説明

自動二輪車のブレーキ制御方法及びブレーキ制御装置

【課題】
後輪の浮き上がりの可能性を予測するためのパラメータとしてホイールシリンダ圧を利用する自動二輪車のブレーキ制御方法及びその装置において、後輪の浮き上がりの予測精度を更に向上させる。
【解決手段】
本発明のブレーキ制御方法は、圧力センサの信号を入力し(ステップ100)、フロントホイールシリンダ圧を検出し(ステップ102)、フロントホイールシリンダ圧の変化量を検出し(ステップ104)、検出された前記フロントホイールシリンダ圧及び前記フロントホイールシリンダ圧の変化量が、後輪の浮き上がりが発生し得るブレーキ条件に該当するか否かを判定し(ステップ106)、前記ブレーキ条件に該当していると判定した場合、該フロントホイールシリンダ圧の増圧勾配を低減する(ステップ108)、各工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のブレーキ制御方法及びブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車において、前輪に対する急峻なブレーキ操作に起因する後輪浮き上がりを防止するため、例えば以下の特許文献1に記載された技術が知られている。
特許文献1の技術では、車輪角加速度αが0のとき、ホイールシリンダ圧(キャリパ圧)の所定の関数として表されたブレーキ力と、路面μと接地荷重Wとの積で表される路面摩擦力とが一致することを利用して、検出されたフロントホイールシリンダ圧及びリアホイールシリンダ圧に基づいて前後輪にかかる接地荷重WFR及びWRRを推定演算している。この推定演算では、接地荷重WFR及びWRRの総和が一定であることを利用して、未知数である路面μを消去している。そして、前輪のブレーキ作動中において、推定された後輪の接地荷重WRRが、一致値以下に低下していると判断された場合には、フロントホイールシリンダ圧(キャリパ圧)を減圧することにより、後輪の接地荷重WRRの低下を適切に緩和するようにしている。
【0003】
しかし、上記技術では、ホイールシリンダ圧が急激に変化したときや、車輪が実際にスリップしたときなど、車輪角加速度αが0という仮定が成立しない条件下において、後輪の接地荷重WRRの推定値が不正確になる可能性があり、よって、かかる条件下では、後輪浮き上がりの防止が確実でなくなるおそれがある。
【特許文献1】特開平5−77700号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実に鑑みなされたもので、後輪の浮き上がりの可能性を予測するためのパラメータとしてホイールシリンダ圧を利用する自動二輪車のブレーキ制御方法及びその装置において、後輪の浮き上がりの予測精度を更に向上させることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る自動二輪車のブレーキ制御方法は、フロントホイールシリンダ圧を検出し、フロントホイールシリンダ圧の変化量を検出し、検出された前記フロントホイールシリンダ圧及び前記フロントホイールシリンダ圧の変化量が、後輪の浮き上がりが発生し得るブレーキ条件に該当するか否かを判定し、前記ブレーキ条件に該当していると判定した場合、前記フロントホイールシリンダ圧の増加を制限する、各工程を備えて構成したものである。なお、フロントホイールシリンダ圧の増加を制限する工程では、該フロントホイールシリンダ圧の増圧勾配を低減することができる。
【0006】
本発明の上記一態様によれば、フロントホイールシリンダ圧のみならず、フロントホイールシリンダ圧の変化量を、後輪の浮き上がりの判定に用いたので、従来技術に比べて、広範囲な条件下で、後輪の浮き上がりの予測精度を更に向上させることが可能となる。
【0007】
好ましくは、本ブレーキ制御方法は、ブレーキ条件の判定のためフロントホイールシリンダ圧に関するフロントホイールシリンダ圧の変化量の関数を予め決定しておく工程を更に備える。また、前記判定工程では、検出されたフロントホイールシリンダ圧及びフロントホイールシリンダ圧の変化量により定められた状態が、前記関数によって画定される境界を超えた領域にあるとき、前記ブレーキ条件に該当していると判定する。この関数を、自動二輪車の後輪浮き上がりの要因となる因子に応じてきめ細かく設定することにより、様々な車体条件に対応した後輪浮き上がりを防止用のブレーキ制御方法を提供することができる。
【0008】
