説明

自動的レイヤー・バイ・レイヤー吹付け技術

人手を全く又は少ししか要しないで、高分子電解質を累積層法により吹付け付着することができる自動装置を提供する。装置は噴霧化した高分子電解質を垂直配置された基体に付着する。不規則な吹付けパターンの影響に対処するために、基体は好ましくは中心軸の周りに緩やかに回転される。ある実施例では装置はまた真空を利用して生成される通路のような微細液滴を強制的に通過させる通路を含んでいる。このようにして、厚い又は三次元構造の基体に被覆が形成できる。ある実施例では、拡張性のあるモジュール装置が構成できる。言い換えれば、複数のモジュールから成る装置を使用して、大型の又は複雑形状の基体に塗布することができる。従って、本装置を使用すればロール状の織物に塗布ができる。さらに、本発明は疎水性の織物材のような基体に、高分子電解質の水溶液を使用して均一な塗装を行う方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は2006年9月8日出願の米国予備出願60/843360号の優先権を主張する。
この発明は自動的累積層吹付け技術に関する。
【背景技術】
【0002】
過去10年間に渡り、レイヤー・バイ・レイヤー(Layer-by-Layer)法(以下累積層法と呼ぶ)として知られる重合体フィルムの付着技術が、ナノメータ寸法の場合も含めて、正確に制御された厚さの非常に均一なフィルムを形成できることが証明されている。この方法は反対の電荷を有する高分子電解質の複数のフィルムを静電的に形成するのに広く使用されているが、水素結合のような他の官能性もフィルム形成のための駆動力として利用できる。典型的には、この付着方法は、固有の表面電荷を有する基体を一連の溶液又は浴に浸漬する工程を含む。基体が反対の電荷を有する第1の高分子イオン浴に露出されると、基体の表面近くに電荷物質が吸着され、濃度勾配が急速に生じ、バルク溶液から基体表面にさらに高分子電解質が吸着される。さらなる吸着は、その下側の電荷が完全に遮蔽されて基体表面の正味電荷が反転に十分な層が発達するまで続く。質量移動と吸着が生じるためには、この浸漬時間(露出時間)は典型的には分のオーダーである。
基体は次に第1の高分子イオン浴から取り出され、一連の水すすぎ浴に浸漬されて物理的に絡んでいるか又は緩く結合している高分子電解質が除去される。これらのすすぎに続いて、基体は第1の高分子イオン浴とは反対の電荷を有する第2の高分子イオン浴に浸漬される。基体の電荷は第2の高分子イオン浴の電荷とは反対電荷であるので、ここでもまた吸着が起きる。第2の高分子イオン浴への露出をさらに続けると、基体の表面電荷が反転するに至る。次いですすぎを行って工程サイクルを完了する。この逐次工程は1つの付着「層対」を形成する工程であり、所望により必要なだけこの逐次工程を繰り返すことにより基体にさらなる付着層対を形成することができる。
【0003】
上記の方法は1付着層対あたり1ナノメータの厚さを有する非常に均一なフィルムを製造することができるが、各付着層対あたりに30分以上の付着時間を要することがまれではない。25層の付着層対よりなるフィルムの形成を完了するには20時間以上を要する。その結果、浸漬累積層技術は典型的にはコンピュータ制御のスライドステイナー(塗工機)を使用して人の関与の必要を無くしている。そのため、高分子電解質の溶媒の選択も、長時間に渡る浸漬工程中の蒸発と物質種の濃縮を避けるために比較的低蒸気圧のもの例えば水に制限される。
【0004】
さらに、累積層法は静電現象に基づいているので、溶液中の各高分子電解質のイオン化度は、基体表面との相互作用の強さ、ひいては吸着される層の厚さに大きく影響する。弱い高分子電解質に対しては、pHが、重合体鎖に沿った電荷密度を変化させ、層の厚さを規制する目的で、最も広く使用されている。強い高分子電解質に対しては、イオン強度を変化させることにより電荷の遮蔽を行って同一の作用を得ている。吸着性の基体、例えば織物の場合には、浸漬工程が繰り返されるので、すすぎ浴から次の高分子電解質溶液への成分の持ち込み(キャリーオーバ)が生じる。この持ち込みは高分子電解質溶液のpHの目立った変化を引き起こし、ある場合には許容できない。さらに、長いサンプル製造時間は高分子電解質溶液のpHのドリフト、蒸発、濃縮を引き起こしうる。
【0005】
すすぎ水の汚染を防ぐために、浸漬装置に対してロボット技術による修正が行われている。このような修正の一つはサンプルを水と共に吹付け、直ちに流し去る工程を含む。汚染水は流去(液切り)されてすすぎ浴中には残らないので、交互の付着作業の間でフィルムの汚染の可能性と膨潤のおそれが減じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来の累積層法は非常に長い時間を要する。浸漬法では重合体鎖は、近傍の分子の吸着により一旦枯渇層が発達すると、荷電した表面に拡散しなければならない。従って、高分子電解質の溶剤中での拡散率に反比例する拡散時間スケールが存在し、それが付着速度を制限する。
【0007】
この特性時間は拡散率に反比例して増大するが、この現象は大きい分子量を有する分子について普通に見られる。
【0008】
累積層付着法の実施に時間がかからない方法が必要とされる。しかし、このような方法は付着される層の品質や均一性を減じてはならない。なぜなら、これらのファクターは重要だからである。さらに、大きい面積を有する基体や立体構造の基体に対する累積層付着法も必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の従来技術の問題は本発明により解決される。本発明は人手を殆ど又は全く要しないで、高分子電解質を累積層法により吹付け付着することができる自動装置を提供する。ある実施例では、装置は噴霧化した高分子電解質を垂直配置された基体に付着する。不規則な吹付けパターンの影響に対処するために、基体は好ましくは中心軸線の周りに緩やかに回転される。ある実施例では装置はまた真空を利用する通路のような微細液滴を強制的に導く通路を含んでいる。このようにして、厚い又は3次元構造の基体に被覆が形成できる。ある実施例では、拡張性のあるモジュール装置が構成できる。言い換えれば、複数のモジュールから成る装置を使用して、大型の又は複雑形状の基体に塗布することができる。従って、本装置を使用すればロール状の織物に塗布ができる。さらに、本発明は疎水性の織物材のような基体に、高分子電解質の水溶液を使用して均一な塗装を行う方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の装置の第1実施例を例示する。
