説明

自動車のルーフ構造

【課題】車両の側面衝突時、センタピラーに作用する荷重で左右のルーフサイドレール間に架設したルーフリィンフォースメントが折れ曲がるのを防止するとともにセンタピラーの車内側への移動を防止すること。
【解決手段】ルーフリィンフォースメント4の端部44をブラケット5を介してルーフサイドレール2に連結した自動車のルーフ構造において、ブラケット5の基端をルーフリィンフォースメント4の端部44に固定し、ブラケット5にはその基板部50に先端縁54まで延びる起立部51,52,53を設け、起立部51,52,53の上端をルーフサイドレール2の車内側の側面21の上端に当接させるとともに、上記端縁56の下部は上記側面21との間に間隔を設け、センタピラー3から作用する衝突荷重によりルーフサイドレール2に回転モーメントMが生じたときに、モーメントMがルーフリィンフォースメント4側に伝達されないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のルーフ構造、特に左右のルーフサイドレールとこれらの間を架けわたすルーフリィンフォースメントとの結合部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のルーフ構造は、ルーフパネルの左右の両側縁に沿って前後方向に延びる左右一対のルーフサイドレールが設けられ、これらルーフサイドレールの間にはルーフパネルの下面に沿って車幅方向に延びるルーフリィンフォースメントが架設されている。一般にルーフリィンフォースメントは、ルーフ設置の作業性等から左右のルーフサイドレール間の間隔よりも短尺とされ、端部はブラケットを介してルーフサイドレールに連結されている。
【0003】
ところで車両の側面衝突時、車体のセンタピラーにはこれを車内側へく字状に曲げ変形させる荷重が作用する。このためルーフサイドレールにはセンタピラーの上端との結合部およびその近辺位置で下縁側を車内方向に押してルーフサイドレールを捩じり変形させる回転モーメントが発生する。
ところがルーフリィンフォースメントがルーフサイドレールとブラケットにより強固に連結されていると、連結位置がルーフサイドレールの上端部にあるのでルーフリィンフォースメントには大きな曲げ力が作用してルーフリィンフォースメントが折れ曲がり、ルーフパネル全体に大きな損傷が発生するおそれがある。
そこで従来では、側面衝突時にルーフサイドレールの上記回転モーメントがルーフリィンフォースメントに伝達されない対策がとられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
図4、図5はこの種の従来構造の一例を示す。ルーフサイドレール2にはセンタピラー3との結合部に金属板からなるブラケット6を設けている。ブラケット6には車内側へ突出する舌片状の突出片61,61を設け、これら突出片61,61を、ルーフパネル1の下面に設けられた断面凹凸状のルーフリィンフォースメント4の端末内へ挿し込んでルーフリィンフォースメント4と係合させるとともに、車外側の外端62をルーフサイドレール2の車内側面21にボルト締め固定している。
これによれば、図6に示すように、側面衝突時にルーフサイドレール2が捩れ変形すると、これに伴ってブラケット6の突出片61,61は上向きに変形してルーフリィンフォースメント4に対して相対移動するから、ルーフリィンフォースメント4には曲げ力はほとんど作用しない。
【特許文献1】特開平10−100936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来構造では、ルーフリィンフォースメント4の折れ曲がりは防止されるものの、ルーフサイドレール2は車内側からの支えを失い、ルーフサイドレール2とルーフリィンフォースメント4の端部との間の本来の間隔L(図5)が狭くなり、その分、センタピラー3全体が車室側へ移動し、車室を圧迫することになる。
そこで本発明は、車両の側面衝突時、センタピラーに作用する荷重によるルーフリィンフォースメントの折れ曲がりを防止するとともに、センタピラーの車室への侵入を抑制する自動車のルーフ構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ルーフパネルの左右の両側縁に沿って前後方向に延び、車体側面のセンタピラーにより支持された左右のルーフサイドレールと、ルーフパネルの下面に沿って車幅方向に延びるルーフリィンフォースメントとを備え、上記左右のルーフサイドレール間の距離よりも全長を短くした上記ルーフリィンフォースメントの両端をブラケットを介して上記ルーフサイドレールに連結せしめた自動車のルーフ構造において、上記ブラケットは上記ルーフリィンフォースメントの端部と上記ルーフサイドレールとを接続する基板部の基端を上記ルーフリィンフォースメントの端部に固定し、上記ブラケットの基板部には、長手方向に延びる起立部を形成するとともに、上記ルーフサイドレールと対向する先端縁に該先端縁から舌片状に延出する突出片を形成し、上記先端縁から起立する上記起立部の端縁の上端を上記ルーフサイドレールの車内側の側面に当接せしめるとともに、上記端縁の下部は上記側面と間隔をおいて非当接とし、上記ルーフサイドレールの車内側の側面には上記起立部の端縁との当接位置よりも下方位置にスリットを形成して、上記突出片を上記スリットに挿通せしめる(請求項1)。
