該組成物は、治療有効量における、カルシウムの細胞内濃度を低下させることができる細胞内カルシウムモジュレーター剤と、デスレセプターを介するアポトーシスシグナルを誘導する少なくとも1つの抗癌剤との組み合わせを含む。
【0033】
本発明の枠組みの中で、出願人は、驚くべきことに、デスレセプターにより媒介される抗癌剤の殺腫瘍(tumoricide)活性が、前者が細胞内カルシウムを低下させるおよび/または腫瘍細胞におけるカルシウムチャネルの活性を調節することができる少なくとも1つの剤と組み合わせて送達された場合に、著しく増大したことを実証した。細胞内カルシウムの低下は、したがって、DISCマクロ複合体の形成を増強すること、ならびに特定の化学療法剤の細胞死シグナル伝達を可能にする。
【0034】
本発明による組み合わせは、抗癌処置の効力を顕著に増大させる。言い換えると、抗癌剤の治療効果は、予想外に、細胞内カルシウム濃度モジュレーター剤の送達により増強される。
【0035】
本発明による組み合わせにより提供される続く別の主要な利点は、現在標準的な化学療法として投与されているものよりも低いが、なお効率的な用量の抗癌剤を使用し、それにより副作用、特に細胞障害効果のリスクを低下させる可能性に関する。
【0036】
本発明によれば、細胞内カルシウムモジュレーター剤とは、腫瘍細胞におけるカルシウム細胞内濃度に対して直接的または間接的作用を有する任意の剤を意味する。好ましくは、これらは、本発明によれば、(i)カルシウムチャネル阻害剤および透過性カルシウムキレーターなどの細胞内カルシウム濃度を低下させることができる剤、または(ii)低カルシウム血症誘導剤および細胞外カルシウムのキレーター(非透過性)などの、その活性がカルシウムの血清濃度を低下させることを目的とする剤である。実際に、出願人は、細胞内カルシウム濃度が細胞外カルシウム濃度により厳密に制御されることを示した。したがって、出願人はまた、細胞外カルシウム濃度を低下させることにより、例えばリツキシマブに対するアポトーシスの応答が、Bリンパ球細胞株において増強されたことを示した。
【0037】
本発明は、したがって、DISC(細胞死誘導シグナル伝達複合体)マクロ複合体の形成を増強し、腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導するための組成物に関し、該組成物は、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤、および透過性または非透過性のカルシウムキレーターの中から選択される活性剤の治療有効量を、デスレセプターFasを介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤、TNF-R1、DR4および/またはDR5の治療有効量と組み合わせて含む。
【0038】
これらの細胞内カルシウムモジュレーター剤は、当該分野において周知である。例えば、低カルシウム血症誘導剤は、ビスホスホネート、カルシウム模倣剤またはカルシトニンの中から選択することができる。ビスホスホネートの中では、パミドロネート、ゾレドロネート、エチドロネート、イバンドロネートまたはクロドロネートを挙げてもよい。カルシウム模倣剤は、例えばシナカルセトであってもよい。
【0039】
カルシウムチャネル阻害剤もまた、当該分野において周知であり、例えば2−アミノエトキシジフェニルホウ酸(2-APB)、ML-9またはBTP-2であってもよい。
【0040】
カルシウムキレーターは、非透過性の剤であるBAPTA(1,2−ビス(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸)、EGTA(グリコール−ビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸)、EDTA(2−[2−(ビス(カルボキシメチル)アミノ)エチル−(カルボキシメチル)アミノ]酢酸)もしくはCDTA(トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン−四酢酸)、または対応する透過性の形態、すなわちBAPTA-AM(1,2−ビス−(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−テトラ−(アセトキシメチル)四酢酸エステル)、5,5’−ジフルオロ−BAPTA-AM(5,5’F2 BAPTA)もしくは5−5’−ジメチル−BAPTA-AMなどのBAPTA-AMの誘導体、EGTA-AM、EDTA-AMおよびCDTA-AMを伴う。好ましいカルシウムキレーターは、BAPTA-AM([1,2−ビス−(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−四酢酸テトラ−(アセトキシメチル)エステル])であり、これは、Ca2+をキレートする現行の様式をとることができない細胞透過性化合物として知られている。細胞内に入ると、BAPTA-AM分子はユビキタスな細胞内エステラーゼにより加水分解され、細胞膜非透過性Ca2+キレーターを放出する。細胞内の遊離カルシウムを特異的にトラップするBAPTA-AMとは対照的に、未修飾の非透過性BAPTAまたはEGTAは、優先的に細胞外の遊離カルシウム(1〜3mM)をキレートし、その量は、細胞質のカルシウム(≒100nM)よりも10000倍重要である。
【0041】
あるいは、細胞内カルシウムモジュレーター剤は、本発明により、例えばML-9、BTP-2またはSKF9636などのORAI-1チャネルの阻害剤であってもよい。
【0042】
デスレセプターにより媒介されるアポトーシス促進性シグナルを誘導する抗癌剤とは、患者に送達された場合に、デスレセプターを介してアポトーシス促進性シグナルの伝達を誘導し、それにより腫瘍細胞を除去する活性化合物を意味する。
【0043】
デスレセプターとは、アポトーシスシグナル伝達の外因性経路に関与するTNFR1、FasまたはApo1/CD95、DR3またはTramp/Wsl1/Lard/Apo3、TrailR1またはDR4/Apo2、TrailR2およびDR5/Trick/KillerおよびDR6受容体を意味する。したがって、本発明による、細胞内または細胞外のカルシウム濃度を低下させることを目的とする剤と、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤との組み合わせは、DISC複合体の形成に対して、および腫瘍細胞におけるアポトーシスシグナルの誘導に対しての、相乗効果を示す。
【0044】
このことに関して、出願人は、デスレセプターCD95またはFasの刺激が、迅速かつ一過性の細胞内カルシウムの上昇へと伝達され、これがアポトーシスシグナルの誘導を防止したことを証明した。興味深いことに、このカルシウムピークの阻害および細胞内カルシウム濃度の下方調節は、CD95(CD95-CAP)のクラスター化およびFADDのCD95へのリクルートメントを促進した。最後に、出願人は、細胞内カルシウムの低下が、抗腫瘍薬の細胞障害作用を増強し、それにより、CD95媒介性アポトーシスシグナルの誘導を通して悪性細胞の除去を可能にしたことを示した。さらに、出願人は、高カルシウム血症の下方調節が、免疫系または化学療法のいずれかにより惹起されるデスレセプターシグナルを増強し得ることを指摘した。
【0045】
白血病細胞株および活性化されたリンパ球を用いて、出願人は、CD95の関与が、DISCと称されるデスドメイン依存的構造に依存しないで起こる、迅速かつ一過性の細胞内カルシウムの上昇を誘導したことを強調した。カルシウムはしばしば細胞死の強力な触媒としてみなされてきたが、出願人は、驚くべきことに、このイオン流入が、DISCの形成、およびより正確にはFADDのリクルートメントを防止することにより、抗アポトーシス機能を示すことを証明した。これらの発見は、カルシウムがCD95凝集のレベルでのCD95分子の秩序(ordering)を標的とすることを指摘する。なぜならば、[Ca2+]iの低下はCD95L非依存的なCD95のクラスター化をもたらすからである。驚くべきことに、デスレセプターの凝集は、細胞死を誘導するためには、まだ不十分である。なぜならば、白血病細胞株をBAPTA-AMまたは2-APBと共に長期培養すること(24時間まで)により、CD95-CAPは駆動されるが、アポトーシスシグナルは惹起されなかったからである。
【0046】
小胞体ストア(store)からのカルシウムの放出は内因性刺激により惹起されるアポトーシスシグナルにおいて重要な役割を果たすが、細胞内カルシウムの調節は、CD95媒介性アポトーシスシグナルに対しては優勢な効果を発揮しないことが知られている。さらに、CD95の刺激により観察される細胞内カルシウムの上昇の強さ、頻度および起源については、まだ議論の余地がある。ある者は急激なPLCβ依存的およびIP3R依存的なカルシウムの上昇を観察したが、一方で、他の者は、CD95の刺激により遅れたカルシウムの上昇を測定した。カルシウムの起源についてもまた議論の余地が存在し、ある著者は細胞内カルシウムの上昇はERのカルシウムストックの放出にのみ依存することを示したが、一方、他者は、細胞内および細胞外カルシウムの両方が、CD95の刺激による細胞質カルシウムの上昇に関与することを強調した。