【図2】ロール・ツー・ロール処理を使用した本発明の装置の第2実施例を例示する。
【図3】三次元基体に使用することが好ましい本発明の第3実施例を例示する。
【図4】本発明の装置の第4実施例を例示する。
【図5】浸漬及び累積層吹付け付着法を用いる(SPS/PDAC)n系に対する成長傾向を示す。
【図6】浸漬及び累積層吹付け付着法を用いる(PAMAM/PAA)n系に対する成長傾向を示す。
【図7】累積層吹付け付着法を用いる(PEO/PAA)n系に対する成長傾向を示す。
【図8】累積層吹付け付着法を用いる(TiO2/PDAC)n系に対するに成長傾向を示す。
【図9】図8の基体に対する回折スペクトルを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の1実施例を例示する。この自動噴霧吹付け装置10は累積層(layer-by-layer)技術を使用して基体20を被覆するのに使用することができる。
好ましい実施例において、少なくとも3個の噴霧ノズル30、34、38が基体20に吹付けを行うために使用される。各ノズルは対応する貯槽40、44、48と連通又は接続されている。これらの貯槽は従来の浸漬累積層法のための浴に保持された材料を保持するのに使用される。従って、反対電荷の高分子電解質は2つの貯槽40、48に保持され、残りの貯槽はすすぎ工程のための水その他の適当な流体を保持するのに使用される。貯槽40、44、48が例示されているけれども、当業者には、他の適当な液体供給源に接続されている各ノズルに供給するために他の手段を用いることができる。好ましくは、すすぎ液は脱イオン水である。これらの貯槽の内容物は、ガス、好ましくは不活性ガス、例えば窒素、アルゴン、その他使用される液体や装置に対して不利な作用を及ぼさない適当な他のガスを使用して加圧することができる。維持されるガス圧力は液滴の寸法及び流量に影響するものであり、好ましくは約20〜120psi(136〜820kPa)、さらに好ましくは50〜70psi(341〜579kPa)である。これらの加圧された各貯槽からの出力は切り替え装置、好ましくはソレノイド制御弁)の片側に供給される。ソレノイド弁が付勢されると、加圧された材料はその弁を介して対応する加圧貯槽から噴霧ノズルに送られる。逆にソレノイド弁が付勢されなければ材料は流れない。
【0012】
各ソレノイドは好ましくはマイクロ制御器(図示せず)により制御される。単一のマイクロ制御器を使用して各装置を制御するか、又は専用の一個以上の制御器を使用して制御することができる。マイクロ制御器は好ましくは3個のソレノイドを固定した順序と固定した時間長で付勢及び休止させるようにプログラムされる。例えば一つのサイクルは、高分子カチオン性溶液用のソレノイド50を付勢する固定時間長のパルス、次いですすぎ液用ソレノイド54を付勢する固定時間長のパルス、次いで高分子アニオン性溶液用のソレノイド58を付勢する固定時間長のパルス、次いですすぎ液用ソレノイド54を付勢する固定時間長の第2のパルスより構成することができる。好ましくはマイクロ制御器は小時間間隔(例えば10ミリ秒)でプログラムされ、それにより10ミリ秒から数十秒から分の単位までの時間長のパルスを生じるようにする。同様に、ソレノイドの消勢時点から次のソレノイドの付勢時間までの期間もプログラムすることができ、例えば上記と同じ範囲とすることができる。好ましい実施例は一度に1つのノズルを可能にするが、本発明はそれに制限されない。マイクロ制御器の使用により、ソレノイドのシーケンスは完全にプログラムすることができる。例えば、他のシナリオとして、高分子アニオン性材料または高分子カチオン性材料を、それらに対応するソレノイドを同時に付勢することによって、同時に噴霧することが可能である。好ましい実施例では、これらの期間(時間長)はマイクロ制御器において決定され且つプログラムされる。吹付け期間は所望の層厚が得られるように十分に長くする(例えば3秒)。同様にすすぎ期間はすべての付着しない材料を適切に除去するように十分に長くする(例えば10秒)。
【0013】
好ましい実施例において、基体20は垂直に配向され、それにより吹付けられた材料が重力でそこから自然に流れ落ちるようにする。しかし、複数の吹付けノズルを使用すると不規則なパターンが生じる可能性がある。従って、この不規則なパターンの問題に対処するために、基体20は好ましくは水平軸線75の周りに回転される。この軸線は好ましくはノズルに対して直交する。この回転はギヤモータ70のような適当な手段により実施される。モータの回転速度は基体に対してできるだけ遠心力が作用しないように、好ましくは非常に低速にする。20RPM以下の回転速度が好ましく、10RPM以下がさらに好ましい。上記のように、回転の目的は基体の全表面の吹付けパターンが不規則に成ることを防止することである。従って、吹付け期間、吹付けパターンの直径、及び基体の直径はすべて推奨される回転速度に関係する。言い換えると、大きい基体直径に対しては(ただし、吹付けパターンの直径が一定と仮定する)、吹付け期間又は回転速度を増して均一な塗膜を確保する。別法として、基体は静止させ、ノズルを移動させて吹付けパターンの均一化を図る。最後に、基体とノズルの両者を移動させることができる。好ましい実施例では基体とノズルの間に相対運動があればよい。
【0014】
最後に、汚染を防ぐために、弁、ホース80、84、88、90等の配管部材は好ましくはポリプロピレンから製作されるが、ステンレス鋼、ポリウレタン、デルリン(商品名)、ポリ塩化ビニルなどの他の材料も工程に不都合な影響を与えなければ使用できる。
【0015】
動作において、ガス供給源60が開放され、すべての貯槽が加圧される。すべてのソレノイド50、54、58が閉鎖状態にある時にプロセスが始動される。従ってこの時点では材料が基体20に向けて吹付けられることはない。始動に続いて、マイクロ制御器がプログラムされた工程を開始する。マイクロ制御器により信号が出されて高分子カチオン用ソレノイド弁50を開放させる。これにより、材料が重合体カチオン貯槽40からソレノイド弁50を経て、対応した噴霧ノズル30に供給される。噴霧ノズルは当技術分野で周知であるので具体的に説明する必要がない。適当なノズルはHago Nozzles社より市販されているM系列ノズルである。高分子カチオン性材料は次いでゆっくりと回転している基体20に吹付けられる。高分子カチオン性溶液が基体に吹付けられる期間は予め定めてプログラムすることができる。この吹付け期間は使用する材料と基体に依存する。先に説明したように、ギヤモータ70は基体をゆっくりと回転させ、材料が基体の均等に分配されることを可能にする。
