説明

自動二輪車

【課題】スロットル弁と無段変速機の双方を電子制御する自動二輪車において、スロットル弁の制御において異常が発生した場合に、後輪に伝達されるトルクが急激に低下するのを抑制する。
【解決手段】駆動制御装置は、スロットル開度に基づいて無段変速機の変速比を変化させる変速制御部と、スロットル開度の制御において異常が発生したか否かを判定する異常判定部51bと、異常判定部51bが異常が発生したと判断した場合に、スロットル開度を低減する制御を行う異常時スロットル制御部51aと、異常判定部51bが異常が発生したと判断した場合に、変速比が高速側に変化することを抑制する異常時変速制御部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットル弁と無段変速機の双方を電子制御する自動二輪車に関し、特に、スロットル弁の制御で異常が発生した場合における無段変速機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスロットル弁を電子制御する自動二輪車がある。このような自動二輪車においては、スロットルセンサ等が故障した場合など、スロットル弁の制御において異常が発生した場合に、スロットル開度を徐々に縮小する制御を行うものがある。
【0003】
また、アクセルグリップとスロットル弁とがワイヤーで連結された自動二輪車において、無段変速機を電子制御するものがある(例えば、特許文献1)。従来の無段変速機の電子制御では、車速とスロットル開度とに基づいてエンジンの目標回転速度を設定し、エンジン回転速度が目標回転速度になるように変速比が制御されている。この制御では、例えば、スロットル開度が縮小した場合には、変速比が高速側(変速比の低い側)に変化するため、後輪に伝わるトルクは小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−208988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スロットル弁と無段変速機の双方を電子制御する自動二輪車において、上述した従来のスロットル弁の制御と無段変速機の制御とを行うと、スロットル弁の制御において異常が生じた場合に、後輪に伝達されるトルクが急減する。つまり、スロットル弁の制御において異常が生じた場合には、スロットル開度が縮小されエンジンのトルクが減少するのに加えて、無段変速機の制御では、スロットル開度が小さくなることに伴って変速比が高速側に変化するため、トルクの急減が生じる。特に、自動二輪車は車体重量が軽いため、このようなトルクの急減は搭乗者の乗車感に大きな影響を与える。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、スロットル弁と無段変速機の双方を電子制御する自動二輪車において、センサの異常など、スロットル弁の制御において異常が発生した場合に、後輪に伝達されるトルクが急激に低下するのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る自動二輪車は、エンジンに供給する空気量を調整するスロットル弁と、前記エンジンの回転を減速して後輪に伝達する無段変速機と、前記スロットル弁の開度であるスロットル開度を制御するとともに、前記無段変速機の変速比を制御する駆動制御装置とを備える。前記駆動制御装置は、搭乗者のアクセル操作に基づいてスロットル開度を制御するスロットル制御部と、スロットル開度に基づいて前記無段変速機の変速比を変化させる変速制御部と、スロットル開度の制御において異常が発生したか否かを判定する異常判定部と、前記異常判定部が異常が発生したと判断した場合に、スロットル開度を低減する制御を行う異常時スロットル制御部と、前記異常判定部が異常が発生したと判断した場合に、変速比が高速側に変化することを抑制する異常時変速制御部と、を有する。
【0008】
本発明によれば、スロットル開度の制御において異常が発生した場合に、変速比が高速側に変化することが抑制される。そのため、後輪に伝達されるトルクの急減が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る自動二輪車の側面図である。
【図2】上記自動二輪車が有するエンジン、無段変速機及び駆動制御装置の概略図である。
【図3】上記駆動制御装置が有するエンジン制御装置の制御部の機能ブロック図である。
【図4】上記駆動制御装置が有する変速制御装置の制御部の機能ブロック図である。
【図5】上記変速制御装置が実行する制御において利用される変速制御マップの例を示すグラフである。
【図6】上記変速制御装置が有する制御部の異常時変速制御部の制御における、車速と実エンジン回転速度の変化を説明するための図である。
【図7】上記変速制御装置が実行する処理の例を示すフローチャートである。
【図8】本発明の他の形態に係る自動二輪車の変速制御装置が実行する処理の例を示すフローチャートである。
【図9】図8に示す制御における車速と実エンジン回転速度の変化を説明するための図である。
【図10】本発明の他の形態に係る自動二輪車の変速制御装置が実行する制御における車速と実エンジン回転速度の変化の例を説明するための図である。
【図11】図10に示す変速制御装置が実行する処理の例を示すフローチャートである。
【図12】本発明の他の実施形態に係る自動二輪車の変速制御装置が有する制御部の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施形態の例である自動二輪車1の側面図である。図2は、自動二輪車1が有するエンジン20、無段変速機30及び駆動制御装置10の概略図である。
【0011】
図1又は図2に示すように、自動二輪車1は、前輪2と、後輪3とを有している。また、自動二輪車1は、エンジン20と、エンジン20の回転を減速して後輪3に伝達する無段変速機30と、エンジン20と無段変速機30とを制御する駆動制御装置10とを有している。
【0012】
図1に示すように、前輪2は、フロントサスペンション4の下端部によって回転可能に支持されている。フロントサスペンション4の上部には、左右に回転可能に支持されたステアリングシャフト5が設けられている。ステアリングシャフト5の上方には、ハンドル6が配置されている。ハンドル6と、ステアリングシャフト5と、フロントサスペンション4と、前輪2は、一体的に左右に回転するように設けられており、ハンドル6の操作によって前輪2の操舵が可能となっている。図2に示すように、ハンドル6の右側には、搭乗者によって操作されて回転するアクセルグリップ6aが設けられている。
【0013】
図1に示すように、ハンドル6の後方には、搭乗者が跨って座ることのできるシート7が配置されている。シート7の下方にはエンジン20が配置されている。エンジン20は、シリンダ21と、クランクケース23とを有している。図2に示すように、シリンダ21には吸気管24が接続されている。吸気管24には、燃料タンク(不図示)内の燃料を、吸気管24内に噴射する燃料供給装置26が設けられ、燃料供給装置26によって噴射された燃料はシリンダ21に供給される。燃料供給装置26は、電子制御式の燃料噴射装置であり、燃料供給装置26による燃料の噴射量は駆動制御装置10によって制御される。
【0014】
