説明

腫瘍老化遺伝子の発現を同定および調節するための試薬および方法

【課題】その発現が哺乳動物腫瘍細胞の老化の進行に関連する遺伝子の発現を調節する化合物を同定するための方法を提供する。
【解決手段】細胞毒性物質を用いる処置により誘導される腫瘍老化遺伝子を同定する。これらの細胞遺伝子の発現を誘導し、そして細胞老化、とりわけ腫瘍細胞における老化を生じさせる化合物を同定するための試薬および方法。また、その発現が老化細胞において調節される、遺伝子のプロモーターの転写制御下においてレポーター遺伝子を発現させる、組換え発現構築物を含有する組換え哺乳動物細胞である試薬、および、このような細胞を用いてこれらの細胞遺伝子の発現を調節する化合物を同定するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本出願は、国立衛生研究所からの助成金、第 号により支援された。政府は本発明において一定の権利を有し得る。
【0002】
1.本発明の技術分野
本発明は、細胞遺伝子発現における変化、および細胞遺伝子発現に変化を生じる化合物に関する。詳細には、本発明は、化学療法剤、例えばドキソルビシン、および電離放射線を含む細胞毒性物質を用いる処置の場合に、その発現が哺乳動物腫瘍細胞の老化の進行に関連する遺伝子の同定に関する。さらに具体的には、本発明は、これらの細胞遺伝子の発現を調節する化合物を同定するための方法を提供する。本発明はまた、老化関連遺伝子の発現のために、プロモーターの転写制御下でレポーター遺伝子を発現する組換え発現構築物を含有する組換え哺乳動物細胞である試薬、および、前記細胞においてこれらの細胞遺伝子の発現を調節し、そして老化を生じさせる化合物を同定するためにこのような細胞を使用するための方法を提供する。本発明の方法を用いて同定される化合物は、異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患および障害を処置するための治療方法において使用するために提供される。診断方法、とりわけ抗癌治療計画の有効性をモニタリングするための方法もまた、本発明により提供される。
【0003】
2.関連技術についての概説
癌は、依然として米国で主要な死亡原因の1つである。現在の癌治療には、化学療法および放射線療法などがあるが、これらの処置はすべての腫瘍細胞に対して常に細胞毒性であるというわけではない。処置に耐えた細胞の中には回復して増殖を再開する細胞もあるし、永続的に増殖停止する細胞もある。抗癌剤で処置された腫瘍細胞の不可逆的増殖停止は、細胞死または永続的な増殖停止の結果であり得る。損傷誘導性の細胞死のメカニズムは活発な研究の対象であるが、腫瘍細胞における最終的な増殖停止の決定因子に関してはほとんど解っていない。
【0004】
種々の腫瘍細胞系の、インビトロおよびインビボでの種々の抗癌物質への暴露は、細胞老化の表現型の特徴、例えば細胞肥大、接着および細胞内顆粒密度(granularity)の増加、並びに老化に関連するβ−ガラクトシダーゼ活性(SA−β−gal;Changら、Cancer Res.59:3761−3767(1999a))などを伴う長期間の増殖停止を誘導する。処置された腫瘍細胞における老化表現型の誘導は、種々の細胞毒性物質、例えばドキソルビシン、アフィジコリン、シスプラチン、電離放射線、シタラビン、エトポシドまたはタキソールで処置された細胞において観察されている;この応答は、検出可能な増殖抑制を生じる最低濃度の細胞毒性物質で処置された腫瘍細胞においてさえ検出可能である(Changら(1999a)前出)。腫瘍細胞の老化は、細胞毒性物質のみならず、ビタミンA誘導体、レチノイドを用いても、最小限の細胞毒性で増殖抑制を生じる条件下において生じうる(Changら(1999a)前出)。乳癌細胞におけるレチノイド誘導性の老化は、Dokmanovicら(Cancer Biol. Ther.1:16−19(2002))、および共有で同時係属中の2001年5月25日出願の米国特許出願第09/865,879号(参照して本明細書に組み込まれる)に記載されているような、いくつかの増殖抑制遺伝子の同時誘導に関連する。腫瘍細胞はまた、腫瘍サプレッサーの異所的発現(Sugrueら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:9648−9653(1997);Uhrbomら、Oncogene 15:505−514(1997);Xuら、Oncogene 15:2589−2596(1997))または腫瘍遺伝子抑制により老化するように誘導することもできる。例えば、子宮頸癌細胞系におけるパピローマウイルス腫瘍性タンパク質E6およびE7の抑制により、ほとんど100%の細胞で老化様の増殖停止が誘導されることが見出された(Goodwin、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:10978−10983(2000))。従って、腫瘍細胞における老化プログラムの活性化は、癌治療に対する実現可能な生物学的アプローチになると思われる。
【0005】
細胞、とりわけ腫瘍細胞が、老化表現型のマーカーとしておよび前記細胞において老化を誘導するための標的としての双方として老化する場合に、誘導される遺伝子を同定する必要性が当該技術分野において依然存在している。処置、とりわけ抗癌処置に応答して老化する細胞、とりわけ腫瘍細胞を、このような処置の有効性を評価するために同定する必要性もまた当該技術分野に存在する。さらに、癌のような増殖性疾患の処置を改善する方法として、哺乳動物細胞、とりわけ腫瘍細胞において老化を誘導する化合物を同定する必要性も当該技術分野に存在する。
【0006】
発明の概要
本発明は、老化細胞において誘導または抑制され、そして細胞毒性物質で処置したときに生じる遺伝子、並びにこのような遺伝子を誘導または抑制する化合物を同定するための試薬および方法を提供する。都合がよいことには、本発明はまた、これらの作用物質に関連する毒性を生じることなく、腫瘍細胞の増殖の抑制において細胞毒性物質の作用を模倣する化合物を提供する。最も好ましくは、模倣された作用は哺乳動物腫瘍細胞における老化の誘導である。
【0007】
第1の態様では、本発明は、哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法を提供する。1つの実施形態では、前記方法は、化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞を培養する工程;化合物の不存在下の細胞における細胞遺伝子の発現と、化合物の存在下での表2Aに示す少なくとも1つの前記細胞遺伝子の前記細胞における発現をアッセイする工程;並びに、表2Aの少なくとも1つの細胞遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも高い場合に、老化を誘導する化合物を同定する工程を含む。好ましい実施形態では、哺乳動物細胞はp53欠損細胞である。別の好ましい態様では、哺乳動物細胞は腫瘍細胞である。好ましくは、細胞遺伝子はヒト遺伝子、最も好ましくはBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリン(amphiregulin)である。前記方法による細胞遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、または細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0008】
別の実施形態では、哺乳動物細胞は、表2Aの細胞遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む組換え哺乳動物細胞である。これらの実施形態では、組換え哺乳動物細胞、並びに化合物の存在下および不存在下で検出されるレポーター遺伝子の発現増加を用いて、表2Aの少なくとも1つの細胞遺伝子の誘導をアッセイする。別の好ましい実施形態では、前記方法は、表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現に関して試験化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下よりも多くない化合物を同定する工程をさらに含む。前記方法によるレポーター遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、またはレポーター遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0009】
本発明の第1の態様の別の実施形態では、哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定する方法は、化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞を培養する工程;化合物の不存在下の細胞における細胞遺伝子の発現と、化合物の存在下での表2Aに示す少なくとも1つの前記細胞遺伝子の前記細胞における発現をアッセイする工程;細胞増殖および老化の形態学的特徴に関して組換え哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに、表2Aの少なくとも1つの細胞遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも高く、そして化合物の存在下で細胞が増殖抑制されて老化の形態学的特徴を発現する場合に、老化を誘導する化合物を同定する工程を含む。好ましい実施形態では、哺乳動物細胞はp53欠損細胞である。別の好ましい実施形態では、哺乳動物細胞は腫瘍細胞である。好ましくは、細胞遺伝子はヒト遺伝子、最も好ましくはBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンである。前記方法による細胞遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、または細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0010】
別の実施形態では、哺乳動物細胞は、表2Aの細胞遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む組換え哺乳動物細胞である。これらの実施形態では、表2Aの少なくとも1つの細胞遺伝子の誘導は、組換え哺乳動物細胞、並びに化合物の存在下および不存在下において検出されるレポーター遺伝子の発現増加を用いてアッセイする。別の好ましい実施形態では、前記方法は、表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現に関して試験化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定する工程をさらに含む。前記方法によるレポーター遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、またはレポーター遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0011】
第2の態様では、本発明は、哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法を提供する。1つの実施形態では、前記方法は、化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞を培養する工程;化合物の不存在下の細胞における細胞遺伝子の発現と、化合物の存在下での表1に示す少なくとも1つの前記細胞遺伝子の前記細胞における発現をアッセイする工程;並びに、表1の少なくとも1つの細胞遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも低い場合に、老化を誘導する化合物を同定する工程を含む。好ましい実施形態では、哺乳動物細胞はp53欠損細胞である。別の好ましい実施形態では、哺乳動物細胞は腫瘍細胞である。好ましくは、細胞遺伝子はヒト遺伝子、最も好ましくはHFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、LRPR1である。前記方法による細胞遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、または細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0012】
別の実施形態では、哺乳動物細胞は、表1の細胞遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む組換え哺乳動物細胞である。これらの実施形態では、表1の少なくとも1つの細胞遺伝子の誘導は、組換え哺乳動物細胞、並びに化合物の存在下および不存在下で検出されるレポーター遺伝子の発現低下を用いてアッセイする。別の好ましい実施形態では、前記方法は、表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現に関して試験化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに、表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定する工程をさらに含む。前記方法によるレポーター遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、またはレポーター遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0013】
本発明の第2の態様の別の実施形態では、哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定する方法は、化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞を培養する工程;化合物の不存在下の細胞における細胞遺伝子の発現と、化合物の存在下での表1に示す少なくとも1つの前記細胞遺伝子の前記細胞における発現をアッセイする工程;細胞増殖および老化の形態学的特徴に関して組換え哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに、表1の少なくとも1つの細胞遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下よりも低く、そして化合物の存在下で細胞が増殖抑制されて老化の形態学的特徴を発現する場合に、老化を誘導する化合物を同定する工程を含む。好ましい実施形態では、哺乳動物細胞はp53欠損細胞である。別の好ましい実施形態では、哺乳動物細胞は腫瘍細胞である。好ましくは、細胞遺伝子はヒト遺伝子、最も好ましくはHFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、LRPR1である。前記方法による細胞遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、または細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0014】
また別の実施形態では、哺乳動物細胞は、表1の細胞遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む組換え哺乳動物細胞である。これらの実施形態では、表1の少なくとも1つの細胞遺伝子の抑制は、組換え哺乳動物細胞、並びに化合物の存在下および不存在下で検出されるレポーター遺伝子の発現低下を用いてアッセイする。別の好ましい実施形態では、前記方法は、表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現に関して試験化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定する工程をさらに含む。前記方法によるレポーター遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、またはレポーター遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0015】
