説明

膠原病の予防・治療剤

【課題】本発明は、TREM−1の機能を阻害して膠原病予防・治療効果を発揮する膠原病の予防剤・治療剤を提供することを目的とする。また、本発明は、TREM−1の機能を阻害することにより膠原病を予防・治療するための、膠原病の予防・治療剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】TREM−1阻害物質を含有してなる膠原病の予防・治療剤を用いる。TREM−1阻害物質としては、可溶性TREM−1や、可溶性TREM−1発現ベクター等を好適に例示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膠原病の予防・治療剤及びそのスクリーニング法などに関する。
【背景技術】
【0002】
膠原病は、関節リウマチ(Rheumatoid ahthritis; RA) 、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(SSc)、皮膚筋炎(DM)、多発性筋炎(PM)、リウマチ熱(RF)、結節性多発性動脈炎(PN)、混合性結合組織病(mixed connective tissue disease; MCTD)等の一連の疾患群の総称である。膠原病は、自己免疫疾患であり、体内の血液中の自己抗体が、自己の細胞の核などと反応して免疫複合体を作り、組織に沈着したり、全身の関節・血管・内臓などを攻撃することによって生じるものと考えられている。
【0003】
膠原病の1種である関節リウマチは、軟骨の変性や骨のびらんを伴い、最終的には関節機能を喪失させる。関節リウマチは、自己抗体を産生するリンパ球を含む大量の炎症細胞が関節に浸潤し、骨膜が過形成されることによって生じるとされている。より詳細に述べれば、関節リウマチは、ある未知の自己抗原を認識するT細胞が滑膜組織において炎症の開始を引き起こし、続いてマクロファージ及びリンパ球が滑膜組織に局所的に集合して、その炎症部位においてさらに活性化されることによって生じるとされている(非特許文献1)。特にマクロファージは、炎症性サイトカイン、プロスタグランジン、酸化窒素等の様々な炎症分子を産生するため、関節リウマチの進行に大きく寄与する。これらの炎症分子の産生は、サイトカインレセプターや補体レセプターやITAM(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif)関連レセプター等の細胞表面分子の、それぞれのリガンド関与を通した活性化によって制御されている。免疫システムの制御に関連する前述のレセプター等の一部のレセプターは、膜アンカー型アダプター分子と非共有結合により会合している。多くの場合、これらのレセプターは、それらのアダプター分子なくしては細胞表面上での安定的な発現は不可能であり、また、それらのアダプター分子を介して細胞内へのシグナル伝達を行っている。
【0004】
TREM−1(Triggering receptor expressed on myeloid cells-1)は、ITAMを有するアダプター分子であるDAP12(DNAX activation protein 12)の活性化と関連した骨髄細胞上の膜貫通レセプターとして同定された(非特許文献2、3)。TREM−1は、主に単球/マクロファージや好中球で発現し、TLRリガンド(LPS、LTA等)や炎症性サイトカイン(TNFα、IL−1β等)などの様々な刺激によって誘導される(非特許文献2〜4)が、その天然リガンドは未だ同定されていない。TREM−1の詳細な機能は未だ明らかではないが、TREM−1に対して作動性(agonistic)のモノクローナル抗体で好中球や単球を処理すると、好中球や単球において、様々な炎症性サイトカインの産生や細胞表面分子の発現が引き起こされることが知られている(非特許文献2)。また、TREM−1の機能を阻害する物質として、可溶性のTREM−1(sTREM−1)が知られている(非特許文献5)。このsTREM−1は、膜結合TREM−1をタンパク質分解して切断して得られる可溶性のポリペプチドであり、TREM−1自体と競合することによってTREM−1の機能を阻害する性質を有する。
【0005】
TREM−1の作用が関与する疾患として、細菌感染が知られている。細菌感染の病態生理にTREM−1が重要な役割を果たしていることは、いくつかの実験で明らかにされている。例えば、TREM−1と競合する「sTREM−1−Fc組換え融合タンパク質」や「sTREM−1合成ペプチド」を敗血性ショックモデルマウスに投与した結果、致死的な量のLPS投与や敗血性の細菌感染からマウスが保護されることが確認された(非特許文献6、7)。また、炎症性大腸炎は腸における細菌性の損傷がその発症機序に重要な役割を果たしていることが知られる疾患であるところ、実験的炎症性大腸炎モデルマウスにTREM−1アンタゴニストペプチドを投与してTREM−1からのシグナル伝達を遮断した結果、実験的炎症性大腸炎が軽減されることが確認された(非特許文献8)。このように、TREM−1は、疾患に関連した細菌感染において重要な役割を果たしていることは知られている。
しかし、細菌感染以外の病態や疾患(特に膠原病)と、TREM−1との関連の有無等については何ら知られていなかった。
【0006】
【非特許文献1】Bresnihan, B. 1999. Pathogenesis of joint damage in rheumatoid arthritis. J. Rheumatol. 26:717-719
【非特許文献2】Bouchon, A., Dietrich, J., and Colonna, M. 2000. Cutting edge: inflammatory responses can be triggered by TREM-1, a novel receptor expressed on neutrophils and monocytes. J Immunol. 164:4991-4995
【非特許文献3】Klesney-Tait, J., Turnbull, IR., and Colonna, M. 2006. The TREM receptor family and signal integration. Nat Immunol. 7:1266-1273
【非特許文献4】Murakami, Y., Akahoshi, T., Hayashi, I., Endo, H., Kawai, S., Inoue, M., Kondo, H., and Kitasato, H. 2006. Induction of triggering receptor expressed on myeloid cells 1 in murine resident peritoneal macrophages by monosodium urate monohydrate crystals. Arthritis Rheum. 54:455-462
【非特許文献5】Gomez-Pina, V., et al. 2007. Metalloproteinases shed TREM-1 ectodomain from lipopolysaccharide-stimulated human monocytes. J Immunol. 179:4065-4073
【非特許文献6】Bouchon, A., Facchetti, F., Weigand, M,A., and Colonna M. 2001. TREM-1 amplifies inflammation and is a crucial mediator of septic shock. Nature. 410:1103-1107
【非特許文献7】Gibot, S., Kolopp-Sarda, MN., Bene, MC., Bollaert, PE., Lozniewski, A., Mory, F., Levy, B., and Faure, G,C. 2004. A soluble form of the triggering receptor expressed on myeloid cells-1 modulates the inflammatory response in murine sepsis. J Exp Med. 200:1419-1426