吸気管24には、内部にスロットル弁25aが配置されたスロットルボディ25が接続されている。スロットル弁25aは、スロットルボディ25を流れる空気量を調整するスロットル弁25aが配置されている。スロットル弁25aを通過した空気もシリンダ21に供給される。スロットル弁25aは電子制御式のスロットルであり、スロットルボディ25には、スロットル弁25aを開閉するスロットルアクチュエータ25cが設けられている。スロットルアクチュエータ25cは、駆動制御装置10から供給される電力によって動作するモータを含み、駆動制御装置10はモータに供給する電力を変化させることで、スロットル弁25aの開度であるスロットル開度を制御している。
【0015】
シリンダ21の内部には、シリンダ21に供給された燃料が燃焼することによって往復動するピストン21aが配置されている。ピストン21aには、クランクケース23の内部に配置されたクランクシャフト23aに連結されており、ピストン21aが往復動することによってクランクシャフト23aが回転する。なお、シリンダ21には、燃料の燃焼によって発生した排気ガスを排出する排気管27が接続されている。
【0016】
無段変速機30は、ベルト式の無段変速機であり、クランクシャフト23aと一体的に回転するよう設けられた駆動プーリ31と、駆動プーリ31から回転が伝達される被駆動プーリ32と、駆動プーリ31と被駆動プーリ32とに巻かれ、駆動プーリ31の回転を被駆動プーリ32に伝達する環状のベルト33とを有している。被駆動プーリ32は被駆動軸34上に設けられ、被駆動軸34と一体的に回転可能となっている。
【0017】
駆動プーリ31は、クランクシャフト23aの軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ31aと、軸方向の動きが規制された固定シーブ31bとを有している。被駆動プーリ32も、被駆動軸34の軸方向に移動可能に設けられた可動シーブ32aと、軸方向の動きが規制された固定シーブ32bとを有している。可動シーブ32aは、バネ(不図示)によって、固定シーブ32bに近づくように付勢されている。そして、可動シーブ31aと可動シーブ32aとが軸方向に動くことによって、無段変速機30の変速比が変化する。詳細には、可動シーブ31aが軸方向に動くと、ベルト33の駆動プーリ31に巻かれた部分の径が変化する。そして、駆動プーリ31に巻かれた部分の径の変化に伴って、可動シーブ32aは、バネの弾性力によって又は弾性力に抗して軸方向に移動し、ベルト33の被駆動プーリ32に巻かれた部分の径も変化する。
【0018】
例えば、可動シーブ31aが固定シーブ31bに近づくと、ベルト33の全体が前に移動し、駆動プーリ31に巻かれた部分の径が大きくなる。この時、可動シーブ32aは固定シーブ32bから離れ、被駆動プーリ32に巻かれた部分の径は小さくなる。これによって、無段変速機30の変速比が、高速側(トップ側(変速比の低い側))に変化する。反対に、可動シーブ31aが固定シーブ31bから離れると、ベルト33の全体が後に移動し、駆動プーリ31に巻かれた部分の径が小さくなる。この時、可動シーブ32aは固定シーブ32bに近づき、被駆動プーリ32に巻かれた部分の径は大きくなる。これによって、無段変速機30の変速比は、低速側(ロウ側(変速比の高い側))に変化する。このような、可動シーブ31aの動きによって、無段変速機30の変速比は、可動シーブ31aが固定シーブ31bに最も近づいた時の変速比(最も低い変速比(以下、最高速変速比TOP))と、可動シーブ31aが固定シーブ31bから最も離れた時の変速比(最も高い変速比(最低速変速比LOW))との間で変化する。
【0019】
無段変速機30には、モータなどによって構成され、クランクシャフト23aの軸方向に可動シーブ31aを動かすシーブアクチュエータ35が設けられている。駆動制御装置10は、シーブアクチュエータ35を作動させることによって可動シーブ31aを軸方向に動かし、これによって、無段変速機30の変速比を制御している。駆動制御装置10の制御については後において詳説する。
【0020】
被駆動軸34は、クラッチ39を介して後輪3の車軸3aに連結されており、被駆動軸34から車軸3aへの回転(トルク)の伝達は、クラッチ39を介して行われ、又はクラッチ39によって遮断される。クラッチ39は、搭乗者のクラッチ操作を要することなく接続又は切断する自動クラッチ(例えば、遠心クラッチ)であり、エンジン回転速度が予め設定された値を越えると自動的に接続し、エンジン回転速度が当該予め設定された値を下回ると自動的に切断する。
【0021】
駆動制御装置10に接続されたセンサについて説明する。自動二輪車1は、搭乗者によるアクセルグリップ6aの操作量(以下、アクセル操作量)を検知するためのアクセルセンサ6bを有している。アクセルセンサ6bは、例えばアクセルグリップ6aに設けられるポテンショメータであり、搭乗者の操作量に応じた電気信号を出力する。なお、アクセルセンサ6bはスロットルボディ25に設けられてもよい。すなわち、ワイヤーを介してアクセルグリップ6aと接続され、当該アクセルグリップ6aの操作に応じて回転する軸がスロットルボディ25に設けられ、アクセルセンサ6bはこの軸の回転量に応じた電気信号を出力してもよい。駆動制御装置10は、アクセルセンサ6bの出力信号に基づいて搭乗者のアクセル操作量を検知する。
【0022】
スロットルボディ25には、スロットル開度を検知するためのスロットルセンサ25bが設けられている。スロットルセンサ25bは、例えばポテンショメータによって構成され、スロットル開度に応じた電圧信号又は電流信号を出力する。駆動制御装置10はスロットルセンサ25bの出力信号に基づいてスロットル開度を検知する。
【0023】
無段変速機30には、当該無段変速機30の実際の変速比を検知するためのセンサが設けられている。すなわち、変速比は可動シーブ31aの位置に対応しており、変速比を検知するためのセンサとして、可動シーブ31aの位置に応じた電気信号を出力するシーブ位置センサ31cが設けられている。このシーブ位置センサ31cは、例えば、シーブアクチュエータ35を構成するモータの回転角度に応じた電気信号を出力するポテンショメータである。駆動制御装置10はシーブ位置センサ31cの出力信号に基づいて変速比を検知する。
【0024】
エンジン20には、クランクシャフト23aの回転速度に応じた周波数の信号を出力するエンジン回転速度センサ19が設けられている。駆動制御装置10は、エンジン回転速度センサ19の出力信号に基づいて、エンジン回転速度や、駆動プーリ31の回転速度を算出する。
【0025】
また、無段変速機30には、被駆動軸34の回転速度に応じた周波数の信号を出力する被駆動軸回転速度センサ18が設けられている。駆動制御装置10は、被駆動軸回転速度センサ18の出力信号に基づいて、被駆動軸34の回転速度(以下、被駆動軸回転速度)を算出する。
【0026】
さらに、後輪3の車軸3aには、車軸3aの回転速度に応じた周波数の信号を出力する車速センサ17が設けられている。駆動制御装置10は、車速センサ17の出力信号に基づいて車速を算出する。
【0027】
駆動制御装置10は、エンジン20と無段変速機30とを制御する制御装置である。この例では、駆動制御装置10は、エンジン制御装置50と、変速制御装置40と、アクチュエータ駆動回路13,15とを有している。