車両の側面衝突時、センタピラーに作用する荷重によりルーフサイドレールに回転モーメントが発生すると、ルーフサイドレールはブラケットの起立部端縁との当接部を支点として回転し、突出片はスリットの内奥へ侵入し、ルーフリィンフォースメントにはルーフサイドレールの回転モーメントは伝達されない。かつルーフサイドレールはブラケットとの当接部でルーフリィンフォースメントにより車内側から支持されているからセンタピラー全体が衝突荷重で車内側へ移動するのが防止される。
【0007】
上記起立部の端縁は、その上端が上記ルーフサイドレールの車内側の側面に当接するとともに、その下部と上記側面との間にほぼ三角形状の間隙が形成されるように上記側面に対して傾斜方向ほぼ直線状に起立せしめる(請求項2)。
これによりルーフサイドレールはルーフリィンフォースメントに荷重を作用させることなく回転可能となる。
【0008】
上記突出片は、上記ブラケットの基板部の先端縁から車外方向斜め下方に延出せしめ、その先端部を上記スリットに挿入せしめる(請求項3)。
これによりルーフサイドレールが回転したときに突出片がスムーズにスリット内奥へ移動する。
【0009】
上記基板部には複数の上記起立部を形成し、基板部を凹凸断面形状とする(請求項4)。
起立部は基板部の曲げ剛性強化にも貢献する。
【0010】
上記基板部はその基端の断面形状を上記ルーフリィンフォースメントの端部の断面形状と同一に形成し、上記基端を上記端部に重ね合わせて固定する(請求項5)。
ルーフリィンフォースメントとブラケットとの結合が容易かつ強固になされる。
【0011】
上記ルーフリィンフォースメントを車体の側面の左右のセンタピラーと対応する位置に設置し、その両端を上記ブラケットを介して上記ルーフサイドレールのセンタピラーとの結合部に連結せしめる(請求項6)。
本発明はルーフサイドレールのセンタピラーとの結合部にブラケットを介してルーフリィンフォースメントを連結する構造に適用して特に効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1、図2に基いて本発明を適用した自動車のルーフ構造を説明する。なお、本ルーフ構造は左右対称の構造で、一方の側を中心に説明する。
上記ルーフ構造はルーフパネル1の側縁に沿って前後方向に延びるルーフサイドレール2が設けてある。ルーフサイドレール2はインナパネル2aとアウタネル2bとで閉断面構造をなし、内部には補強部材たるリィンフォースメント2cが内設してある。
【0013】
図2はルーフサイドレール2の前後中間位置で、車体の側面に立設したセンタピラー3と対応する位置での縦断面図を示すもので、ルーフサイドレール2はセンタピラー3の上端と結合してあり、ルーフサイドレール2の閉断面とセンタピラー3との閉断面とが連通するように構成してある。
【0014】
ルーフサイドレール2には、インナパネル2a、アウタネル2bおよびリィンフォースメント2cそれぞれの上縁の結合フランジ同士を上下に重ね合わせて溶接結合し、車内側へ張り出した上縁フランジ20が設けてある。
これに対応してルーフパネル1の側端には、ほぼ平坦面をなすルーフ一般面に対して一段低く形成した側縁部10が設けてある。
ルーフパネル1とルーフサイドレール2とは、ルーフサイドレール2の上縁フランジ20に上方からルーフパネル1の側縁部10を重ね合わせて溶接結合してある。
【0015】
図1、図2に示すように、ルーフパネル1の下面には、上記センタピラー3と対応する位置に、車幅方向に延びるルーフリィンフォースメント4が設けてある。ルーフリィンフォースメント4は金属板からなり、底壁をなす基板部40の両側縁にフランジ状に起立する側縁起立部41,42を形成するとともに、基板部40の幅方向の中央位置に、基板部40の長手方向に沿って延び上方へ断面台形状に起立する中央起立部43を形成して、断面凹凸状に形成してある。側縁起立部41,42は中央起立部43よりも高くしてある。
【0016】
ルーフリィンフォースメント4はその車幅方向に沿う全長が、ルーフパネル1の上記一般部の車幅方向の長さ寸法に合わせてあり、左右のルーフサイドレール2間の距離よりも短く形成してある。これはルーフパネル1とルーフサイドレール2とを組付ける際に、予めルーフパネル1の下面にルーフリィンフォースメント4を設置した状態で行なうためである。
