説明

自動列車制御装置

【課題】架線を用いて地上装置から列車へ列車制御信号を伝送することにより、列車の速度制御を可能とする。
【解決手段】変電所2と列車8が接続されている架線6を用いて、ATC信号を送信できるよう変電所2内のき電制御装置4にATC地上装置3を接続し、また、ATC車上装置10に、パンタグラフ7を介して列車8内に架線6からのATC信号を受信できるように送受信機11を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動列車制御(ATC;Automatic Train Control)装置などの列車を制御する装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図3は従来のATCシステムの構成図を示す。従来のATCシステムでは、ATC信号はレール17の軌道回路を用いて送信される。軌道回路を用いた伝送方式の場合、ATC地上装置3を各駅に設置しなければならず、更に軌道回路ごとにATC地上装置3を設置しなければならない。
【0003】
例えば、特許文献1には、軌道回路を介して受信した制御信号に基づいて列車の在線を判定する在線判定手段と、この在線判定手段による列車の在線判定結果に基づいて異なる変電系統の交流電源を架線に供給させて、架線電源におけるキ電の切替制御を行なう切替判定手段とを有した自動列車制御装置の地上装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−213202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の軌道回路を用いた列車制御信号の伝送方式の場合、またはトランスポンダなどの地上子を用いた列車制御信号の伝送方式の場合は、軌道回路ごとに列車制御地上装置を設置しなければならないという問題点があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、架線を用いて列車制御信号を伝送することにより、列車の速度制御を可能とすることで、軌道回路の送信部を集約化し、設備コストの削減及び土地の有効利用を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動列車制御装置は、上記課題を解決するために、き電用変電設備と列車が接続されている架線上を用いて、列車制御信号を通信可能にできるように、き電用変電設備内のき電制御装置に列車制御地上装置を接続する。また、パンタグラフを介して列車内に架線からの信号を受信できるよう送受信部を設置する。
【0008】
本発明の実施の形態によれば、列車制御信号を生成する列車制御地上装置は、架線に電力を供給する変電所に設置されている。この構成においては、既存の変電所を利用するため、列車制御地上装置未設備区間に新たに列車制御地上装置を設置する必要はない。
【0009】
また、列車制御車上装置においては、信号を受信する送受信部にて変換した列車制御信号を用いて速度制御を行うものであり、送受信部を除き既存の装置を利用する。このため、本構成においては、従来の列車制御車上装置に適用することができ、新たに列車制御車上装置を適用する必要はない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、架線を用いて列車制御信号を伝送する事で、き電区間の幅広い範囲に列車制御信号を伝送することができる。そのため、駅ごとに設置していた列車制御地上装置を変電所ごとに集約できるため、設備の簡素化、保守性の向上、コスト削減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の自動列車制御装置の実施の形態を示す構成図である。
【図2】図2は本発明の送受信機の実施の形態を示す構成図である。
【図3】図3は従来例の自動列車制御装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。本実施例においては、列車制御信号の一例としてATCシステムに適用した例を説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態の全体の構成図を示す。変電所2には、列車の位置情報によってATC信号を演算・送信するATC地上装置3と、架線電力を制御すると共にATC地上装置からのATC信号を架線電圧に与えるき電制御装置4と、架線電圧を供給するき電用変圧器5とが備えられている。
【0014】
また、列車8には変電所2から架線6を通じて送られてくる電力を受けるパンタグラフ7と、パンタグラフ7からの電力で列車8を走らせるモータ9と、パンタグラフ7からのATC信号を受信する送受信機11と、車輪14の回転数を出力する速度発電器13と、送受信機11で変換されたATC信号と速度発電器13から出力された列車速度から速度照査を行うATC車上装置10と、ATC車上装置10からのブレーキ指示に従い列車速度を制御するブレーキ装置12とが備えられている。