【0047】
さらに、カルシウムが、そのCa2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII(CaMKII)の調節を介して、抗アポトーシス因子c-FLIPの情報調節を通してCD95媒介性アポトーシスシグナルを予防することができたことが示されている。対照的に、出願人は、カルシウムの下方調節によるc-FLIP発現のいかなる変化も観察せず、さらに、カルシウムはFADDのリクルートメントを標的とし、これは、c-FLIPによるカスパーゼ−8/−10の凝集の競合的阻害の上流でもたらされた。さらに、カルモジュリンアンタゴニストであるカルミダゾリウムの使用は、CD95媒介性アポトーシスシグナルを変化させず、透過性CaMKII阻害性ペプチド281-309は、TRAILにより誘導されるアポトーシスシグナルからの保護を可能にする一方で、これは、CD95の刺激に影響を及ぼさなかった。CaMKIIのCD95媒介性アポトーシスシグナルにおける関与が、CaMKII非依存的プロセスを通してイノシトール1,4,5−三リン酸受容体(IP3R)を遮断するとも報告されているアンタゴニストKN-93を用いて研究されたことは注目に値する。まとめると、これらの発見は、CD95によるFADDのリクルートメントにおけるCaMKIIの関与を排除する。
【0048】
CD95の刺激によるPLCβ1の活性化は、IP3を生じ、これは、CD95の刺激による細胞内カルシウムのピークの誘導において重要な役割を果たす。PLCβ1とCD95との間のリンクはまだ解明されていないが、本明細書において出願人は、デスドメインおよびDISCの主要な成分がこのプロセスに関与しないことを示した。小胞体ストアからのカルシウム放出に続いて、SOCチャネルを通して細胞外カルシウムが流入する。本発明者らの実験において観察されたカルシウムの上昇は、これらのプロセスの合計に対応し、これはいずれもアポトーシスシグナルの調節に関与する。なぜならば、IP3-Rの阻害および[Ca2+]eの下方調節の両方が、DISC形成および続くアポトーシスシグナルの誘導を改善するからである。
【0049】
多様な化学療法剤がデスレセプターの凝集および続くアポトーシスシグナルの誘導を介して悪性細胞の除去を惹起することが報告されていることは、注目に値する。出願人はさらに、細胞外のカルシウム濃度の下方調節が、薬物がデスレセプターシグナルの誘導を通して悪性細胞を殺傷する抗腫瘍効果を促進し得るか否かを調査した。これらの結果は、腫瘍学において大きな関心を有し得る。ならならば、本発明者らは、生理学的に受容可能な範囲における高カルシウム血症の低減が、CD95L発現免疫細胞(活性化されたTリンパ球およびNK細胞)またはCD95依存的化学療法薬のいずれかの細胞障害作用を促進し得ることを想定し得たからである。
【0050】
したがって、本発明の組成物は、上記のカルシウム濃度のモジュレーターと組み合わせて、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5により媒介されるアポトーシスシグナルを誘導することができる抗癌剤の治療有効量を含む。かかる抗癌剤は、好ましくは、抗CD20抗体、抗Fas抗体、抗TNF-R1抗体、抗DR4抗体および抗DR5抗体の中から選択される。
【0051】
あるいは、これらの抗癌剤は、FasL、TRAIL、これらの可溶性部分、およびより一般的にTNFR1、Fas(Apo1/CD95)、DR3またはTramp/Wsl1/Lard/Apo3、TrailR1またはDR4/Apo2、TrailR2およびDR5/Trick/KillerおよびDR6 デスレセプターの全てのリガンドの中から選択してもよい。
【0052】
好ましい剤は、TRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)であり、これは、Henson ESら(Leuk Lymphoma 2008. 49: 27-350)により特に記載されている。TRAILはTNFファミリーに属し、DR4またはDR5デスレセプターに結合して、それにより、Fas受容体のものに匹敵する細胞死シグナルを誘導する。出願人は、以下の例において、TRAILが、組み合わせにおいて、白血病細胞に対する、またはリンパ腫に由来する細胞に対する殺腫瘍作用を示したことを示している。また、例において示したとおり、TRAILを添加することによる細胞死の誘導はまた、カルシウムのキレートにより増強された。
【0053】
モノクローナル抗体の中では、リツキシマブもしくはRituxan(登録商標)、GA-101、オファツムマブ、LFB-R603またはベルツズマブなどの抗CD20抗体を挙げることができる。リツキシマブおよびその依存的なFas殺腫瘍活性は、Stel AJら(J Immunol 2007. 178: 2287-2295)およびVega, M. I.(Oncogene 2005. 24: 8114-8127)により特に報告されている。出願人は、Bリンパ球に対するリツキシマブの添加がFasアポトーシスシグナル伝達を介して作用することを、特に示した。
【0054】
本発明による相乗的組み合わせにおいて用いることができる、デスレセプターを介するアポトーシス促進性シグナルを誘導することができる他の抗癌剤として、例えばMG132などのプロテアソーム阻害剤;例えばトリコスタチンA、デプシペプチド、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、LAQ824、バルプロ酸およびベンズアミドなどのヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi);例えばエファビレンツなどの逆転写酵素阻害剤;メトホルミンおよびベンフルオレックスなどの血糖降下剤;フルオロキセチン、セルトラリン、パロキセチン、およびシタロプラムなどの選択的セロトニン再取り込み阻害剤;イミプラミンなどの三環系薬;レナリドマイド、アクチミド(actimid)またはポマリドマイドなどのサリドマイド;エデルホシン、イルモホシン(ilmofosine)およびペリホシンなどのエーテル脂質;ならびにレスベラトロールなどのポリフェノール類が挙げられる。
【0055】
さらなる詳細については、当業者は、French Association of Therapeutic Chemistry Teachersにより刊行されたマニュアル、表題「treatise on therapeutic chemistry, Vol. 6, Antitumoral medications and perspectives in treatment of cancers」(TEC & DOC publishers、2003年)を参照することができる。
【0056】
最後に、別の側面によれば、本発明は、少なくとも1つの細胞内カルシウム濃度モジュレーター剤の治療有効量と、少なくとも1つのホスホチジルイノシトール−3キナーゼ(PI3K)シグナル経路阻害剤の治療有効量との相乗的組み合わせに関する。本発明によれば、これらの抗腫瘍性の組み合わせにより、腫瘍細胞を化学療法に対して著しく感受性にすることができる。好ましくは、PI3Kシグナル経路阻害剤は、エデルホシン、LY294002またはワートマニンである。さらにより好ましくは、本発明による組み合わせにおいて用いられる阻害剤は、エデルホシンおよびその誘導体であり、これは、特にBeneteau M.ら(Mol Cancer Res 2008. 6: 604-613)により記載される。これらの阻害剤は、脂質ラフトにおけるFasの再分布に作用すると考えられた(Wymann MP et al. Trends Pharmacol Sci 2003. 24: 366-376)。
【0057】
出願人は、一方、II型カルモジュリンキナーゼ(CaMKII)が、本発明によるDISCの形成の調節および/またはアポトーシス促進性シグナルの増強に恐らくは関与していなかったことを示した。
【0058】
本発明によれば、上に記載する、DISC(細胞死誘導シグナル伝達複合体)マクロ複合体の形成を増強するためおよび腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導するために有用である組み合わせまたは組成物は、例えば、Bリンパ腫腫瘍、前立腺癌腫瘍または乳癌腫瘍の場合などにおいて、10〜90%;15〜90%;20〜90%;25〜90%;30〜90%;35〜90%;40〜90%;45〜90%;50〜90%;55〜90%;60〜90%;65〜90%;70〜90%;75〜90%;80〜90%;または85〜90%の範囲で、腫瘍増殖の低減をもたらすために十分な治療的用量において、癌患者に投与することができる。
【0059】
好ましくは、処置される患者は、原発腫瘍に罹患しており、いかなる転移の発生も有さない。
【0060】
本発明によれば、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤またはカルシウムキレーターの中から選択される活性剤は、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤と共に投与することができ、これは同時、別々または連続的である。
