説明

自動分析装置および自動分析方法

【課題】基準データがなくても反応過程における測定データの異常を検出することができるようにする。
【解決手段】自動分析装置の制御コンピュータ6は、測定データ変化率許容範囲設定部66または測定データ変化量変化率許容範囲設定部67により、測光ポイント間の測定データ変化率または測定データ変化量変化率の上限値および下限値を設定しておき、所定の区間の測光ポイントそれぞれにおける測定データについて、測定データ変化率算出部62または測定データ変化量変化率算出部63により、隣接する測光ポイントとの間の測定データ変化率または測定データ変化量変化率を算出し、異常測定データ検出部68により、その算出した測定データ変化率または測定データ変化量変化率があらかじめ設定した上限値および下限値の範囲外にあったときには、そのときの測定データを異常測定データとして検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床検査の分野において用いられる自動分析装置、特に、複数個の反応容器を順次移送しながら、各反応容器にサンプルおよび試薬を順次分注し、その反応容器内の液体を所定の時間間隔で測光する自動分析装置および自動分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、臨床検査の分野で用いられる自動分析装置においては、複数個の反応容器を順次移送しながら、各反応容器に対してサンプル分注、試薬分注、かくはん、測光および洗浄を行って、反応容器を繰り返し使用するものが一般的になっている。このように反応容器を繰り返し使用する自動分析装置では、反応容器としてダイレクト測光が可能な測光キュベットを使用する。そして、反応開始前の所定のタイミングから反応開始後洗浄前の所定のタイミングまでの間に、サンプルと試薬とが入れられた測光キュベットが測光部を通過するごとに、光源からの光をその測光キュベットを通して測光して、吸光度などのデータを取得する。さらに、そのような自動分析装置においては、取得した複数の吸光度などのデータの中から測定項目に応じてあらかじめ設定された特定の測光ポイントでの測定データを用いて分析を行うようにした全反応過程測光方式を採用するものがある。
【0003】
このような全反応過程測光方式の自動分析装置においては、各測光キュベットに対して一定時間ごとに連続的に試薬と検体との反応過程をトレースすることができるので、酵素反応のように経時的に吸光度が変化する反応過程の分析を容易にすることができる。さらには、測定データの信頼性を向上させるための様々なチェックロジックを設けることができる。
【0004】
例えば、特許文献1や特許文献2には、精度管理用のサンプルと試薬とを用いてその反応過程で得られた測定データを基準データとして登録しておき、検体測定時には、その測定データを基準データと比較し、その差異の大きさによって、反応過程における測定データの異常を検出する自動分析装置の例が開示されている。
【特許文献1】特開2003−57248号公報
【特許文献2】特開2005−181106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来技術においては、あらかじめ同じ反応過程について基準データを用意する必要がある。そして、その基準データは、分析項目ごとに、場合によっては、試薬の濃度ごとに用意しなければならない。従って、基準データを用意する工数は、分析業務の全体において無視できない工数となっている。
【0006】
以上の従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、基準データがなくても反応過程における測定データの異常を検出することができ、また、それによって分析作業全体の効率向上を図ることが可能な自動分析装置および自動分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の従来技術の問題を解決するために、本発明の自動分析装置は、その制御コンピュータが、測光ポイントそれぞれにおける測定データについて、隣接する測光ポイントとの間の測定データの変化率を算出する測定データ変化率算出手段と、前記測光ポイント間の測定データの変化率の上限値および下限値を設定する変化率許容範囲設定手段と、前記算出した測定データの変化率が前記設定した測定データの変化率の上限値および下限値の範囲外にあったときには、そのときの測定データを異常測定データとして検出する異常測定データ検出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、測定データ変化率算出手段により、各測光ポイントの測定データについて、隣接する測光ポイントの測定データとの間の変化率を算出し、その算出した測定データの変化率を、変化率許容範囲設定手段により別途定めた測定データの変化率の上限値および下限値と比較する。そして、その算出した測定データの変化率がその上限値および下限値の範囲外にあるとき、その測定データを異常の測定データとして検出する。