説明

自動血圧測定装置

【課題】被圧迫部位内の動脈に圧迫圧力を適正に加えることで正確な脈波が得られ、その脈波に基づいて精度の高い最高血圧値が得られる自動血圧測定装置を提供する。
【解決手段】圧迫帯12は幅方向に連ねられて上腕10を各々圧迫する独立した気室を有する膨張袋22、24、26を有するものであり、それら膨張袋のうちの上腕10内の動脈16の下流側に位置する下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の振幅値A3で、その下流側膨張袋26よりも上流側に位置する中間膨張袋24からの脈波信号SM2の振幅値A2を除した値である振幅比r23を逐次算出し、その振幅比r23に基づいて生体の最高血圧値SBPを決定することから、相互間が圧力変動に関して独立状態とされた各膨張袋から動脈16に圧迫圧力を均等な圧力分布で加えることで正確な脈波信号SMが得られるので、精度の高い最高血圧値SBPが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕、足首のような生体の肢体である被圧迫部位内の動脈から発生する脈波を検出するためにその被圧迫部位に巻き付けられる圧迫帯を備えた自動血圧測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の被圧迫部位に巻き付けられる圧迫帯を備え、その圧迫帯の圧迫圧力値を変化させる過程でその圧迫帯内の圧力振動である脈波を逐次抽出し、その脈波の変化に基づいて前記生体の血圧値を決定する自動血圧測定装置が知られている。上記圧迫帯に備えられる膨張袋は、被圧迫部位の径に対して十分に大きい圧迫幅寸法を必要として比較的大きな容量のものであることから、被圧迫部位内の動脈の容量変化に応答して発生する圧力振動である脈波は微弱な信号となる傾向にあるため、測定精度を低下させる一因となっていた。
【0003】
これに対して、特許文献1に示されるように、動脈の容量変化を明確に検出するために、主膨張袋と比べて少容量の検出用膨張袋をその幅方向の全体が上記主膨張袋の内側の一部と重なるように設けるとともに、検出用膨張袋と主膨張袋との間に遮蔽板を設けた2層構造の圧迫帯が提案されている。これによれば、主膨張袋の一部による加圧が被圧迫部位へ直接に行われつつ主膨張袋の他部による加圧が検出用膨張袋を通して間接的に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−269089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に示される従来の2層構造の圧迫帯を備える自動血圧測定装置によれば、生体の皮膚側に検出用膨張袋が位置していることにより主膨張袋の圧力が適正に動脈に加えられないので、正確な脈波が得られ難く、その脈波に基づいて決定される最高血圧値の精度が良くないという不都合があった。
【0006】
本発明の目的とするところは、生体の被圧迫部位内の動脈を圧迫したときに得られる脈波に基づいて精度の高い最高血圧値を決定することができる自動血圧測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、以上の事情を背景として、独立して生体を圧迫できる3つの気室を有する3連カフを試作し、それら3つの気室から独立に得られるカフ脈波を比較するうち、カフ圧が高いうちは振幅の差が大きく異なっているが、カフ圧が生体の最高血圧値付近になるとカフ脈波相互間の振幅が類似してくることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて為されたものである。
【0008】
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a) 生体の被圧迫部位に巻き付けられる圧迫帯を備え、その圧迫帯の圧迫圧力値を変化させる過程でその圧迫帯内の圧力振動である脈波を逐次抽出し、その脈波の変化に基づいて前記生体の血圧値を決定する自動血圧測定装置であって、(b) 前記圧迫帯は、幅方向に連ねられて前記生体の被圧迫部位を各々圧迫する独立した気室を有する複数の膨張袋を有するものであり、(c) それら複数の膨張袋のうちの前記被圧迫部位内の動脈の下流側に位置する下流側膨張袋からの脈波の振幅値と、その下流側膨張袋よりも上流側に位置する所定の膨張袋からの脈波の振幅値との振幅比を逐次算出し、その振幅比に基づいて前記生体の最高血圧値を決定することにある。
【0009】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1にかかる発明において、(a) 前記振幅比は、前記所定の膨張袋からの脈波の振幅値を前記下流側膨張袋からの脈波の振幅値で除した値であり、(b) 昇圧させた前記圧迫帯の圧迫圧力値を降圧させる過程において、前記逐次算出される振幅比が予め設定された第1振幅比判定値よりも小さくなったときの前記圧迫帯の圧迫圧力値を、前記生体の最高血圧値として決定することにある。
【0010】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2にかかる発明において、前記圧迫帯は、前記被圧迫部位の長手方向に所定間隔を隔てて位置する可撓性シートから成る一対の上流側膨張袋および前記下流側膨張袋と、前記被圧迫部位の長手方向において連なるように前記上流側膨張袋および下流側膨張袋の間に配置され、それら上流側膨張袋および下流側膨張袋とは独立した気室を有する中間膨張袋とを有するものであることにある。
【0011】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項3にかかる発明において、昇圧させた前記圧迫帯の圧迫圧力値を、前記上流側膨張袋、前記中間膨張袋、および前記下流側膨張袋により前記被圧迫部位を同じ圧力で圧迫する状態で降圧させる過程において、前記上流側膨張袋からの脈波の振幅値を前記中間膨張袋からの脈波の振幅値で除した値が予め設定された第2振幅比判定値よりも小さくなり、且つ前記中間膨張袋からの脈波の振幅値を前記下流側膨張袋からの脈波の振幅値で除した値が前記第1振幅比判定値よりも小さくなったときの前記中間膨張袋の圧迫圧力値を、前記生体の最高血圧値として決定することにある。
【0012】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項1乃至4のいずれか1つにかかる発明において、(a) 前記複数の膨張袋内の圧力を検出する圧力センサを備え、(b) 前記被圧迫部位に巻き付けられた前記圧迫帯の複数の膨張袋の圧迫圧力値をその被圧迫部位内の動脈を止血するのに十分な値まで昇圧させた後、その圧迫帯の圧迫圧力値を降圧させる過程において、所定量の除速降圧毎に圧迫帯の圧迫圧力値を所定時間保持し、その所定時間内に前記圧迫帯内の圧力振動である脈波を検出することにある。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明の自動血圧測定装置によれば、圧迫帯は、幅方向に連ねられて生体の被圧迫部位を各々圧迫する独立した気室を有する複数の膨張袋を有するものであり、それら複数の膨張袋のうちの前記被圧迫部位内の動脈の下流側に位置する下流側膨張袋からの脈波の振幅値と、その下流側膨張袋よりも上流側に位置する所定の膨張袋からの脈波の振幅値との振幅比を逐次算出し、その振幅比に基づいて生体の最高血圧値を決定することから、相互間が圧力変動に関して独立状態とされた複数の膨張袋から生体の被圧迫部位内の動脈に圧迫圧力を均等な圧力分布で加えることで各々の膨張袋から正確な脈波がそれぞれ得られるので、それら脈波間の振幅比に基づいて精度の高い最高血圧値が得られる。
【0014】
また、請求項2にかかる発明の自動血圧測定装置によれば、前記振幅比は、前記所定の膨張袋からの脈波の振幅値を前記下流側膨張袋からの脈波の振幅値で除した値であり、昇圧させた前記圧迫帯の圧迫圧力値を降圧させる過程において、前記逐次算出される振幅比が予め設定された第1振幅比判定値よりも小さくなったときの圧迫帯の圧迫圧力値を、生体の最高血圧値として決定する。そのため、被圧迫部位内の動脈の血流が所定の膨張袋下は通るが下流側膨張袋下は通らない状態と、被圧迫部位内の動脈の血流が所定の膨張袋下および下流側膨張袋下を共に通る状態とを区別し、被圧迫部位内の動脈の血流が所定の膨張袋下および下流側膨張袋下を共に通る状態になったときの圧迫帯の圧迫圧力値を生体の最高血圧値として決定するので、精度の高い最高血圧値が得られる。
【0015】
