膜生物反応器
【課題】安価で耐性があり、高い生物変換速度を実現できる生物反応器および生物反応器用の膜を提供する。
【解決手段】膜10はゲル18および支持体16を含む。ゲルが支持体の内にあると共に該支持体によって強化されている。膜10は、相対向する栄養面12表面と気体面14との間に厚みを有し、両対向面はゲル18によって連結され、膜10を通じて栄養溶液26が拡散される。膜10は、気体面14上の選択された位置でかつ気体面14の近くの膜内に固定生物層20を具備しており、前記ゲルが栄養面12と生物層20との間を連結し、それによって栄養溶液26が栄養面12を通過して生物層20に拡散する。本発明に従う膜は膜支持構造体によって支持されて、生物反応器を提供する。
【解決手段】膜10はゲル18および支持体16を含む。ゲルが支持体の内にあると共に該支持体によって強化されている。膜10は、相対向する栄養面12表面と気体面14との間に厚みを有し、両対向面はゲル18によって連結され、膜10を通じて栄養溶液26が拡散される。膜10は、気体面14上の選択された位置でかつ気体面14の近くの膜内に固定生物層20を具備しており、前記ゲルが栄養面12と生物層20との間を連結し、それによって栄養溶液26が栄養面12を通過して生物層20に拡散する。本発明に従う膜は膜支持構造体によって支持されて、生物反応器を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜生物反応器(membrane bioreactor)、膜生物反応器で使用するための膜を形成する方法および膜生物反応器を使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜と共働して生体物質(biological matter)を使用することにより、生体物質に供給された物質を変換する膜生物反応器は、たとえば薬剤、抗体またはワクチンの成分などの有益な物質の産生、有機廃棄物のバイオマスや生体燃料への生物変換、有害化学物質を不活化しあるいは生体利用不能な形態へ変換しまたは重金属を沈殿または還元/酸化して有毒廃棄物を浄化するといった、生体反応に関する用途に使用することができる。
【0003】
概して、既存の生物反応器(bioreactor)は、機械式攪拌生物反応器、空圧式攪拌生物反応器、または非攪拌式生物反応器に分類できる。機械式攪拌生物反応器には、通気−攪拌式生物反応器、回転ドラム生物反応器、およびスピンフィルタ生物反応器がある。空圧式攪拌生物反応器には、噴霧式生物反応器およびエアリフト生物反応器がある。非攪拌式生物反応器には、気相生物反応器、酸素隔膜エアレータ生物反応器および重層通気生物反応器などがある。
【0004】
空圧式攪拌生物反応器は、通常、十分な量のバイオマスの溶存酸素の供給を維持するため、内封されている液状培地を通過する空気を暴気する通気孔が取り付けられたタンクからなる。このような反応容器は、バイオマスと処理液が十分に混合した状態を維持できるように、羽根車、プロペラおよびパドルなど、多様な装置を使用する。パドルは、容器の側壁からバイオマスをかき取り、劣化を抑えて、バイオマスが処理液と接触した状態を維持できるようにする目的でも使用される。ただし、このような装置には、このような混合プロセスや剥離プロセスで生じる剪断力が、多くの場合、脆弱な培養物を損傷する可能性があり、生体活動を劣化させ、結果的に生産性が低下するという欠点がある。同様に、比較的濃密なバイオマスが存在するため反応培地の粘度が高くなり、混合効率と、プロセス内における酸素分子その他の気体の拡散速度の両方が低下する結果となる。酸素の安定供給量が減少すると、バイオマスの活性もそれに応じて劣化するので、多くの細胞タイプが自然系(たとえば、空気−固体間界面や、動物の細胞の場合、血中状態)に存在する場合のようには、もはや機能しなくなる。
【0005】
組織培養システムは、噴霧式生物反応器、培養容器内の多様な液中表面成長系、または回転ドラムを備えている。これらのシステムには、酸素の摂取量が比較的少ないため、一度少量のバイオマスが成長すると、溶存酸素の生物学的利用が制限されるという欠点がある。溶存酸素の供給量が低い場合には、多くのタイプの細胞の培養が抑止され、酸素をすぐに利用できる体内の場合とは異なり多くの細胞系がそれ以上機能することができない。
【0006】
充填カラムシステムでは、細胞は、カラムに充填されるリング、球形、サドル、または多角形などの各種形状の不活性物質上に固定される。栄養の流れは、カラムに供給される前に酸素付加される。これらのシステムの欠点として、栄養の流れ内に溶存する酸素という制約があることである。これらは一般に、通水方式(trickling mode)で運転され、酸素に関する制約はバイオマスの厚さにも関係する。さらなる欠点として、細胞が成長すると、充填物が集塊しカラムが目詰まりを起こす可能性がある。また、これらは高度な技術であるため、コスト高の問題もある。
【0007】
膜装置は、下記の広義の3項目のどれかひとつに分類される。
【0008】
タイプ1:気体−液体界面膜生物反応器(Gas-Liquid Interface Membrane Bioreactors)には、膜の気体側で活性バイオマスを支持するのに用いられる多孔質の膜(ホスト)が必要である。膜の反対側は、加圧下で膜を通過して汲み上げられる処理液と接触している。このプロセスに用いられる焼結セラミック製の膜についての報告がある(Canto et al, Science and Engineering Journal、1998-2,2)。焼結セラミック製膜は、比較的不浸透性が高いため、膜を通過して液が汲み上げられるように加圧される。このタイプの生物反応器には、これらの反応器が作動するときに高圧がかけられるので、破損を回避するため、膜とそのハウジングのサイズが制限されてしまうという欠点がある。(活性膜の全体的多孔性が比較的低いため)養分の供給量が減ると、バイオマスの成長が制限され、ひいてはは生産物の収率が低めになってしまう。このタイプの生物反応器の別の例が、WO90/02170に開示されている。この特許には、外側に生物層(バイオフィルム)を備えた、中空糸膜についての記述がある。使用時には、液体が膜の管腔を通過し、いっぽうで空気が膜を取り囲んでいる支持基質を通過してバイオフィルムに供給される。この装置には、かなり高い膜透過圧が必要なため、この圧力による損傷を防ぐために、膜の周囲に支持基質が必要であるという欠点がある。同心型の支持基質/バイオフィルム/膜系の構造は、複雑である。さらに、支持基質は、使用中にバイオフィルムからの細胞が付着し、生物膜を通過する酸素や養分の拡散率が低下する可能性が高い。
【0009】
タイプ2:膜の液体側で、しばしば無酸素条件下で培養物は成長する。ひとつの例では、液状培地と接触した状態で生物膜を固定するのに、多孔質中空糸膜が使用される一方で、膜の反対側には、酸素含有気体が供給される(JP2003251381 Asahi Kasei Corp.)。別の特許に記載の方法では、水素の流出を防止するため一端を密閉した液体の不浸透な中空糸に、加圧された水素ガスを導入する。繊維の周囲を水が取り囲んでおり、液中に溶存している酸化化学物質を除去するための電子供与体として溶存水素を使用して、膜の液側にバイオフィルムを成長させる(US6387262, Northwestern University)。このようなシステムには、加圧下で気体を膜に供給するので、いずれも高額な気体を加圧するための装置と加圧された気体を収納するための装置が必要であるという欠点がある。さらに、特殊化した膜が必要なため、高価であり、精巧な装置を製造しなくてはならない。
【0010】
タイプ3:培養物を、液中に懸濁して成長させ、膜フィルタを使用して液をろ過する。ほとんどの膜生物反応器が、このタイプ3である。この分類項目の生物反応器には、エアリフト(air-lift)式組織培養型生物反応器と同様の欠点があるほかに、生産物を含有する液を分離するのに使用されている膜に生物が付着するという欠点も併せもつ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】(特になし)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、安価でしかも耐性があり、さらに従来の装置に比べ、高い生物変換速度を実現できる生物反応器に対する要求がある。前記欠点の少なくともひとつに対処するかまたは実質的に改良することが、本発明の目的である。さらには上記必要性を少なくとも部分的に満たすことも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様では、栄養面(a nutrient face)と気体面(a gas face)を有し、生物反応器内で使用する膜が提供され、前記膜は、
気体面上および/または気体面付近の膜内に固定された生物層(biolayer)を支持することができ、
栄養面から固定された生物層への栄養溶液の拡散を可能にすることができ、さらに
存在する場合には、固定生物層からの細胞の除去ができるように、アクセスすることができる、膜である。
膜は、平面状であってもよいし、管状であってもよい。膜は、ナノ細孔質またはメソ細孔質またはミクロ細孔質であってもよいし、ナノスケールおよび/またはメソスケールおよび/またはミクロスケールの細孔が組み合わせでもよい。膜は、たとえば織布または不織布繊維もしくは非繊維多孔質材などの支持材を有していてもよい。支持材は、ニット材、織布材、圧縮繊維材、ルーズ繊維、フェルト繊維、またはその他の好適な材料であってよい。支持体は、ゲルの内部にあってもよいし、ゲルの外部、たとえばその表面などにあってもよい。支持体は、親水性または疎水性のどちらでもよく、その表面上にサイジング(sizing)してあってもなくてもよい。これは、高分子(たとえば、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィンなど)、無機質(たとえば、ガラス繊維)、天然繊維(セルロースまたは修飾セルロース、綿など)またはその他の何らかの材料であってよい。支持材は、その中および/またはその上にナノ細孔質固体またはゲルを有することができる。ナノ細孔質固体またはゲルは、親水性であっても疎水性であってもよい。これは、ゾル−ゲル誘導体であってよい。これは、アニールしていなくてもよい。またこれは、ヒドロゲルであってもよい。膜は、栄養面の栄養溶液から気体面の気体を分離することが可能である。膜は、外圧を加えなくても、栄養面から固定生物層へ栄養溶液を拡散可能にすることができる。膜は、その気体面に支持基質がなくてもよい。膜は、その液体面に多孔質層またはミクロ細孔質層を有する、ハイブリッド膜とすることができる。
【0014】
生物層は、バクテリア、菌類、動物細胞、植物細胞、原生動物またはその他の生体物質であってよい。細胞は、原核細胞と真核細胞のどちらであってもよい。動物細胞は、たとえば、哺乳動物の細胞とすることができる。生物層は、薬剤、抗体、ワクチン成分、食品原料、細胞、酵素またはその他の物質を生産可能である。特定の産物を生産するには、適切な生物層(すなわち、細胞などを含む生物層)およびその生物層に適切な栄養溶液を選択する必要がある。生物層に哺乳動物の細胞が含まれている場合には、たとえば疎水性のシリカを含む疎水性の膜を使用する必要があるであろう。疎水性シリカは、たとえばメチル化、オクチル化またはフェニル化シリカなどである。
【0015】
膜には、支持体によって強化されたゲルを含ませることができるが、この膜には対向する面と、その面同士の間に厚さがあるので、ゲルがこの対向する膜間連結し、膜を通じた栄養液の拡散が可能となる。
【0016】
第一の態様の実施例では、膜は、気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を備えている。膜は、外圧をかけずに、栄養面から固定生物層へ栄養溶液を拡散できるようにしてもよい。特に、栄養面、気体面および両面間の厚さを備えた膜は、支持体によって強化されたゲルを有していてもよく、この膜は、気体面上および気体面付近の膜内から選択された位置に固定生物層を備えており、ゲルが栄養面と生物層との間連結しているので、栄養面を通じて生物層まで、栄養溶液が拡散できる。
【0017】
もうひとつの実施例では、膜に栄養面と気体面とがあり、その中および/またはその上にナノ細孔質固体を有する繊維支持材を含んでいる。ナノ細孔質固体またはゲルは、シリカゲル、チタニアゲル、ジルコニアゲル、アルミナゲル、またはシリカ、チタニア、ジルコニアおよびアルミナのうち2種以上(たとえば、シリカ−アルミナゲル)を含有する混合ゲルであってもよいし、または寒天、アガロース、アルギン酸カルシウム、ペクチンまたはその他の生体高分子を含有していてもよい。本例に従って膜を作成するひとつのプロセスは、下記の工程からなる。
ナノ細孔質固体またはゲルを生成可能な前駆体溶液(precursor liquid)を支持材へ注入する工程と
支持材上および/または支持材中でナノ細孔質固体またはゲルを生成し膜を形成する工程。
このプロセスには、注入工程の前に、アルカリ性水溶液、酸性水溶液、酸性気体、または水プラズマに支持材を曝露させる工程を含むことができる。前駆体溶液は、たとえば、コロイダルシリカ、またはアルギン酸カルシウムまたは寒天またはアガロースまたはペクチンまたは別の天然もしくは合成ポリマーの溶液あるいは懸濁液、またはこれらの混合液などであってよい。注入プロセスは、前駆体溶液内に支持材を浸漬する工程と、それに続く液体から支持材を除去する工程とを含んでいてもよいし、支持材を通過して液体を流す工程を含んでいてもよく、または注入に好適な他の何らかの方法を含んでいてもよい。ナノ細孔質固体またはゲルを生成するプロセスは、前駆体溶液の性質によって異なるが、たとえば、支持材内に注入された前駆体溶液の少なくとも一部を蒸発させる工程、支持材内に注入された前駆体溶液のpHを変更する工程、支持材内の前駆体溶液の温度を変更する工程、または支持材内の前駆体溶液を沈殿剤に曝露させて支持材上および/または支持材内にナノ細孔質固体を沈殿させる工程を含んでいてもよい。
【0018】
別の実施例では、膜が栄養面と気体面とを備えており、
その中および/またはその上にナノ細孔質固体またはゲルを有している繊維支持材と、
気体面上または気体面付近の膜内にある固定生物層
を具備しているが、この膜は、外圧を加えずに栄養面から固定生物層に栄養溶液を拡散させることができ、さらに固定生物層から細胞を除去できるようにこの膜にはアクセス可能である。膜は、その気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0019】
本発明の第二の態様では、下記を備えた生物反応器が提供されている。
膜支持構造体;および、
前記膜支持構造体上に支持されている、本発明の第一の態様による膜を含む生物反応器。
前記膜支持構造体は、膜の2つの部分間に内部領域が形成されるように、膜の一方の部分が膜のもう一方の部分に平行であるような構成で、膜を支持することができる。膜支持構造体は、複数の膜を支持することができる。生物反応器に複数の膜が含まれている場合には、膜は相互に平行であってもよいし、相互に平行でなくてもよい。2以上の平らな膜は、2つの膜の間に袋または平坦な管もしくは他の形の内部領域を形成するように、一対毎に結合し、対で配置することができる。膜は、気体面の気体を栄養面の栄養溶液から分離できるように構成することができる。生物反応器は、膜間または膜の異なる部分間の距離を維持するために、一つ以上のスペーサを備えることができる。スペーサは、栄養溶液が膜の側面から漏出するのを防止する。
【0020】
生物反応器は、栄養溶液が膜の栄養面に侵入するための入口と、栄養面から栄養溶液を除去するための出口を備えることができる。入口を入口マニホールド(inlet manifold)に接続し、出口を出口マニホールドに接続することができる。
【0021】
液体、たとえば栄養溶液を、出口から入口へ再循環させるためのリサイクルシステムも有することができる。リサイクルシステムは、酸素が液体に接近するのを防止することが可能である。リサイクルシステムは、一つ以上のポンプ、配水管、配水管バルブ、出口ライン、出口ラインバルブ、配水管タンクおよび排出タンクを含むことができる。
【0022】
生物反応器は、膜を少なくとも部分的に包みこむか、膜支持構造体も少なくとも部分的に包囲している容器を、さらに有することができる。容器は、滅菌可能で、容器への気体の進入を可能にする気体入口と、容器から気体の流出を可能にする気体出口とを備えることができる。生物反応器は、膜を収納するためのハウジングと、任意に膜支持構造体も含むことができる。ハウジングは、滅菌可能で、気体入口と気体出口を備えることができる。膜、任意に膜支持構造体は、容器またはハウジングから取り外し可能とすることができる。滅菌可能ハウジングは、生物層または膜の汚染もしくは生物反応器の他の部分の汚染を防止するのに有効である。
【0023】
栄養溶液から酸素を除去するための酸素リムーバも任意に備えることができる。酸素リムーバは、脱酸素装置または脱気装置、たとえば真空脱気装置でもよいし、栄養溶液を通過するごく少量の酸素を含有する気体を曝気する装置を備えていてもよい。
【0024】
生物反応器は、膜から固形物質を除去するための手段を備えることができる。固形物質は、たとえば生物反応器の生産物または生物層の一部などである。除去するための手段として、シェーカ(shaker)、スクレーパ(scraper)、ブロワ(blower)またはその他の好適な手段を備えることができる。
【0025】
ひとつの実施例では、生物反応器は下記からなる。
膜支持構造体と、
第一の態様による一対の膜であって、膜支持構造体によって垂直方向に支持されており、一対の膜間に内部領域を形成できるように対のもう一方の膜と対向している一対の膜、
一対の膜それぞれの気体面上および/または一対の膜の気体面付近の内部に、固定された生物層。
前記膜は、平面であってもよいし管状であってもよい。各膜は、袋または平坦な管または環を形成できるように各膜が対のもう一方の膜に対向しているか、または対の膜間に内部領域を形成する他のなんらかの構成で配向することができる。一対の膜は、連結していてもよいし、連結していなくてもよい。栄養面は一対の膜の内部領域に隣接していてもよい。一対の2枚の膜間に、規定の距離を保持できるように、少なくともひとつのスペーサを配置することができる。生物反応器は複数の対の膜を備えることができる。複数の対の膜は、並列にまたは直列に接続してもよいし、一部を並列に、一部を直列に接続してもよい。
【0026】
もうひとつの実施例では生物反応器は下記からなる。
膜支持構造体と、
膜支持構造体によって垂直方向に支持されている、第一の態様による管状膜と、
気体面上および/または気体面付近の膜内における固定生物層。
栄養面は管状膜の内部に配置し、気体面をその外部に配置することができる。管状膜は、その管状膜の対抗する面間の距離を維持するためにすくなくともひとつのスペーサを備えることができる。管状膜は、管状膜と内部支持体の間に内部領域が形成されるように、内部支持体を管状膜と同心にしてもよい。その場合、管状膜と内部支持体の間の距離を維持するために少なくとも一つのスペーサがあってもよい。生物反応器は、複数の管状膜を備えていてもよい。複数の管状膜を、並列にまたは直列に接続してもよいし、一部を並列に、一部を直列に接続してもよい。
【0027】
他の実施例では、生物反応器は下記からなる。
膜支持構造体と、
膜の2つの部分間の内部領域を決定するために、膜の一方が膜のもう一方に平行であるような構成で、膜支持構造体によって支持されている第一の態様による平面膜と、
気体面上および/または気体面付近の膜内における固定生物層。
膜の栄養面は内部領域と隣接していてもよい。膜の2つの部分間に距離を維持するためのすくなくともひとつのスペーサを備えることができる。
【0028】
他の実施例では、生物反応器は下記からなる。
膜支持構造体と;
膜が栄養面における栄養液から気体面における空気を分離させ、さらに膜が複数の内部領域を形成するので、内部領域が栄養面に隣接するような構造で、膜支持構造体によって支持されている第一の態様による平面膜と;
膜の気体面上および/またはその気体面付近の膜内における固定生物層と、
入口マニホールドに接続している、内側領域へ栄養溶液を侵入させるための複数の入口と、
内部領域から栄養溶液を除去するための複数の出口と、
出口から入口マニホールドへ栄養溶液を再循環させるためのリサイクルシステムと、
膜から固形物質を除去するためのスクレーパと、
吸気口と排気口を備えた、膜と膜支持構造体を収納するための滅菌可能なハウジング。
滅菌可能なハウジングは、たとえば、グリーンハウス(green-house)またはグラスハウス(glass-house)あるいは、生物層に光を進入させることができるチャンバなどである。
【0029】
本発明の第3の態様では、その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有する膜を作成するための下記工程からなるプロセスが提供されている。
生体物質に栄養面から栄養溶液を拡散させることができる膜の栄養面から膜上および/または膜内に生体物質を固定化する工程と、
生体物質が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定化された生物層を形成するような条件の下で、膜の栄養面に栄養液を提供し、さらに膜の気体面を気体に曝気させる工程。
ここで、膜には、一度形成された固定生物層から細胞を除去することができるようにアクセス可能である。膜は、その気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0030】
気体は酸素を含有する気体、たとえば空気または酸素または窒素、二酸化炭素またはヘリウムなどの他のなんらかの気体と酸素の混合気体などであってもよい。気体は膜に損傷を与えないことが好ましい。
【0031】
生体物質は細胞、胞子またはその他の生体物質を含んでいてよい。細胞は原核細胞と真核細胞のどちらでもよく、たとえば菌類、バクテリア、原生動物または植物細胞もしくは動物細胞などであってよい。動物細胞は、たとえば哺乳動物の細胞などであってよい。生物層は、薬剤、抗体、ワクチン成分、食品材料、細胞またはその他の物質を生産することができる。
【0032】
栄養溶液には生体物質の養分が含有されており、その性質は生体物質の性質によって異なる。栄養溶液には、電解質、塩類、緩衝液、生物変換または微生物分解などのための化合物といったひとつまたは複数の他の化合物を含んでいてもよい。栄養溶液は実質的に無酸素性であってよい。
【0033】
膜は平面であってもよいし管状であってもよい。膜は、ナノ細孔質、メソ細孔質またはミクロ細孔質のいずれかであってもよいし、ナノスケールおよび/またはメソスケールおよび/またはミクロスケールの細孔の組合せを備えていてもよい。膜は、たとえば織物または不織布材もしくは非繊維多孔性材などの支持材を含むことができる。支持材は、その中および/またはその上にナノ細孔質固体またはゲルを備えることができる。膜は、生物反応器の動作条件下で微生物分解不能材料(複数可)から製造できる。膜は、外圧をかけずに、栄養面から生体物質へ栄養溶液を拡散させることができる。
【0034】
膜の栄養面に栄養溶液を提供する工程では、生体物質の一部が膜の栄養面上で成長する可能性がある。したがって、この工程では、栄養面上でスクレーパを移動させることが、好ましい。スクレーパの移動は連続的であってもまた間歇的であってもよい。スクレーパの移動により、栄養面から生体物質を除去することができ、さらに生体物質の成長により隣接している膜の栄養面が相互に固着しないように防止することができる。スクレーパは、隣接している膜の栄養面を分離させるためのスペーサとなることもできる。
【0035】
固定化する工程は、複数の細胞および/または胞子の少なくとも一部がそこに付着するように、複数の細胞および/または胞子に膜を曝露させる工程を有することができる。この曝露工程には、たとえば水性液などの液体や気体、蒸気、エアロゾルまたは噴霧などであってよい、細胞および/または胞子を含有する担体に膜を曝露させる工程を含むことができる。この曝露工程には、噴霧、灌水、塗布、吹付けなどの方法または気体面に細胞および/または胞子を伝播する別の何らかの曝露法を含んでいてもよい。
【0036】
栄養溶液を提供する工程は、栄養溶液から酸素を除去する工程を含んでいてもよい。酸素を除去する工程は、たとえば、栄養溶液への真空圧の供与などによる脱気工程を含んでいてもよいし、栄養溶液を通じてごく少量の酸素を含有する気体をバブリングさせる工程を含んでいてもよい。
【0037】
ひとつの実施例では、固定化工程は下記の工程からなる。
ナノ細孔性固体またはゲルを生成することができる前駆体溶液を、支持材に注入する工程と、
支持材上および/または支持材内にナノ細孔質固体またはゲルを生成して膜を形成する工程。
前記固体化工程には、注入工程前に、アルカリ性水溶液または水プラズマのどちらかに、支持材を曝露させる工程も含むことができる。前駆体溶液には、たとえば複数の細胞および/または胞子などの生体物質を含むことができるので、ナノ細孔質固体またはゲルを生成するプロセスでは、膜内に生体物質(たとえば細胞および/または胞子など)の少なくとも一部を固定化することができる。固定化工程にはさらに、前述のように複数の細胞および/または胞子に膜を曝露させる工程を含むことができる。前駆体溶液は、たとえばコロイダルシリカ、アルギン酸カルシウム、寒天、アガロース、ペクチンまたはその他の天然もしくは合成ポリマーの溶液または懸濁液、あるいはこれらの混合液のいずれであってもよい。注入プロセスは前駆体溶液内に支持材を浸漬させる工程とその後の液体から支持材を除去する工程を含んでもよいし、支持材を通過して液体を流す工程を含んでもよいし、注入のための他の何らかの好適な方法を含んでいてもよい。ナノ細孔質固体またはゲルを生成するプロセスは、前駆体溶液の性質によって異なるが、たとえば、支持材に注入された前駆体溶液の少なくとも一部を蒸発させる工程、支持材に注入された前駆体溶液のpHを変更する工程、支持材における前駆体溶液の温度を変更する工程または支持材上および/または支持材中にナノ細孔質固体またはゲルを沈殿させるため沈殿剤に支持材中の前駆体溶液を曝露するための工程を含むことができる。
【0038】
他の実施例では、その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有する膜を製造するための下記工程からなるプロセスが提供される。
ナノ細孔質固体またはゲルを生成することができる前駆体溶液を支持材へ注入する工程と、
支持材上および/または支持材内にナノ細孔質固体またはゲルを生成して膜を形成させる工程と、
複数の細胞および/または胞子の少なくとも一部がそこに付着するように、複数の細胞および/または胞子に膜の気体面を曝露させる工程と
膜の栄養面に栄養溶液を提供する工程と、細胞および/または胞子が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件下で気体に膜の気体面を曝露させる工程からなる。
【0039】
他の実施例では、その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有する膜を製造するための下記工程からなるプロセスが提供されている。
生体物質を含有し、ナノ細孔質固体またはゲルを生成できる前駆体溶液を支持材に注入する工程と、
支持材上および/または支持材中にナノ細孔質固体またはゲルを生成して膜を形成し、膜上および/または膜内に生体物質を固定させる工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、生体物質が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
【0040】
他の実施例では、その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有する膜を製造するための、下記工程からなるプロセスが提供される。
細胞および/または胞子を含有するコロイダルシリカを織物支持材に注入する工程と、
支持材内のコロイダルシリカを酸性化して膜を形成し、膜内に細胞および/または胞子を固定する工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、細胞および/または胞子が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件の下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
さらにその気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有し、本発明の第3の態様のプロセスによって製造される膜も提供される。
【0041】
本発明の第4の態様では、膜支持構造体上に、本発明の第1の態様による膜を取り付ける工程を含む、生物反応器を作成するためのプロセスが提供される。
【0042】
ひとつの実施例では、気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有しており、栄養面から固定生物層に栄養溶液を拡散させることができ、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセス可能であるような、本発明の第一の態様による膜を膜支持構造体上に取り付ける工程がプロセスに含まれている。膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0043】
他の実施例では、プロセスは下記の工程からなる。
膜の栄養面から離れた膜上および/またはその膜内に固定された生体物質を有し、栄養面から生体物質への栄養溶液の拡散を可能にし、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセス可能であるような膜を膜支持構造体上に取り付ける工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、生体物質が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件の下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
栄養溶液は実質的に無酸素であってもよい。また前記膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0044】
他の実施例では、プロセスは下記の工程からなる。
膜支持構造体上に、以下の膜を固定する工程(であって、該膜が
・栄養面と気体面とを備えており、
・気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を支持することができ、
・栄養面から固定生物層へ栄養溶液を拡散させることができる膜であり)
栄養面から離れて、膜上および/または膜内に生体物質を固定する工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、生体物質が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件の下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
ここで、膜は固定生物層から細胞を除去できるようにアクセス可能である。膜には、その気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0045】
固定化工程は、複数の細胞および/または胞子の少なくとも一部がそこに付着するように、複数の細胞および/または胞子に膜を曝露させる工程を含んでいてもよい。この曝露工程には、担体がたとえば水性液などの液体、または気体、蒸気、エアロゾルまたはスプレーなどであってもよく、細胞および/または胞子を含む担体に膜を曝露させる工程を含んでいてもよい。この曝露工程は、噴霧、灌水(irrigating)、塗布(swabbing)、吹付けあるいは、気体面に細胞および/または胞子を伝播する他のなんらかの曝露法を含んでいてもよい。栄養溶液は実質的に無酸素であってもよい。
【0046】
他の実施例では、プロセスは下記の工程からなる。
膜支持構造体上への支持材の取り付け工程と、
ナノ細孔質固体またはゲルを生成することができる前駆体溶液を支持材に注入する工程と、
支持材上および/または支持材内にナノ細孔質固体またはゲルを生成して膜を形成する工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、固定生物層が気体面上および/または気体面付近の膜内に形成されるような条件の下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
ここで、固定生物層から細胞を除去できるように膜にアクセスできる。膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0047】
この実施例のプロセスでは、
前駆体溶液が複数の細胞および/または胞子を含んでいるので、ナノ細孔質固体またはゲルを生成する工程で細胞および/または胞子の少なくとも一部が膜内に固定されるか;または
複数の細胞および/または胞子に(前記のように)膜を曝露させる工程が栄養溶液を提供する工程の前に行われるか、あるいはその両方である。
栄養溶液は、実質的に無酸素であってもよい。
【0048】
本発明の第5の態様では、第2の態様による生物反応器を動作するための、下記工程からなる方法が提供される。
栄養溶液に膜の栄養面を曝露させる工程と、
気体に生物層を曝露させる工程と、
膜の栄養面から生物層に栄養溶液を拡散させる工程からなる。
栄養溶液を拡散させる工程は外圧をかけずに実施することができる。この方法には、生物層を通過して気体を流入させる工程も含まれる。生物層が好気性種を含んでいる場合には、気体は酸素を含有する気体たとえば、空気や酸素または、窒素、二酸化炭素またはヘリウムなどその他の気体と酸素の混合気体であってよい。気体は膜に損傷を与えないことが好ましい。栄養溶液には、生物層向けの栄養素が含まれているが、その性質は生物層の性質によって異なる。栄養溶液は、電解質、塩類、緩衝液などひとつまたは複数の他の化合物を含んでいてもよい。栄養溶液は、実質的に無酸素であってもよい。該方法は、栄養溶液が膜を通過して流れないバッチ法であってもよいし、栄養溶液が膜を通過して流れる連続法であってもよい。生体膜リアクタを動作するための方法は、たとえば薬剤、抗体、ワクチン成分、食品材料、細胞または酵素などを産生することを目的としていてもよいし、栄養液内の不必要な成分の除去、劣化または変換を目的としていてもよい。
【0049】
この方法は、栄養溶液から酸素を除去するための工程を含んでいてもよい。酸素を除去するための工程には、たとえば栄養溶液に真空圧を加えることによって脱気させる工程を含んでいてもよいし、栄養溶液を通じて微量の酸素を含む気体をバブリングさせる工程を含んでいてもよい。酸素を除去する工程は、栄養溶液に栄養面を曝露させる工程の前に実施することができる。
【0050】
この方法にはさらに、生物反応器の生産物を単離する工程も含むことができる。単離させる工程には、栄養溶液から生産物を分離する工程を含んでもよいし、気体面から固形物質を収穫する工程を含んでもよい。固形物質は、たとえば生物反応器の生産物であってもよいし、生物層の一部であってもよい。固形物質は、たとえば細胞、胞子、菌糸またはタンパク質、多糖類およびポリマーなど、細胞によって産生される物質を含む他の生体物質を含んでいてもよい。
【0051】
ひとつの実施例では、前記方法は下記工程からなる。
その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有し、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセスすることができる膜の栄養面を栄養溶液に曝露させる工程と、
酸素を含有する気体に生物層を曝露させる工程と、
膜の栄養面から生物層に栄養溶液を拡散させる工程と、
第1の時間のあいだ、栄養溶液に膜を曝露させる工程と、
膜の栄養面に第2の液体を導入する工程と、
第2の時間のあいだ、第2の液体に膜を曝露させる工程と、
第2の液体から生産物を分離させる工程。
膜にはその気体面に支持基質がなくてもよい。第2の液体は、栄養素を含まない液体であってもよいし、たとえば生理食塩水や緩衝液であってもよい。第1の時間は、たとえば、約1時間〜1日、第2の時間は、たとえば、約12時間〜12日間とすることができる。
【0052】
他の実施例では、前記方法は下記工程からなる。
その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有し、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセスすることができる膜の栄養面を栄養溶液に曝露させる工程と、
酸素を含有する気体に生物層を曝露させる工程と、
栄養溶液から産物を分離する工程からなる。
膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0053】
他の実施例では、前記方法は下記工程からなる。
その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有し、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセスすることができる膜の栄養面を栄養溶液に曝露させる工程と、
栄養面から生物層に栄養溶液を拡散させる工程と、
酸素を含有する気体に生物層を曝露させる工程と、
生物層から固形産物を除去する工程からなる。
膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。除去工程は、剥離、振動、吹付けあるいは、生物層から固形産物を分離する他のなんらかの好適な手段を含んでいてもよい。
【0054】