ルーフリィンフォースメント4はその側縁起立部41,42の上縁フランジをルーフパネル1の一般面の下面に重ね合わせてマスチックシーラ等の接着剤45で接着してある。
【0017】
このように全長を左右のルーフサイドレール2間の距離も短くしたルーフリィンフォースメント4は、端部44にこれを車外側へ延長するようにブラケット5を設け、ブラケット5を介してルーフサイドレール2の上記センタピラー3との結合部の車内側の側面21に連結してある。
【0018】
ブラケット5は金属板からなるプレス成形品で、ルーフリィンフォースメント4の基板部40に対応する基板部50と、ルーフリィンフォースメント4の側縁起立部41,42に対応する側縁起立部51,52と、ルーフリィンフォースメント4の中央起立部43に対応する中央起立部53を備え、ルーフリィンフォースメント4とほぼ同一の断面形状を有する。ブラケット5の側縁起立部51,52は高さ寸法がルーフリィンフォースメント4の側縁起立部41,42よりも低くしてあり、側縁起立部51,52と中央起立部53はほぼ同じ高さに設定してある。
【0019】
ブラケット5の基板部50は、車外側の先端部がその先端縁54に向けて車外側かつ下方に向けて緩やかに傾斜する傾斜姿勢をなし、先端縁54には車外方向かつ斜め下方へ直線状に延びる舌片状の突出片55,55が一対形成してある。
【0020】
ブラケット5は、基板部50の車内側の基端をルーフリィンフォースメント4の基板部40の車外側の端部下面に重ね合わせて複数のボルト部材で締結固定してある。
そしてブラケット5の車外側では、側縁起立部51,52および中央起立部53の車外側の各端縁56の上端をルーフサイドレール2の側面21の上端位置で上縁フランジ20の根元付近に当接せしめるとともに、基板部50の先端縁54を上記側面21から離間せしめた状態で、一対の突出片55,55を側面21の上下中間位置ないしは中間位置よりも下側に形成した一対のスリット22,22に挿入せしめ、これによりルーフリィンフォースメント4とルーフサイドレール2とを連結している。
【0021】
この場合、ブラケット5の側縁起立部51,52および中央起立部53の各端縁56はほぼ鉛直姿勢に形成してあり、上記側面21に対しては、これに当接した端縁56の上端を除く下部が、車外側下方へ傾斜状をなす側面21から離間する傾斜姿勢をなし、端縁56と側面21との間に略三角形状の間隙が空けてある。端縁56には屈曲フランジを設けて端面が形成してあり、側面21と対面せしめてある。
なお、ブラケット5はこれをルーフリィンフォースメント4とルーフサイドレール2との間に組付ける際、まず、突出片55,55をルーフサイドレール2の側面21のスリット22,22に挿入した状態で、端縁56の上端を側面21に当接せしめ、基板部50の基端をルーフリィンフォースメント4側へ締結する。
【0022】
車両の側面衝突時、車内側へほぼく字状に変形させるセンタピラー3からの作用力によりルーフサイドレール2にはその下縁側を車内側に捩じり変形させる回転モーメント(図2の白矢印M)が発生する。この場合、ブラケット5の基板部50の先端縁54とルーフサイドレール2の側面21の下部とは非当接状態で離れており、先端縁56から突出する突出片55,55は側面21のスリット22,22に挿入した状態であるので、図3に示すように、上記回転モーメントMによりルーフサイドレール2はその上縁フランジ20の根元付近で、ブラケット5の各起立部51,52,53の端縁56上端との当接部付近を支点として下縁が車内側へ回転し(図3の矢印M1方向)、突出片55,55がスリット22,22の内奥へ侵入することとなる。
【0023】
このように本発明は、上記回転モーメントMによるルーフサイドレール2の下縁側の回転を許容するので、ブラケット5およびルーフリィンフォースメント4にはルーフサイドレール2の回転モーメントMによる突き上げ荷重が伝達されず、ルーフリィンフォースメント4が押し上げられて折れることがない。
かつルーフサイドレール2は上記回転により側面21がブラケット5の各起立部51,52,53の車外側の端縁56と当接し、ブラケット5を介してルーフリィンフォースメント4により車内側から支えられるから、ルーフサイドレール2の車内側への移動が防止され、ルーフサイドレール2とルーフリィンフォースメント5の端末との距離Lが従来構造のように縮まらない。従って、ルーフサイドレール2の車内への移動がほとんどない分、センタピラー全体の車内側への移動が防止される。
【0024】
また本実施形態では、ブラケット5の断面形状をルーフリィンフォースメント4と同一形状として複数の起立部51,52,53を設けたが、ブラケット5の断面形状は必ずしもルーフリィンフォースメント4の断面に合わせる必要はなく、異なる断面としてもよい。例えばブラケット5は単に基板部とその両側縁からフランジ状に起立する側縁起立部を立設せしめた断面ほぼU字状でもよい。