【0061】
同時投与は、本発明による組成物の両方の化合物を、単一の医薬形態において送達することを意味するように意図される。別々の投与は、組成物の両方の化合物の、区別し得る医薬形態における同時の送達を意味する。連続投与は、本発明による組成物の両方の化合物の各々が区別し得る医薬形態における逐次送達を意味する。
【0062】
好ましい送達プロトコルによれば、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤またはカルシウムキレーターから選択される活性剤は、抗癌剤の前に患者に投与することができる。それは、抗癌剤の送達の数日前、例えば1〜10日間前に送達されてもよい。また、癌患者に送達されるカルシウム濃度モジュレーター剤の用量は、腫瘍性疾患に関連する代謝性疾患の処置の場合に従来投与されるものよりも低い。
【0063】
第2の態様において、本発明はまた、活性の原理として、上記の組み合わせまたは組成物を含む、好ましくは賦形剤および/または薬学的に受容可能なビヒクルを添加した医薬組成物に関する。本明細書において、薬学的に受容可能なビヒクルとは、医薬組成物において用いられる化合物または化合物の組み合わせであって、いかなる副反応も引き起こさず、例えばより簡便な送達を可能にするか、システム中でのその寿命を延長するおよび/もしくはその効率を増大させるか、溶液中でのその可溶性を増大するか、またはさらに保存寿命を改善するものである。
【0064】
これらの薬学的に受容可能なビヒクルは周知であり、当業者により、選択される剤の性質および送達の様式にしたがって適応され得る。
【0065】
好ましくは、これらの化合物は、全身で、特に静脈内で、筋肉内で、皮内で、腹腔内で、皮下でまたは経口で送達される。
【0066】
最適な送達の様式、薬量学および剤形(galenic form)は、処置を確立し各々の患者に対して適応させる場合に一般的に考慮される基準、例えば、患者の年齢および体重、患者の一般的状態の重篤度、処置に対する耐性および副作用などに従って決定することができる。
【0067】
本発明はまた、癌を処置するためおよび/または癌の再発を予防するための薬物の製造のための、先に上で記載した組み合わせまたは組成物の使用に関する。かかる癌は、例えば大腸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌(小細胞および非小細胞)、卵巣癌、膵臓癌、腎臓癌、脳癌、血球癌(リンパ腫および白血病)ならびに肝臓癌である。好ましくは、本組成物により処置される癌は、いかなる転移の発生も示さない原発癌である。
【0068】
本発明はさらに、腫瘍細胞を処置、予防および/または感受性にするための方法に関し、該方法は、上記の組成物の治療有効量を投与することを含む。処置することができる癌の中に、好ましくは、大腸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌(小細胞および非小細胞)、卵巣癌、膵臓癌、腎臓癌、脳癌、血球癌(リンパ腫および白血病)ならびに肝臓癌を挙げてもよい。処置する方法は、患者に、上で記載する組成物を、特にBリンパ腫、前立腺癌腫瘍または乳癌腫瘍の場合に、10〜90%;15〜90%;20〜90%;25〜90%;30〜90%;35〜90%;40〜90%;45〜90%;50〜90%;55〜90%;60〜90%;65〜90%;70〜90%;75〜90%;80〜90%;または85〜90%の範囲の割合において、腫瘍の容積および増殖を減少させるために十分な治療的用量において、投与することを含む。
【0069】
本発明の組成物はさらに、例えばダウノルビシン、イダルビシン、バルルビシン、ミトキサントロン、ダクチノマイシン、ミトラマイシン、プリカマイシン、ブレオマイシン、およびプロカルバジンなどのDNA、RNAおよび/またはタンパク質合成を防止または阻害することができるさらなる抗腫瘍剤;または、インターフェロンなどの、免疫系、すなわち、FasLおよびTRAILを発現するNK細胞および活性化されたTリンパ球を刺激する免疫モジュレーター;アルデスロイキン、OCT-43、デニロイキンジフチトクスもしくはインターロイキン−2などのインターロイキン;タソネルミンなどの腫瘍壊死因子;またはレンチナン、シゾフィラン、ロキニメックス、ビドチモド、ペガデマーゼおよびチモペンチンなどの他の型の免疫モジュレーターを含んでもよい。
【0070】
さらに、本発明による組成物は、抗腫瘍活性を有する交代を含んでもよい。非限定的な例として、抗Her2/neu(ハーセプチン)、抗EGFR(エルビタックス)またはさらに抗IGF-lR抗体を挙げてもよい。
【0071】
最後の態様によれば、本発明は、腫瘍細胞においてデスレセプターに関与する抗癌剤のアポトーシス促進性効果を増強することができる化合物をスクリーニングする方法に関する。スクリーニングの方法は、試験される化合物を、生検または癌細胞株から得られた細胞に接触させること、および、細胞内または細胞外のカルシウム濃度のモジュレーター剤の存在下および不在下において、DISCマクロ複合体の形成を評価すること、それにより選択的増強を示すことを含む。好ましい細胞内または細胞外のカルシウム濃度のモジュレーター剤は、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤およびカルシウムキレーターの中から選択することができる。
【0072】
次いで、細胞死のパーセンテージを、異なる細胞株の処置条件において評価する。より正確には、アポトーシスの誘導を、例えばミトコンドリアの膜電位を測定することにより、膜透過性、DNA断片化、細胞の形態、ウェスタンブロットにより、またはカスパーゼ活性を測定することにより、モニタリングすることができる。
【0073】
本発明の他の特徴および利点は、以下の例および図面において示される。
【0074】
例
例1:細胞株
白血病T細胞株Jurkat、CEMおよびH9、EBV(エプスタイン・バーウイルス)により形質転換されたリンパ芽球様B細胞株SKW6.4、Burkittリンパ腫RAJIおよびBL2細胞株は、ATCC(American Type Culture Collection)に由来する。それらを、8%ウシ胎児血清(FVS、Sigma)(30分間56℃で補体除去したもの)および2mMのL−グルタミン(Gibco)を添加したRPMI 1640培地(Roswell Park Memorial Institute)中で増殖させた。細胞を、加湿インキュベーター中で37℃および5%CO2において増殖させた。Fas欠損CEM細胞株(CEM-IRC)を、FasL含有培地中で数世代増殖させ、耐性細胞をクローニングし、次いでFas発現に基づいて欠損クローンを単離した。JurkatクローンQ257Kを、Jurkat系統から得、これを3週間、親細胞の細胞死の最大のプラトーに達することを可能にする用量の2倍に相当する200ng/mlの用量のアゴニスト抗Fas抗体の存在下において増殖させた(クローン7C11)。カスパーゼ8またはFADDを欠損するJurkatT白血病細胞株は、ATCCに由来する。
【0075】
例2:活性化Tリンパ球
健康な対象のPBMC(末梢血単核細胞)を、フィコール勾配中で遠心分離した後、培養フラスコにおける1時間の接着工程により単球/マクロファージを除去することにより得た。このようにして単離されたPBL(末梢血リンパ球)を、20時間、1μg/mlのPHA-L(フィトヘマグルニチンL型)により活性化し、次いで洗浄し、6日間、10%ヒト血清、2mMのL−グルタミン、1×105単位のペニシリン、1×105μgのストレプトマイシン(Gibco)を含むRPMIからなる培養培地中50U/mlのIL2(インターロイキン−2)で刺激した。
B細胞集団およびT細胞集団の初期分布を分析するため、フィコールの後にCD3およびCD19膜マーカーのフローサイトメトリー分析を行った。
【0076】
例3:使用した反応物および抗体
FasL(gp190-CD95L)を、Legembre P.らJ Immunol 2003. 171: 5659-5662)により生成した。
可溶性組み換えヒトTRAIL(TNF関連アポトーシス誘導リガンド)は、Alexis Biochemicals Covalab(Villeurbanne, France)製である。
【0077】
抗Fas 7C11(IgM)およびAPO1-3(IgG3)アゴニスト抗体は、それぞれ、BD-Biosciences(Franklin Lakes, USA)およびAlexis Biochemicals Covalabから入手した。
ウェスタンブロットに用いた抗体は、C20抗Fasヒト(Santa Cruz)およびHRP共役抗ウサギヤギポリクローナル二次抗体(Zymed, San Francisco, USA)であった。フローサイトメトリーマーカーのために用いた抗Fasは、DX2クローン(IgG1)である。DX2は、BD Biosciencesから得、マウス抗IgGヤギ二次抗体を、フローサイトメトリーのためにフィコエリスリン(PE)と、または共焦点顕微鏡法のためにAlexa555蛍光色素(Invitrogen, Carlsbad, USA)と共役させた。