【0028】
エンジン制御装置50は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を有する記憶部59と、マイクロプロセッサを有し、記憶部59に予め格納されたプログラムを実行する制御部51とを有している。制御部51には、エンジン回転速度センサ19と、被駆動軸回転速度センサ18と、車速センサ17と、アクセルセンサ6bと、スロットルセンサ25bの出力信号が入力され、制御部51は、各センサによって検知した自動二輪車1の運転状態に基づいてエンジン20を制御する。例えば、制御部51は、燃料供給装置26による燃料の噴射量を制御したり、エンジン20の点火タイミングを制御する。本実施形態では、特に、制御部51は、搭乗者によるアクセルグリップ6aの操作に基づいて、スロットルアクチュエータ25cを作動させてスロットル開度を制御する。制御部51によるスロットル開度の制御については後において詳説する。
【0029】
なお、各センサは、A/Dコンバータなどを含むインターフェース回路(不図示)を介して制御部51に接続されており、各センサの出力信号は、インターフェース回路において、制御部51が処理可能な信号に変換されて当該制御部51に入力されている。
【0030】
アクチュエータ駆動回路13は、制御部51から入力される信号に応じて、スロットルアクチュエータ25cに駆動電力を供給し、当該スロットルアクチュエータ25cを作動させる。なお、エンジン制御装置50と、スロットルアクチュエータ25cと、アクセルセンサ6bと、スロットルセンサ25bと、アクチュエータ駆動回路13とによって、スロットル開度を制御する制御システムが構成されている。
【0031】
変速制御装置40は、RAMやROMを有する記憶部49と、マイクロプロセッサを有し、記憶部49に格納されたプログラムを実行して、無段変速機30の変速比を制御する制御部41とを有している。制御部41には、シーブ位置センサ31cの出力信号が入力されており、制御部41は、シーブ位置センサ31cの出力信号に基づいてシーブアクチュエータ35を作動させて、無段変速機30の変速比を制御する。なお、シーブ位置センサ31cは、A/Dコンバータなどを含むインターフェース回路(不図示)を介して制御部41に接続されており、シーブ位置センサ31cの出力信号は、インターフェース回路において、制御部41が処理可能な信号に変換されて当該制御部41に入力されている。
【0032】
アクチュエータ駆動回路15は、制御部41から入力される信号に応じて、シーブアクチュエータ35に駆動電力を供給し、当該シーブアクチュエータ35を作動させる。
【0033】
エンジン制御装置50と変速制御装置40は、バスを介して互いに接続されており、エンジン制御装置50の制御部51は、例えばCAN(Controller Area Network)のプロトコルなど、予め規定された通信プロトコルに従って、エンジン制御装置50に接続されたセンサから得られる各種データを、所定の周期(例えば、数ミリ秒)で変速制御装置40に送信する。この例では、制御部51は、エンジン回転速度センサ19の出力信号に基づいて算出したエンジン回転速度(以下、実エンジン回転速度Espd−ac)と、被駆動軸回転速度センサ18の出力信号に基づいて算出した被駆動軸34の回転速度(以下、被駆動軸回転速度Dspd)と、車速センサ17の出力信号に基づいて算出した車速Vと、スロットルセンサ25bの出力信号によって検知したスロットル開度(以下、実スロットル開度Th−ac)とを変速制御装置40に送信する。変速制御装置40は、エンジン制御装置50から受信した各種データに基づいて無段変速機30の変速比を制御する。
【0034】
エンジン制御装置50の制御部51が実行する制御について説明する。図3は制御部51の機能を示すブロック図である。同図に示すように、制御部51は、その機能として、スロットル制御部51aと、異常判定部51bと、異常時スロットル制御部51cとを有している。
【0035】
スロットル制御部51aは、搭乗者のアクセル操作に基づいてスロットル開度を制御する。すなわち、スロットル制御部51aは、アクセルセンサ6bの出力信号に基づいて、搭乗者によるアクセルグリップ6aの操作量であるアクセル操作量Accを検知し、当該アクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータ25cを作動させて、スロットル開度を制御する。
【0036】
例えば、スロットル制御部51aは、アクセル操作量とスロットル開度とを対応付けるマップや関係式等を参照して、スロットル開度のフィードバック制御を行う。すなわち、スロットル制御部51aは、マップ等を参照し、アクセル操作量Accに対応する目標スロットル開度Th−tgを算出する。そして、スロットル制御部51aは、スロットルセンサ25bによって検知した実際のスロットル開度である実スロットル開度Th−acが目標スロットル開度Th−tgに一致するように、実スロットル開度Th−acと目標スロットル開度Th−tgとの差に基づいてスロットルアクチュエータ25cを作動させる。なお、アクセル操作量とスロットル開度とを対応付けるマップ等は、記憶部59に予め格納されている。
【0037】
異常判定部51bは、スロットル開度の制御における異常の発生を判定する。具体的には、異常判定部51bは、エンジン制御装置50に接続されたセンサから入力される信号に基づいて、スロットル弁25aを制御する制御システムを構成する各装置の故障の有無を判定する。そして、異常判定部51bは、故障を検知した場合に、スロットル開度の制御において異常が発生したと判断する。
【0038】
例えば、異常判定部51bは、予め規定された範囲を超える電圧値や電流値の電気信号がスロットルセンサ25bから入力された場合に、スロットルセンサ25bが故障したと判断する。ここで、予め規定された範囲は、例えば、スロットル開度が0%であることを示す電圧値(又は電流値)から、スロットル開度が100%であることを示す電圧値(又は電流値)までの範囲である。
【0039】
同様に、異常判定部51bは、予め規定された範囲を超える電圧値や電流値の電気信号がアクセルセンサ6bから入力された場合に、アクセルセンサ6bが故障したと判断してもよい。この場合、予め規定された範囲は、アクセルグリップ6aの回転位置が最大であることを示す電圧値(又は電流値)から、回転位置が最小であることを示す電圧値(又は電流値)までの範囲である。
【0040】
また、異常判定部51bは、上述したスロットル制御部51aの制御によって出力された信号に対応して、スロットルアクチュエータ25cが作動しない場合に、スロットルアクチュエータ25c又はアクチュエータ駆動回路13が故障したと判断してもよい。例えば、スロットル制御部51aが、実スロットル開度Th−acと目標スロットル開度Th−tgとの差に応じた量だけスロットルアクチュエータ25cが動くように信号を出力したにも拘わらず、実スロットル開度Th−acが変化せず、当該差が解消されない場合に、スロットルアクチュエータ25c等が故障したと判断してもよい。
【0041】
異常判定部51bは、スロットル開度の制御において異常が発生したと判断した時に、その旨を示す情報(以下、異常通知情報)を変速制御装置40に送信して、異常の発生を変速制御装置40に通知する。
