説明

膜製造方法及び素子基板の製造方法

【課題】 製造コストの上昇に繋がる真空プロセスを必要としない製造法で形成し得る、反射機能を有する膜を備えた素子基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ステージ101上に基板8は真空吸着された状態とした。互いに非相溶性の複数の物質を含む液状材料L2は、液体保管部107から供給管106を通してディスペンサヘッド104に供給される。液状材料L2は、さらに、ディスペンサヘッド104に設けられた複数のノズル105から、基板8上のドット103として塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に積層された構造体からなる光学的な素子において、素子の厚み方向に進む光を、所望の一方向にのみ進むように反射させる層として、相分離構造を有する膜を予め基板上に備えた素子基板及びその製造方法、電子装置及びその製造方法、光学装置及びその製造方法、並びに、電子機器に係る。本発明に係る素子基板は、EL素子(Electroluminescence Device)などの光学素子を載置する基板として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、実用化が図られたレーザー用途の半導体素子や反射型の液晶素子、EL素子などに代表される光学的な反射機構を備えた素子では、素子内を進行する光を効率よく反射させるために、各種の単層膜や積層膜からなる構造体が使われている。また、高い反射率を有する膜を素子内の適所に設けることで、各素子の光学的な能力はより一層向上することが、例えば以下に示す公報などにて広く知られている。
【0003】
(1)レーザー用途の半導体素子としては、面発光型半導体レーザを構成する一例が特願2002−157241号に紹介されている。半導体素子として少なくとも所望の機能を発揮するために必要な層は「機能層」と呼ばれ、例えば上記した面発光レーザの機能を発揮する場合、少なくとも上部ミラーと下部ミラー、これらのミラー層で挟まれる半導体層構造をさす。ここで、上部・下部ミラーは、半導体層構造にて発生したレーザ光の反射鏡となって共振器を構成する。
このような反射機能をもつ上部・下部ミラーは、例えば組成の異なる2種類のAlxGa1-xAs層を、交互に20対から30対程度、積層してなる分布反射型(Distributed Bragg Refflector:DBR)ミラー(DBRミラー)であり、分子線エピタキシー法(MBE法)等を用いた真空プロセスで形成される。
【0004】
(2)反射型の液晶素子としては、特開平10−115704号公報において反射型カラーフィルタに適用した例が挙げられる。同公報に記載された反射膜は、基板上に、高屈折率材料からなる薄膜と低屈折率材料からなる薄膜とが交互に積層形成された多層干渉膜という形態からなる。具体的には、実施の形態において例えばEB(Electron Beam)蒸着法を用いて二酸化珪素(SiO:屈折率1.461)と二酸化チタン(TiO :屈折率2.495)とを交互に積層した多層干渉膜が紹介されている。
【0005】
(3)EL素子で利用される反射膜ついては、例えば特開2001−52861号に詳細な説明がある。EL素子の基本構造は、基板の上に、第1電極、発光に寄与する層(発光層)、第2電極がこの順で形成された構成からなる。この発光層から発した光を放出させる方向は、第1電極と基板を通過させる場合(バックエミッション:BEと略称する)と第2電極を通過させる場合(トップエミッション:TEと略称する)の2通りある。
【0006】
BEの場合は、基板と第1電極には透明な材料が選択され、発光効率を高めるため、第2電極を反射電極とするか、又は、第2電極上に反射膜を有する構成が好ましい。逆に、TEの場合は、第2電極には透明な材料が選択され、発光効率を高めるため、第1電極を反射電極とするか、又は、第1電極と基板との間に反射膜を有する構成が好ましい。これらの透明電極、反射電極および反射膜としては、以下に示す材料が列挙されている。
【0007】
透明電極:CuI、ITO、SnO、ZnO等の透明材料。
反射電極:アルミニウム、カルシウム等の金属、マグネシウム−銀、リチウム−アルミニウム等の合金、マグネシウム/銀のような金属同士の積層膜、フッ化リチウム/アルミニウムのような絶縁体と金属との積層膜等。
反射膜:公知の金属膜。
また同公報の実施例1には、素子構成がBEの場合であり、反射電極をなす第2電極としてAl電極が蒸着法で設けられた例が開示されている。
【特許文献1】特開平10−115704号公報
【特許文献2】特開2001−52861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記(1)〜(3)で述べたように、従来、光学的な反射機構を備えた素子で用いられていた反射層は、これを形成するために真空プロセスを用いた作製法が必須であった。この作製法は、装置自体が高価であると共に、その運転コストも高く、さらにはその装置の設置にも広い空間を要するので、反射膜の製造コストを下げるのには限界があった。
また、反射層が素子にとって最適な反射条件を満たすためには、単層膜では不十分な場合が多いので、積層膜からなる構造体が多用されるが、これは反射層の製造プロセスの複雑化をもたらし、ひいては素子の高価格化を招いていた。
【0009】
本発明は上記した問題を解決するため、製造コストの上昇に繋がる真空プロセスを必要としない製造法で形成し得る、反射機能を有する膜を備えた素子基板及びその製造方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る膜製造方法は、互いに非相溶性の複数の物質を含む混合物を液状体吐出法により基体に吐出し、相分離構造を有する膜を形成することを特徴とする。
上記の膜製造方法において、前記混合物として、前記複数の物質の種類または量比が異なるように調整された複数の混合物を用いることが好ましい。
上記の膜製造方法において、前記相分離構造をミクロ相分離構造であることが好ましい。
上記の膜製造方法において、前記液状体吐出法はインクジェット法であってもよい。
上記の膜製造方法において、前記混合物は、ブロックコポリマーを含むことが好ましい。
上記の膜製造方法において、前記膜は反射機能を備えていることが好ましい。
上記の膜製造方法において、前記相分離構造の格子間隔は100nm以上であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る他の膜製造方法は、互いに非相溶性の物質を含む第1の混合物を液状体吐出法により基体に向けて吐出することにより第1の膜を形成し、互いに非相溶性の物質を含む第2の混合物を前記液状体吐出法により基体に向けて吐出することにより第2の膜を形成することを特徴とする。
上記膜製造方法において、前記第1の膜の反射特性と前記第2の膜の反射特性とは異なることが好ましい。
上記の膜製造方法において、前記第1の混合物に含まれる前記複数の物質の量比と前記第2の混合物に含まれる前記複数の物質の量比とは、異なっていることが好ましい。
上記の膜製造方法において、前記第1の膜及び前記第2の膜はそれぞれ異なる所定の位置に配置されてもよい。
上記の膜製造方法は、素子基板の製造方法に適用することが可能である。
【0012】
本発明に係る素子基板の製造方法は、基板上にスイッチング素子を形成する第1の工程と、前記スイッチング素子の上方に第1の絶縁膜を形成する第2の工程であって、前記スイッチング素子を覆うように第2の絶縁膜を形成した後に前記第1の絶縁膜を形成する工程と、前記第1の絶縁膜の上方に第1の電極を形成する第3の工程と、を含み、前記第2の絶縁膜の形成は、互いに非相溶性の複数の物質を含む混合物を塗布することにより行い、前記混合物は、ブロックコポリマーを含むことを特徴とする。
上記の素子基板の製造方法において、前記混合物として、前記複数の物質の種類または量比が異なるように調製された複数の混合物を用い、前記複数の混合物の各々を液状体吐出法により所定の位置に配置することが好ましい。
上記の素子基板の製造方法において、前記第2の工程の後に、前記混合物に含まれる溶媒を除去するための乾燥工程及び熱処理する工程のうち少なくとも1つを具備していることが好ましい。
【0013】
本発明は上記課題を解決するために、基板と、前記基板の上方に載置された電子素子と、前記基板又は前記電子素子の少なくとも一部を覆うように前記電子素子の上方に配設された相分離構造を有する膜と、を具備したことを特徴とする第一の素子基板を提供する。
【0014】
また本発明は、基板と、前記基板の上方に載置された電子素子と、前記電子素子の下方に配設された相分離構造を有する膜と、を具備したことを特徴とする第二の素子基板を提供する。
上記構成からなる2種類の素子基板すなわち第一あるいは第二の素子基板であれば、その上に発光素子を載置する際に必要となる機能を予め備えることができる。例えば発光素子の駆動用として使われる電子素子や、発光素子が発した光を反射する能力をもつ相分離構造を有する膜を、予め基板上に形成してなる構造の素子基板を提供することが可能となる。
【0015】