すなわち、本発明においては、測定データが隣接する測光ポイントの測定データと大きく変化したときを測定データの異常と判定する。従って、基準データが必要なくても、測定データの異常を検出することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基準データがなくても反応過程における測定データの異常を検出することができ、また、それによって分析作業全体の効率向上を図ることが可能な自動分析装置および自動分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、適宜、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る自動分析装置の構成の例を示した図である。図1に示すように、自動分析装置1は、分析装置5と制御コンピュータ6とによって構成される。なお、図1における分析装置5は、その上面図を模式的に描いたものである。
【0012】
図1において、分析装置5の筐体上には、反応容器35が円周上に載置された反応ディスク36が配置され、また、その反応ディスク36の内側に試薬ディスク42が、外側に試薬ディスク41が配置されている。そして、その試薬ディスク41,42には、それぞれ複数の試薬容器40が円周上に載置されている。ここでは、1つの試薬容器40は、2つに区画され、通常、それぞれ異なる試薬が入れられる。
【0013】
反応ディスク36の近傍には、サンプル容器10を載置し、ラック11を移動する搬送機構12が設けられている。また、試薬ディスク41,42の上方部には、レール25,26が設けられ、レール25には、レールと平行な方向および上下方向に移動可能な試薬プローブ20,21が架設され、レール26には、レールと3軸方向に移動可能な試薬プローブ22,23が架設されている。試薬プローブ20,21,22,23は、それぞれ図示されていない試薬用ポンプが接続されている。
【0014】
反応容器35と搬送機構12との間には、回転および上下動可能なサンプルプローブ15,16が設置されている。サンプルプローブ15,16には、それぞれ図示されていないサンプル用ポンプが接続されている。また、反応ディスク36の周囲には、かくはん装置30,31、光源50、測光装置51、容器洗浄機構45が配置されている。容器洗浄機構45には、図示されていない洗浄用ポンプが接続されている。サンプルプローブ15,16、試薬プローブ20,21,22,23、および、かくはん装置30,31のそれぞれの動作範囲には、洗浄ポート54が設置されている。
【0015】
次に、分析装置5の動作について説明する。ここでは、2試薬系の分析法(2種類の試薬を、時間差を設けて検体に分注して反応させる分析法)に従った分析を行うときの動作を説明する。
【0016】
まず、血液などの検査対象の試料が入れられたサンプル容器10は、ラック11に載せられて搬送機構12によってサンプルプローブ15,16の近くまで搬送される。次に、サンプルプローブ15,16は、サンプル容器10から試料を採取し、所定の量を反応ディスク36に並べられている反応容器35に分注する。
【0017】
続いて、試薬プローブ20,21は、試薬ディスク41または42に載置された試薬容器40から、所定量の第1の試薬を採取し、反応容器35に分注する。かくはん装置30,31は、適宜、反応容器35の試料と試薬とをかくはんする。その後、所定の時間経過後に、試薬プローブ22または23は、反応容器35に試薬ディスク41または42に載置された試薬容器40から所定量の第2の試薬を採取し、反応容器35に分注する。かくはん装置30,31は、適宜、反応容器35の試料と試薬とをかくはんする。
【0018】
さらに、所定の時間経過後に、測光装置51は、光源50が発する光を、反応容器35を通して測定することにより、試薬に反応した試料の吸光度などの測定データを取得し、その取得した測定データを、制御コンピュータ6へ出力する。
【0019】
以上のような分析装置5において、反応ディスク36は、所定時間ごとに(例えば、1分ごとに)1回転+1反応容器分の回転動作と停止動作とを繰り返す。従って、その動作の繰り返しの中で、反応容器35は、停止するたびに1反応容器分ずつ、例えば、反時計回りに回転移動する。そして、反応ディスク36が停止しているときに、試料や試薬がそれぞれ所定の位置にある反応容器35に分注され、また、他の位置にある反応容器35が洗浄されたり、その中の試料がかくはんされたりする。
【0020】
また、反応ディスク36が1回転+1反応容器分の回転動作をするとき、すべての反応容器35は、光源50と測光装置51の間を横切る。従って、測光装置51は、所定時間ごとに(例えば、1分ごとに)、すべての反応容器35内の試薬が分注された試料について、その吸光度などの測定データを取得することができる。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係る自動分析装置の制御コンピュータの機能ブロックの構成の例を示した図である。図2に示すように、制御コンピュータ6は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、記憶装置などからなる情報処理装置60と、キーボード、マウスなどからなる入力装置80と、LCD(Liquid Crystal Display)などからなる表示装置90と、を含んで構成される。