膜の栄養面において実質的に無酸素の栄養溶液を使用して、その気体面および/またはその気体面付近の膜内に生物層を産生するためあるいは、その気体面および/またはその気体面付近の膜内に生物層の生産物を産生するための、本発明による生物反応器が提供されている。生産物は、たとえば、薬剤、抗体、ワクチン成分、食品材料、細胞またはその他の物質などであってもよいし、生物反応器が液体中の物質を有益な形態あるいは無毒性の形態に変換してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明による膜を表す図である。
【図2】本発明により、その上および/または中に生物層を有する膜を組み立てるためのプロセスを説明する図である。
【図2a】図2と同趣旨の説明図。
【図3】本発明による生物反応器の図である。
【図3a】図3に示されている生物反応器で使用することができる入口マニホールドの図である。
【図3b】本発明による生物反応器の出口から入口に液体を循環させるための循環系の図である。
【図3c】本発明による生物反応器の出口から入口に液体を循環させるためのもうひとつの循環系の図である。
【図3d】本発明による他の生物反応器の図である。
【図4】本発明による他の生物反応器の図である。
【図5】本発明による他の生物反応器の図である。
【図5a】本発明による他の生物反応器の図である。
【図6】実施例1の生物反応器におけるP.chrysogenumに関するペニシリンの濃度対時間のグラフである。
【図7】実施例1の噴霧式生物反応器におけるP.chrysogenumに関するペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図8】実施例1の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図9】実施例1の噴霧式生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図10】ガラス支持体を使用した、実施例2の生物反応器におけるP.chrysogenumに関する炭水化物濃度、pHおよびペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図11】ポリエステル支持体を使用した、実施例2の生物反応器におけるP.chrysogenumに関する炭水化物濃度、pHおよびペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図12】綿支持体を利用した例2の生物反応器におけるP.chrysogenumに関する炭水化物濃度、pHおよびペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図13】ポリエステル綿支持体を使用した実施例2の生物反応器におけるP.chrysogenumに関する炭水化物濃度、pHおよびペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図14a】綿支持体およびゲル状物質無しで、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図14b】ガラス支持体を用い、寒天ゲルを含む実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図14c】ガラス支持体を用い、アルギン酸カルシウムを含む実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図14d】ガラス支持体を用い、シリカゲルを含む実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図15a】ガラス支持体およびシリカゲルを使用した、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図15b】ガラス支持体およびシリカゲルを使用した、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関するカリウム、リン、硫黄の各濃度対時間のグラフである。
【図15c】ガラス支持体およびシリカゲルを使用した、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭素、窒素、硫黄の各濃度対時間のグラフである。
【図15d】ガラス支持体およびシリカゲルを使用した、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関するカルシウム、マグネシウム、亜鉛の各濃度対時間のグラフである。
【図16a】実施例3の連続式生物反応器と同じ膜物質を使用したバッチ式に関する炭水化物の消費量とpHの経時変化を示すグラフである。
【図16b】実施例3の連続式生物反応器における炭水化物の消費量とpHに関する結果のグラフである。
【図17】実施例4において、NBM中で成長したA.nigerにより、麦芽抽出培地から、溶存固形物、リン、窒素が除去される過程を示したグラフである。
【図18a】実施例4において、NBM中で成長したA.nigerにより、麦芽抽出培地から、各種成分の除去を示しているグラフである。
【図18b】実施例4において、NBM中で成長したA.nigerにより、麦芽抽出培地から、各種成分の除去を示しているグラフである。
【図18c】実施例4において、NBM中で成長したA.nigerにより、麦芽抽出培地から、各種成分の除去を示しているグラフである。
【図19】実施例5から、NMBおよび振とうフラスコ培養におけるA.ferrooxidansによる第一鉄から第二鉄への変換における濃度変化を示すグラフである。
【図20】膜の下端から栄養流が供給される、本発明による生物反応器の図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明の生物反応器は、膜生物反応器、ナノ粒子膜生物反応器、ハイブリッド器官または類器官(organoid)であってもよい。生物反応器は、バイオマスを産生するための装置、または化学物質を産生するための装置、または汚染物質を除去するための装置であってもよいがこれに限定されない。生物反応器は、たとえば膜上および/または膜内にシリカゲルなどのナノ粒子ゲルを任意に含み、膜支持構造体によって支持されている多孔質材または繊維質材の膜を備えている。生物反応器は、ひとつまたは複数の膜を備えていてもよいし、約1個〜20000個の膜、または約1個〜1000個の膜、または約1個〜100個の膜、または約1個〜50個の膜、または約1個〜20個の膜、または約1個〜10個の膜、または約100個〜20000個の膜、または約1000個〜20000個の膜、または約10000個〜20000個の膜、または約2個〜10000個の膜、または約10個〜5000個の膜、または約20個〜1000個の膜、または約50個〜500個の膜、または約100個〜200個の膜を備えていてもよく、さらに、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、250、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10000、12000、14000、16000、18000または20000個の膜を備えていてもよい。各膜は、約10cm2〜10m2の面積を備えることができ、さらに、約10cm2〜1m2、または約10cm2〜500cm2、または10cm2〜100cm2、または10cm2〜50cm2、または100cm2〜500cm2、または500cm2〜1m2、または1m2〜10m2、または1m2〜5m2、または5m2〜10m2、または500cm2〜5m2の面積を備えていてもよく、さらには、約10、50、100、200、300、400、500、600、700、800または900cm2、あるいは約1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9あるいは10m2、あるいは10m2より大きな面積、たとえば15、20、25あるいは30m2以上を備えていてもよい。膜が平面膜の場合には、これらは、対でまたはひだ状(gills)に配列していてもよい。約1〜10000個の対、または約1〜5000個の対、または約1〜1000個の対、または約1〜500個の対、または約1〜100個の対、または約1〜50個の対、または約1〜10個の対、または約2〜10000個の対、または約5〜5000個の対、または約10〜1000個の対、または約50〜500個の対、または約100〜200個の対、または約100〜10000個の対、または約500〜10000個の対、または約1000〜10000個の対、または約5000〜10000個の対であってよく、さらには、約l、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、500、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10000、12000、14000、16000、18000または20000個の対であってもよい。ひとつの実施例では、一対の膜例えばひだが、垂直方向に相互に平行に懸垂されている。膜は平面とすることができるので、膜対は、平坦な管の形態をしているかまたは同心の管状にできるため、その対がそれらの間に環状領域を形成する。膜対は、少なくともその円周端の一部の周囲で連結し、膜間に内腔を形成する。他の実施例では、膜管は、適切なスペーサで懸垂されている。したがって本発明は、相互に平行に近接して配置された実質的に平坦な2枚の膜を有する生物反応器を提供しているので、これら2枚の膜間には平坦な内腔が形成され、この内腔を液体が流れる。内腔から離れた膜の面は、生物層(すなわち生物膜)をその中におよび/またはその上に備えることができる。膜および内腔は、垂直方向を向いているので、重力によって液体流が内腔を下方向に輸送される。2枚の膜は、それらの端で連結して、袋を形成していてもよい。垂直方向の部材、たとえばロッドやバーなどのスクレーパの形態で膜間にもうひとつのスペーサを配置することができる。これは、動作したときに、膜間の領域の栄養溶液が通過できる穴を有してもよい。このスペーサは可動性であってもよく、膜間を移動することができてもよい。これは動作したときに、膜の栄養面を剥離できるように配置してもよい。また動作したときに、膜の栄養面に固着している細胞を除去することができるように配置してもよい。スペーサは、たとえばロッドやバーなどの、垂直部材であるようなスクレーパの形態であってもよい。これは、膜の栄養面に固着している細胞を除去できるように、スペーサを動作させるため、スペーサ作動装置に連結することができる。この可動スペーサは、2枚の膜を固着させるゲル層を分離させ、その結果内腔の形成を抑止することによって、ゲルでドープした2枚の個別の膜の形成プロセスに役立たせることもできる。さらに別の実施例では、膜管は、膜と支持体との間に距離を維持するために、スペーサが支持体と同心円上に(内側または外側のいずれか)に配置されている。さらなる実施例では、膜は、2ヵ所の部分間で内側領域を形成するように、膜の一部が膜のもうひとつの部分に平行となるように配置されている。たとえば、膜は折りたたまれていてもよい。膜は、たとえば、膜の形成中に前駆体溶液と共に生体物質を含有させることによって適切な生体物質をドープさせてもよいし、膜を形成させた後に、膜に生体物質を接種してもよい。
【0057】
膜は、並列にまたは直列に接続してもよいし、一部を並列に、一部を直列に接続してもよい。直列接続では、(対のうちの)第一の膜(複数可)の栄養面(複数可)から液体を除去するための出口が、(対のうちの)第二の膜(複数可)の栄養面(複数可)に液体を供給するための入口に接続される。出口から入口へ液体を汲み出すためのポンプが存在していてもよい。並列接続では、膜の栄養面へ液体を供給するための入口を入口マニホールドに接続し、膜の栄養面から液を除去するための出口を出口マニホールドに接続してもよい。
【0058】
膜は、垂直方向、水平ではない方向または水平方向、水平線に対して0でない角度のいずれの方向を向いていてもよく、気体領域または(膜面の気体面に隣接している)気体領域から、栄養領域(たとえば内腔)または(膜面または栄養面に隣接している)栄養領域を分離することも可能である。栄養溶液は、膜(複数可)上から供給してもよいし、膜の栄養面(複数可)を流してもよい。ノズルまたは何らかの他の入口装置を用い、膜を通過させてもよい。栄養溶液と実質的に無酸素の気体よりなるスプレーを膜上に噴霧してもよい。水平線に対する膜の角度は、約30〜90°または約45〜90°、約60〜90°または約45〜60°のいずれであってもよく、さらに約30、45、60、75または90°であってもよい。膜は栄養面における栄養溶液と気体面における気体との間に配置することができ、栄養溶液と気体はともに膜に接触している。気体面における気体の圧力は、気体領域に膜を通過して栄養溶液が流入しないだけの十分な高さとすることができる。圧力は、栄養面における栄養溶液の圧力と同等かもしくはそれより高い圧力とすることができる。該圧力は、約0.8〜1.2気圧(atm)、または約0.9〜1.1気圧、0.9〜1気圧、または1〜1.1気圧、さらには約0.8、0.9、1、1.1または1.2気圧とすることができる。膜を通過する圧力は、約0.2気圧未満、約0.15、0.1、0.1または0.05気圧未満としてもよいし、約0、0.05、0.1、0.15または0.2あるいは約0〜0.2気圧、約0〜0.1気圧、約0〜0.05気圧、または約0.05〜0.15気圧としてもよいし、特定の環境下では0.2気圧より大であってもよい。
【0059】
本発明の膜は、多くの方向で使用することができる。膜の生物層が好気性の細胞または微生物または胞子を含んでいる場合には、膜の栄養面が実質的に無酸素状態となり、気体面が、それと接触する酸素を含有した気体を有していなくてはならない。酸素を含有している気体は、約5〜100%のw/w酸素、または約10〜100%、約15〜100%、約20〜100%、約30〜100%、約50〜100%、約75〜100%、約10〜50%、約10〜30%、約10〜20%、約15〜50%、約15〜25%、または20〜50%のw/w酸素を含んでもよいし、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100%のw/w酸素を含んでいてもよい。すでに述べたように、ひとつの方向では、一対の膜が、それらの間に内腔を形成している。内腔を流れる栄養溶液は、生物層が栄養溶液から酸素を吸収するので酸素欠乏状態、実質的には無酸素状態となる。栄養溶液は、内腔を流れる前に、脱酸素装置を用いて脱酸素化しておいてもよい。別の方向では、膜が2つのチャンバを分離し、そのうち第一の気体チャンバには酸素含有気体が含まれており膜の気体面に暴露され、第二のチャンバは無酸素で膜の栄養面に曝露されている。第二のチャンバは、静的であるかまたは膜を通過して流れる栄養溶液で満たしてもよい。第二のチャンバは、栄養溶液上に無酸素気体を備えていてもよいし、または栄養溶液が第二のチャンバ内の膜の栄養面を流れてもよく、この第二のチャンバは、第二のチャンバ内の栄養溶液が無酸素状態であるように、その内部に無酸素の気体を含んでいる。噴霧用無酸素気体を用いて、第二のチャンバ内の膜に栄養溶液を噴霧してもよい。第一のチャンバは、上側チャンバとし、第二のチャンバは下側チャンバとしてもよいし、第一のチャンバを下側チャンバとし第二のチャンバを上側チャンバとしてもよい(膜が水平となる状態)。あるいは第一のチャンバと第二のチャンバを横に並べ、膜を縦方向に並べてもよい。水平膜の場合、特に第二のチャンバが上側チャンバの場合、栄養溶液の重量が膜をひずませたり損傷を与えたりしないように、膜を支持するための支持構造体を組み込むことができる。あるいは、第一のチャンバをなくして、酸素を含有している大気中に向かって膜の気体面が解放されるようにしてもよい。生物層の成長を促進する目的で、膜の気体面を通過する酸素の周囲濃度より高い酸素を含有している気体を通過させると有利である。他の方向では、膜が水平で、下側チャンバから膜の気体面と接触している酸素を含有する気体を含む上側チャンバを分離させて、無酸素の栄養溶液を膜の栄養面と接触させておく。栄養溶液は、脱酸素装置を用いた脱酸素の結果として無酸素とすることができる。あるいは、下側チャンバの容積が小さい場合には、膜の生物層によって消費させることにより、下側チャンバ内の栄養溶液から酸素を欠乏させることができる。栄養溶液と酸素含有気体の一方または両方が、膜を通過して流れることができる。さらに別の方向では、内腔が膜と固体面間に形成されるように(たとえばポリマー材やステンレススチール、アルミニウムなどの金属であるような)、固体面に近接してあるいは平行に膜を取り付けることができる。膜は縦方向でもよいし、上記のような水平方向に対する一定角度の下に取り付けてもよい。内腔を流れる栄養溶液は、生物層が栄養溶液から酸素を吸収するので酸素欠乏状態となり、その結果実質的に無酸素状態となる。栄養溶液は、内腔を流れる前に脱酸素剤を用いて脱酸素化しておくことができる。他の方向では、膜が栄養チャンバの壁の一部を形成しているので、膜の気体面が栄養チャンバの外側に配置され、栄養面が栄養チャンバの内側に配置される。栄養チャンバは、他の箇所に記載するように、脱酸素装置を用いて無酸素状態に維持される。栄養溶液が膜を通過して流れる場合には、重力の影響下で流れるかまたは汲み出すことによって流れるか、あるいは膜を有する生物反応器の一部が回転して遠心力の影響下で栄養溶液が膜を通過して流れてもよいし、他のなんらかの力を通して流れてもよい。膜が水平でない場合、栄養溶液は上側からか下側からまたは他の何らかの方向から膜を通過して流れてもよい。さらに別の方向では、栄養液は、水平ではない、任意による縦の方向にある膜を通過して流れてもよい。この方向では、栄養溶液は、栄養チャンバ内の膜を膜下側の部分から膜の上側の部分に向かって通過して流れることができる。このようにすると、栄養チャンバから気体を容易に排除することができるので、膜の栄養面における無酸素状態が効果的に維持される。本発明による生物反応器の一部の動作方式では、膜の生物層に加え、栄養溶液内におけるビーズ内に封入された嫌気性細胞が存在していてもよい。このようにすると、栄養が、無酸素栄養溶液内に封入された嫌気性細胞と膜上の生物層の酸素を要求している細胞および/または胞子によって代謝されうる。ビーズは、目詰まりを起こさない程度に十分小さくし、栄養溶液中に懸濁させておくのに十分な比重を備えることができる。ビーズの大きさは、約1〜100ミクロン、または約1〜50ミクロン、約1〜10ミクロン、約10〜100ミクロン、約50〜100ミクロン、または約10〜50ミクロンであってもよいし、約1、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90または100ミクロンであってもよいし、あるいは部分的に、そこに封入されている細胞の大きさによってはさらに大きかったり小さかったりしていてもよい。ビーズの比重は、約0.8〜1.2、または0.8〜1、または1〜1.2、または0.9〜1.1であってもよく、さらに0.8、0.9、1、1.1、1.2であってもよいし、一部栄養溶液の比重によってはそれより大きいかまたは小さくてもよい。封入されている嫌気性細胞に対する栄養溶液内の栄養分のアクセスを可能にする、ゲル物質または多孔性物質であるようなカプセル材料によって嫌気性細胞が封入されていてもよい。このカプセル材料は、ハイドロゲル、無機ゲル、有機ゲル、多孔性セラミック、多孔性ポリマーあるいは栄養の浸透性がある他の何らかのカプセル材料でもよい。この態様では、ビーズは、膜を通過して再循環することができ、生物反応器から流出するのを防止することができる。これは、たとえばフィルタの使用により達成することができる。嫌気性細胞を封入することによって、これらが膜の栄養面にコロニーを形成するのを防止または阻害することができるので、膜の気体面上の生物層に膜を通過して栄養溶液が拡散するのを制限することができる。
【0060】
上記方向および方式のどれかまたはすべてにおいて、膜は、たとえば支持体フレーム、ケーシング、ハウジング、フレームワーク、足場またはその他の支持構造体など、膜支持構造体によって、該当する方向に維持することができる。膜は、膜支持構造体から懸垂するように取り付けてもよいし、膜支持構造体内に拘束してもよいし、あるいは膜支持構造体内またはその上にその他の何らかの方法で取り付けてもよい。膜支持構造体には、溝やチャネルを備えた固体構造を有し、それによって膜が溝にある栄養溶液を封入するように広がっていてもよい。したがって、後者の方法で動作する場合、その上に生物層を備えた膜の気体側が溝から離れ、膜の栄養側が溝に面する。溝を通過して流れる栄養溶液は生物層まで栄養面上を拡散し、代謝産物が溝に拡散する。この方法では、膜は、内部支持体たとえば織物、繊維またはその他の支持体を備えていてもよいし、内部支持体を備えていなくてもよい。膜は、たとえば繊維を備えて、内部から付加的な支持を提供してもよい。溝は、固形支持体上に広がり、各溝の対抗する二つの側壁にゲル膜を備えていてもよい。膜支持構造体は、その完全性を維持できるように、膜を十分に支持することができる。上記方向のどれかまたはすべてで、栄養溶液は、リサイクルシステムを用いて膜を通過して循環させることができる。リサイクルシステムは、栄養溶液から酸素を排除したり、たとえば脱酸化装置を用いて栄養溶液から酸素を除去したりしてもよい。
【0061】
排水および類似の用途では、排水(栄養溶液)を複数回生物反応器の膜を通過して再循環させて所望の量の排水中の物質を除去できるだけの、十分な接触時間を与える必要があるであろう。接触時間は、生物層の性質、除去する物質の性質と濃度ならびにその他の要因により、1分〜10日間とすることができる。接触時間は約1分〜1日、1分〜12時間、1分〜1時間、1分〜30分、1分〜15分、1時間〜10日、1日〜10日、5日〜10日、1時間〜1日、1時間〜12時間、12時間〜24時間、または6時間〜12時間の間とすることができ、さらに、1、2、3、4、5、6、12、18、24、30あるいは45分、1、2、3、4、5、6、8、12、15、18あるいは21時間、または、1、2、3、4、5、6、7、8、9あるいは10日間であってもよく、10日以上であってもよい。したがって、排水が膜の外寸、流速、除去する物質の性質と濃度、生物層の性質とその他の要因次第で、約1回〜1000回膜を通過して再循環することができる。排水は、約1〜500、約1〜200、約1〜100、約1〜50、約1〜10、約10〜1000、約100〜1000、約500〜1000、約10〜500、約10〜100、約100〜500、約50〜100、または約10〜50回再循環することもでき、さらに約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、3400、400、500、600、700、800、900または1000回再循環することもできる。除去する物質の濃度を決定するための検出器をリサイクルシステムに配置してもよい。このようにすると除去する物質が検出器によって判定される規定の濃度まで降下するまで、排水が再循環することができる。検出器の性質は、除去する物質の性質によって決まるであろう。これは、濃度検出器、pH検出器、pHプローブおよびイオン濃度プローブあるいはその他の何らかの種類の検出器であってよい。本発明によれば生物反応器は、重金属を、それらを含有する流れから接収するのに使用することもできる。これは、排水流またはその他の流れであってよい。必要に応じて、重金属をたとえば抽出、燃焼またはその他の何らかの好適なプロセスによって摂取した生物層から回収することもできる。
【0062】
本発明の膜の生物層内に使用することのできる微生物や細胞の例として、P.chrysogenum、A.ferrooxidans、A.Niger、A.Oryzae(たとえばvar.oryzae,IFO30113菌株)、A.soya、ヒト繊維芽細胞などが挙げられる。
【0063】
本発明のひとつの特徴は、膜が固定された生物層から細胞を除去できるようにアクセスできるという点にある。膜は、その気体面上に支持基質を備えず、膜にアクセス可能としておくことができる。固定生物層からの細胞の除去は、たとえば食料など、細胞を使用することを目的としてもよいし、生物層の過剰な成長を抑止することを目的としていてもよい。動作中、生物層が成長して、生物層を通じて酸素および/または栄養溶液の拡散が低速化しそれによって産物の産生速度、栄養溶液からの不必要な成分の除去速度を低下させる可能性がある。したがって、許容可能な産生速度または除去速度に十分であるような酸素および/または栄養溶液の拡散速度を実現するためには、生物層の一部を除去できることが望ましい。膜は、生物層から固形産物を分離させるための剥離または振動または吹付け用の装置またはその他の好適な手段によりアクセス可能にすることができる。したがって固形産物は、剥離または振動または吹付けの少なくともひとつの工程を有するプロセスによって除去することができる。あるいは、栄養分を供給しないことによってあるいは養分のすべてを消費させることによって、生物層が存続不能であるように生物反応器を動作することにより、固形産物を除去してもよい。この場合、特定の種類の生物層に関しては、生物層が膜から自然に離脱してもよいし、剥離または振動または吹付け工程による除去の影響を、さらに受けやすくしてもよい。
【0064】
動作中、膜の栄養面に供給される栄養溶液は、膜を通して気体面で成長する生物層に拡散し、膜の有孔ネットワーク内に漏れるものはほとんどない。ほぼすべてのバイオマスが膜の気体面上または気体面内で成長するために、効果的に固定され、栄養溶液から分離される。比較的無酸素状態にある栄養溶液は、栄養溶液内の生物層の細胞または他の生体物質の成長を遅延させることができるので、生物付着を低減させることができる。実質的に無細胞の栄養溶液は、他の種類の生物反応器によって産生される細胞を充満した廃液に比べ処理しやすい。栄養溶液の拡散は、外圧なしに生じうる。したがって、これにより、膜の栄養面からの圧力下で膜と生物層を支持するための支持構造体や、さらにこのような圧力を供与するための装置の必要性もなくなる。
【0065】
ひとつの動作方式では、生物反応器の生物層は、好気性微生物または細胞を有している。この態様では、酸素を含有する気体が膜の気体面に提供され、酸化可能物質(たとえば炭水化物、アミノ酸、鉄(II)、塩)を含むその栄養溶液が、実質的に無酸素となるような方法で膜の栄養面に供給される。これは、膜に提供する前に栄養溶液から酸素を除去するかまたは栄養溶液中に当初から存在している酸素を生物層が即時消費して実質的にその後無酸素状態を維持するように、構成内で膜に栄養溶液を提供することによって実現可能である。栄養溶液の性質、生物層の性質など、生物反応器の構成によっては、栄養溶液中に当初存在していた酸素が、膜の最初の約10cmでまたは膜の最初の約5、4、3、2、1または0.5cmあるいは他の長さ)で消費され、さらに残りの膜が実質的に無酸素栄養溶液に曝露される。
【0066】
他の動作方式では、生物反応器の生物層が、嫌気性微生物または細胞を含んでいる。この態様では、無酸素気体を膜の気体面に供給することができる。無酸素気体は、水素、メタン、一酸化窒素、窒素またはその他の何らかの無酸素気体あるいはこれらの特定の組合せであってよい。無酸素気体は非酸化型気体であってもよいし還元型気体であってもよく、さらに酸化可能な気体であってもよい。この態様では、栄養流には、硫酸塩、硝酸塩または還元可能物質の混合物など、還元可能物質を含んでいてもよい。この態様での動作では、生物層は、栄養流の還元可能物質を減少させ、無酸素気体を酸化させる。還元可能物質の減少は、例えば栄養溶液から不要な溶解物を除去するように、不溶性物質(たとえば金属硫化物)の生産により行われる。
【0067】
他の動作方式では、膜は、膜の気体面上に第一の生物層を有しており、この第一の生物層は、好気性細胞または微生物を含んでいるが、膜の栄養面上の第二の生物層は嫌気性細胞または微生物を含んでいる。この態様は、たとえば、アンモニアおよび亜硝酸塩の同時硝化と脱窒化に使用し、窒素を生成することもできる。これは、排水処理の用途で使用したり、水産養殖に使用することができる。
【0068】
さらに動作中にバイオマスは、膜の気体側の酸素を含有する気体に曝露される。先行技術による多くの生物反応器では、バイオマスは、栄養溶液中に配置されるので、バイオマスに酸素を供給するために栄養溶液の酸化または曝気処理が必要となる。その結果、これらバイオマスのコストが非常に高くなる。本発明の生物反応器の設計では、このような酸化装置または曝気装置の必要がない。本発明による生物反応器では、膜の対(それらの間を栄養溶液が通過するため内腔を形成している)は、膜上および/または膜内におけるバイオマスへの酸素の供給のため、膜対間を空気が通過するのに十分な空間によって区切ることができる。この空間は、拡散流がそこを通過できるのに十分な広さとすることができる。気体(たとえば空気)は、空間を通過させるための別の装置を用いなくても、拡散、対流、風力または何らかのその他の手段によって、あるいはファン、ブロワー、ガス循環機、または対の膜の気体面を気体が通過するその他の手段によって空間を通過させてもよい。空間は膜の大きさによって決定することができる。これは、約2〜100mm(膜対の間)、または約2〜50、約2〜20、約2〜10、約5〜50、約5〜20、約5〜10、約10〜100、約50〜100、約80〜100、約10〜50、約10〜20または約8〜10mmであってもよいし、あるいは約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95あるいは100mmもしくは100mm以上であってもよい。
【0069】
多くの動作方式で、本発明の生物反応器は、栄養流が実質的に無酸素状態となるように動作する。これは、膜の栄養面での酸素要求細胞や胞子の成長を制限する。この特徴が、無酸素栄養溶液についての記述がなく実際には栄養供給流が無酸素状態であるようにするための何ら処置を講じていない多くの既知の生物反応器から、本発明を差別化している点である。たとえばJP10−179138には、栄養流の他面上に生物層を備えた膜を栄養流が流れ落ちるような生物反応器についての記述がある。ただしこの生物反応器では、膜に供給された後、膜を流れ落ちるので栄養流の酸化を抑止するための注意がなされておらず、それが無酸素性であるという表示もない。その発明で使用されている膜は、生物層の細胞にとって通行不能でなくてはならない。というのは、これは、膜の栄養面上で成長する細胞を抑止するための唯一の手段だからである。本発明では、それとは逆に、膜の絶対的完全性が重要というわけではない。というのは、細胞や胞子などは栄養溶液の無酸素の性質によって膜の栄養側で生育するのを阻害されるからである。これにより、JP10−179138の膜のコストにくらべ、本発明で使用する膜のコストを低くすることができる。
【0070】
生物反応器は、栄養溶液を大気に曝露させない方法で運転可能である。これは、2枚の膜間に通過させるか、または1枚の膜の2つの部分間を通過させるかまたは酸素透過不透過性膜と支持体の間を通過させるかによって達成可能であり、この場合支持体は、2枚の平行な膜間に配置し、それによって流入する栄養溶液内の溶存酸素が生物層によって急速に消費され、栄養溶液を比較的無酸素の状態に維持しておくことができる。このように、栄養流は、高価な噴霧および/または脱酸素装置を使用せずに、ほぼ無酸素状態にすることができる。あるいは、栄養溶液をたとえば窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンあるいは別の非酸化性気体またはそれらの混合物などで、実質的に無酸素の大気中で膜によって通過させてもよい。たとえば、膜を垂直方向に懸垂することができ、気体側上に酸素含有気体を置き、窒素雰囲気によって覆った栄養側に栄養溶液を滴下させる。任意に、これを比較的無酸素状態にしておくために、栄養溶液から酸素を除去するための酸素リムーバも配置してもよい。酸素リムーバは、たとえば、真空脱気装置などの脱気装置でもよく、あるいは栄養溶液に微量の酸素を含有する気体をバブリングさせるための噴霧器を含んでもよい。微量の酸素を含んでいる気体は、たとえば窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンまたは微量の酸素を含有しているその他の従来の気体のどれかであってよい。これはまた、重量比または体積比で約5%の酸素または約4、3、2、1、0.5、0.1%未満の酸素を有していてもよく、あるいは約重量または体積比で約0、0.1、0.5、1、2、3、4または5%の酸素を有していてもよい。栄養溶液が酸素リムーバを流出したのちの酸素濃度は、約10ppm酸素未満、もしくは約5、1、0.5、0.1、0.05または0.01ppm酸素未満を有しているかまたは、0、0.01、0.05、0.1、0.5、1、5、または10ppm酸素を有していてもよいし、あるいは約10%未満または約5、2、1、0.5あるいは0.1%未満、もしくは約0、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9あるいは10%未満の酸素飽和度であってもよい。酸素リムーバは、入口、入口マニホールド、出口、出口マニホールドまたは栄養溶液を保持するためのリザーバあるいは生物反応器の他の部分のどこかに配置しておいてもよいし、それぞれがこれら位置のどこかに配置されているような複数の酸素リムーバを備えていてもよい。
【0071】
出口から入口まで栄養溶液を再生利用させるためのリサイクルシステムも採用していてよい。リサイクルシステムは、栄養溶液に対する酸素のアクセスを防止することができるので好ましい。リサイクルシステムは、ひとつまたは複数のポンプ、ポンプ吸入管、ポンプ排水管、配水管、配水管バルブ、排出管、排出管バルブ、配水管タンクおよび排出タンクなどを有していてもよい。
【0072】
たとえばリサイクルシステムは以下を含むことができる。
栄養溶液を汲み出すためのポンプと、
ポンプから入口マニホールドへ繋がるポンプ排水管と、
出口マニホールドからポンプへ繋がるポンプ吸入管と、
液体が生物反応器に侵入できるようにするための配水管バルブ付き配水管と、
生物反応器から液体を除去するための排出管バルブ付き排出管。
【0073】
リサイクルシステムは、栄養液を保持するためのリザーバを有していてもよい。このリザーバは、タンク、コンテナ、ビーカ、ボトル、チャンバ、水槽または容器であってもよい。
【0074】
本発明の生物層は、たとえば生理食塩水および/または緩衝液の溶液など、養分を含まない第2の液によって栄養液を交換した後に生産物を産生し続けることができる。したがって、本発明により生物反応器を運転させるためのひとつの方法では、最初の周期に膜の栄養面に栄養溶液を供給し、第2の周期で膜に栄養を含まない第2の液を供給する。実質的に無細胞かつ無栄養の溶液では、生産物を分離する加工をさらに容易にすることができる。後者の方法では、最初の周期は、生物層の種類とバイオセパレータ(bioseparator)を運転するための条件によって異なると考えられる。第1の周期は、約1時間〜1日、または約1〜18時間、または約1〜12時間、または約1〜6時間、または約1〜3時間、または約1〜2時間、または約6時間〜1日、または約12時間〜1日、または約18時間〜1日、または約3時間〜18時間、または約6時間〜12時間であってもよく、さらには約1、2、3、4、5、6、12、18または24時間のいずれかであってもよい。第2の周期は、生物層の種類と生物反応器の動作条件によって決まり、第1の周期の長さによっても異なる。第2の周期は、約12時間〜12日、または約12時間〜8日、または約12時間〜4日、または約12時間〜2日、または約12時間〜1日、または約1日〜12日、または約4日〜12日、または約8日〜12日、または約1日〜6日、または約2日〜4日であってもよいし、さらには約12時間〜18時間、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11あるいは12日であってもよい。
【0075】
生物層の健全性かつ効率的な動作を促進するために、生物層を特定の温度に維持することができる。この温度は、各種生体物質が最適に能力を発揮することができる温度が異なるので生物層の種類によって決まる。温度は、生物反応器の動作中にわずかに変化する可能性がある。温度は、約−5〜120℃、または−5〜0℃、または0〜100℃、または0〜50℃、または0〜20℃、または20〜120℃、または50〜120℃、または90〜120℃、または10〜45℃、または10〜35℃、または10〜25℃、または20〜55℃、または30〜55℃、または40〜55℃、または15〜45℃、または17〜42℃、または20〜40℃、または20〜30℃、または30〜40℃であってよいし、約−5、0、5、10、15、17、20、25、28、30、35、37、40、42、45、50、60、70、80、90、100、110または120℃のいずれかであってもよい。温度は、生物層と接触する空気または流入液によってほぼ所望の温度に維持することができる。
【0076】
生物反応器は、たとえば薬剤、抗体、ワクチン成分またはその他の化学薬品など、膜の栄養面における液体から回収可能な可溶性産物および/またはたとえば食品や細胞など膜の気体面から回収可能であるような固形産物を産生する目的で動作してもよいし、また栄養液から汚染物質のような不要な成分(例えばC、N、S、P、Mn、Mg、Ca,Zn他重金属)を除去する目的で使用してもよい。さらにまた、生物反応器は、生物変換(bioconversion)によって、たとえば生物化学的酸素要求量(BOD)を減少させる目的での炭水化物の代謝、(汚染物質の負荷、硫黄、リン酸または窒素化合物)の除去などのための金属イオンのバイオ還元またはバイオ酸化)あるいは生物層への金属イオンなどの成分の生体吸収によって栄養液の汚染物質などの望ましくない成分の除去に使用することができる。これは、廃水処理、液体流からの金属イオンの生体吸収(biosorption)、鉱業廃液の再生、バイオリメディエーション(bioremediation)などを目的として適用してもよい。
【0077】
