説明

膜分離型反応器、膜分離型水素製造装置及び水素の製造方法

【課題】効率的に水蒸気改質反応を行いながら、水素分離膜による水素の分離精製を同一の反応器内で効率的に行うことが可能で、結果としてコンパクトでかつ高い収率で水素を製造することが可能な膜分離型反応器を提供する。
【解決手段】外表面に水素分離膜を有する水素分離膜管2と、水素分離膜管2の外側に配置された内管3と、内管3の外側に配置された中管4と、中管4の外側に配置された外管5とを具え、水素分離膜管2と内管3との間の空間が膜分離型反応器1の一端で内管3と中管4との間の空間と連通しており、内管3と中管4との間の空間が膜分離型反応器1の他の一端で中管4と外管5との間の空間と連通しており、中管4と外管5との間の空間には水蒸気改質触媒が充填されており、水素分離膜管2と内管3との間の空間には水蒸気改質触媒又はシフト反応触媒が充填されていることを特徴とする膜分離型反応器1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離型反応器、該膜分離型反応器を複数具える膜分離型水素製造装置及びそれらを用いた水素の製造方法に関し、特には、水素分離膜を用いて水素を効率よく製造することが可能な反応器及び水素製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化水素の改質反応により水素を含有する改質ガスを生成させ、該改質ガスからPd系水素分離膜を利用して水素を分離する膜分離型水素製造装置においては、水素発生量が高くなる高温領域で改質反応を行う運転を志向することが望ましい。これに対し、Pd系水素分離膜の中でも特に利用が進んでいるPd−Ag合金系の水素分離膜では、膜の温度が高温になるほど水素透過性能は高くなるが、水素分離膜自体の強度は低下する。一方、Pd−Cu合金系の水素分離膜においては、膜の温度が450℃近傍で最も高い水素透過性能を示し、それ以上の高温では水素透過性能及び水素分離膜自体の強度が低下する。
【0003】
また従来、水素分離膜を利用した水素の製造装置は、例えば、特許文献1(特開平06−048701号公報)に記載されているように、水素分離膜の周りに改質触媒を配して構成されていた。しかしながら、このような構成においては、改質触媒層と水素分離膜とがほぼ同じ温度で運転されるため、Pd−Ag系水素分離膜を組み込んだ場合には、改質反応温度が高いほど水素濃度が高い組成の改質ガスが得られ、水素分離膜の水素透過性からも、望ましい装置運転条件となるが、500〜800℃のような高温においては水素分離膜の強度の点で問題が生じる。一方、Pd−Ag系水素分離膜に比べて高温での強度が期待できるPd−Cu系の水素分離膜は、水素透過特性が極大を示す温度領域(350〜500℃)が改質反応に望ましい温度領域(600〜800℃)よりも低い。そのため、Pd−Cu系水素分離膜を利用し、Pd−Cu系水素分離膜が良好な水素透過性能を示す温度条件で水素製造装置を運転した場合、改質触媒を水素分離膜の周囲に配した同一反応器内では、改質反応に最適な温度範囲よりも低い温度条件で改質反応を行うことになるため、改質反応において水素濃度が十分に高い改質ガスを得ることができず、水素分離膜表面に水素濃度が十分に高いガスを供給することが困難であった。
【0004】
また、上記のような膜分離型の水素製造装置においては、原料ガスの入口付近で反応に伴う吸熱のため水蒸気改質触媒の温度が低下する。これに対し、触媒層入口領域での反応量の低下と温度低下に伴うコーキングの抑制を目的として、改質触媒層内のガスの流れと水素分離膜の低圧側のガスの流れとを向流に設定するとともに、水素分離管の触媒層入口部分に水素分離膜を有しない素管部分である伝熱部を設けた水蒸気改質反応器が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この水蒸気改質反応器は、改質触媒層入口領域の温度低下の抑制を目的としたものであって、水素分離膜は改質触媒層内に内蔵され、水素分離膜は改質触媒層と同じ温度にさらされている。
【0005】
さらに、炭素及び水素を含む化合物の燃料を改質反応器内で水素を含む燃料ガスに変換する改質システムにおいて、反応器の化合物入口付近の領域には水素分離膜を設けない改質システムが提案されている(特許文献3)。しかしながら、このシステムは、水素の差圧を用いて貯蔵手段に水素を蓄えるため、入口付近の領域に水素分離膜を設けないことで水素分圧を高め、水素分離膜により水素を分離して貯蔵手段に蓄えることを目的としており、水素分離膜は改質触媒に接して設けられているため、水素分離膜の温度は改質触媒層の温度と同じである。
【0006】
