説明

膜を生成する方法及びそのような膜が設けられた物品

本発明は、物品2の開口部にて蒸着/真空蒸着させることのできる材料にて膜壁3を生成する方法に関する。この方法は、蒸着可能な材料に対して剥離性のある層5にて被覆された裏打ち面4に接するように、開口部を画定する縁部配置する工程と、蒸着可能な材料を物品2及び裏打ち面4上に蒸着させて1つの要素を形成する工程と、要素と一体的な膜3が残しるようにして要素を裏打ち面4から分離する工程と、を含む。本発明は、膜3が設けられた物品、特に、前面側膜3が設けられた超音波トランスデューサ11にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の開口部を覆うように蒸着又は真空蒸着することのできる、材料の膜又は壁を生成する方法に関する。本発明は、膜が設けられた物品、特に、前面側膜が設けられた超音波トランスデューサにも関する。
【背景技術】
【0002】
医学分野において、人体内に導入される装置を被覆することにより、人体を例えば金属との接触から保護することが知られている。例えば、ペースメーカは、人体に対し十分許容性のある蒸着可能な材料であるパリレン(Parylene)にて通常、被覆されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
色々な処置のため人体内に挿入される超音波プローブも既知である。これら超音波プローブは、超音波トランスデューサを冷却することを必要とする。また、これら超音波プローブは、前面側に液体を必要とすることになろう。処置(治療)すべき組織に向けられる超音波放射線の結合を助けるためである。この理由のため、超音波プローブの前端に1つの室を提供し、典型的には食塩水である冷却液体を超音波トランスデューサの前面側に分配することが考えられていた。
【0004】
問題は、容易に且つ効率的な仕方にて、プローブの開口部を覆う壁を形成することができるようにすることである。
【0005】
本発明の1つの目的は、必要な強度を有し且つプローブ本体に結合し、開口部を覆うような膜を、簡単で且つ効率的な仕方にて生成する方法を提供することである。
【0006】
更なる目的は、超音波トランスデューサに、人体に対し許容性のある材料にて膜を生成する方法を提供することである。
【0007】
更なる目的は、かかる膜が設けられた物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の実施態様において、本発明は、物品の開口部にて蒸着可能な材料から成る膜を生成する方法を提供する。
【0009】
この方法は、
蒸着可能な材料に対して忌避的な性質、すなわち剥離性を有する層にて被覆された裏打ち面に対して接するように、縁部により画定された開口部を配置する工程と、
蒸着可能な材料を物品及び裏打ち面上に蒸着させ、1つの要素を形成する工程と、
要素と一体的なものとして膜が残るようにして、要素を裏打ち面から分離する工程と、を含む。
【0010】
望ましくは、少なくとも1つの穴が要素に形成されるようにするが、その際、縁部に凹所を設け、該凹所を裏打ち面に接するようにし、蒸着可能な材料が凹所及び裏打ち面の表面上に蒸着され、上記分離する工程後、膜に隣接する要素に穴が残るようにすることにより、少なくとも1つの穴が要素に形成されるようにする。
【0011】
蒸着可能な材料は、パリレンとすることができ、蒸着可能な材料に対して剥離性を有する層、すなわち剥離性層は、ワックス被覆とすることができる。
【0012】
第二の実施態様において、本発明は、開口部にて蒸着可能な材料から成る膜であって、開口部の所定の縁部に取り付けられ、且つ、物品上に蒸着された要素と一体的なものとなっている上記膜を備えることを特徴とする物品を提供する。
【0013】
1つの実施の形態において、物品は、超音波トランスデューサである。
【0014】
膜が室の前面壁を形成しており、該室は超音波水晶圧電発振素子と上記前面壁との間に配置されるものとすることができる。
【0015】
本発明は、請求項1及び7にて規定される一方、実施の形態は従属項にて規定される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明は、添付図面を参照して、以下により詳細に説明する。
【図1】膜を生成する前の超音波トランスデューサの斜視図である。
【図2】図1のトランスデューサの前面図である。
【図3】膜の生成過程の1つの工程におけるトランスデューサ及び裏打ち面の断面図である。
【図4】本発明の1つの実施の形態に従って膜が設けられた超音波トランスシューサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、全体として、蒸着可能な材料を使用して膜にて覆うべき少なくとも1つの開口部を有する物品に適用可能な膜を生成する方法に関する。本発明は、膜を超音波プローブ又はトランスデューサに配置する特定の例について説明するが、この方法は、その他の物品にも等しく適用可能であることが理解されよう。