膜支持構造体は、膜を支持するのに好適な構造体であってもよいし、複数の膜を備えた生物反応器の場合には、本発明の膜すべてを支持するのに好適な構造体であってもよい。これはたとえば、フレーム(frame)、ブラケット、ケーシング、ハウジング、ラック(rack)またはスカフォルド(scaffold;足場)などであってもよい。これは、たとえばアルミニウム、鋼鉄、ステンレススチール、チタンまたはその他の好適な金属などから製造されていてもよいし、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリメチルメタクリレートまたはポリカーボネートなどといった好適な硬質プラスチックで製造されていてもよい。膜支持構造体は、垂直位置でまたは水平位置で膜(複数可)を支持することができる。膜支持構造体は、生物反応器内の膜の移動を助けるためのローラーとモーターを有していてもよい。
【0078】
本発明の膜は、ナノ細孔質、メソ細孔質、もしくはミクロ細孔質であってもよく、あるいはナノスケールおよび/またはメソスケールおよび/またはミクロスケールの細孔を組合せていてもよい。これは、生物層の細胞または胞子がそこを通過させることができるか、または通過することができないようにしてもよい。膜は、以下に述べる支持材を有しており、支持材の上および/または中に、下記のようなナノ細孔質の固体またはゲルも含むことができるが、本発明における膜は、ナノ細孔質の固体またはゲルを含まなくても良い。膜は、重量比または体積比で約0〜90%、または重量比または体積比で10〜90%、または約10〜50%、または約10〜30%、または約30〜90%、または約50〜90%、または約70〜90%、または約20〜80%、または約30〜70%、または約40〜60%のナノ多孔質ゲルを有していてもよいし、あるいは重量比または体積比で約0、10、20、30、40、50、60、70、80または90%のナノ多孔質ゲルを有していてもよい。膜は、平面であっても管状であってもよい。膜の厚さは約0.1〜10mmであってもよいし、または約0.1〜5mm、または約0.1〜2mm、または約0.1〜1mm、または約1〜10mm、または約5〜10mm、または約0.5〜5mm、または約1〜5mm、または約1〜2mmであってもよいし、さらには約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9あるいは10mmであってもよい。膜を調製するときには、多孔質材内の細胞の分布を当初ほぼ均質とすることができる。ただし、動作中に動作条件により、気体面の付近および/またはその上で細胞の成長が促進され、さらに膜の他の領域における細胞の成長が阻害されうる。その結果、気体面付近および/またはその上の細胞の濃度が非常に高くなり、膜の細胞の分布が動作中に不均質となる可能性がある。
【0079】
ナノ細孔質固体またはゲルは、前駆体溶液から調製することのできる好適な材料を有することができるが、ここで前駆体溶液は、細胞に損傷を与えずにそこに細胞を拡散するのに好適であるものが使用される。ナノ細孔質固体またはゲルは、たとえばシリカゲル、チタンゲル、ジルコンゲル、アルミナゲルまたは2種類以上のシリカ、チタン、ジルコンおよびアルミナ(シルカーアルミナゲルなど)を含有する混合ゲルのいずれを含んでいてもよく、寒天、アガロース、アルギン酸カルシウム、ペクチンまたはその他の生体高分子を含有していてもよい。なお、水酸化鉄からなるナノ細孔質無機ゲルが、鉄酸化細胞Acidithiobacillus ferrooxidansの作用の結果、膜上/膜内に発生する可能性がある。
【0080】
ナノ細孔質固体またはゲルの多孔性は約40〜90%、または約40〜75%、または約40〜60%、または約50〜90%、または約60〜90%、または約70〜90%、または約50〜80%、または約60〜70%であってよく、あるいは40、45、50、55、60、65、70、75、80、85または90%であってよい。細孔の平均径は、約1nm〜10ミクロン、または約1nm〜1ミクロン、または約1nm〜500nm、または約1nm〜100nm、または約1nm〜50nm、または約1nm〜10nm、または約100nm〜10ミクロン、または約500nm〜10ミクロン、または約1〜10ミクロン、または約10nm〜1ミクロン、または約50〜500nm、または約100〜200nmであってよく、あるいは約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800または900nmであってよく、さらには約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10ミクロンであってもよい。ナノ多孔質固体またはゲルは、その孔内に液体を含むことができ、この液体は水性液体とすることができる。水性液体は、生体のための養分を含んでいてもよく、さらに生体によって産生される産物を含んでいてもよく、また、電解質、塩分、ビタミン、成長因子および/または溶存気体などの他の成分を含んでいてもよい。
【0081】
生物層は、たとえばバイオフィルム(biofilm;生物膜)などであってもよい。生物層は、細胞、細孔または他の生体もしくはその組合せを有することができる。生物層は、抗生剤、薬剤、抗体、ワクチン、化学薬品、食品材料、細胞またはホルモンなどといった所望の産物を産生することができ、たとえばペニシリンを製造するPenicillium chrysogenumを含んでもよい。鉛などの金属(金属イオンの形でもよい)を吸着したり他の廃物を除去したりあるいは、流出液の汚染物質の除去が可能な細胞、たとえば、炭水化物材を除去することができるAspergillus nigerなどを含んでいてもよい。生物層は、膜上および/または膜内に配置してもよく、さらに生物層が生物反応器内の気体に曝露されるように、膜の気体面上および/または気体面内に配置してもよい。このように、生物反応器は所望の産物の産生または、たとえば汚染物質や不必要な物質などを栄養流として膜の栄養面に提供される液体流から、あるいは膜の気体面上で生物層に提供される気体流から除去することができる。たとえば、微生物は、気体流から汚染物質(たとえばオゾン、H2S、SO2など)を除去するのに介在可能である。この場合、膜の気体面は、気体チャンバまたはハウジング内に配置してもよく、気体流は、生物層を通過して気体チャンバを再循環してもよいし、さらに許容可能なレベルまで削減するため汚染物質の濃度に対して十分な時間再循環させることもできる。
【0082】
支持材は、膜の動作条件下で非生物分解性の物質から作成できる。支持材は、親水性であっても疎水性であってもよく、多孔材または織物材または不織布材またはスポンジ様材料または連続気泡材または、支持体の第1の面と第2の面を接続している細孔を有する他の何らかの材料を有していてもよい。支持材は、たとえば、織物または不織布材または不織布多孔材のいずれであってもよい。繊維材は、ガラス繊維マットまたは綿であってもよいし、不織布多孔材はオープンセルフォーム(open−cell foam)などのマクロ細孔質材であってもよいし、あるいはメソ細孔質および/またはミクロ細孔質材であってもよい。これは、硬質であってもよいし、軟質であってもよい。支持体の気孔率は約40〜90%、または約40〜75%、または約40〜60%、または約50〜90%、または約60〜90%、または約70〜90%、または約50〜80%、または約60〜70%であってもよく、さらには約40、45、50、55、60、65、70、75、80、85または90%であってもよい。支持体の細孔は約10〜200ミクロン、または約10〜100ミクロン、または約10〜50ミクロン、または約50〜200ミクロン、または約100〜200ミクロン、または約50〜150ミクロンであってもよく、さらには、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150または200ミクロンであってもよい。織物または不織物のcmあたりの本数(strands)は、約10〜100本/cm、または約20〜100本/cm、または約40〜100本/cm、または約60〜100本/cm、または約10〜60本/cm、または約10〜40本/cm、または約25〜70本/cm、または約30〜60本/cm、または約35〜50本/cm、または約35〜45本/cmであってもよく、さらに約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100本/cmであってもよい。糸の太さは、約20〜1000ミクロン、または約20〜500ミクロン、または約20〜200ミクロン、または約20〜100ミクロン、または約100〜500ミクロン、または約200〜500ミクロン、または約300〜500ミクロン、または約50〜400ミクロン、または約100〜300ミクロン、または約500〜1000ミクロン、または約750〜1000ミクロン、または約500〜750ミクロンであってもよく、さらには約20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900または1000ミクロンであってもよい。支持体は、ガラス繊維マット、ガラス織布マット、ポリエステル、細孔質ポリオレフィン(たとえばポリエチレンまたはポリプロピレンなど)、細孔質フルオロポリマ(たとえばポリフッ化ビニリデンまたはポリ四フッ化エチレンなど)、綿、ポリエステル綿、絹、純毛、焼結ガラス、焼結金属またはその他の多孔質材あるいは繊維材を有していてもよい。
【0083】
支持材料は、親水性材であってもよい。表面を清掃するためおよび/または表面の親水性をさらに高めるために、使用前に支持材を処理してもよい。処理の詳細は、材料の性質による。たとえば、使用する処理は、たとえば水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性溶液に支持材を曝露させるというプロセスを含んでいてもよい。アルカリ性溶液は、約0.1〜5モル濃度、または約0.1〜1モル濃度、または約0.1〜0.5モル濃度、または約0.5〜5モル濃度、または約1〜5モル濃度、または約3〜5モル濃度、または約0.5〜2モル濃度であってよく、あるいは約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5または5モル濃度であってもよい。ガラス織布マット(またはほかのガラス繊維)を含む支持材を処理するときには、曝露するプロセスは、約12〜48時間、または約18〜36時間、または約20〜28時間、または約12〜24時間、または約12〜18時間、または約24〜48時間、または約36〜48時間であってよく、あるいは約12、18、24、30、36、42または48時間であってもよい。しかし、綿、ポリエステル綿またはポリエステルを含む支持材を処理する場合には、曝露プロセスは、支持材に損傷を与えないようにするためにもっと短い時間でなくてはならず、約1〜20分、または約1〜10分、または約1〜5分、または約10〜20分、または約15〜20分、または約2〜15分、または約3〜10分、または約4〜7分であってよく、あるいは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18または20分であってもよい。使用することのできるもうひとつの処理法として、水プラズマ(たとえばRFジェネレータ内に形成することが可能)に支持材を曝露させる方法がある。曝露は、約1〜20分、または約1〜10分、または約1〜5分、または約10〜20分、または約15〜20分、または約2〜15分、または約3〜10分、または約5〜8分であってよく、さらに約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18または20分であってもよい。ひとつの例として、表面に水酸基を導入して湿潤性を持たせるために、13.56mH RMで動作する40W無線周波数プラズマジェネレータ内で約5.0×10−2ミリバールの気圧下、水プラズマ内で約6秒間支持体をエッチングしてもよい。あるいは、オーブンを用いて、さらに親水性を増すために、ガラス製支持材から疎水性材を焼き尽くしてもよい。オーブンの温度は、約300〜700℃、または約300℃〜500℃、または約300℃〜400℃、または約500℃〜700℃、または約500℃〜700℃、または約400℃〜600℃であってもよく、さらには約400、450、500、550、600、650または700℃であってよい。疎水性材をガラス製支持材から焼き尽くすのに必要な時間は、約5分〜36時間、または約10分〜24時間、または約30分〜18時間、または約1時間〜12時間、または約2時間〜6時間、または約5分〜12時間、または約5分〜6時間、または約5分〜1時間、または約5分〜30分、または約10分〜30分、または約1時間〜36時間、または約6時間〜24時間、または約12時間〜24時間、または約18時間〜24時間であってよく、または約5、10、15、20、25、30、40あるいは50分であってもよく、さらには約1、2、3、4、5、6、9、12、18、24、30または36時間であってもよい。
【0084】
前駆体溶液は、細胞に損傷を与えずにそこに細胞を拡散させるのに好適で、なおかつ細胞および支持体に損傷を与えずにナノ細孔質材に変換可能である液体であってよい。前駆体溶液の一例に、アルカリ性コロイドシリカ溶液がある。これらの溶液は一般にpH値が約10であるが、約9〜11、または約9.5〜10.5、または約9〜10、または約10〜11であってよく、あるいは9、9.5、10、10.5または11であってもよい。コロイダルシリカ溶液中のシリカの固体濃度は、重量/重量ベースで約30%、または約15〜50%、または約20〜45%、または約25〜40%、または約30〜35%、または約15〜40%、または約15〜30%、または約25〜50%、または約35〜50%であってよく、あるいは約15、20、25、30、35、40、45または50%であってもよいし、あるいは体積/体積ベースで約17%、または約10〜20%、または約12〜20%、または約15〜20%、または約16〜20%、または約10〜18%、または約10〜16%、または約10〜14%、または約12〜19%、または約14〜18%、または約16〜17%であってもよいし、さらには約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20%であってもよい。
【0085】
ナノ多孔質固体またはゲル内に固定する細胞は、前駆体溶液内に拡散させることができる。前駆体溶液の細胞の濃度は、約101〜1012cfu/ml、または約101〜105cfu/ml、または約101〜103cfu/ml、または約109〜1012cfu/ml、または約1010〜1012cfu/ml、または約105〜109cfu/ml、または約106〜108cfu/ml、または約5×106〜5×107cfu/ml、または約107〜109cfu/ml、または約5×107〜5×108cfu/ml、または約105〜107cfu/ml、または約5×105〜5×106cfu/mlであってよいし、あるいは約101、102、103、104、105、5×105、106、5×106、107、5×107、108、5×108、109、1010、1011、1012cfu/mlであってもよい。
【0086】
ナノ多孔性固体またはゲルは、たとえば、シリカゲル、チタンゲル、ジルコンゲル、アルミナゲルまたはシリカ、チタン、ジルコンおよびアルミナのうちの2つ以上(例:シリカ−アルミナゲル)を有し、寒天、アガロース、アルギン酸カルシウム、ペクチンまたは生体高分子を含んでいてもよい。混合ゲルは、1つのプロセスとして、例えばシリカチタニアゲルをテトラアルキルチタネート(たとえばテトラメチルチタネート Ti(OMe)4)とテトラアルコキシシラン(たとえばテトラメトキシラン Si(OMe)4 TMOS)の制御された加水分解を含むプロセスによって作成することができる。あるいは、ゲルは、たとえば、メチルトリメトキシシランまたは反応性アルキルアルコキシシラン(たとえば、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)など、トリアルコキシシランを用いて作成することもできる。前駆体溶液は、pHを変更すること(たとえば酸性化)あるいは、前駆体溶液から揮発性液を蒸発させることによってナノ多孔性固体あるいはゲルに変換してもよい。蒸発工程では、前駆体溶液を有する支持材に、気体を通過および/または気体を加熱し通過させる工程を有していてもよい。加熱工程は、揮発性液を十分蒸発させる温度であるが、支持材または、存在する場合の細胞および/または胞子を劣化させないようにする。温度は、約30〜90℃、または約30〜80℃、または約30〜60℃、または約30〜40℃、または約50〜80℃、または約40〜60℃であってよいし、あるいは約30、40、50、60、70、80または90℃であってもよいし、支持材およびそこにある任意の細胞および/または胞子がその温度に耐えることができるならば90℃より高くてもよい。十分な量の揮発液を蒸発させて支持材上および/または内のナノ細孔質固体またはゲルを形成することができる。
【0087】
このようにして、前駆体溶液であるゾル(たとえばヒドロゾル)を支持材に注入し、ゾルの性質によって異なる好適なゾル−ゲルプロセスによって支持材中でゲル状にさせ、さらに、pH調整、温度調整、揮発性液の蒸発、金属イオンを伴う試薬や沈殿物の金属イオンへの曝露の各工程のうち1つまたは複数のプロセスを含むことができる。
【0088】
調製プロセスのひとつの例では、複数の孔を含んでいる支持材が、細胞がそこに拡散されているコロイダルシリカ溶液に曝露されて、支持材の細孔内の細胞がそこに固定されているナノ細孔性シリカゲルが形成されるように、孔内のコロイダルシリカ溶液のpHを下げる。pHは、約4〜約8、または約5〜約7、または約4〜約7、または約4〜約6、または約5〜約8、または約6〜約8まで下げることができ、さらには約4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5または8まで下げることができる。pHを下げる工程では、バルク前駆体溶液中からその細孔内に前駆体溶液を有する支持体を除去する工程と、所望のpHの水溶液に支持体を浸積させる工程とを含むことができる。あるいは、コロイダルシリカ溶液を上記のように所望のpH約4〜8に調節する。次に細胞をコロイダルシリカ溶液に添加し、ゲル化が始まる前に、溶液を支持材に注入する。この他の方法は特に、高いpH環境の影響を受けやすい細胞で使用するのに特に有効である。
【0089】
前駆体溶液の別の例としては、アルギン酸ナトリウムまたは寒天やアガロースの水溶液が挙げられる。前駆溶液中の溶質の濃度は、前駆溶液の粘度が支持体中に注入するのに好適でなくてはならない。濃度は、分子量および溶質の性質ならびに支持材の性質(細孔の大きさまたはメッシュの大きさ)などの要因によって異なる。濃度は、重量比または体積比で約0.5%〜40%であってもよいし、または約0.5%〜30%、または約0.5%〜20%、または約0.5%〜15%、または約0.5%〜10%、または約0.5%〜5%、または約1%〜10%、または約1%〜5%、または約5%〜40%、または約10%〜40%、または約15%〜40%、または約20%〜40%、または約30%〜40%、または約5%〜30%、または約10%〜20%であってもよく、さらに重量比または体積比で約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35または40%であってもよい。水溶液の水分の蒸発により支持材上および/または支持材内部のゲルとして溶質を沈殿させることができる。ナノ細孔性固体またはゲルが寒天を含んでいる場合には、前駆溶液は、それを溶解するために寒天のゲル温度より高い温度まで、水性液中で寒天を加熱することによって作成できる。ゲル化の温度は、寒天の等級によって異なり、約25〜約70℃である。細胞が溶解には効果があり損傷は受けないような十分に低いゲル化温度となるように、寒天の等級を選択することが好ましい。ゲル化温度は、従来技術では約50℃以下、約45℃または約40℃以下および約30、35、40、45および50℃であってもよい。前駆溶液中の寒天の濃度は重量比または体積比で約0.5〜5%、または約0.5〜4%、または約0.5〜3%、または約0.5〜2%、または約1〜3%であってよいし、あるいは約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4または5%であってもよい。前駆体溶液を注入した支持材の冷却により、支持材内および/または支持材上の寒天ゲルが沈殿する。寒天のゲル化温度が細胞に損傷を与えうるほど極めて高い場合には、前述のように細胞を前駆溶液中に含まずに、寒天ゲルを支持材内に形成してもよく、生成される膜の形成後に細胞を接種(inoculated)することができる。ナノ細孔質固体またはゲルにアルギン酸カルシウムが含まれている場合には、前駆溶液は、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムといった可溶性アルギン酸塩の水溶液とすることができる。アルギン酸の濃度は重量比または体積比で約1〜10%、または約1〜5%、または約1〜3%、または約5〜10%、または約7〜10%、または約2〜7%、または約3〜5%であってよく、あるいは約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10%であってもよい。このように、水に不溶性であるアルギン酸塩の金属イオンの溶液に、前駆体溶液を注入した支持体を浸積すると、支持材内および/または支持材上のたとえばアルギン酸カルシウムなどの不溶性アルギン酸塩が沈殿する。アルギン酸塩は、たとえばアルギン酸カルシウムであってもよく、その溶液は重量比または体積比で約1〜5%、または約1〜4%、または約1〜3%であってよく、あるいは重量比または体積比で約1、2、3、4または5%であってもよい。
【0090】
図1に関しては、膜10は栄養面12および気体面14を備えており、その中およびその上にナノ細孔性ゲル18を有する繊維性支持材16を有している。固定生物層20は、気体面14上と気体面14近くの膜10に配置されている。繊維性支持材16には、サイジング(sizing)剤を用いないガラス繊維織物メッシュを有しており、ナノ細孔性ゲル18は、ナノ細孔性シリカゲルを有している。生物層20は、気体面14近くの膜20内に挿入されている菌類22および気体面14上またはその付近に菌類24を有している。菌類22および24は、ペニシリンを産生することのできるたとえばPenicillium chrysogenumであってもよい。
【0091】
動作中、膜10により、矢印21の方向に、栄養面12から固定生物層20まで栄養溶液26が拡散できる。空気が、生物層20の面28に供給され、菌類22および24の成長ならびにそれに続く生物層20による産物(たとえばペニシリン)の産生が促進される。これらの領域内が無酸素の傾向になると、栄養溶液26ならびに膜10の内部における菌類の成長は損なわれる。産物は、矢印23の方向に膜10を介して生物層20から拡散される。
【0092】
図2は、上および/または中に生物層のある膜を調製させるためのプロセスを表している図式である。図2に関しては、支持材16は、たとえばガラス繊維織物マットなどの繊維メッシュである。使用前に支持材16を処理し、サイジング剤や他の汚染物質を表面より洗浄し、その表面の親水性をさらに高くすることができる。支持材16をアルカリ性溶液たとえば約1Mの水性水酸化カリウム水溶液に約24時間曝露させる処理が行われる。膜を作成するプロセスには、pHが当初10前後で、固形分が約30%w/wであるようなコロイダルシリカ溶液を、たとえば約1〜5N、または約1〜3N、または約3〜5N、または約2〜5N、あるいは約1、2、3、4または5Nになるように、硫酸や塩酸などの酸溶液を添加することによってpHを約6にまで調節するプロセスが含まれる。たとえば、前駆体溶液30を調製するために、P.chrysogenumなどの菌類22を、約109cfu/mlを添加する。前駆体溶液30内に支持材16を浸積することによって、前駆体溶液を支持材16に注入する。前駆体溶液30は、pH約6に調節した後一般に約30分以内に短期間でゲル化するので、ゲル化する前に前駆体溶液30から支持材16を除去することが必要である。前駆体溶液30から支持材16を除去するときには、前駆体溶液30がそこに注入された状態を保つようにする。周囲条件(ambient conditions)の下では、前駆体溶液30が、支持体16内でゲル化し、ほぼ等しく全体に菌類22が分布し、そこにナノ細孔質ゲル18が含まれる膜32を形成する。膜32の栄養面12に栄養液34を提供すると、栄養溶液34が膜32を浸透する。気体面14を空気に曝露させても、空気は膜32をほとんど浸透することはない。というのは、その細孔が液で満たされているからである。これにより、気体面14またはその付近における菌類22の成長が促進され、膜32の他のあまり酸素のない領域では、成長が阻害される。したがって菌類22が当初対称的に分布していた膜32で、非対称の分布をなし、膜10が気体面14上および気体面14内に生物層20(菌類22を含む)を持つようになる。
【0093】
図2aは、生物層が固定された膜を調製させるための別のプロセスを示す他の図を表している。図2aでは、膜は支持体16を有している。支持材16は、たとえば綿などの繊維性メッシュで、スプレー70は、その中に菌類22を含む小滴72を含んでいる。支持材16の気体面14へ、スプレー70の曝露により、菌類22が、気体面14上に堆積し、菌類22の一部が支持材16にも浸透可能となる。膜の栄養面12を栄養溶液78に曝露させると、溶液78が、支持材16を通過して菌類22まで拡散することができ、支持材16内の空気と置き換わる。これにより、気体面14またはその付近における菌類22の成長が促進され、膜の他のあまり酸素がない領域における成長が阻害される。したがって、液体面14上と、さらには部分的に気体面14の内部に生物層20が形成される。
【0094】
図3に関しては、生物反応器50が膜支持構造体52と、膜支持構造体52によって縦方向に支持されている膜10を備えている。膜10のそれぞれは、平面をなし、他の膜10と平行な方向を向いている。膜10は、対で配置されており、各対が、その断面が図に示されているような平坦な管を形成するように接続されている。各膜10には、その上に固定された生物層20があるので、栄養溶液が、そこに拡散することができる。生物層20は、ペニシリンを産生することができる、たとえばP. chrysogenumといった菌類を有していてもよい。生物反応器50は、各対の膜間に距離を維持するためのスペーサ54を備えている。各膜10は、生物層20から余分なバイオマスを除去するためのスクレーパ56を備えている。生物反応器50は、膜10の栄養面に栄養溶液を注入させるための入口58を備えており、さらに、各対の膜間から栄養溶液を除去するための出口60も備えている。入口58は、入口マニホールド62に接続されており、出口60は出口マニホールド64に接続されている。
【0095】
動作中、栄養溶液は、入口マニホールド62および入口58を通じて供給される。栄養溶液は、生物層20の菌類に好適な栄養溶液であり、たとえば炭水化物を含有していてもよい。生物反応器50は、好気性環境内に配置されているので、生物層20が曝気される。栄養溶液は、生物層20まで膜10を介して拡散することが可能となる。生物層20には、このようにしてペニシリンなど所望の産物を産生するのに必要な条件が提供される。この産物は、膜10を通じて拡散し、出口60および出口マニホールド64を通じて栄養溶液が生物反応器50から流出する。流出栄養溶液を、所望の産物を分離するために回収してもよい。生物層20がその各部分で酸素の欠落により産物の産生が遅れるような厚さとなった場合には、スクレーパ56を生物層20に対して下方に下ろすことにより、そこから固形物を除去することができる。別の動作方式では、約12〜24時間のいずれかの第一の時間のあいだ、上記のように膜10に栄養溶液を供給する。この第一の期間後に生理食塩水を入口マニホールド62および入口58通じて、第二の時間の間、膜10に供給し、それにより、生物反応器50内の栄養溶液と置き換える。第二の期間は、約1〜5日間のいずれかの間であってよい。第二の期間中、生物層20は上記のように所望の産物を産生する。この産物は、膜10を通じて拡散し、生理食塩水中で、出口60および出口マニホールド64を通じて生物反応器50から流出する。流出生理食塩水からの所望の産物の分離は容易に実現することができる。
【0096】
図3aは、図3に示されている生物反応器内で使用することのできる入口マニホールドを表している。図3aでは、入口マニホールド63は、酸素リムーバ65に繋がっている。酸素リムーバは、便利な酸素リムーバならどのようなものでもよく、たとえば真空脱気装置などといった脱気装置を備えているか、またはたとえば窒素、二酸化炭素などといった酸素をほとんど含有しない気体を栄養溶液を介してバブリングさせるための噴出装置を備えていてもよい。マニホールドパイプ67は、酸素リムーバ65と入口58に接続している。動作中、栄養溶液は、入口マニホールド63を通じて酸素リムーバ65に提供され、ここで、たとえば約5ppm未満などの低いレベルまで、酸素が低減される。次に比較的無酸素の栄養溶液を、生物反応器の膜に栄養溶液を供給する入口58にマニホールドパイプ67を通じて送り込む。
【0097】
図3bは、本発明による生物反応器の出口から入口に液体を再循環させるためのリサイクルシステムを示している。図3bでは、配水管バルブ620が、生物反応器50(図3bではなく図3に表示)の入口マニホールド62、配水管630およびポンプ出口パイプ640に接続されている3方向のバルブである。排出管バルブ650は、生物反応器50の出口マニホールド64(図3)、排出管660およびポンプ入口パイプ670に接続されている。生物反応器50の通常の動作では、配水管バルブ620は、パイプ640からマニホールド62へ液体が流れるが、ライン630は閉じるように構成され、排出管バルブ650は、液がマニホールド64からパイプ670に流れることができるが、ライン660は閉じるように構成されている。このような構成では、ポンプ610は、出口マニホールド64から液体をパイプ670および640を介して入口マニホールド62まで汲み出すが、液体はライン630または660内を流れることはない。液体を生物反応器50に追加するためにはたとえば、生物反応器の動作開始時などに、バルブ620を液体がライン630から入口マニホールドまで通過するが、パイプ640にまでは通過しないように構成する。同様に、生物反応器50から液体を除去するため、たとえばそこから産物を分離するために分離装置に液体を送るため、バルブ650を、液体が出口マニホールドから排出管660まで通過するがパイプ670までは到達しないように構成する。
【0098】
図3cは、本発明による生物反応器の出口から入口まで液体を再循環させるための他のリサイクルシステムを示している。図3cでは、ポンプ710は、ポンプ入口パイプ720およびポンプ出口パイプ730を備えている。ポンプ出口パイプ730は、配水管タンク740に出力する。バルブ760を取り付けた配水管750はタンク740に出力する。タンク740は、生物反応器50の入口マニホールド62(図3cではなく図3に表示)に接続されている。生物反応器50の出口マニホールド64は、ポンプ入口パイプ720と排出管バルブ790を取り付けた排出管780に接続されている排出タンク770に出力する。タンク740と770は、任意に、その中に液体から酸素を排除する手段を備えることができる。このような手段は、たとえば、不活性ガスの噴霧、フタ、可動式プランジャーまたはその他の好適な手段から構成される。生物反応器50の正常な動作時には、配水管バルブ760は閉じてライン750を通じてタンク740から液体が侵入するのを防ぎ、排出管バルブ790が閉じて排出管780を通じてタンク770から液体が流出するのを防ぐ。このような構成では、液体がタンク740から入口マニホールド62に流れ、出口マニホールド64を介してタンク770に帰還する。ポンプ710は、パイプ720と730を通じて、タンク770からタンク740へ液体を汲み出す。生物反応器50に液体を追加するためには、たとえば生物反応器の動作開始時に、バルブ760を開いて、液体が、ライン750からタンク740へ流れるようにすることができる。同様に、生物反応器50から液体を除去するため、あるいはそこから産物を分離させるため分離器に液体を流すために、バルブ790を開いて液体をタンク770から排出管780へ送ることができる。
【0099】
図3dは、本発明による別の生物反応器を示している。この生物反応器は、連続して構成された対合膜を備えている。図3dでは、生物反応器800は、膜支持構造体810と、それにそれぞれ支持されている、膜830と831、832と833および834と835の対820、821および822を備えている。対820、821および822は、内部領域836、837および838をそれぞれ備えている。入口840は、対820の内部領域836に接続され、出口850は対822の内部領域838に接続されている。接続パイプ860が内部領域836と837に接続し、ポンプ870に提供され、接続パイプ865が内部領域837と838に接続し、ポンプ875を提供している。動作中、栄養溶液は、パイプ840を通じて、内部領域836に流れ込み、そこから、膜830と831を通じてその上の生物層に拡散する(図示せず)。産物は膜を通過して内部領域836に拡散する。次に、栄養溶液は、パイプ860を通じて領域836から流出し、ポンプ870によって内部領域837にくみ出されるが、ここで膜830と831に関して上に述べたように膜832と833を通じて拡散していく。パイプ865を通じて内部領域837を流出する際に、栄養溶液は、ポンプ875によって、内部領域838に汲み出されるが、ここで膜830と831に関して上に述べたように、膜834と835を通じて拡散していく。最後に、膜830〜835によって産生されたすべての産物を含有する栄養溶液が、出口850を通じて流出する。栄養溶液は、図3bおよび図3cに示されているようなリサイクルシステムにより再循環することができる。
【0100】
図4は、本発明による他の生物反応器の図である。図4の上側の部分は、生物反応器80の側面図であり、下側の部分はその垂直断面図を表している。生物反応器80は、膜支持構造体81と、膜支持構造体81上に支持された膜10を有している。膜10の上には、生物層20が支持されている。膜支持構造体81は、時計回り方向に回転することのできるローラー82とパーフォレーテッドローラー(perforated rollers)84を備えている。ローラー82および84のうちの少なくともひとつが、矢印86の方向に膜10を移動させるためにモーター85によって駆動される。膜支持構造体81は、膜10の部分88がそれぞれ他の部分90に平行となり、それらの間に内部領域92が形成されるような構成で、膜10を支持する。生物反応器80は、パーフォレーテッドローラー84を介して栄養溶液を内部領域92に流入させるための入口93と、内部領域92から栄養溶液を除去するための出口94とを備えている。入口93は、入口マニホールド96とパーフォレーテッドローラー84に接続されている。生物反応器80は、膜10から固形物質を除去するためのスクレーパ98を備えている。
【0101】
動作中、栄養溶液は、入口マニホールド96と入口93を通じてパーフォレーテッドローラー84に供給される。栄養溶液は、生物層20の細胞にとって好適な栄養溶液であり、たとえば炭水化物などを含有していてもよい。生物反応器80は、好気性環境に配置されているので、生物層20が曝気される。栄養溶液は、ローラー84から領域92に流入するが、ここから、生物層20まで膜10を通じて拡散することができる。このように生物層20に、たとえばペニシリンなどの所望な産物を産生するのに必要な条件が与えられる。この産物は、膜10を通じて領域92に拡散し、出口94を通じて栄養溶液中で生物反応器80から流出する。流出栄養溶液は、所望の産物を分離するために回収することができる。生物層20が、その部分に対する酸素の欠落によって産物の産生が遅滞するような厚さになった場合には、モーター85を運転し膜10を矢印86の方向に移動させることができる。膜10はそれにより、生物層20から余分なバイオマスを除去するために配置されているスクレーパ98を移動する。余分なバイオマスは、使用するため、あるいはさらに加工するために回収することができる。別の動作方式では、膜10の上で生物層20を成長させ、バイオマスを除去するのに必要な時間になったときに、それを剥離するためにスクレーパ98がその部分を通過するように、モーター85が低速で連続運転する。たとえば、生物層20の成長に適した条件に曝露されている膜10の全長がLメーターであり、除去する必要になるバイオマスが十分に成長するのに必要な時間をTとし、モーター85によって駆動されるローラー82の円周がCメートルである場合、モーター85はローラー82を L/(T×C)回転/時間で回転させる。
【0102】
図5は、本発明によるさらに他の生物反応器の図である。図5の上の部分は、生物反応器100の側面図であり、下の部分はその水平断面図である。生物反応器100は、膜支持構造体102と、膜支持構造体102の要素をなしているインレットリング107とアウトレットリング109との間に支持されている内膜104と外膜106とを備えている。膜104と106は、管状で同心円上であり、それらの間に内部領域108が形成されている。インレットリング107とアウトレットリング109内の穿孔が、領域108に貫通しており、リング107から領域108までさらには領域108からリング109まで液体が通過するのを可能にしている。膜104と106はそれぞれ、固定生物層120と122をそれぞれ有しており、その気体面(124と126)上に細胞を有している。スペーサ105は、膜104と106間の距離を維持するため内側領域108内に配置されている。生物反応器100は、インレットリング107を介して領域108に栄養溶液を侵入させるための入口110と、アウトレットリング109を介して領域108から栄養溶液を除去するための出口112とを備えている。生物反応器100は、生物層120と122からそれぞれ固体を除去するためのスクレーパ114と115を備えている。モーター116は、それぞれスクレーパ114と115に相対的に膜104と106を回転させ、膜104と106の生物層120と122から余分なバイオマスを除去するのに役立つように提供されている。