また、従来の膜分離型の水素製造装置は、水素分離膜の耐久性及び水素透過性能の観点から水素分離膜の温度を350〜550℃として運転されることが好ましい。加えて、装置内は加圧状態でもあり、平衡反応である改質反応の特性上から、改質ガス中の水素濃度が高くならない条件で運転されるため、高い水素透過量が得られないという課題があった。また、改質ガス中の水素濃度を上げるために予備改質器を設けた場合には、コンパクトな水素製造装置とはならないという問題が発生する。
【0007】
これに対して、本発明者らは、上流側に水蒸気改質触媒層が配置され、該水蒸気改質触媒層の下流側に非触媒粒子からなる非触媒層が配置され、さらに、該非触媒層の下流側に改質ガスのシフト反応を行うシフト触媒からなるシフト触媒層が配置されており、水素分離膜がシフト触媒層を貫通して、水蒸気改質触媒層に配置又は接することなく、非触媒層内に少なくとも一部がかかるように配置されている膜分離型水素製造装置を提案しており(特許文献4)、該膜分離型水素製造装置によれば、改質反応と水素分離膜による水素の分離精製を、それぞれ好適な温度条件で行える上、該膜分離型水素製造装置は、従来の予備改質器を有する水素製造装置よりもコンパクトであるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−48701号公報
【特許文献2】特開平6−40702号公報
【特許文献3】特開2004−18280号公報
【特許文献4】特開2009−263183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記膜分離型水素製造装置は、従来の予備改質器を有する水素製造装置に比べればコンパクトであるものの、水蒸気改質触媒層と水素分離膜を離すため、水素分離膜の大きさの割には、装置全体としてのサイズが大きくならざるを得ず、装置サイズの点で改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、効率的に水蒸気改質反応を行いながら、水素分離膜による水素の分離精製を同一の反応器内で効率的に行うことが可能で、結果としてコンパクトでかつ高い収率で水素を製造することが可能な膜分離型反応器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、外表面に水素分離膜を有する水素分離膜管の外側に内管、中管及び外管を設け、中管と外管の間を水蒸気改質部とし、内管と水素分離膜管の間を水素の分離精製と改質反応およびシフト反応の水素を生成する反応を同時に行う反応分離部とした上で、水蒸気改質部と反応分離部との間に間隙を設け、該間隙を冷却部とした四重管構造の膜分離型反応器を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明の膜分離型反応器は、
外表面に水素分離膜を有する水素分離膜管と、該水素分離膜管の外側に配置された内管と、該内管の外側に配置された中管と、該中管の外側に配置された外管とを具え、
前記水素分離膜管と前記内管との間の空間が、当該膜分離型反応器の一端で、前記内管と前記中管との間の空間と連通しており、
更に、前記内管と前記中管との間の空間が、当該膜分離型反応器の他の一端で、前記中管と前記外管との間の空間と連通しており、
前記中管と前記外管との間の空間には、水蒸気改質触媒が充填されており、
前記水素分離膜管と前記内管との間の空間には、水蒸気改質触媒又はシフト反応触媒が充填されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の膜分離型反応器の好適例においては、前記内管と前記中管との間の空間に、充填物が存在せず、或いは、冷却手段が配置され、或いは、伝熱粒子が充填されている。
【0014】
本発明の膜分離型反応器の他の好適例においては、前記水素分離膜管が、焼結フィルター部を有する金属管の焼結フィルター部上にバリア層を設け、該バリア層の上にパラジウム又はパラジウム合金の膜を配したものである。
【0015】
また、本発明の膜分離型水素製造装置は、加熱炉又は加熱用シェルを具え、該加熱炉又は加熱用シェル内に上記の膜分離型反応器が複数配置されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の水素の製造方法は、上記の膜分離型反応器又は膜分離型水素製造装置を用いる水素の製造方法であって、
前記中管と前記外管との間の空間に炭化水素と水蒸気の混合ガスを供給して、水蒸気改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成させ、
