説明

自動消火装置の噴射口

【課題】
溶剤や油脂等の蒸気による噴射口への侵入を防止でき、噴射口内の空気の熱膨張時の誤作動及び消火薬剤放出時の構成部品の離脱が生じない自動消火装置の噴射口を提供する。
【解決手段】
感知部が火災を感知したときに消火薬剤容器を自動的に開封して噴射口から消火薬剤を消火対象区画に放出する自動消火装置の噴射口であって、噴射口の先端に、通常は噴射口を閉鎖し、消火薬剤の開封による圧力で噴射口を開放することができるピストンバルブを備え、噴射口内への周囲環境の気体の侵入防止のためにピストンバルブの周囲に封止部を設け、さらに噴射口内の気体の膨張によるピストンバルブの作動防止のために封止部より噴射口の内側のピストンバルブの周囲に保持部を設ける。好ましくは、噴射口開放時にピストンバルブの噴射口からの脱落を防止するためのストッパー部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンバルブで開閉可能な自動消火装置の噴射口に関し、特に消火対象区画内で使用される溶剤等を含む気体の侵入を防止し、かつ噴射口内の気体の膨張によるピストンバルブの誤作動を防止するようにした自動消火装置の噴射口に関する。
【背景技術】
【0002】
自動消火装置は、消火対象区画内で発生する火災を熱・炎・煙等の感知部によって感知し、自動消火装置内に備えられた消火薬剤容器を自動的に開封し、消火薬剤を消火対象区画に取り付けられた噴射口から放出させる構造になっている。
【0003】
自動消火装置の噴射口が取り付けられる消火対象区画には、半導体製造装置のように揮発性又は腐食性の様々な溶剤が使用される環境や、厨房のように加熱された油脂の蒸気が発生する環境がある。これらの環境では、溶剤や油脂などが気化して噴射口から内部へ侵入することによって自動消火装置の各機器が破損し、誤放出や消火対象区画以外への溶剤などの漏洩といった問題を生じさせることがある。
【0004】
かかる問題を解決する手段として、通常の状態では落下せず、消火薬剤容器開封時の圧力で容易に落下するノズルキャップを噴射ノズルに装着した自動消火装置の噴射口が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、噴射口が取り付けられる消火対象区画は、高温に熱される環境であることが多く、従って急激な温度変化にさらされる状態になるため、噴射口内の空気の熱膨張により内部圧力が発生し、ノズルキャップは容易に脱落する。また、消火薬剤開封時には消火薬剤とともにノズルキャップも勢い良く飛び出すことになり、消火対象区画内の機器に損傷を与えたり、溶剤の循環部に侵入してしまう等の二次災害が発生する。
【0006】
【特許文献1】特開平9−140824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は急激な温度変化にさらされる溶剤や油脂等を使用する消火対象区画において、溶剤や油脂等の蒸気による噴射口への侵入を防止でき、しかも噴射口内の空気の熱膨張時の誤作動及び消火薬剤放出時の構成部品の離脱が生じない自動消火装置の噴射口を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、感知部が火災を感知したときに消火薬剤容器を自動的に開封して噴射口から消火薬剤を消火対象区画に放出する自動消火装置の噴射口であって、噴射口の先端に、通常は噴射口を閉鎖し、消火薬剤の開封による圧力で噴射口を開放することができるピストンバルブを備え、噴射口内への周囲環境の気体の侵入防止のためにピストンバルブの周囲に封止部を設け、さらに噴射口内の気体の膨張によるピストンバルブの作動防止のために封止部より噴射口の内側のピストンバルブの周囲に保持部を設けたことを特徴とする自動消火装置の噴射口である。
【0009】
本発明の自動消火装置の噴射口の好ましい態様では、ピストンバルブが噴射口を開放したときにピストンバルブが噴射口から脱落しないようにするためのストッパー部を設ける。
【発明の効果】
【0010】