例えば、前記関数は、前記フロントホイールシリンダ圧の増加に対して前記ホイールシリンダ圧の変化量が減少する、少なくとも1つの負勾配区分を有するのが好ましい。また、前記関数は、各々異なる2つ以上の前記負勾配区分を有していてもよく、この場合、該2つ以上の負勾配区分のうち、より高いフロントホイールシリンダ圧の領域で画定された区分が、より低い領域で画定された区分よりも減少勾配が急峻であるのが好ましい。
【0009】
好ましくは、前記フロントホイールシリンダ圧が第1の閾値以下であるとき、前記フロントホイールシリンダ圧の変化量に依らずに、前記フロントホイールシリンダ圧の増圧勾配の低減工程を実行しないようにする。
【0010】
前記関数は、前記フロントホイールシリンダ圧が第2の閾値以上であるとき、前記フロントホイールシリンダ圧の増加に対して前記フロントホイールシリンダ圧の変化量が一定となる、一定勾配区分を有していてもよい。
【0011】
また、本発明の別の態様に係るブレーキ制御装置は、フロントホイールシリンダ圧を検出する、圧力検出手段と、フロントホイールシリンダ圧の変化量を検出する、圧力変化量検出手段と、検出された前記フロントホイールシリンダ圧及び前記フロントホイールシリンダ圧の変化量が、後輪の浮き上がりが発生し得るブレーキ条件に該当するか否かを判定する判定手段と、前記ブレーキ条件に該当していると判定した場合、前記フロントホイールシリンダ圧の増加を制限する、ブレーキ制御手段と、を備えて構成したものである。
【0012】
好ましくは、本ブレーキ制御装置は、前記ブレーキ条件の判定のためフロントホイールシリンダ圧に関するフロントホイールシリンダ圧の変化量の関数を記憶する記憶手段を更に備える。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施例に係るブレーキ制御装置Sの構成例が示されている。ブレーキ制御装置Sは、第1のブレーキ操作子としてのブレーキハンドル35の操作力を油圧に変換可能に設けられたフロントブレーキマスタシリンダ1と、第2のブレーキ操作子としてのブレーキペダル36の操作力を油圧に変換可能に設けられたリアブレーキマスタシリンダ2と、フロントブレーキマスタシリンダ1からの油圧に応じて前輪37へブレーキ力を与えるフロントホイールシリンダ3と、リアブレーキマスタシリンダ2からの油圧に応じて後輪38へブレーキ力を与えるリアホイールシリンダ4と、フロント及びリアブレーキマスタシリンダ1、2と、フロント及びリアホイールシリンダ3、4との間に設けられた油圧ユニット101と、電子制御ユニット51と、車輪速度センサ45、46と、圧力センサ47と、を備えている。アンチロックブレーキ制御装置は、車輪速度センサ45、46、圧力センサ47、電子制御ユニット51及び油圧ユニット101から構成される。
【0014】
フロントブレーキマスタシリンダ1とフロントホイールシリンダ3とは、第1の主油圧管5によって接続され、この第1の主油圧管5の途中には、フロントブレーキマスタシリンダ1側から順にフロント主油圧管用絞り6と第1の電磁弁7とが配設されている。この第1の電磁弁7は通常、開成状態とされている。さらに、このフロント主油圧管用絞り6及び第1の電磁弁7をバイパスするようにして、かつ、フロントホイールシリンダ3からフロントブレーキマスタシリンダ1へのブレーキ油(ブレーキ液)の流れを順方向とするフロント主油圧管用逆止弁8が設けられている。
【0015】
同様に、リアブレーキマスタシリンダ2とリアホイールシリンダ4とは、第2の主油圧管9によって接続され、この第2の主油圧管9の途中には、リアブレーキマスタシリンダ2側から順にリア主油圧管用絞り10と第2の電磁弁11とが配設されている。この第2の電磁弁11は、通常、開成状態とされている。さらに、このリア主油圧管用絞り10及び第2の電磁弁11をバイパスするようにして、かつ、リアホイールシリンダ4からリアブレーキマスタシリンダ2へのブレーキ油の流れを順方向とするリア主油圧管用逆止弁12が設けられている。
【0016】
また、第1の電磁弁7とフロントホイールシリンダ3の間の第1の主油圧管5の適宜な位置においては、フロントリザーバ接続用油圧管13が接続され、その途中には、フロントホイールシリンダ3側から順にフロントリザーバ用絞り14とフロントリザーバ流入制御用電磁弁15が配設されており、これらを介してフロントリザーバ16が接続されている。このフロントリザーバ流入制御用電磁弁15は、通常、閉鎖状態とされている。
【0017】