次に、前記改質ガスを前記内管と前記中管との間の空間を通して、前記水素分離膜管と前記内管との間の空間に供給し、前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出し、さらに、水素が分離された改質ガスを前記水素分離膜管と前記内管との間に充填された水蒸気改質触媒又はシフト反応触媒に接触させて水素を更に生成させ、前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出す
ことを特徴とする。
【0017】
本発明の水素の製造方法の好適例においては、前記炭化水素が、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分からなる群から選択される少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水素分離膜管を含む四重管構造とすることで、同一反応器内でありながら、水蒸気改質部と反応分離部さらには水素分離膜管との温度差をつけること、または水蒸気改質部の下流を冷却することが可能となり、より高温が必要な水蒸気改質部を高温である最外殻部に配置しつつ、水素分離膜の耐久性の観点から温度が制限される水素分離膜管を最内殻とすることで、水素分離膜が高温にさらされることを回避できる。また、水蒸気改質反応が吸熱反応であることから、加熱炉または反応器を収納するシェル等の温度変動を緩和することができ、さらには中間部で温度を制御することで水素分離膜を最適温度で操作することができ、かつ高温から水素分離膜を保護することが可能となる。さらには、四重管構造とすることで、予備改質器等の別反応器が不要となり、反応器および反応装置をコンパクトとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の膜分離型反応器の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の膜分離型水素製造装置の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の膜分離型反応器の他の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の膜分離型反応器の別の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の膜分離型反応器のその他の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の膜分離型反応器に用いる水素分離膜管の好適例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の膜分離型反応器を、図1を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の膜分離型反応器の一例を示す模式図である。図1に示す膜分離型反応器1は、外表面に水素分離膜を有する水素分離膜管2と、該水素分離膜管2の半径方向外側に配置された内管3と、該内管3の半径方向外側に配置された中管4と、該中管4の半径方向外側に配置された外管5とを具える。なお、図示例においては、水素分離膜管2、内管3、中管4、外管5がほぼ同軸に配置されているが、本発明の膜分離型反応器は、これに限定されるものではない。そして、図1に示す膜分離型反応器1においては、水素分離膜管2と内管3との間の空間が、膜分離型反応器1の上側の一端のみで、内管3と中管4との間の空間と連通しており、更に、内管3と中管4との間の空間が、膜分離型反応器1の下側の他の一端のみで、中管4と外管5との間の空間と連通している。また、中管4と外管5との間の空間には、水蒸気改質触媒が充填されて、水蒸気改質触媒層6を形成している。一方、水素分離膜管2と内管3との間の空間には、水蒸気改質触媒又はシフト反応触媒が充填されて、シフト反応触媒層7を形成している。なお、図示例において、内管3と中管4の間には、充填物が存在せず、単なる改質ガスの流路が形成されているが、例えば、伝熱粒子を充填してもよく、或いは、冷却手段を配設してもよい。
【0021】
また、外管5の上部には、炭化水素と水蒸気の入口部8が設けられており、該入口部8に導入された炭化水素と水蒸気の混合ガスは、外管5と中管4の間の水蒸気改質触媒層6を通って、該水蒸気改質触媒層6の下流側(図の下部)で折り返し、更に、連通した中管4と内管3の間を経て、反応器の上部へと流れ、下流側(図の上部)で折り返し、更に、連通した内管3と水素分離膜管2の間のシフト反応触媒層7を通る。また、図1に示す膜分離型反応器1は、内管3の下流側(図の下部)に非透過ガスの出口部9が設けられており、更に水素分離膜管2に連通する製品水素の水素出口部10を具える。なお、非透過ガスの出口部9は、外管5を貫通しており、非透過ガスの反応器外への排出を可能とする。