【0042】
異常時スロットル制御部51cは、異常が発生したと異常判定部51bが判断した場合に、スロットル制御部51aの制御に代わって、スロットル開度を徐々に縮小する制御を行う。すなわち、異常時スロットル制御部51cは、アクセルセンサ6bによって検知されたアクセル操作量Accに関わらず、実スロットル開度Th−acが0%に近づくようにスロットルアクチュエータ25cを作動させる。例えば、異常時スロットル制御部51cは、予め設定された速度でスロットルアクチュエータ25cを作動させて、スロットル開度Th−acを徐々に0%に近づける。
【0043】
なお、アクチュエータ駆動回路13からスロットルアクチュエータ25cへの駆動電力の供給が停止した場合に、スロットル弁25aを閉じる機構がスロットルボディ25に設けられていてもよい。例えば、スロットル弁25aを閉じる方向に付勢するバネ等がスロットルボディ25に設けられていてもよい。このような機構が設けられている場合、異常時スロットル制御部51cは、スロットルアクチュエータ25cが故障したと異常判定部51bが判断した場合、アクチュエータ駆動回路13への駆動電力の供給を停止する。
【0044】
変速制御装置40の制御部41が実行する処理について詳細に説明する。図4は制御部41の機能を示すブロック図である。図4に示すように、制御部41は、その機能として、変速制御部41aと、異常時変速制御部41bとを有している。また、異常時変速制御部41bは停止前制御部41cを有している。
【0045】
変速制御部41aは、車速Vと実スロットル開度Th−acとに基づいて無段変速機30の変速比を制御する。例えば、変速制御部41aは、車速Vと実スロットル開度Th−acとに基づいて、目標とするエンジン回転速度(以下、目標エンジン回転速度Espd−tgとする)を設定し、実エンジン回転速度Espd−acが目標エンジン回転速度Espd−tgになるように変速比を変化させる。この処理は、例えば、次のように実行される。
【0046】
まず、変速制御部41aは、車速とスロットル開度とにエンジン回転速度を対応付ける関係式やマップ(以下、変速制御マップ)を参照し、車速Vと実スロットル開度Th−acとに対応するエンジン回転速度を目標エンジン回転速度Espd−tgとして算出する。このような変速制御マップや関係式は、記憶部49に予め格納されている。
【0047】
図5は、変速制御マップの例を説明するグラフであり、横軸は車速を示し、縦軸はエンジン回転速度を示している。また、同図では、車速とエンジン回転速度との関係を示す4つ曲線が例として示されている。曲線Lcは、スロットル開度0%の運転での車速とエンジン回転速度との関係を示す線(以下、スロットル閉線Lc)であり、曲線Loは、スロットル開度100%の運転での車速とエンジン回転速度との関係を示す線(以下、スロットル開線Lo)である。また、曲線L1はスロットル開度30%の運転での車速とエンジン回転速度とを示し、曲線L2は、スロットル開度70%の運転での車速とエンジン回転速度とを示している。同図に示されるように、変速制御マップでは、スロットル開度が一定の場合には、車速が高くなるに従ってエンジン回転速度も高くなっている。また、変速制御マップでは、車速が一定の場合には、スロットル開度が高くなるに従ってエンジン回転速度も高くなっている。
【0048】
変速制御部41aは、このような変速制御マップを参照し、車速Vと実スロットル開度Th−acとに対応する目標エンジン回転速度Espd−tgを算出する。そして、変速制御部41aは、被駆動軸回転速度Dspd又は車速Vと、目標エンジン回転速度Espd−tgとに基づいて、目標とする可動シーブ31aの位置(以下、目標シーブ位置Spos−tg)を算出する。例えば、変速制御部41aは、被駆動軸回転速度Dspdを目標エンジン回転速度Espd−tgで除算し、目標とする変速比(以下、目標変速比Rt−tg)を算出する。変速制御部41aは、変速比と可動シーブ31aの位置とを対応付けるマップや関係式を参照し、目標変速比Rt−tgに対応する可動シーブ31aの位置を、目標シーブ位置Spos−tgとして算出する。なお、このようなマップ等も、記憶部49に予め格納されている。
【0049】
変速制御部41aは、シーブ位置センサ31cによって検知された可動シーブ31aの位置(以下、実シーブ位置Spos−acとする)と目標シーブ位置Spos−tgとの差に基づいて、実シーブ位置Spos−acが目標シーブ位置Spos−tgに一致するように、シーブアクチュエータ35を作動させる。変速制御部41aは、以上のような処理を所定の周期(例えば、数msec)で繰り返す。これによって、自動二輪車1の走行中には、無段変速機30の変速比が、車両の運転状態に応じて漸次変化する。
【0050】
このような制御の結果、実エンジン回転速度Espd−acは目標エンジン回転速度Espd−tgに追従するように変化する。例えば、スロットル制御部51aがスロットル開度を縮小した場合には、変速制御部41aは、目標エンジン回転速度Espd−tgを下げ、目標変速比Rt−tgを高速側に変化させる。そのため、実エンジン回転速度Espd−acは徐々に低下し、実際の変速比が目標変速比Rt−tgに一致した時に、実エンジン回転速度Espd−acは目標エンジン回転速度Espd−tgに一致する。また、スロットル開度が拡大された場合には、変速制御部41aは、目標エンジン回転速度Espd−tgを上昇させ、目標変速比Rt−tgを低速側に変化させる。そのため、実エンジン回転速度Espd−acは上昇し、実際の変速比が目標変速比Rt−tgに一致した時に、実エンジン回転速度Espd−acは目標エンジン回転速度Espd−tgに一致する。
【0051】
異常時変速制御部41bは、スロットル開度の制御において異常が発生したと異常判定部51bが判断した場合に、変速制御部41aの制御に替えて、異常が発生したと判断された時点での変速比(以下、発生時変速比)から、変速比が高速側に変化することを抑制する制御を行う。例えば、異常時変速制御部41bは、発生時変速比から変速比が変化することを抑制する制御を行う。すなわち、異常時変速制御部41bは、異常が発生したと判断された場合に、発生時変速比を維持する制御を行う。
【0052】
例えば、固定シーブ31bから離れる方向、又は近づく方向の力(例えば、バネ等の弾性力)が可動シーブ31aに対して作用している場合には、異常時変速制御部41bは、そのような力に抗して、可動シーブ31aの位置を維持するようシーブアクチュエータ35を作動させる。なお、シーブアクチュエータ35cを構成するモータと、可動シーブ31aとの間に、可動シーブ31aからモータにトルクが伝達されることを規制する機構(例えば、ウォームギア)が配置されている場合には、異常時変速制御部41bは、シーブアクチュエータ35への駆動電力の供給を停止し、シーブアクチュエータ35の駆動を停止してもよい。
【0053】