【非特許文献8】Schenk, M., Bouchon, A., Seibold, F., and Mueller C. 2007. TREM-1--expressing intestinal macrophages crucially amplify chronic inflammation in experimental colitis and inflammatory bowel diseases. J Clin Invest. 117:3097-3106
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、TREM−1の機能を阻害して膠原病予防・治療効果を発揮する膠原病の予防剤・治療剤を提供することを目的とする。また、本発明は、TREM−1の機能を阻害することにより膠原病を予防・治療するための、膠原病の予防・治療剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、adenovirus-sTREM-1-Ig遺伝子を導入してTREM−1の機能を阻害することによって、コラーゲン誘導性関節炎(CIA)の進行や発症がT細胞やB細胞の免疫反応を損なうことなく有意に抑制されることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、(1)TREM−1阻害物質を含有してなる膠原病の予防・治療剤や、(2)TREM−1阻害物質が、可溶性TREM−1又は可溶性TREM−1発現ベクターである上記(1)に記載の膠原病の予防・治療剤や、(3)可溶性TREM−1が、配列番号1におけるアミノ酸番号1〜194に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号5におけるアミノ酸番号1〜200に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号3若しくは7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号3若しくは7に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである上記(2)に記載の膠原病の予防・治療剤や、(4)可溶性TREM−1が、配列番号1におけるアミノ酸番号1〜194に示されるアミノ酸配列、配列番号5におけるアミノ酸番号1〜200に示されるアミノ酸配列、及び、配列番号3又は7に示されるアミノ酸配列から選ばれるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチドである上記(2)に記載の膠原病の予防・治療剤や、(5)TREM−1阻害物質が、イムノグロブリン結合−可溶性TREM−1(sTREM−1−Ig)である上記(1)に記載の膠原病の予防・治療剤や、(6)イムノグロブリン結合−可溶性TREM−1(sTREM−1−Ig)が、配列番号1又は5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである上記(5)に記載の膠原病の予防・治療剤や、(7)可溶性TREM−1発現ベクターが、配列番号2におけるヌクレオチド番号1〜582に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号6におけるヌクレオチド番号1〜600に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号4又は8に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、及び、配列番号4又は8に示されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドから選ばれるポリヌクレオチドを含む組換えベクターである上記(2)に記載の膠原病の予防・治療剤や、(8)可溶性TREM−1発現ベクターが、配列番号2におけるヌクレオチド番号1〜582に示されるヌクレオチド配列、配列番号6におけるヌクレオチド番号1〜600に示されるヌクレオチド配列、及び、配列番号4又は8に示されるヌクレオチド配列から選ばれるヌクレオチド配列に相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターである上記(2)に記載の膠原病の予防・治療剤や、(9)可溶性TREM−1発現ベクターが、可溶性TREM−1を発現する組換えウイルスベクターである上記(7)又は(8)に記載の膠原病の予防・治療剤や、(10)膠原病が、関節リウマチである上記(1)〜(9)のいずれかに記載の膠原病の予防・治療剤に関する。
【0010】
また本発明は、(11)TREM−1阻害物質を探索する工程を備えてなる、膠原病の予防・治療剤のスクリーニング法や、(12)TREM−1阻害物質を探索する工程が、被検物質存在下又は非存在下でTREM−1を含む細胞を培養し、培養上清中のTNFα濃度を測定し、それらのTNFα濃度を比較する工程であることを特徴とする上記(11)に記載の膠原病の予防・治療剤のスクリーニング法に関する。
【発明の効果】
【0011】
TREM−1の機能を阻害することにより、膠原病の予防・治療効果を発揮することが可能であり、従って、TREM−1阻害物質は膠原病の予防・治療等に有効である。また、TREM−1阻害物質を探索することにより、膠原病の予防・治療剤をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の膠原病の予防・治療剤としては、TREM−1阻害物質を含有してなる組成物であれば特に制限されず、ここで「TREM−1阻害物質」とは、TREM−1を介してのシグナル伝達を阻害する活性を有する物質をいい、かかるTREM−1阻害物質としては、可溶性TREM−1や、可溶性TREM−1(sTREM−1)を発現する組換えベクターや、TREM−1アンタゴニストを好適に例示することができる。これらのTREM−1阻害物質によって、TREM−1の機能(TREM−1を介してのシグナル伝達)が阻害され、その結果、TREM−1阻害物質は膠原病の予防・治療剤の有効成分として有利に利用することができる。また、TREM−1の由来は特に制限されないが、動物由来であることが好ましく、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳動物由来であることがより好ましく、中でも、膠原病の予防・治療の対象とする哺乳動物由来であることがさらに好ましい。これらの哺乳動物におけるTREM−1は、マウスTREM−1(Genbank accession No.AK089439)、ヒトTREM−1(Genbank accession No.AF287008)、ウシTREM−1(Genbank accession No.AY525122)、ブタTREM−1(Genbank accession No.AY382476)等の配列情報を利用した遺伝子工学的手法(PCRやサザンハイブリダイゼーション等)により、TREM−1をコードするポリヌクレオチドを入手し、そのポリヌクレオチドを適切な発現系を用いて発現させることにより、様々な由来のTREM−1を得ることができる。
【0013】
上記可溶性TREM−1としては、
(1)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドや、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド(マウスLP17);
(2)配列番号1におけるアミノ酸番号1〜194に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(マウスsTREM−1);
(3)配列番号1におけるアミノ酸番号1〜194に示されるアミノ酸配列又は配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチド(マウスsTREM−1変異体);
(4)配列番号1におけるアミノ酸番号1〜194のうち、アミノ酸番号1〜102及び120〜194に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチド(マウスsTREM−1変異体);
(5)配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドや、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド(ヒトLP17);
