説明

自動車の塗装層上のシリカ被膜乾固化方法および同装置

【課題】 自動車のボディに施したシリカ被膜を短時間で完全に乾固化させる方法および同装置を提供する。
【解決手段】 本発明の乾固化方法は、自動車のボディ2に、シリカコーティング剤を塗り込んだ後、拭き上げて形成したシリカ被膜Cに湿り蒸気Sを当てて、当該シリカ被膜Cを乾固化させる。本発明の乾固化装置は、自動車を収納するブース10の内部に、少なくとも、自動車のボディ2に施したシリカ被膜Cに高温の湿り蒸気Sを当てて、当該シリカ被膜Cを乾固化させる湿り蒸気放出器20を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の塗装層上に施したシリカ(ガラス)被膜(シリカ系塗膜を含む)を短時間で乾固化する方法および乾固化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディの塗装層上にはカーボンフッ素被膜やシリカ(ガラス)被膜などが施される。このうち、シリカ被膜は、無機質のガラス(SiO)であるため経時変化がなく、紫外線や太陽光によって劣化や酸化せず、また、防錆性、防カビ性、防水性、耐傷性、および光沢性に優れるといった大きな特徴を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、こうした多くの優れた特徴を発揮するシリカ被膜にも解決すべき問題がある。それは、被膜を施工した後、表面部分は短時間で乾固化するが、全体が乾固化するまでには、気温や湿度によって差はあるものの、4週間程度といった長期間を要することである。
【0004】
従って、シリカ被膜が完全に乾固化するまでに例えば酸性雨を浴びてしまうと錆の発生を誘発したり、また、ウォータースポットが発生してしまい易いといった問題が発生する。そのため、シリカ被膜を施した後、完全に乾固化するまでの長期の間、当該自動車のボディを様々な外的要因から完全に保護する必要があり、維持管理が面倒である。
【0005】
本発明はこうした問題に鑑み創案されたもので、自動車の塗装層上に施したシリカ被膜を完全に乾固化させる方法および同装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図面を参考にして説明する。請求項1に記載の自動車ボディのシリカ被膜乾固化方法は、自動車ボディ2の塗装層B上に施したシリカ被膜Cを乾固化させる方法であって、前記塗装層B上にシリカコーティング剤を塗り込んだ後、拭き上げて形成したシリカ被膜Cに湿り蒸気Sを当て、該シリカ被膜Cを乾固化させることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の自動車ボディのシリカ被膜乾固化方法は、自動車ボディ2の塗装層B上に施したシリカ被膜Cを乾固化させる方法であって、前記塗装層B上にシリカコーティング剤を塗り込んだ後、拭き上げて形成したシリカ被膜Cに湿り蒸気Sを当てると共に遠赤外線Rで加熱し、該シリカ被膜Cを乾固化させることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の自動車ボディのシリカ被膜乾固化方法は、請求項1または2記載の発明において、シリカ被膜Cに臨ませた放出口24から湿り蒸気Sを放出させることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の自動車ボディの塗装層B上のシリカ塗膜乾固化装置1は、自動車ボディ2の塗装層B上に施したシリカ被膜Cを乾固化させる装置であって、前記自動車を収納するブース10の内部に、少なくとも、前記自動車ボディ2の塗装層B上に施したシリカ被膜Cに湿り蒸気Sを放出して、該シリカ被膜Cを乾固化させる湿り蒸気放出器20を設けてなり、前記湿り蒸気放出器20を、少なくとも、下端部に複数のコロ21aを有し且つ自動車ボディ2の外周囲外側に沿って移動M自在の台車部21と、前記台車部21から立設された支柱部22と、前記支柱部22に昇降動自在に取付けられ、前記湿り蒸気Sを放出する傾動自在の放出部23と、前記湿り蒸気Sを昇温するヒーターポンプ25とで構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の自動車ボディの塗装層B上のシリカ被膜乾固化方法は、自動車ボディ2の塗装層B上に形成したシリカ被膜Cに湿り蒸気Sを当てながら乾固化させるので、短時間で乾固化させることができる。シリカ被膜Cが完全に乾固化するのに4週間程度の自然乾固化期間を必要としていた従来技術と比較して、きわめて短時間での完全乾固化が可能となる。
【0011】
なお、この短時間での完全乾固化は、飽和水蒸気状態における高温によって、シリカ被膜Cに含まれている3官能性アルコキシランが、2官能性アルコキシランと組み合わされて共和加水分解が行われて縮合体となり、3官能性が分岐点となって3次元化し、粘りがあり、衝撃に強いコート被膜が形成されることによるものと考えられる。
【0012】