【0022】
また、図1に示す膜分離型反応器1は、頂部及び底部に隔壁11A,11Bを有し、頂部の隔壁11Aには、外管5及び中間4が連結されているものの、内管3は接しておらず、このため、内管3と中管4との間の空間は、反応器の上部において、水素分離膜管2と内管3との間の空間と連通することとなる。一方、底部の隔壁11Bには、外管5及び内管3が連結されているものの、中管4は接しておらず、このため、中管4と外管5との間の空間は、反応器の下部において、内管3と中管4との間の空間と連通することとなる。また、水素分離膜管11は、底部の隔壁11Bを貫通して、製品水素の水素出口部10に連通している。なお、図1に示す膜分離型反応器1においては、頂部の隔壁11Aに水素分離膜管2が接していないが、本発明の膜分離型反応器においては、頂部の隔壁に水素分離膜管を接触させてもよいし、また、水素分離膜管が頂部の隔壁を貫通していてもよい。水素分離膜管が頂部の隔壁を貫通する場合、製品水素の水素出口部は、反応器の頂部に設けることが好ましい。
【0023】
図1に示す膜分離型反応器1においては、炭化水素と水蒸気とを入口部8を通して外管5と中管4の間の水蒸気改質触媒層6に供給して、水蒸気改質反応により改質ガスを生成させる。生成した改質ガスは、中管4と内管3の間を通り、内管3と水素分離膜管2の間のシフト反応触媒層7に供給されて、内蔵される水素分離膜管2を透過して製品水素として、水素出口部10を通して反応器外に取り出される。また、水素分離膜管2を透過しなかった改質ガスは、シフト反応触媒層7で、水素濃度が低下した分、改質反応およびシフト反応による水素を生成する反応が促進され、この反応で発生した水素は、さらに水素分離膜管2を透過して製品水素として、水素出口部10を通して反応器外に取り出される。一方、水素分離膜管2を透過することなく、内管3と水素分離膜管2の間のシフト反応触媒層7を通過したガスは、非透過ガス(排ガス)として出口部9から膜分離型反応器1の外に排出される。
【0024】
ここで、図1に示す膜分離型反応器10を外側から加熱した場合、外郭に位置する水蒸気改質触媒層6が最も高温となり、内側に向かって、低温となる。また、水蒸気改質触媒層6における水蒸気改質反応は、吸熱反応であるため、水蒸気改質触媒層6の下流に供給される改質ガスの温度は、水蒸気改質触媒層6中よりも更に低くなり、水蒸気改質触媒層6と水素分離膜管2の温度差を大きくすることができる。また、内管3と中管4の間に、充填物が存在せず、単なる改質ガスの流路が形成されているため、改質ガスが、該流路を通ることで、改質ガスの温度が低下し、水蒸気改質触媒層6と水素分離膜管2の温度差が一層大きくなる。なお、上述した四重管構造において、内管及び/又は中間を除いた場合、水素分離膜管を高温より保護するため反応器内の温度を600℃以下、好ましくは550℃以下にしなければならず、結果として水素分離膜管の近傍の水素濃度が低下するため、水素の透過量が減少し、分離効率が低下してしまう。これに対して、外管5の内側に中管4及び内管3を配設した本発明の膜分離型反応器においては、水蒸気改質触媒層6の温度を上げることが可能となり、水素分離膜管の近傍の水素濃度が高くすることができ、水素の透過量を増加させることができ、分離効率を上げることができる。
【0025】
図2は、本発明の膜分離型水素製造装置の一例を示す模式図である。図2に示す膜分離型水素製造装置20は、加熱用シェル21を具え、該加熱用シェル21内に膜分離型反応器1が複数(図では3つ)配置されている。また、加熱用シェル21には、加熱ガス用の入口部22と加熱ガス用の出口部23が連結されており、加熱ガスを、入口部22を通して加熱用シェル21内に導入することで、膜分離型反応器1を加熱することができ、一方、膜分離型反応器1に熱を供与して温度が下がった加熱ガスは、出口部23を通して装置外に排出される。なお、図2に示す膜分離型水素製造装置20は、加熱用シェル21を具えるが、本発明の膜分離型水素製造装置は、加熱用シェル21の代わりに加熱炉を具えてもよい。
【0026】
また、図2に示す膜分離型水素製造装置20は、加熱用シェル21の上側に炭化水素と水蒸気の混合ガス用流路24を具え、また、加熱用シェル21の下側に非透過ガス用流路25を具え、更に、非透過ガス用流路25の更に下側に製品水素用流路26を具える。また、炭化水素と水蒸気の混合ガス用流路24には、炭化水素と水蒸気の入口部27が連結されており、非透過ガスの流路25には、非透過ガスの出口部28が連結されており、製品水素用流路26には、製品水素の水素出口部29が連結されている。