さらに、フロントリザーバ接続用油圧管13には、フロントリザーバ流入制御用電磁弁15とフロントリザーバ16との間の位置に、フロントブレーキマスタシリンダ1と連通するフロント戻し用油圧管17が接続され、その途中には、フロントブレーキマスタシリンダ1側から順にフロント戻し路用絞り18と、第1のフロント戻し路用逆止弁19と、第2のフロント戻し路用逆止弁20と、が配設されている。
【0018】
また、第2の電磁弁11とリアホイールシリンダ4の間の第2の主油圧管9の適宜な位置においても、上述した第1の主油圧管5における構成と基本的に同様に、リアリザーバ接続用油圧管21が接続され、その途中には、リアホイールシリンダ4側から順にリアリザーバ用絞り22とリアリザーバ流入制御用電磁弁23とが配設され、これらを介してリアリザーバ24が接続されている。このリアリザーバ流入制御用電磁弁23は、通常、閉鎖状態とされる。
【0019】
さらに、第2のリザーバ接続用油圧管21には、リアリザーバ流入制御用電磁弁23とリアリザーバ24との間の適宜な位置に、リアブレーキマスタシリンダ2に連通するフロント戻し用油圧管25が接続され、その途中には、リアブレーキマスタシリンダ2側から順にリア戻し路用絞り26と、第1のリア戻し路用逆止弁27と、第2のリア戻し路用逆止弁28とが配設されている。
【0020】
またさらに、油圧ユニット101には、フロントブレーキとリアブレーキとに共有される油圧ポンプ装置31が設けられている。すなわち、油圧ポンプ装置31は、モータ32と、このモータ32の出力軸(図示せず)に固着された固定カム(図示せず)によって往復動される2つのプランジャ33a、33bとから概略構成されている。
【0021】
一方のプランジャ33aは、第1のフロント戻し路用逆止弁19と第2のフロント戻し路用逆止弁20との間に、また、他方のプランジャ33bは、第1のリア戻し路用逆止弁27と第2のリア戻し路用逆止弁28との間に、夫々接続され、プランジャ33a、33bの往復動によって、フロントリザーバ16のブレーキ油が吸い上げられてフロントブレーキマスタシリンダ1へ、また、リアリザーバ24のブレーキ油が吸い上げられてリアブレーキマスタシリンダ2へ、夫々還流される。
【0022】
上述の第1及び第2の電磁弁7、11、フロントリザーバ流入制御用電磁弁15、リアリザーバ流入制御用電磁弁23及びモータ32は、電子制御ユニット(図1では「ECU」と表記)51によって、各々の動作制御が実行される。
【0023】
電子制御ユニット51は、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を備えて構成される。
かかる電子制御ユニット51は、車輪速度演算、ロック防止制御のための電磁弁やモータの制御処理、車輪速度センサ等の異常の有無を判定するためのモニタ処理、本発明の実施例に係る後輪浮き上がりの検出処理、後輪浮き上がりの検出に伴うブレーキ制御処理等が実行される。
【0024】
電子制御ユニット51には、上述のような制御処理を実行するため、前輪37の車輪速度を検出するための車輪速度センサ45、後輪38の車輪速度を検出するための車輪速度センサ46、及び、フロントホイールシリンダ3の発生圧力を検出する圧力センサ47の各検出信号が入力される。圧力センサ47は、第1の主油圧管5の他、該第1の主油圧管5に圧力連通した箇所であれば任意の箇所に取り付けることができ、油圧ユニット101内又はフロントホイールシリンダ3のいずれに取り付けてもよい。
【0025】
さらに、電子制御ユニット51には、ブレーキハンドル35の作動を検出するブレーキレバー作動スイッチ(図示せず)及びブレーキペダル36の作動を検出するブレーキペダル作動スイッチ(図示せず)の各々の検出信号も入力される。
【0026】
また、電子制御ユニット51内には、先のモータ32に対する駆動信号を生成、出力するモータ駆動回路(図示せず)が設けられている。
またさらに、電子制御ユニット51内には、第1及び第2の電磁弁7、11やフロントリザーバ流入制御用電磁弁15及びリアリザーバ流入制御用電磁弁23の駆動を制御する電磁弁駆動回路(図示せず)が設けられている。
【0027】
上述した構成を有するブレーキ制御装置Sでは、ブレーキハンドル35が操作されると、ブレーキハンドル35の操作を検出するブレーキレバー作動スイッチ(図示せず)により、その操作を検出したことに対応する検出信号が電子制御ユニット51に入力される。同時に、ブレーキマスタシリンダ1からは、ブレーキハンドル35の操作に応じた油圧のブレーキ液がフロントホイールシリンダ3に供給されてブレーキ力が発生せしめられ、車輪37にブレーキ力が作用する。
