説明

膜分離方法及び膜分離装置

【課題】 被処理水を膜分離処理する際に、被処理水に含まれる膜汚染物質の膜表面への吸着および固形物による閉塞を低減し膜分離性能の劣化を低減することができる膜分離方法及び膜分離装置を提供する。
【解決手段】被処理水に、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子および無機凝集剤を添加すして膜汚染物質を吸着および凝集処理し、その後バックフィルターで生成したフロックを除去して被処理水を膜分離処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用水、市水、河川水、湖沼水、井水などの被処理水を膜分離処理する際に、被処理水に含まれる膜汚染物質の膜表面への吸着を低減し膜分離性能の低下を抑制することができる膜分離方法及び膜分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用水、市水、河川水、湖沼水、井水などの被処理水を処理して例えば純水等にする方法として、精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)、逆浸透膜(RO膜)等の膜に通水する膜分離処理する方法がある。工業用水、市水、河川水、湖沼水、井水などは、通常フミン酸・フルボ酸系有機物、藻類等が生産する糖などの生物代謝物や、界面活性剤等の合成化学物質など、膜を汚染する膜汚染物質を含むため、膜分離処理をすると、これらの膜汚染物質が膜表面に吸着して膜分離性能が劣化するという問題がある。
【0003】
そこで、膜分離処理の前に、被処理水に無機凝集剤や粉末活性炭を添加した後に、懸濁物質を沈殿分離または加圧浮上させて、懸濁物質や膜汚染物質を低減させた後に、被処理水を膜分離処理する方法が行われている(例えば特許文献1)。しかしながら、このような方法をもってしても十分に膜汚染物質は除去できないため、頻繁に分離膜を薬品洗浄したりする必要がある他、沈澱槽や加圧浮上装置といった大掛かりな装置が必要となっていた。
【特許文献1】特許第3438508号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述した事情に鑑み、被処理水を膜分離処理する際に、簡易な装置および方法で、被処理水に含まれる膜汚染物質の膜表面への吸着を低減し膜分離性能の劣化を低減することができる膜分離方法及び膜分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は次の膜分離方法および膜分離装置である。
(1) 被処理水に、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子および無機凝集剤を添加して凝集処理し、該凝集処理した被処理水をバッグフィルターで処理した後に分離膜により膜分離処理することを特徴とする膜分離方法。
(2) 前記膜分離処理が、少なくとも精密濾過膜又は限外濾過膜による分離処理を有し、該膜分離処理により、前記凝集処理した後の前記粒子を被処理水から除去することを特徴とする上記(1)に記載の膜分離方法。
(3) 攪拌反応手段と、被処理水を攪拌反応手段に導入する被処理水導入手段と、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を前記攪拌反応手段又は攪拌反応手段の前段で導入して被処理水に前記粒子を添加するポリマー粒子導入手段と、無機凝集剤を前記攪拌手段又は攪拌手段の前段で導入して被処理水に前記無機凝集剤を添加する無機凝集剤導入手段と、前記攪拌反応手段で凝集処理して生成したフロックを被処理水から除去するためのバッグフィルターと、前記バッグフィルターによってフロックが除去された被処理水を分離膜により膜分離処理する膜分離処理手段とを有することを特徴とする膜分離装置。
【発明の効果】
【0006】
被処理水に、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を添加することにより、該粒子に膜汚染物質を吸着させることができる。そして、この水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子に膜汚染物質を吸着させるとともに無機凝集剤で凝集処理した被処理水をバックフィルターで処理した後に膜分離処理すると、被処理水を膜分離処理する際に、効率的に懸濁物質を除去できるとともに、被処理水に含まれる膜汚染物質の膜表面への吸着を低減し膜分離性能の劣化を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0008】
本発明の膜分離方法は、被処理水に、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子および無機凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理した被処理水をバッグフィルターで処理した後に分離膜により膜分離処理するものである。
【0009】
被処理水としては、例えば、フミン酸・フルボ酸系有機物、藻類等が生産する糖などの生物代謝物、又は、界面活性剤等の合成化学物質など、後段の膜分離処理で用いる膜を汚染する物質(膜汚染物質)を含む水、具体的には、工業用水、市水、河川水、湖沼水、井水などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0010】