【0103】
動作中、栄養溶液は、入口110を通じてインレットリング107に提供される。栄養溶液は、生物層120と122の菌類に好適な栄養溶液であり、たとえば炭水化物などを含有していてもよい。生物反応器100は、好気性環境内に配置されているので、生物層120と122が曝気される。栄養溶液は、インレットリング107から領域108へ流入し、そこから、生物層120と122にそれぞれ、膜104と106を通じて拡散することができる。したがって、生物層120と122には所望の産物を産生するのに必要な条件が与えられる。この産物は、膜104と106を通じて領域108に拡散し、アウトレットリング109と出口112を通じて栄養溶液中に溶けて生物反応器100から流出する。流出栄養溶液は、所望の産物を分離させるために回収できる。生物層120と122が産物の産生がその部分に対する酸素の欠落によって遅滞するような厚さになった場合には、モーター116を動作させて膜104と106を縦軸を中心に回転させることができる。これにより、膜104と106をそれぞれスクレーパ114と115が通過するが、これらのスクレーパは、生物層120と122から余分なバイオマスを除去できるように配置されている。余分なバイオマスは、使用するためあるいはさらに加工するために回収することができる。他の動作方式では、膜の上で生物層120と122を成長させて、膜104と106の部分からバイオマスの除去が必要になったら、これを剥離するためにスクレーパ114と115がその部分を通過するように、モーター116が低速で連続運転する。
【0104】
図5aは、本発明による他の生物反応器の図である。図の上部は、生物反応器200の側面図を表しており、下部は、その水平断面図を表している。生物反応器200は、膜支持構造体202、内部支持体204(支持構造体202の一部)および、膜支持構造体202の要素である入口リング107と出口リング109間に支持されている膜106を有している。内部支持体204は、栄養溶液に不浸透である物質を含有している非多孔質支持体であり、たとえば、ステンレススチールやポリカーボネートといったその他の好適な硬質ポリマー材を含んでいてもよい。膜106は、管状で内部支持体204と同心円上にあり、これら両者間に内部領域108が形成されている。入口リング107と出口リング109の穿孔は、領域108に貫通しており、リング107から領域108および領域108からリング109へ液体が通過するのを可能にしている。膜106は、その気体面126に菌類を含んでいる固定生物層122を備えている。スペーサ105は、膜106と内部支持体204との間に距離を維持しておくため内部領域内108内に配置されている。生物反応器200は、入口リング107を通じて領域108に栄養溶液を侵入させるための入口110と、出口リング109を通じて領域108から栄養溶液を除去するための出口112とを備えている。生物反応器200は、生物層122から固形物質を除去するためのスクレーパ115を備えている。モーター116は、スクレーパ115に相対的に膜106を回転させて膜106の生物層122から余分なバイオマスを除去するのに役立つよう提供されている。
【0105】
動作中、栄養溶液は、入口110を通じて入口リング107に供給される。栄養溶液は、生物層122の菌類に好適な栄養溶液で、たとえば炭水化物などを含有していてもよい。生物反応器200は、好気性環境に配置されているので、生物層122が曝気される。栄養溶液は、入口リング107から領域108に流入し、そこから、膜106を通じて生物層122に拡散することができる。したがって生物層122には、所望の産物を産生するのに必要な条件が与えられる。この産物は、膜106を通じて領域108に拡散し、出口リング109と出口112を通じて栄養溶液中で生物反応器200から流出する。流出栄養溶液は、所望の産物を分離するために回収することができる。生物層122がその各部分に対する酸素の欠落によって産物の産生が遅滞するのに十分な厚さになったときに、モーター116を動作させて、膜106が縦軸を中心に回転するようにすることができる。したがって、生物層122から余分なバイオマスを除去できるように配置されている、膜106がスクレーパ115を通過する。余分なバイオマスは使用するためにあるいはさらに加工するために回収することができる。別の動作方式では、膜上で生物層122を成長させて、膜106の部分からバイオマスの除去が必要になったら、その部分を剥離させるためにスクレーパ115が通過するようにモーター116が低速で連続運転する。
【0106】
図20に関しては、生物反応器300が、その気体面315上に生物層310を有する膜305を備えている。膜305の栄養面320は、栄養チャンバ330内で栄養溶液325に曝露され、生物層310は、外側の空気チャンバ330に曝露されている。膜305は、必要に応じて、図示されていない支持基質によって支持されているかまたはそれ自体自己支持していてもよい。栄養溶液325は、任意に、カプセルに封入され、その内部に懸濁されている嫌気性細胞(図示せず)を備えていてもよい。生物反応器300は、リサーキュレータ(recirculator)(ポンプなど)340によって矢印338の方向に膜305を通じて養分325を再循環させるための、リサイクルシステム335も備えている。この方向に再循環させることによってチャンバ330は、上部空間に気体のない状態になる。リサイクルシステム335は、栄養溶液325から酸素を除去するための脱酸素装置345を備えていてもよい。このシステムは、カプセルに封入された嫌気性細胞が存在する場合、バルブ355を取り付けた入口350とバルブ365を取り付けた出口360とに、任意によりフィルタ370を備えて、生物反応器300からの流出を防止する。生物反応器300は、チャンバ330を通じて再循環する栄養溶液を保持するための酸素の進入から密封されたリザーバ380も備えている。検出器390は、栄養溶液325の成分レベルを検出する目的で具備している。したがって、動作中、栄養溶液が、バルブ355が開き、バルブ365が閉じた状態で入口350を通じて生物反応器300に侵入する。次に、バルブ355が閉じ、栄養溶液325が矢印338の方向に、リザーバ380とチャンバ330を通じて再循環する。栄養溶液325を脱酸素装置345と接触させ、無酸素性を維持する。チャンバ330では、栄養成分が、膜305の栄養面320を通じて生物層310に拡散するが、ここで、養分は代謝して、たとえば、所望の産物を形成したり、栄養溶液325から不必要な物質を除去することができる。生物層310は、曝気されるチャンバの外部の空気から、代謝するための酸素を取得する。代謝産物たとえば所望の産物は、次にチャンバ330に戻り拡散し、栄養溶液325とともに再循環する。カプセルに封入された嫌気性細胞(が存在する場合、)も栄養成分を代謝し、カプセル封入された細胞に封入装置を通じて養分が拡散するのに伴って代謝産物を産生する。検出器390は、栄養溶液の成分レベルが規定のレベルまで降下した時期を判定することにより、あるいは代謝産物のレベルが規定レベルにまで増加した時期を判定することにより、生物層のバイオ作用が十分に実行された時期を判断する。次に栄養溶液325を、バルブ365を通じて生物反応器300から除去することができる。封入された嫌気性細胞は、フィルタ370によって生物反応器300内に保持される。次に産物(代謝産物)を栄養溶液325から個別に回収することができる。検出器は、バルブ365の開放を自動的にトリガーしてもよいし、バルブ365の開放をオペレータが手作業で行うよう合図を送ってもよい。あるいは、バルブは(手作業または自動的に)規定時間後に開放してもよい。
【0107】
(用途)
本発明の生物反応器は、多くの用途で使用することができる。このような用途には以下がある。
・抗生物質、その他の薬剤および化粧品の生産、
・下水処理、
・重金属の除去/回収、
・生物浸出(bioleaching)およびその他の鉱業の用途、
・生合成(産業および研究を目的とした食品ならびに化学薬品)、
・炭素、窒素、リンおよび金属イオンなどの除去を目的とした廃水の二次処理および三次処理、
・有毒な廃水のバイオリメディエーション、
・汚染された飲料水の精製、
・動物組織と植物組織の培養、
・培養された好気性細胞を用いるあらゆる分野、
・食品の成長(たとえば宇宙航空産業向けなど)、
・生合成のための動物組織の利用、
・燃料生産(バイオ燃料)のための有機材料の回収、
・人工臓器、移植、ホルモンやその他の哺乳動物由来の薬剤の生合成のための動物組織の培養。
【0108】
(利点)
本発明の生物反応器は、従来技術に比べ、多種多様な利点を備えている。このような利点には以下が挙げられる。
・膜の多孔性が高い−生物層は、高多孔質膜内に支持されている。これは、この目的に使用される他の膜(たとえばセラミック膜生物反応器など)によって提供される栄養供給率に比べ、供給率が高い。
・膜が安価である−バイオマスは、比較的無酸素性の条件によって膜の栄養面での成長が阻害されるため、バイオマスの微生物の浸透を抑止できるように十分小さい孔を持つ膜を用意する必要がない。したがって、従来の膜−表面−液体−培養生物反応器で使用されている膜より安価な膜を使用することができる。
・膜の製造が容易−安価であることの上に、本発明の膜は、簡単な技術と安価な入手しやすい装置を用いて製造することができる。膜は迅速に製造できる。したがって、必要に応じて、膜を使い捨て品として使用することが可能である。
・薄型の分散性のよい生物層−溶存酸素および養分が拡散するための距離が比較的短いために、生物層に十分な量の代謝物質が供給される、
・空冷式−リアクタ(reactor)のアセンブリは、自然の対流によって冷却されるので、高価な冷蔵設備は必要ない、
・軽量−本発明の生物反応器を支持するための大きな構造物インフラストラクチャ(infrastructure)は必要ないので、簡単に配備できる、
・安価−構成部品が安価でしかも入手しやすい、
・環境圧力下で動作可能−採用されている生物学的プロセスすべてが環境圧下で動作可能であるため、高価な高圧インフラストラクチャは必要ない、
・培養物が生物反応器の膜の気体面上でほとんど成長−したがって、生物層と気体相間の接触領域が増加し、より効率的に栄養溶液から生物層を除去することができる、
・両面−片面のシステムに比べ、システムの表面積が増える、
・柔軟性のある膜−膜の耐性を高め、ほぼ所望の形状に配備することができる、
・産物の分離が容易−生物層は、栄養溶液からいつでも分離される、
・ランニングコストが安い、
・専門知識は必要なし−装置は単純なので、装置を運用するのに最低限度の訓練しか必要としない、
・自動化の可能性、
・従来型の生物反応器より高い生産率(タイプ1のセラミック膜生物反応器に比べ、2桁も生産率が高く、ペニシリン生産に関する現在のエアリフト(airlift)型生物反応器の構成に比べ最高40倍も高速である)、
・幅広い生物層の選択が可能−バクテリア、イースト菌、菌類、動物細胞および植物細胞に好適、
・フットプリント(footprint)が最小−膜は縦方向に懸垂可能である、
・高い生産収率−消費する基質単位あたりの収率が高い、
・生物層の成長率が高い、
・連続的な流れ−逐次処理(sequential processing)にとって便利な連続方式で使用可能、
・再生可能−生物層は、効果的に洗浄することができるので何回も再利用/リサイクルすることができる、
・高い気体供給率−固定培養物の完全な機能の促進、
・フレキシブルなリアクタ構造−膜に損傷を与えずに変形可能、
・新しいバイオマスバッチで運転を開始するための停止時間は殆どない、
・栄養の添加と産物生成との間の待ち時間が短い(一次および二次代謝が同時)、
・生物層の寿命が改善、
・二次および三次処理が同時、
・バイオマス除去後に即時培養物が再成長するのでバイオマスの分離が容易。
【実施例1】
【0109】
(ペニシリンの生合成と炭水化物消費分析)
閉鎖系ナノ粒子膜生物反応器(Closed-System Nanoparticulate Menbrane Bioreactor)
ガラス布(woven glass fabric)から90×80mmの4個の袋を作成し、アルミニウムホイルの蓋で覆った1000mlのビーカー内に懸垂させたステンレススチール製のフレーム上に組み立てた。使用した織物製ガラスマットには、1cmあたり22本の繊維を配置し、重量は80g/m2であった。ガラスを湿潤させるために、後で述べるように、プラズマエッチングを施した。その後で、クラスIIのバイオセーフティキャビネット(biosafety cabinet)内で、無菌状態ですべての技術を施した。pH10、40mlのガンマ線滅菌コロイダルシリカ溶液(BindzilTMEka Chemicals)を汎用インジケータ、および4.0モルHClを用いてpH6に調整し、ゲル化を開始した。8.0×1010cfu/mlを含有するP.chrysogenum胞子懸濁液を4.0ml、ゲル化中のシリカゾルに添加した。10.0mlのコロイダルシリカを同じ方法でpH6に調節し、9.0×1010cfu/mlを含有するA.niger胞子懸濁液を1.0ml注入した。約8.0、10.0および12.0mlのP.chrysogenumを注入したコロイダルシリカを3個のガラス製の袋内に浸した。約8.0mlのA.nigerを注入したコロイダルシリカを4個目のガラス製の袋内に浸した。Wickerhamの麦芽酵母抽出液(malt yeast extract broth;MYEB)100ml(;麦芽(malt)抽出物3.0g/l;ペプトン5,0g/l;イースト抽出物3.0g/lおよび;グルコース10g/lを含む)、各袋の内腔に添加する前に、再分散を防止するためすべてゲル化させ、20℃で一昼夜エージング処理を施した。はじめに、ナノ粒子膜生物反応器(NMB)は漏出しやすいので、流出液を流出率より高い流速で蠕動ポンプを介して内腔に戻し、内腔は常時満たされていた。培養液を袋の上面から10mm以内の範囲まで充填し、各面80×80mmの培養面積を形成し、総計128cm2の培養膜を作成した。袋を28℃でインキュベートした。1.0mlのサンプルを各NMBから毎日採取し、炭水化物の濃度とpHに関する分析を行った。P.chrysogenum培養物についても、ディスク分散法(disc-diffusion assay method)を利用してペニシリンの産生についての検査を行った。MYEBを4日ごとに除去した。0.85%滅菌生理食塩水を100ml用いて、1時間各生物反応器の洗浄を行った。生理食塩水をサンプリングし、ペニシリンに関する分析を行い(P.chrysogenumのみ)、残存物を廃棄した。100mlの新鮮なMYEBをNMB内で交換し、次のバッチを開始した。各バッチの開始時に1.0mlのサンプルを採取した。噴霧式生物反応器(以下に記述)におけるP.chrysogenum培養物を除き、各バッチを4日間継続した。8回のバッチ後に、次のバッチを新鮮なMYEBを用いて開始する前に、スパーテルを用いて無菌状態でNMBからバイオマスを剥離させた。
【0110】
噴霧式生物反応器(Sparged Bioreactors:SB)
2つのスケーリングした噴霧式生物反応器(SB)を2個の穴のあるストッパを用いて500mlのスコットボトル(Schott bottles)から組み立てた。1本の管は各容器の底部に通じ、100mlのMYEB中に、約1.0L/分の速度で滅菌濾過空気を噴出した。もうひとつの管は、別のフィルタを通して前記空気を放出した。生物反応器に1.0mlの胞子懸濁液(上述のようにP.chrysogenumとA.niger)を接種し、28℃でインキュベートした。上記のナノ粒子膜生物反応器に関して記述したように、毎日1.0mlのサンプルを採取し分析を行った。噴霧式生物反応器内のP.chrysogenumに関しては、ペニシリン濃度が降下したときにバッチを終了した。
【0111】
表1に、さまざま生物反応器内で培養したP.chrysogenmの代謝パラメータを示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表中
YP : ペニシリン収率(μg/ml)
YP/s : 消費された炭水化物で割ったペニシリン収率(μg/mg)
RP : ペニシリン生産率(μg/mlh)
Lag : 新鮮な媒質の添加からペニシリン生産が開始するまでに要した時間
[COH]pen : ペニシリン生産が開始した時点での炭水化物の濃度
NMB : ナノ粒子膜生物反応器
SB : 噴霧式生物反応器
* : 従来のデータ
【0114】
表2に、ナノ粒子膜生物反応器(NMB)および噴霧式生物反応器(SB)内で培養したA.nigerの代謝パラメータを示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表中
TD : 炭水化物除去のための十進法還元時間(Decimal reduction time)
RS : 炭水化物消費率(mg/mlh)SB : 噴霧式生物反応器
【0117】
図6と図7を比較すると、本発明の生物反応器は、再生する前に、非常に多くの生産サイクルを実現でき、各サイクルで、炭水化物消費率とペニシリンの生産率が、対応する噴霧式生物反応器に比べ高いことが分かる。図8と図9を比べると、同様に、本発明による生物反応器内のA.nigerに関しては、炭水化物の消費率が対応する噴霧式生物反応器内の炭水化物消費率に比べてはるかに大きく、生物反応器は、性能劣化を認めることなくサイクルを繰り返すことができる。
【実施例2】
【0118】
[材料の検討]
(各種物質)
4種類の袋(90×80mm)をガラス布(例1に記述)、綿(キャリコ)、ポリエステルおよびポリエステル綿混合(70/30)から組み立てた。材料の繊維密度は次のとおりである。ガラス布20本/cm、綿(キャリコ)20本/cm、ポリエステル26本/cmおよびポリエステル綿混合(70/30)24本/cmである。この袋は、20℃で15分間、1.0モルKOHで洗浄し、水で流した後オーブンで乾燥させた。0.2mlの汎用インジケーターを40mlのガンマ線滅菌コロイダルシリカ(例1に記述)に添加した。約0.6mlの4モルHClを添加し、pHを6に調節した。次にコロイダルシリカに、7×107cfu/mlのP.chrysogenum胞子懸濁液1.0mlを注入した。この懸濁液を飽和するまで各袋内に浸した。細い織物繊維が簡単に飽和し、細かい膜を形成した。袋を一昼夜エージングして、80mlのMYEB(例1に記述)を各袋に添加した。1.0mlのサンプルを炭水化物、ペニシリンおよびpH分析のため毎日1回採取した。4日後に、MYEBを除去し、1時間0.85%の滅菌生理食塩水中で生物反応器を洗浄してから、新鮮なMYEBと取り替え再度インキュベートした。
【0119】
4種類の袋の結果を図10〜13に示すが、炭水化物消費率は、すべての袋で同等であり、すべての袋で、後続のバッチでペニシリンの産生が改善されたことが明らかである。これは、膜上の生物層の成長によるものと考えられる。図10〜13のデータから、ポリエステルの袋のペニシリン産生レベルが他の袋より低いように思われる。
【0120】
(各種ゲル)
3つのガラス布袋と1つの綿の袋(90×80mm)をKOHで洗浄し、水で洗い流した後にオーブンで乾燥させた。綿の袋(NMB1)にはゲルを添加せず、その代わりに7×106cfu/mlのA.niger胞子懸濁液を0.1ml塗布した。T0で5.0mlのMYEBを袋に添加した。10mlのMYEBを毎日1回添加した。3日後にMYEBを80mlの新鮮なMYEBと交換し、返送管を取り付け、あふれ出るまで蠕動ポンプ(peristaltic pump)により充填した。これはすぐに水密状態となり、バイオマスが独立したナノ細孔質ゲルを必要とせずに生物反応器内で膜として作用できることを示した。ガラス布袋に寒天(NMB2)、アルギン酸カルシウム(NMB3)およびコロイダルシリカ(NMB4)を注入した。
【0121】
10mlの加熱した1.5%の寒天溶液をガラス布袋内に浸し、20℃で冷却しゲル化した。袋に7×106cfu/mlのA.niger胞子懸濁液を0.1ml塗布し、80mlのMYEBを充填して28℃でインキュベートした。
【0122】
第2のガラス布袋にアルギン酸カルシウムを注入した。5.0mlの4%アルギン酸を、汎用インジケータおよび0.2μmで濾過した1モルNaOH溶液を用いてpH6に調節した。ゾルをガラス袋内に浸し、4%のCaCl・2H2O溶液中で洗浄してアルギン酸塩をゲル化した。袋に0.1mlのA.niger胞子懸濁液を塗布し、80mlのMYEBを添加した。
【0123】
第3のガラス布袋に、0.1mlのA.niger胞子懸濁液を含有するコロイダルシリカを注入し、一昼夜エージング処理した後、80mlのMYEBを添加した。
【0124】
すべての袋を28℃でインキュベートした。4日後にすべての袋内のMYEBを交換した。
【0125】
結果は図14に示すとおりである。これらは、各種ゲルがかなり同じ性能を有していることを示している。たとえ、ゲルが含まれていない袋であっても、最初のバッチ後は、ゲルを含む袋と同等の速度で炭水化物を消費していた。
【0126】
(ナノ粒子膜生物反応器内で培養したA.nigerによる基本的摂取)
シリカゲルがガラス支持体内に支持されている、ゲルの検討(上記)におけるナノ粒子膜生物反応器から、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP−AES)を用いて元素分析するため、3.0mlのサンプルを採取した。ICP−AESを、AIMオートサンプラを用いてバリアンビスタ(Varian Vista)ICP−AESにより、3.0mlの硝酸−消化サンプルで実施した。バッチの初めと終わりに、50mlのサンプルをCNS(炭素/窒素/硫黄)分析のため採取した。CNS分析をオーブンで乾燥させた50ml培養液サンプルで実施し、Leco CNS−2000で分析した。1回のバッチ(3日間)後に、使用済み培養液を生物反応器から除去した。NMB1に40mlの1%CuSO4溶液を添加し、NMB2およびNMB3には、79.2mlのMYEBおよび0.8mlの金属溶液(0.1%CuSO4;0.2%ZnSO4・7H2O;0.2%MnSO4・H2O;0.2%NiCl2:さらに、PbCl2を飽和)をpH4.00で添加し、NMB4には80mlの金属溶液を添加した。
【0127】
結果は図15に示すとおりである。これらの結果から、炭水化物の消費量はカリウム、リン、カルシウムおよびマグネシウムの溶液からの損失とほとんどパラレルであることが分かる。亜鉛濃度は検出時間内降下していったが、開始レベルが非常に低く、また硫黄濃度が降下したが、硫黄レベルは他の検体のようには降下しなかった。シリカゲルがガラス支持体内に支持されている生物反応器上で成長させたA.nigerの二次バッチ培養物のCNS分析では、総カーボン量の77%、総窒素量の61%および総硫黄量の65%が23時間で消費されていた。
【実施例3】
【0128】
(連続フローナノ粒子膜生物反応器)
ステンレススチール製リザーバ(80×30×25mm)と、リザーバから100mm上方にスリットを形成して伸びているリザーバ内に組み立てられたステンレススチール製のスカフォルド(scaffold)からなる小型の連続フローナノ粒子膜生物反応器を作成した。A.nigerを注入したコロイダルシリカとガラス布マットからなり、両端が連結している一対の膜をスカフォルドの周囲に組み立てた。2本のホースを上端部に取り付けて、これらが膜の対によって形成されている薄い管腔内に排水するようにした。膜の対の下端部は、リザーバの上端部にあるスリットに排水し、2本のホースのもう一方の端は上面部にある2つの穴を介してリザーバに挿入した。これらのホースを蠕動ポンプ内に集め、リザーバとスカフォルドをアルミニウム製ホイルの蓋で覆った1000mlビーカー内に収容した。NMBを60mlのMYEBに充填し、28℃でインキュベートした。1.0mlのサンプルを炭水化物およびpH分析のため、毎日採取し、MYEBを4日後に交換した。結果は図16に示すとおりである。データから、最初のバッチについては、バッチ式に比べ、連続フロー式の場合の炭水化物消費量が低速であるが、後続バッチはバッチ式と同等であることを示している。生物層は連続フロー装置ではゆっくりと確立したが、ひとたび確立するとそれは静的バッチ装置と同等の性能を呈することができる。
【0129】
(ガラス繊維マットの作成)
ガラス布袋を、2種類の方法でシリカゲルを固着するために準備した。すなわち水−プラズマのヒドロキシフリーラジカルでエッチングしたもの(以下を参照)と、20℃で15時間1モル水酸化カリウム(KOH)に浸漬させたものである。袋を、13.56mH RMで動作している40W RF−プラズマ発生器内において、約5.0×10−2ミリバールで、水プラズマ処理により6.0分間エッチングして、表面をヒドロキシル化し湿潤化させた。この技術は実施例1でも使用されており、KOH溶液中での浸漬法は実施例2と実施例3で用いた。他にオーブンを用いて、ガラス布マットから疎水性サイジング剤を焼結し、表面を湿潤化させることもできる。さらに、水蒸気存在下で、UV照射を用いて、ガラス製物質を湿潤化できる。また、ガラス繊維マットを約1時間濃硝酸で処理し、サイジング剤を除去することもできる。
【実施例4】
【0130】
(廃水処理)
廃水流からの化学物質の回収をシミュレートするため、模擬廃水として麦芽抽出培養液(30.0g/L)を用い、A.nigerを30℃で8個の袋型のNMB内で成長させた。1日1回の割合で、NMB全体を強熱減量法(loss-on-ignition analysis)により、バイオマスの負荷を判定した。培養液を、110℃で脱水し、溶存固体の量を判定し、同じ溶液のサンプルをICP−AESおよびCNS分析で分析して、模擬廃水中の各種元素の量を定量した。結果は図17および図18のとおりである。
【実施例5】
【0131】
(バイオリーチング(bioleaching)とバイオトランスフォーメーション(biotransformation))
Acidithiobacillus ferroxidansを、振とうフラスコ培養(100r.p.m.で110mlの培地)および袋式NMB(100mlの培養液を含有する126cm2)により、FeSO4.7H2Oの形態で、3.8および23.0g/LのFe2+を含むDSMZ#670の培地中で30℃で培養した。各バッチ(3〜4日間)後に、NMBから溶液を排水させて100mlの新鮮な媒質と交換した。一方、振とうフラスコ培養からも排水させて100mlの新鮮な媒質と交換し、前バッチから得た10mlを接種した。各培地のFe3+濃度を分析した。結果は図19に示すとおりであるが、この図はFe3+濃度の経時的変化を表している。
【実施例6】
【0132】
(哺乳動物の組織培養)
マウスの乳がん細胞株MATおよびB16ならびにハムスターの繊維芽細胞株V79を、RPMI1640培地(1リットルあたり100mlの牛胎児血清(fetal bovine serum)、0.292gのL―グルタミン、63mgのペニシリンおよび100mgのストレプトマイシンを含有する)で培養した。5.0%のCO2を含有した湿気のある雰囲気中で37℃で細胞をインキュベートした。50mlの培地を含み、培養された72cm2の膜を有しシリカゲルを注入したガラス布材で構成された袋状のNMBと、10mlの培地を含んだ24cm2の組織培養フラスコ内で、細胞を培養した。細胞をトリプシンEDTA溶液で収穫し、トリパンブルーで染色した後に、血球計算板(hemocytometer)でカウントした。NMBの外面上における細胞の成長率は、実験の対象となった細胞株のすべてで低く(表3)、これは脱水、有毒酸素種またはその両方によるものと考えられる。これはまた、哺乳類組織がメチル化(疎水性)シリカゲル上でしか成長しないという報告があるので、シリカの親水性が高すぎたことにも起因すると思われる。
【0133】
表3に、NMB内および上ならびに組織培養フラスコ内での哺乳動物組織の培養について示す。
【0134】
【表3】
【0135】
表中、
NMB : ナノ粒子膜生物反応器
* : NMBがビーカー内に懸濁されており、液体培地がビーカー内に少しずつ入り、蠕動ポンプによって袋に戻されている
TCF : 組織培養フラスコ
【符号の説明】
【0136】
10 膜
12 栄養面
14 気体面
16 支持材
18 ゲル
20 固定生物層
26 栄養溶液
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜生物反応器(membrane bioreactor)、膜生物反応器で使用するための膜を形成する方法および膜生物反応器を使用するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜と共働して生体物質(biological matter)を使用することにより、生体物質に供給された物質を変換する膜生物反応器は、たとえば薬剤、抗体またはワクチンの成分などの有益な物質の産生、有機廃棄物のバイオマスや生体燃料への生物変換、有害化学物質を不活化しあるいは生体利用不能な形態へ変換しまたは重金属を沈殿または還元/酸化して有毒廃棄物を浄化するといった、生体反応に関する用途に使用することができる。
【0003】
概して、既存の生物反応器(bioreactor)は、機械式攪拌生物反応器、空圧式攪拌生物反応器、または非攪拌式生物反応器に分類できる。機械式攪拌生物反応器には、通気−攪拌式生物反応器、回転ドラム生物反応器、およびスピンフィルタ生物反応器がある。空圧式攪拌生物反応器には、噴霧式生物反応器およびエアリフト生物反応器がある。非攪拌式生物反応器には、気相生物反応器、酸素隔膜エアレータ生物反応器および重層通気生物反応器などがある。
【0004】
空圧式攪拌生物反応器は、通常、十分な量のバイオマスの溶存酸素の供給を維持するため、内封されている液状培地を通過する空気を暴気する通気孔が取り付けられたタンクからなる。このような反応容器は、バイオマスと処理液が十分に混合した状態を維持できるように、羽根車、プロペラおよびパドルなど、多様な装置を使用する。パドルは、容器の側壁からバイオマスをかき取り、劣化を抑えて、バイオマスが処理液と接触した状態を維持できるようにする目的でも使用される。ただし、このような装置には、このような混合プロセスや剥離プロセスで生じる剪断力が、多くの場合、脆弱な培養物を損傷する可能性があり、生体活動を劣化させ、結果的に生産性が低下するという欠点がある。同様に、比較的濃密なバイオマスが存在するため反応培地の粘度が高くなり、混合効率と、プロセス内における酸素分子その他の気体の拡散速度の両方が低下する結果となる。酸素の安定供給量が減少すると、バイオマスの活性もそれに応じて劣化するので、多くの細胞タイプが自然系(たとえば、空気−固体間界面や、動物の細胞の場合、血中状態)に存在する場合のようには、もはや機能しなくなる。
【0005】
組織培養システムは、噴霧式生物反応器、培養容器内の多様な液中表面成長系、または回転ドラムを備えている。これらのシステムには、酸素の摂取量が比較的少ないため、一度少量のバイオマスが成長すると、溶存酸素の生物学的利用が制限されるという欠点がある。溶存酸素の供給量が低い場合には、多くのタイプの細胞の培養が抑止され、酸素をすぐに利用できる体内の場合とは異なり多くの細胞系がそれ以上機能することができない。
【0006】
充填カラムシステムでは、細胞は、カラムに充填されるリング、球形、サドル、または多角形などの各種形状の不活性物質上に固定される。栄養の流れは、カラムに供給される前に酸素付加される。これらのシステムの欠点として、栄養の流れ内に溶存する酸素という制約があることである。これらは一般に、通水方式(trickling mode)で運転され、酸素に関する制約はバイオマスの厚さにも関係する。さらなる欠点として、細胞が成長すると、充填物が集塊しカラムが目詰まりを起こす可能性がある。また、これらは高度な技術であるため、コスト高の問題もある。
【0007】
膜装置は、下記の広義の3項目のどれかひとつに分類される。
【0008】
タイプ1:気体−液体界面膜生物反応器(Gas-Liquid Interface Membrane Bioreactors)には、膜の気体側で活性バイオマスを支持するのに用いられる多孔質の膜(ホスト)が必要である。膜の反対側は、加圧下で膜を通過して汲み上げられる処理液と接触している。このプロセスに用いられる焼結セラミック製の膜についての報告がある(Canto et al, Science and Engineering Journal、1998-2,2)。焼結セラミック製膜は、比較的不浸透性が高いため、膜を通過して液が汲み上げられるように加圧される。このタイプの生物反応器には、これらの反応器が作動するときに高圧がかけられるので、破損を回避するため、膜とそのハウジングのサイズが制限されてしまうという欠点がある。(活性膜の全体的多孔性が比較的低いため)養分の供給量が減ると、バイオマスの成長が制限され、ひいてはは生産物の収率が低めになってしまう。このタイプの生物反応器の別の例が、WO90/02170に開示されている。この特許には、外側に生物層(バイオフィルム)を備えた、中空糸膜についての記述がある。使用時には、液体が膜の管腔を通過し、いっぽうで空気が膜を取り囲んでいる支持基質を通過してバイオフィルムに供給される。この装置には、かなり高い膜透過圧が必要なため、この圧力による損傷を防ぐために、膜の周囲に支持基質が必要であるという欠点がある。同心型の支持基質/バイオフィルム/膜系の構造は、複雑である。さらに、支持基質は、使用中にバイオフィルムからの細胞が付着し、生物膜を通過する酸素や養分の拡散率が低下する可能性が高い。
【0009】
タイプ2:膜の液体側で、しばしば無酸素条件下で培養物は成長する。ひとつの例では、液状培地と接触した状態で生物膜を固定するのに、多孔質中空糸膜が使用される一方で、膜の反対側には、酸素含有気体が供給される(JP2003251381 Asahi Kasei Corp.)。別の特許に記載の方法では、水素の流出を防止するため一端を密閉した液体の不浸透な中空糸に、加圧された水素ガスを導入する。繊維の周囲を水が取り囲んでおり、液中に溶存している酸化化学物質を除去するための電子供与体として溶存水素を使用して、膜の液側にバイオフィルムを成長させる(US6387262, Northwestern University)。このようなシステムには、加圧下で気体を膜に供給するので、いずれも高額な気体を加圧するための装置と加圧された気体を収納するための装置が必要であるという欠点がある。さらに、特殊化した膜が必要なため、高価であり、精巧な装置を製造しなくてはならない。
【0010】
タイプ3:培養物を、液中に懸濁して成長させ、膜フィルタを使用して液をろ過する。ほとんどの膜生物反応器が、このタイプ3である。この分類項目の生物反応器には、エアリフト(air-lift)式組織培養型生物反応器と同様の欠点があるほかに、生産物を含有する液を分離するのに使用されている膜に生物が付着するという欠点も併せもつ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】(特になし)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、安価でしかも耐性があり、さらに従来の装置に比べ、高い生物変換速度を実現できる生物反応器に対する要求がある。前記欠点の少なくともひとつに対処するかまたは実質的に改良することが、本発明の目的である。さらには上記必要性を少なくとも部分的に満たすことも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の態様では、栄養面(a nutrient face)と気体面(a gas face)を有し、生物反応器内で使用する膜が提供され、前記膜は、
気体面上および/または気体面付近の膜内に固定された生物層(biolayer)を支持することができ、
栄養面から固定された生物層への栄養溶液の拡散を可能にすることができ、さらに
存在する場合には、固定生物層からの細胞の除去ができるように、アクセスすることができる、膜である。
膜は、平面状であってもよいし、管状であってもよい。膜は、ナノ細孔質またはメソ細孔質またはミクロ細孔質であってもよいし、ナノスケールおよび/またはメソスケールおよび/またはミクロスケールの細孔が組み合わせでもよい。膜は、たとえば織布または不織布繊維もしくは非繊維多孔質材などの支持材を有していてもよい。支持材は、ニット材、織布材、圧縮繊維材、ルーズ繊維、フェルト繊維、またはその他の好適な材料であってよい。支持体は、ゲルの内部にあってもよいし、ゲルの外部、たとえばその表面などにあってもよい。支持体は、親水性または疎水性のどちらでもよく、その表面上にサイジング(sizing)してあってもなくてもよい。これは、高分子(たとえば、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィンなど)、無機質(たとえば、ガラス繊維)、天然繊維(セルロースまたは修飾セルロース、綿など)またはその他の何らかの材料であってよい。支持材は、その中および/またはその上にナノ細孔質固体またはゲルを有することができる。ナノ細孔質固体またはゲルは、親水性であっても疎水性であってもよい。これは、ゾル−ゲル誘導体であってよい。これは、アニールしていなくてもよい。またこれは、ヒドロゲルであってもよい。膜は、栄養面の栄養溶液から気体面の気体を分離することが可能である。膜は、外圧を加えなくても、栄養面から固定生物層へ栄養溶液を拡散可能にすることができる。膜は、その気体面に支持基質がなくてもよい。膜は、その液体面に多孔質層またはミクロ細孔質層を有する、ハイブリッド膜とすることができる。
【0014】