【0015】
前記のように構成されたATCシステムの動作について説明を行う。例えば、レール17の軌道回路により軌道閉塞を用いて列車の在線検知が行われる。列車の在線検知により特定された列車位置情報はATC地上装置3に送られる。ATC地上装置3は、列車の位置情報をもとに、ATC信号を生成する。ATC地上装置3で生成されたATC信号を、き電制御装置4が、架線6に送信するよう制御を行う。
【0016】
変換されたATC信号は架線6を介して列車8に送信される。架線6を介して送信されたATC信号はパンタグラフ7を介して列車8に受け取られる。列車8により受け取られたATC信号は送受信機11でATC車上装置10に対応した信号に変換される。
【0017】
送受信機11で変換されたATC信号はATC車上装置10に送信される。ATC車上装置10は速度発電機13から得られた速度パルス信号から列車速度を演算する。ATC車上装置10は、演算により得られた列車速度とATC信号による速度制限情報をもとにブレーキ指示を行う。ブレーキ装置12はATC車上装置10からのブレーキ指示に従い、列車の速度制限を行う。
【0018】
図2は、本発明の送受信機11の実施の形態の構成図を示す。図2に示すように、送受信機11は架線7より受信したATC信号を、トランス31を介して変圧する。変圧されたATC信号はフィルタ32にてノイズ除去され、復調部33にてATC車上装置10に対応した信号に復調され、ATC車上装置10へと出力される。
【0019】
架線6を用いてATC信号を送信するため、同一の変電所区間であるセクション内の複数の列車に対しては同一のATC信号を伝送することになる。そのため、ATC地上装置3はATC信号にデジタル信号を生成し、信号に列車識別情報を付加する。また、各列車へのATC信号を同時に送付する。ATC車上装置10はATC信号の識別番号を判別し、自列車へのATC信号のみを抽出する。
【0020】
これにより、ATC地上装置3は同じセクション内の複数の列車に対して異なるATC信号を送信することが可能になる。
【0021】
従来のATC地上装置は、各閉そく区間に設置されており、また、閉そく区間には1編成の列車のみが進入可能となるように制御されるため、ATC地上装置は1編成に対してATC信号を送信すれば十分であり、同時に複数の編成に対してATC信号を送信する必要は無かった。しかし、一般的に同一変電所のセクションの範囲は、閉そく区間よりも広いため、複数の閉そく区間にまたがることになるため、本発明では、複数の編成に対して同時にATC信号を送信する可能性がある。
【0022】
本発明では、ATC地上装置は各変電所セクションに配置されるが、一般的に同一変電所のセクションの範囲は、閉そく区間よりも広いため、本発明ではATC地上装置の数を低減することが可能となる。
【0023】
前述の実施の形態では、架線6を、ATC信号をATC地上装置3からATC車上装置10へ送信するために用いる例を説明したが、本実施例では送受信機11が変調部34を持つ構成であるため、列車8が持つ列車位置等の情報を、変調部34により変調して、架線6を通じてATC地上装置3に送信することも可能である。
【0024】
列車位置等の情報を列車8からATC地上装置3に送信する場合、ATC車上装置10から送信する信号が送受信機11に出力される。ATC車上装置10からの信号は送受信機11内の変調部34で変調され、トランス31を介して変圧される。変圧された信号はパンタグラフ7、架線6を通じて変電所2に伝送され、変電所2内のATC地上装置3はこの信号を受信する。
【0025】
前述の実施の形態では、列車位置を認識する手段として軌道回路を用いる例を説明したが、本発明は、この実施の形態には限られず、各列車にトランスポンダ車上子15を、また地上にトランスポンダ地上子16を備える事で列車位置を認識する手段としてもよい。
【0026】
この実施の形態では、列車8はトランスポンダ車上子15を、また地上にトランスポンダ地上子16を備えており、これらにより列車位置を取得し、架線6を用いて列車位置情報をATC地上装置3に送信する。ATC地上装置3は架線6からの列車位置情報をもとに列車位置を認識し、列車制御に用いる。
【0027】
前述の実施の形態では、ATC信号を受信する手段として架線6を用いているが、これに限られず、ATC信号を送信する手段として従来の軌道回路と組み合わせてもよい。この場合、ATC地上装置から列車へのATC信号送信手段を冗長にすることができる。
【0028】
上述した実施例においては、電力供給用の架線6を用いてATC信号を列車に供給する例を示したが、地下鉄やモノレール等の電力供給用のサイドレールを用いてATC信号を列車に供給することも可能である。また、当然、制御対象は複数車両から成る列車である必要はなく、車両でも良い。
【符号の説明】
【0029】
1 発電所
2 変電所
3 ATC地上装置
4 き電制御装置
5 き電用変圧器
6 架線
7 パンタグラフ
8 列車
9 モータ