また、第一あるいは第二の素子基板を選択することにより、発光素子の下に重ねて配置されるものの順番を変更できる。つまり、第一の素子基板上に発光素子を設けた場合は、相分離構造を有する膜が電子素子より発光素子の近傍に配置される。一方、第二の素子基板上に発光素子を設けた場合は、電子素子が相分離構造より発光素子の近傍に配置される。後述するように、本発明に係る相分離構造を有する膜はこの膜を構成する物質相の組合せを適宜選択することにより、反射機能に加えて絶縁機能も兼ね備えることが可能なので、電子素子と発光素子との間において好ましい位置に設けることによって絶縁膜としての役割も兼ねることができる。その結果、従来に比べて必要とする層数を減少させることができるので、素子基板の製造コストの低下を図ることが可能となる。
【0016】
この相分離構造を有する膜は、例えば互いに非相溶性である複数の物質相から構成されていることを特徴としている。例えば2つの物質(ここでは仮に第1の物質、第2の物質と呼ぶ)から構成された物質相の場合は、たとえ見かけ上単層膜の形態であっても第1の物質と第2の物質をなす材料を各々適宜に選択することにより、この膜は反射機能を有することが可能となる。したがって、この相分離構造を有する膜を備えるにより、反射層を備えた素子基板の提供が可能となる。また、互いに非相溶性である物質を適宜選択することによって、上記反射機能の特性制御、例えば極大あるいは最大の反射率を有する波長域や半値幅などの制御が可能となる。さらに、互いに非相溶性である物質を適宜選択することによって、上記反射機能に加えて、電気的な絶縁機能も兼ね備えることもできる。
【0017】
このような反射機能に加えて、電気的な絶縁機能も兼ね備えた相分離構造を有する膜を備えた構成からなる素子基板であれば、この相分離構造を有する膜は、基板と素子との間に配置され、基板と素子との絶縁膜として機能するとともに、素子に対しては反射膜として作用することができる。
この構成によれば、例えば従来は素子と絶縁部材との間に導電機能に加え反射機能も併せ持つ材料で作製された電極が必要であったが、素子の上下に位置する電極としては透明電極が同時に使えることとなり、素子は上下同じ材料に挟まれた構造となるので素子が電極から受ける応力のバランスがとれるので、内部歪みの発生が抑えられる。
【0018】
上記素子基板を構成する電子素子とは、トランジスタやダイオード等のスイッチング機能を備えた素子であり、例えばこの素子基板上に載置された発光素子を駆動あるいは制御させる機能を発揮するものである。具体的には、レーザー用途の半導体素子や、発光ダイオード、反射型の液晶素子、EL素子等における駆動素子や制御素子などが挙げられる。
【0019】
この相分離構造を有する膜は、その作製に高価な真空プロセスを必要せず、例えば大気圧下で塗布法によって容易に形成できるので、極めて安価な素子基板の提供が可能となる。
従来、このような素子基板の片面を実現するためには、作製するために真空プロセスを要する膜を用いる必要があり、高コスト化が避けられなかった。また、最適な反射機能を有する層とするためには複数の膜を重ねてなる積層構造とする必要もあり、これは更なるコストの増大を招いていた。このような問題を本発明に係る素子基板は解消することができる。
【0020】
本発明に係る素子基板を構成する相分離構造を有する膜は、前記電子素子に対応する部分に分割されて配置されていることを特徴としている。
この構成によれば、例えば基板上に複数の電子素子が存在し、これらの電子素子が異なる波長の光を発する発光素子の各々を駆動するような場合、相分離構造を有する膜がそれぞれの電子素子に対応する部分に分割されて配置されているので、各々の相分離構造を有する膜は各発光素子が発する光の波長に適する反射特性をもつように設けることが可能となる。
【0021】
換言すると、上記構成ならば、各々の相分離構造を有する膜は、個々の発光素子の発光特性に合わせた反射能力を有する膜として設けることができる。例えば、赤、緑、青と異なる発光色をもつ発光素子が基板の一方の面に2次元状に配置される場合、個々の発光素子が発する光の波長に合わせて反射能力を変えた膜を相分離構造を有する膜として、個々の発光素子に対してそれぞれ電子素子が設けられた領域に対応する部分のみに配置することで、最も効率的な反射が実現できる素子基板の提供が可能となる。
【0022】
上記相分離構造を有する膜は、素子が載置された基板の一方の面に、個々の電子素子に対応する部分に分割されて配置されてもよい。この構成によれば、基板に載置された個々の電子素子が離間して設けられていても、個々の電子素子間の距離に応じて、所望の位置に適切な範囲を覆うように相分離構造を有する膜を設けることが可能となる。
【0023】
また、本発明に係る素子基板を構成する相分離構造を有する膜は、前記基板と接触しないように設けられていることを特徴としている。
この構成によれば、少なくとも基板の一方の面上に設けられる他の膜や構造体を相分離構造を有する膜より先に作製した後、これらの他の膜や構造体の上を被覆するような位置に配置された発光素子が発した光を反射する膜として相分離構造を有する膜を形成できる。このように、他の膜や構造体を作製した後に形成できる相分離構造を有する膜であれば、他の膜や構造体を通過してきた光の特性に合わせた反射能力を確実に備えた膜を相分離構造を有する膜として常に形成できるので、反射機能の安定性に優れた素子基板が得られる。
【0024】
このように相分離構造を有する膜を基板と接触しないように設ける構成としては、発光素子が発する光を基板側に反射する場合と基板とは反対側に反射する場合の2通りが挙げられる。発光素子が発する光を基板側に反射する場合は、基板の表面上に設けられた発光素子の上方に相分離構造を有する膜が配置される。これに対して、発光素子が発する光を基板とは反対側に反射する場合は、基板の表面上に設けられた発光素子の下方に相分離構造を有する膜が配置されるが、その配置可能な構成としては、基板の表面上で発光素子との間に設ける構成と、基板の裏面の上方に設ける構成の2通りがある。
【0025】
特に、相分離構造を有する膜を基板と接触しないように設ける構成において、この膜が素子および基板より外側に配置され、この膜の内側にある素子に対しては反射膜として作用すると共に、この膜の外側に対しては絶縁部材として機能する場合には、外部からの静電破壊に対する耐性が高まる。例えば、この膜の外側を機械加工し、平坦化を施すことにより、素子を外部から封止する部材を兼務させることも可能となる。
【0026】
例えば、上述した電子素子と相分離構造を有する膜を具備してなる素子基板を用い、この素子基板上に少なくとも光学素子として有機EL素子を設けてなる電子装置は、内部歪みの発生が抑制されたこと、あるいは外部からの静電破壊に対する耐性が改善したことにより、素子の電気的、光学的あるいは機械的な不具合の発生が解消されるので、従来より高い長期信頼性を備えることが可能となる。
【0027】
さらに本発明は、基板と、前記基板上に配設された、複数のスイッチング素子を含む電子素子層、及び、前記電子素子層の上方に該電子素子層の少なくとも一部を覆うように配設された相分離構造を有する絶縁膜と、を具備したことを特徴とする第三の素子基板を提供する。
【0028】
この第三の素子基板によれば、素子基板上すなわち相分離構造を有する絶縁膜上に例えば光学素子を後で設けた場合に、相分離構造を有する絶縁膜は複数のスイッチング素子を含む電子素子層と光学素子との間を電気的に絶縁できる。その際、相分離構造を有する絶縁膜を電子素子層の少なくとも一部を覆うように配設することによって、例えば電子素子層を構成する特定のスイッチング素子のみ光学素子の所定な箇所と電気的な導通も同時に兼ね備えることの可能となる。
【0029】
このような相分離構造を有する絶縁膜は、相分離構造を、互いに非相溶性である複数の物質相から構成し、電気的な絶縁特性を有する物質相あるいは物質相の組合せを適宜選択することにより得られる。その際、前述したように、反射機能も合わせ持つような物質相を選択しても構わない。
相分離構造を有する絶縁膜は、互いに非相溶性である物質を適宜選択することによって、上記電気的な絶縁機能に加えて、反射機能も兼ね備えることも可能なので、この場合は、第一の膜は見かけ上単層構造であってもこの両機能を同時に満たすことができる。ゆえに、この場合は、従来の絶縁膜と反射膜とを積層した構造体では存在した界面に起因する問題、すなわち電気的、光学的あるいは機械的な不具合の発生を回避できる素子基板の提供にも寄与する。
【0030】
なお、本発明に係る相分離構造を有する膜は、互いに非相溶性である物質から構成されていることを特徴としている。
この構成によれば、相分離構造を有する膜は、互いに非相溶性である、少なくとも2つの物質(ここでは、第1の物質、第2の物質と呼ぶ)を含む液状材料を基板上に塗布することによって容易に形成できる。例えば、基板の一方の面を全てこの膜で被覆された状態とする場合は、スピンコート法やディップコート法に代表される一般的な全ての塗布法を用いることができる。
しかしながら、この膜を所望の領域のみ、すなわち、素子が載置された領域に対応する部分のみに配置する場合、特に膜を設ける領域が小さくかつ局所的あるいは分散して存在している場合には、微小領域へ均一な塗布膜を形成する能力に優れたインクジェット法が好適である。
【0031】
なお、上記構成において、第1の物質と第2の物質とを含む液状材料とは、第1の物質をなすブロックコポリマーに、このブロックコポリマーを構成する各ブロック鎖(ポリマー鎖とも呼ぶ)の一方と相溶性のあるホモポリマーを第2の物質として混合して生成された液体材料L1を、ブロックコポリマーの系の「秩序−無秩序転移温度(TODT )以上の温度に加熱して溶融するか、または第一の物質と第二の物質の共通溶媒に溶解することにより、完全に混合した無秩序混合状態をなす液体材料L2を意味する。