【0078】
エデルホシンおよびエトポシドは、Calbiochem(VWR International, Fontenay-sous-Bois, France)から得、リツキシマブは、Bergonie Instituteから入手した。
BAPTA-AM、2-APBおよびカルミダゾリウムは、Calbiochem(Merck Chemicals Ltd., Nottingham, UK)から入手した。透過性CaMKII阻害性ペプチド(281-309)、ゼストスポンジンC、BAPTA、EGTA、DAPIおよびDiOC6は、Sigma-Aldrichから購入した。
【0079】
抗LIFアイソタイプ適合陰性対照1F10(IgG)mAbおよび抗CD95L 10F2を、研究室において生成した。抗カスパーゼ−8(C15)および抗CD95 mAb(APO1-3)を、Axxora(Coger S.A., Paris, France)から購入した。抗ヒトCD95抗ヒトFADD mAb(クローン1)を、BD Biosciences(Le Pont de Claix, France)から入手した。抗CD95 mAb(C20)を、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz, CA, USA)から入手した。抗ヒトORAI-1およびSTIM-1(細胞外エピトープ)ウサギポリクローナル抗体を、Alomone Labs(Jerusalem, Israel)から入手した。
【0080】
細胞の標識およびフローサイトメトリー分析
この技法により、細胞表面上のタンパク質の存在を検出することが可能になる。全ての工程は、膜タンパク質のエンドサイトーシスおよび細胞標識の低下を低減するために、4℃で行った。
細胞の細胞膜(標識ごとに106細胞)を、5分間、1%(w/v)BSA(ウシ血清アルブミン)および1%(v/v)ウシ胎児血清(FVS)を含む1mlのPBS中で飽和させた。この溶液を、洗浄および抗体希釈のために用いた。
【0081】
細胞を、30分間、50μlの一次抗体(10μg/mlにおける抗Fas DX2クローン)と共にインキュベートし、PBS/BSA/FCS溶液で2回洗浄し、次いで、50μlのフィコエリスリン共役二次抗体と共に30分間インキュベートした。3回の洗浄の後で、細胞を200μlのPBS/BSA/SVF中で再懸濁させ、速やかにフローサイトメトリー(FACsCalibur, BD Biosciences)により分析した。蛍光強度は、Cellquestソフトウェアで分析した。
【0082】
例4:単一細胞または細胞集団における細胞内Ca2+濃度の測定
例4.1:単一細胞における測定
原理:[Ca2+]iを、カルシウム感受性蛍光プローブ:indo-1を用いて、マイクロ蛍光分光計により測定した。360nmの波長において励起されると、いわゆる単励起(monoexcitation)/二重発光(double emission)indo-1プローブが、400〜500nmの範囲のスペクトルに遷移する。Ca2+のindo-1への結合は、励起後の発光スペクトルのずれを引き起こした。非結合形態における最大の発光は、480nm付近に位置した。複合体化形態の発光は、405nm付近であった。カルシウム濃度の上昇は、発光を405nmまで上昇させ、および480nmまで低下させた。両方の蛍光強度の比は、プローブの量に非依存的であった。[Ca2+]iを決定するためには、Grynkiewiczの式:
[Ca2+]i(nM)=Kd.β×(R−Rmin)/(Rmax−R)
に従う。
ここで: Kd:indo-1の乖離定数
β:カルシウムの不在下または飽和状態における、480nmでの蛍光比
R:自家蛍光の修正の後で測定した405/480の比
Rmax:indo-1がカルシウムで飽和した場合に測定したindo-1がカルシウムで飽和したときに測定したF405/480比
Rmin:indo-1がカルシウムが無い場合に測定したF405/480比
【0083】
Rmax、RminおよびKd.βを、電気生理(パッチクランプ)と蛍光分光計とを組み合わせることにより決定した。Rmaxは、パッチピペット内に10mMのCaCl2を含有する培地を収容することにより決定した。Rminは、ピペット内溶液としてカルシウム欠乏培地(10mMのEGTA)を収容することにより得られた。パッチピペットの溶液中の遊離のカルシウムの既知の濃度(300nM、カルシウム混合物+EGTA)およびRminおよびRmaxが既知であることから、Kd.βの積の値を計算することができた。
【0084】
プロトコル:細胞を、暗所において、30分間室温で、1μMのアセトキシメチルエステルindo-1(indo-1/AM)、プルロニック酸(pluronic acid)(0.02%)およびCa2+(必要とされる濃度で)を添加したHBSS溶液(ハンクス平衡塩類溶液:NaCl 142.6mM;KCl 5.6mM;Na2PO4 0,17mM;KH2PO4 0.22mM;グルコース5.6mM;NaHCO3 4,2mM)中でインキュベートした。細胞を、次いで、HBSSでリンス(800rpmで2分間遠心分離)し、カバーガラス上で観察チャンバー中に収容した。細胞を、倒立型落射蛍光顕微鏡(Nikon)を用いて、位相差において観察した。励起光は、キセノンランプ(100W)により供給する。ダイクロイックミラーおよびイントラディファレンシャルフィルター(interdifferential filter)のシステムにより、405および480nmにおいて放出される蛍光の持続的測定が可能になった。アナログディバイダーがF405/F480比を持続的に示し、Grynkiewiczの式(上に示す)から前記の比をカルシウムの変化へと翻訳した。試験される物質を、調査した細胞のおよそ20μmで配置したガラスピペットを用いて適用し、含気システムに接続した。
【0085】
例4.2:細胞集団における測定
原理および細胞のローディングは、単一の細胞における測定と同一であった。かかる場合において、約40,000の細胞を石英管中に収容し、一定の攪拌下においた。管をHitachiの蛍光分光計中に設置し、その励起モノクロメーターを350nmにセットした。カルシウムプローブIndo1により放出された蛍光は捕捉され、405および480nmにおいて交互に(毎秒)光電子増倍管により測定された。シグナルはアナログ/デジタルコンバータを介してコンピューターに伝達され、Grynkiewiczの式(上を参照)を適用することができるように、および測定された蛍光比をカルシウム値に翻訳できるように、キャリブレーションパラメーターをソフトウェアに入力した。試験されるべき物質を、一定の攪拌下において直接管内に適用した。
【0086】
例5:細胞死の測定
2〜4×104の細胞を、96ウェルプレート中のウェルに入れた。細胞を、異なる反応物の存在下において、特定した時間にわたり、37℃で、100または200μlの最終容量においてインキュベートした。
【0087】
例5.1:細胞バイアビリティーのMTT測定
MTT試験により、元は黄色であり可溶性であるMTT(または3−(4,5−ジメチルトリアゾル−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム)ブロミドを水相において可溶性の青色のホルマザン結晶に変換するミトコンドリア酵素、コハク酸デヒドロゲナーゼ(dehydrogenase succinate)の活性を測定することが可能になった。異なる処置の完了の後で、各ウェルにおいて5mg/mlのMTTを含む15μlのPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)を添加することにより生細胞を定量した。37℃での4時間のインキュベーションの後で、ホルマザン結晶を、95%のイソプロパノールおよび5%のギ酸を含む105μlの溶液中に溶解した。吸光度の分光光度読みとりを、570nmで行った。光学密度の測定は、生細胞の数に対して直接的に比例し、細胞死のパーセンテージを、以下の式:100−[(DO 処置細胞/DO 未処置細胞)*100]により計算した。
【0088】
例5.2:DNA断片化の測定
少量の界面活性剤を含む溶液を用いて細胞を透過処理し、それらのDNA含有量をヨウ化プロピジウム標識により概算した。ヨウ化プロピジウムは、二本鎖DNA中に挿入される蛍光分子であった。アポトーシスのプロセスを経た透過処理細胞は、切断されたDNAを放出し、これは核および細胞のポアを通して拡散した。結果として、アポトーシス集団は、生細胞より低いDNA量を示し、sub-G1または異数体集団と称される。
【0089】
処置細胞(ウェルあたり2×105)を、4時間、4℃で、0.1%(w/v)クエン酸ナトリウムおよび0.1%(v/v)Triton-X-100ならびに50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma)を含む200μlのバッファーと共にインキュベートした。ヨウ化プロピジウムにより放出される蛍光は、細胞において存在し、これはアルゴンレーザー(488nm)により励起可能であり、その発光波長は637nmであるため、フローサイトメトリーにより測定した。
【0090】