10 ATC車上装置
11 送受信機
12 ブレーキ装置
13 速度発電器
14 車輪
15 トランスポンダ車上子
16 トランスポンダ地上子
17 レール
18 (軌道回路による)ATC信号受信器
31 トランス
32 フィルタ
33 復調部
34 変調部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両制御地上装置から送信される車両制御信号を車両制御車上装置が受信し、車両制御信号の内容に基づいて速度制御を行う車両制御システムにおいて、
電力供給用架線を車両制御信号の伝送路として用いることを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
変電所に、列車の位置情報によって車両制御信号を演算・送信する前記車両制御地上装置と、架線電力を制御すると共に前記車両制御地上装置からの車両制御信号を架線電圧に与えるき電制御装置と、前記架線電圧を前記電力供給用架線に供給するき電用変圧器とが備えられていることを特徴とする車両制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御システムにおいて、
列車には前記電力供給用架線を通じて送られてくる電力を受けるパンタグラフと、前記パンタグラフからの電力で駆動するモータと、前記パンタグラフからの車両制御信号を受信する送受信機と、車輪の回転数を出力する速度発電器と、前記送受信機で変換された前記車両制御信号と前記速度発電器から出力された列車速度情報から速度照査を行う前記車両制御車上装置と、前記車両制御車上装置からのブレーキ指示に従い列車速度を制御するブレーキ装置とが備えられていることを特徴とする車両制御システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかの請求項に記載の車両制御システムにおいて、
前記車両制御地上装置は車両制御信号にデジタル信号を生成し、前記車両制御信号に列車識別信号を付加して、同一セクション内の複数の列車に対して同一の車両制御信号を伝送し、前記車両制御車上装置は前記車両制御信号の前記列車識別番号を判別し、自列車への車両制御信号のみを抽出することを特徴とする車両制御システム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかの請求項に記載の車両制御システムにおいて、
列車情報を列車から車両制御地上装置に送信する場合、前記車両制御車上装置から送信する信号が送受信機に出力され、前記送受信機内の変調部で変調され、トランスを介して変圧され、変圧された信号がパンタグラフと架線を通じて変電所に伝送され、前記車両制御地上装置はこの信号を受信することを特徴とする車両制御システム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかの請求項に記載の車両制御システムにおいて、
列車が走行するレールの軌道回路により軌道閉塞を用いて前記列車の在線検知を行うことを特徴とする車両制御システム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれかの請求項に記載の車両制御システムにおいて、
列車にトランスポンダ車上子を備え、地上にトランスポンダ地上子を備え、これらにより前記列車の位置情報を取得することを特徴とする車両制御システム。
【請求項8】
駆動用の電力を授受する集電装置と、
車両制御地上装置から送信される車両制御信号を前記集電装置を介して受信する受信装置と、
自車両速度を検出する速度検出装置と、
前記受信装置から受信する車両制御信号および自車両速度に基づき車両の速度を制御する車両制御車上装置と、を備えることを特徴とする車上装置。
【請求項9】
前記車両制御車上装置は、複数の列車識別情報を付加された前記車両制御信号を受信し、前記車両制御信号の列車識別情報により、自列車への車両制御信号のみを抽出することを特徴とする請求項8に記載の車上装置を備えた車両制御システム。
【請求項10】
車両の在線の有無を検知する車両在線検知装置と、
該車両の在線情報に基づいて、車両制御信号を生成する車両制御地上装置と、
前記車両制御信号を架線電圧に与えるき電制御装置と、
を備えることを特徴とする地上装置。
【請求項11】
前記車両制御地上装置は、同一変電所により前記架線を介して電力を供給する区間内の複数の列車に対して、複数の列車識別情報を付加した車両制御信号を伝送することを特徴とする請求項10に記載の地上装置を備えた車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−240785(P2011−240785A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113468(P2010−113468)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】