予め定めた時間の後に、マイクロ制御器はソレノイド50への信号を停止し、これによりカチオン性材料の流を停止させる。第2の所定時間が経過したのち、マイクロ制御器はすすぎ液用ソレノイド54を付勢する信号を出す。これによりすすぎ液はすすぎ液貯槽44から噴霧ノズル34へ流れる。すすぎ液はそこから回転している基体に吹付けられて残さを取り除く。すすぎ工程の期間は予め定めてプログラムしておくことができる実施上の選択条件である。所定の時間が経過した後に、マイクロ制御器は高分子アニオン用ソレノイド58を付勢するための信号を送る。これにより高分子アニオン貯槽48からの材料が噴霧ノズル38を通過し、回転している基体20に吹付けられる。高分子アニオン材料が所定期間吹付けられたら、すすぎソレノイド54が再び付勢され、すすぎ液の第2の流れが形成される。こうして累積層(Layer-by-layer)工程の一つのサイクルが終了する。
【0016】
一つの実施例では、高分子カチオン溶液は各3秒間吹付けられ、次いで17秒間掛けて基体が液の流去のために放置された。次いですすぎ液が10秒間吹付けられ、さらに追加の10秒間液の流去が行われた。次いで高分子アニオン溶液が3秒間吹付けられ、17秒間液切りが行われた。この例は高分子カチオン材料の使用から工程が始まるが、本発明はそれに限定されない。サイクルを開始する溶液の選択は基体の表面電荷に依存する。一回の高分子アニオン材料の吹付けと、1回の高分子カチオン溶液の吹付けと、2回のすすぎ液の吹付けで完全な1サイクルが完了する。
【0017】
噴霧ノズル30、34、38の出口と基体20の間隔は可変である。言い換えると、基体の形状と寸法、及び吹付けるべきイオン性材料に基づいてこの距離を変えることが有利でありうる。1つの実施例では噴霧ノズルはスライドフレームに取り付けられ、それらの水平方向の位置が修正できる。他の実施例ではギヤモータ70をスライドフレームに取り付けてその位置を変えることができる。フレームを使用すると距離を可変にしながら、残りの二次元の相対的な整列関係を維持できる。限定するつもりはないが、25.4cm以内の距離が好ましい。
【0018】
図1に示した好ましい実施例にはいくつかの変形が可能である。例えば3個のノズルに換えて、1個のノズルを使用することもできる。このような例では、ホース80、84、88はすべて単一のノズルへ向けて集めるか、或いは適当な他の手段を用いてノズルと高分子イオン源とすすぎ液源の接続をすることができる。これによりノズル吹付けパターンの違いやノズルの位置により引き起こされる可能性のある偏差を除くことができる。
【0019】
図1には空気による噴霧ノズルを記載したが、本発明はこれに限定されない。材料を適切に噴霧化する任意の装置が使用できる。例えば、超音波による噴霧、ピエゾ電気による噴霧等が周知であり、本発明の範囲で使用できる。
【0020】
本発明のモジュール性はスケールアップを容易にする。例えば、十分に大きい基体に対しては、図1の装置を2個以上設置することができる。好ましくは、単一のマイクロ制御器により装置を制御する。例えば追加の噴霧ノズルのセットを追加し、既存のセットの上、下、又は近傍に配置する。これにより遙かに大きい吹付け面積が可能になる。
【0021】
別法として、複数の装置を設置すると、ロール・ツー・ロール工程で多種の材料に容易に吹付けることができる。図2はこのような実施例を示す。使用される材料には種々の形があり、限定されない例として、綿織物、ナイロン、ポリエステル、重棉カンバスがある。材料110はローラ120から下方のローラ130へ向けて送られる。ローラ120、130の間には複数個のノズル140が好ましくは直線状に配列されている。これらのノズル140は高分子カチオン材料を吹付けるように配置されている。材料110が吹付けを受けている期間は、ローラが材料110をノズル140のところに通過させる速度により決定される。この実施例では、ローラ130はすすぎ液を収容している浴(図示せず)内に配置されている。他の実施例では、第2のノズルの組が使用されてすすぎ液を材料110に吹付ける。材料はすすぎ浴を出たのち、ローラ150に向けて上に移動する。
ローラ130と150の間には第2組のノズル160が高分子アニオン溶液を材料110に吹付けるように配置されている。ここでも、材料110が噴霧にさらされる期間はローラが材料をノズル160のところに通過させる速度により定められる。次いで材料はローラ150を通り過ぎる。典型的には、一層以上が塗布される。1つの実施例では、図示の複数のローラとノズルが複数回反復して配置され、所望回数のサイクルに渡って材料が噴霧にさらされる。他の実施例では、材料が連続したループ状に形成され、材料が配置されたノズルとローラを多数回通過する。最後に、ノズルのスケールアップの融通性によりロール・ツー・ロールの材料吹付けを実施するのに各種の配置が使用可能になることに注意されたい。
【0022】
上には1つの実施例を説明したが、ノズル及びすすぎ浴の他の配置も可能であることは当業者には明らかである。従って、本発明は図2の実施例に限定されない。また好ましい例では高分子カチオン溶液を最初に、次いですすぎ液、次いで高分子アニオン溶液を吹付けたが、本発明はこれに限られない。上記のように、工程順は変更することができ、或いは所望により高分子カチオン材料及び高分子アニオンを同時に吹付けることもあり得る。
【0023】