【0018】
この方法は、膜を超音波プローブに配置するため開発したものである。超音波プローブは、ハンドルと、全体として管状の導入器と、電線と、トランスデューサと接続された流体管等(図示せず)とを備えている。概略図的な一例としての超音波トランスデューサ11が図面に示されている。トランスデューサ11は、超音波水晶圧電発振素子1を支持するプローブヘッド2と、冷却流体を全体として水晶圧電発振素子1の前方の領域に導く導管7とを備えている。冷却流体は、水晶圧電発振素子1の前面にわたって分配されなければならない。このため、水晶圧電発振素子1と共に室を形成する前面壁又は膜3が必要とされる。
【0019】
本明細書において、蒸着可能な材料という語は、蒸着/真空蒸着可能な任意の材料を意味することを意図する。パリレンは、超音波プローブに対し適切な材料として選択されたものである。
【0020】
パリレンは、ポリパラキシリレンに対する一般名である。パリレンは、金属、ガラス、紙、樹脂、プラスチック、セラミック、フェライト及びケイ素のような多様な基質上にて任意の構成要素の構成を均一に保護すべく利用される順応性のある保護ポリマー被覆材料である。その独特の性質のため、パリレンは、鋭利な端縁、裂目、先端又は平坦で且つ露出した内面を含む、実質上、任意の形態に順応する。
【0021】
本発明の1つの実施の形態において、本発明の方法は、次の工程を備えている。トランスデューサ11は、裏打ち面4の上に配置される。裏打ち面4には、膜を形成する材料に対し忌避する性質すなわち剥離性を有する層が設けられている。蒸着可能な材料としてパリレンを用いた場合、この剥離性層は好ましくは、ワックス被覆とされる。裏打ち面4は、トランスデューサ11が重力により適所に保持されるよう、水平とされる。これと代替的に、裏打ち面4は、トランスデューサ11の頂部に配置されるようにしてもよいし、裏打ち面4とトランスデューサ11を別の手段により互いに締結するようにしてもよい。幾つかのトランスデューサ11に同時に膜を設けることができる。プローブヘッド2の前側開口部は、剥離性層5と接触する縁部8を有し、該縁部8により画定されている。
【0022】
トランスデューサ11と裏打ち面4とは、真空室内に配置される。パリレンの蒸着は、既知の技術に従って行なうことができる。蒸着したパリレンは、導管7を通って水晶圧電発振素子1と裏打ち面4との間に入る。パリレンは、トランスデューサ11の全ての面及び裏打ち面4上の剥離性層5を覆う。蒸着は、裏打ち面上に形成された膜3が十分な厚さに達する迄、続けられる。厚さは、必要な強度を提供するのに十分厚くなければならないが、超音波プローブの場合、過度に厚い厚さの場合、伝送された超音波が望ましくない程度に減衰損失する結果となる可能性がある。超音波の浸透深さは、超音波の周波数に依存する。20から30μmの範囲、例えば約25μmの厚さは、約4MHzの超音波の周波数にとって十分であることが判明している。
【0023】
図面には、膜3のみが示されているが、パリレンは、水晶圧電発振素子1の前面を含むトランスデューサ11のその他の面も覆う連続的な一体形要素又は本体を形成する。このように、室10は、水晶圧電発振素子1の前面にてパリレン材料により形成される。
【0024】
蒸着過程のため、パリレン材料中に継目及び鋭利な隅部は存在せず、パリレン本体(要素)の各部分間の全ての遷移部分は滑らかである。このように、膜は、プローブヘッド2、水晶圧電発振素子1及びトランスデューサ11のその他の面に取り付けられたパリレン本体(要素)に対して高強度にて接合される。
【0025】
トランスデューサ11を裏打ち面4から分離させるため、プローブヘッド2の回りで切断が行われる。すると、膜は剥離性層5に弱く取り付けられているのみであるため、トランスデューサ11を裏打ち面から引き剥がすことができる。望ましくは、縁部8の回りの端縁は、所望の滑らかな形状となるように縁処理(トリミング)されるものとする。
【0026】
超音波プローブを冷却する場合、室10は、冷却流体を排出するため少なくとも1つの開口6を必要とする。パリレン材料に開口を形成するため、少なくとも1つの凹所9が縁部8に設けられる。望ましくは、複数の凹所9が縁部8の全体にわたって分配される。縁部8が裏打ち面に接するように配置されたとき、凹所9は、開口を形成することになる。蒸着過程において、蒸着可能な材料は、凹所及び裏打ち面の表面を被覆し、これによりパリレンの連続的な材料層を形成し、開口6を形成する。このように、開口(孔)6は、凹所9の被覆面及び膜3により周囲を画定されている。開口(孔)6には、継目及び鋭利な隅部は存在せず、その結果、任意の引裂き力に対して抵抗性のある開口(孔)となる。
【0027】
図示した実施の形態において、裏打ち面4は平坦である。所望により、膜を他の所望の形状に形成するため、凹状及び凸状の裏打ち面を使用することができることが理解されよう。
