説明

自動周溶接方法

【課題】亀裂の発生しない、耐久性寿命の長い容器を製造可能とする、基材と取付環材との自動周溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接始端部を所定の入熱量となる溶接初期条件で溶接し、本溶接部を溶接初期条件よりも高い入熱量となる本溶接条件で溶接し、溶接終端部を本溶接条件よりも低い入熱量となる溶接終端条件で溶接し、この溶接終端部の溶接工程の終了前に、溶接トーチを取付環材yに沿って基材から遠ざかる方向に退避させ、該退避位置である溶接終点をクレータ処理条件で溶接をすることにより、溶接終点に形成されるクレータ処理部22bが、従来の周溶接方法で形成されるクレータ処理部22aと比べて、取付環材y側に偏移して形成されるため、本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分が縮小又は消失する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の本体を構成する基材と、該基材に形成される貫通孔に嵌着される取付環材との、環状の接続境界線縁に対して、アーク溶接により溶接ビードを形成しつつ略全周に亘って隅肉溶接を行う自動周溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構成部材間の接合が、溶接ロボット等による自動周溶接方法によって行われる一般的な容器として、圧力容器Wがある(図1参照)。この圧力容器Wでは、容器の本体を構成する基材xと、該基材xに形成される貫通孔に嵌着される取付環材yとの接合は周溶接方法によって行われる。すなわち、基材xの貫通孔に取付環材yが嵌着され、該基材xと取付環材yとの環状の接続境界線縁zに対して、アーク溶接により溶接ビードを形成しつつ略全周に亘って隅肉溶接が行われて、基材xと取付環材yとが一体的に接合される。
【0003】
ところで、アーク溶接による周溶接方法では、溶接ビードの溶接始点からその直後までの部分(溶接始端部)と溶接終点とに、溶接不良によって亀裂が発生し易い。すなわち、溶接始端部では、溶接の際に基材及び取付環材がまだ低温状態にあることから、入熱量が急激に散逸して溶接部の溶融が進み難く、その結果、溶接不良である溶込み不足が生じ易い。そして、溶接始端部は、この溶接不良がある場合には、溶接部の溶込みが不足しているために充分な強度が得られないばかりでなく、略全周に亘って形成される本溶接部の溶込みと比べて、溶込みが部分的に不足しているため、容器が圧力負荷を受ける場合では応力集中の原因ともなる。この応力集中が、溶込みの不足した溶接部に生じることにより、溶接始端部で亀裂が発生し易くなるのである。一方、溶接終点では、溶接を終了する際にアークを急に切断すること等により、溶着金属が完全に溶接終点まで行きわたらずに凝固して溶接ビードの肉厚が不足し、溶接不良であるクレータと呼ばれる溶接ビードのくぼみが残る。そして、溶接終点は、このクレータがある場合には、溶接ビードの肉厚が不足しているため充分な強度が得られないばかりでなく、急冷され易いため亀裂が発生し易くなる。
【0004】
したがって、従来の自動周溶接方法では、上記の溶接不良を解消させるために、次のような周溶接方法を行っている。すなわち、始めに、溶接始端部を所定の入熱量となる溶接初期条件で溶接し、次いで、略全周に亘る本溶接部を溶接初期条件よりも高い入熱量となる本溶接条件で溶接する。続いて、溶接始端部の溶込み不足を解消させるために、該溶接始端部の溶接ビード面上に溶接ビードを重ね合わせ、この溶接ビードが溶接始端部の溶接ビード面上に重ね合わさる溶接終点までの部分(溶接終端部)を本溶接条件よりも低い入熱量となる溶接終端条件で溶接する。最後に、溶接終点では、溶着金属の急冷防止や、溶接ビードの肉厚を確保するために、定位置で低い入熱量となるクレータ処理条件で溶接(クレータ処理工程)を行い、周溶接工程を終了する。ここで、入熱量とは、溶接時に単位溶接距離当たりに加わる電気エネルギー量をいう。
【0005】
また、特許文献1に記載の周溶接方法によれば、従来の周溶接方法の、溶接ビードを溶接始端部の溶接ビード面上に重ね合わせる溶接終端部の溶接工程で、溶接始端部の溶接ビード面上に溶接ビードを重ねて形成した後に、溶接トーチを逆戻りさせて、該形成した溶接ビードに生じている溶融池(溶接ビードの溶融している部分)に溶接ビードを更に重ねてから、クレータ処理工程を行うことが提案されている。これにより、クレータを生じさせ易い溶融池が肉盛りされた状態となり、クレータ処理工程がより効率的になることが示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−99965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の自動周溶接方法及び特許文献1に記載の周溶接方法(以下合わせて、従来の周溶接方法)は、アーク溶接により周溶接を行う際の、溶接始端部での溶込み不足及び溶接終点でのクレータの発生という溶接不良を解消し、該溶接不良に起因する亀裂の発生を抑制するものである。