【0032】
本発明に係る第一の素子基板の製造方法は、基板上に電子素子を形成する素子製造工程と、前記電子素子の少なくとも一部を覆うように互いに非相溶性の複数の物質を含む混合物を、塗布することにより相分離構造を有する膜を形成する膜製造工程と、を具備したことを特徴としている。
予め素子製造工程において電子素子を基板上に形成し、この電子素子の少なくとも一部を覆うように相分離構造を有する膜を、塗布法によって作製する膜製造工程を備えてさえいれば、この膜が形成される位置が基板のいかなる箇所であっても、所望の反射機能を有する反射膜を、適宜、所定の位置に最適な領域を覆うように形成することができる。塗布法としては、例えばディッピング法やスピンコート法などが挙げられる。
【0033】
また、この素子基板の製造方法は、塗布工程により所望の膜を形成できるので、従来の真空プロセスを必要とした作製法とは異なり、大気中において膜の形成が可能であり、高価な真空プロセス対応の設備を不要とするので、膜作製コストの大幅な低減を図れる。
【0034】
本発明に係る第二の素子基板の製造方法は、基板上に電子素子を形成する素子製造工程と、前記電子素子の少なくとも一部を覆うように互いに非相溶性の複数の物質を含む混合物を、液状体吐出法を用いて塗布することにより相分離構造を有する膜を形成する膜製造工程と、を具備したことを特徴としている。
この第二の素子基板の製造方法であれば、液状体吐出法を用いて塗布することにより、複数の物質を塗り分けることが可能となる。
【0035】
前述したように、2つ以上の物質として、互いに非相溶性である第1の物質と第2の物質を用い、液状体吐出法の一つであるインクジェット法でこの2種類の物質を微細なノズル孔を通して吐出する場合、例えば基板に到達した一方の物質からなる微小領域の隣には他の物質からなる微小領域が配置されるように、ノズル孔を通して第1の物質と第2の物質とを各々吐出したり、あるいはノズル孔を備えたインクジェットヘッドの位置を制御することによって、得られた膜が第1の物質と第2の物質とを塗り分けて構成されるように形成することができる。特に、間欠的に塗り分けて膜を形成する塗布工程を用いると、第1の物質と第2の物質の吐出量を高精度に制御できるので、膜厚の均一化も図れる。
【0036】
また、インクジェット法によれば、高価な真空プロセスを用いる必要がなく、さらには他の塗布法、例えばスピンコート法やディップコート法に比べて材料の使用効率を向上できる。ゆえに、素子基板の製造コストを抑制することも可能となる。
前述した第一または第二の素子基板の製造方法における混合物として、複数の物質の種類または量比が異なるように調製された複数の混合物を用いることにより、複数の物質、例えば第1の物質と第2の物質とを塗り分けて形成することが可能となる。
【0037】
特に、第二の素子基板の製造方法における混合物として、複数の物質の種類または量比が異なるように調製された複数の混合物を用い、この複数の混合物の各々を液状体吐出法により所定の位置に配置することにより、局所的な塗り分けも可能となるので、微細な電子素子のパターンや配置に対応させて、相分離構造を有する膜を形成することができる。
【0038】
また、本発明に係る第一または第二の素子基板の製造方法は、膜製造工程の後に、溶媒を除去するための乾燥工程を設けてもよい。
溶媒を除去するための乾燥工程は、前述した塗布工程で形成した膜から溶媒を蒸発させて取り除くことにより、膜に規則正しい秩序構造を形成させ、例えば格子間隔が100nm以上である各ポリマー相(ブロック鎖相とも呼ぶ)からなるミクロ相分離構造の膜が得られる。なお、この乾燥工程は、膜からの溶媒除去の効率を上げるため減圧雰囲気で行っても構わない。
【0039】
さらに、本発明に係る第一または第二の素子基板の製造方法は、前述した膜製造工程の後に、熱処理する工程を具備してもよい。
膜製造工程により形成された膜に対し、第一の物質と第二の物質からなる液体材料L のTODT より低い温度に熱処理する冷却工程を施すことによって、膜に規則正しい秩序構造を形成させ、例えば格子間隔が100nm以上である各ポリマー相(ブロック鎖相とも呼ぶ)からなるミクロ相分離構造の膜が得られる。特に、この冷却工程を乾燥工程により溶媒除去が行われた膜に対して行うことにより、この作用・効果がより一層得られるので好ましい。
【0040】
本発明に係る電子装置は、上述した構成からなる素子基板と、光学素子と、を具備したことを特徴としている。
上述した構成からなる素子基板であれば、予め素子基板の内部に反射機能や絶縁機能を有する膜を備えているので、光学素子を素子基板上に設ける際に新たにこのような機能を有する膜を作製する必要が無い。つまり、上述した構成からなる素子基板を用いた場合には、光学素子のみを作製するプロセスに特化した製造ラインを構築するだけで、所望の電子装置が得られる。したがって、電子装置をより安価に提供することが可能となる。
【0041】
本発明に係る電子装置の製造方法は、基板上に電子素子を形成する素子製造工程と、前記電子素子の少なくとも一部を覆うように、互いに非相溶性の複数の物質を含む混合物を塗布することにより相分離構造を有する膜を形成する膜製造工程と、を具備したことを特徴としている。
この構成からなる電子装置の製造方法であれば、前述したように、電子素子の少なくとも一部を覆うように、互いに非相溶性の複数の物質を含む混合物を塗布することにより相分離構造を有する膜を形成する膜製造工程では、従来必要とした真空プロセスが不要なので、電子装置の製造コストを抑制することが可能となる。
この真空プロセスが不要となる作用・効果は、大気圧下にて膜を製造する塗布法を用いて相分離構造を有する膜を形成することで得られるものであるから、上記電子装置の製造方法に限定されるものではない。
【0042】
本発明に係る光学装置の製造方法は、基板上にスイッチング素子層を含む電子素子層を形成する素子製造工程と、前記電子素子層の上方に非相溶性の複数の物質を含む混合物を、液状体吐出法を用いて塗布することにより相分離構造を有する膜を形成する膜製造工程と、を具備したことを特徴としている。
この構成からなる光学装置の製造方法であれば、前述したように、電子素子層の上方に非相溶性の複数の物質を含む混合物を、液状体吐出法を用いて塗布することにより相分離構造を有する膜を形成する膜製造工程では、従来必要とした真空プロセスが不要なので、光学装置の製造コストを抑制することが可能となる。
【0043】
本発明に係る電子機器は、少なくとも上述した電子装置または上述した光学装置を備えたことを特徴としている。
上記構成の電子機器であれば、従来より製造コストを抑えた電子装置または光学装置を搭載しているので、従来より安価な製品の提供ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
(素子基板)
以下では、本発明に係る素子基板について図1から図7に基づき詳細に説明する。
図1と図2は、本発明に係る素子基板を示す模式的な断面図であり、当該素子基板は、基板1と、基板1の上方に載置された電子素子2と、基板1又は電子素子2の少なくとも一部を覆うように電子素子2の上方に配設された相分離構造を有する膜3と、を具備している。
特に、図1は、相分離構造を有する膜3が基板1と電子素子2を全て覆うように配された例を示している。これに対し、図2は、相分離構造を有する膜3が基板1又は電子素子2の少なくとも一部を覆うように配された例を示している。
【0045】
図3と図4は、本発明に係る他の素子基板を示す模式的な断面図であり、当該素子基板は、基板1と、基板1の上方に載置された電子素子2と、電子素子2の下方に配設された相分離構造を有する膜3と、を具備している。
【0046】
但し、相分離構造を有する膜3を、基板1の電子素子2が載置された領域に対応する部分に設ける場合には、図3に示した配置に限定されるものではない。すなわち、本発明に係る相分離構造を有する膜3を設ける作用・効果は、基板1および/又は素子2の少なくとも一部を覆うように配設されさえすれば、少なくとも得ることができる。例えば、電子素子2が複数存在した場合には、その内の少なくとも1つの素子に対応させて設けて、相分離構造を有する膜3を設けてもよい。あるいは、電子素子2の一部の領域に対応させて相分離構造を有する膜3を配置しても構わない。この様に相分離構造を有する膜3を配置した場合には、基板1に対して相分離構造を有する膜3は少なくとも一部を覆うように配設される形態をなすことは言うまでもない。
【0047】
例えば、図3の具体的な事例としては、素子基板上に設ける光学素子が有機EL素子である場合が挙げられる。図3の場合、相分離構造を有する膜3は、複数個の電子素子2と基板1との間に、個々の電子素子2を個別に覆うように設けられている。この構成からなる素子基板上に光学素子が配される。したがって、相分離構造を有する膜3は、各々の光学素子が発する個々の光の波長に対して、最も有効な反射機能をもつ反射膜として利用される。複数個の光学素子が、赤色(R)、緑色(G)、及び青色(B)の各色を発する各発光素子を備えている場合には、各発光素子の発する光の波長域に合わせた反射機能をもつ反射膜として、相分離構造を有する膜3は光学素子ごとに設けられる。各々の電子素子2としては、それぞれの光学素子を駆動する素子が用いられる。