請求項2に記載の自動車の塗装層上のシリカ被膜乾固化方法は、自動車ボディ2の塗装層B上に形成したシリカ被膜Cに湿り蒸気Sを当てると共に遠赤外線Rで加熱し、乾固化させるので、請求項1のものに比べ、より短時間で乾固化させることができる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の発明において、シリカ被膜Cに臨ませた放出口24から湿り蒸気Sを放出するので、シリカ被膜Cに水分Wを効果的に供給することが出来る。
【0014】
請求項4に記載の自動車ボディのシリカ被膜乾固化装置1は、自動車を収納するブース10の内部に湿り蒸気放出器20を設け、該湿り蒸気放出器20で高温の湿り蒸気Sを自動車のボディ2に形成されたシリカ被膜Cに当てるので、当該シリカ被膜Cを短時間で乾固化させることができる。
【0015】
なお、この湿り蒸気放出器20はブース10の内部に設けられているので、高温の湿り蒸気Sがブース10の外に飛散することを未然に防止することができ、高い安全性を確保することができる。また、湿り蒸気Sによって周囲を濡らすこともない。
【0016】
さらに、湿り蒸気放出器20に台車部21を設けているので、自在に移動Mさせて、シリカ被膜Cをボディ全体に容易且つもれなく湿り蒸気Sを放出することができる。また、放出部23を支柱部22に昇降動自在に設けているので、同様に、シリカ被膜Cの全体に容易に湿り蒸気Sを当てることができる。さらに、放出部23を傾動自在としたことによっても、シリカ被膜Cをボディ全体に容易かつもれなく湿り蒸気Sを当てることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1及び図2に示す如く、自動車ボディ2の板金2aの外面に塗装層Bを配してシリカ被膜Cが設けられる。
【0018】
図3は、本発明の第一実施形態を示すもので、自動車ボディ等のスチーム洗浄に使用されるところの湿り蒸気発生送出器31からホース32及びノズル33を介して湿り蒸気Sを放出するようにしたもので、自動車ボディ2の外面に水分Wを付着させるようになっている。
【0019】
図4は、本発明の第二実施形態を示すもので、湿り蒸気発生送出器31の吹出口34から放出された湿り蒸気Sの流れが、自動車ボディ2に当たると共に自動車ボディ2に遠赤外線Rを当てる遠赤外線照射装置を、自動車ボディ2の上方に移動L可動に設けたものである。
【0020】
図5〜図7は、本発明の第三実施形態に係る自動車ボディのシリカ被膜乾固化装置1を示すもので、2aはボディの板金,Bは板金2a上の塗装層,Cは塗装層B上のシリカ被膜である。これは、自動車ボディ2に施したシリカ被膜(ガラス塗膜)Cを短時間で強制的に乾固化させる装置であり、自動車を収納するブース10の内部に二つの湿り蒸気放出器20を設けている。この湿り蒸気放出器20は、自動車ボディ2に、シリカコーティング剤を手作業で塗り込んだ後、当該シリカコーティング剤をマイクロファイバーで拭き上げて形成したシリカ被膜Cに、約80℃の湿り蒸気Sを放出して強制的に乾固化させるものである。なお、湿り蒸気Sの温度は、特に限定されず、常温以上であれば良いが、約80℃で良好な乾固化効果を発揮する。
【0021】
本実施形態における湿り蒸気放出器20は、下端部に四つのコロ21aを有し、自動車ボディ2に沿って移動M自在の台車部21と、この台車部21から立設された支柱部22と、当該支柱部22に昇降動自在に取付けられ、湿り蒸気Sを放出する90度傾動自在の放出部23と、湿り蒸気Sを加熱するヒーターポンプ25とで構成している。
【0022】
なお、放出部23は、支持棒26と組付部27を介して支柱部22に取付け、ヒーターポンプ25は、組付部27に取付けている。また、組付部27には、支柱部22に固定するための固定ボルト28を螺合している。さらに、放出部23には、高温の湿り蒸気Sを放出するノズル状の放出口24を複数設けている。なお、放出口24から放出する湿り蒸気圧力は、8.0kg/cm程度に設定している。
【0023】
このシリカ被膜乾固化装置1にあっては、自動車ボディ2に形成したシリカ被膜Cを、放出部23の放出口24から放出する高温の湿り蒸気Sによって乾固化させるので、短時間で完全に乾固化させることができる。また、ブース10によって、高温の湿り蒸気Sが周囲に飛散するのを防止することができ、高い安全性を確保することができる。さらに、周囲を濡らすこともない。
【0024】
また、この乾固化装置1は、その湿り蒸気放出器20に台車部21を設け、放出部23を支柱部22に昇降動自在に設け、さらに、放出部23を傾動自在としているので、高温の湿り蒸気Sを、シリカ被膜Cの全体に亙って容易且つもれなく当てることができる。これにより、シリカ被膜Cをより短時間で完全乾固化させることができる。
【0025】