【0022】
また、情報処理装置60は、測定データ取得部61、測定データ変化率算出部62、測定データ変化量変化率算出部63、分析データ算出部64、分析データ表示部65、測定データ変化率許容範囲設定部66、測定データ変化量変化率許容範囲設定部67、異常測定データ検出部68などの処理機能ブロックと、測定データ記憶部71、測定データ変化率記憶部72、測定データ変化量変化率記憶部73、分析データ記憶部74、測定データ変化率許容範囲記憶部75、測定データ変化量変化率許容範囲記憶部76などの記憶機能ブロックとを含んで構成される。ただし、これらの機能ブロックは、本実施形態にかかる機能ブロックであり、情報処理装置60は、このほかにも分析装置の動作制御などに係る他の多数の機能ブロックを有するが、それらの機能ブロックの説明は、省略する。
【0023】
以下、図2を参照して、制御コンピュータ6を構成する機能ブロックそれぞれの機能について説明する。
【0024】
測定データ取得部61は、分析装置5の測光装置51などによって所定の時間間隔(例えば、1分)で測定された吸光度などの測定データを取得し、その取得した測定データを測定データ記憶部71に格納する。測定データ記憶部71では、測定データは、反応容器35、つまり、試薬が分注された試料ごとに、所定の時間間隔ごとの時系列のデータとして測定データ記憶部71に保管される。本明細書では、その時系列の測定データを
m(i) (i=1,2,…,n)
と表す。ここで、iは、時系列のデータの順番を表す数で、m(i)は、時刻t(i)に取得された測定データである。
【0025】
測定データ変化率算出部62は、前記時系列の測定データm(i)の単位時間当たりの変化率(測定データ変化率)を算出し、その算出した測定データ変化率を測定データ変化率記憶部72に格納する。ここで、測定データ変化率v(i)は、次の式(1)によって算出することができる。
v(i)={m(i+1)−m(i)}/{t(i+1)−t(i)} 式(1)
ただし、i=1,2,…,n−1
すなわち、測定データ変化率v(i)は、測定データm(i)を微分したものに相当する。
【0026】
また、通常、測定データ取得の時間間隔は、iの値にかかわらず同じなので、式(1)において、その時間間隔を単位時間とすれば、t(i+1)−t(i)=1とすることができる。その場合には、測定データ変化率v(i)は、次の式(1’)によって算出することができる。
v(i)=m(i+1)−m(i) 式(1’)
ただし、i=1,2,…,n−1
【0027】
測定データ変化量変化率算出部63は、前記時系列の測定データm(i)の単位時間当たりの変化量の変化率(測定データ変化量変化率)を算出し、その算出した測定データ変化量変化率を測定データ変化量変化率記憶部73に格納する。ここで、測定データ変化量変化率a(i)は、次の式(2)によって算出することができる。
a(i)={v(i+1)−v(i)}/{t(i+1)−t(i)} 式(2)
ただし、i=1,2,…,n−2
すなわち、測定データ変化量変化率a(i)は、測定データ変化率v(i)を微分したもの、つまり、測定データm(i)を2次微分したものに相当する。
【0028】
また、測定データ変化率v(i)の算出のときと同様に、t(i+1)−t(i)=1とした場合には、測定データ変化量変化率a(i)は、次の式(2’)によって算出することができる。
a(i)=v(i+1)−v(i) 式(2’)
ただし、i=1,2,…,n−2
【0029】
分析データ算出部64は、測定データ記憶部71に記憶された測定データに基づき、その測定データが取得された試料の分析項目に応じて所定の演算を行い、その試料に対する分析データを算出する。そして、その算出した分析データを分析データ記憶部74へ格納する。
【0030】
測定データ変化率許容範囲設定部66は、入力装置80から入力される測定データ変化率の上限値と下限値とを読み取って、その読み取った測定データ変化率の上限値と下限値とを測定データ変化率許容範囲記憶部75に格納する。また、測定データ変化量変化率許容範囲設定部67は、入力装置80から入力される測定データ変化量変化率の上限値と下限値とを読み取って、その読み取った測定データ変化量変化率の上限値と下限値とを測定データ変化量変化率許容範囲記憶部76に格納する。
【0031】