また、請求項3にかかる発明の自動血圧測定装置によれば、前記圧迫帯は、被圧迫部位の長手方向に所定間隔を隔てて位置する可撓性シートから成る一対の上流側膨張袋および前記下流側膨張袋と、被圧迫部位の長手方向において連なるように上記上流側膨張袋および下流側膨張袋の間に配置され、それら上流側膨張袋および下流側膨張袋とは独立した気室を有する中間膨張袋とを有するものであることから、被圧迫部位の長手方向において連なり相互間が圧力変動に関して独立状態とされた上流側膨張袋、中間膨張袋、および下流側膨張袋から生体の被圧迫部位内の動脈に圧迫圧力が均等な圧力分布で加えられることで正確な脈波が得られるので、それら脈波間の振幅比に基づいて精度の高い最高血圧値が得られる。
【0016】
また、請求項4にかかる発明の自動血圧測定装置によれば、昇圧させた前記圧迫帯の圧迫圧力値を、前記上流側膨張袋、前記中間膨張袋、および前記下流側膨張袋により被圧迫部位を同じ圧力で圧迫する状態で降圧させる過程において、上記上流側膨張袋からの脈波の振幅値を上記中間膨張袋からの脈波の振幅値で除した値が予め設定された第2振幅比判定値よりも小さくなり、且つ上記中間膨張袋からの脈波の振幅値を上記下流側膨張袋からの脈波の振幅値で除した値が前記第1振幅比判定値よりも小さくなったときの中間膨張袋の圧迫圧力値を、前記生体の最高血圧値として決定する。そのため、被圧迫部位内の動脈の血流が上流側膨張袋下は通るが中間膨張袋下および下流側膨張袋下は通らない状態と、被圧迫部位内の動脈の血流が上流側膨張袋下、中間膨張袋下、および下流側膨張袋下を共に通る状態とを区別し、被圧迫部位内の動脈の血流が上流側膨張袋下、中間膨張袋下、および下流側膨張袋下を共に通る状態になったときに幅方向において均等な圧力分布の中間膨張袋の圧迫圧力値を、生体の最高血圧値として決定するので、精度の高い最高血圧値が得られる。
【0017】
また、請求項5にかかる発明の自動血圧測定装置によれば、複数の膨張袋内の圧力を検出する圧力センサを備え、被圧迫部位に巻き付けられた圧迫帯の複数の膨張袋の圧迫圧力値をその被圧迫部位内の動脈を止血するのに十分な値まで昇圧させた後、その圧迫帯の圧迫圧力値を降圧させる過程において、所定量の除速降圧毎に圧迫帯の圧迫圧力値を所定時間保持し、その所定時間内に前記圧迫帯内の圧力振動である脈波を検出することから、圧迫圧力値が一定であるときに脈波が検出されるので、正確な脈波を得ることができる。また、上記所定時間内に複数の脈波を検出し、それら複数の脈波の平均値に基づいて最高血圧値が決定される場合には、より精度の高い最高血圧値が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】生体の被圧迫部位である上腕に巻き付けられた上腕用の圧迫帯を備えた本発明の一例の自動血圧測定装置を示している。
【図2】図1の圧迫帯の外周面を示す一部を切り欠いた図である。
【図3】図2の圧迫帯内に備えられた上流側膨張袋、中間膨張袋、および下流側膨張袋を示す平面図である。
【図4】図3の上流側膨張袋、中間膨張袋、および下流側膨張袋を幅方向に切断して示す断面図である。
【図5】図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
【図6】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において発生する上記複数の膨張袋からの脈波信号を示す図であり、上記圧迫圧力値が151mmHgであるときのものである。
【図7】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において発生する上記複数の膨張袋からの脈波信号を示す図であり、上記圧迫圧力値が135mmHgであるときのものである。
【図8】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において発生する上記複数の膨張袋からの脈波信号を示す図であり、上記圧迫圧力値が127mmHgであるときのものである。
【図9】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において発生する上記複数の膨張袋からの脈波信号を示す図であり、上記圧迫圧力値が110mmHgであるときのものである。
【図10】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において発生する上記複数の膨張袋からの脈波信号を示す図であり、上記圧迫圧力値が86mmHgであるときのものである。
【図11】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において発生する上記複数の膨張袋からの脈波信号を示す図であり、上記圧迫圧力値が72mmHgであるときのものである。
【図12】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において発生する上記複数の膨張袋からの脈波信号を示す図であり、上記圧迫圧力値が58mmHgであるときのものである。
【図13】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において発生する上記複数の膨張袋からの脈波信号を示す図であり、上記圧迫圧力値が36mmHgであるときのものである。
【図14】時間軸と圧迫圧力値軸との二次元座標内に示される複数の膨張袋からの脈波信号の立ち上がり点、およびそれら立ち上がり点間の時間差をそれぞれ示す図である。
【図15】圧迫帯による圧迫下の動脈における脈波伝播速度と圧迫圧力値との関係を示す図である。
【図16】下流側膨張袋および中間膨張袋からの脈波信号間の時間差と、圧迫帯の圧迫圧力値との関係を示す図である。
【図17】図5の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートの一方である。
【図18】図5の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートの他方である。
【図19】図5の電子制御装置の制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【図20】図5のカフ圧制御手段により複数の膨張袋の圧迫圧力値がそれぞれ徐速降圧させられる過程において抽出された上記複数の膨張袋からの脈波信号の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ)を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0020】
図1は、被圧迫部位である生体の肢体たとえば上腕10に巻き付けられた上腕用の圧迫帯12を備えた本発明の一例の自動血圧測定装置14を示している。この自動血圧測定装置14は、上腕10内の動脈16を止血するのに十分な値まで昇圧させた圧迫帯12の圧迫圧を降圧させる過程において、動脈16の容積変化に応答して発生する圧迫帯12内の圧力振動である脈波(後述の図6〜図13参照)を逐次抽出し、その脈波の変化に基づいてその生体の最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPを測定するものである。
【0021】
図2は圧迫帯12の外周面を示す一部を切り欠いた図である。図2に示すように、圧迫帯12は、PVC等の合成樹脂により裏面が相互にラミネートされた合成樹脂繊維製の外周側面不織布20aおよび図示しない内周側不織布から成る帯状外袋20と、その帯状外袋20内において幅方向に順次収容され、たとえば軟質ポリ塩化ビニールシートなどの可撓性シートから構成されて独立して上腕10を圧迫可能な上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26とを備え、外周側面不織布20aの端部に取り付けられた面ファスナ28に前記内周側不織布の端部に取り付けられた図示しない起毛パイルが着脱可能に接着されることにより、上腕10に着脱可能に装着されるようになっている。上腕10に装着された状態においては、下流側膨張袋26は上流側膨張袋22および中間膨張袋24よりも上腕10内の動脈16の下流側に位置させられる。また、中間膨張袋24は下流側膨張袋26よりも上流側に位置させられ、上流側膨張袋22は下流側膨張袋26および中間膨張袋24よりも上流側に位置させられる。上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26は、幅方向に連ねられて前記上腕10を各々圧迫する独立した気室をそれぞれ有するとともに、管接続用コネクタ32、34、および36を外周面側に備えている。それら管接続用コネクタ32、34、および36は、外周側面不織布20aを通して圧迫帯12の外周面に露出されている。
【0022】