【0028】
電子制御ユニット51において、アンチロックブレーキ制御が必要であると判断されると、第1の電磁弁7が励磁されて、第1の主油圧管5は非連通状態とされ、フロントホイールシリンダ3の油圧が一定に保持される。そして、さらに電子制御ユニット51において、ブレーキを弛めるべきであると判断されると、フロントリザーバ流入制御用電磁弁15が励磁される。その結果、フロントホイールシリンダ3のブレーキ液がフロントリザーバ流入制御用電磁弁15を介してフロントリザーバ16へ排出されてブレーキが弛められる。
【0029】
上記と同時に、モータ32が電子制御ユニット51内の図示しないモータ駆動回路により駆動され、フロントリザーバ16に貯留されたブレーキ液がプランジャ33aの動きによって吸い上げられて、フロントブレーキマスタシリンダ1に還流される。
【0030】
なお、ブレーキペダル36が操作された場合にも、上述したブレーキハンドル35の場合と基本的に同様に、車輪38に対するブレーキ力を得、またブレーキ力の緩和がなされる。その他の電子制御ユニット51の基本的な動作は、以下で述べる本発明に特徴的な動作を除いて、公知・周知のブレーキ制御装置と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0031】
次に、本発明の実施例に係るブレーキ制御装置Sの作用を、図2乃至図5を用いて説明する。
図2には、図1に示された電子制御ユニット51によって実行される後輪浮き上がり防止のためのブレーキ制御の処理手順のフローチャートが示されている。同図に示されるように、先ず、圧力センサ47から出力されたセンサ信号がECU51に入力される(ステップ100)。ECU51は、入力されたセンサ信号に基づいて、フロントホイールシリンダ圧PFWを検出する(ステップ102、図ではホイールシリンダを「W/C」と表記)。さらに、ECU51は、フロントホイールシリンダ圧PFWに基づいてフロントホイールシリンダ圧の変化量dPFWを検出する(ステップ104)。このフロントホイールシリンダ圧の変化量dPFWは、例えば、次式によって算出することができる。
【0032】
dPFW = (PFW2−PFW1)/Δt
ここで、PFW1は、ある時刻S1で検出されたフロントホイールシリンダ圧、PFW2は、時刻S1からΔt経過後の時刻S2(S2=S1+Δt)で検出されたフロントホイールシリンダ圧である。
【0033】
次に、検出されたフロントホイールシリンダ圧PFW及びフロントホイールシリンダ圧の変化量dPFWが、後輪浮き上がりのブレーキ条件に該当するか否かを判定する(ステップ106)。ホイールシリンダ圧の状態(PFW,dPFW)が後輪浮き上がりのブレーキ条件に該当すると判定した場合(ステップ106肯定判定)、次のステップ108の処理へと移行し、フロントホイールシリンダ3の圧力(ホイールシリンダ圧)の増圧勾配が強制的に低減される。その後、ステップ106に戻って同様の処理を繰り返す。
【0034】
ステップ108では、より詳しくは、電子制御ユニット51の図示しない電磁弁駆動回路からの信号によって、第1の電磁弁7が開閉制御され、フロントシリンダ3へのブレーキ油の供給が制限されることにより、ホイールシリンダ圧の増圧勾配が低減される。ここで上記増圧勾配を低減させる工程(ステップ108)におけるホイールシリンダ圧の概略変化の例を図5に示す。同図において、横軸は時間軸であり、縦軸はフロントホイールシリンダ圧(図5では「W/C圧」と表記)、換言すればブレーキ圧を示している。図5に示されるように、時刻t0からt1までの間は、急峻なブレーキ操作によりホイールシリンダ圧が急峻に増加していく状態が実線の特性線で表されている。時刻t1において、後輪浮き上がりの可能性有りと判定され、上述したようなホイールシリンダ圧の増圧勾配の強制的な低減が開始される。時刻t1以降、ホイールシリンダ圧がそれ以前の圧力と比べて緩慢に変化される。
【0035】
再び図2のステップ106を参照する。ホイールシリンダ圧の状態(PFW,dPFW)が後輪浮き上がりのブレーキ条件に該当していないと判定した場合(ステップ106否定判定)、次のステップ110の処理へと移行する。ステップ110では、ステップ108の増圧勾配低減工程が動作中であるか否かを判定する。増圧勾配低減中の場合(ステップ110肯定判定)、増圧勾配低減処理を解除し(ステップ112)、再びステップ100に戻って同様の処理を繰り返す。増圧勾配低減中ではない場合(ステップ110否定判定)、ステップ112を経ること無く、再びステップ100に戻って同様の処理を繰り返す。