図2は装置の複数の個別装置を使用して大きい二次元領域に吹付けを行うことを例示しているが、本発明はそれに限定されない。図3は複数の個別装置が他の配向、例えば互いに直交する形態で使用され、三次元基体200に吹付けを行う例を示す。基体はノズル210の間に配置され、ワイヤ、ガイドレール、ひも、または他の適当な手段で所定位置に保持できる。ノズル210の正確な位置は設計事項である。1つの実施例では、十分な数のノズル210が基体200の全表面をカバーできるように配置される。次いでノズルがこの目的を達成するよう位置づけられる。この場合、基体は回転されても良い。しかし、ノズルは基体200の全体に吹付けをすることができるので、回転の必要はない。第2の例では、基体はノズルが基体200の全体に吹付けできるように回転される。これは基体の形状によっては必要であり、或いは、ノズルの位置と数が基体の回転なしには基体の表面領域が完全にカバーできない場合に必要である。この実施例は少ないノズルで済む利点を有するが、基体200とノズル210の相対運動を必要とする。第3の実施例では、基体200は静止状態に維持され、ノズルは210は基体200の全面をカバーするように基体200の周りを移動される。ノズルはレールその他の適当な手段に支持されてこの必要な運動を行うようにすることができる。図3は基体の上側、下側、及び水平面内において基体の中心部の周りに120度の角度で配置される5組のノズルを有することを示す。この構成は本発明では必要が無く、より少ない又はより多い数のノズルを使用できる。実際、ノズル又は基体が移動されてノズルが基体の全表面に吹付けを行うことができるならば、1組のセットのノズルだけを用いても良い。
【0024】
図4はフィルタ材のような多孔質基体220が吹付け付着される本発明の他の実施例を例示する。吹付け材料が基体220に確実に浸透するように、外部手段を使用して吹付け材を基体の材料に押し込む。好ましい実施例では、基体220の背後に真空を形成して吹付け材を基体の材料に引き込む。この真空は周知の種々の技術を使用して生成することができる。1つの実施例では真空ポンプが使用される(図示せず)。真空ホース230を流れる残留吹付け材料は例えばノックアウトポット230のような適当な貯槽内に溜めることができる。真空の付加は吹付けられた材料の完全な浸透を可能にする。真空は溶液を基体(例えばフィルタ)を通して吸引し、メッシュのくねった通路に一致して被覆を行う。
別法として、多孔質基体220を通した吹付け材料の「引き込み」を行う代わりに、「押し込み」を行っても良い。1つの実施例では、吹付けられた材料を、高圧に加圧したガスで強制的にノズルから高速で放出させる。他の例では、基体から互いに異なった距離にセットした数組のノズルを用いる。この技術の用途にはステンレス製フィルタメッシュの電気化学的劣化に対するパッシベーション、多孔質触媒担体、或いは特定の有害基体に結合又は反応する空気フィルタの反応性官能化等がある。従って、この付着方法は薄膜の二次元表面に限定されるのではなく、従来の吹付け累積層技術により示された迅速且つ一様な付着を維持しながら、フィルタの大きい表面積を完全に官能化するのに使用できる。
【0025】
吹付け付着法は従来の浸漬付着法に比していくつかの利点を有する。処理時間を大幅に減少できる。既に述べたように浸漬付着法が25層以上の付着に12時間以上を要したのに対し、本発明の装置は代表的には25層を30分以内に製作でき、2500%の改善となる。さらに、基体に対する接触の直前に溶液の噴霧化が行われるので、荷電した物質の水性溶液を使用しても、極度に疎水性の表面の均一な被覆が可能となる。本装置は各種の材料、例えば限定するものではない例として、従来の弱い及び強い高分子電解質、水素結合フィルム、デンドリマー、又は高分岐化合物、例えば二酸化チタン、二酸化アルミニウム及び二酸化セリウムのようなコロイド金属酸化物ナノ粒子を、吹付けるのに使用できる。本発明の装置はさらに、各種の基体、例えば限定するものではない例として、シリコン、プラスチックシート、DuPont(商品名)、Tyvek(商品名)、綿織物、ガラス例えば風防ガラスやヘッドライトディフューザの被覆に使用できる。
【0026】
本発明の装置の効果を示すために多数の試験を行った。
1つの試験では、2対の高分子電解質、すなわち強い高分子電解質であるポリ(ナトリウム4−スチレンスルホネート)(SPS)とポリ(塩化ジメチルジアリルアンモニウム)(PDAC)、並びに弱い高分子電解質であるポリ(アミドアミン)(PAMAM)とポリ(アクリル酸)(PAA)である。PAMAMは特にデンドライト状分子を吹付ける可能性を試験するためにも選択した。
【0027】
分子量1,000,000のポリ(ナトリウム4−スチレンスルホネート)(SPS)、分子量100,000のポリ(塩化ジメチルジアリルアンモニウム)(PDAC)、及び塩化ナトリウムはAldrich社から購入した。分子量25,000のポリ(エチレンイミン)(LPEI)、分子量20,000のポリ(アクリル酸)(PAA)、及び分子量100,000のポリエチレンオキサイド(PEO)はPolysciences社から購入した。ポリ(アミドアミン)デンドリマー(PAMAM)世代4、NH2表面、メタノール中22%溶液はDendritech社から購入した。すべての化学剤は購入したままのものを使用した。高分子溶液は脱イオン水を使用し、繰り返し単位に関して20mmolの濃度で使用した。溶液はHCl又はNaOHを使用して所望のpHに調節した。
PDAC溶液とSPS溶液のイオン強度は0.1molNaClであった。PEO/PAA膜の水素結合の性質はそれらの溶液のpHに慎重な注意が必要であり、所望の値から0.05を越えて変動してはならない。吹付け累積層法の試験を直径3〜4インチのシリコンウェハー(Silicon Quest International社製)に対して行った。一方浸漬累積層法の試験は1cm×5cmに切断した部片に対して行った。すべてのシリコンはメタノールとMilli−Q水(商品名)を使用して洗浄し、次いで酸素プラズマエッチング(Harrick PCD 32G)を5分間行って清浄化し、そして表面を水酸化した。直径4インチのTyvek(商品名)布を未使用の実験用コート(VWR)から切り出しそのまま使用した。
【0028】
浸漬法及び吹付け法により形成される(SPS/PDAC)nフィルムの成長曲線を図5に示す。
【0029】
浸漬フィルムアッセンブリはCarl Zeiss HMS DS−50スライドステイナーで自動化した。シリコン基体をまず高分子カチオン溶液に10分間さらし、次いでMilli−Q水中で3回のすすぎ工程で合計2分間すすいだ。PAMAM/PAAとLPEI/PAAの付着のために、塩酸を使用してMilli−Q水をpH4.0まで滴定した。その他の場合にはMilli−Q水をデフォルトのpHとしてそのまま使用した。基体を対応する高分子アニオン溶液にさらし、同様にしてすすいだ。サイクルを所定数の層対が得られるまで反復した。25層対を得るために約11.5時間を要した。