本発明の自動消火装置の噴射口は、噴射口の開閉をピストンバルブによって行うようにし、ピストンバルブの周囲に、噴射口内への周囲環境の気体の侵入防止のための封止部と、噴射口内の気体の膨張によるピストンバルブの作動防止のための保持部を設けるようにしたので、噴射口内への溶剤等を含む気体の侵入による機器の損傷や破壊がなく、しかも周囲環境の温度変化に伴う噴射口内の気体の膨張によるピストンバルブの誤作動が生じない。また、本発明の自動消火装置の噴射口は、ピストンバルブの作動時に噴射口から脱落しないようにするためのストッパー部を設けたので、ピストンバルブの落下による周辺機器の損傷や循環機器への脱落部品の侵入がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の自動消火装置の噴射口の好適な実施態様として以下に三つの例を示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、本発明が対象とする自動消火装置は、感知部が火災を感知したときに消火薬剤容器を自動的に開封して噴射口から消火薬剤を消火対象区画に放出するタイプのものであり、その詳細は当業者に公知であるのでここでは説明しない。
【0012】
第一実施態様
図1は本発明の第一実施態様の自動消火装置の噴射口の分解断面図、図2は各部品を組み立てた状態の断面図、図3は図2の噴射口のピストンバルブ作動時の断面図である。
【0013】
図中、1は噴射口、2はピストンバルブ、3はバルブストッパーであり、ピストンバルブ2には封止材用溝8及び保持材用溝9が設けられ、それぞれの溝にゴム製の封止用Oリング6及びゴム製の保持用Oリング7が密着して装着されている。
【0014】
ゴム製の封止用Oリング6は、図2のようにピストンバルブ2を噴射口1中に組み込んだ状態(噴射口閉鎖状態)では、封止材用溝8の外周と噴射口1の内壁に位置する直線部5とにより圧縮され、その弾性変形による反発力によって封止部を形成し、噴射口1の内部への溶剤等を含む気体の侵入を防止する。
【0015】
ゴム製の保持用Oリング7は、ピストンバルブ2を噴射口1中へ組み込む際に、いったんは保持材用溝9の外周と噴射口1の内壁に位置する直線部5とにより圧縮されるが、完全に噴射口1の奥まで組み込まれた状態では、保持用Oリング7は直線部5を通り越して保持用段差4に到達した時点で圧縮が解除され、元の大きさに戻る。この状態では、保持用Oリング7は保持用段差4に引っかかった状態になり、噴射口の内部の気体の熱膨張による圧力がかかってもピストンバルブ2を容易に作動しない状態を保つことができる。
【0016】
自動消火装置における感知部が火災を感知して消火薬剤容器が自動的に開封されると、噴射口1の内部圧力は一気に上昇する。この圧力によってピストンバルブ2が下方へ押し下げられ、保持用Oリング7が弾性変形を起こし、噴射口1の内壁にある保持用段差4を乗り越えることで作動する。
【0017】
作動したピストンバルブ2はそのまま消火薬剤の放出圧力によって押し下げられて噴射口1を開放するが、ピストンバルブ2には張出部10が設けられており、この張出部10がバルブストッパー3に設けられた制止部11に衝突することでピストンバルブ2の噴射口1からの離脱を防止する。消火薬剤は噴射口1から放出されるとき、バルブストッパー3に設けられた放出用開口部12を通って消火対象区画へ放出される。
【0018】
封止用Oリング6は、ゴム製、エラストマー樹脂製に限らず様々な材料を採用することができ、例えば消火対象区画の周囲環境の気体に含まれる成分の種類や温度に応じて耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性の弾性材料を適宜選択することができる。また、封止材の形状はOリングの他にVリングや任意の形状に成型したものを採用することができる。同様に保持用Oリング7もゴム製、エラストマー製の弾性材料やOリングの形状に限らず、ばね鋼やスプリング等を用いた可動部を設けることによっても本発明の目的を達成することができる。
【0019】
なお、バルブストッパー3に設けられた放出用開口部12は、この実施態様では左右2箇所にスリット状に設けられているが、消火薬剤を有効に放出することができる限り、その開口形状及び個数は任意に設定することができる。
【0020】
第二実施態様
図4は本発明の第二実施態様の自動消火装置の噴射口の分解断面図、図5は各部品を組み立てた状態の断面図、図6は図5の噴射口のピストンバルブ作動時の断面図である。