(6)配列番号5におけるアミノ酸番号1〜200に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(ヒトsTREM−1);
(7)配列番号5におけるアミノ酸番号1〜200に示されるアミノ酸配列又は配列番号7に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチド(ヒトsTREM−1変異体);
(8)配列番号5におけるアミノ酸番号1〜200のうち、アミノ酸番号1〜102及び120〜200に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチド(ヒトsTREM−1変異体);
を例示することができ、中でも、マウスsTREM−1やヒトsTREM−1を好適に例示することができる。
【0014】
また、安定性を向上させる観点から、これらの可溶性TREM−1のC末端側に、リンカー配列(配列番号1におけるアミノ酸番号195〜199に示されるアミノ酸配列;配列番号5におけるアミノ酸番号201〜205に示されるアミノ酸配列)及びIgG1のFc領域(配列番号1におけるアミノ酸番号200〜430に示されるアミノ酸配列;配列番号5におけるアミノ酸番号206〜436に示されるアミノ酸配列)が付加されているポリペプチドを好ましく例示することができる。したがって、マウスやヒトのイムノグロブリン結合−可溶性TREM−1(sTREM−1−Ig)も膠原病の予防・治療剤として有利に用いることができる。なお、可溶性TREM−1は、TREM−1の天然リガンドをトラップすることにより、TREM−1の機能を阻害すると考えられ、また、マウスLP17ポリペプチド(配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)がマウスTREM−1の機能を阻害することは、非特許文献7に開示されている。
【0015】
上記sTREM−1変異体における「数個」としては、例えば2〜60個、好ましくは2〜40個、より好ましくは2〜30個、さらに好ましくは2〜20個、さらにより好ましくは2〜10個、特に好ましくは2〜5個、最も好ましくは2〜3個を例示することができる。また、sTREM−1変異体のアミノ酸配列としては、配列番号1又は5におけるアミノ酸番号1〜194に示されるアミノ酸配列や、配列番号3又は7に示されるアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列などを例示することができる。
【0016】
上記の可溶性TREM−1は、TREM−1(膜型TREM−1)のC末端の一部を欠失させること等により作製することができる。例えばマウスTREM−1の場合、C末端の36アミノ酸を欠失させることにより可溶性TREM−1(sTREM−1)を作製することができ、また、ヒトTREM−1の場合、C末端の34アミノ酸を欠失させることにより可溶性TREM−1(sTREM−1)を作製することができる。また、上記sTREM−1変異体は、化学合成によって作製することもできるし、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法を適用することにより作製することもできる。具体的には、配列番号2におけるヌクレオチド番号1〜582に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド(マウスsTREM−1をコードするポリヌクレオチド)や、配列番号6におけるヌクレオチド番号1〜600に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド(ヒトsTREM−1をコードするポリヌクレオチド)や、他の生物由来のsTREM−1ポリヌクレオチドに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的な手法等を用いて、これらポリヌクレオチドに変異を導入し、この変異ポリヌクレオチドを適切な発現系を用いて発現させることにより、sTREM−1変異体を得ることができる。
【0017】
上記のTREM−1アンタゴニストは、例えば、後述の本発明の膠原病の予防・治療剤のスクリーニング法等を利用することにより、適当な化合物ライブラリーから入手することができる。また、TREM−1アンタゴニストが血しょう板上に存在することが示唆される報告(Blood. 110:1029-35)もあるため、血しょう板上に発現する物質を候補物質として用いることもできる。
【0018】
上記可溶性TREM−1発現ベクターとしては、いずれかの動物の生体内で、前述の可溶性TREM−1を発現しうるものであれば特に制限されないが、いずれかの哺乳動物の生体内で前述の可溶性TREM−1を発現する組換えベクター、好ましくは組換えウイルスベクターを挙げることができる。これら可溶性TREM−1を発現する組換えベクターとして具体的には、
(1)配列番号4に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドや、該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドがインテグレートされた組換えベクター(マウスLP17ベクター);
(2)配列番号2におけるヌクレオチド番号1〜582に示されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドがインテグレートされた組換えベクター(マウスsTREM−1ベクター);
(3)配列番号4に示されるヌクレオチド配列又は配列番号2におけるヌクレオチド番号1〜582に示されるヌクレオチド配列に相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがインテグレートされた組換えベクター(マウス変異sTREM−1ベクター);
(4)配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドがインテグレートされた組換えベクター(安定型マウスsTREM−1−Igベクター);
(5)配列番号8に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドや、該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドがインテグレートされた組換えベクター(ヒトLP17ベクター);
(6)配列番号6におけるヌクレオチド番号1〜600に示されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドがインテグレートされた組換えベクター(ヒトsTREM−1ベクター);
(7)配列番号8に示されるヌクレオチド配列又は配列番号6におけるヌクレオチド番号1〜600に示されるヌクレオチド配列に相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドがインテグレートされた組換えベクター(ヒト変異sTREM−1ベクター);
(8)配列番号6に示されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドがインテグレートされた組換えベクター(安定型ヒトsTREM−1−Igベクター);
を例示することができ、中でも、マウスsTREM−1ベクター、安定型マウスsTREM−1−Igベクター、ヒトsTREM−1ベクター、安定型ヒトsTREM−1−Igベクターを好適に例示することができる。
【0019】
上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、DNA又はRNAなどのポリヌクレオチドをプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるポリヌクレオチドを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のポリヌクレオチド又はその断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍程度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドをあげることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第3版等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0020】