また、被処理水の温度を15〜30℃となるように加温するための設備を前段に設けることができる。このように加温することで凝集性が向上すると共に、MF膜などでの透過水量を落とさないようにすることができる。
【0011】
被処理水に添加する粒子を構成する水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーは、例えば、一級アミン、二級アミン、三級アミンおよびそれらの酸塩、四級アンモニウム基などの官能基を有するカチオン性モノマーと、実質的に水に溶解しないようにするための架橋剤モノマーとの共重合体である。カチオン性モノマーの具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの酸塩もしくはその4級アンモニウム塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。架橋剤モノマーとしては、メチレンビスアクリルアミドなどのジビニルモノマーが挙げられる。また、上記カチオン性モノマーと共重合可能なアニオン性またはノニオン性モノマーとの共重合体としてもよい。共重合させるアニオン性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそれらのアルカリ金属塩等が挙げられるが、その含有量は、共重合体がカチオン性ポリマーとしての性質を損なわない程度に少量である必要がある。ノニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、Nイソプロピルアクリルアミド、Nメチル(NNジメチル)アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン、メチルもしくはエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。各モノマーは1種でも複数種でもよい。なお、ジビニルモノマー等の架橋剤モノマー量は、全モノマーに対して0.0001〜0.1モル%必要であり、この量によって、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子の膨潤度や水中での粒子径が調整できる。そして、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子としては、例えば、アコジェルC(三井サイテック(株)製)が市販されている。また、WA20(三菱化学(株)製)等のアニオン交換樹脂を、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーとして用いてもよい。また、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子の平均粒子径は特に限定されないが、逆相エマルション液体やサスペンション状の分散液体中での平均粒子径、すなわち、水で膨潤していない状態の平均粒子径は100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜10μmである。これは、粒子が小さい程、被処理水中に含まれる膜汚染物質の吸着効果が高くなるが、小さすぎると固液分離が困難になるためである。
【0012】
上記水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を被処理水に添加する形態に特に限定はなく、例えば、粒子そのままでもよく、また、水中に分散した状態や、逆相エマルション液体やサスペンション状の分散液体の形態で添加してもよい。何れにしても、被処理水に水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を添加することによって、被処理水が吸着処理される、すなわち、被処理水が水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子と接触して、被処理水中に含まれる膜汚染物質が粒子に吸着するようにすればよい。
【0013】
また、2種以上の水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を被処理水に添加してもよい。なお、上記粒子を構成するカチオン性ポリマーは水中で膨潤し実質的に水に溶解しないため、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子も、通常の高分子凝集剤とは異なり、水中で膨潤し実質的に水に溶解しない。「実質的に水に溶解しない」とは、水溶性の程度が水中でカチオン性ポリマーからなる粒子として存在できる程度であればよく、具体的には、例えば、30℃での水への溶解性が0.1g/L以下程度であればよい。また、この粒子の水中での膨潤度は、水で膨潤していない時の粒子径に対して水中での粒子径は10〜200倍程度である。
【0014】
ここで、逆相エマルション液体の形態としたカチオン性ポリマーからなる粒子について以下に詳細に説明するが、この形態に限定されるものではない。なお、特殊なものではなく、ごく一般的な逆相(W/O)エマルションポリマーである。
【0015】