生物層は、バクテリア、菌類、動物細胞、植物細胞、原生動物またはその他の生体物質であってよい。細胞は、原核細胞と真核細胞のどちらであってもよい。動物細胞は、たとえば、哺乳動物の細胞とすることができる。生物層は、薬剤、抗体、ワクチン成分、食品原料、細胞、酵素またはその他の物質を生産可能である。特定の産物を生産するには、適切な生物層(すなわち、細胞などを含む生物層)およびその生物層に適切な栄養溶液を選択する必要がある。生物層に哺乳動物の細胞が含まれている場合には、たとえば疎水性のシリカを含む疎水性の膜を使用する必要があるであろう。疎水性シリカは、たとえばメチル化、オクチル化またはフェニル化シリカなどである。
【0015】
膜には、支持体によって強化されたゲルを含ませることができるが、この膜には対向する面と、その面同士の間に厚さがあるので、ゲルがこの対向する膜間連結し、膜を通じた栄養液の拡散が可能となる。
【0016】
第一の態様の実施例では、膜は、気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を備えている。膜は、外圧をかけずに、栄養面から固定生物層へ栄養溶液を拡散できるようにしてもよい。特に、栄養面、気体面および両面間の厚さを備えた膜は、支持体によって強化されたゲルを有していてもよく、この膜は、気体面上および気体面付近の膜内から選択された位置に固定生物層を備えており、ゲルが栄養面と生物層との間連結しているので、栄養面を通じて生物層まで、栄養溶液が拡散できる。
【0017】
もうひとつの実施例では、膜に栄養面と気体面とがあり、その中および/またはその上にナノ細孔質固体を有する繊維支持材を含んでいる。ナノ細孔質固体またはゲルは、シリカゲル、チタニアゲル、ジルコニアゲル、アルミナゲル、またはシリカ、チタニア、ジルコニアおよびアルミナのうち2種以上(たとえば、シリカ−アルミナゲル)を含有する混合ゲルであってもよいし、または寒天、アガロース、アルギン酸カルシウム、ペクチンまたはその他の生体高分子を含有していてもよい。本例に従って膜を作成するひとつのプロセスは、下記の工程からなる。
ナノ細孔質固体またはゲルを生成可能な前駆体溶液(precursor liquid)を支持材へ注入する工程と
支持材上および/または支持材中でナノ細孔質固体またはゲルを生成し膜を形成する工程。
このプロセスには、注入工程の前に、アルカリ性水溶液、酸性水溶液、酸性気体、または水プラズマに支持材を曝露させる工程を含むことができる。前駆体溶液は、たとえば、コロイダルシリカ、またはアルギン酸カルシウムまたは寒天またはアガロースまたはペクチンまたは別の天然もしくは合成ポリマーの溶液あるいは懸濁液、またはこれらの混合液などであってよい。注入プロセスは、前駆体溶液内に支持材を浸漬する工程と、それに続く液体から支持材を除去する工程とを含んでいてもよいし、支持材を通過して液体を流す工程を含んでいてもよく、または注入に好適な他の何らかの方法を含んでいてもよい。ナノ細孔質固体またはゲルを生成するプロセスは、前駆体溶液の性質によって異なるが、たとえば、支持材内に注入された前駆体溶液の少なくとも一部を蒸発させる工程、支持材内に注入された前駆体溶液のpHを変更する工程、支持材内の前駆体溶液の温度を変更する工程、または支持材内の前駆体溶液を沈殿剤に曝露させて支持材上および/または支持材内にナノ細孔質固体を沈殿させる工程を含んでいてもよい。
【0018】
別の実施例では、膜が栄養面と気体面とを備えており、
その中および/またはその上にナノ細孔質固体またはゲルを有している繊維支持材と、
気体面上または気体面付近の膜内にある固定生物層
を具備しているが、この膜は、外圧を加えずに栄養面から固定生物層に栄養溶液を拡散させることができ、さらに固定生物層から細胞を除去できるようにこの膜にはアクセス可能である。膜は、その気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0019】
本発明の第二の態様では、下記を備えた生物反応器が提供されている。
膜支持構造体;および、
前記膜支持構造体上に支持されている、本発明の第一の態様による膜を含む生物反応器。
前記膜支持構造体は、膜の2つの部分間に内部領域が形成されるように、膜の一方の部分が膜のもう一方の部分に平行であるような構成で、膜を支持することができる。膜支持構造体は、複数の膜を支持することができる。生物反応器に複数の膜が含まれている場合には、膜は相互に平行であってもよいし、相互に平行でなくてもよい。2以上の平らな膜は、2つの膜の間に袋または平坦な管もしくは他の形の内部領域を形成するように、一対毎に結合し、対で配置することができる。膜は、気体面の気体を栄養面の栄養溶液から分離できるように構成することができる。生物反応器は、膜間または膜の異なる部分間の距離を維持するために、一つ以上のスペーサを備えることができる。スペーサは、栄養溶液が膜の側面から漏出するのを防止する。
【0020】
生物反応器は、栄養溶液が膜の栄養面に侵入するための入口と、栄養面から栄養溶液を除去するための出口を備えることができる。入口を入口マニホールド(inlet manifold)に接続し、出口を出口マニホールドに接続することができる。
【0021】
液体、たとえば栄養溶液を、出口から入口へ再循環させるためのリサイクルシステムも有することができる。リサイクルシステムは、酸素が液体に接近するのを防止することが可能である。リサイクルシステムは、一つ以上のポンプ、配水管、配水管バルブ、出口ライン、出口ラインバルブ、配水管タンクおよび排出タンクを含むことができる。
【0022】
生物反応器は、膜を少なくとも部分的に包みこむか、膜支持構造体も少なくとも部分的に包囲している容器を、さらに有することができる。容器は、滅菌可能で、容器への気体の進入を可能にする気体入口と、容器から気体の流出を可能にする気体出口とを備えることができる。生物反応器は、膜を収納するためのハウジングと、任意に膜支持構造体も含むことができる。ハウジングは、滅菌可能で、気体入口と気体出口を備えることができる。膜、任意に膜支持構造体は、容器またはハウジングから取り外し可能とすることができる。滅菌可能ハウジングは、生物層または膜の汚染もしくは生物反応器の他の部分の汚染を防止するのに有効である。
【0023】
栄養溶液から酸素を除去するための酸素リムーバも任意に備えることができる。酸素リムーバは、脱酸素装置または脱気装置、たとえば真空脱気装置でもよいし、栄養溶液を通過するごく少量の酸素を含有する気体を曝気する装置を備えていてもよい。
【0024】
生物反応器は、膜から固形物質を除去するための手段を備えることができる。固形物質は、たとえば生物反応器の生産物または生物層の一部などである。除去するための手段として、シェーカ(shaker)、スクレーパ(scraper)、ブロワ(blower)またはその他の好適な手段を備えることができる。
【0025】
ひとつの実施例では、生物反応器は下記からなる。
膜支持構造体と、
第一の態様による一対の膜であって、膜支持構造体によって垂直方向に支持されており、一対の膜間に内部領域を形成できるように対のもう一方の膜と対向している一対の膜、
一対の膜それぞれの気体面上および/または一対の膜の気体面付近の内部に、固定された生物層。
前記膜は、平面であってもよいし管状であってもよい。各膜は、袋または平坦な管または環を形成できるように各膜が対のもう一方の膜に対向しているか、または対の膜間に内部領域を形成する他のなんらかの構成で配向することができる。一対の膜は、連結していてもよいし、連結していなくてもよい。栄養面は一対の膜の内部領域に隣接していてもよい。一対の2枚の膜間に、規定の距離を保持できるように、少なくともひとつのスペーサを配置することができる。生物反応器は複数の対の膜を備えることができる。複数の対の膜は、並列にまたは直列に接続してもよいし、一部を並列に、一部を直列に接続してもよい。
【0026】
もうひとつの実施例では生物反応器は下記からなる。
膜支持構造体と、
膜支持構造体によって垂直方向に支持されている、第一の態様による管状膜と、
気体面上および/または気体面付近の膜内における固定生物層。
栄養面は管状膜の内部に配置し、気体面をその外部に配置することができる。管状膜は、その管状膜の対抗する面間の距離を維持するためにすくなくともひとつのスペーサを備えることができる。管状膜は、管状膜と内部支持体の間に内部領域が形成されるように、内部支持体を管状膜と同心にしてもよい。その場合、管状膜と内部支持体の間の距離を維持するために少なくとも一つのスペーサがあってもよい。生物反応器は、複数の管状膜を備えていてもよい。複数の管状膜を、並列にまたは直列に接続してもよいし、一部を並列に、一部を直列に接続してもよい。
【0027】
他の実施例では、生物反応器は下記からなる。
膜支持構造体と、
膜の2つの部分間の内部領域を決定するために、膜の一方が膜のもう一方に平行であるような構成で、膜支持構造体によって支持されている第一の態様による平面膜と、
気体面上および/または気体面付近の膜内における固定生物層。
膜の栄養面は内部領域と隣接していてもよい。膜の2つの部分間に距離を維持するためのすくなくともひとつのスペーサを備えることができる。
【0028】
他の実施例では、生物反応器は下記からなる。
膜支持構造体と;
膜が栄養面における栄養液から気体面における空気を分離させ、さらに膜が複数の内部領域を形成するので、内部領域が栄養面に隣接するような構造で、膜支持構造体によって支持されている第一の態様による平面膜と;
膜の気体面上および/またはその気体面付近の膜内における固定生物層と、
入口マニホールドに接続している、内側領域へ栄養溶液を侵入させるための複数の入口と、
内部領域から栄養溶液を除去するための複数の出口と、
出口から入口マニホールドへ栄養溶液を再循環させるためのリサイクルシステムと、
膜から固形物質を除去するためのスクレーパと、
吸気口と排気口を備えた、膜と膜支持構造体を収納するための滅菌可能なハウジング。
滅菌可能なハウジングは、たとえば、グリーンハウス(green-house)またはグラスハウス(glass-house)あるいは、生物層に光を進入させることができるチャンバなどである。
【0029】
本発明の第3の態様では、その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有する膜を作成するための下記工程からなるプロセスが提供されている。
生体物質に栄養面から栄養溶液を拡散させることができる膜の栄養面から膜上および/または膜内に生体物質を固定化する工程と、
生体物質が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定化された生物層を形成するような条件の下で、膜の栄養面に栄養液を提供し、さらに膜の気体面を気体に曝気させる工程。
ここで、膜には、一度形成された固定生物層から細胞を除去することができるようにアクセス可能である。膜は、その気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0030】
気体は酸素を含有する気体、たとえば空気または酸素または窒素、二酸化炭素またはヘリウムなどの他のなんらかの気体と酸素の混合気体などであってもよい。気体は膜に損傷を与えないことが好ましい。
【0031】
生体物質は細胞、胞子またはその他の生体物質を含んでいてよい。細胞は原核細胞と真核細胞のどちらでもよく、たとえば菌類、バクテリア、原生動物または植物細胞もしくは動物細胞などであってよい。動物細胞は、たとえば哺乳動物の細胞などであってよい。生物層は、薬剤、抗体、ワクチン成分、食品材料、細胞またはその他の物質を生産することができる。
【0032】
栄養溶液には生体物質の養分が含有されており、その性質は生体物質の性質によって異なる。栄養溶液には、電解質、塩類、緩衝液、生物変換または微生物分解などのための化合物といったひとつまたは複数の他の化合物を含んでいてもよい。栄養溶液は実質的に無酸素性であってよい。
【0033】
膜は平面であってもよいし管状であってもよい。膜は、ナノ細孔質、メソ細孔質またはミクロ細孔質のいずれかであってもよいし、ナノスケールおよび/またはメソスケールおよび/またはミクロスケールの細孔の組合せを備えていてもよい。膜は、たとえば織物または不織布材もしくは非繊維多孔性材などの支持材を含むことができる。支持材は、その中および/またはその上にナノ細孔質固体またはゲルを備えることができる。膜は、生物反応器の動作条件下で微生物分解不能材料(複数可)から製造できる。膜は、外圧をかけずに、栄養面から生体物質へ栄養溶液を拡散させることができる。
【0034】
膜の栄養面に栄養溶液を提供する工程では、生体物質の一部が膜の栄養面上で成長する可能性がある。したがって、この工程では、栄養面上でスクレーパを移動させることが、好ましい。スクレーパの移動は連続的であってもまた間歇的であってもよい。スクレーパの移動により、栄養面から生体物質を除去することができ、さらに生体物質の成長により隣接している膜の栄養面が相互に固着しないように防止することができる。スクレーパは、隣接している膜の栄養面を分離させるためのスペーサとなることもできる。
【0035】
固定化する工程は、複数の細胞および/または胞子の少なくとも一部がそこに付着するように、複数の細胞および/または胞子に膜を曝露させる工程を有することができる。この曝露工程には、たとえば水性液などの液体や気体、蒸気、エアロゾルまたは噴霧などであってよい、細胞および/または胞子を含有する担体に膜を曝露させる工程を含むことができる。この曝露工程には、噴霧、灌水、塗布、吹付けなどの方法または気体面に細胞および/または胞子を伝播する別の何らかの曝露法を含んでいてもよい。
【0036】
栄養溶液を提供する工程は、栄養溶液から酸素を除去する工程を含んでいてもよい。酸素を除去する工程は、たとえば、栄養溶液への真空圧の供与などによる脱気工程を含んでいてもよいし、栄養溶液を通じてごく少量の酸素を含有する気体をバブリングさせる工程を含んでいてもよい。
【0037】
ひとつの実施例では、固定化工程は下記の工程からなる。
ナノ細孔性固体またはゲルを生成することができる前駆体溶液を、支持材に注入する工程と、
支持材上および/または支持材内にナノ細孔質固体またはゲルを生成して膜を形成する工程。
前記固体化工程には、注入工程前に、アルカリ性水溶液または水プラズマのどちらかに、支持材を曝露させる工程も含むことができる。前駆体溶液には、たとえば複数の細胞および/または胞子などの生体物質を含むことができるので、ナノ細孔質固体またはゲルを生成するプロセスでは、膜内に生体物質(たとえば細胞および/または胞子など)の少なくとも一部を固定化することができる。固定化工程にはさらに、前述のように複数の細胞および/または胞子に膜を曝露させる工程を含むことができる。前駆体溶液は、たとえばコロイダルシリカ、アルギン酸カルシウム、寒天、アガロース、ペクチンまたはその他の天然もしくは合成ポリマーの溶液または懸濁液、あるいはこれらの混合液のいずれであってもよい。注入プロセスは前駆体溶液内に支持材を浸漬させる工程とその後の液体から支持材を除去する工程を含んでもよいし、支持材を通過して液体を流す工程を含んでもよいし、注入のための他の何らかの好適な方法を含んでいてもよい。ナノ細孔質固体またはゲルを生成するプロセスは、前駆体溶液の性質によって異なるが、たとえば、支持材に注入された前駆体溶液の少なくとも一部を蒸発させる工程、支持材に注入された前駆体溶液のpHを変更する工程、支持材における前駆体溶液の温度を変更する工程または支持材上および/または支持材中にナノ細孔質固体またはゲルを沈殿させるため沈殿剤に支持材中の前駆体溶液を曝露するための工程を含むことができる。
【0038】
他の実施例では、その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有する膜を製造するための下記工程からなるプロセスが提供される。
ナノ細孔質固体またはゲルを生成することができる前駆体溶液を支持材へ注入する工程と、
支持材上および/または支持材内にナノ細孔質固体またはゲルを生成して膜を形成させる工程と、
複数の細胞および/または胞子の少なくとも一部がそこに付着するように、複数の細胞および/または胞子に膜の気体面を曝露させる工程と
膜の栄養面に栄養溶液を提供する工程と、細胞および/または胞子が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件下で気体に膜の気体面を曝露させる工程からなる。
【0039】
他の実施例では、その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有する膜を製造するための下記工程からなるプロセスが提供されている。
生体物質を含有し、ナノ細孔質固体またはゲルを生成できる前駆体溶液を支持材に注入する工程と、
支持材上および/または支持材中にナノ細孔質固体またはゲルを生成して膜を形成し、膜上および/または膜内に生体物質を固定させる工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、生体物質が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
【0040】
他の実施例では、その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有する膜を製造するための、下記工程からなるプロセスが提供される。
細胞および/または胞子を含有するコロイダルシリカを織物支持材に注入する工程と、
支持材内のコロイダルシリカを酸性化して膜を形成し、膜内に細胞および/または胞子を固定する工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、細胞および/または胞子が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件の下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
さらにその気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有し、本発明の第3の態様のプロセスによって製造される膜も提供される。
【0041】
本発明の第4の態様では、膜支持構造体上に、本発明の第1の態様による膜を取り付ける工程を含む、生物反応器を作成するためのプロセスが提供される。
【0042】
ひとつの実施例では、気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有しており、栄養面から固定生物層に栄養溶液を拡散させることができ、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセス可能であるような、本発明の第一の態様による膜を膜支持構造体上に取り付ける工程がプロセスに含まれている。膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0043】
他の実施例では、プロセスは下記の工程からなる。
膜の栄養面から離れた膜上および/またはその膜内に固定された生体物質を有し、栄養面から生体物質への栄養溶液の拡散を可能にし、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセス可能であるような膜を膜支持構造体上に取り付ける工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、生体物質が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件の下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
栄養溶液は実質的に無酸素であってもよい。また前記膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0044】
他の実施例では、プロセスは下記の工程からなる。
膜支持構造体上に、以下の膜を固定する工程(であって、該膜が
・栄養面と気体面とを備えており、
・気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を支持することができ、
・栄養面から固定生物層へ栄養溶液を拡散させることができる膜であり)
栄養面から離れて、膜上および/または膜内に生体物質を固定する工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、生体物質が気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を形成するような条件の下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
ここで、膜は固定生物層から細胞を除去できるようにアクセス可能である。膜には、その気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0045】
固定化工程は、複数の細胞および/または胞子の少なくとも一部がそこに付着するように、複数の細胞および/または胞子に膜を曝露させる工程を含んでいてもよい。この曝露工程には、担体がたとえば水性液などの液体、または気体、蒸気、エアロゾルまたはスプレーなどであってもよく、細胞および/または胞子を含む担体に膜を曝露させる工程を含んでいてもよい。この曝露工程は、噴霧、灌水(irrigating)、塗布(swabbing)、吹付けあるいは、気体面に細胞および/または胞子を伝播する他のなんらかの曝露法を含んでいてもよい。栄養溶液は実質的に無酸素であってもよい。
【0046】
他の実施例では、プロセスは下記の工程からなる。
膜支持構造体上への支持材の取り付け工程と、
ナノ細孔質固体またはゲルを生成することができる前駆体溶液を支持材に注入する工程と、
支持材上および/または支持材内にナノ細孔質固体またはゲルを生成して膜を形成する工程と、
膜の栄養面に栄養溶液を提供し、固定生物層が気体面上および/または気体面付近の膜内に形成されるような条件の下で気体に膜の気体面を曝露させる工程。
ここで、固定生物層から細胞を除去できるように膜にアクセスできる。膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0047】
この実施例のプロセスでは、
前駆体溶液が複数の細胞および/または胞子を含んでいるので、ナノ細孔質固体またはゲルを生成する工程で細胞および/または胞子の少なくとも一部が膜内に固定されるか;または
複数の細胞および/または胞子に(前記のように)膜を曝露させる工程が栄養溶液を提供する工程の前に行われるか、あるいはその両方である。
栄養溶液は、実質的に無酸素であってもよい。
【0048】
本発明の第5の態様では、第2の態様による生物反応器を動作するための、下記工程からなる方法が提供される。
栄養溶液に膜の栄養面を曝露させる工程と、
気体に生物層を曝露させる工程と、
膜の栄養面から生物層に栄養溶液を拡散させる工程からなる。
栄養溶液を拡散させる工程は外圧をかけずに実施することができる。この方法には、生物層を通過して気体を流入させる工程も含まれる。生物層が好気性種を含んでいる場合には、気体は酸素を含有する気体たとえば、空気や酸素または、窒素、二酸化炭素またはヘリウムなどその他の気体と酸素の混合気体であってよい。気体は膜に損傷を与えないことが好ましい。栄養溶液には、生物層向けの栄養素が含まれているが、その性質は生物層の性質によって異なる。栄養溶液は、電解質、塩類、緩衝液などひとつまたは複数の他の化合物を含んでいてもよい。栄養溶液は、実質的に無酸素であってもよい。該方法は、栄養溶液が膜を通過して流れないバッチ法であってもよいし、栄養溶液が膜を通過して流れる連続法であってもよい。生体膜リアクタを動作するための方法は、たとえば薬剤、抗体、ワクチン成分、食品材料、細胞または酵素などを産生することを目的としていてもよいし、栄養液内の不必要な成分の除去、劣化または変換を目的としていてもよい。
【0049】
この方法は、栄養溶液から酸素を除去するための工程を含んでいてもよい。酸素を除去するための工程には、たとえば栄養溶液に真空圧を加えることによって脱気させる工程を含んでいてもよいし、栄養溶液を通じて微量の酸素を含む気体をバブリングさせる工程を含んでいてもよい。酸素を除去する工程は、栄養溶液に栄養面を曝露させる工程の前に実施することができる。
【0050】
この方法にはさらに、生物反応器の生産物を単離する工程も含むことができる。単離させる工程には、栄養溶液から生産物を分離する工程を含んでもよいし、気体面から固形物質を収穫する工程を含んでもよい。固形物質は、たとえば生物反応器の生産物であってもよいし、生物層の一部であってもよい。固形物質は、たとえば細胞、胞子、菌糸またはタンパク質、多糖類およびポリマーなど、細胞によって産生される物質を含む他の生体物質を含んでいてもよい。
【0051】
ひとつの実施例では、前記方法は下記工程からなる。
その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有し、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセスすることができる膜の栄養面を栄養溶液に曝露させる工程と、
酸素を含有する気体に生物層を曝露させる工程と、
膜の栄養面から生物層に栄養溶液を拡散させる工程と、
第1の時間のあいだ、栄養溶液に膜を曝露させる工程と、
膜の栄養面に第2の液体を導入する工程と、
第2の時間のあいだ、第2の液体に膜を曝露させる工程と、
第2の液体から生産物を分離させる工程。
膜にはその気体面に支持基質がなくてもよい。第2の液体は、栄養素を含まない液体であってもよいし、たとえば生理食塩水や緩衝液であってもよい。第1の時間は、たとえば、約1時間〜1日、第2の時間は、たとえば、約12時間〜12日間とすることができる。
【0052】
他の実施例では、前記方法は下記工程からなる。
その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有し、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセスすることができる膜の栄養面を栄養溶液に曝露させる工程と、
酸素を含有する気体に生物層を曝露させる工程と、
栄養溶液から産物を分離する工程からなる。
膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。
【0053】
他の実施例では、前記方法は下記工程からなる。
その気体面上および/または気体面付近の膜内に固定生物層を有し、固定生物層から細胞を除去できるようにアクセスすることができる膜の栄養面を栄養溶液に曝露させる工程と、
栄養面から生物層に栄養溶液を拡散させる工程と、
酸素を含有する気体に生物層を曝露させる工程と、
生物層から固形産物を除去する工程からなる。
膜にはその気体面上に支持基質がなくてもよい。除去工程は、剥離、振動、吹付けあるいは、生物層から固形産物を分離する他のなんらかの好適な手段を含んでいてもよい。
【0054】
膜の栄養面において実質的に無酸素の栄養溶液を使用して、その気体面および/またはその気体面付近の膜内に生物層を産生するためあるいは、その気体面および/またはその気体面付近の膜内に生物層の生産物を産生するための、本発明による生物反応器が提供されている。生産物は、たとえば、薬剤、抗体、ワクチン成分、食品材料、細胞またはその他の物質などであってもよいし、生物反応器が液体中の物質を有益な形態あるいは無毒性の形態に変換してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明による膜を表す図である。
【図2】本発明により、その上および/または中に生物層を有する膜を組み立てるためのプロセスを説明する図である。
【図2a】図2と同趣旨の説明図。
【図3】本発明による生物反応器の図である。
【図3a】図3に示されている生物反応器で使用することができる入口マニホールドの図である。
【図3b】本発明による生物反応器の出口から入口に液体を循環させるための循環系の図である。
【図3c】本発明による生物反応器の出口から入口に液体を循環させるためのもうひとつの循環系の図である。
【図3d】本発明による他の生物反応器の図である。
【図4】本発明による他の生物反応器の図である。
【図5】本発明による他の生物反応器の図である。
【図5a】本発明による他の生物反応器の図である。
【図6】実施例1の生物反応器におけるP.chrysogenumに関するペニシリンの濃度対時間のグラフである。
【図7】実施例1の噴霧式生物反応器におけるP.chrysogenumに関するペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図8】実施例1の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図9】実施例1の噴霧式生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図10】ガラス支持体を使用した、実施例2の生物反応器におけるP.chrysogenumに関する炭水化物濃度、pHおよびペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図11】ポリエステル支持体を使用した、実施例2の生物反応器におけるP.chrysogenumに関する炭水化物濃度、pHおよびペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図12】綿支持体を利用した例2の生物反応器におけるP.chrysogenumに関する炭水化物濃度、pHおよびペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図13】ポリエステル綿支持体を使用した実施例2の生物反応器におけるP.chrysogenumに関する炭水化物濃度、pHおよびペニシリン濃度対時間のグラフである。
【図14a】綿支持体およびゲル状物質無しで、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図14b】ガラス支持体を用い、寒天ゲルを含む実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図14c】ガラス支持体を用い、アルギン酸カルシウムを含む実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図14d】ガラス支持体を用い、シリカゲルを含む実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図15a】ガラス支持体およびシリカゲルを使用した、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭水化物濃度対時間のグラフである。
【図15b】ガラス支持体およびシリカゲルを使用した、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関するカリウム、リン、硫黄の各濃度対時間のグラフである。
【図15c】ガラス支持体およびシリカゲルを使用した、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関する炭素、窒素、硫黄の各濃度対時間のグラフである。
【図15d】ガラス支持体およびシリカゲルを使用した、実施例2の生物反応器におけるA.nigerに関するカルシウム、マグネシウム、亜鉛の各濃度対時間のグラフである。
【図16a】実施例3の連続式生物反応器と同じ膜物質を使用したバッチ式に関する炭水化物の消費量とpHの経時変化を示すグラフである。
【図16b】実施例3の連続式生物反応器における炭水化物の消費量とpHに関する結果のグラフである。
【図17】実施例4において、NBM中で成長したA.nigerにより、麦芽抽出培地から、溶存固形物、リン、窒素が除去される過程を示したグラフである。
【図18a】実施例4において、NBM中で成長したA.nigerにより、麦芽抽出培地から、各種成分の除去を示しているグラフである。
【図18b】実施例4において、NBM中で成長したA.nigerにより、麦芽抽出培地から、各種成分の除去を示しているグラフである。
【図18c】実施例4において、NBM中で成長したA.nigerにより、麦芽抽出培地から、各種成分の除去を示しているグラフである。
【図19】実施例5から、NMBおよび振とうフラスコ培養におけるA.ferrooxidansによる第一鉄から第二鉄への変換における濃度変化を示すグラフである。
【図20】膜の下端から栄養流が供給される、本発明による生物反応器の図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明の生物反応器は、膜生物反応器、ナノ粒子膜生物反応器、ハイブリッド器官または類器官(organoid)であってもよい。生物反応器は、バイオマスを産生するための装置、または化学物質を産生するための装置、または汚染物質を除去するための装置であってもよいがこれに限定されない。生物反応器は、たとえば膜上および/または膜内にシリカゲルなどのナノ粒子ゲルを任意に含み、膜支持構造体によって支持されている多孔質材または繊維質材の膜を備えている。生物反応器は、ひとつまたは複数の膜を備えていてもよいし、約1個〜20000個の膜、または約1個〜1000個の膜、または約1個〜100個の膜、または約1個〜50個の膜、または約1個〜20個の膜、または約1個〜10個の膜、または約100個〜20000個の膜、または約1000個〜20000個の膜、または約10000個〜20000個の膜、または約2個〜10000個の膜、または約10個〜5000個の膜、または約20個〜1000個の膜、または約50個〜500個の膜、または約100個〜200個の膜を備えていてもよく、さらに、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、250、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10000、12000、14000、16000、18000または20000個の膜を備えていてもよい。各膜は、約10cm2〜10m2の面積を備えることができ、さらに、約10cm2〜1m2、または約10cm2〜500cm2、または10cm2〜100cm2、または10cm2〜50cm2、または100cm2〜500cm2、または500cm2〜1m2、または1m2〜10m2、または1m2〜5m2、または5m2〜10m2、または500cm2〜5m2の面積を備えていてもよく、さらには、約10、50、100、200、300、400、500、600、700、800または900cm2、あるいは約1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9あるいは10m2、あるいは10m2より大きな面積、たとえば15、20、25あるいは30m2以上を備えていてもよい。膜が平面膜の場合には、これらは、対でまたはひだ状(gills)に配列していてもよい。約1〜10000個の対、または約1〜5000個の対、または約1〜1000個の対、または約1〜500個の対、または約1〜100個の対、または約1〜50個の対、または約1〜10個の対、または約2〜10000個の対、または約5〜5000個の対、または約10〜1000個の対、または約50〜500個の対、または約100〜200個の対、または約100〜10000個の対、または約500〜10000個の対、または約1000〜10000個の対、または約5000〜10000個の対であってよく、さらには、約l、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、300、500、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10000、12000、14000、16000、18000または20000個の対であってもよい。ひとつの実施例では、一対の膜例えばひだが、垂直方向に相互に平行に懸垂されている。膜は平面とすることができるので、膜対は、平坦な管の形態をしているかまたは同心の管状にできるため、その対がそれらの間に環状領域を形成する。膜対は、少なくともその円周端の一部の周囲で連結し、膜間に内腔を形成する。他の実施例では、膜管は、適切なスペーサで懸垂されている。したがって本発明は、相互に平行に近接して配置された実質的に平坦な2枚の膜を有する生物反応器を提供しているので、これら2枚の膜間には平坦な内腔が形成され、この内腔を液体が流れる。内腔から離れた膜の面は、生物層(すなわち生物膜)をその中におよび/またはその上に備えることができる。膜および内腔は、垂直方向を向いているので、重力によって液体流が内腔を下方向に輸送される。2枚の膜は、それらの端で連結して、袋を形成していてもよい。垂直方向の部材、たとえばロッドやバーなどのスクレーパの形態で膜間にもうひとつのスペーサを配置することができる。これは、動作したときに、膜間の領域の栄養溶液が通過できる穴を有してもよい。このスペーサは可動性であってもよく、膜間を移動することができてもよい。これは動作したときに、膜の栄養面を剥離できるように配置してもよい。また動作したときに、膜の栄養面に固着している細胞を除去することができるように配置してもよい。スペーサは、たとえばロッドやバーなどの、垂直部材であるようなスクレーパの形態であってもよい。これは、膜の栄養面に固着している細胞を除去できるように、スペーサを動作させるため、スペーサ作動装置に連結することができる。この可動スペーサは、2枚の膜を固着させるゲル層を分離させ、その結果内腔の形成を抑止することによって、ゲルでドープした2枚の個別の膜の形成プロセスに役立たせることもできる。さらに別の実施例では、膜管は、膜と支持体との間に距離を維持するために、スペーサが支持体と同心円上に(内側または外側のいずれか)に配置されている。さらなる実施例では、膜は、2ヵ所の部分間で内側領域を形成するように、膜の一部が膜のもうひとつの部分に平行となるように配置されている。たとえば、膜は折りたたまれていてもよい。膜は、たとえば、膜の形成中に前駆体溶液と共に生体物質を含有させることによって適切な生体物質をドープさせてもよいし、膜を形成させた後に、膜に生体物質を接種してもよい。
【0057】
