説明

自動調心ころ軸受

【課題】自動調心ころ軸受の外輪とハウジングとの嵌合を負荷域において確実にしながら、外輪の少なくとも一端側の面取りの軸方向寸法を可及的に大きくする。
【解決手段】外輪1の外径面12と面取り15との繋ぎ目Eが、面取り15側の列の最大接触角θ2における作用線の延長上にある構成とした。外輪1によってたる形ころ3aへ伝えられる力の合力の作用線が最も面取り15側に傾いたときの延長上まで外輪1の外径面12が形成され、面取り15の軸方向寸法が可及的に大きくなる。その面取り15を施した側の列において、たる形ころ3aが調心性によりどのような接触角になろうとも、上述の合力の作用線は、外輪1とハウジング5との嵌合が隙間なく確保される領域を通る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動調心ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動調心ころ軸受は、工場出荷の段階で組み立てられており、また、調心性を有することから、使用現場での取り扱いが容易であり、多くの産業分野で使用されている。自動調心ころ軸受の組み込みにおいては、球面軌道を有する外輪の外径面がハウジングに嵌合され、2列1対の軌道を有する内輪が軸に嵌合される。
【0003】
自動調心ころ軸受は、他の転がり軸受と同様に、その外輪の外径面と各端面とをつなぐ面取りが施されている。この面取りは、旋削でR状に形成される。その後に、図2に示すように、外輪の外径面が円筒状に研削されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−349585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように面取りを形成すると、外輪の外径面とR状の面取りとの繋ぎ目がエッジになる。このような繋ぎ目は、外輪をハウジングに嵌合する作業中に、引っ掛かる原因となる。この引っ掛かりを防止するには、面取りを小さな曲率で施せば、繋ぎ目が滑らかになる。
【0006】
また、図3に示すように、面取りを単純なR状にするのではなく、外輪の端面31にR状部32をつなぎ、そのR状部32と外径面33とを円錐部34でつなぐように施せば、繋ぎ目が滑らかになる。これには、円錐部34の円錐角を小さくする程よいが、面取りの軸方向寸法が大きくなる。
【0007】
上述のように、面取りの軸方向寸法が大きくなることを許容すれば、外輪の嵌合時にハウジングに引っ掛かり難くすることができる。
ところが、調心性を有し、玉軸受より大きな荷重を支持する用途に利用される自動調心ころ軸受においては、大きな荷重を受けるたる形ころが外輪の球面軌道との間に許容調心角の範囲内で滑りを生じながら転動する。このため、自動調心ころ軸受の外輪に軸方向寸法が大きな面取りを施すと、負荷域において外輪とハウジングとの嵌合がしっかりせず、負荷支持の支障になる恐れがある。
【0008】
そこで、この発明の課題は、自動調心ころ軸受の外輪とハウジングとの嵌合を負荷域において確実にしながら、外輪の少なくとも一端側の面取りの軸方向寸法を可及的に大きくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するため、この発明は、球面軌道を有する外輪と、2列1対の軌道を有する内輪とを備え、前記外輪の外径面と端面とをつなぐ面取りが施されている自動調心ころ軸受において、前記外輪の外径面と前記面取りとの繋ぎ目が、当該面取り側の列の最大接触角における作用線の延長上にあることを特徴とするものである。
ここで、「接触角」は、軸受中心軸に垂直な平面と、外輪によってたる形ころへ伝えられる力の合力の作用線とがなす角度のことである。
「最大接触角」は、たる形ころが許容調心角の限界位置にあるときの接触角のことである。
【0010】
この発明は、外輪の外径面の一端と、少なくとも一端側の面取りとの間の繋ぎ目に適用される。外輪一端側からハウジングへの嵌合が行なわれるため、少なくとも一端側で外輪の外径面と面取りとの繋ぎ目を滑らかにすれば、その側から嵌合することで引っ掛かりを防止することができる。
【0011】
前記外輪の外径面と前記面取りとの繋ぎ目が、当該面取り側の列の最大接触角における作用線の延長上にある構成によれば、外輪によってたる形ころへ伝えられる力の合力の作用線が最も当該面取り側に傾いたときの延長上まで外輪の外径面が形成され、当該面取りの軸方向寸法が可及的に大きくなる。
可及的に大きな面取りを施した側の列において、たる形ころが調心性によりどのような接触角になろうとも、外輪によってたる形ころへ伝えられる力の合力の作用線は、外輪の外径面と交わる、すなわち、外輪とハウジングとの嵌合が隙間なく確保される領域を通る。したがって、自動調心ころ軸受の外輪とハウジングとの嵌合を負荷域において確実にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
したがって、この発明は、上記構成の採用により、自動調心ころ軸受の外輪とハウジングとの嵌合を負荷域において確実にしながら、外輪の少なくとも一端側の面取りの軸方向寸法を可及的に大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】