吹付けフィルムは同一の溶液とpHが同じすすぎ液で付着した。すべての溶液は50psi(341kP)に加圧した超高純度アルゴン(AirGas社製)により送給した。まず高分子カチオン溶液を基体に3秒間吹付け、次いで17秒間液切りし、その後水を10秒間吹付けた。10秒間の水切りの後に、高分子アニオン溶液を同様にして吹付けし、そしてすすいだ。このサイクルを所望の数の層対が得られるように繰り返して、33分間に25層対のフィルムを得た。
【0030】
重要な一つの考慮事項は、フィルムの初期の成長期間、例えば最初の5〜10層が形成されるまでの期間である。溶液への浸漬による累積層付着では、初期の非線形な成長形態(通常は最初の3〜5層対)が見られる。この時点を越えると定常的な線形成長が達成されるのが通常である。この初期形態は一般に基体の粗度及び不均一な電荷分布により説明される。また、最近の研究では累積層浸漬による付着は表面での過程のみ成らず、全体のフィルムが関与し、層対間にある程度の相互的な指状突起作用(interdigitation)があると考えられている。この現象は、最初の数個の層対の形成期間には吸着性高分子イオンが侵入できるバルクフィルムが存在しないで超線状に成長する累積層法において特に成り立つ。その結果、実質的な成長は、数サイクルの反復が終わるまでは開始しないようである。
【0031】
この不均一な初期形態の現象は浸漬(PDAC/SPS)nフィルムの成長傾向で見ることができる。フィルムは図5に示したように工程が5サイクルを終わる時に定常成長を始める。5サイクルまでは総合膜厚はほぼゼロに近い。しかし、この初期期間を過ぎた後には、浸漬フィルムの成長は3.8nm/層対の割合で線形である。これとは対照的に、吹付けフィルムは初期の非線形的な成長形態を示さない。フィルムの厚さは層対の数に比例してやや低い2.7nm/層対の割合で線形に成長する(この場合、吹付け層は浸漬層の77%の厚さを有する)。従って、(PDAC/SPS)nの場合には吹付け付着は初期の非線形成長を抑制するのに使用できる。
【0032】
吹付け及び浸漬による初期のPDAC/SPS二層の付着のAFM影像を撮影して比較した。これらの成長曲線に対する厚さ測定をWoolam XLS−100 Spectroscopic Ellipsometer(商品名)により実施し、Tencor P10プロファイル計(商品名)を使用して検査した。検査はフィルムに切り筋を入れ、その切り筋の形状を測定する。形状測定の間、針が高分子に貫入しないようにプロファイル計の針の先端の加重は6mgの加重にした。ESEM分析をFEI/Phillips XL30 FEG ESEM(商品名)を使用して行った。マイクログラフを0.9〜1.5mbarの動作圧力とスポット寸法3.0で得た。Digital Instruments Dimension 3100(商品名)を使用して原子力顕微鏡撮影(Atomic Force Microscopy)(AFM)を、乾燥状態下、0.8Vの振幅セットポイントでタッピングモードで実施した。高分解の影像を得るために、超鮮鋭シリコンプローブ(Pacific Nanotechnology社製のSSS-NCH)を使用して影像を捕捉した。高さ及び位相影像は操作速度約1.5Hzで走査することにより取得した。
【0033】
浸漬法による吸着期間中にAFM影像はPDACが初期塊又は「島」を吸着することを示した。これは後続のSPS層の形態に影響を与える。付着が継続すると、島はやがて橋架けし、均一な付着が起き、定常状態の成長形態になる。これに対して、吹付け付着法ではPDACやSPSの大きい島は最初の層対の付着期間でも生じなかった。影像は滑らかでカバレッジのほとんどない表面を示した。浸漬法の場合の初期成長形態を生じる粗い大きい島は生じかなった。
【0034】
吹付け期間における高分子イオンの基体への短い露出時間の結果、平衡は生じない。従って、少ない材料が必然的に付着された。厚いフィルムが成長した事実は、3秒間の高分子イオンの吹付けが電荷の反転のために適正であることを示している。
【0035】
(SPS/PDAC)nは最も成層性のよい累積層系の一つであることが知られている。従って、基体上の不均一な電荷密度、従って初期層の粗さは、(バルクのフィルムの欠如とは逆に)初期の成長に最大の影響を有することを仮定するのが適当である。言い換えると、引き続く各層の付着は殆どの場合その下側の層の形態と電荷により影響される。AFM影像は吹付け法が最初の層対の付着期間に薄い平滑な表面を生成すること、それにより最初から線形的な成長が導かれることを示した。これは、単純に短い付着時間のためであると言え、「島」が依然として形成はされるが浸漬法の場合に比して遙かに薄いといえる。別の言い方をすれば、この結果は、高分子電解質が急速な液切りの前に一様に且つ同時に基体全面に導入されたこと意味する。従って、重合体鎖は動的に基体との接触箇所に捕捉される。これに対して、浸漬では重合体鎖は拡散し、基体表面のより高い電荷密度の領域に結合する。これはまた、吹付け法の場合には初期の平滑な層対が測定されることを説明するであろう。初期成長の差異は吹付け法が、強い高分子電解質の非常に薄くて均一な層を形成するのに好ましいことを示唆している。
【0036】
上には、PDACとSPSが使用されたが、本発明はこれらの溶液に限定されない。他の適当な高分子カチオンには、限定するものではないが、ポリ(塩化ジメチルジアリルアンモニウム)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミンヒドロクロライド)、ポリアニリン、ポリピロール、及びポリ(ビニルベンジルトリアメチルアミン)がある。他の適当な高分子アニオンには、限定するものではないが、ポリ(ナトリウム4−スチレンスルホネート)、ポリ(アクリル酸)、ナフィオン(Nafion商品名)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ナトリウムスチレンスルホネート)、及びナトリウムポリ(スチレンスルホネート)がある。
【0037】
さらに、モンモリロナイトやベントナイト等のクレイ微小板も使用できる。
【0038】
