説明

自動二輪車のブレーキ装置

【課題】前後連動ブレーキシステム及びABSモジュレータを備えても、より簡便で低コストの構成を実現することができる自動二輪車のブレーキ装置を提供する。
【解決手段】自動二輪車のブレーキ装置10は、前輪側キャリパBFRに備えたメカサーボ機構24の出力ポート54を後輪側キャリパBRに接続した前後連動ブレーキシステムを備え、ABS作動時のブレーキロックを防止するために、ブレーキ油圧経路の一部を断続するカット弁である常開型電磁弁VF3を有するABSモジュレータ20を備えており、ABSモジュレータ20の常開型電磁弁VF3をメカサーボ機構24の油圧入力側にのみ接続し、出力ポート54には接続しない構成とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪ブレーキに備えたメカサーボ機構の油圧出力側を後輪ブレーキに接続した前後連動ブレーキシステムと、ブレーキ油圧経路の一部を断続するカット弁を有するABSモジュレータとを備えた自動二輪車のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のブレーキ装置として、ブレーキレバー及びブレーキペダルの一方を操作した際に、操作した側の車輪のブレーキキャリパに液圧(油圧)を作用させると共に、操作されない側の車輪のブレーキキャリパにも液圧を作用させる前後連動ブレーキシステム(Dual CBS:Combined Brake System)が知られている。
【0003】
特許文献1には、前後連動ブレーキシステムを備えた自動二輪車のブレーキ装置において、前輪ブレーキにメカサーボ機構を備え、該メカサーボ機構の油圧出力側を後輪ブレーキに接続した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2890215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の構成の場合、ブレーキ油圧経路の一部を断続するABSモジュレータを前輪ブレーキ及び後輪ブレーキにそれぞれ対応するように2台設けており、このため、ABSモジュレータを構成するカット弁がメカサーボ機構の油圧入力側及び油圧出力側の両方に接続されている。従って、当該ブレーキ装置の構造が複雑で高価なものになり易く、ブレーキ装置の搭載車種や搭載条件等によっては、より簡便で低コストの構成が望まれている。
【0006】
本発明はこのような従来技術に関連してなされたものであり、前後連動ブレーキシステム及びABSモジュレータを備えても、より簡便で低コストの構成を実現することができる自動二輪車のブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の自動二輪車のブレーキ装置は、前輪ブレーキ(BFR)に備えたメカサーボ機構(24)の油圧出力側(54)を後輪ブレーキ(BR)に接続した前後連動ブレーキシステムを備え、ABS作動時のブレーキロックを防止するために、ブレーキ油圧経路の一部を断続するカット弁(VF1、VF2、VF3、VF4、VR1、VR2、VR3、VR4)を有するABSモジュレータ(20)を備えた自動二輪車のブレーキ装置において、前記ABSモジュレータ(20)のカット弁(VF3)を、前記メカサーボ機構(24)の油圧入力側にのみ接続し、油圧出力側(54)には接続していないことを特徴とする。なお、括弧書きの符号は、本発明の理解の容易化のために添付図面中の符号に倣って付したものであり、本発明がその符号を付けたものに限定して解釈されるものではなく、以下同様である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前部ブレーキ操作部(12)への入力操作に基づき前部マスタシリンダ(16)で発生する液圧を前記前輪ブレーキ(BFL、BFR)に供給する第1ブレーキ油圧経路(F1、F2)に、前記カット弁(VF1、VF3)を接続したことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、後部ブレーキ操作部(14)への入力操作に基づき後部マスタシリンダ(18)で発生する液圧を前記前輪ブレーキ(BFR)に供給する第2ブレーキ油圧経路(R2)に、前記カット弁(VR3)を接続したことを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記メカサーボ機構(24)はブレーキキャリパ(BFR)に接続され、該ブレーキキャリパ(BFR)の変位に連動して液圧を発生するマスタシリンダ(22)を