例5.3:ミトコンドリアの膜電位の低下の測定
細胞集団においてミトコンドリア脱分極を測定することにより、アポトーシス細胞を同定した。アポトーシスの特徴であるミトコンドリア内膜の電位の低下(ΔΨm)を、テトラメチルローダミンメチルエステル蛍光プローブ(λex=488nm, λem=525nm)(TMRM、Sigma)またはヨウ化3,3’−ジヘキシルオキサカルボシアニン(DiOC6)を用いて測定した。
【0091】
これらの電位差プローブにより、ミトコンドリアの膜電位の変化をモニタリングすることが可能になった。基底の条件において、ミトコンドリアの膜は過分極し(−180mV)、プローブはミトコンドリア中に集積する(細胞が蛍光となった)が、アポトーシス条件においては、ミトコンドリア膜は脱分極し、プローブはミトコンドリア中に集積しない(細胞が蛍光を失った)。
【0092】
異なる薬物による細胞の処置の後で、細胞を10nMの濃度におけるTMRMまたはDIOC6の存在下において20分間37℃で置き、次いで、細胞の蛍光をフローサイトメトリーで分析した。
【0093】
例6:DISC、細胞ライセート、ウェスタンブロット
細胞を、1μg/mlのAPO1-3と共に30分間4℃でインキュベートした。洗浄の後で、細胞を、15分間4℃で(0分間)または37℃で(15分間)インキュベートし、次いで、30分間4℃で溶解バッファー(25mM HEPES pH 7.4、1% Triton X-100、150mM NaCl、2mM EDTA、プロテアーゼ阻害剤(Sigma)を含むカクテル)中で溶解した。ゲノムDNAを除去するために、溶解した細胞を15分間15000rpmで遠心分離し、上清を保持した。プロテインAと共役したセファロースビーズをライセートに添加し、混合物を2時間インキュベートした。ビーズを回収し、よく洗浄し、免疫沈降したタンパク質を変性および還元バッファー(0.01M Tris−HCl pH6.8、10%グリセロール(v/v)、85mMドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、5%(v/v)β−メルカプトエタノールおよび0.005%(w/v)ブロモフェノールブルー)中に再懸濁し、次いで100℃で5分間で加熱した。試料をアクリルアミド/ビスアクリルアミドゲル中に入れ、電気泳動により分離した。セミドライ式メディウムトランスファー技法を用いて、タンパク質をゲルからニトロセルロースメンブレンへ、2時間、一定のアンペア数でトランスファーした(0,8mA/cm2)。トランスファーバッファーは、25mMのTris、192mMのグリセリン、0.1%のSDS、20%エタノールからなった。トランスファーの後で、ニトロセルロースメンブレンを、5%(w/v)のスキムミルクを含むTBSTバッファー(50mM Tris pH=8、0.15M塩化ナトリウム、0.05%(v/v)Tween-20)(TBSTM)で30分間、タンパク質で飽和させた。TBSTで洗浄した後、メンブレンを、2時間、TBST中の一次抗体と共にインキュベートした。メンブレンをよく洗浄し、次いで、1時間、ペルオキシダーゼ共役二次抗体を含有するTBSTと共にインキュベートした。目的のタンパク質の存在を、ECL溶液(Enzyme Chemoluminescence, Pierce)により明らかにした。この溶液は、ペルオキシダーゼにより代謝されて発光化合物を生じる基質を含有する。発光化合物により、X線撮影用フィルム(Amersham)をマーキングすることが可能となった。
【0094】
例7:蛍光共焦点顕微鏡法
細胞を、ポリ−L−リジン(ESCO, VWR)で事前処理したスライドグラス上に5分間接着させ、次いで、異なる反応物と共にインキュベートした。抗Fas APO1-3アゴニスト抗体により活性化した細胞を、洗浄し、Alexa555蛍光色素と共役した抗マウス二次抗体で直接的に標識した。リツキシマブ(抗CD20)と共にインキュベートした細胞を、冷却PBSバッファー中で洗浄し、次いで、PBS/4%PFA(パラホルムアルデヒド)溶液で15分間固定した。洗浄の後で、先に記載したとおり、細胞を抗Fas抗体(クローンDX2)と共に(30分間4℃で)、次いで二次抗体と共に(30分間 4℃で)インキュベートした。細胞をPBS培地中で洗浄し、次いで、スライドグラスを乾燥させ、細胞をマウント用メディウムFluoroprep(Biomerieux)中に置き、蛍光共焦点顕微鏡(LSM SP5, Leica, Germany)により、×63の拡大で分析した。DAPI(200ng/ml)により、核の染色が可能になった。
【0095】
例8:DISCマクロ複合体の形成の増強効果の証明
図2において示すとおり、非細胞障害性の濃度(1〜10μM)のBAPTA-AM(1,2−ビス−(o−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N’,N’−テトラ−(アセトキシメチル)四酢酸)エステル)などのカルシウムキレーターと共に細胞をインキュベートすることによる胞質内カルシウム濃度の低下は、未処置の細胞と比較して、DISCマクロ複合体の形成を増強した。対照的に、カルシウムイオノフォアであるイオノマイシンを添加することにより誘導された細胞内カルシウム[Ca2+]iの上昇は、DISC複合体の形成を妨害し、結果としてFADDの結合およびカスパーゼ−8の活性化を低下させた。これらの結果は、カルシウムは、Fasシグナル伝達の初期段階の間に、FADDのリクルートメントおよびDISCの形成の前に、抗アポトーシスの機能においてある役割を果たすことを証明した。
【0096】
例9:細胞内カルシウム欠乏とFasシグナル伝達との間の共同作用の証明
図3Aにおいて示す結果は、白血病、リンパ腫、活性化された末梢血リンパ球(活性化されたPBL、末梢血リンパ球)に由来する多数の細胞株が、カルシウムキレーターBAPTA-AMを用いる処置の後で、Fas媒介性アポトーシスシグナルに対して感受性になったことを示す。逆に、内因性Fasを欠失するBurkittリンパ腫BL2細胞株は、この処置により感受性にならなかった。これらの結果は、Fasデスレセプターを惹起するアポトーシス誘導因子と、細胞内カルシウムの量を減少させることができる剤との組み合わせが、アポトーシスシグナルの誘導および腫瘍細胞の除去の著しい増強を可能にすることを確認する。
【0097】
例10:ストア感受性チャネルブロッカーのFas媒介性アポトーシスシグナルに対する増強効果の証明
結果は、高用量の2-APB阻害カルシウムチャネル(SOC)の使用は、TまたはBリンパ腫細胞株において、細胞内カルシウム濃度の低下を誘導し、FasL応答を増強した(図7A〜B)。
【0098】
例11:細胞外カルシウムを低下させることができる剤と少なくとも1つの抗癌剤との組み合わせ
細胞内カルシウム濃度に対する細胞外カルシウムの効果を示すことを目的とするこの例は、リンパ腫ヒト細胞において二重波長マイクロ蛍光分光計により調査した。図6AおよびBにおいて示す結果は、+/−3mMの細胞外カルシウム濃度([Ca2+]e)の変化が、細胞内カルシウム濃度[Ca2+]iに対して実質的に影響を有したことを示した。また、細胞外カルシウムの添加は、リツキシマブの送達により誘導された細胞死シグナルを阻害した(図6C)。対照的に、低濃度のカルシウム(0.5mM)を含有する培地は、リツキシマブにより誘導された死のシグナル伝達およびアポトーシスを増強することを可能にした(図6D)。
これらの結果は、[Ca2+]eの調節は、デスレセプターを介した抗腫瘍剤により媒介されるアポトーシスシグナルの媒介(mediation)を増強したことを明らかに示した。
【0099】
例12:カルシウムキレーター剤と少なくとも1つの抗癌剤との相乗的組み合わせ
この例において示す例は、Bリンパ腫細胞株をBAPTA-AMなどのカルシウムキレーターとプレインキュベーションすることにより、エデルホシンまたはリツキシマブなどの化学療法剤により媒介されるアポトーシスシグナルを増強することが可能になったことを示す(図4)。対照的に、Fas受容体およびリツキシマブ耐性を欠失するBL2細胞株を、BAPTA-AMと組み合わせたリツキシマブで処置した場合には、何らのアポトーシスシグナルの増大も観察されなかった。これらの結果は、本発明によるこのアポトーシスのシグナル経路におけるFas受容体の関与を確認する(図4)。
【0100】
例13:DR4またはDR5デスレセプターにより誘導されるアポトーシスシグナルの増強
図5A〜Cにおいて示す結果は、TRAILリガンド(図5A)、またはフルオロキセチン、MG132およびレスベラトロールなどのDR4もしくはDR5デスレセプターを介して作用する薬物(図5B〜C)を添加することによる細胞死の誘導がまた、カルシウムのキレートにより増強されたことを示した。結果は、活性化されたPBL(非腫瘍リンパ球)において何らの効果も観察されなかったので、この結果が腫瘍細胞に特異的であったことを示した。
【0101】
例14:細胞内カルシウムを低下させることができるとPI3K阻害剤との相乗的組み合わせ
図4Cおよび4Dにおいて示す結果は、PI3Kシグナル経路阻害剤、エデルホシンと、細胞内カルシウムを低下させる剤との組み合わせにより、腫瘍細胞株においてエデルホシンにより媒介されるアポトーシスシグナルを増強することが可能になったことを示す。