【0027】
図2に示す膜分離型水素製造装置20においては、炭化水素と水蒸気の混合ガスを入口部27に導入し、混合ガス用流路24を通じて膜分離型反応器1に供給する。供給された炭化水素と水蒸気の混合ガスは、膜分離型反応器1内の水蒸気改質触媒層6において、水蒸気改質反応により改質ガスを生成する。生成した改質ガスは、水蒸気改質触媒層6の下流側(図の下部)で折り返し、内管と中管の間を経て、更に下流側(図の上部)で折り返し、シフト反応触媒層7に供給されて、内蔵される水素分離膜管2を透過して製品水素として、製品水素用流路26を通じて製品水素の水素出口部29から膜分離型水素製造装置20の外に取り出される。また、水素分離膜管2を透過しなかった改質ガスは、シフト反応触媒層7で、水素濃度が低下した分、改質反応およびシフト反応の水素を生成する反応が促進され、この反応で発生した水素は、さらに水素分離膜管2を透過して製品水素として、水素出口部29を通して装置外に取り出される。一方、水素分離膜管2を透過することなく、シフト反応触媒層7を通過したガスは、非透過ガス(排ガス)として非透過ガス用流路25を経て出口部28から膜分離型水素製造装置20の外に排出される。
【0028】
図3は、本発明の膜分離型反応器の他の一例を示す模式図である。図3に示す膜分離型反応器1は、図1に示す膜分離型反応器1とほぼ同様の構成を有するが、内管3と中管4の間に、冷却管31が配設されている。そして、冷却管31に、例えば冷却ガスを流すことにより強制的に冷却を行うことができる。このとき冷却ガスとして原料ガス(例えば、炭化水素、水蒸気、又はそれらの混合ガス)を用い、改質ガスの熱を原料ガスの予熱に利用することで、熱効率を向上させることもできる。図3に示す膜分離型反応器1においては、改質ガスの温度が冷却管31によって強制的に低下することで、水素分離膜における水素分離効率が更に向上し、特に効率よく水素を回収することが可能となる。
【0029】
図4は、本発明の膜分離型反応器の別の一例を示す模式図である。図4に示す膜分離型反応器1は、図3に示す膜分離型反応器1とほぼ同様の構成を有するが、水素分離膜管2と内管3との間の空間の上側領域には水蒸気改質触媒もシフト反応触媒も充填されておらず、水素分離膜管2と内管3との間の空間の下側領域のみに水蒸気改質触媒又はシフト反応触媒が充填されて、シフト反応触媒層7を形成している。図4に示す膜分離型反応器1においては、水蒸気改質触媒層6において、水蒸気改質反応により生成した改質ガスは、水蒸気改質触媒層6の下流側(図の下部)で折り返し、内管3と中管4の間に配置された冷却管41で強制的に冷却された後、更に、水素分離膜管2と内管3との間の空間の上側領域で放冷されて、水素分離膜の水素分離作用に好適な温度となり、内蔵される水素分離膜管2を透過して製品水素として、水素出口部10を通して反応器外に取り出される。図4に示す膜分離型反応器1においては、改質ガスの温度が水素分離膜管2と内管3との間の空間の上側領域において更に低下することで、水素分離膜における水素分離効率が更に向上し、効率よく水素を回収することが可能となる。
【0030】
図5は、本発明の膜分離型反応器のその他の一例を示す模式図である。図5に示す膜分離型反応器1は、図4に示す膜分離型反応器1とほぼ同様の構成を有するが、内管3と中管4の間には冷却管を配置せず、膜分離型反応器1の上部であって且つ内管3と中管4の間並びに水素分離膜管2と内管3の間の上部に冷却管51が配設されている。そして、冷却管51に、例えば冷却ガスを流すことにより、図4に示す膜分離型反応器1と同様に、強制的に冷却を行うことができ、同様に、特に効率よく水素を回収することができる。
【0031】
[原料炭化水素]
改質反応により水素を製造するための原料となる炭化水素としては、沸点が300℃以下の炭化水素及びそれらの混合物を用いることができる。例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、天然ガス、LPガスなどの常温で気体状態の炭化水素の他、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分などの常温で液体状態の石油系炭化水素を用いることができる。
【0032】
ナフサ留分は、原油や天然ガスコンデンセートなどを蒸留分離して得られる留分のうち、沸点範囲として30℃〜180℃の範囲内の沸点を有する留分である。ナフサ留分としては、例えば、沸点範囲が30℃〜80℃程度の軽質ナフサ留分、沸点範囲が80℃〜180℃程度の重質ナフサ留分、沸点範囲が30℃〜180℃程度のホールナフサ留分などが含まれる。