【0048】
図4と図5は、上述した素子基板の変形例を示す模式的な断面図であり、素子基板を構成する相分離構造を有する膜3が、基板1と接触しないように設けられている。
特に、図4は、相分離構造を有する膜3が電子素子2が載置された基板1の面とは反対側の面上に配され、基板1と相分離構造を有する膜3との間に素子以外の層または構造体4が設けられた例を示す。図4では構造体4を設けた場合を例示したが、図4の構成において構造体4を省略しても構わないことは言うまでもない。図5は、相分離構造を有する膜3が電子素子2が載置された基板1の面と同じ側の面上に配され、基板1及び電子素子2と相分離構造を有する膜3との間に素子以外の層または構造体5が設けられた例を示す。
【0049】
図6は、本発明に係る他の素子基板を示す模式的な断面図であり、当該素子基板は、基板1と、基板1上に配設された、複数のスイッチング素子を含む電子素子層2’、及び、電子素子層2’の上方に電子素子層2’の少なくとも一部を覆うように配設された相分離構造を有する絶縁膜6と、を具備している。
図6において、電子素子層2’とは電子素子に加えてその他の構造物も含めてなる層であり、その他の構造物としては例えば電子素子を制御する部位や駆動する部位が挙げられる。
【0050】
当該素子基板では、相分離構造を有する膜が電気的な絶縁特性を備えた絶縁膜6であり、この相分離構造を有する絶縁膜6が電子素子層2’の少なくとも一部を覆うように設けられた点が特徴である。図6では基板1および電子素子層2’の全てを覆うように相分離構造を有する絶縁膜6を設けた例を示したが、各々の電子素子層2’を選択的にあるいは電子素子層2’を部分的に覆うように相分離構造を有する絶縁膜6を配してもよいことは言うまでもない。
【0051】
図12は、相分離構造を有する膜3の概略を示す拡大斜視図であり、この相分離構造を有する膜3が物質相M1と物質相M2とから構成されている状態を表している。
各物質相M1、M2は、互いに非相溶性を有する物質から構成されており、それぞれ高分子構造体(ポリマー)が好適に用いられる。
【0052】
例えば、この相分離構造は、第1の繰り返し単位(第1のブロック)と第2の繰り返し単位(第2のブロック)とを含む前記ブロックコポリマーの当該第1もしくは当該第2の繰り返し単位のいずれか一方の繰り返し単位からなるホモポリマー(高分子構造体)を混合することにより得ることができ、ブロックコポリマーの種類や、ホモポリマーの量等を適宜選択することにより、相分離構造の各相の大きさまたは間隔を、設定することができる。言い換えれば、所望の発色に応じてブロックコポリマーの種類や、ホモポリマーの量等を選択すればよい。
【0053】
本実施形態の素子基板において、相分離構造を有する膜3を得るのに好適なブロックコポリマーとしては、例えば、ポリスチレンとポリイソプレンからなるブロックコポリマーや、ポリ(2−ビニルピリジン)とポリイソプレンからなるブロックコポリマーなどがある。さらに、ポリメチルメタクレート(PMMA)とポリイソプレン又はポリブタジエンからなるブロックコポリマーなどが挙げられる。中でも、使用する溶媒に対して高い溶解性を備えたブロックコポリマー及びホモポリマーが望ましい。
【0054】
また、ブロックコポリマー、あるいはグラフトコポリマーの具体例としては、芳香環含有ポリマー鎖として、例えば、ビニルナフタレン、スチレン、又は、これらの誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーが重合したポリマー鎖などがあり、アクリル系ポリマー鎖としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリt−ブチルメタクリレートなどアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、又は、これらの誘導体から選択される少なくとも1種のモノマーが重合したポリマー鎖が用いられる。ポリエーテル鎖としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド鎖が良い。ポリシラン鎖としては、ポリジブチルシランなどのジアルキルポリシラン誘導体などが良い。
【0055】
さらに、前記ブロックコポリマー、あるいは前記グラフトコポリマーにおけるブロック鎖の組み合わせの具体例としては、以下に示すものが挙げられる。
例えば、ポリスチレン鎖+ポリメチルメタクリレート鎖、ポリスチレン鎖+ポリアクリル酸鎖、ポリスチレン鎖+ポリエチレンオキシド鎖、ポリスチレン鎖+ポリプロピレンオキシド鎖、ポリスチレン鎖+ポリフェニルメチルシラン鎖、ポリスチレン鎖+ポリジブチルシラン鎖、ポリビニルナフタレン鎖+ポリメチルメタクリレート鎖、ポリビニルナフタレン鎖十ポリアクリル酸鎖、ポリビニルナフタレン鎖+ポリエチレンオキシド鎖、ポリビニルナフタレン鎖+ポリプロピレンオキシド鎖、ポリビニルナフタレン鎖+ポリフェニルメチルシラン鎖、ポリビニルナフタレン鎖+ポリジブチルシラン鎖などである。
【0056】
相分離構造を有する膜3を備えた素子基板は、例えば、次のような方法で形成される。
まず、ブロックコポリマーに、該ブロックコポリマーを構成する各ブロック鎖(ポリマー鎖)の一方と相溶性のあるホモポリマーを混合する。混合して生成された液状材料L1をブロックコポリマーの系の「秩序−無秩序転移温度(TODT)」以上の温度に加熱して溶融するか、又は共通溶媒に溶解することにより、完全に混合した無秩序混合状態の液状材料L2を形成する。
【0057】
加熱後の液状材料L2の温度をTODT 以下に低下させるか、又は溶媒を蒸発させることにより、規則正しい秩序構造を形成させ、格子間隔が100nm以上である各ポリマー相(ブロック鎖相)からなるミクロ相分離構造を形成させる。
上記の方法によれば、混入するホモポリマーの量を調整することにより格子間隔を制御し、同一のブロックコポリマーを用いて相分離構造体が主に反射する光の波長域を変化させることが可能となる。加えて、ブロックコポリマーの分子量を増加させることにより相分離構造体の反射する波長域のコントロール幅を広げることも可能となる。
【0058】
本発明の素子基板を構成する相分離構造を有する膜3は、上述した性質を利用するものであり、例えば、図1〜図7に示すような構成に適用される。
なお、上述したように、本発明の素子基板における電子素子2とは、トランジスタやダイオード等のスイッチング機能を備えた素子であり、素子から外部に向けて光が発せられて機能を発揮するものである。このような素子としては、例えばレーザー用途の半導体素子や、発光ダイオード、反射型の液晶素子、EL素子等が挙げられる。
【0059】
図1において、電子素子2としては、例えば、スイッチング機能を備えた素子の一つであるトランジスタを用いることができる。図1の場合、相分離構造を有する膜3は、複数個の電子素子2と基板1を全て覆うように設けられる。このような構成の素子基板は、最表面をなす相分離構造を有する膜3の上に例えば複数個の光学素子が載置されて用いられる、その際、相分離構造を有する膜3は、個々の光学素子が発する全ての光の波長に対して、有効な反射機能をもつ反射膜として利用される。複数個の電子素子2としては、例えば個々の光学素子を駆動する機能素子が挙げられる。
【0060】
図1に対して、図2の素子基板は、相分離構造を有する膜3が基板1又は電子素子2の少なくとも一部を覆うように配された点が異なっている。
この相違点により、図2の素子基板であれば、素子基板上に例えば複数個の光学素子が載置されて用いる場合に、個々の光学素子に対応させた導通部、絶縁部、光路部などを構造や材質などを適宜変更して設けることが可能となるので、多種多様な仕様からなる光学素子を同時に載置することが可能な素子基板を提供できる。
【0061】
図3においても、電子素子2としては、例えば、スイッチング機能を備えた素子の一つであるトランジスタを用いることができる。図3の場合、相分離構造を有する膜3は、複数個の電子素子2と基板1との間に、全ての電子素子2を覆うように設けられる。このような構成の素子基板は、最表面をなす相分離構造を有する膜3の上に例えば複数個の光学素子が載置されて用いられる、その際、相分離構造を有する膜3は、個々の光学素子が発する全ての光の波長に対して、有効な反射機能をもつ反射膜として利用される。複数個の電子素子2としては、例えば個々の光学素子を駆動する機能素子が挙げられる。
【0062】
図2に対して、図3の素子基板は、相分離構造を有する膜3が個々の電子素子2と基板1との間にのみ配された点が異なっている。
この相違点により、図3の素子基板であれば、電子素子2上に例えば各々光学素子が載置されて用いる場合に、個々の光学素子に対応させた反射特性を有する反射膜として相分離構造を有する膜3を形成することが可能となる。
【0063】
上述した相分離構造を有する膜3は反射膜としての機能を備えているので、図4や図5に示す素子基板のように、基板1および電子素子2と相分離構造を有する膜3との間に、素子以外の層または構造体4または5を備えていても同様な反射機能を発揮できる素子基板の提供が可能である。
また、図6に示すように、図1の電子素子2の代わりに電子素子層2’を設けた構成の素子基板とした場合でも、相分離構造を有する膜6は図1と同様な反射機能を発揮できることは言うまでもない。