【0102】
例15:CD95の刺激はDISC形成に非依存的に細胞内カルシウムの急激な上昇を駆動する
CD95の活性化が細胞内カルシウム濃度([Ca2+]i)を変化させるか否かを評価するために、可溶性CD95Lの添加による細胞内カルシウムの変化を、2種の異なる白血病T細胞、I型細胞H9およびII型細胞Jurkatにおいて測定した(図8A)。CD95Lの投与は、基底レベルから100〜150nMから700nMまでからなる、迅速かつ一過性のカルシウムの上昇をもたらした(図8Aおよび8C)。
【0103】
次いで、CD95シグナルに対する耐性を示すCD95のヘミ接合性変異対立遺伝子(Jurkat-CD95-Q257K)を発現する白血病T細胞株を用いて、カルシウムのピークがCD95のデスドメインおよびDISCの主要成分(すなわちカスパーゼ−8およびカスパーゼ−10)に依存的であるか否かを決定した。結果は、CD95のこのデスドメイン変異対立遺伝子(Q257K)のヘミ接合性発現がDISCの形成およびアポトーシスシグナルの伝達の両方を変化させるにも拘らず、Jurkat CD95-Q257Kにおいて、親細胞株と比較して、カルシウム応答は変化しないままであったことを示した(図8A、BおよびC)。カルシウムの上昇は、したがって、デスドメイン非依存的機構に由来した。さらにこの観察を検証するために、細胞内カルシウム上昇における主要なDISC成分の役割を調査した。驚くべきことに、FADD、カスパーゼ−8またはカスパーゼ−8および−10を欠失する細胞はCD95媒介性アポトーシスシグナルに対して非感受性であり続けるが、それらはCD95Lの添加により観察される[Ca2+]iの上昇の変化を何ら示さなかった(図8Aおよび8B)。これらの結果は、したがって、CD95デスドメインおよびDISC成分がカルシウム応答の開始に関与しなかったことを示した。
【0104】
例16: 細胞内カルシウム濃度の低下はCD95L非依存的なCD95のクラスター化を促進した
カルシウムのピークがDISC形成に非依存的に起き、細胞においてイオン性シグナルが急激に起きたため、カルシウムイオンがCD95媒介性アポトーシスシグナルの初期段階に関与し得るか否かを評価した。
【0105】
カルシウムキレーターBAPTA-AM、または2−アミノエトキシジフェニルホウ酸(2-APB)と称されるIP3-受容体およびCRACチャネルのブロッカーのいずれかと共に細胞をプレインキュベーションすることは、基底の[Ca2+]iのかすかな低下を誘導した(図9A)。驚くべきことに、この細胞内カルシウムの低下は、CD95シグナルの誘導における中心的な初期段階であるCD95キャッピング(CD95-CAP)の形成を駆動した。60分間にわたる[Ca2+]iの低下は処置細胞の50%までにおいてCD95-CAPの形成を促進したため(図9B)、カルシウムの下方調節の効果は顕著であった。細胞50%はCD95-CAPを示したものの、この処置の間に、カスパーゼ−8活性化またはミトコンドリアの脱分極の痕跡は全く検出されなかった。このことは、CD95-CAP形成の下流にさらなるアポトーシスのチェックポイントが存在したことを示した。
【0106】
CD95が細胞内カルシウムの下方調節による凝集を起こしたことを検証するために、マイクロメーターのサイズのCD95含有ドメインの形成を、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて調査した(図10)。細胞内カルシウムの低下は、CD95のかなりの割合の重い画分中への再分布を可能にし(図10)、これは、[Ca2+]iのわずかな下方調節がCD95のクラスターの形成をもたらしたことを確認した。また、膜結合リガンドの痕跡が全く検出されなかったことから、カルシウムにより駆動されたCD95-CAPは、CD95Lのde novo発現に非依存的に起こったことが観察された。さらに、2-APBまたはBAPTA-AMのレジメンは、CD95の発現を変化させなかった。結論として、これらの発見は、細胞内カルシウムの下方調節が、CD95の凝集の形成を促進することにより、CD95シグナルの初期段階を促進したことを示唆した。
【0107】
CD95のクラスター化は、CD95分子の整列の初期段階であるので、CD95経路の初期イベントおよび細胞死に対する細胞内カルシウムの影響をさらに評価した。
CD95の刺激の際に観察される細胞内カルシウムのピークに対する非細胞障害性の濃度のBAPTA-AMおよび2-APBの効果を決定した。IP3受容体媒介性Ca2+放出の強力かつ選択的な膜透過性阻害剤として、ミズガメカイメン属海綿由来の海洋性アルカロイドであるゼストスポンジンCを用いた。先の研究から、CD95の関与によるカルシウム上昇におけるIP3-Rの必須の機能が明らかとなった。IP3-Rの誘導およびその後の細胞内ERストアからのカルシウムの放出の役割を、CD95へのFADDの結合を著しく促進したゼストスポンジンCを用いて確認した(図11A)。本発明者らの発見は、細胞外カルシウムの流入が、CD95の関与によるカルシウムピークのために重要であったことを示した。
【0108】
BAPTA-AMおよび2-APBのいずれも、CD95媒介性のカルシウムのピークを完全に抑制したが、一方で、これらの化学物質は、I型(H9)、II型(Jurkat)白血病T細胞における、および健康なドナーから単離された末梢血Tリンパ球(PBT)におけるDISC形成を劇的に改善した(図11B)。カルシウムピークの抑制は、アダプタータンパク質FADDのリクルートメントを促進し、これが次いで、未処置の細胞と比較してより大量のカスパーゼ−8を凝集した(図11B)。一方、カルシウムイオノフォアであるイオノマイシンの添加による[Ca2+]iの上昇は、FADDのCD95へのリクルートメントおよびDISC形成を防止した(図13C)。
【0109】
まとめると、これらの発見は、細胞内カルシウムが、CD95シグナルの初期段階の強力なモジュレーターとしてふるまい、アダプタータンパク質FADDのCD95デスドメインへのリクルートメントを妨げることを強く示唆した。
【0110】
例17:細胞内カルシウム濃度の下方調節はCD95媒介性アポトーシスシグナルを加速させた
細胞内カルシウム濃度の下方調節は、CD95シグナルの初期イベントを増強したので、次に、イニシエーターカスパーゼ−8のプロセシングおよび細胞のCD95媒介性アポトーシスシグナルに対する感受性が増強されたか否かを調査した。
【0111】
カスパーゼ−8活性化の動態により、BAPTA-AMまたは2-APBのいずれかを用いるカルシウム応答の変更は、CD95Lの添加によるT細胞およびB細胞株におけるイニシエーターカスパーゼ−8の切断を加速したことが明らかになった。[Ca2+]iの下方調節によるカスパーゼ活性の増大を、カスパーゼ−8の発光源性基質を用いるカスパーゼアッセイにより確認した(図12)。
さらに細胞死の動態に対するカルシウムの調節の影響を明らかにするために、細胞死の不可逆的マーカーであるミトコンドリアの電位の減少を評価した。カルシウム濃度の細胞内での上昇の遮断は、白血病細胞における細胞死プロセスを著しく加速させた(図13)。
【0112】
最後に、カルシウムの細胞内量の下方調節は、血液系(図14Aおよび14B)ならびに非血液系細胞株(図14C)の両方においてCD95媒介性アポトーシスシグナルを増強した。実際に、CD95媒介性アポトーシスシグナルに対する耐性を示す大腸腺癌細胞株HT29は、[Ca2+]iの低下により死に対して再び感受性になった(図14C)。
したがって、カルシウムの細胞内量の下方調節は、CD95媒介性アポトーシスシグナルを誘導するために必要とされるアポトーシスの閾値を低下させる可能性があったため、CD95-耐性細胞を死に対して再び感受性にさせ得ることが結論付けられた。
【0113】
CD95のヘミ接合性変異対立遺伝子(Jurkat-CD95Q257K)を保有する白血病T細胞株Jurkatは、CD95シグナルに対する耐性を示した(図14D)。驚くべきことに、この白血病T細胞を非細胞障害性の用量のBAPTA-AM(図14D)および2-APBと共にプレインキュベーションすることにより、CD95媒介性アポトーシスシグナルが、親細胞株に匹敵するレベルで回復した。
【0114】
まとめると、これらの発見は、細胞内カルシウムが、CD95シグナルの初期段階の調節において重要な役割を果たし、その低下が、CD95耐性腫瘍細胞を再び感受性にする可能性があったことを強調した。
【0115】
例18:アポトーシスシグナルCD95の調節における細胞外および細胞内のカルシウムのプールの関与
次に、細胞外(培地ストア)および細胞内(ERストア)のカルシウムの両方が、CD95シグナルの初期段階の調節に関与するか否かに取り組んだ。カルシウムの恒常性が厳密に制御されること、細胞外のカルシウム濃度([Ca2+]e)の上昇が細胞内濃度の増強をもたらしたことが観察された(図15A)。
【0116】