第3の態様では、本発明は、本発明の方法、最も好ましくは、試験化合物の存在下および不存在下で、表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現に関して哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに、表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定する工程をさらに含む本発明の方法の実施形態により生成される化合物を提供する。
【0016】
第4の態様では、本発明は、異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患または症状の処置の有効性を評価する方法を提供する。前記方法は:処置前および処置後に異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患または症状を有する動物に由来する細胞を含む生物学的サンプルを入手する工程;処置後の表1、2Aまたは2Bの少なくとも1つの遺伝子の発現を処置前の前記遺伝子の発現と比較する工程;並びに、表2Aおよび2Bの少なくとも1つの遺伝子の発現が処置前よりも処置後において高いか、あるいは表1の少なくとも1つの遺伝子の発現が処置前よりも処置後において低い場合に、前記処置が異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患または症状の処置に関して有効性を有していると決定する工程を含む。好ましい実施形態では、生物学的サンプルは腫瘍細胞を含む。好ましくは、遺伝子は表2Aの細胞遺伝子であり、最も好ましくは、少なくとも1つの細胞遺伝子がBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンであるヒト遺伝子である。別の好ましい実施形態では、遺伝子は表1の細胞遺伝子であり、最も好ましくは、HFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、およびLRPR1であるヒト遺伝子である。前記方法による細胞遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、またはレポーター遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0017】
第5の態様では、本発明は、異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患または症状、最も好ましくは癌を処置するための方法を提供する。本発明の方法は、本発明の方法、最も好ましくは、試験化合物の存在下および不存在下で、表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現に関して哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに、表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定する工程をさらに含む本発明の方法の実施形態に従って生成された、治療有効量の化合物を前記疾患または症状を有する動物に投与する工程を含む。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、老化細胞において生成された分泌性タンパク質を検出するための方法を提供する。特に本発明は、この態様において、細胞、好ましくは腫瘍細胞において老化を誘導する処置が有効であるかどうかを特に決定するための診断方法を提供する。好ましい実施形態では、本発明により提供される検出アッセイを、体液、例えば血液、尿、滲出液、腹水、唾液、脳脊髄液、頸管分泌物、膣分泌物、子宮内膜分泌物、消化管分泌物、気管支分泌物、痰、または乳房からの分泌物もしくは洗浄液について実施する。本発明のこの態様でアッセイされる好ましい分泌性タンパク質には、マスピン、MIC−1、IGFBP−6およびアンフィレギュリンが含まれる。
【0019】
第6の態様では、本発明は、細胞遺伝子発現の老化に関連する誘導を抑制する化合物を同定するための方法を提供する。この態様の好ましい実施形態では、前記方法は、細胞を、細胞増殖を抑制する濃度の細胞毒性物質と接触させる工程;細胞が老化するときに誘導される細胞遺伝子の発現における変化に関して、化合物の存在下および不存在下で細胞をアッセイする工程;並びに、前記細胞遺伝子の発現が化合物の不存在下で誘導されるが、化合物の存在下では誘導されない場合に、細胞遺伝子発現の老化に関連する誘導の抑制因子として化合物を同定する工程を含む。好ましい態様では、細胞遺伝子は、サイクリンD1、血清誘導性キナーゼ、CYR61、プロサポシン、形質転換増殖因子α(TGFα)、カリクレイン7、カルパイン−L2、ニューロシン、プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼ、アミロイドベータ(A4)前駆体タンパク質(βAPP)、または膜内在性タンパク質2B(BRI/ITM2B)である、ヒト遺伝子である。好ましい態様では、哺乳動物細胞はp53欠損細胞である。別の好ましい実施形態では、哺乳動物細胞は腫瘍細胞である。前記方法による細胞遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、または細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0020】
別の実施形態では、哺乳動物細胞は、サイクリンD1、血清誘導性キナーゼ、CYR61、プロサポシン、形質転換増殖因子α(TGFα)、カリクレイン7、カルパイン−L2、ニューロシン、プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼ、アミロイドベータ(A4)前駆体タンパク質(βAPP)、または膜内在性タンパク質2B(BRI/ITM2B)であるヒト遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む、組換え哺乳動物細胞である。これらの実施形態では、前記方法は、哺乳動物細胞を、細胞増殖を抑制する濃度の細胞毒性物質と接触させる工程;レポーター遺伝子の発現に関して試験化合物の存在下および不存在下で哺乳動物細胞をアッセイする工程;並びに、レポーター遺伝子の発現が化合物の存在下では化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定する工程を含む。前記方法によるレポーター遺伝子の発現は、相補的な核酸に対するハイブリダイゼーションにより、免疫学的試薬を用いることにより、またはレポーター遺伝子産物の活性をアッセイすることにより、好ましくは検出される。
【0021】
本発明はまた、処置の有効性をモニタリングする方法を提供する。これらの実施形態では、老化し、もはや増殖することができない腫瘍細胞を同定し、そして、処置後に回復および増殖する腫瘍細胞から区別する。患者の処置後に得られた腫瘍からの生検サンプルにおける老化マーカー検出を処置応答の指標として用いる。
【0022】
本発明の特定の好ましい実施形態は、以下のさらに詳細な、特定の好ましい実施形態および特許請求の範囲の記載から明らかになろう。
【0023】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、細胞毒性物質で処置したときに老化する細胞においてその発現が調節される遺伝子を提供する。本発明はまた、細胞毒性物質の遺伝子発現調節特性を模倣するが、化学療法剤の処置に特徴的である毒性がない化合物を同定する方法、並びに方法により同定される化合物を提供する。さらにとりわけ本明細書に示すような診断および治療的処置方法が提供される。
【0024】
本発明の目的のために、用語「老化」は、増殖因子により可逆でないDNA複製および細胞増殖の永続的な停止を含むと理解され、例えば、正常細胞の増殖性の寿命の終わりに、または細胞毒性物質、DNA損傷もしくはその他の細胞障害に応答した正常もしくは腫瘍細胞に生じる。老化はまた、サイズの増加、扁平な形態、細胞内顆粒密度の増大、および老化に関連するβ−ガラクトシダーゼ活性(SA−β−gal)などの特定の形態学的特徴により特徴付けられる。
【0025】
本明細書で用いる用語「老化関連遺伝子」は、細胞が老化表現型、とりわけ細胞を細胞毒性物質と接触させることにより生じる老化表現型を発現する場合に、その発現が調節される(誘導されるかまたは抑制されるかのいずれか)遺伝子を包含することを意図する。最も好ましくは、その用語は本明細書、とりわけ表1および2で開示される遺伝子を意味すると理解される。
【0026】
老化は、哺乳動物細胞において、細胞増殖を抑制する細胞毒性物質の用量で細胞に接触させることにより、都合よく誘導することができる(Changら(1999a)前出に開示されている)。作用物質の存在下および不存在下で培養された細胞の数を比較し、そして等しい培養時間の後に作用物質の存在下では作用物質の不存在下よりも細胞が少ない場合に増殖抑制を検出することにより、細胞の増殖を測定する。このような細胞毒性物質の実例には、ドキソルビシン、アフィジコリン、シスプラチン、シタラビン、エトポシド、タキソールおよび電離放射線などがあるが、これらに限定されない。適当な用量は種々の細胞型で変動する;老化を誘導する用量の決定は当該技術分野の技術の範囲内であり、Changら(1999a)前出に開示されている。
【0027】
本発明の目的のために、「(1つの)細胞」または「(複数の)細胞」は等価であると意図され、そしてとりわけ当該技術分野で知られているように増殖および維持された哺乳動物細胞のインビトロ培養物、並びに、とりわけインビボ腫瘍標本から得られた、生物学的サンプルを包含する。
【0028】
本発明の目的のために、複数の「細胞遺伝子」への言及は、単一の遺伝子および2またはそれ以上の遺伝子を包含すると意図される。細胞遺伝子発現、または細胞遺伝子から誘導されるプロモーターの転写制御下のレポーター構築物の調節の効果を第1の遺伝子において検出することができ、そして次に第2のまたはいくつかのさらなる遺伝子もしくはレポーター遺伝子構築物を試験することにより効果を反復することができる。あるいは、2またはそれ以上の遺伝子もしくはレポーター遺伝子構築物の発現を本発明の範囲内で同時にアッセイすることができる。
【0029】
本発明の方法は、細胞毒性物質に応答して老化表現型を進行させうるいずれかの哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、最も好ましくはヒト細胞を用いて実施することができる。好ましい細胞には、哺乳動物細胞、好ましくは齧歯類または霊長類細胞、最も好ましくはヒト細胞などがある。特定の実施形態では、最も好ましい細胞は、変異、欠失、組換え、染色体消失または遺伝子操作の結果として、正常量よりも少ない、または正常の機能活性よりも少ない腫瘍サプレッサーp53を発現する細胞である、p53欠損細胞である。
【0030】
特定の実施形態では、本発明の方法は、老化細胞で誘導される遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子をコードする組換え発現構築物を含む組換え哺乳動物細胞を用いて、都合よく実施される。前記構築物を含む好ましいレポーター遺伝子には、ホタルルシフェラーゼ、クロラムフェニコール アセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、アルカリホスファターゼ、そして最も詳細には、市販により入手可能なGFP−ルシフェラーゼ融合遺伝子が含まれる。本発明の組換え発現構築物を含む最も好ましいプロモーターは、老化細胞において誘導されることが知られている細胞遺伝子に由来するプロモーターである。細胞遺伝子プロモーターは、本明細書の表2Aで同定された遺伝子に由来するのが都合がよい。最も好ましい実施形態では、細胞プロモーターは、BTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンに由来する。別の実施形態では、細胞遺伝子プロモーターは老化細胞において抑制される遺伝子に由来する。この型の好ましいプロモーターには、本明細書の表1で同定された遺伝子に由来するプロモーターが含まれる。さらに好ましい実施形態では、細胞プロモーターは、HFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、LRPR1に由来する。
【0031】
これらの遺伝子のいくつかに由来するプロモーター配列は当該技術分野で知られている。これには:サイクリンD1(Motokura & Arnold、Genes Chromosomes Cancer 7:89−95(1993));、CYR61(Latinkicら、Nucleic Acids Res.19:3261−3267(1991));プロサポシン(Sunら、Gene 218:23−34(1998));形質転換増殖因子α(TGFα;Rajaら、Mol.Endocrinol.5:514−520(1991));カリクレイン7(Yousefら、Gene 254:119−128(2000));カルパイン−L2(Suzukiら、Biol.Chem.Hoppe Seyler.376:523−529(1995));プラスミノーゲンアクチベータ ウロキナーゼ(Riccioら、Nucleic Acids Res.13:2759−2771(1985));およびアミロイドβ(A4)前駆体タンパク質(βAPP;Lahiri & Robakis、Brain Res.Molec.Brain Res.9:253−257(1991))が含まれる。
【0032】
その他の遺伝子については、遺伝子をコードするcDNAの上流の約5kb以内(およびさらに典型的には1kb以内)のゲノムDNAの領域から、プロモーター配列を容易に単離することができる。ヒトゲノムの完全配列を利用することにより、いずれかの遺伝子に対して5’のゲノム領域をコンセンサスプロモーター配列、例えば「TATA」ボックスと称されるATに富む配列、およびプロモーターの核酸とRNAポリメラーゼのようなタンパク質因子との相互作用を媒介するとして知られている「CAAT」配列を含む別の配列を調べることが可能になる。レポーター遺伝子から上流に推定プロモーター配列を挿入し、そしてこのような構築物のレポーター遺伝子活性を、推定プロモーターインサートを含まない構築物の活性と比較することにより、推定プロモーターを容易に試験することができる。
【0033】
組換え発現構築物は、当業者に理解されるように、最も好ましくはトランスフェクションおよびエレクトロポレーションにより、適当な哺乳動物細胞に導入することができる。前記構築物の好ましい実施形態は、ベクターの有用量を容易に生成させるために用いることができるプラスミドベクターまたはその他のベクターにおいて生成する。別の実施形態には、当該技術分野で知られているように、伝達ベクター、より好ましくはウイルスベクター、および最も好ましくはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、およびワクシニアウイルスベクターが含まれる。一般的には、MAMMALIAN CELL BIOTECHNOLOGY:A PRACTICAL APPROACH(Butler編)、Oxford University Press:New York、p.57−84(1991)を参照のこと。組換え発現構築物で一過性にトランスフェクションした細胞、およびさらに好ましくは構築物で安定的にトランスフェクションし、そして選択物質を用いて選択した細胞を、本発明の方法の特定の実施形態において使用するのが有利である。
【0034】