pH4で集積した(PAMAM/PAA)nの浸漬フィルム及び吹付けフィルムを使用して同様な実験を行った。浸漬フィルム及び吹付けフィルムの成長傾向は図6に示す。この場合、初期の非線形生長期間は両方の付着法により観察した。弱い高分子電解質の場合の相互作用はより複雑であることが知られており、PAMAMの分岐形状もまた因子となる。pH4では、デンドリマーの内部の3級アミン基は一部だけがプロトン化しており、そのため疎水性である。内部分子同士のファン・デル・ワースの力により、PAMAM分子は弱く荷電した表面で集合する傾向を有する。一旦PAA層が均一になると、より強い電荷密度と、カルボン酸基および1級アミン間の有利な相互作用とが、均一な層の付着に十分なものとなる。PAAは正に帯電したアミン含有重合体の存在下に一層帯電し、高分子イオン間の相互作用をエネルギー的にさらに遊離にする。
【0039】
この場合、フィルム集積体は両方の場合に同様であり、浸漬法及び吹付け法における成長速度はそれぞれ210nm/層対、及び224nm/層対であった(吹付け法の厚さは浸漬法の層厚の107%であった)。吹付け法によるPAMAM/PAA及び浸漬法によるPAMAM/PAAの最初の層対のAFM 影像は、同様な形態を示した。AFMは両者とも初期のPAMAMはデンドリマーの集塊中に付着した層であることを示した。これらの集塊は吹付け法の方が小さく、これはおそらく基体への短い露出時間のためであろう。PAAへの露出後の表面は両者ともより完全なカバレッジを有した。従って吹付け法はより濃いがデンドリマー集塊物の不完全な単一層を生成するのに使用できる。
【0040】
図5及び図6の吹付け付着の線形性は、吹付け累積層付着法の背後にある物理的な機構のためであろう。ある高分子電解質系では、高分子カチオン、又は高分子アニオン、又は両者がフィルム全体に拡散する能力を有する。これらの場合に、付着期間中、高分子イオンが高分子電解質多層膜(PEM)表面に吸着されるだけでなく、高分子鎖もそれまでに付着したPEM構造内に拡散し、効果的な溜めを形成するのであろう。引き続いて反対電荷に荷電した高分子イオンへ露出する期間中に、この溜めはPEM表面に引かれ、それにより、高分子イオンが複合できる一層多くの材料を作り出し、超線形的な成長速度へ導く。同様な成長機構を仮定すると、吹付け法は層間拡散を最小にする。フィルムは処理期間を通じて水和されるので、鎖はなおある程度の移動性を有するが、長い分子の拡散は時間が掛かるが、吹付け法は浸漬法よりも相当に短い。
超線形的な成長が観察された系に対しては、吹付け法がこの効果を減じることが期待される。PAMAM分子の高度に荷電した性質は、非常に平坦な層よりなる、殆ど相互侵入のない、きつくイオン的に交差結合したフィルムの付着を示唆するであろう。殆ど相互侵入が無ければ、浸漬法のフィルムも吹付け法のフィルムも非常に類似した速度で成長する。
【0041】
デンドリマーカプセル化ナノ粒子(DEN)を触媒金属ナノ粒子を基体に被覆するのにも使用した。基体としてステンレス鋼メッシュを使用した。メッシュの適正なカバレッジを得るために、上記の真空装置を付着装置に組み合わせて使用した。分子の中心部にパラジウムナノ粒子を有するPAMAM デンドリマーを当業界に周知の方法で合成した。PAAをアニオン性溶液として使用した。これらの溶液を上に説明した方法によりメッシュ上に層状に吹付けた。材料の層は従ってメッシュに付加されている。パラジウムをメッシュの上に被覆することができた。このメッシュは後で触媒を必要とする反応を実施する触媒支持体として使用できる。この実験はパラジウムを使用したが、例えば、発明を限定するものではないが、水素添加反応に使用できる。この実験にはパラジウムを使用したがそれに限られない。任意の触媒金属ナノ粒子、例えば限定するのではないが、パラジウムや銀がこの結果を達成するために使用できる。同様にPAMAMやPPAが使用されたが、DENと重合体アニオン性溶液の任意の組み合わせもまた適当であろう。
【0042】
他の適当なデンドリマーには、限定されない例として、ポリ(プロピレンイミン)があげられる。
【0043】
クーロン力は静電的な累積層形成を促進するが、水素結合は水素結合ドナー及びアクセプターが使用されるときに多層形成を促進することができる。この形式の付着は溶液のpHの変動に非常に敏感である。従って閉鎖容器と吹付け累積層法に特有の短い付着時間(蒸発を抑制し溶液粘度を制御するのに理想的である)は、この方法を水素結合系に対して十分に適切なものにする。予期したように吹付け法で付着した(PEO/PAA)nフィルムは図7に示したように線形的な成長を示した。ここでも初期の成長期間の存在が観察された。しかし、8サイクルが終わったときに、成長は30nm/層対の一定速度で行われ、基体の一様な被覆が得られた。
【0044】
吹付け累積層法はコロイド状ナノ粒子の付着に有利であることが判明した。これは負に荷電した二酸化チタンのナノ粒子を正に荷電したPDACと交互に付着することにより示された。試験した粒子は平均直径7nmを有し、ゼータ電位がほぼ−34mVであった。この場合に、吹付け溶液と気体の接触時間は粒子を接着させかつ一定の線形的成長を図8に詳しく示したように9.5nm/層対の速度で発達させるには十分であった。図9に示した(TiO2/PDAC)50フイルムのX線回折図はアナターゼ相のナノ粒子が実際にフィルム状に付着されたことを示している。基体への接触の直前に噴霧化することにより粒子は集塊にならないで確実に付着した。
【0045】
他の適当なコロイド状ナノ粒子には、限定ではない例として、チタニア、セリア、アルミナ、及びジルコニアである。
【0046】
吹付け累積層技術による繊維材料への被覆の技術的な可能性に対する魅力的な試験として、DuPont社のTyvek(商品名)を基体として選択した。フラッシュスピン法により製造されたTyvekは非常に微細な高密度ポリエチレンファイバからなる。この製品は水蒸気を透過させるが、水、化学薬品及び摩耗に対して耐性であり、害虫駆除剤や雑草駆除材を含む危険な環境に対する保護衣服材料として非常に有用である。被覆しないTyvekは非常に疎水性である。被覆しないTyvekの疎水性織物の三次元構造は周知である。倍率2000倍で各ポリエチレン繊維が観察できる。溶液が噴霧ノズルを出るときに形成された超微細な霧は荷電物質を一様に(疎水性の表面にすら)供給することができた。
【0047】