【0064】
図7は、本発明に係る電子装置を示す模式的な断面図であり、電子装置が上述した構成を有する素子基板と光学素子とを具備したことを特徴としている。
図7において、素子基板は基板1、電子素子2および相分離構造を有する膜3から構成されており、その上に光学素子7が載置されて状態を表している。
この構成によれば、素子基板は予めその素子基板内に電子素子2を備えているので、例えば電子素子2として光学素子7の駆動機能を備えたものを用いれば、この素子基板上に光学素子7を載置するだけで、光学素子7の機能を発揮させることが可能となる。
【0065】
また、図6に示すように、相分離構造を有する膜3を、その膜を構成する物質を適宜選択することにより絶縁機能も兼ね備えることができるので絶縁膜として用いても構わない。
したがって、図7のように、例えば上述した有機EL素子からなる光学素子7とその動作に用いられる駆動回路をなす電子素子2とを積層して配置する場合の層間絶縁膜を兼ねることもできる。
【0066】
相分離構造を有する膜3は、混入したホモポリマーも含めて、各ブロック鎖相(ポリマー相)の体積分率により、例えば、「球」、「シリンダー」、「ラメラ」、「共連続」等の相分離構造によって得られるが、光の反射機能の観点からは、いかなる構造であってもよい。例えば、いずれかのポリマー相の体積分率φが0.33程度のときは共連続構造が得られ、また、0.18<φ<0.32を目安としてシリンダー構造が得られる。
【0067】
上述したように、本発明に係る素子基板は、層間絶縁層をなす絶縁材料として機能すると共に、素子が発する光の反射層をなす反射材料としても機能する相分離構造を備えることができる。ゆえに、従来の層間絶縁膜をこの相分離構造を有する膜3に置き換えるだけで、絶縁機能に加えて反射機能も併せ持つ膜を、単層構造という最も単純な層構成で満たすことができる。
【0068】
これに対して、図4および図5に示す素子基板は、相分離構造を有する膜3を基板1と電子素子2の外側に設けた場合である。
図4の素子基板では、相分離構造を有する膜3は、基板1の他方の面すなわち素子2が配設された面とは反対の面に、この基板1と接触しない状態で、この基板1の全面に配置されている。一方、図5の素子基板では、相分離構造を有する膜3(第四の膜)は、基板1の一方の面すなわち素子2が配設された面と同じ面に、この基板1と接触しない状態で、この基板1の全面に配置されている。ここで、4や5は、電子素子2以外の他の膜や構造体である。
【0069】
つまり、図4と図5の素子基板における相分離構造を有する膜3は、他の膜や構造体4、5を通過してきた、電子素子2が発した光の反射膜として機能する。さらに、図4および図5における相分離構造を有する膜3は、その膜を構成する物質を適宜選択することにより絶縁機能も兼ね備えることができるので、この場合には特に、基板1や素子2を静電気や外力などから保護する絶縁膜としても機能することも期待できる。
【0070】
(素子基板の製造方法)
次に、本発明に係る素子基板の製造方法の一例として、図1に示す構成の素子基板において基板1上に相分離構造を有する膜3(第一の膜)を形成する方法について述べる。
相分離構造を有する膜3を作製する装置としては、例えばスピンコート法やディップコート法、インクジェット法などの塗布法にて成膜する装置であれば、何れの装置であっても構わない。
以下では、相分離構造を有する膜3を作製する装置として図13から図15に示す液状材料を塗布する装置を用い、相分離構造を有する膜3を、ガラス部材(#7059、コーティングワークス社製、屈折率1.53)からなる透明基板8の上に製造する方法について詳細に説明する。
【0071】
図13において、ステージ101上に基板8は真空吸着された状態とした。液状材料L2は、液体保管部107から供給管106を通してディスペンサヘッド104に供給される。液状材料L2は、さらに、ディスペンサヘッド104に設けられた複数のノズル105から、基板8上に非常に多くのドット103として塗布される。
【0072】
図14は、ディスペンサヘッド104から液体材料L2が放出される吐出口をなすノズル105の詳細断面図である。
図7に示したディスペンサヘッド104は、材料吐出方式プリンタのヘッドと同様な構造であり、ピエゾ素子の振動で液状材料L2を吐出できるようになっている。液状材料L2は、入り口部111から供給口112を介してキャビティ部113に溜まる。振動板115に密着しているピエゾ素子114の伸縮により該振動板115が動き、キャビティ113の体積が減少または増加する。液状材料L2は、キャビティ113の体積が減少するときノズル口116から吐出され、キャビティ113の体積が増加するとき、液状材料L2は、供給口112からキャビティ113に供給される。
【0073】
ノズル口116は、例えば、図15に示すように2次元的に複数個配列されているので、図15に示したように、基板8又はディスペンサ104が相対的に移動することによって、基板上の所望の位置に液状材料がドット状に塗布される。
図15に示すように、例えば、ノズル口116の配列ピッチは、横方向ピッチP1が数100μm、縦方向ピッチP2が数mmとしたディスペンサ104が好適に用いられる。ノズル口116の口径は数10μm〜数100μmである。一回の吐出量は数10〜数100ngで、吐出される液状材料の液滴の大きさは、直径数10〜数100μmである。
【0074】
ドット状に塗布される液状材料L2は、ノズル105から吐出された直後は数100μmの略円形であり、塗布膜の膜厚は、ノズル口116の口径及びドット103のピッチによって制御できる。
なお、ノズル口116の口径は更に小さくすることができるので、例えば10〜20μm幅の線状のパターンに塗布することも可能であり、フォトリソグラフィー工程が不要な直接描画も可能となる。
【0075】
上述した液状材料L2の塗布法は、材料吐出式いわゆるインクジェット式と呼ばれる液体塗布法である。この塗布法は、従来の真空プロセスを利用するCVD装置等の成膜装置を用いた膜の製造法と比較して、装置構成が著しく簡易であり、装置価格も格段に安価となる。液状材料L2の塗布法で使用する装置は大気圧雰囲気にて膜を製造できるので、減圧雰囲気で成膜が行われるCVD装置等の成膜装置に比較してスループットが高く、メンテナンスが簡単なことから、装置の可動率を向上させることができる。
【0076】
なお、上記では、本発明に係る相分離構造を有する膜3の作製法として、インクジェット法を用いた場合を説明した。しかしながら、相分離構造を有する膜3の製造方法は塗布法であればインクジェット法に限定されるものではなく、例えばスピンコート法などの汎用法を用いても構わない。ただし、従来のスピンコート法では液状材料L2の使用効率は数%以下であるのに対し、上述したインクジェット法では50%以上とすることができる。
【0077】
なお、上記の材料吐出方式は、相分離構造を有する層3が形成できる他に、有機EL素子を構成する陽極や陰極として用いられるITO膜からなる透明電極の形成や、さらには有機EL素子を構成する発光層の形成にも適用できるので、有機EL装置などの電子装置のコスト低減に非常に大きな効果をもたらす。
【0078】
(光学装置およびその製造方法)
本発明に係る光学装置としては、図8〜図11に示すものが挙げられる。
図8と図9に示した光学装置は、基板1、基板1の上方に載置された光学素子7と、光学素子7に対して光の取り出し方向とは反対側に相分離構造を有する反射膜8と、を具備してなる。図9は、反射膜8が基板1と光学素子7との間に配される場合であり、図9は反射膜8が基板1と光学素子7の上方に配される場合である。
【0079】
図10の光学装置は、基板1と、基板1の上方に配置された複数のスイッチング素子を含む電子素子層2’と、電子素子層2’の上方に配置された相分離構造を有する反射膜8と、反射膜8の上方に配置された光学素子層7’と、を具備してなる。
図11の光学装置は、基板1と、基板1の上方に配置された複数のスイッチング素子を含む電子素子層2’と、電子素子層2’の上方に配置された光学素子層7’と、光学素子層7’の上方に配置された相分離構造を有する反射膜8と、を具備してなる。
【0080】
以下では、光学装置の具体的な事例として、光学素子7として有機EL素子を設けた光学装置の場合を図16に基づき詳細に説明する。
図16は、電子装置における表示領域の断面構造を拡大した概略図であり、この図面には3つの画素領域Aが図示されている。この電子装置20は、基体21上に、TFTなどの回路や2つの層間絶縁膜144a、144bなどが設けられた回路素子部14と、画素電極111、機能層110および陰極12などが設けられた発光素子部11と、封止樹脂131および封止基板132が設けられた封止部13とが順次積層された構成からなる。
図16の電子装置20では、基体20が図1の基板1に相当し、本発明に係る相分離構造を有する層は第二層間絶縁膜144bとして用いられる。
【0081】
この電子装置20では、機能層110から陰極12側に発した光が、封止部13を透過して封止部13の上方(観測者側)に出射されると共に、機能層110から基体2側に発した光が第二層間絶縁膜144bにより反射されて、封止部13を透過して封止部13の上方(観測者側)に出射されるようになっている。
本発明の電子装置20においては、第二層間絶縁膜144bが相分離構造を有する層からなるので、第二層間絶縁膜144bは絶縁機能に加えて反射機能も備えることができる。