臨床の癌における老化応答の検出には、老化細胞の診断マーカーが必要である。最も一般的な老化マーカーであるSA−β−gal(Dimriら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9363−9367(1995))には2つの主要な欠点がある:これは、凍結組織サンプルにおいて、そして限られた時間の間のみ保存される酵素活性を示し、そして、これは老化細胞の増殖停止に機構的に関連しない。本発明は、老化細胞において上方制御される多くの遺伝子を提供する。これらのタンパク質は、細胞毒性物質に誘導される老化に対して感受性のある診断マーカーを提供する。診断マーカーとしてとりわけ興味深いのは、老化細胞において上方制御され、そして増殖停止に機能的に関連するいくつかの遺伝子、例えばEPLIN、BTG1、BTG2、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6およびアンフィレギュリンである。これらの老化関連増殖抑制因子の誘導は、ドキソルビシン処理されたHCT116細胞に限定されない;例えば、正常な上皮組織に比べて21の癌腫細胞系のうちの20において下方制御される増殖抑制タンパク質、EPLIN(Maulら、Oncogene 18:7838−7841(1999))は、老化様増殖停止を生じる条件下で、レチノイド処理によりMCF−7乳癌細胞において強く誘導される(Dokmanovicら、Cancer Biol.Ther.1:16−19(2002)、および共有で同時係属中の2001年5月25日出願の米国特許出願第09/865,879号(参照して本明細書に組み込まれる))。レチノイド処理はまた、分泌増殖抑制因子IGFBP−6を誘導することも示された(Daillyら、Biochem.Biophys.Acta.1518:145−151(2001))。その他の多くの老化関連増殖抑制因子は、種々のその他の腫瘍由来の細胞系、BTG1(Cortesら、Mol.Carcinogen.27:57−64(2000))、BTG2(Fletcherら、J.Biol.Chem.266:14511−14518(1991))、WIP1(Fiscellaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:6048−6053(1997))、マスピン(Zouら、J.Biol.Chem.275:6051−6054(2000))およびMIC−1(Komarovaら、前出)などにおけるDNA損傷により誘導されることが示されている。しかしながら、これらの研究はいずれも、これらの遺伝子と老化との関連性、および本明細書にて開示されるDNA損傷によるこのような遺伝子の一般的な誘導能力が、このような遺伝子が損傷誘導性の老化の広く適用可能なマーカーであることを強く示しているとは認識していない。
【0035】
本発明はまた、細胞毒性物質誘導性の老化においてその発現が下方制御される遺伝子を提供する。これらの遺伝子は、老化がこのような遺伝子の下方制御を特徴とすること以外は、老化の間に誘導される遺伝子と同様の様式で、腫瘍細胞における老化を検出するのに有用である。これらの遺伝子のいくつかは、細胞サイクルの進行に関与する転写因子であるHFH−11(Trident)(Yeら、Mol.Cell.Biol.19:8570−8580(1999))、種々の癌で過剰発現される遺伝子であるSTEAP(Hubertら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:14523−14528(1999))、発癌活性を有していることが示されているRHAMM(Hallら、Cell 82:19−26(1995))、肝臓再生に関わっているINSIG1(Pengら、Genomics 43:278−284(1997))、およびFSHに対する増殖性応答を媒介するLRPR1(Slegtenhorst−Eegdemanら、Mol.Cell.Endocrinol.108:115−124(1995))などの老化細胞において下方制御されるマーカーとしてとりわけ興味深い。
【0036】
当該技術分野で十分に確立された方法を用いて、遺伝子発現における変化、誘導または抑制のいずれか、および本明細書に開示するレポーター遺伝子構築物のいずれかの元来の遺伝子を検出する。これには、細胞核酸、最も好ましくはmRNAを検出するためのハイブリダイゼーションアッセイが含まれ、前記アッセイには、ノーザン・ハイブリダイゼーション、サザン・ハイブリダイゼーション、および当該技術分野で知られている種々のインビトロ増幅方法のいずれもが含まれる。免疫学的試薬、並びに酵素免疫測定法(ELISA)、およびポリクローナルもしくはモノクローナル抗体、抗体フラグメントまたは組換えもしくはキメラ抗体およびこのような免疫学的試薬を用いるその他のアッセイを含む方法を用いて、遺伝子発現の変化を検出することもできる。特定の遺伝子産物の活性はまた、最も好ましくは、既知であり定量可能な活性を有するレポーター遺伝子構築物と共に用いて、そして最も好ましくは、容易に検出される産物を生成するレポーター遺伝子構築物と共に用いて、遺伝子発現において老化に関連する変化を検出するのに有利である。
【0037】
処理に誘導される老化に関連する分子変化の解明もまた、治療に好都合である。加速された老化の誘導により永久的に停止している腫瘍細胞増殖は、細胞毒性が最小限である条件下においてさえ薬物処置に対してこの応答を誘導することができるので、魅力的な処置アプローチである。薬物に誘導される老化が複数の抗増殖性遺伝子(そのいくつかはまた、近隣細胞の増殖をも抑制する)の協調誘導に関連するという本開示は、このような遺伝子を活性化する共通の制御経路の存在を示唆している。重要なことには、たいていの増殖抑制遺伝子はまた、p53欠損細胞におけるドキソルビシン処理によっても誘導される。従って、老化関連増殖抑制遺伝子の誘導を刺激するために開発することができる作用物質は、機能的なp53を伴ってまたは伴わずに、腫瘍に対して有効である可能性がある。
【0038】
しかしながら、薬物誘導性の老化について観察できるのは、病理学的状態(例えばアルツハイマー病)に関連する遺伝子、並びにプロテアーゼおよび有糸分裂促進性、抗アポトーシス性および血管形成性の分泌性因子の誘導である。老化細胞によるこのような遺伝子の発現は、短期間(非老化腫瘍細胞の増殖刺激)および長期間(新規の発癌性および年齢関連疾患の可能性の増大)において、有害な作用の可能性を有し得る。正常ヒト肝臓におけるSA−β−gal発現が肝細胞癌腫の進行と強く相関することを見出したParadisら(Human Pathol.32:327−332(2001))の最近の研究により、細胞老化とインビボ発癌性との間の関連性が示唆されている。また、形質転換された上皮細胞を老化線維芽細胞と混合することにより(前老化線維芽細胞とは混合しない)、形質転換された細胞の増殖および腫瘍形成性が増強されることを見出したKrtolicaら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:12072−12077(2001))により、このような関連性が直接実証された。p21誘導は多くの疾患関連遺伝子を上方制御し、そしてパラクリン抗アポトーシスおよび有糸分裂促進活性を誘導し(Changら(2000)前出)、そしてp21ノックアウトがプロサポニン、TGFαおよびアルツハイマー病のβAPPのような遺伝子の誘導を低下または遅延させることが本明細書で示された。これらの所見は、p21刺激された制御経路が老化細胞における疾患関連遺伝子の発現に大いに関与することを示唆している。
【0039】
本発明は、前記有糸分裂促進性、抗アポトーシス性および血管形成性の分泌性因子または病理学的状態に関連する遺伝子の発現を同時に誘導することなく、腫瘍細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法を提供する。このような化合物の存在は、p21または病理学的状態に関連するその他の遺伝子ではなく、いくつかの増殖抑制遺伝子の同時活性化により腫瘍細胞老化を誘導するレチノイドの挙動により示唆され(共有で同時係属中の2001年5月25日出願の米国特許出願第09/865,879号(参照して本明細書に組み込まれる)およびDokmanovicら、Cancer Biol.Ther.1:16−19(2002)に開示されるように)、そして本発明は、腫瘍細胞において老化を生じる当該技術分野で既知の化合物の細胞毒性およびその他の望ましくない特徴から切り離された、その他の化合物を同定するための方法を提供する。
【0040】
本発明はまた、老化し、そしてもはや増殖できない腫瘍細胞を同定すること、並びに処置後に回復および増殖する腫瘍細胞から前記細胞を区別することにより、処置の有効性をモニタリングするための方法を提供する。処置された腫瘍の生検における老化のマーカーの検出を、処置応答の指標として用いることができる。このタイプの診断は、多くの臨床状況において、例えば完全な応答に数ヶ月または数年さえも必要とされる可能性がある放射線治療の成功を評価するための生検試験として、有用であるはずである(Cosら、Int.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.9:299−303(1983);Batainiら、Am.J.Surg.155:754−760(1988))。老化のマーカーを発現する腫瘍細胞の優位性が、処置の成功に積極的に相関すると予測される。対応する遺伝子産物に対する抗体をイン・サイチュー(in situ)免疫染色、酵素免疫測定法(ELISA)、またはウェスタンブロッティングに用い、対応する遺伝子の発現をタンパク質レベルで測定することができる。最も好ましくは、イン・サイチュー・ハイブリダイゼーション、イン・サイチュー・RT−PCR、またはバルクRNA分析技術、例えばRT−PCRまたは異なる形態のフィルター・ハイブリダイゼーション(ノーザンブロッティングを含む)を用いて、少なくとも1つの前記遺伝子をコードするRNAの発現を検出することにより、遺伝子発現を核酸レベルで測定することもできる。老化細胞において抑制されるマーカーの選択は、表1に列挙する遺伝子により提供される。老化細胞において誘導される老化マーカーの選択は、表2に列挙する遺伝子により提供される。老化細胞において抑制されるマーカーには、原因として細胞増殖に関係し、そして細胞老化のその他の系において抑制されることが知られている遺伝子、例えばKi−67(これは既に増殖マーカーとして広く用いられている)、CENP−F、AIM−1、MAD−2、リボヌクレオチド リダクターゼM1、およびチミジンキナーゼなどが含まれる。このようなマーカーはまた、腫瘍特異的発現を示し、そして老化において抑制されることが以前に示されていない遺伝子、例えばSTEAP、RHAMMまたはTLS/FUSが含まれる。老化マーカーとしてとりわけ興味深いものは、老化細胞において誘導され、そして原因として細胞増殖抑制に関係する遺伝子、例えばBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリン、および、正常組織に比べて腫瘍においてその発現が下方制御されるその他の遺伝子、例えばP−カドヘリン、デスモプラキン、デスモヨーキン、およびニューロシンである。
【0041】
老化細胞において誘導される遺伝子のいくつかは、影響を受ける組織内のみならず、体液、例えば血液、尿、滲出液、腹水、唾液、脳脊髄液、頸管分泌物、膣分泌物、子宮内膜分泌物、消化管分泌物、気管支分泌物、痰、または乳房からの分泌物もしくは洗浄液においても検出できる、分泌性タンパク質をコードする。これらの分泌性タンパク質のうちの4つ(マスピン、MIC−1、IGFBP−6、アンフィレギュリン)は腫瘍増殖抑制因子として作用し、そして癌治療薬によるその誘導は治療の成功に寄与するはずである。従って、化学療法の適用または一連の放射線治療の後に測定される、患者の血液または尿中のこのようなタンパク質のレベルは、処置の成功の可能性に相関する診断パラメーターを提供すると予測される。マスピン(Zouら、J.Biol.Chem.275:6051−6054(2000))およびMIC−1(Komarovaら、Oncogene 17:1089−1096(1998))は、以前に、化学療法剤または放射線治療により誘導されると報告されているが、IGFBP−6はレチノイドにより誘導できることが知られており(Daillyら、Biochim.Biophys.Acta.1518:145−151(2001))、そして、アンフィレギュリンはビタミンDにより誘導される(Akutsuら、Biochim.Biophys.Res.Commun.281:1051−1056(2001))が、処置により誘導される老化を被っている細胞におけるこれらのタンパク質の安定した誘導は、先行技術においては知られていなかった。
【0042】
前記のタンパク質に対する抗体は開発されており、それらの多くが市販により入手可能である。例えば、抗マスピン抗体はPharMingen、San Diego、カリフォルニア州(カタログ番号554292)、抗アンフィレギュリン抗体はLab Vision Corp.、Fremont、カリフォルニア州(カタログ番号RB−257−P)より入手可能であり、そして抗IGFBP−6抗体はCell Sciences,Inc.、Norwood、マサチューセッツ州(カタログ番号PAU1)より入手可能である。MIC−1に対するモノクローナル抗体は、当該技術分野で説明されている(Fairlieら、Biochemistry 40:65−73(2001))。これらの抗体または類似の抗体は、対応するタンパク質の量を検出および測定するために、ELISAアッセイ、またはその他の従来の免疫化学アッセイにおいて、最も都合よく用いることができる。処置の成功に相関する血液または尿中のタンパク質レベルは現在知られていないが、これらを簡単な臨床試験により決定することができる。このような試験において、対応するタンパク質レベルは、患者において処置の前および処置の適用後いろいろな時点で測定する。次いで、これらの測定の結果を処置の成功(部分的寛解およびこれに続く完全な寛解)のための標準的な臨床基準と相関させる。
【0043】
本明細書で開示するように、細胞毒性物質誘導および抑制遺伝子は、生理学に基づく細胞増殖に及ぼす増殖抑制作用を模倣する細胞毒性物質以外の化合物を同定するための有用な標的である。このような化合物を同定することにより、哺乳動物細胞、とりわけ腫瘍細胞および不適切にまたは病原的に増殖するその他の細胞において増殖停止を生じる代替の作用物質が好都合に提供される。このような化合物は、細胞毒性物質の増殖抑制作用を模倣することができるので有益である。
【0044】
このような化合物の別の利点は、これらが先行技術において知られているその他の増殖抑制化合物で見出される全身性の副作用を生じることなく増殖抑制作用を有すると予測することができるという点である。例えば、先行技術において知られている多くの増殖抑制薬および化合物は、その発現が疾患、とりわけ年齢関連疾患、例えばアルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、腎臓疾患、および関節炎の進行に関連する複数の遺伝子を活性化することにより老化、増殖停止およびアポトーシスを誘導するp21遺伝子発現を誘導する点で不利である(共有で同時係属中の2001年2月1日出願の米国特許出願第60/265,840号(代理人整理番号第99,216−E)および2001年5月21日出願の米国特許出願第09/861,925号(代理人整理番号第99,216−F)(参照して本明細書に組み込まれる)に開示されている)。当該技術分野で知られている増殖抑制化合物の毒性の副作用を生じることなく細胞毒性物質、化学療法剤の増殖抑制作用を模倣する化合物の発見が、本発明により有利に提供される。
【0045】
病原性活性を有する、細胞毒性物質誘導性の老化関連遺伝子の本明細書における同定により、このような遺伝子の誘導を抑制する薬物を開発するための標的が提供される。本発明は、細胞を試験化合物と接触させることにより、細胞毒性物質誘導性の老化の結果として起こる老化関連遺伝子の誘導を抑制する試験化合物をアッセイするための方法を提供する。これらの遺伝子の誘導を抑制する化合物は、未処置細胞と比較して、作用物質処理した細胞においてこれらの遺伝子の発現を増加させないことを示す。また、レポーター遺伝子構築物は、これらの疾患関連遺伝子を指向する本発明の方法において、遺伝子誘導およびその欠如をアッセイするために好都合に使用される。
【0046】