膜は、並列にまたは直列に接続してもよいし、一部を並列に、一部を直列に接続してもよい。直列接続では、(対のうちの)第一の膜(複数可)の栄養面(複数可)から液体を除去するための出口が、(対のうちの)第二の膜(複数可)の栄養面(複数可)に液体を供給するための入口に接続される。出口から入口へ液体を汲み出すためのポンプが存在していてもよい。並列接続では、膜の栄養面へ液体を供給するための入口を入口マニホールドに接続し、膜の栄養面から液を除去するための出口を出口マニホールドに接続してもよい。
【0058】
膜は、垂直方向、水平ではない方向または水平方向、水平線に対して0でない角度のいずれの方向を向いていてもよく、気体領域または(膜面の気体面に隣接している)気体領域から、栄養領域(たとえば内腔)または(膜面または栄養面に隣接している)栄養領域を分離することも可能である。栄養溶液は、膜(複数可)上から供給してもよいし、膜の栄養面(複数可)を流してもよい。ノズルまたは何らかの他の入口装置を用い、膜を通過させてもよい。栄養溶液と実質的に無酸素の気体よりなるスプレーを膜上に噴霧してもよい。水平線に対する膜の角度は、約30〜90°または約45〜90°、約60〜90°または約45〜60°のいずれであってもよく、さらに約30、45、60、75または90°であってもよい。膜は栄養面における栄養溶液と気体面における気体との間に配置することができ、栄養溶液と気体はともに膜に接触している。気体面における気体の圧力は、気体領域に膜を通過して栄養溶液が流入しないだけの十分な高さとすることができる。圧力は、栄養面における栄養溶液の圧力と同等かもしくはそれより高い圧力とすることができる。該圧力は、約0.8〜1.2気圧(atm)、または約0.9〜1.1気圧、0.9〜1気圧、または1〜1.1気圧、さらには約0.8、0.9、1、1.1または1.2気圧とすることができる。膜を通過する圧力は、約0.2気圧未満、約0.15、0.1、0.1または0.05気圧未満としてもよいし、約0、0.05、0.1、0.15または0.2あるいは約0〜0.2気圧、約0〜0.1気圧、約0〜0.05気圧、または約0.05〜0.15気圧としてもよいし、特定の環境下では0.2気圧より大であってもよい。
【0059】
本発明の膜は、多くの方向で使用することができる。膜の生物層が好気性の細胞または微生物または胞子を含んでいる場合には、膜の栄養面が実質的に無酸素状態となり、気体面が、それと接触する酸素を含有した気体を有していなくてはならない。酸素を含有している気体は、約5〜100%のw/w酸素、または約10〜100%、約15〜100%、約20〜100%、約30〜100%、約50〜100%、約75〜100%、約10〜50%、約10〜30%、約10〜20%、約15〜50%、約15〜25%、または20〜50%のw/w酸素を含んでもよいし、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100%のw/w酸素を含んでいてもよい。すでに述べたように、ひとつの方向では、一対の膜が、それらの間に内腔を形成している。内腔を流れる栄養溶液は、生物層が栄養溶液から酸素を吸収するので酸素欠乏状態、実質的には無酸素状態となる。栄養溶液は、内腔を流れる前に、脱酸素装置を用いて脱酸素化しておいてもよい。別の方向では、膜が2つのチャンバを分離し、そのうち第一の気体チャンバには酸素含有気体が含まれており膜の気体面に暴露され、第二のチャンバは無酸素で膜の栄養面に曝露されている。第二のチャンバは、静的であるかまたは膜を通過して流れる栄養溶液で満たしてもよい。第二のチャンバは、栄養溶液上に無酸素気体を備えていてもよいし、または栄養溶液が第二のチャンバ内の膜の栄養面を流れてもよく、この第二のチャンバは、第二のチャンバ内の栄養溶液が無酸素状態であるように、その内部に無酸素の気体を含んでいる。噴霧用無酸素気体を用いて、第二のチャンバ内の膜に栄養溶液を噴霧してもよい。第一のチャンバは、上側チャンバとし、第二のチャンバは下側チャンバとしてもよいし、第一のチャンバを下側チャンバとし第二のチャンバを上側チャンバとしてもよい(膜が水平となる状態)。あるいは第一のチャンバと第二のチャンバを横に並べ、膜を縦方向に並べてもよい。水平膜の場合、特に第二のチャンバが上側チャンバの場合、栄養溶液の重量が膜をひずませたり損傷を与えたりしないように、膜を支持するための支持構造体を組み込むことができる。あるいは、第一のチャンバをなくして、酸素を含有している大気中に向かって膜の気体面が解放されるようにしてもよい。生物層の成長を促進する目的で、膜の気体面を通過する酸素の周囲濃度より高い酸素を含有している気体を通過させると有利である。他の方向では、膜が水平で、下側チャンバから膜の気体面と接触している酸素を含有する気体を含む上側チャンバを分離させて、無酸素の栄養溶液を膜の栄養面と接触させておく。栄養溶液は、脱酸素装置を用いた脱酸素の結果として無酸素とすることができる。あるいは、下側チャンバの容積が小さい場合には、膜の生物層によって消費させることにより、下側チャンバ内の栄養溶液から酸素を欠乏させることができる。栄養溶液と酸素含有気体の一方または両方が、膜を通過して流れることができる。さらに別の方向では、内腔が膜と固体面間に形成されるように(たとえばポリマー材やステンレススチール、アルミニウムなどの金属であるような)、固体面に近接してあるいは平行に膜を取り付けることができる。膜は縦方向でもよいし、上記のような水平方向に対する一定角度の下に取り付けてもよい。内腔を流れる栄養溶液は、生物層が栄養溶液から酸素を吸収するので酸素欠乏状態となり、その結果実質的に無酸素状態となる。栄養溶液は、内腔を流れる前に脱酸素剤を用いて脱酸素化しておくことができる。他の方向では、膜が栄養チャンバの壁の一部を形成しているので、膜の気体面が栄養チャンバの外側に配置され、栄養面が栄養チャンバの内側に配置される。栄養チャンバは、他の箇所に記載するように、脱酸素装置を用いて無酸素状態に維持される。栄養溶液が膜を通過して流れる場合には、重力の影響下で流れるかまたは汲み出すことによって流れるか、あるいは膜を有する生物反応器の一部が回転して遠心力の影響下で栄養溶液が膜を通過して流れてもよいし、他のなんらかの力を通して流れてもよい。膜が水平でない場合、栄養溶液は上側からか下側からまたは他の何らかの方向から膜を通過して流れてもよい。さらに別の方向では、栄養液は、水平ではない、任意による縦の方向にある膜を通過して流れてもよい。この方向では、栄養溶液は、栄養チャンバ内の膜を膜下側の部分から膜の上側の部分に向かって通過して流れることができる。このようにすると、栄養チャンバから気体を容易に排除することができるので、膜の栄養面における無酸素状態が効果的に維持される。本発明による生物反応器の一部の動作方式では、膜の生物層に加え、栄養溶液内におけるビーズ内に封入された嫌気性細胞が存在していてもよい。このようにすると、栄養が、無酸素栄養溶液内に封入された嫌気性細胞と膜上の生物層の酸素を要求している細胞および/または胞子によって代謝されうる。ビーズは、目詰まりを起こさない程度に十分小さくし、栄養溶液中に懸濁させておくのに十分な比重を備えることができる。ビーズの大きさは、約1〜100ミクロン、または約1〜50ミクロン、約1〜10ミクロン、約10〜100ミクロン、約50〜100ミクロン、または約10〜50ミクロンであってもよいし、約1、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90または100ミクロンであってもよいし、あるいは部分的に、そこに封入されている細胞の大きさによってはさらに大きかったり小さかったりしていてもよい。ビーズの比重は、約0.8〜1.2、または0.8〜1、または1〜1.2、または0.9〜1.1であってもよく、さらに0.8、0.9、1、1.1、1.2であってもよいし、一部栄養溶液の比重によってはそれより大きいかまたは小さくてもよい。封入されている嫌気性細胞に対する栄養溶液内の栄養分のアクセスを可能にする、ゲル物質または多孔性物質であるようなカプセル材料によって嫌気性細胞が封入されていてもよい。このカプセル材料は、ハイドロゲル、無機ゲル、有機ゲル、多孔性セラミック、多孔性ポリマーあるいは栄養の浸透性がある他の何らかのカプセル材料でもよい。この態様では、ビーズは、膜を通過して再循環することができ、生物反応器から流出するのを防止することができる。これは、たとえばフィルタの使用により達成することができる。嫌気性細胞を封入することによって、これらが膜の栄養面にコロニーを形成するのを防止または阻害することができるので、膜の気体面上の生物層に膜を通過して栄養溶液が拡散するのを制限することができる。
【0060】
上記方向および方式のどれかまたはすべてにおいて、膜は、たとえば支持体フレーム、ケーシング、ハウジング、フレームワーク、足場またはその他の支持構造体など、膜支持構造体によって、該当する方向に維持することができる。膜は、膜支持構造体から懸垂するように取り付けてもよいし、膜支持構造体内に拘束してもよいし、あるいは膜支持構造体内またはその上にその他の何らかの方法で取り付けてもよい。膜支持構造体には、溝やチャネルを備えた固体構造を有し、それによって膜が溝にある栄養溶液を封入するように広がっていてもよい。したがって、後者の方法で動作する場合、その上に生物層を備えた膜の気体側が溝から離れ、膜の栄養側が溝に面する。溝を通過して流れる栄養溶液は生物層まで栄養面上を拡散し、代謝産物が溝に拡散する。この方法では、膜は、内部支持体たとえば織物、繊維またはその他の支持体を備えていてもよいし、内部支持体を備えていなくてもよい。膜は、たとえば繊維を備えて、内部から付加的な支持を提供してもよい。溝は、固形支持体上に広がり、各溝の対抗する二つの側壁にゲル膜を備えていてもよい。膜支持構造体は、その完全性を維持できるように、膜を十分に支持することができる。上記方向のどれかまたはすべてで、栄養溶液は、リサイクルシステムを用いて膜を通過して循環させることができる。リサイクルシステムは、栄養溶液から酸素を排除したり、たとえば脱酸化装置を用いて栄養溶液から酸素を除去したりしてもよい。
【0061】
排水および類似の用途では、排水(栄養溶液)を複数回生物反応器の膜を通過して再循環させて所望の量の排水中の物質を除去できるだけの、十分な接触時間を与える必要があるであろう。接触時間は、生物層の性質、除去する物質の性質と濃度ならびにその他の要因により、1分〜10日間とすることができる。接触時間は約1分〜1日、1分〜12時間、1分〜1時間、1分〜30分、1分〜15分、1時間〜10日、1日〜10日、5日〜10日、1時間〜1日、1時間〜12時間、12時間〜24時間、または6時間〜12時間の間とすることができ、さらに、1、2、3、4、5、6、12、18、24、30あるいは45分、1、2、3、4、5、6、8、12、15、18あるいは21時間、または、1、2、3、4、5、6、7、8、9あるいは10日間であってもよく、10日以上であってもよい。したがって、排水が膜の外寸、流速、除去する物質の性質と濃度、生物層の性質とその他の要因次第で、約1回〜1000回膜を通過して再循環することができる。排水は、約1〜500、約1〜200、約1〜100、約1〜50、約1〜10、約10〜1000、約100〜1000、約500〜1000、約10〜500、約10〜100、約100〜500、約50〜100、または約10〜50回再循環することもでき、さらに約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、200、3400、400、500、600、700、800、900または1000回再循環することもできる。除去する物質の濃度を決定するための検出器をリサイクルシステムに配置してもよい。このようにすると除去する物質が検出器によって判定される規定の濃度まで降下するまで、排水が再循環することができる。検出器の性質は、除去する物質の性質によって決まるであろう。これは、濃度検出器、pH検出器、pHプローブおよびイオン濃度プローブあるいはその他の何らかの種類の検出器であってよい。本発明によれば生物反応器は、重金属を、それらを含有する流れから接収するのに使用することもできる。これは、排水流またはその他の流れであってよい。必要に応じて、重金属をたとえば抽出、燃焼またはその他の何らかの好適なプロセスによって摂取した生物層から回収することもできる。
【0062】
本発明の膜の生物層内に使用することのできる微生物や細胞の例として、P.chrysogenum、A.ferrooxidans、A.Niger、A.Oryzae(たとえばvar.oryzae,IFO30113菌株)、A.soya、ヒト繊維芽細胞などが挙げられる。
【0063】
本発明のひとつの特徴は、膜が固定された生物層から細胞を除去できるようにアクセスできるという点にある。膜は、その気体面上に支持基質を備えず、膜にアクセス可能としておくことができる。固定生物層からの細胞の除去は、たとえば食料など、細胞を使用することを目的としてもよいし、生物層の過剰な成長を抑止することを目的としていてもよい。動作中、生物層が成長して、生物層を通じて酸素および/または栄養溶液の拡散が低速化しそれによって産物の産生速度、栄養溶液からの不必要な成分の除去速度を低下させる可能性がある。したがって、許容可能な産生速度または除去速度に十分であるような酸素および/または栄養溶液の拡散速度を実現するためには、生物層の一部を除去できることが望ましい。膜は、生物層から固形産物を分離させるための剥離または振動または吹付け用の装置またはその他の好適な手段によりアクセス可能にすることができる。したがって固形産物は、剥離または振動または吹付けの少なくともひとつの工程を有するプロセスによって除去することができる。あるいは、栄養分を供給しないことによってあるいは養分のすべてを消費させることによって、生物層が存続不能であるように生物反応器を動作することにより、固形産物を除去してもよい。この場合、特定の種類の生物層に関しては、生物層が膜から自然に離脱してもよいし、剥離または振動または吹付け工程による除去の影響を、さらに受けやすくしてもよい。
【0064】
動作中、膜の栄養面に供給される栄養溶液は、膜を通して気体面で成長する生物層に拡散し、膜の有孔ネットワーク内に漏れるものはほとんどない。ほぼすべてのバイオマスが膜の気体面上または気体面内で成長するために、効果的に固定され、栄養溶液から分離される。比較的無酸素状態にある栄養溶液は、栄養溶液内の生物層の細胞または他の生体物質の成長を遅延させることができるので、生物付着を低減させることができる。実質的に無細胞の栄養溶液は、他の種類の生物反応器によって産生される細胞を充満した廃液に比べ処理しやすい。栄養溶液の拡散は、外圧なしに生じうる。したがって、これにより、膜の栄養面からの圧力下で膜と生物層を支持するための支持構造体や、さらにこのような圧力を供与するための装置の必要性もなくなる。
【0065】
ひとつの動作方式では、生物反応器の生物層は、好気性微生物または細胞を有している。この態様では、酸素を含有する気体が膜の気体面に提供され、酸化可能物質(たとえば炭水化物、アミノ酸、鉄(II)、塩)を含むその栄養溶液が、実質的に無酸素となるような方法で膜の栄養面に供給される。これは、膜に提供する前に栄養溶液から酸素を除去するかまたは栄養溶液中に当初から存在している酸素を生物層が即時消費して実質的にその後無酸素状態を維持するように、構成内で膜に栄養溶液を提供することによって実現可能である。栄養溶液の性質、生物層の性質など、生物反応器の構成によっては、栄養溶液中に当初存在していた酸素が、膜の最初の約10cmでまたは膜の最初の約5、4、3、2、1または0.5cmあるいは他の長さ)で消費され、さらに残りの膜が実質的に無酸素栄養溶液に曝露される。
【0066】
他の動作方式では、生物反応器の生物層が、嫌気性微生物または細胞を含んでいる。この態様では、無酸素気体を膜の気体面に供給することができる。無酸素気体は、水素、メタン、一酸化窒素、窒素またはその他の何らかの無酸素気体あるいはこれらの特定の組合せであってよい。無酸素気体は非酸化型気体であってもよいし還元型気体であってもよく、さらに酸化可能な気体であってもよい。この態様では、栄養流には、硫酸塩、硝酸塩または還元可能物質の混合物など、還元可能物質を含んでいてもよい。この態様での動作では、生物層は、栄養流の還元可能物質を減少させ、無酸素気体を酸化させる。還元可能物質の減少は、例えば栄養溶液から不要な溶解物を除去するように、不溶性物質(たとえば金属硫化物)の生産により行われる。
【0067】
他の動作方式では、膜は、膜の気体面上に第一の生物層を有しており、この第一の生物層は、好気性細胞または微生物を含んでいるが、膜の栄養面上の第二の生物層は嫌気性細胞または微生物を含んでいる。この態様は、たとえば、アンモニアおよび亜硝酸塩の同時硝化と脱窒化に使用し、窒素を生成することもできる。これは、排水処理の用途で使用したり、水産養殖に使用することができる。
【0068】
さらに動作中にバイオマスは、膜の気体側の酸素を含有する気体に曝露される。先行技術による多くの生物反応器では、バイオマスは、栄養溶液中に配置されるので、バイオマスに酸素を供給するために栄養溶液の酸化または曝気処理が必要となる。その結果、これらバイオマスのコストが非常に高くなる。本発明の生物反応器の設計では、このような酸化装置または曝気装置の必要がない。本発明による生物反応器では、膜の対(それらの間を栄養溶液が通過するため内腔を形成している)は、膜上および/または膜内におけるバイオマスへの酸素の供給のため、膜対間を空気が通過するのに十分な空間によって区切ることができる。この空間は、拡散流がそこを通過できるのに十分な広さとすることができる。気体(たとえば空気)は、空間を通過させるための別の装置を用いなくても、拡散、対流、風力または何らかのその他の手段によって、あるいはファン、ブロワー、ガス循環機、または対の膜の気体面を気体が通過するその他の手段によって空間を通過させてもよい。空間は膜の大きさによって決定することができる。これは、約2〜100mm(膜対の間)、または約2〜50、約2〜20、約2〜10、約5〜50、約5〜20、約5〜10、約10〜100、約50〜100、約80〜100、約10〜50、約10〜20または約8〜10mmであってもよいし、あるいは約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95あるいは100mmもしくは100mm以上であってもよい。
【0069】
多くの動作方式で、本発明の生物反応器は、栄養流が実質的に無酸素状態となるように動作する。これは、膜の栄養面での酸素要求細胞や胞子の成長を制限する。この特徴が、無酸素栄養溶液についての記述がなく実際には栄養供給流が無酸素状態であるようにするための何ら処置を講じていない多くの既知の生物反応器から、本発明を差別化している点である。たとえばJP10−179138には、栄養流の他面上に生物層を備えた膜を栄養流が流れ落ちるような生物反応器についての記述がある。ただしこの生物反応器では、膜に供給された後、膜を流れ落ちるので栄養流の酸化を抑止するための注意がなされておらず、それが無酸素性であるという表示もない。その発明で使用されている膜は、生物層の細胞にとって通行不能でなくてはならない。というのは、これは、膜の栄養面上で成長する細胞を抑止するための唯一の手段だからである。本発明では、それとは逆に、膜の絶対的完全性が重要というわけではない。というのは、細胞や胞子などは栄養溶液の無酸素の性質によって膜の栄養側で生育するのを阻害されるからである。これにより、JP10−179138の膜のコストにくらべ、本発明で使用する膜のコストを低くすることができる。
【0070】
生物反応器は、栄養溶液を大気に曝露させない方法で運転可能である。これは、2枚の膜間に通過させるか、または1枚の膜の2つの部分間を通過させるかまたは酸素透過不透過性膜と支持体の間を通過させるかによって達成可能であり、この場合支持体は、2枚の平行な膜間に配置し、それによって流入する栄養溶液内の溶存酸素が生物層によって急速に消費され、栄養溶液を比較的無酸素の状態に維持しておくことができる。このように、栄養流は、高価な噴霧および/または脱酸素装置を使用せずに、ほぼ無酸素状態にすることができる。あるいは、栄養溶液をたとえば窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンあるいは別の非酸化性気体またはそれらの混合物などで、実質的に無酸素の大気中で膜によって通過させてもよい。たとえば、膜を垂直方向に懸垂することができ、気体側上に酸素含有気体を置き、窒素雰囲気によって覆った栄養側に栄養溶液を滴下させる。任意に、これを比較的無酸素状態にしておくために、栄養溶液から酸素を除去するための酸素リムーバも配置してもよい。酸素リムーバは、たとえば、真空脱気装置などの脱気装置でもよく、あるいは栄養溶液に微量の酸素を含有する気体をバブリングさせるための噴霧器を含んでもよい。微量の酸素を含んでいる気体は、たとえば窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンまたは微量の酸素を含有しているその他の従来の気体のどれかであってよい。これはまた、重量比または体積比で約5%の酸素または約4、3、2、1、0.5、0.1%未満の酸素を有していてもよく、あるいは約重量または体積比で約0、0.1、0.5、1、2、3、4または5%の酸素を有していてもよい。栄養溶液が酸素リムーバを流出したのちの酸素濃度は、約10ppm酸素未満、もしくは約5、1、0.5、0.1、0.05または0.01ppm酸素未満を有しているかまたは、0、0.01、0.05、0.1、0.5、1、5、または10ppm酸素を有していてもよいし、あるいは約10%未満または約5、2、1、0.5あるいは0.1%未満、もしくは約0、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9あるいは10%未満の酸素飽和度であってもよい。酸素リムーバは、入口、入口マニホールド、出口、出口マニホールドまたは栄養溶液を保持するためのリザーバあるいは生物反応器の他の部分のどこかに配置しておいてもよいし、それぞれがこれら位置のどこかに配置されているような複数の酸素リムーバを備えていてもよい。
【0071】
出口から入口まで栄養溶液を再生利用させるためのリサイクルシステムも採用していてよい。リサイクルシステムは、栄養溶液に対する酸素のアクセスを防止することができるので好ましい。リサイクルシステムは、ひとつまたは複数のポンプ、ポンプ吸入管、ポンプ排水管、配水管、配水管バルブ、排出管、排出管バルブ、配水管タンクおよび排出タンクなどを有していてもよい。
【0072】
たとえばリサイクルシステムは以下を含むことができる。
栄養溶液を汲み出すためのポンプと、
ポンプから入口マニホールドへ繋がるポンプ排水管と、
出口マニホールドからポンプへ繋がるポンプ吸入管と、
液体が生物反応器に侵入できるようにするための配水管バルブ付き配水管と、
生物反応器から液体を除去するための排出管バルブ付き排出管。
【0073】
リサイクルシステムは、栄養液を保持するためのリザーバを有していてもよい。このリザーバは、タンク、コンテナ、ビーカ、ボトル、チャンバ、水槽または容器であってもよい。
【0074】
本発明の生物層は、たとえば生理食塩水および/または緩衝液の溶液など、養分を含まない第2の液によって栄養液を交換した後に生産物を産生し続けることができる。したがって、本発明により生物反応器を運転させるためのひとつの方法では、最初の周期に膜の栄養面に栄養溶液を供給し、第2の周期で膜に栄養を含まない第2の液を供給する。実質的に無細胞かつ無栄養の溶液では、生産物を分離する加工をさらに容易にすることができる。後者の方法では、最初の周期は、生物層の種類とバイオセパレータ(bioseparator)を運転するための条件によって異なると考えられる。第1の周期は、約1時間〜1日、または約1〜18時間、または約1〜12時間、または約1〜6時間、または約1〜3時間、または約1〜2時間、または約6時間〜1日、または約12時間〜1日、または約18時間〜1日、または約3時間〜18時間、または約6時間〜12時間であってもよく、さらには約1、2、3、4、5、6、12、18または24時間のいずれかであってもよい。第2の周期は、生物層の種類と生物反応器の動作条件によって決まり、第1の周期の長さによっても異なる。第2の周期は、約12時間〜12日、または約12時間〜8日、または約12時間〜4日、または約12時間〜2日、または約12時間〜1日、または約1日〜12日、または約4日〜12日、または約8日〜12日、または約1日〜6日、または約2日〜4日であってもよいし、さらには約12時間〜18時間、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11あるいは12日であってもよい。
【0075】
生物層の健全性かつ効率的な動作を促進するために、生物層を特定の温度に維持することができる。この温度は、各種生体物質が最適に能力を発揮することができる温度が異なるので生物層の種類によって決まる。温度は、生物反応器の動作中にわずかに変化する可能性がある。温度は、約−5〜120℃、または−5〜0℃、または0〜100℃、または0〜50℃、または0〜20℃、または20〜120℃、または50〜120℃、または90〜120℃、または10〜45℃、または10〜35℃、または10〜25℃、または20〜55℃、または30〜55℃、または40〜55℃、または15〜45℃、または17〜42℃、または20〜40℃、または20〜30℃、または30〜40℃であってよいし、約−5、0、5、10、15、17、20、25、28、30、35、37、40、42、45、50、60、70、80、90、100、110または120℃のいずれかであってもよい。温度は、生物層と接触する空気または流入液によってほぼ所望の温度に維持することができる。
【0076】
生物反応器は、たとえば薬剤、抗体、ワクチン成分またはその他の化学薬品など、膜の栄養面における液体から回収可能な可溶性産物および/またはたとえば食品や細胞など膜の気体面から回収可能であるような固形産物を産生する目的で動作してもよいし、また栄養液から汚染物質のような不要な成分(例えばC、N、S、P、Mn、Mg、Ca,Zn他重金属)を除去する目的で使用してもよい。さらにまた、生物反応器は、生物変換(bioconversion)によって、たとえば生物化学的酸素要求量(BOD)を減少させる目的での炭水化物の代謝、(汚染物質の負荷、硫黄、リン酸または窒素化合物)の除去などのための金属イオンのバイオ還元またはバイオ酸化)あるいは生物層への金属イオンなどの成分の生体吸収によって栄養液の汚染物質などの望ましくない成分の除去に使用することができる。これは、廃水処理、液体流からの金属イオンの生体吸収(biosorption)、鉱業廃液の再生、バイオリメディエーション(bioremediation)などを目的として適用してもよい。
【0077】
膜支持構造体は、膜を支持するのに好適な構造体であってもよいし、複数の膜を備えた生物反応器の場合には、本発明の膜すべてを支持するのに好適な構造体であってもよい。これはたとえば、フレーム(frame)、ブラケット、ケーシング、ハウジング、ラック(rack)またはスカフォルド(scaffold;足場)などであってもよい。これは、たとえばアルミニウム、鋼鉄、ステンレススチール、チタンまたはその他の好適な金属などから製造されていてもよいし、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリメチルメタクリレートまたはポリカーボネートなどといった好適な硬質プラスチックで製造されていてもよい。膜支持構造体は、垂直位置でまたは水平位置で膜(複数可)を支持することができる。膜支持構造体は、生物反応器内の膜の移動を助けるためのローラーとモーターを有していてもよい。
【0078】
本発明の膜は、ナノ細孔質、メソ細孔質、もしくはミクロ細孔質であってもよく、あるいはナノスケールおよび/またはメソスケールおよび/またはミクロスケールの細孔を組合せていてもよい。これは、生物層の細胞または胞子がそこを通過させることができるか、または通過することができないようにしてもよい。膜は、以下に述べる支持材を有しており、支持材の上および/または中に、下記のようなナノ細孔質の固体またはゲルも含むことができるが、本発明における膜は、ナノ細孔質の固体またはゲルを含まなくても良い。膜は、重量比または体積比で約0〜90%、または重量比または体積比で10〜90%、または約10〜50%、または約10〜30%、または約30〜90%、または約50〜90%、または約70〜90%、または約20〜80%、または約30〜70%、または約40〜60%のナノ多孔質ゲルを有していてもよいし、あるいは重量比または体積比で約0、10、20、30、40、50、60、70、80または90%のナノ多孔質ゲルを有していてもよい。膜は、平面であっても管状であってもよい。膜の厚さは約0.1〜10mmであってもよいし、または約0.1〜5mm、または約0.1〜2mm、または約0.1〜1mm、または約1〜10mm、または約5〜10mm、または約0.5〜5mm、または約1〜5mm、または約1〜2mmであってもよいし、さらには約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9あるいは10mmであってもよい。膜を調製するときには、多孔質材内の細胞の分布を当初ほぼ均質とすることができる。ただし、動作中に動作条件により、気体面の付近および/またはその上で細胞の成長が促進され、さらに膜の他の領域における細胞の成長が阻害されうる。その結果、気体面付近および/またはその上の細胞の濃度が非常に高くなり、膜の細胞の分布が動作中に不均質となる可能性がある。
【0079】
ナノ細孔質固体またはゲルは、前駆体溶液から調製することのできる好適な材料を有することができるが、ここで前駆体溶液は、細胞に損傷を与えずにそこに細胞を拡散するのに好適であるものが使用される。ナノ細孔質固体またはゲルは、たとえばシリカゲル、チタンゲル、ジルコンゲル、アルミナゲルまたは2種類以上のシリカ、チタン、ジルコンおよびアルミナ(シルカーアルミナゲルなど)を含有する混合ゲルのいずれを含んでいてもよく、寒天、アガロース、アルギン酸カルシウム、ペクチンまたはその他の生体高分子を含有していてもよい。なお、水酸化鉄からなるナノ細孔質無機ゲルが、鉄酸化細胞Acidithiobacillus ferrooxidansの作用の結果、膜上/膜内に発生する可能性がある。
【0080】
ナノ細孔質固体またはゲルの多孔性は約40〜90%、または約40〜75%、または約40〜60%、または約50〜90%、または約60〜90%、または約70〜90%、または約50〜80%、または約60〜70%であってよく、あるいは40、45、50、55、60、65、70、75、80、85または90%であってよい。細孔の平均径は、約1nm〜10ミクロン、または約1nm〜1ミクロン、または約1nm〜500nm、または約1nm〜100nm、または約1nm〜50nm、または約1nm〜10nm、または約100nm〜10ミクロン、または約500nm〜10ミクロン、または約1〜10ミクロン、または約10nm〜1ミクロン、または約50〜500nm、または約100〜200nmであってよく、あるいは約1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800または900nmであってよく、さらには約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10ミクロンであってもよい。ナノ多孔質固体またはゲルは、その孔内に液体を含むことができ、この液体は水性液体とすることができる。水性液体は、生体のための養分を含んでいてもよく、さらに生体によって産生される産物を含んでいてもよく、また、電解質、塩分、ビタミン、成長因子および/または溶存気体などの他の成分を含んでいてもよい。
【0081】
生物層は、たとえばバイオフィルム(biofilm;生物膜)などであってもよい。生物層は、細胞、細孔または他の生体もしくはその組合せを有することができる。生物層は、抗生剤、薬剤、抗体、ワクチン、化学薬品、食品材料、細胞またはホルモンなどといった所望の産物を産生することができ、たとえばペニシリンを製造するPenicillium chrysogenumを含んでもよい。鉛などの金属(金属イオンの形でもよい)を吸着したり他の廃物を除去したりあるいは、流出液の汚染物質の除去が可能な細胞、たとえば、炭水化物材を除去することができるAspergillus nigerなどを含んでいてもよい。生物層は、膜上および/または膜内に配置してもよく、さらに生物層が生物反応器内の気体に曝露されるように、膜の気体面上および/または気体面内に配置してもよい。このように、生物反応器は所望の産物の産生または、たとえば汚染物質や不必要な物質などを栄養流として膜の栄養面に提供される液体流から、あるいは膜の気体面上で生物層に提供される気体流から除去することができる。たとえば、微生物は、気体流から汚染物質(たとえばオゾン、H2S、SO2など)を除去するのに介在可能である。この場合、膜の気体面は、気体チャンバまたはハウジング内に配置してもよく、気体流は、生物層を通過して気体チャンバを再循環してもよいし、さらに許容可能なレベルまで削減するため汚染物質の濃度に対して十分な時間再循環させることもできる。
【0082】
支持材は、膜の動作条件下で非生物分解性の物質から作成できる。支持材は、親水性であっても疎水性であってもよく、多孔材または織物材または不織布材またはスポンジ様材料または連続気泡材または、支持体の第1の面と第2の面を接続している細孔を有する他の何らかの材料を有していてもよい。支持材は、たとえば、織物または不織布材または不織布多孔材のいずれであってもよい。繊維材は、ガラス繊維マットまたは綿であってもよいし、不織布多孔材はオープンセルフォーム(open−cell foam)などのマクロ細孔質材であってもよいし、あるいはメソ細孔質および/またはミクロ細孔質材であってもよい。これは、硬質であってもよいし、軟質であってもよい。支持体の気孔率は約40〜90%、または約40〜75%、または約40〜60%、または約50〜90%、または約60〜90%、または約70〜90%、または約50〜80%、または約60〜70%であってもよく、さらには約40、45、50、55、60、65、70、75、80、85または90%であってもよい。支持体の細孔は約10〜200ミクロン、または約10〜100ミクロン、または約10〜50ミクロン、または約50〜200ミクロン、または約100〜200ミクロン、または約50〜150ミクロンであってもよく、さらには、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150または200ミクロンであってもよい。織物または不織物のcmあたりの本数(strands)は、約10〜100本/cm、または約20〜100本/cm、または約40〜100本/cm、または約60〜100本/cm、または約10〜60本/cm、または約10〜40本/cm、または約25〜70本/cm、または約30〜60本/cm、または約35〜50本/cm、または約35〜45本/cmであってもよく、さらに約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100本/cmであってもよい。糸の太さは、約20〜1000ミクロン、または約20〜500ミクロン、または約20〜200ミクロン、または約20〜100ミクロン、または約100〜500ミクロン、または約200〜500ミクロン、または約300〜500ミクロン、または約50〜400ミクロン、または約100〜300ミクロン、または約500〜1000ミクロン、または約750〜1000ミクロン、または約500〜750ミクロンであってもよく、さらには約20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900または1000ミクロンであってもよい。支持体は、ガラス繊維マット、ガラス織布マット、ポリエステル、細孔質ポリオレフィン(たとえばポリエチレンまたはポリプロピレンなど)、細孔質フルオロポリマ(たとえばポリフッ化ビニリデンまたはポリ四フッ化エチレンなど)、綿、ポリエステル綿、絹、純毛、焼結ガラス、焼結金属またはその他の多孔質材あるいは繊維材を有していてもよい。
【0083】
支持材料は、親水性材であってもよい。表面を清掃するためおよび/または表面の親水性をさらに高めるために、使用前に支持材を処理してもよい。処理の詳細は、材料の性質による。たとえば、使用する処理は、たとえば水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性溶液に支持材を曝露させるというプロセスを含んでいてもよい。アルカリ性溶液は、約0.1〜5モル濃度、または約0.1〜1モル濃度、または約0.1〜0.5モル濃度、または約0.5〜5モル濃度、または約1〜5モル濃度、または約3〜5モル濃度、または約0.5〜2モル濃度であってよく、あるいは約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5または5モル濃度であってもよい。ガラス織布マット(またはほかのガラス繊維)を含む支持材を処理するときには、曝露するプロセスは、約12〜48時間、または約18〜36時間、または約20〜28時間、または約12〜24時間、または約12〜18時間、または約24〜48時間、または約36〜48時間であってよく、あるいは約12、18、24、30、36、42または48時間であってもよい。しかし、綿、ポリエステル綿またはポリエステルを含む支持材を処理する場合には、曝露プロセスは、支持材に損傷を与えないようにするためにもっと短い時間でなくてはならず、約1〜20分、または約1〜10分、または約1〜5分、または約10〜20分、または約15〜20分、または約2〜15分、または約3〜10分、または約4〜7分であってよく、あるいは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18または20分であってもよい。使用することのできるもうひとつの処理法として、水プラズマ(たとえばRFジェネレータ内に形成することが可能)に支持材を曝露させる方法がある。曝露は、約1〜20分、または約1〜10分、または約1〜5分、または約10〜20分、または約15〜20分、または約2〜15分、または約3〜10分、または約5〜8分であってよく、さらに約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18または20分であってもよい。ひとつの例として、表面に水酸基を導入して湿潤性を持たせるために、13.56mH RMで動作する40W無線周波数プラズマジェネレータ内で約5.0×10−2ミリバールの気圧下、水プラズマ内で約6秒間支持体をエッチングしてもよい。あるいは、オーブンを用いて、さらに親水性を増すために、ガラス製支持材から疎水性材を焼き尽くしてもよい。オーブンの温度は、約300〜700℃、または約300℃〜500℃、または約300℃〜400℃、または約500℃〜700℃、または約500℃〜700℃、または約400℃〜600℃であってもよく、さらには約400、450、500、550、600、650または700℃であってよい。疎水性材をガラス製支持材から焼き尽くすのに必要な時間は、約5分〜36時間、または約10分〜24時間、または約30分〜18時間、または約1時間〜12時間、または約2時間〜6時間、または約5分〜12時間、または約5分〜6時間、または約5分〜1時間、または約5分〜30分、または約10分〜30分、または約1時間〜36時間、または約6時間〜24時間、または約12時間〜24時間、または約18時間〜24時間であってよく、または約5、10、15、20、25、30、40あるいは50分であってもよく、さらには約1、2、3、4、5、6、9、12、18、24、30または36時間であってもよい。