図6は、異常時変速制御部41bの制御における、車速Vと実エンジン回転速度Espd−acの変化を説明するための図である。同図において、横軸は車速を示し、縦軸はエンジン回転速度を示している。なお、同図では、各運転状態(車速,エンジン回転速度)に対応する点と、原点(車速とエンジン回転速度の双方が0)とを結ぶ直線の傾きが、変速比として示される。また、同図では、変速比が最高速変速比TOPに設定されている運転における車速とエンジン回転速度との関係が直線(以下、最高速変速比線)Ltopによって示され、変速比が最低速変速比LOWに設定されている運転における車速とエンジン回転速度との関係が直線(以下、最低速変速比線)Llowによって示されている。また、同図では、図5に示すスロットル閉線Lcとスロットル開線Loとが示されている。なお、同図において、点P1は、スロットル開度の制御の異常が発生したと異常判定部51bが判断した時点での運転状態に対応する点である。
【0054】
上述した例では、異常が発生したと判断された時に、異常時変速制御部41bが発生時変速比を維持する制御を行うため、図6に示すように、異常発生後は、異常発生時の運転状態に対応する点P1と、原点とを結ぶ直線(以下、変速比固定線)Lfix1に沿って、車速Vと実エンジン回転速度Espd−acとが変化する。上述したように、エンジン制御装置50では、スロットル開度の制御において異常が発生したと判断された場合には、スロットル開度は徐々に縮小される。そのため、異常発生時にはエンジン20が発生するトルクは低減され、車速Vは徐々に低下する。その結果、車速Vと実エンジン回転速度Espd−acは、変速比固定線Lfix1に沿って原点に近づく。
【0055】
停止前制御部41cは、異常が発生したと判断された後、自動二輪車1の運転状態が予め定められた条件(以下、停止前制御開始条件とする)を満たした場合に、変速比を低速側に変化させる制御を行う。停止前制御開始条件は、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとについて定められた条件である。例えば、変速制御マップ(図5参照)において、予め定められたスロットル開度について規定された車速とエンジン回転速度とに、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが至ることが、停止前制御開始条件として設定されている。例えば、予め定められたスロットル開度が0%である場合、停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが、スロットル閉線Lcで規定される関係に至ったかを判定する。図6を例にして説明すると、停止前制御部41cは、変速比固定線Lfix1とスロットル閉線Lcとの交点P2に、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが至ったか否かを判定する。
【0056】
停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが、このような停止前制御開始条件を満たした場合に、変速比を低速側に変化させる制御を開始する。この例では、停止前制御部41cは、車速Vに基づいて変速比を制御し、変速比を低速側に変化させる。例えば、停止前制御部41cは、変速制御マップのスロットル閉線Lcを参照し、車速Vに対応するエンジン回転速度を目標エンジン回転速度Espd−tg2として算出する。そして、停止前制御部41cは、変速制御部41aと同様に、実エンジン回転速度Espd−acが目標エンジン回転速度Espd−tg2に一致するように変速比を制御する。すなわち、停止前制御部41cは、目標エンジン回転速度Espd−tg2と、被駆動軸回転速度Dspdとに基づいて目標変速比Rt−tg2を算出し、当該目標変速比Rt−tg2に対応する目標シーブ位置Spos−tg2を算出する。そして、停止前制御部41cは、実シーブ位置Spos−acが目標シーブ位置Spos−tg2に一致するように、シーブアクチュエータ35cを作動させる。
【0057】
図6に示すように、スロットル閉線Lcは、車速Vが低くなるに従って最低速変速比線Llowに近づいている。また、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが停止前制御開始条件を満たした後、すなわち、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが交点P2に達した後は、停止前制御部41cの制御の結果、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vは、スロットル閉線Lcに沿う曲線で示される関係を維持しながら変化する。そのため、停止前制御部41cの制御においては、自動二輪車1の減速に伴って、変速比は低速側に移行する。図6を参照して説明すると、自動二輪車1の減速に伴って、各運転状態(車速,エンジン回転速度)と原点とを結ぶ直線の傾きは、最低速変速比LOWの傾きに近づく。
【0058】
自動二輪車1の走行中に変速制御装置40が実行する処理の流れについて説明する。図7は、変速制御装置40が実行する処理の例を示すフローチャートである。
【0059】
まず、変速制御部41aは、図5に例として示す変速制御マップを参照し、実スロットル開度Th−acと車速Vとに対応する目標エンジン回転速度Espd−tgを算出する(S101)。次に、変速制御部41aは、被駆動軸回転速度Dspdと目標エンジン回転速度Espd−tgとに基づいて、目標シーブ位置Spos−tgを算出する(S102)。具体的には、上述したように、変速制御部41aは、被駆動軸回転速度Dspdと目標エンジン回転速度Espd−tgと基づいて目標変速比Rt−tgを算出し、目標変速比Rt−tgに対応する可動シーブ31aの位置を目標シーブ位置Spos−tgとして算出する。そして、変速制御部41aは、実シーブ位置Spos−acを検知し(S103)、実シーブ位置Spos−acが目標シーブ位置Spos−tgに一致するように、実シーブ位置Spos−acと目標シーブ位置Spos−tgとの差に基づいてシーブアクチュエータ35を作動させる(S104)。また、変速制御部41aは、S103で検知した実シーブ位置Spos−acを記憶部49に格納する(S105)。
【0060】
その後、異常時変速制御部41bは、エンジン制御装置50が実行するスロットル開度の制御において異常が発生したか否か、すなわち、エンジン制御装置50が異常通知情報を送信したか否かを判定する(S106)。ここで、制御部41が異常通知情報を受信していない場合には、制御部41は、S101の処理に戻り、以降の処理を所定の周期で繰り返す。
【0061】
なお、S106の判定において異常が発生したと判断されるまで、新たに検知された実シーブ位置Spos−acが、S105の処理において、前回の処理で格納された実シーブ位置Spos−acに上書きされて、記憶部49に格納される。また、S101とS102の処理は、エンジン制御装置50から順次受信する実スロットル開度Th−ac等に基づいて実行される。
【0062】
S106の処理において、制御部41が異常通知情報を受信した場合には、異常時変速制御部41bは、変速比が高速側に変化することを抑制する制御を開始する。具体的には、異常時変速制御部41bは、S105で記憶部49に格納された実シーブ位置Spos−acを維持するようシーブアクチュエータ35を駆動させる(S107)。
【0063】