すなわち、ストリジェントな条件下とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50〜70%以上の相同性を有するポリヌクレオチド(特にDNA)同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いポリヌクレオチド(特にDNA)同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1× SSC、0.1%SDS、又は0.1× SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。例えば、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドとしては、プローブとして使用するポリヌクレオチドの塩基配列と一定以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらにより好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを好適に例示することができる。
【0021】
本発明の組換えベクター、好ましくは組換えウイルスベクターは、前述のsTREM−1をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに適切にインテグレートすることにより構築することができる。発現ベクターとしては、投与対象である動物細胞において自立複製可能であるものや、あるいは前述の動物細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、sTREM−1を発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。発現ベクターとしては、動物細胞用発現ベクター、例えば、非分列細胞を含む全ての細胞(血球系以外)での一過性発現に用いられるアデノウイルスベクター(Science, 252, 431-434, 1991)や、分裂細胞での長期発現に用いられるレトロウイルスベクター(Microbiology and Immunology, 158, 1-23, 1992)や、非病原性、非分裂細胞にも導入可能で、長期発現に用いられるアデノ随伴ウイルスベクター(Curr. Top. Microbiol. Immunol., 158, 97-129, 1992)などのウイルスベクターを挙げることができ、中でもアデノウイルスベクターを好適に例示することができる。本発明に用いることのできる発現ベクターの構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。
【0022】
本発明の膠原病の予防・治療剤は、TREM−1阻害物質のみであってもよいし、摂取促進のための補助剤等の生理学的に認められる担体とともに製剤化したものであってもよい。また、TREM−1阻害物質以外の膠原病の予防・治療剤を併用してもよい。
本発明の膠原病の予防・治療剤の剤型としては、特に制限されないが、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤等の経口剤や、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液または懸濁液等の注射剤を例示することができ、TREM−1阻害物質がTREM−1を発現する物質又は可溶性TREM−1である場合は、注射剤を好適に例示することができる。注射剤の投与形態としては、静脈内投与や皮下投与を好適に例示することができる。
【0023】
本発明の膠原病の予防・治療剤は、例えば、上述の本発明におけるTREM−1阻害物質を、生理学的に許容し得る担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定化剤、結合剤等とともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。錠剤、カプセル剤等に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等の膨化剤、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリン等の甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリー等の香味剤等を用いることができる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂等の液状担体を含有することができる。注射剤は、本発明のポリペプチドを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製することができる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等を用いることができ、さらに、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等を用いることができ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール等)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール等)、酸化防止剤等を配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填することができる。投与量は、TREM−1阻害物質の種類、患者の体重や年齢、投与方法等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0024】
膠原病の予防・治療剤の投与対象としては、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳動物を好適に例示することができる。
【0025】
本発明の膠原病の予防・治療剤の対象となる膠原病としては、膠原病である限り特に制限されないが、関節リウマチ(RA)、痛風、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(SjS)、全身性硬化症(SSc)、多発性筋炎(PM)、皮膚筋炎(DM)、結節性多発性動脈炎(PN)、リウマチ熱(RF)、混合性結合組織病(mixed connective tissue disease; MCTD)、顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangitis; MPA)、Wegener肉芽腫症(Wegener's granulomatosis; WG)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(allergic granulomatous angitis; AGA)、過敏性血管炎、ベーチェット病、コーガン症候群、RS3PEを例示することができ、中でも、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群(SjS)を好適に例示することができる。
【0026】
本発明の膠原病の予防・治療剤のスクリーニング法は、TREM−1阻害物質を探索する工程を備えてなる。TREM−1阻害物質を探索する工程として、例えば、被検物質存在下又は非存在下でTREM−1を含む細胞を培養し、培養上清中のTNFα濃度を測定し、それらのTNFα濃度を比較する工程を例示することができる。被検物質存在下でのTNFα濃度が、被検物質非存在下のTNFα濃度より低い場合は、その被検物質をTREM−1阻害物質と評価することができる。
【0027】
本発明の膠原病の予防・治療方法は、本発明の膠原病の予防・治療剤を動物に投与する工程を備えてなる。動物としては、前述の哺乳動物を好適に例示することができる。また、本発明の膠原病の予防・治療剤以外の膠原病の予防・治療剤を併用してもよい。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
後述の実施例2〜7は、以下の1.〜15.に記載の材料及び方法を用いて行った。
[材料及び方法]
1.試薬