【0008】
ところで、圧力容器では、品質の判定及び溶接不良の有無、程度を検査するために、各種の確性試験が実施され、すべての試験を合格する必要がある。この確性試験の項目の一つには圧力サイクル試験があり、その内容は、圧力容器に所定圧力の加圧試験を繰返し行うものである。この試験では、圧力容器は、その耐久性寿命が検査され、繰返し行われる加圧試験回数が合格基準値以上を満たさないと不合格となる。
【0009】
ここで、本発明者らは、従来の周溶接方法により基材と取付環材との接合が行われた容器に対して、圧力サイクル試験や圧力負荷実験等を行い、該容器の耐久性寿命について調査、研究を行った。その結果、従来の周溶接方法により基材と取付環材との接合が行われた容器は、溶接始端部での溶込み不足及び溶接終点でのクレータの発生というアーク溶接により周溶接を行う際の溶接不良が解消されているにもかかわらず、まだなお、圧力サイクル試験の加圧試験で、合格基準値未満の繰返し回数に、クレータ処理部周辺で亀裂の発生することが懸念されるものであった。
【0010】
また、本発明者らは、容器の本体を構成する基材の材質がアルミニウム合金であり、該基材に形成される貫通孔に取付環材を嵌通させることにより、基材の外面側と内面側とに夫々生ずる基材と取付環材との環状の接続境界線縁に対して、順次、従来の周溶接方法によって周溶接を行い、基材と取付環材との接合を行った。そして、この接合された容器に対して、圧力サイクル試験や圧力負荷実験等を行い、該容器の耐久性寿命について調査、研究を行った。その結果、この容器の場合でも、溶接始端部での溶込み不足及び溶接終点でのクレータの発生というアーク溶接により周溶接を行う際の溶接不良が解消されているにもかかわらず、まだなお、圧力サイクル試験の加圧試験で、合格基準値未満の繰返し回数に、前記クレータ処理部周辺に加えて、該クレータ処理部周辺以外の溶接部でも亀裂の発生することが懸念されるものであった。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題を解決し、従来の周溶接方法によって製造される容器に比べて、亀裂の発生しない、耐久性寿命の長い容器を製造可能とする、次に示すような自動周溶接方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、容器の本体を構成する基材と、該基材に形成される貫通孔に嵌着される取付環材との、環状の接続境界線縁に対して、アーク溶接により溶接ビードを形成しつつ略全周に亘って隅肉溶接を行うものであり、溶接始端部を所定の入熱量となる溶接初期条件で溶接し、略全周に亘る本溶接部を溶接初期条件よりも高い入熱量となる本溶接条件で溶接し、溶接始端部上に重なる溶接終端部を本溶接条件よりも低い入熱量となる溶接終端条件で溶接し、溶接終点をクレータ処理条件で溶接する自動周溶接方法において、溶接終端部の溶接工程の終了前に、溶接トーチを取付環材に沿って基材から遠ざかる方向に退避させ、該退避位置でクレータ処理工程を行うようにしたことを特徴とする自動周溶接方法である。
【0013】
ここで、クレータ処理工程とは、次に述べるものである。アーク溶接では、溶接を終了する際にアークを急に切断すること等により、溶着金属が完全に溶接終点まで行きわたらずに凝固して溶接ビードの肉厚が不足し、溶接終点に溶接不良であるクレータと呼ばれる溶接ビードのくぼみが残る。そして、溶接終点にこのクレータがある場合には、該溶接終点は、溶接ビードの肉厚が不足しているため充分な強度が得られないばかりでなく、急冷され易いため亀裂が発生し易くなる。したがって、溶接終点では、定位置で低い入熱量となるクレータ処理条件で溶接を行い、該溶接終点にクレータが生じないように溶接ビードの肉厚を充分に確保させてから、アークを切断するようにする。この溶接終点の溶接工程を、クレータ処理工程という。
【0014】
従来の周溶接方法では、溶接始端部での溶込み不足及び溶接終点でのクレータの発生という溶接不良を解消させるために、溶接始端部の溶接ビード面上に溶接ビードを重ね合わせる溶接終端部の溶接工程、及び、該溶接終端部の溶接工程の直後の溶接終点で溶接ビードの肉厚を確保させる前記クレータ処理工程が行われている。しかし、この溶接終端部の溶接工程及びクレータ処理工程は溶接始端部の溶接ビード面上で行われることから、該溶接始端部の溶接ビード面上に形成される溶接終端部及びクレータ処理部の形状が、略全周に亘って形成される本溶接部の形状と比べて、基材面上に広がったものとなり易く、特に、クレータ処理工程は定位置で行われることから、該クレータ処理工程によって形成されるクレータ処理部の形状は、その一部分が基材面上に大きく延出しているものになる。