逆相エマルション液体は、上記カチオン性ポリマー、水、炭化水素液体及び界面活性剤を含有する。そして、各成分の質量比(%)は、カチオン性ポリマー:水:炭化水素液体:界面活性剤=20〜40:20〜40:20〜40:2〜20で、カチオン性ポリマーと水との合計質量が、カチオン性ポリマーと水と炭化水素液体と界面活性剤との全体質量に対して40〜60質量%とすることが好ましい。
【0016】
炭化水素液体としては、イソヘキサンなどのイソパラフィン、n−ヘキサン、ケロシン、鉱物油などの脂肪族系の炭化水素液体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
また、界面活性剤としては、例えば、HLB(親水親油バランス)が7〜10で、炭素数10〜20の高級脂肪族アルコールのポリオキシエチレンエーテル、もしくは、炭素数10〜22の高級脂肪酸のポリオキシエチレンエステルが挙げられる。前者の例としては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどのポリオキシエチレン(EO付加モル数=3〜10)エーテルが挙げられる。後者の例としては、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などのポリオキシエチレン(EO付加モル数=3〜10)エステルが挙げられる。
【0018】
なお、逆相エマルション液体は、カチオン性ポリマーの原料であるカチオン性モノマーや架橋剤モノマーと、水、炭化水素液体、界面活性剤を混合してモノマーを重合(乳化重合又は懸濁重合)することにより得られるが、これに限定されるものではなく、例えば、各種モノマーを溶液重合した後、ホモジナイザーなどで粉砕し、その後、界面活性剤などの分散剤と共に炭化水素液体に添加することによっても得られる。
【0019】
水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を被処理水に添加する際には、粒子の表面積が大きいことが好ましい。したがって、上記逆相エマルション液体やサスペンション状の分散液体の形態である粒子を、撹拌下の水に添加して粒子を膨潤させた状態にした後、被処理水に添加することが好ましい。
【0020】
水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を被処理水に添加する量に特に制限は無いが、被処理水中に含まれる膜汚染物質に対して、1〜50質量%程度とすることが好ましい。
【0021】
また発明においては、被処理水に無機凝集剤が添加される。無機凝集剤を添加することにより、膜汚染物質や膜汚染物質を吸着した上記のカチオン性のポリマー粒子が凝集して、膜汚染物質除去効果が増大する。なお、無機凝集剤の添加は、バックフィルターによる処理の前であればよく、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を被処理水に添加する前でも後でもよく、また、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子と同時に添加してもよい。無機凝集剤は特に限定はなく、例えば、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化第二鉄、硫酸第一鉄等の鉄塩などが挙げられる。また、無機凝集剤の添加量にも特に限定はなく、処理する被処理水の性状に応じて調整すればよいが、被処理水に対して概ねアルミニウム又は鉄換算で0.5〜10mg/Lである。また、被処理水の性状にもよるが、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を用いた場合、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子及び無機凝集剤を添加した被処理水のpHを、pH5.0〜7.0程度とすると、凝集が最適となる。
【0022】
このように、カチオン性のポリマー粒子および無機凝集剤によって処理すると、従来の無機凝集剤のみの処理に比較して、粗大、且つ、強固なフロックを形成することができ、後述するバックフィルターでフロックを除去することが可能となる。
【0023】
また必要に応じて有機凝結剤や有機系高分子凝集剤を併用することもできる。有機凝結剤は特に限定はなく、例えば、ポリエチレンイミン、エチレンジアミンエピクロルヒドリン重縮合物、ポリアルキレンポリアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドやジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの四級アンモニウム塩を構成モノマーとする重合体等、通常水処理で使用されるカチオン性有機系ポリマーが挙げられる。また、有機凝結剤の添加量にも特に限定はなく、被処理水の性状に応じて調整すればよいが、被処理水に対して概ね固形分で0.01〜10mg/Lである。そして、有機系高分子凝集剤も特に限定はなく、水処理で通常使用される高分子凝集剤を用いることができる。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドの共重合物、及び、それらのアルカリ金属塩等のアニオン系の有機系高分子凝集剤、ポリ(メタ)アクリルアミド等のノニオン系の有機系高分子凝集剤、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはその4級アンモニウム塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドもしくはその4級アンモニウム塩等のカチオン性モノマーからなるホモポリマー、及び、それらカチオン性モノマーと共重合可能なノニオン性モノマーとの共重合体等のカチオン系の有機系高分子凝集剤が挙げられる。また、有機系高分子凝集剤の添加量にも特に限定はなく、処理水の性状に応じて調整すればよいが、被処理水に対して概ね固形分で0.01〜10mg/Lである。