【0033】
ガソリン留分は、沸点範囲として30℃〜200℃の範囲内の沸点を有する留分であり、市販の自動車ガソリン、工業ガソリンの他、自動車ガソリンの調合に用いられる沸点が上記の範囲内である中間製品(基材とも呼ばれる)、沸点範囲が上記の範囲にある中間製品や自動車ガソリンに相当する留分も含まれる。
【0034】
灯油留分は、原油や天然ガスコンデンセートなどを蒸留分離して得られる留分のうち、沸点範囲として140℃〜270℃の範囲内の沸点を有する留分であり、灯火用、暖房用、ちゅう房用などの市販の灯油の他に、上記の範囲内の沸点範囲を有する灯油相当の留分が含まれる。
【0035】
軽油留分は、沸点範囲160℃〜370℃の範囲内の沸点を有する留分であり、ディーゼルエンジンに使用する市販の軽油の他、上記の範囲内の沸点範囲を有する軽油相当の留分が含まれる。
【0036】
製品の流通面、コスト、入手の容易性から、メタン、LPGなどのガス状炭化水素、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油並びにそれらに相当する留分などの液状炭化水素が好ましく、特には灯油及びそれに相当する留分が好ましい。また、これら炭化水素は、水蒸気改質触媒に対する被毒の観点から、含有する硫黄分が低いものが好ましく、特には硫黄分が50質量ppb以下のものが好ましい。
【0037】
[水蒸気改質触媒、水蒸気改質触媒層]
本発明に用いる水蒸気改質触媒としては、通常の水蒸気改質触媒を用いることができる。例えば、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptのうちから選ばれる少なくとも1種の触媒活性成分を、Mg、Al、Si、Ti、Zr、Ba、Laの酸化物および/または水和酸化物から選ばれた少なくとも1種の担体成分を含む担体に担持したものを使用することができる。コーキングの発生を抑制する点から、触媒活性成分としてRuやRhの使用が好ましい。
【0038】
これらの水蒸気改質触媒を、炭化水素と水蒸気の混合ガスの供給方向を基準として上流側に位置する外管5と中管4の間に充填して水蒸気改質触媒層6とし、該水蒸気改質触媒層6が膜分離型反応器1の改質部に相当する。水蒸気改質触媒層6に含ませる水蒸気改質触媒の量は、原料である炭化水素の種類、改質反応温度、スチーム/カーボン比などにより適宜決定することができる。
【0039】
[シフト反応触媒、シフト反応触媒層]
さらに、内管3と水素分離膜管2の間に、上述した水蒸気改質触媒又はシフト反応触媒、好ましくはシフト反応触媒を充填して、シフト反応触媒層7とする。このシフト反応触媒層7において、水素分離膜管2により水素が分離され水素分圧が低下した改質ガスは、さらに水素を生成させるとともに、水素分離膜管2により水素を分離することで、より高効率で水素を分離精製することができる。なお、シフト反応触媒層7の温度は、350℃以上600℃未満とすることが好ましく、350〜550℃とすることが更に好ましい。
【0040】
本発明に用いるシフト反応触媒としては、従来公知のものが使用できる。例えば、触媒活性成分としては、Fe23系、Cu−ZnO系、Ru、Pt、Auなど貴金属系のもの等が挙げられる。これらの触媒活性成分をマグネシア、マグネシア−酸化カルシウム−シリカ、マグネシア−シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ等に担持したものをシフト反応触媒として使用することができる。シフト反応触媒層7に含ませるシフト反応触媒の量は、使用する原料炭化水素の種類、反応温度などにより適宜決定することができる。
【0041】
[伝熱粒子]
本発明に用いることができる伝熱粒子は、改質反応に対して実質的に触媒作用を有さないことが好ましく、該伝熱粒子は、改質ガスを冷却する役割を担う。改質ガスを冷却するために用いる伝熱粒子の材料としては、改質ガスに対し反応活性の低いマグネシア、マグネシア−酸化カルシウム−シリカ、マグネシア−シリカ、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ等のセラミックボールを挙げることができ、これらの中でも、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナが好ましい。その形状としては、リング状、球状、ペレット状等の各種の形状が挙げられる。
【0042】
[水素分離膜管]
本発明に用いる水素分離膜管2は、外表面に水素分離膜を有する。該水素分離膜としては、水素の選択的透過性を有する材料であれば特に限定されないが、高い水素透過選択性を有するパラジウム膜、パラジウム合金膜が好ましく、パラジウム−銅、パラジウム−銀などのパラジウム合金膜がより好ましい。