【0082】
これによって、発光素子部11を構成する画素電極111と陰極12の両方に、同じ材質の透明な導電材料を用いることが可能となるので、画素電極111と陰極12に挟まれた機能層110は上下層の界面において同程度の内部応力を受けることになる。換言すれば、機能層110は上下層から受ける内部応力がほぼ等しくなるので、機能層110の中に生じる歪みを最小限に抑えることを意味する。この歪みの抑制は、機能層110から発せられる光の強度を、長期にわたって安定にする作用をもたらす。
【0083】
第二層間絶縁膜144bをなす相分離構造を有する層としては、図1から図4を構成する相分離構造を有する層3において説明した各種材料が利用できる。したがって、相分離構造を有する層からなる第二層間絶縁膜144bの製造方法としては、この各種材料から選択された第1の物質と第2の物質とを含む液状材料L2を用い、インクジェット法で形成する製造法が好ましい。
【0084】
なお、上述したように、144bとしては、R(赤),G(緑),B(青)に対応して相分離構造の膜を変える場合はインクジェット法が好適であるが、R,G,Bに対して共通の相分離構造の膜を設ける場合は、その作製法はインクジェット法に限定されるものではない。例えば、白色の相分離構造の膜であれば、全ての色を反射することが可能であり、このような場合は特にインクジェット法を用いる必要はない。
【0085】
ここで、第1の物質と第2の物質とを含む液状材料L2とは、第1の物質をなすブロックコポリマーに、このブロックコポリマーを構成する各ブロック鎖(ポリマー鎖とも呼ぶ)の一方と相溶性のあるホモポリマーを第2の物質として混合して生成された液体材料L1を、ブロックコポリマーの系の「秩序−無秩序転移温度(TODT )以上の温度に加熱して溶融するか、または第一の物質と第二の物質の共通溶媒に溶解することにより、完全に混合した無秩序混合状態をなす液体材料L2を指す。
【0086】
本発明に係る素子基板の製造方法は、一方の面に素子を載置するために使われる基板を用い、この基板において少なくとも素子を覆う位置に、互いに非相溶性である第1の物質と第2の物質とから構成される相分離構造を有する膜を形成する塗布工程を具備したことを特徴としている。
前述した液体材料L2を用い、互いに非相溶性である第1の物質と第2の物質とから構成される相分離構造を有する膜を、基板において少なくとも素子を覆う位置に形成する塗布工程を具備してさえいれば、この膜が形成される位置が基板のいかなる箇所であっても、所望の絶縁機能と反射機能とを兼ね備えた反射膜を、適宜、所望の位置に最適な領域を覆うように形成できる。
【0087】
また、この素子基板の製造方法は、塗布工程により所望の膜を形成できるので、従来の真空プロセスを必要とした作製法とは異なり、大気中において膜の形成が可能であり、高価な真空プロセス対応の設備を不要とするので、膜作製コストの大幅な低減を図れる。
特に、この塗布工程において、インクジェット法で前述した第1の物質と第2の物質とを塗り分けて、上記の絶縁機能と反射機能とを兼ね備えた反射膜をなす膜を形成する方法を採用すれば、次に述べる理由から大幅な製造コストの低減が期待できる。
【0088】
第一の理由としては、液体材料L2を用いた材料吐出法(インクジェット法)であれば、従来の真空プロセスが必須である高価なCVD装置などの成膜装置を用いる必要がないので、製造装置や製造工程の簡素化が図れると共に、製造ラインを安価にできる点が挙げられる。
【0089】
第二の理由としては、従来の塗布法であるスピンコート法においても液体材料L2を用いれば、本発明に係る互いに非相溶性である第1の物質と第2の物質とから構成される相分離構造を有する膜を形成することはできるが、このスピンコート法では液体材料L2の使用効率は数%以下に留まるのに対して、本発明に係るインクジェット法によればこの使用効率を50%以上とすることができる点が挙げられる。
【0090】
第三の理由としては、この相分離構造を有する膜の製造工程の前後に、透明な電極材料としてITO膜が形成される工程がある場合には、このITO膜の成膜にもインクジェット法が利用できることから、大気中における連続した製造工程を採用可能となり、これはさらなる製造コストの削減をもたらすので好ましい点が挙げられる。
【0091】
また、上記の塗布工程は、インクジェット法で前述した第1の物質と第2の物質とを塗り分けて、上記の絶縁機能と反射機能とを兼ね備えた反射膜をなす膜を形成することを特徴としているので、例えば基板に到達した一方の物質からなる微小領域の隣には他の物質からなる微小領域が配置されるように、ノズル孔を通して第1の物質と第2の物質とを各々吐出したり、あるいはノズル孔を備えたインクジェットヘッドの位置を制御することによって、得られた膜が第1の物質と第2の物質とを塗り分けて構成されるように形成することができる。その際、間欠的に塗り分けて膜を形成する塗布工程を用いると、第1の物質と第2の物質の吐出量を高精度に制御できるので、膜厚の均一化も図れるので望ましい。
【0092】
さらに、インクジェット法で前述した第1の物質と第2の物質とを塗り分けて、上記の絶縁機能と反射機能とを兼ね備えた反射膜をなす膜を形成できれば、互いに非相溶性である第1の物質と第2の物質とから構成される相分離構造を有する膜を、基板上の所望の位置に容易に形成できるので好ましい。
【0093】
上述した素子基板の製造方法は、前記塗布工程の後に、溶媒を除去するための乾燥工程を具備したことを特徴としている。
この溶媒を除去するための乾燥工程は、前述した塗布工程で形成した膜から溶媒を蒸発させて取り除くことによって、膜に規則正しい秩序構造を形成させ、例えば格子間隔が100nm以上である各ポリマー相(ブロック鎖相とも呼ぶ)からなるミクロ相分離構造の膜を形成することに寄与する。この乾燥工程は、減圧雰囲気で行うことによって、上記した膜からの溶媒除去の効率をさらに上げることもできる。
【0094】
また、本発明に係る素子基板の製造方法は、前述した塗布工程又は乾燥工程の後に、熱処理する冷却工程を具備したことを特徴としている。
この冷却工程は、上記の塗布工程で形成された膜に対し、第一の物質と第二の物質からなる液体材料L のTODT より低い温度に熱処理する冷却工程を意味する。この冷却工程は、膜に規則正しい秩序構造を形成させ、例えば格子間隔が100nm以上である各ポリマー相(ブロック鎖相とも呼ぶ)からなるミクロ相分離構造の膜を形成できる。特に、乾燥工程により予め溶媒除去が行われた膜に対してこの冷却工程を行うことにより、この作用・効果をさらに高めることが可能となる。
【0095】
画素電極111および陰極12としては、透明な導電材料を用いることにより発光する光を通過させることができる。この透明な導電材料としては、ITO、Pt、Ir、Ni、もしくはPdが挙げられるが、中でも第二層間絶縁膜144bと同じ製造法であるインクジェット法を用いて形成可能なITOが望ましい。
【0096】
回路素子部14には、基体2上にシリコン酸化膜からなる下地保護膜21cが形成され、この下地保護膜21c上に多結晶シリコンからなる島状の半導体膜141が形成されている。尚、半導体膜141には、ソース領域141a及びドレイン領域141bが高濃度Pイオン打ち込みにより形成されている。なお、Pが導入されなかった部分がチャネル領域141cとなっている。
【0097】
更に回路素子部14には、下地保護膜21c及び半導体膜141を覆う透明なゲート絶縁膜142が形成され、ゲート絶縁膜142上にはAl、Mo、Ta、Ti、W等からなるゲート電極143(走査線101)が形成され、ゲート電極143及びゲート絶縁膜142上には透明な第1層間絶縁膜144aと第2層間絶縁膜144bが形成されている。ゲート電極143は半導体膜141のチャネル領域141cに対応する位置に設けられている。
【0098】
また、第1層間絶縁膜144aと第2層間絶縁膜144bを貫通して、半導体膜141のソース領域141aとドレイン領域141bにそれぞれ接続されるコンタクトホール145,146が形成されている。
そして、第2層間絶縁膜144b上には、ITO等からなる透明な画素電極111が所定の形状にパターニングされて形成され、一方のコンタクトホール145がこの画素電極111に接続されている。
【0099】
また、もう一方のコンタクトホール146が電源線103に接続されている。
このようにして、回路素子部14には、各画素電極111に接続された駆動用の薄膜トランジスタ123が形成されている。
なお、回路素子部14には、保持容量cap及びスイッチング用の薄膜トランジスタも形成されているが、図16ではこれらの図示を省略している。
【0100】
発光素子部11は、図9に示すように、複数の画素電極111の各々に積層された機能層110と、各画素電極111及び機能層110の間に設けられて各機能層110を区画するバンク部112と、機能層110上に形成された陰極12とを主体として構成されている。そして、これらの画素電極111、機能層110及び陰極12によって発光素子が構成される。
ここで、画素電極111は、例えばITOにより形成されてなり、平面視略矩形にパターニングされて形成されている。
【0101】
バンク部112は、図16に示すように、基体2側に位置する無機物バンク層112a(第1バンク層とも呼ぶ)と基体2から離れて位置する有機物バンク層112b(第2バンク層とも呼ぶ)とが積層されて構成される。