【0024】
また、被処理水に含まれる有機物を酸化分解したり、膜分離装置内、特に膜分離手段での微生物によるファウリングを防止するために、原水に次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を添加することが好ましい。この場合、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤の添加位置は原水との接触時間を稼ぐために、なるべく装置の上流側であることが好ましい。また、添加する酸化剤の濃度は被処理水の水質や用いる酸化剤の種類によって異なるが、次亜塩素酸ナトリウムの場合には、膜分離後の処理水中の有効塩素濃度が0.1〜0.2mg/L検出される程度に添加することが好ましい。
【0025】
このように、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子および無機凝集剤を添加して凝集処理した後に、被処理水をバックフィルターで処理する。バックフィルターとは、ポリプロピレンやポリエステルからなるろ材を袋状に加工し、その袋の内側に被処理液を通水し濾過するもので、市販品としては住友スリーエム(株)製のリキッドフィルターバック100シリーズ、日本フィルター(株)製のEGBシリーズ、およびチッソフィルター(株)製のMVSシリーズなどをあげることができる。
【0026】
このようにバックフィルターを用いることで精密な濾過ではないが、安価で交換頻度の少ない粗取り効果を得ることができる。
【0027】
バックフィルターで固形物が粗取りされて被処理水は、次に膜分離処理される。膜分離処理としては、精密濾過膜(MF膜)、限外濾過膜(UF膜)、ナノ濾過膜(NF膜)、又は、逆浸透膜(RO膜)等が挙げられる。これらの膜は単独で一段以上用いてもよく、また、例えば、MF膜又はUF膜で被処理水を膜分離処理した後、RO膜で膜分離処理する等、各種の膜を組み合わせる膜分離処理としてもよい。
【0028】
ここで、被処理水である工業用水、市水、河川水、湖沼水、井水などは、通常フミン酸・フルボ酸系有機物、藻類等が生産する糖などの生物代謝物や、界面活性剤等の合成化学物質などの膜汚染物質を含むため、膜分離処理をすると、膜汚染物質が膜表面に吸着して膜分離性能が劣化してしまうという問題がある。本発明においては、膜分離処理の前に、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子および無機凝集剤を添加するため、該粒子に膜汚染物質が吸着し、更に無機凝集剤にて凝集処理した後に膜分離処理をすることになる。したがって、生物代謝物などの膜汚染物質の溶存有機物濃度が低く、カチオン性ポリマー粒子や他の懸濁物質に由来する固形物であるフロックをバックフィルターで予め除去(粗取り)した後に、処理水を膜分離処理することができるので、膜汚染物質の膜への吸着および固形物による膜分離手段の閉塞を低減でき、膜の分離性能の劣化を抑制できる。
【0029】
また、任意の頻度で、pH11〜14程度、好ましくはpH12〜13の洗浄液で分離膜を洗浄することが好ましい。本発明においては、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子および無機凝集剤で膜汚染物質を吸着・凝集処理させた被処理水をバックフィルターで処理した後に膜分離処理するため、被処理水に含まれる膜汚染物質の膜表面への吸着や固形物による閉塞を低減し膜分離性能の劣化を低減することができる。しかしながら、膜分離を継続すると、バックフィルターでは十分には除去できない微細な固形物などが膜表面に付着しだす。このような微細な固形物の中には、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子に起因すると考えられる固形物も含まれていると推定される。さらに、pH11〜14程度の洗浄液で分離膜を洗浄することにより、分離膜に吸着した前記固形物を溶解除去することができるので、膜分離性能の劣化を確実に抑制することができる。なお、通常分離膜の逆流洗浄(逆洗)等において使用されるpH3〜8程度の洗浄液では、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を用いる本発明においては、前記固形物の除去が不十分となるが、上記のように、pH11〜14程度の高pHの洗浄液を用いることにより、効果的に前記固形物を除去することができる。なお、高pHの洗浄液で洗浄する場合は、分離膜はPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜などの耐アルカリ性に優れた膜であることが好ましい。
【0030】