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記ABSモジュレータ(20)は、ブレーキ液を前部マスタシリンダ(16)及び後部マスタシリンダ(18)に汲み上げるために該前部マスタシリンダ(16)及び該後部マスタシリンダ(18)にそれぞれ対応して配設される一対のポンプ(60、62)と、各ポンプ(60、62)を駆動する共通のモータ(64)とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記前輪ブレーキ(BFL、BFR)は、前輪の左右の一方に設けられて前記メカサーボ機構(24)を有するブレーキ(BFR)と、他方に設けられて前記メカサーボ機構(24)を有さないブレーキ(BFL)とを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、前記カット弁(VF1、VF2、VR1、VR2)は、前輪ブレーキ(BFL、BFR)及び後輪ブレーキ(BR)に向かう油圧経路を断続するIN用(VF1、VF3、VR1、VR3)と、前部マスタシリンダ(16)及び後部マスタシリンダ(18)に向かう油圧経路を断続するOUT用(VF2、VF4、VR2、VR4)とを含む一対として備えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、前後連動ブレーキシステム及びABSモジュレータを備えたブレーキ装置において、ABSモジュレータのカット弁をメカサーボ機構の油圧入力側にのみ接続し、油圧出力側には接続しないことにより、カット弁の数を少なくすることができ、ABSモジュレータの小型化及び簡素化が可能となり、当該ブレーキ装置を簡便で低コストの構成にすることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、前部マスタシリンダで発生する液圧を前輪ブレーキに供給する第1ブレーキ油圧経路にカット弁を接続することにより、前部マスタシリンダからの液圧を確実に断続して、前輪ブレーキに所定のアンチロック制御を作用させることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、後部マスタシリンダで発生する液圧を前輪ブレーキに供給する第2ブレーキ油圧経路にカット弁を接続することにより、前後連動ブレーキシステムにより後部ブレーキ操作部の操作に連動して駆動される前輪ブレーキに所定のアンチロック制御を作用させることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、メカサーボ機構がブレーキキャリパの変位に連動して液圧を発生するマスタシリンダを備えることにより、簡単な構造でメカサーボ機構を構成することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、前記ABSモジュレータは、前部マスタシリンダ及び後部マスタシリンダにブレーキ液を汲み上げるための一対のポンプを共通のモータによって駆動する。このため、モータ数を最小限とすることができ、ABSモジュレータの一層の小型化及び低コスト化が可能となっている。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、前輪ブレーキが、前輪の左右の一方に設けられてメカサーボ機構を有するブレーキと、他方に設けられてメカサーボ機構を有さないブレーキとを備えて構成されることにより、前後連動ブレーキシステム及びABSモジュレータを備えたブレーキ装置をより簡便且つ低コストに構成することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、前記カット弁は、前輪ブレーキ及び後輪ブレーキに向かう油圧経路を断続するIN用と、前部マスタシリンダ及び後部マスタシリンダに向かう油圧経路を断続するOUT用とを含む一対が備えられることにより、簡便な構成でABSモジュレータを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置の構成図である。
【図2】図1に示す自動二輪車のブレーキ装置に備えられるメカサーボ機構の構成例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る自動二輪車のブレーキ装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置10の構成図である。本実施形態に係る自動二輪車のブレーキ装置10は、各種の自動二輪車に搭載され、運転者(ライダー)によるブレーキレバー12及びブレーキペダル14への入力操作に基づき、前輪ブレーキである前輪側キャリパBFL、BFR及び後輪ブレーキである後輪側キャリパBRに液圧(ブレーキ圧、油圧)を供給し、車両に所定の制動力を付与する装置である。