【0043】
上記水素分離膜管2としては、図6に示すような、焼結フィルター部61を有する金属管62の焼結フィルター部61上にバリア層63を設け、該バリア層63の上にパラジウム又はパラジウム合金の膜64を配した水素分離膜管を用いることが好ましい。ここで、焼結フィルター部61及び金属管62は、ステンレス製であることが好ましく、バリア層63は、ジルコニア、アルミナなどからなることが好ましく、パラジウム合金膜としては、パラジウム−銅合金膜、パラジウム−銀合金膜などが好ましく、パラジウム−銅合金膜が特に好ましい。前記のバリア層63は、焼結フィルター部61の金属成分がパラジウム又はパラジウム合金の膜64へ拡散して膜64の水素透過性が劣化することを防止するとともに、表面の平滑度を上げてパラジウム又はパラジウム合金の膜64に欠陥が生じることを防止する作用を有する。なお、パラジウム又はパラジウム合金の膜(水素分離膜)64は、例えば、メッキなどにより、形成することができる。なお、水素分離膜管2は、図1、図2、図3に示すように、水素生成触媒層7内に内包されていてもよいし、図4、図5に示すように、水素生成触媒層7を貫通して配置されていてもよい。
【0044】
[水素製造方法]
本発明の膜分離型反応器又は膜分離型水素製造装置を用いた水素の製造方法は、次のように行う。上記の炭化水素と水蒸気の混合ガスを、まず、中管4と外管5との間の水蒸気改質触媒層6に供給し、水蒸気改質反応を行い、水素を主成分とする改質ガスを生成させる。ここで、炭化水素と水蒸気の比率は、スチーム/カーボン比(S/C比)として2.5〜4.0の範囲が好ましく、2.8〜3.5の範囲がより好ましい。S/C比が低い状態ではコーキングが発生し、水蒸気改質触媒の活性を低下させてしまう。また、S/C比が必要以上に高い場合は、水素濃度を低下させてしまい、効率を低下させてしまう。
【0045】
水蒸気改質触媒層6の温度、すなわち改質反応の温度としては、450〜800℃が好ましく、500〜700℃がより好ましく、600〜700℃が特に好ましい。改質反応の温度が500℃未満の場合は、水素分率が16vol%以下(メタン原料で反応圧0.9MPaGの条件下で)となり十分な水素透過量が得られず、一方、700℃を超える場合は、反応管の材質などとして耐熱材料(カンタル、インコネル、ハステロイなど)が必要となり、コストが高くなる。
【0046】
改質反応の圧力としては、0.5〜1.5MPaGが好ましく、0.7〜1.2MPaGがより好ましい。反応圧力が低過ぎると水素透過量が十分得られず、また、反応圧力が高過ぎると水蒸気改質反応(水素生成側への反応)が進みにくくなる。
【0047】
原料炭化水素として灯油を用いた場合、SV(灯油ベースのLHSV)としては、現状の触媒において0.3〜3.0h-1の範囲が好ましく、0.3〜1.7h-1の範囲がより好ましい。
【0048】
ついで、改質ガスを、中管4と内管3の間で冷却し、その後、内管3と水素分離膜管2の間の空間、更には、シフト反応媒層7に供給し、水素分離膜管2による水素分離に好ましい温度、好ましくは600℃未満、特には350℃以上600℃未満で、水素分離膜管2により水素を透過分離する。本発明においては、水蒸気改質触媒層6で水蒸気改質反応に好ましい温度条件で改質反応を行わせて、水素含有量が高い改質ガスとなっているので、水素分離膜管2により効率的に水素を分離することができる。
【0049】
さらに、水素分離膜管2により水素が分離された改質ガスを、水素分離膜管2と内管3の間に配置したシフト反応触媒層7において、改質反応およびシフト反応によりさらに水素を生成させるとともに、シフト反応触媒層7の内側に配置されている水素分離膜管2により、生成した水素の分離を行う。水素が分離され水素分圧が低下した分、改質反応およびシフト反応により水素が生成するので、水素の生成量をより高め、高効率で水素を製造することができる。
【0050】
本発明によれば、水蒸気改質触媒層6において改質反応を高温条件で行わせるため高水素濃度の改質ガスを得ることができる。改質ガスは、その後、内管3と中管4の間の空間、水素分離膜管2と内管3の間の空間、更には、シフト反応触媒層7により水素分離膜の分離性能が十分に発揮される温度まで冷却され、水素分離膜により高い透過率で水素が分離される。更に、水素分離膜により水素濃度が低くなった改質ガスは、次いでシフト反応触媒層7で更に水素を生成するとともに、発生した水素は水素分離膜により回収される。
【0051】