【0028】
また、この方法は、開口部を備える一般的な物品に膜を生成するため適用可能である。一般的に、物品全体もまた、蒸着可能な材料により覆われており、必要に応じて縁処理(トリミング)を実施することができる。超音波プローブの場合、何れの場合でも(通常のごとくプローブヘッドがプラスチックで出来ている場合でも)、トランスデューサの全体がパリレンにより覆われることが望ましい。
【0029】
この方法は、蒸着可能であり且つ連続的な膜を形成することのできる任意の材料、例えば、プラスチック及び金属に対して適用することができる。剥離性面は、蒸着すべき材料に依存して選ばれる。例えば、ワックス及びテフロン(登録商標)を使用することができる。本発明の範囲は、以下の請求の範囲によってのみ限定されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品(2)の開口部にて蒸着可能な材料から成る膜(3)を生成する方法において、
蒸着可能な材料に対して剥離性のある層(5)にて被覆された裏打ち面(4)に接するようにして、前記開口部を画定する縁部(8)を配置する工程と、
蒸着可能な材料を前記物品(2)及び前記裏打ち面(4)上に蒸着させ、1つの要素を形成する工程と、
前記要素と一体的なものとして膜(3)を該要素に残したまま、該要素を前記裏打ち面(4)から分離する工程と、を備えることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、蒸着させた材料を前記開口部の回りで切断し、且つ、前記物品(2)を前記要素と共に前記裏打ち面(4)から引き離すことにより、前記要素を前記裏打ち面(4)から分離する、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記縁部(8)に凹所(9)を設け、該凹所(9)を前記裏打ち面(4)に接するように配置し、前記蒸着可能な材料が前記凹所(9)及び前記裏打ち面(4)を画定する表面上に蒸着されることにより、前記分離する工程の後、前記膜(3)に隣接して前記要素に孔(6)が残るようにすることによって、少なくとも1つの孔(6)を前記要素に形成するようにした、方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3に記載の方法において、前記蒸着可能な材料は真空蒸着法により蒸着される、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記蒸着可能な材料はパリレンである、方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法において、前記剥離性層(5)はワックス被覆を備える、方法。
【請求項7】
物品において、該物品の開口部に設けられた、蒸着可能な材料から成る膜(3)を備えており、該膜(3)は、前記開口部を画定する縁部(8)に取り付けられ、且つ、前記蒸着可能な材料が前記物品(2)に蒸着したことにより形成された要素と前記縁部(8)にて一体的となっており、これにより、蒸着した材料によって室(10)が形成されていることを特徴とする、物品。
【請求項8】
請求項7に記載の物品において、前記膜(3)に隣接して前記縁部(8)に凹所(9)を設けることにより、少なくとも1つの孔(6)が形成されており、該孔(6)の端縁は、前記凹所(9)を画定する表面上に蒸着させた前記蒸着可能な材料と前記膜(3)とによって画定されている、物品。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の物品において、前記蒸着可能な材料はパリレンである、物品。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の物品において、超音波トランスデューサ(11)である、物品。
【請求項11】
請求項10に記載の物品において、前記膜(3)は、前記超音波水晶圧電発振素子(1)と前記膜(3)との間に配置される室(10)の前面壁を形成する、物品。
【請求項12】
請求項10に記載の物品において、前記膜(3)は20から30μmの範囲の厚さを有する、物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−514923(P2010−514923A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543453(P2009−543453)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064372
【国際公開番号】WO2008/080885
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(509183383)ウルトラゾニックス ディーエヌテイー アクチボラゲット (1)
【Fターム(参考)】