説明

自動変速機のピストン機構

【課題】リターンスプリングにウェーブスプリングを用いた自動変速機のピストン機構において、ウェーブスプリングの座屈を生じさせないようにする。
【解決手段】摩擦締結要素7を押圧するためのリング状のピストン20と、ピストン20に対する固定側部材である変速機ケース1に係止されピストン20に対向するスプリングリテーナ30と、ピストン20とスプリングリテーナ30との間に介装され波型に成形した1枚の板バネを螺旋状に巻回して形成された環状のウェーブスプリング15からなるリターンスプリングとを備えた自動変速機のピストン機構において、ウェーブスプリング15とピストン20との間に、ウェーブスプリング15とピストン20が直接接触した場合の摩擦係数よりも摩擦係数の小さいワッシャ17を介在させて、ウェーブスプリング15のピストン20側の一端が自由端となるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機のピストン機構、具体的にはピストン機構におけるリターンスプリング支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機のピストン機構には、摩擦係合要素(摩擦締結要素)を押圧するピストンを軸方向に復帰させるリターンスプリングが設けられており、このリターンスプリングとして、波型に成形した1枚の板バネを波の山同士が当接するように螺旋状に巻回したウェーブスプリングを用いるようにしたピストン機構が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−100911号公報
【0004】
図5の(a)は、特許文献1に開示されたような従来例にかかるウェーブスプリング150をリターンスプリングとして採用したピストン機構おけるリターンスプリング支持構造を示す図であり、(b)は、ウェーブスプリング150の座屈を説明する図である。図6の(a)は、スプリングリテーナ140とピストン120との間に配置されたウェーブスプリング150を模式的に示した図であり、(b)は、座屈したウェーブスプリング150を模式的に示した図である。
【0005】
変速機ケース100内には、複数のドライブプレート110aと複数のドリブンプレート110bとが軸方向に交互に重ねて配置されており、これらドライブプレート110aおよびドリブンプレート110bで摩擦締結要素110を構成している。
【0006】
摩擦締結要素110を押圧するピストン120は、変速機ケース100に固定された隔壁130のリング状のシリンダ131内で、軸方向にストローク可能に配置されている。
摩擦締結要素110と隔壁130の間には、スプリングリテーナ140が設けられており、ピストン120とスプリングリテーナ140の間には、ウェーブスプリング150が配置されている。
【0007】
スプリングリテーナ140は、円盤部141と、円盤部141の内径側から軸方向に延びる筒部142とからなり、円盤部141の外周縁は、変速機ケース100のスプライン101に形成した溝102に嵌め込んだスナップリング103に係止されて、軸方向が位置決めされている。
【0008】
ウェーブスプリング150は、図6の(a)に示すように、波型に成形した1枚の板バネを、波の山151同士が当接するように螺旋状に巻回して形成される。
ウェーブスプリング150は、ピストン120のストロークにより軸方向に圧縮されたときに、互いに当接した波の山151同士が突っ張り合ってばね力が得られるようになっており、得られるバネ力で、ピストン120(図5の(a)参照)が、摩擦締結要素110を押圧する前の元の位置に復帰させられるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウェーブスプリング150は、軸方向外側に位置する波の山151aと波の山151hとを、それぞれスプリングリテーナ140とピストン120に当接させた状態で設けられている。ここで、波の山151aとスプリングリテーナ140との当接点と、波の山151hとピストン120との当接点には、ウェーブスプリング150のバネ力による応力が集中することで接触面積の小さい波の山の当接部において摩擦係数が非常に大きくなり、ウェーブスプリング150の波の山151a、151hは、スプリングリテーナ140とピストン120に吸い付いたように周方向に摺動しない状態の面接触となる。
【0010】
そのため、ウェーブスプリング150は、両端151a、151hが固定されて、捩れ方向の自由度が阻害された状態で伸縮を繰り返すようになっており、互いに当接している波の山同士が相対的にずれやすい傾向にある。従って、ウェーブスプリング150は、径方向の剛性が特に低くなっている。
【0011】