図3は圧迫帯12内に備えられた上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26を示す平面図であり、図4はそれらを幅方向すなわち図3の矢印a方向に切断した断面図である。上流側膨張袋22、中流側膨張袋24、および下流側膨張袋26は、それらにより圧迫された動脈16の容積変化に応答して発生する圧力振動である脈波を検出するためのものであり、それぞれ長手状を成している。上流側膨張袋22および下流側膨張袋26は中間膨張袋24の両側に隣接した状態で配置されている。また、中間膨張袋24は上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の間に挟まれた状態で圧迫帯12の幅方向の中央部に配置されている。なお、圧迫帯12が前記上腕10に巻き付けられた状態においては、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26は上記上腕10の長手方向に所定間隔を隔てて位置させられ、また、中間膨張袋24は上記上腕10の長手方向において連なるように上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の間に配置させられる。
【0023】
中間膨張袋24は所謂マチ構造の側縁部を両側に備えている。すなわち、中間膨張袋24の上腕10の長手方向における両端部には、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る一対の折込溝24fおよび24fがそれぞれ形成されている。そして、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24に隣接する側の隣接側端部22aおよび26aが上記一対の折込溝24fおよび24f内に差し入れられて配置されるようになっている。これにより、中間膨張袋24の両端部と上流側膨張袋22の隣接側端部22aおよび下流側膨張袋26の隣接側端部26aとが相互に重ねられた構造すなわちオーバラップ構造となるので、上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26が等圧で上腕10を圧迫したときにそれらの境界付近においても均等な圧力分布が得られる。
【0024】
上流側膨張袋22および下流側膨張袋26も、所謂マチ構造の側縁部を中間膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bに備えている。すなわち、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bには、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る折込溝22fおよび26fがそれぞれ形成されている。それら折込溝22fおよび26fを構成するシートは、幅方向に飛び出ないように、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26内に配置された貫通穴を備える接続シート38、40を介してその反対側部分すなわち中間膨張袋24側の部分に接続されている。これにより、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の端部22bおよび26bにおいても前記上腕10の動脈16に対する圧迫圧が他の部分と同様に得られるので、圧迫帯12の幅方向の有効圧迫幅がその幅寸法と同等になる。圧迫帯12の幅方向は12cm程度であり、その幅方向に3つの上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26が配置された構造であるから、それぞれが実質的に4cm程度の幅寸法とならざるを得ない。このような狭い幅寸法であっても圧迫機能を十分に発生させるために、中間膨張袋24の両端部24aおよび24bと上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の隣接側端部22aおよび26aとが相互に重ねられたオーバラップ構造とされるとともに、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24とは反対側の端部22bおよび26bが所謂マチ構造の側縁部とされている。
【0025】
上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24側の端部22aおよび26aと、それが差し入れられている一対の折込溝24fおよび24fの内壁面すなわち相対向する溝側面との間には、圧迫帯12の長手方向の曲げ剛性よりもその圧迫帯12の幅方向の曲げ剛性が高い剛性の異方性を有する長手状の遮蔽部材42がそれぞれ介在させられている。この遮蔽部材42は、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26、或いは中間膨張袋24と同様の長さ寸法を備えている。本実施例では、図3、図4に示すように、上流側膨張袋22の端部22aとそれが差し入れられている折込溝24fとの間の隙間のうちの外周側の隙間、および、下流側膨張袋26の端部26aとそれが差し入れられている折込溝24fとの間の隙間のうちの外周側の隙間に、長手状の遮蔽部材42がそれぞれ介在させられているが、内周側隙間にも介在させられてもよい。内周側隙間に比較して外周側隙間の方が遮蔽効果が大きいので、少なくとも外周側隙間に設けられればよい。
【0026】
上記遮蔽部材42は、上腕10の長手方向すなわち圧迫帯12の幅方向に平行な樹脂製の複数本の可撓性中空管44が互いに平行な状態で、上腕10の周方向すなわち圧迫帯12の長手方向に連ねて配列されるとともに、それら可撓性中空管44が型成形或いは接着により直接に或いは粘着テープなどの可撓性シート等の他の部材を介して間接的に相互に連結されることにより構成されている。上記遮蔽部材42は、上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の中間膨張袋24側の端部22aおよび26aの外周側の複数箇所に設けられた複数の掛止シート46に掛け止められている。
【0027】
図1に戻って、自動血圧測定装置14においては、空気ポンプ50、急速排気弁52、および排気制御弁54が主配管56にそれぞれ接続されている。その主配管56からは、上流側膨張袋22に接続された第1分岐管58、中間膨張袋24に接続された第2分岐管62、および下流側膨張袋26に接続された第3分岐管64がそれぞれ分岐させられている。上記第1分岐管58は、空気ポンプ50と上流側膨張袋22との間を直接開閉するための第1開閉弁E1を直列に備えている。また、上記主配管56は、空気ポンプ50、急速排気弁52、および排気制御弁54と、上記各分岐管との間を直接開閉するための第2開閉弁E2を直列に備えている。また、上記第3分岐管64は、空気ポンプ50と下流側膨張袋26との間を直接開閉するための第3開閉弁E3を直列に備えている。そして、上流側膨張袋22内の圧力値を検出するための第1圧力センサT1が第1分岐管58に接続され、中間膨張袋24内の圧力値を検出するための第2圧力センサT2が第2分岐管62に接続され、下流側膨張袋26内の圧力値を検出するための第3圧力センサT3が第3分岐管64に接続されている。
【0028】
上記第1圧力センサT1、第2圧力センサT2、および第3圧力センサT3から電子制御装置70には、上流側膨張袋22内の圧力値すなわち上流側膨張袋22の圧迫圧力値PC1を示す出力信号、中間膨張袋24内の圧力値すなわち中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を示す出力信号、および下流側膨張袋26内の圧力値すなわち下流側膨張袋26の圧迫圧力値PC3を示す出力信号がそれぞれ供給される。電子制御装置70は、CPU72、RAM74、ROM76、および図示しないI/Oポートなどを含む所謂マイクロコンピュータである。この電子制御装置70は、CPU72がRAM74の記憶機能を利用しつつ予めROM76に記憶されたプログラムにしたがって入力信号を処理し、電動式の空気ポンプ50、急速排気弁52、排気制御弁54、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、および第3開閉弁E3をそれぞれ制御することにより、膨張袋22、24、および26にそれぞれ圧迫された上腕10の動脈16の容積変化に応答してそれぞれ発生する膨張袋22、24、および26内の圧力振動である脈波を示す脈波信号SM1、SM2、およびSM3(後述の図6〜図13参照)をそれぞれ採取する。また、電子制御装置70は、それら脈波信号SM1、SM2、およびSM3に基づいて前記生体の最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPを算出し、表示装置78にその演算結果である測定値を表示させる。この電子制御装置70には、上記第1圧力センサT1、第2圧力センサT2、および第3圧力センサT3からの出力信号に加え、血圧測定スタートセンサ80からの出力信号が供給される。上記血圧測定スタートセンサ80は、血圧測定開始の合図となる信号を出力するものであり、例えば図示しない起動操作装置が操作されることで上記信号を出力するようになっている。