【0102】
無機物バンク層、有機物バンク層(112a、112b)は、画素電極111の周縁部上に乗上げるように形成されている。平面的には、画素電極111の周囲と無機物バンク層112aとが平面的に重なるように配置された構造となっている。また、有機物バンク層112bも同様であり、画素電極111の一部と平面的に重なるように配置されている。また無機物バンク層112aは、有機物バンク層112bよりも画素電極111の中央側に更に形成されている。このようにして、無機物バンク層112aの各第1積層部112eが画素電極111の内側に形成されることにより、画素電極111の形成位置に対応する下部開口部112cが設けられている。
【0103】
また、有機物バンク層112bには、上部開口部112dが形成されている。この上部開口部112dは、画素電極111の形成位置及び下部開口部112cに対応するように設けられている。上部開口部112dは、図3に示すように、下部開口部112cより広く、画素電極111より狭く形成されている。また、上部開口部112dの上部の位置と、画素電極111の端部とがほぼ同じ位置になるように形成される場合もある。この場合は、図3に示すように、有機物バンク層112bの上部開口部112dの断面が傾斜する形状となる。
そしてバンク部112には、下部開口部112c及び上部開口部112dが連通することにより、無機物バンク層112a及び有機物バンク層112bを貫通する開口部112gが形成されている。
【0104】
無機物バンク層112aとしては、例えば、SiO2、TiO2 等の無機材料が好適に用いられる。
この無機物バンク層112aの膜厚は、50〜200nmの範囲が好ましく、特に150nmがよい。膜厚が50nm未満では、無機物バンク層112aが後述する正孔注入/輸送層110aより薄くなり、正孔注入/輸送層110aの平坦性を確保できなくなるので好ましくない。また膜厚が200nmを越えると、下部開口部112cによる段差が大きくなって、正孔注入/輸送層110a上に積層する後述の発光層110bの平坦性を確保できなくなるので好ましくない。
【0105】
有機物バンク層112bとしては、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性と耐溶媒性のある材料が好適に用いられる。
この有機物バンク層112bの厚さは、0.1〜3.5μmの範囲が好ましく、特に2μm程度がよい。厚さが0.1μm未満では、後述する正孔注入/輸送層及び発光層の合計厚より有機物バンク層112bが薄くなり、発光層が上部開口部112dから溢れるおそれがあるので好ましくない。また、厚さが3.5μmを越えると、上部開口部112dによる段差が大きくなり、有機物バンク層112b上に形成する陰極12のステップガバレッジを確保できなくなるので好ましくない。また、有機物バンク層112bの厚さを2μm以上にすれば、駆動用の薄膜トランジスタ123との絶縁を高めることができる点でより好ましい。
【0106】
機能層110は、画素電極111上に積層された正孔注入/輸送層110aと、正孔注入/輸送層110a上に隣接して形成された発光層110bとから構成されている。なお、必要に応じて、発光層110bに隣接して電子注入輸送層などの機能を有する他の機能層を更に形成しても構わない。
正孔注入/輸送層110aは、正孔を発光層110bに注入する機能を有するとともに、正孔を正孔注入/輸送層110a内部において輸送する機能を有する。このような正孔注入/輸送層110aを画素電極111と発光層110bの間に設けることにより、発光層110bの発光効率、寿命等の素子特性が向上する。また、発光層110bでは、正孔注入/輸送層110aから注入された正孔と、陰極12から注入される電子が発光層110bで再結合し、発光が生じる。
【0107】
発光層110bは、赤色(R)に発光する赤色発光層110b1、緑色(G)に発光する緑色発光層110b2、及び青色(B)に発光する青色発光層110b3、の3種類を有し、各発光層110b1〜110b3がストライプ配置されている。
【0108】
陰極12は、発光素子部11の全面に形成されており、対向して設けられた画素電極111と対をなして機能層110に電流を流す役割を担う。この陰極12としては、画素電極と同様な、透明な導電材料が使用できる。例えば、陰極12を構成する材料としては、ITO、Pt、Ir、Ni、Mg、AgもしくはPdが挙げられる。中でもインクジェット法を用いて形成可能なITOが望ましい。
さらに、陰極12上には、封止樹脂131と封止基板132からなる封止部13が設けられる。封止部13は表示素子部10の酸化防止あるいは外力による破壊の防御などを目的として、陰極12の全面に形成される。
【0109】
本発明に係る電子装置20は、上述した構成物からなっている。
上述した電子装置20では、図1の場合として、図16の第二層間絶縁膜144bに本発明に係る相分離構造を有する膜を適用した例、すなわち、本発明に係る相分離構造を有する膜が基体21の全面を覆うように、かつ、複数の発光素子の下部に位置するように配置された例、について詳細に説明した。
【0110】
これに対して、図2に示すように、素子が載置された領域に対応する部分のみに、本発明に係る相分離構造を有する膜を設けても同様の作用が得られることは言うまでもない。すなわち、図16に置き換えて説明すれと、例えば、第二層間絶縁膜144bが画素電極111と接する部分にのみ、本発明に係る相分離構造を有する膜を設けても構わない。
【0111】
また、本発明に係る相分離構造を有する膜を、図16における基体21の外側(図面では下側)に設けることによって、その反射機能を利用してもよい。この配置は、図3に示した構成に相当する。
さらには、電子装置20の機能層110から発した光の進行方向が、上述した方向とは逆方向である場合にも、本発明に係る相分離構造を有する膜を設けることができる。
【0112】
すなわち、電子装置20において、機能層110から基体21側に発した光が、回路素子部14および基体21を透過して基体21の下方(観測者側)に出射されると共に、機能層110から基体2の反対側に発した光が陰極12を通過して封止部13により反射されて、回路素子部14および基体21を透過して基体21の下方(観測者側)に出射される場合である。
【0113】
機能層110から発した光の進行方向が、このように基体21の下方(観測者側)に出射される場合には、例えば、封止部13を構成する封止樹脂131に代えて、本発明に係る相分離構造を有する膜を設けることが可能である。また、封止樹脂131からなる封止層に加えて相分離構造を有する膜を設けてもよい。この配置は、図4に示した構成に相当する。
【0114】
(電子機器)
本発明に係る電子機器は、上述した電子装置または上述した光学装置を備えたことを特徴としている。以下では、この構成からなる電子機器の具体例について、図18から図20の各図面を参照して説明する。
図18は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図18において、1000は携帯電話本体を示し、1001は上記の電子装置を用いた表示部を示している。
【0115】
図19は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図19において、1100は時計本体を示し、1101は上記の電子装置を用いた表示部を示している。
図20は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図20において、1200は情報処理装置、1202はキーボードなどの入力部、1204は情報処理装置本体、1206は上記の電子装置を用いた表示部を示している。
【0116】
図18から図20に示す電子機器は、上記実施形態の電子装置を備えているので、表示部における輝度が長期にわたって安定であることから、長期信頼性の高い電子機器の提供が可能となる。また、これらの電子機器が、上述した素子基板を用いた電子装置を搭載することにより、電子機器はその製造コストを下げることが可能となる。
【0117】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能であり、実施形態で挙げた具体的な材料や層構成などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
〔発明の効果〕
【0118】
以上説明したように、本発明に係る素子基板は、従来の膜形成法では必須であった真空プロセスを必要としない塗布法で容易に形成できる相分離構造を有する膜を備え、この膜が反射層として機能し得るので、従来より製造コストを抑えた素子基板の提供が可能となる。
【0119】
また、相分離構造を有する膜をなす物質を適宜選択すれば、この膜は反射機能に加えて絶縁機能も併せ持つことができるので、この膜は最も単純な単層という膜構成でも、基板上において絶縁膜と反射膜の2つ役割を兼務できる。ゆえに、素子構成の単純化が図れ、長期信頼性の高い素子基板の提供ができる。
【0120】
本発明に係る素子基板の製造方法であれば、この相分離構造を有する膜を形成するために、従来の高価な真空プロセスを用いた成膜装置を必要せず、大気中にて容易に作製でき塗布法が採用できるので、素子基板を安価に作製できる。特に、塗布法の中でもインクジェット法を利用することにより、この膜の形成に使われる材料の使用効率をさらに向上できる。