その後、停止前制御部41cは、自動二輪車1の運転状態が停止前制御開始条件を満たしたか否かを判定する。具体的には、停止前制御部41cは、新たに検知された実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとがスロットル閉線Lcで規定されるエンジン回転速度と車速とに至ったか否か、すなわち、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが交点P2(図6参照)に至ったか否かを判定する(S108)。例えば、停止前制御部41cは、スロットル閉線Lcにおいて車速Vに対応するエンジン回転速度と、実エンジン回転速度Espd−acとの差が予め設定された閾値より小さいか否かを判定する。停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとがスロットル閉線Lcで規定されるエンジン回転速度と車速とに至るまで、S107の処理を繰り返す。
【0064】
なお、停止前制御部41cは、S108の処理では、実シーブ位置Spos−acと、車速Vに対応する可動シーブ31aの位置とを比較してもよい。すなわち、停止前制御部41cは、スロットル閉線Lcを参照し、車速Vに対応するエンジン回転速度を算出する。そして、停止前制御部41cは、比較対象とする変速比(以下、比較対象変速比)を、このエンジン回転速度と被駆動軸回転速度Dspdに基づいて算出し、実シーブ位置Spos−acに対応する変速比と、比較対象変速比との差が予め定められた閾値より小さくなったか否かを判定してもよい。
【0065】
S108において、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとがスロットル閉線Lcに至ったと判断された場合には、停止前制御部41cは、車速Vに基づいて変速比を制御し、変速比を低速側に移行する制御を開始する(S109)。具体的には、上述したように、停止前制御部41cは、スロットル閉線Lcを参照して、車速Vに対応する目標エンジン回転速度Espd−tg2を算出する。そして、停止前制御部41cは、目標エンジン回転速度Espd−tg2に基づいて目標変速比Rt−tg2を算出し、当該目標変速比Rt−tg2に対応する目標シーブ位置Spos−tg2を算出する。停止前制御部41cは、実シーブ位置Spos−acが目標シーブ位置Spos−tg2に一致するように、シーブアクチュエータ35cを作動させる。
【0066】
その後、停止前制御部41cは、自動二輪車1が停止したか否かを判定し(S110)、自動二輪車1が停止するまで、S109の処理を繰り返す。以上の処理が、変速制御装置40が実行する処理の例である。
【0067】
以上説明したように、自動二輪車1では、駆動制御装置10は、スロットル開度の制御において異常が発生したと異常判定部51bが判断した場合に、変速比が高速側に変化することを抑制する異常時変速制御部41bを備えている。このような自動二輪車1によれば、スロットル開度の制御における異常が発生したと判断され、異常時スロットル制御部51cの制御によって、スロットル開度が縮小され、エンジン20のトルクが低減された場合でも、後輪3に伝達されるトルクが急激に低下するのを抑制できる。
【0068】
また、自動二輪車1では、異常時変速制御部41bは、異常判定部51bによって異常が発生したと判断された時点での変速比から、変速比が変化することを抑制している。これによって、スロットル開度の制御において異常が発生した場合に、後輪3に伝達されるトルクが急激に変化することを抑制できる。
【0069】
また、自動二輪車1では、異常時変速制御部41bに含まれる停止前制御部41cは、異常が発生したと異常判定部51bが判断した後、自動二輪車1の運転状態が予め定められた停止前制御開始条件を満たした場合に、変速比を低速側に変化させる制御を実行している。これによって、変速比が最低速変速比LOWに設定された後に、自動二輪車1が停止し、その後の発進が円滑に行われ得る。
【0070】
また、自動二輪車1では、停止前制御部41cは、異常が発生したと異常判定部51bが判断した後、自動二輪車1の運転状態が停止前制御開始条件を満たした場合に、車速Vに基づいて変速比を制御している。これによって、自動二輪車1の停止前に、車速Vが下がるにつれて、変速比を徐々に最低速変速比LOWに近づけることができ、自動二輪車1の円滑な停止が可能となる。
【0071】
また、自動二輪車1では、変速制御部41aは、予め設定された変速制御マップを参照して変速比を制御し、停止前制御部41cは、異常が発生したと異常判定部51bが判断した後、車両の運転状態が停止前制御開始条件を満たした場合に、変速制御マップを参照して変速比を制御している。これによって、スロットル開度の異常が発生した場合において、そのような異常が発生していない状態での減速と同様の減速が可能となる。
【0072】
なお、本発明は以上説明した自動二輪車1に限られず、種々の変更が可能である。
【0073】
例えば、以上の説明では、異常時変速制御部41bは、異常が発生したと判断された時点での変速比である発生時変速比から変速比が変化することを抑制する制御を行っていた。しかしながら、異常時変速制御部41bは、異常が発生したと判断された時点でのスロットル開度(以下、発生時スロットル開度)に基づいて変速比を制御し、変速比が高速側に変化することを抑制してもよい。例えば、異常時変速制御部41bは、変速制御マップにおいて車速Vと発生時スロットル開度とに対応するエンジン回転速度を、目標エンジン回転速度Espd−tg3として算出する。そして、異常時変速制御部41bは、実エンジン回転速度Espd−acが目標エンジン回転速度Espd−tg3に一致するようにシーブアクチュエータ35を作動させてもよい。
【0074】
図8は、このような形態に係る変速制御装置40の制御部41が行う処理の例を示すフローチャートである。同図において、図7に示すフローチャートと同一の処理には、同一の番号を付している。
【0075】
この処理では、変速制御部41aは、目標エンジン回転速度Espd−tgを算出する際(S101)に検知した実スロットル開度Th−acを、図7に示すS105の処理に替えて記憶部49に格納する(S111)。その後、変速制御部41aは、図7のフローチャートで説明した処理と同様に、S106の処理において、エンジン制御装置50が実行するスロットル開度の制御において異常が発生したと判断されるまで、すなわち、制御部41が異常通知情報を受信するまで、S101からS104、及びS111の処理を繰り返す。なお、S111では、S106において異常が発生したと判断されるまで、新たに検知された実スロットル開度Th−acが、前回のS111の処理で格納された実スロットル開度Th−acに上書きされて、記憶部49に格納される。
【0076】