異常測定データ検出部68は、後記するように、レート分析法を用いた分析において、それぞれの試料の一連の時系列の測定データごとに、その測定データ変化率が、測定データ変化率許容範囲記憶部75に記憶されている上限値と下限値との範囲内に含まれているか否かを判定し、その上限値と下限値との範囲内に含まれていなかったときには、その測定データを異常測定データとして検出する。また、同様に、エンドポイント法などを用いた分析において、それぞれの試料の一連の時系列の測定データごとに、その測定データ変化量変化率が、測定データ変化量変化率許容範囲記憶部76に記憶されている上限値と下限値との範囲内に含まれているか否かを判定し、その上限値と下限値との範囲内に含まれていなかったときには、その測定データを異常測定データとして検出する。
【0032】
分析データ表示部65は、分析データ記憶部74に格納されている分析データを表示装置90に表示する。その際、その分析データの基礎となっている測定データについて、異常測定データ検出部68によって異常測定データが検出されたときには、その分析データに対して、異常測定データが検出された旨を示すアラームを付して表示する。また、分析データ表示部65は、必要に応じて、測定データ記憶部71に格納されている測定データそのものをグラフなどの形で表示する。
【0033】
なお、以上に説明した情報処理装置60の各処理機能ブロックの機能は、情報処理装置60の図示しないCPUが図示しない記憶装置に格納された所定のプログラムを実行することによって実現される。また、情報処理装置60の各記憶機能ブロックは、記憶装置上に構成されたテーブルやファイルによって実現される。
【0034】
次に、図3〜図11を参照して、本実施形態の自動分析装置1を用いて測定データの異常、つまり、反応過程における異常を検出する処理の具体例について説明する。ここで、図3は、本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおいて測定データ取得後の測定データの異常を検出する処理の流れの例を示した図である。
【0035】
図3の処理は、測定データ取得後に実行する処理であるので、その処理の流れが開始されるときには、測定データ取得部61により測定データが測定データ記憶部71にすでに格納され、さらに、測定データ変化率許容範囲設定部66(または、測定データ変化量変化率許容範囲設定部67)によって測定データ変化率(または、測定データ変化量変化率)の上限値および下限値が測定データ変化率許容範囲記憶部75(または、測定データ変化量変化率許容範囲記憶部76)に格納されている状態にある。
【0036】
そこで、ここでは、図3の説明を始める前に、図4を用いて、測定データ変化率許容範囲の設定について説明する。ここで、図4は、本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおける分析パラメータ設定画面の例を示した図である。
【0037】
図4に示すように、分析作業者は、分析パラメータ設定画面によって、分析法、測定時間、測光ポイントなどのパラメータを設定する。ここで、分析法は、レート分析法と他の分析法を区別するための情報である。図4では、レート分析法が設定されている。また、測定時間は、全測定データを取得するに要する時間、測光ポイントは、測定データのうち分析データを演算するために使用される測定データを指定する情報である。なお、ここでいう測光ポイントを表す数は、測定データをm(i)(i=1,2,…,n)と表したときの変数iに相当する。
【0038】
図4の分析パラメータ設定画面の中には、さらに、吸光度変化率チェック設定画面が表示される。そして、その吸光度変化率チェック設定画面を用いて、分析作業者は、吸光度変化率を算出するための演算開始ポイントおよび演算終了ポイント、並びに、吸光度変化率の下限値および上限値を設定することができる。なお、ここでいう吸光度は、測定データに相当する。
【0039】
また、演算開始ポイントは、吸光度変化率を算出する演算と、その演算で算出される吸光度変化率を同じ画面で設定された上限値および下限値と比較する演算とを開始する測光ポイントであり、演算終了ポイントは、その演算を終了する測光ポイントである。すなわち、演算開始ポイントおよび演算終了ポイントは、算出された吸光度変化率が上限値および下限値の範囲に入っているか否かをチェックする、つまり、測定データ異常の検出対象の測光ポイント区間を指定する情報である。
【0040】
なお、吸光度変化率チェック設定画面により、分析作業者は、演算開始ポイントおよび演算終了ポイントを、分析データを演算するために使用する測光ポイントとは別に設定できるので、分析の融通性が大きくなる。
【0041】
図5は、本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおいてレート分析法により取得した吸光度の測定データをグラフとして表示した例を示した図である。図5には、測光ポイントの第19ポイント直後に反応容器35に第2試薬が吐出されたために、第20ポイントまでに急激に吸光度が変化し、その後、吸光度がほぼ一定の割合で変化している様子が示されている。そこで、この場合、図4の画面により、測光ポイントが21と38に設定され、また、演算開始ポイントが20、演算終了ポイントが38に設定されている。
【0042】