しかしながら、ブラケット5はその断面形状をルーフリィンフォースメント4に合わせておけば、両者の結合が容易にできる。
またブラケット5に複数の起立部を設けることで、ブラケットの長手方向(車幅方向)の剛性を強化でき、側面衝突時に、ルーフサイドレール2とルーフリィンフォースメント4との間でブラケット5が潰れることがない。
また本発明はセンタピラー3と対応する位置に設けたルーフリィンフォースメント4に限らず、センタピラー3および他のピラーの近傍に設置されたルーフリィンフォースメントに適用することができ、各ピラーの車内側への変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のルーフ構造を示す要部の斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図2に対応して、本発明のルーフ構造における車両の側面衝突時の態様を示す断面図である。
【図4】図1に対応する従来のルーフ構造の要部斜視図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】図3に対応して、従来のルーフ構造の側面衝突時の態様を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ルーフパネル
2 ルーフサイドレール
21 側面
22 スリット
3 センタピラー
4 ルーフリィンフォースメント
44 端部
5 ブラケット
50 基板部
51,52 側縁起立部
53 中央起立部
54 基板部の先端縁
55 突出片
56 起立部の端縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーフパネルの左右の両側縁に沿って前後方向に延び、車体側面のセンタピラーにより支持された左右のルーフサイドレールと、ルーフパネルの下面に沿って車幅方向に延びるルーフリィンフォースメントとを備え、上記左右のルーフサイドレール間の距離よりも全長を短くした上記ルーフリィンフォースメントの両端をブラケットを介して上記ルーフサイドレールに連結せしめた自動車のルーフ構造において、
上記ブラケットは上記ルーフリィンフォースメントの端部と上記ルーフサイドレールとを接続する基板部の基端を上記ルーフリィンフォースメントの端部に固定し、
上記ブラケットの基板部には、長手方向に延びる起立部を形成するとともに、上記ルーフサイドレールと対向する先端縁に該先端縁から舌片状に延出する突出片を形成し、
上記先端縁から起立する上記起立部の端縁の上端を上記ルーフサイドレールの車内側の側面に当接せしめるとともに、上記端縁の下部は上記側面と間隔をおいて非当接とし、
上記ルーフサイドレールの車内側の側面には上記起立部の端縁との当接位置よりも下方位置にスリットを形成して、上記突出片を上記スリットに挿通せしめたことを特徴とする自動車のルーフ構造。
【請求項2】
上記起立部の端縁は、その上端が上記ルーフサイドレールの車内側の側面に当接するとともに、その下部と上記側面との間にほぼ三角形状の間隙が形成されるように上記側面に対して傾斜方向ほぼ直線状に起立せしめた請求項1に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項3】
上記突出片は、上記ブラケットの基板部の先端縁から車外方向斜め下方に延出せしめ、その先端部を上記スリットに挿入せしめた請求項1または2に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項4】
上記基板部には複数の上記起立部を形成し、基板部を凹凸断面形状とした請求項1ないし3のいずれかに記載の自動車のルーフ構造。
【請求項5】
上記基板部はその基端の断面形状を上記ルーフリィンフォースメントの端部の断面形状と同一に形成し、上記基端を上記端部に重ね合わせて固定した請求項1ないし4のいずれかに記載の自動車のルーフ構造。
【請求項6】
上記ルーフリィンフォースメントを車体の側面の左右のセンタピラーと対応する位置に設置し、その両端を上記ブラケットを介して上記ルーフサイドレールのセンタピラーとの結合部に連結せしめた請求項1ないし5のいずれかに記載の自動車のルーフ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−120140(P2009−120140A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299041(P2007−299041)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】