【0015】
このクレータ処理部の基材面上に延出している部分は、略全周に亘って形成される本溶接部の形状と比べて、部分的に延出しているものとなっているために、容器が圧力負荷を受ける場合には応力集中の原因となる。そのため、従来の周溶接方法により基材と取付環材との接合が行われた容器では、容器が圧力負荷を受ける場合に、この本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分に応力集中が生じることによって、クレータ処理部周辺で亀裂が発生し易い。また、この本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分は、基材と融合できずに単に基材と重なっている状態(オーバーラップ)であることが多く、この場合には、該延出している部分に応力集中が生じることによって該オーバーラップとなっているオーバーラップ部が剥がれて割れ出し、クレータ処理部周辺に亀裂が発生し易い。
【0016】
そこで、本発明の自動周溶接方法を用いることにより、溶接終点のクレータ処理工程によって形成されるクレータ処理部が、従来の周溶接方法で形成されるクレータ処理部に比べて、取付環材側に偏移して、すなわち取付環材の側面側へ接近して形成されることになり、該クレータ処理部では、本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分が縮小又は消失することになる。これにより、容器が圧力負荷を受ける場合に、この本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分に生じる応力集中が緩和又は消失するため、クレータ処理部周辺での亀裂の発生を抑制することができ、容器の耐久性寿命を向上させることができる。また、この本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分が縮小又は消失することから、該延出している部分に生じ易い前記オーバーラップ部の発生が抑制され、加えて、該延出している部分に生じる応力集中も緩和又は消失するため、クレータ処理部周辺でのオーバーラップ部に起因する亀裂の発生をも抑制することができ、容器の耐久性寿命を向上させることができる。
【0017】
上記の本発明の自動周溶接方法で、溶接終端部の溶接工程の際に、溶接トーチを徐々にクレータ処理工程を行う退避位置に近づけ、溶接終端部の溶接工程の終了前での溶接トーチを退避させる距離を短くするように溶接することにより、溶接終端部とクレータ処理部とが一体的に形成され、より好適である。
【0018】
ここで、本発明者らは、従来の周溶接方法により基材と取付環材との接合が行われた容器に対して、圧力サイクル試験や圧力負荷実験等を行った。そして、クレータ処理工程によって形成されるクレータ処理部の形状と、該クレータ処理部周辺に生じ得る亀裂との関係について鋭意研鑚した。その結果、クレータ処理部の基材面上に延出している部分が、本溶接部の形状に比べ部分的に略3mm以上基材面上に延出しているような場合では、特に、クレータ処理部周辺に亀裂が発生し易いという結論に至った。そこで、前記自動周溶接方法において、溶接トーチを取付環材に沿って基材から遠ざかる方向に略3mm〜略5mm退避させるようにした自動周溶接方法が提案される。
【0019】
かかる方法を用いることにより、溶接終点のクレータ処理工程によって形成されるクレータ処理部が、従来の周溶接方法で形成されるクレータ処理部に比べて、取付環材側に略3mm〜略5mm偏移して形成されることになる。そして、このクレータ処理部では、本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分が消失することになり、容器が圧力負荷を受ける場合に、該延出している部分に生じる応力集中が消失して、クレータ処理部周辺での亀裂の発生を完全に抑制することができる。また、この本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分が消失する結果、該延出している部分に生じるオーバーラップ部も消失することから、クレータ処理部周辺での該オーバーラップ部に起因する亀裂の発生をも完全に抑制することができる。したがって、かかる自動周溶接方法により、クレータ処理部周辺に亀裂の発生しない、耐久性寿命の長い容器を製造することができる。ここで、上限値を略5mmとしたのは、従来の周溶接方法で形成されるクレータ処理部では、本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分が、基本的に本溶接部の形状に比べ略5mm以上基材面上に延出しないこと、及び、溶接終端部とクレータ処理部とを一体的に形成するためである。