pH11〜14の洗浄液としては、例えば、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどを、膜分離処理した被処理水に混合したものが挙げられ、例えば、水酸化ナトリウムであれば1〜2重量%、次亜塩素酸ナトリムであれば10〜12重量%程度となるように被処理水に混合したものを洗浄液とすることが好ましい。また、洗浄方法としては、通常の分離膜の洗浄に用いられる方法が適用されるが、具体的には、逆洗、フラッシング及び浸漬洗浄などが挙げられる。
【0031】
洗浄の頻度は特に限定されず被処理水や分離膜の性状によって適宜設定すればよいが、例えば、好ましくは5分〜3時間、特に好ましくは10〜60分間膜分離処理したら膜分離処理を中断し、その後好ましくは10〜120秒、特に好ましくは20〜60秒間pH11〜14の洗浄液で逆洗などの洗浄をするようにしてもよい。なお、pH11〜14の洗浄液で分離膜を洗浄した後は、必要に応じて、膜分離処理した処理水や酸などを用いて、分離膜を洗浄又はリンスすることで、運転再開時の処理水pHが高くなりすぎないようにすることが好ましい。
【0032】
以上述べたように、本発明の膜分離方法によれば、被処理水を膜分離処理する際に、被処理水に含まれる膜汚染物質の膜表面への吸着や固形物による膜分離手段の閉塞を低減し膜分離性能の劣化を抑制することができる。この膜分離方法を用いた膜分離装置の一例を図1の概略系統図に示す。
【0033】
図1に示すように、膜分離装置1は、ラインミキサー(反応槽)10、バックフィルター11、膜分離手段12、処理水槽13、カチオン性ポリマー粒子導入手段15、PAC導入手段16とからなる。なお、図1においてP1は原水給水ポンプ、P2は逆洗ポンプで、V1〜V4はバルブである。
【0034】
このような膜分離装置1では、まず、工業用水、市水、河川水、湖沼水、井水などの被処理水(原水)がポンプP1によってラインミキサー10に導入される。この時、ラインミキサー10よりも上流側でカチオン性ポリマー粒子導入手段15およびPAC導入手段16よりカチオン性ポリマー粒子とPACが原水に導入され、ラインミキサー10内で原水とこれら薬剤とが攪拌反応し、原水中に含有されるフミン酸・フルボ酸系有機物、藻類等が生産する糖などの生物代謝物、又は界面活性剤等の合成化学物質など、後段の膜分離処理で用いる膜を汚染する物質がカチオン性ポリマー粒子に吸着するとともにPACによって凝集される。
【0035】
図1では、攪拌反応槽としてラインミキサーを用いたが、通常の凝集処理で使用される攪拌槽を用いることができ、攪拌槽を用いた場合には、図1と同様、攪拌槽の前段にカチオン性ポリマー粒子などの薬剤を添加することも可能であるが、攪拌槽で添加することも可能である。なお、カチオン性ポリマー粒子と無機凝集剤との凝集反応は、通常の無機凝集剤による凝集反応よりも早いため、省スペース化が可能なラインミキサーを好適に用いることができる。
【0036】
次いで、吸着・凝集処理された被処理水がバックフィルター11によって処理され、被処理水中のバックフィルター11で生成したフロックが粗取りされる。このフロックはカチオン性のポリマー粒子および被処理水中の懸濁物質が無機凝集剤によって凝集して生成したものである。
【0037】
バックフィルター11によりフロックが除去された被処理水は、MF膜を有する膜分離処理手段12に送られて、膜分離処理されてバックフィルター11で除去されなかった微細な固形物が被処理水から除去される。本発明においては、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子および無機凝集剤を用いて膜汚染物質などを吸着・凝集処理させて生成したフロックをバックフィルター11で除去した後に膜分離処理手段12で膜分離処理するため、膜汚染物質の膜表面への吸着を低減して膜分離性能の劣化を抑制するとともに、固形物による膜分離手段12の閉塞も抑制することができる。
【0038】
次いで、膜分離処理された被処理水は処理水槽13に貯槽された後に後段の水処理装置などへ供給される。
【0039】
上述の膜分離処理を継続すると、膜分離処理手段12のMF膜などの分離膜は、バックフィルター11をリークした、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子に起因する固形物やその他濁質などの汚染物質の付着により、膜分離性能が劣化する。そこで、任意の頻度で、例えば、14分間程度膜分離処理したら、バックフィルター11と膜分離処理手段12との間に設けられたバルブV1と、膜分離処理手段12と処理水槽13との間に設けられ膜分離処理の際には開けられているバルブV2を閉じて膜分離処理を中断する。そして、処理水槽13と膜分離処理手段12とを繋ぐもう一つのバルブV4を開け、処理水槽13に貯留された被処理水にアルカリ液をアルカリ液導入手段14より導入してpH11〜14の洗浄液を逆洗ポンプP2で膜分離処理手段12に導入して、例えば1分程度分離膜を通過させることにより、分離膜を洗浄液で逆洗する。なお、洗浄液は、膜分離処理手段12からバルブV3を介して膜分離装置1の系外へ排水として排出される。
【0040】
そして、pH11〜14の洗浄液による分離膜の洗浄が終了した後は、再び、バルブV1及びV2を開けバルブV3及びV4を閉じて、膜分離処理を再開する。このように、分離膜を洗浄することにより、分離膜に吸着した膜汚染物質や固形物を除去することができるので、膜分離性能の劣化を確実に抑制することができる。
【0041】