【0084】
前駆体溶液は、細胞に損傷を与えずにそこに細胞を拡散させるのに好適で、なおかつ細胞および支持体に損傷を与えずにナノ細孔質材に変換可能である液体であってよい。前駆体溶液の一例に、アルカリ性コロイドシリカ溶液がある。これらの溶液は一般にpH値が約10であるが、約9〜11、または約9.5〜10.5、または約9〜10、または約10〜11であってよく、あるいは9、9.5、10、10.5または11であってもよい。コロイダルシリカ溶液中のシリカの固体濃度は、重量/重量ベースで約30%、または約15〜50%、または約20〜45%、または約25〜40%、または約30〜35%、または約15〜40%、または約15〜30%、または約25〜50%、または約35〜50%であってよく、あるいは約15、20、25、30、35、40、45または50%であってもよいし、あるいは体積/体積ベースで約17%、または約10〜20%、または約12〜20%、または約15〜20%、または約16〜20%、または約10〜18%、または約10〜16%、または約10〜14%、または約12〜19%、または約14〜18%、または約16〜17%であってもよいし、さらには約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20%であってもよい。
【0085】
ナノ多孔質固体またはゲル内に固定する細胞は、前駆体溶液内に拡散させることができる。前駆体溶液の細胞の濃度は、約101〜1012cfu/ml、または約101〜105cfu/ml、または約101〜103cfu/ml、または約109〜1012cfu/ml、または約1010〜1012cfu/ml、または約105〜109cfu/ml、または約106〜108cfu/ml、または約5×106〜5×107cfu/ml、または約107〜109cfu/ml、または約5×107〜5×108cfu/ml、または約105〜107cfu/ml、または約5×105〜5×106cfu/mlであってよいし、あるいは約101、102、103、104、105、5×105、106、5×106、107、5×107、108、5×108、109、1010、1011、1012cfu/mlであってもよい。
【0086】
ナノ多孔性固体またはゲルは、たとえば、シリカゲル、チタンゲル、ジルコンゲル、アルミナゲルまたはシリカ、チタン、ジルコンおよびアルミナのうちの2つ以上(例:シリカ−アルミナゲル)を有し、寒天、アガロース、アルギン酸カルシウム、ペクチンまたは生体高分子を含んでいてもよい。混合ゲルは、1つのプロセスとして、例えばシリカチタニアゲルをテトラアルキルチタネート(たとえばテトラメチルチタネート Ti(OMe)4)とテトラアルコキシシラン(たとえばテトラメトキシラン Si(OMe)4 TMOS)の制御された加水分解を含むプロセスによって作成することができる。あるいは、ゲルは、たとえば、メチルトリメトキシシランまたは反応性アルキルアルコキシシラン(たとえば、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)など、トリアルコキシシランを用いて作成することもできる。前駆体溶液は、pHを変更すること(たとえば酸性化)あるいは、前駆体溶液から揮発性液を蒸発させることによってナノ多孔性固体あるいはゲルに変換してもよい。蒸発工程では、前駆体溶液を有する支持材に、気体を通過および/または気体を加熱し通過させる工程を有していてもよい。加熱工程は、揮発性液を十分蒸発させる温度であるが、支持材または、存在する場合の細胞および/または胞子を劣化させないようにする。温度は、約30〜90℃、または約30〜80℃、または約30〜60℃、または約30〜40℃、または約50〜80℃、または約40〜60℃であってよいし、あるいは約30、40、50、60、70、80または90℃であってもよいし、支持材およびそこにある任意の細胞および/または胞子がその温度に耐えることができるならば90℃より高くてもよい。十分な量の揮発液を蒸発させて支持材上および/または内のナノ細孔質固体またはゲルを形成することができる。
【0087】
このようにして、前駆体溶液であるゾル(たとえばヒドロゾル)を支持材に注入し、ゾルの性質によって異なる好適なゾル−ゲルプロセスによって支持材中でゲル状にさせ、さらに、pH調整、温度調整、揮発性液の蒸発、金属イオンを伴う試薬や沈殿物の金属イオンへの曝露の各工程のうち1つまたは複数のプロセスを含むことができる。
【0088】
調製プロセスのひとつの例では、複数の孔を含んでいる支持材が、細胞がそこに拡散されているコロイダルシリカ溶液に曝露されて、支持材の細孔内の細胞がそこに固定されているナノ細孔性シリカゲルが形成されるように、孔内のコロイダルシリカ溶液のpHを下げる。pHは、約4〜約8、または約5〜約7、または約4〜約7、または約4〜約6、または約5〜約8、または約6〜約8まで下げることができ、さらには約4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5または8まで下げることができる。pHを下げる工程では、バルク前駆体溶液中からその細孔内に前駆体溶液を有する支持体を除去する工程と、所望のpHの水溶液に支持体を浸積させる工程とを含むことができる。あるいは、コロイダルシリカ溶液を上記のように所望のpH約4〜8に調節する。次に細胞をコロイダルシリカ溶液に添加し、ゲル化が始まる前に、溶液を支持材に注入する。この他の方法は特に、高いpH環境の影響を受けやすい細胞で使用するのに特に有効である。
【0089】
前駆体溶液の別の例としては、アルギン酸ナトリウムまたは寒天やアガロースの水溶液が挙げられる。前駆溶液中の溶質の濃度は、前駆溶液の粘度が支持体中に注入するのに好適でなくてはならない。濃度は、分子量および溶質の性質ならびに支持材の性質(細孔の大きさまたはメッシュの大きさ)などの要因によって異なる。濃度は、重量比または体積比で約0.5%〜40%であってもよいし、または約0.5%〜30%、または約0.5%〜20%、または約0.5%〜15%、または約0.5%〜10%、または約0.5%〜5%、または約1%〜10%、または約1%〜5%、または約5%〜40%、または約10%〜40%、または約15%〜40%、または約20%〜40%、または約30%〜40%、または約5%〜30%、または約10%〜20%であってもよく、さらに重量比または体積比で約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35または40%であってもよい。水溶液の水分の蒸発により支持材上および/または支持材内部のゲルとして溶質を沈殿させることができる。ナノ細孔性固体またはゲルが寒天を含んでいる場合には、前駆溶液は、それを溶解するために寒天のゲル温度より高い温度まで、水性液中で寒天を加熱することによって作成できる。ゲル化の温度は、寒天の等級によって異なり、約25〜約70℃である。細胞が溶解には効果があり損傷は受けないような十分に低いゲル化温度となるように、寒天の等級を選択することが好ましい。ゲル化温度は、従来技術では約50℃以下、約45℃または約40℃以下および約30、35、40、45および50℃であってもよい。前駆溶液中の寒天の濃度は重量比または体積比で約0.5〜5%、または約0.5〜4%、または約0.5〜3%、または約0.5〜2%、または約1〜3%であってよいし、あるいは約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4または5%であってもよい。前駆体溶液を注入した支持材の冷却により、支持材内および/または支持材上の寒天ゲルが沈殿する。寒天のゲル化温度が細胞に損傷を与えうるほど極めて高い場合には、前述のように細胞を前駆溶液中に含まずに、寒天ゲルを支持材内に形成してもよく、生成される膜の形成後に細胞を接種(inoculated)することができる。ナノ細孔質固体またはゲルにアルギン酸カルシウムが含まれている場合には、前駆溶液は、アルギン酸またはアルギン酸ナトリウムといった可溶性アルギン酸塩の水溶液とすることができる。アルギン酸の濃度は重量比または体積比で約1〜10%、または約1〜5%、または約1〜3%、または約5〜10%、または約7〜10%、または約2〜7%、または約3〜5%であってよく、あるいは約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10%であってもよい。このように、水に不溶性であるアルギン酸塩の金属イオンの溶液に、前駆体溶液を注入した支持体を浸積すると、支持材内および/または支持材上のたとえばアルギン酸カルシウムなどの不溶性アルギン酸塩が沈殿する。アルギン酸塩は、たとえばアルギン酸カルシウムであってもよく、その溶液は重量比または体積比で約1〜5%、または約1〜4%、または約1〜3%であってよく、あるいは重量比または体積比で約1、2、3、4または5%であってもよい。
【0090】
図1に関しては、膜10は栄養面12および気体面14を備えており、その中およびその上にナノ細孔性ゲル18を有する繊維性支持材16を有している。固定生物層20は、気体面14上と気体面14近くの膜10に配置されている。繊維性支持材16には、サイジング(sizing)剤を用いないガラス繊維織物メッシュを有しており、ナノ細孔性ゲル18は、ナノ細孔性シリカゲルを有している。生物層20は、気体面14近くの膜20内に挿入されている菌類22および気体面14上またはその付近に菌類24を有している。菌類22および24は、ペニシリンを産生することのできるたとえばPenicillium chrysogenumであってもよい。
【0091】
動作中、膜10により、矢印21の方向に、栄養面12から固定生物層20まで栄養溶液26が拡散できる。空気が、生物層20の面28に供給され、菌類22および24の成長ならびにそれに続く生物層20による産物(たとえばペニシリン)の産生が促進される。これらの領域内が無酸素の傾向になると、栄養溶液26ならびに膜10の内部における菌類の成長は損なわれる。産物は、矢印23の方向に膜10を介して生物層20から拡散される。
【0092】
図2は、上および/または中に生物層のある膜を調製させるためのプロセスを表している図式である。図2に関しては、支持材16は、たとえばガラス繊維織物マットなどの繊維メッシュである。使用前に支持材16を処理し、サイジング剤や他の汚染物質を表面より洗浄し、その表面の親水性をさらに高くすることができる。支持材16をアルカリ性溶液たとえば約1Mの水性水酸化カリウム水溶液に約24時間曝露させる処理が行われる。膜を作成するプロセスには、pHが当初10前後で、固形分が約30%w/wであるようなコロイダルシリカ溶液を、たとえば約1〜5N、または約1〜3N、または約3〜5N、または約2〜5N、あるいは約1、2、3、4または5Nになるように、硫酸や塩酸などの酸溶液を添加することによってpHを約6にまで調節するプロセスが含まれる。たとえば、前駆体溶液30を調製するために、P.chrysogenumなどの菌類22を、約109cfu/mlを添加する。前駆体溶液30内に支持材16を浸積することによって、前駆体溶液を支持材16に注入する。前駆体溶液30は、pH約6に調節した後一般に約30分以内に短期間でゲル化するので、ゲル化する前に前駆体溶液30から支持材16を除去することが必要である。前駆体溶液30から支持材16を除去するときには、前駆体溶液30がそこに注入された状態を保つようにする。周囲条件(ambient conditions)の下では、前駆体溶液30が、支持体16内でゲル化し、ほぼ等しく全体に菌類22が分布し、そこにナノ細孔質ゲル18が含まれる膜32を形成する。膜32の栄養面12に栄養液34を提供すると、栄養溶液34が膜32を浸透する。気体面14を空気に曝露させても、空気は膜32をほとんど浸透することはない。というのは、その細孔が液で満たされているからである。これにより、気体面14またはその付近における菌類22の成長が促進され、膜32の他のあまり酸素のない領域では、成長が阻害される。したがって菌類22が当初対称的に分布していた膜32で、非対称の分布をなし、膜10が気体面14上および気体面14内に生物層20(菌類22を含む)を持つようになる。
【0093】
図2aは、生物層が固定された膜を調製させるための別のプロセスを示す他の図を表している。図2aでは、膜は支持体16を有している。支持材16は、たとえば綿などの繊維性メッシュで、スプレー70は、その中に菌類22を含む小滴72を含んでいる。支持材16の気体面14へ、スプレー70の曝露により、菌類22が、気体面14上に堆積し、菌類22の一部が支持材16にも浸透可能となる。膜の栄養面12を栄養溶液78に曝露させると、溶液78が、支持材16を通過して菌類22まで拡散することができ、支持材16内の空気と置き換わる。これにより、気体面14またはその付近における菌類22の成長が促進され、膜の他のあまり酸素がない領域における成長が阻害される。したがって、液体面14上と、さらには部分的に気体面14の内部に生物層20が形成される。
【0094】
図3に関しては、生物反応器50が膜支持構造体52と、膜支持構造体52によって縦方向に支持されている膜10を備えている。膜10のそれぞれは、平面をなし、他の膜10と平行な方向を向いている。膜10は、対で配置されており、各対が、その断面が図に示されているような平坦な管を形成するように接続されている。各膜10には、その上に固定された生物層20があるので、栄養溶液が、そこに拡散することができる。生物層20は、ペニシリンを産生することができる、たとえばP. chrysogenumといった菌類を有していてもよい。生物反応器50は、各対の膜間に距離を維持するためのスペーサ54を備えている。各膜10は、生物層20から余分なバイオマスを除去するためのスクレーパ56を備えている。生物反応器50は、膜10の栄養面に栄養溶液を注入させるための入口58を備えており、さらに、各対の膜間から栄養溶液を除去するための出口60も備えている。入口58は、入口マニホールド62に接続されており、出口60は出口マニホールド64に接続されている。
【0095】
動作中、栄養溶液は、入口マニホールド62および入口58を通じて供給される。栄養溶液は、生物層20の菌類に好適な栄養溶液であり、たとえば炭水化物を含有していてもよい。生物反応器50は、好気性環境内に配置されているので、生物層20が曝気される。栄養溶液は、生物層20まで膜10を介して拡散することが可能となる。生物層20には、このようにしてペニシリンなど所望の産物を産生するのに必要な条件が提供される。この産物は、膜10を通じて拡散し、出口60および出口マニホールド64を通じて栄養溶液が生物反応器50から流出する。流出栄養溶液を、所望の産物を分離するために回収してもよい。生物層20がその各部分で酸素の欠落により産物の産生が遅れるような厚さとなった場合には、スクレーパ56を生物層20に対して下方に下ろすことにより、そこから固形物を除去することができる。別の動作方式では、約12〜24時間のいずれかの第一の時間のあいだ、上記のように膜10に栄養溶液を供給する。この第一の期間後に生理食塩水を入口マニホールド62および入口58通じて、第二の時間の間、膜10に供給し、それにより、生物反応器50内の栄養溶液と置き換える。第二の期間は、約1〜5日間のいずれかの間であってよい。第二の期間中、生物層20は上記のように所望の産物を産生する。この産物は、膜10を通じて拡散し、生理食塩水中で、出口60および出口マニホールド64を通じて生物反応器50から流出する。流出生理食塩水からの所望の産物の分離は容易に実現することができる。
【0096】
図3aは、図3に示されている生物反応器内で使用することのできる入口マニホールドを表している。図3aでは、入口マニホールド63は、酸素リムーバ65に繋がっている。酸素リムーバは、便利な酸素リムーバならどのようなものでもよく、たとえば真空脱気装置などといった脱気装置を備えているか、またはたとえば窒素、二酸化炭素などといった酸素をほとんど含有しない気体を栄養溶液を介してバブリングさせるための噴出装置を備えていてもよい。マニホールドパイプ67は、酸素リムーバ65と入口58に接続している。動作中、栄養溶液は、入口マニホールド63を通じて酸素リムーバ65に提供され、ここで、たとえば約5ppm未満などの低いレベルまで、酸素が低減される。次に比較的無酸素の栄養溶液を、生物反応器の膜に栄養溶液を供給する入口58にマニホールドパイプ67を通じて送り込む。
【0097】
図3bは、本発明による生物反応器の出口から入口に液体を再循環させるためのリサイクルシステムを示している。図3bでは、配水管バルブ620が、生物反応器50(図3bではなく図3に表示)の入口マニホールド62、配水管630およびポンプ出口パイプ640に接続されている3方向のバルブである。排出管バルブ650は、生物反応器50の出口マニホールド64(図3)、排出管660およびポンプ入口パイプ670に接続されている。生物反応器50の通常の動作では、配水管バルブ620は、パイプ640からマニホールド62へ液体が流れるが、ライン630は閉じるように構成され、排出管バルブ650は、液がマニホールド64からパイプ670に流れることができるが、ライン660は閉じるように構成されている。このような構成では、ポンプ610は、出口マニホールド64から液体をパイプ670および640を介して入口マニホールド62まで汲み出すが、液体はライン630または660内を流れることはない。液体を生物反応器50に追加するためにはたとえば、生物反応器の動作開始時などに、バルブ620を液体がライン630から入口マニホールドまで通過するが、パイプ640にまでは通過しないように構成する。同様に、生物反応器50から液体を除去するため、たとえばそこから産物を分離するために分離装置に液体を送るため、バルブ650を、液体が出口マニホールドから排出管660まで通過するがパイプ670までは到達しないように構成する。
【0098】
図3cは、本発明による生物反応器の出口から入口まで液体を再循環させるための他のリサイクルシステムを示している。図3cでは、ポンプ710は、ポンプ入口パイプ720およびポンプ出口パイプ730を備えている。ポンプ出口パイプ730は、配水管タンク740に出力する。バルブ760を取り付けた配水管750はタンク740に出力する。タンク740は、生物反応器50の入口マニホールド62(図3cではなく図3に表示)に接続されている。生物反応器50の出口マニホールド64は、ポンプ入口パイプ720と排出管バルブ790を取り付けた排出管780に接続されている排出タンク770に出力する。タンク740と770は、任意に、その中に液体から酸素を排除する手段を備えることができる。このような手段は、たとえば、不活性ガスの噴霧、フタ、可動式プランジャーまたはその他の好適な手段から構成される。生物反応器50の正常な動作時には、配水管バルブ760は閉じてライン750を通じてタンク740から液体が侵入するのを防ぎ、排出管バルブ790が閉じて排出管780を通じてタンク770から液体が流出するのを防ぐ。このような構成では、液体がタンク740から入口マニホールド62に流れ、出口マニホールド64を介してタンク770に帰還する。ポンプ710は、パイプ720と730を通じて、タンク770からタンク740へ液体を汲み出す。生物反応器50に液体を追加するためには、たとえば生物反応器の動作開始時に、バルブ760を開いて、液体が、ライン750からタンク740へ流れるようにすることができる。同様に、生物反応器50から液体を除去するため、あるいはそこから産物を分離させるため分離器に液体を流すために、バルブ790を開いて液体をタンク770から排出管780へ送ることができる。
【0099】
図3dは、本発明による別の生物反応器を示している。この生物反応器は、連続して構成された対合膜を備えている。図3dでは、生物反応器800は、膜支持構造体810と、それにそれぞれ支持されている、膜830と831、832と833および834と835の対820、821および822を備えている。対820、821および822は、内部領域836、837および838をそれぞれ備えている。入口840は、対820の内部領域836に接続され、出口850は対822の内部領域838に接続されている。接続パイプ860が内部領域836と837に接続し、ポンプ870に提供され、接続パイプ865が内部領域837と838に接続し、ポンプ875を提供している。動作中、栄養溶液は、パイプ840を通じて、内部領域836に流れ込み、そこから、膜830と831を通じてその上の生物層に拡散する(図示せず)。産物は膜を通過して内部領域836に拡散する。次に、栄養溶液は、パイプ860を通じて領域836から流出し、ポンプ870によって内部領域837にくみ出されるが、ここで膜830と831に関して上に述べたように膜832と833を通じて拡散していく。パイプ865を通じて内部領域837を流出する際に、栄養溶液は、ポンプ875によって、内部領域838に汲み出されるが、ここで膜830と831に関して上に述べたように、膜834と835を通じて拡散していく。最後に、膜830〜835によって産生されたすべての産物を含有する栄養溶液が、出口850を通じて流出する。栄養溶液は、図3bおよび図3cに示されているようなリサイクルシステムにより再循環することができる。
【0100】
図4は、本発明による他の生物反応器の図である。図4の上側の部分は、生物反応器80の側面図であり、下側の部分はその垂直断面図を表している。生物反応器80は、膜支持構造体81と、膜支持構造体81上に支持された膜10を有している。膜10の上には、生物層20が支持されている。膜支持構造体81は、時計回り方向に回転することのできるローラー82とパーフォレーテッドローラー(perforated rollers)84を備えている。ローラー82および84のうちの少なくともひとつが、矢印86の方向に膜10を移動させるためにモーター85によって駆動される。膜支持構造体81は、膜10の部分88がそれぞれ他の部分90に平行となり、それらの間に内部領域92が形成されるような構成で、膜10を支持する。生物反応器80は、パーフォレーテッドローラー84を介して栄養溶液を内部領域92に流入させるための入口93と、内部領域92から栄養溶液を除去するための出口94とを備えている。入口93は、入口マニホールド96とパーフォレーテッドローラー84に接続されている。生物反応器80は、膜10から固形物質を除去するためのスクレーパ98を備えている。
【0101】
動作中、栄養溶液は、入口マニホールド96と入口93を通じてパーフォレーテッドローラー84に供給される。栄養溶液は、生物層20の細胞にとって好適な栄養溶液であり、たとえば炭水化物などを含有していてもよい。生物反応器80は、好気性環境に配置されているので、生物層20が曝気される。栄養溶液は、ローラー84から領域92に流入するが、ここから、生物層20まで膜10を通じて拡散することができる。このように生物層20に、たとえばペニシリンなどの所望な産物を産生するのに必要な条件が与えられる。この産物は、膜10を通じて領域92に拡散し、出口94を通じて栄養溶液中で生物反応器80から流出する。流出栄養溶液は、所望の産物を分離するために回収することができる。生物層20が、その部分に対する酸素の欠落によって産物の産生が遅滞するような厚さになった場合には、モーター85を運転し膜10を矢印86の方向に移動させることができる。膜10はそれにより、生物層20から余分なバイオマスを除去するために配置されているスクレーパ98を移動する。余分なバイオマスは、使用するため、あるいはさらに加工するために回収することができる。別の動作方式では、膜10の上で生物層20を成長させ、バイオマスを除去するのに必要な時間になったときに、それを剥離するためにスクレーパ98がその部分を通過するように、モーター85が低速で連続運転する。たとえば、生物層20の成長に適した条件に曝露されている膜10の全長がLメーターであり、除去する必要になるバイオマスが十分に成長するのに必要な時間をTとし、モーター85によって駆動されるローラー82の円周がCメートルである場合、モーター85はローラー82を L/(T×C)回転/時間で回転させる。
【0102】
図5は、本発明によるさらに他の生物反応器の図である。図5の上の部分は、生物反応器100の側面図であり、下の部分はその水平断面図である。生物反応器100は、膜支持構造体102と、膜支持構造体102の要素をなしているインレットリング107とアウトレットリング109との間に支持されている内膜104と外膜106とを備えている。膜104と106は、管状で同心円上であり、それらの間に内部領域108が形成されている。インレットリング107とアウトレットリング109内の穿孔が、領域108に貫通しており、リング107から領域108までさらには領域108からリング109まで液体が通過するのを可能にしている。膜104と106はそれぞれ、固定生物層120と122をそれぞれ有しており、その気体面(124と126)上に細胞を有している。スペーサ105は、膜104と106間の距離を維持するため内側領域108内に配置されている。生物反応器100は、インレットリング107を介して領域108に栄養溶液を侵入させるための入口110と、アウトレットリング109を介して領域108から栄養溶液を除去するための出口112とを備えている。生物反応器100は、生物層120と122からそれぞれ固体を除去するためのスクレーパ114と115を備えている。モーター116は、それぞれスクレーパ114と115に相対的に膜104と106を回転させ、膜104と106の生物層120と122から余分なバイオマスを除去するのに役立つように提供されている。
【0103】
動作中、栄養溶液は、入口110を通じてインレットリング107に提供される。栄養溶液は、生物層120と122の菌類に好適な栄養溶液であり、たとえば炭水化物などを含有していてもよい。生物反応器100は、好気性環境内に配置されているので、生物層120と122が曝気される。栄養溶液は、インレットリング107から領域108へ流入し、そこから、生物層120と122にそれぞれ、膜104と106を通じて拡散することができる。したがって、生物層120と122には所望の産物を産生するのに必要な条件が与えられる。この産物は、膜104と106を通じて領域108に拡散し、アウトレットリング109と出口112を通じて栄養溶液中に溶けて生物反応器100から流出する。流出栄養溶液は、所望の産物を分離させるために回収できる。生物層120と122が産物の産生がその部分に対する酸素の欠落によって遅滞するような厚さになった場合には、モーター116を動作させて膜104と106を縦軸を中心に回転させることができる。これにより、膜104と106をそれぞれスクレーパ114と115が通過するが、これらのスクレーパは、生物層120と122から余分なバイオマスを除去できるように配置されている。余分なバイオマスは、使用するためあるいはさらに加工するために回収することができる。他の動作方式では、膜の上で生物層120と122を成長させて、膜104と106の部分からバイオマスの除去が必要になったら、これを剥離するためにスクレーパ114と115がその部分を通過するように、モーター116が低速で連続運転する。
【0104】
図5aは、本発明による他の生物反応器の図である。図の上部は、生物反応器200の側面図を表しており、下部は、その水平断面図を表している。生物反応器200は、膜支持構造体202、内部支持体204(支持構造体202の一部)および、膜支持構造体202の要素である入口リング107と出口リング109間に支持されている膜106を有している。内部支持体204は、栄養溶液に不浸透である物質を含有している非多孔質支持体であり、たとえば、ステンレススチールやポリカーボネートといったその他の好適な硬質ポリマー材を含んでいてもよい。膜106は、管状で内部支持体204と同心円上にあり、これら両者間に内部領域108が形成されている。入口リング107と出口リング109の穿孔は、領域108に貫通しており、リング107から領域108および領域108からリング109へ液体が通過するのを可能にしている。膜106は、その気体面126に菌類を含んでいる固定生物層122を備えている。スペーサ105は、膜106と内部支持体204との間に距離を維持しておくため内部領域内108内に配置されている。生物反応器200は、入口リング107を通じて領域108に栄養溶液を侵入させるための入口110と、出口リング109を通じて領域108から栄養溶液を除去するための出口112とを備えている。生物反応器200は、生物層122から固形物質を除去するためのスクレーパ115を備えている。モーター116は、スクレーパ115に相対的に膜106を回転させて膜106の生物層122から余分なバイオマスを除去するのに役立つよう提供されている。
【0105】
動作中、栄養溶液は、入口110を通じて入口リング107に供給される。栄養溶液は、生物層122の菌類に好適な栄養溶液で、たとえば炭水化物などを含有していてもよい。生物反応器200は、好気性環境に配置されているので、生物層122が曝気される。栄養溶液は、入口リング107から領域108に流入し、そこから、膜106を通じて生物層122に拡散することができる。したがって生物層122には、所望の産物を産生するのに必要な条件が与えられる。この産物は、膜106を通じて領域108に拡散し、出口リング109と出口112を通じて栄養溶液中で生物反応器200から流出する。流出栄養溶液は、所望の産物を分離するために回収することができる。生物層122がその各部分に対する酸素の欠落によって産物の産生が遅滞するのに十分な厚さになったときに、モーター116を動作させて、膜106が縦軸を中心に回転するようにすることができる。したがって、生物層122から余分なバイオマスを除去できるように配置されている、膜106がスクレーパ115を通過する。余分なバイオマスは使用するためにあるいはさらに加工するために回収することができる。別の動作方式では、膜上で生物層122を成長させて、膜106の部分からバイオマスの除去が必要になったら、その部分を剥離させるためにスクレーパ115が通過するようにモーター116が低速で連続運転する。
【0106】
図20に関しては、生物反応器300が、その気体面315上に生物層310を有する膜305を備えている。膜305の栄養面320は、栄養チャンバ330内で栄養溶液325に曝露され、生物層310は、外側の空気チャンバ330に曝露されている。膜305は、必要に応じて、図示されていない支持基質によって支持されているかまたはそれ自体自己支持していてもよい。栄養溶液325は、任意に、カプセルに封入され、その内部に懸濁されている嫌気性細胞(図示せず)を備えていてもよい。生物反応器300は、リサーキュレータ(recirculator)(ポンプなど)340によって矢印338の方向に膜305を通じて養分325を再循環させるための、リサイクルシステム335も備えている。この方向に再循環させることによってチャンバ330は、上部空間に気体のない状態になる。リサイクルシステム335は、栄養溶液325から酸素を除去するための脱酸素装置345を備えていてもよい。このシステムは、カプセルに封入された嫌気性細胞が存在する場合、バルブ355を取り付けた入口350とバルブ365を取り付けた出口360とに、任意によりフィルタ370を備えて、生物反応器300からの流出を防止する。生物反応器300は、チャンバ330を通じて再循環する栄養溶液を保持するための酸素の進入から密封されたリザーバ380も備えている。検出器390は、栄養溶液325の成分レベルを検出する目的で具備している。したがって、動作中、栄養溶液が、バルブ355が開き、バルブ365が閉じた状態で入口350を通じて生物反応器300に侵入する。次に、バルブ355が閉じ、栄養溶液325が矢印338の方向に、リザーバ380とチャンバ330を通じて再循環する。栄養溶液325を脱酸素装置345と接触させ、無酸素性を維持する。チャンバ330では、栄養成分が、膜305の栄養面320を通じて生物層310に拡散するが、ここで、養分は代謝して、たとえば、所望の産物を形成したり、栄養溶液325から不必要な物質を除去することができる。生物層310は、曝気されるチャンバの外部の空気から、代謝するための酸素を取得する。代謝産物たとえば所望の産物は、次にチャンバ330に戻り拡散し、栄養溶液325とともに再循環する。カプセルに封入された嫌気性細胞(が存在する場合、)も栄養成分を代謝し、カプセル封入された細胞に封入装置を通じて養分が拡散するのに伴って代謝産物を産生する。検出器390は、栄養溶液の成分レベルが規定のレベルまで降下した時期を判定することにより、あるいは代謝産物のレベルが規定レベルにまで増加した時期を判定することにより、生物層のバイオ作用が十分に実行された時期を判断する。次に栄養溶液325を、バルブ365を通じて生物反応器300から除去することができる。封入された嫌気性細胞は、フィルタ370によって生物反応器300内に保持される。次に産物(代謝産物)を栄養溶液325から個別に回収することができる。検出器は、バルブ365の開放を自動的にトリガーしてもよいし、バルブ365の開放をオペレータが手作業で行うよう合図を送ってもよい。あるいは、バルブは(手作業または自動的に)規定時間後に開放してもよい。
【0107】
(用途)
本発明の生物反応器は、多くの用途で使用することができる。このような用途には以下がある。
・抗生物質、その他の薬剤および化粧品の生産、
・下水処理、
・重金属の除去/回収、
・生物浸出(bioleaching)およびその他の鉱業の用途、
・生合成(産業および研究を目的とした食品ならびに化学薬品)、
・炭素、窒素、リンおよび金属イオンなどの除去を目的とした廃水の二次処理および三次処理、
・有毒な廃水のバイオリメディエーション、
・汚染された飲料水の精製、
・動物組織と植物組織の培養、
・培養された好気性細胞を用いるあらゆる分野、
・食品の成長(たとえば宇宙航空産業向けなど)、
・生合成のための動物組織の利用、
・燃料生産(バイオ燃料)のための有機材料の回収、
・人工臓器、移植、ホルモンやその他の哺乳動物由来の薬剤の生合成のための動物組織の培養。
【0108】
(利点)
本発明の生物反応器は、従来技術に比べ、多種多様な利点を備えている。このような利点には以下が挙げられる。
・膜の多孔性が高い−生物層は、高多孔質膜内に支持されている。これは、この目的に使用される他の膜(たとえばセラミック膜生物反応器など)によって提供される栄養供給率に比べ、供給率が高い。
・膜が安価である−バイオマスは、比較的無酸素性の条件によって膜の栄養面での成長が阻害されるため、バイオマスの微生物の浸透を抑止できるように十分小さい孔を持つ膜を用意する必要がない。したがって、従来の膜−表面−液体−培養生物反応器で使用されている膜より安価な膜を使用することができる。
・膜の製造が容易−安価であることの上に、本発明の膜は、簡単な技術と安価な入手しやすい装置を用いて製造することができる。膜は迅速に製造できる。したがって、必要に応じて、膜を使い捨て品として使用することが可能である。
・薄型の分散性のよい生物層−溶存酸素および養分が拡散するための距離が比較的短いために、生物層に十分な量の代謝物質が供給される、
・空冷式−リアクタ(reactor)のアセンブリは、自然の対流によって冷却されるので、高価な冷蔵設備は必要ない、
・軽量−本発明の生物反応器を支持するための大きな構造物インフラストラクチャ(infrastructure)は必要ないので、簡単に配備できる、
・安価−構成部品が安価でしかも入手しやすい、
・環境圧力下で動作可能−採用されている生物学的プロセスすべてが環境圧下で動作可能であるため、高価な高圧インフラストラクチャは必要ない、
・培養物が生物反応器の膜の気体面上でほとんど成長−したがって、生物層と気体相間の接触領域が増加し、より効率的に栄養溶液から生物層を除去することができる、
・両面−片面のシステムに比べ、システムの表面積が増える、
・柔軟性のある膜−膜の耐性を高め、ほぼ所望の形状に配備することができる、
・産物の分離が容易−生物層は、栄養溶液からいつでも分離される、
・ランニングコストが安い、
・専門知識は必要なし−装置は単純なので、装置を運用するのに最低限度の訓練しか必要としない、
・自動化の可能性、
・従来型の生物反応器より高い生産率(タイプ1のセラミック膜生物反応器に比べ、2桁も生産率が高く、ペニシリン生産に関する現在のエアリフト(airlift)型生物反応器の構成に比べ最高40倍も高速である)、
・幅広い生物層の選択が可能−バクテリア、イースト菌、菌類、動物細胞および植物細胞に好適、