【0121】
本発明に係る電子装置であれば、上記効果を備えた相分離構造を有する膜が含まれてなる素子基板と、光学素子とを備えているので、安価で長期信頼性の優れた電子装置が提供できる。
【0122】
本発明に係る光学装置であれば、上記効果を備えた相分離構造を有する膜が反射膜として含まれているので、安価で長期信頼性の優れた光学装置が提供できる。例えば、相分離構造を有する膜を反射膜あるいは絶縁膜として設けた有機EL素子であれば、内部歪みの発生が抑制されたこと、あるいは外部からの静電破壊に対する耐性が改善したことにより、素子の電気的、光学的あるいは機械的な不具合の発生が解消されるので、従来より高い長期信頼性を備えることが可能となる。
【0123】
本発明に係る電子装置や光学装置の製造方法は、少なくとも非相溶性の複数の物質を含む混合物を塗布することにより相分離構造を有する膜を形成する膜製造工程を備えているので、この膜製造工程では反射膜として機能する相分離構造を有する膜が高価な真空プロセスを用いることなく安価な塗布法で製造できるので、電子装置や光学装置の製造コストが抑制できる。したがって、本発明の電子装置や光学装置の製造方法は、従来より安価な電子装置や光学装置の提供に寄与する。
【0124】
本発明に係る電子機器は、上記の電子装置または光学装置を備えたことにより、長期信頼性の向上した電子装置を使用しているので、電子機器自体の長寿命化が図れる。また、安価な電子装置を搭載し得るので、電子機器の低コスト化も促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の実施形態に係る素子基板の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る素子基板の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る素子基板の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る素子基板の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る素子基板の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る素子基板の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る素子基板の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る電子装置の一例を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る光学装置の一例を示す模式的な断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る光学装置の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る光学装置の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図12】本発明の実施形態に係る光学装置の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図13】本発明の実施形態に係る相分離構造を有する膜の概略を示す拡大斜視図である。
【図14】本発明の実施形態に係る相分離構造を有する膜を形成する液体塗布装置を示す構成図である。
【図15】図14に示す液体塗布装置の部分拡大図である。
【図16】図14に示す液体塗布装置の他の部分拡大図である。
【図17】本発明の実施形態に係る光学装置における表示領域の断面構造を拡大した概略図である。
【図18】本実施形態の電子装置または光学装置を備えた電子機器の一例を示す斜視図である。
【図19】本実施形態の電子装置または光学装置を備えた電子機器の他の一例を示す斜視図である。
【図20】本実施形態の電子装置または光学装置を備えた電子機器の他の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0126】
M1、M2 物質相
L1、L2 液体材料
1、8 基板
2 電子素子
2’ 電子素子層
3 相分離構造を有する膜
4,5 他の膜あるいは構造体
6 絶縁膜
7 光学素子
7’ 光学素子層
8 反射膜
10 表示素子部
11 発光素子部
12 陰極
13 封止部
14 回路素子部
20 電子装置
21 基体
104 ディスペンサヘッド
105 ノズル
144a、144b 層間絶縁膜
1000 携帯電話本体
1001、1101、1206 電子装置を用いた表示部
1100 時計本体
1200 情報処理装置
1202 入力部
1204 情報処理装置本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに非相溶性の複数の物質を含む混合物を液状体吐出法により基体に吐出し、相分離構造を有する膜を形成すること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の膜製造方法において、
前記混合物として、前記複数の物質の種類または量比が異なるように調整された複数の混合物を用いること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の膜製造方法において、
前記相分離構造をミクロ相分離構造であること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の膜製造方法において、
前記液状体吐出法はインクジェット法であること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の膜製造方法において、
前記混合物は、ブロックコポリマーを含むこと、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の膜製造方法において、
前記膜は反射機能を備えていること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の膜製造方法において、
前記相分離構造の格子間隔は100nm以上であること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項8】
互いに非相溶性の物質を含む第1の混合物を液状体吐出法により基体に向けて吐出することにより第1の膜を形成し、
互いに非相溶性の物質を含む第2の混合物を前記液状体吐出法により基体に向けて吐出することにより第2の膜を形成すること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の膜製造方法において、
前記第1の膜の反射特性と前記第2の膜の反射特性とは異なること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の膜製造方法において、
前記第1の混合物に含まれる前記複数の物質の量比と前記第2の混合物に含まれる前記複数の物質の量比とは、異なっていること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項11】
請求項8乃至11のいずれかに記載の膜製造方法において、
前記第1の膜及び前記第2の膜はそれぞれ異なる所定の位置に配置されること、
を特徴とする膜製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の膜製造方法を用いた素子基板の製造方法。
【請求項13】
基板上にスイッチング素子を形成する第1の工程と、
前記スイッチング素子の上方に第1の絶縁膜を形成する第2の工程であって、前記スイッチング素子を覆うように第2の絶縁膜を形成した後に前記第1の絶縁膜を形成する工程と、
前記第1の絶縁膜の上方に第1の電極を形成する第3の工程と、を含み、
前記第2の絶縁膜の形成は、互いに非相溶性の複数の物質を含む混合物を塗布することにより行い、
前記混合物は、ブロックコポリマーを含むこと、
を特徴とする素子基板の製造方法。
【請求項14】
前記混合物として、前記複数の物質の種類または量比が異なるように調製された複数の混合物を用い、前記複数の混合物の各々を液状体吐出法により所定の位置に配置することを特徴とする請求項13に記載の素子基板の製造方法。
【請求項15】
前記第2の工程の後に、前記混合物に含まれる溶媒を除去するための乾燥工程及び熱処理する工程のうち少なくとも1つを具備したことを特徴とする請求項13又は14に記載の素子基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−82077(P2006−82077A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258857(P2005−258857)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【分割の表示】特願2002−242476(P2002−242476)の分割
【原出願日】平成14年8月22日(2002.8.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】