【0020】
一方、容器の本体を構成する基材の材質がアルミニウム合金であり、該基材に形成される貫通孔に取付環材を嵌通させることにより、基材の外面側と内面側とに夫々生ずる基材と取付環材との環状の接続境界線縁に対して、順次、アーク溶接により溶接ビードを形成しつつ略全周に亘って隅肉溶接を行う場合には、上記自動周溶接方法において、本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長を、基材の板厚に対して略0.8倍〜略1.5倍の長さとなるようにした自動周溶接方法が提案される。
【0021】
基材に形成される貫通孔に取付環材を嵌通させることにより、基材の外面側と内面側とに夫々生ずる基材と取付環材との環状の接続境界線縁に対して、順次、アーク溶接により溶接ビードを形成しつつ略全周に亘って隅肉溶接を行う場合は、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部は、その形状及び溶込みが異なると、容器が圧力負荷を受ける場合に夫々の溶接部への応力負荷が異なるため、強度上問題となる。したがって、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部は、その形状及び溶込みが互に等しいものであることが望ましく、また、強度上、充分な溶込みも必要となる。
【0022】
ここで、溶接部の充分な溶込みを確保するために、溶接の際に基材及び取付環材への入熱量を高くすると、溶接部は基材を挟んだ状態で向かい合って形成されるため、順次行われる周溶接で、後に行われる周溶接の際の基材への入熱量が、先に行われた周溶接で形成された溶接部に加わることになる。これにより、先に行われた周溶接で形成された溶接部では、該溶接部に生成していた低融点化合物が溶け出して、該溶接部にミクロ割れを生じさせる恐れがある。また、溶接の際の基材への入熱量が高くなることによって、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部は、基材面側の溶接ビード幅(脚長)が長いものとなる。これにより、この基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部の溶接ビードの止端が、基材と融合できずに基材と単に重なる状態(オーバーラップ)になり易くなる。加えて、この基材面側の溶接ビードの脚長が長くなる場合では、容器が圧力負荷を受ける場合に、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部に生じる応力集中が強くなる傾向にある。すなわち、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長が長くなる場合では、該溶接部の充分な溶込みは確保されるが、溶接の際の基材への入熱量も高くなるため、先に行われる周溶接で形成される溶接部にミクロ割れが生じ、また、該溶接部の溶接ビードの止端がオーバーラップ部となる恐れがある。さらに、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部に生じる応力集中も強くなるため、ミクロ割れ又はオーバーラップという溶接不良に起因して該溶接部が剥がれて割れだし、この割れに起因して疲労破壊が起こって、容器に亀裂が発生することになる。
【0023】
ここで、本発明者らは、基材に形成される貫通孔に取付環材を嵌通させることにより、基材の外面側と内面側とに夫々生ずる基材と取付環材との環状の接続境界線縁に対して、順次、従来の周溶接方法により基材と取付環材との接合が行われた容器に対して、圧力サイクル試験や圧力負荷実験等を行った。そして、溶接部の形状と、クレータ処理部周辺以外の溶接部で生じ得る亀裂との関係について鋭意研鑚した。その結果、基材の板厚に対して、略全周に亘って形成される本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長の長さを制限することにより、クレータ処理部周辺以外の溶接部での亀裂の発生を抑制できることを解明した。そして、略全周に亘って形成される本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長が、基材の板厚に対して略0.8倍未満の長さのものとなる場合、及び、略1.5倍よりも長いものとなる場合では、クレータ処理部周辺以外の溶接部で亀裂が生じ易いという結論に至った。
【0024】