・フットプリント(footprint)が最小−膜は縦方向に懸垂可能である、
・高い生産収率−消費する基質単位あたりの収率が高い、
・生物層の成長率が高い、
・連続的な流れ−逐次処理(sequential processing)にとって便利な連続方式で使用可能、
・再生可能−生物層は、効果的に洗浄することができるので何回も再利用/リサイクルすることができる、
・高い気体供給率−固定培養物の完全な機能の促進、
・フレキシブルなリアクタ構造−膜に損傷を与えずに変形可能、
・新しいバイオマスバッチで運転を開始するための停止時間は殆どない、
・栄養の添加と産物生成との間の待ち時間が短い(一次および二次代謝が同時)、
・生物層の寿命が改善、
・二次および三次処理が同時、
・バイオマス除去後に即時培養物が再成長するのでバイオマスの分離が容易。
【実施例1】
【0109】
(ペニシリンの生合成と炭水化物消費分析)
閉鎖系ナノ粒子膜生物反応器(Closed-System Nanoparticulate Menbrane Bioreactor)
ガラス布(woven glass fabric)から90×80mmの4個の袋を作成し、アルミニウムホイルの蓋で覆った1000mlのビーカー内に懸垂させたステンレススチール製のフレーム上に組み立てた。使用した織物製ガラスマットには、1cmあたり22本の繊維を配置し、重量は80g/m2であった。ガラスを湿潤させるために、後で述べるように、プラズマエッチングを施した。その後で、クラスIIのバイオセーフティキャビネット(biosafety cabinet)内で、無菌状態ですべての技術を施した。pH10、40mlのガンマ線滅菌コロイダルシリカ溶液(BindzilTMEka Chemicals)を汎用インジケータ、および4.0モルHClを用いてpH6に調整し、ゲル化を開始した。8.0×1010cfu/mlを含有するP.chrysogenum胞子懸濁液を4.0ml、ゲル化中のシリカゾルに添加した。10.0mlのコロイダルシリカを同じ方法でpH6に調節し、9.0×1010cfu/mlを含有するA.niger胞子懸濁液を1.0ml注入した。約8.0、10.0および12.0mlのP.chrysogenumを注入したコロイダルシリカを3個のガラス製の袋内に浸した。約8.0mlのA.nigerを注入したコロイダルシリカを4個目のガラス製の袋内に浸した。Wickerhamの麦芽酵母抽出液(malt yeast extract broth;MYEB)100ml(;麦芽(malt)抽出物3.0g/l;ペプトン5,0g/l;イースト抽出物3.0g/lおよび;グルコース10g/lを含む)、各袋の内腔に添加する前に、再分散を防止するためすべてゲル化させ、20℃で一昼夜エージング処理を施した。はじめに、ナノ粒子膜生物反応器(NMB)は漏出しやすいので、流出液を流出率より高い流速で蠕動ポンプを介して内腔に戻し、内腔は常時満たされていた。培養液を袋の上面から10mm以内の範囲まで充填し、各面80×80mmの培養面積を形成し、総計128cm2の培養膜を作成した。袋を28℃でインキュベートした。1.0mlのサンプルを各NMBから毎日採取し、炭水化物の濃度とpHに関する分析を行った。P.chrysogenum培養物についても、ディスク分散法(disc-diffusion assay method)を利用してペニシリンの産生についての検査を行った。MYEBを4日ごとに除去した。0.85%滅菌生理食塩水を100ml用いて、1時間各生物反応器の洗浄を行った。生理食塩水をサンプリングし、ペニシリンに関する分析を行い(P.chrysogenumのみ)、残存物を廃棄した。100mlの新鮮なMYEBをNMB内で交換し、次のバッチを開始した。各バッチの開始時に1.0mlのサンプルを採取した。噴霧式生物反応器(以下に記述)におけるP.chrysogenum培養物を除き、各バッチを4日間継続した。8回のバッチ後に、次のバッチを新鮮なMYEBを用いて開始する前に、スパーテルを用いて無菌状態でNMBからバイオマスを剥離させた。
【0110】
噴霧式生物反応器(Sparged Bioreactors:SB)
2つのスケーリングした噴霧式生物反応器(SB)を2個の穴のあるストッパを用いて500mlのスコットボトル(Schott bottles)から組み立てた。1本の管は各容器の底部に通じ、100mlのMYEB中に、約1.0L/分の速度で滅菌濾過空気を噴出した。もうひとつの管は、別のフィルタを通して前記空気を放出した。生物反応器に1.0mlの胞子懸濁液(上述のようにP.chrysogenumとA.niger)を接種し、28℃でインキュベートした。上記のナノ粒子膜生物反応器に関して記述したように、毎日1.0mlのサンプルを採取し分析を行った。噴霧式生物反応器内のP.chrysogenumに関しては、ペニシリン濃度が降下したときにバッチを終了した。
【0111】
表1に、さまざま生物反応器内で培養したP.chrysogenmの代謝パラメータを示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表中
YP : ペニシリン収率(μg/ml)
YP/s : 消費された炭水化物で割ったペニシリン収率(μg/mg)
RP : ペニシリン生産率(μg/mlh)
Lag : 新鮮な媒質の添加からペニシリン生産が開始するまでに要した時間
[COH]pen : ペニシリン生産が開始した時点での炭水化物の濃度
NMB : ナノ粒子膜生物反応器
SB : 噴霧式生物反応器
* : 従来のデータ
【0114】
表2に、ナノ粒子膜生物反応器(NMB)および噴霧式生物反応器(SB)内で培養したA.nigerの代謝パラメータを示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表中
TD : 炭水化物除去のための十進法還元時間(Decimal reduction time)
RS : 炭水化物消費率(mg/mlh)SB : 噴霧式生物反応器
【0117】
図6と図7を比較すると、本発明の生物反応器は、再生する前に、非常に多くの生産サイクルを実現でき、各サイクルで、炭水化物消費率とペニシリンの生産率が、対応する噴霧式生物反応器に比べ高いことが分かる。図8と図9を比べると、同様に、本発明による生物反応器内のA.nigerに関しては、炭水化物の消費率が対応する噴霧式生物反応器内の炭水化物消費率に比べてはるかに大きく、生物反応器は、性能劣化を認めることなくサイクルを繰り返すことができる。
【実施例2】
【0118】
[材料の検討]
(各種物質)
4種類の袋(90×80mm)をガラス布(例1に記述)、綿(キャリコ)、ポリエステルおよびポリエステル綿混合(70/30)から組み立てた。材料の繊維密度は次のとおりである。ガラス布20本/cm、綿(キャリコ)20本/cm、ポリエステル26本/cmおよびポリエステル綿混合(70/30)24本/cmである。この袋は、20℃で15分間、1.0モルKOHで洗浄し、水で流した後オーブンで乾燥させた。0.2mlの汎用インジケーターを40mlのガンマ線滅菌コロイダルシリカ(例1に記述)に添加した。約0.6mlの4モルHClを添加し、pHを6に調節した。次にコロイダルシリカに、7×107cfu/mlのP.chrysogenum胞子懸濁液1.0mlを注入した。この懸濁液を飽和するまで各袋内に浸した。細い織物繊維が簡単に飽和し、細かい膜を形成した。袋を一昼夜エージングして、80mlのMYEB(例1に記述)を各袋に添加した。1.0mlのサンプルを炭水化物、ペニシリンおよびpH分析のため毎日1回採取した。4日後に、MYEBを除去し、1時間0.85%の滅菌生理食塩水中で生物反応器を洗浄してから、新鮮なMYEBと取り替え再度インキュベートした。
【0119】
4種類の袋の結果を図10〜13に示すが、炭水化物消費率は、すべての袋で同等であり、すべての袋で、後続のバッチでペニシリンの産生が改善されたことが明らかである。これは、膜上の生物層の成長によるものと考えられる。図10〜13のデータから、ポリエステルの袋のペニシリン産生レベルが他の袋より低いように思われる。
【0120】
(各種ゲル)
3つのガラス布袋と1つの綿の袋(90×80mm)をKOHで洗浄し、水で洗い流した後にオーブンで乾燥させた。綿の袋(NMB1)にはゲルを添加せず、その代わりに7×106cfu/mlのA.niger胞子懸濁液を0.1ml塗布した。T0で5.0mlのMYEBを袋に添加した。10mlのMYEBを毎日1回添加した。3日後にMYEBを80mlの新鮮なMYEBと交換し、返送管を取り付け、あふれ出るまで蠕動ポンプ(peristaltic pump)により充填した。これはすぐに水密状態となり、バイオマスが独立したナノ細孔質ゲルを必要とせずに生物反応器内で膜として作用できることを示した。ガラス布袋に寒天(NMB2)、アルギン酸カルシウム(NMB3)およびコロイダルシリカ(NMB4)を注入した。
【0121】
10mlの加熱した1.5%の寒天溶液をガラス布袋内に浸し、20℃で冷却しゲル化した。袋に7×106cfu/mlのA.niger胞子懸濁液を0.1ml塗布し、80mlのMYEBを充填して28℃でインキュベートした。
【0122】
第2のガラス布袋にアルギン酸カルシウムを注入した。5.0mlの4%アルギン酸を、汎用インジケータおよび0.2μmで濾過した1モルNaOH溶液を用いてpH6に調節した。ゾルをガラス袋内に浸し、4%のCaCl・2H2O溶液中で洗浄してアルギン酸塩をゲル化した。袋に0.1mlのA.niger胞子懸濁液を塗布し、80mlのMYEBを添加した。
【0123】
第3のガラス布袋に、0.1mlのA.niger胞子懸濁液を含有するコロイダルシリカを注入し、一昼夜エージング処理した後、80mlのMYEBを添加した。
【0124】
すべての袋を28℃でインキュベートした。4日後にすべての袋内のMYEBを交換した。
【0125】
結果は図14に示すとおりである。これらは、各種ゲルがかなり同じ性能を有していることを示している。たとえ、ゲルが含まれていない袋であっても、最初のバッチ後は、ゲルを含む袋と同等の速度で炭水化物を消費していた。
【0126】
(ナノ粒子膜生物反応器内で培養したA.nigerによる基本的摂取)
シリカゲルがガラス支持体内に支持されている、ゲルの検討(上記)におけるナノ粒子膜生物反応器から、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP−AES)を用いて元素分析するため、3.0mlのサンプルを採取した。ICP−AESを、AIMオートサンプラを用いてバリアンビスタ(Varian Vista)ICP−AESにより、3.0mlの硝酸−消化サンプルで実施した。バッチの初めと終わりに、50mlのサンプルをCNS(炭素/窒素/硫黄)分析のため採取した。CNS分析をオーブンで乾燥させた50ml培養液サンプルで実施し、Leco CNS−2000で分析した。1回のバッチ(3日間)後に、使用済み培養液を生物反応器から除去した。NMB1に40mlの1%CuSO4溶液を添加し、NMB2およびNMB3には、79.2mlのMYEBおよび0.8mlの金属溶液(0.1%CuSO4;0.2%ZnSO4・7H2O;0.2%MnSO4・H2O;0.2%NiCl2:さらに、PbCl2を飽和)をpH4.00で添加し、NMB4には80mlの金属溶液を添加した。
【0127】
結果は図15に示すとおりである。これらの結果から、炭水化物の消費量はカリウム、リン、カルシウムおよびマグネシウムの溶液からの損失とほとんどパラレルであることが分かる。亜鉛濃度は検出時間内降下していったが、開始レベルが非常に低く、また硫黄濃度が降下したが、硫黄レベルは他の検体のようには降下しなかった。シリカゲルがガラス支持体内に支持されている生物反応器上で成長させたA.nigerの二次バッチ培養物のCNS分析では、総カーボン量の77%、総窒素量の61%および総硫黄量の65%が23時間で消費されていた。
【実施例3】
【0128】
(連続フローナノ粒子膜生物反応器)
ステンレススチール製リザーバ(80×30×25mm)と、リザーバから100mm上方にスリットを形成して伸びているリザーバ内に組み立てられたステンレススチール製のスカフォルド(scaffold)からなる小型の連続フローナノ粒子膜生物反応器を作成した。A.nigerを注入したコロイダルシリカとガラス布マットからなり、両端が連結している一対の膜をスカフォルドの周囲に組み立てた。2本のホースを上端部に取り付けて、これらが膜の対によって形成されている薄い管腔内に排水するようにした。膜の対の下端部は、リザーバの上端部にあるスリットに排水し、2本のホースのもう一方の端は上面部にある2つの穴を介してリザーバに挿入した。これらのホースを蠕動ポンプ内に集め、リザーバとスカフォルドをアルミニウム製ホイルの蓋で覆った1000mlビーカー内に収容した。NMBを60mlのMYEBに充填し、28℃でインキュベートした。1.0mlのサンプルを炭水化物およびpH分析のため、毎日採取し、MYEBを4日後に交換した。結果は図16に示すとおりである。データから、最初のバッチについては、バッチ式に比べ、連続フロー式の場合の炭水化物消費量が低速であるが、後続バッチはバッチ式と同等であることを示している。生物層は連続フロー装置ではゆっくりと確立したが、ひとたび確立するとそれは静的バッチ装置と同等の性能を呈することができる。
【0129】
(ガラス繊維マットの作成)
ガラス布袋を、2種類の方法でシリカゲルを固着するために準備した。すなわち水−プラズマのヒドロキシフリーラジカルでエッチングしたもの(以下を参照)と、20℃で15時間1モル水酸化カリウム(KOH)に浸漬させたものである。袋を、13.56mH RMで動作している40W RF−プラズマ発生器内において、約5.0×10−2ミリバールで、水プラズマ処理により6.0分間エッチングして、表面をヒドロキシル化し湿潤化させた。この技術は実施例1でも使用されており、KOH溶液中での浸漬法は実施例2と実施例3で用いた。他にオーブンを用いて、ガラス布マットから疎水性サイジング剤を焼結し、表面を湿潤化させることもできる。さらに、水蒸気存在下で、UV照射を用いて、ガラス製物質を湿潤化できる。また、ガラス繊維マットを約1時間濃硝酸で処理し、サイジング剤を除去することもできる。
【実施例4】
【0130】
(廃水処理)
廃水流からの化学物質の回収をシミュレートするため、模擬廃水として麦芽抽出培養液(30.0g/L)を用い、A.nigerを30℃で8個の袋型のNMB内で成長させた。1日1回の割合で、NMB全体を強熱減量法(loss-on-ignition analysis)により、バイオマスの負荷を判定した。培養液を、110℃で脱水し、溶存固体の量を判定し、同じ溶液のサンプルをICP−AESおよびCNS分析で分析して、模擬廃水中の各種元素の量を定量した。結果は図17および図18のとおりである。
【実施例5】
【0131】
(バイオリーチング(bioleaching)とバイオトランスフォーメーション(biotransformation))
Acidithiobacillus ferroxidansを、振とうフラスコ培養(100r.p.m.で110mlの培地)および袋式NMB(100mlの培養液を含有する126cm2)により、FeSO4.7H2Oの形態で、3.8および23.0g/LのFe2+を含むDSMZ#670の培地中で30℃で培養した。各バッチ(3〜4日間)後に、NMBから溶液を排水させて100mlの新鮮な媒質と交換した。一方、振とうフラスコ培養からも排水させて100mlの新鮮な媒質と交換し、前バッチから得た10mlを接種した。各培地のFe3+濃度を分析した。結果は図19に示すとおりであるが、この図はFe3+濃度の経時的変化を表している。
【実施例6】
【0132】
(哺乳動物の組織培養)
マウスの乳がん細胞株MATおよびB16ならびにハムスターの繊維芽細胞株V79を、RPMI1640培地(1リットルあたり100mlの牛胎児血清(fetal bovine serum)、0.292gのL―グルタミン、63mgのペニシリンおよび100mgのストレプトマイシンを含有する)で培養した。5.0%のCO2を含有した湿気のある雰囲気中で37℃で細胞をインキュベートした。50mlの培地を含み、培養された72cm2の膜を有しシリカゲルを注入したガラス布材で構成された袋状のNMBと、10mlの培地を含んだ24cm2の組織培養フラスコ内で、細胞を培養した。細胞をトリプシンEDTA溶液で収穫し、トリパンブルーで染色した後に、血球計算板(hemocytometer)でカウントした。NMBの外面上における細胞の成長率は、実験の対象となった細胞株のすべてで低く(表3)、これは脱水、有毒酸素種またはその両方によるものと考えられる。これはまた、哺乳類組織がメチル化(疎水性)シリカゲル上でしか成長しないという報告があるので、シリカの親水性が高すぎたことにも起因すると思われる。
【0133】
表3に、NMB内および上ならびに組織培養フラスコ内での哺乳動物組織の培養について示す。
【0134】
【表3】
【0135】
表中、
NMB : ナノ粒子膜生物反応器
* : NMBがビーカー内に懸濁されており、液体培地がビーカー内に少しずつ入り、蠕動ポンプによって袋に戻されている
TCF : 組織培養フラスコ
【符号の説明】
【0136】
10 膜
12 栄養面
14 気体面
16 支持材
18 ゲル
20 固定生物層
26 栄養溶液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルおよび支持体を含む膜であり、前記ゲルが前記支持体の内にあると共に該支持体によって強化されている膜であって、
この膜は、対向する表面と、該対向する表面間に相当する厚さを有しており、前記ゲルが前記対向する表面間を連結すると共に、この膜を通じて栄養溶液を拡散させることができ、
前記対向する表面は栄養面および気体面であり、
当該膜は、前記気体面上の選択された位置でかつ前記気体面の近くの膜内に固定生物層を具備しており、前記ゲルが栄養面と生物層との間を連結し、それによって栄養溶液が栄養面を通過して生物層に拡散することができる、ことを特徴とする膜。
【請求項2】
前記生物層が、バクテリア、菌類、動物細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、原生動物、その他の生体物質、原核生物細胞および真核生物細胞からなる群から選択された生体物質を含む、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
膜支持構造体と、
前記膜支持構造体上に支持された請求項1記載の膜と、
を備えた生物反応器。
【請求項4】
前記膜支持構造体が一以上の膜を支持しており、その膜の各々が請求項1記載の膜であり、
前記膜が、対を成して並び各膜対の間に内部領域を形成するように配置されていることを特徴とする請求項3記載の生物反応器。
【請求項5】
前記各膜対の二つの膜間の内部領域が、各膜の栄養面に隣接して設けられている請求項4記載の生物反応器。
【請求項6】
使用時において栄養溶液が実質的に無酸素状態である請求項3〜5のいずれか一項に記載の生物反応器。
【請求項7】
請求項3に記載の生物反応器において、
前記請求項1に記載の膜が、
垂直方向、水平ではない方向、水平に対して0でない角度、水平に対して30°〜90°、水平に対して45°〜90°、水平に対して60°〜90°、水平に対して45°〜60°、水平に対して約30°、水平に対して約45°、水平に対して60°、水平に対して75°、水平に対して90°、からなる群から選択されるいずれかの方向を向いて前記膜支持構造体上に支持されており、
前記膜支持構造体は、栄養溶液を不浸透性の材料からなる非孔性支持材を有し、膜と当該非孔性支持材との間に内部領域を形成する、ことを特徴とする生物反応器。
【請求項8】
膜が垂直に支持されている請求項7記載の生物反応器。
【請求項9】
請求項3に記載の生物反応器において、
前記膜支持構造体は、
前記膜の一部分が膜の他の部分と平行な状態となって二つの部分間に内部領域を規定するように当該膜を支持する、ことを特徴とする生物反応器。
【請求項10】
それぞれの膜の対の間隔を維持するために一以上のスペーサを有する請求項4又は5に記載の生物反応器。
【請求項11】
膜の栄養面に栄養溶液を供給する入口と、膜の栄養面から前記栄養溶液を排出する出口と、栄養溶液を前記出口から前記入口にリサイクルするリサイクルシステムを有する、請求項3〜10のいずれか一項に記載の生物反応器。
【請求項12】
前記リサイクルシステムが前記液体に対する酸素の接触を防止できる、請求項11に記載の生物反応器。
【請求項13】
前記栄養溶液から酸素を除去するための酸素リムーバを更に具備する、請求項3〜12のいずれか一項に記載の生物反応器。
【請求項14】
前記膜から固形物質を除去するための手段を備えている、請求項3〜13のいずれか一項に記載の生物反応器。
【請求項15】
請求項1に記載の膜を作成する方法であって、
前記膜の栄養面から離れた膜上に、生体物質を固定させる固定工程であって、
その膜は、ゲルおよび支持体を含む膜であり、前記ゲルが前記支持体の内にあって該支持体によって強化されている膜であり、且つ、対向する表面と、該対向する表面間に相当する厚さを有しており、前記ゲルが前記対向する表面間を連結すると共に、この膜を通じて栄養溶液を拡散させることができる膜であり、更に、
当該固定工程は、膜に複数の細胞または胞子の少なくとも一部が付着するように、複数の細胞または胞子に膜を曝露させる工程を含んでなる、固定工程と、
前記膜の栄養面に栄養溶液を提供し、生体物質が前記気体面上に固定生物層を形成するような条件下で、前記膜の気体面を気体に曝露させる工程と、
を備え、一旦形成された前記固定生物層から細胞を除去できるように、前記膜がアクセス可能である、ことを特徴とする請求項1に記載の膜の作成方法。
【請求項16】
前記栄養溶液が実質的に無酸素状態である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記気体が酸素を含有する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記膜が、ナノ細孔質膜、メソ細孔質膜、ミクロ細孔質膜、並びに、ナノスケール、メソスケールおよびミクロスケールの細孔の一つ以上の組み合わせを有する膜からなる群から選択される、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記栄養溶液を提供する工程が、該栄養溶液から酸素を除去する工程を含む、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記固定工程が、
ナノ細孔質固体またはゲルを生じる前駆体溶液を前記支持体に注入する工程、及び、
膜を形成するために支持体の上および/または中にナノ細孔質固体またはゲルを生成する工程を含む、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記前駆体溶液が複数の細胞または胞子を含み、ナノ細孔質固体またはゲルが生成する過程で、膜中に少なくともその細胞または胞子の一部が固定される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記注入する工程の前に、表面清浄化、表面のより親水化、または、表面のサイジング剤および他の汚染菌を除去することの目的により、支持体を処理する工程をさらに含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記前駆体溶液がコロイダルシリカを含み、ナノ細孔質固体またはゲルを生成する前記工程が、支持体に注入する前駆体溶液のpHを変化させることを含む、請求項20〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項3に記載の生物反応器の動作方法であって、
前記膜の栄養面に栄養溶液を曝露する工程、
前記生物層を気体に曝露する工程、及び、
栄養溶液を、前記膜の栄養面から生物層に拡散させる工程、
を含むことを特徴とする請求項3に記載の生物反応器の動作方法。
【請求項25】
前記栄養溶液が実質的に無酸素状態である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記栄養溶液を拡散させる工程が外圧を加えずに生じる、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記気体が酸素を含む、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記膜の栄養面に栄養溶液を曝露する工程が、栄養面を通過した栄養溶液をリサイクルする工程を含む、請求項24〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
栄養溶液が、膜を通り抜けて、膜の気体面に隣接する気体領域に通過することがない、請求項24〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記生物層および前記栄養溶液の組成が、薬剤の産生、抗体の産生、ワクチン成分の産生、食品材料の産生、細胞の産生、酵素の産生からなる群から選択された目的、さらには前記栄養溶液中の成分を除去、劣化または変換する目的で選択される、請求項24〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記生物層および前記栄養溶液の組成が、抗体またはワクチンの産生の為に選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記栄養溶液から酸素を除去する工程をさらに含む、請求項24〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記生物反応器の生産物を単離する工程をさらに含む、請求項24〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記単離工程が、栄養溶液から生産物を分離する工程を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記単離工程が、気体面から固体物質を収穫する工程を含む、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
さらに以下の工程、即ち、
前記膜の栄養面に第二の液体を導入する工程、
前記第二の液体に、膜を第二の期間だけ曝露する工程、及び、
前記第二の液体から生産物を分離する工程、
を含む、請求項24〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
ゲルおよび支持体を含む膜であり、前記ゲルが前記支持体の内にあると共に該支持体によって強化されている膜であって、
この膜は、対向する表面と、該対向する表面間に相当する厚さを有しており、前記ゲルが前記対向する表面間を連結すると共に、この膜を通じて栄養溶液を拡散させることができ、
前記対向する表面は栄養面および気体面であり、
当該膜は、前記気体面上の選択された位置でかつ前記気体面の近くの膜内に固定生物層を具備しており、前記ゲルが栄養面と生物層との間を連結し、それによって栄養溶液が栄養面を通過して生物層に拡散することができる、ことを特徴とする膜。
【請求項2】
前記生物層が、バクテリア、菌類、動物細胞、哺乳動物細胞、植物細胞、原生動物、その他の生体物質、原核生物細胞および真核生物細胞からなる群から選択された生体物質を含む、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
膜支持構造体と、
前記膜支持構造体上に支持された請求項1記載の膜と、
を備えた生物反応器。
【請求項4】
前記膜支持構造体が一以上の膜を支持しており、その膜の各々が請求項1記載の膜であり、
前記膜が、対を成して並び各膜対の間に内部領域を形成するように配置されていることを特徴とする請求項3記載の生物反応器。
【請求項5】
前記各膜対の二つの膜間の内部領域が、各膜の栄養面に隣接して設けられている請求項4記載の生物反応器。
【請求項6】
使用時において栄養溶液が実質的に無酸素状態である請求項3〜5のいずれか一項に記載の生物反応器。
【請求項7】
請求項3に記載の生物反応器において、
前記請求項1に記載の膜が、
垂直方向、水平ではない方向、水平に対して0でない角度、水平に対して30°〜90°、水平に対して45°〜90°、水平に対して60°〜90°、水平に対して45°〜60°、水平に対して約30°、水平に対して約45°、水平に対して60°、水平に対して75°、水平に対して90°、からなる群から選択されるいずれかの方向を向いて前記膜支持構造体上に支持されており、
前記膜支持構造体は、栄養溶液を不浸透性の材料からなる非孔性支持材を有し、膜と当該非孔性支持材との間に内部領域を形成する、ことを特徴とする生物反応器。
【請求項8】
膜が垂直に支持されている請求項7記載の生物反応器。
【請求項9】
請求項3に記載の生物反応器において、
前記膜支持構造体は、
前記膜の一部分が膜の他の部分と平行な状態となって二つの部分間に内部領域を規定するように当該膜を支持する、ことを特徴とする生物反応器。
【請求項10】
それぞれの膜の対の間隔を維持するために一以上のスペーサを有する請求項4又は5に記載の生物反応器。
【請求項11】
膜の栄養面に栄養溶液を供給する入口と、膜の栄養面から前記栄養溶液を排出する出口と、栄養溶液を前記出口から前記入口にリサイクルするリサイクルシステムを有する、請求項3〜10のいずれか一項に記載の生物反応器。
【請求項12】
前記リサイクルシステムが前記液体に対する酸素の接触を防止できる、請求項11に記載の生物反応器。
【請求項13】
前記栄養溶液から酸素を除去するための酸素リムーバを更に具備する、請求項3〜12のいずれか一項に記載の生物反応器。
【請求項14】
前記膜から固形物質を除去するための手段を備えている、請求項3〜13のいずれか一項に記載の生物反応器。
【請求項15】
請求項1に記載の膜を作成する方法であって、
前記膜の栄養面から離れた膜上に、生体物質を固定させる固定工程であって、
その膜は、ゲルおよび支持体を含む膜であり、前記ゲルが前記支持体の内にあって該支持体によって強化されている膜であり、且つ、対向する表面と、該対向する表面間に相当する厚さを有しており、前記ゲルが前記対向する表面間を連結すると共に、この膜を通じて栄養溶液を拡散させることができる膜であり、更に、
当該固定工程は、膜に複数の細胞または胞子の少なくとも一部が付着するように、複数の細胞または胞子に膜を曝露させる工程を含んでなる、固定工程と、
前記膜の栄養面に栄養溶液を提供し、生体物質が前記気体面上に固定生物層を形成するような条件下で、前記膜の気体面を気体に曝露させる工程と、
を備え、一旦形成された前記固定生物層から細胞を除去できるように、前記膜がアクセス可能である、ことを特徴とする請求項1に記載の膜の作成方法。
【請求項16】
前記栄養溶液が実質的に無酸素状態である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記気体が酸素を含有する、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記膜が、ナノ細孔質膜、メソ細孔質膜、ミクロ細孔質膜、並びに、ナノスケール、メソスケールおよびミクロスケールの細孔の一つ以上の組み合わせを有する膜からなる群から選択される、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記栄養溶液を提供する工程が、該栄養溶液から酸素を除去する工程を含む、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記固定工程が、
ナノ細孔質固体またはゲルを生じる前駆体溶液を前記支持体に注入する工程、及び、
膜を形成するために支持体の上および/または中にナノ細孔質固体またはゲルを生成する工程を含む、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記前駆体溶液が複数の細胞または胞子を含み、ナノ細孔質固体またはゲルが生成する過程で、膜中に少なくともその細胞または胞子の一部が固定される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記注入する工程の前に、表面清浄化、表面のより親水化、または、表面のサイジング剤および他の汚染菌を除去することの目的により、支持体を処理する工程をさらに含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記前駆体溶液がコロイダルシリカを含み、ナノ細孔質固体またはゲルを生成する前記工程が、支持体に注入する前駆体溶液のpHを変化させることを含む、請求項20〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項3に記載の生物反応器の動作方法であって、
前記膜の栄養面に栄養溶液を曝露する工程、
前記生物層を気体に曝露する工程、及び、
栄養溶液を、前記膜の栄養面から生物層に拡散させる工程、
を含むことを特徴とする請求項3に記載の生物反応器の動作方法。
【請求項25】
前記栄養溶液が実質的に無酸素状態である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記栄養溶液を拡散させる工程が外圧を加えずに生じる、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記気体が酸素を含む、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記膜の栄養面に栄養溶液を曝露する工程が、栄養面を通過した栄養溶液をリサイクルする工程を含む、請求項24〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
栄養溶液が、膜を通り抜けて、膜の気体面に隣接する気体領域に通過することがない、請求項24〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記生物層および前記栄養溶液の組成が、薬剤の産生、抗体の産生、ワクチン成分の産生、食品材料の産生、細胞の産生、酵素の産生からなる群から選択された目的、さらには前記栄養溶液中の成分を除去、劣化または変換する目的で選択される、請求項24〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記生物層および前記栄養溶液の組成が、抗体またはワクチンの産生の為に選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記栄養溶液から酸素を除去する工程をさらに含む、請求項24〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記生物反応器の生産物を単離する工程をさらに含む、請求項24〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記単離工程が、栄養溶液から生産物を分離する工程を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記単離工程が、気体面から固体物質を収穫する工程を含む、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
さらに以下の工程、即ち、
前記膜の栄養面に第二の液体を導入する工程、
前記第二の液体に、膜を第二の期間だけ曝露する工程、及び、
前記第二の液体から生産物を分離する工程、
を含む、請求項24〜35のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図2a】
【図3】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4】
【図5】
【図5a】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図14d】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図15d】
【図16a】
【図16b】
【図17】
【図18a】
【図18b】
【図18c】
【図19】
【図20】
【図2】
【図2a】
【図3】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4】
【図5】
【図5a】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図14d】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図15d】
【図16a】
【図16b】
【図17】
【図18a】
【図18b】
【図18c】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−105678(P2012−105678A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47931(P2012−47931)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2007−516879(P2007−516879)の分割
【原出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(500461941)オーストラリアン ニュークリア サイエンス アンド テクノロジー オーガニゼーション (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2007−516879(P2007−516879)の分割
【原出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(500461941)オーストラリアン ニュークリア サイエンス アンド テクノロジー オーガニゼーション (11)
【Fターム(参考)】
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