【0036】
図2のステップ106の後輪浮き上がり判定工程は、例えば図3に示すサブルーチンを実行することにより達成することができる。
図3に示すように、先ず、図2のステップ102、104でECU51により求められた、フロントホイールシリンダ圧PFW及びフロントホイールシリンダ圧の変化量dPFWを図3のサブルーチンに引数として受け渡し入力する(ステップ120、122)。
【0037】
次に、後輪浮き上がりの判定関数FLを呼び出す(ステップ124)。この判定関数FLは、次式のように、任意のフロントホイールシリンダ圧PFWに対するフロントシリンダ圧変化量dPFWの関数として定義されている。
【0038】
dPFW = FL(PFW
この判定関数FLの具体例が図4に示されている。
図4を参照しつつ再び図3を参照する。図3のステップ126では、ステップ120、122で入力された実際のホイールシリンダ圧の状態(PFW,dPFW)が、判定関数FLを境界として、dPFW > FL(PFW)となる図4の領域200か、又は、dPFW ≦ FL(PFW)となる図4の領域202のいずれに属するかが分類される。
【0039】
急激なフロントブレーキ動作、即ちホイールシリンダ圧の変化量が大きいほど、後輪浮き上がりが発生しやすくなることから、ホイールシリンダ圧の状態(PFW,dPFW)が領域200に属する場合に(ステップ126肯定判定)、後輪浮き上がりの可能性が大きいと判定し、処理フラグを1に設定し(ステップ128)、本サブルーチンをリターンする。これに対して、ホイールシリンダ圧の状態(PFW,dPFW)が領域202に属する場合には後輪浮き上がりの可能性が低いと判定し、処理フラグを0に設定し(ステップ130)、本サブルーチンをリターンする。
【0040】
処理フラグが1のとき図2のステップ108で増圧勾配の低減工程が実行され、処理フラグが0のときには、増圧勾配低減工程が実行されないか、又は、図2のステップ112で増圧勾配低減工程が解除される。
【0041】
次に、図4を参照して、判定関数FLについて詳しく説明する。フロントホイールシリンダ圧が高くなるほど、より少ないホイールシリンダ圧の変化量でも、後輪浮き上がりが発生しやすくなることから、判定関数FLは、フロントホイールシリンダ圧の増加に対してホイールシリンダ圧の変化量が減少する、少なくとも1つの負勾配区分を持つべきである。図4の実施例では、判定関数FLは、2つの負勾配区分206、208を有している。勿論、判定関数FLは、負勾配区分が3つ以上あってもよい。
【0042】
負勾配区分206は、ホイールシリンダ圧P1(例えば4bar)からホイールシリンダ圧P2(例えば9bar)の間でホイールシリンダ圧変化量がdP3(例えば300bar/sec)からdP2(例えば160bar/sec)まで減少する直線勾配を有している。一方、負勾配区分208は、ホイールシリンダ圧P2(例えば9bar)からホイールシリンダ圧P3(例えば13bar)の間でホイールシリンダ圧変化量がdP2(例えば160bar/sec)からdP1(例えば35bar/sec)まで減少する直線勾配を有し、負勾配区分208は、負勾配区分206に比べて勾配がより急峻となっている。なお、本発明に係る判定関数は、この例に限定されるものではなく、各区分における勾配は後輪の浮き上がりを予測する上で適した値に適宜設定される。また、負勾配区分は、必ずしも直線でなくともよく、曲線の区分、複数の異なる曲線の区分、或いは、曲線を近似する複数の直線区分から形成されてもよい。
【0043】
また、図4において、フロントホイールシリンダ圧がP1以下の領域は、全て領域202に属している。即ち、この領域は、フロントホイールシリンダ圧の変化量に依らずに、前述したフロントホイールシリンダ圧の増圧勾配低減工程を実行しない領域となっている。本来は、ホイールシリンダ圧が低くても、その変化量が大きい場合には、後輪浮き上がりの可能性があるが、急ブレーキをかけた場合、換言すればフロントホイールシリンダ圧の変化量が大きい場合、車輪のロック傾向が強まり、アンチロックブレーキ作動が開始され得る。このアンチロックブレーキ作動によってホイールシリンダ圧が減少されるため、例えば図4の領域204(領域202の斜線領域)において、図2のステップ108の増圧勾配低減工程をあえて実行する必要は無くなる。なお、ECU51は、各車輪の回転状態等に応じて車輪のロック傾向を監視しているため、アンチロックブレーキ作動は、フロントホイールシリンダ圧が図4のいずれの領域に属するかに係わり無く、車輪ロック検出時に実行され得る。