図5の例では、第21ポイント以降、吸光度がほぼ一定の割合で変化しているとはいうものの、第22ポイントと第23ポイントとの間に吸光度のギャップが生じている。このような場合、その反応過程に異常があることが多いので、そのギャップを異常として認識する必要がある。
【0043】
そこで、情報処理装置60は、図3に示した処理を開始する。まず、情報処理装置60は、図4の分析パラメータ設定画面で設定された分析法がレート分析法であるか否かを判定する(ステップS01)。その判定の結果、レート分析法であったときには(ステップS01でYes)、情報処理装置60は、演算開始ポイントから演算終了ポイントまでの各測光ポイントiについて、吸光度変化率を算出する(ステップS02)。このとき、吸光度変化率は、吸光度の測定データをm(i)とすれば、例えば、前記した式(1)に従って計算することができる。
【0044】
図6は、図5の吸光度の測定データについて算出した吸光度変化率のグラフを示した図である。一般に、吸光度変化率は、レート分析法の場合、分析項目や試料などに応じて、ある一定の値になるが、図5の吸光度の測定データのように、ギャップなどが生じたりすると、図6のように異常に大きい値の吸光度変化率が現れる。そこで、情報処理装置60は、このような吸光度変化率の異常値を検出して、反応過程の異常と判定する。
【0045】
吸光度変化率の異常値の検出は、算出された吸光度変化率が、図4の吸光度変化率チェック設定画面で設定した上限値と下限値の範囲内に含まれているか否かで判定する。ただし、本実施形態の場合、図3に示すように、情報処理装置60は、その判定の前に、ステップS02で算出した吸光度変化率を演算開始ポイントの値で規格化している(ステップS03)。ここで、規格化するとは、ステップS02で算出された各測光ポイントの吸光度変化率の値から、演算開始ポイントの吸光度変化率の値を差し引くことをいう。
【0046】
図7は、図6の吸光度変化率のグラフを演算開始ポイントの値で規格化した吸光度変化率のグラフを示した図である。この場合、規格化した吸光度変化率の値は、ほぼ“0”となるので、上限値および下限値の設定がしやすくなる。また、測定対象の試料における濃度変化が大きい場合であっても、吸光度変化率の異常があったポイントを容易に検出することができる。なお、ここでは、吸光度変化率を演算開始ポイントの値により規格化しているが、他の測光ポイントの吸光度変化率の値により規格化してもよい。さらには、当該演算ポイント区間における吸光度変化率の平均値を求めた上で、その平均値により、吸光度変化率を規格化してもよい。
【0047】
続いて、図3において、情報処理装置60は、規格化された吸光度変化率が所定の範囲内の値であるか否かを判定する(ステップS07)。つまり、規格化された吸光度変化率が図4の吸光度変化率チェック設定画面で設定した上限値と下限値の範囲内に含まれているか否かを判定する。その結果、その範囲に含まれていたときには(ステップS07でYes)、反応過程に異常はなかったものとして、そのまま処理を終了する。一方、規格化された吸光度変化率がその範囲に含まれていなかったときには(ステップS07でNo)、反応過程に何らかの異常があったものとして、その吸光度変化率に対応する測定データまたはその測定データから算出された分析データにアラームを表示する(ステップS08)。なお、ステップS01の判定で、Noとなる場合の説明は後記する。
【0048】
図8は、本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおける分析結果表示画面の例を示した図である。図8に示すように、その分析結果表示画面においては、左側の領域に、検体番号、試料容器、測定時間などの検体情報が表示される。そして、その検体情報のうち、クリック操作などにより、その1つが選択されると(ここでは、検体番号0006が選択されている)、その検体の測定結果が右側の領域に表示される。この例では、分析項目として、AST,ALT,GGT,TPが表示され、そのうち、GGTについては、反応過程に異常があったことを示すアラームが表示されている。
【0049】
さらに、情報処理装置60は、測定結果の領域において、その分析項目の1つがクリック操作などにより選択されたときには(ここでは、GGTが選択されている)、その分析項目について、図5や図6などのような測定データや吸光度変化率などのグラフを表示するようにしてもよい。こうすることによって、分析作業者は、その反応過程の異常の様子を知ることができる。
【0050】
続いて、レート分析法以外の分析法における測定データ異常の検出について説明する。ここでは、その分析法としてエンドポイント法を例とする。
【0051】
図9は、本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおける分析パラメータ設定画面でエンドポイント法を指定したときの表示画面の例を示した図である。図9に示すように、その分析パラメータの設定画面は、分析法としてエンドポイント法が設定されていること、および、吸光度変化率が吸光度加速度になっていることを除けば、レート分析法の場合の分析パラメータの設定画面(図4参照)と変わるものではない。なお、吸光度加速度の説明は、後記するところによる。