ラット抗マウスTREM−1抗体、マウス抗ヒトTREM−1抗体、フィコエリトリン(PE)標識抗マウスTREM−1抗体、PE標識抗ヒトTREM−1モノクローナル抗体(mAb)、抗マウスIgG抗体、抗ラットIgG抗体、マウスTREM−1デュオセット(Duo set)、及びマウス腫瘍壊死因子α(TNFα)デュオセットは、R & D社(ミネソタ州ミネアポリス)から入手した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗ヒトCD14モノクローナル抗体は、Beckman-Coulter社(カリフォルニア州フラトン)から購入した。アロフィコシアニン(APC)標識抗マウスCD11bモノクローナル抗体は、e-Bioscience社(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。ラビット抗ラットIgG抗体、ストレプトアビジン−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、及びジアミノベンジジン(Envision kit)はダコ・サイトメーション株式会社(Dako Cytomation Co. Ltd.)(京都府)から購入した。ヒトTNFαに用いる特異的酵素免疫測定法(ELISA)用の試薬は、Biosource International社(カリフォルニア州カマリロ)から入手した。LPS及びコラゲナーゼAはSigma社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。HRPで標識したラビット抗マウスIgG1、IgG2a、IgG2bの各抗体は、Zymed社(カリフォルニア州バーリンゲーム)から購入した。
【0030】
2.細胞
ヒト滑膜組織は、信州大学及び国立下志津病院で全身人工関節置換術又は滑膜切除術を受ける関節リウマチ患者から得た。患者は手術前に同意書に署名した。なお、関節リウマチの診断は、米国リウマチ学会の基準に従って行った。
一方、マウスの滑膜組織は、コラーゲン関節炎(CIA)マウスの膝関節から分離した。
ヒトやマウスの滑膜細胞は文献(Arthritis Rheum. 54:2074-2083; J Exp Med. 203:325-335)記載の方法により調製した。すなわち、滑膜組織を切除し、これを無血清DMEM中、1mg/mlのコラゲナーゼAにより37℃で1時間消化した。この滑膜組織消化物を懸濁し、ナイロンメッシュでろ過した。分離して得られた細胞を無血清DMEM中で3回洗浄した。
また、常在型腹腔マクロファージ(RPM)は、非特許文献4に記載の方法により、DBA1/J雄マウス(6〜8週齢)から単離した。
また、ヒトPBMCは、健常人から提供を受けたヘパリン添加末梢血についてフィコールパーク密度勾配遠心分離法を行うことによって単離した。
【0031】
3.滑液中のsTREM−1濃度の測定
滑液(SF)試料は、北里大学の関節リウマチ(RA)及び変形性関節炎(OA)の患者の炎症関節から得た。試料は全て、インフォームド・コンセントを得た上で提供を受けた。滑液中のsTREM−1濃度は、常法である酵素免疫測定法(ELISA)で測定した。
【0032】
4.フローサイトメトリー
ヒト滑膜細胞又はPBMCについては、それをFITC標識抗ヒトCD14モノクローナル抗体及びPE標識抗ヒトTREM−1モノクローナル抗体で二重染色し、ゲーティングしたCD14細胞におけるTREM−1の発現を分析した。
また、マウスの滑膜細胞については、それをAPC標識抗マウスCD11bモノクローナル抗体及びPE標識抗マウスTREM−1モノクローナル抗体で二重染色し、ゲーティングしたCD11b細胞におけるTREM−1の発現を分析した。
全てのフローサイトメトリー実験においてFITC、PE又はAPCで標識した適切なアイソタイプ対照モノクローナル抗体を使用した。データは、FACSCaliburを用いて採取し、CellQuestソフトウエア(BD Biosciences Immunocytometry Systems社、カリフォルニア州サンホセ)を使って分析した。
【0033】
5.定量的リアルタイムPCR
定量的リアルタイムPCRは、非特許文献4記載の方法により行った。すなわち、RNeasy Mini kit(Qiagen社、東京)を用いて細胞溶解物から全RNAを抽出した。このRNAをDNase I(Qiagen社)で処理し、Omniscript reverse transcriptase(Qiagen社)を使ってcDNAを合成した。特定のオリゴヌクレオチドプライマー及びプローブを用いた定量的リアルタイムPCR(TaqMan社)によりhTREM−1及びrRNAを調べた。TaqManPCRは、QuantiTect Probe PCR(Qiagen社)で行った。7900配列検出システムを用いて放出蛍光を定量分析することにより、PCR増幅をリアルタイムでモニターした。対照試料の量を1任意ユニットとし、各mRNA試料を対照試料量に対して相対的に定量した。
【0034】
6.免疫組織化学的解析
免疫組織化学的解析は、CMC(カルボキシメチルセルロース)で包埋した凍結滑膜試料の切片を用いて行った。すなわち、8μm厚のクリオスタット切片を4%パラホルムアルデヒド中で20分間固定し、その後試料をPBS中に5分間ずつ3回浸漬した。次いで、その試料中の組織切片を、1.5%Hを含むPBS中で15分間、次に5%正常ウサギ血清を含むPBS中で30分間処理した。ウサギ抗TREM−1抗体とアイソタイプ適合対照抗体としての正常ウサギIgGとを一次抗体として25μg/ml含む5%正常ウサギ血清/PBS中において、連続切片を4℃で一晩インキュベートした。次に試料を5分間2回の条件下PBS中で洗浄し、製造者マニュアルに従い、ジアミノベンジジンで処理した。次いで、切片をヘマトキシリンで5秒間対比染色し、水道水で10分間洗浄した。
【0035】
7.サイトカイン産生アッセイ
5μg/mlの抗ヒトTREM−1モノクローナル抗体、抗マウスTREM−1モノクローナル抗体、又はアイソタイプ適合対照抗体(IgG抗体)を、平底プレートに4℃で一晩プレコーティングした。この平底プレートの各ウエルに、PBSで洗浄した細胞を1×10細胞/ウエルずつ添加し、これを1200rpmで短時間遠心分離して、TREM−1を抗体に結合させた。24時間インキュベーションした後、遠心分離して培養培地を分取し、培養培地上清中のTNFα濃度を特異的ELISAで測定するまで−20℃で保存した。
なお、前述の抗ヒトTREM−1モノクローナル抗体、抗マウスTREM−1モノクローナル抗体は、それぞれヒトTREM−1、マウスTREM−1に対してアゴニスティックに作用する性質も有しており、以下、「抗TREM−1アゴニスト抗体」ともいう。
【0036】
8.組換えアデノウイルス
マウスsTREM−1−Ig遺伝子(配列番号1)を含む複製欠損アデノウイルス(以下、「AxCA−sTREM−1−Ig」ともいう。)又はLacZ遺伝子を含む複製欠損アデノウイルス(以下、「AxCA−LacZ」ともいう。)は、それぞれ文献(Arthritis Rheum. 54:2074-2083)記載の方法により調製した。すなわち、組換えアデノウイルスをHEK293細胞中で増殖させて、高力価の組換えアデノウイルスを調製し、塩化セシウム密度勾配遠心法でHEK239細胞中から組換えアデノウイルスを精製した。
【0037】
9.TREM−1阻害活性のバイオアッセイ
AxCA−sTREM−1−Igが発現するsTREM−1−Igが生物活性を有していることを示すため、AxCA−sTREM−1−Ig又はAxCA−LacZを感染させたNIH/3T3細胞の培養上清を用いてTREM−1の阻害活性を調べた。感染3日後にこれらの細胞の上清を回収した。各上清を連続希釈し、抗マウスTREM−1モノクローナル抗体(抗TREM−1アゴニスト抗体)をプレコーティングした別々のウエルにおいて各希釈液50μlを37℃でインキュベートした。インキュベート開始から15分後、各ウエルにRPM(TREM−1発現細胞)を1×10細胞で加えた。RPMの添加開始から24時間インキュベートした後、培養培地を得、培養培地の上清中のTNFα濃度をELISAで測定した。
【0038】
10.血清中のsTREM−1濃度
AxCA−sTREM−1−Igを静脈内投与した後の血清中のsTREM−1濃度を調べるため、0日目に10pfuのAxCA−sTREM−1−Ig又はAxCA−LacZを非免疫マウスに投与した。アデノウイルス投与の0日後、2日後、4日後及び7日後にマウスから血液試料を採取し、それを−20℃で保存した。保存した血液試料についてELISAを行い、血清中のsTREM−1濃度を測定した。