顕微鏡影像は、0.10MのNaClを含有する100層対の(SPS/PDAC)で被覆したTyvekが巨視的に見て均一性を有することを示した。重合体鎖の間にイオン架橋が形成されるにつれて塩イオンが排除され、表面に結晶が形成された。短いすすぎ期間は結晶を溶解するには十分でなく、影像中に観察できた。塩は被覆されたTyvek (SPS/PDAC)100を中性pHの水に15分間浸漬して結晶を溶解した。影像をさらに拡大すると浸漬により結晶だけが除去され、その後に個々の被覆された繊維が残留したことが分かった。累積層フィルムの粗さが見られたが、それは付着工程で塩結晶が形成された結果であった(塩結晶は高分子イオンに逐次にさらすことにより表面粗度を増加させる)。もしも表面の粗さが所望されない場合には、すぐに塩結晶を洗い流すためにより長いすすぎ期間(1分以上)を使用できる。しかし、付着後に塩を除去するための浸漬を行うと、完全で遙かに短いサイクル時間が達成された。
【0048】
本方法は材料自体の表面の種々の深さにある繊維をなじんだ状態で被覆した。ここでも、超微細な霧が荷電物質を輸送し、疎水性材料を効果的に湿潤した。接触角は被覆表面の疎水性又は親水性を検査するのに使用でき、均一性、基体の表面特性の変化を検査できる。この例では(LPEI/PAA)100被覆は、水の液滴の前進接触角を、非被覆Tyvekの場合の約150度から110度以下に減少させ、接触角の変化が40度を超えた。接触角はAdvanced Surface Technology (AST) 社の装置で標準不動点ドロップ(sessile drop)技術を使用して測定した。ここに記載の接触角は水前進接触角であり、基体を、注射器の先端の水滴と試料とが接触するまで垂直に移動した。ついで表面の水滴に少量の水を加えて数秒で表面に静止前進角を形成した。
【0049】
まとめるに、累積層(layer-by-layer)法は、薄く均一な多層フィルムを付着するのに成功裏に利用することができる。基体を溶液に浸漬し、静電的な平衡が起きるまで待機する従来の方法は、50層対のフィルムを得るのに数時間から数日程度の長い処理時間を要する。これに対して、吹付け累積層法は拡散をなくすることにより処理時間を劇的に減少したが、それでもなお三次元構造のなじみ被覆を可能にする。さらに、拡散による質量移動はフィルム内の層対の相互作用を減じ、直線的で再現可能な成長速度を導く。強高分子電解質と弱高分子電解質の場合には、浸漬よりも遙かに迅速に一様な付着が生じ、吹付け法を非常に薄いが均一なフィルムを製造するのに魅力的な方法にする。吹付け累積層法は、フィルム組み立て体の駆動力が静電気でない場合に数種の付着方式を可能にする。それはまた無機ナノ粒子の吹付け付着にも応用できる。
【0050】
吹付け累積層付着法を使用して疎水性織物材料であるTyvekの上に、高分子電解質の水性懸濁液から多層フィルムを付着した。装置から生成した超微細噴霧は荷電した物質を材料中の個々の繊維がなじんで被覆されるように輸送できるものであり、材料の親水性に目立った変化を生じた。
【0051】
この技術は従来の累積層技術により必要とされた処理時間を25倍以上も減少させる一方、三次元の基体を実際的に人手を要しないでなじみ被覆を行うことができる。この技術はまたスケールアップすることができる。この技術は工業的規模で大きい又は不規則形状の基体の表面領域を被覆できるアレイとして構成することができ、それにより吹付け累積技術を工業的な規模で魅力的なものにする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引き続く複数の材料層を基体に付着する装置において、
カチオン性溶液源と、
アニオン性溶液源と、
すすぎ液源と、
前記カチオン性溶液源に接続されていて前記カチオン溶液を前記基体に吹付ける第1噴霧ノズルと、
前記アニオン性溶液源に接続されていて前記アニオン溶液を前記基体に吹付ける第2噴霧ノズルと、
前記すすぎ液源に接続されていて前記すすぎ液を前記基体に吹付ける第3噴霧ノズルと、
を有する付着装置。
【請求項2】
前記基体はほぼ垂直に配置される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記噴霧ノズルは空気噴霧ノズル、超音波噴霧ノズル、及びピエゾ電気噴霧ノズルから選択されている請求項1に記載の装置。
【請求項4】
さらに、前記カチオン性溶液源と前記第1ノズルの間の流体路には第1切替え装置が設けられ、前記アニオン性溶液源と前記第2ノズルの間の流体路には第2切替え装置が設けられ、前記すすぎ液源と前記第3ノズルの間の流体路には第3切替え装置が設けられている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記各切替え装置は弁である請求項4に記載の装置。
【請求項6】
さらに、前記弁に流れる流体の流を制御するためのソレノイドが設けられている請求項5に記載の装置。
【請求項7】
さらに、前記ソレノイドの一以上に対応する複数の制御出力を生じるマイクロ制御器を含み、前記マイクロ制御器は前記対応するソレノイドを付勢し、消勢するようになっている請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記基体と前記ノズルの間に相対運動を行う手段が設けられている請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記ノズルは固定である請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記基体は固定である請求項8に記載の装置。
【請求項11】
さらに、前記カチオン源に接続された第4ノズルと、前記アニオン源に接続する第5ノズルと、前記のすすぎ液源に接続する第6ノズルを有し、これらのノズルが前記基体の周りに配置されている請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記第1ノズル及び第ノズルはほぼ一列に配列され、前記第2ノズル及び第5ノズルはほぼ一列に配列されている請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記第1ノズル、第2ノズル及び第3ノズルは第1軸に沿って配向され、前記第4ノズル、第5ノズル及び第6ノズルは第2軸に沿って配向されている請求項11の装置
【請求項14】