したがって、前記自動周溶接方法おいて、本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長を基材の板厚に対して略0.8倍〜略1.5倍の長さに制限することにより、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部の充分な溶込みは確保され、また、先に行われる周溶接で生じるミクロ割れ、及び、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部の溶接ビードの止端でのオーバーラップ部、という溶接不良が解消され、且つ、該溶接部に生じる応力集中が緩和されることになる。これにより、前記自動周溶接方法によるクレータ処理部周辺での亀裂の発生ばかりでなく、クレータ処理部周辺以外の溶接部で発生する亀裂をも抑制することができ、更なる容器の耐久性寿命の向上を図ることができる。ここで、下限値を略0.8倍としたのは、本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長が基材の板厚に対して略0.8倍未満の長さとなる場合では、溶接部に充分な溶込みが得られず、強度上問題となるからである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の自動周溶接方法は、溶接終端部の溶接工程の終了前に、溶接トーチを取付環材に沿って基材から遠ざかる方向に退避させ、該退避位置でクレータ処理工程を行うようにしたものであるから、溶接終点のクレータ処理工程によって形成されるクレータ処理部が、従来の周溶接方法で形成されるクレータ処理部と比べて、取付環材側に偏移して形成されるため、クレータ処理部のうち本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分が縮小又は消失することになる。これにより、容器が圧力負荷を受ける場合に、この延出している部分に生じる応力集中が緩和又は消失し、また、該延出している部分に生じ易いオーバーラップ部の発生が抑制されるため、クレータ処理部周辺での亀裂の発生を抑制することができ、容器の耐久性寿命を向上させることができる。
【0026】
また、前記自動周溶接方法において、溶接トーチを取付環材に沿って基材から遠ざかる方向に略3mm〜略5mm退避させるようにした自動周溶接方法では、溶接終点のクレータ処理工程によって形成されるクレータ処理部が、従来の周溶接方法で形成されるクレータ処理部に比べて、取付環材側に略3mm〜略5mm偏移して形成されるため、クレータ処理部のうち本溶接部の形状と比べて基材面上に延出している部分が消失することになる。これにより、容器が圧力負荷を受ける場合に、この延出している部分に生じる応力集中が消失し、また、該延出している部分に生じるオーバーラップ部も消失することから、クレータ処理部周辺に亀裂の発生しない、耐久性寿命の長い容器を製造することができる。
【0027】
一方、基材の材質がアルミニウム合金であり、該基材に形成される貫通孔に取付環材を嵌通させることにより、基材の外面側と内面側とに夫々生ずる基材と取付環材との環状の接続境界線縁に対して、順次、アーク溶接により隅肉溶接を行う場合に、本発明では、前記自動周溶接方法において、本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長を、基材の板厚に対して略0.8倍〜略1.5倍の長さとなるようにするものであるから、該本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長は制限された長さのものに形成される。そして、これにより、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部の充分な溶込みは確保され、また、先に行われる周溶接で生じるミクロ割れ、及び、基材の外面側と内面側とに夫々形成される溶接部の溶接ビードの止端でのオーバーラップ部、という溶接不良が解消され、且つ、該溶接部に生じる応力集中が緩和されることになる。したがって、前記自動周溶接方法によるクレータ処理部周辺での亀裂の発生ばかりでなく、クレータ処理部周辺以外の溶接部で発生する亀裂をも抑制することができ、更なる容器の耐久性寿命の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
図1は、構成部材間の接合が、溶接ロボット等による自動周溶接方法によって行われる容器として一般的な圧力容器Wである。この圧力容器Wは、胴部31(x)、鏡部32(x)、32(x)、計器座用取付環材33(y)、ドレン座用取付環材34(y)等の各構成部材間の接合により構成される。そして、胴部31(x)又は鏡部32(x)、32(x)の圧力容器Wの本体を構成する基材xと、該基材xに形成される貫通孔に嵌着される、計器座、ドレン座等を構成する取付環材yとの接合が、次の自動アーク溶接装置によって行われる。
【0029】