【0052】
図10は、本発明の実施形態に係る制御コンピュータを用いてエンドポイント法により取得した吸光度の測定データをグラフとして表示した例を示した図である。エンドポイント法の場合、吸光度変化率は、第2試薬が吐出された直後に急激に増え、その後、吸光度変化率は、次第に小さくなる。この例では、24番目の測光ポイントで吸光度が異常な値となっており、そのポイントで異常反応があったと判断することができる。
【0053】
図11は、図10の吸光度の測定データについて算出した吸光度変化率のグラフを示した図である。図11に示すように、その吸光度変化率(の絶対値)は、はじめ大きく次第に小さくなっている。すなわち、吸光度変化率は、レート分析法の場合と異なり、一定の値にならない。そこで、本実施形態では、この吸光度変化率について、さらに、その変化率、つまり、吸光度変化率の変化率を算出する。
【0054】
なお、本明細書では、この吸光度変化率の変化率を「吸光度加速度」と呼んでいる。これは、吸光度変化率が、試料と試薬の反応の速度に対応する量になっているので、吸光度変化率の変化率は、反応のいわば加速度に対応するという事実にちなんだためである。ただし、特許請求の範囲の記載および図2の説明においては、「測定データ(吸光度)の変化率の変化率」という表現も、「測定データの加速度」という表現も使用せず、代わりに、「測定データの変化量の変化率」という表現を使用している。「測定データの加速度」は、一般的な表現ともいえず、また、「測定データ(吸光度)の変化率の変化率」という表現は、2重単語記載の誤記と紛らわしいと判断したからである。
【0055】
図12は、図11の吸光度変化率について算出した吸光度加速度のグラフを示した図である。図12に示すように、吸光度加速度の場合には、その値はどの演算ポイントにおいてもほぼ一定の値となる。
【0056】
図13は、図12の吸光度加速度のグラフを演算開始ポイントの値で規格化した吸光度加速度のグラフを示した図である。なお、規格化の方法およびその意味は、図7において説明した内容と同じである。また、図13に記載した上限値および下限値は、図9の吸光度加速度チェック設定画面で設定したものである。
【0057】
続いて、図3を参照して、レート分析法以外の分析法の場合について、測定データの異常を検出する処理について説明する。
【0058】
情報処理装置60は、ステップS01の判定で、分析法がレート分析法でなかったと判定したときには(ステップS01でNo)、演算開始ポイントから演算終了ポイントまでの各測光ポイントiについて、吸光度変化率v(i)を算出する(ステップS04)。このとき、吸光度変化率v(i)は、吸光度の測定データをm(i)とすれば、例えば、式(1)に従って計算することができる。
【0059】
次に、情報処理装置60は、前記算出した吸光度変化率v(i)に基づき、吸光度加速度a(i)を算出する(ステップS05)。このとき、吸光度加速度a(i)は、例えば、式(2)に従って計算することができる。次に、情報処理装置60は、前記算出した吸光度加速度a(i)を演算開始ポイントの値により規格化する(ステップS06)。
【0060】
さらに、情報処理装置60は、規格化された吸光度加速度が所定の範囲内の値であるか否かを判定する(ステップS07)。つまり、規格化された吸光度加速度が図4の吸光度加速度チェック設定画面で設定した上限値と下限値の範囲内に含まれているか否かを判定する。その結果、吸光度加速度がその範囲に含まれていたときには(ステップS07でYes)、反応過程に異常はなかったものとして、そのまま処理を終了する。一方、規格化された吸光度加速度がその範囲に含まれていなかったときには(ステップS07でNo)、反応過程に何らかの異常があったものとして、その吸光度加速度に対応する測定データまたはその測定データから算出された分析データにアラームを表示する(ステップS08)。そのアラームの表示例は、図8の例と同様である。
【0061】
以上、本実施形態によれば、同じ反応過程について基準となるデータがなくても、測定データの異常、つまり、反応過程における異常を検出できる。従って、あらかじめ、基準となるデータを用意する(つまり、測定する)必要がないので、分析作業の効率を向上させることができる。
【0062】
本発明は、以上に説明した実施形態に限定されることなく、様々な変形が可能である。例えば、以上に説明した実施形態においては、算出した吸光度変化率または吸光度加速度を規格化するとしているが、その規格化は、上限値と下限値が適切に設定される限りにおいて、省略しても構わない。その場合には、情報処理装置60は、図3におけるステップS03およびステップS06の処理を実行する必要がない。
【0063】