さらに、カルシウム(3mM)を添加した培地中で増殖させた細胞は、より低い量の細胞外遊離のカルシウム(1mM)を含む培地中でインキュベートした細胞と比較して、CD95媒介性アポトーシスシグナルに対して耐性であった(図15B)。[Ca2+]iの低下と同様に、非透過性BAPTA、BAPTAおよびEGTAの両方を用いる細胞外カルシウムの下方調節は、CD95の刺激によるFADDのリクルートメントおよびDISC形成を増強した(図15C)。
【0117】
最後に、EGTAまたはBAPTAのいずれかを用いる[Ca2+]eの下方調節は、TおよびB細胞株のCD95媒介性アポトーシスシグナルに対する感受性を増大させた(図15Dおよび15E)。
まとめると、これらの発見は、FADDのリクルートメントに先だって作用するCD95シグナルの初期段階の強力なモジュレーターとしての[Ca2+]eおよび[Ca2+]iの中心的役割を強調した。
【0118】
例19:CD95の刺激によるカルシウム流入におけるCRACチャネルSTIM/ORAIの関与
ストア感受性のCa2+流入は、細胞内ERストアからのCa2+放出の後で、Ca2+放出により活性化されるCa2+(CRAC)チャネルにより媒介される。活性化されたリンパ球においてCRACチャネルが、ER−カルシウムセンサーであるSTIM-1およびポアORAI-1に相当したことが知られている。[Ca2+]eおよび[Ca2+]iの両方がCD95シグナル伝達経路の初期段階に関与したことが示されたことから、カルシウムの流入はCRACチャネルORAI-1の活性化を通して媒介され得ることが推測された。CD95Lを細胞培養に添加した場合、STIM1は細胞質から細胞膜への分布に迅速に動いた。これは、ORAI-1の重合およびCRACの活性化の特徴として知られている。驚くべきことに、STIM-1およびORAI-1の両方による細胞膜の染色をCD95-CAPとマージすると、細胞外カルシウムの流入がCD95-CAPのレベルにおいて起こったことが示される。細胞質のCa2+の単一細胞イメージングを用いて、CD95の刺激が、均一な分布を示すカルシウム流入を駆動したことを観察した。実際に、CD95の関与によるカルシウム流入の精査により、CD95-CAPから細胞の反対側への[Ca2+]iの勾配が明らかとなった。
【0119】
例20:低カルシウム血症誘導剤ゾレドロネートのin vitroでの効果
いくつかの研究により、ゾレドロネートが多様な細胞株においてアポトーシスシグナル伝達に対する直接的効果を有したことが示されている。これらの効果を説明すると示唆される推定の機構の一つは、ゾレドロネートによるカルシウムのキレートであった。しかし、本発明者らの実験条件においては、ゾレドロネートは、試験した全てのモデル細胞株において、細胞内カルシウム濃度に影響を及ぼさなかった(図16A)。同様に、in vitroで、ゾレドロネート(10μM)は、それぞれ造血細胞株BL2、RajiおよびJurkatにおけるTRAIL、RTXおよびFasLに対するアポトーシス応答を増強しない(図16B)。
【0120】
例21:マウス高カルシウム血症に対するゾレドロネートの効果
ゾレドロネート注射(1週間に1回の注射、4週間、4mg/kg)により処置されたマウスは、ビヒクルのみ(生理学的血清)で処置されたマウスと比較して、その高カルシウム血症の有意な(p<0.05)低下を示した(図16C)。最後のゾレドロネートまたはビヒクル注射の3日後にマウスから血液試料を採取し、COBAS INTEGRA calcium(登録商標)(Roche)マイクロ法により、高カルシウム血症を評価した。
【0121】
例22:Bリンパ腫の増殖に対するリツキシマブのゾレドロネートとの組み合わせの効果
5〜7週齢のRag2-/-β-/-マウス側腹部において、腫瘍の移植を皮下で行った。腫瘍の移植後に、各処置のために、マウスを8~10個体の動物の群に分けた。腫瘍のサイズを、毎日、その幅(w)およびその長さ(l)を測定することにより評価した。その容積を、式:V=lw2/2に従って計算した。実験の終了時に、動物を安楽死させ、腫瘍の重量を測定した。
【0122】
106のRaji細胞を、マウス側腹部において皮下移植した。腫瘍の増殖に対するリツキシマブ単独、ゾレドロネート単独の効果を評価した。リツキシマブ(2mg/kg)は週3回送達し、ゾレドロネートは週1回送達した。これらの条件下において、本発明者らは、腫瘍量は、リツキシマブまたはゾレドロネート単独によるマウスの処置により、ビヒクル(生理学的血清/Sephy)による処置と比較して、有意に影響を受けないが、一方、ゾレドロネートと組み合わせたリツキシマブにより処置されたマウスの腫瘍量は、有意に(p<0.05)、約50%減少したことを示す(図16D)。
【0123】
例23:腫瘍増殖に対する抗癌剤と組合わせた低カルシウム血症誘導剤の効果:小動物における研究
5〜7週齢のRag2-/-β-/-マウス側腹部において、腫瘍の移植を皮下で行う。腫瘍の移植後に、各処置のために、マウスを8~10個体の動物の群に分ける。腫瘍のサイズを、毎日、その幅(w)およびその長さ(l)を測定することにより評価する。その容積を、式:V=lw2/2に従って計算した。実験の終了時に、動物を安楽死させ、腫瘍の重量を測定する。
【0124】
ゾレドロネートおよびBAPTA-AMを、低カルシウム血症誘導剤として用いる。ゾレドロネートおよびBAPTA-AMを、実験的パラダイムに従って、高カルシウム血症を著しく低減するために十分な濃度において、腫瘍の移植の前に、および目的の抗癌剤による処置の全期間にわたって送達する。
試験される各々の物質について、活性物質のビヒクルに相当する反応物を、「対照群」と称される動物の群の腫瘍増殖について試験する。
【0125】
モデル1:可溶性TRAIL(Killer TRAIL、Alexis)とゾレドロネートまたはBAPTA-AMとの組み合わせのBリンパ腫の増殖に対する効果
106〜107のBL2細胞を、マウス側腹部において皮下移植する。可溶性TRAIL単独、ゾレドロネート単独、BAPTA-AM単独の腫瘍の増殖に対する効果を評価する。可溶性TRAILを当業者に公知のプロトコルに従って送達し、ゾレドロネート、BAPTA-AMを、上で記載するプロトコルに従って送達する。これらの条件下において、腫瘍増殖は、0〜50%;5〜50%;10〜50%;15〜50%;20〜50%;25〜50%;30〜50%;35〜50%;35〜50%;40〜50%;45〜50%、減少する可能性がある。可溶性TRAILをゾレドロネートまたはBAPTA-AMと組み合わせる場合、腫瘍増殖は、10〜90%;15〜90%;20〜90%;25〜90%;30〜90%;35〜90%;40〜90%;45〜90%;50〜90%;55〜90%;60〜90%;65〜90%;70〜90%;75〜90%;80〜90%;85〜90%、減少する可能性がある。
【0126】
モデル2:フルオロキセチンとゾレドロネートまたはBAPTA-AMとの組み合わせのBリンパ腫および大腸癌細胞株HCT116の増殖に対する効果
106〜107のBL2細胞またはHCT116細胞を、マウス側腹部において皮下移植する。フルオロキセチン単独、ゾレドロネート単独、BAPTA-AM単独の腫瘍の増殖に対する効果を評価する。フルオロキセチンを当業者に公知のプロトコルに従って送達し、ゾレドロネート、BAPTA-AMを、上で記載するプロトコルに従って送達する。これらの条件下において、腫瘍増殖は、0〜50%;5〜50%;10〜50%;15〜50%;20〜50%;25〜50%;30〜50%;35〜50%;35〜50%;40〜50%;45〜50%、減少する可能性がある。フルオロキセチンをゾレドロネートまたはBAPTA-AMと組み合わせる場合、腫瘍増殖は、10〜90%;15〜90%;20〜90%;25〜90%;30〜90%;35〜90%;40〜90%;45〜90%;50〜90%;55〜90%;60〜90%;65〜90%;70〜90%;75〜90%;80〜90%;85〜90%、減少する可能性がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌を処置する、DISC(細胞死誘導シグナル伝達複合体)マクロ複合体の形成を増強する、および腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導するための組成物であって、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤およびカルシウムキレーターの中から選択される活性剤の治療有効量と、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤の治療有効量とを含む、前記組成物。
【請求項2】
低カルシウム血症誘導剤が、ビスホスホネート、カルシウム模倣剤またはカルシトニンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
カルシウムキレーターが、BAPTA、EGTA、EDTA、CDTA、それらの透過性形態、BAPTA-AM、EGTA-AM、MAPTA-AM、5,5’F2 BAPTA、またはカルジオキサンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
カルシウム模倣剤がシナカルセトである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