なお、本実施形態に係るシリカ被膜乾固化装置1には、カーボンフッ素塗膜を乾固化させるために、ブース10の天井部に遠赤外線装置30を付設することができる。また、湿り蒸気放出器20に、遠赤外線を照射する遠赤外線器29を取付けることもできる。また、放出部23の放出口24から温風を送風させることもできる。この温風は、シリカ被膜Cに湿り蒸気Sを当てた後、水分Wをシリカ被膜Cから除去する際に使用することができる。なお、遠赤外線装置30および遠赤外線器29は、遠赤外線中波および遠赤外線短波を含む遠赤外線を照射する。
【実施例】
【0026】
本発明者は、本発明に係る自動車ボディのシリカ被膜乾固化装置1による強制乾固化の効果を、自然乾固化の場合と比較するために実験を行った。この実験は、自動車ボディの塗装層上にシリカ被膜を施した後、常温で10分経過したものと、シリカ被膜に湿り蒸気を当てた後、水を拭き取ったものとにおいて、各シリカ被膜を鉛筆の芯で引っ掻いて、その引っ掻き値を調べることによって行った。なお、シリカ被膜に湿り蒸気を当てる時間は、10分未満であった。
【0027】
また、鉛筆の芯は、その径のままで約3mm露出させ、先端を平らで角を鋭くした状態で、約3kgfの力および約3mm/秒の速度で約10mmの長さにわたって引っ掻いた。
【0028】
その結果、10分間常温乾固化させたシリカ被膜は、3Hの硬度であった(4Hの試験では傷が付いた)。これに対し、湿り蒸気Sを当てたシリカ被膜Cは、5Hの硬度であった(6Hの試験で傷が付いた)。
【0029】
この実験によって、本発明に係る乾固化方法が、従来技術のように自然乾固化させる場合と比較して、シリカ被膜を短時間で乾固化できることを確認した。なお、硬度が5Hであると、外的要因である酸性雨やウォータースポットに対して充分な耐候性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】シリカ被覆を施した自動車の一部切欠側面図である。
【図2】図1のY−Y切断拡大平面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示す側面図である。
【図4】本発明の第二実施形態を示す側面図である。
【図5】本発明の第三実施形態を示す側面図である。
【図6】図5の湿り蒸気放出器の拡大側面図である。
【図7】図6の湿り蒸気放出器の正面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 シリカ被膜乾固化装置
2 自動車ボディ
2a 板金
10 ブース
20 湿り蒸気放出器
21 台車部
21a コロ
22 支柱部
23 放出部
24 放出口
25 ヒーターポンプ
26 支持棒
27 組付部
28 固定ボルト
29 遠赤外線器
30 遠赤外線装置
31 湿り蒸気発生送出器
32 ホース
33 吹出口
B 塗装層
C シリカ被膜
L 移動
M 移動
R 遠赤外線
S 湿り蒸気
W 水分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ボディ(2)の塗装層(B)上に施したシリカ被膜(C)を乾固化させる方法であって、前記塗装層(B)上にシリカコーティング剤を塗り込んだ後,拭き上げて形成したシリカ被膜に湿り蒸気(S)を当て,該シリカ被膜を乾固化させることを特徴とする自動車の塗装層上のシリカ被膜乾固化方法。
【請求項2】
自動車ボディ(2)の塗装層(B)上に施したシリカ被膜(C)を乾固化させる方法であって、前記塗装層(B)上にシリカコーティング剤を塗り込んだ後,拭き上げて形成したシリカ被膜に湿り蒸気(S)を当てると共に遠赤外線(R)で加熱し,該シリカ被膜を乾固化させることを特徴とする自動車の塗装層上のシリカ被膜乾固化方法。
【請求項3】
シリカ被膜(C)に臨ませた放出口(24)から湿り蒸気(S)を放出させることを特徴とする請求項1または2記載の自動車の塗装層上のシリカ被膜乾固化方法。
【請求項4】
自動車ボディ(2)の塗装層(B)上に施したシリカ被膜(C)を乾固化させる装置であって、前記自動車を収納するブース(10)の内部に,少なくとも,前記自動車ボディの塗装層(B)上に施したシリカ被膜に湿り蒸気(S)を放出して,該シリカ被膜を乾固化させる湿り蒸気放出器(20)を設けてなり、前記湿り蒸気放出器(20)を,少なくとも,下端部に複数のコロ(21a)を有し且つ自動車ボディの外周囲外側に沿って移動(M)自在の台車部(21)と,前記台車部から立設された支柱部(22)と,前記支柱部に昇降動自在に取付けられ,前記湿り蒸気を放出する傾動自在の放出部(23)と,前記湿り蒸気を昇温するヒーターポンプ(25)とで構成したことを特徴とする自動車の塗装層上のシリカ被膜乾固化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−152172(P2007−152172A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347891(P2005−347891)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(501050494)
【出願人】(505348164)
【Fターム(参考)】