また、以上に説明した実施形態においては、測定データの異常を検出するための上限値および下限値を図4または図9の設定画面により分析作業者が設定するとしているが、これを情報処理装置60が測定データそのものに基づき設定することもできる。その場合には、例えば、測定値である吸光度から求めた吸光度変化率や吸光度加速度の値の分布(ヒストグラム)に基づき、その平均値Aと標準偏差σを求め、例えば、A+3σをその上限値とし、A−3σを下限値としてもよい。この場合には、分析作業者が上限値および下限値を設定する必要がなくなるので、分析作業の効率がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係る自動分析装置の構成の例を示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御コンピュータの機能ブロックの構成の例を示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおいて測定データ取得後の測定データの異常を検出する処理の流れの例を示した図である。
【図4】本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおける分析パラメータ設定画面の例を示した図である。
【図5】本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおいてレート分析法により取得した吸光度の測定データをグラフとして表示した例を示した図である。
【図6】図5の吸光度の測定データについて算出した吸光度変化率のグラフを示した図である。
【図7】図6の吸光度変化率のグラフを演算開始ポイントの値で規格化した吸光度変化率のグラフを示した図である。
【図8】本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおける分析結果表示画面の例を示した図である。
【図9】本発明の実施形態に係る制御コンピュータにおける分析パラメータ設定画面でエンドポイント法を指定したときの表示画面の例を示した図である。
【図10】本発明の実施形態に係る制御コンピュータを用いてエンドポイント法により取得した吸光度の測定データをグラフとして表示した例を示した図である。
【図11】図10の吸光度の測定データについて算出した吸光度変化率のグラフを示した図である。
【図12】図11の吸光度変化率について算出した吸光度加速度のグラフを示した図である。
【図13】図12の吸光度加速度のグラフを演算開始ポイントの値で規格化した吸光度加速度のグラフを示した図である。
【符号の説明】
【0065】
1 自動分析装置
5 分析装置
6 制御コンピュータ
10 サンプル容器
11 ラック
12 搬送機構
15 サンプルプローブ
20,21,22,23 試薬プローブ
25,26 レール
30,31 かくはん装置
35 反応容器
36 反応ディスク
40 試薬容器
41,42 試薬ディスク
45 容器洗浄機構
50 光源
51 測光装置
54 洗浄ポート
60 情報処理装置
61 測定データ取得部
62 測定データ変化率算出部
63 測定データ変化量変化率算出部
64 分析データ算出部
65 分析データ表示部
66 測定データ変化率許容範囲設定部
67 測定データ変化量変化率許容範囲設定部
68 異常測定データ検出部
71 測定データ記憶部
72 測定データ変化率記憶部
73 測定データ変化量変化率記憶部
74 分析データ記憶部
75 測定データ変化率許容範囲記憶部
76 測定データ変化量変化率許容範囲記憶部
80 入力装置
90 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応容器に検体と試薬とを順次分注して反応させ、その反応した液体の反応過程を所定の時間間隔の測光ポイントごとに連続して測光し、その測光に基づく測定データを取得する分析装置と、前記分析装置の動作を制御するとともに、その分析装置が取得した測定データを処理する制御コンピュータと、を含んで構成された自動分析装置であって、
前記制御コンピュータが、
前記測光ポイントのうち所定の測光ポイント区間に含まれる測定データを用いて所定の分析データを算出する分析データ算出手段と、
前記測光ポイントそれぞれにおける測定データについて、隣接する測光ポイントとの間の測定データの変化率を算出する測定データ変化率算出手段と、
前記測光ポイント間の測定データの変化率の上限値および下限値を設定する変化率許容範囲設定手段と、
前記算出した測定データの変化率が前記設定した測定データの変化率の上限値および下限値の範囲外にあったときには、そのときの測定データを異常測定データとして検出する異常測定データ検出手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
複数の反応容器に検体と試薬とを順次分注して反応させ、その反応した液体の反応過程を所定の時間間隔の測光ポイントごとに連続して測光し、その測光に基づく測定データを取得する分析装置と、前記分析装置の動作を制御するとともに、その分析装置が取得した測定データを処理する制御コンピュータと、を含んで構成された自動分析装置であって、