S106の処理において異常が発生したと判断された場合には、異常時変速制御部41bは、記憶部49に格納されているスロットル開度を発生時スロットル開度とし、発生時スロットル開度に基づく変速比の制御を開始する。具体的には、異常時変速制御部41bは、変速制御マップを参照し、発生時スロットル開度と車速Vとに対応する目標エンジン回転速度Espd−tg3を算出する(S112)。そして、異常時変速制御部41bは、目標エンジン回転速度Espd−tg3と被駆動軸回転速度Dspdとに基づいて目標変速比Rt−tg3を算出し、当該目標変速比Rt−tg3に対応する目標シーブ位置Spos−tg3を算出する(S113)。そして、異常時変速制御部41bは、実シーブ位置Spos−acが目標シーブ位置Spos−tg3に一致するように、実シーブ位置Spos−acと目標シーブ位置Spos−tg3との差に基づいてシーブアクチュエータ35を作動させる(S114)。その後、異常時変速制御部41bは、自動二輪車1が停止したか否かを判定する(S110)。異常時変速制御部41bは、自動二輪車1が停止するまで、S112からS114の処理を繰り返す。
【0077】
図9は、この形態に係る異常時変速制御部41bの制御における、車速Vと実エンジン回転速度Espd−acの変化を説明するための図である。同図において、横軸は車速を示し、縦軸はエンジン回転速度を示している。また、同図においても、最高速変速比線Ltopと、最低速変速比線Llowと、スロットル閉線Lcと、スロットル開線Loとが示されている。なお、同図において、点P1は異常が発生したと判断された時点での運転状態に対応する点である。
【0078】
上述したように、この形態では、異常時変速制御部41bは、異常発生時のスロットル開度である発生時スロットル開度に基づいて変速比を制御する。そのため、図9に示すように、変速制御マップで発生時スロットル開度と等しいスロットル開度について規定された曲線Lfix2が示す車速とエンジン回転速度の関係を維持しながら、車速Vと実エンジン回転速度Espd−acは変化する。曲線Lfix2上の各点と原点とを結ぶ直線の傾きは、車速Vが低下するに従って最低速変速比線Llowの傾きに近づく。そのため、この制御においても、変速比の高速側への移行は抑制されている。以上が、発生時スロットル開度に基づいて異常時変速制御部41bが変速比を制御する形態についての説明である。
【0079】
また、異常時変速制御部41bは、スロットル開度の制御において異常が発生したと判断された時点でのエンジン回転速度(以下、発生時エンジン回転速度)に基づいて、変速比を制御してもよい。具体的には、異常時変速制御部41bは、実エンジン回転速度Espd−acが発生時エンジン回転速度を維持するように変速比を制御してもよい。
【0080】
まず、このような制御における、車速Vと実エンジン回転速度Espd−acの変化を説明する。図10は、このような制御における、車速Vと実エンジン回転速度Espd−acの変化の例を示す図である。同図において、横軸は車速を示し、縦軸はエンジン回転速度を示している。また、同図においても、最高速変速比線Ltopと、最低速変速比線Llowと、スロットル閉線Lcと、スロットル開線Loとが示されている。なお、同図において、点P1は、スロットル開度の制御の異常が発生したと判断された時点での運転状態に対応する点である。
【0081】
上述したように、この形態では、異常時変速制御部41bは、実エンジン回転速度Espd−acが発生時エンジン回転速度を維持するように変速比を制御する。そのため、図10に示すように、車速Vと実エンジン回転速度Espd−acは、点P1を通る直線であって、エンジン回転速度が一定であることを示す直線(以下、回転速度固定線)Lfix3に沿って変化する。
【0082】
図10に示すように、回転速度固定線Lfix3上の各点と原点とを結ぶ直線の傾きは、車速Vが低くなるに従って最低速変速比線Llowの傾きに近づいている。そのため、この形態に係る制御を実行した場合、自動二輪車1の減速に伴って、変速比は低速側に移行する。
【0083】
また、この形態においても、停止前制御部41cは、自動二輪車1の運転状態が予め規定された停止前制御開始条件に該当するか否かを判定し、運転状態が停止前制御開始条件を満たした場合には、変速制御マップを参照して、車速Vに基づいて変速比を制御する。この形態において停止前制御開始条件は、例えば、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが、スロットル開線Loで規定されるエンジン回転速度と車速とに至ることであり、停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが、スロットル開線Loに至ったか否かを判定する。図10を例にすると、停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが、回転速度固定線Lfix3とスロットル開線Loとの交点P3に至ったか否かを判定する。そして、停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとがスロットル開線Loで規定される関係に至ったと判断した時に、車速Vに基づく変速比の制御を開始する。
【0084】
例えば、停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとがスロットル開線Loで規定される関係を維持しながら変化するように、車速Vに基づいて変速比を制御する。具体的には、停止前制御部41cは、スロットル開線Loを参照して、車速Vに対応する目標エンジン回転速度Espd−tg4を算出する。そして、停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acが目標エンジン回転速度Espd−tg4に一致するように変速比を制御する。
【0085】
図11は、このような形態に係る変速制御装置40の制御部41が行う処理の例を示すフローチャートである。同図において、図7に示すフローチャートと同一の処理には、同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0086】
この処理では、変速制御部41aは、図7に示すS105の処理に替えて、エンジン回転速度センサ19によって検知された実エンジン回転速度Espd−acを記憶部49に格納する(S115)。変速制御部41aは、図7のフローチャートで説明した処理と同様に、S106の処理において、異常が発生したと判断されるまで、S101からS104、及びS115の処理を繰り返す。なお、S115では、なお、S106の判定において異常が発生したと判断されるまで、新たに検知された実エンジン回転速度Espd−acが、S115の処理において、前回の処理で格納された実エンジン回転速度Espd−acに上書きされて、記憶部49に格納される。
【0087】
そして、S106の処理において、異常が発生したと判断された場合には、異常時変速制御部41bは、記憶部49に格納されている実エンジン回転速度Espd−acを、発生時エンジン回転速度とし、当該発生時エンジン回転速度に基づく変速比の制御を開始する。具体的には、異常時変速制御部41bは、発生時エンジン回転速度と、被駆動軸回転速度Dspdとに基づいて、目標とする変速比である目標変速比Rt−tg4を算出する(S116)。例えば、異常時変速制御部41bは、被駆動軸回転速度Dspdを発生時エンジン回転速度で除算し、得られた値を目標変速比Rt−tg4とする。そして、異常時変速制御部41bは、目標変速比Rt−tg4に対応する目標シーブ位置Spos−tg4を算出し、実シーブ位置Spos−acが目標シーブ位置Spos−tg4に一致するようにシーブアクチュエータ35を作動させる(S117)。
【0088】