【0024】
図1に示すように、自動二輪車のブレーキ装置10(以下、「ブレーキ装置10」ともいう)の液圧系統は、ブレーキレバー(前部ブレーキ操作部)12への入力操作に基づき前部マスタシリンダ16で発生する液圧を前輪側キャリパBFL、BFRにそれぞれ供給する前部ブレーキ油圧経路(第1ブレーキ油圧経路)F1、F2と、ブレーキペダル(後部ブレーキ操作部)14への入力操作に基づき後部マスタシリンダ18で発生する液圧を後輪側キャリパBR及び前輪側キャリパBFRにそれぞれ供給する後部ブレーキ油圧経路(第2ブレーキ油圧経路)R1、R2とを備える。前部ブレーキ油圧経路F1、F2及び後部ブレーキ油圧経路R1、R2の途中には、ブレーキ油圧経路の一部を断続するアンチロック制御用のABSモジュレータ20が接続される。
【0025】
前輪ブレーキを構成するブレーキキャリパのうち、一方の前輪側キャリパBFRには、該前輪側キャリパBFRの変位に連動してセカンダリマスタシリンダ22で液圧を発生可能なメカサーボ機構24が設けられ、他方の前輪側キャリパBFLにはメカサーボ機能が設けられていない。これら前輪側キャリパBFR、BFLは、前輪の左右両側にそれぞれ備えられる。
【0026】
前輪側キャリパBFLには、一対のポット26、26と、両ポット26、26間に配置されるポット28とが設けられる。同様に、前輪側キャリパBFRには、一対のポット30、30と、両ポット30、30間に配置されるポット32とが設けられ、後輪側キャリパBRには、一対のポット34、34と、両ポット34、34間に配置されるポット36とが設けられる。前輪側キャリパBFL、BFR及び後輪側キャリパBRは、各ポット26、28、30、32、34、36に液圧が付与されることで各ディスクDFL、DFR、DRを挟持して所定の制動力を発生する。
【0027】
ブレーキ装置10の電気系統は、前輪及び後輪がロックされそうな状態を検出するホイールスピードセンサ38、40が接続されたECU(電子制御ユニット)42と、ECU42の制御下にABSモジュレータ20の作動状態を運転者に通知するインジケータ44とを備える。
【0028】
このようなブレーキ装置10において、前部ブレーキ油圧経路F1は、常開型電磁弁(カット弁)VF1を介して前部マスタシリンダ16の油圧出力側と前輪側キャリパBFLのポット26、26、28とを接続している。該常開型電磁弁VF1には、ポット26、26、28から前部マスタシリンダ16側へのブレーキ液の流通を許容するチェック弁CF1が並列に接続される。ポット26、26、28は、常閉型電磁弁(カット弁)VF2を介してリザーバ46に接続される。
【0029】
前部ブレーキ油圧経路F2は、常開型電磁弁(カット弁)VF3を介して前部マスタシリンダ16の油圧出力側と前輪側キャリパBFRのポット30、30とを接続している。該常開型電磁弁VF3には、ポット30、30から前部マスタシリンダ16側へのブレーキ液の流通を許容するチェック弁CF2が並列に接続される。ポット30、30は、常閉型電磁弁(カット弁)VF4を介してリザーバ46に接続される。
【0030】
後部ブレーキ油圧経路R1は、常開型電磁弁(カット弁)VR1を介して後部マスタシリンダ18の油圧出力側と後輪側キャリパBRのポット34、34とを接続している。該常開型電磁弁VR1には、ポット34、34から後部マスタシリンダ18側へのブレーキ液の流通を許容するチェック弁CR1が並列に接続される。ポット34、34は、常閉型電磁弁(カット弁)VR2を介してリザーバ48に接続される。
【0031】
後部ブレーキ油圧経路R2は、常開型電磁弁(カット弁)VR3を介して後部マスタシリンダ18の油圧出力側と前輪側キャリパBFRのポット32とを接続している。該常開型電磁弁VR3には、ポット32から後部マスタシリンダ18側へのブレーキ液の流通を許容するチェック弁CR2が並列に接続される。ポット32は、常閉型電磁弁(カット弁)VR4を介してリザーバ48に接続される。さらに、後部ブレーキ油圧経路R2は、前輪側キャリパBFRのポット32の手前で分岐して、メカサーボ機構24を構成するセカンダリマスタシリンダ22のセカンダリポート50に接続される。後部ブレーキ油圧経路R2の途中には、遅動弁(DV)52が接続される。
【0032】
メカサーボ機構24の油圧出力側、つまりセカンダリマスタシリンダ22の出力ポート54は、出力経路56を介して後輪側キャリパBRのポット36に接続される。出力経路56の途中には、比例制御弁(圧力制御弁、PCV)58が接続される。比例制御弁58は、前後輪の理想的な制動力配分特性に応じた入出力特性を持ち、メカサーボ機構24からの液圧を制御する制御弁である。