図2は、本発明の実施形態の自動アーク溶接装置の概略図である。かかる自動アーク溶接装置により、圧力容器Wの本体を構成する基材xと、該基材xに形成される貫通孔35に嵌着される取付環材yとの、環状の接続境界線縁zがアーク溶接により接合される。この自動アーク溶接装置は、アーク溶接を行う溶接ロボット1、制御プログラムに沿って溶接ロボット1の動作制御等を行うロボット制御装置2、ワーク3を固定するための治具4、コンピュータ5及び溶接電源装置6を備える。コンピュータ5には、溶接工程の制御プログラムが記憶され、ロボット制御装置2、溶接電源装置6等の各装置に接続されて、溶接工程の進行に応じて制御信号が適宜出力され各装置を作動させる。コンピュータ5はCRT等の表示装置、キーボード等の入力装置を具備し、操作者が溶接工程で行う各種の溶接条件を設定可能になっている。また、溶接電源装置6は、電流、溶接ワイヤ9、ガス等を図示しないワイヤ送給装置等により溶接トーチ8に供給するようになっている。
【0030】
溶接ロボットの手首部11には溶接ワイヤ9を支持する溶接トーチ8が取り付けられる。そして、溶接ロボットの手首部11と溶接ロボットのアーム部12との連結部には回転装置7が設けられ、この回転装置7により溶接ロボットの手首部11は回転する。この回転装置7は、溶接ロボット1に接続された制御基板を備えるロボット制御装置2により、その回転速度を制御される。そして、溶接の際には、この回転装置7が溶接ロボットの手首部11を回転させることにより、溶接トーチ8を基材xと取付環材yとの接続境界線縁zに沿って周動させ、溶接ワイヤ9を該接続境界線縁zに順次臨ませることにより略全周に亘って周溶接が行われる。
【0031】
次に、自動アーク溶接装置の入熱量の制御機構について説明する。上記コンピュータ5は、溶接初期条件、本溶接条件、溶接終端条件、クレータ処理条件の、4つの溶接条件が設定可能となっている(図3参照)。溶接初期条件、本溶接条件及び溶接終端条件では、夫々に溶接トーチ8の電流量、電圧量及び回転装置7の回転速度(溶接速度)、回転角度(溶接距離)が設定可能となっており、一方、クレータ処理条件では、一点の溶接であるため、溶接トーチ8の電流量、電圧量、そして溶接時間が設定可能となっている。すなわち、溶接トーチ8の電流量、電圧量、溶接速度又は溶接時間により入熱量が調整され、回転装置7の回転角度により、各溶接工程での溶接距離が決定される。そして、溶接開始前に操作者が、コンピュータ5を介して各溶接条件について設定を行うと、溶接開始後にコンピュータ5からロボット制御装置2、溶接電源装置6に制御信号が出力され、溶接トーチ8の電流量、電圧量、及び回転装置7の回転速度を調節し、各溶接条件に従った溶接が順番に実行される。なお、本発明の実施形態に用いている溶接ロボット1、溶接トーチ8等は一般的なものであるため詳細な説明は省略する。
【0032】
以下に、かかる自動アーク溶接装置を用いて、上記圧力容器Wの鏡部32(x)とドレン座用取付環材34(y)とを溶接した一実施例について説明する。本実施例では、溶接始端部を所定の入熱量となる溶接初期条件で溶接し、略全周に亘る本溶接部を溶接初期条件よりも高い入熱量となる本溶接条件で溶接し、溶接始端部上に重なる溶接終端部を本溶接条件より低い入熱量となる溶接終端条件で溶接し、溶接終点をクレータ処理条件で溶接するようにしている。
【0033】
本実施例の溶接初期条件では、溶接トーチ8を所定の電流量、電圧量とし、回転装置7を所定の回転速度としてアーク溶接を行うことにより、所定の入熱量を実現させている。また、本溶接条件では、溶接初期条件よりも溶接トーチ8の電流量、電圧量を上昇させることにより、溶接初期条件よりも高い入熱量を実現させ溶接を行っている。一方、 溶接終端条件では、本溶接条件よりも回転装置7の回転速度を速くすることにより、本溶接条件よりも低い入熱量を実現している。なお、溶接初期条件、本溶接条件、クレータ処理条件の溶接トーチ8の電流量、電圧量、回転装置7の回転速度及び溶接時間の各パラメータは、従来の溶接条件の値を好適に用いることができる。
【0034】
次に、本実施例の周溶接工程について溶接ビード21の形成図(図4)を参照して順番に説明する。まず、溶接開始後、所定の入熱量となる溶接初期条件で溶接が開始され、溶接始端部の溶接ビード21aが形成される。溶接始端部の溶接工程が終了すると、コンピュータ5からロボット制御装置2と溶接電源装置6へ信号が送られ、溶接トーチ8の電流量、電圧量を上昇させ、溶接初期条件よりも高い入熱量となる本溶接条件で、略全周に亘って溶接が行われる。本溶接部の溶接工程では、鏡部32(x)も温まっているため、充分な溶け込み量が確保された状態で安定した溶接ビード21bが形成される。
【0035】
本溶接条件で略全周に亘る本溶接部の溶接工程が終了すると、コンピュータ5からロボット制御装置2へ制御信号が送られ、回転装置7の回転速度を上昇させる。そして、本溶接条件より低い入熱量となる溶接終端条件で溶接が行われ、溶接始端部に形成された溶接ビード21a上に溶接終端部の溶接ビード21cが重ね合わされる。溶接終端部の溶接工程では、本溶接部よりも溶着金属量が少なくなった溶接ビード21cが形成される。