【0039】
11.CIA誘導及び関節炎の臨床評価
DBA/1J雄マウスを日本チャールズ・リバー・ブリージング・ラボラトリーズ(東京)から購入し、東京医科歯科大学の動物実験施設で飼育した。8週齢のDBA/1J雄マウスの尾底部皮内に、ウシコラーゲンII型(CII)200μgを含むCFA(フロインドの完全アジュバンド)を投与して免疫した(初回免疫)。初回免疫の21日後、同様にしてこれらマウスに2回目の免疫を行い(0日目)、以下のスコアリング法にしたがってマウスの各肢の疾患重症度を記録した。
スコアリング法; 0=正常: 1=一箇所の関節に軽度の腫脹: 2=二箇所の関節に軽度の腫脹: 3=足又は指に重度の腫脹: 4=足及び指全体に重度の腫脹。
関節の腫脹は、後肢の厚さと足首の幅をマイクロメーター(株式会社岡崎製作所、東京)で測定して数値化した。
次に、マウスの関節について組織学的検査を行うために、2回目の免疫の14日後にコラーゲン関節炎(CIA)マウスを屠殺した。このマウスの膝関節を切り取り、それを10%緩衝ホルマリン中に固定し、10%EDTAで脱灰し、パラフィンに包埋した。包埋した膝関節の切片(4μm厚)をヘマトキシリン及びエオシンで染色し、組織学的検査を行った。炎症細胞の浸潤、滑膜内膜の変性(transformation of synovial lining)、軟骨破壊、及びパンヌス形成をそれぞれ上述のスコアリング法にしたがって0〜3でスコアリングした。組織学的スコアの最高点は12点であった。
【0040】
12.インビボでの遺伝子導入
2回目の免疫の2日後及び9日後に、10pfu又は10pfuのAxCA−sTREM−1−Ig(サンプル数:n=8)又はAxCA−LacZ(サンプル数:n=8)を含むPBS100μlをマウスに静脈内投与した。
【0041】
13.ウシII型コラーゲン(CII)特異的抗体の検出
マウス血清中のCII特異的抗体は、ELISAで測定した。具体的には、以下のような方法で測定した。
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で沸騰させることによって変性させた2μg/mlのウシII型コラーゲンで、平底プレートをコーティングした。このプレートを0.05%Tween 20を含むPBS(PBST)中で洗浄し、2%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSでブロッキングし、1000倍希釈したマウス血清とインキュベートした。2%BSAを含むPBST中で、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Zymed社、カリフォルニア州バーリンゲーム)で標識したウサギ抗マウスIgG1、IgG2a、IgG2bの各抗体とインキュベートすることにより、陽性反応を検出した。最終反応は、TMB Microwell Peroxidase Substrate System(KPL社、メリーランド州ゲイサーズバーグ)を用いて視覚化した。吸光度は、450nmにて測定した。関節炎マウス又は非関節炎マウスから得たプール血清から作製した標準血清を用いて、CII特異的抗体ユニットを測定した。関節炎マウスの血清の40倍希釈物を1000ユニット/ml値とした。
【0042】
14.CII特異的T細胞の増殖
2回目の免疫の14日後、各グループのマウスから脾細胞を単離した。これらの脾細胞(5×10個)を、ペニシリン/ストレプトマイシン及び10%ウシ胎仔血清を添加したRPMI1640倍地において変性CII(0〜100μg/ml)で刺激しながら培養した。72時間の培養期間の最後の16時間、培養物を[H]チミジン(0.037MBq/ウエル)と共に培養し、脾細胞をマイクロ96ハーベスター(PerkinElmer社、横浜)上に回収して増殖反応を評価した。マイクロプレートベータカウンター(「MicroβPlus」;PerkinElmer社)により、取り込まれた放射線を測定した。
【0043】
15.統計方法
各実験の結果は、平均±標準偏差(SD)で表した。統計分析にはマン・ ホイットニーのUテストを用い、p<0.05の場合を有意差有りとした。
【実施例2】
【0044】
[滑液におけるヒトsTREM−1及び関節リウマチの滑膜細胞におけるヒト膜結合型TREM−1の検出]
(1)滑液中のsTREM−1濃度の測定結果
sTREM−1及び膜結合型TREM−1が細菌感染症で多量に認められることを報告する文献は何件かあるが(Nature. 410:1103-1107; N Engl J Med. 350:451-458)、関節リウマチにおけるsTREM−1やTREM−1の発現は示されていなかった。そこで、関節リウマチにおけるsTREM−1濃度を調べるため、関節リウマチ(RA)患者23名及び変形性関節炎(OA)患者9名の滑液中のsTREM−1濃度を、上記実施例1に記載された「滑液中のsTREM−1濃度の測定」の方法にしたがって、ELISAにより測定した。その結果を図1のAに示す。図1のAの結果から分かるように、RA患者の滑液中のsTREM−1濃度は1763.2±1180.2pg/mlであったのに対し、OA患者の滑液中のsTREM−1濃度は162.2±220.2pg/mlであり、RA患者の滑液中のsTREM−1濃度はOA患者のそれと比較して有意に高かった。このことから、sTREM−1は、炎症のないOAよりも、炎症を伴うRAにおいて高発現していることが示された。
【0045】
(2)ヒト滑膜細胞におけるフローサイトメトリーの結果
次に、上記実施例2(1)におけるRA患者のうち3名の滑膜細胞について、TREM−1の発現の有無を調べるため、上記実施例1に記載された「フローサイトメトリー」の方法にしたがって、フローサイトメトリー解析を行った。具体的には、RA患者から採取した滑膜細胞の単一細胞懸濁液を、TREM−1及びCD14(マクロファージマーカー)について二重染色し、TREM−1を発現する滑膜細胞の解析を行った。その結果を図1のBに示す。図1のBの結果から分かるように、RA患者の炎症滑膜組織においてCD14を発現するマクロファージは、TREM−1の発現を示した。このことから、滑膜組織中の浸潤マクロファージにおいてTREM−1が発現していることが示された。
【0046】
(3)ヒト滑膜細胞におけるサイトカイン産生アッセイの結果
TREM−1の発現に起因すると考えられる結果を直接調べるため、上記実施例2(1)におけるRA患者の全滑膜細胞のTREM−1を、上記実施例1に記載された「サイトカイン産生アッセイ」の方法にしたがって、抗TREM−1モノクローナル抗体(抗TREM−1アゴニスト抗体)で24時間刺激し、培養上清中の炎症性サイトカイン(TNFα)濃度をELISAで測定した。その結果を図1のCに示す。TNFαの分泌自体は、RAの炎症関節から得た滑膜細胞で既に検出されていたが、図1のCの結果から分かるように、抗TREM−1アゴニスト抗体によるTREM−1の架橋によって、TNFαの分泌は、IgG抗体(コントロール抗体)で刺激した場合と比較して、有意に高かった。このことから、TREM−1を介した炎症プロセスが増大することにより、関節リウマチ患者の疾患が悪化し、組織破壊が進行することが示された。
【実施例3】
【0047】
[コラーゲン関節炎(CIA)マウスの滑膜細胞におけるマウスTREM−1の発現]
(1)CIAマウスの滑膜細胞に対する免疫組織化学的解析の結果
骨髄細胞でのTREM−1発現が、滑膜組織での炎症反応に寄与するかどうかを調べるため、CIAマウスの滑膜組織におけるマウスTREM−1の発現を、上記実施例1に記載された「免疫組織化学的解析」の方法により調べた。その結果を図2のA〜Cに示す。図2のA〜Cの結果から分かるように、TREM−1を発現する細胞(単核球)が、炎症滑膜組織で豊富に認められた(図2のC)。
【0048】
(2)CIAマウスの滑膜細胞に対するフローサイトメトリー分析の結果