ウェーブスプリング150が、捩れ方向の自由度が阻害された状態で伸縮を繰り返すと、互いに当接している波の山151(151b〜151g)の位置ズレが進行し、例えば、直線X上で互いに当接していた波の山151b〜151g(図6の(a)参照)が、直線Xを挟んで互い違い方向にズレてしまうことがある(図6の(b)参照)。
【0012】
この際のズレ量は、固定端となる波の山151a、151hと、これらに軸方向で隣接する波の山151b、151gとの間で最も大きくなる傾向があるので、これら波の山が位置している巻回部分150Aと150Bとの間、そして150Gと150Hとの間での、ウェーブスプリング150の径の変化量が大きくなる。
そのため、例えば巻回部分150A、150Bでの径の変化量が大きくなってウェーブスプリング150の板幅を超えると、巻回部分150A、150Bが板幅分ずれて互いに係合し合ったままの、いわゆる座屈状態となる(図5の(b)参照)。
【0013】
座屈状態となった巻回部分は、ピストン120やスプリングリテーナ140の筒部142と干渉することとなり、あるいはウェーブスプリング150のバネ定数の低下を招くこととなり摩擦締結要素110の滑らかな押圧が阻害されて変速性能を悪化させる原因となる。
【0014】
そこで、本発明は、リターンスプリングにウェーブスプリングを用いた自動変速機のピストン機構において、ウェーブスプリングの座屈を生じさせないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、摩擦係合要素を押圧するためのピストンと、固定側部材に係止されピストンに対向するスプリングリテーナと、ピストンとスプリングリテーナとの間に介装され波型に成形した板バネを螺旋状に巻回して形成された環状のウェーブスプリングからなるリターンスプリングとを備えた自動変速機のピストン機構において、ウェーブスプリングとピストンとの間と、ウェーブスプリングとスプリングリテーナとの間のうちの少なくとも一方に、ウェーブスプリングとピストンまたはスプリングリテーナが直接接触した場合の摩擦係数よりも低い低摩擦係数部材を介在させて、ウェーブスプリングのピストンと当接する一端と、スプリングリテーナと当接する他端とのうちの少なくとも一方を、周方向に変位可能に支持させた構成とした。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ウェーブスプリングの軸方向における一端と他端のうちの少なくとも一方が自由端となるので、ウェーブスプリングは、捩れ方向の自由度が確保された状態で伸縮を繰り返すことになる。
よって、ウェーブスプリングが縮んだ際に、自由端側が一方向に捩れると、ウェーブスプリングの全体が同じ方向に捩れるので、当接していた波の山が互い違い方向にズレることを防止できる。
これにより、ウェーブスプリングの各スプリング巻き(巻回部分)の径の変化が抑えられるので、ウェーブスプリングの座屈を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】リターンスプリングの支持構造を示す図である。
【図2】図1におけるピストンの一部を摩擦締結要素側から見た図である。
【図3】図1におけるA−A線断面図である。
【図4】ウェーブスプリングの周方向から中心側を見た図である。
【図5】従来例にかかるリターンスプリングの支持構造を示す図である。
【図6】従来例におけるリターンスプリングの座屈を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかるリターンスプリングの支持構造の実施形態を説明する。
図1は、実施形態にかかるリターンスプリングの支持構造を示す断面図である。図2は、図1におけるピストン20を、摩擦締結要素7側から見た部分拡大図であり、図3は、図1におけるA−A断面の部分拡大図である。図4は、図1におけるリターンスプリングを径方向外側から見た状態を示す模式図である。
【0019】
変速機ケース1の内壁にスプライン2が形成されるとともに、スプライン2に対向して外周にスプライン6を備えるハブ部5が不図示の回転部材から延びており、ハブ部5のスプライン6に係合する複数のドライブプレート7aと変速機ケース1のスプライン2に係合する複数のドリブンプレート7bとが軸方向に交互に重ねて配置されて、摩擦締結要素7を構成している。
【0020】
これらの摩擦締結要素7を押圧するためのピストン20が、変速機ケース1に固定された隔壁10のリング状のシリンダ11内に、軸方向にストローク可能に配置され、ピストン20とシリンダ11の間に油室13が形成されている。
図2の(a)に示すように、ピストン20は、シリンダ11に対応してリング形状を有しており、外周縁近傍には、摩擦締結要素7に向かって軸方向に伸びる押圧部21が、周方向に等間隔で設けられている。これら押圧部21は、後記するスプリングリテーナ30の通過穴33(図3参照)と整合する位置に、通過穴33と同一個数設けられている。
【0021】