【0029】
図5は、電子制御装置70に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。図5において、カフ圧制御手段82は、血圧測定開始の合図となる信号が血圧測定スタートセンサ80から供給された場合に、空気ポンプ50、急速排気弁52、排気制御弁54、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、および第3開閉弁E3をそれぞれ制御することにより、膨張袋22、24、および26による上腕10の動脈16への圧迫圧力値PCをその動脈16における最高血圧値SBPよりも充分に高い値に予め設定された昇圧目標圧力値PCM(たとえば180mmHg)まで同時に急速に昇圧する。例えば、中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2が上記昇圧目標圧力値PCM以上となるまで各膨張袋を昇圧する。続いて、カフ圧制御手段82は、上記昇圧させた膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCを例えば2〜3mmHg/secに予め設定された徐速降圧速度でそれぞれ同時に徐速降圧させる。このとき、カフ圧制御手段82は、所定量(たとえば1〜10mmHgの範囲内)の除速降圧毎に膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCをそれぞれ所定時間保持する。そして、カフ圧制御手段82は、中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2が、上記動脈16における最低血圧値DBPよりも充分に低い値に予め設定された測定終了圧力値PCE(たとえば30mmHg)よりも小さくなったときに、急速排気弁52を用いて膨張袋22、24、および26内の圧力をそれぞれ大気圧まで排圧する。
【0030】
振幅決定手段84は、カフ圧制御手段82により膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCがそれぞれ徐速降圧させられる過程において、第1圧力センサT1、第2圧力センサT2、および第3圧力センサT3からの出力信号に基づいて、上記膨張袋22、24、および26内の圧力変動である脈波を示す脈波信号SM1、SM2、およびSM3を逐次採取する。図6〜図13は、上記過程において発生する脈波信号SMを例示する図である。これら図6〜図13に示す脈波信号SM1、SM2、およびSM3は、圧迫帯12の圧迫圧力値PCが151mmHg、135mmHg、127mmHg、110mmHg、86mmHg、72mmHg、58mmHg、および36mmHgであるときに、第1圧力センサT1からの出力信号がローパスフィルタ処理またはバンドパスフィルタ処理されることにより弁別されて得られた上流側膨張袋22からの脈波を示す脈波信号SM1(破線)、第2圧力センサT2からの出力信号がローパスフィルタ処理またはバンドパスフィルタ処理されることにより弁別されて得られた中間膨張袋24からの脈波を示す脈波信号SM2(実線)、および第3圧力センサT3からの出力信号がローパスフィルタ処理またはバンドパスフィルタ処理されることにより弁別されて得られた下流側膨張袋26からの脈波を示す脈波信号SM3(1点鎖線)である。そして、振幅決定手段84は、上記得られた脈波信号SM1、SM2、およびSM3の振幅値A1、A2、およびA3を一拍毎に決定し、それら振幅値A1〜A3を、それら振幅値A1〜A3が決定された脈波信号SMに対応する中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を示すカフ圧信号PK2とともにRAM74の所定の記憶領域に記憶する。
【0031】
血圧値決定手段86は、複数の膨張袋22、24、および26のうち、少なくとも2つからの脈波信号の振幅比に基づいて前記生体の最高血圧値SBPを決定する最高血圧値決定手段88を備えている。この最高血圧値決定手段88では、圧迫圧力値PCが高いうちは各膨張袋相互間の振幅の差が大きく異なっているが圧迫圧力値PCが最高血圧値SBP付近になると各膨張袋相互間の振幅が類似してくることを利用して、最高血圧値SBPが決定される。具体的には、最高血圧値決定手段88は、例えば、カフ圧制御手段82により、昇圧させた膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCをそれら膨張袋22、24、および26により上腕部10を各々同じ圧力で圧迫する状態でそれぞれ徐速降圧する過程において、中間膨張袋24からの脈波信号SM2の振幅値A2を下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の振幅値A3で除した値である第1の振幅比r23(=A2/A3)が第1振幅比判定値C1よりも小さくなり、且つ上流側膨張袋22からの脈波信号SM1の振幅値A1を中間膨張袋24からの脈波信号SM2の振幅値A2で除した値である第2の振幅比r12(=A1/A2)が予め設定された第2振幅比判定値C2よりも小さくなったときにおける中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を、前記生体の最高血圧値SBPとして決定する。
【0032】
本実施例の圧迫帯12の上流側膨張袋22から中間膨張袋24への振動伝達レベルはたとえば約30%である。すなわち上流側膨張袋22で発生した圧力振動の振幅値が1である場合、その圧力振動が中間膨張袋24に伝達されてその中間膨張袋24内で発生する圧力振動の振幅値は約0.3である。また、中間膨張袋24から下流側膨張袋26への振動伝達レベルはたとえば約30%である。すなわち、中間膨張袋24で発生した圧力振動の振幅値が1である場合、その圧力振動が下流側膨張袋26に伝達されてその下流側膨張袋26内で発生する圧力振動の振幅値は0.3であるとともに、上流側膨張袋22で発生した圧力振動の振幅値が1である場合、その圧力振動が中間膨張袋24を介して下流側膨張袋26に伝達されてその下流側膨張袋26内で発生する圧力振動の振幅値は約0.09である。それらを考慮して、上記第1振幅比判定値C1は例えば3.33よりも所定値だけ小さい値に設定される。第2振幅比判定値C2は例えば3.33よりも所定値だけ小さい値に設定される。
【0033】
また、血圧値決定手段86は、複数の膨張袋22、24、および26のうちの少なくとも2つからの脈波信号間の位相差と、圧迫帯12による圧迫下の動脈16における脈波伝播速度PWV[m/sec]とに基づいて前記生体の最低血圧値DBPを決定する最低血圧値決定手段90を備えている。具体的には、最低血圧値決定手段90は、昇圧させられた膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCがそれら膨張袋22、24、および26により上腕部10を各々同じ圧力で圧迫する状態でそれぞれ徐速降圧させられる過程において、例えば図14に示されるような時間軸と圧迫圧力値軸との二次元座標内に示される下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の立ち上がり点a3と中間膨張袋24からの脈波信号SM2の立ち上がり点a2との第1の時間差t32と、上記二次元座標内に示される中間膨張袋24からの脈波信号SM2の立ち上がり点a2と上流側膨張袋22からの脈波信号SM1の立ち上がり点a1との第2の時間差t21とをそれぞれ逐次算出する。第1の時間差t32および第2の時間差t21は上記位相差に相当する。
【0034】
本実施例において、上記立ち上がり点a1は、脈波信号SM1の立ち上がり部分の変曲点b1における接線Lt1と、脈波信号SM1の立ち上がり始点c1を通る時間軸に平行な横線Lw1との交点である。また、上記立ち上がり点a2は、脈波信号SM2の立ち上がり部分の変曲点b2における接線Lt2と、脈波信号SM2の立ち上がり始点c2を通る時間軸に平行な横線Lw2との交点である。また、上記立ち上がり点a3は、脈波信号SM3の立ち上がり部分の変曲点b3における接線Lt3と、脈波信号SM3の立ち上がり始点c3を通る時間軸に平行な横線Lw3との交点である。