なお、図1〜図5に示す例では、膜分離型反応器及び膜分離型水素製造装置の上部から原料ガスを導入し、下部から製品水素及び非透過ガスを回収したが、本発明の膜分離型反応器及び膜分離型水素製造装置は、これに限られるものではなく、例えば、原料ガスを下部から導入し非透過ガスを上部から回収する構成とすることもでき、また、製品水素を上部から回収する構成とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、高効率で水素を回収できる膜分離型反応器、それを複数内蔵する膜分離型水素製造装置及びそれらを用いた水素の製造方法を提供することができる。なお、本発明の膜分離型反応器及び膜分離型水素製造装置は、コンパクトな構成で高純度の水素ガスを高効率かつ高回収量で製造できるので、高分子電解質形燃料電池(PEFC)用の水素製造装置、或いは水素ステーションで用いるオンサイト型の水素製造装置として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 膜分離型反応器
2 水素分離膜管
3 内管
4 中管
5 外管
6 水蒸気改質触媒層
7 シフト反応触媒層
8,27 炭化水素と水蒸気の入口部
9,28 非透過ガスの出口部
10,29 製品水素の水素出口部
11A,11B 隔壁
20 膜分離型水素製造装置
21 加熱用シェル
22 加熱ガス用の入口部
23 加熱ガス用の出口部
24 炭化水素と水蒸気の混合ガス用流路
25 非透過ガス用流路
26 製品水素用流路
31,41,51 冷却管
61 焼結フィルター部
62 金属管
63 バリア層
64 パラジウム又はパラジウム合金の膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に水素分離膜を有する水素分離膜管と、該水素分離膜管の外側に配置された内管と、該内管の外側に配置された中管と、該中管の外側に配置された外管とを具え、
前記水素分離膜管と前記内管との間の空間が、当該膜分離型反応器の一端で、前記内管と前記中管との間の空間と連通しており、
更に、前記内管と前記中管との間の空間が、当該膜分離型反応器の他の一端で、前記中管と前記外管との間の空間と連通しており、
前記中管と前記外管との間の空間には、水蒸気改質触媒が充填されており、
前記水素分離膜管と前記内管との間の空間には、水蒸気改質触媒又はシフト反応触媒が充填されていることを特徴とする、
膜分離型反応器。
【請求項2】
前記内管と前記中管との間の空間に、充填物が存在せず、或いは、冷却手段が配置され、或いは、伝熱粒子が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の膜分離型反応器。
【請求項3】
前記水素分離膜管が、焼結フィルター部を有する金属管の焼結フィルター部上にバリア層を設け、該バリア層の上にパラジウム又はパラジウム合金の膜を配したものであることを特徴とする請求項1に記載の膜分離型反応器。
【請求項4】
加熱炉又は加熱用シェルを具え、該加熱炉又は加熱用シェル内に請求項1〜3のいずれかに記載の膜分離型反応器が複数配置されていることを特徴とする、膜分離型水素製造装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の膜分離型反応器、或いは、請求項4に記載の膜分離型水素製造装置を用いる水素の製造方法であって、
前記中管と前記外管との間の空間に炭化水素と水蒸気の混合ガスを供給して、水蒸気改質反応により水素を主成分とする改質ガスを生成させ、
次に、前記改質ガスを前記内管と前記中管との間の空間を通して、前記水素分離膜管と前記内管との間の空間に供給し、前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出し、さらに、水素が分離された改質ガスを前記水素分離膜管と前記内管との間に充填された水蒸気改質触媒又はシフト反応触媒に接触させて水素を更に生成させ、前記水素分離膜により水素を選択的に透過させて水素を取り出す
ことを特徴とする水素の製造方法。
【請求項6】
前記炭化水素が、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項5に記載の水素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−195393(P2011−195393A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65087(P2010−65087)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(590000455)一般財団法人石油エネルギー技術センター (249)
【Fターム(参考)】