図1に示すように、摩擦締結要素7と隔壁10の間には、スプリングリテーナ30が設けられており、ピストン20とスプリングリテーナ30の間にウェーブスプリング15が配置されている。
【0022】
図1および図3に示すように、スプリングリテーナ30は、円盤部31と円盤部31の内径側から軸方向に延びる筒部32とからなり、軸方向から見て、リング形状を有している。
円盤部31の外周側は、ウェーブスプリング15が当接する面とは反対側の面が、変速機ケース1のスプライン2の溝3に嵌め込んだスナップリング4に係止されおり、スプリングリテーナ30は、スナップリング4により、軸方向が位置決めされている。
【0023】
円盤部31は、ピストン20の押圧部21を貫通させる通過穴33を備えており、図3に示すように、通過穴33は、周方向に等間隔で設けられている。通過穴33の周方向長さは押圧部21(図2参照)の周方向幅よりわずかに大きく設定されて両者間の間隙を抑え、ピストン20とスプリングリテーナ30の相対回転を所定内に規制するようになっている。
【0024】
図3に示すように、円盤部31の外周縁には、変速機ケース1のスプライン2のスプライン溝2aに嵌合する嵌合部31cが、周方向に等間隔で設けられている。
嵌合部31cは、変速機ケース1のスプライン溝2aに係合可能な径方向長さであって、スナップリング4よりも径方向外側に及ぶ長さで形成されている。
図1に示すように、スナップリング4の隔壁10側の面4aは、全面に亘ってスプリングリテーナ30の円盤部31(外半部31b、嵌合部31c)と当接しており、ウェーブスプリング15により付勢されているスプリングリテーナ30から受ける応力でスナップリング4が倒れることを防止している。スプリングリテーナ30のスナップリング4による支持からの脱落を防止するためである。
【0025】
図1および図3に示すように、スプリングリテーナ30は、円盤部31の通過穴33を含む外半部31bが、それより内径側の内半部31aよりもわずかに筒部32の延び方向にオフセットしており、スプリングリテーナ30を隔壁10側から見ると、内半部31aが凹んでいる。この内半部31aがウェーブスプリング15の一端の当接(着座)部となっている。
【0026】
図4に示すように、ウェーブスプリング15は、波型に成形した一枚の板バネを、波の山16同士が当接するように螺旋状に巻き回して形成されており、座屈していない通常状態において、波の山16aとスプリングリテーナ30の円盤部31との当接点、波の山16hとワッシャ17との当接点、波の山16b〜16gの各当接点とが、ウェーブスプリングの中心を通る直線(軸線)X上で一致し、さらに、各波の山16a’〜16h’の当接点も、直線Xに平行な直線X’上で一致している。
このウェーブスプリング15では、軸方向に並んだ波の山16a〜16hの列と、波の山16a〜16h’の列とが、周方向で交互に並んでおり、ピストン20(図1参照)のストロークによりウェーブスプリング15が軸方向に圧縮されたときに、互いに当接した波の山16(16b〜16g、16a’〜16h’)同士が突っ張り合ってばね力が得られるようになっている。
【0027】
ウェーブスプリング15は、巻回部分15Aの軸方向外側に突出する波の山16aと、巻回部分15Hの軸方向外側に突出する波の山16hとを、それぞれスプリングリテーナ30の円盤部31と、後記するワッシャ17に当接させた状態で設けられている。
図1に示すように、ウェーブスプリング15は、ピストン20を初期位置方向(隔壁10方向)へ付勢している。この図1では、ピストン20が初期位置にある状態を示しており、この状態において、クラッチは解放状態となっている。
【0028】
図1に示すように、ピストン20は油室13と反対側に凹部22を有しており、その底壁22aには、底壁22aと整合する形状のワッシャ17が設けられている。
【0029】
ワッシャ17は、軸方向から見てリング形状を有すると共に、全周に亘って均一な厚みで形成されており、ウェーブスプリング15の軸方向他端の当接(着座)部となっている。
【0030】
ワッシャ17は、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)などのフッ素樹脂からなるワッシャであり、摩擦係数(μ)が小さく(好ましくは0.3以下)優れた摺動性を持っている。
【0031】
ここで、ワッシャ17の摩擦係数は、ピストン20やスプリングリテーナ30を構成する材料の摩擦係数よりも小さい摩擦係数であって、ウェーブスプリング15の収縮時に、ウェーブスプリング15の波の山16h(図4参照)とワッシャ17との当接位置が周方向に変位でき、ウェーブスプリング15の捩れ方向への自由度が確保できるのであれば特に限定されない。
実施形態では、ウェーブスプリング15と、ピストン20またはスプリングリテーナ30とが直接接触した場合の摩擦係数よりも小さい摩擦係数に設定されている。
【0032】