次に、CIAマウスの炎症骨膜組織においてTREM−1が発現しているかどうかを調べるため、上記実施例1に記載された「CIA誘導及び関節炎の臨床評価」の方法にしたがってCIA誘導したマウスについて、「フローサイトメトリー」の方法にしたがったフローサイトメトリー解析を行った。具体的には、CIAマウスから採取した滑膜細胞の単一細胞懸濁液を、TREM−1及びCD11b(マクロファージマーカー)について二重染色し、TREM−1を発現する滑膜細胞の解析を行った。その結果を図2のDに示す。図2のDの結果から分かるように、CIAマウスの炎症滑膜組織においてCD11bを発現するマクロファージのほとんどは、TREM−1の発現を示した。特に、初期炎症関節(2回目のコラーゲン免疫から7日後)におけるTREM−1の発現レベル(Day7)は、慢性炎症関節(2回目のコラーゲン免疫から16日後)の場合(Day16)に比べ高かった。このことから、TREM−1は、慢性炎症関節よりも初期炎症関節において重要な役割を担っていることが示された。
【実施例4】
【0049】
[インビボでのsTREM−1の発現量、及び、インビトロでのAxCA−sTREM−1−Igの生物活性]
(1)マウス血清中のsTREM−1濃度測定の結果
CIAにおいてTREM−1を阻害することによる治療効果を調べるため、まず、sTREM−1−Ig遺伝子を含む組換えアデノウイルス(AxCA−sTREM−1−Ig)を、上記実施例1に記載された「組換えアデノウイルス」の方法にしたがって構築した。
次に、AxCA−sTREM−1−Igをマウスに投与した場合に、インビボにおいてsTREM−1が実際に発現するかを調べるため、上記実施例1に記載された「血清中のsTREM−1濃度」の方法にしたがって、マウス血清中のsTREM−1の濃度をELISAで測定した。その結果を図3のAに示す。図3のAの結果から分かるように、AxCA−sTREM−1−Igの静脈内投与の2日後に、sTREM−1濃度が最大値を示し、それ以降7日目まで徐々に減少した。
一方、AxCA−sTREM−1−Igに代えてAxCA−LacZを投与したマウスでは、血清中のsTREM−1濃度の上昇は見られなかった(データは示さず)。
これらの結果から、AxCA−sTREM−1−Igの静脈内投与により、sTREM−1−Igがインビボで効率的に産生されることが示された。
【0050】
(2)TREM−1阻害活性のバイオアッセイの結果
AxCA−sTREM−1−Igが発現するsTREM−1−Igが生物活性を有しているかを確認するために、上記実施例1に記載された「TREM−1阻害活性のバイオアッセイ」の方法にしたがって実験を行った。すなわち、AxCA−sTREM−1−Igに感染させたNIH/3T3細胞中のsTREM−1−Igを含む培養上清が、抗TREM−1アゴニスト抗体で刺激した常在型腹腔マクロファージ(RPM)によるTNFα産生に対して及ぼす効果を調べた。その結果を図3のBに示す。図3のBの結果から分かるように、AxCA−LacZを感染させた細胞の培養上清(sTREM−1−Igを含まない)を添加した場合は、その添加量にかかわらずTNFαの産生は阻害されなかった。それに対し、AxCA−sTREM−1−Igを感染させたNIH/3T3細胞の培養上清(sTREM−1−Igを含む)を添加した場合は、TNFαの産生が著しく阻害され、また、その阻害の程度は培養上清の添加量に依存的であって、sTREM−1の濃度が320pg/mlのときにTNFαの産生は完全に阻害された。
これらの結果から、AxCA−sTREM−1−Igの発現産物であるsTREM−1−IGが生物活性(炎症の抑制効果)を有していることが示された。
【実施例5】
【0051】
[コラーゲン関節炎(CIA)におけるsTREM−1−Ig遺伝子導入による関節炎の抑制]
(1)CIA誘導及び関節炎の臨床評価の結果
CIAにおけるTREM−1の病態生理学的機能を調べるため、上記実施例1に記載された「CIA誘導及び関節炎の臨床評価」の方法にしたがって、マウスにCIAを誘導し、さらに、上記実施例1に記載された「インビボでの遺伝子導入」の方法にしたがってそのマウスにAxCA−sTREM−1−Igを導入してTREM−1の関与を阻害することによって、CIAの病態にどのような影響が見られるかを調べた。CIAマウスの関節炎の組織学的スコアの経時的推移を図4のAに、CIAマウスの足首幅の経時的推移を図4のBに、CIAマウスの後肢の厚さの経時的推移を図4のCに示す。図4のA〜Cの結果から分かるように、1×10pfuのAxCA−sTREM−1−Igを静脈内投与した場合は、AxCA−LacZ(コントロール)を投与した場合に比べ、関節炎の進行が著しく抑制された。また、1×10pfuのAxCA−sTREM−1−Igを静脈内投与した場合は、1×10pfu投与した場合ほどではないが、コントロールに対して有意に関節炎が抑制された。すなわち、AxCA−sTREM−1−Igは、投与量依存的に関節炎を阻害することが明らかとなった。これらの知見から、TREM−1がCIAの進行に大きな役割を担っていることが示され、TREM−1を阻害することが関節炎の治療に有用である可能性が極めて高いことが判明した。
【0052】
(2)sTREM−1−Igで処理されたマウスのCIAの組織学的評価の結果
上記実施例5の(1)においてCIA誘導及びAxCA−sTREM−1−Ig導入されたマウスの関節の病変を組織学的に評価するため、2回目の免疫の16日後にAxCA−sTREM−1−Ig又はAxCA−LacZ(コントロール)を導入したマウスの膝関節の切片を用意し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。その観察結果を図5のA(AxCA−LacZ導入マウス)及びB(AxCA−sTREM−1−Ig導入マウス)に示す。図5のA及びBから分かるように、AxCA−LacZ導入マウスの関節は、炎症細胞の顕著な浸潤、滑膜内膜の変性、軟骨破壊、及びパンヌス形成という4つのパラメーター全てにおいてコラーゲン関節炎に特有の特徴を示した。それに対して、AxCA−sTREM−1−Ig導入マウスの関節では、炎症細胞の浸潤が顕著に減少し、内膜の過形成や骨及び軟骨の破壊の程度も低かった。
【0053】
AxCA−LacZ導入マウス、及び、AxCA−sTREM−1−Ig導入マウスの関節における上記の4つのパラメーターを0〜3(0,正常; 1,軽微; 2,軽度; 3,重篤)の4段階でそれぞれ評価した。その観察結果を図5のCに示す。図5のCの結果から分かるように、AxCA−sTREM−1−Ig導入マウスの各パラメーターのスコアは、AxCA−LacZ導入マウスのスコアに比べ、著しく低かった。これらの結果から、TREM−1シグナル伝達がコラーゲン関節炎における関節の炎症及び破壊の促進に関与していることが示唆された。
【実施例6】
【0054】
[T細胞応答に対するsTREM−1−Ig遺伝子導入の効果]
(1)ウシII型コラーゲン(CII)特異的T細胞の増殖の結果
インビボでのAxCA−sTREM−1−Ig導入により、CIIに対するT細胞性免疫が影響されるかどうかを調べるため、上記実施例5の(1)においてCIA誘導及びAxCA−sTREM−1−Ig導入されたマウスの脾細胞におけるT細胞の増殖を、上記実施例1に記載された「CII特異的T細胞の増殖」の方法にしたがって、インビトロで測定した。すなわち、CIA誘導マウスの2回目の免疫の2日後及び9日後に各種のアデノウイルス(AxCA−sTREM−1−Ig又はAxCA−LacZ)を導入し、16日目にグループ毎に4個の脾臓を取り出し、II型コラーゲンと共培養した。その観察結果を図6のAに示す。図6のAの結果から分かるように、10pfuのAxCA−sTREM−1−Ig、10pfuのAxCA−sTREM−1−Ig、又は、AxCA−LacZ(コントロール)を導入した各グループの増殖応答に有意な違いは観察されなかった。この結果から、TREM−1を阻害しても抗原特異的T細胞応答は損なわれないことが示された。
【実施例7】
【0055】
[B細胞応答に対するsTREM−1−Ig遺伝子導入の効果]
(1)ウシII型コラーゲン(CII)特異的抗体の検出の結果