【0044】
さらに、図4では、判定関数FLは、フロントホイールシリンダ圧がP3以上であるとき、フロントホイールシリンダ圧の増加に対してフロントホイールシリンダ圧の変化量が一定となる、一定勾配区分210を有している。フロントホイールシリンダ圧が既に十分に大きく、かつさらにホイールシリンダ圧をたとえ僅かでも昇圧させようとしている場合には、後輪の浮き上がりの可能性が大きいことに対処したものである。
【0045】
判定関数FLは、ECU51内のROM(図示せず)などに記憶されているが、関数の種類や上述した関数の数値等は、二輪車の種類等に依存する後輪の浮き上がり特性に応じて定めることができる。特に関数を決定するための重要な因子としては、例えば、自動二輪車のフロントフォークの堅さ、沈みやすさ(ダンパーやショックアブソーバーの特性)、車体の重心の高さ、ブレーキキャリパのピストンの面積、ブレーキパッドの摩擦係数等が挙げられる。
【0046】
以上が本発明の実施例であるが、本発明は、上記例に限定されるものではなく、請求の範囲によって画定される本発明の範囲から逸脱しない範囲内で任意好適に変更することができる。例えば、図2のステップ108の増圧勾配低減工程は、図5に示すようなブレーキ力制御に限定されるものではなく、増圧勾配を時間的に漸近的に減少させる制御、ホイールシリンダ圧を単に一定に保持する制御、或いは、単に一定圧減圧させる等の制御なども可能である。また、フロントホイールシリンダ圧が第1の閾値以下又は第2の閾値以上の少なくともいずれか一方で、フロントホイールシリンダ圧の増加に対するホイールシリンダ圧の変化量が減少する負勾配区分を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、本発明の一実施例に係るブレーキ制御装置の概略構成図である。
【図2】図2は、図1に示されたブレーキ制御装置の電子制御ユニットによって実行される後輪浮き上がり防止のためのブレーキ制御の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図2の後輪浮き上がり判定工程の詳細な処理手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図4】図4は、後輪浮き上がりを判定するための関数の一例を示す、ホイールシリンダ圧に対するホイールシリンダ圧の変化量の関数図である。
【図5】図5は、図2の後輪浮き上がり防止のためのブレーキ制御におけるフロントホイールシリンダ圧の増圧勾配低減工程が実行されたときのホイールシリンダ圧の変化例を概略的に示した特性線図である。
【符号の説明】
【0048】
1 フロントブレーキマスタシリンダ
2 リアブレーキマスタシリンダ
3 フロントホイールシリンダ
4 リアホイールシリンダ
16 フロントリザーバ
24 リアリザーバ
35 ブレーキハンドル
36 ブレーキペダル
47 圧力センサ
51 電子制御ユニット(ECU)
101 油圧ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車のブレーキ制御方法であって、
フロントホイールシリンダ圧を検出し、
フロントホイールシリンダ圧の変化量を検出し、
検出された前記フロントホイールシリンダ圧及び前記フロントホイールシリンダ圧の変化量が、後輪の浮き上がりが発生し得るブレーキ条件に該当するか否かを判定し、
前記ブレーキ条件に該当していると判定した場合、前記フロントホイールシリンダ圧の増加を制限する、各工程を備える、ブレーキ制御方法。
【請求項2】
前記ブレーキ条件の判定のためフロントホイールシリンダ圧に関するフロントホイールシリンダ圧の変化量の関数を予め決定しておく工程を更に備える、請求項1に記載のブレーキ制御方法。
【請求項3】
前記判定工程では、検出されたフロントホイールシリンダ圧及びフロントホイールシリンダ圧の変化量により定められた状態が、前記関数によって画定される境界を超えた領域にあるとき、前記ブレーキ条件に該当していると判定する、請求項2に記載のブレーキ制御方法。
【請求項4】
前記関数は、前記フロントホイールシリンダ圧の増加に対して前記ホイールシリンダ圧の変化量が減少する、少なくとも1つの負勾配区分を有する、請求項3に記載のブレーキ制御方法。
【請求項5】
前記関数は、各々異なる2つ以上の前記負勾配区分を有する、請求項4に記載のブレーキ制御方法。
【請求項6】