【0035】
また、最低血圧値決定手段90は、昇圧させられた膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCがそれら膨張袋22、24、および26により上腕部10を各々同じ圧力で圧迫する状態でそれぞれ徐速降圧させられる過程において、圧迫帯12による圧迫下の動脈16における脈波伝播速度PWVを逐次算出し、中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2に対する脈波伝播速度PWVの変化率RPWVを逐次算出する。脈波伝播速度PWVは、上記算出された第1の時間差t32を中間膨張袋24と下流側膨張袋26との間の幅方向の距離L32(図4参照)で除して算出される。また、脈波伝播速度PWVの変化率RPWVは、例えば、図15に示されるような圧迫圧力値軸と脈波伝播速度軸との二次元座標内に示される脈波伝播速度PWVと圧迫圧力値PC2との関係を示す曲線の接線の傾きで表される。
【0036】
そして、最低血圧値決定手段90は、昇圧させられた膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCがそれら膨張袋22、24、および26により上腕部10を各々同じ圧力で圧迫する状態でそれぞれ徐速降圧させられる過程において、第1の時間差t32が予め設定された時間差判定値tcを通過する即ち時間差判定値tcよりも小さく、第2の時間差t21が上記時間差判定値tcを通過する即ち時間差判定値tcよりも小さく、且つ脈波伝播速度PWVの変化率RPWVが、図15に示すように圧迫圧力値PC2が下限値たとえば零から増加するに伴って変化率RPWVが連続的に増加する領域bにおいて、予め設定された変化率判定値Rcを通過する即ち変化率判定値Rcよりも小さくなるときの圧迫圧力値PC2を、前記生体の最低血圧値DBPとして決定する。なお、時間差判定値tcは、本発明における位相差判定値、第1時間差判定値、および第2時間差判定値に相当する。
【0037】
図15は、圧迫帯12による圧迫下の動脈16における脈波伝播速度PWV[m/sec]と圧迫圧力値PC2[mmHg]との関係を示す図である。図15に示すように、脈波伝播速度PWVは、圧迫圧力値PC2が零から増加するに伴って、零から最低血圧値DBP付近までは連続的に緩やかに減少し、最低血圧値DBPを超えた付近で連続的に急激に減少した後、最高血圧値SBPに向けて連続的に緩やかに減少する。すなわち脈波伝播速度PWVは圧迫圧力値PC2が大きくなるほど遅くなる。また、図中に矢印bで示す領域においては、圧迫圧力値PC2が零から増加するに伴って脈波伝播速度PWVの変化率RPWV(曲線の傾き)が連続的に増加する。圧迫圧力値PC2が最低血圧値DBPに一致するときの脈波伝播速度PWV1は被測定者によって様々であるが、圧迫圧力値PC2が最低血圧値DBPに一致するときの脈波伝播速度PWVの変化率RPWVすなわち変化率判定値Rcは、被測定者に拘わらず同様な値となる。変化率判定値Rcは、予め実験的に求められた図15に示すような関係から決定される。
【0038】
図16は、下流側膨張袋26および中間膨張袋24からの脈波信号間の時間差すなわち第1の時間差t32と、圧迫圧力値PC2との関係を示す図である。図16に示すように、下流側膨張袋26と中間膨張袋24との間の脈波伝播時間に相当する第1の時間差t32は、圧迫圧力値PC2が最低血圧値DBPとなるときに時間差判定値tcとなる。時間差判定値tcは、予め実験的に求められた図16に示すような関係から決定される。
【0039】
図17、図18および図19は、上記電子制御装置70の制御作動の要部を説明するフローチャートおよびタイムチャートである。図示しない電源スイッチが投入されると、図19の時間t0に示す初期状態とされる。この状態では、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、第3開閉弁E3、および急速排気弁52は常開弁であるため開状態(非作動状態)とされ、排気制御弁54は常閉弁であるため閉状態(非作動状態)とされ、また、空気ポンプ50は非作動状態とされている。
【0040】
次いで、図示しない起動操作装置が操作されて自動血圧測定装置14の測定動作が開始されると、先ず、前記カフ圧制御手段82に対応する図17のステップ(以下、「ステップ」を省略する)S1においては、圧迫帯12の圧迫圧力値が昇圧される。具体的には、図19に示すように、急速排気弁52が閉状態とされるとともに、空気ポンプ50が作動状態とされてその空気ポンプ50から圧送される圧縮空気により主配管56内およびそれに連通された膨張袋22、24、および26内の圧力が急速に高められる。そして、圧迫帯12による上腕10の圧迫が開始される。
【0041】
上記S1に次いで、前記カフ圧制御手段82に対応するS2においては、中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を示すカフ圧信号PK2に基づいて、その圧迫圧力値PC2が予め設定された昇圧目標圧力値PCM(たとえば180mmHg)以上であるか否かが判定される。図19の時間t1より前の時点では、上記S2の判定が否定されて図17のS1以下が繰り返し実行される。しかし、図19の時間t1時点では、上記S2の判定が肯定される。
【0042】
上記のようにS2の判定が肯定されると、前記カフ圧制御手段82に対応するS3において、空気ポンプ50の作動が停止される。そして、昇圧させた膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PC1、PC2、およびPC3が例えば2〜3mmHg/secに予め設定された徐速降圧速度でそれぞれ同時に降圧するように排気制御弁54が作動させられ、徐速排気が開始される。このとき、膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCの降圧量がたとえば1〜10mmHgの範囲内の所定量となるように排気制御弁54が制御され、その所定量の除速降圧毎に上記圧迫圧力値PCがそれぞれ所定時間保持されるように第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、および第3開閉弁E3が作動させられる。上記圧迫圧力値PCを保持する場合には第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、および第3開閉弁E3がそれぞれ閉状態とされる。図19の時間t2は上記徐速排気の開始時点であり、また時間t2〜t3の間は上記圧迫圧力値PCがそれぞれ所定時間保持されている時間である。
【0043】
S3に次いで、前記振幅決定手段84に対応するS4では、圧迫圧力値PC1、PC2、およびPC3がそれぞれ所定時間保持される間に、第1圧力センサT1、第2圧力センサT2、および第3圧力センサT3からの出力信号に対して数Hz乃至数十Hzの波長帯の信号を弁別するローパスフィルタ処理またはバンドパスフィルタ処理がそれぞれ為されることにより膨張袋22、24、および26からの脈波を示す脈波信号SM1、SM2、およびSM3が抽出されるとともに、第2圧力センサT2からの出力信号に対してローパスフィルタ処理が為されることによりAC成分が除去された中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を示すカフ圧信号PK2が抽出される。そして、それらが互いに関連付けられて記憶される。図6〜図13は、上記抽出されて記憶される脈波信号SM1、SM2、およびSM3を例示する図である。
【0044】
また、上記S4では、上記脈波信号SM1、SM2、およびSM3が得られる度にそれらの振幅値A1〜A3が一拍毎に決定され、それら振幅値A1〜A3と、それら振幅値A1〜A3が決定された脈波信号SMに対応するカフ圧信号PK2とに基づいて、例えば図20に示すような脈波信号の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ)が作成されて記憶される。なお、図20のエンベロープにおいて、各測定点間の値は例えば曲線補完により求められる。
【0045】
上記S4に次いで、前記カフ圧制御手段82に対応するS5では、上記圧迫圧力値PCがそれぞれ所定時間保持される間に、中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を示すカフ圧信号PK2に基づいて上記圧迫圧力値PCが予め設定された測定終了圧力値PCE(たとえば30mmHg)以下であるか否かが判定される。図19の時間t11より前の時点では、上記S5の判定が否定されて図17のS3以下が繰り返し実行される。しかし、図19の時間t11時点では、上記S5の判定が肯定される。