かかる構成のウェーブスプリング15の支持構造によると、油室13(図1参照)に作動油が供給されて、ピストン20がウェーブスプリング15を収縮させながら図中左方向にストロークすると、図4に示すように、ウェーブスプリング15の波の山16hとワッシャ17との当接位置は、ウェーブスプリング15とピストン20とが直接接触した場合の摩擦係数よりも摩擦係数の小さいワッシャ17により周方向に変位可能となっているので、ウェーブスプリング15の収縮量に応じて周方向(例えば図中矢印Aで示す方向)に移動する。
そうすると、ウェーブスプリング15は1枚の板バネを螺旋状に巻回して形成されているので、波の山16b〜16gもまた、波の山16hの移動に追従して図中矢印A方向に移動し、ウェーブスプリング15の全体が、波の山16aを固定端として、周方向に捩れることになる(図4の(b)参照)。
【0033】
すなわち、ワッシャ17を介在させたことで、ウェーブスプリング15は、波の山16a側の一端を固定端、波の山16h側の他端を自由端として、伸縮を繰り返すことになり、従来例にかかるウェーブスプリング150のように両端が固定された状態とならないので、波の山16b〜16gが、図6の(b)に示したような互い違い方向に移動しない。波の山16a’〜16h’についても同様である。
よって、ウェーブスプリング15の各巻回部分15A〜15Hの径の変化量が板幅を超えて、ウェーブスプリング15が座屈状態となることがない。
【0034】
さらに、図4の(b)に示すように、ウェーブスプリング15が捩れた際の隣接する波の山での当接位置のズレ量Lは、各巻回部分15A〜15Hのいずれにおいても大きく異なることがなく略同じになるので、巻回部分毎の伸縮傾向を略同じに保つことができる。
【0035】
ここで、実施形態における変速機ケース1が、発明における固定側部材に相当し、ワッシャ17が低摩擦係数部材に相当する。
【0036】
以上の通り、実施形態では、摩擦締結要素7を押圧するためのリング状のピストン20と、ピストン20に対する固定側部材である変速機ケース1に係止されピストン20に対向するスプリングリテーナ30と、ピストン20とスプリングリテーナ30との間に介装され波型に成形した1枚の板バネを螺旋状に巻回して形成された環状のウェーブスプリング15からなるリターンスプリングとを備えた自動変速機のピストン機構において、ウェーブスプリング15とピストン20との間に、ウェーブスプリング15とピストン20が直接接触した場合の摩擦係数よりも摩擦係数の小さいリング状のワッシャ17を介在させて、ウェーブスプリング15が縮められた際に、ウェーブスプリング15のピストン20側の波の山16hとワッシャ17との当接位置が周方向に変位できるようにした。
これにより、ウェーブスプリング15が、スプリングリテーナ30側の一端(波の山16a)を固定端とし、ピストン20側の他端(波の山16h)を周方向に変位可能な自由端として、捩れ方向の自由度が確保された状態で伸縮を繰り返すことになる。
よって、ウェーブスプリング15が縮められた際に、ウェーブスプリング15の波の山16hとワッシャ17との当接位置が周方向に変位すると、ウェーブスプリング15の全体が、波の山16aを固定端として、同じ方向に捩れるので(図4の(b)参照)、軸方向で隣接する波の山16b〜16g、16a’〜16h’の互い違い方向への移動を防止できる。
これにより、ウェーブスプリング15の各スプリング巻き(巻回部分15A〜15H)の径の変化量を抑えることができるので、ウェーブスプリング15の座屈を防止できる。
また、隣接する巻回部分における波の山同士の当接位置のズレ量が、各巻き回し部分で略同じになるので、各巻き毎に同等の伸縮傾向となる。
さらに、1つのピストンに対して複数のコイルバネを設けていた従来例にかかる自動変速機と異なり、1つのピストンに対して1つのコイルバネを設けるだけでよいので、部品点数が顕著に減少し、さらに組み付けも簡単となる。
【0037】
とくに、ワッシャ17を、PFA、FEP、PCTFE、ETFEのうちの何れかひとつのフッ素樹脂からなる樹脂ワッシャとしたので、摩擦係数の小さいワッシャを容易に提供できる。また、ワッシャ17をピストン20の凹部22に取り付けるという簡単な構成で、ウェーブスプリング15の座屈を防止できるようになる。
さらに、摩擦係数の異なる複数の樹脂ワッシャを予め用意しておくことで、ウェーブスプリング150のバネ力に応じて適切な摩擦係数の樹脂ワッシャを選択し、取り付けるだけで、ウェーブスプリング15の座屈を防止できるようになる。
【0038】
さらに、変速機ケース1の内壁に形成されたスプライン2のスプライン溝2aに嵌合する嵌合部31cをスプリングリテーナ30の外周に設けて、スプリングリテーナ30の軸方向の位置決めを行うスナップリング4の隔壁10側の面4aが、全面に亘ってスプリングリテーナ30の円盤部31(外半部31b、嵌合部31c)に当接するようにした。