その後、停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−tgと車速Vとが、停止前制御開始条件を満たしたか否か、すなわち、スロットル開線Lo上のエンジン回転速度と車速とになったか否かを判定する(S118)。異常時変速制御部41bは、実エンジン回転速度Espd−tgと車速Vとが停止前制御開始条件を満たすまで、S116とS117の処理を繰り返し実行する。
【0089】
S118の判定において、実エンジン回転速度Espd−acと車速Vとが、停止前制御開始条件を満たしたと判断された場合には、停止前制御部41cは、変速制御マップのスロットル開線Loを参照し、車速Vに基づく変速比の制御を開始する。具体的には、停止前制御部41cは、スロットル開線Loを参照し、車速Vに対応する目標エンジン回転速度Espd−tg5を算出する(S119)。そして、停止前制御部41cは、実エンジン回転速度Espd−acが目標エンジン回転速度Espd−tg5に一致するように変速比を制御する。すなわち、停止前制御部41cは、目標エンジン回転速度Espd−ac5と、被駆動軸回転速度Dspdとから目標とする変速比である目標変速比Rt−tg5を算出し、当該目標変速比Rt−tg5に対応する目標シーブ位置Spos−ac5を算出する。そして、停止前制御部41cは、実シーブ位置Spos−acが目標シーブ位置Spos−tg5に一致するように、実シーブ位置Spos−acと目標シーブ位置Spos−tg5との差に基づいて、シーブアクチュエータ35cを作動させる(S120)。停止前制御部41cは、自動二輪車1が停止するまで、S119とS120の処理を繰り返す。以上が、発生時エンジン回転速度に基づいて、異常時変速制御部41bが変速比を制御する形態についての説明である。
【0090】
また、以上の説明では、スロットル開度の制御において異常が発生したか否かを判定する異常判定部51bは、エンジン制御装置50に設けられていた。しかしながら、変速制御装置40にも異常判定部が設けられてもよい。図12は、この形態に係る変速制御装置の制御部141の機能を示すブロック図である。同図に示す制御部141は、変速制御部41a等に加えて、異常判定部41dを有している。
【0091】
異常判定部41dは、例えば、上述した異常判定部51bと同様に、スロットルセンサ25bなどスロットル弁25aを制御する制御システムを構成する各装置の故障の有無を判定し、故障を検知した場合に、スロットル開度の制御において異常が発生したと判断する。また、異常判定部41dは、エンジン制御装置50からの送信が途絶えた場合に、スロットル開度の制御において異常が発生したと判断してもよい。例えば、異常判定部41dは、エンジン制御装置50によって周期的に送信される実エンジン回転速度Espd−ac等のデータのうち、いずれか1つが制御部41によって受信されない場合に、スロットル開度の制御において異常が発生したと判断してもよい。
【0092】
この形態では、異常時変速制御部41bは、異常判定部51bに処理において異常が発生したと判断さえた場合だけでなく、異常判定部41dの処理において異常が発生したと判断された場合においても、これまで説明した変速比が高速側に変化することを抑制する制御を開始する。
【符号の説明】
【0093】
1 自動二輪車、6b アクセルセンサ、10 駆動制御装置、17 車速センサ、18 被駆動軸回転速度センサ、19 エンジン回転速度センサ、20 エンジン、23a クランクシャフト、24 吸気管、25a スロットル弁、25b スロットルセンサ、25c スロットルアクチュエータ、26 燃料供給装置、30 無段変速機、31 駆動プーリ、31a 可動シーブ、31b 固定シーブ、31c シーブ位置センサ、32 被駆動プーリ、32a 可動シーブ、32b 固定シーブ、33 ベルト、34 被駆動軸、35 シーブアクチュエータ、39 クラッチ、40 変速制御装置、41 制御部、41a 変速制御部、41b 異常時変速制御部、41c 停止前制御部、41d 異常判定部、49 記憶部、50 エンジン制御装置、51 制御部、51a スロットル制御部、51b 異常判定部、51c 異常時スロットル制御部、59 記憶部、Lc スロットル閉線、Lo スロットル開線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに供給する空気量を調整するスロットル弁と、
前記エンジンの回転を減速して後輪に伝達する無段変速機と、
前記スロットル弁の開度であるスロットル開度を制御するとともに、前記無段変速機の変速比を制御する駆動制御装置とを備え、
前記駆動制御装置は、
搭乗者のアクセル操作に基づいてスロットル開度を制御するスロットル制御部と、
スロットル開度に基づいて前記無段変速機の変速比を変化させる変速制御部と、
スロットル開度の制御において異常が発生したか否かを判定する異常判定部と、
前記異常判定部が異常が発生したと判断した場合に、スロットル開度を低減する制御を行う異常時スロットル制御部と、
前記異常判定部が異常が発生したと判断した場合に、変速比が高速側に変化することを抑制する異常時変速制御部と、を有する、
ことを特徴とする自動二輪車。
【請求項2】
請求項1に記載の自動二輪車において、
前記異常時変速制御部は、前記異常判定部が異常が発生したと判断した時点での変速比から変速比が変化することを抑制する、
ことを特徴とする自動二輪車。
【請求項3】
請求項1に記載の自動二輪車において、
前記異常時変速制御部は、前記異常判定部が異常が発生したと判断した時点でのスロットル開度に基づいて変速比を制御する、
ことを特徴とする自動二輪車。
【請求項4】
請求項1に記載の自動二輪車において、
前記異常時変速制御部は、車速と、前記異常判定部が異常が発生したと判断した時点でのエンジン回転速度とに基づいて変速比を制御する、
ことを特徴とする自動二輪車。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の自動二輪車において、
前記異常時変速制御部は、前記異常判定部によって異常が発生したと判断された後、車両の運転状態が予め定められた条件を満たした場合に、変速比を低速側に変化させる制御を実行する、
ことを特徴とする自動二輪車。
【請求項6】
請求項5に記載の自動二輪車において、
前記異常時変速制御部は、前記異常判定部が異常が発生したと判断した後、車両の運転状態が前記条件を満たした場合に、車速に基づいて変速比を制御する、
ことを特徴とする自動二輪車。
【請求項7】
請求項6に記載の自動二輪車において、
前記変速制御部は、予め設定された制御マップを参照して変速比を制御し、
前記異常時変速制御部は、前記異常判定部が異常が発生したと判断した後、車両の運転状態が前記条件を満たした場合に、前記制御マップを参照して変速比を制御する、
ことを特徴とする自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−249221(P2010−249221A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99084(P2009−99084)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】