【0033】
このように、ブレーキ装置10は、ブレーキレバー12が操作されると前輪側キャリパBFL、BFRが駆動され、これと連動してメカサーボ機構24を介して後輪側キャリパBRも駆動される一方、ブレーキペダル14が操作されると後輪側キャリパBRが駆動され、これと連動して前輪側キャリパBFRも駆動される前後連動ブレーキシステム(Dual CBS)を備えている。
【0034】
ブレーキ装置10は、さらに、前後連動ブレーキシステムにアンチロック制御を適用するABSモジュレータ20を備えている。ABSモジュレータ20は、ブレーキ油圧経路の一部を断続するカット弁としてブレーキキャリパへのIN側となる常開型電磁弁VF1、VF3、VR1、VR3と、ブレーキキャリパからのOUT側となる常閉型電磁弁VF2、VF4、VR2、VR4とを各ブレーキ油圧経路F1、F2、R1、R2のそれぞれに一対ずつ備えると共に、ブレーキ液をリザーバ46、48から前部マスタシリンダ16及び後部マスタシリンダ18へと汲み上げるポンプ60、62と、両ポンプ60、62を駆動する共通のモータ64とを備える。
【0035】
常開型電磁弁VF1、チェック弁CF1及び常閉型電磁弁VF2が、前部ブレーキ油圧経路F1のアンチロック制御を行う制御弁機構F1Vを構成し、常開型電磁弁VF3、チェック弁CF2及び常閉型電磁弁VF4が、前部ブレーキ油圧経路F2のアンチロック制御を行う制御弁機構F2Vを構成する。同様に、常開型電磁弁VR1、チェック弁CR1及び常閉型電磁弁VR2が、後部ブレーキ油圧経路R1のアンチロック制御を行う制御弁機構R1Vを構成し、常開型電磁弁VR3、チェック弁CR2及び常閉型電磁弁VR4が、後部ブレーキ油圧経路R2のアンチロック制御を行う制御弁機構R2Vを構成する。
【0036】
制御弁機構F1Vは、ホイールスピードセンサ38の検出等に基づくECU42の制御下に、前部マスタシリンダ16を前輪側キャリパBFLのポット26、26、28に連通させると共に該ポット26、26、28をリザーバ46から遮断する昇圧状態、前部マスタシリンダ16を前輪側キャリパBFLのポット26、26、28から遮断すると共に該ポット26、26、28をリザーバ46から遮断する液圧保持状態、及び、前部マスタシリンダ16を前輪側キャリパBFLのポット26、26、28から遮断すると共に該ポット26、26、28をリザーバ46に連通する減圧状態を、各電磁弁VF1、VF3のオン・オフデューティ制御により切換えるアンチロック制御を実行することができる。なお、制御弁機構F2V、R1V、R2Vのアンチロック制御についても当該制御弁機構F1Vの場合と略同様に、ホイールスピードセンサ38、40の検出等に基づくECU42の制御下に実行されるため、詳細な説明は省略する。
【0037】
このようなアンチロック制御時、ポンプ60、62が作動を続けることにより、前輪側キャリパBFL、BFR及び後輪側キャリパBRの各ポットから排出されるブレーキ液が、ポンプ60、62により前部マスタシリンダ16及び後部マスタシリンダ18へと戻されるため、ブレーキレバー12やブレーキペダル14のオーバーストロークの発生を防止することができる。
【0038】
図2は、ブレーキ装置10に備えられるメカサーボ機構24の構成例を示す概略側面図である。
【0039】
前輪右側に設けられる前輪側キャリパBFRは、図2に示すように、フロントフォーク70下部のブラケット72にピン74を介して揺動可能に枢支されており、メカサーボ機構24がフロントフォーク70上部のブラケット76、76に取り付けられている。フロントフォーク70のブラケット72、76間に設けられたブラケット78には、略L字状のリンク80がピン82によって揺動可能に枢支されている。リンク80は、一端側に、セカンダリマスタシリンダ22のピストン(図示せず)を進退するロッド84下端の連結部86がピン88によって枢支され、他端側に、前輪側キャリパBFR上端の連結部90がピン92によって枢支される。
【0040】
従って、例えば、ポット30、30に液圧が付与されて制動力が発生すると、ディスクDFR(前輪)の矢印A方向への回転に連れ回りされて前輪側キャリパBFRも矢印A方向に揺動する。そうすると、リンク80が矢印B方向に揺動してロッド84を押し上げるため、メカサーボ機構24(セカンダリマスタシリンダ22)で二次的な液圧が発生し、該液圧が出力ポート54から出力されることになる。
【0041】
次に、以上のように構成されるブレーキ装置10の作用について説明する。