【0036】
溶接終端部の溶接工程の終了前になると、コンピュータ5からロボット制御装置2へ制御信号が送られ、溶接トーチ8が退避位置に移動される。そして、次に、この退避位置でクレータ処理条件による溶接が行われる。すなわち、コンピュータ5からロボット制御装置2に停止信号が出力され、回転装置7の回転を停止させると共に、溶接電源装置6への制御信号が出力されて、設定された電流量、電圧量で溶接終点が所定時間溶接され、クレータ処理部22が形成される。その後、コンピュータ5からの制御信号により溶接トーチ8を後退させて周溶接工程を終了する。
【0037】
こうして形成されるクレータ処理部22bは、従来の周溶接方法によって形成されるクレータ処理部22aと比べて、図5に示すように、ドレン座用取付環材34(y)側に偏移したものとなる。したがって、従来のクレータ処理部22aに形成されていた、本溶接部の溶接ビード21b形状よりも鏡部面上に延出している部分が消失することになる。これにより、容器が圧力負荷を受ける場合に、この延出している部分に生じる応力集中が消失し、また、この延出している部分に生じ易いオーバーラップ部も消失することになる。而して、クレータ処理部周辺での亀裂の発生を完全に抑制することができ、耐久性寿命の長い容器を製造することができる。
【0038】
次の一実施例は、鏡部32(x)に形成される貫通孔35にドレン座用取付環材34(y)を嵌通させることにより、鏡部32(x)の外面側と内面側とに夫々生ずる鏡部32(x)とドレン座用取付環材34(y)との環状の接続境界線縁zに対して、順次、アーク溶接により略全周に亘って隅肉溶接を行うものである(図6参照)。そして、このアーク溶接によって形成される本溶接部の鏡部面側の溶接ビードの脚長hを、鏡部32(x)の板厚tに対して略0.8倍〜略1.5倍の長さとなるようにする自動周溶接方法に関するものである。自動アーク溶接装置及び溶接条件等は、前記実施例と同様であるため説明を省略する。
【0039】
アーク溶接による周溶接で形成される本溶接部の鏡部面側の溶接ビードの脚長hは、本溶接条件での鏡部32(x)への入熱量と、該週溶接で使用する溶接ワイヤ径、図7に示す溶接ワイヤ9のネライ位置とで略決まるものである。以下に、実施例イと比較例ロとの溶接結果の比較を示す。
【0040】
実施例イは、本溶接部の鏡部面側の溶接ビードの脚長hを、鏡部32(x)の板厚tに対して略0.8倍〜略1.5倍の長さとなるように、溶接トーチ8の電流量を240A,電圧量24V、溶接速度70cm/分、溶接ワイヤ径φ1.6mmとし、溶接ワイヤ9のネライ位置をセンターネライとした場合である(図7参照)。この溶接条件では、本溶接部の鏡部面側の溶接ビードの脚長hは、鏡部32(x)の板厚tに対して略1.2倍となった。一方、比較例ロは、溶接トーチ8の電流量を240A,電圧量24V、溶接速度70cm/分、溶接ワイヤ径φ1.6mmとし、溶接ワイヤ9のネライ位置を外側ネライとした場合である(図7参照)。この溶接条件では、本溶接部の鏡部面側の溶接ビードの脚長hは、鏡部32(x)の板厚tに対して略1.9倍となった。
【0041】
そして、次に、これらの溶接条件により接合された夫々の容器に対して、圧力サイクル試験を行った。その結果、本溶接部の鏡部面側の溶接ビードの脚長hが鏡部32(x)の板厚tに対して略1.2倍であった実施例イの容器は、該容器での圧力サイクル試験の合格基準値である2.9MPaの加圧試験回数12000回以上となり合格となった(図8参照)。一方、本溶接部の鏡部面側の溶接ビードの脚長hが鏡部32(x)の板厚tに対して略1.9倍であった比較例ロの容器は、該容器での圧力サイクル試験の合格基準値である2.9MPaの加圧試験回数12000回未満の早期に(2600回程度)、前記の溶接条件で形成された溶接部に亀裂kが発生し、圧力サイクル試験不合格となった(図9参照)。
【0042】
この結果からもわかるように、基材xの板厚tに対して、略全周に亘って形成される本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長hを略0.8倍〜略1.5倍の長さに制限することにより、クレータ処理部周辺以外の溶接部での亀裂の発生を抑制できることがわかる。そして、基材xの板厚tに対して、略全周に亘って形成される本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長hが、略0.8倍未満の長さのものとなる場合、及び、略1.5倍よりも長いものとなる場合では、クレータ処理部周辺以外の溶接部で亀裂が生じ易いということがわかる。
【0043】