これにより、図5に示すスプリングリテーナの外周縁がスナップリングの一部にのみ係止されている場合に比べて、ウェーブスプリング15で付勢されているスプリングリテーナ30から受ける応力でスナップリング4が倒れることを好適に防止でき、スプリングリテーナ30のスナップリング4による支持からの脱落を防止できる。
【0039】
実施の形態では、ウェーブスプリング15とピストン20の底壁22aとの間に、ワッシャ17を介在させたが、ウェーブスプリング15とスプリングリテーナ30の内半部31aとの間に、ワッシャ17を設けても良い。
この場合、ウェーブスプリング15とスプリングリテーナ30とが直接接触した場合の摩擦係数よりも摩擦係数の小さいリング状のワッシャを設けることになる。
また、ウェーブスプリング15とピストン20の底壁22aとの間と、ウェーブスプリング15とスプリングリテーナ30の内半部31aとの間の両方にワッシャ17を設けても良い。
このようにすることによっても、ウェーブスプリング15が縮められた際にウェーブスプリング15が捩れることで、軸方向で隣接する波の山16b〜16g、16a’〜16h’が互い違い方向に大きくずれることを防止できる。
これにより、ウェーブスプリング15の各スプリング巻き(巻回部分15A〜15H)の径の変化量を抑えることができるので、ウェーブスプリング15の座屈を防止できる。
【0040】
実施の形態では、フッ素樹脂ワッシャを採用した場合を例示したが、フッ素樹脂ワッシャの代わりに表面の摩擦係数が小さくなるように処理を施した金属ワッシャを採用しても良い。この場合、表面にリン酸マンガン被膜を形成するメッキ処理や、デフリック処理などの表面処理を施すことで、表面の摩擦係数が小さくなるようにした金属ワッシャを簡単に作成できる。
さらに、ワッシャの代わりにスラストベアリングを設けて、ウェーブスプリングの少なくとも一端を。周方向に変位可能としても良い。
このようにすることによっても、ウェーブスプリング15の座屈を防止できる。
【符号の説明】
【0041】
1 変速機ケース(固定側部材)
2 スプライン
3 溝
4 スナップリング
5 ハブ部
6 スプライン
7 摩擦締結要素(摩擦係合要素)
7a ドライブプレート
7b ドリブンプレート
10 隔壁
11 シリンダ
13 油室
15 ウェーブスプリング
16a〜16h、16a’〜16h’ 波の山
17 ワッシャ(低摩擦係数部材)
20 ピストン
21 押圧部
22 凹部
22a 底壁
30 スプリングリテーナ
31 円盤部
31a 内半部
31b 外半部
31c 嵌合部
32 筒部
33 通過穴
100 変速機ケース
102 溝
103 スナップリング
110 摩擦締結要素
120 ピストン
130 隔壁
131 シリンダ
140 スプリングリテーナ
141 円盤部
142 筒部
150 ウェーブスプリング
151 波の山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦係合要素を押圧するためのピストンと、固定側部材に係止され前記ピストンに対向するスプリングリテーナと、前記ピストンと前記スプリングリテーナとの間に介装され波型に成形した板バネを螺旋状に巻回して形成された環状のウェーブスプリングからなるリターンスプリングとを備えた自動変速機のピストン機構において、
前記ウェーブスプリングと前記ピストンとの間と、前記ウェーブスプリングと前記スプリングリテーナとの間のうちの少なくとも一方に、前記ウェーブスプリングと前記ピストンまたは前記スプリングリテーナが直接接触した場合の摩擦係数より低い低摩擦係数部材を介在させて、前記ウェーブスプリングの前記ピストンと当接する一端と、前記スプリングリテーナと当接する他端とのうちの少なくとも一方を、周方向に変位可能に支持させたことを特徴とする自動変速機のピストン機構。
【請求項2】
前記低摩擦係数部材は、フッ素樹脂からなる樹脂ワッシャであることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機のピストン機構。
【請求項3】
前記低摩擦係数部材は、摩擦係数が所定値以下となるような金属ワッシャであることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機のピストン機構。
【請求項4】
前記低摩擦係数部材は、スラストベアリングであることを特徴とする請求項1に記載の自動変速機のピストン機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−196854(P2010−196854A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44738(P2009−44738)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】