II型コラーゲンに対する液性免疫応答に及ぼすAxCA−sTREM−1−Igの効果を調べるため、上記実施例1に記載された「ウシII型コラーゲン(CII)特異的抗体の検出」の方法にしたがって、2回目の免疫から16日目に、10pfu若しくは10pfuのAxCA−sTREM−1−Ig導入マウス又はAxCA−LacZ導入マウスから採血し、血清中の抗CII抗体(IgG1、IgG2a及びIgG2b)について分析した。その結果を図6のBに示す。図6のBの結果から分かるように、上記の3つのマウス群の間に、IgG1、IgG2a及びIgG2bの各抗CII抗体の血中抗体価に有意な差異は観察されなかった。さらに、これらの抗CII抗体の抗体価は、2回目の免疫から0日目の時点においても有意な違いはなかった(データは示さず)。これらの結果から、AxCA−sTREM−1−Igで処理してもコラーゲン関節炎における抗CII抗体の産生は損なわれないことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】A:関節リウマチ(RA)又は変形性関節炎(OA)患者の滑液中のsTREM−1濃度を特異的ELISAにより測定した結果を示す図である。B:RA患者の滑膜細胞を、TREM−1及びCD14(マクロファージマーカー)について二重染色した結果を示す図である。C:RA患者の全滑膜細胞のTREM−1を、抗TREM−1アゴニスト抗体で24時間刺激し、培養上清中の炎症性サイトカイン(TNFα)濃度をELISAで測定した結果を示す図である。なお、*は、p<0.01であることを示し、**は、p<0.001であることを示す。
【図2】A〜C:CIAマウスの滑膜細胞に対する免疫組織化学的解析の結果を示す図である。Aはヘマトキシリン・エオシン染色した図、Bはアイソタイプ適合対照抗体としての正常ウサギIgG抗体で染色した図、Cはラット抗マウスTREM−1抗体で染色した図である。D:CIAマウスの滑膜細胞を、TREM−1及びCD11bについて二重染色した結果を示す図である。
【図3】A:AxCA−sTREM−1−Igを投与したマウスの血清中のsTREM−1濃度をELISAを用いて経時的に測定した結果を示す図である。B:AxCA−sTREM−1−Igの発現産物であるsTREM−1−Igが、抗TREM−1アゴニスト抗体で刺激した常在型腹腔マクロファージ(RPM)によるTNFα産生に対してどのような効果を奏するかを調べた結果を示す図である。
【図4】A:2回目の免疫を行った後のCIAマウスにAxCA−sTREM−1−Igを導入した場合の関節炎の組織学的スコアの経時的推移を示す図である。B:2回目の免疫を行った後のCIAマウスにAxCA−sTREM−1−Igを導入した場合のマウスの足首幅の経時的推移を示す図である。C:2回目の免疫を行った後のCIAマウスにAxCA−sTREM−1−Igを導入した場合の後肢の厚さの経時的推移を示す図である。なお、*は、p<0.05であることを示し、**は、p<0.01であることを示す。
【図5】A:CIA誘導及びAxCA−LacZ(コントロール)導入されたマウスの膝関節の切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した結果を示す図である。B:CIA誘導及びAxCA−sTREM−1−Ig導入されたマウスの膝関節の切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した結果を示す図である。C:CIA誘導及びAxCA−LacZ(コントロール)導入されたマウスの膝関節、並びに、CIA誘導及びAxCA−sTREM−1−Ig導入されたマウスの膝関節の関節炎の組織学的スコアを示す図である。
【図6】A:CIA誘導及びAxCA−sTREM−1−Ig導入されたマウスの脾細胞におけるT細胞の増殖を示す図である。B:AxCA−sTREM−1−Ig導入マウスの血清中の抗CII抗体(IgG1、IgG2a及びIgG2b)について分析した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TREM−1阻害物質を含有してなる膠原病の予防・治療剤。
【請求項2】
TREM−1阻害物質が、可溶性TREM−1又は可溶性TREM−1発現ベクターである請求項1に記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項3】
可溶性TREM−1が、配列番号1におけるアミノ酸番号1〜194に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号5におけるアミノ酸番号1〜200に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、配列番号3若しくは7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は、配列番号3若しくは7に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである請求項2に記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項4】
可溶性TREM−1が、配列番号1におけるアミノ酸番号1〜194に示されるアミノ酸配列、配列番号5におけるアミノ酸番号1〜200に示されるアミノ酸配列、及び、配列番号3又は7に示されるアミノ酸配列から選ばれるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチドである請求項2に記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項5】
TREM−1阻害物質が、イムノグロブリン結合−可溶性TREM−1(sTREM−1−Ig)である請求項1に記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項6】
イムノグロブリン結合−可溶性TREM−1(sTREM−1−Ig)が、配列番号1又は5に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドである請求項5に記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項7】
可溶性TREM−1発現ベクターが、配列番号2におけるヌクレオチド番号1〜582に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号6におけるヌクレオチド番号1〜600に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号4又は8に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、及び、配列番号4又は8に示されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドから選ばれるポリヌクレオチドを含む組換えベクターである請求項2に記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項8】
可溶性TREM−1発現ベクターが、配列番号2におけるヌクレオチド番号1〜582に示されるヌクレオチド配列、配列番号6におけるヌクレオチド番号1〜600に示されるヌクレオチド配列、及び、配列番号4又は8に示されるヌクレオチド配列から選ばれるヌクレオチド配列に相補的な配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、TREM−1阻害活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターである請求項2に記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項9】
可溶性TREM−1発現ベクターが、可溶性TREM−1を発現する組換えウイルスベクターである請求項7又は8に記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項10】
膠原病が、関節リウマチである請求項1〜9のいずれかに記載の膠原病の予防・治療剤。
【請求項11】
TREM−1阻害物質を探索する工程を備えてなる、膠原病の予防・治療剤のスクリーニング法。
【請求項12】
TREM−1阻害物質を探索する工程が、被検物質存在下又は非存在下でTREM−1を含む細胞を培養し、培養上清中のTNFα濃度を測定し、それらのTNFα濃度を比較する工程であることを特徴とする請求項11に記載の膠原病の予防・治療剤のスクリーニング法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−93806(P2011−93806A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39292(P2008−39292)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】