以下の実施例は本発明の特定の好ましい実施形態をさらに説明することを意図し、そして決して限定を意図するものではない。
【実施例1】
【0047】
細胞毒性物質で処理した腫瘍細胞における永続的な増殖停止は老化表現型の進行に関連する
培養物中のヒト大腸癌細胞(HCT116)において、DNA分離の過程でトポイソメラーゼIIにより形成された切断可能な中間複合体を安定化することによりDNA損傷を生じる広く用いられている抗癌剤、ドキソルビシンの効果を測定するために、細胞学的および遺伝子発現分析を実施した。
【0048】
野生型、p21−/−(クローン 80S4)およびp53−/−(クローン 379.2)細胞系(Dr.B.Vogelstein(Johns Hopkins大学)からの寄贈)を含むHCT116大腸癌細胞(Myohanenら、Cancer Res.58:591−593(1998);アクセッション番号CCL−247、American Type Culture Collection,Manassas、バージニア州)を、10% FC2血清含有ダルベッコ変法イーグル培地中で増殖させた。細胞を15cmプレートあたり細胞5×10個で播種し、そして200nMドキソルビシンで24時間処理した。その後、細胞を薬物不含培地で10日間まで回復させた。細胞分割の蛍光活性化セルソーター(FACS)分析のために、細胞をPKH2(脂溶性フルオロフォア;Sigma Chemical Co.、St.Louis、ミズーリ州)で標識したが、これは安定的に形質膜内に取り込まれ、そして娘細胞間で均等に分布し、結果として生じる細胞分割の間にPKH2蛍光が徐々に低下する(Horanら、Nature 340:167−168(1989))。FACS分析および細胞分類をChangら(Cancer Res.59:3761−3767(1999)およびOncogene 18:4808−4818(1999))に記載されているようにして実施した。老化(PKH2hi)および増殖(PKH2lo)細胞の分類した分画(純度90−95%)を、Jordanら(Cancer Res.56:816−825(1996))により記載されているように、ヨウ化プロピジウム(PI)染色およびFACS分析を用いて、DNA含量に関して分析した。また、Dimriら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9363−9367(1995))により記載されているように、老化関連β−ガラクトシダーゼ(SA−β―gal)活性に関して細胞を染色した。最後に、10cmプレートあたり2,000から10,000個の分類された細胞を播種することにより、分類した集団のクローン原性(clonogenicity)を試験した。
【0049】
これらのアッセイの結果を図1Aから1Dに示す。PKH2蛍光を用いるFACSにより検出される細胞増殖を図1Aに示す。PKH2蛍光における変化を、ドキソルビシン処理後種々の日数においてFACSによりモニタリングした。膜非透過性色素PIを用いるその染色に基づくこの分析から、薬物処理の後に死んだ細胞を排除した。ドキソルビシン処理後最初の2から3日間は、ほとんどすべてのPI陰性細胞は増殖停止(PKH2hi)のままであったが、増殖細胞集団(PKH2lo)の出現は第4日に始まった。しかしながら、細胞の実質的な分画はPKH2hiのままであり、そしてその蛍光が低下せず、これはこれらの細胞が薬物からの解放の後、一度も分割しなかったことを示している。ドキソルビシン処理後6から10日目に、生存細胞をFACSによりPKH2hiおよびPKH2lo分画に分離した。
【0050】
DNA含量分析により、ほとんどのPKH2hi細胞がG2のままであり、その相では、ほとんどの細胞がドキソルビシンにより、そのトポイソメラーゼIIに及ぼす効果を介してもともと停止している(図1B)。図1Cに示すように、PKH2hi細胞は大きく肥大し、そしてSA−β−galに関して陽性に染色され、これはその老化表現型を示している。対照的に、PKH2lo細胞は正常なサイズのままであり、そしてSA−β−galに関して陰性のままであった。コロニーを形成する能力は本質的にPKH2lo画分に限定され(図1D)、これは老化PKH2hi細胞がその増殖能力を喪失していることを示している。
【0051】
これらの結果は、HCT116細胞がドキソルビシン処理の後2つの異なる集団:老化細胞集団および増殖する能力を回復した集団に分離されたことを明確に示している。
【実施例2】
【0052】
ドキソルビシン誘導性の老化において誘導および抑制された遺伝子の同定
実施例1に記載したようにして、HCT116細胞のドキソルビシン処理により生じる老化および増殖細胞の集団を用いて、これらの細胞集団と未処置細胞との間の遺伝子発現における差異を同定した。
【0053】
これらの実験では、ポリ(A)RNAおよびタンパク質抽出物をPKH2loおよびPKH2hi細胞集団から調製し、ドキソルビシンからの解放の後6、9または10日目に種々の試験で分離した。蛍光cDNAプローブを合成し、そしてヒトUniGEM V2.0 cDNAマイクロアレイを用いるハイブリダイゼーションおよびシグナル分析に使用した(アッセイは、IncyteGenomics、St.Louis、ミズーリ州により、その会社のウェブサイト(www.incyte.com)に記載されているようにして行った)。遺伝子発現における差異は、本質的には記載されているようにして(Noonanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:7160−7164(1990))、正規化内部標準としてのβ−アクチンおよび表3に示すオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、半定量的逆転写PCR(RT−PCR)により確認した。独立した実験で単離した2対の増殖および老化細胞RNA調製物を用いて、RT−PCR分析を実施し、同様の結果を得た;遺伝子のサブセットに関して、同一のRNAサンプルの対でアッセイを再現した。これらの結果は、以下の1次抗体:β−アクチンに対するマウスモノクローナル抗体(Sigma Chemical Co.)、p53およびp21(Oncogene Research,Cambridge、マサチューセッツ州)、マスピン(Pharmingen、San Diego、カリフォルニア州)、ケラチン18(Neomarkers、Union City、カリフォルニア州)、サイクリンD1(Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、カリフォルニア州)、およびATF−3に対するウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz)、Mad−2(BabCo、Richmond、カリフォルニア州)およびEPLIN(Dr.D.Chang、UCLAからの寄贈)を用いて、(同じ結果について)少なくとも2回実施した免疫ブロッティングアッセイにより確認した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識した2次抗体およびECL化学発光検出キット(Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、ニュージャージー州)を用いて、バンドを検出した。
【0054】
蛍光cDNAプローブを老化(PKH2hi)および増殖(PKH2lo)細胞集団のRNAから調製し、そして>9,000の遺伝子を含有するヒトUniGEM V2.0 cDNAマイクロアレイ(IncyteGenomics,Inc.)を用いて、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーションに使用した。9,000以上の配列確認された遺伝子のうちの82%およびUniGEM V2.0 マイクロアレイに存在する発現された配列タグ(EST)により、双方のプローブで測定可能なハイブリダイゼーションシグナルが得られた。このハイブリダイゼーションにより増殖細胞に対して老化細胞において(比較した(balanced)差次的発現が2.0またはそれ以上)下方制御または上方制御されたものとして同定された遺伝子のリストを、表1および2にて提供する。
【0055】
ハイブリダイゼーションアッセイを用いて検出された74の個々の遺伝子についてRT−PCR分析(図2A)を実施し、そして26/29の下方制御された、および37/45の上方制御された遺伝子に関する遺伝子発現における定量的変化を確認した。たいていの場合、RT−PCRにより示される遺伝子発現の差異は、cDNAマイクロアレイ・ハイブリダイゼーションにより示された値よりも非常に高かった。また、7つの遺伝子における発現の変化を免疫ブロッティングによりタンパク質レベルでも確認した(図3A)。
【0056】
68の遺伝子の半分以上および老化細胞において下方制御されたESTは、細胞サイクル進行において役割を果たすことが知られている:これらの遺伝子のうちの25が種々の段階の有糸分裂またはDNA分離に関与し(例えばCDC2、Ki−67、MAD2、トポイソメラーゼIIα);11の遺伝子はDNA複製およびクロマチン集合において機能し(例えばリボヌクレオチド・リダクターゼM1、チミジレートキナーゼ、複製タンパク質A3);そして4つの遺伝子はDNA修復に関与する(例えばHEX1、FEN1))。細胞増殖に関与する遺伝子の下方制御は老化細胞の増殖停止状態に相関し、そして本発明者らの系における遺伝子発現プロファイリングの生物学的関連性を実証する。
【0057】
さらに、ドキソルビシン処理により複数の増殖抑制遺伝子を誘導した。老化HCT116細胞が立証された増殖抑制活性を有する複数の遺伝子を上方制御することが見出され、これにより、p16(これはHCT116細胞では発現されない)の不存在下におけるドキソルビシン誘導性の細胞サイクル停止の維持に関する十分な説明が提供される。上方制御される遺伝子の1つはp21である(図2Aに示す)。野生型、p53−/−(14)およびp21−/−(15)HCT116細胞系におけるドキソルビシンによるp21およびp53タンパク質誘導の分析により、この系のp21誘導がp53に強く依存することが実証された(図3Bに示す)。p53およびp21の双方のタンパク質は、薬物からの解放後9日目に単離された老化細胞において高いレベルを維持する(図3A)。しかしながら、p21とは対照的に、p53はタンパク質レベルにおいてのみ上方制御される。
【0058】
持続的なp21の誘導に加えて、老化細胞は、いくつかの既知または推定の腫瘍サプレッサー遺伝子を含む多くのその他の増殖抑制因子を強く過剰発現する。これらの遺伝子のいくつかは、腫瘍サプレッサーBTG1およびそのホモログBTG2、推定腫瘍サプレッサーEPLIN(新生物における上皮タンパク質消失)およびWIP1ホスファターゼを含む、細胞内増殖抑制タンパク質をコードする。老化HCT116細胞はまた、MIC−1(pTGF−β)、タンパク質6に結合するインスリン様増殖因子(IGFBP−6)、セリンプロテアーゼインヒビター マスピン(進行した乳癌において下方制御される腫瘍サプレッサー)、およびアンフィレギュリン、正常な上皮細胞の増殖を促進するが、いくつかの癌腫細胞系の増殖を抑制するEGF関連因子を含む、いくつかの分泌性増殖抑制因子を過剰発現する。これらの知見により、薬物誘導性の腫瘍細胞の増殖停止は、一連の、見かけ上は余分な細胞内およびパラクリン因子により維持されることが示唆される。
【0059】
薬物処理したHCT116細胞の老化および増殖集団の間の遺伝子発現における差異は、正常細胞と癌性上皮細胞と間の差異に匹敵する。前記で列挙した腫瘍サプレッサーに加えて、老化HCT116細胞は、正常上皮細胞に対して癌において下方制御されるいくつかの他の遺伝子を誘導する(MIC−1、P−カドヘリン、デスモプラキン、デスモヨーキン、ニューロシンを含む)。一方、老化細胞は、細胞増殖に関与する複数の遺伝子のみならず、発癌活性を有するいくつかの他の遺伝子(RHAMMおよびTLS/FUS)をも下方制御するか、あるいは、腫瘍特異的発現を示す(STEAP)。老化細胞の推定される「正常化」の別の徴候は、ケラチン遺伝子ファミリーの6つのメンバーの上方制御である。この群の最強の誘導は、抗アポトーシス活性を有するケラチンの対であるケラチン8および18について観察された(Caulinら、J.Cell Biol.149:17−22(2000))。しかしながら、老化HCT116細胞は、それらが2つのプロアポトーシス遺伝子、APO−1/FasおよびNOXAを上方制御するにもかかわらず、アポトーシスの証拠を示さない。
【0060】
増殖抑制遺伝子に加え、老化HCT116細胞は、分泌性有糸分裂促進性、抗アポトーシス性および血管形成性の因子、例えば細胞外マトリックス(ECM)タンパク質Cyr61およびプロサポシン、並びに形質転換増殖因子α(TGF−α)の遺伝子の発現上昇を示す。このような遺伝子の誘導の結果、インビトロおよびインビボで腫瘍細胞増殖を促進するパラクリン活性に至る。このような活性は、以前は、正常細胞における複製老化(Campisi、In vitro 14:183−188(2000))および腫瘍細胞におけるp21誘導(Changら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:1497−150117(2000))に関連付けられてきた。老化HCT116細胞はまた、転移性増殖の一因となる可能性を有し得るいくつかのプロテアーゼ(カリクレイン−7、カルパインL2、ニューロシン、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ)をも上方制御する。老化HCT116細胞において誘導されるいくつかのその他の遺伝子は、細胞接着および細胞−細胞接触に関与する(P−カドヘリン、Mac2結合タンパク質およびデスモプラキンを含む)。その他の誘導された遺伝子は、血管形成に関与するいくつかのインテグリンおよびシンデカン−4(リュードカン)を含む、ECMレセプターをコードする。老化細胞において誘導されるいくつかのその他の膜貫通性タンパク質は、増殖制御タンパク質CD44およびジャグド−1(Jagged−1)、アルツハイマー病のβ−アミロイド前駆体タンパク質(βAPP)、並びにアルツハイマー様疾患に関連する別のアミロイド前駆体、BRIである。分泌性因子、ECMタンパク質、ECMレセプターおよびその他の膜内在性タンパク質は、総計で、老化HCT116細胞において誘導される既知の機能を有する68の遺伝子のうちの33の遺伝子を構成する。対照的に、既知の機能を有する下方制御された64の遺伝子のうちの2つのみが、ドキソルビシンで処理したHCT116細胞の老化細胞集団において誘導された。
【0061】
ドキソルビシン処理したHCT116細胞において差次的に発現される遺伝子の1種は、既知または推定の転写因子またはコファクターをコードする遺伝子である。いくつかの既知または推定の転写因子およびコファクターの遺伝子は、老化HCT116細胞において制御の変化を示す。下方制御された転写因子の1つは、DNA複製の陽性の調節因子である、翼状の(winged)らせんタンパク質HFH−11(Trident)であり、これはサイクリング中の細胞において特異的に発現される(Yeら、Mol.Cell.Biol.19:8570−8580(1999))。いくつかの上方制御された転写因子はAP−1ファミリーに関連し、これは種々の有糸分裂促進シグナル、インターフェロンおよび種々の形態のストレスに対する細胞性応答を媒介する(Wisdom、Exp.Cell.Res.253:180−185(1999))。これには、c−Junならびに2つの他の塩基性ロイシン・ジッパータンパク質である、XBP−1(構造的にc−Junに関連する)、およびc−Junと二量化するATF3が含まれる。このストレス応答性因子の誘導は、ATF3のその独自の転写を抑制する能力のために、通常一過性(数時間にわたる)であるので、老化細胞におけるATF3 mRNAおよびタンパク質の持続性上方制御は驚くべきことである(Wolfgangら、J.Biol.Chem.275:16865−16870(2000))。別の誘導される転写因子は、機能的にそしておそらく物理的にAP−1と相互作用することが知られているらせん−ループ−らせんタンパク質のEtsファミリーのメンバーであるELF−1である(Wisdom、前出)。