【0046】
上記のようにS5の判定が肯定されると、前記カフ圧制御手段82に対応するS6において、膨張袋22、24、および26内の圧力がそれぞれ大気圧まで排圧させられるように急速排気弁52が作動させられる。図19の時間t11以降はこの状態を示す。
【0047】
上記S6に次いで、前記最高血圧値決定手段88に対応するS7では、最高血圧値決定のために用いられる図20のエンベロープの圧迫圧範囲が、例えば100mmHg程度に予め設定された下限値以上に限定される。
【0048】
上記S7に次いで、前記最高血圧値決定手段88に対応するS8では、本ルーチンでS8が最初に実行される場合、図20のエンベロープが使用されてS6で限定された圧迫圧範囲内で最も大きい圧迫圧力値PC2をもつ測定点に対応する上流側膨張袋22からの脈波信号SM1の振幅値A1が決定される。また、本ルーチンで実行されるS8が2回目以降である場合、図20のエンベロープが使用されて前回のS8での圧迫圧力値PC2よりも例えば1mmHg小さい所定の圧迫圧力値PC2に対応する上流側膨張袋22からの脈波信号SM1の振幅値A1が決定される。
【0049】
上記S8に次いで、前記最高血圧値決定手段88に対応するS9では、本ルーチンでS9が最初に実行される場合、図20のエンベロープが使用されてS6で限定された圧迫圧範囲内で最も大きい圧迫圧力値PC2をもつ測定点に対応する中間膨張袋24からの脈波信号SM2の振幅値A2が決定される。また、本ルーチンで実行されるS9が2回目以降である場合、図20のエンベロープが使用されて前回のS9での圧迫圧力値PC2よりも例えば1mmHg小さい所定の圧迫圧力値PC2に対応する中間膨張袋24からの脈波信号SM2の振幅値A2が決定される。
【0050】
上記S9に次いで、前記最高血圧値決定手段88に対応するS10では、本ルーチンでS10が最初に実行される場合、図20のエンベロープが使用されてS6で限定された圧迫圧範囲内で最も大きい圧迫圧力値PC2をもつ測定点に対応する下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の振幅値A3が決定される。また、本ルーチンで実行されるS10が2回目以降である場合、図20のエンベロープが使用されて前回のS10での圧迫圧力値PC2よりも例えば1mmHg小さい所定の圧迫圧力値PC2に対応する下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の振幅値A3が決定される。
【0051】
上記S10に次いで、前記最高血圧値決定手段88に対応するS11では、直前のS8〜S10で決定された振幅値A1〜A3に基づいて、中間膨張袋24からの脈波信号SM2の振幅値A2を下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の振幅値A3で除した値である第1の振幅比r23が算出される。また、上流側膨張袋22からの脈波信号SM1の振幅値A1を中間膨張袋24からの脈波信号SM2の振幅値A2で除した値である第2の振幅比r12が算出される。
【0052】
上記S11に次いで、前記最高血圧値決定手段88に対応するS12では、直前のS11で算出された第1の振幅比r23が予め設定された第1振幅比判定値C1よりも小さく、且つ直前のS11で算出された第2の振幅比r12が予め設定された第2振幅比判定値C2よりも小さいか、否かが判定される。
【0053】
上記S12の判定が否定される場合には、S8以下が繰り返し実行される。そして、上記S12の判定が肯定される場合には、前記最高血圧値決定手段88に対応するS13において、そのときのS9での圧迫圧力値PC2が生体の最高血圧値SBPとして決定される。
【0054】
上記S13に次いで、前記最低血圧値決定手段90に対応する図18のS14では、最低血圧値決定のために用いられる図20のエンベロープの圧迫圧範囲が、例えば100mmHg程度に予め設定された上限値以下に限定される。
【0055】
上記S14に次いで、前記最低血圧値決定手段90に対応するS15では、本ルーチンでS15が最初に実行される場合、図20のエンベロープのうち、S14で限定された圧迫圧範囲内で一番大きい圧迫圧力値PC2をもつ測定点に対応する上流側膨張袋22からの脈波信号SM1に基づいて、その脈波信号SM1の立ち上がり点a1の時間ta1を決定する。この時間ta1は血圧測定が開始されてからの時間である。また、本ルーチンで実行されるS15が2回目以降である場合には、前回のS15での圧迫圧力値PC2に次いで小さい圧迫圧力値PC2をもつ測定点に対応する上流側膨張袋22からの脈波信号SM1に基づいて、その脈波信号SM1の立ち上がり点a1の時間ta1を決定する。
【0056】
上記S15に次いで、前記最低血圧値決定手段90に対応するS16では、本ルーチンでS16が最初に実行される場合、図20のエンベロープのうち、上記S13で限定された圧迫圧範囲内で一番大きい圧迫圧力値PC2をもつ測定点における中間膨張袋24からの脈波信号SM2に基づいて、その脈波信号SM2の立ち上がり点a2の時間ta2を決定する。この時間ta2は血圧測定が開始されてからの時間である。また、本ルーチンで実行されるS16が2回目以降である場合には、前回のS16での圧迫圧力値PC2に次いで小さい圧迫圧力値PC2をもつ測定点に対応する中間膨張袋24からの脈波信号SM2に基づいて、その脈波信号SM2の立ち上がり点a2の時間ta2を決定する。
【0057】
上記S16に次いで、前記最低血圧値決定手段90に対応するS17では、本ルーチンでS17が最初に実行される場合、図20のエンベロープのうち、上記S13で限定された圧迫圧範囲内で一番大きい圧迫圧力値PC2をもつ測定点における下流膨張袋26からの脈波信号SM3に基づいて、その脈波信号SM3の立ち上がり点a3の時間ta3を決定する。この時間ta3は血圧測定が開始されてからの時間である。また、本ルーチンで実行されるS17が2回目以降である場合には、前回のS17での圧迫圧力値PC2に次いで小さい圧迫圧力値PC2をもつ測定点に対応する下流側膨張袋26からの脈波信号SM3に基づいて、その脈波信号SM3の立ち上がり点a3の時間ta3を決定する。
【0058】
上記S17に次いで、前記最低血圧値決定手段90に対応するS18では、直前のS15〜S17で決定された時間ta1〜ta3に基づいて、時間ta2と時間ta1との差から第2の時間差t21(=ta2−ta1)が算出され、また、時間ta3と時間ta2との差から第1の時間差t32(=ta3−ta2)が算出される。また、上記算出された第1の時間差t32を中間膨張袋24と下流側膨張袋26との幅方向の距離で除して脈波伝播速度PWVが算出され、続いて、図15に示されるような圧迫圧力値軸と脈波伝播速度軸との二次元座標内に示される脈波伝播速度PWVと圧迫圧力値PC2との関係を示す曲線の接線の傾きから、中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2に対する脈波伝播速度PWVの変化率RPWVが算出される。
【0059】
上記S18に次いで、前記最低血圧値決定手段90に対応するS19では、第1の時間差t32が予め設定された時間差判定値tcよりも小さく、第2の時間差t21が上記時間差判定値tcよりも小さく、且つ脈波伝播速度PWVの変化率RPWVが、図15に矢印bで示すように圧迫圧力値PC2が下限値たとえば零から増加するに伴って変化率RPWVが連続的に増加する領域において、予め設定された変化率判定値Rcよりも小さいか、否かが判定される。
【0060】
上記S19の判定が否定される場合には、S15以下が繰り返し実行される。そして、上記S19の判定が肯定される場合には、前記最低血圧値決定手段90に対応するS20において、直前のS16で用いられた脈波信号SM2に対応する中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2と、上記直前のS16よりも1つ前に実行されたS16で用いられた脈波信号SM2’に対応する中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2’とに基づいて、直線補完により生体の最低血圧値DBPが決定される。
【0061】
そして、S21において、表示装置78に生体の最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPが表示されて、本ルーチンが終了させられる。