前記2つ以上の負勾配区分のうち、より高いフロントホイールシリンダ圧の領域で画定された区分が、より低い領域で画定された区分よりも減少勾配が急峻である、請求項5に記載のブレーキ制御方法。
【請求項7】
前記フロントホイールシリンダ圧が第1の閾値以下であるとき、前記フロントホイールシリンダ圧の変化量に依らずに、前記フロントホイールシリンダ圧の増加を制限する工程を実行しない、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のブレーキ制御方法。
【請求項8】
前記関数は、前記フロントホイールシリンダ圧が第2の閾値以上であるとき、前記フロントホイールシリンダ圧の増加に対して前記フロントホイールシリンダ圧の変化量が一定となる、一定勾配区分を有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のブレーキ制御方法。
【請求項9】
前記フロントホイールシリンダ圧の増加を制限する工程では、該フロントホイールシリンダ圧の増圧勾配を低減する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のブレーキ制御方法。
【請求項10】
ブレーキ制御装置であって、
フロントホイールシリンダ圧を検出する、圧力検出手段と、
フロントホイールシリンダ圧の変化量を検出する、圧力変化量検出手段と、
検出された前記フロントホイールシリンダ圧及び前記フロントホイールシリンダ圧の変化量が、後輪の浮き上がりが発生し得るブレーキ条件に該当するか否かを判定する判定手段と、
前記ブレーキ条件に該当していると判定した場合、前記フロントホイールシリンダ圧の増加を制限する、ブレーキ制御手段と、
を備える、ブレーキ制御装置。
【請求項11】
前記ブレーキ条件の判定のためフロントホイールシリンダ圧に関するフロントホイールシリンダ圧の変化量の関数を記憶する記憶手段を更に備える、請求項10に記載のブレーキ制御装置。
【請求項12】
前記判定装置は、検出されたフロントホイールシリンダ圧及びフロントホイールシリンダ圧の変化量により定められた状態が、前記関数によって画定される境界を超えた領域にあるとき、前記ブレーキ条件に該当していると判定する、請求項11に記載のブレーキ制御装置。
【請求項13】
前記関数は、前記フロントホイールシリンダ圧の増加に対して前記ホイールシリンダ圧の変化量が減少する、少なくとも1つの負勾配区分を有する、請求項12に記載のブレーキ制御装置。
【請求項14】
前記関数は、各々異なる2つ以上の前記負勾配区分を有する、請求項13に記載のブレーキ制御装置。
【請求項15】
前記2つ以上の負勾配区分のうち、より高いフロントホイールシリンダ圧の領域で画定された区分が、より低い領域で画定された区分よりも減少勾配が急峻である、請求項14に記載のブレーキ制御装置。
【請求項16】
前記ブレーキ制御装置は、前記フロントホイールシリンダ圧が第1の閾値以下であるとき、前記フロントホイールシリンダ圧の変化量に依らずに、前記フロントホイールシリンダ圧の増圧勾配の低減工程を実行しない、請求項10乃至15のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。
【請求項17】
前記関数は、前記フロントホイールシリンダ圧が第2の閾値以上であるとき、前記フロントホイールシリンダ圧の増加に対して前記フロントホイールシリンダ圧の変化量が一定となる、一定勾配区分を有する、請求項10乃至16のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。
【請求項18】
前記ブレーキ制御手段は、前記フロントホイールシリンダ圧の増加の制限として、前記フロントホイールシリンダ圧の増圧勾配を低減する、請求項10乃至17のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−207613(P2008−207613A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44077(P2007−44077)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【出願人】(391009671)バイエリッシェ モートーレン ウエルケ アクチエンゲゼルシャフト (194)
【氏名又は名称原語表記】BAYERISCHE MOTOREN WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】