【0062】
HCT116細胞の細胞毒性薬物誘導性の老化における遺伝子発現について観察されるパターンにより、正常細胞における老化に対して多くの類似点が示された。老化細胞の一般的な特性のいくつか(最終的な増殖停止以外)は、アポトーシスに対する抵抗性、細胞接着の増大(ECM成分の過剰産生に関連する)、並びにプロテアーゼ、プロテアーゼインヒビター、および有糸分裂促進因子の分泌である(Campisi、前出)。これらの現象すべてに関与する遺伝子は、老化HCT116腫瘍細胞において上方制御されるものの中で非常に代表的である。しかしながら、正常細胞とは対照的に、老化HCT116細胞は、RAS誘導性の加速された老化に関連するp16または腫瘍サプレッサーPMLを上方制御しない(Pearsonら、Nature 406:207−210(2000))。
【0063】
薬物誘導性の老化に関連する遺伝子発現における変化はまた、生物の加齢に匹敵することも示された。老化HCT116大腸癌細胞において誘導されるタンパク質のいくつか、例えばβAPPおよびプロサポシンは、動物において年齢依存性の発現を示す。意外なことに、マスピン、CD44およびサイクリンD1は、加齢動物の結腸上皮において特異的に上方制御されることが報告された(Leeら、Mech Ageing Dev.122:355−371(2001)。さらに、老化HCT116細胞において下方制御された8つの遺伝子はまた、若年者に由来する同様の培養物に対して老齢者に由来する活発に増殖する線維芽細胞培養物における発現の低下を示し、一方、2つの誘導された遺伝子(MIC−1およびデスモプラキン)は老齢の個体からの培養物において上方制御された(Lyら、Science 287:2486−2492(2000))。これらの結果より、腫瘍細胞における薬物誘導性の老化の過程が複製老化および生物加齢の双方に関連することが実証される。
【実施例3】
【0064】
老化関連遺伝子発現における細胞毒性薬物誘導性の変化に及ぼすp53およびp21ノックアウトの影響
老化HCT116細胞において発現の変化を示す多くの遺伝子は、p53(9つの下方制御される遺伝子、および11の上方制御される遺伝子)およびp21(46の下方制御される遺伝子、および7つの上方制御される遺伝子)の過剰発現時に同様の変化を示している(表1および2参照)。p53は多くの遺伝子(p21を含む)の直接転写アクチベータとして作用し、そしてそのプロモーターにp53結合部位を有しない遺伝子の群を間接的に制御する(Komarovaら、Oncogene 17:1089−1096(1998);Zhaoら、Cell Res.9:51−59(1999))。p53誘導遺伝子の顕著なクラスは分泌性増殖抑制因子をコードし、これはパラクリン抗増殖性活性を提供する(Komarovaら、前出)。p53とは対照的に、p21はそれ自体が転写調節因子ではないが、転写因子、コファクター、およびシグナルトランスダクションのメディエーターの広範なネットワークと相互作用する(Dotto、Biochim.Biophys.Acta.1471:M43−M56(2000))。線維肉腫細胞におけるp21の過剰発現の結果、複数の細胞増殖遺伝子の下方制御、並びに多くのECM成分および分泌性有糸分裂促進性因子および抗アポトーシス因子の上方制御に至り、これにより、p21誘導された細胞の条件培地において対応する活性が提供される(Changら、前出(2000))。p21による転写活性化の既知のメカニズムは、p300/CBP転写コファクターを刺激するその能力に基づいている(Snowdenら、Mol.Cell.Biol.20:2676−2686(2000))。しかしながら、HCT116細胞は転写因子p300の優性の変異型を発現し(Gaytherら、Nat.Genet.24:300−303(2000))、これは、なぜ老化HCT116細胞が比較的少数のp21誘導遺伝子を上方制御するのかを説明することができる。
【0065】
遺伝子発現において観察される変化におけるp53およびp21の役割を解明するために、野生型、p21−/−およびp53−/− HCT116細胞のドキソルビシン処理時における老化関連遺伝子の発現を分析した。薬物の添加前、ドキソルビシンによる1日処理の直後、および薬物除去後3日間連続して、RNAサンプルを単離した。老化細胞において上方制御された33の遺伝子および下方制御された11の遺伝子を、RT−PCRにより前記したようにして分析した;結果を図2Bに示す。
【0066】
この分析により、未処理の野生型細胞において、ドキソルビシン処理した細胞の増殖分画におけるレベルと同様のレベルで、すべての被験遺伝子が発現された。ドキソルビシン1日処理の後、または薬物からの解放後1日目に、たいていのこれらの遺伝子の発現における老化に関連する変化が、野生型HCT116細胞の全集団において検出可能になった。この初期応答により、p21−/−およびp53−/−細胞系の小さな老化分画を精製する必要なく、p21およびp53ノックアウトのドキソルビシン処理細胞の全集団に及ぼす影響を評価することが可能になる。
【0067】
老化細胞において上方制御される遺伝子のおよそ3分の1は、野生型、p21−/−およびp53−/−細胞系の間でほぼ区別不可能な応答を示し、これは、これらの遺伝子の誘導がp53またはp21のいずれにも関与しないことを示している(図2B)。これらの遺伝子には、腫瘍サプレッサーBTG1および分泌性増殖抑制因子IGFBP−6が含まれる。驚くべきことに、p53依存性を示さない遺伝子の1つはNOXAであるが、これはp53により誘導可能であることが知られている。上方制御される遺伝子の残りの3分の2は、p53−/−細胞において誘導が低下または遅延することを示した。後者の遺伝子の約2分の1は、p21ノックアウトの影響を受けなかった。この群には、AP−1ファミリーの転写因子、CYR61、およびいくつかの細胞内(BTG2、WIP1)および分泌性増殖抑制因子(マスピン、MIC−1、アンフィレギュリン)が含まれる。しかしながら、これらの遺伝子のうち、その誘導に関して完全にp53に依存するものはなく、そしてそれらのすべてが薬物からの解放後2日目にp53−/−細胞において誘導される。ほぼすべての老化関連増殖抑制因子(p21およびEPLINを除く)は、結局は、p53−/−細胞において野生型細胞系に匹敵するレベルまで誘導される(図2B)。これらの結果により、ドキソルビシン処理後、p53−/−細胞において、誘導は低下するが依然実質的に老化様増殖停止を誘導するということに関する説明が提供される(Changら、前出(1999a))。
【0068】
誘導された遺伝子の最後の群は、野生型細胞においてよりもp21−/−においてさらに弱い変化を示し、これは、これらの遺伝子の制御がp21を介して媒介されることを示している。ドキソルビシン処理HCT116細胞におけるp21誘導はp53依存性であるので、このような遺伝子はまた、p53−/−細胞における誘導の低下を示す。被験遺伝子の中で最も強いp21依存性は、サイクリンD1について見出される。p21依存性遺伝子のうち、分泌性増殖抑制因子を生ずるものはないが、それらのうちの2つは、分泌性有糸分裂促進性/抗アポトーシス性タンパク質(プロサポシンおよびTGFα)をコードする。老化HCT116細胞において下方制御されるたいていの遺伝子は、p21により抑制されることが知られている(Caulinら、前出)。この所見に合致して、このような遺伝子は、ドキソルビシン処理後、野生型においてのみ発現の低下が示され、p21−/−またはp53−/−細胞系では示されない(図2B)。p21依存性誘導を示す遺伝子と共に、p53ノックアウトにより影響を受ける31の被験遺伝子のうちの20の被験遺伝子(p21は除く)はまた、p21のノックアウトにより同様またはそれ以上の程度まで影響を受ける。従って、p21は、最近まで遺伝子発現の制御に役割を果たすことが知られていなかったのだが、p53の対応する作用の主要なメディエーターであると思われる。
【0069】
これらの結果により、本明細書で同定された遺伝子が、細胞老化に及ぼすその影響に関して化合物を評価するためのマーカーとして、およびp53、p21または双方に関係しないメカニズムにより老化表現型を誘導する化合物を同定するためのマーカーとして用いることができることが示される。
【実施例4】
【0070】
老化細胞において誘導されるプロモーター−レポーター遺伝子構築物の構築および腫瘍細胞において老化を誘導する作用物質に関するスクリーニング
細胞に基づくスクリーニングアッセイを用いて、p53欠損腫瘍細胞において、分泌性腫瘍促進因子を同時活性化することなく、老化関連増殖抑制遺伝子を活性化する化合物を同定する。この目的のために、キメラGFP−ルシフェラーゼレポーターの発現を駆動する、種々の老化関連増殖抑制遺伝子のプロモーター構築物を構築する。このようなキメラレポーターは、GFP蛍光に基づく選択、およびルシフェラーゼ化学発光に基づく感受性プロモーター活性の測定に適していることが示された(Kotarskyら、Anal.Biochem.288:209−215(2001))。同様のキメラレポーター遺伝子は市販により入手可能である(Clontech、Palo Alto、カリフォルニア州)。プロモーター−レポーター構築物は、対応する遺伝子を活性化する条件下でドキソルビシンによる誘導性に関して試験する。最もよく制御されたプロモーター構築物を用いて、安定的にトランスフェクションされる細胞系、および薬物誘導性の老化の条件下でレポーター遺伝子を最も強く誘導すると同定される細胞系を開発する。
【0071】
一旦適当なレポーター細胞系が開発されると、キメラライブラリーのハイスループット・スクリーニング(HTS)に関して最適化された条件が、レポーターのルシフェラーゼ活性に基づいて決定される。このHTSアッセイを用いて、キメラ化合物ライブラリーをスクリーニングする(例えばNCIの治療開発プログラム(DTP)からの1,990の化合物の多様なセット)。次いで、このアッセイで陽性の化合物を、加速化される老化の正および負の局面に関連するその他の遺伝子の発現に及ぼすその影響に関して試験する。
【0072】
7つの老化に関連する増殖抑制遺伝子は、誘導アッセイに関する優先的な標的である:
BTG1は、B細胞白血病のt(8;12)(q24;q22)染色体転座で再構成される腫瘍サプレッサー、および細胞増殖の抑制因子である(Rouaultら、EMBO J.11:1663−1670(1992))。BTG1は、種々のヒト腫瘍細胞系においてDNA損傷により誘導されることが示された(Cortesら、Mol.Carcinog.27:57−64(2000))。損傷誘導性のBTG1発現はCortesらにより示され、そしてp53非依存性であることが本明細書において示された。
【0073】
BTG2(PC3/TIS21)は、BTG1関連抗増殖性遺伝子である(Rouaultら、Nat.Genet.14:482−486(1996))。BTG1はストレス応答性であり(Fiedlerら、Biocehm.Biophys.Res.Commun.249:562−565(1998))、そしてまた、種々の細胞系においてDNA損傷、増殖因子および腫瘍プロモーターにより誘導される(Fletcherら、J.Biol.Chem.266:14511−14518(1991))。BTG2は、転写のレベルでp53により誘導されることが示された(Rouaultら、前出(1996))が、野生型細胞におけるよりも少ない程度ではあるが、p53−/−細胞においてドキソルビシンにより誘導される。
【0074】
IGF結合タンパク質6(IGFBP−6)は、IGF機能および腫瘍細胞増殖の分泌性抑制因子であり(Bach、Horm.Metab.Res.31:226−234(1999);Sueokaら、Oncogene 19:4432−4436(2000))、転写のレベルでレチノイドにより誘導されることが示されている(Daillyら、Biochim.Biophys.Acta.1518:145−151(2001))。ドキソルビシンによるIGFBP−6誘導はp53に依存しないことが示されている。
【0075】
アンフィレギュリンは、いくつかの癌腫細胞系の増殖を抑制することが示されたEGF関連因子であるが、一方、正常な上皮細胞の増殖を促進する(Plowmanら、Mol.Cell Biol.10:1969−1981(1990))。アンフィレギュリンは、WT1 ウィルムス腫瘍サプレッサー遺伝子による転写誘導の主要な標的であり(Leeら、Cell 98:663−673(1999))、そしてビタミンD3により誘導される(Akutsuら、Biochem.Biophys.Res.Commun.281:1051−1056(2001))。ドキソルビシンによるアンフィレギュリン誘導は、p53に中程度の依存性しか示さない。
【0076】
MIC−1(pTGF−β/PLAB/PDF/GDF15)は、TGF−βスーパーファミリーの分泌性増殖抑制性のメンバーであり、転写のレベルでp53により誘導されることが示され(Tanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:109−114(2000))、そしてp53のパラクリン増殖抑制作用の重要なメディエーターであることが示唆された(Kannanら、FEBS Lett.470:77−82(2000))。驚くべきことに、ドキソルビシンによるMIC−1誘導は、p53に弱い依存性しか示さない。
【0077】
マスピンは、分泌性セリンプロテアーゼインヒビターであり、その発現が多くの進行した乳癌で消失する腫瘍サプレッサーとして同定されている(Domannら、Int.J.Cancer 85:805−810(2000))。マスピンは、ドキソルビシン処理したHCT116細胞などにおいてタンパク質レベルでDNA損傷により非常に強力な誘導を示す;Zouら(J.Biol.Chem.275:6051−6054(2000))は、4つのその他の腫瘍細胞系における薬物処理によりマスピン誘導を示した。マスピン発現はp53により転写レベルで誘導される(Zouら、前出)。p53ノックアウトはドキソルビシン処理によりマスピン誘導を強く低下させるが、このような誘導は、p53−/−細胞において依然として容易に検出される。
【0078】
EPLIN(新生物の上皮タンパク質消失)は、アクチン結合細胞骨格タンパク質であり、ほぼすべての正常な上皮組織で発現されるが、21の被験癌腫細胞系のうち20の被験癌腫細胞系で下方制御される。EPLINは細胞増殖を抑制し、それにより推定腫瘍サプレッサーとされている(MaulおよびChang、Oncogene 18:7838−7841(1999))。EPLINは、ドキソルビシン処理したHCT116細胞の老化集団においてのみならず、レチノイドでの処理時に老化様の増殖停止を行うMCF7乳癌細胞においても誘導される。この群のすべての遺伝子の中でもEPLINは、未分類細胞においてドキソルビシンによる最も弱い誘導を示し、この誘導はp21−/−およびp53−/−細胞ではなおさらに低減される。このパターンにより薬物処理時のEPLIN誘導を検出することが困難になる可能性があるが、分類された老化細胞の集団においてはEPLIN発現が強く増加することから、その誘導が老化についてのとりわけ特異的なマーカーであり得ることが示唆される。
【0079】