図1に示す膜分離装置においては、洗浄液で逆洗するようにしたが、これに限定されず、例えば、洗浄液を分離膜の膜面に高流速で流すことにより膜面の付着物を除去するフラッシングでもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳述するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
被処理水として、工業用水(TOC=43mg/L、濁度4度)を図1に示す装置を用いて、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子(アコジェルC、三井サイテック(株)製)及びポリ塩化アルミニウム(PAC)を、順に、2mg/L、50mg/Lとなるように添加し攪拌して凝集物を生成した後に、バッグフィルター(ハウジング:住友スリーエム(株)製 LV−S800S型、フィルター:住友スリーエム(株)製 NPシリーズ公称ろ過精度50μm)で処理し、更に0.1μmのMF膜(旭化成ケミカルズ(株)製 UNV−3003、PVDF製)で、透過流束4m/Dayで膜分離処理した。なお、膜分離手段は28分に1回の頻度で次亜塩素酸ナトリウムで有効塩素濃度4mg/Lとした洗浄水での1分間の逆洗と無薬中の透過水での1分間の逆洗を繰り返し実施した。
【0044】
14日間継続して処理をおこなったところ、運転開始の膜分離手段の差圧は0.01MPaで、14日後も0.02MPaでほとんど差圧の上昇は認められなかった。
(比較例1)
アコジェルCを添加しなかったこと以外は実施例1と同様の操作をおこなった。
【0045】
14日継続して処理をおこなったところ、14日後の差圧は0.16MPaであり、操作圧の上昇が認められた。これは、PAC単独処理では十分に膜汚染物質の除去がされていなかったことと、PAC単独処理ではフロック強度が弱く、バックフィルターに補足されたフロックが次第に破壊し、この破壊したフロックが後段の膜分離手段にリークしたためと考えられる。
(比較例2)
バックフィルターの替わりに、オートストレーナー(大同工業(株)製 DNA−W2M型)を用いた以外は実施例1と同様の操作をおこなった。9日後に膜分離手段の入口圧が許容圧力の0.29MPaに到達したため運転を停止した。この時の、膜分離手段の差圧は0.26MPaであった。これは、オートストレーナーが有する自動掻き取りによるブラシにより補足されたフロックが破壊され、後段の膜分離手段にリークしたためであると考えられる。
(比較例3)
バックフィルターの替わりに、カートリッジフィルタ―(ハウジング:栗田工業(株)製 KMF−5250型、フィルター:シンリョウワインド社製 SWPP−050−2型公称ろ過精度50μm)を用いた以外は実施例1と同様の操作をおこなった。3日でカートリッジフィルタ―の目詰まりが激しく通水が出来なくなり運転が継続できなくなった。これは、アコジェルCとPACとの併用により強固なフロックが形成され、このフロックが強固にカートリッジフィルタ―に補足され、その結果としてカートリッジフィルタ―自体が目詰まりしたものと考えられる。
【0046】
以上の結果から明らかなように、本発明によれば、被処理水を膜分離処理する際に、効率的に懸濁物質を除去できるとともに、被処理水に含まれる膜汚染物質の膜表面への吸着を低減し膜分離性能の劣化を低減することができる。

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係る膜分離装置の概略系統図である。
【符号の説明】
【0048】
1 膜分離装置
10 ラインミキサー(反応槽)
11 バックフィルター
12 膜分離手段
13 処理水槽
15 カチオン性ポリマー粒子導入手段
16 PAC導入手段
17 アルカリ液導入手段
P1、P2 ポンプ
V1、V2、V3、V4 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子および無機凝集剤を添加して凝集処理し、該凝集処理した被処理水をバッグフィルターで処理した後に分離膜により膜分離処理することを特徴とする膜分離方法。
【請求項2】
前記膜分離処理が、少なくとも精密濾過膜又は限外濾過膜による分離処理を有し、該膜分離処理により、前記凝集処理した後の前記粒子を被処理水から除去することを特徴とする請求項1に記載の膜分離方法。
【請求項3】
攪拌反応手段と、被処理水を攪拌反応手段に導入する被処理水導入手段と、水中で膨潤し実質的に水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を前記攪拌反応手段又は攪拌反応手段の前段で導入して被処理水に前記粒子を添加するポリマー粒子導入手段と、無機凝集剤を前記攪拌手段又は攪拌手段の前段で導入して被処理水に前記無機凝集剤を添加する無機凝集剤導入手段と、前記攪拌反応手段で凝集処理して生成したフロックを被処理水から除去するためのバッグフィルターと、前記バッグフィルターによってフロックが除去された被処理水を分離膜により膜分離処理する膜分離処理手段とを有することを特徴とする膜分離装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−240905(P2009−240905A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90016(P2008−90016)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】