【0062】
本実施例の自動血圧測定装置14によれば、圧迫帯12は、幅方向に連ねられて生体の被圧迫部位である上腕10を各々圧迫する独立した気室を有する複数の膨張袋22、24、および26を有するものであり、それら膨張袋22、24、および26のうちの上腕10内の動脈16の下流側に位置する下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の振幅値A3と、その下流側膨張袋26よりも上流側に位置する中間膨張袋(所定の膨張袋)24からの脈波信号SM2の振幅値A2との振幅比である第1の振幅比r23を逐次算出し、その第1の振幅比r23に基づいて生体の最高血圧値SBPを決定することから、相互間が圧力変動に関して独立状態とされた複数の膨張袋22、24、および26から上腕10の動脈16に圧迫圧力を均等な圧力分布で加えることで正確な脈波信号SMが得られるので、それら脈波信号SM間の振幅比に基づいて精度の高い最高血圧値SBPが得られる。
【0063】
また、本実施例の自動血圧測定装置14によれば、第1の振幅比r23は、中間膨張袋24からの脈波信号SM2の振幅値A2を下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の振幅値A3で除した値であり、昇圧させた圧迫帯12の圧迫圧力値PCの除速降圧過程において逐次算出される第1の振幅比r23が予め設定された第1振幅比判定値C1よりも小さくなったときの中間膨張袋24の圧迫圧力値PCを、生体の最高血圧値SBPとして決定する。そのため、上腕10内の動脈16の血流が中間膨張袋24下は通るが下流側膨張袋26下は通らない状態と、中間膨張袋24下および下流側膨張袋26下を共に通る状態とを区別し、上腕10内の動脈16の血流が中間膨張袋24下および下流側膨張袋26下を共に通る状態になったときの中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を生体の最高血圧値SBPとして決定するので、精度の高い最高血圧値SBPが得られる。
【0064】
また、本実施例の自動血圧測定装置14によれば、圧迫帯12は、上腕10の長手方向に所定間隔を隔てて位置する可撓性シートから成る一対の上流側膨張袋22および下流側膨張袋26と、上腕10の長手方向において連なるように上記上流側膨張袋22および下流側膨張袋26の間に配置され、それら上流側膨張袋22および下流側膨張袋26とは独立した気室を有する中間膨張袋24とを有するものであることから、上腕10の長手方向において連なり相互間が圧力変動に関して独立状態とされた上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26から上腕10内の動脈16に圧迫圧力が均等な圧力分布で加えられることで正確な脈波が得られるので、それら脈波間の振幅比に基づいて精度の高い最高血圧値SBPが得られる。
【0065】
また、本実施例の自動血圧測定装置14によれば、昇圧させた上流側膨張袋22、中間膨張袋24、および下流側膨張袋26の圧迫圧力値PC1、PC2、およびPC3を、それら膨張袋により上腕10を同じ圧力で圧迫する状態で降圧させる過程において、上流側膨張袋22からの脈波の振幅値A1を中間膨張袋24からの脈波の振幅値A2で除した値である第2の振幅比r12が第2振幅比判定値C2よりも小さくなり、且つ中間膨張袋24からの脈波の振幅値A2を下流側膨張袋26からの脈波の振幅値A3で除した値である第1の振幅比r23が第1振幅比判定値C1よりも小さくなったときの中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を、前記生体の最高血圧値SBPとして決定する。そのため、上腕10内の動脈16の血流が上流側膨張袋22下は通るが中間膨張袋24下および下流側膨張袋26下は通らない状態と、上流側膨張袋22下、中間膨張袋24下、および下流側膨張袋26下を共に通る状態とを区別し、上腕10内の動脈16の血流が上流側膨張袋22下、中間膨張袋24下、および下流側膨張袋26下を共に通る状態になったときに幅方向において均等な圧力分布とされている中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を、生体の最高血圧値SBPとして決定するので、精度の高い最高血圧値SBPが得られる。
【0066】
また、本実施例の自動血圧測定装置14によれば、複数の膨張袋22、24、および26内の圧力を検出する圧力センサT1、T2、およびT3を備え、上腕10に巻き付けられた圧迫帯12の膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCをその上腕10内の動脈16を止血するのに十分な値まで昇圧させた後、各圧迫圧力値PCをそれぞれ同時に降圧させる過程において、たとえば1〜10mmHgの範囲内の所定量の除速降圧毎に上記各圧迫圧力値PCを所定時間保持し、その所定時間内に膨張袋22、24、および26内の圧力振動である脈波を示す脈波信号SM1、SM2、およびSM3を検出することから、各圧迫圧力値PCが一定であるときに各々の脈波信号SM1、SM2、およびSM3が検出されるので、正確な脈波信号SM1、SM2、およびSM3を得ることができる。
【0067】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0068】
例えば、昇圧目標圧力値PCMおよび測定終了圧力値PCEは必ずしも予め設定されなくてもよい。例えば、自動血圧測定装置14の電源スイッチが投入されてからオペレータにより入力された前回測定の最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPに基づいて、上記入力された最高血圧値SBPに所定値(例えば30mmHg)を足した値に昇圧目標圧力値PCMを設定し、上記入力された最低血圧値DBPに所定値(例えば30mmHg)を引いた値に測定終了圧力値PCEを設定してもよい。または、カフ圧制御手段82による急速昇圧時(図18の時間t1〜t2の間)に例えば中間膨張袋24からの脈波信号SM2を抽出してエンベロープを作成し、そのエンベロープに基づいてよく知られたオシロメトリックアルゴリズムに従って生体の最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPを予測し、昇圧目標圧力値PCMがその予測された最高血圧値SBPに所定値(例えば20mmHg)を足した値となるように設定し、測定終了圧力値PCEが上記予測された最低血圧値DBPに所定値(例えば20mmHg)を引いた値となるように設定してもよい。
【0069】
また、カフ圧制御手段82による徐速降圧過程において膨張袋22、24、および26の圧迫圧力値PCが所定時間保持される間には、振幅決定手段84により上記膨張袋22、24、および26からの脈波信号SM1、SM2、およびSM3が複数拍採取され、それら複数迫分の脈波信号SMの平均値に基づいて最高血圧値SBPおよび最低血圧値DBPが決定されてもよい。この場合には、より精度の高い血圧値が得られる。
【0070】
また、図16のS4において作成される包絡線(エンベロープ)は各測定点間の値が曲線補完により求められていたが、例えば直線補完やその他の公知の補完方法により補完されてもよい。
【0071】
また、最高血圧値決定手段88は、最高血圧値SBPを決定するに際して、必ずしも第1の振幅比r23および第2の振幅比r12を両方用いる必要はない。少なくとも下流側膨張袋26から得られた振幅を用いればよく、例えば、第1の振幅比r23が予め設定された第1振幅比判定値C1よりも小さくなったときにおける中間膨張袋24の圧迫圧力値PC2を、生体の最高血圧値SBPとして決定してもよい。
【0072】
また、最高血圧値決定手段88は、最高血圧値SBPを決定するに際して用いられる振幅比は、必ずしも第1の振幅比r23でなくてもよく、上流側膨張袋22からの脈波信号SM1の振幅値A1を下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の振幅値A3で除した値である第3の振幅比r13でもよいし、第1の振幅比r23や第2の振幅比r13の逆数であってもよい。
【0073】
また、最低血圧値決定手段90は、最低血圧値DBPを決定するに際して、必ずしも第1の時間差t32および第2の時間差t21を両方用いる必要はない。少なくとも第1の時間差t32、第2の時間差t21、下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の立ち上がり点a3と上流側膨張袋22からの脈波信号SM1の立ち上がり点a1との時間差である第3の時間差t31のうちの1つを用いればよく、例えば、第1の時間差t32が予め設定された時間差判定値tcよりも小さくなったときにおける中間膨張袋24の圧迫圧力値PCを、前記生体の最低血圧値DBPとして決定してもよい。