これらの遺伝子のすべてに関して機能的プロモーター配列が公開されている:BTG1(Rodierら、Exp.Cell Res.249:337−348(1999))、BTG2(Fletcherら、前出(1991))、IGFBP−6(Daillyら、前出(2001))、アンフィレギュリン(Leeら、前出(1999))、マスピン(Zouら、前出(2000))、MIC−1(Tanら、前出(2000))、EPLIN(Gaoら、J.Cell Physiol.184:373−379(2000));EPLINは2つの別のプロモーターを有している;好ましいプロモーターは、HCT116細胞およびMCF7細胞において優先的に発現されるより長いβアイソフォームに対応するプロモーターである。対応する遺伝子の転写は、種々の因子(DNA損傷、血清、分化誘導剤、フォルボールエステル、腫瘍サプレッサー)により、そのプロモーターのシス制御エレメントを介して制御される。さらに、マスピンは乳癌においてプロモーターのメチル化のレベルでサイレントであることが示されている(Domannら、前出(2000))。従って、これらの遺伝子の発現における老化に関連する変化はプロモーター構築物において再現可能であると予測できる。TRANSFAC 4.0データベースに基づくMatInspector V2.2プログラムを用いて、対応するプロモーター配列の転写因子結合部位を試験することにより示されるように、実質的にすべてのこれらのプロモーターは、AP−1、AP−4、ELK1およびGATAを含むいくつかの共通するシス制御部位を共有する。薬物誘導性の老化において観察されるこれらの遺伝子の同時制御と共に、これらの所見は、これらの遺伝子のすべてまたはほとんどを同時に刺激する作用物質を同定する可能性を支持する。
【0080】
従来のクローニング方法によるか、あるいは、対応するプロモーターをフランキングする配列から設計されたプライマーおよび鋳型としてヒトゲノムDNAを用いて、プロモーター配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により、レポーター遺伝子構築物を調製する。適当なレポーター遺伝子の上流にプロモーター配列をクローン化するが、その最も便宜なものは選択マーカーおよびHTSについての基準の双方として有用である。グリーン蛍光タンパク質およびルシフェラーゼのキメラを含む市販により入手可能なレポーターが、この目的に最も適している。このレポーターは、カルボキシル末端でホタル・ルシフェラーゼに融合された、アミノ末端でグリーン蛍光タンパク質(GFP)の強化色彩変異体(市販によりClontechより入手可能)により形成されたキメラタンパク質である。このキメラレポーターにより、強力なGFP蛍光およびルシフェラーゼに基づく高感度の化学発光アッセイが提供される。この遺伝子は、都合のよいクローニング部位または多重クローニング部位がレポーター遺伝子の5’末端で作動可能に連結される方向でプロモーター不含ベクターにクローン化され、そのために、7つの老化関連遺伝子に由来するプロモーターが容易に挿入され、そしてそれによりレポーター遺伝子に作動可能に連結される。
【0081】
いくつかの被験遺伝子は、p53により誘導されることが知られている。p53非依存性メカニズムを介して老化関連増殖抑制因子を活性化する化合物を選択するために、p53欠損細胞系をスクリーニングに使用する。前記したように、1次細胞系はHCT116大腸癌細胞のp53−/−誘導体である(Bunzら、Science 282:1497−1501(1998))。次いで、この細胞系で陽性の結果を示すプロモーター構築物を別のp53欠損腫瘍細胞型において試験して、これらのプロモーターの誘導がHCT116細胞に特有ではないことを確認する(多くの細胞系における損傷応答性は、BTG1、BTG2およびマスピンに関して既に実証されており、そして乳癌系でのレチノイド誘導性がEPLINおよびIGFBP−6に関して示された)。p53変異腫瘍細胞系、とりわけドキソルビシン処理時に老化表現型を進行させるこれらの細胞系(SW480大腸癌腫、U251神経膠腫およびSaos2骨肉種を含む)を使用する(Changら、前出(1999b)に開示されている)。また、これらのアッセイにおいて、p53機能がp53由来の遺伝子サプレッサーエレメントGSE56により完全に抑制されているHT1080線維肉腫の誘導体を使用する(Changら、前出(1999a)に開示されている)。
【0082】
ドキソルビシン処理によるルシフェラーゼ活性の誘導に関する一過性トランスフェクションアッセイにおいて、これらのプロモーター−レポーター構築物を最初に使用する。正規化のために、被験構築物は、構成的に発現されたプロモーター(例えばCMVプロモーターから転写されたβ−ガラクトシダーゼ)の下で異なるレポーター遺伝子を担持する構築物と混合する。これらの混合物を(エレクトロポレーションを用いて)p53−/− HCT116細胞にトランスフェクションし、次いで、これを未処理とするかまたは200nMドキソルビシンで処理する。市販により入手可能なアッセイキットを用いて、ホタル・ルシフェラーゼおよび対照レポーター遺伝子(β−gal)の活性を測定し、そしてホタル・ルシフェラーゼ活性の正規化された値を処理された細胞と未処理の細胞との間で比較する。最高の発現および最良の誘導を提供するプロモーター構築物をこれらのアッセイから決定する。
【0083】
一過性のトランスフェクションアッセイにおいて少なくとも3倍の誘導を示すいくつかのプロモーター構築物をp53−/− HCT116細胞にトランスフェクションし、そして安定的にトランスフェクションされた細胞をピューロマイシンで選択する。それぞれの被験構築物から約100個のクローン トランスフェクタントを単離し、そして細胞100,000個に近い大きさまで広げる。この段階で、選定した系を96ウェルプレートアッセイにおいてドキソルビシンによる活性に関してスクリーニングする(以下にさらに詳述する)。最良に誘導された細胞系を広げ、そして続いてGFPおよびルシフェラーゼ誘導の双方に関して試験を繰り返すことにより特徴解析する。レポーター細胞系は、ルシフェラーゼの絶対的な高発現がHTSアッセイにおいて検出できるシグナルを生じるのに必要な細胞数を最小限にするので、誘導されるルシフェラーゼ発現の絶対レベルが最大になって高い誘導倍率を維持するように選択する。一度開発されると、これらの至適な細胞系を時間経過およびレポーター発現のドキソルビシン用量依存性に関して分析し、そして試験して発現の老化特異性を確認する。PKH26(PKH2に関連するフルオロフォアであるが、赤色にシフトした発光波長を有する)で細胞を標識することにより後者の分析を実施し、続いてドキソルビシン処理し、そして薬物不含培地に解放する。解放後6から7日の間、PKH26およびGFP蛍光に関する二色分析によりFACSで細胞を分析する。それにより、PKH26hi(老化)細胞に選択的に関連するGFP蛍光を、物理学的に分類することなく測定する。最終的に、選択された細胞系におけるレポーター発現誘導性は、ドキソルビシン以外の老化誘導物質、例えば電離放射線、シスプラチン、アフィジコリンまたはシタラビンなどのその他の作用物質を用いて試験する(Changら、前出(1999b))。その後の化合物スクリーニングのための1次レポーター細胞系をそれにより作製し、そして種々の遺伝子のプロモーターからレポーターを発現する2次細胞系を確認アッセイに用いることができる。
【0084】
前記したようにして開発した1次レポーター細胞系を用いて、HTSアッセイを開発する。レポーター遺伝子のデュアルFGP−ルシフェラーゼ特性はとりわけ、さらに高感受性のルシフェラーゼに基づく化学発光アッセイ、および試験化合物の効果がルシフェラーゼアッセイにおよぼす人工的な影響によらないことを確認するためのGFP蛍光を用いるスクリーニングアッセイを行うのに特に便宜である。
【0085】
ドキソルビシンおよびその他の老化誘導物質に関して確立されたアッセイ条件を用いて、そして化学ライブラリーのルシフェラーゼに基づくスクリーニングのために他の研究者が用いた手順と同様にして、1次スクリーニングを実施する(Sohnら、Ann.Surg.233:696−703(2001))。化合物ライブラリーにおける各化合物の1mMストックの一部を、最終濃度2μMで、細胞培養培地の入った3つ一組の96ウェルプレートに加える。次いで、ウェルあたり少なくとも2つの試薬不含の陰性対照ウェルおよび2つのドキソルビシン含有陽性対照ウェルを用いて、96ウェルプレートにレポーター細胞を播種し、そして必要な時間37℃でインキュベーションする。インキュベーションの後、プレートを蛍光リーダーで読み取り(さらなる操作を行わない)、GFP活性が実質的に増加しているウェルを同定する。次いで、同一のプレートをルシフェラーゼアッセイについて処理し、そしてマイクロプレートルミノメーターで読み取る。3つのプレートのルミノメーターの読み取りを用いて、候補の陽性物質を同定し、そしてGFP蛍光の結果と比較する。2次スクリーニングの前に、別の一連のアッセイにて陽性の化合物を再試験する。ルシフェラーゼおよびGFP活性の増加に関するアッセイの本質は、アッセイの過程で生存細胞において発現される必要があるので、候補物質のリストから高い細胞毒性を有する化合物を排除すべきである。
【0086】
1次分析で陽性として記録された化合物を、種々の老化関連遺伝子の発現に及ぼすその効果に関して試験する。これらのアッセイのいくつかを安定的にトランスフェクションされた細胞系を用いて実施し、ここでレポーター遺伝子は1次レポーター系において以外の遺伝子のプロモーターにより駆動される。1次アッセイで非常に多くの陽性物質を検出すれば、これらの単純なレポーター活性化アッセイは保証される。2次レポーター系を用いて、1以上のプロモーターで活性である化合物数にその化合物数を限定する。しかしながら、1次スクリーニングの後、陽性化合物の数が少ない場合には、この2次スクリーニング工程は不要であり、陽性化合物は遺伝子発現に関する化合物の直接分析に用いられる。
【0087】
さらに詳しいスクリーニングに加えて、およびその前に、レポーターアッセイにおいて強い増加を生じる化合物の最低濃度を決定する。この濃度はまた、p53−/− HCT116細胞において内因性老化関連遺伝子の発現に及ぼすその効果に関して試験される。これらのアッセイでは、RNAを処理の前および後で抽出し、そして、例えば一連のRNAサンプル間の複数の遺伝子に関する発現レベルを比較することを可能にする定量的RT−PCR(Noonanら、(1990)に開示されている)により、種々の老化関連遺伝子の発現を分析する。単一のRT−PCRアッセイは約50ngの全細胞RNAを使用し、これにより、ノーザン・ハイブリダイゼーションの単一のレーンで典型的に使用される量である、5μgの全RNAから出発して約100アッセイを実施することが可能になる。このアッセイでは、β−アクチンの発現が老化細胞で未変化であるので、ノーザンおよびウェスタンブロットに従い、β−アクチンを正規化標準として用いる。
【0088】
ドキソルビシン誘導性の加速された老化において上方または下方制御される63の遺伝子に関するRT−PCRプライマーおよびアッセイ条件を表3に開示する(Changら、前出(2001))。これらのアッセイを用いて、陽性化合物が前記した増殖抑制遺伝子のみならず、その他の老化関連増殖調節因子、例えばWIP1、CD44、ジャグド−1、および正常細胞に対して癌において下方制御され、そして次に老化腫瘍細胞において上方制御されることが知られているいくつかの遺伝子、例えばP−カドヘリン、デスモプラキンおよびデスモヨーキンをも活性化することができるかどうかを試験する。後者の遺伝子は、癌で下方制御される老化関連増殖抑制因子(例えばEPLINまたはマスピン)で同時制御される可能性がある。一方、化合物は、p21、またはドキソルビシン誘導性の老化で上方制御される病原性の可能性のあるタンパク質、例えば分泌性腫瘍促進因子TGFα、CYR61およびプロサポシン、プロテアーゼ(例えばカリクレイン−7もしくはカルパインL2)、およびプラーク形成タンパク質、例えばアルツハイマー病のβ−アミロイド前駆体およびBRIを誘導しないことが見出されるであろうと予測される。また、老化細胞で下方制御される遺伝子、例えば腫瘍特異的膜貫通タンパク質STEAP、および細胞増殖に関与する遺伝子(例えばKi−67、トポイソメラーゼIIα、CDC2、PLK1、MAD2、チミジレート シンターゼ、リボヌクレオチド・リダクターゼM1)に及ぼす化合物の影響に関しても、陽性化合物をアッセイする。後者の遺伝子の抑制は試験化合物の細胞増殖抑制効果の指標であり、これは別個のアッセイで試験される(以下を参照)。
【0089】
この分析が遺伝子発現に望ましい効果を有する化合物を明らかにする場合には、化合物が細胞増殖にどのように影響するかを決定するために分析を実施する。標準的な細胞増殖アッセイ、および抗増殖作用の細胞増殖抑制性および細胞毒性の成分を評価するアッセイの双方により、この分析を実施する。このアッセイでは細胞をPKH2で標識し、試験化合物で連続的または限定された時間(例えば24時間)のいずれかで処理し、そして3回の細胞倍化に相当する時間の後に分析する。この分析のために、接着および浮遊した細胞を混合し、そして、膜が損なわれた(死亡した)細胞のみを染色するヨウ化プロピジウム(PI)で染色する。次いで、染色した細胞をFACSにより、PKH2蛍光における変化に関して、および同時にPKH2で標識した未処置細胞の対照サンプルに隣接したPI−陽性細胞の分画に関して分析する。対照細胞に対してPKH2蛍光の増加は細胞分割の抑制(細胞増殖抑制効果)を示し、そしてPI+分画の増加は細胞毒性効果を示す。このような効果は老化プログラムの特異的活性化から予測されるので、腫瘍細胞に及ぼす(細胞毒性よりもむしろ)優先的な細胞増殖抑制効果を有する化合物はとりわけ興味深い。
【0090】
望ましい特性を有する原型化合物が見出される場合には、この化合物からの誘導体のライブラリーを調製し、次いで、これをスクリーニングしてさらに有効な作用物質を見出す。このような作用物質は、前臨床試験による原型薬物として評価される。
【実施例5】
【0091】
プロモーター−レポーター遺伝子構築物の構築および抗癌剤誘導性の老化に関連する病原性遺伝子の誘導を防御する作用物質のスクリーニング
本明細書に開示する結果は、加齢の疾患およびパラクリン増殖刺激効果、とりわけ腫瘍細胞増殖刺激に関連してきた特定の遺伝子が細胞毒性薬での処理により誘導されることを示している。これらの遺伝子には、サイクリンD1、血清誘導性キナーゼ、CYR61、プロサポシン、形質転換増殖因子α(TGFα)、カリクレイン7、カルパインL2、ニューロシン、プラスミノーゲンアクチベータ、ウロキナーゼ、アミロイドβ(A4)前駆体タンパク質(βAPP)、および膜内在性タンパク質2B(BRI/ITM2B)が含まれる。これらの遺伝子に由来するプロモーターを用いて、実施例4に開示されているのと同様の様式で、レポーター遺伝子構築物を別の老化関連遺伝子に関して作製することができる。次いで、これらの構築物を用いて、試験化合物の存在下および不存在下で細胞毒性薬の処置によるレポーター遺伝子の誘導をアッセイすることができる。
【0092】
これらの遺伝子のすべてに関して、機能的プロモーター配列が公開されている:サイクリンD1(MotokuraおよびArnold、Genes Chromosomes Cancer 7:89−95(1993));CYR61(Latinkicら、Nucleic Acids Res. 19:3261−3267(1991));プロサポシン(Sunら、Gene 218:23−34(1998));形質転換増殖因子α(TGFα;Rajaら、Mol.Endocrinol. 5:514−520(1991));カリクレイン7(Yousefら、Gene 254:119−128(2000));カルパインL2(Suzukiら、Biol.Chem.Hoppe Seyler.376:523−529(1995));プラスミノーゲンアクチベータ ウロキナーゼ(Riccioら、Nucleic Acids Res.13:2759−2771(1985));およびアミロイドβ(A4)前駆体タンパク質(βAPP;LahiriおよびRobakis、Brain Res.Molec.Brain Res.9:253−257(1991))。
【0093】
実施例4に記載した方法の変法により、レポーター遺伝子構築物を調製する。典型的には細胞を老化誘導濃度のドキソルビシンまたはその他の細胞毒性物質と接触させることにより、一過性および安定的にトランスフェクションされた細胞において老化を誘導する。これらの実験を用いて、試験化合物の不存在下でのレポーター遺伝子誘導のレベルを確立する。
【0094】
対応する遺伝子を活性化する条件下で、ドキソルビシンによる誘導性に関してプロモーター−レポーター構築物を試験する。最良に調節されたプロモーター構築物を用いて、安定的にトランスフェクションされた細胞系を増殖させ、そして実施例4に記載するように、薬物処置の条件下で最も強力なレポーターの誘導を有する細胞系を同定する。
【0095】