前記制御コンピュータが、
前記測光ポイントのうち所定の測光ポイント区間に含まれる測定データを用いて所定の分析データを算出する分析データ算出手段と、
前記測光ポイントそれぞれにおける測定データについて、隣接する測光ポイントとの間の測定データの変化量の変化率を算出する測定データ変化量変化率算出手段と、
前記測光ポイント間の測定データ変化量の変化率の上限値および下限値を設定する変化量変化率許容範囲設定手段と、
前記算出した測定データの変化量の変化率が前記設定した測定データの変化量の変化率の上限値および下限値の範囲外にあったときには、そのときの測定データを異常測定データとして検出する異常測定データ検出手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
前記制御コンピュータは、
前記分析データ算出手段が分析データを算出するときに用いる前記所定の測光ポイント区間とは別に、前記異常測定データ検出手段による前記異常測定データの検出対象区間を指定するための測光ポイント区間を設定する異常測定データ検出対象区間設定手段
を、さらに、備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記制御コンピュータは、
前記異常測定データ検出手段によって異常測定データが検出されたときには、前記分析データ算出手段によって算出された分析データに、反応過程の測定データに異常があったことを示すアラームを付して、その分析データを表示する分析データ表示手段
を、さらに、備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自動分析装置。
【請求項5】
複数の反応容器に検体と試薬とを順次分注して反応させ、その反応した液体の反応過程を所定の時間間隔の測光ポイントごとに連続して測光し、その測光に基づく測定データを取得する分析装置に接続されて、前記分析装置の動作を制御するとともに、その分析装置により取得された測定データを処理する制御コンピュータが、
前記測光ポイントのうち所定の測光ポイント区間に含まれる測定データを用いて所定の分析データを算出する分析データ算出ステップと、
前記測光ポイントそれぞれにおける測定データについて、隣接する測光ポイントとの間の測定データの変化率を算出する測定データ変化率算出ステップと、
前記測光ポイント間の測定データの変化率の上限値および下限値を設定する変化率許容範囲設定ステップと、
前記算出した測定データの変化率が前記設定した測定データの変化率の上限値および下限値の範囲外にあったときには、そのときの測定データを異常測定データとして検出する異常測定データ検出ステップと、
を実行することを特徴とする自動分析方法。
【請求項6】
複数の反応容器に検体と試薬とを順次分注して反応させ、その反応した液体の反応過程を所定の時間間隔の測光ポイントごとに連続して測光し、その測光に基づく測定データを取得する分析装置に接続されて、前記分析装置の動作を制御するとともに、その分析装置により取得された測定データを処理する制御コンピュータが、
前記測光ポイントのうち所定の測光ポイント区間に含まれる測定データを用いて所定の分析データを算出する分析データ算出ステップと、
前記測光ポイントそれぞれにおける測定データについて、隣接する測光ポイントとの間の測定データの変化量の変化率を算出する測定データ変化量変化率算出ステップと、
前記測光ポイント間の測定データ変化量の変化率の上限値および下限値を設定する変化量変化率許容範囲設定ステップと、
前記算出した測定データの変化量の変化率が前記設定した測定データの変化量の変化率の上限値および下限値の範囲外にあったときには、そのときの測定データを異常測定データとして検出する異常測定データ検出ステップと、
を実行することを特徴とする自動分析方法。
【請求項7】
前記制御コンピュータは、
前記分析データ算出ステップにおいて分析データを算出するときに用いる前記所定の測光ポイント区間とは別に、前記異常測定データ検出ステップにおける前記異常測定データの検出対象区間を指定するための測光ポイント区間を設定する異常測定データ検出対象区間設定ステップ
を、さらに、実行することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の自動分析方法。
【請求項8】
前記制御コンピュータは、
前記異常測定データ検出ステップにおいて異常測定データが検出されたときには、前記分析データ算出ステップにおいて算出された分析データに、反応過程の測定データに異常があったことを示すアラームを付して、その分析データを表示する分析データ表示ステップ
を、さらに、実行することを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載の自動分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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