【0042】
自動二輪車の走行中、運転者がブレーキレバー12を操作すると、前部マスタシリンダ16で発生した液圧が前部ブレーキ油圧経路F1、F2を介して前輪側キャリパBFL、BFRに供給され、前輪ブレーキである前輪側キャリパBFL、BFRが所定の制動力を発生する。この際、前輪側キャリパBFRではメカサーボ機構24が作用し、セカンダリマスタシリンダ22で液圧を発生すると共に、該液圧が出力経路56を介して後輪側キャリパBRのポット36に供給される。従って、前輪ブレーキと連動して後輪ブレーキである後輪側キャリパBRも所定の制動力を発生し、車両に適切な制動力が付与される。
【0043】
一方、運転者がブレーキペダル14を操作すると、後部マスタシリンダ18で発生した液圧が後部ブレーキ油圧経路R1、R2を介して後輪側キャリパBR及び前輪側キャリパBFRに供給される。この際、遅動弁52が適切に制御されることにより、後輪側キャリパBRが所定の制動力を発生し、これと連動して前輪側キャリパBFRも所定の制動力を発生する。なお、ブレーキ装置10では、後部ブレーキ油圧経路R2からの液圧は、ポット32に作用すると同時に、セカンダリポート50にも作用する。これにより、1台のポット32によって発生する前輪側キャリパBFRでの制動力が低く、セカンダリマスタシリンダ22を駆動するロッド84の押し上げ力が低い場合であっても、セカンダリポート50からの液圧が直接的にセカンダリマスタシリンダ22の図示しないピストン背圧側に作用するため、メカサーボ機構24から出力される液圧は所定の大きさが確保され、後輪側キャリパBRのポット36にも所定の液圧を供給することができる。
【0044】
ところで、このようなブレーキング時に前輪でスリップが発生し、それがホイールスピードセンサ38、40及びECU42で検出された場合には、ECU42の制御下にABSモジュレータ20が制御され、前部ブレーキ油圧経路F1、F2及び後部ブレーキ油圧経路R2に対するアンチロック制御が実行される。ここで、前輪スリップにもかかわらず後部ブレーキ油圧経路R2についてのアンチロック制御も行うのは、当該ブレーキ装置10が前後連動ブレーキシステムを採用しているため、発生した前輪スリップが、ブレーキレバー12の操作によるもの又はブレーキペダル14の操作によるものの両方の可能性があるからである。勿論、ECU42等により、ブレーキレバー12が操作されたことによる前輪スリップであることが明確に認識されている場合には、後部ブレーキ油圧経路R2でのアンチロック制御を実行しなくてもよい。
【0045】
同様に、ブレーキング時に後輪でスリップが発生し、それがホイールスピードセンサ40で検出された場合には、後部ブレーキ油圧経路R1、R2及び前部ブレーキ油圧経路F2に対するアンチロック制御を実行する。また、前後輪でスリップが発生した場合には、前部ブレーキ油圧経路F1、F2及び後部ブレーキ油圧経路R1、R2に対するアンチロック制御を実行する。
【0046】
この場合、本実施形態に係るブレーキ装置10では、ブレーキレバー12及びブレーキペダル14のいずれか一方が操作されると、前輪ブレーキ及び後輪ブレーキが連動して駆動される前後連動ブレーキシステムを備え、さらにブレーキング時の車輪スリップを検出してアンチロック制御を実行するABSモジュレータ20を備えた構成において、メカサーボ機構24の油圧入力側にのみABSモジュレータ20のカット弁(常開型電磁弁VF3、VR3)を接続し、油圧出力側である出力経路56には接続していない。
【0047】
従って、ABSモジュレータ20を構成するカット弁の数を少なくすることができ、ABSモジュレータ20の小型化及び簡素化が可能となり、当該ブレーキ装置10を簡便で低コストの構成にすることができる。
【0048】
また、上記従来技術のように、前輪ブレーキ及び後輪ブレーキにそれぞれ対応する複数のABSモジュレータを配置する必要がなく、一層簡便で低コストの構成を実現可能であるため、その構造上、各機器の配置に制約が多い自動二輪車にとっては特に有効である。しかも、1台のABSモジュレータ20による簡便な構成としたことで、従来より広汎に使用されている四輪自動車用のABSモジュレータを、その制御アルゴリズムと共に自動二輪車に容易に転用することができるため、一層のコスト低減が可能となる。
【0049】
また、ABSモジュレータ20は、前部マスタシリンダ16及び後部マスタシリンダ18にブレーキ液を汲み上げるための一対のポンプ60、62を共通のモータ64によって駆動する。このため、モータ数を最小限とすることができ、ABSモジュレータ20の一層の小型化及び低コスト化が可能となっている。