また、試験化合物の不存在下で実施した実験と同一の様式で、試験化合物の存在下でも実験を実施する。典型的には、同一濃度の細胞毒性物質で誘導された細胞において多様な濃度の試験化合物を用いて実験を実施し、そしてレポーター遺伝子の発現を測定し、そして試験化合物の不存在下においてその濃度の細胞毒性物質で誘導された細胞におけるレポーター遺伝子発現と比較する。
【0096】
これらの実験の結果により、細胞毒性薬で、およびその有効濃度で処理した細胞において、疾患を促進する老化関連遺伝子の老化に関連する誘導を低減、抑制または防御する試験化合物が同定される。これらの結果により、従来の癌治療に関連する細胞毒性物質誘導性の老化の結果として、疾患を促進する、とりわけ腫瘍細胞増殖を刺激する遺伝子の誘導を防御するのに有用な化合物が提供される。
【0097】
前記の開示は本発明の特定の実施形態を強調するものであり、そしてすべての変更またはそれに等価な代替は添付の特許請求の範囲に示す本発明の精神および範囲内であると理解すべきである。
【0098】
【表1】




【0099】
【表2】






【0100】
【表3】



【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1Aは、ドキソルビシン処理したHCT116細胞の増殖および増殖停止分画についての蛍光活性化セルソーター(FACS)のプロファイルである。ドキソルビシンからの解放後の表示された日のPKH2蛍光に基づいて細胞を分類する。増殖細胞のPKH2lo集団は第4日に出現し、そして第6日までにPKH2hi(増殖停止)集団から分離する。図1Bは、DNA含量に基づいて分離された、ドキソルビシン処理したHCT116細胞の増殖および増殖停止分画についてのFACSプロファイルである。指数関数的に増殖するHCT116細胞はG1にてピークを有するが、薬物処理の9日後に単離されたPKH2hi集団はG2/Mにてピークを有する。図1Cは、薬物からの解放後6日に分離されたPKH2hiおよびPKH2lo集団のSA−β−gal染色を示す写真である。双方のパネルは、同一の200×の倍率で撮影されている。図1Dは、薬物処理後9日に分離され、そして10cmプレートあたり10,000個の生存(PI陰性)細胞で播種された、PKH2hiおよびPKH2lo集団によるコロニー形成を示す写真である。
【図2】図2Aおよび図2Bは、表示された老化関連遺伝子の発現の変化についてのRT−PCR分析の写真である。正規化標準としてβ−アクチンを用いた。図2Aは、ドキソルビシン処理後9日に分離されたHCT116細胞の増殖(PKH2lo)および老化(PKH2hi)集団の遺伝子発現の比較を示す。図2Bは、200nMドキソルビシンでの処理の前および24時間後、および薬物からの解放後の表示された日の、野生型、p21−/−およびp53−/− HCT116細胞の分類されていない集団の遺伝子発現の比較である。その発現における変化が後日検出可能になるか、または野生型細胞においてと比較してp53−/−もしくはp21−/−系においてはあまり顕著でなかった場合には、遺伝子をp53−またはp21−依存性と称した。
【図3】図3Aおよび図3Bは、p53と薬物誘導性の老化において発現の変化を示す遺伝子の表示されたタンパク質産物とにおける変化についての免疫ブロッティング分析の写真である。正規化標準としてβ−アクチンを用いた。図3Aは、未処置か、200nMドキソルビシンで2日間処理したか、またはドキソルビシン処理後9日に増殖(PKH2lo)および老化(PKH2hi)細胞集団に分類された、野生型HCT116細胞の免疫ブロッティングの結果を示す。図3Bは、表示された日数ドキソルビシンで処理された野生型、p21−/−およびp53−/− HCT116細胞系の免疫ブロッティング分析による、ドキソルビシン処理HCT116細胞におけるp21誘導のp53依存性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法であって、
(a)化合物の存在下および不存在下において哺乳動物細胞を培養すること;
(b)化合物の不存在下の細胞における細胞遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記細胞における表2Aの少なくとも1つの前記細胞遺伝子の発現をアッセイすること;並びに
(c)表2Aの少なくとも1つの細胞遺伝子の発現が化合物の不存在下においてよりも化合物の存在下において高い場合に、老化を誘導する化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
表2Aの前記細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
表2Aの前記細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
表2Aの前記細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞遺伝子がBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
表2Aの少なくとも1つの細胞遺伝子の誘導を、表2Aの細胞遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む組換え哺乳動物細胞を用いることにより、そして化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも増加するレポーター遺伝子の発現を検出することによりアッセイする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
d)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;並びに
e)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
表2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
表2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
表2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法であって、
(a)化合物の存在下および不存在下において哺乳動物細胞を培養すること;
(b)化合物の不存在下の細胞における細胞遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記細胞における表2Aの少なくとも1つの前記細胞遺伝子の発現をアッセイすること;
(c)細胞増殖および老化の形態学的特徴に関して組換え哺乳動物細胞をアッセイすること;並びに
(d)表2Aの少なくとも1つの細胞遺伝子の発現が化合物の不存在下においてよりも化合物の存在下において高く、そして化合物の存在下において細胞が増殖抑制され、老化の形態学的特徴を表す場合に、老化を誘導する化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項14】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
表2Aの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
表2Aの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
表2Aの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞遺伝子がBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
表2Aの少なくとも1つの細胞遺伝子の誘導を、表2Aの細胞遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む組換え哺乳動物細胞を用いることにより、そして化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも増加するレポーター遺伝子の発現を検出することによりアッセイする、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
e)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;並びに
f)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
e)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;並びに
f)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
表2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
表2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項25】
表2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項26】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法であって、
(a)レポーター遺伝子に作動可能に連結された表2Aの細胞遺伝子に由来するプロモーターを含む組換え発現構築物を前記哺乳動物細胞に導入することにより、組換え哺乳動物細胞を作製すること;
(b)化合物の存在下および不存在下において組換え哺乳動物細胞を培養すること;
(c)化合物の不存在下の組換え細胞における前記レポーター遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記組換え細胞におけるレポーター遺伝子の発現をアッセイすること;並びに
(d)レポーター遺伝子の遺伝子発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも高い場合に、老化を誘導する化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項27】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
細胞遺伝子のプロモーターがBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンに由来するプロモーターである、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
e)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;および
f)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
表2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
表2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
表2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法であって、
(a)レポーター遺伝子に作動可能に連結された表2Aの細胞遺伝子に由来するプロモーターを含む組換え発現構築物を前記哺乳動物細胞に導入することにより、組換え哺乳動物細胞を作製すること;
(b)化合物の存在下および不存在下において組換え哺乳動物細胞を培養すること;
(c)化合物の不存在下の組換え細胞における前記レポーター遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記組換え細胞におけるレポーター遺伝子の発現をアッセイすること;
(d)細胞増殖および老化の形態学的特徴に関して組換え哺乳動物細胞をアッセイすること;並びに
(e)レポーター遺伝子発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも高く、そして化合物の存在下において細胞が増殖抑制され、老化の形態学的特徴を表す場合に、老化を誘導する化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項35】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
細胞遺伝子のプロモーターがBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンに由来するプロモーターである、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
f)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;および
g)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
表2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
表2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
表2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法であって、
(a)化合物の存在下および不存在下において哺乳動物細胞を培養すること;
(b)化合物の不存在下の細胞における細胞遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記細胞における表1の少なくとも1つの前記細胞遺伝子の発現をアッセイすること;
(c)表1の少なくとも1つの細胞遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも低い場合に、老化を誘導する化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項43】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
表1の細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
表1の細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
表1の細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項42に記載の方法。
【請求項48】
前記細胞遺伝子がHFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、LRPR1である、請求項42に記載の方法。
【請求項49】
表1の少なくとも1つの細胞遺伝子の抑制を、表1の細胞遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む組換え哺乳動物細胞を用いることにより、そして化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも減少したレポーター遺伝子の発現を検出することによりアッセイする、請求項42に記載の方法。
【請求項50】
d)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;および
e)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項51】
d)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;および
e)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
表2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
表2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項50または51に記載の方法。
【請求項54】