【図1】aは実施形態に係る自動調心ころ軸受の全体構成を示す縦断面図、bはaの一端側の面取り部分の拡大図
【図2】従来の外輪の外径面の加工を示す模式図
【図3】外輪の面取り形状の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態に係る自動調心ころ軸受を添付図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、この自動調心ころ軸受は、球面軌道11を有する外輪1と、2列1対の内輪軌道21、22を有する内輪2と、球面軌道11と一方の列の内輪軌道21との間に介在する複数のたる形ころ3aと、球面軌道11と他方の列の内輪軌道22との間に介在する複数のたる形ころ3bと、複数のたる形ころ3aを周方向に等配する保持器4aと、複数のたる形ころ3bを周方向に等配する保持器4bとを備えている。
【0015】
外輪1の外径面12は、円筒状とされている。外輪1の各端面13、14は、軸受中心軸に垂直又は実質的に垂直な幅面になっている。外輪1の外径面12と各端面13、14とをつなぐ面取り15、16がR状に施されている。
【0016】
各列のたる形ころ3a、3bは、球面軌道11及び内輪軌道21、22に対する滑りが内輪2のつば23a、23b、中つば23cで規制される。なお、中つば23cに代えて、案内輪、保持器による規制を採用することもできる。上述の規制により、各列のたる形ころ3a、3bは、設計上の正規のアライメントにおける接触角θ1を中心として、許容調心角が正負両側に設定されている。
接触角θ1は、軸受中心を通り、軸受中心軸に垂直な平面Rsを基準としている。
許容調心角は、例えば、0.5°〜2°に設定されることが多いが、この範囲に限定されない。
【0017】
図1(a)(b)に示すように、外輪1の外径面12と一端側の面取り15との繋ぎ目Eが、当該面取り15側の列のたる形ころ3aの最大接触角θ2における作用線の延長上にある。これにより、外輪1によってたる形ころ3aへ伝えられる力の合力の作用線が最も当該面取り15側に傾いたときの延長上まで外輪1の外径面12が形成され、面取り15の軸方向寸法は、可及的に大きくなっている。
たる形ころ3aが最大接触角θ2からθ1側に変位したとしても、外輪1によってたる形ころ3aへ伝えられる力の合力の作用線は、外輪1の外径面12と交わる。すなわち、外輪1とハウジング5との嵌合が隙間なく確保される領域を通る。したがって、自動調心ころ軸受の外輪1とハウジング5との嵌合を負荷域において確実にすることができる。
【0018】
また、一端側の面取り15は、その軸方向寸法が可及的に大きく取れる分、曲率半径が可及的に大きくなっている。その結果、外輪1の外径面12の一端との繋ぎ目Eの近傍における曲率が可及的に小さくなっており、繋ぎ目Eが滑らかになっている。したがって、外輪1の一端側から嵌合すれば、ハウジング5に引っ掛かり難くい。
【0019】
この実施形態では、一端側の面取りのみを可及的に大きな軸方向寸法としたが、他端側の面取りにおいても同様にすれば、いずれの面取り側から嵌合しても引っ掛かり難くなる。
また、この実施形態では、一端側の面取りをR状に施したが、図3に示したように、一端側の面取りを、端面にR状部をつなぎ、そのR状部と外径面とを円錐部でつなぐように施したり、対数クラウニング形状にすることもできる。
【符号の説明】
【0020】
1 外輪
2 内輪
3a、3b たる形ころ
4a、4b 保持器
5 ハウジング
11 球面軌道
12 外径面
13、14 端面
15、16 面取り
21、22 内輪軌道
E 繋ぎ目
θ1 接触角
θ2 最大接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面軌道を有する外輪と、2列1対の軌道を有する内輪とを備え、前記外輪の外径面と各端面とをつなぐ面取りが施されている自動調心ころ軸受において、
前記外輪の外径面と前記面取りとの繋ぎ目が、当該面取り側の列の最大接触角における作用線の延長上にあることを特徴とする自動調心ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−57722(P2012−57722A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201730(P2010−201730)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】