カルシウムチャネル阻害剤が、2−アミノエトキシジフェニルホウ酸(2-APB)、ML-9またはBTP2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ビスホスホネートが、パミドロネート、ゾレドロネート、エチドロネート、イバンドロネートまたはクロドロネートである、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
デスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導することができる抗癌剤が、抗CD20抗体、抗Fas抗体、抗TNF-R1抗体、抗DR4抗体、抗DR5抗体、FasL、TRAILおよびそれらの可溶性形態または多量体の可溶性形態の中から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
抗CD20抗体がリツキシマブもしくはRituxan(登録商標)、GA-101、オファツムマブ、LFB-R603またはベルツズマブである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
処置される癌が、大腸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、腎臓癌、脳癌、肉腫、精巣癌、リンパ腫または白血病および肝臓癌の中から選択され、好ましくはBリンパ腫腫瘍、前立腺癌腫瘍または乳癌腫瘍である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物の抗癌処置薬の製造のための使用であって、前記組成物がデスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5により媒介されるアポトーシスシグナルを誘導する、前記使用。
【請求項11】
患者において癌を処置および/または癌の再発を予防する方法であって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物の治療有効量が前記患者に投与される、前記方法。
【請求項12】
処置される患者が、原発腫瘍、造血癌または固形腫瘍に罹患しており、骨転移の発生を有さない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
活性剤が、腫瘍性疾患に関連する代謝性疾患を処置するために現在投与されている量よりも低い治療有効量において投与される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
腫瘍細胞においてデスレセプターFas、DR4および/またはDR5により媒介される抗癌剤のアポトーシス促進性効果を増強することができる化合物を検出するためのスクリーニングの方法であって、組成物を細胞と接触させること、および選択的増強によるDISCマクロ複合体の形成を評価することを含む、前記方法。
【請求項15】
アポトーシス促進増強効果が、ミトコンドリアの膜電位を測定することにより、膜透過性を測定することにより、DNA断片化を測定することにより、細胞の形態を測定することにより、ウェスタンブロットにより、および/またはカスパーゼ活性を測定することにより評価される、請求項14に記載のスクリーニングの方法。
【請求項1】
癌を処置する、DISC(細胞死誘導シグナル伝達複合体)マクロ複合体の形成を増強する、および腫瘍細胞においてデスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導するための組成物であって、低カルシウム血症誘導剤、カルシウムチャネル阻害剤およびカルシウムキレーターの中から選択される活性剤の治療有効量と、デスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5を介するアポトーシスシグナルを誘導する抗癌剤の治療有効量とを含む、前記組成物。
【請求項2】
低カルシウム血症誘導剤が、ビスホスホネート、カルシウム模倣剤またはカルシトニンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
カルシウムキレーターが、BAPTA、EGTA、EDTA、CDTA、それらの透過性形態、BAPTA-AM、EGTA-AM、MAPTA-AM、5,5’F2 BAPTA、またはカルジオキサンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
カルシウム模倣剤がシナカルセトである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
カルシウムチャネル阻害剤が、2−アミノエトキシジフェニルホウ酸(2-APB)、ML-9またはBTP2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ビスホスホネートが、パミドロネート、ゾレドロネート、エチドロネート、イバンドロネートまたはクロドロネートである、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
デスレセプターにより媒介されるアポトーシスシグナルを誘導することができる抗癌剤が、抗CD20抗体、抗Fas抗体、抗TNF-R1抗体、抗DR4抗体、抗DR5抗体、FasL、TRAILおよびそれらの可溶性形態または多量体の可溶性形態の中から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
抗CD20抗体がリツキシマブもしくはRituxan(登録商標)、GA-101、オファツムマブ、LFB-R603またはベルツズマブである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
処置される癌が、大腸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌、腎臓癌、脳癌、肉腫、精巣癌、リンパ腫または白血病および肝臓癌の中から選択され、好ましくはBリンパ腫腫瘍、前立腺癌腫瘍または乳癌腫瘍である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物の抗癌処置薬の製造のための使用であって、前記組成物がデスレセプターFas、TNF-R1、DR4および/またはDR5により媒介されるアポトーシスシグナルを誘導する、前記使用。
【請求項11】
患者において癌を処置および/または癌の再発を予防する方法であって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物の治療有効量が前記患者に投与される、前記方法。
【請求項12】
処置される患者が、原発腫瘍、造血癌または固形腫瘍に罹患しており、骨転移の発生を有さない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
活性剤が、腫瘍性疾患に関連する代謝性疾患を処置するために現在投与されている量よりも低い治療有効量において投与される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
腫瘍細胞においてデスレセプターFas、DR4および/またはDR5により媒介される抗癌剤のアポトーシス促進性効果を増強することができる化合物を検出するためのスクリーニングの方法であって、組成物を細胞と接触させること、および選択的増強によるDISCマクロ複合体の形成を評価することを含む、前記方法。
【請求項15】
アポトーシス促進増強効果が、ミトコンドリアの膜電位を測定することにより、膜透過性を測定することにより、DNA断片化を測定することにより、細胞の形態を測定することにより、ウェスタンブロットにより、および/またはカスパーゼ活性を測定することにより評価される、請求項14に記載のスクリーニングの方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図16D】
【公表番号】特表2012−510976(P2012−510976A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539043(P2011−539043)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066466
【国際公開番号】WO2010/063847
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(503127873)ユニヴェルシテ ボルドー セガラン (7)
【出願人】(511135813)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066466
【国際公開番号】WO2010/063847
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(503127873)ユニヴェルシテ ボルドー セガラン (7)
【出願人】(511135813)
【Fターム(参考)】
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