【0050】
本発明は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることは勿論である。
【0051】
例えば、メカサーボ機構24は、前輪の左右いずれのキャリパ側に設けてもよく、その構成は図2に示すもの以外であってもよい。
【0052】
また、後部ブレーキ操作部としては、ブレーキペダル14以外の構造、例えば、レバー式等であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…自動二輪車のブレーキ装置 12…ブレーキレバー
14…ブレーキペダル 16…前部マスタシリンダ
18…後部マスタシリンダ 20…ABSモジュレータ
22…セカンダリマスタシリンダ 24…メカサーボ機構
42…ECU 54…出力ポート
60、62…ポンプ 64…モータ
CF1、CF2、CR1、CR2…チェック弁
F1、F2…前部ブレーキ油圧経路 R1、R2…後部ブレーキ油圧経路
VF1、VF3、VR1、VR3…常開型電磁弁
VF2、VF4、VR2、VR4…常閉型電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪ブレーキ(BFR)に備えたメカサーボ機構(24)の油圧出力側(54)を後輪ブレーキ(BR)に接続した前後連動ブレーキシステムを備え、ABS作動時のブレーキロックを防止するために、ブレーキ油圧経路の一部を断続するカット弁(VF1、VF2、VF3、VF4、VR1、VR2、VR3、VR4)を有するABSモジュレータ(20)を備えた自動二輪車のブレーキ装置において、
前記ABSモジュレータ(20)のカット弁(VF3)を、前記メカサーボ機構(24)の油圧入力側にのみ接続し、油圧出力側(54)には接続していないことを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前部ブレーキ操作部(12)への入力操作に基づき前部マスタシリンダ(16)で発生する液圧を前記前輪ブレーキ(BFL、BFR)に供給する第1ブレーキ油圧経路(F1、F2)に、前記カット弁(VF1、VF3)を接続したことを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
後部ブレーキ操作部(14)への入力操作に基づき後部マスタシリンダ(18)で発生する液圧を前記前輪ブレーキ(BFR)に供給する第2ブレーキ油圧経路(R2)に、前記カット弁(VR3)を接続したことを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記メカサーボ機構(24)はブレーキキャリパ(BFR)に接続され、該ブレーキキャリパ(BFR)の変位に連動して液圧を発生するマスタシリンダ(22)を備えることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記ABSモジュレータ(20)は、ブレーキ液を前部マスタシリンダ(16)及び後部マスタシリンダ(18)に汲み上げるために該前部マスタシリンダ(16)及び該後部マスタシリンダ(18)にそれぞれ対応して配設される一対のポンプ(60、62)と、各ポンプ(60、62)を駆動する共通のモータ(64)とを有することを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記前輪ブレーキ(BFL、BFR)は、前輪の左右の一方に設けられて前記メカサーボ機構(24)を有するブレーキ(BFR)と、他方に設けられて前記メカサーボ機構(24)を有さないブレーキ(BFL)とを備えたことを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1記載の自動二輪車のブレーキ装置において、
前記カット弁(VF1、VF2、VR1、VR2)は、前輪ブレーキ(BFL、BFR)及び後輪ブレーキ(BR)に向かう油圧経路を断続するIN用(VF1、VF3、VR1、VR3)と、前部マスタシリンダ(16)及び後部マスタシリンダ(18)に向かう油圧経路を断続するOUT用(VF2、VF4、VR2、VR4)とを含む一対として備えられることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−46345(P2011−46345A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198173(P2009−198173)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】