すなわち、上記自動周溶接方法において、本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長hを、基材xの板厚tに対して略0.8倍〜略1.5倍の長さとなるようにした自動周溶接方法を用いることにより、本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長hが制限された長さのものに形成される。そして、これにより、基材xの外面側と内面側とに夫々形成される溶接部の充分な溶込みは確保され、また、先に行われる周溶接で形成される溶接部に生じるミクロ割れ、及び、基材xの外面側と内面側とに夫々形成される溶接部の溶接ビードの止端でのオーバーラップ部、という溶接不良が解消され、且つ、該溶接部に生じる応力集中が緩和されることになる。したがって、前記自動周溶接方法によるクレータ処理部周辺での亀裂の発生ばかりでなく、クレータ処理部周辺以外の溶接部に発生する亀裂をも抑制することができ、更なる容器の耐久性寿命の向上を図ることができる。
【0044】
上記実施例とは異なり、胴部31(x)と計器座用取付環材33(y)とを周溶接する場合等では、胴部31(x)が円筒状であるため、胴部31(x)と計器座用取付環材33(y)との環状の接続境界線縁zが一平面上とはならない。そのため、自動アーク溶接装置での周溶接に当たり、溶接ロボット1に設けられた溶接トーチ8を接続境界線縁zに沿って周動させるために、コンピュータ5に該溶接トーチ8の位置制御を行うための制御プログラムを入力することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】圧力容器の具体例を表す構成図である。
【図2】本実施例の自動アーク溶接装置を表す概略図である。
【図3】本実施例の溶接条件を表す説明図である。
【図4】本実施例の溶接ビードを表す説明図である。
【図5】本実施例のクレータ処理部を表す説明図である。
【図6】本実施例の溶接部を表す拡大図である。
【図7】溶接ワイヤのネライ位置を表す説明図である。
【図8】実施例イの圧力サイクル試験後の溶接部を表す断面図である。
【図9】比較例ロの圧力サイクル試験後の溶接部を表す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 溶接ロボット
2 ロボット制御装置
3 ワーク
4 治具
5 コンピュータ
6 溶接電源装置
7 回転装置
8 溶接トーチ
9 溶接ワイヤ
11 溶接ロボットの手首部
12 溶接ロボットのアーム部
21 溶接ビード
21a 溶接ビード(溶接始端部)
21b 溶接ビード(本溶接部)
21c 溶接ビード(溶接終端部)
22 クレータ処理部
22a 従来のクレータ処理部
22b 本発明を用いた場合のクレータ処理部
31(x) 胴部
32(x) 鏡部
33(y) 計器座用取付環材
34(y) ドレン座用取付環材
35 貫通孔
x 基材
y 取付環材
z 接続境界線縁
h 溶接ビードの脚長
t 板厚
k 亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の本体を構成する基材と、該基材に形成される貫通孔に嵌着される取付環材との、環状の接続境界線縁に対して、アーク溶接により溶接ビードを形成しつつ略全周に亘って隅肉溶接を行うものであり、溶接始端部を所定の入熱量となる溶接初期条件で溶接し、略全周に亘る本溶接部を溶接初期条件よりも高い入熱量となる本溶接条件で溶接し、溶接始端部上に重なる溶接終端部を本溶接条件よりも低い入熱量となる溶接終端条件で溶接し、溶接終点をクレータ処理条件で溶接する自動周溶接方法において、
溶接終端部の溶接工程の終了前に、溶接トーチを取付環材に沿って基材から遠ざかる方向に退避させ、該退避位置でクレータ処理工程を行うようにしたことを特徴とする自動周溶接方法。
【請求項2】
溶接トーチを取付環材に沿って基材から遠ざかる方向に略3mm〜略5mm退避させるようにした請求項1に記載の自動周溶接方法。
【請求項3】
基材の材質がアルミニウム合金であり、該基材に形成される貫通孔に取付環材を嵌通させることにより、基材の外面側と内面側とに夫々生ずる基材と取付環材との環状の接続境界線縁に対して、順次、アーク溶接により溶接ビードを形成しつつ略全周に亘って隅肉溶接を行う場合に、
前記本溶接部の基材面側の溶接ビードの脚長を、基材の板厚に対して略0.8倍〜略1.5倍の長さとなるようにした請求項1又は請求項2に記載の自動周溶接方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−869(P2006−869A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176793(P2004−176793)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】