【0021】
第一実施態様では、ピストンバルブ2の脱落防止機構を構成するピストンバルブ2の張出部10及びバルブストッパー3の制止部11を噴射口1の外側に設けたが、この第二実施態様では、バルブストッパー3が存在せず、代わりに噴射口1を二つの構成部品1′,1′′に分けて部品1′′の内部に制止部11を設けるとともに、ピストンバルブ2の噴射口1内に挿入される部分に張出部10を設けてストッパー部を形成し、ピストンバルブ2の噴射口1からの脱落を防止するようにしている。その他の構成部品の作用については第一実施態様と同様であるので、さらなる説明は省略する。
【0022】
第三実施態様
図7は本発明の第三実施態様の自動消火装置の噴射口の分解断面図、図8は各部品を組み立てた状態の断面図、図9は図8の噴射口のピストンバルブ作動時の断面図である。
【0023】
第二実施態様では、封止用Oリング6と保持用Oリング7を隣接して設けたが、この第三実施態様では、封止用Oリング6と保持用Oリング7をピストンバルブ2の下端と上端のそれぞれに離して設けるように変更したものである。その他の構成部品の作用については第一実施態様や第二実施態様と同様であるので、さらなる説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の自動消火装置の噴射口は、消火対象区画が溶剤や油脂等を使用する環境または温度変化の激しい環境であっても、常に正常に作動することができるので、溶剤等の化学薬品を使用する半導体装置等の加工機械設置区域や加熱された油脂の蒸気が発生する厨房などに設置される自動消火装置において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一実施態様の自動消火装置の噴射口の分解断面図を示す。
【図2】本発明の第一実施態様の各部品を組み立てた状態の断面図を示す。
【図3】図2の噴射口のピストンバルブ作動時の断面図を示す。
【図4】本発明の第二実施態様の自動消火装置の噴射口の分解断面図を示す。
【図5】本発明の第二実施態様の各部品を組み立てた状態の断面図を示す。
【図6】図5の噴射口のピストンバルブ作動時の断面図を示す。
【図7】本発明の第三実施態様の自動消火装置の噴射口の分解断面図を示す。
【図8】本発明の第三実施態様の各部品を組み立てた状態の断面図を示す。
【図9】図8の噴射口のピストンバルブ作動時の断面図を示す。
【符号の説明】
【0026】
1 噴射口
1′ 噴射口の構成部品
1′′ 噴射口の構成部品
2 ピストンバルブ
3 バルブストッパー
4 保持用段差
5 直線部
6 封止用Oリング
7 保持用Oリング
8 封止材用溝
9 保持材用溝
10 張出部
11 制止部
12 放出用開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感知部が火災を感知したときに消火薬剤容器を自動的に開封して噴射口から消火薬剤を消火対象区画に放出する自動消火装置の噴射口であって、噴射口の先端に、通常は噴射口を閉鎖し、消火薬剤の開封による圧力で噴射口を開放することができるピストンバルブを備え、噴射口内への周囲環境の気体の侵入防止のためにピストンバルブの周囲に封止部を設け、さらに噴射口内の気体の膨張によるピストンバルブの作動防止のために封止部より噴射口の内側のピストンバルブの周囲に保持部を設けたことを特徴とする自動消火装置の噴射口。
【請求項2】
ピストンバルブが噴射口を開放したときにピストンバルブが噴射口から脱落しないようにするためのストッパー部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の自動消火装置の噴射口。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−36308(P2008−36308A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217740(P2006−217740)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(391008320)株式会社初田製作所 (78)
【Fターム(参考)】