表2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項50または51に記載の方法。
【請求項55】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法であって、
(a)化合物の存在下および不存在下において哺乳動物細胞を培養すること;
(b)化合物の不存在下の細胞における細胞遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記細胞における表1の少なくとも1つの前記細胞遺伝子の発現をアッセイすること;
(c)細胞増殖および老化の形態学的特徴に関して組換え哺乳動物細胞をアッセイすること;並びに
(d)表1の少なくとも1つの細胞遺伝子の発現が化合物の不存在下においてよりも化合物の存在下において低く、そして化合物の存在下において細胞が増殖抑制され、老化の形態学的特徴を表す場合に、老化を誘導する化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項56】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
表1の細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項55に記載の方法。
【請求項59】
表1の細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項55に記載の方法。
【請求項60】
表1の細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項55に記載の方法。
【請求項61】
前記細胞遺伝子がHFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、LRPR1である、請求項55に記載の方法。
【請求項62】
表1の少なくとも1つの細胞遺伝子の抑制を、表1の細胞遺伝子に由来するプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子を含む組換え哺乳動物細胞を用いることにより、そして化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも減少するレポーター遺伝子の発現を検出することによりアッセイする、請求項55に記載の方法。
【請求項63】
e)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;および
f)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項55に記載の方法。
【請求項64】
e)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;および
f)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
表2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項63または64に記載の方法。
【請求項66】
表2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項63または64に記載の方法。
【請求項67】
表2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項63または64に記載の方法。
【請求項68】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法であって、
(a)レポーター遺伝子に作動可能に連結された表1の細胞遺伝子に由来するプロモーターを含む組換え発現構築物を前記哺乳動物細胞に導入することにより、組換え哺乳動物細胞を作製すること;
(b)化合物の存在下および不存在下において組換え哺乳動物細胞を培養すること;
(c)化合物の不存在下の組換え細胞における前記レポーター遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記組換え細胞におけるレポーター遺伝子の発現をアッセイすること;並びに
(d)レポーター遺伝子の発現が化合物の不存在下においてよりも化合物の存在下において低い場合に、老化を誘導する化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項69】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
細胞遺伝子のプロモーターがHFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、LRPR1に由来するプロモーターである、請求項68に記載の方法。
【請求項72】
e)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;および
f)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項68に記載の方法。
【請求項73】
表2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
表2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項72に記載の方法。
【請求項75】
表2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項72に記載の方法。
【請求項76】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物を同定するための方法であって、
(a)レポーター遺伝子に作動可能に連結された表1の細胞遺伝子に由来するプロモーターを含む組換え発現構築物を前記哺乳動物細胞に導入することにより、組換え哺乳動物細胞を作製すること;
(b)化合物の存在下および不存在下において組換え哺乳動物細胞を培養すること;
(c)化合物の不存在下の組換え細胞における前記レポーター遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記組換え細胞におけるレポーター遺伝子の発現をアッセイすること;
(d)細胞増殖および老化の形態学的特徴に関して組換え哺乳動物細胞をアッセイすること;並びに
(e)レポーター遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも低く、そして化合物の存在下において細胞が増殖抑制され、老化の形態学的特徴を表す場合に、老化を誘導する化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項77】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
細胞遺伝子のプロモーターがHFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、LRPR1に由来するプロモーターである、請求項76に記載の方法。
【請求項80】
f)表2Bの1つまたはそれ以上の遺伝子の発現をアッセイすること;および
g)表2Bの遺伝子の発現が化合物の存在下において化合物の不存在下においてよりも多くない化合物を同定すること;
の工程をさらに含む、請求項76に記載の方法。
【請求項81】
表2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
表2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項80に記載の方法。
【請求項83】
表2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項80に記載の方法。
【請求項84】
哺乳動物細胞において老化を誘導する化合物であって、前記化合物が請求項9、21、22、30、38、50、51、63、64、72または80に記載の方法に従って同定される前記化合物。
【請求項85】
非レチノイド化合物である、請求項84に記載の化合物。
【請求項86】
異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患または症状の処置の有効性を評価するための方法であって、
(a)処理前および処理後の異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患または症状を有する動物に由来する細胞を含む生物学的サンプルを入手すること;
(b)処置後の表1、2Aまたは2Bの少なくとも1つの遺伝子の発現を、処置前の前記遺伝子の発現と比較すること;並びに
(c)表2Aおよび2Bの少なくとも1つの遺伝子が処置前よりも処置後に高いか、あるいは表1の少なくとも1つの遺伝子の発現が処置前よりも処置後に低い場合に、前記処置が異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患または症状を処置するための有効性を有していると決定すること;
の工程を含む方法。
【請求項87】
前記生物学的サンプルが腫瘍細胞を含む、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記遺伝子が表2Aの細胞遺伝子である、請求項86に記載の方法。
【請求項89】
少なくとも1つの細胞遺伝子がBTG1、BTG2、EPLIN、WIP1、マスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンである、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記遺伝子が表1の細胞遺伝子である、請求項86に記載の方法。
【請求項91】
前記細胞遺伝子がHFH−11、STEAP、RHAMM、INSIG1、LRPR1である、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
表1、2Aまたは2Bの細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項86に記載の方法。
【請求項93】
表1、2Aまたは2Bの細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項86に記載の方法。
【請求項94】
表1、2Aまたは2Bの細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項86に記載の方法。
【請求項95】
異常細胞増殖または腫瘍細胞増殖に関連する疾患または症状を処置するための方法であって、異常増殖細胞または腫瘍細胞において老化を誘導する、請求項9、21、22、30、38、50、51、63、64、72または80に記載の方法に従って生成された治療有効量の化合物を前記疾患または症状を有する動物に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項96】
化合物が非レチノイド化合物である、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
細胞遺伝子発現の老化に関連する誘導を抑制する化合物を同定するための方法であって、
(a)細胞増殖を抑制する濃度の細胞毒性物質と細胞を接触させること;
(b)細胞が老化するときに誘導される細胞遺伝子の発現における変化に関して化合物の存在下および不存在下で細胞をアッセイすること;並びに
(c)下位区分(b)の細胞遺伝子の発現が化合物の不存在下で誘導されるが、化合物の存在下で誘導されない場合に、細胞遺伝子発現の老化に関連する誘導の抑制因子として化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項98】
前記細胞遺伝子がサイクリンD1、血清誘導性キナーゼ、CYR61、プロサポシン、形質転換増殖因子α(TGFα)、カリクレイン7、カルパイン−L2、ニューロシン、プラスミノーゲンアクチベータ ウロキナーゼ、アミロイドβ(A4)前駆体タンパク質(βAPP)、または膜内在性タンパク質2B(BRI/ITM2B)である、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項97に記載の方法。
【請求項100】
細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項97に記載の方法。
【請求項101】
細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項97に記載の方法。
【請求項102】
前記哺乳動物細胞がp53欠損細胞である、請求項97に記載の方法。
【請求項103】
前記哺乳動物細胞が腫瘍細胞である、請求項97に記載の方法。
【請求項104】
細胞遺伝子発現の老化に関連する誘導を抑制する化合物を同定するための方法であって、
(a)レポーター遺伝子に作動可能に連結された、サイクリンD1、血清誘導性キナーゼ、CYR61、プロサポシン、形質転換増殖因子α(TGFα)、カリクレイン7、カルパイン−L2、ニューロシン、プラスミノーゲンアクチベータ ウロキナーゼ、アミロイドβ(A4)前駆体タンパク質(βAPP)、または膜内在性タンパク質2B(BRI/ITM2B)に由来するプロモーターを含む組換え発現構築物を前記哺乳動物細胞に導入することにより、組換え哺乳動物細胞を作製すること
(b)細胞増殖を抑制する濃度の細胞毒性物質に細胞を接触させること;
(c)化合物の不存在下の組換え細胞における前記レポーター遺伝子の発現と、化合物の存在下での前記組換え細胞におけるレポーター遺伝子の発現をアッセイすること;
(d)下位区分(c)の細胞遺伝子の発現が化合物の不存在下で誘導されるが、化合物の存在下で誘導されない場合に、細胞遺伝子発現の老化に関連する誘導の抑制因子として化合物を同定すること;
の工程を含む方法。
【請求項105】
細胞遺伝子の発現が相補的核酸へのハイブリダイゼーションにより検出される、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
細胞遺伝子の発現が免疫学的試薬の使用により検出される、請求項104に記載の方法。
【請求項107】
細胞遺伝子の発現が細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項104に記載の方法。
【請求項108】
細胞老化を誘導する化合物で処置された動物において処置の有効性を決定するための方法であって、
(a)老化マーカーに関して処理前および後の動物からの生物学的液体をアッセイすること;並びに
(b)処理後に検出されるマーカーの量が処理前に検出されるマーカーの量よりも多い場合に、処理が有効であることを決定すること;
の工程を含む方法。
【請求項109】
老化マーカーがマスピン、MIC−1、IGFBP−6またはアンフィレギュリンである、請求項108に記載の方法。
【請求項110】
体液が血液、尿、滲出液、腹水、唾液、脳脊髄液、頸管分泌物、膣分泌物、子宮内膜分泌物、消化管分泌物、気管支分泌物、痰、または乳房からの分泌物もしくは洗浄液である、請求項108に記載の方法。
【請求項111】
老化マーカーが相補的核酸へのハイブリダイゼーション、免疫学的試薬の使用、または細胞遺伝子産物の活性をアッセイすることにより検出される、請求項108に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−77714(P2009−77714A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−238858(P2008−238858)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【分割の表示】特願2004−519674(P2004−519674)の分割
【原出願日】平成15年6月27日(2003.6.27)
【出願人】(503063593)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (12)
【Fターム(参考)】