【0074】
また、最低血圧値決定手段90は、最低血圧値DBPを決定するに際して用いられる位相差は、必ずしも下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の立ち上がり点a3と下流側膨張袋26からの脈波信号SM3立ち上がり点a2との時間差(第1の時間差t32)でなくてもよい。例えば、変曲点b3と変曲点b2との時間差であってもよいし、或いは立ち上がり点c3と立ち上がり点c2との時間差であってもよい。または、下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の他の点と下流側膨張袋26からの脈波信号SM3の他の点との差であってもよい。
【0075】
また、最低血圧値決定手段90は、最低血圧値DBPを決定するに際して、必ずしも脈波伝播速度PWVの変化率RPWVと、第1の時間差t32および第2の時間差t21との両方を用いる必要はない。脈波伝播速度PWVの変化率RPWVと、第1の時間差t32又は第3の時間差t31とのいずれか1を用いればよい。たとえば、最低血圧値決定手段90は、圧迫帯12の圧迫圧力値PC2を降圧させる過程において、第1の時間差t32が予め設定された時間差判定値tcを通過する即ち時間差判定値tcよりも小さくなる、第2の時間差t21が上記時間差判定値tcを通過する即ち時間差判定値tcよりも小さくなるときの圧迫圧力値PC2を、生体の最低血圧値DBPとして決定するように構成されてもよい。このようにすれば、相互間が圧力変動に関して独立状態とされた複数の膨張袋22、24、および26から上腕10の動脈16に圧迫圧力を均等な圧力分布で加えることで正確な脈波信号SMがそれぞれ得られるので、それら脈波信号SM間の位相差に基づいて精度の高い最低血圧値DBPが得られる。また、たとえば、最低血圧値決定手段90は、圧迫帯12の圧迫圧力値PC2を降圧させる過程において、脈波伝播速度PWVの変化率RPWVが、図15に示すように圧迫圧力値PC2が下限値たとえば零から増加するに伴って変化率RPWVが連続的に増加する領域bにおいて、予め設定された変化率判定値Rcを通過する即ち変化率判定値Rcよりも小さくなるときの圧迫圧力値PC2を、前記生体の最低血圧値DBPとして決定するように構成されてもよい。このようにすれば、脈波伝播速度PWVは圧迫圧力値PC2が大きくなるほど遅くなると共に、圧迫圧力値PC2に対する脈波伝播速度PWVの変化率RPWVは被測定者に拘わらず生体の最低血圧値DBP付近領域において急激に変化することを利用して、最低血圧値DBPが決定されるので、精度の高い最低血圧値DBPが得られる。
【0076】
また、血圧測定時においては、昇圧目標圧力値PCMまで昇圧した後、必ずしも圧迫圧力値PCを予め設定された徐速降圧速度でステップ的に降圧する必要はない。すなわち、圧迫圧力値PCは連続的に降圧させられてもよい。また、血圧値測定付近だけ除速降圧とし、他の区間は急速降圧として測定時間を短くしてもよい。例えば、先ず、昇圧目標圧力値PCMまで昇圧した後の徐速降圧過程において、膨張袋22、24、および26からの脈波信号SM1、SM2、およびSM3を抽出する度に図20に示すエンベロープの一部を作成して図17のS8〜S12を実行し、最高血圧値SBPを決定する。続いて、上記最高血圧値SBPの決定後に圧迫圧力値PCを予測された最低血圧値DBP’よりも予め設定された所定量(たとえば30mmHg)大きい圧力値まで急速に降圧させる。これにより、測定時間を短縮することができる。なお、上記予測された最低血圧値DBP’は、例えば、カフ圧制御手段82による急速昇圧時(図19の時間t1〜t2の間)に中間膨張袋24からの脈波信号SM2を抽出してエンベロープを作成し、そのエンベロープに基づいてよく知られたオシロメトリックアルゴリズムに従って予測される。
【0077】
また、前述の実施例では、圧迫帯12の圧迫圧が降圧させられる過程で血圧値を決定する降圧測定が実施されていたが、これに限らず、圧迫帯12の圧迫圧が昇圧させられる過程で血圧値を決定する昇圧測定が実施されても良い。このような昇圧測定においても前述の最高血圧値決定アルゴリズムおよび最低血圧値決定アルゴリズムを用いることができ、同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、圧迫帯12が備える膨張袋は3つに限らず、4つ以上であってもよい。
【0079】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0080】
10:上腕(被圧迫部位)
12:圧迫帯
14:自動血圧測定装置
16:動脈
22:上流側膨張袋(膨張袋)
24:中間膨張袋(膨張袋)
26:下流側膨張袋(膨張袋)
A1、A2、A3:振幅値
DBP:最低血圧値(血圧値)
PC1、PC2、PC3:圧迫圧力値
PCM:昇圧目標圧力値(動脈を止血するのに十分な値)
R1:第1振幅比判定値
R2:第2振幅比判定値
SBP:最高血圧値(血圧値)
SM1、SM2、SM3:脈波信号(脈波)
T1:第1圧力センサ
T2:第2圧力センサ
T3:第3圧力センサ
r12:第2の振幅比
r23:第1の振幅比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の被圧迫部位に巻き付けられる圧迫帯を備え、該圧迫帯の圧迫圧力値を変化させる過程で該圧迫帯内の圧力振動である脈波を逐次抽出し、該脈波の変化に基づいて前記生体の血圧値を決定する自動血圧測定装置であって、
前記圧迫帯は、幅方向に連ねられて前記生体の被圧迫部位を各々圧迫する独立した気室を有する複数の膨張袋を有するものであり、
該複数の膨張袋のうちの前記被圧迫部位内の動脈の下流側に位置する下流側膨張袋からの脈波の振幅値と、該下流側膨張袋よりも上流側に位置する所定の膨張袋からの脈波の振幅値との振幅比を逐次算出し、該振幅比に基づいて前記生体の最高血圧値を決定することを特徴とする自動血圧測定装置。
【請求項2】
前記振幅比は、前記所定の膨張袋からの脈波の振幅値を前記下流側膨張袋からの脈波の振幅値で除した値であり、
昇圧させた前記圧迫帯の圧迫圧力値を降圧させる過程において、前記逐次算出される振幅比が予め設定された第1振幅比判定値よりも小さくなったときの該圧迫帯の圧迫圧力値を、前記生体の最高血圧値として決定することを特徴とする請求項1の自動血圧測定装置。
【請求項3】
前記圧迫帯は、前記被圧迫部位の長手方向に所定間隔を隔てて位置する可撓性シートから成る一対の上流側膨張袋および前記下流側膨張袋と、該被圧迫部位の長手方向において連なるように該上流側膨張袋および該下流側膨張袋の間に配置され、該上流側膨張袋および該下流側膨張袋とは独立した気室を有する中間膨張袋とを有するものであることを特徴とする請求項1または2の自動血圧測定装置。
【請求項4】
昇圧させた前記圧迫帯の圧迫圧力値を、前記上流側膨張袋、前記中間膨張袋、および前記下流側膨張袋により前記被圧迫部位を同じ圧力で圧迫する状態で降圧させる過程において、該中間膨張袋からの脈波の振幅値を該下流側膨張袋からの脈波の振幅値で除した振幅比が前記第1振幅比判定値よりも小さくなり、且つ該上流側膨張袋からの脈波の振幅値を該中間膨張袋からの脈波の振幅値で除した振幅比が予め設定された第2振幅比判定値よりも小さくなったときの該中間膨張袋の圧迫圧力値を、前記生体の最高血圧値として決定することを特徴とする請求項3の自動血圧測定装置。
【請求項5】
前記複数の膨張袋内の圧力を検出する圧力センサを備え、
前記被圧迫部位に巻き付けられた前記圧迫帯の複数の膨張袋の圧迫圧力値を該被圧迫部位内の動脈を止血するのに十分な値まで昇圧させた後、該圧迫帯の圧迫圧力値を降圧させる過程において、所定量の除速降圧毎に該圧迫帯の圧迫圧力値を所定時間保持し、該所定時間内に該圧迫帯内の圧力振動である脈波を検出すること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つの自動血圧測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−71058(P2012−71058A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220019(P2010−220019)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)
【Fターム(参考)】