さらに、前記噴射された材料を前記基体に向けて推進させる空気流を生成する手段を有する請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記空気流を生成する手段は真空ポンプである請求項14に記載の装置。
【請求項16】
引き続く複数の材料層を基体に塗布する装置において、
カチオン性溶液源と、
アニオン性溶液源と、
すすぎ液源と、
前記カチオン性溶液源と前記アニオン性溶液源と前記すすぎ液源に接続されていて、前記カチオン溶液と前記アニオン溶液と前記すすぎ液を前記基体に吹付ける噴霧ノズルと、
を有する塗布装置。
【請求項17】
引き続く複数の材料層を基体に塗布する装置において、
水素ドナーを含む溶液源と、
水素アクセプタを含む溶液源と、
すすぎ液源と、
前記水素ドナーを含む溶液源
前記水素ドナーを含む溶液源に接続されていて前記水素ドナーを含む溶液を前記基体に吹付ける第1噴霧ノズルと、
水素アクセプタを含む溶液源に接続されていて前記水素アクセプタを含む溶液を前記基体に吹付ける第2噴霧ノズルと、
前記すすぎ液源に接続されていて前記すすぎ液を前記基体に吹付ける第3噴霧ノズルと、
を有する塗布装置。
【請求項18】
基体の複数の材料の層を付着する方法において、
a.噴霧化された第1の荷電溶液を第1の所定の吹付け期間中基体に吹付け、
b.第1の待機期間中待機し、
c.前記基体をすすぎ液により第1の所定のすすぎ期間にわたりすすぎ、
d.第2の待機期間中待機し、
e.噴霧化された第2の荷電溶液を第2の所定の吹付け期間に渡り前記基体に吹付ける工程と、
f.第3の待機期間中待機し、
g.前記基体をすすぎ液により第2の所定のすすぎ期間に渡りすすぐ、
各工程よりなる付着方法。
【請求項19】
請求項18の全工程の後にさらに、第4の待機期間中待機し、
次いで前記工程(a)から(g)までを繰り返すことよりなる、請求項18に記載の付着方法。
【請求項20】
前記第1の荷電溶液はポリ(塩化ジメチルジアリルアンモニウム)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(塩酸アリルアミン)、ポリアニリン、ポリピロール、及びポリ(ビニルベンジルトリアメチルアミン)からなる群から選択される請求項18の方法。
【請求項21】
前記第2の荷電溶液はポリ(ナトリウム4−スチレンスルホネート)、ポリ(アクリル酸)、ナフィオン、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ナトリウムスチレンスルホネート)、及びナトリウムポリ(スチレンスルホネート)よりなる群から選択される請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記基体は綿織物、ナイロン、ポリエステル、重綿カンバス、シリコン、ガラス、プラスチックシート、及びステンレス鋼よりなる群から選択される請求項18の方法。
【請求項23】
前記液体は脱イオン水である請求項18に記載の方法。
【請求項24】
荷電した基体に累積層フィルムを形成する装置において、前記装置は、
前記荷電した基体上に該基体の電荷とは逆極性の電荷を有する第1の溶液を吹付けて第1の層を形成し、前記第1の層の上に該第1の溶液とは逆極性の電荷を有する第2の溶液を吹付けて第2の層を形成し、前記基体に向けてすすぎ液を吹付ける、少なくとも1つのノズルを有し、
さらに、前記基体と前記少なくとも1つのノズルとの間に相対運動を行わせる手段とを有する、前記基体上に累積層フィルムを付着するための装置。
【請求項25】
前記少なくとも1つのノズルは、前記第1の溶液、第2の溶液、及び前記すすぎ液にぞれぞれ接続された3個以上のノズルである、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
さらに、前記第1の溶液、第2の溶液、及び前記すすぎ液の少なくとも1つを前記少なくとも1つのノズルに接続するための切り替え手段を有する請求項24に記載の装置。
【請求項27】
さらに、前記第1の溶液、第2の溶液、及び前記すすぎ液の少なくとも1つを前記少なくとも1つのノズルに接続するための切り替え手段を制御するための制御器を有する請求項26に記載の装置。
【請求項28】
前記制御器は前記第1の溶液が前記少なくとも1つのノズルへの流れと、前記すすぎ液の前記少なくとも1つのノズルへの流れとの間の時間を制御するものである請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記制御器は前記すすぎ液の前記少なくとも1つのノズルへの流れと、前記第2の溶液の前記少なくとも1つのノズルへの流れとの間の時間を制御するものである請求項28に記載の装置。
【請求項30】
a.デンドリマーに封入した触媒金属ナノ粒子を含む噴霧化された第1の荷電溶液を基体上に第1の所定の吹付け期間中吹付け、
b.第1の待機期間中待機し、
c.前記基体をすすぎ液で第1の所定のすすぎ期間中すすぎ、
d.第2の待機期間中待機し、
e.前記第1の荷電溶液とは逆の電荷を有する噴霧化された第2の荷電溶液を前記基体上に第2の所定の吹付け期間中吹付け、
f.第3前記基体をすすぎ液で第1の所定のすすぎ期間中すすぎ、
g.前記基体をすすぎ液で第2の所定のすすぎ期間中すすぐ、
各工程を含む、触媒金属ナノ粒子により基体を被覆する方法。
【請求項31】
さらに、最後の工程に続いて、第4の待機期間待機し、次いで前記(a)〜(g)の工程を繰り返す請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記請求項30の方法により製造された触媒金属ナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−502433(P2010−502433A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527395(P2009−527395)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/019371
【国際公開番号】WO2008/030474
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(591091892)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (16)
【Fターム(参考)】